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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040738
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】付加壁及び壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/74 20060101AFI20230315BHJP
   E04B 2/82 20060101ALI20230315BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20230315BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
E04B2/74 551E
E04B2/82 501K
E04B2/82 511J
E04B1/82 W
E04B1/86 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147879
(22)【出願日】2021-09-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000174884
【氏名又は名称】三井ホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉 潤一
(72)【発明者】
【氏名】木本 勢也
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001FA07
2E001FA08
2E001GA12
2E001GA28
2E001GA42
2E001HA03
2E001HC01
2E001HF15
(57)【要約】
【課題】壁の厚さの増加を抑えて自立させて設置することができる付加壁を提供する。
【解決手段】付加壁1は、天井91に固定される上板11Aと上板11Aの壁体90側の端部から垂れ下さがり壁体90と離隔して配置された垂下板11Bとを有する断面視L字形状の第一支持部材11と、床92に固定される下板12Aと下板12Aの壁体90側の端部から立ち上がり壁体90と離隔して配置された立上板12Bとを有する断面視L字形状の第二支持部材12と、垂下板11Bと立上板12Bとに跨って設置され壁体90と離隔して配置された複数の下地板21からなる下地板層20と、下地板層20の室内側に設置された複数の石膏ボード31からなる第一石膏ボード層30と、第一石膏ボード層30の室内側に設置された複数の石膏ボード41からなる第二石膏ボード層40と、を備え、下地板層20は、第一支持部材11及び第二支持部材12のみに支持されている。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体に沿って室内に設ける付加壁であって、
天井に固定される上板と前記上板の壁体側の端部から垂れ下さがり前記壁体と離隔して配置された垂下板とを有する断面視L字形状の第一支持部材と、
床に固定される下板と前記下板の壁体側の端部から立ち上がり前記壁体と離隔して配置された立上板とを有する断面視L字形状の第二支持部材と、
前記垂下板と前記立上板とに跨って設置され前記壁体と離隔して配置された複数の下地板からなる下地板層と、
前記下地板層の室内側に設置された複数の石膏ボードからなる第一石膏ボード層と、
前記第一石膏ボード層の室内側に設置された複数の石膏ボードからなる第二石膏ボード層と、を備え、
前記下地板層は、前記第一支持部材及び前記第二支持部材のみに支持されている、
付加壁。
【請求項2】
前記下地板層の下地板は、9mm以上の厚さの木質系面材である、
請求項1に記載の付加壁。
【請求項3】
前記第一石膏ボード層及び前記第二石膏ボード層の石膏ボードは、21mm以上の厚さの強化石膏ボードである、
請求項1又は請求項2に記載の付加壁。
【請求項4】
前記第一石膏ボード層の縦方向の目地は、前記下地板層の縦方向の目地に対して水平方向に離隔した位置に配置され、
前記第二石膏ボード層の縦方向の目地は、第一石膏ボード層の縦方向の目地に対して水平方向に離隔した位置に配置され、前記第二石膏ボード層の横方向の目地は、第一石膏ボード層の横方向の目地に対して上下方向に離隔した位置に配置されている、
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の付加壁。
【請求項5】
前記壁体と請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の付加壁との間に5mm以上の厚さの空気層を有する、
壁構造。
【請求項6】
吸音性を有する軟質シート状部材が、前記空気層に充填されている、
請求項5に記載の壁構造。
【請求項7】
前記軟質シート状部材は、不織布状である、
請求項6に記載の壁構造。
【請求項8】
前記軟質シート状部材は、アンダーカーペット材である、
請求項6又は請求項7に記載の壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁体に沿って設ける付加壁及び壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
壁の遮音性能を高めるため、戸境壁等の壁体に対して付加壁を設け、壁体と付加壁との間に空気層を形成して振動の伝達を抑える方法がある。例えば特許文献1には、戸境壁の前方に複数の間柱(スタッド)を立てて面材を取り付け、戸境壁と面材との間に形成される空気層によって遮音を図る二重壁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-033929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遮音性能を高めるためには、付加壁を自立させ、壁体と付加壁とが接触しないようにすることが望ましい。しかし、付加壁を自立させるために間柱を立てると、壁の厚さの増加が大きくなり、室内を狭くしてしまうという問題があった。
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、壁の厚さの増加を抑えて自立させて設置することができる付加壁、及び、高い遮音性能を有しながら厚さの増加を抑えることができる壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明に係る付加壁は、壁体に沿って室内に設ける付加壁であって、天井に固定される上板と前記上板の壁体側の端部から垂れ下さがり前記壁体と離隔して配置された垂下板とを有する断面視L字形状の第一支持部材と、床に固定される下板と前記下板の壁体側の端部から立ち上がり前記壁体と離隔して配置された立上板とを有する断面視L字形状の第二支持部材と、前記垂下板と前記立上板とに跨って設置され前記壁体と離隔して配置された複数の下地板からなる下地板層と、前記下地板層の室内側に設置された複数の石膏ボードからなる第一石膏ボード層と、前記第一石膏ボード層の室内側に設置された複数の石膏ボードからなる第二石膏ボード層と、を備え、前記下地板層は、前記第一支持部材及び前記第二支持部材のみに支持されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、壁の厚さの増加を抑えた自立する付加壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る付加壁の一例を示す正面図である。
図2A】本発明に係る付加壁及び壁構造の一例を示す断面図である
図2B図2Aの天井及び床付近の拡大図である。
図3】天井及び床に配置された第一及び第二支持部材の一例を示す斜視図である。
図4】空気層にアンダーカーペット材(軟質シート状部材)が充填されている壁構造の一例を示す断面図である。
図5】2つの本発明に係る付加壁が壁体を挟むように設置された壁構造の一例を示す断面図である。
図6A】本発明に係る付加壁の設置工程において、第一及び第二支持部材を設置した状態の一例を示す正面図である。
図6B】本発明に係る付加壁の設置工程において、第一及び第二支持部材に下地板層を設置した状態の一例を示す正面図である。
図6C】本発明に係る付加壁の設置工程において、下地板層に第一石膏ボード層を設置した状態の一例を示す正面図である。
図6D】本発明に係る付加壁の設置工程において、第一石膏ボード層に第二石膏ボード層を設置した状態の一例を示す正面図である。
図7】本発明に係る付加壁及び壁構造による遮音性能の向上を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。実施形態に係る付加壁1は、図1-2Bに示すように、壁体90に沿って室内に設けられ、断面視L字形状の第一支持部材11及び第二支持部材12と、下地板層20と、第一石膏ボード層30と、第二石膏ボード層40と、を備えている。
なお、壁体90は、付加壁1が設置される建築物の一部であり、天井91から床92にわたる面90Aを室内側に有している。
【0009】
(第一及び第二支持部材)
第一及び第二支持部材11、12は、室内の天井91及び床92に固定される部材である。第一及び第二支持部材11、12は、断面視L字形状の板状の部材であり、例えば図3に示すように、天井91及び床92に固定される。なお、図3では、第一及び第二支持部材11、12の断面視形状を併せて示している。
第一支持部材11は、上板11Aと垂下板11Bとを有している。上板11Aは、天井91に対面し、天井91に固定されている。垂下板11Bは、上板11Aの壁体90側の端部から、上板11Aと90度をなして垂れ下さがっている。垂下板11Bは、壁体90に沿って壁体90と離隔するように配置され、第一支持部材11は、壁体90と離隔している。
第二支持部材12は、下板12Aと立上板12Bとを有している。下板12Aは、床92に対面し、床92に固定されている。立上板12Bは、下板12Aの壁体90側の端部から、下板12Aと90度をなして立ち上がっている。立上板12Bは、壁体90に沿って壁体90と離隔するように配置され、第二支持部材12は、壁体90と離隔している。
【0010】
第一及び第二支持部材11、12は、例えば、板厚が0.4mm-1mmの鋼板で形成することができる。板厚が0.4mm-1mmの鋼板の場合、断面視における一辺の長さは、十分な固定強度とするために、4cm以上であることが好ましい。
第一及び第二支持部材11、12は、室内における壁体90の幅方向の両端にわたって配置される。第一及び第二支持部材11、12は、それぞれ室内における壁体90の幅方向の長さを有する一本の部材としてもよく、複数本を繋ぎ合わせて配置してもよい。
【0011】
(下地板層)
下地板層20は、付加壁1の下地であり、後記する第一及び第二石膏ボード層の壁体90側に配置される層である。下地板層20は、壁体90と離隔しており、壁体90と下地板層20との間には、空気層50が形成されている。
下地板層20は、複数の下地板21からなる。下地板21は、第一支持部材11の上板11Aの下面から第二支持部材12の下板12Aの上面までの長さを高さ寸法とする矩形状の板状の部材であり、垂下板11B及び立上板12Bの室内側に、垂下板11Bと立上板12Bとに跨って設置される。下地板21は、室内側において壁体90の全体を覆うように、壁体90の幅方向に隙間なく並べられる。
【0012】
下地板層20は、第一支持部材11及び第二支持部材12のみに支持されている。下地板21の上端部は、ビス等によって垂下板11Bに固定される。下地板21の下端部は、ビス等によって立上板12Bに固定される。ビス等は、固定後の状態で、ビス等の先端が壁体90と離隔する長さのものを使用する。付加壁1と壁体90との間の振動絶縁のために、ビス等についても壁体90に接触しないことが重要であり、固定後の状態におけるビス等の先端と壁体90との間隔は、1mm以上であることが好ましい。
下地板21は、自立できる強度を有し、後記する第一石膏ボードをビス等で取り付ける下地として、ビス等を保持できるように、厚さ9mm以上の木質系面材であるのが好ましい。木質系面材としては、例えば針葉樹合板等の構造用合板やパーティクルボードを使用することができる。
【0013】
(第一及び第二石膏ボード層)
第一及び第二石膏ボード層30、40は、付加壁1の主体をなす層であり、下地板層20の室内側に配置される。
第一石膏ボード層30は、下地板層20の室内側に設置された複数の石膏ボード31からなる。石膏ボード31は、室内側において壁体90の全体を覆うように、隙間なく並べられる。石膏ボード31は、下地板21にビスやステープル等によって固定される。石膏ボード31は、接着剤を併用して固定してもよい。
第二石膏ボード層40は、第一石膏ボード30層の室内側に設置された複数の石膏ボード41からなる。石膏ボード41は、室内側において壁体90の全体を覆うように、隙間なく並べられる。石膏ボード41は、ビスやステープル等によって固定される。石膏ボード41は、接着剤を併用して固定してもよい。なお、ビスで固定する場合は、下地板21に、ステープルで固定する場合は、下地板21または第一石膏ボード層30の石膏ボード31に固定する。
【0014】
石膏ボード31、41は、市販されているものを用いることができる。強度及び遮音の観点から、石膏ボード31、41の厚さは21mm以上であることが好ましい。
また、付加壁1に一定の防耐火性能を持たせるために、石膏ボード31、41をJIS A 6901に定められる強化石膏ボード(強化せっこうボード)とすることができる。例えば、石膏ボード31、41を厚さ21mmの強化石膏ボードとすることで、強度及び遮音性能を高めると共に、例えば1時間耐火性能を持たせることができる。石膏ボード31、41を21mmよりも厚い強化石膏ボードとすることで、付加壁1の強度、遮音及び防耐火性能をさらに高めることができる。
【0015】
(壁構造)
次に、付加壁1と壁体90を含む壁構造について説明する。壁構造2は、図2A、2Bに一例を示すように、壁体90と、付加壁1と、壁体90及び付加壁1の間の空気層50とを備えている。空気層50の厚さD1は、遮音の観点から、5mm以上であることが好ましい。例えば空気層50の厚さD1を5mmとし、下地板21を9mmの厚さの木質系面材とし、第一及び第二石膏ボード層30、40の石膏ボード31、41を21mmの厚さの強化石膏ボードとした場合、付加壁1を設けることによる壁の厚さの増加D2は56mmとなる。
【0016】
空気層50は、吸音性を有する軟質シート状部材51が充填されていてもよい。軟質シート状部材51は、例えば、気泡を含むウレタンやグラスウール、フェルト状、不織布状のような多孔質構造を有する材料からなり、音を吸収することができるシート状の部材である。また、付加壁1の施工時において、下地板21が撓むことがある。空気層50に軟質シート状部材51を充填することで、施工時における下地板21の撓みを抑えることができる。
【0017】
軟質シート状部材51のなかでも、不織布状のものは、軽量であり、適度な硬さとすることができ、好ましい。硬さが不足していると、押し返す力が弱く、施工時における下地板21の撓みを十分に抑えることができない。一方、硬過ぎると壁体90と付加壁1との間の振動絶縁を阻害し、振動を伝えることにより遮音性能を低下させてしまう。適度な硬さとは、施工時における下地板21の撓みの抑制と振動絶縁とを両立させる硬さである。不織布状の軟質シート状部材51の素材としては、例えば、ポリエチレン等の化学繊維や綿、ガラス、反毛繊維等がある。
【0018】
軟質シート状部材51として、アンダーカーペット材52を使用するのも好ましい。図4に一例を示す壁構造3は、空気層50にアンダーカーペット材52が充填されている。アンダーカーペット材52の硬さは、施工時における下地板21の撓みを抑えるのに適している。アンダーカーペット材52は、床の下地材として広く流通しているため入手しやすく、安価である。そして、ロール状で供給されているものを使用すれば、広い面積の施工においても扱いやすい。
また、壁体90を挟むように2つの付加壁1を設けることもできる。図5に一例を示す壁構造4は、壁体90を含めると3列壁であり、壁体90と、壁体90を挟む2つの付加壁1及び空気層50とを備えている。空気層50は、アンダーカーペット材52等の吸音性を有する軟質シート状部材51が充填されていてもよい。
【0019】
(目地の位置関係)
付加壁1の各層は、目地を有する。すなわち、下地板層20は、隣り合う下地板21同士の間に縦方向の目地を有する。第一石膏ボード層30は隣り合う石膏ボード31同士の間に縦方向又は横方向の目地を有する。第二石膏ボード層40は隣り合う石膏ボード41同士の間に縦方向又は横方向の目地を有する。遮音及び防耐火の観点から、下地板21と石膏ボード31との間、及び、石膏ボード31と石膏ボード41との間で、目地が重ならないようにしている。ここで、各層間の目地の位置関係について、図6A-6Dを参照しながら、施工の順序に沿って説明する。図6A-6Dは、室内側から壁体90の方向を見た正面図である。
【0020】
はじめに、図6Aに一例を示すように、第一及び第二支持部材11、12を壁体90から離隔させて天井91及び床92に固定する。続いて、第一支持部材11の垂下板11B及び第二支持部材12の立上板12Bに、図6Bに一例を示すように、下地板21を固定して下地板層20を形成する。下地板21同士の間には、縦方向の目地21Vが生じている。
続いて、下地板21に、図6Cに一例を示すように、石膏ボード31を固定して第一石膏ボード層30を形成する。石膏ボード31同士の間には、縦方向の目地31V及び横方向の目地31Hが生じている。縦方向の目地31Vは、下地板層20の縦方向の目地21Vと重ならないように配置されている。
続いて、石膏ボード31に、図6Dに一例を示すように、石膏ボード41を固定して第二石膏ボード層40を形成する。石膏ボード41同士の間には、縦方向の目地41V及び横方向の目地41Hが生じている。縦方向の目地41Vは、第一石膏ボード層30の縦方向の目地31Vと重ならないように配置されている。また、横方向の目地41Hは、第一石膏ボード層30の横方向の目地31Hと重ならないように配置されている。
【0021】
すなわち、付加壁1において、図6Dに示すように、第一石膏ボード層30の縦方向の目地31Vは、下地板層20の縦方向の目地21Vに対して水平方向に離隔した位置に配置され、第二石膏ボード層40の縦方向の目地41Vは、第一石膏ボード層30の縦方向の目地31Vに対して水平方向に離隔した位置に配置されている。また、第二石膏ボード層40の横方向の目地41Hは、第一石膏ボード層30の横方向の目地31Hに対して上下方向に離隔した位置に配置されている。
なお、下地板21及び石膏ボード31、41の縦横の長さの比や枚数は、図6B-6Dに示す例に限定されることなく、自由に設定することができる。
【0022】
次に、本発明に係る付加壁1及び壁構造2-4の効果を説明する。
本発明に係る付加壁1は、壁体90に沿って室内に設ける付加壁であって、天井91に固定される上板11Aと上板11Aの壁体90側の端部から垂れ下さがり壁体90と離隔して配置された垂下板11Bとを有する断面視L字形状の第一支持部材11と、床92に固定される下板12Aと下板12Aの壁体90側の端部から立ち上がり壁体90と離隔して配置された立上板12Bとを有する断面視L字形状の第二支持部材12と、垂下板11Bと立上板12Bとに跨って設置され壁体90と離隔して配置された複数の下地板21からなる下地板層20と、下地板層20の室内側に設置された複数の石膏ボード31からなる第一石膏ボード層30と、第一石膏ボード層30の室内側に設置された複数の石膏ボード41からなる第二石膏ボード層40と、を備え、下地板層20は、第一支持部材11及び第二支持部材12のみに支持されている。
【0023】
かかる構成により、付加壁1は、断面視L字形状の第一支持部材11の上板11Aを天井91に固定し、断面視L字形状の第二支持部材12の下板12Aを床92に固定し、第一支持部材11の垂下板11Bと第二支持部材12の立上板12Bとに跨って下地板21を設置して下地板層20とし、下地板層20は、第一支持部材11及び第二支持部材12のみに支持されている。そして、第一石膏ボード層30を下地板層20に設置し、第二石膏ボード層40を第一石膏ボード層30に設置することで、付加壁1は、間柱を設けることなく自立させることができる。これにより、厚さを抑えた自立壁を実現することができ、厚さを抑えることで、室内の空間をより広く確保することができる。
付加壁1は、第一支持部材11、第二支持部材12及び下地板層20が、壁体90と離隔していることで、壁体90に接触することなく自立させることができるため、付加壁1と壁体90との間における振動の伝達を抑えることができる。これにより、付加壁1は、厚さを抑えながら遮音性能の向上を図ることができる。
【0024】
本発明に係る付加壁1は、下地板層20の下地板21は、9mm以上の厚さの木質系面材であるのが好ましい。
かかる構成により、付加壁1は、下地板21を9mm以上の厚さの木質系面材とすることで、より強固な自立壁とすることができる。
【0025】
本発明に係る付加壁1は、第一石膏ボード層30及び第二石膏ボード層40の石膏ボード31、41は、21mm以上の厚さの強化石膏ボードであるのが好ましい。
かかる構成により、付加壁1は、それぞれが21mm以上の厚さの石膏ボードからなる2層の石膏ボード層30、40を備えることで、面外剛性を高めることができ、強度及び遮音性能をさらに向上させることができる。そして、付加壁1は、石膏ボード31、41を21mm以上の厚さの強化石膏ボードとすることで、例えば1時間耐火性能を実現することができる。付加壁1に防耐火性能を持たせることで、壁体90における付加壁1側の防耐火用の被覆を不要とすることができ、室内の空間をより広く確保することができる。
【0026】
本発明に係る付加壁1は、第一石膏ボード層30の縦方向の目地31Vは、下地板層20の縦方向の目地21Vに対して水平方向に離隔した位置に配置され、第二石膏ボード層40の縦方向の目地41Vは、第一石膏ボード層30の縦方向の目地31Vに対して水平方向に離隔した位置に配置され、第二石膏ボード層40の横方向の目地41Hは、第一石膏ボード層30の横方向の目地31Hに対して上下方向に離隔した位置に配置されているのが好ましい。
かかる構成により、付加壁1は、各層間の目地が重ならないように設置され、遮音及び防耐火性能をさらに高めることができる。
【0027】
本発明に係る壁構造2は、壁体90と付加壁1との間に5mm以上の厚さの空気層50を有する。
かかる構成により、壁構造2は、5mm以上の厚さの空気層50を有することで、高い遮音性能を実現することができる。また、例えば空気層50の厚さD1を5mmとし、下地板21を9mmの厚さの木質系面材とし、第一及び第二石膏ボード層30、40の石膏ボード31、41を21mmの厚さの強化石膏ボードとした場合でも、付加壁1を設けることによる壁の厚さの増加D2は56mmであり、壁の厚さの増加を抑えながら、遮音及び防耐火性能を高めた壁構造とすることができる。
【0028】
本発明に係る壁構造3は、吸音性を有する軟質シート状部材51が、空気層50に充填されているのが好ましい。
かかる構成により、壁構造3は、軟質シート状部材51によって音を吸収し、遮音性能をさらに高めると共に、施工時における下地板21の撓みを抑えて、施工効率を向上させることができる。
【0029】
本発明に係る壁構造3は、軟質シート状部材51は、不織布状であるのが好ましい。
不織布状の軟質シート状部材51は、軽量であり、施工時における下地板21の撓みの抑制と振動絶縁とを両立させる硬さとすることができる。かかる構成により、壁構造3は、遮音性能をさらに高めると共に、施工効率をさらに向上させることができる。
【0030】
本発明に係る壁構造3は、軟質シート状部材51は、アンダーカーペット材52であるのが好ましい。
アンダーカーペット材52は、施工時における下地板21の撓みを抑えるのに適した硬さであり、床の下地材として広く流通しているため入手しやすく、安価である。そして、ロール状で供給されているものを使用すれば、広い面積の施工においても扱いやすい。かかる構成により、壁構造3は、遮音性能をさらに高めると共に、費用を抑えながら、施工効率をさらに向上させることができる。
【0031】
(実施例)
次に、本発明に係る付加壁及び壁構造による遮音性能の向上について説明する。
図5は、すでに説明した壁構造4の一例を示す断面図であり、壁構造4を境界として左右に部屋が隣り合っている。このように隣り合う部屋の間での室間音圧レベル差を指標とし、本発明に係る付加壁及び壁構造による遮音性能の向上を確認した。室間音圧レベル差とは、ここでは、左側又は右側の一方の部屋に音源を置いた場合の左右の部屋における音圧レベルの差である。遮音性能を比較するために、左右の部屋の境界を比較例、実施例1及び実施例2とした場合について、室間音圧レベル差を測定した。
【0032】
比較例は、図5における左右の部屋の境界を壁体90のみとし、付加壁1を設けない1列壁とした場合である。実施例1は、壁体90の右側(左側でもよい)にのみ付加壁1を設けて2列壁とした場合である。実施例2は、壁体90の左右両側に付加壁1を設けて3列壁とした場合である。
付加壁1は、下地板21を9mmの厚さの針葉樹合板とし、第一及び第二石膏ボード層30、40の石膏ボード31、41を21mmの厚さの強化石膏ボードとした。空気層50は、厚さD1を5mmとし、アンダーカーペット材52を充填した。1つの付加壁1を設けることによる壁の厚さの増加D2は56mmである。なお、下地板21、石膏ボード31、41及びアンダーカーペット材52は、すべて市販のものを使用した。
【0033】
室間音圧レベル差の測定は、日本建築学会推奨測定基準D.1「建築物の現場における音圧レベル差の測定方法」に基づいて行った。
室間音圧レベル差の測定結果を図7に示す。図7の縦軸に示す音圧レベル差(単位[dB])は、音源を置いた一方の室内及び音源を置いていない他方の室内のそれぞれにおいて測定される音圧レベルの差である。横軸は、周波数(単位[Hz])である。
【0034】
図7の点線のグラフは、JIS A 1419-1:2000の附属書1に規定される等級曲線であり、D-25からD-60とされる各等級について、空気音遮断性能の周波数特性を表している。Dに続く数値が大きくなるほど遮音性能が高くなる。
図7の実線のグラフは、比較例、実施例1及び実施例2の測定結果であり、縦軸の音圧レベル差の小さい方から、比較例、実施例1、実施例2のグラフである。比較例は、一部の周波数でD-35を下回っているが、すべての周波数でD-30を上回っており、比較例の遮音等級は、D-30となった。実施例1は、D-45を下回る周波数がなく、実施例1の遮音等級は、D-45となった。実施例2は、D-50を下回る周波数がなく、実施例2の遮音等級は、D-50となった。
【0035】
遮音等級D-30は、例えば戸建住宅内の部屋間の壁の遮音性能であり、集合住宅の隣戸間の壁の遮音性能としては十分でない。一方、遮音等級D-50は、集合住宅の居室について日本建築学会が定める遮音性能基準で、隣戸間界壁の1級に相当する。1級は、遮音性能上すぐれており、日本建築学会が推奨する好ましい性能水準とされている。同様に、D-45は隣戸間界壁の2級に相当し、2級は、遮音性能上標準的であり、一般的な性能水準とされている。
【0036】
すなわち、壁体90は、本発明に係る付加壁1を設けて2列壁の壁構造とすることによって、遮音等級がD-30からD-45に3等級向上し、隣戸間界壁として標準的な遮音性能を得ることができる。そのための壁の厚さの増加は56mmであり、室内の広さへの影響も抑えられている。さらに、壁体90を挟むように2つの付加壁1を設けて3列壁とすれば、遮音等級はD-30からD-50に4等級向上し、日本建築学会が推奨する好ましい遮音性能水準を満たす隣戸間界壁とすることができる。この場合でも、壁の厚さの増加は合計112mmであり、それぞれの部屋に対しては56mmずつの増加である。本発明に係る付加壁及び壁構造は、壁の厚さの増加を抑えながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0037】
なお、下地板21は、垂下板11B及び立上板12Bの室内側に設置することを説明した。これとは異なるが、下地板21は、垂下板11B及び立上板12Bの壁体90側に設置してもよい。また、第一支持部材11は、垂下板11Bが上板11Aの室内側の端部から垂れ下がる向きに設置してもよい。同様に、第二支持部材12は、立上板12Bが下板12Aの室内側の端部から立ち上がる向きに設置してもよい。
壁構造4として、壁体90を挟むように2つの付加壁1を設けて3列壁とすることを説明した。付加壁1は、それぞれが自立壁であるため、壁体90のない場所に2つの付加壁1を設けて2列壁とすることもできる。この場合、2つの付加壁1は離隔させて設け、2つの付加壁1の間の空間は、空気層としてもよく、例えばアンダーカーペット材や不織布状の軟質シート状部材を充填させてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 付加壁
2 壁構造(空気層)
3 壁構造(軟質シート状部材、アンダーカーペット材)
4 壁構造(3列壁)
11 第一支持部材
11A 上板(第一支持部材)
11B 垂下板(第一支持部材)
12 第二支持部材
12A 下板(第二支持部材)
12B 立上板(第二支持部材)
20 下地板層
21 下地板
30 第一石膏ボード層
31 石膏ボード(第一石膏ボード層)
40 第二石膏ボード層
41 石膏ボード(第二石膏ボード層)
50 空気層
51 軟質シート状部材
52 アンダーカーペット材
90 壁体
91 天井
92 床
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体に沿って室内に設ける付加壁であって、
天井に固定される上板と前記上板の壁体側の端部から垂れ下がり前記壁体と離隔して配置された垂下板とを有する断面視L字形状の第一支持部材と、
床に固定される下板と前記下板の壁体側の端部から立ち上がり前記壁体と離隔して配置された立上板とを有する断面視L字形状の第二支持部材と、
前記垂下板と前記立上板とに跨って設置され前記壁体と離隔して配置された板状の部材である複数の下地板からなる下地板層と、
前記下地板層の室内側に設置された複数の21mm以上の厚さの強化石膏ボードからなる第一石膏ボード層と、
前記第一石膏ボード層の室内側に設置された複数の21mm以上の厚さの強化石膏ボードからなる第二石膏ボード層と、を備え、
前記下地板層は、前記下地板が前記垂下板及び前記立上板に前記室内側から当接し、ビス等で固定されることによって、前記第一支持部材及び前記第二支持部材のみに支持されている、
付加壁。
【請求項2】
前記下地板層の下地板は、9mm以上の厚さの木質系面材である、
請求項1に記載の付加壁。
【請求項3】
前記第一石膏ボード層の縦方向の目地は、前記下地板層の縦方向の目地に対して水平方向に離隔した位置に配置され、
前記第二石膏ボード層の縦方向の目地は、第一石膏ボード層の縦方向の目地に対して水平方向に離隔した位置に配置され、前記第二石膏ボード層の横方向の目地は、第一石膏ボード層の横方向の目地に対して上下方向に離隔した位置に配置されている、
請求項1又は請求項2に記載の付加壁。
【請求項4】
前記壁体と請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の付加壁との間に5mm以上の厚さの空気層を有する、
壁構造。
【請求項5】
吸音性を有する軟質シート状部材が、前記空気層に充填されている、
請求項4に記載の壁構造。
【請求項6】
前記軟質シート状部材は、不織布状である、
請求項5に記載の壁構造。
【請求項7】
前記軟質シート状部材は、アンダーカーペット材である、
請求項5又は請求項6に記載の壁構造。