(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040768
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】造形物及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20230315BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20230315BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230315BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20230315BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230315BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230315BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B23K26/21 Z
B23K26/34
B33Y80/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147922
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 萌
(72)【発明者】
【氏名】初田 光嶺
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
【テーマコード(参考)】
4E081
4E168
【Fターム(参考)】
4E081BA02
4E081BA08
4E081BB05
4E081BB15
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
4E081CA19
4E081CA20
4E168BA33
4E168BA34
4E168BA35
4E168BA81
4E168CB03
4E168CB08
4E168FB01
(57)【要約】
【課題】流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物及び造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属母材からなる軸体51の周囲に溶接金属から造形された複数のブレード55を有するとともに内部に中空の冷却流路61が設けられ、軸体51の軸心Axを中心として回転される回転体からなる造形物Wであって、冷却流路61は、ブレード55内に複数設けられてブレード55と並行に延びる翼部流路63と、ブレード55の端部でブレード55と交差する方向に延びる連結流路65と、を有し、隣り合う翼部流路63に連結流路65が交互に連通されて冷却流路61の経路がブレード55の端部で折り返されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材からなる軸体の周囲に溶接金属から造形された複数の翼部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記翼部内に複数設けられて前記翼部と並行に延びる翼部流路と、
前記翼部の端部で前記翼部と交差する方向に延びる連結流路と、
を有し、
隣り合う前記翼部流路に前記連結流路が交互に連通されて前記流路の経路が前記翼部の端部で折り返されている、
造形物。
【請求項2】
前記流路は、入口から出口まで一続きの経路に形成されている、
請求項1に記載の造形物。
【請求項3】
前記流路は、延伸方向に直交する断面視において、隅部が円弧状に形成されている、
請求項1または請求項2に記載の造形物。
【請求項4】
前記翼部流路は、前記翼部の外表面側の内面が、前記翼部の外表面と平行に配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項5】
前記翼部に設けられた複数の前記翼部流路は、前記翼部の外表面からそれぞれ等距離に配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造形物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体を回転させながら、前記軸体の外周に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記翼部を造形する翼部造形工程を含み、
前記翼部造形工程において、前記溶着ビードを、前記翼部流路の経路に沿って平行に延伸させて前記連結流路に沿う部分と一続きに形成して積層させて前記流路を形成する流路形成工程を行う、
造形物の製造方法。
【請求項7】
前記流路形成工程において、前記流路の延伸方向に直交する断面視で隅部となる部分が円弧状になるように前記溶着ビードを形成する、
請求項6に記載の造形物の製造方法。
【請求項8】
前記翼部造形工程において、前記翼部の外表面に対して前記翼部流路における前記翼部の外表面側の内面が平行となるように前記溶着ビードを積層させて前記翼部を造形する、
請求項6または請求項7に記載の造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物及び造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
例えば、ブレードを有する回転体を製造する技術として、中心軸となる軸体の周囲に溶着ビードを積層させてブレードを形成する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、さらなる高機能化の一例として、上記のような造形方法によって内部に冷却流路を形成して冷却機能を有する回転体の造形も行うことができるが、冷却流路を備えた回転体では、機械的な強度や造形可能な構造とのバランスが求められる。
【0006】
例えば、内部に冷却流路を有する回転体において、
図9に示すように、冷却流路1には、想定される荷重方向Fと平行な断面で見たときに、隅部のR形状や高さh/幅wの比によって応力集中係数が異なる。このため、冷却流路1を有する回転体を造形する場合、疲労強度等の観点から、軸方向に主応力が生じることを想定し、応力集中係数が低くなるように設計することが好ましい。しかし、単純に幅wを大きくしたり隅部のR形状を大きくすると、ビードを積層して冷却流路1を造形する際に、オーバーハングとなる部分のビード本数が増えたり、R形状を形成するために細かな造形条件の調整が必要となる。
【0007】
そこで本発明は、流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物及び造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 金属母材からなる軸体の周囲に溶接金属から造形された複数の翼部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記翼部内に複数設けられて前記翼部と並行に延びる翼部流路と、
前記翼部の端部で前記翼部と交差する方向に延びる連結流路と、
を有し、
隣り合う前記翼部流路に前記連結流路が交互に連通されて前記流路の経路が前記翼部の端部で折り返されている、
造形物。
(2) 上記(1)の造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体を回転させながら、前記軸体の外周に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記翼部を造形する翼部造形工程を含み、
前記翼部造形工程において、前記溶着ビードを、前記翼部流路の経路に沿って平行に延伸させて前記連結流路に沿う部分と一続きに形成して積層させて前記流路を形成する流路形成工程を行う、
造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流路を有する回転体からなり、応力集中が抑えられた造形物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の造形物における冷却流路を示す模式図である。
【
図3】ブレードにおける冷却流路の配置を説明するブレードの概略断面図である。
【
図4】冷却流路の断面形状を説明する翼部流路の断面図である。
【
図5】造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
【
図6】(A)及び(B)は、翼部造形工程における翼部流路の形成の仕方を説明する造形途中の造形物の側面図である。
【
図7】(A)及び(B)は、翼部造形工程における翼部流路の形成の仕方を説明する造形途中のブレードの一部の断面図である。
【
図8】本例の造形物における翼部流路を説明する図であって、(A)は翼部流路の模式図、(B)は(A)におけるVIIIB-VIIIB断面図、(C)は(A)におけるVIIIC-VIIIC断面図である。
【
図9】荷重が付与される冷却流路の模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の造形物Wの斜視図である。
図2は、本発明の造形物Wにおける冷却流路61を示す模式図である。
図3は、ブレード55における冷却流路61の配置を説明するブレード55の概略断面図である。
【0012】
図1に示すように、造形物Wは、軸体51と、軸体51の外周に造形された造形部53とを有しており、造形部53には、ブレード(翼部)55が形成されている。
【0013】
軸体51は、例えば、鋼棒等の断面円形の丸棒体である。この軸体51の外周に設けられた造形部53のブレード55は、外周側への突出部分が軸方向に向かって螺旋状に捻られた形状に形成されている。このブレード55を有する造形部53は、軸体51の周囲に溶着ビードを形成して積層させることにより造形される。なお、溶着ビードによって造形される造形部53は、その後に切削加工によって表面が目標形状に形成される。
【0014】
図2及び
図3に示すように、造形物Wは、その内部に、冷却流路61を有している。この冷却流路61は、冷却水等の冷却媒体が流される流路であり、この冷却流路61に冷却媒体が流されることにより、造形物Wが冷却される。
【0015】
冷却流路61は、翼部流路63と、連結流路65と、軸流路67とを有している。翼部流路63は、3つ一組とされてそれぞれのブレード55に形成されている。これらの3つの翼部流路63は、ブレード55に沿って並行に延在されている。
【0016】
また、これらの翼部流路63は、ブレード55の外表面55a側の内面63aが、ブレード55の外表面55aと平行に配置されている。さらに、各ブレード55に設けられた3つの翼部流路63は、ブレード55の外表面55aからそれぞれ等距離に配置されている。
【0017】
連結流路65は、ブレード55の両端に形成されている。これらの連結流路65は、ブレード55の端部でブレード55と交差する方向に延伸され、隣り合う翼部流路63に交互に連通されている。これにより、冷却流路61は、翼部流路63がブレード55の端部で連結流路65によって折り返された経路とされている。軸流路67は、軸体51の中心に形成されている。軸流路67は、その一端が連結流路65を介して翼部流路63の一つに連通されている。
【0018】
冷却流路61は、軸流路67における翼部流路63との連通側と反対側の端部が始端61Sとされ、連結流路65と連通されていない翼部流路63の端部が終端61Eとされている。そして、冷却流路61は、始端61Sから終端61Eにわたって一続きとされている。つまり、冷却流路61は、軸体51の一方の端部における軸流路67の始端61Sから翼部流路63及び連結流路65を交互に通ることにより、ブレード55の端部で折り返し、翼部流路63の端部の終端61Eに達している。
【0019】
図4は、冷却流路61の断面形状を説明する翼部流路63の断面図である。
図4に示すように、冷却流路61の翼部流路63は、延伸方向に直交する断面視において、隅部が円弧状に形成されている。これにより、冷却流路61の隅部における応力集中が緩和される。例えば、溶着ビードBを積層させて冷却流路61を造形する際に、側壁部分と底部との隅部に隅肉溶接Bsを施してR形状に形成したり、側壁部分の上部を塞ぐ天井部分を造形する際に、側壁部分と天井部分との隅部がR形状となるように溶着ビードBをオーバーハングさせて積層させる。
【0020】
次に、上記の造形物Wを製造する製造システムについて説明する。
図5は造形物Wを製造する製造システム100の模式的な概略構成図である。
【0021】
図5に示すように、本構成の造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。
【0022】
溶接ロボット11は、多関節ロボットからなるアクチュエータであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される線状の溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。
【0023】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物に応じて適宜選定される。
【0024】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードBが形成される。
【0025】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードBの状態をより適正に維持して、造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0026】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0027】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0028】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0029】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。
【0030】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ23の移動軌跡に沿って、トーチ23を溶接ロボット11の駆動により移動させるとともに、軸体51を軸回りに回動させながら、溶融した溶加材Mからなる溶着ビードBをトーチ23によって軸体51の周囲に積層させる。これにより、軸体51の外周に溶着ビードBからなる造形部53が造形された造形物Wを製造する。なお、軸体51は、その両端が、ベース47上に設けられた支持部49に支持されて回動可能とされている。
【0031】
次に、本発明の造形物の製造方法について説明する。
(軸流路形成工程)
まず、軸体51の中心に一端から穿孔し、軸流路67を形成する。また、軸体51の他端近傍において、径方向に孔を形成し、軸流路67に繋がる連結流路65の一部を形成する。
【0032】
(翼部造形工程)
軸体51を回転させながら、軸体51の外周にブレード55を有する造形部53を造形する。具体的には、造形するブレード55の延在方向に沿って繰り返し溶着ビードBを形成する。これにより、軸体51の外周に、溶着ビードBを積層させてブレード55を有する造形部53を造形する。
【0033】
このとき、ブレード55を造形する際に、溶着ビードB同士に隙間をあけて中空部分を形成することにより、溶着ビードBによって囲われた翼部流路63及び連結流路65を形成する流路形成工程を行う。これにより、入口である始端61Sから出口である終端61Eまで一続きの経路の冷却流路61を形成する。
【0034】
ここで、流路形成工程における翼部流路63の形成の仕方について、ブレード55における最外周部分の翼部流路63を形成する場合を例にとって説明する。
図6は、翼部造形工程における翼部流路63の形成の仕方を説明する造形途中の造形物Wの側面図である。
図7は、翼部造形工程における翼部流路63の形成の仕方を説明する造形途中のブレード55の一部の断面図である。
【0035】
図6(A)及び
図7(A)に示すように、溶着ビードBを、翼部流路63の経路に沿って平行に延伸させる。これにより、翼部流路63の経路に溝部Gを形成する。このとき、溝部Gの両側壁部分と底部との隅部に隅肉溶接Bsを施してR形状に形成する(
図4参照)。
【0036】
次に、
図6(B)及び
図7(B)に示すように、溝部Gの上部を塞ぐように、溝部Gに沿って溝部Gの上縁部に複数の溶着ビードBを形成する。具体的には、溝部Gの上縁からオーバーハングとなる溶着ビードBの積層を繰り返して天井部分を形成し、翼部流路63とする。このとき、延伸方向に直交する断面視で翼部流路63の隅部を円弧状に形成する(
図4参照)。また、ブレード55の外表面55aに対して翼部流路63におけるブレード55の外表面55a側の内面63aが平行となるように溶着ビードBを積層させてブレード55を造形する(
図3参照)。
【0037】
このようにして造形された造形物Wでは、始端61Sから軸流路67へ冷却媒体が送り込まれ、連結流路65及び翼部流路63を交互に流れて終端61Eから排出される(
図2参照)。これにより、造形物Wは、冷却流路61を流れる冷却媒体によって冷却される。
【0038】
ところで、軸心Axを中心に回転される回転体である造形物Wでは(
図2参照)、曲げ荷重が作用すると、その曲げの外側となる部分に引張力からなる主応力が軸心Axに沿って発生し、その主応力は軸方向の中央部分で最大となる。
【0039】
本構成の造形物Wでは、冷却流路61の翼部流路63は、
図8(A)及び
図8(B)に示すように、延伸方向に直交する断面での幅寸法Wcに対して、
図8(A)及び
図8(C)に示すように、軸心Axに沿う断面において、延伸方向に直交する断面での幅寸法Wcよりも大きな幅寸法WAxとなる。
【0040】
このように、本構成の造形物Wでは、冷却流路61の翼部流路63は、軸心Axに沿う断面で大きな幅寸法WAxとなることから応力集中係数が小さくなる。したがって、曲げ荷重が作用した際に主応力が最大となる軸方向の中央部分においても、主応力による影響を抑えることができる。
【0041】
以上、説明したように、本構成に係る造形物W及び造形物Wの製造方法によれば、ブレード55と並行に延びる複数の翼部流路63がブレード55の端部で連結流路65に連通されて折り返された冷却流路61が設けられているので、ブレード55内における冷却流路61の内面の面積を多くとることができる。これにより、冷却流路61に冷却媒体を流した際のブレード55との熱交換効率を高めることができ、冷却能力に優れた造形物Wとすることができる。
【0042】
しかも、ブレード55と並行に延びる翼部流路63は、主応力方向である軸心Axに沿う断面において大きな幅寸法WAxが確保されるので、曲げ荷重に起因して軸方向に応力が作用した際の応力集中を緩和させることができる。
【0043】
しかも、冷却流路61が入口である始端61Sから出口である終端61Eまで一続きの経路に形成されている。これにより、冷却流路61に冷却媒体を循環させることにより、冷却流路61内での閉塞の有無等を容易に判定できる。
【0044】
また、溶着ビードBを積層させて冷却流路61を有するブレード55を造形する場合に、翼部流路63の経路に沿って連続して溶着ビードBを形成することができ、これにより、溶着ビードBの開始点及び終了点を減らして生産性を高めることができる。
【0045】
さらに、冷却流路61は、延伸方向に直交する断面視において、隅部が円弧状に形成されている。したがって、冷却流路61の隅部における応力集中を緩和させることができる。
【0046】
また、翼部流路63におけるブレード55の外表面55a側の内面63aが、ブレード55の外表面55aと平行に配置されている。これにより、ブレード55の外表面55aと翼部流路63との間の肉厚を均一にすることができ、冷却流路61に冷却媒体を流した際に、ブレード55の外表面55aをバランスよく冷却させることができる。
【0047】
しかも、ブレード55に設けられた複数の翼部流路63がブレード55の外表面55aからそれぞれ等距離に配置されている。したがって、冷却流路61に冷却媒体を流した際に、ブレード55に設けられた複数の翼部流路63によって、ブレード55の全体をバランスよく冷却させることができる。
【0048】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 金属母材からなる軸体の周囲に溶接金属から造形された複数の翼部を有するとともに内部に中空の流路が設けられ、前記軸体の軸心を中心として回転される回転体からなる造形物であって、
前記流路は、
前記翼部内に複数設けられて前記翼部と並行に延びる翼部流路と、
前記翼部の端部で前記翼部と交差する方向に延びる連結流路と、
を有し、
隣り合う前記翼部流路に前記連結流路が交互に連通されて前記流路の経路が前記翼部の端部で折り返されている、造形物。
この構成の造形物によれば、翼部と並行に延びる複数の翼部流路が翼部の端部で連結流路に連通されて折り返された流路が設けられているので、翼部内における流路の内面の面積を多くとることができる。これにより、流路に冷却媒体を流した際の翼部との熱交換効率を高めることができ、冷却能力に優れた造形物とすることができる。
しかも、翼部と並行に延びる翼部流路は、主応力方向である軸心に沿う断面において大きな幅寸法が確保されるので、曲げ荷重に起因して軸方向に応力が作用した際の応力集中を緩和させることができる。
【0050】
(2) 前記流路は、入口から出口まで一続きの経路に形成されている、(1)に記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路が入口から出口まで一続きの経路に形成されている。これにより、流路に冷却媒体を循環させることにより、流路内での閉塞の有無等を容易に判定できる。
また、溶着ビードを積層させて流路を有する翼部を造形する場合に、翼部流路の経路に沿って連続して溶着ビードを形成することができ、これにより、溶着ビードの開始点及び終了点を減らして生産性を高めることができる。
【0051】
(3) 前記流路は、延伸方向に直交する断面視において、隅部が円弧状に形成されている、(1)または(2)に記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路の隅部が円弧状に形成されているので、流路の隅部における応力集中を緩和させることができる。
【0052】
(4) 前記翼部流路は、前記翼部の外表面側の内面が、前記翼部の外表面と平行に配置されている、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物。
この構成の造形物によれば、翼部流路における翼部の外表面側の内面が、翼部の外表面と平行に配置されている。これにより、翼部の外表面と翼部流路との間の肉厚を均一にすることができ、流路に冷却媒体を流した際に、翼部の外表面をバランスよく冷却させることができる。
【0053】
(5) 前記翼部に設けられた複数の前記翼部流路は、前記翼部の外表面からそれぞれ等距離に配置されている、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物。
この構成の造形物によれば、流路に冷却媒体を流した際に、翼部に設けられた複数の翼部流路によって、翼部の全体をバランスよく冷却させることができる。
【0054】
(6) (1)~(5)のいずれか一つに記載の造形物を製造する製造方法であって、
前記軸体を回転させながら、前記軸体の外周に、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記翼部を造形する翼部造形工程を含み、
前記翼部造形工程において、前記溶着ビードを、前記翼部流路の経路に沿って平行に延伸させて前記連結流路に沿う部分と一続きに形成して積層させて前記流路を形成する流路形成工程を行う、造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、翼部を造形する際に、端部の連結流路で折り返す複数の翼部流路を有する流路を形成することができる。また、溶着ビードを積層させて流路を有する翼部を造形する場合に、連続して溶着ビードを形成することができ、これにより、溶着ビードの開始点及び終了点を減らして生産性を高めることができる。
【0055】
(7) 前記流路形成工程において、前記流路の延伸方向に直交する断面視で隅部となる部分が円弧状になるように前記溶着ビードを形成する、(6)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、隅部が円弧状に形成された流路を形成することができ、流路の隅部における応力集中を緩和させることができる。
【0056】
(8) 前記翼部造形工程において、前記翼部の外表面に対して前記翼部流路における前記翼部の外表面側の内面が平行となるように前記溶着ビードを積層させて前記翼部を造形する、(6)または(7)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、翼部流路における翼部の外表面側の内面を翼部の外表面と平行に配置させる。これにより、翼部の外表面と翼部流路との間の肉厚を均一にすることができ、流路に冷却媒体を流した際に、翼部の外表面をバランスよく冷却させることができる。
【符号の説明】
【0057】
51 軸体
55 ブレード(翼部)
55a 外表面
61 冷却流路(流路)
61S 始端(入口)
61E 終端(出口)
63 翼部流路
63a 内面
65 連結流路
B 溶着ビード
W 造形物