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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040767
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】造形物の製造方法及び造形物
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230315BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230315BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20230315BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230315BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230315BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230315BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B23K26/34
B23K26/21 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147921
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 萌
(72)【発明者】
【氏名】初田 光嶺
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
【テーマコード(参考)】
4E081
4E168
【Fターム(参考)】
4E081BA02
4E081BA08
4E081BB05
4E081BB15
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
4E081CA19
4E081CA20
4E081FA04
4E168BA33
4E168BA34
4E168BA35
4E168BA81
4E168FB01
4E168GA04
(57)【要約】
【課題】流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物を製造することが可能な造形物の製造方法及び造形物を提供する。
【解決手段】軸体51の周囲に溶加材Mを溶融及び凝固させた溶着ビードB2を積層して造形された造形部53を有するとともに、内部に中空の冷却流路61が設けられ、軸体51の軸心Axを中心として回転される回転体からなる造形物Wを製造する製造方法であって、軸体51の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路のガイド部Gを軸体51の周囲に形成するガイド部形成工程と、ガイド部Gの周囲に溶着ビードB1を形成して冷却流路61を形成する流路形成工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに、内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路のガイド部を前記軸体の周囲に形成するガイド部形成工程と、
前記ガイド部の周囲に前記溶着ビードを形成して前記流路を形成する流路形成工程と、
を含む、
造形物の製造方法。
【請求項2】
前記ガイド部形成工程において、前記軸体の軸方向に沿う前記ガイド部を螺旋状に形成する、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記ガイド部形成工程において、前記軸体の軸方向に沿う前記ガイド部を前記軸体の軸心と平行に延伸させて形成する、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記ガイド部を一続きに形成することにより、入口から出口まで一続きの前記流路を形成する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に切削加工を施すことにより、前記ガイド部となる溝部を形成する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に、前記溶着ビードを積層させた一対の壁部を互いに間隔をあけて形成して凹状の前記ガイド部を形成する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項7】
前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に、前記経路に沿ってパイプ材を固定して前記ガイド部とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項8】
前記流路形成工程後に、前記軸体の周囲に前記溶着ビードを積層させて翼部を造形する翼部造形工程を行う、
請求項1~7のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項9】
軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記軸体の軸方向に沿って延伸する複数の軸流路と、
前記軸体の端部で周方向に沿って延伸し、周方向に隣り合う前記軸流路に交互に連通する複数の周流路と、
を有する、
造形物。
【請求項10】
前記軸流路は、前記軸体の周囲に螺旋状に延伸されている、
請求項9に記載の造形物。
【請求項11】
前記軸流路は、前記軸体の軸心と平行に延伸されている、
請求項9に記載の造形物。
【請求項12】
前記流路は、入口から出口まで一続きの経路に形成されている、
請求項9~11のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項13】
前記軸体の周囲に溶着ビードを積層させて造形された翼部を有する、
請求項9~12のいずれか一項に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法及び造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
例えば、ブレードを有する回転体を製造する技術として、中心軸となる軸体の周囲に溶着ビードを積層させてブレードを形成する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-155463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、さらなる高機能化の一例として、上記のような造形方法によって内部に冷却流路を形成して冷却機能を有する回転体の造形も行うことができるが、冷却流路を備えた回転体では、機械的な強度や造形可能な構造とのバランスが求められる。
【0006】
例えば、内部に冷却流路を有する回転体において、図14に示すように、冷却流路1には、想定される荷重方向Fと平行な断面で見たときに、隅部のR形状や高さh/幅wの比によって応力集中係数が異なる。このため、冷却流路1を有する回転体を造形する場合、疲労強度等の観点から、軸方向に主応力が生じることを想定し、応力集中係数が低くなるように設計することが好ましい。しかし、単純に幅wを大きくしたり隅部のR形状を大きくすると、ビードを積層して冷却流路1を造形する際に、オーバーハングとなる部分のビード本数が増えたり、R形状を形成するために細かな造形条件の調整が必要となる。
【0007】
そこで本発明は、流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物を製造することが可能な造形物の製造方法及び造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに、内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路のガイド部を前記軸体の周囲に形成するガイド部形成工程と、
前記ガイド部の周囲に前記溶着ビードを形成して前記流路を形成する流路形成工程と、
を含む、
造形物の製造方法。
(2) 軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記軸体の軸方向に沿って延伸する複数の軸流路と、
前記軸体の端部で周方向に沿って延伸し、周方向に隣り合う前記軸流路に交互に連通する複数の周流路と、
を有する、
造形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造方法で製造する造形物の斜視図である。
図2】本発明の製造方法で製造する造形物の側面図である。
図3】造形物の軸体の側面図である。
図4】造形物の冷却流路部分の断面図である。
図5】冷却流路の経路を説明する図であって、(A)は軸体の模式的な斜視図、(B)は軸体の冷却流路が形成された大径部の展開図である。
図6】造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
図7】造形物の冷却流路の造形工程を説明する図であって、(A)~(C)は、造形途中における冷却流路部分の断面図である。
図8】本例の造形物における冷却流路を説明する図であって、(A)は冷却流路の模式図、(B)は(A)におけるVIIIB-VIIIB断面図である。
図9】参考例における冷却流路の経路を説明する図であって、(A)は軸体の模式的な斜視図、(B)は軸体の冷却流路が形成された大径部の展開図である。
図10】参考例における冷却流路を説明する図であって、(A)は冷却流路の模式図、(B)は(A)におけるXB-XB断面図である。
図11】冷却流路の他の造形方法を説明する冷却流路部分の断面図である。
図12】冷却流路の他の造形方法を説明する冷却流路部分の断面図である。
図13】変形例に係る造形物の軸体の側面図である。
図14】荷重が付与される冷却流路の模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法で製造する造形物Wの斜視図である。図2は、造形物Wの側面図である。図3は、造形物Wの軸体51の側面図である。
【0012】
図1に示すように、造形物Wは、軸体51と、軸体51の外周に造形された造形部53とを有しており、造形部53には、ブレード(翼部)55が形成されている。
【0013】
軸体51は、例えば、鋼棒等の断面円形の丸棒体である。この軸体51の外周に設けられた造形部53のブレード55は、外周側への突出部分が軸方向に向かって螺旋状に捻られた形状に形成されている。このブレード55を有する造形部53は、軸体51の周囲に溶着ビードを形成して積層させることにより造形される。なお、溶着ビードによって造形される造形部53は、その後に切削加工によって表面が目標形状に形成される。
【0014】
図2及び図3に示すように、造形物Wは、その内部に、冷却流路61を有している。この冷却流路61は、冷却水等の冷却媒体が流される流路であり、この冷却流路61に冷却媒体が流されることにより、造形物Wが冷却される。軸体51は、大径部51Aを有している。軸体51には、この大径部51Aの外周部分に冷却流路61が形成されており、この冷却流路61が形成された大径部51Aの周囲に造形部53が造形されている。
【0015】
図4は、造形物Wの冷却流路61の部分の断面図である。
図4に示すように、冷却流路61は、軸体51の大径部51Aに形成された溝部63を有している。そして、この溝部63の上部を塞ぐように溶着ビードB1を形成することにより、冷却流路61が形成されている。
【0016】
図5は、冷却流路61の経路を説明する図であって、(A)は軸体51の模式的な斜視図、(B)は軸体51の冷却流路61が形成された大径部51Aの展開図である。
図5(A)及び図5(B)に示すように、冷却流路61は、軸体51の軸方向に沿う複数の軸流路61Aと、軸体51の周方向に沿う複数の周流路61Bとから構成されている。軸流路61Aは、軸体51に対して周方向に等間隔に形成されており、それぞれ螺旋状に形成されている。周流路61Bは、軸体51の両端近傍位置に形成されている。軸体51の周方向に隣り合う軸流路61Aは、その端部が周流路61Bに交互に連結され、軸体51の両端で折り返して一続きとされている。これにより、冷却流路61は、軸体51の一方の端部における始端61Sから軸流路61A及び周流路61Bを交互に通ることにより、軸体51の端部で折り返し、軸体51の一方の端部における終端61Eに達している。冷却流路61では、始端61Sから冷却媒体が送り込まれる。そして、この冷却媒体は、軸流路61A及び周流路61Bを交互に流れ、終端61Eから排出される。これにより、造形物Wは、冷却媒体が冷却流路61を流れることによって冷却される。
【0017】
次に、上記の造形物Wを製造する製造システムについて説明する。図6は造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
【0018】
図6に示すように、本構成の造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。
【0019】
溶接ロボット11は、多関節ロボットからなるアクチュエータであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される線状の溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。
【0020】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物に応じて適宜選定される。
【0021】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードが形成される。
【0022】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0023】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0024】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0025】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0026】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。
【0027】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ23の移動軌跡に沿って、トーチ23を溶接ロボット11の駆動により移動させるとともに、軸体51を軸回りに回動させながら、溶融した溶加材Mからなる溶着ビードをトーチ23によって軸体51の周囲に積層させる。これにより、軸体51の外周に溶着ビードからなる造形部53が造形された造形物Wを製造する。なお、軸体51は、その両端が、ベース47上に設けられた支持部49に支持されて回動可能とされている。
【0028】
次に、本発明の造形物の製造方法について説明する。
図7は、造形物Wの冷却流路61の造形工程を説明する図であって、(A)~(C)は、造形途中における冷却流路61の部分の断面図である。
【0029】
(ガイド部形成工程)
図7(A)に示すように、軸体51の大径部51Aの外周を切削して溝部63を形成する。この溝部63は、冷却流路61を形成する際のガイド部Gであり、冷却流路61の一部となる。この溝部63は、例えば、両端を支持部49に支持させた軸体51を回転させながら、エンドミル、リーマあるいは溝フライス等の切削工具Tによって軸体51の大径部51Aの外周面を切削して形成する。
【0030】
このとき、溝部63を軸体51の大径部51Aに対して軸方向に沿って螺旋状に形成し、さらに、軸方向の端部で周方向に沿って形成し、さらに折り返して軸方向に沿って螺旋状に形成する。そして、この軸方向及び周方向への溝部63の形成を繰り返すことにより、軸方向に沿う螺旋状の部分が軸体51の端部で周方向に沿う部分で折り返された経路の溝部63を形成する(図3参照)。なお、この溝部63の深さは、一定でもよいが、その後に形成するブレード55の高さや位置等に応じて深さを調整してもよい。
【0031】
(流路形成工程)
図7(B)に示すように、ガイド部Gである溝部63の上部を塞ぐように、溝部63に沿って溝部63の上縁部に複数の溶着ビードB1を形成する。具体的には、溝部63の上縁からオーバーハングとなる溶着ビードB1の積層を繰り返して天井部分を形成する。このとき、例えば、溝部63の角部に面取り加工を施し、この面取り部分から溶着ビードB1を積層することで、冷却流路61の上部における隅部にR部を形成して応力集中を抑制することができる。
【0032】
(翼部造形工程)
図7(C)に示すように、冷却流路61が形成された軸体51の大径部51Aの外周に、溶着ビードB2を繰り返し形成して積層させる。これにより、大径部51Aの外周にブレード55を有する造形部53を造形する(図1及び図2参照)。この溶着ビードB2は、造形する螺旋状のブレード55の形状に沿って形成して積層するのが好ましい。
【0033】
このようにして造形された造形物Wでは、始端61Sから冷却媒体が送り込まれ、一続きの軸流路61A及び周流路61Bを交互に流れて終端61Eから排出される。これにより、造形物Wは、冷却流路61を流れる冷却媒体によって冷却される。
【0034】
ところで、軸心Axを中心に回転される回転体である造形物Wにおいて(図2参照)、曲げ荷重が作用すると、その曲げの外側となる部分に引張力からなる主応力が軸心Axに沿って発生し、その主応力は軸方向の中央部分で最大となる。
【0035】
図8(A)及び図8(B)は、本例の造形物Wにおける冷却流路61を説明する図である。
本構成の製造方法によって造形された造形物Wでは、冷却流路61は、軸流路61Aが軸方向に沿って形成されている。したがって、図8(A)及び図8(B)に示すように、冷却流路61の軸流路61Aは、軸方向に沿う断面における幅寸法WAxが大きくなり、冷却流路61における応力集中係数が小さくなる。したがって、曲げ荷重が作用した際に主応力が最大となる軸方向の中央部分においても、主応力による影響を抑えることができる。
【0036】
ここで、参考例について説明する。
図9は、参考例における冷却流路61の経路を説明する図であって、(A)は軸体51の模式的な斜視図、(B)は軸体51の冷却流路61が形成された大径部51Aの展開図である。図10(A)及び図10(B)は、参考例における冷却流路61を説明する図である。
【0037】
図9(A)及び図9(B)に示すように、参考例では、軸体51の一端から他端へ向かって、一端側の始端61Sから他端側の終端61Eに繋がる冷却流路61を周方向に沿う螺旋状に形成している。
【0038】
この参考例では、冷却流路61が周方向に沿う螺旋状に形成されているので、図10(A)及び図10(B)に示すように、冷却流路61は、軸方向に沿う断面における幅寸法WAxが小さくなり、冷却流路61における応力集中係数が大きくなってしまう。このため、特に、曲げ荷重が作用した際に主応力が最大となる軸方向の中央部分において、主応力の影響を受けやすい。
【0039】
なお、参考例のように周方向に沿う螺旋状の冷却流路61を形成する場合、その螺旋のピッチを大きくし、軸心Axに対する冷却流路61の角度を小さくすることにより、軸心Axに沿う断面視における幅寸法WAxを大きくすることができる。しかし、この場合、螺旋のピッチが大きいために、冷却流路61の全長が短くなってしまい、十分な冷却効率が得られなくなってしまう。
【0040】
以上、説明したように、本構成に係る造形物Wの製造方法及び造形物Wによれば、軸体51の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路の冷却流路61を有する回転体からなる造形物Wを製造することができる。そして、この冷却流路61を有する軸体51の外周に溶着ビードB2を積層させてブレード55を造形することにより、応力の負荷集中を低減しつつ冷却流路61を備えたブレード55を有する造形物Wを製造することができる。
【0041】
また、軸体51の周方向に沿う冷却流路61を螺旋状に形成する場合と比べ、長い流路長を確保しつつ、主応力方向である軸心Axに沿う断面において大きな幅寸法WAxを確保し、応力の負荷集中を低減することができる。
【0042】
しかも、軸体51の両端に折り返し部分を設けることにより、軸方向の中央部分で最大となる曲げ変形による応力発生箇所と冷却流路61との重複を避け、全体的な疲労強度を向上させることができる。
【0043】
また、軸体51の軸方向に沿うガイド部Gを螺旋状に形成することにより、軸体51の周囲にバランスよく冷却流路61を形成することができ、応力の負荷集中をより低減させることができる。
【0044】
しかも、入口である始端61Sから出口である終端61Eまで一続きの経路の冷却流路61を形成するので、冷却流路61に冷却媒体を循環させることにより、冷却流路61内での閉塞の有無等を容易に判定できる。
【0045】
また、流路形成工程において、一続きのガイド部Gに沿って溶着ビードB1,B2を形成することにより、溶着ビードB1,B2の開始点及び終了点を減らすことができ、生産性を高めることができる。
【0046】
また、切削加工によってガイド部Gとなる溝部63を形成するので、冷却流路61を形成するための溶着ビードの積層工程を削減でき、生産性を高めることができる。また、切削加工によって溝部63を形成するので、冷却流路61の上面部分を除く内面を凹凸なく平滑に仕上げることができる。
【0047】
なお、本構成例において、冷却流路61は、溝部63からなるガイド部Gを軸体51の大径部51Aに形成したが、ガイド部Gとしては、溝部63に限らない。
【0048】
例えば、図11に示すように、軸体51の大径部51Aに溶着ビードBを積層して一対の壁を有する溝状のガイド部Gを形成し、このガイド部Gの上縁部に溶着ビードB1を形成し、これらの溶着ビードB1によってガイド部Gの上部が封鎖された冷却流路61を形成してもよい。
【0049】
このように、軸体51の外周に、溶着ビードBを積層させた一対の壁部を互いに間隔をあけて形成して凹状のガイド部Gを形成することにより、ガイド部Gを形成する際の切削加工工程を省略できる。
【0050】
なお、ガイド部Gを形成する際には、軸体51の大径部51Aの外周面と溶着ビードBからなる壁部との隅部に隅肉溶接Bsを施して応力集中を回避するのが好ましい。
【0051】
また、図12に示すように、冷却流路61となる空洞部分を有する筒状のパイプ材71をガイド部Gとして軸体51の大径部51Aに連結材73を介して溶接固定し、このパイプ材71の周囲に溶着ビードを形成してもよい。
【0052】
このように、軸体51の外周に、経路に沿ってパイプ材71を固定してガイド部Gとすることにより、ガイド部Gを形成するための切削加工工程または溶着ビードの形成工程を省略できる。
【0053】
また、軸体51の大径部51Aの外周面に形成した溝部63にCチャンネル材を被せて溶接固定し、冷却流路61の天井部分を構成してもよい。このようにCチャンネル材を用いる場合も、冷却流路61の天井部分を溶着ビードB1で形成する手間を削減できる。なお、この場合、隅部がR形状に形成されたCチャンネル材を用いれば、隅部における応力集中を抑えることができる。
【0054】
次に、変形例について説明する。
図13は、変形例に係る造形物Wの軸体51の側面図である。
【0055】
図13に示すように、変形例においても、冷却流路61は、軸体51の軸方向に沿う複数の軸流路61Aと、軸体51の周方向に沿う複数の周流路61Bとから構成されている。軸流路61Aは、軸体51の軸心Axと平行に形成されており、軸体51に対して周方向に等間隔に形成されている。そして、軸体51の周方向に隣り合う軸流路61Aは、その端部が周流路61Bに交互に連結され、軸体51の両端で折り返して一続きとされている。
【0056】
この変形例によれば、特に、冷却流路61における軸体51の軸方向に沿う軸流路61Aの部分において軸方向に平行な断面でさらに大きな幅寸法WAxを確保し、応力の負荷集中をより低減することができる。
【0057】
なお、上記構成例では、大径部51Aを有する段付きの軸体51を用いる場合を例示したが、軸体51としては、大径部51Aのない中実の丸棒材を用いてもよい。なお、大径部51Aを有する段付き形状は、丸棒材に対して、例えば、旋盤によって加工することにより容易に形成することができる。
【0058】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0059】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに、内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路のガイド部を前記軸体の周囲に形成するガイド部形成工程と、
前記ガイド部の周囲に前記溶着ビードを形成して前記流路を形成する流路形成工程と、
を含む、造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、軸体の軸方向に沿って延伸して両端で折り返す経路の流路を有する回転体からなる造形物を製造することができる。
また、軸体の周方向に沿う流路を螺旋状に形成する場合と比べ、長い流路長を確保しつつ、主応力方向である軸心に沿う断面において大きな幅寸法を確保し、応力の負荷集中を低減することができる。
しかも、軸体の両端に折り返し部分を設けることにより、軸方向の中央部分で最大となる曲げ変形による応力発生箇所と流路との重複を避け、全体的な疲労強度を向上させることができる。
【0060】
(2) 前記ガイド部形成工程において、前記軸体の軸方向に沿う前記ガイド部を螺旋状に形成する、(1)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、軸体の軸方向に沿うガイド部を螺旋状に形成することにより、軸体の周囲にバランスよく流路を形成することができ、応力の負荷集中をより低減させることができる。
【0061】
(3) 前記ガイド部形成工程において、前記軸体の軸方向に沿う前記ガイド部を前記軸体の軸心と平行に延伸させて形成する、(1)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、流路における軸体の軸方向に沿う部分において軸方向に平行な断面でさらに大きな幅寸法を確保し、応力の負荷集中をより低減することができる。
【0062】
(4) 前記ガイド部を一続きに形成することにより、入口から出口まで一続きの前記流路を形成する、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、入口から出口まで一続きの経路の流路を形成する。これにより、流路に冷却媒体を循環させることにより、流路内での閉塞の有無等を容易に判定できる。
また、流路形成工程において、一続きのガイド部に沿って溶着ビードを形成することにより、溶着ビードの開始点及び終了点を減らすことができ、生産性を高めることができる。
【0063】
(5) 前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に切削加工を施すことにより、前記ガイド部となる溝部を形成する、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、切削加工によってガイド部となる溝部を形成するので、流路を形成するための溶着ビードの積層工程を削減でき、生産性を高めることができる。また、切削加工によって溝部を形成するので、流路の上面部分を除く内面を凹凸なく平滑に仕上げることができる。
【0064】
(6) 前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に、前記溶着ビードを積層させた一対の壁部を互いに間隔をあけて形成して凹状の前記ガイド部を形成する、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、ガイド部を形成する際の切削加工工程を省略できる。
【0065】
(7) 前記ガイド部形成工程において、前記軸体の外周に、前記経路に沿ってパイプ材を固定して前記ガイド部とする、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、ガイド部を形成するための切削加工工程または溶着ビードの形成工程を省略できる。
【0066】
(8) 前記流路形成工程後に、前記軸体の周囲に前記溶着ビードを積層させて翼部を造形する翼部造形工程を行う、(1)~(7)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、応力の負荷集中を低減しつつ流路を備えた軸体の周囲に翼部を有する造形物を製造することができる。
【0067】
(9) 軸体の周囲に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形された造形部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記軸体の軸方向に沿って延伸する複数の軸流路と、
前記軸体の端部で周方向に沿って延伸し、周方向に隣り合う前記軸流路に交互に連通する複数の周流路と、
を有する、造形物。
この構成の造形物によれば、内部に設けられた流路が、軸体の軸方向に沿って延伸する複数の軸流路と、軸体の端部で周方向に沿って延伸し、周方向に隣り合う軸流路に交互に連通する複数の周流路と、を有している。軸方向に沿う複数の軸流路を有する流路は、軸体の周方向に沿う流路が螺旋状に形成された場合と比べ、長い流路長を確保しつつ、主応力方向である軸心に沿う断面において大きな幅寸法が確保され、応力の負荷集中が低減される。また、軸方向の中央部分で最大となる曲げ変形による応力発生箇所と流路との重複を避け、全体的な疲労強度を向上させることができる。
【0068】
(10) 前記軸流路は、前記軸体の周囲に螺旋状に延伸されている、(9)に記載の造形物。
この構成の造形物によれば、軸流路が軸体の周囲に螺旋状に延伸されていることにより、軸体の周囲にバランスよく流路を設けることができ、応力の負荷集中をより低減させることができる。
【0069】
(11) 前記軸流路は、前記軸体の軸心と平行に延伸されている、(9)に記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路を構成する軸流路が軸体の軸心と平行に延伸されているので、軸方向に平行な断面でさらに大きな幅寸法を確保し、応力の負荷集中をより低減することができる。
【0070】
(12) 前記流路は、入口から出口まで一続きの経路に形成されている、(9)~(11)のいずれか一つに記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路が入口から出口まで一続きの経路に形成されている。これにより、流路に冷却媒体を循環させることにより、流路内での閉塞の有無等を容易に判定できる。
また、溶着ビードを積層させて流路を形成する場合に、一続きに溶着ビードを形成することができ、これにより、溶着ビードの開始点及び終了点を減らして生産性を高めることができる。
【0071】
(13) 前記軸体の周囲に溶着ビードを積層させて造形された翼部を有する、(9)~(12)のいずれか一つに記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路を備えた軸体の周囲に翼部を有し、しかも、応力の負荷集中が低減された造形物とすることができる。
【符号の説明】
【0072】
51 軸体
53 造形部
55 ブレード(翼部)
61 冷却流路(流路)
61A 軸流路
61B 周流路
61S 始端(入口)
61E 終端(出口)
63 溝部
71 パイプ材
Ax 軸心
B,B1,B2 溶着ビード
G ガイド部
M 溶加材
W 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14