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  • 特開-木材の着色方法 図1
  • 特開-木材の着色方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004053
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】木材の着色方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/02 20060101AFI20230110BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20230110BHJP
   B27K 3/22 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B27K5/02 A
B27K3/02 B
B27K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105519
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】390015358
【氏名又は名称】大日本木材防腐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 裕一
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA01
2B230AA12
2B230BA01
2B230BA17
2B230CA06
2B230CA11
2B230CA19
2B230CB06
2B230CB10
2B230CB18
2B230EA14
2B230EB02
2B230EB38
(57)【要約】
【課題】銅系保存剤が含浸された木材を確実に茶褐色に着色できる、木材の着色方法を提供する。
【解決手段】銅系保存剤を木材へ含浸させる保存剤含浸工程と、糖類を木材へ含浸させる糖類含浸工程と、糖類含浸工程の後に木材を加熱する加熱工程と、を有する。保存剤含浸工程と糖類含浸工程とは、同時に行うことが好ましい。加熱工程は、乾燥工程も兼ねていることが好ましい。さらに、糖類含浸工程の際に、木材に含浸させる含浸液へリン酸塩を添加すると、着色効果がより向上する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する銅系保存剤が含浸された木材を茶褐色に着色する木材の着色方法であって、
前記銅系保存剤を木材へ含浸させる保存剤含浸工程と、
糖類を木材へ含浸させる糖類含浸工程と、
前記糖類含浸工程の後に、木材を加熱する加熱工程と、
を有する、木材の着色方法。
【請求項2】
前記保存剤含浸工程と前記糖類含浸工程とを同時に行う、請求項1に記載の木材の着色方法。
【請求項3】
前記加熱工程が乾燥工程を兼ねている、請求項1または請求項2に記載の木材の着色方法。
【請求項4】
前記糖類含浸工程の際に含浸液にリン酸塩を添加する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の木材の着色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅系の保存剤が含浸された木材を茶褐色に着色する、木材の着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は古くから建物や家具など種々の製品に使用されているが、木材をそのまま(未処理)のまま使用すると、白色腐朽菌や褐色腐朽菌等の木材腐朽菌による腐朽や、シロアリによる侵食等によって耐用年数が極端に短くなるおそれがある。そこで、従来から木材中に保存剤(防腐・防蟻剤)を含浸させた木材が利用されることも多い。木材用の保存剤としては、銅・アゾール化合物系(CUAZ)や銅・第四級アンモニウム化合物系(ACQ)など、いわゆる銅系保存剤が広く普及している。
【0003】
しかし、銅系保存剤を木材に含浸させると、その有効成分である銅の影響により木材が淡緑色ないし青緑色がかった色に変色してしまうことがある。これでは、木材本来の色合いが失われるため、その利用が敬遠されることがあった。
【0004】
そこで、このような問題を解決するため、特許文献1では銅系保存剤が含浸された木材に対して、お茶由来のタンニン酸を含有する着色溶液を塗布したり着色溶液に木材を浸漬することで銅による変色を抑えて、一度青緑色に変色した木材を事後処理により木材本来の色に近い色に戻せる(着色できる)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-153494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では一度青緑色に変色した木材を、事後処理により変色を抑える(元の色に戻す)とされており(特許文献1ではこれを着色と表現している)、その着色効果には限界がある。そもそも、タンニン酸による着色度合いについては具体的な開示が無い。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、銅系保存剤が含浸された木材を確実に茶褐色に着色できる、木材の着色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)銅を含有する銅系保存剤が含浸された木材を茶褐色に着色する木材の着色方法であって、
前記銅系保存剤を木材へ含浸させる保存剤含浸工程と、
糖類を木材へ含浸させる糖類含浸工程と、
前記糖類含浸工程の後に、木材を加熱する加熱工程と、
を有する、木材の着色方法。
(2)前記保存剤含浸工程と前記糖類含浸工程とを同時に行う、(1)に記載の木材の着色方法。
(3)前記加熱工程が乾燥工程を兼ねている、(1)または(2)に記載の木材の着色方法。
(4)前記糖類含浸工程の際に含浸液にリン酸塩を添加する、(1)ないし(3)のいずれかに記載の木材の着色方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖類を木材に含浸させた後、加熱処理することで、当該糖類の存在によって木材が積極的に茶褐色化する。すなわち、特許文献1のように銅による変色を抑えるのではなく、積極的に茶褐色化させるため、確実に木材を着色することができる。
【0010】
保存剤含浸工程と糖類含浸工程とを同時に行えば効率が良く生産性が高い。また、保存剤に添加されているアミン類によってpHが高まることで糖類の反応が促進され、着色性(着色度合い)が向上する。さらに、糖類と銅とが複合体を形成するため、着色定着性も向上する。加熱工程を乾燥工程として兼用すれば、より生産効率が向上する。
【0011】
糖類含浸工程の際に含浸液にリン酸塩を添加していれば、着色度合いが向上する。したがって、リン酸塩を添加していない場合と同程度の色を発色させたい場合に、リン酸塩を添加していない場合と比べて糖類含浸量を低減したり、加熱工程において加熱温度を下げたり、加熱時間を短縮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2と比較例1の対比写真である。
図2】実施例9と比較例2の対比写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の着色対象となる木材の種類としては、建材用や家具用など、種々の製品・分野で使用されている従来から公知の木材であれば特に制限はなく、針葉樹でも広葉樹でも構わない。特に、建材用として使用される木材に対して、本発明の効果が高い。例えば、ヒノキ、コウヤマキ、サワラ、ヒバ、クリ、ケヤキ、ベイスギ、スギ、カラマツ、ミズナラ、ベイマツ、アカマツ、クロマツ、ツガ、ブナ、ベイツガ、スプルース等を挙げることができる。木材の態様としても特に制限はなく、無垢材、集成材、LVL(単板積層材)、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、配向性ストランドボード(OSB)等に適用可能である。中でも、無垢材が好ましい。
【0014】
(保存剤含浸工程)
木材には、腐朽菌による腐朽やシロアリによる侵食を防ぐために防腐・防蟻効果のある保存剤を従来から公知の方法により含浸させる。但し、本発明において使用する保存剤としては、銅を含有する銅系の保存剤を使用する。銅によって木材が淡緑色ないし青緑色に変色することを是正するからである。
【0015】
銅系保存剤の具体例としては、銅・アゾール化合物系(CUAZ)、銅・アルキルアンモニウム化合物系(ACQ)、及びクロム・銅・砒素化合物系(CCA)の水溶性保存剤のほか、油溶性のナフテン酸銅(NCU)を挙げることができる。中でも、水溶性の保存剤が好ましい。水溶性の保存剤には、銅を水溶化させるために、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、又はポリエチレンアミン等のアミン類が添加されており、このアミン類によってpHが高まることで糖類の反応が促進され、着色効果が向上するからである。これら保存剤は、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用してもよい。
【0016】
含浸方法としては、加圧含浸法、減圧含浸法、減圧・加圧含浸法を挙げることができる。保存剤の含浸量は、薬効成分や要求性能等に応じて、一般的に木材の単位体積当たり10~30,000g/mの範囲で調整される。
【0017】
(糖類含浸工程)
糖類含浸工程では、木材を茶褐色化して着色するために糖類を含浸させる工程である。糖類含浸工程は、保存剤含浸工程の前又は後に連続して行うこともできるし、保存剤含浸工程と同時に行うこともできる。中でも、糖類含浸工程を保存剤含浸工程と同時に行うことが好ましい。糖類含浸工程と保存剤含浸工程を同時に行えば、従来の処理工程に加えて糖類含浸工程を別途行う必要が無く処理効率(生産効率)が良い。また、保存剤に添加されているアミン類によってpHが高まることで糖類の反応が促進されると共に、銅と複合体を形成し易いので、着色(発色)効果及び色定着効果が高くなる。糖類含浸工程を保存剤含浸工程と同時に行う場合は、保存剤を含む含浸液(浸透液)に糖類を添加すればよい。
【0018】
含浸させる糖類としては、キシロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、マンノース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、リボース、リキソースなどの単糖類、単糖類のウロン酸(グルクロン酸、ガラクツロン酸など)、単糖類のアミノ糖およびそのN-アセチル化物(グルコサミン、N-アセチルグルコサミンなど)、マルトース、セロビオース、ラクトースなどの二糖類、マルトトリオースなどのオリゴ糖、キシラン、澱粉、セルロース、キチン、キトサンなどの多糖類の分解物が挙げられる。好ましくは、キシロース、アラビノース、グルコース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、マルトトリオース等の単糖類である。これら糖類は、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用してもよい。
【0019】
糖類の含浸量は、着色の程度や樹種等に応じて、木材の単位体積当たり10~40,000g/mとすればよい。また、含浸させる際は、糖類濃度が0.1~10重量%程度の水溶液(含浸液)とすればよい。糖類の含浸方法は、保存剤の含浸方法と同じ方法でよい。
【0020】
また、糖類含浸工程では、含浸液にリン酸塩を添加することも好ましい。リン酸塩を添加することで、着色度合い(茶褐色の濃さ)が向上する。リン酸塩としては、リン酸2アンモニウム、リン酸3アンモニウム、リン酸2ナトリウム、及びリン酸3ナトリウム等を挙げることができる。これらリン酸塩は、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用してもよい。リン酸塩の添加量は、含浸液中の濃度を0.01~5重量%とすればよい。
【0021】
なお、保存剤含浸工程や糖類含浸工程を行う際、保存剤や糖類等の浸透性を向上させるため、必要に応じて小孔からなる複数の浸透孔を予め木材に穿設しておくことも好ましい。また、保存剤含浸工程又は糖類含浸工程を行う際、含浸液には、本発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、防カビ剤、寸法安定剤、耐候性剤など他の添加剤を添加することもできる。
【0022】
(加熱工程)
木材へ糖類等を含浸させた後は、発色させるために木材を加熱する。加熱方法は、ヒータ加熱、熱風加熱、(過熱)蒸気加熱等が挙げられる。加熱温度は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。加熱温度が低すぎると、糖類の反応が鈍って木材を効果的に着色できないからである。加熱時間は、8時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、16時間以上がさらに好ましい。加熱時間が短すぎても、木材を効果的に着色できない。
【0023】
(乾燥工程)
糖類等を含浸させた木材は、最終的に乾燥させることで、処理木材として完成する。乾燥方法は、従来から公知の一般的な方法でよい。具体的には、乾燥室内での自然乾燥、温風乾燥、熱風乾燥、ヒータ乾燥等が挙げられる。乾燥工程は、加熱工程の後に別途行ってもよいし、加熱工程を乾燥工程として兼用すれば生産効率が向上する。
【実施例0024】
表1に示す保存剤や糖類等を、表1に示す濃度で含有する含浸液(水溶液)を調整し、JIS K 1570で規定されている加圧含浸法により含浸液を木材へ含浸させた。具体的には、縦4cm、横4cm、厚み1cmのスギ板(無垢材)を、十分量の含浸液で満たされた含浸容器の底部へ設置し、加圧圧力1.0MPaで8時間保持した。含浸液を各木材へ含浸させた後、含浸容器から木材を取り出し、乾燥室内にて120℃で16時間かけて十分に加熱・乾燥し、実施例及び比較例の木材を得た。なお、比較例3だけは含浸後の加熱を行わず、60℃の温風で16時間乾燥させたのみである。
【0025】
保存剤としては、ロンザジャパン(株)製のCUAZ(商品名「タナリスCY」)や、(株)コシイプレザービング製のACQ(商品名「マイトレックACQ」を使用した。リン酸塩としては、リン酸2アンモニウムを使用した。
【0026】
得られた各実施例及び比較例の木材の色差を、日本電色工業(株)製の分光色差計「NF555」を用いて測定し、L*、a*、b*の各値を求めた。その結果も表1に示す。なお、色差の測定は各木材表面の10個所を測定し、表1にはその平均値を記載している。L*値は明度の指標であり、(-)側に高いほど暗く(+)側に高いほど明るいことを示す。a*値は(-)側に高いほど緑色であり、(+)側に高いほどマゼンタ色であることを示す。b*値は(-)側に高いほど青色であり、(+)側に高いほど黄色であることを示す。したがって、木材が茶褐色に着色されているためには、L*値ができるだけ低く、a*値及びb*値ができるだけ高いことが好ましい(a*値+b*値で茶色の指標となる)。また、各実施例及び比較例の代表例として、実施例2と比較例1、及び実施例9と比較例2の木材の比較写真を図1及び図2に示す。
【0027】
表1に示す各成分の含有量は、重量%である。
【表1】
【0028】
表1及び図1,2の結果から、比較例1及び比較例2では、糖類を含浸させていないので、各実施例と同じ条件で処理しても、L*値が高くてa*値が低く、有効に着色できていないことが確認された。また、比較例3は、糖類を含浸させてはいるが、加熱工程を行っていないためa*値がマイナスであり、緑色を呈していることがわかる。これに対し実施例1では、糖類を含浸させていることで、各比較例と比べてL*値が低く、且つa*値及びb*値が高くなっており、確実に茶褐色に着色できていることが確認された。さらに、糖類と共にリン酸塩も含侵させた実施例2~実施例9では、実施例1よりもさらにL*値が低くてa*値及びb*値が高くなっており、より確実に木材を茶褐色に着色できていることが確認された。



図1
図2