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特開2023-40759塗工液、多孔質フィルム、リチウムイオン電池、塗工液の製造方法、多孔質フィルムの製造方法およびリチウムイオン電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040759
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】塗工液、多孔質フィルム、リチウムイオン電池、塗工液の製造方法、多孔質フィルムの製造方法およびリチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/403 20210101AFI20230315BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/437 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230315BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230315BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230315BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20230315BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20230315BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230315BHJP
   C08J 9/40 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/437
H01M10/0566
H01M10/052
H01M50/449
H01M50/446
B32B3/24 Z
B05D7/24 303G
C08J9/40 CER
C08J9/40 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147910
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516309866
【氏名又は名称】ATTACCATO合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】九軒 右典
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭樹
(72)【発明者】
【氏名】難波 達也
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太地
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
【テーマコード(参考)】
4D075
4F074
4F100
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
4D075DA04
4D075DA25
4D075DB36
4D075DC19
4D075EA10
4D075EC03
4D075EC07
4D075EC22
4F074AA17
4F074AB01
4F074AG02
4F074CB16
4F074CE02
4F074CE16
4F074CE34
4F074CE44
4F074CE56
4F074CE75
4F074CE94
4F074DA03
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA49
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AC03B
4F100AD11B
4F100AG00B
4F100AJ04B
4F100AK04A
4F100CA23B
4F100DE03B
4F100DG01B
4F100DJ00A
4F100EH46B
4F100GB41
5H021BB09
5H021BB12
5H021CC01
5H021CC04
5H021EE11
5H021EE17
5H021EE20
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE23
5H021EE24
5H021EE28
5H021EE31
5H021HH00
5H021HH03
5H021HH07
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029CJ08
5H029CJ14
5H029CJ22
5H029DJ04
5H029DJ15
5H029DJ16
5H029EJ04
5H029EJ05
5H029EJ06
5H029EJ08
5H029EJ12
5H029HJ10
5H029HJ20
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池のセパレータなどに用いられる多孔質フィルムの特性を向上させる。
【解決手段】本発明の多孔質フィルムは、多孔質基材と前記多孔質基材の表面に設けられた塗工膜とを有する多孔質フィルムであって、塗工膜は、第1フィラーと第2フィラーとを有する。第1フィラーはNa塩に変換されたカルボキシ基を含有するセルロースであり、さらに、塩基性処理されたもの(SA化Ce塩またはTEMPO酸化セルロース)であり、第2フィラーは、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を少なくとも1種類以上有する。このようにSA化Ce塩等を用いることで、斥力による微細化が進み、多孔質フィルムの機械的強度や耐熱性を向上させることができる。そして、さらに、SA化Ce塩の塩濃度を調整することにより、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性)を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フィラーと第2フィラーと溶媒とを有する多孔質フィルム用の塗工液であって、
前記第1フィラーは、第一級水酸基がカルボキシ基に酸化された構造を有するセルロース繊維であり、
前記第2フィラーは、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を少なくとも1種類以上有する、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項2】
請求項1記載の塗工液において、
前記第1フィラーは、以下化学式に示すTEMPO酸化セルロースである、多孔質フィルム用の塗工液。
【化7】
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗工液において、
Naイオン濃度が、1000mg/L以上2000mg/L以下である、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項4】
請求項1または2に記載の塗工液において、
電気伝導率が400mS/m以上800mS/m以下である、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の塗工液において、
25℃における粘度が400mPa・s以下である、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項6】
多孔質基材と前記多孔質基材の表面に設けられた塗工膜とを有する多孔質フィルムであって、
前記塗工膜は、第1フィラーと第2フィラーとを有し、
前記第1フィラーは、第一級水酸基がカルボキシ基に酸化された構造を有するセルロース繊維であり、
前記第2フィラーは、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を少なくとも1種類以上有する、多孔質フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の多孔質フィルムにおいて、
前記第1フィラーは、以下化学式に示すTEMPO酸化セルロースである、多孔質フィルム。
【化8】
【請求項8】
請求項6記載の多孔質フィルムにおいて、
前記塗工膜中のNa濃度は、0.05mg/g以上5mg/g以下である、多孔質フィルム。
【請求項9】
請求項7記載の多孔質フィルムにおいて、
前記塗工膜中のNa濃度は、0.1mg/g以上15mg/g以下である、多孔質フィルム。
【請求項10】
請求項6記載の多孔質フィルムであって、前記塗工膜の厚さは0.5μm以上であって、200℃環境下に静置した前後の熱収縮率が5%以下の多孔質フィルム。
【請求項11】
正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える、リチウムイオン電池であって、
請求項6~10のいずれか一項に記載の多孔質フィルムを前記セパレータとして有する、リチウムイオン電池。
【請求項12】
第1フィラーと第2フィラーと溶媒とを有する多孔質フィルム用の塗工液の製造方法であって、
(a)前記第1フィラーであるセルロースにカルボキシ基を導入する工程、
(b)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化ナトリウムを添加する工程、
(c)前記(b)工程の後、前記第2フィラーである、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を添加する工程、を有する、多孔質フィルム用の塗工液の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の多孔質フィルム用の塗工液の製造方法において、
前記(a)工程におけるpHは、2~6であり、
前記(b)工程におけるpHは、5~10である、多孔質フィルム用の塗工液の製造方法。
【請求項14】
(a)第1フィラーであるセルロースにカルボキシ基を導入する工程、
(b)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化ナトリウムを添加する工程、
(c)前記(b)工程の後、第2フィラーである、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を添加することにより塗工液を形成する工程、
(d)前記塗工液を多孔質基材の表面に塗布し、塗工膜を形成する工程、
を有する、多孔質フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の多孔質フィルムの製造方法において、
前記(a)工程におけるpHは、2~6であり、
前記(b)工程におけるpHは、5~10である、多孔質フィルムの製造方法。
【請求項16】
(a)セパレータとして多孔質フィルムを形成する工程、
(b)正極材と負極材との間に前記多孔質フィルムを配置する工程、
を有し、
前記(a)工程は、
(a1)第1フィラーであるセルロースにカルボキシ基を導入する工程、
(a2)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化ナトリウムを添加する工程、
(a3)前記(a2)工程の後、第2フィラーである、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナおよびガラス繊維から選択される材料を添加することにより塗工液を形成する工程、
(a4)前記塗工液を多孔質基材の表面に塗布し、塗工膜を形成する工程、
を有する、リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項17】
請求項16記載のリチウムイオン電池の製造方法において、
前記(a1)工程におけるpHは、2~6であり、
前記(a2)工程におけるpHは、5~10である、リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項18】
請求項17記載のリチウムイオン電池の製造方法において、
前記(a2)工程において、前記セルロースは、Na塩となる、リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項19】
請求項17記載のリチウムイオン電池の製造方法において、
前記(a1)および(a2)工程は、以下化学式に示すTEMPO酸化セルロースを形成する工程である、リチウムイオン電池の製造方法。
【化9】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のセパレータなどに用いられる多孔質フィルム用の塗工液に関し、塗工液、多孔質フィルム、リチウムイオン電池、塗工液の製造方法、多孔質フィルムの製造方法およびリチウムイオン電池の製造方法に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池の利用分野は、電子機器から自動車、大型蓄電システムなどへと展開しており、中でも、小型、軽量化が可能で、高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池(二次電池)が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバーと熱可塑性フッ素系樹脂とを複合化したリチウムイオン電池用の電極における非水系のバインダであって、セルロースナノファイバーが、繊維径(直径)が0.002μm以上1μm以下、繊維の長さが0.5μm以上10mm以下、アスペクト比(セルロースナノファイバーの繊維長/セルロースナノファイバーの繊維径)が、2以上100000以下のセルロースであるバインダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/064583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池の高容量化・高出力化に伴い、より一層の安全性の向上が求められている。本発明者は、電池のセパレータなどに用いられる多孔質フィルムについての研究開発に従事しており、特性の良好な多孔質フィルムについて鋭意検討している。
【0006】
追って詳細に説明するように、電池の正極と負極との間に設けられるセパレータは、リチウムイオンが通る程度の微細孔を複数有し、この孔を通ってリチウムイオンが正極と負極の間を移動することで、充電と放電を繰り返すことができる。このセパレータは、正極と負極を分離させて、短絡を防ぐ役割を有する。また、電池の内部が何らかの原因で高温となった場合には、セパレータの微細孔が閉じることで、リチウムイオンの移動を停止し、電池機能を停止させる(シャットダウン機能)。
【0007】
このようにセパレータは、電池の安全装置の役割を担っており、安全性を向上するためには、セパレータの機械的強度や耐熱性を向上することが不可欠である。
【0008】
一方、電池特性には、様々な要因が関与しており、セパレータの機械的強度や耐熱性を向上させるための添加物が却って電池特性を低下させる場合がある。
【0009】
よって、セパレータの機械的強度や耐熱性を向上させつつ、電池特性を向上させる技術の検討が望まれる。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される塗工液は、第1フィラーと第2フィラーとを有し、前記第1フィラーは、第一級水酸基がカルボキシ基に酸化された構造を有するセルロース繊維であり、前記第2フィラーは、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を少なくとも1種類以上有する。
【0011】
本願において開示される多孔質フィルムは、多孔質基材と前記多孔質基材の表面に設けられた塗工膜とを有し、前記塗工膜は、第1フィラーと第2フィラーとを有し、前記第1フィラーは、第1級水酸基がカルボキシ基に酸化された構造を有するセルロース繊維であり、前記第2フィラーは、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を少なくとも1種類以上有する。
【0012】
本願において開示されるリチウムイオン電池は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備え、上記多孔質フィルムを前記セパレータとして有する。
【0013】
本願において開示される塗工液の製造方法は、(a)第1フィラーであるセルロース繊維にカルボキシ基を導入する工程、(b)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化ナトリウムを添加する工程、を有する。
【0014】
本願において開示される多孔質フィルムの製造方法は、(a)第1フィラーであるセルロース繊維にカルボキシ基を導入する工程、(b)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化物を添加する工程、(c)前記(b)工程の後、前記第2フィラーである、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を添加することにより塗工液を形成する工程、(d)前記塗工液を多孔質基材の表面に塗布し、塗工膜を形成する工程を有する。
【0015】
本願において開示されるリチウムイオン電池の製造方法は、(a)セパレータとして多孔質フィルムを形成する工程、(b)正極材と負極材との間に前記多孔質フィルムを配置する工程、を有する。そして、前記(a)工程は、(a1)第1フィラーであるセルロース繊維にカルボキシ基を導入するする工程、(a2)カルボキシ化された前記第1フィラーに水酸化物を添加する工程、(a3)前記(a2)工程の後、前記第2フィラーである、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、およびガラス繊維から選択される材料を添加することにより塗工液を形成する工程、(a4)前記塗工液を多孔質基材の表面に塗布し、塗工膜を形成する工程、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される多孔質フィルム用の塗工液によれば、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。
【0017】
本願において開示される多孔質フィルムによれば、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。
【0018】
本願において開示されるリチウムイオン電池によれば、リチウムイオン電池の特性を向上させることができる。
【0019】
本願において開示される多孔質フィルム用の塗工液の製造方法によれば、特性の良好な多孔質フィルム用の塗工液を製造することができる。
【0020】
本願において開示される多孔質フィルムの製造方法によれば、特性の良好な多孔質フィルムを製造することができる。
【0021】
本願において開示されるリチウムイオン電池の製造方法によれば、特性の良好なリチウムイオン電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態1の多孔質フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
図2】実施の形態1の多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の内部構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態1のリチウムイオン電池の構成例を模式的に示す図である。
図4】CeNF塩の分散液の調製工程を示す図である。
図5】セルロース繊維へのカルボキシ基の導入処理を示す図である。
図6】30℃でのサイクル特性を示す図である。
図7】60℃でのサイクル特性を示す図である。
図8】放電レートと放電電圧との関係を示す図である。
図9】放電レートと放電電圧との関係を示す図である。
図10】TEMPO酸化セルロースの構成を模式的に示した図である。
図11】30℃でのサイクル特性を示す図である。
図12】60℃でのサイクル特性を示す図である。
図13】放電レートと放電電圧との関係を示す図である。
図14】放電レートと放電容量との関係を示す図である。
図15】30℃でのサイクル特性を示す図である。
図16】60℃でのサイクル特性を示す図である。
図17】実施の形態3の製造装置の構成を示す模式図である。
図18】グラビア塗工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
(実施の形態1)
以下に、本実施の形態の多孔質フィルムおよびその製造方法について説明する。本実施の形態の多孔質フィルムは、いわゆる電池のセパレータとして用いることができる。
【0025】
[構造説明]
図1は、本実施の形態の多孔質フィルムの構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施の形態の多孔質フィルムは、電池のセパレータSPとして用いられ、基材(多孔質基材)Sと基材Sの表面に形成された塗工膜(被覆膜)CFとを有する。ここで用いられる基材Sは、特に限定されずに使用できる。基材Sとしては、特に、通常、リチウムイオン電池用の多孔質フィルムに用いられる基材が好ましい。塗工膜CFは、第1フィラー(疎水化したセルロース)と第2フィラー(無機フィラー)とを有して構成される。この図1では、1つの例として、後述するように、第1フィラーとしてSA化処理されたセルロース塩(SA化Ce塩と示す場合がある)と、第2フィラーとしてアルミナ(Al)とを有する場合を例示している。
【0026】
図2は、本実施の形態の多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の内部構成を模式的に示す図であり、図3は、本実施の形態のリチウムイオン電池の構成例を模式的に示す図である。図2(A)は、正極の構成を示し、図2(B)は、負極の構成を示し、図2(C)は、電極群の構成を示す。図3の電池は、コイン型電池と呼ばれる。
【0027】
図2(A)に示すように、正極1は、集電体1Sおよびその上部に設けられた正極合剤層1Mよりなり、図2(B)に示すように、負極2は、集電体2Sおよびその上部に設けられた負極合剤層2Mよりなる。そして、図2(C)に示すように、リチウムイオン電池は、正極1と、負極2と、これらの間に配置されたセパレータSPとを有し、正極1と負極2は、それぞれ正極合剤層1Mと負極合剤層2MとがセパレータSPと接するように対向配置されている。上記正極1、負極2およびセパレータSPの積層体(電極群ともいう)は、電解液とともに電池容器(ラミネートフィルムよりなる袋、電池缶など)に収容され、正極端子(例えば、集電体1Sの一部または集電体1Sと電気的に接続された導電部)および負極端子(例えば、集電体2Sの一部または集電体2Sと電気的に接続された導電部)が露出した状態で封止される。
【0028】
図3に示す電池(コイン型電池)は、缶6を有しており、この缶6には、前述した正極1および負極2がセパレータSPを介して積層された電極群が収容されている。電極群の下端面の正極1の集電体1Sは、缶(電池缶)6上に搭載されている。電極群の上端面の負極2の集電体2Sは、蓋(電池キャップ)7の裏面側に配置されている。なお、ここでは、蓋(電池キャップ)7と負極2の集電体2Sとの間にワッシャー8が設けられ、これらは電気的に接続されている。また、缶6と蓋7との重なり部には耐熱性のガスケット(固定用シール材)が設けられ、缶6の内部に注入されている電解液(図示せず)等が封止されている。なお、ここでは、コイン型の電池を説明したが、電池の構成に制限はなく、例えば、円筒型の電池やラミネート型の電池、角型の電池とすることができる。
【0029】
このように、リチウムイオン電池は、正極1、負極2、セパレータSPおよび電解液を有しており、正極1と負極2との間にセパレータSPが配置されている。セパレータSPは、微細孔を多数有する。例えば、充電時、即ち、正極(缶6の底部)と負極(蓋7の上部)との間に充電器を接続すると、正極活物質内に挿入されているリチウムイオンが脱離し、電解液中に放出される。電解液中に放出されたリチウムイオンは、電解液中を移動し、セパレータの微細孔を通過して、負極に到達する。この負極に到達したリチウムイオンは、負極を構成する負極活物質内に挿入される。
【0030】
このように、図1に示す基材Sに設けられた微細孔(図示せず)を介してリチウムイオンが正極と負極の間を行き来することで、充電と放電を繰り返すことができる。
【0031】
ここで、本実施の形態の多孔質フィルムは、図1に示すように、微細孔が多数設けられた基材Sの表面に塗工膜CFが設けられている。この塗工膜CFは、第1フィラーとしてSA化処理されたセルロース塩(SA化Ce塩)と、第2フィラーとしてアルミナ(Al)とを有する。
そして、SA化Ce塩は、カルボキシ基を含有するセルロース繊維である。
【0032】
このように、本実施の形態においては、基材Sの表面に上記塗工膜を設けることで、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。塗工膜CFは、基材Sの微細孔をすべて覆うようには形成されておらず、塗工膜CFが形成された基材S(多孔質フィルム、セパレータ)のガーレ値(透気度、[sec/100cc])は、10以上、3000以下であり、通気性は確保されている。
【0033】
図3に示すような電池のセパレータSPとして利用される多孔質フィルムは、高温環境下における収縮率(詳しくは、幅方向および幅方向に直交する方向のそれぞれの収縮率)が小さい方が好ましい。例えば、一つの指標として、200℃における多孔質フィルムの収縮率が5%以下であることが好ましい。本願発明者の検討によれば、図1に示す塗工膜CFのそれぞれの膜厚を厚くすることにより、多孔質フィルムの収縮率を低減することができる。詳しくは、図1に示す塗工膜CFの膜厚は、それぞれ0.5μm以上であることが好ましい。
【0034】
特に、SA化Ce塩を用いることで、斥力による微細化が進み、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。そして、さらに、SA化Ce塩の塩濃度を調製することにより、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性(寿命))を向上させることができる。
【0035】
[製法説明]
以下に本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程を説明するとともに、多孔質フィルムや塗工膜の構成をより明確にする。
本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程は、以下の工程を有する。
【0036】
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>
基材Sとしては、微多孔質膜を用いることができる。例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いることができる。
【0037】
<<2:塗工液の調製工程>>
A)第1フィラーの準備
本実施の形態においては、第1フィラーとして、カルボキシル基を含有しているセルロース繊維(SA化Ce塩と示す場合がある)を用いる。
【0038】
(疎水化)
セルロース(Cellulose、Cell-OH、Ce)は、(C122010で表される炭水化物である。例えば、以下の化学構造式(化1)で示される。この化学構造式中、平均繰返し数を示すnは1以上の数であり、好ましくは10~10000、より好ましくは50~2000である。
【0039】
【化1】
【0040】
なお、以下の化学構造式(化2)に示すように、(C122010で表される炭水化物の複数の水酸基の一部が水酸基を有する基(例えば、-CHOHのような-R-OH(Rは2価の炭化水素基を表す))と置換されたセルロースを用いてもよい。ここで、平均繰返し数を示すnは1以上の数であり、好ましくは10~10000、より好ましくは50~2000である。
【0041】
【化2】
【0042】
前述の化学構造式(化1、化2)から分かるように、セルロースは、水酸基(親水基)を有する。これにエステル化剤(例えば、カルボン酸系化合物)を用いてカルボキシ基を導入する。即ち、セルロースの水酸基(-OH)の一部をカルボン酸系化合物(R-CO-OH(Rは2価の炭化水素基を表す))によりエステル化する。別の言い方をすれば、セルロースの水酸基(-OH)の部分を、エステル結合(-O-CO-R、カルボキシ基(Rは2価の炭化水素基を表す))とする。なお、セルロースの水酸基のすべてが置換されている必要はなく、その一部が置換されていればよい。セルロースのエステル化反応の一例を以下の反応式で示す。このカルボキシ基を含有するセルロースをSA化Ceと示す場合がある。
【0043】
【化3】
【0044】
エステル化剤としては、セルロースの親水基に対して、カルボキシ基を付与することができる組成であれば特に制限されるものではないが、例えば、カルボン酸系化合物を用いることができる。中でも、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物などを使用することが好ましい。2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の中では、2つのカルボキシ基を有する化合物(ジカルボン酸化合物)を用いることが好ましい。
【0045】
2つのカルボキシ基を有する化合物としては、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、2-メチルプロパン二酸、2-メチルブタン二酸、2-メチルペンタン二酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2-ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸)、2-ペンテン二酸、2,4-ヘキサジエン二酸、2-メチル-2-ブテン二酸、2-メチル-2ペンテン二酸、2-メチリデンブタン二酸(イタコン酸)、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸(フタル酸)、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸(イソフタル酸)、ベンゼン-1,4-ジカルボン酸(テレフタル酸)、エタン二酸(シュウ酸)等のジカルボン酸化合物が挙げられる。2つのカルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸、無水ピロメリット酸、無水1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物や複数のカルボキシ基を含む化合物の酸無水物が挙げられる。2つのカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。これらのうち、工業的に適用しやすく、また、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましい。
【0046】
(塩基性処理)
上記SA化Ceを水系溶媒に分散させ、塩基(例えば、水酸化物)を添加し、SA化Ce塩を形成する。水酸化物は、M(OH)mで示され、Mはm価の金属である。具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)などを用いることができる。イオン化傾向の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、なかでも、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いることが好ましい。詳細は後述するが、本願発明者が検討した結果、SA化Ceのカルボキシ基がNa塩に変換された場合、電池のサイクル特性や高率充放電特性などの特性を向上させることができることが判った。
【0047】
また、塩基を添加する工程の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
【0048】
(解繊処理)
また、解繊処理を行い、セルロースを微細化(ナノ化)してもよい。解繊処理(微細化処理)には、化学処理法や機械処理法などがある。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。このような解繊処理(微細化処理)により、繊維長さ(L)が3nm以上、10μm以下、アスペクト比(長さL/直径R)が0.01以上、5000以下のセルロースを得ることができる。このようにセルロース繊維をナノメートルサイズまで微細化したものをセルロースナノファイバー(CeNF)という。
【0049】
上記のようなセルロースの微細化(ナノ化)は、カルボキシ基の導入の前に行ってもよく、また、カルボキシ基の導入の後に行ってもよい。
【0050】
(溶媒に分散させたSA化CeNF塩の方法)
SA化CeNF塩は、凝集を防止し、塗工液中への分散性を高めるため、溶媒(分散媒)に分散させた状態で用いることが好ましい。
【0051】
図4は、CeNF塩の分散液の調製工程を示す図である。例えば、図4に示すようにセルロース(固体、例えば、粉状)と無水コハク酸(固体、例えば、タブレット状)を、100℃以上で混合する。例えば、加圧ニーダを用いて125℃で20分、混合する。セルロースと無水コハク酸の重量は例えば90wt%(重量%、質量%)、10wt%である。
【0052】
上記のような加熱状態での攪拌により、エステル反応が生じ、カルボキシ基を含有するセルロースが生成する。この後、未反応の無水コハク酸を除去するため、アセトンなどで洗浄を行う。
【0053】
次いで、生成したカルボキシ基を含有するセルロースを水系溶媒(水及び/又はアルコール類等、ここでは、水(HO))に分散させ、塩基を添加する(塩基性処理を行う)。例えば、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、カルボキシ基(-COOH)を塩(-COONa)に変換させる。別の言い方をすれば、カルボキシ基をNa塩に変換させる。カルボキシ基を含有するセルロースと水酸化ナトリウムの反応の一例を以下の反応式で示す。
【0054】
【化4】
【0055】
塩基性処理前のSA化Ceの分散液のpHは、2~6である。また、塩基性処理後のSA化Ce塩の分散液のpHは、より大きくなり5~10である。このように、本明細書では、便宜上“塩基性処理”と表記するが、このSA化Ce塩の分散液のpHは中性の領域でもよい。ここで、SA化Ceのカルボキシ基(-COOH)をすべてNa塩とする必要はなく、カルボキシ基(-COOH)の一部がNa塩に変換されていればよい。
【0056】
即ち、変換されたNa塩が多い(Na濃度が大きい)と、斥力による解繊性が高まり、CeNF塩の微細化が進み、機械的強度や耐熱性を向上させることができる。一方、Na濃度が大きいと、Naイオンが電極の活物質に作用し、Liイオンの挿入、離脱を阻害し、電池性能が低下し得る。
【0057】
CeNF塩中の上記Na濃度としては、5mg/g~30mg/gとすることが好ましい。また、塗工膜中の上記Na濃度としては、0.05mg/g~5mg/gとすることが好ましい。
【0058】
図5は、セルロースのカルボキシ化(SA化Ce)および塩基性処理(SA化Ce塩)を示す図である。図5に示すようにセルロースの水酸基(-OH)がカルボキシ基(-COOH)に置換され、NaOHの添加により、カルボキシ基(-COOH)がNa塩(-COONa)となる。
【0059】
図5では、セルロースの水酸基(-OH)10個のうち、8個がカルボキシ基(-COOH)に置換され、さらに、4個がNa塩(-COONa)となった様子が示されている。
【0060】
ここで、SA化Ce中のカルボキシ基(-COOH)の量(mol)は酸価により算出することができる。酸価とは、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を言い、その測定は、「JIS-K0070 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に基づいて行うことができる。
【0061】
例えば、1.36×10-3molのカルボキシ基(-COOH)が含まれたSA化Ceに対して、NaOHの添加量が、例えば、5.44×10-4mol~8.16×10-4molであれば、疎水基のうち、40~60%がNa塩に変換されることとなる。この場合、Na(原子量23)濃度は、12.5mg/g~18.8mg/gの範囲となり、SA化CeNa塩中のNa濃度は、12.5mg/g~18.8mg/gとなる。また、SA化CeNa塩の塗工膜に対する添加量は0.5~1.5wt%が好ましく、塗工膜中のNa濃度は、0.0625mg/g~0.282mg/gとなる。
【0062】
次いで、微細化処理(解繊処理、ナノ化)を行う。例えば、微細化装置(マスコロイダー、ビーズミル)を用いた処理を行い、SA化Ce塩の分散液中のセルロースをナノ化する。これにより、SA化CeNF塩の分散液を得ることができる。
【0063】
なお、前述したように、カルボキシ化や塩基性処理したセルロースを、解繊処理(微細化処理)してもよく、セルロースを解繊処理(微細化処理)した後にカルボキシ化や塩基性処理を施してもよい。
【0064】
B)混合工程(攪拌処理工程)
前述したSA化CeNF塩(第1フィラー)の分散液に、無機フィラー(第2フィラー)を添加し、攪拌することにより、塗工液を調製する。SA化CeNF塩は、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上とすることが好ましく、0.5wt%以上とすることがより好ましい。
【0065】
撹拌方式としては、例えば、モーターなどで軸に取り付けた羽を回転する方式、超音波などを用いた振動方式などを用いることができる。なお、塗工液中への気泡の巻き込みを低減するため、塗工液の調製(混合、攪拌)を減圧下で行ってもよい。
【0066】
また、塗工液には消泡剤を添加してもよい。消泡剤を添加する場合は、塗工液の固形成分総量に対して、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましい。消泡剤を添加することで、気泡を好ましく抑制でき、脱泡工程の簡易化または脱泡工程が不要となる。
【0067】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤(例えば、ポリジメチルシロキサン)、界面活性剤系消泡剤(例えば、ポリエチレングリコール脂肪酸)、アルコール類(例えば、アセチレンジオール)などの公知のものが適用可能であるが、このうち、電池に悪影響を与えにくいという観点からシリコーン系消泡剤であることが好ましい。また、消泡剤の形状は特に限定されず、オイル型、コンパウンド型、エマルジョン型、粉末型など任意のものが使用可能である。
【0068】
無機フィラー(第2フィラー)としては、特に限定されるものではない。たとえば、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、ガラス繊維などを用いることができる。特に、電解液との化学反応が生じにくく、物性面や製造技術が安定しているという観点からアルミナを用いることが好ましい。アルミナの粒子形状に制限はなく、例えば、球体や扁平形状のものを用いることができる。アルミナの平均粒径(直径)としては、200nm以上1000nm以下のものを用いることが好ましく、400nm以上900nm以下がより好ましい。平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めることができる。また、アルミナとしては、基材Sに用いられる微多孔質膜の平均細孔径より大きな平均粒径を有するものを用いることが好ましい。また、異なる平均粒径のアルミナを混合して用いてもよい。また、アルミナ中には、不純物元素(例えば、Si、Fe、Na、Mg、Cu)が含まれる場合があるが、Siは400ppm以下、Feは300ppm以下、Naは200ppm以下、Mgは100ppm以下、Cuは100ppm以下とすることが好ましい。
【0069】
その他の添加物として、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)、結着剤(例えば、アクリル樹脂、アクリル系バインダ)、分散剤(例えば、界面活性剤)、消泡剤(例えば、シリコーン系消泡剤)などを添加してもよい。
【0070】
カルボキシメチルセルロースは、水溶性セルロースであり、塗工液に添加することで、粘性が高まり、塗工性が良くなる。また、アクリル樹脂を添加することで、塗工液中の材料の接着性が良くなる。
【0071】
界面活性剤を添加することで、基材Sに対する濡れ性が良くなる。特に、ポリエチレンやポリプロピレン製の基材を用いる場合には、自由エネルギーが大きく、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は、少なすぎると濡れ性の改善が十分でなく、多すぎると界面活性剤によって基材の孔を防ぐことがあるため、塗工液の固形成分のうちの0.001wt%以上5wt%以下とすることが好ましい。この際に使用できる界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、アニオン系、カチオン系、両性イオン系、或いはノニオン系の界面活性剤が挙げられる。適切な界面活性剤としては、ロムアンドハース社(Rhom and Haas Company)より市販されているタモール SN(TAMOL(登録商標)SN)、タモール(登録商標))LG、同社から市販されているトリトン(TRITON(登録商標))シリーズ、GAF社から市販されているマラスパース(MARASPERSE(登録商標))シリーズ、及びイゲパール(IGEPAL(登録商標))シリーズ、同社から市販されているテルジトール(TERGITOL(登録商標))シリーズ、及びストロデクス PK-90(STRODEX(登録商標) PK-90)、BASF社より市販されているプルロニック F-68(PLURONIC(登録商標) F-68)、マラスパース社(Marasperse)より市販されているカラスパース TU(KARASPERSE TU(商標))、等が挙げられる。
【0072】
ここで、前述した塗工液の固形成分とは、塗工液中に含まれる、上記SA化CeNF塩(第1フィラー)、無機フィラー(第2フィラー)、増粘剤、結着剤、分散剤の合計量である。
【0073】
塗工液中の塩濃度(NaOHを添加する場合には、Naイオン濃度)は、1000mg/L以上2000mg/L以下が好ましい。また、塗工液の電気伝導率は、400ms/m以上800ms/m以下が好ましい。塗工液中の塩濃度は、例えば、イオン濃度測定装置(堀場製作所製)で測定することができ、塗工液の電気伝導率は、電気伝導率計(堀場製作所製)で測定することができる。
【0074】
<<3:基材への塗工工程>>
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>で説明した基材Sの表面に、上記塗工液を塗工する。塗工方法に制限はないが、例えば、バーコーター、リップコーター、グラビアコーターなどを用いることができる。塗工後、塗工液を乾燥させることにより、基材Sの表面に塗工膜を形成することができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態によれば、SA化CeNa塩を塗工液に添加することで、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。特に、多孔質フィルムの耐熱性を向上することができる。また、SA化CeNa塩を添加した塗工液を塗布した多孔質フィルムをセパレータとして用いることで、電池特性(例えば、出力特性やサイクル特性)を向上させることができる。
【0076】
以下に、本実施の形態の塗工液、多孔質フィルム(セパレータ)およびこれを用いた電池の実施例について説明する。
【0077】
[実施例A]
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS-TECH社製、平均細孔径0.06μm、厚さ16μm)を用いた。
【0078】
2:塗工液の調製工程
A)SA化CeNFNa塩の調製
図4の工程に準じ、無水コハク酸によりセルロースにカルボキシ基を導入した(-OHの一部を-COOHとした)。SA化セルロースの分散液のpHは、4.0であり、酸価は、76.5mg/gであった。次いで、水酸化ナトリウムを添加し、カルボキシ基をNa塩に変換させた(-COOHの一部を-COONaとした)。次いで、マスコロイダーにより解繊処理を行い、セルロースをナノ化した。水酸化ナトリウムの添加量およびSA化CeNFNa塩の分散液のpHを表1に示す。pHは、pHメータ(堀場製作所製)で測定することができる。
【0079】
B)攪拌処理
SA化CeNFNa塩の分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(トリトンX)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製、平均粒径700nm)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調製した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌して、さらに、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ)の割合を100wt%として、表1に、各塗工液の固形成分比率および電気伝導率(ms/m)を示す。この電気伝導率は、Naの添加量との相関関係を有する。また、比較例AとしてSA化CeNFNa塩の分散液を未添加の塗工液も形成した。
【0080】
【表1】
【0081】
なお、本実施例においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ)の溶媒に対する割合(濃度)は、45wt%であり、この割合(濃度)は、20~60wt%程度で調製することが可能である。
【0082】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)の表面に、上記塗工液(塗工液1、2、Aのいずれか)をバーコーターで両面に塗工し、80℃で1時間乾燥した。なお、塗工厚みは片面4μm(両面で8μm)とした。このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aを形成した(表1参照)。なお、比較例Bとして、塗工層を形成していない基材のみである多孔質フィルム(セパレータ)を用い後述の電池Bを作製した。塗工液1、2において、ダマや基材のはじき等の不具合はなく、塗布性は良好であった。
【0083】
4:電池の作製
正極用のスラリーとして、正極活物質(NCM(リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(Li(Ni,Co,Mn)O))、導電剤(アセチレンブラック)、バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を固形比率で94:3:3wt%となるよう配合し、自公転式ミキサー(シンキー製、練太郎、2000rpm、15分間)を用いて混練しスラリー化した。このスラリーを集電体(厚み15μmのアルミニウム箔)上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で仮乾燥した後、ロールプレスにより圧延し、減圧乾燥(160℃、10時間)することで正極(正極合剤層)を形成した。なお、容量密度は、3.10mAh/cmとした。
【0084】
負極用のスラリーとして、負極活物質(人造黒鉛(グラファイト))、導電剤(アセチレンブラック)、増粘剤(カルボキシメチルセルロース(CMC))、バインダ(SBR(スチレンブタジエンゴム))を固形比率で96:1:1:2wt%となるよう配合し、自公転式ミキサー(シンキー製、練太郎、2000rpm、15分間)を用いて混練しスラリー化した。このスラリーを集電体(厚み10μmの銅箔)上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で仮乾燥した後、ロールプレスにより圧延し、減圧乾燥(140℃、10時間)することで負極(負極合剤層)を形成した。なお、容量密度は、3.36mAh/cmとした。
【0085】
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、A、正極、負極を用いて、コイン型電池(電池1、2、A)を作製した(図3参照)。なお、電解液として1mol/L LiPF(EC:DEC=50:50vol%,+VC1wt%)を用いた。
【0086】
5:評価
(サイクル特性)
30℃、カットオフ電圧4.2~2.5Vの条件下において、0.1Cの電流で10サイクル充電した後、0.5Cの充放電を繰り返すことにより、コイン型電池(電池1、2、A)のサイクル特性を調べた。また、60℃の条件下においても同様にサイクル特性を調べた。図6は、30℃でのサイクル特性を示す図であり、図7は、60℃でのサイクル特性を示す図である。図6図7において、横軸は、サイクル数であり、縦軸は、電池容量維持率(%)である。
【0087】
図6図7に示すように、電池1においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。また、電池2においても、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)と同等またはより良好な電池容量維持率を示した。いずれの電池においても、サイクル数が大きくなるにしたがって、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より、良好な電池容量維持率を示した。
【0088】
ここで、電池1と、電池2の比較においては、電池1の方がより電池容量維持率が良好であり、Na量を調製することでより良いサイクル特性が得られることが判明した。
【0089】
また、SA化CeNa塩中のNa濃度について、電池1では11.1mg/g、電池2では22.3mg/gであり、SA化CeNa塩中のNa濃度は、5mg/g~30mg/gが好ましい。さらに、塗工膜中のNa濃度について、電池1では0.05mg/g、電池2では4.5mg/gであり、塗工膜中のNa濃度は、0.05mg/g~5mg/gが好ましい。
【0090】
(高率充放電特性)
30℃、カットオフ電圧4.2~2.5Vの条件下において、0.1Cの電流で10サイクル充電した後、0.1C~6Cで放電し、その後、1Cの充放電を繰り返すことにより、コイン型電池(電池1、2、A、B)の高率放電特性を調べた。
【0091】
図8は、放電レートと放電電圧との関係を示す図である。横軸は、放電レート(Cレート、C)であり、縦軸は、平均電圧(V)である。図9は、放電レートと放電容量との関係を示す図である。横軸は、放電レート(Cレート、C)であり、縦軸は、放電容量(mAh)である。
【0092】
図9に示すように、いずれの電池(電池1、2、A、B)においても、放電容量は同程度であったが、図8に示すように、平均放電電圧については、電池1、2においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)や電池B(比較例B、塗工膜を設けず)より良好な平均放電電圧を示した。
【0093】
また、電池1と、電池2の比較においては、特に、放電レート2C以上においては、電池1の方が、電池2より平均放電電圧が高い傾向にあった。
【0094】
このように、セルロースをカルボキシ化しNa塩とすることで、電池特性が向上するものの、添加量には前述したようなより好適な範囲が存在することが判明した。
【0095】
(実施の形態2)
実施の形態1においては、塗工液の第1フィラーとして、SA化Ce塩を用いたが、第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有する酸化セルロースを用いてもよい。
【0096】
以下に、本実施の形態の多孔質フィルムおよびその製造方法について説明する。本実施の形態の多孔質フィルムは、いわゆる電池のセパレータとして用いることができる。
【0097】
[構造説明]
本実施の形態の多孔質フィルムは、基材(多孔質基材)Sと基材Sの表面に形成された塗工膜(被覆膜)CFとを有する。ここで、本実施の形態の多孔質フィルムの構成(図1)や、この多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の構成(図2図3)は、実施の形態1の場合のSA化Ce塩が、第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有する酸化セルロースとなる以外は、実施の形態1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0098】
[製法説明]
以下に本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程を説明するとともに、多孔質フィルムや塗工膜の構成をより明確にする。
本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程は、以下の工程を有する。
【0099】
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>
基材Sとしては、微多孔質膜を用いることができる。例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いることができる。
【0100】
<<2:塗工液の調製工程>>
A)第1フィラーの準備
本実施の形態においては、第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有する酸化セルロースとしてTEMPO処理されたセルロースを用いる場合を例に、以下説明する。TEMPO処理(TEMPO酸化処理)とは、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(2,2,6,6-tetramethylpiperidine1-oxyl))を触媒として用いた酸化反応による処理である。このため、TEMPO処理されたセルロースを“TEMPO酸化セルロース”という場合がある。
【0101】
セルロース(Cellulose、Cell-OH)は、(C122010で表される炭水化物であり、例えば、前述の化学構造式(化1)で示される。
【0102】
セルロースにTEMPO処理を施した場合、セルロースの第1級水酸基である-OHが位置選択的に酸化されてC6-アルデヒド基を経て、C6-カルボキシル基まで酸化され、さらに、アルカリ処理されることでC6-カルボキシル基の塩(カルボン酸塩)、例えば、水酸化ナトリウム溶液でアルカリ処理をした場合、以下のようにC6-カルボキシ基のNa塩、に変換される。
【0103】
【化5】
【0104】
セルロースの水酸基にカルボキシ基を導入する工程(酸化工程)では、例えば触媒としてTEMPOや臭化ナトリウム、酸化剤として次亜塩素酸を使用して、水中で反応させる。反応中は、任意のpHを維持することが可能な量の塩基性溶液、例えば水酸化ナトリウムを添加して、反応させることで、TEMPO酸化処理を施したセルロース(上記(化5))を得ることができる。
【0105】
TEMPO処理による酸化では、グルコースユニットの全てのC6位の第一級水酸基が酸化されるわけではなく、セルロースの結晶構造の表面に露出しているC6位の第一級水酸基が選択的に酸化される。このため、前述の化学構造式(化5)に示すように、二つのグルコースユニットのうちの一つの第一級水酸基が酸化される。もちろん化学反応なので、セルロースの結晶構造の表面に露出しているC6位の第一級水酸基酸化されたものには限定されない。上記した「水酸化ナトリウムを添加して、反応させることで、TEMPO酸化処理を施したセルロース(上記(化5))を得ることができる」という表現は、化学構造式(化1)で示されるセルロースの複数のユニットのうちの少なくとも一部において、化学構造式(化5)に示すナトリウム塩が得られるという意味である。
【0106】
このようにTEMPO処理されたセルロース(TEMPO酸化セルロース、TCe)は、C6-カルボキシ基のNa塩が、水中において電離するため、前述したSA化Ce塩の場合と同様に斥力(静電的な斥力、浸透圧)が働く。そのため、Na塩が高密度で配置されていると、微細な状態で分散させることができる。
図10は、TEMPO酸化セルロースの構成を模式的に示した図である。
【0107】
TEMPO酸化セルロースにおいても、酸化剤(例えば、次亜塩素酸)の添加量を調製することにより、-OHの位置選択的な酸化量(即ち、C6-アルデヒド基を経て-COOHとなる量)を調製でき、さらに、塩基性溶液の添加量を調製することで、Na量(C6-カルボキシ基のNa塩への変換量)を調製することができる。
【0108】
よって、TEMPO酸化セルロースにおいても、酸化の程度(-COOHの量)は、酸価により算出することができ、また、Na塩への置換量は、塩基性溶液(ここでは、NaOH水溶液)の添加量により算出することができる。
【0109】
例えば、2.18×10-3molのカルボキシ基(-COOH)が含まれたTEMPO酸化セルロースに対して、NaOHの添加量が、例えば、8.73×10-4mol~13.1×10-4molであれば、疎水基のうち、40~60%がNa塩に変換されることとなる。この場合、Na(原子量23)濃度は、20.1mg/g~30.1mg/gの範囲となり、TCe中のNa濃度は、20.1mg/g~30.1mg/gとなる。また、SA化CeNa塩の塗工膜に対する添加量は0.5~1.5wt%が好ましく、塗工膜中のNa濃度は、0.100mg/g~0.45mg/gとなる。
【0110】
(解繊処理)
また、上記TEMPO酸化セルロースに対し、解繊処理を行い、セルロースを微細化(ナノ化)してもよい。解繊処理(微細化処理)には、化学処理法や機械処理法などがある。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。このような解繊処理(微細化処理)により、液体中において、例えば、幅(短径、短い方の長さ)Wが、1000nm以下、長さLが、500μm以下、より好ましくは、幅Wが、500nm以下、長さLが、3μm以下の微細なセルロースとなる。なお、幅Wが、4nm程度、長さLが、2μm程度のものも確認されている。
【0111】
上記のようなセルロースの微細化(ナノ化)は、TEMPO酸化処理の前に行ってもよく、また、TEMPO酸化処理の後に行ってもよい。
【0112】
B)混合工程(攪拌処理工程)
前述したTCeNF(第1フィラー)の分散液に、無機フィラー(第2フィラー)を添加し、攪拌することにより、塗工液を調製する。TCeNF(第1フィラー)は、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上、5wt%以下とすることが好ましく、0.5wt%以上、1.5wt%以下とすることがより好ましい。
【0113】
撹拌方式としては、例えば、モーターなどで軸に取り付けた羽を回転する方式、超音波などを用いた振動方式などを用いることができる。なお、塗工液中への気泡の巻き込みを低減するため、塗工液の調製(混合、攪拌)を減圧下で行ってもよい。
【0114】
無機フィラー(第2フィラー)としては、特に限定されるものではなく、実施の形態1で説明した材料と同様のものを用いることができる。
【0115】
その他の添加物として、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)、結着剤(例えば、アクリル樹脂、アクリル系バインダ)、分散剤(例えば、界面活性剤)などを添加してもよい。これらについても、実施の形態1で説明した材料と同様のものを用いることができる。
【0116】
ここで、前述した塗工液の固形成分とは、塗工液中に含まれる、上記TCeNF(第1フィラー)、無機フィラー(第2フィラー)、増粘剤、結着剤、分散剤の合計量である。
【0117】
<<3:基材への塗工工程>>
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>で説明した基材Sの表面に、上記塗工液を塗工する。塗工方法に制限はないが、例えば、バーコーター、リップコーター、グラビアコーターなどを用いることができる。塗工後、塗工液を乾燥させることにより、基材Sの表面に塗工膜を形成することができる。
【0118】
以上のように、本実施の形態によれば、TCeNF(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)を塗工液に添加することで、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。特に、多孔質フィルムの耐熱性を向上することができる。また、TCeNFを添加した塗工液を塗布した多孔質フィルムをセパレータとして用いることで、電池特性(例えば、出力特性、サイクル特性)を向上させることができる。
【0119】
以下に、本実施の形態の塗工液、多孔質フィルム(セパレータ)およびこれを用いた電池の実施例について説明する。
【0120】
[実施例B]
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS-TECH社製、平均細孔径0.06μm、厚さ16μm)を用いた。
【0121】
2:塗工液の調製工程
A)TEMPO酸化セルロースの調製
TEMPO酸化セルロースを準備した。このTEMPO酸化セルロースは、平均粒径10μm程度の粉状であり、原材料として針葉樹由来のパルプを用いて製造されたものを用いた。水酸化ナトリウムの添加量およびTEMPO酸化セルロースの分散液のpHを表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
B)攪拌処理
TEMPO酸化セルロースの分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(トリトンX)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製、平均粒径700nm)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調製した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌して、さらに、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ)の割合を100wt%として、表2に、各塗工液の固形成分比率および電気伝導率(ms/m)を示す。この電気伝導率は、Naの添加量との相関関係を有する。また、比較例AとしてTEMPO酸化セルロースの分散液を未添加の塗工液も形成した。
【0124】
なお、本実施例においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ)の溶媒に対する割合(濃度)は、45wt%であり、この割合(濃度)は、20~60wt%程度で調製することが可能である。
【0125】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)の表面に、上記塗工液(塗工液3、4、5、Aのいずれか)をバーコーターで両面に塗工し、80℃で1時間乾燥した。なお、塗工厚みは片面4μm(両面で8μm)とした。このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)3、4、5、Aを形成した(表2参照)。塗工液3、4、5において。ダマや基材のはじき等の不具合はなく、塗布性は良好であった。なお、比較例Bとして、塗工層を形成していない基材のみである多孔質フィルム(セパレータ)を用い後述する電池Bを作製した。
【0126】
4:電池の作製
実施の形態1の実施例の場合と同様に、電池(電池3、4、5、A、B)を作製し、サイクル特性および高率充放電特性を評価した。
【0127】
(サイクル特性)
図11は、30℃でのサイクル特性を示す図であり、図12は、60℃でのサイクル特性を示す図である。図11図12において、横軸は、サイクル数であり、縦軸は、電池容量維持率(%)である。
【0128】
図11に示すように、いずれの電池(電池3、4、5)においても、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。図12に示すように、電池4、5においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。また、電池3においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)と同等の電池容量維持率を示した。
【0129】
特に、電池4、5においては、サイクル数が大きくなるにしたがって、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より、良好な電池容量維持率を示した。
【0130】
ここで、電池3、4、5の比較においては、NaOHを添加していない電池3より、NaOHを添加した電池4、5の方がより電池容量維持率が良好であった。さらに、30℃のサイクル特性においては、電池5の方が電池4より電池容量維持率が良好であるものの、60℃のサイクル特性においては、電池容量維持率が逆転していることが判明した。特に、30℃を超える高温領域においては、Na量を調製することでより良いサイクル特性が得られることが伺える。
【0131】
また、TCe中のNa濃度としては、電池4では9mg/g、電池5では18mg/gであり、TCe中のNa濃度は、5mg/g~30mg/gが好ましい。また、塗工膜中のNa濃度としては、電池4では0.2mg/g、電池5では12mg/gであり、塗工膜中のNa濃度は、0.1mg/g~15mg/gが好ましい。
【0132】
(高率充放電特性)
図13は、放電レートと放電電圧との関係を示す図である。横軸は、放電レート(Cレート、C)であり、縦軸は、平均電圧(V)である。図14は、放電レートと放電容量との関係を示す図である。横軸は、放電レート(Cレート、C)であり、縦軸は、放電容量(mAh)である。
【0133】
図14に示すように、いずれの電池(電池3、4、5、A、B)においても、放電容量は同程度であったが、図13に示すように、平均放電電圧については、電池4、5においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)や電池B(比較例B、塗工膜を設けず)より良好な平均放電電圧を示した。
【0134】
また、電池4と、電池5の比較においては、特に、放電レート2C以上においては、電池4の方が、電池5より平均放電電圧が高い傾向にあった。
【0135】
このように、セルロースをカルボキシ化しNa塩とすることで、電池特性が向上するものの、添加量には前述したようなより好適な範囲が存在することが判明した。
【0136】
[実施例C]
次いで、TCeNFの径(細かさ)と電池特性の関係について調べた。
【0137】
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS-TECH社製、平均細孔径0.06μm、厚さ16μm)を用いた。
【0138】
2:塗工液の調製工程
A)TEMPO酸化セルロースの調製
TEMPO酸化セルロースを準備した。このTEMPO酸化セルロースは、平均粒径10μm程度の粉状であり、原材料として針葉樹由来のパルプを用いて製造されたものを用いた。ここで、上記TEMPO酸化セルロースに対し、解繊処理を行った。試料6においては、マスコロイダー処理により、セルロースを微細化(ナノ化)し、試料7においては、ビーズミル処理により、セルロースを微細化(ナノ化)した。ビーズミル処理は、マスコロイダー処理より解繊能力が高く、セルロースをより微細とすることができる。なお、実施例A、Bにおいては、マスコロイダー処理によりセルロースを微細化(ナノ化)している。
【0139】
B)攪拌処理
TEMPO酸化セルロースの分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(0.1wt%)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調製した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌して、さらに、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ)の割合を100wt%として、表2の試料5と同様の比率で混合した。電気伝導率(ms/m)は、試料6、7とも498ms/sであった。また、比較例Aとして塩基性疎水化セルロースの分散液を未添加の塗工液も形成した。
【0140】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)の表面に、上記塗工液(塗工液6、7、Aのいずれか)をバーコーターで両面に塗工し、80℃で1時間乾燥した。なお、塗工厚みは片面4μm(両面で8μm)とした。このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)6、7、Aを形成した(表2参照)。
【0141】
4:電池の作製
実施の形態1の実施例の場合と同様に、電池(電池6、7、A)を作製し、サイクル特性および高率充放電特性を評価した。
【0142】
(サイクル特性)
図15は、30℃でのサイクル特性を示す図であり、図16は、60℃でのサイクル特性を示す図である。図15図16において、横軸は、サイクル数であり、縦軸は、電池容量維持率(%)である。
【0143】
図15および図16に示すように、いずれの電池(電池6、7)においても、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。
【0144】
そして、特に、30℃を超える高温領域においては、より細かく解繊した塗工液7を用いた電池7においてより良いサイクル特性が得られた。
【0145】
(実施の形態3)
実施の形態1、2の実施例においては、基材Sとして、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いたが、以下のようにしてポリエチレン製微多孔質膜を形成することができる。
【0146】
図17は、本実施の形態の製造装置の構成を示す模式図である。本実施の形態においては、上記製造装置を用いたセパレータの製造工程について説明する。
【0147】
例えば、図17の二軸混練押出機(S1)の原料供給部に可塑剤(流動パラフィン)とポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を投入し、混練部において上記可塑剤とポリオレフィンとを混練する。混練条件は、例えば、180℃、12分間であり、軸の回転数は100rpmである。
【0148】
混練物(溶融樹脂)を、吐出部からTダイS2へ搬送し、溶融樹脂をTダイS2のスリットから押し出しつつ、原反冷却装置S3において冷却することで、薄膜状の樹脂成型体を形成する。
【0149】
次いで、上記薄膜状の樹脂成型体を第1縦延伸装置S4により縦方向に引き延ばし、さらに、第1横延伸装置S5により横方向に引き延ばす。
【0150】
次いで、引き延ばされた薄膜を抽出槽S6において有機溶剤(例えば、塩化メチレン)に浸漬する。引き延ばされた薄膜においては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)と可塑剤(パラフィン)が相分離した状態となる。具体的には、可塑剤(パラフィン)がナノサイズの島状となる。このナノサイズの可塑剤(パラフィン)を抽出槽S6の有機溶剤(例えば、塩化メチレン)により除去する(脱脂する)。これにより、多孔質の薄膜を形成することができる。
【0151】
この後、さらに、第2横延伸装置S7で、横方向に引き延ばしつつ、薄膜を乾燥させ、熱固定を行い、延伸時の内部応力を緩和する。次いで、巻取り装置S8により、第2横延伸装置S7から搬送された薄膜を巻き取る。
【0152】
このようにして、多孔質の薄膜(実施の形態1の基材)を製造することができる。ここで、例えば、第2横延伸装置S7および巻取り装置S8の間に、図18に示すグラビア塗工装置(S7’)を組み込む。図18は、グラビア塗工装置の構成を模式的に示す断面図である。このグラビア塗工装置は、2つのグラビアロールRを有する。このグラビアロールRは、例えば、複数の斜線状凹部を有しており、その一部が塗工液CLに浸漬するように配置され、回転させることにより、斜線状凹部に塗工液を保持した状態で、基材Sに塗工液CLを塗工する。
【0153】
この塗工液CLとして実施の形態1において説明した塗工液CLを用いることで、基材の両面に塗工膜を形成することができる。なお、必要に応じて塗工液の乾燥装置などを適宜組み込むことができる。
【0154】
このように、図17図18に示す装置を用いて高性能のセパレータを効率良く製造することができる。
【0155】
前述したように、ポリオレフィン(樹脂)と可塑剤とを混練機を用いて溶融混練し、押出機を用いてシート状に押出した後、混練物をプレス機や延伸機を用いて延伸することにより膜(薄膜)を形成する。
【0156】
ポリオレフィンとしては、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等により加工可能なものを用いる。例えば、ポリオレフィンとして、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル―1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0157】
なお、基材Sとしては、高融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に、ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。また、シャットダウン性等の点から、樹脂成分の50wt%以上をポリエチレンが占めることが好ましい。また、分子量が100万以上の超高分子量ポリオレフィンを用いる場合、混練物(樹脂および分散液)100質量部に対し、超高分子量ポリオレフィンが50質量部を超すと均一に混練することが困難となることから50質量部以下であることが好ましい。
【0158】
可塑剤は、熱可塑性樹脂に加えて柔軟性や耐候性を改良するものである。さらに、本実施の形態においては、後述する脱脂工程により、可塑剤を除去することにより、樹脂成形体(膜)に孔を設けることができる。
【0159】
可塑剤としては、分子量100~1500、沸点が50℃から300℃の有機溶剤を用いることができる。具体的には、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルうち一種類又は数種類の混合物を用いることができる。また、エタノールやメタノールなどのアルコール類、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)やジメチルアセトアミドなどの窒素系有機溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類のうち、一種類又は数種類の混合物を用いることができる。
【0160】
前述したシート状の混練物を延伸した膜(薄膜)においては、ポリオレフィンと可塑剤が相分離した状態となる。具体的には、可塑剤がナノサイズの島状となる。このナノサイズの可塑剤を後述する有機溶剤処理工程において除去することにより、島状の可塑剤部が孔となり、多孔質の薄膜が形成される。可塑剤の除去工程により樹脂成形体に微細な孔を多数形成するセパレータの形成工程は、“湿式法”と呼ばれる。
【0161】
例えば、上記延伸工程で形成された膜(薄膜)を有機溶剤に浸漬することにより、膜中の可塑剤を有機溶剤中に抽出し、膜(薄膜)中から除去する。
【0162】
有機溶剤としては、塩化メチレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどを用いることができる。中でも、生産性の観点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0163】
この後、膜(薄膜)表面の有機溶剤を揮発させ、必要に応じて熱処理(熱固定)することにより、基材(微多孔質膜)Sを得ることができる。
【0164】
[実施例D]
セルロースナノファイバーを添加した耐熱塗工液の粘度と塗工性の相関について評価した。以下では塗工液の固形分比率として、45%や40%などと表示するが、全て質量%の意味である。
【0165】
(原料)セルロースナノファイバー種類をSA化Ceのみに固定して、水による希釈により、粘度の異なる塗工液を製造した。なお、塗工液の固形分比率は、それぞれ、45%、40%、35%、30%となるように水で希釈を行った。
【0166】
(塗工液の製造)塗工液原料は前述の固形分比になるように、プラネタリ式ミキサー内に投入して、60分間混合をした。室温(25℃)における製造した塗工液の粘度は、45%のものが800mPa・s、40%のものが650mPa・s、35%のものが580mPa・s、30%のものが420mPa・sであった。塗工液の粘度は、簡易的に計測することが可能なザーンカップ(Allgood社製、No.2、No.3)で測定を行い、粘度差があることを確認した後、B型粘度計(Blookfield DV-2T)を使用して、粘度を計測した。
【0167】
(塗工工程)
製造した粘度の異なる塗工液を使用してバーコータ(第一理化株式会社 No.2)を使用した塗工性の評価を行った。なお、塗工膜厚は片面4μmとなるようにバーコーターの型番を選定した。塗工性を評価するために、PE製のセパレータ(CS-TECH社製)の表面に前述のバーコーターで塗工液を塗布した。固形分濃度が45%(粘度800mPa・s)、及び40%(粘度650mPa・s)の場合、塗工性が悪く、塗工膜厚はそれぞれ25μm、20μmと厚くなった。一方、固形分濃度が35%(粘度580mPa・s)、30%(粘度420mPa・s)の場合、塗工膜厚は4μm程度に調整できることが確認された。
【0168】
次に、試作した粘度の異なる各塗工液をそれぞれ汎用のローラポンプを使用して送液を行い、グラビアコーターを使用してPE製のセパレータへ塗工を行った。固形分濃度が45%及び40%の条件では、流動性が悪く、ポンプでの送液が困難であることが確認された。また、塗工液を貯めるチャンバー内で塗工液の分離が生じ、運転途中から塗工膜厚が変動した。塗工液を搬送する際に使用したローラポンプのチューブ内でも、塗工液の分離が生じていることが確認された。さらにフィルムとグラビアロールを接触させた際に、瞬間的にロールの抵抗が増加して、ロールが瞬間的に停止し、塗工膜厚が部分的に厚くなるため、その部分で乾燥不良が生じ、下流側の搬送ロールの汚損や巻姿が悪化するといった問題が発生した。塗工膜厚に関しては、バーコーターと同様に塗工膜厚を4μm以下に調整することが困難であった。
【0169】
一方、固形分濃度が35%及び30%の条件では、前述の様な塗工時の問題は見られず、問題なく塗工することができた。ただし、固形分比率35%(粘度580mPa・s)の条件においては、1時間連続運転を行うと、チャンバーやローラポンプのホース内で塗工液の固形成分と液成分の分離が生じ、流動性の低下が顕著になる傾向が確認された。グラビアロール方式では、チャンバーと塗工タンク間を塗工液が循環する方式であるため、大気暴露部からの溶液の揮発、グラビアロールと基材間の摩擦による溶液の揮発などにより、徐々に塗工液の固形分濃度が上昇して、流動性が低下したものと推察される。一方、固形分比率30%(粘度420mPa・s)においては、1時間連続運転を行っても流動性の低下は確認されなかった。
【0170】
40m/min以上の高速で塗工を行った場合、固形分濃度が35%(粘度580mPa・s)では約30分で粘度が上昇して、塗工不良が発生した。一方、固形分濃度が30%(粘度420mPa・s)では1時間連続運転を行っても、塗工不良は発生せず、均一な塗工のセパレータを得ることができた。
【0171】
上記の結果より、グラビアコーターを使用する場合、塗工液の粘度は25℃において420mPa・s以下が好ましい。本実施例では、塗工液の搬送用に使用したチューブポンプを使用しているが、これをモーノポンプに変更することで、安定した送液を行うことは可能である。しかし、塗工液の送液経路内において、塗工液の分離が生じ、グラビアロールによる塗工液搬送量の低下、塗工膜厚の変動、塗工時の基材とロールの接点における抵抗増加などの問題は解消されない。さらにグラビア方式をダイコータ方式へ変更、塗工液の送液をモーノポンプに変更することにより前述の問題を解消することも可能であるが、グラビア方式と比較すると高速での塗工が困難であり、また、リチウムイオン電池用セパレータフィルムに要求される数μm程度の薄膜塗工を安定的に行うことも困難である。さらに、グラビア方式と比較すると、ダイの保守管理の手間が必要となるため、コスト増加につながる。以上の結果より、本願特許において、耐熱塗工液の粘度は400mPa・s以下が好適である。
【0172】
固形分濃度が30%の塗工液を両面に塗工したセパレータの耐熱性について評価した結果、200℃時に熱収縮率は機械方向(幅方向に直交する方向)及び幅方向共に0.5%であり、耐熱性に優れたサンプルを得ることができた。
【0173】
(応用例)
なお、上記においては、(化5)に示すC6-カルボキシル基のNa塩を例示したが、以下のような他の対イオン(X)を有する化合物をセルロースとして用いてもよい。この対イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えば、K等が挙げられる。
【0174】
【化6】
【0175】
上述した化学構造式(化5)を用いて説明した場合と同様に、TEMPO処理による酸化では、グルコースユニットの全てのC6位の第一級水酸基が酸化されるわけではなく、セルロースの結晶構造の表面に露出しているC6位の第一級水酸基が選択的に酸化される。このため、前述の化学構造式(化5)に示すように、二つのグルコースユニットのうちの一つの第一級水酸基が酸化される。もちろん化学反応なので、セルロースの結晶構造の表面に露出しているC6位の第一級水酸基酸化されたものには限定されない。したがって、上記した「他の対イオン(X)を有する化合物をセルロースとして用いる」という表現は、化学構造式(化1)で示されるセルロースの複数のユニットのうちの少なくとも一部において、化学構造式(化6)に示す対イオン(X)を有する化合物をTEMPO酸化セルロースとして用いるという意味である。
【0176】
また、セルロースの原料としては、パルプのような植物繊維由来のものや、ホヤなどの動物繊維由来のものを用いてもよい。
【0177】
また、上記においては、リチウムイオン電池を例示したが、金属リチウム電池、リチウムポリマー電池、空気リチウムイオン電池などであってもかまわない。また、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、カルシウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、アルミニウムイオン電池などの非水電解質二次電池のセパレータとして用いてもよい。これらの電池は、電気伝導を担うイオン(キャリア)を、リチウムから、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどのカチオンに置き換えた電池系を意味する。
【0178】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0179】
1 正極
1M 正極合剤層
1S 集電体
2 負極
2M 負極合剤層
2S 集電体
6 缶(電池缶)
7 蓋(電池キャップ)
8 ワッシャー
CF 塗工膜
CL 塗工液
R グラビアロール
S 基材
S1 二軸混練押出機
S2 ダイ
S3 原反冷却装置
S4 第1縦延伸装置
S5 第1横延伸装置
S6 抽出槽
S7 第2横延伸装置
S7’ グラビア塗工装置
S8 巻取り装置
SP セパレータ
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