(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040669
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】中空筒状フィルタ、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20230315BHJP
B01D 39/00 20060101ALI20230315BHJP
B21F 27/18 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
B01D39/14 D
B01D39/00 B
B21F27/18 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147781
(22)【出願日】2021-09-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】汐見 千佳
(72)【発明者】
【氏名】大東 勉
【テーマコード(参考)】
4D019
4E070
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA02
4D019BB01
4D019BC20
4D019CA03
4D019CB04
4D019CB06
4E070AC07
4E070CA01
4E070EA05
(57)【要約】
【課題】金属線材の巻き始め側の端部を低コストで効率よく処理する。
【解決手段】金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタは、最内周に位置する第一線材層L1を含み、金属線材が2層以上巻き付けられた内側筒状体31と、内側筒状体の直外周側に位置し、金属線材が巻き付けられた外側筒状体32とを備える。内側筒状体を形成した後、金属線材の始端部20aを折り返して内側筒状体の外周側に配置し、更に金属線材を巻き付けて外側筒状体を形成することで、金属線材の始端部を内側筒状体と外側筒状体との間に折り込む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
前記金属線材の始端部は、互いに隣接する線材層間に折り込まれていることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項2】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
最内周に位置する第一線材層を含み、前記金属線材が2層以上巻き付けられた内側筒状体と、
該内側筒状体の直外周側に位置し、前記金属線材が巻き付けられた外側筒状体とを備え、
前記金属線材の始端部が、前記内側筒状体と前記外側筒状体との間に折り込まれていることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項3】
前記内側筒状体を構成する前記金属線材のピッチ、及び前記内側筒状体に含まれる前記線材層の数は、前記金属線材の前記始端部が、前記第一線材層の径方向位置と同一にはならず、且つ該位置よりも内径側には突出しないように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項4】
前記金属線材の前記始端部と、前記第一線材層を構成する前記金属線材部分と、の間には折り返し部が形成されており、該折り返し部は前記中空筒状フィルタの軸方向端縁よりも内側に位置することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項5】
金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状フィルタの製造方法であって、
前記金属線材の始端部を、心棒の軸方向の一端側において該心棒と共に回転する保持具に保持させる線材保持工程と、
前記心棒を回転させて、該心棒に対して前記金属線材を2層以上巻き付けて、最内周に位置する第一線材層を含む内側筒状体を作製する第一の巻き付け工程と、
前記金属線材の前記始端部を前記心棒の軸方向の他端方向に折り返して、前記内側筒状体の外周側に配置する折り返し工程と、
前記心棒を回転させて、前記始端部及び前記内側筒状体の外周側に前記金属線材を巻き付けて前記外側筒状体を作製する第二の巻き付け工程と、
を含むことを特徴とする筒状フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空筒状フィルタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属線材を螺旋状、且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状の巻線型フィルタは、各種の流体から異物を除去するフィルタとして各方面において使用されている。例えば特許文献1には、自動車のエアバッグインフレーター等に用いられる巻線型フィルタが記載されている。
この文献には、巻線型フィルタ全体に対して焼結等の熱処理を行わなくても、安価で形状保持性の高い巻線型フィルタを提供するために、素線が重なり合った隣接部分同士を2箇所以上固定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻線型フィルタ全体に対して焼結等の熱処理を行わない場合は、巻き始め側端部と巻き終わり側端部の固定やほつれ防止処理をどのように行うかが重要となる。しかし、特許文献1には、巻き終わり側である最外層の金属線材を固定することについて記載されているが、巻き始め側の端部をどのように処理するかについては明記されていない。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、金属線材の巻き始め側の端部を低コストで効率よく処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、前記金属線材の始端部は、互いに隣接する線材層間に折り込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属線材の巻き始め側の端部を低コストで効率よく処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
【
図3】(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0009】
〔フィルタの概略形状〕
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
【0010】
本発明の実施形態に係る中空筒状のフィルタ(以下、フィルタ、という)10は、少なくとも一本の金属線材20を、軸方向(図中上下方向)に対して一定の傾斜角度を有して、一定のピッチで螺旋状に、且つ多層状に巻き付けることにより形成される。ここで金属線材20が同じ方向に巻き付けられている個々の層を線材層L1、L2、L3・・・と称する。各線材層L1、L2、L3・・・を構成する金属線材は、正面視で中空筒状フィルタの軸方向(中心軸Ax1)に対して傾斜した同一方向へ延びており、また内外径方向に隣接する各線材層を構成する金属線材は互いに交差する方向に延びている(平行していない)。
【0011】
図1中における最外層の線材層Ln(nは自然数)を構成する金属線材部分20(n)(厚みを図示省略)の延びる方向(金属線材部分20(n)の長手方向)は実線矢印で示した方向であり、その直ぐ内側の線材層Ln-1を構成する金属線材部分20(n-1)の延びる方向(金属線材部分20(n-1)の長手方向)は破線矢印で示した方向である。nは概ね20~20000程度(10~10000往復分程度)に設定される。
【0012】
即ちフィルタ10は、金属線材20を軸方向に対して一定の傾斜角度にて螺旋状に巻付けることにより形成した一つの線材層(例えば、線材層L1)と、一つの線材層L1の外周側に重ねて、且つ該一つの線材層L1を構成する金属線材とは異なる傾斜角度にて螺旋状に金属線材を巻付けることにより形成される他の線材層(例えば、線材層L2)と、を有する。一つの線材層L1とこれと隣接する他の線材層L2を夫々構成する金属線材同士は軸方向とは非平行であり、且つ互いに交差するように構成されている。
なお、線材層を構成する金属線材の軸方向に対する傾斜角度が一つの線材層中で変化するように構成してもよい。
【0013】
このフィルタ10は、液体や気体等の各種流体中から不要な物質等を除去し、また自動車のエアバッグインフレーター用等、用途によっては同時にフィルタを通過する流体を冷却するために用いられる。また、このフィルタは、第一に、線材層が重なり合う方向、即ち、フィルタの径方向(線材層の重なる方向)に流体が通過する流路を形成するように構成される。流体は、フィルタの内径側から外径側に通過させても、外径側から内径側に通過させてもよい。ここで径方向とは厳密な意味の直径方向(半径方向)ではなく、軸方向、周方向に対して、概ね径方向という意味である。
フィルタの大きさ(内径、外径、軸方向の各寸法等)は、フィルタが組み込まれる装置の構造や大きさに応じて適宜決定される。
このフィルタの材料となる金属の種類としては、鉄、鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅合金、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。金属の種類は、フィルタの用途に応じて最適なものが選定される。
【0014】
また、フィルタに使用される金属線材の太さ及び横断面形状(金属線材の長手方向に直交する方向における断面形状)は、フィルタの大きさ、フィルタが除去する物質、圧力損失等に応じて適宜決定される。例えば、インフレータ用フィルタに使用される金属線材の断面積は0.007~3.2mm^2程度(横断面形状が真円形状の金属素線を基準とすれば線径が0.1~2.0mm程度)とされる。
フィルタには、横断面形状が真円形状の金属素線を所定形状に圧延した金属線材が使用される。例えば、金属線材としては、横断面形状が偏平な矩形状となるように圧延された平角線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状が長手方向全長に亘って、概略W字状、U字状、J字状、L字状、X字状、~状等の異形となるように圧延された異形線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状、外形状が、金属線材の長手方向全長に亘って一定ではないもの、言い換えれば、金属線材の長手方向の位置によって異なる横断面形状、外形状を有するように圧延された異形線が用いられる。このような異形線は、例えば金属線材の幅と同程度の長手方向長ごとに横断面形状が変化するように圧延されたものである。
フィルタ10において、金属線材20は捩れないように巻き付けられている。
【0015】
フィルタ10は、金属線材部分が互いに接触している複数の接触部を有する。フィルタ10に対しては、全ての接触部(又は複数の接触部)を一括して接合するような熱処理(例えば焼結するための熱処理)を行ってもよい。或いは、フィルタ10中の複数の接触部のうち、巻き終わり側の端部以外の部分を、接合が行われていない非接合部としてもよい。フィルタ10に対して、その全体を焼結するための熱処理を行わなければ、フィルタ10の製造コストを安価にでき、フィルタ10の製造時間を短縮できる。
【0016】
〔第一の実施形態〕
図2は、本発明の第一の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
図1に示すように、発明に係るフィルタ10は、いわゆる巻線型の中空筒状フィルタであり、連続する一本又は複数本の金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される。
フィルタ10は、内径側に位置する内側筒状体31と、外径側に位置する外側筒状体32とを備える。内側筒状体31は最内周に位置する線材層L1から線材層Lm(mは2≦m<nを満たす自然数)を含む。外側筒状体32は内側筒状体31の直外周側に位置する。外側筒状体32は線材層Lm+1から線材層Lnを含む。線材層Lmと線材層Lm+1は隣接する。
フィルタ10においては、金属線材20の始端部20a(巻き始め側の端部)が、互いに隣接する線材層Lm,Lm+1間に折り込まれている。
【0017】
図2にはフィルタ10のうち、内周側に位置する3層分の線材層L1~L3までが形成された状態(金属線材部分20(1)~20(3)までが巻き付けられた状態)を示している。また、図中、周方向に沿って伸びる破線は、フィルタ10の軸方向の一端縁(一端面)10aと他端縁(他端面)10bの位置を示す。
図2の一端縁10aに示されるように、フィルタ10の軸方向端縁は、金属線材20の螺旋の向きが変化する軸方向位置(線材層が切り替わる軸方向位置)に相当する。
【0018】
最内周に位置する線材層L1(第一線材層)を構成する金属線材部分20(1)は、フィルタの軸方向の一端側から他端側に向けて螺旋状に巻き付けられている。線材層L2を構成する金属線材部分20(2)は、フィルタの軸方向の他端側から一端側に向けて、金属線材部分20(1)の外周側に重ねて螺旋状に巻き付けられている。本図では、一往復分の線材層L1,L2により内側筒状体31が形成される。
金属線材20の始端部20aは、軸方向の一端側から他端側に向けて折り返されることにより、線材層L1,L2の外周側に配置される。始端部20aと金属線材部分20(1)との間には折り返し部20bが形成される。折り返し部20bは、フィルタの軸方向の一端縁10aよりも内側に位置する。
線材層L3を構成する金属線材部分20(3)は、フィルタの軸方向の一端側から他端側に向けて、始端部20a及び金属線材部分20(2)の外周側に重ねて螺旋状に巻き付けられている。線材層L3は外側筒状体32を構成する。
始端部20aは、隣接する線材層L2,L3間に挟み込まれることにより、始端部20aが内径側において接触する金属線材部分20(1),20(2)と、外径側において接触する金属線材部分20(3)~、とによって挟圧保持される。
これにより、始端部20aは摩擦力により機械的に固定される。従って、始端部20aと各線材層を構成する金属線材部分との接触部を溶接や焼結等、冶金的方法により接合しなくても、始端部20aの抜け出しやほつれを防止することが可能となる。
【0019】
〔フィルタの製造方法〕
図3(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
図3(a)に示すように、まず、金属線材20の始端部20aを、心棒131の軸方向の一端側に配置された保持具132に保持させる(線材保持工程)。心棒131は、その軸線Ax2を中心として回転する。保持具132は心棒131と共に回転する。
金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材133を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。この動作により、金属線材20は
図3(b)に示すように、心棒131の外周に、中心軸Ax2に対して所定角度θだけ傾斜しつつ、所定のピッチPで螺旋状に且つ多層状に巻付けられる(第一の巻き付け工程、内側筒状体作製工程)。この工程では、金属線材20は心棒131に対して2層以上(一往復分以上)巻き付けられる。この工程では、最内周に位置する線材層L1を含む内側筒状体31が作製される。内側筒状体31は隣接する線材層L1,L2(線材層L1~Lm)を構成する金属線材部分20(1),20(2)(金属線材部分20(1)~20(m))同士が互いに交差した網目を有する。
【0020】
図3(c)に示すように、金属線材20の始端部20aを心棒131の軸方向の一端側から他端方向に折り返して、内側筒状体31の外周側に配置する(折り返し工程)。この工程により、始端部20aと、金属線材部分20(1)との間には折り返し部20bが形成される。線材層L2(mが3以上の場合は、線材層L2~Lm)は、金属線材部分20(1)と始端部20aとの間に挟まれる。折り返し部20bの位置は、作製されるフィルタの軸方向の一端縁10aよりも内側となるように設定される。なお、始端部20aの長さ及び折り返し角度φは、始端部20aと内側筒状体31との間、及び始端部20aと外側筒状体32との間に、始端部20aの抜け出し又はほつれを防止するために必要な数の接触部を形成できるように設定される。
【0021】
図3(d)に示すように、金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材133を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。この動作により、金属線材20を、始端部20a及び内側筒状体31の外周側に、中心軸Ax2に対して所定角度θだけ傾斜させつつ巻き付けて、外側筒状体32を作製する(第二の巻き付け工程、外側筒状体作製工程)。外側筒状体32は隣接する線材層L3~Ln(線材層Lm+1~Ln)を構成する金属線材部分20(3)~20(n)(金属線材部分20(m+1)~20(n))同士が互いに交差した網目を有する。
【0022】
n個の線材層が形成された後、金属線材20の終端部(巻き終わり側の端部)を、心棒131周りに形成された中空筒状体の外周面の適所に抵抗スポット溶接等により接合して、金属線材20を切断する。この中空筒状体を心棒131から取り外す。以上の方法により製造された中空筒状体は、その全体への焼結処理が実施されることなく、そのままの状態でフィルタとして使用される。
あるいは、必要ならば、心棒131から取り外された中空筒状体に対して焼結等の熱処理を施すことにより、隣接する金属線材部分が互いに接触した各接触部を冶金的に接合した後、フィルタとして使用するようにしてもよい。
【0023】
〔効果〕
以上のように、本実施形態によれば金属線材20の始端部20aを折り返して、隣接する線材層Lm,Lm+1間に巻き込んでいるので、始端部20aを低コストで効率よく処理できる。
折り返し部20bを、フィルタ10の軸方向の端縁(一端縁10a)よりも内側となる位置に形成したので、折り返し部20bはフィルタ10から突出しない。折り返し部20bは、フィルタ10の運搬や組立作業等のハンドリング時に、他の部品等に引っ掛からない。従って、始端部20aを引き抜くような力が加わりにくくなる。また、濾過対象物がフィルタ10の端縁から漏出することを防止するために、フィルタ10の軸方向の端面(又は端縁)に他部品を密着させてシールして使用するような場合には、折り返し部20bがフィルタ10から突出していないために、シール性が向上する。
【0024】
金属線材部分20(1)と始端部20aとの間に形成される折り返し部20bは塑性変形されているので、金属材料自体が有する強度に基づき、始端部20aがフィルタ10から抜け出すこと(ほつれること)を効果的に防止できる。
なお、内側筒状体31を構成する線材層の数mが少ないと、内側筒状体31を構成する各金属線材部分と始端部20aとが接触した接触部の数が少なくなる。また、内側筒状体31を構成する線材層の数mが少ないと、始端部20aを線材層Lm,Lm+1間に折り込んだときに、始端部20aを内径側から支持する支持強度も低くなるので、始端部20aの固定(挟圧保持力)が不十分となりやすい。このため、フィルタの使用態様によっては、始端部20aを必要な強度で固定するために、上記各接触部を焼結等により冶金的に接合することが望ましい。
【0025】
〔第二の実施形態〕
図4は、本発明の第二の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。本図においては、フィルタの径方向における厚みの描画を一部省略している。
始端部20aは内側筒状体31の外周側に位置するが、
図2のように内側筒状体31に含まれる線材層の数mが少なく、且つ金属線材20のピッチP(
図3(a)参照)が広いと、金属線材部分20(3)以降の巻き付け時に、始端部20aが線材層L1よりも内径側に突出する虞がある。
そこで、本実施形態においては、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1の径方向位置よりも外径側に位置するように、内側筒状体31を作製する。即ち、本実施形態においては、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1の径方向位置と同一にはならず、且つ線材層L1の径方向よりも内径側には突出しないように、内側筒状体31を構成する金属線材20の巻き付け角度θ、金属線材20のピッチP、及び内側筒状体31に含まれる線材層の数mを設定する。
上記パラメータのうち、特にピッチPと線材層の数mが重要である。ピッチPが小さければ線材層の数mが少なくてもよいし、線材層の数mが多ければピッチPが大きくてもよい。ただし、線材層の数mが多くなりすぎると、折り返し部20bをフィルタ10の軸方向端縁の内側に位置させることが難しくなる。
図4は、10個の線材層を含む内側筒状体31を作製する例である。
【0026】
フィルタ内で隣接する金属線材部分同士が接触した各接触部を焼結により接合しない場合は、内側筒状体31と外側筒状体32のそれぞれの巻き付け角度θ、ピッチP、及び線材層の数と、始端部20aの長さ及び折り返し角度φは、始端部20aと内側筒状体31との間、及び始端部20aと外側筒状体32との間に十分な数の接触部を形成すると共に、始端部20aに十分な挟圧保持力が付与される(摩擦力が発生する)ように設定される。これにより、始端部20aがほどけること、或いはほつれることを防止する。
【0027】
〔効果〕
以上のように、本実施形態によれば、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1よりも内径側に突出しないようにしたので、フィルタの内周側の形状を安定させることができる。金属線材20の巻き始め側の端縁(切断端)が、フィルタ10の内周面を越えて中空部内に突出することを防止できる。また、始端部20aが線材層L1よりも内径側に突出しないようにすれば、始端部20aを機械的に固定するために十分な強圧保持力(摩擦力)も得られる。
始端部20aを、内側筒状体31と外側筒状体32との間に挟み込んで機械的に固定できるので、フィルタに対しては、始端部20aと他の金属線材部分との間に形成される各接触部を冶金的方法により接合するような熱処理(例えば上記各接触部を焼結するために中空筒状フィルタの全体に対して行う熱処理)を施す必要がない。従って、フィルタ10の製造コストを安価にでき、フィルタ10の製造時間を短縮できる。
【0028】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<第一の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10である。本態様において金属線材の始端部20aは、互いに隣接する線材層Lm,Lm+1間に折り込まれていることを特徴とする。
いわゆる巻線型のフィルタでは、フィルタが焼結されていなくても、金属線材が巻線形状を維持するのに十分な張力で巻き付けられる。このため、始端部は、抜け出しやほつれを防止できる程度に十分な挟圧保持力を各線材層Lm,Lm+1を構成する金属線材部分20(m),20(m+1)から受ける。仮に、フィルタ内の各接触部を焼結等により一括して接合する場合でも、始端部は、接合処理前のハンドリング時に抜け出さず、且つほつれないように保持される。
従って、始端部と、これと接触する金属線材部分とを個別に接合する必要はない。
本態様によれば、始端部を隣接する線材層間に折り込むだけで、始端部の抜け出しやほつれを防止できるので、金属線材の始端部を低コストで効率よく処理できる。
【0029】
<第二の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10である。本態様に係る中空筒状フィルタは、最内周に位置する第一線材層L1を含み、金属線材が2層以上巻き付けられた内側筒状体31と、内側筒状体の直外周側に位置し、金属線材が巻き付けられた外側筒状体32とを備え、金属線材の始端部20aが、内側筒状体と外側筒状体との間に折り込まれていることを特徴とする。
本態様によれば、第一の実施態様と同様に、金属線材の始端部を低コストで効率よく処理できる。
【0030】
<第三の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、内側筒状体31を構成する金属線材20のピッチP、及び内側筒状体に含まれる線材層の数Lmは、金属線材の始端部20aが、最内周に位置する第一線材層L1の径方向位置と同一にはならず、且つ該位置よりも内径側には突出しないように設定されていることを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの内周側の形状を安定させることができる。また、金属線材の巻き始め側の端縁(切断端)が、フィルタの内周面を越えて中空部内に突出することを防止できる。
【0031】
<第四の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、金属線材20の始端部20aと、第一線材層L1を構成する金属線材部分20(1)と、の間には折り返し部20bが形成されており、折り返し部は中空筒状フィルタの軸方向端縁10aよりも内側に位置することを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの運搬や組立作業等のハンドリング時に、折り返し部が他の部品等に引っ掛からない。従って、始端部を引き抜くような力が加わりにくくなる。また、フィルタの軸方向の端面(又は端縁)に他部品を密着させてシールする場合には、シール性が向上する。
【0032】
<第五の実施態様>
本態様は、金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状フィルタ10の製造方法である。
本製造方法は、金属線材の始端部20aを、心棒131の軸方向の一端側において心棒と共に回転する保持具132に保持させる線材保持工程(
図3(a))と、心棒を回転させて、心棒に対して金属線材を2層以上巻き付けて、最内周に位置する第一線材層L1を含む内側筒状体31を作製する第一の巻き付け工程(
図3(a)、(b))と、金属線材の始端部を心棒の軸方向の他端方向に折り返して、内側筒状体の外周側に配置する折り返し工程(
図3(c))と、心棒を回転させて、始端部及び内側筒状体の外周側に金属線材を巻き付けて外側筒状体32を作製する第二の巻き付け工程(
図3(d))と、を含むことを特徴とする。
本態様は、第一の実施態様と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0033】
10…フィルタ、10a…(軸方向の)一端縁、10b…(軸方向の)他端縁、20…金属線材、20a…始端部、20b…折り返し部、20(m),20(n)…金属線材部分、31…内側筒状体、32…外側筒状体、131…心棒、132…保持具、133…ガイド部材、Lm,Ln…線材層、Ax1…(フィルタの)中心軸、Ax2…(心棒の)中心軸
【手続補正書】
【提出日】2022-01-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
前記金属線材の始端部は、互いに隣接する線材層間に折り込まれていることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項2】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
最内周に位置する第一線材層を含み、前記金属線材が2層以上巻き付けられた内側筒状体と、
該内側筒状体の直外周側に位置し、前記金属線材が巻き付けられた外側筒状体とを備え、
前記金属線材の始端部が、前記内側筒状体と前記外側筒状体との間に折り込まれていることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項3】
前記内側筒状体を構成する前記金属線材のピッチ、及び前記内側筒状体に含まれる前記線材層の数は、前記金属線材の前記始端部が、前記第一線材層の径方向位置と同一にはならず、且つ該位置よりも内径側には突出しないように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項4】
前記金属線材の前記始端部と、前記第一線材層を構成する前記金属線材部分と、の間には折り返し部が形成されており、該折り返し部は前記中空筒状フィルタの軸方向端縁よりも内側に位置することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項5】
金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状フィルタの製造方法であって、
前記金属線材の始端部を、心棒の軸方向の一端側において該心棒と共に回転する保持具に保持させる線材保持工程と、
前記心棒を回転させて、該心棒に対して前記金属線材を2層以上巻き付けて、最内周に位置する第一線材層を含む内側筒状体を作製する第一の巻き付け工程と、
前記金属線材の前記始端部を前記心棒の軸方向の他端方向に折り返して、前記内側筒状体の外周側に配置する折り返し工程と、
前記心棒を回転させて、前記始端部及び前記内側筒状体の外周側に前記金属線材を巻き付けて外側筒状体を作製する第二の巻き付け工程と、
を含むことを特徴とする筒状フィルタの製造方法。