(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040476
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/46 20060101AFI20230315BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20230315BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20230315BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230315BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230315BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20230315BHJP
F16J 15/3208 20160101ALI20230315BHJP
F16J 15/24 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
F16J15/46
F16H1/32 A
F16C25/08 Z
F16C19/06
F16C33/78 Z
F16J15/3204 201
F16J15/3208
F16J15/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147461
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】守谷 幸次
(72)【発明者】
【氏名】重見 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
【テーマコード(参考)】
3J006
3J012
3J027
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE17
3J006AE41
3J006CA01
3J012AB02
3J012AB04
3J012BB01
3J012CB05
3J012FB10
3J012GB10
3J012HB02
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE25
3J027GE27
3J043AA16
3J043BA09
3J043CA02
3J043CA06
3J043CA08
3J043CB13
3J043DA20
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA12
3J216AB22
3J216BA13
3J216BA16
3J216BA21
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CC07
3J216CC14
3J216CC33
3J701AA02
3J701AA26
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA81
3J701BA77
3J701FA13
3J701FA41
3J701FA60
3J701GA11
3J701GA32
(57)【要約】
【課題】減速装置の剛性を変化させる。
【解決手段】減速装置1は、オイルシール50と、オイルシール50と摺動する起振体軸10及び第2内歯歯車部材32と、起振体軸10及び第2内歯歯車部材32の摺動部に対するオイルシール50の押付け力を調整する押付力調整部60と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速装置であって、
第1部材と、
前記第1部材と摺動する第2部材と、
前記第2部材の摺動部に対する前記第1部材の押付け力を調整する押付力調整部と、を備える、
減速装置。
【請求項2】
前記第1部材は、オイルシールであり、
前記第2部材は、オイルシールのリップ部が当接する部材である、
請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記オイルシールは、前記リップ部を前記第2部材に対して付勢する付勢部材を有し、
前記押付力調整部は、前記付勢部材の付勢力を調整する、
請求項2に記載の減速装置。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記リップ部の外側に配置されるリング状の弾性部材であり、
前記押付力調整部は、前記弾性部材を伸縮させることにより押付け力を調整する、
請求項3に記載の減速装置。
【請求項5】
前記第1部材は、軸受の外輪または内輪であり、
前記第2部材は、軸受の転動体である、
請求項1に記載の減速装置。
【請求項6】
前記押付力調整部は、前記外輪または前記内輪を軸方向に移動させることにより前記押付け力を調整する、
請求項5に記載の減速装置。
【請求項7】
前記第2部材は、減速機構により減速された回転が伝達される部材である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の減速装置。
【請求項8】
前記押付力調整部は、前記第1部材に対して進退することにより前記第1部材に対する押付け力が変化する押付部材を有する、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の減速装置。
【請求項9】
前記押付部材は、当該減速装置の回転に伴う遠心力によって移動する、
請求項8に記載の減速装置。
【請求項10】
前記押付力調整部は、前記押付部材を進退させる直動アクチュエータを有する、
請求項8に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、減速装置として、ロボットの関節部の駆動等に用いられるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種の減速装置では、例えば、移動時には振動を抑えるために高い剛性が求められる一方で、ワークを把持するときには柔らかく接触するために低い剛性が求められるなど、状況に応じて異なる剛性が求められる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、減速装置の剛性を変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、減速装置であって、
第1部材と、
前記第1部材と摺動する第2部材と、
前記第2部材の摺動部に対する前記第1部材の押付け力を調整する押付力調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、減速装置の剛性を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る減速装置を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る押付力調整部の変形例を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る押付力調整部の変形例を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る押付力調整部の変形例を示す断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る減速装置を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る押付力調整部の変形例を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態に係る押付力調整部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係る減速装置1について説明する。
【0010】
[減速装置の構成]
図1は、第1実施形態に係る減速装置1を示す断面図である。
この図に示すように、減速装置1は、筒型の撓み噛合い式減速装置であり、起振体軸10、外歯歯車11、第1内歯歯車31G及び第2内歯歯車32G、起振体軸受12、ケーシング33、第1カバー34、第2カバー35を備える。
【0011】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結される側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
外歯歯車11は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0013】
第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、回転軸O1を中心として起振体軸10の周囲で回転を行う。このうち、第1内歯歯車31Gは、第1内歯歯車部材31の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。第2内歯歯車32Gは、第2内歯歯車部材32の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。
第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、軸方向に並んで設けられ、外歯歯車11と噛合している。具体的には、第1内歯歯車31Gが、外歯歯車11のうち軸方向中央より反出力側の歯部と噛合し、第2内歯歯車32Gが、外歯歯車11のうち軸方向中央より出力側の歯部と噛合している。
【0014】
起振体軸受12は、例えばコロ軸受であり、起振体10Aと外歯歯車11との間に配置される。起振体軸受12は、外歯歯車11の内周に嵌入される外輪12aと、複数の転動体(コロ)12bと、複数の転動体12bを保持する保持器12cを有する。複数の転動体12bは、起振体10Aの外周面と外輪12aの内周面とを転走面として転動する。なお、起振体軸受12は、起振体10Aとは別体の内輪を有していてもよいし、外輪12aを有していなくともよい。
【0015】
起振体軸受12及び外歯歯車11の軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング41、42が設けられている。
【0016】
ケーシング33は、ボルト43により第1内歯歯車部材31と連結され、第2内歯歯車32Gの外径側を覆う。ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間には主軸受38(例えばクロスローラ軸受)が配置され、ケーシング33は当該主軸受38を介して第2内歯歯車部材32を回転自在に支持している。また、減速装置1が外部の相手装置と接続される際、ケーシング33と第1内歯歯車部材31は相手装置に共締めにより連結される。
【0017】
第1カバー34は、ボルト44により第1内歯歯車部材31と連結され、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合い箇所を軸方向の反出力側から覆う。第1カバー34と起振体軸10の軸部10Bとの間には第1軸受36(例えば玉軸受)が配置され、第1カバー34は当該第1軸受36を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
【0018】
第2カバー35は、ボルト45により第2内歯歯車部材32と連結され、外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとの噛合い箇所を軸方向の出力側から覆う。第2カバー35と起振体軸10の軸部10Cとの間には第2軸受37(例えば玉軸受)が配置され、第2カバー35は当該第2軸受37を介して起振体軸10を回転自在に支持している。減速装置1が外部の相手装置と接続される際、第2カバー35と第2内歯歯車部材32は、相手装置の被駆動部材に共締めにより連結され、減速された回転を当該被駆動部材に出力する。
【0019】
さらに、減速装置1は、シール用の3つのOリング46,47,48と、3つのオイルシール50(51~53)とを備える。
Oリング46,47,48は、第1内歯歯車部材31と第1カバー34との間、第1内歯歯車部材31とケーシング33との間、第2内歯歯車部材32と第2カバー35との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
3つのオイルシール50のうち、第1オイルシール51は、軸方向の反出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー34との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。第2オイルシール52は、軸方向の出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー35との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。第3オイルシール53は、ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間に配置され、この部分からの潤滑剤の流出を抑制する。第1オイルシール51と第2オイルシール52はリップ部が起振体軸10と摺動し、第3オイルシール53はリップ部が第2内歯歯車部材32と摺動する。
これにより、潤滑剤は、3つのオイルシール50と3つのOリング46~48とでシールされた減速装置1内部のシール空間S内に封入される。
【0020】
[押付力調整部]
減速装置1は、摺動相手に対するオイルシール50の押付け力を調整する押付力調整部60を備える。
図2は、
図1のB部の拡大図であって、押付力調整部60の構成を説明するための図であり、
図3~
図5は、押付力調整部60の変形例を示す図である。
本実施形態の押付力調整部60は、3つのオイルシール50のうち、第2及び第3オイルシール52、53の外周部に設けられている。各押付力調整部60は、オイルシール50の摺動相手に対する当該オイルシール50の押付け力を調整することにより、減速装置1の剛性を変化させる。
なお、第2オイルシール52の外周側に配置される押付力調整部60は、ケーシング33でなく第2カバー35に設けられる点を除き、第3オイルシール53の外周側に配置されるものと略同様に構成されている。そこで、以下では主に第3オイルシール53の外周側に配置される押付力調整部60について説明し、第2オイルシール52の外周側に配置される押付力調整部60については詳細な説明を省略する。
【0021】
具体的には、
図2に示すように、押付力調整部60は、加圧リング61と動作部(アクチュエータ)62を備えている。
加圧リング61は、円筒状に形成され、ケーシング33の内径側に組み込まれている。より詳しくは、ケーシング33が、軸方向の出力側に開口する環状の凹部33aをオイルシール50の外径側に有しており、この凹部33aの内径側が、反出力側で片持ち支持された円筒部33bとなっている。加圧リング61は、円筒部33bに外嵌されるように凹部33a内に配置されている。
加圧リング61は、圧力媒体(油、空気等)が封入される収納空間61aを内部に有する。収納空間61aは、オイルシール50の外径側に位置し、軸方向に比較的に幅広に形成されている。また、収納空間61aは、加圧リング61のうちの内径側(径方向内側)に設けられており、その内径側の内壁部61bが、当該収納空間61a内の加圧により変形可能なように薄肉に形成されている。
なお、第2オイルシール52の外周側に配置される押付力調整部60は、上述したケーシング33の凹部33a及び円筒部33bと同様に構成された第2カバー35の凹部35a及び円筒部35bに設けられる(
図1参照)。
【0022】
動作部62は、本実施形態ではソレノイドであり、加圧リング61の外径側に固定され、加圧リング61の収納空間61a内にプランジャ62a(可動鉄芯)を挿通させている。プランジャ62aは、本発明に係る押付部材の一例である。動作部62は、プランジャ62aの駆動により、加圧リング61(収納空間61a)内の圧力媒体の圧力を変化させる。また、動作部62は、減速装置1の制御部(図示省略)と電気的に接続され、当該制御部により動作制御される。
【0023】
以上の構成を具備する押付力調整部60では、動作部62がプランジャ62aを押し出していない状態においては、加圧リング61は変形していない。そのため、オイルシール50は通常の押付け力で第2内歯歯車部材32と摺動している。
【0024】
この状態において、動作部62を駆動してプランジャ62aを加圧リング61の収納空間61a内に押し出すと、収納空間61a内の圧力媒体が加圧され、加圧リング61の内壁部61bが内径側に変形する。すると、この内壁部61bに押圧されたケーシング33の円筒部33bが、傾くようにして内径側に変形し、オイルシール50を内径側に押圧する。これにより、オイルシール50内周部のリップ部50aが、その当接相手(摺動相手)である第2内歯歯車部材32に対して押し付けられる。その結果、減速装置1の剛性が向上する。
このように、押付力調整部60でプランジャ62a(押付部材)の動作量を制御することで、オイルシール50と摺動する部材(起振体軸10、第2内歯歯車部材32)の摺動部に対するオイルシール50の押付け力を調整し、ひいては減速装置1の剛性を調整することができる。
【0025】
なお、本実施形態の押付力調整部60は、摺動相手に対するオイルシール50の押付け力を調整できるものであれば、その具体構成は特に限定されない。
例えば、
図3(a)に示すように、加圧リング61の内壁部61bがオイルシール50を直接押圧する構成としてもよい。また、図示は省略するが、圧力媒体が封入される収納空間を、オイルシール50を支持するケーシング33自体に設けてもよい。
あるいは、
図3(b)に示すように、加圧リング61を設けずに、動作部62のプランジャ62aがオイルシール50を直接押圧する構成としてもよい。すなわち、プランジャ62aをオイルシール50に対して進退させることによりオイルシール50に対する押付け力を変化させてもよい。この場合、動作部62は周方向に複数配置するのが好ましい。
【0026】
また、押付力調整部60の動作部62は、ソレノイドに限定されず、例えばオイルシール50に対してプランジャ62aを進退させる直動アクチュエータ等を好適に適用できる。
また、
図4に示すように、動作部62のプランジャ62aを、減速装置1の回転に伴う遠心力によって移動するように構成してもよい。この構成では、プランジャ62aが、径方向に沿って配置された付勢ばね62bの先端(内径端)に取り付けられ、この付勢ばね62bにより内径側に付勢されている。そのため、ケーシング33の回転が所定回転数よりも高速時には、プランジャ62aに作用する遠心力が付勢ばね62bの付勢力を相殺し、所定回転数よりも低速時には、付勢ばね62bの付勢力によりプランジャ62aがオイルシール50を内径側に押圧する。これにより、ケーシング33の回転数に応じてオイルシール50の押付け力を調整できる。ただし、この構成は、押付力調整部60が配置される部材が回転する場合にのみ適用可能であるのは勿論である。そのため、この構成は、減速された回転が出力される第2カバー35に設けられる押付力調整部60に対し、より好適に適用できる。
【0027】
また、
図5(a)、(b)に示すように、オイルシール50のスプリング50bの付勢力を調整することで、オイルシール50の押付け力を調整してもよい。この場合の押付力調整部60Aは、オイルシール50のスプリング50bと、電磁石63とを備える。スプリング50bは、リップ部50aの外周部(外側)に配置されるリング状の弾性部材であり、リップ部50aを第2内歯歯車部材32に対して付勢する。具体的に、スプリング50bは、周上の一箇所が切断され、その周方向の一端部がリップ部50aに固定された固定部50cとなっている。スプリング50bの周方向の他端部は、可動部50dとなっている。電磁石63は、可動部50dの軸方向の両側に配置され、可動部50dとともにソレノイドを構成して当該可動部50dを周方向に動作させる。
このように構成された押付力調整部60Aでは、
図5(b)、(c)に示すように、電磁石63により可動部50dを周方向に動作(移動)させて、スプリング50bを周方向に伸縮させることができる。これにより、スプリング50bの張力を変化させ、第2内歯歯車部材32の摺動部に対するオイルシール50(リップ部50a)の押付け力を調整できる。
なお、可動部50dと電磁石63は、ソレノイドを構成するものに限定されず、可動部50dを周方向に動作可能な構成であればよい。また、リップ部50aを第2内歯歯車部材32に対して付勢する付勢部材はスプリング50bに限定されない。すなわち、押付力調整部60Aは、リップ部50aをその当接部材に対して付勢するオイルシール50の付勢部材の付勢力を調整できるように構成されればよい。
【0028】
また、本実施形態の押付力調整部60は、少なくともいずれか1つのオイルシール50に対して設けられればよい。ただし、当該オイルシール50と摺動する部材(本発明に係る第2部材)は、減速装置1の減速機構によって、より減速された回転が伝達される部材であるのが好ましい。つまり、押付力調整部60によってオイルシール50が押し付けられる部材は、減速装置1の動力伝達経路における出力端(被駆動部材)に近い側の部材であるのが好ましい。これにより、停止安定性やバックドライブ性を制御しやすくすることができる。したがって、この制御性の観点では、押付力調整部60を設けるオイルシール50は、第3オイルシール53、第2オイルシール52、第1オイルシール51の順で、より好ましい。
【0029】
[減速装置の動作]
続いて、減速装置1の動作について説明する。
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が外歯歯車11に伝わる。このとき、外歯歯車11は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車11は、固定された第1内歯歯車31Gと長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車11は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車11の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車11は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0030】
外歯歯車11が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車11の歯数が100で、第1内歯歯車31Gの歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車11が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車11に伝達される。
【0031】
一方、外歯歯車11は第2内歯歯車32Gとも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとの噛合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車32Gの歯数と外歯歯車11の歯数とが同数であるため、外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとは相対的に回転せず、外歯歯車11の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車32Gへ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車部材32及び第2カバー35へ伝達され、この回転運動が被駆動部材に出力される。
【0032】
このとき、減速装置1の運転時には、押付力調整部60により、オイルシール50と摺動する部材(起振体軸10、第2内歯歯車部材32)の摺動部に対するオイルシール50の押付け力が調整される。
例えば、起動時にはオイルシール50の押付け力が相対的に小さくされ、減速時にはオイルシール50の押付け力が相対的に大きくされる。これにより、起動時には摩擦を低減してスムーズな起動特性を得ることができる。また、減速時には振動を抑制するとともに停止時間の短縮化を図ることができる。したがって、起動・停止特性を改善することができる。
また、例えば減速装置1がロボットの関節部に設けられる場合、ロボットの移動時には振動を抑えるように減速装置1の剛性を上げ、ワークと接触する可能性があるあたりで柔らかく接触できるように減速装置1の剛性を下げてもよい。あるいは、ロボットの移動時には減速装置1の剛性を下げて(人や物への)接触に対する許容値を上げ、停止時には正確に位置を決めるために減速装置1の剛性を上げるなどしてもよい。
【0033】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、第1実施形態の減速装置1によれば、押付力調整部60により、オイルシール50と摺動する部材の摺動部に対し、オイルシール50の押付け力が調整される。これにより、減速装置1の剛性を変化させることができる。
また、減速装置1の起動時にはオイルシール50の押付け力を相対的に小さくし、減速時にはオイルシール50の押付け力を相対的に大きくすることにより、起動・停止特性を改善することができる。これにより、与圧を掛けた軸受やオイルシールを用いる場合に比べ、起動特性の悪化や機械損失の増加を抑制しつつ停止特性(停止安定性)を改善できる。
【0034】
また、第1実施形態の減速装置1によれば、押付力調整部60によりオイルシール50と摺動する(押し付けられる)部材が、減速機構により減速された回転が伝達される部材である。これにより、停止安定性やバックドライブ性を制御しやすくすることができる。
【0035】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態に係る減速装置2について説明する。
図6は、第2実施形態に係る減速装置2を示す断面図である。
この図に示すように、減速装置2は、上記第1実施形態の押付力調整部60に代えて、押付力調整部70を備える。減速装置2は、押付力調整部以外の構成については上記第1実施形態の減速装置1と略同様に構成されている。そこで、以下では主に押付力調整部70について説明し、上記第1実施形態の減速装置1と共通の構成要素については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
本実施形態の押付力調整部70は、上記第1実施形態の押付力調整部60と異なり、軸受の転動体に対する外輪または内輪の押付け力を調整することにより、減速装置1の剛性を変化させる。
具体的に、押付力調整部70は、第2カバー35に設けられた動作部(アクチュエータ)72を備えている。第2カバー35は、内径側に開口する環状の凹部35cを、第2軸受37よりも出力側の部分に有している。凹部35c内には円環板状の押圧板73が配置されている。押圧板73は、反出力側の端面を第2軸受37の外輪37aに当接させた状態で、凹部35c内の反出力側に配置されている。
【0037】
動作部72は、本実施形態ではソレノイドであり、プランジャ72a(可動鉄芯)を軸方向の反出力側に向けて進退可能なように凹部35c内に配置されている。プランジャ72aは、本発明に係る押付部材の一例であり、押圧板73を介して第2軸受37の外輪37aを反出力側に押圧して軸方向に移動させる。動作部72は、プランジャ72aの駆動により、第2軸受37の外輪37aを軸方向に移動させ、転動体37cに対する当該外輪37aの押付け力を変化させる。また、動作部72は、減速装置1の制御部(図示省略)と電気的に接続され、当該制御部により動作制御される。なお、動作部72は、周方向に複数配置されてもよい。
【0038】
以上の構成を具備する押付力調整部70では、プランジャ72a(押付部材)の動作量を制御することで、外輪37aと摺動する転動体37cの摺動部に対する外輪37aの押付け力(すなわち軸受内部隙間)を調整し、ひいては減速装置1の剛性を調整することができる。
【0039】
なお、本実施形態の押付力調整部70は、軸受内部隙間の調整により当該軸受における押付け力を調整できるものであれば、その具体構成は特に限定されない。
例えば
図7に示すように、動作部72により外輪37aを径方向に移動させて転動体37cに押し付けてもよい。この場合、動作部72は周方向に複数配置するのが好ましい。
また、図示は省略するが、外輪37aに代えて内輪37bを転動体37cに押し付けてもよい。この場合、内輪37bは、外輪37aと同様に、軸方向及び径方向のいずれに移動させてもよい。ただし、外輪37a及び内輪37bのうち、固定側(相対的に回転速度が遅い側)に配置される方を押すのが好ましい。
【0040】
あるいは、第1カバー34、第2カバー35又はケーシング33を軸方向に移動させて、第1軸受36、第2軸受37又は主軸受38の軸受内部隙間を調整してもよい。
例えば第1カバー34を移動させる場合、
図8に示すように、押付力調整部70Aとして、スペーサ75とボルト回転モータ76を設ければよい。スペーサ75は、弾性材料で形成された円環板であり、第1カバー34と第1内歯歯車部材31との軸方向の当接面の間に挟持される。ボルト回転モータ76は、第1カバー34と第1内歯歯車部材31を締結する各ボルト44を回転させる。
このように構成された押付力調整部70Aにおいて、ボルト回転モータ76を駆動し、各ボルト44を回転させてその締結トルクを調整することにより、スペーサ75を弾性変形させつつ第1カバー34を軸方向に移動できる。これにより、第1カバー34を介して第1軸受36の外輪36aを軸方向に移動させ、転動体36cの摺動部に対する外輪36aの押付け力(すなわち軸受内部隙間)を調整できる。
同様に、第2カバー35を移動させる場合には、第2カバー35と第2内歯歯車部材32の間にスペーサを設け、第2カバー35と第2内歯歯車部材32を締結する各ボルト45(
図1参照)にボルト回転モータを設ければよい。ケーシング33を移動させる場合には、ケーシング33と第1内歯歯車部材31の間にスペーサを設け、ケーシング33と第1内歯歯車部材31を締結する各ボルト43(
図1参照)にボルト回転モータを設ければよい。
【0041】
また、本実施形態の押付力調整部70は、少なくともいずれか1つの軸受(起振体軸受12を除く)に対して設けられればよい。つまり、第1軸受36、第2軸受37及び主軸受38の少なくとも1つに対して設けられればよい。ただし、上記第1実施形態と同様に、外輪または内輪が押し付けられる転動体は、減速装置2の減速機構によって、より減速された回転が伝達される部材であるのが好ましい。つまり、減速装置2の動力伝達経路における出力端(被駆動部材)に近い位置で、押付力調整部70による押付けが行われるのが好ましい。これにより、停止安定性やバックドライブ性を制御しやすくすることができる。したがって、この制御性の観点では、押付力調整部70を設ける軸受は、主軸受38、第2軸受37、第1軸受36の順で、より好ましい。
【0042】
また、本実施形態の押付力調整部70は、上述した第1実施形態の押付力調整部60の変形例を適宜適用できる。
例えば、押付力調整部70の動作部72は、ソレノイドに限定されず、軸受の外輪または内輪に対してプランジャ72aを進退させる直動アクチュエータ等を好適に適用できる。
また、動作部72のプランジャ72aが径方向に外輪または内輪を押圧する場合に、当該プランジャ72aを、減速装置2の回転に伴う遠心力によって移動するように構成してもよい(
図4参照)。
【0043】
以上のように、第2実施形態の減速装置2によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
すなわち、押付力調整部70により、外輪37aと摺動する転動体37cの摺動部に対する外輪37aの押付け力が調整されるので、減速装置2の剛性を変化させることができる。
また、外輪または内輪の押付け力を減速装置2の起動時には相対的に小さくし、減速時には相対的に大きくすることにより、起動・停止特性を改善することができる。これにより、与圧を掛けた軸受やオイルシールを用いる場合に比べ、起動特性の悪化や機械損失の増加を抑制しつつ停止特性(停止安定性)を改善できる。
【0044】
また、第2実施形態の減速装置2によれば、押付力調整部70により外輪または内輪と摺動する(押し付けられる)部材が、減速機構により減速された回転が伝達される部材である。これにより、停止安定性やバックドライブ性を制御しやすくすることができる。
【0045】
<その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、押付力調整部による押付け力の調整例(制御例)として、減速装置の起動時には相対的に小さくし、減速時には相対的に大きくする場合について説明した。しかし、押付力調整部による押付け力の制御態様は特に限定されない。例えば、減速時等に継続的に制動を掛けるように連続的に一定の大きな押付け力を掛けてもよい。あるいは、周期的に変化する軸振動を検出し、この振動振幅が大きいときのみに断続的に押付け力を大きくしてもよい。また、押付け力はデジタル的にON/OFFで切り替えてもよいし、例えば回転数や振動振幅等に応じて変化させてもよい。
【0046】
また、本発明に係る押付力調整部は、第1部材と摺動する第2部材の摺動部に対し、第1部材の押付け力を調整するものであればよい。第1部材はオイルシールや軸受に限定されない。
【0047】
また、本発明に係る減速装置は、撓み噛合い式減速装置に限定されず、偏心揺動型減速装置や単純遊星歯車装置など、他の形式の減速装置にも好適に適用可能である。また、歯車により減速を行うものに限定されることもなく、例えばトラクションドライブでもよい。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、2 減速装置
10 起振体軸(第2部材)
31 第1内歯歯車部材
32 第2内歯歯車部材(第2部材)
33 ケーシング
33a 凹部
33b 円筒部
34 第1カバー
35 第2カバー
35a 凹部
35b 円筒部
35c 凹部
36 第1軸受
36a 外輪(第1部材)
36c 転動体(第2部材)
37 第2軸受
37a 外輪(第1部材)
37b 内輪(第1部材)
37c 転動体(第2部材)
38 主軸受
50 オイルシール(第1部材)
50a リップ部
50b スプリング(付勢部材)
50c 固定部
50d 可動部
51 第1オイルシール
52 第2オイルシール
53 第3オイルシール
60、60A、70、70A 押付力調整部
61 加圧リング
62 動作部
62a プランジャ(押付部材)
62b 付勢ばね
63 電磁石
72 動作部
72a プランジャ(押付部材)
73 押圧板