(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040636
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20230315BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147738
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】桜井 悦雄
(72)【発明者】
【氏名】原 智紀
(72)【発明者】
【氏名】郡司 康浩
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パイルキャップの損傷を抑制することができる接合構造を提供する。
【解決手段】上部構造と杭10とを接合する接合構造は、上部構造が接合され、地面から露出した杭頭13を収容する収容部21を有するキャップ部材と、収容部21の内側面を覆うように設置される被覆部材と、杭頭13の外周面に隣接して設置される緩衝材22とを含み、収容部21内における杭頭13および緩衝材22と被覆部材との間の空間に充填材23が充填されて杭と接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と杭とを接合する接合構造であって、
前記上部構造が接合され、地面から露出した杭頭を収容する収容部を有するキャップ部材と、
前記キャップ部材の前記収容部の内側面を覆うように設置される被覆部材と、
前記杭頭の外周面に隣接して設置される緩衝材と
を含み、
前記収容部内における前記杭頭および前記緩衝材と前記被覆部材との間の空間に充填材が充填されて前記杭と接合する、接合構造。
【請求項2】
前記被覆部材は、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維の少なくとも1つから製造された繊維シートである、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記緩衝材は、前記杭頭の外周面のうちの上端側の一部を除いた面を被覆するように設置される、請求項1または2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記収容部は、前記杭の上面に対向し、地面に対して傾斜した天井面を有し、
前記キャップ部材は、前記天井面の最も高い箇所から外部へと連続し、前記収容部内の空気を排出するための排出孔を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の接合構造。
【請求項5】
前記天井面の傾斜の度合いが、1/10以上である、請求項4に記載の接合構造。
【請求項6】
前記杭頭の外周を取り囲む前記キャップ部材の縁空き部の厚さが、前記杭の径の0.75倍以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造と杭とを接合する接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎梁や柱等の上部構造と杭とを接合し、上部構造の荷重や地震時の力を杭に伝達する接合構造(接合構造体)には、パイルキャップと呼ばれるキャップ部材が使用される。パイルキャップは、現場でコンクリートを打設して構築することも可能であるが、この部位が構造上、鉄筋が複雑に集合する部位であり、施工性に難点があり、近年の工期短縮の観点から、工場生産によるプレキャストで製造されたプレキャストパイルキャップの使用が望まれている。
【0003】
プレキャストパイルキャップは、下面から上方へと延びる空洞である収容部を有し、地面から露出した杭頭に被せるように設置される。これにより、杭頭は、プレキャストパイルキャップの収容部内に収容され、杭の頭部が収容された収容部内の空間は、モルタル等の充填材で充填され、プレキャストパイルキャップと一体化される。
【0004】
プレキャストパイルキャップを使用して上部構造と杭とを接合した構造物は、地震が発生すると、杭頭の上面が水平方向に対して傾斜し、杭頭が回転する。杭頭が回転すると、杭頭の側方に充填された充填材に力が作用し、充填材が充填された部分にひび割れが発生する。そこで、杭頭の側方に作用する力を軽減させるべく、杭頭の側面に隣接して緩衝材を設置した接合構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の接合構造では、地震の規模が大きくなり、杭頭の回転角が大きくなると、緩衝材を設置するだけでは充填材が充填された部分のひび割れを抑えることができず、パイルキャップへもひび割れが伸展し、パイルキャップの損傷を抑えることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上部構造と杭とを接合する接合構造であって、
上部構造が接合され、地面から露出した杭頭を収容する収容部を有するキャップ部材と、
キャップ部材の収容部の内側面を覆うように設置される被覆部材と、
杭頭の外周面に隣接して設置される緩衝材と
を含み、
収容部内における杭頭および緩衝材と被覆部材との間の空間に充填材が充填されて杭と接合する、接合構造が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パイルキャップの損傷を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】従来のパイルキャップの損傷の一例を示した図。
【
図3】緩衝材を設置した場合のパイルキャップの損傷の一例を示した図。
【
図4】本実施形態に係る接合構造の第1の例を示した図。
【
図5】パイルキャップを製作する方法を説明する図。
【
図6】本実施形態に係る接合構造を構築する方法を説明する図。
【
図7】本実施形態に係る接合構造の第2の例を示した図。
【
図8】本実施形態に係る接合構造の第3の例を示した図。
【
図9】本実施形態に係る接合構造の第4の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ビル、マンション、病院、学校等の構造物は、地盤に固定し、支持するため、地盤中に杭が施工され、杭の上部に梁や柱等の上部構造を構築することにより構築される。このとき、上部構造と杭とは、接合構造を介して接合される。接合構造には、地面から露出した杭頭を収容する収容部を備えたパイルキャップが使用される。
【0011】
図1を参照して、従来のパイルキャップの構成について説明する。杭10は、挿入方向の先端が固い支持層に届くように施工される。なお、杭10は、鋼製の円管から構成される鋼管杭等の既製杭や円筒形の既製コンクリート杭であってもよいし、現場において地盤を削孔し、鉄筋籠を補強筋として挿入し、コンクリートを打設して構築される場所打ちコンクリート杭であってもよい。
【0012】
ちなみに、梁には、各柱11の下の基礎を繋ぐ基礎梁12があり、基礎梁12は、地面の中に施工されるため、地盤を所定の深さ堀り下げる根切りが行われる。根切りを行った後、砕石を敷き、プレート等で転圧を掛け、施工の基準となる水平面を作るために捨てコンクリートが打設され、捨てコンクリート上に基礎梁12が構築される。
【0013】
パイルキャップ20は、杭頭13を収容する収容部21を備え、杭頭13に被せるように設置される。このため、杭10の周囲も、基礎梁12と同様に、
図1に示すように根切りを行い、杭頭13を露出させる。杭頭13を露出させた後、必要に応じて、杭頭処理を行い、杭頭13の周囲に緩衝材22を設置する。そして、砕石を敷き、転圧を掛け、捨てコンクリートを打設する。
【0014】
捨てコンクリートを打設した後、プレキャストで製造されたパイルキャップ20をクレーン等により持ち上げ、地面から突出する杭頭13が収容部21に収容されるように位置決めし、降下させて捨てコンクリート上に設置する。そして、捨てコンクリートとパイルキャップ20との隙間から無収縮モルタル等の充填材を圧入し、収容部21内の空間を充填材23で充填して杭10とパイルキャップ20を一体化させる。パイルキャップ20には、柱11や基礎梁12等が接合され、上部構造が構築される。これにより、パイルキャップ20は、上部構造および杭10からの力を相互に伝達する。
【0015】
パイルキャップ20は、工場や現場内の施工ヤード等で予め製造されたコンクリート製品で、内部に鉄筋が埋め込まれたプレキャストパイルキャップが使用される。これにより、パイルキャップ20を現場で施工する際の鉄筋籠や型枠の設置、コンクリートの打設、養生等の工程が不要になり、工期を短縮することができる。また、鉄筋が複雑に集合する現場ではなく、工場で製造されるため、品質向上等の改善を図ることができる。
【0016】
杭10を施工する際、施工精度や地中障害物等の存在により芯ずれが発生する。芯ずれは、設計した杭10を長手方向(長さ方向)に切断した断面の、短手方向(幅方向)の中心を通る中心線と、実際に施工した杭10の長さ方向に切断した断面の、幅方向の中心を通る中心線とのずれである。
【0017】
また、杭10を施工する際の深さの精度により地面から突出する杭頭13の長さが変化する。地面から突出する杭頭13の長さが、設計した長さを超える場合、高止まりとなり、設計した長さ未満の場合、低止まりとなる。設計した長さとの差は、高止まり誤差もしくは低止まり誤差となる。
【0018】
パイルキャップ20の収容部21は、芯ずれや高止まり誤差を吸収できるように、遊びの空間が設けられる。これにより、施工誤差が生じたとしても、杭頭13を収容部21内に収容することができる。
【0019】
遊びの空間が小さい場合、芯ずれにより杭頭13と収容部21の内側面とが近接し、その近接した狭い隙間に充填材23を充填しようとしても、充填材23が入っていかず、入ったとしても、不十分で、気溜まりが発生する。これでは、設計通りの接合強度が得られず、杭頭13の構造性能に影響を及ぼす。
【0020】
また、建物規模が大きい場合や、大規模地震が発生した場合や、地盤が軟弱な場合等に、杭10の変形により、パイルキャップ20の、杭頭13の外周を取り囲む部分である縁空き部24に対し、過大な負荷がかかる。縁空き部24は、パイルキャップ20の中で、コンクリートの厚さが最も薄い部分である。したがって、このような過大な負荷がかかると、杭頭13やパイルキャップ20の構造性能に影響が及ぶことになる。
【0021】
そこで、遊びの空間を広くとる。ただし、遊びの空間を広くとっただけでは気溜まりの発生を抑制することができないため、収容部21内の空気を抜くための排出孔25が設けられる。また、縁空き部24への過大な負荷を低減するため、杭頭13と縁空き部24との間に緩衝材22が設置される。
【0022】
遊びの空間は、杭頭13の外周面に隣接させて緩衝材22を設置した場合、緩衝材22の外側面から縁空き部24の内側面までの間隔Aを、例えば100mmとすることができる。これにより、杭の施工誤差や充填材23の充填性を考慮し、芯ずれを最大85mm許容できる。したがって、芯ずれが発生し、85mmずれたとしても、15mmの間隔が残っているので、十分に充填材23を充填することができる。
【0023】
杭頭13のレベル誤差(高止まり誤差)は、パイルキャップ20の収容部21への杭10の埋め込み深さHを、例えば100mm以上かつ杭径Dの0.5倍以下とし、杭頭13の上面と収容部21の天井面26の高さ位置が最も低い箇所との間隔Bを100mmとすることができる。これにより、杭10の高止まりを最大85mmまで許容できる。この場合も、高止まり誤差が85mmであっても、15mmの間隔が残っているので、十分に充填材23を充填することができる。
【0024】
なお、低止まりについては、杭頭13のレベルが標準に対して足りていない状態であるため、杭頭13の上面に端板(杭端部鋼板同等品)を全周溶接する等して、所定の杭頭レベルとなるまで補正することができる。
【0025】
収容部21は、充填材23の充填時に空気を完全に排出させるため、天井面26がその中心に向けて傾斜した円錐状となっており、その中心に排出孔25が接続されている。天井面26の傾斜の度合いを表す勾配は、1/10以上とされる。勾配は、水平距離に対する垂直距離を表し、1/10とは、水平方向に10行くと垂直方向に1上がることを意味する。排出孔25は、天井面26の中心の最も高い箇所からパイルキャップ20の内部を通り、パイルキャップ20の外部へと繋がっており、収容部21内の空気を外部へ排出する。排出孔25は、収容部21内の最も高い箇所に1箇所接続されていれば、十分に空気を排出させることができる。
【0026】
高止まり誤差をもって施工されると、パイルキャップ20の収容部21内に収容される杭頭13の埋め込み深さHが大きくなり、その深さHが大きくなるほど、杭頭13の側方にある縁空き部24が負担する曲げモーメントが大きくなる。曲げモーメントが無視できないほど大きくなると、縁空き部24の厚さWを厚くしなければならないかを再照査する必要があり、施工の妨げとなる。そこで、杭頭13と縁空き部24との間に緩衝材22を設置し、緩衝材22により曲げモーメントの増大を緩和させている。
【0027】
緩衝材22は、充填材23より変形性に富む材料であればいかなる材料であってもよく、発泡ポリエチレンやゴム等の柔らかく、曲げやすい材料が用いられる。緩衝材22は、中空円筒状のものであってもよいし、板状のものであってもよい。
【0028】
縁空き部24の厚さは、杭10に接する充填材23の部分(充填部分)は含まない厚さであり、緩衝材22を設置することで薄くすることができる。一般には、杭径Dの0.75倍以上とされるが、緩衝材22を設置することで、例えば250mm以上かつ杭径Dの0.5倍以上であって、0.75倍以下とすることができる。
【0029】
充填材23は、設置したパイルキャップ20と地盤の隙間を通し、パイルキャップ20の下方から圧入することで充填する。収容部21内への充填材23の充填により、空気は収容部21内を天井面26へと移動し、傾斜した天井面26に沿って最も高い箇所へと移動し、最も高い箇所に接続される排出孔25を通して外部へ排出される。収容部21内が充填材23で充填されたか否かは、排出孔25から充填材23が漏出したか否かにより判断される。
【0030】
図1に示した従来のパイルキャップ20を使用し、杭頭13が50×10
-3rad以上回転するような状態を発生させたときの損傷の度合いを、
図2に示す。50×10
-3radは、杭頭13の上面が約3°傾いた状態で、大規模地震が発生した場合にこのような状態が生じ得る。
【0031】
図2(a)は、パイルキャップ20を東側から見た図で、
図2(b)は、西側から見た図で、
図2(c)は、南側から見た図で、
図2(d)は、北側から見た図である。従来のパイルキャップ20では、パイルキャップ20の外縁部にまで四方八方にひび割れが延びている。
【0032】
緩衝材22を設置することで、杭頭13が回転した際に、パイルキャップ20との接触面である充填部分に作用する力を軽減させることができる。
図3は、緩衝材22を設置したパイルキャップ20を使用し、杭頭13が50×10
-3rad以上回転するような状態を発生させたときの損傷の度合いを示した図である。杭頭13に作用する地震時の水平方向への力が大きくなると、杭頭13の回転角も大きくなり、緩衝材22を設置していたとしても、充填部分にひび割れが発生し、ひび割れがパイルキャップ20の縁空き部24にまで伸展する。縁空き部24へのひび割れの伸展は、最終的にパイルキャップ20の破壊につながる。
図3(a)~(d)は、
図2(a)~(d)と同様、各方角から見た図である。ひび割れは、緩衝材22を設置することで、
図2に示す緩衝材22を設置しない場合に比較して、ひび割れが少なくなっているが、パイルキャップ20にまでひび割れが延びているため、パイルキャップ20の破壊につながる可能性がある。
【0033】
震度6以上の大規模地震は、近い将来に発生することが想定されており、大規模地震が発生しても、パイルキャップ20の損傷を軽微に抑えることができることが重要となる。
【0034】
パイルキャップ20の損傷は、杭頭13の回転により、杭頭13と充填材23の充填部との接触部から充填部の上方向および水平方向に力が伝達され、その力が許容範囲を超えることにより発生すると想定される。このため、コンクリートを拘束する鉄筋等の部材が貫通して設けられていない充填部分の外周側への膨張を一定の範囲に抑制することができれば、パイルキャップ20の損傷を抑えることができるものと考えられる。
【0035】
そこで、充填部分の外周側への膨張を抑制するべく、パイルキャップ20の収容部21の内側面を覆うように被覆部材を設ける。
図4は、本実施形態に係る接合構造の第1の例を示した図である。
図4に示す接合構造は、
図1に示した接合構造とほぼ同様の構成で、収容部21の内側面を覆うように被覆部材として、補強シート27が設置される。ここでは、被覆部材として補強シート27を設置するものとして説明するが、膨張を抑制することができれば、シートに限定されるものではなく、鉄板等を用いてもよい。
【0036】
補強シート27は、耐震補強に用いるシートであり、シートの材料は、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の繊維材料を使用することができ、2種類以上の繊維材料を組み合わせて使用してもよい。耐震補強シートは、伸びにくく、引張強度が高いという特徴を有する。このため、収容部21の内側面を覆うように補強シート27を設置することで、充填部分の外周側への膨張を抑制することができる。
【0037】
図5を参照して、パイルキャップ20の製作方法について説明する。
図5(a)に示すように、型枠の底板30を配置し、底板30の中央位置に収容部21を形成するための打込み型枠31を配置する。打込み型枠31は、中空円筒形の第1の部材と、第1の部材の一端に連続し、円形の中心に向けて傾斜する中空円錐形の第2の部材とから構成され、その円形の中心に円形の穴32が形成され、穴32に連続して排出孔25となるチューブが接続されている。なお、第1の部材と第2の部材は一体化されていてもよい。
【0038】
図5(b)に示すように、打込み型枠31の外側面の、穴32を除いた全面にわたって補強シート27を隣接させて配置する。補強シート27は、継目に隙間がないように配置される。継目に隙間があると、隙間の部分において充填材23がパイルキャップ20の縁空き部24と接した状態になり、その部分の外周側への膨張を適切に抑制することができなくなるからである。
【0039】
その後、
図5(c)に示すように、打込み型枠31の外側に鉄筋を配し、型枠の側板33を配置する。側板33は、打込み型枠31の四方を包囲するように4枚配置され、そのうちの1枚は、チューブが通される穴を有する。なお、チューブが通される側板33の穴は、打込み型枠31の最も高い箇所にある穴32より高い位置に設けられる。
【0040】
型枠の側板33を配置したところで、チューブを側板33の1つの穴に差し込む等して設置し、型枠の上部のみが露出した状態となり、その上部からコンクリート34を流し込み、コンクリート34を打設する。コンクリート34の打設後、型枠の上部を覆うように養生シートを被せ、養生を行う。必要に応じて、ヒータ等を用いて加温し、また、散水することができる。コンクリート34が硬化し、所定の強度を発現したところで、養生を終了し、
図5(d)に示すように型枠を取り外し、パイルキャップ20が製造される。
【0041】
補強シート27は、打込み型枠31の外周に配置しただけである。このため、パイルキャップ20は、収容部21の内側面のコンクリート34に補強シート27がくっ付いた状態で製造される。なお、補強シート27に代えて鉄板で収容部21の内側面を覆う場合、アンカーボルト等を使用して内側面に密着した状態で固定することができる。
【0042】
図6を参照して、本実施形態に係る接合構造を構築する方法について説明する。従来の接合構造を構築する方法と同様である。
図6(a)に示すように、杭10の周囲の地盤を掘削し、杭頭13を露出させる。その後、
図6(b)に示すように、杭頭13の外周囲を覆うように緩衝材22を設置する。そして、砕石を敷き、捨てコンクリートを打設した後、クレーン等を使用して、プレキャストで製造されたパイルキャップ20を吊り上げ、
図6(c)に示すように、杭頭13に被せるようにパイルキャップ20を設置する。従来と異なる点は、パイルキャップ20の収容部21の内側面に補強シート27がくっ付いている点である。
【0043】
その後、
図6(d)に示すように、捨てコンクリートとパイルキャップ20の隙間から収容部21内へ無収縮モルタル等の充填材23を圧入し、収容部21内の空間を充填材23により充填する。充填材23は、パイルキャップ20の下方から供給され、収容部21の内部の空間(緩衝材22と補強シート27との間の空間)を下側から順に埋め、内部の空気を押し上げる。空気は、気溜まりになる箇所が存在しないため、収容部21の傾斜した天井面を傾斜に沿って移動し、最も高い箇所に接続される排出孔25を通して排出される。収容部21内の隙間は、充填材23により充填され、空気が追い出されていくと、最終的に排出孔25を通して充填材23が排出されることになる。このため、排出孔25から充填材23が排出されたところで、収容部21内が充填材23により充填されたと判断することができる。
【0044】
収容部21内が充填材23により充填された後、充填材23の供給を停止し、養生を行い、接合構造を構築する。パイルキャップ20は、水平方向や鉛直方向に突出する複数の鉄筋を有し、型枠を配してコンクリートを打設することにより基礎梁12や柱11を接合して上部構造を構築することができる。基礎梁12等の梁や柱11も、プレキャストで製造されたものを用いることができ、この場合、継手を使用してパイルキャップ20と基礎梁12や柱11を接続することができる。
【0045】
本実施形態に係る接合構造を構築する別の方法について説明する。上記の第1の方法では、
図4に示した予め補強シート27が収容部21の内側面に設けられたパイルキャップ20を使用して接合構造を構築した。補強シート27は、パイルキャップ20の収容部21の内側面に隣接して設置されれば、当該内側面にくっ付いた状態でなくてもよい。したがって、補強シート27のないパイルキャップ20をプレキャストで製造し、パイルキャップ20を設置する前に、収容部21の内側面に貼付する等して、その内側面に隣接させて設置することができる。この場合も、補強シート27の継目を隙間なく、排出孔25が接続される穴を除いて設置される。
【0046】
具体的には、杭頭13を露出させ、杭頭13の外周囲を覆うように緩衝材22を設置する。その後、砕石を敷き、捨てコンクリートを打設する。補強シート27は、パイルキャップ20を架台等に仮置きして落下の危険性をなくした上で、収容部21の内側面に貼付する。なお、補強シート27は、型枠脱型時に貼り付けてもよいし、現場での施工時に貼り付けてもよい。
【0047】
その後、杭頭13に被せるようにパイルキャップ20を設置する。そして、捨てコンクリートとパイルキャップ20の隙間から収容部21内へ無収縮モルタル等の充填材23を圧入し、収容部21内の隙間を充填材23により充填する。排出孔25から充填材23が排出されたところで、収容部21内が充填材23により充填されたと判断し、充填材23による充填を終了する。収容部21内が充填材23により充填された後、充填材23の供給を停止し、養生を行い、接合構造を構築する。
【0048】
なお、収容部21の天井面は、従来の接合構造と同様に、
図4に示したように円錐形に中心に向けて高くなるように傾斜を有するものに限らず、
図7に示すように一方の側に向けて高くなるように傾斜を有するものであってもよい。この場合、排出孔25は、天井面の一方の側の最も高い箇所に穴28を設け、その穴28に連続するように設けられる。
【0049】
また、緩衝材22も、従来の接合構造と同様、
図8に示すように杭頭13の上端から下方に向けて傾斜を有するテーパ状とすることができる。傾斜は、杭頭13の上端から、杭径Dの0.5倍+高止まり許容値85mmの範囲までとされ、傾斜の度合いを示す勾配は、1/10~1/30とされ、好ましくは1/20とされる。このように緩衝材22に傾斜を設けることで、充填材23がパイルキャップ20の根元側で良く圧密されて気溜まりが生じにくくなる。
【0050】
緩衝材22の杭頭13の上端側の高さ位置は、杭頭13の上端と同じ高さ位置であってもよいが、
図9に示すように、杭頭13の上端の高さ位置より低くすることが望ましい。すなわち、杭頭13の上端の一部が、その周囲に巻かれた緩衝材22から露出した状態が望ましい。
【0051】
緩衝材22を設置する目的は、縁空き部24への過大な負荷を低減するためである。緩衝材22は、杭頭13の回転を受けて変形し、緩衝材22の周囲の充填部分にかかる負荷を低減し、充填部分に連続するパイルキャップ20の縁空き部24への負荷も低減する。
【0052】
縁空き部24は、捨てコンクリートに接する下端に向けて延びており、杭頭13の埋め込み深さが大きいほど、杭頭13が回転した際に縁空き部24の下端部に大きな力が作用することになる。このため、縁空き部24の下端側への負荷を低減することが、パイルキャップ20の損傷を抑えるために重要となる。
【0053】
緩衝材22の上端と杭頭13の上端が同じ高さ位置である場合、縁空き部24の全体にわたってほぼ均一に負荷がかかる。一方、緩衝材22の上端の高さ位置を杭頭13の上端の高さ位置より低くすると、その差の部分は直接、充填部分に接する状態となり、その差の部分に対応する縁空き部24の上側にかかる負荷が大きくなり、縁空き部24の下端にかかる負荷が小さくなる。このように、縁空き部24の下端側への負荷を低減することができるため、パイルキャップ20の損傷を抑えることができる。
【0054】
なお、緩衝材22の上端の高さ位置を杭頭13の上端の高さ位置より低くし過ぎると、充填部分に直接接する部分が大きくなり、縁空き部24への負荷を適切に低減させることができなくなる。そこで、杭頭13の地面から突出した長さである、埋め込み深さHが100mm以上かつ杭径Dの0.5倍以下である場合、緩衝材22の上端と杭頭13の上端の高さの差Eは、例えば5~30mmとすることができる。
【0055】
充填材23は、硬化や乾燥の際に、ほとんど膨張および収縮しない無収縮モルタルが望ましいが、モルタル等の他の材料であってもよい。
【0056】
ここに、本提案による構造について解析モデルを使用し、三次元有限要素法による非線形解析を行い、その解析結果を示す。
図10は、解析モデルを示し、
図11は、検討したケースを示し、
図12は、ひび割れ幅を算出した位置を示す。
【0057】
図10は、解析モデルを斜め上方から見た断面図、側方から見た断面図であり、解析モデルは、実際の施工とは上下逆であるが、杭40の杭頭(紙面に向かって下側)にプレキャストパイルキャップ41を被せ、その隙間を充填材で充填して後打ち部42を形成している。杭40に作用させる力は、矢線Aに示す加力方向とした。
【0058】
解析ケースは、
図11に示すように、補強シート43を後打ち部42の周囲に設けたケースをCase-1とし、補強シート43をプレキャストパイルキャップ41の外周に設けたケースをCase-2としている。また、補強シート43を設けないケースをCase-0としている。Case-1が、本提案によるケースであり、Case-0、Case-2は、参考ケースである。
【0059】
解析位置は、
図12に示すように、ひび割れ幅算出位置として、後打ち部42の周囲の加力方向側の2点(位置1、2)とした。
【0060】
杭体は、杭径400mm、鋼管厚さ12mm、コンクリート厚さ53mmの鋼管コンクリート(SC)杭とした。パイルキャップは、内部に配筋を有し、使用するコンクリートには、設計基準強度24N/mm2のものを使用した。緩衝材は、厚さ10~20mmのものを使用した。補強シートは、厚さ0.1mmのものを使用した。
【0061】
図13は、解析に用いた各部材の物性をまとめた図である。解析は、載荷点位置に杭径400mmの1.5%(6mm)の変位を水平方向に強制変位させる方式で実施した。
【0062】
図14~
図16に各ケースの解析結果を示す。
図14は、Case-0のひび割れ状況を示し図で、
図15は、Case-1のひび割れ状況を示した図で、
図16は、Case-2のひび割れ状況を示した図である。いずれも、斜め上方、上面から見た図を示している。図では分かりにくいが、加力方向側(紙面に向かって右側)が、ひび割れ幅が大きくなっており、位置1、2は、ひび割れ幅が大きい箇所に位置している。
【0063】
図17は、各位置でのひび割れ幅の解析結果をまとめた図である。ひび割れ幅の結果を示すカッコ内は、Case-0の位置1、2の値を1.00とした場合のCase-1、2の各位置の値を比率で表したものである。ひび割れ幅は、位置1では、Case-0が最も大きく、位置2では、Case-2が最も大きくなった。Case-1での位置1のひび割れ幅は、Case-0の1/3程度、Case-2の1/2程度となり、位置2のひび割れ幅は、Case-0の1/3程度、Case-2の1/4程度となり、Case-0、Case-2のいずれのケースよりひび割れ幅を抑制することができた。補強シート43は、耐力を向上させるというより損傷を軽微に抑える目的として使用され、その損傷を抑制できることが確認できたことから、本提案の構造が効果的であることが分かる。
【0064】
以上に説明してきたように、本発明によれば、収容部21内の充填材23を充填する充填部分に鉄筋を配筋することなく、耐震性能を向上させることができ、大規模地震に対するパイルキャップ20の損傷をより軽微に抑えることが可能になる。
【0065】
これまで本発明の接合構造について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
10…杭
11…柱
12…基礎梁
13…杭頭
20…パイルキャップ
21…収容部
22…緩衝材
23…充填材
24…縁空き部
25…排出孔
26…天井面
27…補強シート
28…穴
30…底板
31…打込み型枠
32…穴
33…側板
34…コンクリート
40…杭
41…プレキャストパイルキャップ
42…後打ち部
43…補強シート