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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040695
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】リン分離システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20230315BHJP
【FI】
C02F1/58 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147820
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國谷 正
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA01
4D038AA08
4D038AB45
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB13
4D038BB18
(57)【要約】
【課題】被処理水中のリンを効率的に分離、回収することができるリン分離システムを提供する。
【解決手段】本発明のリン分離システム100は、水槽300内の被処理水にリン分離剤を添加する添加装置305と、リン分離剤が添加された被処理水を撹拌する撹拌装置306と、添加装置305及び撹拌装置306を制御する制御装置310を備えている。制御装置310は、添加装置305によりリン分離剤を添加する工程と、撹拌装置306によりリン分離剤が添加された被処理水を撹拌する工程と、撹拌の工程の終了後に被処理水を静置する工程を繰り返し行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加装置と、撹拌装置と、前記添加装置及び前記撹拌装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記添加装置により、リンを含有する被処理水にリン分離剤を添加する添加工程と、
前記撹拌装置により、リン分離剤が添加された前記被処理水を撹拌する撹拌工程と、
前記添加装置及び前記撹拌装置を停止して、前記撹拌工程後の前記被処理水を静置する静置工程と、
を繰り返し行う、リン分離システム。
【請求項2】
繰り返された前記添加工程において添加されたリン添加分離剤の総量は、前記被処理水の水質により定められる添加量である、請求項1に記載のリン分離システム。
【請求項3】
前記被処理水のpH値を検出するpH検出装置をさらに備え、
前記添加工程は、前記pH検出装置で検出されたpH値が所定値に到達するまで前記被処理水に前記リン分離剤を添加し、pH値が所定値となったときに前記リン分離剤の添加を終了し、前記撹拌工程又は前記静置工程に移行する、請求項1に記載のリン分離システム。
【請求項4】
前記被処理水のリン濃度を検出するリン濃度測定装置をさらに備え、
前記静置工程は、前記リン濃度測定装置で検出されたリン濃度が所定値になるまで静置し、リン濃度が所定値となったときに静置を終了し、前記添加工程に移行する又は前記繰り返しを終了する、請求項1~3のいずれか1項に記載のリン分離システム。
【請求項5】
前記添加工程と前記撹拌工程とを行う第1水槽と、前記静置工程を行う第2水槽からなるユニットを複数備え、
前記第2水槽で前記静置工程を行った被処理水を他のユニットの前記第1水槽に供給し、当該第1水槽で前記添加工程と前記撹拌工程を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載のリン分離システム。
【請求項6】
前記ユニットの少なくとも1つは、1又は複数の前記第1水槽に対応する複数の前記第2水槽で構成される、又は、1又は複数の前記第2水槽に対応する複数の前記第1水槽で構成される、請求項5に記載のリン分離システム。
【請求項7】
前記リン分離剤としてコンクリート由来の分離剤を用いる、請求項1~6のいずれか1項に記載のリン分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンを含有する被処理水に対して、リンの分離、回収を行うリン分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場における汚泥の濃縮工程、脱水工程から発生し、下水処理の前工程へ返送される脱離水からリンを分離、回収する方法として、カルシウムイオン源を用いたHAP法が知られている。
【0003】
HAP法は、液中のPO 3-、Ca2+及びOHの反応によって生成するヒドロキシアパタイトの晶析現象を利用した方法であり、リンを含有する被処理水にCa2+及びOHを添加し、過飽和状態(準安定域)で種晶と接触させることで種晶表面にヒドロキシアパタイトを晶析させ、被処理水中のリンを分離、回収する。被処理水のリン濃度が低い場合には炭酸カルシウムと競合反応するため、脱炭酸等の処理が必要となることがある。なお、種晶には、リン鉱石、骨炭、珪酸カルシウム水和物等の物質が利用される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-077937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の脱リン装置に示されるように、リンを含有する被処理水とリン分離剤(脱リン液)とを単純に混合してリン酸カルシウムを晶析させる方法では、リンの回収効率を高めようとすると、多量のリン分離剤が必要になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、被処理水中のリンを効率的に分離、回収することができるリン分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のリン分離システムは、添加装置と、撹拌装置と、前記添加装置及び前記撹拌装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記添加装置により、リンを含有する被処理水にリン分離剤を添加する工程と、前記撹拌装置により、リン分離剤が添加された前記被処理水を撹拌する工程と、前記添加装置及び前記撹拌装置を停止して、前記撹拌の工程終了後の前記被処理水を静置する工程と、繰り返しを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリン分離システムによれば、被処理水中のリンを効率的に分離、回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係るリン分離システムの概略図である。
図2】第1実施形態のリン分離システムの処理フローを示す図である。
図3A】本発明の実験結果を示す図である。
図3B】本発明の比較例の実験結果を示す図である。
図4】第1実施形態のリン分離システムのタイミングチャートを示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るリン分離システムの概略図である。
図6】第2実施形態のリン分離システムの処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本件の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、リンを含有する被処理水に対してリン分離剤を添加する方法を工夫し、撹拌を行い、さらにその被処理水を所定時間静置することで、効率的にリンを分離、回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。以下では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るリン分離システム100の概略図である。ここで、本発明の対象となる被処理水は、リン成分を含有していることを前提とする。
【0012】
リン分離システム100は、下水処理場の最終沈殿池200から得られる廃水を被処理水として処理することにより、当該被処理水に含まれるリンを回収するためのシステムである。被処理水は、例えば、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水等を処理した排水や、水道原水等であってもよい。
【0013】
リン分離システム100では、被処理水を最終沈殿池200から水槽300に注水する。そして、水槽300において、リン分離剤を添加することで被処理水中のリンを分離、回収し、再生水(分離水)を取り出し、リン分離水槽600に移送する。以下では、水槽300が備える各構成について説明する。
【0014】
水槽300は、被処理水の供給装置301と排出装置302を備えている。供給装置301は、被処理水を最終沈殿池200から水槽300に供給するための装置である。供給装置301はバルブ303を有し、最終沈殿池200の配管201と接続されている。水槽300の水位は、後述する水位検出装置309で検出することができるため、リン分離の処理時の水位レベルまで被処理水を注水する。
【0015】
排出装置302は、被処理水を水槽300から排出し、リン分離水槽600に移送するための装置である。排出装置302はバルブ304を有し、リン分離水槽600の配管601と接続されている。バルブ303、バルブ304の開閉は、制御装置310によって制御される。制御装置310は、CPU、RAM、ROM等により構成され、コンピュータとしての機能を有する。また、水槽300は、その底部に沈殿した沈殿物(リン含有物)を回収するための排出口311を備えている。
【0016】
配管201には、被処理水のリン濃度を検出するセンサであるリン濃度検出装置202が設けられている。リン濃度検出装置202により、水槽300に供給される被処理水のリン濃度を検出することができるため、当該リン濃度の値に応じて、添加するリン分離剤の総量を見積ることができる。
【0017】
また、水槽300は、添加装置305と撹拌装置306を備えている。添加装置305は、制御装置310の制御により、水槽300に所定量のリン分離剤を添加する機能を有している。また、撹拌装置306は水槽300内の被処理水を撹拌する機能を有しており、制御装置310の制御により、撹拌の開始、停止が制御される。
【0018】
リン分離剤は、被処理水に含まれるリンを被処理水から取り除くための薬剤である。リン分離剤としては、公知の薬剤の中から任意に用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム性のアルカリ性薬品を用いてもよく、本実施形態では、コンクリート由来の分離剤を用いる。コンクリート由来の分離剤とは、コンクリートを主成分とし、被処理水に添加できる態様に加工したものである。例えば、コンクリート廃材を粉砕して粉末状にしたもの、これを水に溶かした液体、市販の製品(コンクリートスラッジの再資源化物)等が挙げられる。コンクリートは、pH値が12以上の強アルカリ剤であり、それ自体がpH値を高める機能を有している。また、コンクリートは石灰系の廃材に含まれているため、これらの廃材を再利用することができ、リン分離剤のコストを抑えることができる。
【0019】
水槽300は、さらにpH検出装置307、リン濃度検出装置308及び水位検出装置309を備えている。pH検出装置307は、被処理水のpH値を検出するセンサである。被処理水に対してリン分離剤を添加すると、pH値が上昇する。特に、被処理水のpH値が9~10のとき最もリンの分離が促進されるため、初回のリン分離剤の添加は、pH値を当該数値に到達させる目的で行われる。
【0020】
リン濃度検出装置308は、被処理水のリン濃度を検出するセンサである。被処理水に対してリン分離剤を添加混合すると、被処理水中のリン成分が析出するため、被処理水のリン濃度が低下する。被処理水中のリン濃度が予め定めた所定値に到達したとき、制御装置310は各工程の繰り返しを停止する。なお、各工程の繰り返しを停止する際のリン濃度は適宜設定することができ、例えば、0.1~1.0mg/Lの範囲であることが好ましい。
【0021】
水位検出装置309は、水槽300内の被処理水の水位を検出するセンサである。例えば、排出装置302から被処理水の一部又は分離水を排出したとき、水位レベル情報が制御装置310に送信される。制御装置310は、最終沈殿池200から被処理水を水槽300に注ぎ足す場合、供給装置301のバルブ303を制御する。
【0022】
図2は、水槽300で行われるリン分離処理の概略フローである。なお、適宜、図3A図3Bを参照して説明を補足する。本発明のリン分離処理では、添加工程、撹拌工程、静置工程を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返す。本概略フローでは、このサイクルをそれぞれ2回行うものとして説明するが、3回以上行ってもよい。
【0023】
まず、最終沈殿池200から水槽300に、リンを含有する被処理水が供給される(ステップS01)。これにより、水槽300に所定量の被処理水が貯留される。その後、添加装置305が水槽300にリン分離剤を添加する(ステップS02)。ここでは、被処理水の水質(リン含有率、濁り度合い等)により定まるリン分離剤の総量(すなわち、1回のリン分離処理で使用される総量)の一部が添加される。換言すると、本発明のリン分離処理では、複数回のサイクルの中で、被処理水の水質等により定まるリン分離剤が分割して添加される。
【0024】
その後、撹拌装置306が被処理水を撹拌し(ステップS03)、さらに、被処理水を一定時間静置する(ステップS04)。この手順(第1サイクル)により、リンの分離が促進される。その後、添加装置305が水槽300に、前記総量の残りのリン分離剤を添加し(ステップS05)、さらに、撹拌装置306が被処理水を撹拌した後(ステップS06)、静置を行う(ステップS07)。この手順(第2サイクル)により、リンの分離が完了する。
【0025】
図3Aは、リン分離剤として、重量比0.2%のPAdeCS(登録商標、日本コンクリート工業株式会社製のコンクリートスラッジの再資源化物)の粉体を、重量比0.1%ずつ2回に分けて分割投入したときのリン(リン酸イオン:PO 3-)濃度の変化を示している。また、図3Bは、重量比0.2%のPAdeCS(登録商標)の粉体を1回投入したときのリン濃度の変化を示している。すなわち、図3A図3Bでは、リン分離剤の添加量(総量)はともに重量比0.2%で同じだが、添加回数が異なっている。
【0026】
図3Aの(1)では、余剰汚泥上澄液にPAdeCSの粉体を重量比0.1%添加し、10分間撹拌した。そして、30分間静置した後、上澄液を取り出した。このときのリン(PO 3-)濃度は、50[mg/L]であった。
【0027】
図3Aの(2)では、上記(1)で取り出した上澄液に対して、さらにPAdeCSの粉体を重量比0.1%添加し、30分間撹拌した。そして、30分間静置した後、上澄液を取り出した。その結果、リン濃度は20[mg/L]まで低下した。図3Aの(3)では、上記(2)で取り出した上澄液を一晩静置した。その結果、リン濃度はさらに低下し、10[mg/L]となった。
【0028】
一方、図3Bは、本発明の実験(図3A)の比較例であり、従来行われていた方式である。図3Bでは、余剰汚泥上澄液にPAdeCSの粉体を重量比0.2%添加し、60分間撹拌した。ここで添加したPAdeCSは、図3Aの実験の2回の添加量に相当する。そして、30分間静置した後、上澄液を取り出した。このときのリン(PO 3-)濃度は、50[mg/L]であった。
【0029】
図3Bは、図3Aの(3)(一晩静置後)に相当するリン濃度のデータはないものの、図3A図3Bの各結果を比較すると、PAdeCSの粉体を2回に分割して少量ずつ加えた方がリン濃度の回収効率が高まっていることが分かる。これは、図3Aの1回目に添加したPAdeCS(pH値12の強酸性)が、主に被処理水のpH値上昇に消費されたためと考えられる。被処理水は、pH値9~10の範囲で最も反応効率が高まるため、1回目の添加でpH値を上記範囲に到達させると、その後のリンの分離が迅速に進む。
【0030】
図2に戻り、2回目(第2サイクル)の静置工程(ステップS07)において、被処理水のリン濃度が所定値に到達したとき、添加工程、撹拌工程及び静置工程(1サイクル)の繰り返しを終了する。その後、固液分離を行う(ステップS08)。被処理水の液体部分(上澄液)は、リンが分離された「分離水」として水槽300から取り出され、リン分離水槽600に移送される。また、水槽300の底部に沈殿した沈殿物は、「リン含有物」として取り出され、回収される。
【0031】
次に、図4を参照して、第1実施形態の被処理水のリン分離に関するタイミングチャートを説明する。なお、以下で説明するリン分離剤の添加や撹拌のタイミングは、一例に過ぎない。
【0032】
まず、水槽300に被処理水を注入することで、水位(液面)が徐々に上昇していく。水槽300の水位は水位検出装置309で検出し、処理時の水位レベルとなるまで被処理水を注水する。また、本実施形態では、注水中である時間T=tから撹拌装置306による1回目の撹拌工程(図中の「撹拌1」)が開始する。
【0033】
水槽300の水位が処理時の所定の水位レベルに到達したとき、添加装置305によるリン分離剤の添加工程が開始する。撹拌を継続しながらリン分離剤を少量ずつ添加すると、水槽300の被処理水のpH値が徐々に上昇していく。その後、pH値はpH検出装置307で検出するが、pH値が予め定めた設定値に到達したとき(時間T=t2)、リン分離剤の添加工程を終了する。なお、この添加工程では、予め必要なリン分離剤総量を見積もったうえでリン分離剤を少量ずつ添加しており、時間T=t~tの期間に添加されたリン分離剤の合計は、被処理水の水質等により定まるリン分離剤総量の一部となっている。
【0034】
本タイミングチャートでは、注水中(時間T=t)から、撹拌装置306による第1サイクルの撹拌工程を開始し、水位が所定レベルとなったとき(時間T=t)に添加工程を開始しているが、撹拌工程と添加工程の開始タイミングと終了タイミングは、これに限らない。例えば、撹拌工程の開始タイミングは、注水中の任意の時点でもよいし、所定の水位レベルに到達したとき(すなわち、注水が終了したとき)でもよい。また、リン分離剤の添加工程の開始前でもよいし、添加工程の後(開始後又は終了後)でもよい。また、リン分離剤の添加工程の開始と同時でもよい。すなわち、撹拌を行いながらリン分離剤を添加してもよいし、リン分離剤の添加後に撹拌を行ってもよい。
【0035】
また、本タイミングチャートでは、リン分離剤の添加工程終了のタイミングに合わせて撹拌工程を終了しているが、しばらく撹拌を継続した後、静置工程に移行してもよい。制御装置310により添加装置305及び撹拌装置306を停止することで、時間T=t2から被処理水の1回目の静置工程(図中の「静置1」)が開始する。静置工程によって、リン分離剤を添加した被処理水からリンが分離され、被処理水のリン濃度は僅かに低下する。その後、所定時間が経過したとき(時間T=t)1回目の静置工程を終了する。これにより、1回目のサイクル(第1サイクル)が終了する。
【0036】
時間T=tから、撹拌装置306による撹拌工程(図中の「撹拌2」)が開始し、2回目のサイクル(第2サイクル)が開始する。その後、時間T=tから、添加装置305によるリン分離剤の添加工程が開始する。この添加工程は時間T=t5~tの期間行われ、その間、撹拌が継続して行われる。その後、リン分離剤の添加工程を終了する。なお、時間T=t5~t6の添加工程は、1回目の添加工程よりも短時間で行われる。今回のリン分離剤の添加量は、見積もったリン分離剤総量から1回目の添加量を差し引いた残りの量である。
【0037】
次に、制御装置310により添加装置305及び撹拌装置306を停止することで、時間T=t6から被処理水の静置工程(図中の「静置2」)が開始する。今回の静置工程では、pH値がある程度高い状態から開始しているため、リン濃度の低下速度が速い。そして、リン濃度が所定値に到達したとき(時間T=t)、2回目の静置工程を終了する。これにより、2回目のサイクル(第2サイクル)が終了する。
【0038】
以上のとおり、制御装置310は、添加工程、撹拌工程及び静置工程からなるサイクルを繰り返し行う。これにより、リンの分離水を自動制御により抽出するとともに、リンを回収していくことができる。なお、第2サイクルの終了後に、水槽300から被処理水を排出することなく、さらにもう1回以上のサイクル(第3サイクル)を行ってもよい。
【0039】
基本的に1回のリン分離処理において水槽300の水量(水位)は一定(すなわち、第1サイクルと第2サイクルで水槽300の水量は同じ)であり、1回の処理が終了すると被処理水を全て排出する。また、次回のリン分離処理(2回目の処理における第1サイクル)を開始するときは、水槽300に新たな被処理水を供給する。1サイクルの途中で被処理水が減少して水位が低下した場合には、次のサイクルを開始するとき(例えば、撹拌工程又は添加工程)に、減少分の被処理水を補充することも可能である。なお、被処理水の全量を排出せず、一部の被処理水を水槽300に残しておき、被処理水を継ぎ足してもよい。この場合には、2回目の処理に用いられる被処理水に、1回目の被処理水の一部が用いられるため、被処理水のpH値を上昇させることができ、2回目の処理において被処理水中のリンをより効率的に分離、回収することができる。
【0040】
このように、リン分離システム100による処理では、リン分離剤を少量ずつ分割投入し、撹拌と静置を繰り返すことで、被処理水中のリンを効率的に分離、回収することができる。本実施形態のように、被処理水の水質等により定まる必要な総量を分割して添加する場合(すなわち、従来と同量のリン分離剤を用いる場合)には、従来と比べてリン濃度の目標値を低く設定することができ、リンの回収量を向上させることができる。一方、一定量のリンを回収する観点からみると、従来と比べて使用するリン分離剤の総量を抑えることができる。
【0041】
また、本タイミングチャートでは、所定の時間(時間T=t~tの期間、時間T=t~tの期間)をかけて、pH値の変化に応じてリン分離剤を添加するものとして説明したが、添加方法(添加量及び添加時間)は、これに限られない。添加量については、被処理水の水質等により定まる必要なリン分離剤の総量を予め見積もったうえで、添加回数(サイクル数)に応じて、各サイクルでの添加量を定めてもよい。各サイクルでの添加量が予め定まる場合には、所定の時間をかけて添加してもよく、一度に添加してもよい。
【0042】
また、各サイクルでの添加量は、被処理水の水質等により定まるリン分離剤の総量を、各サイクルで均等に分割してもよく、サイクル内で増減してもよい。例えば、始めにpH値を上げる目的で、最初のサイクルでの添加量を増やしてもよい。この場合、2回目以降を均等としてもよく、回数を重ねるごとに添加量を減らしてもよい。あるいは、リン分離効率を向上させる目的で、最後のサイクルでの添加量を増やしてもよい。例えば、回数を重ねるごとに添加量を増やしてもよく、一定回数ごとに添加量を増やしてもよい。また、これらを組み合わせて、最初と最後の添加量を増やし、中盤の添加量を減らしてもよい。
【0043】
また、各サイクルでの静置工程では、繰り返し回数に応じて、当該工程におけるリン濃度の目標値を定めてもよい。被処理水のリン濃度が所定値になったときに、静置工程を終了する。予め定めた回数のサイクルが行われていれば、繰り返しを終了して固液分離工程に移行し、予め定めた回数のサイクルが行われていなければ、次のサイクルを開始する。
【0044】
なお、本実施形態では、サイクルを2回繰り返すものとして説明したが、繰り返し回数は3回以上であってもよい。繰り返し回数は、例えば、被処理水の水質、目標とする被処理水のリン濃度(リン回収量)等に基づいて、適宜設定することができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、図5図6を参照して、本発明のリン分離システムの第2実施形態を説明する。第2実施形態のリン分離システム150は、水槽が、リン分離剤の添加及び被処理水の撹拌を行う撹拌水槽と、被処理水の静置を行う静置水槽とに分離されている。
【0046】
図5は、本発明の第2実施形態に係るリン分離システム150の概略図である。リン分離システム150は、2つの撹拌水槽400,450と、2つの静置水槽500,550とから構成されている。本実施形態では、撹拌水槽1つと静置水槽1つで1つのユニットが構成されており、2つのユニットが構成されている。
【0047】
第1実施形態のリン分離システム100と同様に、1サイクルは添加工程、撹拌工程及び静置工程からなり、静置工程は1サイクルの最後となる。本実施形態では、1サイクルが1つのユニットで行われ、次のサイクルが異なるユニットで行われる。そのため、被処理水は、撹拌水槽400、静置水槽500、撹拌水槽450、静置水槽550の順に移送され、撹拌水槽400と静置水槽500とからなる第1ユニットで第1サイクルが行われ、撹拌水槽450と静置水槽550とからなる第2ユニットで第2サイクルが行われる。
【0048】
撹拌水槽400(本発明の「第1水槽」に相当)は、供給装置401(バルブ403)、移送装置402(バルブ404)、添加装置405、撹拌装置406、pH検出装置407及び水位検出装置409を備えている。撹拌水槽400、静置水槽500、撹拌水槽450及び静置水槽550は連動した処理を行うため、制御装置700により制御される。なお、各水槽に制御装置が設けられ、各制御装置を全体制御装置で統括して制御する態様であってもよい。
【0049】
供給装置401は、最終沈殿池200の配管201と接続され、撹拌水槽400に被処理水を供給する。撹拌水槽400の水位は、水位検出装置409で検出することができるため、リン分離の処理時の水位レベルまで被処理水を注水する。添加装置405は、制御装置410の制御により、撹拌水槽400に所定量のリン分離剤を添加する機能を有している。また、撹拌装置406は、制御装置410の制御により、撹拌水槽400内の被処理水を撹拌する機能を有している。
【0050】
移送装置402は、被処理水を撹拌水槽400から静置水槽500に移送するための装置である。移送装置402は、必要量のリン分離剤の添加が完了し、pH検出装置407で検出された被処理水のpH値が予め定めた設定値に到達したとき、被処理水を移送する機能を有している。なお、撹拌水槽400から静置水槽500に移送される被処理水は、処理開始時の被処理水の一部であるため、撹拌水槽400に残された被処理水は、その後再度、各工程が行われる。
【0051】
静置水槽500(本発明の「第2水槽」に相当)は、供給装置501(バルブ503)、排出装置502(バルブ504)、リン濃度検出装置508、水位検出装置509及び排出口510を備えている。
【0052】
供給装置501は撹拌水槽400の配管411と接続され、静置水槽500に被処理水を供給する。静置水槽500の水位は、水位検出装置509で検出することができるため、所定の水位レベルまで被処理水を注水する。その後、静置水槽500において、前記被処理水が所定時間静置される。すなわち、第1ユニットを構成する撹拌水槽400と静置水槽500とにより、第1実施形態でいう第1サイクルの各工程が行われる。
【0053】
静置水槽500の被処理水はある程度リンの分離が進んだ液体であるが、静置工程を経て、さらにリン濃度が低下する。排出装置502は、被処理水のリン濃度が予め定めた第1所定値αに到達したとき、被処理水を静置水槽500から排出する機能を有している。静置水槽500から排出された被処理水は、配管511を介して撹拌水槽450に移送される。また、前記移送のタイミングで、排出口510から沈殿したリン含有物を取り出し、回収する。
【0054】
撹拌水槽450(本発明の「第1水槽」に相当)は、供給装置451(バルブ453)、移送装置452(バルブ454)、添加装置455、撹拌装置456、pH検出装置457及び水位検出装置459を備えている。撹拌水槽450では、静置水槽500から移送された被処理水(上澄液)に対して、リン分離剤の添加、撹拌が行われる。
【0055】
移送装置452は、被処理水を撹拌水槽450から静置水槽550に移送するための装置である。移送装置452は、必要量のリン分離剤(残り分)の添加が完了したとき、リンの分離が進んだ被処理水を移送する機能を有している。撹拌水槽450から排出された被処理水は、配管461を介して静置水槽550に移送される。
【0056】
静置水槽550(本発明の「第2水槽」に相当)は、供給装置551(バルブ553)、排出装置552(バルブ554)、リン濃度検出装置558、水位検出装置559及び排出口560を備えている。静置水槽550において、前記被処理水が所定時間静置される。すなわち、第2ユニットを構成する撹拌水槽450と静置水槽550とにより、第1実施形態でいう第2サイクルの各工程が行われる。
【0057】
静置水槽550の被処理水は、リンの分離がかなり進んだ液体であるが、静置工程を経て、さらにリン濃度が低下する。排出装置552は、被処理水のリン濃度が予め定めた第2所定値α(<α)に到達したとき、被処理水を静置水槽550から排出する機能を有している。静置水槽550から抽出された上澄液(分離水)は、配管601を介してリン分離水槽600に移送される。また、前記移送のタイミングで、排出口560から沈殿したリン含有物を取り出し、回収する。
【0058】
図6は、撹拌水槽400,450と静置水槽500,550とで行われるリン分離処理の概略フローである。
【0059】
まず、最終沈殿池200から撹拌水槽400に、リンを含有する被処理水が供給される(ステップS11)。これにより、撹拌水槽400に所定量の被処理水が貯留される。
【0060】
その後、添加装置405が撹拌水槽400にリン分離剤を添加する(ステップS12)。ここでは、リン分離剤の総量の一部を添加する。その後、撹拌装置406が被処理水を撹拌し(ステップS13)、移送装置402が被処理水を静置水槽500に移送する。次に、静置水槽500において、前記被処理水を一定時間静置するので(ステップS14)、リンの分離が促進される。また、静置工程の後、静置水槽500の底部に沈殿した沈殿物は、「リン含有物」として排出口510から取り出され、回収される。
【0061】
さらに、排出装置502が被処理水を撹拌水槽450に移送した後、添加装置455が残りのリン分離剤を添加する(ステップS15)。その後、撹拌装置456が被処理水を撹拌し(ステップS16)、移送装置452が被処理水を静置水槽550に移送する。さらに、静置水槽550において、前記被処理水を一定時間静置する(ステップS17)。そして、被処理水のリン濃度が所定値に到達したとき、静置を終了する。
【0062】
その後、固液分離が行われる(ステップS18)。ここで、上澄液は、リンが分離された「分離水」として静置水槽550から取り出される。また、静置水槽550の排出口560から「リン含有物」が取り出され、回収される。以上で1回目の「分離水」の抽出処理が終了する。
【0063】
1回目の処理において、撹拌水槽400の被処理水が静置水槽500に移送された後、撹拌水槽400に2回目の処理に用いられる被処理水が供給される(ステップS19)。なお、第1実施形態と同様に、被処理水の全量を静置水槽500に移送せず、一部の被処理水を撹拌水槽400に残しておき、被処理水を継ぎ足してもよい。
【0064】
その後、撹拌水槽400にて添加装置405が被処理水にリン分離剤を添加し(ステップS20)、撹拌装置406が被処理水を撹拌する(ステップS21)。ステップS21以降の処理は、1回目の抽出処理と同様である。2回目の抽出処理は1回目の抽出処理を追いかけるように時間差で進行し、例えば、静置水槽500における静置工程(ステップ14)と、撹拌水槽400における2回目の撹拌工程(ステップ21)は、同時期に実行されてもよい。
【0065】
このようにして、リン分離システム150は、時間差で2回目以降の抽出処理を開始する。撹拌水槽400,450における各処理と静置水槽500,550における各処理が並列的に行われるため、迅速にリンの分離処理を行うことができる。リンの分離、回収を効率的に行う観点等から第3ユニット以降を設けたシステムとしてもよい。
【0066】
撹拌水槽と静置水槽の処理のタイミングが合わない場合には、それぞれの処理時間に対応するように、撹拌水槽と静置水槽を複数設けて切り替えてもよい。例えば、撹拌工程の処理時間に対して静置工程の処理時間が短い場合には、1つの撹拌水槽に対応する複数の静置水槽を備えたユニットとし、当該ユニットでの1回目の撹拌工程後の被処理水を第1の静置水槽に供給し、2回目の撹拌工程後の被処理水を第2の静置水槽に供給してもよい。あるいは、静置工程が終了するまで、撹拌水槽で待機させる(撹拌水槽内で一部静置の時間が生じる)ことも可能である。
【0067】
反対に、撹拌工程の処理時間に対して静置工程の処理時間が長い場合には、1つの静置水槽に対応する複数の撹拌水槽を備えたユニットとし、当該ユニット内の複数の撹拌水槽で並行して行われた撹拌工程後の被処理水を、1つの静置水槽に供給して静置工程を行ってもよい。なお、本システムを複数のユニットにより構成する場合には、各ユニットを構成する撹拌水槽と静置水槽を区別せず、例えば、1又は複数の一方の水槽に対して、1又は複数の他方の複数の水槽を対応させておき、空いている水槽を順次用いるようにしてもよい。
【0068】
以上、本発明は上記各実施形態及び変更形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。上記各実施形態において、被処理水の注水、撹拌、リン分離剤の添加のタイミングは任意であり、これらの処理はその順に実行してもよいし、一部を並行して実行してもよい。また、リン分離剤の添加方法(例えば、添加量、添加時間及び添加回数等)及びサイクル数等は、第1実施形態にて説明したとおり、被処理水の水質又はリン回収量等の観点から適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0069】
100,150…リン分離システム、200…最終沈殿池、300…水槽、301,401,451,501,551…供給装置、302,502,552…排出装置、305,405,455…添加装置、306,406,456…撹拌装置、307,407,457…pH検出装置、308,508,558…リン濃度検出装置、309,409,459,509,559…水位検出装置、311,510,560…排出口、400,450…撹拌水槽、402,452…移送装置、500,550…静置水槽、600…リン分離水槽、700…制御装置。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6