(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040691
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20230315BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230315BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147813
(22)【出願日】2021-09-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発(レーザーデバイス・システム領域)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 晃平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AG20
5F173AH22
5F173AH49
5F173AJ03
5F173AJ04
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5F173AP57
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5F173AP64
5F173AR23
5F241AA03
5F241CA04
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5F241CA53
5F241CA56
5F241CA58
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA74
5F241CA88
5F241CA92
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】量産が可能な方法による製造が可能であって、従来とはピエゾ電界の向きを反転することのできる、窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、n型のGaN基板と、GaN基板の+C側の主面の上層に位置するn型の第一半導体層と、トンネル接合を形成する第二半導体層と、p型の第三半導体層と、p側のガイド層を形成する第四半導体層と、活性層と、n側のガイド層を形成する第五半導体層と、n型の第六半導体層とを備える。半導体積層体は、3以上の異なる幅を有すると共にGaN基板に近づくに連れて幅が広くなるような段差形状を示し、第五半導体層内の第一高さ位置、第三半導体層の活性層に近い側の面と第一半導体層のGaN基板に近い側の面とに挟まれた領域内の第二高さ位置を境に、それぞれ幅が変化する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型のGaN基板と、
前記GaN基板の+C側の主面の上層に位置し、n型不純物が含有された窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に位置し、n型不純物及びp型不純物の両者が含有された窒化物半導体からなり、トンネル接合を形成する、第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に位置し、p型不純物が含有された窒化物半導体からなり、p側のクラッド層を形成する、第三半導体層と、
前記第三半導体層の上層に位置し、p型不純物が含有された又はアンドープの窒化物半導体からなり、p側のガイド層を形成する、第四半導体層と、
前記第四半導体層の上層に位置し、窒化物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上層に位置し、n型不純物が含有された又はアンドープの窒化物半導体からなり、n側のガイド層を形成する、第五半導体層と、
前記第五半導体層の上層に位置し、n型不純物が含有された窒化物半導体からなり、n側のクラッド層を形成する、第六半導体層とを備え、
前記第一半導体層、前記第二半導体層、前記第三半導体層、前記第四半導体層、前記活性層、前記第五半導体層、及び前記第六半導体層を含む半導体積層体は、前記主面に平行な方向から見たときに、3以上の異なる幅を有すると共に、前記主面に直交する方向に関して前記GaN基板に近づくに連れて前記幅が広くなるような段差形状を示し、
前記半導体積層体は、前記主面に平行な方向から見たときに、前記第五半導体層内の第一高さ位置、及び前記第三半導体層の前記活性層に近い側の面と前記第一半導体層の前記GaN基板に近い側の面とに挟まれた領域内の第二高さ位置を境に、それぞれ前記幅が変化することを特徴とする、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第二高さ位置が、前記第三半導体層内に位置することを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記主面に直交する方向に関して、前記第一高さ位置と、前記活性層の前記第五半導体層側の面との間の距離が、30nm~350nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第四半導体層は、アンドープの窒化物半導体からなり、厚みが100nm~300nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第三半導体層及び前記第六半導体層は、いずれもAlを含む窒化物半導体からなり、
前記第六半導体層のAl組成は、前記第三半導体層のAl組成よりも低いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関し、特にGaN基板上に複数の窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いたレーザダイオード(以下、適宜「LD」と略記する。)に関する近年の研究開発により、高出力化や発振波長の長波長化(青色~緑色領域)が進展している。詳細には、例えば光出力5W超の波長455nmの青色LDや、光出力1W超の波長532nmの緑色LDが実現されている。
【0003】
このような窒化物半導体LDは、GaN基板上に、複数の窒化物半導体層が形成された構造を示す(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LDの特性は、光閉じ込め係数Γ、注入効率ηi 、及び内部ロスαi の各パラメータによって決定される。なお、ηi は、一般的には内部効率として定義され、内部量子効率と電流注入効率の積となるが、LDにおいてはキャリア密度が十分高い為、内部量子効率はほぼ1と考えられる。よって、LDにおいては、ηi は電流注入効率と実質的に同義となることから、ここではηi を注入効率としている。ここで、光閉じ込め係数Γは、LD共振器内を伝搬する光のうち、活性層内に閉じ込められる光の割合を指す。注入効率ηi は、生成されたキャリアのうち、活性層内に注入されるキャリアの割合を指す。内部ロスαi は、LD共振器内を伝搬中に共振器内で吸収される光の量を指す。
【0006】
現在、窒化物半導体を用いた可視光領域のLDは、光閉じ込め係数Γが2%台前半、注入効率ηi が60%程度、内部ロスαi が1cm-1程度と見積もられている。現状よりも高いLD特性を実現することを検討した場合、αi の値は既に十分小さく、Γの値も既に十分大きいことから、ηi の値を更に高めることが重要であると考えられる。
【0007】
注入効率ηi の値を高める手段の一つとして、活性層に注入された電子が正孔と再結合することなく活性層を通過してしまう現象、すなわち電子のオーバーフローを抑制することが挙げられる。電子のオーバーフローを抑制する方法として、活性層内の内部電界を逆向きに変えることが考えられる。この点について、
図1A~
図2Bを参照して説明する。
【0008】
図1Aは、GaN基板3上に、活性層72を含む窒化物半導体の積層体が形成された、一般的な可視光領域の窒化物半導体LDの構造を模式的に示す断面図である。
図1Bは、
図1Aに示す窒化物半導体LDにおいて、活性層72の近傍の伝導帯のエネルギーを示したグラフである。
図1Bにおいて、横軸は高さ位置を示し、縦軸は伝導帯のエネルギーを示している。
図1Bは、紙面右方向に進むに連れて、GaN基板3から遠ざかる方向(
図1Aにおける紙面上方向)となるように、図示されている。つまり、
図1Aでは、GaN基板3の上面に、n型半導体層71、活性層72、及びp型半導体層73がこの順に積層された状態が想定されている。
【0009】
特許文献1に記載された窒化物半導体LDを初め、一般的な窒化物半導体LDは、GaN基板3の+C側の主面(Ga極性面)上に、窒化物半導体(71,72,73)をエピタキシャル成長させて製造される。このときに、格子定数の差に起因した内部電界が不可避的に発生する。詳細には、以下の通りである。なお、「+C側の主面」は適宜「+C面」と表記される。
【0010】
窒化物半導体LDにおいては、活性層72にInを含む窒化物半導体(典型的にはInGaN)が用いられる。InGaNは、GaNとInNの混晶である。なお、本明細書中では、InGaNという表記は、InとGaの組成比を省略した記載であり、両者が1:1で混晶されていることを意味しない。AlGaN及びAlInGaN等においても同様である。
【0011】
ここで、GaNとInNには格子定数に差が存在する。具体的には、a軸方向に関し、GaNの格子定数は0.319nmである一方、InNの格子定数は0.354nmである。このため、c軸方向に関してGaN層より上層に、GaNよりも格子定数の大きいInNを含むInGaN層を成長させると、InGaN層は成長面内方向に圧縮歪みを受ける。このとき、正電荷を持つGa及びInと、負電荷を持つNとの分極のバランスが崩れ、c軸方向に沿った電界が発生する(ピエゾ電界)。なお、このピエゾ電界は、In組成が高くなることで顕著になる。窒化物半導体LDの発振波長を青~緑色帯のような長波長化することは、活性層を構成する窒化物半導体のIn組成を高くすることを意味するため、ピエゾ電界が高まることを余儀なくされる。
【0012】
ピエゾ電界は、活性層72のエネルギーバンドの歪みを生じさせる。具体的には、ピエゾ電界に由来する分極現象によって、活性層72を構成する井戸層と障壁層の双方のエネルギーバンドが、それぞれ異なる方向に傾斜する。このようなピエゾ電界によって生じる分極現象は、一般に、量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect:QCSE)と呼ばれる。
【0013】
図1Bには、活性層72が、障壁層(B1,B2,B3)と井戸層(W1,W2)とを含む場合が図示されている。GaN基板3の+C面上に窒化物半導体(71,72,73)が積層される場合、p側からn側に向かうピエゾ電界が発生する。ピエゾ電界に由来して、井戸層(W1,W2)のバンドの底部は、n側からp側に向かう方向に下がっている。一方、障壁層(B1,B2,B3)のバンドの頂部付近の変化は、n側からp側に向かう方向に上がっている。
【0014】
図1Bによれば、p側に最も近い障壁層B3のバンドの頂部に対応するエネルギーは、障壁層B1,B2のバンドの頂部に対応するエネルギーよりも低くなっている。このため、電圧が印加されてn側から電子が注入されると、この電子のうち、井戸層W1内に留まらずに障壁層B2を超えた電子の多くが、井戸層W2で正孔と再結合することなくp側の半導体層に流れ出てしまう(オーバーフロー現象)。つまり、オーバーフローした電子は、活性層内に留められないことになるため、この現象は、上述した注入効率ηi が低下する原因となる。
【0015】
オーバーフローを抑制する方法の一つして、ピエゾ電界の向きを逆転させることが考えられる。このためには、例えば、
図2Aに示すように、GaN基板3の-C側の主面(N極性面)上に、窒化物半導体(71,72,73)をエピタキシャル成長させる方法が考えられる。
図2Bは、
図2Aに示す窒化物半導体LDにおいて、活性層72の近傍の伝導帯のエネルギーを、
図1Bにならって表示したグラフである。以下では、「-C側の主面」が適宜「-C面」と表記される。
【0016】
図1Bと比較して、
図2Bでは、ピエゾ電界の向きが反転していることで、井戸層(W1,W2)のバンドの底部がp側からn側に向かう方向に下がっている。一方、障壁層(B1,B2,B3)のバンドの頂部はp側からn側に向かう方向に上がっている。この結果、電圧が印加されてn側から電子が注入されると、この電子のうち、障壁層B2を超えた電子の多くが、井戸層W2内で留まりやすくなる。この結果、
図1Bの場合と比べて、正孔と電子が再結合する確率が高まり、発光効率が上昇すると予想される。
【0017】
しかしながら、本願の出願時点において、GaN基板の-C面上に膜質の良い窒化物半導体層を成長させる技術が知られていない。GaN基板の-C面上に窒化物半導体層を成長させると、表面に無視できない程度の凹凸が生じたり、多数の結晶欠陥やクラックが生じる傾向が見られる。
【0018】
別の方法として、p型GaN基板の+C面上に、活性層とn型半導体層を、この順に積層する方法が考えられる。しかし、本願の出願時点において、p型GaN基板は実現又は実用化されていないため、この方法も、産業用の窒化物半導体LDの製造方法としては利用が困難である。
【0019】
更に別の方法として、n型GaN基板の+C面上に、p型半導体層、活性層及びn型半導体層の順に窒化物半導体層を成長させる方法が考えられる。しかし、この方法によれば、n型GaN基板とp型半導体層との間に、活性層を挟むp型半導体層とn型半導体層との間とは逆のバイアスのダイオード接続が形成される。この結果、活性層に電流を流すために極めて高い電圧の印加が必要となる。
【0020】
本発明は、上記の課題に鑑み、量産が可能な方法による製造が可能であって、従来とはピエゾ電界の向きを反転することのできる、窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る窒化物半導体発光素子は、
n型のGaN基板と、
前記GaN基板の+C側の主面の上層に位置し、n型不純物が含有された窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に位置し、n型不純物及びp型不純物の両者が含有された窒化物半導体からなり、トンネル接合を形成する、第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に位置し、p型不純物が含有された窒化物半導体からなり、p側のクラッド層を形成する、第三半導体層と、
前記第三半導体層の上層に位置し、p型不純物が含有された又はアンドープの窒化物半導体からなり、p側のガイド層を形成する、第四半導体層と、
前記第四半導体層の上層に位置し、窒化物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上層に形成され、n型不純物が含有された又はアンドープの窒化物半導体からなり、n側のガイド層を形成する、第五半導体層と、
前記第五半導体層の上層に位置し、n型不純物が含有された窒化物半導体からなり、n側のクラッド層を形成する、第六半導体層とを備え、
前記第一半導体層、前記第二半導体層、前記第三半導体層、前記第四半導体層、前記活性層、前記第五半導体層、及び前記第六半導体層を含む半導体積層体は、前記主面に平行な方向から見たときに、3以上の異なる幅を有すると共に、前記主面に直交する方向に関して前記GaN基板に近づくに連れて前記幅が広くなるような段差形状を示し、
前記半導体積層体は、前記主面に平行な方向から見たときに、前記第五半導体層内の第一高さ位置、及び前記第三半導体層の前記活性層に近い側の面と前記第一半導体層の前記GaN基板に近い側の面とに挟まれた領域内の第二高さ位置を境に、それぞれ前記幅が変化することを特徴とする。
【0022】
上記構成の窒化物半導体発光素子は、n型のGaN基板の+C側の主面(+C面)の上層において、+C面に近い側から、n型の第一半導体層、p型の第三半導体層、活性層、及びn型の第六半導体層の順に積層されている(ただし、一部の半導体層の表記を省略している)。このため、仮に窒化物半導体発光素子が第二半導体層を備えない場合、GaN基板側がアノード、第六半導体層側がカソードとなるように電圧が印加されると、第一半導体層と第三半導体層との間に逆バイアスの電圧が印加されることになるため、活性層に電流を流すためには極めて高い電圧が必要となる。
【0023】
しかし、上記構成の窒化物半導体発光素子では、n型不純物及びp型不純物の両者が含有された窒化物半導体からなる第二半導体層が、n型の第一半導体層と、p型の第三半導体層との間に挟まれるように配置されている。第二半導体層は、トンネル接合を形成するように構成されている。より詳細には、第二半導体層は、n型不純物とp型不純物の双方が高濃度に含有されており、n型の第一半導体層とp型の第三半導体層とを区切るナローギャップを形成する。このため、逆バイアスが印加された第三半導体層の価電子帯から、電子を、第二半導体層を介して第一半導体層の伝導帯に向けて移動させることができる。この結果、n型の第一半導体層からp型の第三半導体層に向かって、低電圧のままで電流を流すことができる。
【0024】
そして、この構成によれば、p型の第三半導体層の上層に活性層が形成され、その活性層の上層にn型の第六半導体層が形成されている。このため、n型のGaN基板の+C面に各半導体層を順次成長させることで、素子構造として見ると、活性層はn型の半導体層の-C面側に成長されたことと実質的に等価となる。この結果、活性層の近傍の伝導帯のエネルギーは、
図2Bと同様となり、オーバーフロー現象を抑制する効果が得られる。
【0025】
ところで、窒化物半導体においては、n型化する場合に比べてp型化するのが難しいことが知られている。この理由は、マグネシウム(Mg)等のアクセプタを導入する際に利用される原料ガスに含まれる水素が、アクセプタの活性化を阻害しているためと考えられている。そこで、従来の窒化物半導体発光素子においては、p型半導体層を成長させた後に、赤外線ランプ等を用いた活性化のためのアニール処理が一般的に行われる。このアニール処理によって水素を離脱させて正孔を生じさせ、活性化(p型化)が実現される。
【0026】
図1Aに示したように、従来の窒化物半導体発光素子を製造するに際しては、n型のGaN基板3の上層に、n型半導体層71、活性層72、及びp型半導体層73がこの順にエピタキシャル成長された後、アニール処理が実行される。つまり、アニール処理の実行時には、p型半導体層73は上面に露出されている状態であるため、水素を容易に離脱させることが可能であった。
【0027】
ところが、上記構成の窒化物半導体発光素子では、p型の第三半導体層は最上面に位置しておらず、その上層には活性層及びn型の第六半導体層が形成されている。また、第三半導体層の下層にも、n型の第一半導体層が形成されている。このため、全ての半導体層のエピタキシャル成長を終了後にアニール処理を行っても、水素を充分に離脱させることができない。
【0028】
なお、第三半導体層又は第四半導体層の形成直後にエピタキシャル成長をいったん停止してp型化のためのアニール処理を行った後、再びエピタキシャル成長を継続させて、残りの半導体層を形成する方法も考えられる。しかし、以下の理由によりこの方法は採用できない。n型の半導体層(第六半導体層等)を成長させる際には原料ガスとしてアンモニアが利用される。このアンモニア由来の水素が、p型化が完了した第三半導体層内の格子に取り込まれて、正孔の生成が阻害される可能性があるためである。
【0029】
ここで、本発明に係る窒化物半導体発光素子が備える半導体積層体は、主面に平行な方向から見たときに、3以上の異なる幅を有し、主面に直交する方向に関してGaN基板に近づくに連れてその幅が広くなるような段差形状を示す。より詳細には、半導体積層体は、主面に平行な方向から見たときに、第五半導体層内の位置(第一高さ位置)と、第三半導体層の活性層に近い側の面と第一半導体層のGaN基板に近い側の面とに挟まれた領域内の位置(第二高さ位置)を境に、それぞれ幅が変化するような構造である。実際には、半導体積層体のエピタキシャル成長後、上記の段差構造となるようにエッチング等による加工が施された後、アニール処理が行われる。
【0030】
第二高さ位置が第三半導体層内に存在する場合、アニール処理の実行直前において、p型の第三半導体層の上面が露出している。従って、第三半導体層の上面を介して水素の離脱が進行し、p型化を行える。なお、第二半導体層と第三半導体層との間に、p型のコンタクト層を備える場合も考えられるが、このp型のコンタクト層内に第二高さ位置が存在する場合も同様の議論が可能である。
【0031】
また、第二高さ位置が、トンネル接合を形成する第二半導体層内に存在する場合、アニール処理の実行直前において、第二半導体層内の上面が露出している。第二半導体層内にはp型不純物も含まれていることから、同様に水素の離脱が促進される。
【0032】
なお、第二高さ位置が、第一半導体層内に存在してもよい。このとき、アニール処理の実行直前においては、n型の第一半導体層の上面が露出している。しかしながら、この構成によれば、p型化が必要な各半導体層(p型半導体層)が大きくエッチングされており、活性化が必要なp型半導体層の体積が減少している。つまり、p型不純物を含む各半導体層の露出した側面のみを通じた水素の離脱により、p型化の達成が可能である。
【0033】
そして、本発明に係る窒化物半導体発光素子が備える半導体積層体は、n側のガイド層を構成する第五半導体層内の位置(第一高さ位置)を境に、GaN基板から遠ざかる方向に進むと更に幅が狭くなる構造を示している。詳細には、第一高さ位置よりも上方(GaN基板から離れる方向)に位置する、n側のガイド層(第五半導体層)及びクラッド層(第六半導体層)は、その下層に位置する活性層よりも幅が狭い。この第一高さ位置よりも上方の箇所を、以下では「リッジ部」と称する。
【0034】
前記リッジ部を有する構造を採用することで、電圧が印加されると、活性層内のうちのリッジ部の直下領域のみに電流が集中しやすくなる。この結果、活性層内のリッジ直下の領域が選択的に発光され、水平横モードの定在波を立てやすくなる。これにより、取り出されるレーザ光の出力が高められる。
【0035】
前記主面に直交する方向に関して、前記第一高さ位置と、前記活性層の前記第五半導体層側の面との間の距離は、30nm~350nmとしても構わない。
【0036】
これにより、活性層内のうちのリッジ部の直下領域のみに電流を集中させる効果が高まり、レーザ光の出力を向上させる効果が高まる。
【0037】
前記第四半導体層は、アンドープの窒化物半導体からなり、厚みが100nm~300nmであるものとしても構わない。
【0038】
上述したように、本発明に係る窒化物半導体発光素子が備える半導体積層体は、p型の第三半導体層の上層に活性層が形成されている。つまり、p型の第三半導体層がエピタキシャル成長された後に、活性層がエピタキシャル成長される。
【0039】
ここで、p型の半導体層を炉内でエピタキシャル成長させると、炉内にp型不純物に由来する原子(特にMg)が残存し、この原子が、後の半導体層の成長時に取り込まれやすい。また、エピタキシャル成長時に、p型半導体層内に導入されたMgの一部が、その後にエピタキシャル成長された半導体層内に拡散することも起こり得る。活性層内にMgが取り込まれると、Mgによる非発光準位が非発光再結合中心を形成するため、発光効率を低下させる可能性がある。
【0040】
これに対し、上記のように、第三半導体層と活性層の間に、厚みが100nm以上のアンドープの第四半導体層を形成することで、第三半導体層の成長後に炉内に残存したp型不純物は第四半導体層内に取り込まれるため、その後に成長した活性層内に取り込まれるp型不純物の量を低下できる。これにより、発光効率の低下が抑制される。
【0041】
ただし、第四半導体層の厚みを厚くしすぎると、この第四半導体層が擬似抵抗を形成するため、印加電圧を高めてしまう。かかる観点から、第四半導体層の厚みは300nm以下とするのが好適である。
【0042】
前記第三半導体層及び前記第六半導体層は、いずれもAlを含む窒化物半導体からなり、
前記第六半導体層のAl組成は、前記第三半導体層のAl組成よりも低いものとしても構わない。
【0043】
半導体レーザでは、通常多くの高次横モードが混在した発振モードで発光する。このため、出力が増加すると異なった横モード又はその組み合わせに容易に変位し、発光点位置が移動したり発光出力が変動する現象(キンク)が生じやすい。
【0044】
キンクへの対策としては、横方向における屈折率差を高めて、光閉じ込めを制御する方法が考えられる。詳細には、半導体積層体において、リッジ部の直下に位置する領域内の屈折率と、その外側の領域内の屈折率の差を大きくする方法が考えられる。具体的には、活性層よりも上方のリッジ部に存在する半導体層のAl組成を、活性層よりも下方の層のAl組成よりも低くする方法が考えられる。
【0045】
しかしながら、
図1Aに示したように、従来の窒化物半導体発光素子では、GaN基板から遠い側(上方)にp型半導体層が位置している。このため、仮にリッジ部に存在する半導体層のAl組成を、活性層よりも下方の層のAl組成よりも低くすると、活性層内の光強度分布のピーク位置がリッジ側、すなわちp型半導体層側に近づく。しかしながら、GaN系の場合、p型の活性化率がn型に比べて低いため、p型化を実現するためには、1×10
19/cm
3以上の濃度でp型不純物(Mg等)をドーピングする必要がある。この結果、Mgによる光吸収ロスが大きくなるという問題を生む。更に、p型不純物が活性層側に拡散することで、Mgによる光吸収ロスが増加傾向を示すため、活性層内の光強度分布のピーク位置をp型半導体層側に近づけるのは好ましくない。つまり、
図1Aに示したように、従来の窒化物半導体発光素子では、光吸収ロスに起因した量子効率の低下を抑制するために、リッジ部に存在する半導体層のAl組成を、活性層よりも下方の層のAl組成よりも高めて、活性層内の光強度分布のピーク位置をp型半導体層から離れる側(n型半導体層側)に寄せる必要がある。ただし、その場合、前記屈折率の差を稼ぐことができず、キンクが生じやすい。
【0046】
これに対し、上記の構成によれば、GaN基板から遠い側(上方)にn型の半導体層(第六半導体層)が位置している。この場合、リッジ部に存在する半導体層のAl組成を、活性層よりも下方の層のAl組成よりも低くし、活性層内の光強度分布のピーク位置をn型半導体層側に近づけることができる。その際に屈折率差を稼ぐこともでき、
図1Aに示した従来の窒化物半導体発光素子のような、量子効率の低下の問題が生じにくい。つまり、量子効率の低下を抑制しながら、キンクへの対策を講じることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の窒化物半導体発光素子によれば、n型GaN基板の+C面上に半導体層を形成しつつも、従来とはピエゾ電界の向きを反転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】一般的な可視光領域の窒化物半導体LDの構造を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aに示す窒化物半導体LDにおいて、活性層の近傍の伝導帯のエネルギーを示したグラフである。
【
図2A】GaN基板の-C側の主面(N極性面)上に、窒化物半導体をエピタキシャル成長させた場合の窒化物半導体LDの構造を模式的に示す断面図である。
【
図2B】
図2Aに示す窒化物半導体LDにおいて、活性層の近傍の伝導帯のエネルギーを示したグラフである。
【
図3】本発明に係る窒化物半導体発光素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図3から、半導体層の積層部分のみを抽出して模式的に図示した断面図である。
【
図5】
図4を+Z側から見たときの模式的な平面図である。
【
図6】
図4の一部を拡大した図面に電流の流れが模擬的に付記された図面である。
【
図7】d1=50nmの場合と、d1=500nmの場合において、注入電流と光出力の関係を示すグラフである。
【
図8】d1=50nmの場合において、電流を増加させながら発光素子のNFP(Near Field Pattern)を測定した結果である。
【
図9】
図3に示す窒化物半導体発光素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図10】ステップS3が完了した時点におけるエピタキシャル層の模式的な一部拡大断面図である。
【
図11A】ステップS3が完了した時点におけるエピタキシャル層の模式的な一部拡大断面図である。
【
図11B】ステップS3が完了した時点におけるエピタキシャル層の別の模式的な一部拡大断面図である。
【
図11C】ステップS3が完了した時点におけるエピタキシャル層の別の模式的な一部拡大断面図である。
【
図12】第三半導体層、電子ブロック層及び第四半導体層内におけるMg濃度分布を示すグラフである。
【
図13A】従来の発光素子が備える半導体積層体の構造を模式的に示す断面図と、Z方向に係る光出力分布の模式図とを併せて表示した図面である。
【
図13B】
図3に示す発光素子が備える半導体積層体の構造を模式的に示す断面図と、Z方向に係る光出力分布の模式図とを併せて表示した図面である。
【
図14】本発明に係る窒化物半導体発光素子の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【
図15】本発明に係る窒化物半導体発光素子の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明に係る窒化物半導体発光素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、あくまで模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は、必ずしも実際の寸法比と一致しない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致しない。
【0050】
本明細書内において、「ある層Q1の上層に別の層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜の層Q3を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。ここで「薄膜」とは、膜厚10nm以下の層を指し、好ましくは5nm以下の層を指す。なお、上記において、「Q1」、「Q2」は、説明の便宜のために付した符号であり、図面の符号ではないことに留意されたい。
【0051】
[構造]
図3は、本発明に係る窒化物半導体発光素子(以下、「発光素子」と略記する。)の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図3に示す発光素子1は、GaN基板3と、GaN基板3の上層に形成された、第一半導体層11、第二半導体層12、第三半導体層13、第四半導体層14、活性層5、第五半導体層15、及び第六半導体層16を備える。
【0052】
以下の説明では、GaN基板3の主面をXY平面とし、GaN基板3の主面に対して半導体層が積層されている方向をZ方向とした、X-Y-Z座標系が適宜参照される。この表記を用いると、
図3は、発光素子1をYZ平面で劈開したときの模式的な平面図に対応する。また、本実施形態において発光素子1は、レーザダイオード素子(LD素子)であり、共振方向すなわち光出射方向がX方向である。このときYZ平面は光出射面に対応する。
【0053】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0054】
(GaN基板3)
GaN基板3は、n型の基板である。GaN基板3は、Ga極性を示す+C面と、N極性を示す-C面とを備えている。
図3において、GaN基板3の+Z側の面が「+C面」であり、-Z側の面が「-C面」である。
【0055】
(第一半導体層11)
第一半導体層11は、GaN基板3の+C面上に形成されており、n型窒化物半導体からなる。第一半導体層11は、例えばSi、Ge、S、Se、Sn、又はTeなどのn型不純物がドープされており、好ましくは、ドーパントがSiである。第一半導体層11は、例えばn型のAlGaNである。
【0056】
第一半導体層11の膜厚は、0.1μm~10μmであり、好ましくは、0.5μm~5μmである。第一半導体層11のn型不純物濃度は、1×1017/cm3~3×1019/cm3であり、好ましくは、5×1017/cm3~1×1019/cm3である。また、第一半導体層11のAl組成比率は、0%より大きく、10%以下であり、好ましくは、1%~5%である。
【0057】
典型的な一例として、第一半導体層11は、膜厚1μm、n型不純物濃度5×1018/cm3のAl0.03Ga0.97Nである。
【0058】
なお、第一半導体層11は、n型AlGaN層とn型GaN層との積層体であっても構わない。また、n型AlGaN層に替えて、n型AlInN層、n型InGaN層、及びn型AlInGaN層の少なくともいずれか1種の層を含む構造であっても構わない。
【0059】
(第二半導体層12)
図3に示す第二半導体層12は、第一半導体層11の上層に位置し、n型不純物及びp型不純物の両者が含有された窒化物半導体からなる。詳細には、第二半導体層12は、第一半導体層11よりも高濃度でn型不純物が含有され、また、後述する第三半導体層13よりも高濃度でp型不純物が含有されている。第二半導体層12は、GaN、Al組成比率が0.1%~5%のAlGaN、又はIn組成比率が0%より大きく10%以下のInGaNであり、好ましくはGaNである。
【0060】
第二半導体層12に含まれるn型不純物としては、Si、Ge、S、Se、Sn、又はTeなどが利用可能であり、好ましくはSiである。第二半導体層12に含まれるp型不純物としては、Mg、Be、Zn、又はCなどが利用可能であり、好ましくはMgである。
【0061】
第二半導体層12は、n型不純物及びp型不純物が、共に1×1020/cm3以上といった高濃度でドープされている。好ましくは、n型不純物濃度及びp型不純物濃度は、1×1020/cm3~3×1021/cm3である。また、第二半導体層12の膜厚は、2nm~30nmであり、好ましくは、5nm~20nmである。
【0062】
典型的な一例として、第二半導体層12は、膜厚15nm、n型不純物濃度5×1020/cm3、p型不純物濃度3×1020/cm3の、GaNである。
【0063】
なお、第二半導体層12は、n型不純物が高濃度にドープされたGaN層と、p型不純物が高濃度にドープされたGaN層とが積層されているものとしても構わない。ただし、この場合であっても、n型不純物が高濃度にドープされた層と、p型不純物が高濃度にドープされた層とが隣接して積層されるため、n型不純物がp型層側に拡散し、同様にp型不純物がn型層側に拡散することで、両方の不純物が混在した層として形成される可能性がある。
【0064】
(p型コンタクト層21)
図3に示す発光素子1は、第二半導体層12の上層に形成されたp型コンタクト層21を備える。ただし、発光素子1がp型コンタクト層21を備えるか否かは任意である。
【0065】
p型コンタクト層21は、例えばMg,Be,Zn又はCなどのp型不純物がドープされており、好ましくは、ドーパントがMgである。p型コンタクト層21は、例えばp型のGaN又はAlGaNである。
【0066】
p型コンタクト層21のp型不純物濃度は、5×1018/cm3~1×1021/cm3であり、好ましくは、1×1019/cm3~1×1020/cm3である。p型コンタクト層21の膜厚は2nm~30nmであり、好ましくは5nm~20nmである。
【0067】
(第三半導体層13)
図3に示す第三半導体層13は、第二半導体層12の上層に位置し、p型不純物が含有された窒化物半導体からなる。第三半導体層13は、活性層5に対してp側のクラッド層を構成する。
【0068】
第三半導体層13は、例えばMg、Be、Zn、又はCなどのp型不純物がドープされており、好ましくは、ドーパントがMgである。第三半導体層13は、例えばp型のAlGaNである。
【0069】
第三半導体層13の膜厚は、100nm~1000nmであり、好ましくは、200nm~800nmである。第三半導体層13のp型不純物濃度は、1×1017/cm3~5×1019/cm3であり、好ましくは1×1018/cm3~3×1019/cm3である。また、第三半導体層13をAlGaNで構成する場合、Al組成比率は、0.1%~10%であり、好ましくは1%~7%以下である。
【0070】
一例として、第三半導体層13は、膜厚300nm、p型不純物濃度1×1019/cm3のp型Al0.06Ga0.94Nである。
【0071】
本実施形態において、第三半導体層13の一部箇所で、幅(Y方向に係る長さ)が変化している。より詳細には、GaN基板3に近い側では幅広であり、GaN基板3から離れる側では幅狭である。
【0072】
(電子ブロック層23)
図3に示す発光素子1は、第三半導体層13の上層に形成された電子ブロック層23を備える。ただし、発光素子1が電子ブロック層23を備えるか否かは任意である。電子ブロック層23は、第三半導体層13と同様に、例えばMg、Be、Zn、又はCなどのp型不純物がドープされており、好ましくは、ドーパントがMgである。電子ブロック層23は、例えばp型のAlGaNである。
【0073】
電子ブロック層23の膜厚は3nm~30nmであり、好ましくは5nm~20nmである。電子ブロック層23のp型不純物濃度は、1×1018/cm3~5×1019/cm3であり、好ましくは5×1018/cm3~3×1019/cm3である。また、電子ブロック層23をAlGaNで構成する場合、Al組成比率は5%~50%であり、好ましくは10%~30%である。
【0074】
一例として、電子ブロック層23は、膜厚10nm、p型不純物濃度1×10
19/cm
3のp型Al
0.15Ga
0.85Nからなる。電子ブロック層23は、活性層5内で正孔と再結合されなかった電子が、第三半導体層13側へとオーバーフローするのを抑制するために設けられる。しかし、本実施形態の発光素子1は、
図2A~
図2Bを参照して上述したのと同様の理由により、ピエゾ電界が逆向きになっているため、元々オーバーフローを抑制する機能が実現されていることから、前記のとおり電子ブロック層23の存在は任意である。
【0075】
(第四半導体層14)
図3に示す第四半導体層14は、窒化物半導体からなり、第三半導体層13の上層に位置し、活性層5に対してp側のガイド層を構成する。この実施形態では、第四半導体層14は、GaN層14aと、InGaN層14bとを含む。ただし、第四半導体層14は、GaN層14aとInGaN層14bの一方のみを備える構成であっても構わない。
【0076】
GaN層14aは、例えばアンドープのGaN層であり、膜厚は20nm~300nm以下であり、好ましくは50nm~200nmである。一例として、GaN層14aは、膜厚100nmのアンドープGaNである。
【0077】
InGaN層14bは、例えばアンドープのInGaN層である。InGaN層14bのIn組成比率は、0.1%~10%であり、好ましくは1%~7%以下である。InGaN層14bの膜厚は20nm~300nm以下であり、好ましくは50nm~200nmである。一例として、InGaN層14bは、膜厚150nmのアンドープInGaNである。
【0078】
なお、第四半導体層14は、全体として膜厚が100nm~300nmとするのがより好ましい。この点は後述される。
【0079】
(活性層5)
図3に示す活性層5は、窒化物半導体からなり、第四半導体層14の上層に形成されている。活性層5は、量子井戸構造を有し、多重量子井戸構造でも単一量子井戸構造でも構わないが、好ましくは多重量子井戸構造である。
【0080】
活性層5を構成する材料によって、発光素子1の発光波長が決定される。一例として、活性層5は、In組成比率が0.1%~30%の膜厚10nmのInGaNからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きく、In組成比率が0.1%~5%で膜厚10nmのInGaNからなる障壁層とが、2周期繰り返されて形成される。ただし、活性層5を構成する材料、膜厚及び周期数は、適宜設定される。
【0081】
(第五半導体層15)
図3に示す第五半導体層15は、窒化物半導体からなり、活性層5の上層に位置し、活性層5に対してn側のガイド層を構成する。この実施形態では、第五半導体層15は、InGaN層15aと、GaN層15bとを含む。ただし、第五半導体層15は、InGaN層15aとGaN層15bの一方のみを備える構成であっても構わない。
【0082】
InGaN層15aは、例えばn型のInGaN層である。InGaN層15aのIn組成比率は、0.1%~10%であり、好ましくは1%~7%以下である。InGaN層15aの膜厚は20nm~300nm以下であり、好ましくは50nm~200nmである。InGaN層15aのn型不純物濃度は、2×1016/cm3~1×1019/cm3であり、好ましくは、1×1017/cm3~1×1018/cm3である。一例として、InGaN層15aは、膜厚150nm、n型不純物濃度5×1017/cm3のn型In0.03Ga0.97Nからなる。
【0083】
GaN層15bは、例えばn型のGaN層である。GaN層15bの膜厚は20nm~300nm以下であり、好ましくは50nm~200nmである。GaN層15bのn型不純物濃度は、2×1016/cm3~1×1019/cm3であり、好ましくは、1×1017/cm3~1×1018/cm3である。一例として、GaN層15bは、膜厚100nm、n型不純物濃度5×1017/cm3のn型GaNである。
【0084】
本実施形態において、第五半導体層15の一部箇所(この例ではInGaN層15a内)で、幅(Y方向に係る長さ)が変化している。より詳細には、第五半導体層15は、GaN基板3に近い側では幅広であり、GaN基板3から離れる側では幅狭である。
【0085】
(第六半導体層16)
図3に示す第六半導体層16は、第五半導体層15の上層に位置し、n型不純物が含有された窒化物半導体からなる。第六半導体層16は、活性層5に対してn側のクラッド層を構成する。
【0086】
第六半導体層16は、例えばSi、Ge、S、Se、Sn、又はTeなどのn型不純物がドープされており、好ましくはドーパントがSiである。第六半導体層16は、例えばn型のAlGaNである。
【0087】
第六半導体層16の膜厚は、100nm~800nmであり、好ましくは200nm~500nmである。第六半導体層16のn型不純物濃度は、1×1017/cm3~3×1019/cm3であり、好ましくは5×1017/cm3~1×1019/cm3である。また、第六半導体層16をAlGaNで構成する場合、Al組成比率は、3%~15%であり、好ましくは、5%~10%である。
【0088】
なお、第六半導体層16のAl組成比率は、第三半導体層13のAl組成比率よりも低いのが好ましい。この点については後述される。
【0089】
典型的な一例として、第六半導体層16は、膜厚350nm、n型不純物濃度5×1018/cm3のAl0.04Ga0.96Nである。
【0090】
(第一電極61,第二電極62)
図3に示すように、発光素子1は、第六半導体層16に連絡された第一電極61、GaN基板3の裏面に形成された第二電極62を備える。
【0091】
第一電極61は、具体的にはn型AlGaNからなる第六半導体層16の面上に形成され、好ましくはITOで構成される。ただし、第六半導体層16の上面に、n型不純物が更に高濃度にドープされたコンタクト層が設けられ、このコンタクト層の上面に第一電極61が形成されていても構わない。
【0092】
ITOの屈折率は約2.2であり、n側のガイド層を構成するGaN層15bの屈折率2.4や、n側のクラッド層を構成するAlGaN(第六半導体層16)の屈折率2.35よりも低く、且つ、近い値を示す。このため、第一電極61をITOで構成すると、活性層5を基準としたときに、第五半導体層15及び第六半導体層16よりも離れた位置に形成される第一電極61内においても光を閉じ込めることができる。
【0093】
なお、第一電極61は、必ずしも光を閉じ込める機能を有していなくてもよい。この場合、第一電極61は、Cr/Pt/Au、Cr/Au、Ti/Au、Ti/Pt/Au、Ti/Al/Ti/Au、Ni/Au、Ni/Al/Ni/Ti/Pt/Auなどで構成される。
【0094】
本実施形態では、第二電極62は、GaN基板3の裏面(-C面)側に形成されている。第二電極62は、例えば、Cr/Pt/Au、Cr/Au、Ti/Au、Ti/Pt/Au、Ti/Al/Ti/Au、Ni/Au、Ni/Al/Ni/Ti/Pt/Auなどで構成される。
【0095】
(パッド電極63)
図3に示すように、第一電極61の上面には、パッド電極63が形成されている。パッド電極63は、ボンディングワイヤを接続するための領域を形成し、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で構成される。
【0096】
(絶縁層81)
図3に示すように、発光素子1は、半導体層の一部上面及び側面を覆う、保護用の絶縁層81を備える。絶縁層81は、例えば、SiO
2、Al
2O
3、SiN等である。
【0097】
[段差構造]
図4は、
図3に示す発光素子1から、半導体層の積層部分(以下、「半導体積層体8」という。)のみを抽出して模式的に図示した断面図である。また、
図5は、
図4を+Z側から見たときの模式的な平面図である。
【0098】
図4に示すように、半導体積層体8は、GaN基板3に平行な方向(ここではX方向)から見たときに、3つの異なる幅(W1,W2,W3)を有する。更に、これらの幅は、Z方向に関してGaN基板3に近づくに連れて、すなわち-Z方向に進むに連れて広がっている。
【0099】
より詳細には、
図4の例では、半導体積層体8の幅は、第一高さ位置H1を境に-Z方向に進行すると、W1から幅広のW2に変化している。更に、半導体積層体8の幅は、第二高さ位置H2を境に-Z方向に進行すると、W2から幅広のW3に変化している。
【0100】
第一高さ位置H1から、活性層5の+Z側の主面までの距離d1は、狭くすることで活性層5内の電流を狭窄する機能が実現される。
図6は、活性層5内を流れる電流の流れを説明するための図面であり、
図4の一部を拡大した図面に電流の流れを模擬的に付記した図面である。ただし、
図6では、電子ブロック層23の図示が省略されている。
【0101】
前記距離d1が長くなると、p側すなわち第三半導体層13から、リッジ部9よりも外側に位置する活性層5を通過してn側(第五半導体層15,第六半導体層16)に向かう電流I2が流れやすくなる。電流I2は、活性層5内におけるリッジ部9の直下の領域5aの発光には寄与しない。このため、電流I2はレーザ発振には寄与しない電流となり、電流I2が多くなることは発光効率の低下を招く。
【0102】
これに対し、距離d1を短くすることで、電圧が印加されてp側から流れる電流は、リッジ部9の直下の領域を流れる電流I1が支配的になる。これにより、活性層5内におけるリッジ部9の直下の領域5aを選択的に発光でき、発光効率が高められる。
【0103】
以下の表1は、上記距離d1を変えながら発光素子1のサンプルを作成し、それぞれのI-L(電流-光出力)特性を評価した結果である。なお、表1において、d1=50nmとしたときの光出力を基準光出力として、基準光出力と同等(0.9倍~1.1倍)の光出力を示したものを「評価A」、基準光出力の0.6倍~0.7倍程度の光出力を示したものを「評価B」、基準光出力の0.5倍以下の光出力を示したものを「評価C」とした。
【0104】
【0105】
図7は、d1=50nmの場合と、d1=500nmの場合において、注入電流と光出力の関係を示すグラフである。
図7によれば、d1=500nmの場合には、注入電流を高めても光出力が極めて低い値に留まって殆ど変化していないことが分かる。これに対し、d1=50nmの場合には、注入電流を高めるほど光出力が増加傾向を示すことが分かる。この結果は、d1の値を500nm程度まで大きくすると、活性層5内におけるリッジ部9の直下の領域5aを選択的に発光させることができず、ほとんど発振に寄与しない光が得られていることを示唆するものである。
【0106】
図8は、d1=50nmの場合において、電流を増加させながら、発光素子1の光出射面近傍の出力分布であるNFP(Near Field Pattern)を測定した結果である。
図8において、破線は発振が生じる前のNFPを示し、実線は発振が生じた後のNFPを示している。
図8によれば、発振前後でNFPの幅(発光幅)は殆ど変化していないことが分かる。このことからも、d1=50nmの場合には、活性層5内おいて、リッジ部9の直下の領域5aに選択的に電流が流れ、当該領域が発光していることが示唆される。表1の結果と総合すると、d1の値を30nm~350nmとすることで、同様に活性層5内のうちのリッジ部9の直下の領域5aを選択的に発光できることが理解される。
【0107】
[製造方法]
発光素子1の製造方法の一例について説明する。
【0108】
(ステップS1)
GaN基板3を準備する。
【0109】
(ステップS2)
図9に示すように、GaN基板3の+C面上に、各半導体層(11,12,21,13,23,14,5、15,16)をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長時には、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相蒸着)装置の処理炉内にGaN基板3を配置し、窒素ガスや水素ガスといったキャリアガスを流しつつ、温度及び圧力を所定の値にしながら、各層に対応した原料ガスを流すことで実行される。また、材料ガスの導入時間によって膜厚が制御される。
【0110】
例えば、GaN層を成長させる際には、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)が用いられる。AlGaN層を成長させる際には、原料ガスとしてTMG及びトリメチルアルミニウム(TMA)が用いられる。InGaN層を成長させる際には、原料ガスとしてTMG及びトリメチルインジウム(TMI)が用いられる。
【0111】
n型不純物を半導体層にドープする際には、上記の半導体層の原料ガスに加えて、テトラエチルシラン及びアンモニアが炉内に供給される。p型不純物を半導体層にドープする際には、上記の半導体層の原料ガスに加えて、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)及びアンモニアが炉内に供給される。不純物濃度は、これらドーパントを供給するためのガスの流量が制御されることで調整される。
【0112】
(ステップS3)
ステップS2まで完了したウェハ(エピタキシャルウェハ)をMOCVD装置から取り出し、
図4に示したような形状になるよう、半導体積層体8に対してエッチングする。エッチング方法は、ドライエッチングでもウェットエッチングでも構わない。
【0113】
本実施形態の例では、第二高さ位置H2が第三半導体層13内に位置している。このため、ステップS3を経て、第三半導体層13の一部上面が露出する。また、第一高さ位置H1が第五半導体層15内に位置しているため、ステップS3を経て、第五半導体層15の一部上面が露出する。
【0114】
(ステップS4)
ステップS3の処理が完了した後、エピタキシャルウェハに対して活性化処理が行われる。具体的な一例としては、RTA(Rapid Thermal Anneal:急速加熱)装置を用いて、酸素雰囲気又は空気雰囲気下中で加熱される。この工程は、第三半導体層13等のp型半導体に含有されたp型不純物を活性化する目的で行われる。一例としては、720℃で30分間の加熱処理が行われる。
【0115】
ステップS2において、第三半導体層13を成長させる際には、アンモニアガスが利用されるため、このアンモニアに含まれる水素の一部が結晶格子内に混入し、正孔の生成の妨げとなることがある。つまり、ステップS2の完了時点において、第三半導体層13は、p型不純物はドープされているものの、キャリア濃度が低い状態である。本ステップS4において加熱処理が施されることで、格子に結合されていた水素が離脱し、正孔が現れる。
【0116】
図10に示すように、ステップS3を経た状態では、第三半導体層13の一部上面が露出している。このため、このステップS4の実行時に、第三半導体層13の側面のみならず上面を通じて水素を第三半導体層13の外へ離脱させることができる。これにより、第三半導体層13をp型化できる。
図10では、水素が離脱する様子が矢印にて模式的に示されている。
【0117】
なお、ステップS3において、第二高さ位置H2がp型のコンタクト層21内に位置するようにエッチングを行っても構わない。この場合、ステップS4においては、第三半導体層13の側面及びコンタクト層21の側面のみならず、コンタクト層21の上面を通じて水素を離脱させることができる(
図11A参照)。
【0118】
また、ステップS3において、第二高さ位置H2が、p型不純物とn型不純物が含有された第二半導体層12内に位置するようにエッチングを行っても構わない。この場合、ステップS4においては、第三半導体層13の側面、コンタクト層21の側面、及び第二半導体層12の側面のみならず、第二半導体層12の上面を通じて水素を離脱させることができる(
図11B参照)。
【0119】
更に、ステップS3において、第二高さ位置H2が、第一半導体層11内に位置するようにエッチングを行っても構わない。この場合、ステップS4において、水素を離脱できる経路としては、第三半導体層13の側面、コンタクト層21の側面、及び第二半導体層12の側面が挙げられ、第一半導体層11の上面からは離脱させることができない(
図11C参照)。しかしながら、この態様の場合は、ステップS3においてエッチングされる、p型不純物が含有された半導体層の量が多いため、p型化する必要が生じる半導体層の体積自体が低下している。このため、上記側面のみからでも水素が十分に離脱でき、p型化を実現できる場合がある。
【0120】
(ステップS5)
その後、
図3に示すように、第六半導体層16の上面に第一電極61を形成する。具体的な一例としては、ITOを所定の膜厚だけ蒸着又は塗布した後、低抵抗化のためのアニール処理を行う。なお、このアニール処理を、ステップS4のアニール処理と兼ねても構わない。
【0121】
(ステップS6)
図3に示すように、第二高さ位置H2よりも上方(+Z側)に位置する半導体層の露出面及び、第一電極61の一部上面を覆うように、例えばSiO
2からなる絶縁層81が形成される。
【0122】
(ステップS7)
図3に示すように、第一電極61の上面にパッド電極63が形成される。パッド電極63の形成に際しては、フォトリソグラフィ法、真空蒸着法、及びリフトオフ法が用いられる。
【0123】
(ステップS8)
図3に示すように、GaN基板3の裏面に第二電極62が形成される。より詳細な一例としては、真空蒸着装置を用いて第二電極62の材料(例えばCr/Pt/Au、Ti/Pt/Au)を成膜した後、例えば、450℃、10分間の加熱によるアニール処理が施される。
【0124】
GaN基板3の厚さを例えば100μm程度に薄膜化した後、共振器端面を形成する為の劈開が行われる。その後、前方及び後方の共振器端面に、例えばAlN/Al2O3/SiO2/Ta2O5からなるコーティングが施される。双方の共振器端面に形成されるコーティング膜の材料及び膜厚は、必要とする反射率に応じて適宜変更可能である。その後、共振器と平行方向に素子ごとに分離するためのスクライブライン処理が施される。その後、スクライブラインに沿って素子ごとに分割された後、パッケージに組み込まれて実装される。
【0125】
[第四半導体層14の厚みの検証]
図9を参照して上述したように、ステップS2では、活性層5が、p型の半導体層である第三半導体層13よりも後で成膜される。このため、p型不純物が拡散し、活性層5内に侵入するおそれがある。
【0126】
特に、p型不純物としてマグネシウム(Mg)を用いる場合、第三半導体層13を成長させた後の処理炉内にはMgが残存しやすく、その後に、アンドープやn型の半導体層を成長させても、炉内に残存したMgが取り込まれるおそれがある。また、第三半導体層13からもMgが拡散することが考えられる。もし、活性層5にMgが取り込まれると、Mgによる非発光準位が非発光再結合中心を形成するため、発光効率を低下させる可能性がある。
【0127】
かかる観点から、第三半導体層13と活性層5の間に成膜される、第四半導体層14については、少なくとも活性層5に近い位置の層をアンドープ層とした上で、ある程度の厚みを有するのが好ましい。
【0128】
下記の表2は、第四半導体層14の厚みd2(
図6,
図9参照)を異ならせて、上記ステップS1~S7に準じて発光素子1のサンプルを作成し、それぞれのI-L(電流-光出力)特性及びI-V(電流-電圧)特性を評価した結果である。
【0129】
表2のI-L特性では、d2=250nmとしたときの光出力を基準光出力として、基準光出力と同等(0.9倍~1.1倍)の光出力を示したものを「評価A」、基準光出力の0.7倍~0.8倍程度の光出力を示したものを「評価B」、基準光出力の0.6倍以下の光出力を示したものを「評価C」とした。
【0130】
表2のI-V特性では、d2=250nmとしたときの、電流が流れ始めた時の立ち上がり電圧を基準電圧として、基準電圧と同等(基準電圧との差が0.1V未満)の立ち上がり電圧を示したものを「評価A」、基準電圧よりも0.1V以上0.2V未満だけ高い立ち上がり電圧を示したものを「評価B」、基準電圧よりも0.2V以上高い立ち上がり電圧を示したものを「評価C」とした。
【0131】
【0132】
表2によれば、d2=50nmの場合は、d2=250nmのときと比較して、光出力が大幅に低下したことが確認された。d2=50nmの場合は、活性層5とp型の第三半導体層13とが近接していることから、第三半導体層13又は炉内から拡散したMgが活性層5内に侵入し、発光に寄与しない準位が活性層5内に生成されたことに由来するものと考えられる。
【0133】
図12は、第三半導体層13、電子ブロック層23、及び第四半導体層14内をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)により分析し、Mgの濃度の分布を調べた結果を示すグラフである。なお、
図12は、電子ブロック層23の成膜時におけるMgの流量を、0sccm、70sccm、及び200sccmの3種類の条件で行ったときの結果が示されている。なお、第四半導体層14はアンドープ層としたため、成膜時のガスにMgは含まれていない。
【0134】
図12によれば、Mg流量が70sccm及び200sccmの場合、第四半導体層14内のMg濃度は、電子ブロック層23の近傍においては高い値が示されており、電子ブロック層23との界面から100nm程度離れたところで、検出限界に近い値まで低下していることが確認される。また、Mg流量が0sccmの場合、第四半導体層14内のMg濃度は、電子ブロック層23の近傍においては高い値が示されており、電子ブロック層23との界面から100nm程度離れたところで、検出限界に近い値まで低下していることが確認される。
【0135】
図12の結果は、表2において、d2=50nmの場合が、d2=250nmのときよりも光出力が大幅に低下した理由に関する上述した考察を裏付けるものであると考えられる。
【0136】
なお、表2によれば、d2の値が350nm以上に達すると、無視できない程度に印加電圧の上昇を招くことが確認された。この理由は、活性層5とp型の第三半導体層13との間に位置するアンドープの第四半導体層14の膜厚が厚くなり過ぎたことで、実質的な抵抗成分を構成したことによるものと考えられる。
【0137】
以上の結果を踏まえると、I-L特性及びI-V特性の両者を良好にする観点からは、活性層5に近接して配置されるアンドープの半導体層(第四半導体層14)の厚みd2を、100nm~300nmとするのが好ましいことが分かる。
【0138】
[Al組成]
上述したように、発光素子1において、第六半導体層16のAl組成比率は、第三半導体層13のAl組成比率よりも低いのが好ましい。この理由について、
図13A及び
図13Bを参照して説明する。
【0139】
図13Aは、
図1Aを参照して上述した、従来の発光素子91が備える半導体積層体78の構造を模式的に示す断面図と、Z方向に係る光出力分布の模式図とを併せて表示した図面である。
図13Bは、
図3を参照して上述した、本実施形態の発光素子1が備える半導体積層体8の構造を模式的に示す断面図と、Z方向に係る光出力分布の模式図とを併せて表示した図面である。
【0140】
なお、
図13Aでは、
図13Bと対応させる観点から、n型半導体層71と活性層72との間にn側ガイド層74が配置され、活性層72とp型半導体層73との間にp側ガイド層75が配置されている場合が図示されている。
【0141】
図13Aに示す従来の発光素子91は、活性層72よりも+Z側にp型半導体層73が配置されている。GaN系の場合、p型の活性化率がn型に比べて低いため、p型化を実現するためには、1×10
19/cm
3以上の濃度でMg等のp型不純物をドーピングする必要があり、Mgによる光吸収ロスが大きくなる。加えて、
図12を参照して上述したように、p型不純物は拡散しやすい性質を有している。このため、活性層72のうち、p型半導体層73に近い側の領域には、Mgが侵入して光吸収のロスの増加を引き起こす可能性があり、発光素子91の発光効率の低下を抑制するためには、光強度分布のピーク位置を、活性層72の中心から-Z側、すなわちp型半導体層から離れる側に寄せる必要がある。これは、活性層72よりも+Z側に位置するp型半導体層73のAl組成を、活性層72よりも-Z側に位置するn型半導体層71のAl組成よりも高めることで可能となる。
【0142】
発光素子91において、活性層72内の特定の箇所に光を閉じ込めて発振させる観点からは、p型半導体層73を
図6のリッジ部9と同様の形状にすることが考えられる。ただし、リッジ部を構成するp型半導体層73のAl濃度を、幅広のn型半導体層71のAl濃度よりも高くすると、半導体積層体78内において、リッジ部直下の領域と、その外側の領域との間の屈折率差を十分に稼ぐことができず、キンクが生じやすい。
【0143】
これに対し、本実施形態の発光素子1は、活性層5よりも+Z側にn型の第六半導体層16が配置されているため、光強度分布のピーク位置を、活性層5の中心から+Z側に寄せても、発光効率が低下するおそれが低い。よって、活性層5よりも+Z側に位置するn型の第六半導体層16のAl組成を、活性層5よりも-Z側に位置するp型の第三半導体層13のAl組成よりも低くすることができる。これにより、半導体積層体8内において、リッジ部9の直下の領域と、その外側の領域との間の屈折率差が十分に得られ、キンクを抑制する効果が得られる。
【0144】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0145】
〈1〉上記実施形態では、第二電極62がGaN基板3の裏面(-Z側の主面)に形成されるものとしたが、第一電極61と同じく、GaN基板3よりも+Z側に形成されても構わない。より詳細な例としては、
図14に示すように、第一半導体層11の一部を第三高さ位置H3において露出させ、この露出面の上面に第二電極62及びパッド電極64を配置する方法が採用できる。この場合には、半導体積層体は4つの異なる幅を有することになる。
【0146】
図14に示す発光素子1を実現する場合には、ステップS3において、第一高さ位置H1において第五半導体層15を露出させ、第二高さ位置H2において第三半導体層13を露出させ、第三高さ位置H3において第一半導体層11を露出させるように、エッチングを行えばよい。ただし、第二高さ位置H2においては、
図11A~
図11Bを参照して上述したように、コンタクト層21内に位置させても構わないし、第二半導体層12内に位置させても構わない。また、
図11Cを参照して上述したように、第二高さ位置H2を第一半導体層11内に位置させてもよく、この場合には、第三高さ位置H3と第二高さ位置が共通するため、エッチング回数は少なくとも2回で実現できる。
【0147】
〈2〉上記実施形態では、発光素子1がLD素子であるものとしたが、端面に反射を抑制するコーティング層が形成された、SLD(Super Luminescent Diode)素子としても構わない。
【0148】
〈3〉発光素子1は、紫外光領域である365nm~430nmを主たる発光波長とする素子としても構わないし、青色光~緑色光領域である430nm~550nmを主たる発光波長とする素子としても構わない。半導体積層体8を構成する各半導体層の材料組成は、発光波長に応じて適宜選択される。
【0149】
〈4〉発光素子1は、活性層5内の電流を狭窄する機能を更に高める観点から、第四半導体層14内のY方向に係る両側に、第四半導体層14よりも高抵抗な埋め込み層31を設けるものとしても構わない(
図15参照)。
図15では、第四半導体層14のうちのGaN層14a内に、GaNよりも高抵抗な材料からなる埋め込み層31が形成されている例が示されている。
【0150】
図15は、
図3に示す発光素子1に対して追加的に埋め込み層31を設ける構成を示している。しかし、この埋め込み層31は、
図11A~
図11Cを参照して上述した別構成や、
図14に示す別構成に対しても適用可能である。
【0151】
埋め込み層31は、第四半導体層14よりも高抵抗な層であればよく、例えばAlN又はAlInNである。特に、GaN層14a内に埋め込み層31を設ける場合には、GaNとの良好な格子整合を確保する観点から、埋め込み層31はAlInNであるのが好ましい。詳細な一例として、埋め込み層31は、膜厚100nmのアンドープのAl0.82In0.18Nである。埋め込み層31は、GaN層14a内に埋め込まれる場合には、GaN層14aよりも薄い膜厚であればよい。
【0152】
第四半導体層14内の領域のうち、Y方向に関して埋め込み層31に挟まれた領域32は、Z方向に関してリッジ部9(
図6も参照)と重なり合う。より好ましくは、領域32のY方向に係る幅が、リッジ部9のY方向に係る幅よりも狭い。このような埋め込み層31が第四半導体層14内に設けられることで、発光素子1に対して電圧を印加した際に、活性層5内を流れる電流のうちの殆どをリッジ部9の直下の領域に流すことができる。つまり、この構成によれば、
図6を参照して上述した電流I2の量が更に低下され、活性層5内におけるリッジ部9の直下の領域5aをより選択的に発光できるため、発光効率が更に高められる。
【0153】
埋め込み層31を第四半導体層14内に設ける方法としては、例えば以下の方法が利用できる。
【0154】
上述したステップS2において、GaN基板3の+C面上に、各半導体層(11,12,21,13,23)をエピタキシャル成長させた後、第四半導体層14の一部をエピタキシャル成長させる。その後、第四半導体層14の上層に埋め込み層31を形成する材料(例えばAlInN)を成長させる。
【0155】
次に、このAlInNの上面にパターニングされたSiO2等からなるマスクを形成し、このマスクを介して熱リン酸等の溶液を用いてAlInNを除去して、第四半導体層14の上面を露出させる。その後、マスクを除去し、引き続き、第四半導体層14をエピタキシャル成長させ、次いで、残りの半導体層(5、15,16)をエピタキシャル成長させる。以下は、上述した実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0156】
1 :発光素子
3 :GaN基板
5 :活性層
5a :活性層内のリッジ部の直下の領域
8 :半導体積層体
9 :リッジ部
11 :第一半導体層
12 :第二半導体層
13 :第三半導体層
14 :第四半導体層
14a :GaN層
14b :InGaN層
15 :第五半導体層
15a :InGaN層
15b :GaN層
16 :第六半導体層
21 :コンタクト層
23 :電子ブロック層
31 :埋め込み層
32 :埋め込み層に挟まれた領域
61 :第一電極
62 :第二電極
63 :パッド電極
64 :パッド電極
71 :n型半導体層
72 :活性層
73 :p型半導体層
74 :n側ガイド層
75 :p側ガイド層
78 :半導体積層体
81 :絶縁層
91 :発光素子
【手続補正書】
【提出日】2021-10-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】