(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040693
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】ドローン及びドローンの制御装置
(51)【国際特許分類】
B64C 27/08 20230101AFI20230315BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20230315BHJP
B64C 11/12 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
B64C27/08
B64C39/02
B64C11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147818
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100202957
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 毅
(72)【発明者】
【氏名】ホ アンヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ ハンクアン
(72)【発明者】
【氏名】グエン クアング ディン
(72)【発明者】
【氏名】レ ディン ミーン ニャート
(57)【要約】
【課題】衝突した後に姿勢を元に戻すことができるドローン及びドローンの制御装置を提供する。
【解決手段】ドローン1は、中心部と先端部の間に配置された第1の屈曲部と、第1の屈曲部に埋め込まれ、歪みを検知する第1の歪みゲージ26と、を含むプロペラ2と、プロペラ2を回転させるモータ27と、第1の歪みゲージ26が歪みを検知したときに、機体の落下速度と落下距離を計算する状態演算部312と、状態演算部312が計算した機体の落下速度と落下距離に基づいて、落下距離だけ機体の高度を戻す信号をモータ27に出力する制御信号出力部313と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部と先端部の間に配置された第1の屈曲部と、当該第1の屈曲部に埋め込まれ、当該第1の屈曲部の歪みを検知する第1の歪みゲージと、を含むプロペラと、
前記プロペラを回転させるモータと、
前記第1の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、機体の落下速度と落下距離を計算する状態演算部と、
前記状態演算部が計算した前記機体の落下速度と落下距離に基づいて、前記落下距離だけ前記機体の高度を戻す信号を前記モータに出力する制御信号出力部と、を備える、
ドローン。
【請求項2】
前記機体の本体部と前記モータを接続するアームの間に配置された第2の屈曲部と、当該第2の屈曲部に埋め込まれ、当該第2の屈曲部の歪みを検知する第2の歪みゲージと、を含み、
前記状態演算部は、前記第2の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、前記歪みを引き起こした物体の速度を含む衝突モデルを計算し、
前記制御信号出力部は、前記衝突モデルに基づいて、前記物体に衝突しない位置に前記機体を移動させる信号を前記モータに出力する、
請求項1に記載のドローン。
【請求項3】
前記状態演算部は、前記歪みの大きさが閾値を超えるときに、前記歪みを検知したものと判別する、
請求項1又は2に記載のドローン。
【請求項4】
中心部と先端部の間に配置された第1の屈曲部と、当該第1の屈曲部に埋め込まれ、歪みを検知する第1の歪みゲージと、を含むプロペラと、
前記プロペラを回転させるモータと、
を備えるドローンに、
前記第1の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、機体の落下速度と落下距離を計算させ、
前記計算した前記機体の落下速度と落下距離に基づいて、前記落下距離だけ前記機体の高度を戻す信号を前記モータに出力させる、
ドローンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドローン及びドローンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローンは、羽根を回転させて空中を飛行する移動体の一種である。荷物の運搬、農薬の散布、上空からの画像の撮影などのため、用途に応じた大きさ、飛行性能を有するドローンが用いられる。ドローンは、リモートコントローラを操作する操作者によって、又はドローンの制御部が実行するプログラムによって、その位置、速度、姿勢などを制御される。
【0003】
通常、ドローンは、他の物体と衝突しない制御を実施されるが、ドローンが置かれた状況によっては、他の物体との衝突が起こる場合がある。衝突した場合であっても、ドローンは、損害が最小となる制御を実施される。
【0004】
例えば、特許文献1には、衝突を防止する衝突防止手段が、人工知能を用いて画像から物体を認識し、衝突を防止する制御を行うドローンが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、回転中に変形しても元の形状に戻りやすいプロペラが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-200758号公報
【特許文献2】国際公開第2021/085588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたドローンでは、物体を認識するために蓄積しておく情報の質又は量によっては、衝突した後のドローンの急速な落下に対応できず、姿勢を元に戻すことが困難であるという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載されたプロペラによっても、衝突による衝撃を考慮した制御を行わないドローンでは、衝突した後に姿勢を元に戻すことが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑み、衝突した後に姿勢を元に戻すことができるドローン及びドローンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係るドローンは、
中心部と先端部の間に配置された第1の屈曲部と、当該第1の屈曲部に埋め込まれ、当該第1の屈曲部の歪みを検知する第1の歪みゲージと、を含むプロペラと、
前記プロペラを回転させるモータと、
前記第1の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、機体の落下速度と落下距離を計算する状態演算部と、
前記状態演算部が計算した前記機体の落下速度と落下距離に基づいて、前記落下距離だけ前記機体の高度を戻す信号を前記モータに出力する制御信号出力部と、を備える。
【0011】
本発明に係るドローンは、前記機体の本体部と前記モータを接続するアームの間に配置された第2の屈曲部と、当該第2の屈曲部に埋め込まれ、当該第2の屈曲部の歪みを検知する第2の歪みゲージと、を含み、
前記状態演算部は、前記第2の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、前記歪みを引き起こした物体の速度を含む衝突モデルを計算し、
前記制御信号出力部は、前記衝突モデルに基づいて、前記物体に衝突しない位置に前記機体を移動させる信号を前記モータに出力してもよい。
【0012】
本発明に係るドローンの前記状態演算部は、前記歪みの大きさが閾値を超えるときに、前記歪みを検知したものと判別してもよい。
【0013】
本発明の別の観点に係るドローンの制御装置は、
中心部と先端部の間に配置された第1の屈曲部と、当該第1の屈曲部に埋め込まれ、歪みを検知する第1の歪みゲージと、を含むプロペラと、
前記プロペラを回転させるモータと、
を備えるドローンに、
前記第1の歪みゲージが前記歪みを検知したときに、機体の落下速度と落下距離を計算させ、
前記計算した前記機体の落下速度と落下距離に基づいて、前記落下距離だけ前記機体の高度を戻す信号を前記モータに出力させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、衝突した後に姿勢を元に戻すことができるドローン及びドローンの制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の1つの実施の形態に係るドローンの概略図である。
【
図2】(A)は
図1に示すドローンのプロペラの拡大図であり、(B)は(A)に示すプロペラの部分拡大図であり、(C)は(A)に示すプロペラの別の部分拡大図である。
【
図3】
図1に示すドローンの機能ブロックを説明する図である。
【
図4】
図1に示すドローンの制御する流れの具体例を示すフローチャートである。
【
図5】
図1に示すドローンの歪みゲージから取得する情報の具体例を説明する図である。
【
図6】
図1に示すドローンの歪みゲージから取得する別の情報の具体例を説明する図である。
【
図7】
図3に示す制御部のハードウェア構成図である。
【
図8】(A)は
図1に示すドローンを用いた実験の結果を説明する図であり、(B)は
図1に示すドローンを用いた実験の別の結果を説明する図である。
【
図9】
図1に示すドローンを用いた別の実験の結果を説明する図である。
【
図10】
図1に示すドローンを用いた別の実験の設定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の1つの実施の形態に係るドローン1を説明する。
【0017】
(ドローン1の全体的な構成)
図1に示すように、ドローン1は、4つのプロペラ2と、各プロペラ2を回転させる速度を制御する制御部31、制御部31に電力を供給する電池32等を格納する本体部3と、本体部3から同一平面内を90度ずつ異なる4つの方向に外側に伸びて、本体部3と各プロペラ2を接続する4本のアーム4と、を備える。ドローン1は、プロペラ2の周囲を覆うケージを備えない。
ドローン1は、機体の一例である。
【0018】
プロペラ2は、より詳細には、ドローン1を上昇させるときに、例えば反時計回りに回転するプロペラ2Aと、プロペラ2Aとは反対の方向、例えば時計回りに回転するプロペラ2Bと、に分けられる。プロペラ2Aとプロペラ2Bは対称な構造を有しており、同一の素材によって形成されている。そのため、以下では、プロペラ2としてプロペラ2Aについて説明するものとし、プロペラ2Bについての説明を省略する。
【0019】
(プロペラ2)
図2(A)に示すように、プロペラ2は、回転することのできる中心部であるハブ21と、ハブ21から互いに外側に延びる一対の羽根を含む翼部22と、ハブ21と翼部22とを屈曲可能に接続する屈曲部23と、翼部22の縁に設けられた変形可能エッジ24と、屈曲部23に埋設されてハブ21と翼部22とを接続する繊維状の複数の腱25と、屈曲部23に埋設されて屈曲部23の歪みを検知する歪みゲージ26と、を備える。
【0020】
ハブ21は、プロペラ2の中心に配置されている。ハブ21は、プロペラ2の回転軸をプロペラ2の他の部材と結合する中心部である。ハブ21の中央において、図示しないモータMの回転軸との接続のための孔HがZ方向にねじ切りされている。ハブ21は、円環Rとその円環Rから連続的に滑らかに径方向外側に向けて突出するように形成された移行部Tとを含む。移行部Tの一端において、ハブ21は屈曲部23と接続されている。ハブ21は、剛性の高い硬質プラスチックの素材、例えば、ABS樹脂、PLA(ポリ乳酸、polylactic acid)樹脂を含む。
【0021】
翼部22は、ハブ21と同様に、剛性の高い硬質プラスチックの素材を含む。
翼部22は、後述する変形可能エッジ24と一体としてプロペラ2の回転翼(ブレード)として機能する形状に形成されている。
なお、プロペラ2の具体的な形状は、理論的に又はシミュレーションにより計算されてもよく、
図2(A)に示した形状に限定されるものではない。
【0022】
屈曲部23は、ハブ21及び翼部22に比べて可撓性の高い素材、例えば、シリコーンゴムを含む。また、屈曲部23の剛性は、ハブ21及び翼部22の剛性よりも低い。屈曲部23は、ハブ21と翼部22との間に配置されており、ハブ21の外側に位置する移行部Tと翼部22の内側とを滑らかに接続する連続的に変化する形状に形成されている。屈曲部23が撓むことで、翼部22は、上下方向及び回転方向に変位することができる。
屈曲部23は、第1の屈曲部の一例である。
【0023】
変形可能エッジ24は、翼部22の回転方向Dの縁に設けられている前縁部の一例である。回転方向Dは、プロペラ2においては反時計回りである。
変形可能エッジ24は、屈曲部23と同様に、ハブ21及び翼部22に比べて可撓性の高い素材、例えば、シリコーンゴムを含む。変形可能エッジ24の剛性は、ハブ21及び翼部22の剛性よりも低い。
【0024】
腱25は、柔軟かつ強度の高い繊維素材、例えば、ナイロン繊維を含む糸状の部材である。腱25は、破線で示したように、ハブ21と翼部22との間に複数張られており、それらの周囲が屈曲部23に覆われている。腱25の剛性は、屈曲部23の剛性よりも低く、腱25の可撓性は、屈曲部23の可撓性よりも高い。
【0025】
歪みゲージ26は、長方形の平板状に形成され、屈曲部23に埋め込まれたセンサである。屈曲部23が歪むと、歪みゲージ26も歪むため、その抵抗値が変化する。後述する制御部31は、プラスとマイナスのリード線26P、26Nを介して歪みゲージ26と接続されている。このため、制御部31は、歪みゲージ26の抵抗値の変化を計測して、プロペラ2の歪みの有無及びその程度を検知する。
歪みゲージ26は、第1の歪みゲージの一例である。
【0026】
図2(B)に示すプロペラ2は、ギア、チェーンなどを介することなく、直接、モータ27のシャフトに取り付けられている。このため、モータ27の回転速度を調節することにより、プロペラ2の回転速度を調節することができる。
【0027】
図2(B)の右下は、障害物と衝突して屈曲部23に歪みが生じているプロペラ2とモータ27との接続部分の拡大図である。この拡大図は、理解を容易にするため、プロペラ2をモータ27に固定しない、シャフトに差し込む途中のプロペラ2を横から見たものである。
モータ27の上部には、滑らかな形状に形成されている銅の突起であるコンタクター41が設けられている。コンタクター41は、モータ27の上部に2つ配置されており、片方がリード線26Pと、他方がリード線26Nと、それぞれ電気的に接続されている。
ハブ21のモータ27側には、2つの銅リング42が貼り付けられている。これらの銅リング42は、中心を同じくするが、一方の銅リング42の直径は、他方の銅リング42の直径よりも大きい。外側の銅リング42は、リード線26Pと電気的に接続されており、内側の銅リング42は、リード線26Nと電気的に接続されている。
【0028】
コンタクター41は、銅リング42と接する位置に配置されている。このため、プロペラ2が回転しても、コンタクター41は、銅リング42と電気的な接続を保ち続ける。
従って、プロペラ2が回転しても、リード線26Pは、コンタクター41及び銅リング42を介して、リード線46Pと電気的に接続を保ち、リード線26Nも、別のコンタクター41及び別の銅リング42を介して、リード線46Nと電気的に接続を保つ。
【0029】
(本体部3)
図1に戻って、本体部3は、飛行を制御する制御部31と、制御部31、プロペラ2のモータ27等に電力を供給する電池32を備える。
【0030】
(アーム4)
ドローン1は、4本のアーム4を備える。
図2(C)に示す通り、アーム4は、本体部3側からプロペラ2に向かって順に、基端部43、屈曲部44及び先端部45を備える。屈曲部44には、3つの歪みゲージ46が埋め込まれている。
【0031】
屈曲部44は、基端部43及び先端部45と比べて可撓性の高い素材、例えば、シリコーンゴムを含む。屈曲部44は、ドローン1の構造を保つ程度の硬さを有する。
先端部45には、モータ27が固定されている。アーム4の表面には、リード線26P、26N、46P、46Nの他、モータ27に電力を供給するケーブル等が配置されている。
屈曲部44は、第2の屈曲部の一例である。
【0032】
各歪みゲージ46は、前述した歪みゲージ26と同等のものであり、プラスとマイナスのリード線46P、46Nが接続されている。
これらの3つの歪みゲージ46は、リード線46P、46Nを介して制御部31に接続されている。制御部31は、屈曲部44の歪みを、互いに垂直な3方向に独立して検知する位置に配置されている。このため、制御部31は、屈曲部44が歪んでいるか否か、歪みの方向及びその程度を検知することができる。
歪みゲージ46は、第2の歪みゲージの一例である。
【0033】
(制御部31)
制御部31は、例えば、ドローン1の飛行を制御する演算を実行するフライトコントローラを含む。制御部31は、さらに、リモコンの操作を受信してフライトコントローラに伝達する受信機及びフライトコントローラによる演算結果を電池32から供給された電力を利用して増幅してモータ27に出力する増幅器34と、を含む。
【0034】
図3に示す本体部3の制御部31は、歪みゲージ26及びセンサ35と接続されたセンサインタフェース33を介して歪みゲージ26の歪み、ドローン1の位置、加速度、時刻等の情報を含むセンサ情報を取得するセンサ情報取得部311と、ドローン1の姿勢、速度等の状態を計算する状態演算部312と、状態演算部312によって演算されたドローン1の状態に基づいて増幅器34を介してモータ27に制御信号を出力する制御信号出力部313と、を備える。
【0035】
センサインタフェース33は、例えば、電池32から供給を受けた電圧を各歪みゲージ26のリード線26P、26Nの間に印加し、流れる電流を計測する回路を備える。センサ情報取得部311は、例えば、印加した電圧と流れた電流の比から歪みゲージ26の抵抗値を求めて、歪みゲージ26に生じている歪みの有無及びその程度を計算する。
センサインタフェース33には、ジャイロスコープ、加速度計、気圧計、GPS受信機、赤外線センサなどを含むセンサ35が接続されている。
【0036】
増幅器34は、例えば、電池32から電力の供給を受けて、制御信号出力部313から出力された制御信号を増幅したものを各モータ27に供給し、各プロペラ2を回転させる。
【0037】
(制御の概要)
図4を参照して、ドローン1の飛行中に、物体と衝突した場合に、飛行を継続する制御について説明する。ドローン1が飛行する環境は様々であるため、物体がいつ、どこに衝突するかによって、飛行を安定して継続するために適した制御は異なる。このため、以下、場合を分けながら制御の内容を説明する。
【0038】
まず、状態演算部312は、センサ情報取得部311を介して取得したセンサ情報に基づいて、物体のドローン1に対する衝突を検知する(S11)。
【0039】
状態演算部312は、物体がプロペラに衝突したと検知した場合には(S11;Yes:P1)、ドローン1の落下速度と落下距離を計算する(S12)。
【0040】
続いて、状態演算部312は、ステップS12において計算した落下速度と落下距離に基づき、ドローン1の飛行を安定化させる(S13)。
【0041】
これに対し、状態演算部312は、物体がアームに衝突したと検知した場合には(S11;Yes:P2)、衝突モデルを計算する(S14)。
【0042】
次に、状態演算部312は、ステップS14において計算した衝突モデルに基づいて、衝突に反応する(S15)。具体的には、状態演算部312は、例えば、計算した衝突モデルに含まれる物体の位置を求めて、その位置からドローン1を遠ざけるなどの制御を行う。
【0043】
続いて、状態演算部312は、物体に衝突せずに目的地に到達するための飛行経路を再計画する(S16)。具体的には、状態演算部312は、例えば、飛行経路を、衝突モデルから想定される物体の位置を通らないものに計画し直す。
【0044】
ステップS13又はS16を実行したならば、状態演算部312は、さらに衝突を検知する(S17)。
【0045】
なお、物体との衝突を検知しない場合には(S11;No)、状態演算部312は、ステップS11を繰り返す。
【0046】
状態演算部312は、衝突を検知した場合には(S17;Yes)、衝突マップを計算する(S18)。具体的には、例えば、状態演算部312は、衝突を検知して、順次衝突が発生したものと判断し、物体と衝突した座標、時刻、速度、姿勢等のデータを計算する。
【0047】
衝突マップを計算した後、状態演算部312は、プロペラに衝突したことを検知した場合には(P1)、ステップS12に、アームに衝突したことを検知した場合には(P2)、ステップS14に、それぞれ進む。
【0048】
なお、ステップS17において、衝突を検知しない場合には(S17;No)、状態演算部312は、例えば、衝突モデルに基づいて、物体に衝突しない位置にドローン1を移動させることを含む回復飛行を行う(S19)。
【0049】
飛行を終了する場合には(S20;Yes)、状態演算部312は、リターンし、飛行を終了しない場合には(S20;No)、ステップS11に戻って判別以降のステップを続行する。例えば、状態演算部312が、ドローン1が目的地へ到着したこと、電池32の残量が飛行を継続するための閾値を下回ったこと等を検出することにより、飛行の終了が判断される。
【0050】
以上説明したステップS11~S20を繰り返すことにより、たとえ衝突が起きても、ドローン1によれば、安定した飛行を継続することができる。
【0051】
(衝突の有無を判別するステップ)
上述したステップS11において、
図3に示した状態演算部312は、センサ情報取得部311が取得した歪みゲージ26、センサ35等のセンサ情報から、衝突の有無及び対象を判別する。
【0052】
図5に示すセンサ情報の具体例を参照して、ステップS11の詳細を説明する。
センサ情報は、例えば、歪みゲージ26を一意に識別する符号であるID(Identifier)に、その歪みゲージ26がプロペラ2に取り付けられたものかアーム4に取り付けられたものかを表すグループと、ドローン1の重心を原点として定義した歪みゲージ26の位置を示すx、y、zの各座標と歪みの数値とが対応付けられたものである。また、アーム4に取り付けられている歪みゲージ26は、一つのアーム当たり3つであり、それぞれx、y、z方向の異なる方向の歪みを検知するものであるため、これらの方向を識別する値もIDに対応付けられている。
【0053】
グループが「プロペラ」だけで、「アーム」を含まない場合には、状態演算部312は、プロペラ2に物体が衝突したものと判別する。グループが「アーム」だけで、「プロペラ」を含まない場合には、状態演算部312は、アーム4に物体が衝突したものと判別する。
【0054】
なお、グループが「プロペラ」と「アーム」の両方を含む場合には、状態演算部312は、物体がプロペラ2とアーム4の両方に衝突したものと判別する。
状態演算部312は、物体がプロペラ2と衝突した場合と同じ処理を行ってもよい。
【0055】
全ての歪みゲージ26のうち歪みが閾値を超えるものがない場合には、状態演算部312は、衝突を検出しない。
状態演算部312は、各歪みゲージ26について、歪み値が閾値を超える場合に、衝突を検知するものとし、そうでない場合には衝突を検出しない判別を行う。
【0056】
衝突の検出には、センサ情報取得部311が歪みゲージ26から取得した生の歪み値DVrではなく、次に述べるオフセット値DVoを考慮したスケーリング後の歪み値DVsを用いる。
DVs=ABS(DVr-DVo)
【0057】
ここで、ABSは絶対値を表す。スケーリング後の歪み値DVsは、生の歪み値DVrから歪み値についてのオフセット値DVoを引いた値の絶対値である。
【0058】
オフセット値DVoは、例えば、プロペラ2の回転による歪みを考慮するための値である。オフセット値DVoは、例えば、プロペラ2の回転速度を一定に維持して、ドローン1のプロペラ2及びアーム4が物体と衝突していない場合に、センサ情報取得部311が歪みゲージ26から取得する歪み値として計算される。
【0059】
オフセット値DVoは、定数であってもよく、例えば、プロペラ2の回転速度が比較的小さい場合には回転速度に比例する値とし、プロペラ2の回転速度が回転速度の閾値を超える程度に大きい場合には定数としてもよい。また、オフセット値DVoは、プロペラ2の回転速度を様々に変えて、実際にセンサ情報取得部311が歪みゲージ26から取得した値であってもよい。
【0060】
理解を容易にするため、以下で説明する歪み値は、スケーリング後の歪み値DVsであるものとする。
一例として、閾値が5%であるとすると、歪み値が5%を超える歪みゲージ26はIDが「2」であるものだけであるため、ステップS11において、状態演算部312は、物体がプロペラ2と衝突したことを判別する。
【0061】
衝突の検知に用いるプロペラの閾値とアームの閾値は互いに異なっていてもよい。別の例として、プロペラの閾値が5%であり、アームの閾値が2%であるとすると、プロペラの閾値を超える歪みゲージ26はなく、IDが「5」であるアームに取り付けられた歪みゲージ26だけがアームの閾値を超えるため、ステップS11において、状態演算部312は、物体がアームに衝突したことを判別する。また、状態演算部312は、IDが「5」である歪みゲージ26が「x」方向の歪みを検知するものであるため、x方向に移動する物体がアームに衝突したことを判別する。
【0062】
(落下速度と落下距離の計算のステップ)
図4に示したステップS12において、状態演算部312は、GPSセンサ、加速度センサ等からセンサ情報取得部311によって取得された情報に基づいて、ドローン1の落下速度Vfallと落下距離Lfallを計算する。
具体的には、状態演算部312は、センサ情報取得部311からドローン1の速度を取得して、例えば、z方向の速度を落下速度Vfallとして求める。また、状態演算部312は、落下速度Vfallに時間をかけることによって、落下距離Lfallを求める。
【0063】
(衝突モデルの計算のステップ)
図4に示したステップS14において、状態演算部312は、ドローン1の衝突モデルを計算する。
衝突モデルは、衝突して歪みゲージ26の歪みを引き起こした物体の速度を含むデータである。例えば、状態演算部312は、物体と衝突した時刻と、歪みゲージ26のうち歪みが閾値を超えたものの座標及び衝突を検知する方向とから、衝突した物体の速度を計算する。
【0064】
(衝突マップの計算のステップ)
図4に示したステップS18において、状態演算部312は、ドローン1の衝突マップを計算する。
衝突マップは、衝突の履歴を含むデータである。
図6に示す衝突マップは、歪みゲージ26のIDと、衝突を検知した時刻と、その時刻における座標と、速度と、を対応付けたデータである。
【0065】
衝突マップは、時刻、位置及び速度のデータを含むため、状態演算部312は、衝突した物体の位置及び移動経路を計算することができる。
例えば、状態演算部312は、衝突した物体が一定の速度v=(vx、vy、vz)を保つと仮定して、現在時刻からT秒後の物体のx座標を、下記の式から計算する。
x0+vxT
【0066】
状態演算部312は、y座標、z座標についても、x座標と同様に、それぞれ、
y0+vyT
z0+vzT
という計算式によって計算する。
なお、x0、y0、z0は、衝突が検知された時刻におけるx、y、z座標を表す。
【0067】
(回復飛行のステップ)
図4に示したステップS13又はS16を実行した場合には、制御信号出力部313は、ステップS19において、落下距離から、もとの高度に戻るための仮想的な引力(VAF、Virtual Attractive Force)を計算して、計算した引力から、各プロペラ2のモータ27を制御する信号を出力する。
【0068】
図4に示したステップS15を実行した場合には、制御信号出力部313は、ステップS17において、障害物である物体を避ける制御を行う信号を出力する。
具体的には、衝突しない座標に移動する。なお、対象が一定の速度Vで移動する別の飛行体である場合には、高度を上げるか下げるかの制御を行う。
【0069】
図4に示したステップS16を実行した場合には、制御信号出力部313は、ステップS17において、飛行を維持しつつ、障害物である物体を避ける制御を行う信号を出力する。
図6に示した衝突マップにおいて、現在時刻が04:55である場合には、制御信号出力部313は、例えば、時刻「04:54:059」、「05:53:341」及び「04:53:218」の座標及び速度の情報から、X方向に障害物があるとして、Y方向又はZ方向に迂回する信号を制御する。
【0070】
(ハードウェア構成)
制御部31は、
図7に例示するハードウェア構成を備える情報演算装置800によって実現することができる。
情報演算装置800は、様々な演算処理を行うプロセッサ101と、入力装置120、出力装置130等の他の装置と通信する入出力インタフェース102と、情報を一時的に記憶するDRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等の主記憶装置103と、情報を永続的に記憶するハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、不揮発性メモリ等の補助記憶装置104と、プロセッサ101、入出力インタフェース102、主記憶装置103又は補助記憶装置104の間で交換される情報の経路であるバス105と、を備える。
【0071】
入力装置120は、外部からのデータの入力を受け付ける装置である。入力装置120は、例えば、歪みゲージ26である。
なお、入力装置120は、他装置が送信した信号を検知する装置である、パラレルバス、シリアルバス等の受信インタフェースであってもよい。
出力装置130は、外部にデータを出力する装置である。
【0072】
(第1の実験)
以上説明したドローン1を飛行させ、物体と衝突させた実験について述べる。
第1の実験は、ドローン1に、計算した落下速度と落下距離に基づいて回復飛行をさせる制御を行った場合と行わなかった場合とで衝突後の挙動の違いを調べたものである。具体的には、ドローン1を屋内において床から2m程度の高さでホバリングさせたまま、直径約5cm、高さ約10cmの円柱状のポリウレタン樹脂に衝突させて、その後の数秒間にわたってドローン1の挙動を調べた。
【0073】
図8(A)は、回復飛行をさせる制御を行わなかった場合のドローン1の挙動を撮影した画像であり、
図8(B)は、回復飛行をさせる制御を行った場合のドローン1の挙動を撮影した画像である。
【0074】
図8(A)、(B)に含まれる各画像の下には、基準とした時刻からの経過時間をミリ秒の単位で示した。また、
図8(A)、(B)の最上段は、物体と衝突した直後にドローン1を撮影したものである。
【0075】
図8(A)に示した通り、回復飛行をさせる制御を行わなかった場合には、ドローン1は傾斜し、衝突から数百ミリ秒を経過しても姿勢を回復することなく、落下し続けた。
【0076】
これに対し、
図8(B)に示した通り、回復飛行をさせる制御を行った場合には、ドローン1は衝突から700ミリ秒程度は傾斜したまま高度を下げたものの、床に落下することはなかった。また、衝突から700ミリ秒程度で高度を戻し始め、2300ミリ秒程度を経過すると、ほぼ衝突前の高度でホバリングを再開した。
【0077】
(第2の実験)
第2の実験は、回復飛行をさせる制御を行った場合のドローン1のピッチ(前傾角度)と高度の経時的な変化を計測したものである。
図9は、同じ時刻におけるドローン1のy方向の位置と高度とピッチのグラフを揃えて示したものである。上段のグラフはy方向の位置の変化を示し、中段のグラフは高度の変化を示し、下段のグラフはピッチの変化を示す。この図においては、横軸の単位は分であり、例えば「1:05」は1分05秒を表す。y方向の位置、ピッチ及び高度はいずれもセンサから取得した情報から計算して推定したものであるため、推定値として示した。
図9に示した座標の値は、
図10に示すドローン1を含む環境において設定された座標系における値であり、例えば、鉛直方向上向きは-z方向として設定されている。
【0078】
まず、
図9の中段のグラフの推定値に示した通り、ドローン1は、1分27秒の時点で、比較的大きく、具体的には0.3m程度、高度を下げている。また、
図9の下段のグラフの推定値に示した通り、ドローン1は、同じ1分27秒の時点で、比較的激しく、具体的には設定値を中心として上下にそれぞれ約5度、ピッチをふらつかせている。これは、1分27秒の時点で、ドローン1が障害物と衝突したことを表している。
なお、1分27秒より前の期間、具体的には、1分24秒から1分27秒までの期間においても、
図9の上段と下段のグラフの推定値に示した通り、ドローン1のy方向の位置及びピッチが比較的大きく変動している。これは、固定されている障害物にドローン1を衝突させるため、y方向に移動させる制御を行ったことによるものであり、衝突の結果を示す現象ではない。
【0079】
次に、
図9の中段のグラフの推定値に示した通り、1分27秒の衝突の瞬間に-1.9mであったドローン1の高度は、その後の約2秒間の不安定フェーズにおいて-1.6mまで下がったことが理解される。これは、障害物との衝突により、ドローン1が約0.3m落下したことを意味する。
その後、1分29秒から1分32秒までの回復の段階を経て、ドローン1の高度は、設定値である-2.0m程度まで戻った。
【0080】
図9の下段のグラフの推定値に示した通り、衝突後に、ドローン1のピッチは、設定値である-1度に対して、プラスに最大4度、マイナスに最大6度ずれた。その後の回復の段階においては、ピッチのずれは、設定値から最大約4度に収まった。
【0081】
図9を参照して説明した通り、ドローン1の高度とピッチは、いずれも、衝突の瞬間から約1~2秒を経過するまでの不安定フェーズにおいては、設定値とずれている。これは、状態演算部312が、ドローン1の落下速度と落下距離を計算している途中であり、制御信号出力部313が回復飛行の制御信号を出力していないためであると考えられる。
不安定フェーズに続く、衝突の瞬間から約2秒を経過した後の回復フェーズにおいては、ドローン1の高度とピッチは、いずれも設定値に急速に近づく。これは、状態演算部312が、ドローン1の落下速度と落下距離を計算し終えて、制御信号出力部313が回復飛行の制御信号を出力しているためであると考えられる。
【0082】
第1、第2の実験の結果から、ドローン1によれば、プロペラ2が障害物と衝突しても、安定した飛行を継続することができることが理解される。
【0083】
(変更例)
図11に示す変更例に係るドローン10は、ドローン1の歪みゲージ26の代わりに、ホールセンサ55を用いて歪みを検知するものである。
以下、ドローン1と異なる部分を中心に説明する。
【0084】
ドローン10のプロペラ12は、屈曲部53の内部に埋め込まれた磁石54を有する。
プロペラ12とモータ27との間には、ホールセンサ55が配置されている。具体的には、固定部13上であり、かつ、シャフトを中心とする円の外側の位置に、2つのホールセンサ55が配置されている。固定部13は、アーム14の先端に配置されたモータ27の上に、プロペラ12に対向して設けられている。
【0085】
磁石54は、磁場を生成するため、ホールセンサ55は、磁石54によって生成された磁場を検知する。また、プロペラ12が回転すると、磁石54が移動し、磁場が変化するため、ホールセンサ55は、磁場の変化を検知する。そして、屈曲部53に歪みが生じると、歪みがない場合に比べて磁場が変化する。そこで、例えば、状態演算部312は、ホールセンサ55が検知した磁場の大きさの最大値から、屈曲部53に加わっている力の大きさを演算する。
【0086】
物体がプロペラ12と衝突して屈曲部53が歪むと、磁石54の位置にずれが生じる。そこで、状態演算部312は、ホールセンサ55によって検出される磁場のずれから、屈曲部53の歪みを計算する。
【0087】
なお、歪みゲージ26の代わりにホールセンサ55を備えるドローン10は、
図4に示したものと同様の流れで飛行の制御を行う。
【0088】
ホールセンサ55を使用することにより、歪みゲージ26を用いる場合に比べてより精密に屈曲部53の歪みを検出することができる。
【0089】
なお、上記実施の形態において記載した手法は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、例えば磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどの記憶媒体に書き込んで各種装置に適用することが可能である。本開示を実現するコンピュータは、記憶媒体に記憶されたプログラムを読み込み、このプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行するものである。
また、本発明は、上述した実施の態様の例に限定されることなく、適宜の変更を加えることにより、その他の態様で実施できるものである。
【0090】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0091】
1、10 ドローン
2、2A、2B、12 プロペラ
3 本体部
4、14 アーム
13 固定部
21 ハブ
22 翼部
23、44、53 屈曲部
24 変形可能エッジ
25 腱
26、46 歪みゲージ
26P、26N、46P、46N リード線
27 モータ
31 制御部
32 電池
33 センサインタフェース
34 増幅器
35 センサ
41 コンタクター
42 銅リング
43 基端部
45 先端部
54 磁石
55 ホールセンサ
101 プロセッサ
102 入出力インタフェース
103 主記憶装置
104 補助記憶装置
105 バス
120 入力装置
130 出力装置
311 センサ情報取得部
312 状態演算部
313 制御信号出力部
800 情報演算装置