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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040480
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/08 20060101AFI20230315BHJP
   H04W 12/041 20210101ALI20230315BHJP
   H04W 12/65 20210101ALI20230315BHJP
【FI】
H04L9/08 C
H04W12/041
H04W12/65
H04L9/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147469
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
(72)【発明者】
【氏名】武井 健
(72)【発明者】
【氏名】金子 茂則
(72)【発明者】
【氏名】池田 尚弘
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA35
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE16
5K067HH36
(57)【要約】
【課題】伝搬特性に基づく特有な物理量を暗号通信のための共通鍵として用いる際に、誤差による不確かさの影響を受けることなしに同一の共通鍵を共有する。
【解決手段】第1の無線機および第2の無線機が物理鍵を用いて情報を秘匿して通信を行う無線通信システムとして、第1の無線機および第2の無線機は、動的変化する伝搬特性の時系列変化を共有して通信を行い、第1の無線機は、自らが伝搬特性に基づいて求めた第1の離散値の所定範囲の最下位ビットおよび当該第1の離散値における前記最下位ビットに続く下位ビットを第2の無線機に送信し、第2の無線機は、自らが伝搬特性に基づいて求めた第2の離散値と第1の無線機から受信した前記最下位ビットおよび前記下位ビットとから第1の無線機における共通鍵を推定し、共通鍵が物理鍵となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線機および第2の無線機が物理鍵を用いて情報を秘匿して通信を行う無線通信システムであって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、動的変化する伝搬特性の時系列変化を共有して通信を行い、
前記第1の無線機は、自らが前記伝搬特性に基づいた求めた第1の離散値の所定範囲の最下位ビットおよび当該第1の離散値における前記最下位ビットに続く下位ビットを前記第2の無線機に送信し、
前記第2の無線機は、自らが前記伝搬特性に基づいて求めた第2の離散値と前記第1の無線機から受信した前記最下位ビットおよび前記下位ビットとから前記第1の無線機における共通鍵を推定し、
前記共通鍵が前記物理鍵となる
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記伝搬特性が、前記第1および前記第2の無線機間の伝搬時間である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記伝搬特性が、前記第1および前記第2の無線機間の伝搬損失または信号強度である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、回転偏波通信機能を用いて通信を行い、
前記伝搬特性が、回転偏波の偏波角である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、相互に回転偏波通信機能を有するか否かの情報を交換し、
前記第1の無線機および前記第2の無線機が共に前記回転偏波通信機能を有する場合には、前記伝搬特性が回転偏波の偏波角である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の無線通信システムであって、
前記通信に使用する周波数および前記偏波角の角度の少なくともいずれかを時系列的に変える
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信システムであって、
前記周波数および前記偏波角の角度の少なくともいずれかが妨害波による干渉を受ける場合に、当該干渉を受ける周波数および偏波角の角度の少なくともいずれかを除外する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
請求項4に記載の無線通信システムであって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、強自己相関弱相互相関ビット列を共有すると共に、前記回転偏波に当該強自己相関弱相互相関ビット列を重畳して送信し、当該送信による受信信号と前記強自己相関弱相互相関ビット列との相関が最大となる時間差を、前記回転偏波の前記時系列変化として共有する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
請求項8に記載の無線通信システムであって、
前記回転偏波に前記強自己相関弱相互相関ビット列を重畳するために、前記回転偏波の偏波角を前記強自己相関弱相互相関ビット列により変調する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項10】
請求項8または9に記載の無線通信システムであって、
前記強自己相関弱相互相関ビット列は、PN符号やM系列の信号である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の無線通信システムであって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機それぞれは、複数の無線機の内の1台である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項12】
第1の無線機および第2の無線機が物理鍵を用いて情報を秘匿して通信を行う無線通信方法であって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、動的変化する伝搬特性の時系列変化を共有して通信を行い、
前記第1の無線機は、自らが前記伝搬特性に基づいて第1の離散値を求め、当該第1の離散値の所定範囲の最下位ビットおよび当該第1の離散値における前記最下位ビットに続く下位ビットを前記第2の無線機に送信し、
前記第2の無線機は、自らが前記伝搬特性に基づいて第2の離散値を求め、前記第1の無線機から受信した前記最下位ビットおよび前記下位ビットと前記第2の離散値とから前記第1の無線機における共通鍵を推定し、
前記共通鍵を前記物理鍵とする
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項13】
請求項12に記載の無線通信方法であって、
前記伝搬特性が、前記第1および前記第2の無線機間の伝搬時間である
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項14】
請求項12に記載の無線通信方法であって、
前記伝搬特性が、前記第1および前記第2の無線機間の伝搬損失または信号強度である
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項15】
請求項12に記載の無線通信方法であって、
前記第1の無線機および前記第2の無線機は、回転偏波通信機能を用いて通信を行い、
前記伝搬特性が、回転偏波の偏波角である
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムおよび無線通信方法に関し、特に、暗号通信に好適な回転偏波通信を用いた無線通信システムおよび無線通信方法である。
【背景技術】
【0002】
無線通信では、外部に開かれた自由空間を伝送路とするために、原理的に通信情報を含む電磁波のエネルギーを外部者が容易に獲得可能である。このため、無線通信では、伝送すべき情報の秘匿が重要な技術課題となっている。
【0003】
情報の秘匿のための技術としては、暗号化して情報伝送を行う技術が使用されている。この暗号化による情報伝送の技術では、送り手と受け手とが共有する数学鍵を外部者から如何に秘匿するかという新たな課題が発生する。
【0004】
特許文献1には、回転偏波通信において一対の回転偏波無線機が偏波回転の時系列変化を共有し、動的変化する偏波位相に基づいた物理量を共通鍵として用いて暗号通信する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-40258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンテナによる伝搬の可逆性により、送信側と受信側とを交換しても同一の伝搬特性を有するため、一対の無線局間で伝搬特性に基づく特有な物理量を共有できる。その一方で、送受信局間以外では共有できない。
【0007】
これに対して、上記した従来技術によれば、一対の送受信局間で、伝搬特性に基づく特有な物理量を暗号通信のための共通鍵として用いることにより、共通鍵の秘匿性を高めることができる。
【0008】
しかし、上記した従来技術において、伝搬特性に基づく特有な物理量、即ちアナログ値を暗号通信のための共通鍵、即ちデジタル値への変換(デジタイズ)に伴う誤差(真値が不明なので「不確かさ」と呼ぶことも多い)の影響については、更なる考慮が望ましい。なぜなら、実質的に同一の物理量、即ちアナログ値をデジタイズする際に誤差(不確かさ)により異なるデジタル値に変換されることもあるので、一対の無線局間で同一の共通鍵を共有することができず、暗号通信が成立しないことも生じる。
【0009】
そこで、本発明は、伝搬特性に基づく特有な物理量を暗号通信のための共通鍵として用いる際に、誤差(不確かさ)の影響を受けずに同一の共通鍵を共有できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を達成するために、代表的な本発明の無線通信システムの一つは、第1の無線機および第2の無線機が物理鍵を用いて情報を秘匿して通信を行う無線通信システムであって、第1の無線機および第2の無線機は、動的変化する伝搬特性の時系列変化を共有して通信を行い、第1の無線機は、自らが伝搬特性に基づいて求めた第1の離散値の所定範囲の最下位ビットおよび当該第1の離散値における前記最下位ビットに続く下位ビットを第2の無線機に送信し、第2の無線機は、自らが伝搬特性に基づいて求めた第2の離散値と第1の無線機から受信した前記最下位ビットおよび前記下位ビットとから第1の無線機における共通鍵を推定し、共通鍵が物理鍵となるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、暫定LSB以下のビットのみを交換し、共通鍵に用いる上位ビットを交換することなく、共通鍵を秘匿し、誤差(不確かさ)の影響を受けずに同一の共通鍵を共有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1として、本発明の基本的な実施態様を示す図である。
図2】共通鍵を生成する際の処理の一例を示す図である。
図3図2に示す親局10が行う処理手順をフローチャートで示す図である。
図4図2に示す子局20が行う処理手順をフローチャートで示す図である。
図5】端数処理として、暫定LSBの下位ビットを0捨1入する場合の表である。
図6】端数処理として、暫定LSBの下位ビットを切り捨てる場合の表である。
図7】本発明の実施例2に係る無線通信システムの構成を示す図である。
図8】共通鍵のハンドオーバー方法の第1例を示す図である。
図9】共通鍵のハンドオーバー方法の第2例を示す図である。
図10】共通鍵のハンドオーバー方法の第3例を示す図である。
図11】共通鍵のハンドオーバー方法の第4例を示す図である。
図12】共通鍵のハンドオーバー方法の第5例を示す図である。
図13】実施例3の第1パターンとして、周波数および偏波角のホッピングテーブルを示す図である。
図14】実施例3の第2パターンとして、相手局が回転偏波通信機能を有しない場合に対して周波数のみのホッピングテーブルを示す図である。
図15】実施例3の第3パターンとして、通信不良発生時に対処して変更するホッピングテーブルを示す図である。
図16】通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムの構成の一例を示す図である。
図17】本発明に係る無線通信システムの各無線機の通信プロトコルの一例を示す図である。
図18】通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムの別の一例の概要を示す図である。
図19図18に示す各無線機が使用する通信プロトコルの一例を示す図である。
図20】実施例4に係る無線通信システムの受信機の代表例として、第1の構成例とその動作態様を示す図である。
図21】送信波形と受信波形との関係を示す図である。
図22】送信局と受信局が共有している強自己相関弱相互相関ビット列をずらして受信信号との相関をとった図である。
図23】実施例4に係る無線通信システムに用いる受信機として、第2の構成例を示す図である。
図24】実施例4に係る無線通信システムの受信機として、第3の構成例を示す図である。
図25】実施例4に係る無線通信システムの送信機の代表例として、第4の構成例を示す図である。
図26】実施例4に係る無線通信システムに用いる送信機として、第5の構成例を示す図である。
図27】実施例4に係る無線通信システムに用いる無線機対(送受信機)の代表例として、第6の構成例を示す図である。
図28】実施例4に係る無線通信システムに用いる無線機対(送受信機)として、第7の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1から4について、図面を参照して説明する。ここで、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0014】
本発明の実施例の説明に先立ち、本発明に係る情報秘匿通信を行う無線通信システムの概要を説明する。
【0015】
図16は、通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムの構成の一例を示す図である。
この無線通信システムは、親局10-1および子局20-1と20-と2から構成される。送受信機の周囲には、遮蔽物31や反射板32などが存在している。
【0016】
親局10-1の送信機と子局20-1の受信機との間には、見通し伝搬路を遮る実体がないので、親局10-1の送信機と子局20-1の受信機とが回転偏波通信を行う際の偏波シフトは0°である。
【0017】
一方、親局10-1の送信機と子局20-2の受信機との間には、見通し伝搬路上に遮蔽物31が存在するので、親局10-1の送信機の送信波は、反射板32を介して子局20-2の受信機の受信波となる。反射の際には、反射板32の法線ベクトルと送信波の入射ベクトルにより決定される固有の偏波シフトが発生し、回転偏波通信を行う際の偏波シフトは、0°とは異なる。また、偏波シフトは、送信波の入射ベクトルに依存するため、送信波の偏波角度と受信時の偏波角度との差は一定ではない。
【実施例0018】
図1は、本発明の実施例1として、本発明の基本的な実施態様を示す図である。
図1には、送信側から送出した電波の偏波角(送信側偏波角)ΦTXに対する受信器側で受信した電波の偏波角(受信側偏波角)ΦRXの関係をグラフで示す。
【0019】
上記したように、偏差シフトが、伝搬経路の途中における反射や回折などの影響により発生するために、ΦRX=ΦTXとならない。また、それのみならず、偏波シフトは、送信波の入射ベクトルに依存するので、送信波の偏波角度と受信波の偏波角度との差は一定ではない。そのため、必ずしも直線関係にならない。なお、アンテナおよび伝搬の可逆性により、送信側と受信側とを交換しても同一の曲線となる。
【0020】
また、送信局および受信局の条件が異なれば、送信側偏波角ΦTXと受信側偏波角ΦRXの関係は、図1で、条件1および条件2に示されるように、異なる曲線となる。
【0021】
そこで、曲線と直線ΦRX=ΦTXとの差、即ちΦRX―ΦTXの値、または、曲線と直線ΦRX=ΦTX+ΔΦとの差、即ち、ΦRX―ΦTX―ΔΦの値、を離散化した値DAおよびDBに基づき、共通鍵KEYA=KEYBを生成する第1の方法と、離散化した値DAおよび値DBの正負から、共通鍵KEYA=KEYBを生成する第2の方法と、が考えられる。
【0022】
まず、第1の方法によれば、1サンプリング当たりより多くのビット数の情報が得られるので、より多くのビット数からなる暗号鍵を生成することができる。しかしその反面、デジタル化に伴う誤差(不確かさ)の影響を受けやすいため、図2以降を用いて後述する不確かさ解消処理が必要となる。
【0023】
また、物理現象につきものの1/f揺らぎにより、上位ビットの変化が少なく、下位ビットの変化が多い傾向にあるので、この分布から暗号鍵を推測されることを防ぐために、ビット位置を交換(シャッフル)することが望ましい。ただし、ビット位置をシャッフルする操作として、元来含んでいる暗号化のアルゴリズムを用いる場合には、この限りではない。
【0024】
次に、第2の方法によれば、1サンプリングあたり正負を表す符号(sign)の1ビットの情報しか得られないので、nビットの暗号鍵を生成するためにはnサンプルの値を得る必要がある。
【0025】
また、サンプリングした値が0付近の場合には、デジタル化に伴う誤差(不確かさ)の影響を受けやすいため、図2以降を用いて後述する不確かさ解消処理が必要となる。この場合、符号ビットを暫定LSBとすると、親局と子局間で符号ビットを通信により交換することになるので、符号ビットよりの下位のビットを暫定LSBとすることにより、符号ビットの値を秘匿することができる。
【0026】
ここにおいて、暗号通信のための共通鍵として用いる伝搬特性に基づく特有な物理量としては、上記した偏波角度の他に、一対の無線局間の伝搬時間または伝搬損失などの値が考えられる。
【0027】
ここで、伝搬時間または伝搬損失の値を用いる場合も、暗号鍵として容易に推定されないためには、理論上の推定値と実測値との差に基づき、共通鍵を生成することが望ましい。具体的には、無線局間の距離から導かれる伝搬時間の理論値と実測値との差、または、伝搬損失(信号強度)の理論値と実測値との差、に基づき、共通鍵を生成することが望ましい。
【0028】
そしてまた、こうして得られた共通鍵により暗号通信を行うことにより、情報を秘匿することが可能になるが、暗号通信の方法としては、従来から用いられているDESやAESによる方法でもよい。さらに、複数で多段の暗号化方式や暗号鍵を組み合わせること、例えば、従来の共通鍵に加えて本発明により得られた共通鍵を組み合わせること、により、暗号強度を高めることができる。
【0029】
図2は、伝搬特性の内の偏波角度の値を離散化した値DAおよびDBに基づき、共通鍵KEYA=KEYBを生成する際の処理の一例を示す図である。
【0030】
親局10では、伝搬特性を離散化した値DAを暫定LSB、すなわち、tLSBを最下位ビットとして端数処理(図2および図3に示す、S106)を行って、暗号鍵KEYAを得る。
【0031】
同様に、子局20では、伝搬特性を離散化した値DBを暫定LSB、すなわち、tLSBを最下位ビットとして、端数処理(図2および図4に示す、S206)および不確かさ解消処理(図2および図4に示す、S207)を行って、暗号鍵KEYBを得る。
【0032】
このとき、親局10からは、値DAのtLSBおよびその1ビット下位の2ビットが送信される(図2および図3に示す、S102)。他方、子局20では、この2ビットを受信して(図2および図4に示す、S202)、親局10での端数処理(図2および図4に示す、S206)の結果を予測し、値DBの不確かさ解消処理(図2および図4に示す、S207)の結果を予測値に合わせることにより、この不確かさ解消処理(S207)を行う。
【0033】
図3は、図2に示す親局10が行う処理手順をフローチャートで示す図である。なお、以下のステップ100(S100)からステップ112(S112)の処理主体は、親局10であるので、以下では処理主体の表記を省略する。
【0034】
ステップ100(S100)として、処理を開始する。
ステップ101(S101)で、暫定LSBのビット位置kを初期値k0とする。
【0035】
ステップ102(S102)で、伝搬特性を離散化した値DAのkビット目およびk-1ビット目を、子局20に送信する。
【0036】
ステップ104(S104)で、子局20から親局10への送信内容を確認する。
子局20から親局10への送信内容がNGの場合には(図4に示すステップ211(S211)に対応)、ステップ112(S112)で、暫定LSBのビット位置kを1ビット上位に移動して、ステップ102(S102)に戻り、ステップ102(S102)の処理を行う。
【0037】
子局20から親局10への送信内容がOKの場合には(図4に示すステップ205(S205)に対応)、ステップ106(S106)で、値DAをkビットだけ左シフト(値DAが符号付き整数の場合には算術シフト)し、端数処理をしてKEYAとする。なおここで、KEYAの最下位ビットは、親局10から子局20に送信されているので暗号鍵として使用せずに、それよりも上位ビットを暗号鍵として使ってもよい。
【0038】
ステップ108(S108)で、KEYAを共通鍵として、子局20との暗号通信を開始する。
【0039】
ステップ109(S109)で、暗号通信が成功したか否かを確認する。
暗号通信に成功しなかった場合(N)には、ステップ112(S112)を介して(暫定LSBのビット位置kを1ビット上位に移動)、ステップ102(S102)に戻り、ステップ102(S102)の処理を行う。
【0040】
暗号通信に成功した場合(Y)には、ステップ110(S110)で、一連の処理を終了し、引き続き、KEYAを共通鍵として子局20との暗号通信を継続する。
【0041】
図4は、図2に示す子局20が行う処理手順をフローチャートで示す図である。なお、以下のステップ200(S200)からステップ212(S212)の処理主体は、子局20であるので、以下では処理主体の表記を省略する。
ステップ200(S200)として、処理を開始する。
ステップ201(S201)で、暫定LSBのビット位置kを初期値k0とする。
【0042】
ステップ202(S202)で、親局10から、伝搬特性を離散化した値DAのkビット目およびk-1ビット目を受信する(図3に示すステップ102(S102)に対応)。
【0043】
ステップ203(S203)で、値DAのkビット目およびk-1ビット目と、値DBのkビット目およびk-1ビット目とから、値DAと値DBとの差εを計算する。
【0044】
ステップ204(S204)で、差εの値が、1暫定LSB未満か否かを判断する。
差εが1暫定LSB以上の場合(N)には、ステップ211(S211)で、“NG”を子局20から親局10に送信する。続いて、ステップ212(S212)で、暫定LSBのビット位置kを1ビット上位に移動して、ステップ202(S202)の処理を行う。
【0045】
差εが1暫定LSB未満の場合(Y)には、ステップ205(S205)で、“OK”を子局20から親局19に送信する。
【0046】
ステップ206(S206)で、値DBをkビットだけ左シフト(DBが符号付き整数の場合には算術シフト)し、端数処理をしてKEYBとする。
【0047】
ステップ207(S207)で、図5または図6に示す不確かさ解消処理を実行する。なおここで、KEYA(=KEYB)の最下位ビットは、親局10から子局20に送信されているので暗号鍵として使用せず、それよりも上位ビットを暗号鍵として使ってもよい。
【0048】
ステップ208(S208)で、KEYBを共通鍵として親局10との暗号通信を開始する。
【0049】
ステップ209(S209)で、暗号通信が成功したか否かを確認する。
暗号通信に成功しなかった場合(N)には、ステップ212(S212)を介して(暫定LSBのビット位置kを1ビット上位に移動)、ステップ202(S202)に戻り、ステップ202(S202)の処理を行う。
【0050】
暗号通信に成功した場合(Y)には、ステップ210(S210)で、一連の処理を終了し、引き続き、KEYBを共通鍵として親局10との暗号通信を継続する。
【0051】
次に、ステップ207(S207)の不確かさ解消処理について説明する。図5および図6に、不確かさ処理に用いる表を示す。
【0052】
図5は、端数処理(S106、S206)として、暫定LSB(tLSB)の下位ビットを十進数の四捨五入に相当する「0捨1入」する場合の表である。
他方、図6は、端数処理(S106、S206)として、暫定LSB(tLSB)の下位ビットを切り捨てる場合の表である。
【0053】
これらの表により、不確かさ解消処理(S207)が実行される。
それぞれの表においては、横方向は親局で、縦方向は子局であって、それぞれの暫定LSB(tLSB)、その下位ビットの値および括弧内に端数処理結果、を示している。また、親局と子局との交点には、不確かさ解消処理(S207)後の結果と括弧内に子局の端数処理結果の修正値を示している。
【0054】
子局の端数処理結果の修正値については、「±0」が修正不要、「+1」が1加算、「-1」が1減算、が必要であることを示している。なお、「X」は、値DAと値DBとの差が1暫定LSB以上あり、端数処理のためには、暫定LSBをさらに上位に移動しなければならないことを表している。
【0055】
例えば、図5では、一番上の行では子局の暫定LSBと下位ビットは00…で、「0捨1入」されると0となることを示し、一番左側の列では、親局の暫定LSBと下位ビットは00…で、「0捨1入」されると0となるので、不確かさ解消処理(S207)後の結果は0のままで、子局の端数処理結果の修正は「±0」で修正不要であることを示している。
【0056】
また、同じ行の左から2番目の列では、親局の暫定LSBと下位ビットは01…で、「0捨1入」されると1となるので、不確かさ解消処理(S207)後の結果は1となり、子局の端数処理結果の修正は「+1」で、1加算が必要であることを示している。
【実施例0057】
図7は、本発明の実施例2に係る無線通信システムの構成を示す図である。
図7の(a)には、親局であるA局10に対して、複数の移動する子局であるm1局20-1およびm2局20-2が存在する構成例を示す。
【0058】
親局であるA局10と移動する子局であるm1局20-1およびm2局20-2との間は、それぞれ共通鍵KYAm1およびKEIAm2により暗号通信が行われる。また、移動する子局である、m1局20-1とm2局20-2との間は、共通鍵KEYm1m2により暗号通信が行われる。
【0059】
図7の(b)には、複数の親局であるA局10-1、B局10-2およびC局10-3に対して、1つの移動する子局であるm局20が存在する例を示す。
【0060】
親局である、A局10-1とB局10-2との間は共通鍵KEYABで、B局10-2とC局10-3との間は共通鍵KEYBCで、それぞれ暗号通信が行われる。また、親局であるA局10-1と移動する子局であるm局20との間は共通鍵KEYAmで、親局であるB局10-2と移動する子局であるm局20との間は共通鍵KEYBmで、それぞれ暗号通信が行われる。
【0061】
次に、図8から図12により、異なる親局であるA局10-1、B局10-2およびC局10-3のサービスエリア11-1、11-2および11-3の間の共通鍵のハンドオーバー方法について説明する。
【0062】
図8は、共通鍵のハンドオーバー方法の第1例を示す図である。
第1例では、暗号通信の都度、親局と子局との間で、実施例1に係る方法により、偏波角から共通鍵を生成し確立して、暗号通信を行う。
【0063】
移動する子局であるm局20が、親局であるA局10-1のサービスエリア11-1に存在する時には、暗号通信の都度、A局10-1とm局20との間で、実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYAmを生成し確立して、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。
【0064】
続いて、移動する子局であるm局20が、親局であるB局10-2のサービスエリア11-2に入ると、暗号通信の都度、B局10-2とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYBmを生成し確立して、共通鍵KEYBmにより暗号通信をする。
【0065】
このように、第1例によれば、共通鍵が頻繁に更新されるために、万一共通鍵が漏洩しても、被害を最小限に抑えることができる。
【0066】
図9は、共通鍵のハンドオーバー方法の第2例を示す図である。
第2例では、子局が複数の親局のサービスエリアに入った時点毎に、共通鍵を生成し確立して、暗号通信を行う。すなわち、子局がある親局のサービスエリアに入った時点で、この親局と子局との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵を生成し確立して、以降子局がこの親局のサービスエリアにいる間は、その共通鍵を用いて暗号通信を行う。その後、子局が他の親局のサービスエリアに入った時点で、他の親局と子局との間で実施例1に係る方法により偏波角から別の共通鍵を生成し確立して、以降子局が他の親局のサービスエリアにいる間は、別の共通鍵を用いて暗号通信を行う。
【0067】
移動する子局であるm局20が、親局であるA局10-1のサービスエリア11-1に入った時点で、A局10-1とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYAmを生成し確立して、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。
【0068】
続いて、移動する子局であるm局20が、親局であるB局10-2のサービスエリア11-2に入ると、B局10-2とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYBmを生成し確立して、共通鍵KEYBmにより暗号通信をする。
【0069】
このように、第2例によれば、共通鍵を生成し確立するためのオーバーヘッドを減らすことができるので、通信効率を上げることができる。
【0070】
図10は、共通鍵のハンドオーバー方法の第3例を示す図である。
第3例では、子局が最初の親局のサービスエリアに入った時点で、親局と子局との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵を生成し確立して、以降は子局が他の親局のサービスエリアに入っても引き続きその共通鍵を用いて暗号通信を行う。
【0071】
親局であるA局10-1およびB局10-2は、基地局であるために地上高もゲインも高いアンテナを備えている。そのために、子局であるm局20よりも長い距離の通信が可能である上、地上の通信回線での通信も可能である。
【0072】
また、A局10-1とB局10-2とが無線通信を行うときには、それに先立って実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYABを生成し確立して、共通鍵KEYABにより暗号通信をすることも可能である。
【0073】
移動する子局であるm局20が、親局であるA局10-1のサービスエリア11-1に入った時点で、A局10-1とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYAmを生成し確立して、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。
【0074】
続いて、移動する子局であるm局20が、親局であるB局10-2のサービスエリア11-2に入ると、A局10-1からB局10-2に共通鍵KEYAmを共通鍵KEYABで暗号化して送るか、地上の通信回線で送る。それ以降は、m局20とB局10-2とは、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。
【0075】
このように、第3例によれば、共通鍵を生成し確立するためのオーバーヘッドを減らすことができるので通信効率を上げることができる。加えて、ハンドオーバー時に共通鍵を認証のための情報として使うことにより、親局または子局のなりすましを防ぐことができる。
【0076】
図11は、共通鍵のハンドオーバー方法の第4例を示す図である。
第4例では、子局が最初の親局のサービスエリアに入った時点で、親局と子局との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵を生成し確立して、その共通鍵を用いて暗号通信を行い、子局が他の親局のサービスエリアに入った時点で、最初の親局から他の親局に認証情報として最初の共通鍵を送る。
【0077】
親局であるA局10-1およびB局10-2は、基地局であるために地上高もゲインも高いアンテナを備えている。そのために、子局であるm局20よりも長い距離の通信が可能である上、地上の通信回線での通信も可能である。
【0078】
また、A局10-1とB局10-2とが無線通信を行うときには、それに先立って実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYABを生成し確立して、共通鍵KEYABにより暗号通信をすることも可能である。
【0079】
移動する子局であるm局20が、親局であるA局10-1のサービスエリア11-1に入った時点で、A局10-1とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYAmを生成し確立して、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。
【0080】
続いて、移動する子局であるm局20が、親局であるB局10-2のサービスエリア11-2に入ると、認証情報として、A局10-1からB局10-2に共通鍵KEYAmを、共通鍵KEYABで暗号化して送るか、地上の通信回線で送る。
【0081】
B局10-2は、共通鍵KEYAmによりm局20との暗号通信が成立することを確認する。これにより、B局10-2は、サービスエリア11-2に入ってきたm局20が正当であることを確認する。その後、B局10-2とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYBmを生成し確立して、それ以降は、m局20とB局10-2とは、共通鍵KEYBmにより暗号通信をする。
【0082】
このように、第4例によれば、ハンドオーバー時に共通鍵を認証のための情報として使うことにより、親局または子局のなりすましを防ぐことができる。
【0083】
図12は、共通鍵のハンドオーバー方法の第5例を示す図である。
第5例では、子局が最初の親局のサービスエリア内での始業時の認証のために、前日の暗号通信が成立するかどうかを確認する。
【0084】
まず始業時に、親局であるA局10-1は、前日の共通鍵KEYAmにより子局であるm局20との暗号通信が成立することを確認する。これにより、A局10-1は、始業時にサービスエリア11-1に存在するm局20が正当であることを確認する。
【0085】
その後、移動する子局であるm局20が、親局であるA局10-1のサービスエリア11-1に入った時点で、A局10-1とm局20との間で実施例1に係る方法により偏波角から共通鍵KEYAmを生成し確立して、共通鍵KEYAmにより暗号通信をする。以降の動作態様は、図11に示す第3の例と同一である。
【0086】
このように、第5例によれば、ハンドオーバー時に共通鍵を認証のための情報として使うことにより、親局または子局のなりすましを防ぐことができるだけでなく、始業時にも前日の共通鍵を認証のための情報として使うことにより、親局または子局のなりすましを防ぐことができる。
【実施例0087】
本発明の実施例3は、通信に用いる周波数および偏波角の少なくともいずれかをホッピングするための実施態様を有するものである。
図13は、実施例3の第1パターンとして周波数および偏波角をホッピングするためのホッピングテーブルを示す図である。
【0088】
第1パターンでは、ステップ1~nのステップごとに、時系列で定期的に、通信に用いる周波数および偏波角を切り替える。
【0089】
具体的には、ステップ1では、周波数f1および偏波角p1で通信を行い、ステップ2では、周波数f2および偏波角p3で通信を行い、ステップ3では、周波数f3および偏波角p3で通信を行い、以降、ステップnでは、周波数fnおよび偏波角pnで通信を行う形態によって、定期的に、通信に用いる周波数および偏波角を切り替える。
【0090】
周波数が異なると通信が成立しないことは当然のことであり、さらに、偏波角がθだけ異なると、信号強度はcosθと低下し、θ=90度のとき、理論上信号強度は0となるが、実際には信号強度は10~20dB低下する。
【0091】
偏波角をランダムに変えると、たとえ周波数が同一であっても、信号強度がランダムに変動するため、ホッピングテーブルの情報を予め持っていないと、正常な復号は困難となり、正常な通信が成り立たなくなる。
【0092】
従来、通信の秘匿性のために、周期的に周波数を切り替える周波数ホッピングと呼ばれる方法が広く用いられている。これに対して、実施例3では、周波数だけでなく偏波角も定期的に切り替えることにより、通信の秘匿性を増すことができる。
【0093】
ステップごとの周波数と偏波角との組み合わせの表(ホッピングテーブル)は、第三者には秘匿した方が通信の秘匿性を高めることができるが、先の実施例1で得られた伝搬特性、特に偏波角の物理量を用いてホッピングテーブルを実現すれば、ホッピングテーブルの秘匿性を高めることができる。
【0094】
図14は、実施例3の第2パターンとして、相手局が回転偏波通信機能を有しない場合に対して周波数のみをホッピングするためのホッピングテーブルを示す図である。
【0095】
相手局が回転偏波通信機能を有する場合には、予め用意しておいた周波数および偏波角のホッピングテーブルを用いるなどして周波数および偏波角ホッピングを実行するが、相手局が回転偏波通信機能を有しない場合には、第2例のように、周波数のみのホッピングを実行する。
【0096】
第2パターンによれば、回転偏波通信機能を有しない相手局に対しても通信が可能であり、つまりは従来方式の無線局との通信の互換性を保つことができる。ただし、第2例によれば、先の実施例1で得られた伝搬特性、特に偏波角の物理量を共通鍵とした暗号通信ができないため、共通鍵を何らかの方法で共有する必要がある。
【0097】
また、相手局が回転偏波通信機能を有するか否かを事前に確認するために、相手局と通信を開始するに先立って、相手局となる無線機との間で、回転偏波通信機能を有するか否かを示す情報を交換するようにしてもよい。
【0098】
図15は、実施例3の第3パターンとして、通信不良発生時に対処して変更するホッピングテーブルを示す図である。
【0099】
第3パターンでは、周波数および偏波角のホッピングのいずれかで、妨害波による干渉などにより通信不良が発生した場合に、これを回避するためにホッピングテーブルを変更する。
【0100】
図15の(a)に示すように、ステップ5で妨害波による干渉などにより通信不良が発生した場合には、このステップ5では、他のステップ(図では、ステップ6)で使用する周波数および偏波角で通信を行う。
【0101】
図15の(b)に示すように、ステップ5および6で妨害波による干渉などにより通信不良が発生した場合には、これらステップ5および6では、他のステップ(図では、ステップ7)で使用する周波数および偏波角で通信を行う。
【0102】
図15の(c)に示すように、周波数f2で送信するステップ5~8のすべての偏波角で、妨害波による干渉などにより通信不良が発生した場合には、これらステップ5~8では、異なる周波数を用いるステップ(図では、周波数f3を使うステップ9)の周波数および偏波角で通信を行う。
【0103】
以上、実施例3によれば、ホッピングに用いる周波数および偏波角の少なくともいずれかで妨害波による干渉などにより通信不良が発生した場合に、次回からは通信不良となった周波数および偏波角の少なくともいずれかを避けて通信を行うので、妨害波による干渉などに強くより安定な通信状態を確保することができる。
【実施例0104】
本発明に係る実施例4として、通信を行う無線機対に固有な偏波シフト特性を暗号鍵とする情報秘匿通信システムの構成例について、図16乃至図20を用いて説明する。
【0105】
なお、別途GPSや標準電波などを利用することにより絶対時刻を得られれば、伝搬時間を計測することや、同期をとって特定の偏波角で電波の送信タイミングを得ることは、可能である。
【0106】
先ず、図16に示す無線通信システムにより、本発明に係る実施例4の動作態様について説明する。
親局10-1の送信機が、信号を自己相関性が強く相互相関性の弱いビット列の各ビットに、同一の周波数かつ異なる位相の複数の偏波回転周波数の正弦波および余弦波を割り当て、複数の正弦波と複数の余弦波を夫々重ね合わせてできる二つの加算正弦波および加算余弦波を、夫々搬送波周波数でアップコンバートして、空間的に直交するアンテナから空間に放射し、回転偏波の送信波を形成する。
【0107】
子局20-1および20-2の受信機の回転偏波の受信波は、偏波シフトが異なるので、自己相関性が強く相互相関性の弱いビット列の各ビットに、同一の周波数かつ異なる位相の複数の正弦波および余弦波を割り当て、複数の正弦波と複数の余弦波を夫々重ね合わせてできる二つの加算正弦波および加算余弦波を、遅延器を介して該受信波のダウンコンバート信号に掛け合わせるとき、その結果は夫々異なる遅延量において極値をとる。
【0108】
従って、受信波の中に、異なる偏波シフトを有する自己相関性が強く相互相関性の弱いビット列の各ビットに、同一の周波数かつ異なる位相の複数の正弦波および余弦波を割り当てた複数の正弦波と複数の余弦波との重ね合わせで拡散された信号が混在している。この場合に、その重ね合わせを異なる遅延量で、受信波を搬送波によりダウンコンバートした信号に掛け合わせることで、該受信信号の中から、異なる偏波シフトの受信機からの送信信号中に含まれる情報を分離することが可能となる。
【0109】
図17は、本発明に係る無線通信システムの各無線機の通信プロトコルの一例を示す図である。
図17により、通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムが、無線機AとBによる一対一通信を行う際の通信プロトコルを説明する。
【0110】
先ず、無線機Aが、IDを含む同期信号(ビット)を送信するまでの処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機Aであるが、主体の記載は省略する。
通信先を無線機Bに選び、予め両無線機で共有しているIDを決定する。
【0111】
回転偏波の一周期を分割する分割数(偏波分割数)Mを設定する。
この分割数Mのビット数を持つビット列で表現される識別符号列を複数具備し、その内の一つを選択する。
【0112】
分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波に、該識別符号列の各ビットで拡散したIDを含む同期信号(ビット)で重み付けして重ね合わせた正弦波および余弦波の集合を、搬送波周波数でアップコンバートする。
アップコンバートした信号を、夫々空間的に直交する2アンテナで空間に放射し回転偏波の送信波として送信する。
【0113】
次に、無線機Bの処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機Bであるが、主体の記載は省略する。
空間的に直交する2アンテナで受信波を受信した後、その受信信号を搬送波周波数でダウンコンバートする。
ダウンコンバートした受信信号を復調する。
【0114】
両無線機で共通して具備している複数の識別符号列の一つを選択する。
選択した識別符号列の各ビットで重み付け加算された偏波分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波の集合を、同期レプリカ信号として生成する。
【0115】
この同期レプリカ信号を用いて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号との乗算を、同期レプリカ信号を回転偏波周期のM分割分だけ順次遅延させて実行する。
【0116】
乗算結果を予め定めた閾値と比較する。
比較結果が閾値を超えない場合(no)は、複数の識別符号列の中から別の識別符号列を選択して処理を繰り返す。
比較結果が閾値を超える場合(yes)は、その場合の遅延量を偏波シフトと決定する。
【0117】
この偏波シフト分だけ同期レプリカ信号を遅延させて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号を復調し情報信号を再生する。
【0118】
再生された信号から同期ビットを検出すれば(yes)、ACK信号および自局のIDを、先に説明した無線機Aが送信時に行った処理と同様の処理を行い、無線機Aに対して送信する。
【0119】
次に、無線機Aが無線機Bから信号を受信した後の処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機Aであるが、主体の記載は省略する。
空間的に直交する2アンテナで無線機Bからの受信波を受信し、その受信信号を搬送波周波数でダウンコンバートする。
【0120】
受信信号を復調して、両無線機で共通して具備する複数の識別符号列から一つ選択した識別符号列の各ビットで重み付け加算された分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波の集合を、同期レプリカ信号として生成する。
【0121】
この同期レプリカ信号を用いて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号との乗算を、同期レプリカ信号を回転偏波周期のM分割分だけ順次遅延させて実行する。
【0122】
この乗算結果を予め定めた閾値と比較する。
比較結果が閾値を超えない場合(no)は、複数の識別符号列の中から別の識別符号列を選択する処理に戻って、先に説明した処理手順を繰り返す。
比較結果が閾値を超える場合(yes)は、受信信号のダウンコンバートからの処理を繰り返して無線機Bが送信したビット列を再生する。
【0123】
再生したビット列が、ACKおよびIDに関する情報である場合(yes)は、分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波に、識別符号列の各ビットで拡散したIDを含む情報信号(ビット)で重み付けして重ね合わせた正弦波および余弦波の集合を搬送波周波数でアップコンバートする。
【0124】
このアップコンバートした夫々の信号を、空間的に直交する2アンテナで空間に放射し回転偏波の送信波として送信する。
【0125】
再生したビット列が、ACKおよびIDに関する情報でない場合(no)は、上記した受信信号のダウンコンバートから始まる一連の処理手順を繰り返す。
【0126】
図18は、通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムの別の一例の概要を示す図である。
【0127】
図16に示す無線通信システムとは、以下の点で異なる。
・親局10-1に対して、子局20-1と同一の偏波シフトを有する子局20-5および20-6が存在する。
・親局10-1に対して、子局20-2と同一の偏波シフトを有する子局20-4および20-7が存在する。
・親局10-1に対して、子局20-1および20-2の両者と偏波シフトが異なる第二の遮蔽物33により見通し通信路が遮られる子局20-3が存在する。
【0128】
ここで、無線通信の双対性によって、親局は子局からの送信波を受信する動作において、複数の正弦波と複数の余弦波を夫々重ね合わせてできる二つの加算正弦波および加算余弦波を、受信波を搬送波周波数でダウンコンバートした信号に掛け合わせる際の遅延量によって、各子局が検出する偏波シフトを知ることができる。
【0129】
これにより、親局10-1は、図16に示す無線通信システムと同様な動作で、親局と子局とが共有する異なるIDが割り当てられた子局20-1乃至20-7との偏波シフトを予め調べておき、ID-偏波シフトテーブルを作成する。
【0130】
親局10-1は、ID-偏波テーブルを用いて、同じ偏波シフトを有する複数の子局に対して、自己相関性が強く相互相関性の弱い異なるビット列を用いて、図16と同様な通信を行う。
【0131】
これにより、親局と子局間の異なる偏波シフトと自己相関性が強く相互相関性の弱い異なるビット列との組合せにより、親局と同時に通信可能な子局の数が増加する。
【0132】
図19は、図18に示す各無線機が使用する通信プロトコルの一例を示す図である。
図19により、通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムが、一対多通信を行う際の通信プロトコルを用いた処理態様を説明する。
【0133】
先ず、無線機0が、IDを含む同期信号(ビット)を送信するまでの処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機0であるが、主体の記載は省略する。
通信先を無線機nに選び、予め両無線機で共有しているIDを決定する。
【0134】
回転偏波の一周期を分割する分割数(偏波分割数)Mを設定する。
この分割数Mのビット数を持つビット列で表現される識別符号列を複数具備し、その内の一つを選択する。
【0135】
分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波に該識別符号列の各ビットで拡散したIDを含む同期信号(ビット)で重み付けして重ね合わせた正弦波および余弦波の集合を、搬送波周波数でアップコンバートする。
【0136】
アップコンバートした信号を、夫々空間的に直交する2アンテナで空間に放射し回転偏波の送信波として送信する。
【0137】
次に、無線機nの処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機nであるが、主体の記載は省略する。
空間的に直交する2アンテナで受信波を受信した後、その受信信号を搬送波周波数でダウンコンバートする。
ダウンコンバートした受信信号を復調する。
【0138】
両無線機で共通して具備している複数の識別符号列の一つを選択する。
選択した識別符号列の各ビットで重み付け加算された偏波分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波の集合を、同期レプリカ信号として生成する。
【0139】
この同期レプリカ信号を用いて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号との乗算を、同期レプリカ信号を回転偏波周期のM分割分だけ順次遅延させて実行する。
【0140】
この乗算結果を予め定めた閾値と比較する。
比較結果が閾値を超えない場合(no)は、複数の識別符号列の中から別の識別符号列を選択して処理を繰り返す。
【0141】
比較結果が閾値を超える場合(yes)は、その時に用いた遅延量を偏波シフトと決定する。
この偏波シフト分だけ同期レプリカ信号を遅延させて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号を復調し情報信号を再生する。
【0142】
再生された信号が同期ビットを検出すれば(yes)、ACK信号、自局のIDおよびこの偏波シフトの値を、無線機0が送信時に行った処理と同様の処理を行い、無線機0に対して送信を行う。
【0143】
次に、無線機0が無線機nから信号を受信した後の処理態様を説明する。以下の処理態様の主体は、無線機0であるが、主体の記載は省略する。
空間的に直交する2アンテナで無線機nからの受信波を受信し、その受信信号を搬送波周波数でダウンコンバートする。
【0144】
受信信号を復調して、両無線機で共通して具備する複数の識別符号列から一つ選択した識別符号列の各ビットで重み付け加算された分割数Mで分割した回転偏波の周期分だけ初期位相のずれたM個の正弦波および余弦波の集合を、同期レプリカ信号として生成する。
【0145】
この該同期レプリカ信号を用いて、2つのアンテナからダウンコンバートして得られた信号との乗算を、同期レプリカ信号を回転偏波周期のM分割分だけ順次遅延させて実行する。
【0146】
この乗算結果を予め定めた閾値と比較する。
比較結果が閾値を超えない場合(no)は、複数の識別符号列の中から別の識別符号列を選択する処理に戻って、先に説明した処理手順を繰り返す。
【0147】
比較結果が閾値を超える場合(yes)は、受信信号のダウンコンバートからの処理を繰り返して無線機nが送信したビット列を再生する。
【0148】
再生したビット列が、ACKおよびIDに関する情報である場合(yes)は、再生したビット列よりIDと偏波シフト値とを抽出して記憶する。
【0149】
この記憶内容と具備する複数の識別符号列とを参照して、同時に伝送可能な情報量を極大化する両者の対応関係を計算し、ID、偏波シフトおよび識別符号列の対応マップを作成する。
【0150】
以上の処理手順を、無線機0は、一対多通信を行う全ての他の無線機に対して繰り返す。
全ての無線機に対して同処理が終了した後に、ID、偏波シフトおよび識別符号列の対応マップを用いて、複数の無線機nに対して、同時に個別の情報を伝送する。
【0151】
次に、図20乃至図28により、本発明の実施例4として、通信を行う無線機に固有な偏波シフト特性を暗号鍵として情報秘匿通信を行う無線通信システムとして採用する、無線機(受信機または送信機)および無線機対(送受信機)の構成例について説明する。
【0152】
ここで、図20以降に示す構成の無線機および無線機対を用いることにより、無線機に伝搬時間を計測する機能を持たせることができる。また、可変の強自己相関弱相互相関ビット列による偏波角領域でのCDMA(符号分割多元接続)が可能となる。これにより、先の図7の(a)に示す1対多数の無線局間の通信を可能にすることができる。
【0153】
さらに、高周波ミキサ105および106より左側の構成部分は、ハードウェアによる実現方法だけでなく、DSPとソフトウェアとからなるソフトウェア無線により実現する方法も可能である。この方法により、汎用的なハードウェアを用いて短い開発期間かつ低コストで実現できる。
【0154】
また、現時点の技術では性能低下が伴うが、アンダーサンプリングによる方法を用いれば、高周波ミキサ105および106を含めて、DSPとソフトウェアとからなるソフトウェア無線により実現することも可能で、更なる低コスト化を可能にする。
【0155】
図20は、実施例4に係る無線通信システムの受信機の代表例として、第1の構成例とその動作態様を示す図である。
空間的に直交する第一のアンテナ103および第二のアンテナ104は、送信機が送信した送信波を受信し入力信号とする。
【0156】
夫々のアンテナ(103、104)の出力は、搬送波周波数発生回路101の出力と、第一の高周波ミキサ105および第二の高周波ミキサ106により、ダウンコンバートされる。
【0157】
第一の高周波ミキサ105の出力は二分岐され、受信ミキサ121と第二のアナログデジタル変換器(ADC)123に入力される。
【0158】
一方で、偏波回転周波数発生回路102の出力を、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を制御される第一の可変遅延回路115を介し分岐し、分岐した各々を受信遅延器112-iを介し強自己相関弱相互相関ビット列111の各±ビット111-iを用いて受信乗算器113-iで重み付けし、受信総和回路114で重ね合わせる。
【0159】
この重ね合わせた結果と第一の高周波ミキサ105の出力とを受信ミキサ121で掛け合わせ、掛け合わせた結果を第一のアナログデジタル変換器(ADC)122でデジタル信号に変換して中央演算ユニット(CPU)109に入力する。
【0160】
ここで、強自己相関弱相互相関ビット列111は、一般には、「PN(Pseudo random Noise:疑似ノイズ)信号」などと呼ばれ、代表的なものとして「M系列」などがある。
【0161】
図21は、送信波形と受信波形との関係を示す図である。
図21に示すように、一般に受信波形は、送信波形からT(送信局と受信局との基準時刻の差に伝搬時間を加えたもの)だけ遅れたものとなる。ここで、送信波形に、強自己相関弱相互相関ビット列(PN符号やM系列)を重畳させる。
【0162】
図22は、送信局と受信局が共有している強自己相関弱相互相関ビット列(PN符号やM系列)を、Δtだけずらして受信信号との相関をとった図である。
【0163】
強自己相関弱相互相関ビット列の性質としては、Δt=Tの時(タイミングが一致している時)に相関値が最大となり(強自己相関)、Δt=Tでない時(タイミングが一致していない時)に相関値が小さくなる(弱相互相関)。
【0164】
以上のように、T(送信局と受信局の基準時刻の差に伝搬時間を加えたもの)を同定することは、現在受信局で受信している信号が送信局においてどの時刻において送信されたものかを同定(同期化)することにつながる。
【0165】
特に、時刻と共に送信する電波の偏波を変える回転偏波においては、送信局においてどの時刻において送信されたものかという情報は、どの偏波角で送信されたものかという情報につながる。このため、送信局で連続して偏波角を変化させることによって、本発明においては、共通鍵として利用する送信局での偏波角と受信局での偏波角との関連を取得することができる。
【0166】
図20に戻り、第一の高調波ミキサ105の出力の二分岐された他方の出力は、第二のアナログデジタル変換器(ADC)123により、また、第二の高調波ミキサ106の出力は、第三のアナログデジタル変換器124により、それぞれデジタル信号に変換される。
【0167】
それぞれのデジタル信号は、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を独立して制御される第二の可変遅延回路125および第三の可変遅延回路126を介して比較回路127の二入力となる。
【0168】
この比較回路127は、各入力値の差分を閾値記憶回路128に格納されている判定閾値を基に、±1を出力して、この比較出力を中央演算ユニット(CPU)109に入力する。
【0169】
中央演算ユニット(CPU)109は、先に述べた強自己相関弱相互相関ビット列(PN符号やM系列)111の性質を利用して、第一の可変遅延回路115の遅延量を変化させ、第一のアナログデジタル変換器122の出力を最大とする遅延量を測定してこの遅延量により通信を行っている送信機との偏波シフトを決定する。
【0170】
回転偏波通信においては、送受信機間が静的であれば空間的に直交する2アンテナの出力信号は直交する正弦波となる。図20の上のグラフの破線は、この関係を示す。また、図20の上のグラフに示すように、送信回転偏波と受信回転偏波との位相差はが一定であれば、位相シフトTだけ破線がシフトして一点鎖線となる。
【0171】
実際の通信環境では回転偏波の偏波回転の位相は一定ではなく、進みまたは遅れが生じる。この現象を、図20の上のグラフで実線で示す。この「進み」と「遅れ」を、「0」と「1」に対応付ければ、無線通信を行っている送受信機間の固有の伝播特性が生成する物理暗号鍵として、使用可能なビット列を得ることができる。
【0172】
以上、第1の構成例によれば、回転偏波を用いる無線通信において、無線通信を行う送受信機間の固有の伝播特性を用いて、他の無線機では知り得ない同伝搬特性固有の物理暗号鍵として使用可能なビット列を、このビット列に関する情報を無線機間で通信することなく自動的に取得可能である。
【0173】
したがって、このビット列を暗号鍵として適当な暗号アルゴリズムにより情報信号を秘匿して通信可能となるので、高セキュアな無線通信システムを実現できる効果がある。
【0174】
図23は、実施例4に係る無線通信システムに用いる受信機として、第2の構成例を示す図である。
【0175】
図20に示す第1の構成例と異なる点は、強自己相関弱相互相関ビット列111の代わりに可変強自己相関弱相互相関ビット列116を用いる点である。
【0176】
可変強自己相関弱相互相関ビット列116は、中央演算ユニット(CPU)109により互いに異なる強自己相関弱相互相関ビット列を生成することができる。
【0177】
以上、第2の構成例によれば、親局が同じ偏波シフトを有する複数の子局と同時に送受信が可能となるので、無線通信システムの通信容量の増加およびスループットの向上を図る効果がある。
【0178】
図24は、実施例4に係る無線通信システムの受信機として、第3の構成例を示す図である。
【0179】
空間的に直交する第一のアンテナ103および第二のアンテナ104は、送信機が送信した送信波を受信し入力信号とする。
【0180】
夫々のアンテナ(103、104)の出力は、搬送波周波数発生回路101の出力と、第一の高周波ミキサ105および第二の高周波ミキサ106により、ダウンコンバートされる。
【0181】
第二の高周波ミキサ106の出力は二分岐され、第一の受信ミキサ121と第二のアナログデジタル変換器(ADC)123に入力される。
【0182】
一方で、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した一方を、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を制御される第一の可変遅延回路115を介して分岐し、分岐した各々を第一の受信遅延器112-iを介して強自己相関弱相互相関ビット列111の各±ビット111-iを用いて第一の受信乗算器113-iで重み付けし、第一の受信総和回路114で重ね合わせる。
【0183】
この重ね合わせた結果と第二の高周波ミキサ106の出力とを第一の受信ミキサ121で掛け合わせ、掛け合わせた結果を受信合成回路131に入力する。
【0184】
第一の高周波ミキサ105の出力は二分岐され、第二の受信ミキサ141と第三のアナログデジタル変換器(ADC)124に入力される。
【0185】
一方で、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した他方を、偏波回転周波数帯90°移相器136を通過させ、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を制御される第二の可変遅延回路135を介して分岐し、分岐した各々を第二の受信遅延器132-iを介して強自己相関弱相互相関ビット列111の各±ビット111-iを用いて第二の受信乗算器133-iで重み付けし、第二の受信総和回路134で重ね合わせる。
【0186】
この重ね合わせた結果と第一の高周波ミキサ105の出力とを第二の受信ミキサ141で掛け合わせ、掛け合わせた結果を受信合成回路131に入力する。
【0187】
その上で、この受信合成回路131の出力を第一のアナログデジタル変換器(ADC)122でデジタル信号に変換して中央演算ユニット(CPU)109に入力する。
【0188】
第一の高調波ミキサ105の出力の二分岐された他方および第二の高調波ミキサ106の出力の二分岐された他方は、それぞれ第二のアナログデジタル変換器(ADC)123および第三のアナログデジタル変換器(ADC)124とによりデジタル信号に変換される。
【0189】
デジタル信号それぞれは、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を独立して制御される第二の可変遅延回路125および第三の可変遅延回路126を介して比較回路127の二入力となる。
【0190】
この比較回路127は、各入力値の差分を閾値記憶回路128に格納されている判定閾値を基に±1を出力し、この比較出力を中央演算ユニット(CPU)109に入力する。
【0191】
以上、第3の構成例によれば、図20に示す受信機の第1の構成例に比べて、親局と子局間の偏波シフトを決定するための信号電力を倍加することができる。
【0192】
したがって、偏波シフトの測定精度が向上し、情報信号の秘匿に用いる送受信機間固有の伝播特性が生成する物理暗号鍵の安定性が増すため、無線通信システムの通信の更なる安定化に寄与する。
【0193】
図25は、実施例4に係る無線通信システムの送信機の代表例として、第4の構成例を示す図である。
【0194】
中央演算ユニット(CPU)109が、情報信号を生成してデジタルデータ発生機158に供給する。
【0195】
このデジタルデータ発生機158は、ビット列を複数の送信乗算回路157-iに入力し、強自己相関弱相互相関ビット列151の各±ビット151-iにより重み付けされたのち二分岐される。
【0196】
二分岐した一方の分岐には、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した第一の分岐を、偏波回転周波数帯90°移相器168で遅延し、複数の第一の送信遅延器162-iを介して異なる位相で複数の第一の送信乗算器163-iで掛け合わせる。
【0197】
複数の第一の送信乗算器163-iの出力を第一の送信総和回路164で重ね合わせ、この第一の送信総和回路164の出力を、搬送波周波数発生回路101の出力により第一の高周波ミキサ105でアップコンバートして、第一のアンテナ103より空間に放射する。
【0198】
二分岐した他方の分岐には、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した第二の分岐を複数の第二の送信遅延器152-iを介して異なる位相で複数の第二の送信乗算器153-iで掛け合わせる。
【0199】
複数の第二の送信乗算器153-iの出力を第二の送信総和回路154で重ね合わせ、この第二の送信総和回路154の出力を、搬送波周波数発生回路101の出力により第二の高周波ミキサ106でアップコンバートして、第一のアンテナ103と空間的に直交する第二のアンテナ104より空間に放射する。
【0200】
以上、第4の構成例によれば、情報信号を異なるビット重み付けされた初期位相の異なる同一偏波回転周波数の正弦波および余弦波の集合体で、回転偏波を形成し無線通信できる。これにより、回転偏波通信システムの容量増大とスループット向上を図ることができる。
【0201】
図26は、実施例4に係る無線通信システムに用いる送信機として、第5の構成例を示す図である。
【0202】
図25に示す第4の構成例と異なる点は、新たに暗号発生回路(EMP)119を追加し、中央演算ユニット109が生成する情報信号を、この暗号発生回路(EMP)119の出力を用いて、第二の送信乗算回路159により変換し、デジタルデータ発生機158に供給する点である。
【0203】
以上、第5の構成例によれば、情報信号が暗号化されて回転偏波通信ができるので、無線通信システムの高セキュア化を図ることができる。
【0204】
図27は、実施例4に係る無線通信システムに用いる無線機対(送受信機)の代表例として、第6の構成例を示す図である。
【0205】
空間的に直交する第一のアンテナ103および第二のアンテナ104は、送信機が送信した送信波を受信し入力信号とする。
【0206】
夫々のアンテナ(103、104)の出力は、搬送波周波数発生回路101の出力と、第一の高周波ミキサ105および第二の高周波ミキサ106により、ダウンコンバートされる。
【0207】
第一の高周波ミキサ105および第二の高周波ミキサ106には、第一の送受信切替スイッチ165および第二の送受信切替スイッチ166が結合し、第二の送受信切替スイッチ166の出力は二分岐され、一方は第一の受信ミキサ121に入力される。
【0208】
ここで、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した一方を、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を制御される第一の可変遅延回路115を介し分岐して、分岐の各々を第一の受信遅延器112-iを介し強自己相関弱相互相関ビット列111の各±ビット111-iを用いて第一の受信乗算器113-iで重み付けし、第一の受信総和回路114で重ね合わせる。
【0209】
この重ね合わせた結果と第一の高周波ミキサ105の出力とを第一の受信ミキサ121で掛け合わせ、掛け合わせた結果を受信合成回路131に入力する。
他方、第一の送受信切替スイッチ165の出力は二分岐され、一方は第二の受信ミキサ141入力される。
【0210】
ここで、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した他方を、偏波回転周波数帯90°移相器136を通過させ、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を制御される第二の可変遅延回路135を介し分岐して、分岐の各々を第二の受信遅延器132-iを介し強自己相関弱相互相関ビット列111の各±ビット111-iを用いて第二の受信乗算器133-iで重み付けし、第二の受信総和回路134で重ね合わせる。
【0211】
この重ね合わせた結果と第一の高周波ミキサ105の出力とを第二の受信ミキサ141で掛け合わせ、掛け合わせた結果を受信合成回路131に入力する。
【0212】
この受信合成回路131の出力を、第一のアナログデジタル変換器(ADC)122でデジタル信号に変換し、中央演算ユニット(CPU)109に入力する。
【0213】
第一の高調波ミキサ105の出力で第一の送受信切替スイッチ165の二分岐された他方と、第二の高調波ミキサ106の出力で第二の送受信切替スイッチ166の二分岐された他方、それぞれは、第二のアナログデジタル変換器(ADC)123および第三のアナログデジタル変換器(ADC)124によりデジタル信号に変換され、中央演算ユニット(CPU)109で遅延量を独立して制御される第二の可変遅延回路125および第三の可変遅延回路126を介し比較回路127の二入力となる。
【0214】
この比較回路127は、各入力値の差分を閾値記憶回路128に格納されている判定閾値を基に±1を出力し、この比較出力を第二の送信乗算回路159に入力する。
【0215】
中央演算ユニット(CPU)109が、IDメモリ129に格納した無線機固有のIDを含む情報信号を生成して、第二の送信乗算回路159により、通信を行う無線機対に固有な伝搬路情報に基づく物理鍵で秘匿化されたこの情報信号を、デジタルデータ発生機158に供給する。
【0216】
このデジタルデータ発生機158は、ビット列を複数の送信乗算回路157-iに入力し、強自己相関弱相互相関ビット列151の各±ビット151-iにより重み付けされた後に二分岐される。
【0217】
一方の分岐については、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した第一の分岐を偏波回転周波数帯90°移相器168で遅延し、複数の第一の送信遅延器162-iを介して異なる位相で複数の送信乗算器163-iで掛け合わせ、複数の送信乗算器163-iの出力を送信総和回路164で重ね合わせ、この送信総和回路164の出力を第一の送受信切替スイッチ165の送信端子に入力する。
【0218】
この第一の送受信切替スイッチ165の共通端子の出力は、搬送波周波数発生回路101の出力により第一の高周波ミキサ105でアップコンバートして、第一のアンテナ103より空間に放射される。
【0219】
他方の分岐については、偏波回転周波数発生回路102の出力を二分岐した第二の分岐を複数の第二の送信遅延器152-iを介して、異なる位相で複数の第二の送信乗算器153-iで掛け合わせ、複数の送信乗算器153-iの出力を送信総和回路154で重ね合わせ、この送信総和回路154の出力を第二の送受信切替スイッチ166の送信端子に入力する。
【0220】
この第二の送受信切替スイッチ166の共通端子の出力は、搬送波周波数発生回路101の出力により第二の高周波ミキサ106でアップコンバートして、第一のアンテナ103と空間的に直交する第二のアンテナ104より空間に放射される。
【0221】
以上、第6の構成例によれば、情報信号が回転偏波通信を行う特定の無線機対に固有な伝搬路特性で情報信号を秘匿化して、複数の初期位相の異なる回転偏波に異なる情報信号を伝送可能となるので、高セキュア且つ大容量の無線通信システムを実現することができる。
【0222】
図28は、実施例4に係る無線通信システムに用いる無線機対(送受信機)として、第7の構成例を示す図である。
【0223】
図27に示す第6の構成例と異なる点は、強自己相関弱相互相関ビット列111および151の替わりに、可変強自己相関弱相互相関ビット列116および156を用いる点である。
【0224】
例えば、可変強自己相関弱相互相関ビット列116は、中央演算ユニット109により互いに異なる強自己相関弱相互相関ビット列を生成することができる。この可変強自己相関弱相互相関ビット列116の各値116-iは、中央演算ユニット(CPU)109により変更可能であるから、可変強自己相関弱相互相関ビット列116の総数M個のうち1個を選択して、残りのM-1個の可変強自己相関弱相互相関ビット列116には信号を送らない。その上で、受信乗算器113-iおよび133-iの入力電力をゼロとし、選択された可変強自己相関弱相互相関ビット列116の中の一つに対して、偏波回転周期をM分割したタイミングの内、L<MなるL個のタイミングを選択して、該L個のタイミングにのみ選択された可変強自己相関弱相互相関ビット列116の中の一つにのみ情報信号を送る。
【0225】
これにより、実施例3で示す偏波角ホッピングが実現する。実施例3に関する先の説明のように、送信機から放射される電磁波の偏波は、偏波回転の方向に対して一様に分布することが望ましい。例えば、M個の偏波角度に対してL個の偏波角度は等間隔に選択するかランダムに選択する。
【0226】
以上、第7の構成例によれば、中央演算ユニット(CPU)109による複数の可変強自己相関弱相互相関ビット列116および156の選択により、実施例3で示した、妨害波による干渉などに強くより安定な通信状態を確保することができる効果に加えて、親局が同じ偏波シフトを有する複数の子局と同時に送受信が可能となるので、図27に示す無線機対の第1の構成例と比べて、無線通信システムの通信容量の増加およびスループットの向上を図ることができる。
【0227】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0228】
10…親局、11…サービスエリア、20…子局、31,33…遮蔽物、32…反射板、
101…搬送波周波数発生回路、102…偏波回転周波数発生回路、
103,104…アンテナ、105,106…高周波ミキサ、109…CPU、
111,151…強自己相関弱相互相関ビット列、112,132…受信遅延器、
113,133…受信乗算器、114…受信総和回路、
115,125,126,135…可変遅延回路、
116,156…可変強自己相関弱相互相関ビット列、119…暗号発生回路、
121,141…受信ミキサ、122,123,124…アナログデジタル変換器、
127…比較回路、128…閾値記憶回路、129…IDメモリ、
131…受信合成回路、136,168…偏波回転周波数帯90°移相器、
152…送信遅延器、153,163…送信乗算器、154,164…送信総和回路、
157,159…送信乗算回路、158…デジタルデータ発生機、
165,166…送受信切替スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図16
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図28