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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040482
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】浮体式起伏ゲート
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/44 20060101AFI20230315BHJP
   E02B 7/40 20060101ALI20230315BHJP
   E02B 7/50 20060101ALI20230315BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
E02B7/44
E02B7/40
E02B7/50
E02B7/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147479
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】仲保 京一
(72)【発明者】
【氏名】森井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 聡太
(72)【発明者】
【氏名】西山 槙吾
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019CA01
(57)【要約】
【課題】起立時における扉体の揺動を抑制する。
【解決手段】浮体式起伏ゲート1は、浸入水により生じる浮力によって基端側を中心に回動し起立する扉体10と、倒伏状態の扉体10の下面側に配置され、扉体10の起立動作に伴い前記浮力によって回動して起立し、第2端面51bに、倒伏しようとする扉体10が当たることによって扉体10の倒伏動作を制止する制止部材51とを備えている。
【選択図】図17

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸入水により生じる浮力によって基端側を中心に回動し起立する扉体と、
倒伏状態の前記扉体の下面側に配置され、前記扉体の起立動作に伴い前記浮力によって回動して起立し、上端に、倒伏しようとする前記扉体が当たることによって前記扉体の倒伏動作を制止する制止部材とを備えている
ことを特徴とする浮体式起伏ゲート。
【請求項2】
請求項1に記載の浮体式起伏ゲートにおいて、
前記制止部材は、倒伏しようとする前記扉体の先端部が当たる位置に配置されている
ことを特徴とする浮体式起伏ゲート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の浮体式起伏ゲートにおいて、
前記制止部材は、木製である
ことを特徴とする浮体式起伏ゲート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、浮体式起伏ゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洪水や津波による浸水を防止するための起伏ゲートとして、例えば特許文献1に開示さているように、扉体が浸入水によって生じる浮力によって回動し起立する浮体式起伏ゲートが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5948206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような浮体式起伏ゲートでは、浸水時に発生する波浪によって扉体が揺動する場合がある。つまり、扉体が起立動作と倒伏動作とを交互に繰り返す場合がある。扉体が揺動すると、特に水位が低いとき(即ち、水平面に対する扉体の傾斜角が小さいとき)には、越波量が多くなってしまう。
【0005】
本開示の技術は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、起立時における扉体の揺動を抑制することができる浮体式起伏ゲートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の浮体式起伏ゲートは、扉体と、制止部材とを備えている。前記扉体は、浸入水により生じる浮力によって基端側を中心に回動し起立する。前記制止部材は、倒伏状態の前記扉体の下面側に配置され、前記扉体の起立動作に伴い回動して起立し、上端に、倒伏しようとする前記扉体が当たることによって前記扉体の倒伏動作を制止する。
【発明の効果】
【0007】
前述の浮体式起伏ゲートによれば、起立時における扉体の揺動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、浮体式起伏ゲートの倒伏時の概略構成を側面側から視て示す図である。
図2図2は、浮体式起伏ゲートの倒伏時の概略構成を示す平面図である。
図3図3は、浸水深と扉体の起立角度との関係を示すグラフである。
図4図4は、扉体に作用する転倒モーメントを起立角度に応じて示すグラフである。
図5図5は、浮体式起伏ゲートの起立途中時の一状態を示す図1相当図である。
図6図6は、浮体式起伏ゲートの起立途中時の一状態を示す図1相当図である。
図7図7は、浮体式起伏ゲートの起立途中時の一状態を示す図1相当図である。
図8図8は、浮体式起伏ゲートの起立完了時の状態を示す図1相当図である。
図9図9は、浮体式起伏ゲートの倒伏途中時の一状態を示す図1相当図である。
図10図10は、浮体式起伏ゲートの倒伏途中時の一状態を示す図1相当図である。
図11図11は、強制起立操作時の状態を示す図1相当図である。
図12図12は、強制起立操作時の状態を上流側から視て示す図である。
図13図13は、強制起立操作完了時の状態を上流側から視て示す図である。
図14図14は、強制起立操作完了時の状態を示す図1相当図である。
図15図15は、倒伏制止機構の概略構成を側面側から視て示す図である。
図16図16は、倒伏制止機構の概略構成を上流側から視て示す図である。
図17図17は、倒伏制止機構における制止部材が起立した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本実施形態の浮体式起伏ゲート1(以下、単に起伏ゲート1ともいう。)は、路面R(陸上)に設置され、洪水や津波、大雨によって水が生活空間や地下空間に浸入することを防止するものであり、浮体式のフラップゲートと呼ばれることもある。起伏ゲート1は、浸入しようとする水を利用して自動的に起立動作および倒伏動作を行う。
【0011】
図1および図2に示すように、起伏ゲート1は、扉体10と、格納部18と、戸当り20と、補助駆動部30と、強制起立機構40とを備えている。なお、図1および図2では、後述する倒伏制止機構50の図示を省略している。後述する図3図8についても同様である。
【0012】
扉体10は、浸入水によって生じる浮力によって回動し起立する。具体的に、扉体10は、本体10aおよびスキンプレート10bを有している。本体10aは、やや扁平な略矩形体に形成されている。スキンプレート10bは、倒伏状態(即ち、図1に示す状態)の扉体10において本体10aの上面に設けられる板状部材である。
【0013】
扉体10は、基端側を中心に回動して起立する。具体的に、扉体10は、基端側に回動軸11を有しており、回動軸11を中心として回動自在に設けられている。扉体10は、図1において右回りに回動することで起立動作を行い、図1において左回りに回動することで倒伏動作を行う。扉体10は、通常時は倒伏状態になっており、非常時(即ち、水が浸入してきたとき)には浸入水により生じる浮力によって倒伏状態から回動し起立するように構成されている。つまり、扉体10は浸入水を利用して起立動作を開始する。
【0014】
なお、図1において水は左側から浸入するものとする。また、以降で記載する「上流側」および「下流側」は、水の浸入方向における上流側(図1において左側)および下流側(図1において右側)として設定し、「左右方向」は、水の浸入方向の下流側を向いて右側を「右」および左側を「左」として設定する。また、扉体10の「幅方向」は、扉体10の左右方向として設定する。
【0015】
扉体10は、倒伏状態において、上流側の端部が先端部12となっている。戸当り20は、扉体10の両側方(即ち、左側方および右側方)に設けられている。扉体10は、戸当り20と対向する部分である側面部に、水密ゴム(図示省略)が取り付けられている。起伏ゲート1では、扉体10の水密ゴムが戸当り20と接することにより水密される。
【0016】
格納部18は、倒伏時に扉体10が格納される。格納部18は、路面Rに形成された凹部であり、平面視で扉体10よりも大きい矩形に形成されている。扉体10が格納部18に格納された状態、即ち扉体10が倒伏した状態では、扉体10の上面部と路面Rとが略面一となる。つまり、倒伏状態の扉体10(より詳しくは、スキンプレート10b)は路面Rの一部を構成する。倒伏状態の扉体10において、スキンプレート10bは本体10aに対して上流側へ突出している。
【0017】
補助駆動部30は、浸入水によって生じる浮力による扉体10の起立動作を補助する。より詳しくは、補助駆動部30は、扉体10の起立動作を補助する機能と、扉体10の水位バランス角度(即ち、水圧によるモーメントと扉体10の自重によるモーメントとが等しくなる扉体10の傾斜角)と浸水深の相関が変化することで起立完了時の衝撃緩和および水位低下時の扉体10の急な倒伏を抑制する機能とを有している。扉体10の傾斜角は、水平面に対する扉体10の傾斜角であり、扉体10の起立角度である。
【0018】
具体的に、補助駆動部30は、カウンタウエイト31と、ワイヤロープ32と、一対の定滑車33,34とを有している。補助駆動部30は、扉体10の上流側であって扉体10の幅方向両端部に対応する位置に一組ずつ配置されている(図2参照)。
【0019】
ワイヤロープ32は、扉体10の先端部12に2本取り付けられている。より詳しくは、2本のワイヤロープ32の一端は、先端部12のうち扉体10の幅方向両端部に取り付けられている。具体的に、先端部12のうち扉体10の幅方向両端部には連結部13が設けられており、その連結部13にワイヤロープ32の一端が連結されている。カウンタウエイト31は、2本のワイヤロープ32のそれぞれの他端に連結されている。
【0020】
一対の定滑車33,34は、下方の定滑車33および上方の定滑車34である。一対の定滑車33,34は、水平面に対する扉体10の傾斜角が所定角度(例えば、45度)になるとカウンタウエイト31が最下点に達するように、ワイヤロープ32が巻き掛けられている。ワイヤロープ32は、一端側(即ち、扉体10側)から、定滑車33および定滑車34の順に巻き掛けられている。
【0021】
このように構成された補助駆動部30によれば、図3に実線のグラフで示すように、扉体10の起立動作時では、扉体10の傾斜角が所定角度θaになるまでは、扉体10はカウンタウエイト31によって起立方向に引っ張られて起立動作が補助されるため、補助駆動部が設けられていない場合(図3に破線で示すグラフ)と比べて、浸水深が低い段階から扉体10が起立を開始する。そして、扉体10の傾斜角が所定角度θaを超えると、カウンタウエイト31が扉体10の起立動作の抵抗となるので、補助駆動部が設けられていない場合と比べて、扉体10の急激な起立が抑制される。
【0022】
一方、扉体10の倒伏動作時では、扉体10の傾斜角が所定角度θaになるまでは、扉体10はカウンタウエイト31によって倒伏方向に引っ張られて倒伏動作が促進されるため、補助駆動部が設けられていない場合と比べて、扉体10は水位低下の初期段階から倒伏動作を開始し、扉体10の急激な倒伏が抑制される。そして、扉体10の傾斜角が所定角度θa未満になると、カウンタウエイト31が扉体10の倒伏動作の抵抗となるので、補助駆動部が設けられていない場合と比べて、扉体10は遅れて着床する。
【0023】
つまり、補助駆動部30によれば、図4に示すように、扉体10に作用する転倒モーメント(実線で示すグラフ)は、扉体10の自重による転倒モーメント(破線で示すグラフ)とカウンタウエイト31の自重による転倒モーメント(一点鎖線で示すグラフ)とを足し合わせたモーメントであり、扉体10の傾斜角(起立角度)が大きくなるに従って増加する。ここに、転倒モーメントは、扉体10を倒伏方向に回動させるモーメントである。
【0024】
強制起立機構40は、浸入水により生じる浮力によってではなく、強制的に扉体10を起立させる機構である。例えば、点検する場合や、浸水の前に予め扉体10を起立させておきたい場合等に、強制的に扉体10を起立させる。本実施形態の強制起立機構40は、手動で扉体10を強制起立させる。
【0025】
より具体的に、強制起立機構40は、2本のワイヤロープ41と、2つの定滑車42と、2つの滑車ブロック43と、1つのチェーンブロック44とを有している。
【0026】
2本のワイヤロープ41のそれぞれは、一端である第1端部41aが扉体10の幅方向両端部に連結される。より詳しくは、2本のワイヤロープ32のそれぞれの第1端部41aは、扉体10を強制起立させる際、倒伏状態の扉体10の幅方向両端部の上面部に連結される。より具体的に、倒伏状態の扉体10の上面部には連結部14が設けられており、その連結部14にワイヤロープ32の第1端部41aが連結される。2つの定滑車42は、2本のワイヤロープ41のそれぞれが巻き掛けられる。強制起立機構40は、2本のワイヤロープ41の他端である第2端部41bを引っ張ることによって扉体10を強制起立させる。ワイヤロープ41は、第1索状部材の一例である。
【0027】
2つの滑車ブロック43は、定滑車42から延びるワイヤロープ41の第2端部41bが扉体10の幅方向中央に向かうように2本のワイヤロープ41のそれぞれを転向させる。滑車ブロック43は、ワイヤロープ41が巻き掛けられる滑車部43aと、他の部材に取り付けるための取付部43bとを有している。滑車部43aと取付部43bとは、互いに回転自在に連結されている。滑車ブロック43は、転向滑車の一例である。
【0028】
チェーンブロック44は、本体44aと、2つのフック(即ち、第1フック44bおよび第2フック44c)と、ロードチェーン44dと、ハンドチェーン44eとを有している。本体44aには、ギヤやメカニカルブレーキ等が収納されている。第1フック44bは、本体44aに固定されている。第2フック44cは、ロードチェーン44dを介して本体44aと連結されている。つまり、ロードチェーン44dは、本体44aから延びて第2フック44cに連結されている。ハンドチェーン44eは、本体44aから2本延びている。
【0029】
チェーンブロック44では、扉体10を強制起立させる際、2本のワイヤロープ41のそれぞれの第2端部41bが第1フック44bおよび第2フック44cに連結される。ハンドチェーン44eは、作業者によって引っ張られることにより、第1フック44bおよび第2フック44cを互いに接近させる。より具体的に、チェーンブロック44では、2本のハンドチェーン44eの一方を引っ張ることにより、ロードチェーン44dが本体44a内に巻き取られ、第1フック44bと第2フック44cとの距離(以下、フック間距離ともいう。)が短くなる。これにより、2本のワイヤロープ41の第2端部41bが扉体10の幅方向中央へ引っ張られ、扉体10が強制起立させられる。また、扉体10を倒伏させる際は、他方のハンドチェーン44eを引っ張ることにより、ロードチェーン44dが本体44a内から繰り出され、フック間距離が長くなる。
【0030】
強制起立機構40は、扉体10の下流側に配置されている。具体的に、2つの定滑車42および2つの滑車ブロック43は、扉体10の両側方に設けられた構造物である戸当り20にそれぞれ取り付けられている。より詳しくは、定滑車42は、戸当り20における扉体10側の面に固定されている。滑車ブロック43は、取付部43bが、戸当り20における扉体10側の面に着脱自在に取り付けられている。滑車ブロック43は、定滑車42よりも下方に設けられている。
【0031】
扉体10を強制起立させないときは、2本のワイヤロープ41のそれぞれは、定滑車42および滑車ブロック43の滑車部43aに巻き掛けられた状態で、ワイヤロープ41の両端が戸当り20に着脱自在に取り付けられている。より詳しくは、ワイヤロープ41の第1端部41aおよび第2端部41bのそれぞれは、戸当り20における扉体10側の面に設けられたピン45に着脱自在に取り付けられている。チェーンブロック44は、一方の戸当り20に着脱自在に取り付けられている。より詳しくは、チェーンブロック44は、第1フック44bが、戸当り20における扉体10側の面に設けられたピン46に着脱自在に取り付けられている。
【0032】
次に、浸水時の扉体10の起立動作について図5図8も参照しながら説明する。図5図8では、強制起立機構40の図示を省略している。
【0033】
倒伏状態の扉体10は、水が浸入してくると、その浸入水により生じる浮力によって起立動作を開始する。その際、図5に示すように、扉体10にはカウンタウエイト31による引き上げ力が作用しているため、扉体10は引き上げ力によって起立方向に引っ張られ起立動作が補助される。カウンタウエイト31は、扉体10が起立していくに伴って下降する。扉体10が起立していくと、扉体10の上流側には水が溜まっていき水位が上昇する。そのため、扉体10は水圧によって起立方向に押され、起立動作が補助される。扉体10の傾斜角θが大きくなるに従って、カウンタウエイト31による引き上げ力は減少し、これに伴って扉体10に作用する転倒モーメントは増加する。
【0034】
そして、図6に示すように、扉体10の傾斜角θが所定角度θa(例えば、45度)になると、定滑車33から扉体10へ延びるワイヤロープ32と扉体10とが一直線になり、カウンタウエイト31は最下点に達する。そして、図7に示すように、扉体10の傾斜角θが所定角度θaを超えると、カウンタウエイト31は扉体10が起立していくに伴って上昇する。そして、図8に示すように、扉体10の傾斜角θが起立完了角度(例えば、75度)に達すると、扉体10は完全に起立した状態となり起立動作が完了する。こうして、カウンタウエイト31が上昇している際には、カウンタウエイト31が扉体10の起立動作の抵抗となるため、扉体10に作用する転倒モーメントは増加する。そのため、扉体10の起立動作完了時に生じる衝撃を緩和することができる。
【0035】
続いて、水位低下時の扉体10の倒伏動作について図9および図10も参照しながら説明する。図9および図10では、強制起立機構40の図示を省略している。
【0036】
図9に示すように、起立状態の扉体10は、水位が低下していくと、倒伏動作を開始する。その際、扉体10はカウンタウエイト31によって倒伏方向に引っ張られ、倒伏動作が促進される。こうして、扉体10は低下する水位に追従して倒伏する。カウンタウエイト31は、扉体10が倒伏していくに伴って下降する。扉体10の傾斜角θが小さくなるに従って、カウンタウエイト31による引っ張り力は減少し、これに伴って扉体10に作用する転倒モーメントは減少する。
【0037】
そして、図10に示すように、扉体10の傾斜角θが所定角度θa(45度)よりも小さくなると、カウンタウエイト31は扉体10が倒伏していくに伴って上昇する。そして、図1に示すように、扉体10の傾斜角θが0度に達すると、扉体10は完全に倒伏した状態となり倒伏動作が完了する。つまり、扉体10は格納部18に格納された状態となる。このとき、カウンタウエイト31は最上点に達する。こうして、カウンタウエイト31が上昇している際には、カウンタウエイト31が扉体10の倒伏動作の抵抗となるため、扉体10に作用する転倒モーメントは減少する。そのため、扉体10の急激な倒伏を抑制することができ、倒伏動作完了時に生じる衝撃を緩和することができる。
【0038】
次に、扉体10の強制起立操作について図11図14も参照しながら説明する。
【0039】
まず、図11に示すように、作業者が、2本のワイヤロープ41のそれぞれの第1端部41aおよび第2端部41bをピン45から外す。そして、作業者は、ワイヤロープ41の第1端部41aを扉体10の連結部14に連結する一方、ワイヤロープ41の第2端部41bを滑車ブロック43から扉体10の幅方向中央に向ける。
【0040】
続いて、作業者は、チェーンブロック44をピン46から外す。そして、図12に示すように、作業者は、2本のワイヤロープ41のそれぞれの第2端部41bを、チェーンブロック44の第1フック44bおよび第2フック44cに連結する。このとき、2本のワイヤロープ41の第2端部41b同士の距離が長いので、それに応じてチェーンブロック44におけるフック間距離も長くなっている。また、チェーンブロック44の本体45aは、扉体10の幅方向中央よりも、第1フック44bと連結されるワイヤロープ41側に寄った状態となっている。
【0041】
続いて、作業者は、チェーンブロック44のハンドチェーン44eを引っ張って第1フック44bおよび第2フック44cを互いに接近させる。つまり、フック間距離が短縮される。そのため、2本のワイヤロープ41に同等の張力が作用し、2本のワイヤロープ41のそれぞれが扉体10の幅方向中央へ引っ張られる。これにより、扉体10には、2本のワイヤロープ41から同等の引き上げ力が作用する。つまり、扉体10は、2本のワイヤロープ41によって起立方向に引っ張られ起立していく。チェーンブロック44の本体45aは、フック間距離の短縮に伴って、扉体10の幅方向中央へ移動する。
【0042】
そして、図13に示すように、チェーンブロック44の本体44aが扉体10の幅方向中央に移動するまでハンドチェーン44eが引っ張られると、図14に示すように、扉体10が起立完了角度まで起立し強制起立操作が完了する。
【0043】
〈倒伏制止機構の構成および動作〉
図15および図16に示すように、起伏ゲート1は、倒伏制止機構50をさらに備えている。倒伏制止機構50は、扉体10の起立動作時において、一旦起立方向に回動した扉体10が倒伏方向に回動することを制止する。なお、図15および図16では、連結部13,14の図示を省略している。
【0044】
倒伏制止機構50は、制止部材51と、回動軸52とを有している。本実施形態では、倒伏制止機構50は、扉体10の幅方向両端部に1組ずつ設けられている。倒伏制止機構50は、倒伏状態の扉体10の下面側に設けられている。
【0045】
制止部材51は、倒伏状態の扉体10の下面側に配置され、扉体10の起立動作に伴い回動して起立し、上端である第2端面51bに、倒伏しようとする扉体10が当たることによって扉体10の倒伏動作を制止する。
【0046】
具体的に、制止部材51は、扉体10の起立動作に伴い、浸入水により生じる浮力によって回動し起立する。制止部材51は、柱状、より詳しくは四角柱状に形成されている。制止部材51は、倒伏状態の扉体10の下面側である格納部18の底面18aに配置されている。図15に示すように、制止部材51は、格納部18において、倒伏した状態で配置されている。つまり、制止部材51は、上下流方向(即ち、水の浸入方向)に延びる状態で配置されている。本実施形態では、制止部材51は木製である。
【0047】
回動軸52は、制止部材51の上流側の端部に設けられている。より詳しくは、回動軸52は、扉体10の幅方向に延びている。回動軸52は、制止部材51において、上下流方向における第1端面51aと側面51cとの接続部に設けられている。第1端面51aは、制止部材51における上流側の端面である。なお、制止部材51における下流側の端面は、第2端面51bとなっている。
【0048】
制止部材51は、回動軸52を中心として回動自在に設けられている。制止部材51は、図15において左回りに(即ち、上流側へ向かって)回動することで起立動作を行い、図15において右回りに(即ち、下流側へ向かって)回動することで倒伏動作を行う。制止部材51は、通常時は倒伏状態になっており(図15参照)、非常時(即ち、水が浸入してきたとき)には浸入水により生じる浮力によって倒伏状態から回動して起立する(図17参照)。つまり、制止部材51は、扉体10と同様、浸入水を利用して起立動作を開始する。制止部材51は、扉体10の下面側に配置されているので、制止部材51の起立動作は、起立していく扉体10の下方領域内に制限される。そのため、制止部材51は、実質、扉体10の起立動作に伴って起立することになる。
【0049】
図17に示すように、制止部材51は、起立した状態では、第1端面51aが下端となり、第2端面51bが上端となる。つまり、起立した制止部材51では、第1端面51aが格納部18の底面18aと面接触している。倒伏しようとする扉体10は、起立した制止部材51の第2端面51bに当たる(即ち、接触する)ことによって扉体10の倒伏動作が制止される。
【0050】
より詳しくは、所定角度θb以上の傾斜角θまで起立した扉体10は、起立した制止部材51の第2端面51bに当たることによって、所定角度θb未満の傾斜角θまで倒伏することが制止される(図17参照)。つまり、扉体10の起立動作時において、傾斜角θが所定角度θb以上から所定角度θb未満となる扉体10の倒伏動作が制止される。そのため、所定角度θb以上であって所定角度θb近傍の傾斜角θまで起立した扉体10の揺動が抑制される。所定角度θbは、小さい値、例えば5度~10度に設定される。
【0051】
また、本実施形態では、起立した制止部材51の第2端面51bには、倒伏しようとする扉体10のうちスキンプレート10bの下面10cが当たる。より詳しくは、制止部材51は、倒伏しようとする扉体10の先端部12が当たる位置に配置されている。つまり、スキンプレート10bにおける先端部12の下面10cが制止部材51の第2端面51bに当たる。これにより、例えば制止部材51が扉体10における基端側に近い部分と当たる場合に比べて、制止部材51が扉体10と当たった際に扉体10から受ける荷重は低減される。
【0052】
次に、浸入水によって起立した扉体10の復帰操作について説明する。扉体10の復帰操作は、扉体10を通常時の倒伏状態に復帰させる操作である。前述したように、起立した扉体10は、水位が低下していくと、倒伏動作を開始する。倒伏していく扉体10は、やがて、起立状態の制止部材51の第2端面40bに当たることで、倒伏動作が制止される(図17に示す状態)。ここで、扉体10の復帰操作が行われる。
【0053】
この復帰操作では、まず、前述したような扉体10の強制起立操作が行われる。つまり、作業者は、2本のワイヤロープ41の第1端部41aを扉体10の連結部14に連結すると共に、2本のワイヤロープ41の第2端部41bをチェーンブロック44の第1フック44bおよび第2フック44cに連結する。そして、作業者は、チェーンブロック44を手動操作して、扉体10を所定の傾斜角θまで強制起立させる。
【0054】
続いて、格納部18(即ち、倒伏する扉体10の下側領域)の状態確認が作業者によって行われる。具体的に、作業者は、格納部18内に浸水によって流れ込んできた土砂や漂流物が存在しないかを確認する。作業者は、扉体10の倒伏動作に影響を及ぼすような土砂や漂流物が存在する場合は、その土砂等の撤去作業を行う。そのため、先に行われた扉体10の強制起立操作では、扉体10を、土砂等の撤去作業を行うことが可能な傾斜角θまで起立させる。
【0055】
続いて、制止部材51の倒伏操作が行われる。具体的に、作業者は、手で制止部材51を下流側へ倒す。続いて、扉体10の倒伏操作が行われる。具体的に、作業者は、チェーンブロック44を手動操作することによって、扉体10を通常時の倒伏状態(図1に示す状態)まで倒伏させる。つまり、作業者は、2本のハンドチェーン44eのうち、扉体10を強制起立させるときとは異なる方のハンドチェーン44eを引っ張ることにより、扉体10を倒伏させる。以上より、扉体10の復帰操作が完了する。
【0056】
以上のように、前記実施形態の浮体式起伏ゲート1は、扉体10と、制止部材51とを備えている。扉体10は、浸入水により生じる浮力によって基端側を中心に回動し起立する。制止部材51は、倒伏状態の扉体10の下面側に配置され、扉体10の起立動作に伴い前記浮力によって回動して起立し、第2端面51b(上端)に、倒伏しようとする扉体10が当たることによって扉体10の倒伏動作を制止する。
【0057】
前記の構成によれば、扉体10の起立動作時において、扉体10の倒伏動作が制止される。そのため、扉体10の起立時における扉体10の揺動を抑制することができる。具体的には、扉体10の起立動作時において、傾斜角θが所定角度θb以上から所定角度θb未満となる扉体10の倒伏動作が制止される。そのため、所定角度θb以上であって所定角度θb近傍の傾斜角θまで起立した扉体10の揺動を抑制することができる。その結果、扉体10の起立動作時における越波量を抑制することができる。
【0058】
しかも、制止部材51は、扉体10の起立動作に伴い浮力(即ち、浸入水によって生じる浮力)によって回動し起立するものである。そのため、制止部材51を簡易に且つ自動で起立させることができ、扉体10の起立時における扉体10の揺動を簡易に且つ自動で抑制することができる。
【0059】
また、越波量は水位が低いとき(即ち、扉体10の傾斜角θが小さいとき)に多くなる傾向にある。前記実施形態では、所定角度θbを小さい値(例えば、5度~10度)に設定しているため、水位が低いときの扉体10の揺動を抑制することができる。そのため、越波量を効果的に抑制することができる。
【0060】
また、前記実施形態の浮体式起伏ゲート1において、制止部材51は、倒伏しようとする扉体10の先端部12が当たる位置に配置されている。
【0061】
前記の構成によれば、起立した制止部材51の第2端面51b(上端)には、扉体10の先端部12が当たる。そのため、例えば制止部材51が扉体10における基端側に近い部分と当たる場合に比べて、制止部材51が扉体10と当たった際に扉体10から受ける荷重を低減することができる。そのため、制止部材51に必要な強度を軽減することができる。
【0062】
また、前記実施形態の浮体式起伏ゲート1において、制止部材51は、木製である。
【0063】
前記の構成によれば、制止部材51の比重が比較的小さくなるため、容易に制止部材51を浮力で起立させることができる。また、制止部材51は木製であるため、例えば鋼製である場合に比べて、安価に制止部材51を作製することができる。
【0064】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0065】
例えば、制止部材51は、図15において左回りに(即ち、上流側へ向かって)回動することで起立したが、これに代えて、図15において右回りに(即ち、下流側へ向かって)回動することで起立するようにしてもよい。また、制止部材51は、扉体10の幅方向における一方へ向かって回動することで起立するようにしてもよい。この場合、制止部材51は、扉体10の幅方向に延びる状態で配置される。このように、制止部材51が浸入水により生じる浮力によって回動して起立することが可能であれば、制止部材51の回動方向は問わない。
【0066】
また、制止部材51は、前述した形状に限定されず、例えば、四角形以外の多角形の柱状に形成されてもよいし、円柱状または楕円柱状に形成されてもよい。
【0067】
また、倒伏制止機構50では、制止部材を浮力以外の方法で起立させるようにしてもよい。例えば、倒伏制止機構50は、制止部材51を起立方向に付勢する付勢部材を有するようにしてもよい。制止部材51は、付勢部材の付勢力によって起立方向に回動して起立する。制止部材51は、扉体10によって付勢部材の付勢力に抗して倒伏方向に回動させられた状態で配置される。つまり、制止部材51は、起立動作が扉体10によって制止される。そして、制止部材51は、扉体10の起立動作に伴い、付勢部材の付勢力によって回動し起立する。
【0068】
また、倒伏制止機構50の数量は、前述したものに限られない。
【0069】
また、制止部材51は、樹脂製(例えば、硬質ポリウレタン樹脂)であってもよいし、鋼製であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本開示の技術は、浮体式起伏ゲートについて有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 浮体式起伏ゲート
10 扉体
12 先端部
51 制止部材
51b 第2端面(上端)

図1
図2
図3
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図5
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