(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040773
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】地盤改良システム及び地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20230315BHJP
【FI】
E02D3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147928
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 陽朗
(72)【発明者】
【氏名】林田 晃
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040BB05
2D040FA03
2D040GA02
(57)【要約】
【課題】従来の方法とは異なる新たな地盤改良システム及び地盤改良方法を提供する。
【解決手段】地盤改良システムXは、水面W下の地盤Gを改良する地盤改良手段X1と、隣接地盤90に設置されるトータルステーション11とを有し、地盤改良手段X1は、台船12と、掘削軸13Aが備わる改良機13と、改良機の制御装置14とを有し、トータルステーション11で地盤改良手段X1の高さを計測し、この計測値に基づいて深度情報Fを補正する構成とされている。また、地盤改良方法においては、台船12にプリズム15を設置しておき、プリズム15の初期高さA、トータルステーション11の標高B、トータルステーション11とプリズム15との高低差Cを計測し、この計測値に基づいて掘削軸13Aの計測深度Eを補正し、この補正後の深度を深度情報Fとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面下の地盤を改良する地盤改良手段と、前記水面に隣接する地盤に設置されるトータルステーションとを有し、
前記地盤改良手段は、前記水面に浮かぶ台船と、掘削軸が備わる改良機と、前記掘削軸の深度情報に応じて前記改良機を制御する制御装置とを有し、前記改良機及び前記制御装置は前記台船に設置され、
前記トータルステーションで前記地盤改良手段の高さを計測し、この計測値に基づいて前記深度情報を補正する構成とされている、
ことを特徴とする地盤改良システム。
【請求項2】
前記台船にプリズムが設置され、このプリズムの高さを前記トータルステーションで計測し、この計測値に基づいて前記深度情報を補正する構成とされている、
請求項1に記載の地盤改良システム。
【請求項3】
深度の計測が可能な掘削軸が備わる改良機と、前記掘削軸の深度情報に応じて前記改良機を制御する制御装置とを有し、かつ前記改良機及び前記制御装置が台船に設置された地盤改良手段を使用して前記掘削軸を水面下の地盤に挿入して当該地盤を改良する方法であり、
前記水面に隣接する地盤にトータルステーションを設置し、前記台船に前記トータルステーションと対になるプリズムを設置しておき、
前記プリズムの初期高さを測定するとともに、前記トータルステーションの標高を計測し、
前記トータルステーションを使用して当該トータルステーションと前記プリズムとの高低差を計測し、この高低差と、前記プリズムの初期高さと、前記トータルステーションの標高とに基づいて前記掘削軸の計測深度を補正し、この補正後の深度を前記深度情報とする、
ことを特徴とする地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面下の地盤を改良する地盤改良システム及び地盤改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
台船に搭載(設置)した掘削軸が備わる地盤改良機によって海底地盤等の水面下の地盤を改良する場合、施工時間中に潮位が変化すると、掘削軸の深度情報に狂いが生じる。地盤改良においては、深度情報に応じて掘削軸から地盤にセメント等の固化材を注入したり、掘削軸による地盤攪拌の程度(回転数等)を変えたりするため、掘削軸の深度を正確に把握することは、極めて重要である。
【0003】
そこで、例えば、台船を浮かべた施工場所の水位の変化を入力することで掘削軸の深度情報を補正する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法によると、例えば、台船の沈み込み(台船の喫水変化)等が考慮されず、正確性に劣る。
【0004】
また、例えば、移動局GPSを設置し、この移動局GPSと掘削軸との相互位置を特定して掘削軸の座標を計測する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、移動局GPSの使用は通信障害等に脆弱であり、また、煩瑣である。さらに、以上で示した水位の変化を入力する方法や移動局GPSによる方法とは異なる方法の提案も求められている(手段の多様化)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4405996号公報
【特許文献2】特許第3571585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来の方法とは異なる新たな地盤改良システム及び地盤改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
水面下の地盤を改良する地盤改良手段と、前記水面に隣接する地盤に設置されるトータルステーションとを有し、
前記地盤改良手段は、前記水面に浮かぶ台船と、掘削軸が備わる改良機と、前記掘削軸の深度情報に応じて前記改良機を制御する制御装置とを有し、前記改良機及び前記制御装置は前記台船に設置され、
前記トータルステーションで前記地盤改良手段の高さを計測し、この計測値に基づいて前記深度情報を補正する構成とされている、
ことを特徴とする地盤改良システム。
【0008】
(請求項2に記載の手段)
前記台船にプリズムが設置され、このプリズムの高さを前記トータルステーションで計測し、この計測値に基づいて前記深度情報を補正する構成とされている、
請求項1に記載の地盤改良システム。
【0009】
(請求項3に記載の手段)
深度の計測が可能な掘削軸が備わる改良機と、前記掘削軸の深度情報に応じて前記改良機を制御する制御装置とを有し、かつ前記改良機及び前記制御装置が台船に設置された地盤改良手段を使用して前記掘削軸を水面下の地盤に挿入して当該地盤を改良する方法であり、
前記水面に隣接する地盤にトータルステーションを設置し、前記台船に前記トータルステーションと対になるプリズムを設置しておき、
前記プリズムの初期高さを測定するとともに、前記トータルステーションの標高を計測し、
前記トータルステーションを使用して当該トータルステーションと前記プリズムとの高低差を計測し、この高低差と、前記プリズムの初期高さと、前記トータルステーションの標高とに基づいて前記掘削軸の計測深度を補正し、この補正後の深度を前記深度情報とする、
ことを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来の方法とは異なる新たな地盤改良システム及び地盤改良方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本形態の地盤改良システムの装置構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0013】
(地盤改良システム)
図1に示すように、本形態の地盤改良システムXは、水面W下の地盤Gを改良する地盤改良手段X1と、水面Wに隣接する地盤(図示例では護岸90)に設置されるトータルステーション11とを有する。また、地盤改良手段X1は、水面Wに浮かぶ台船12と、掘削軸13Aが備わる改良機13と、掘削軸13Aの深度情報等に応じて改良機13を制御する制御装置14とを有する。さらに、改良機13及び制御装置14は、台船12上に設置されている。
【0014】
本形態においては、トータルステーション11で地盤改良手段X1の高さを計測し、この計測値に基づいて掘削軸13Aの深度情報を補正する。したがって、前述した従来のシステムとは異なる新たなシステムとなる。特に前述した潮位(水位)の変化を入力する方法とは異なり、台船12の沈み込み等も考慮されるため、精度が向上する。また、GPSシステムを利用するものではなく、一般的な測量の分野において使用されているトータルステーション11を使用するものであるため、極めて簡易である。
【0015】
本形態において水面Wとしては、例えば、海面や川面、湖面等を想定している。ただし、水面Wをこれらに限定する趣旨ではない。改良の対象となる地盤が何らかの水面下に存在し、かつ当該水面に台船を浮かべ、当該台船上において施工を行う場合は、本形態が適用可能である。
【0016】
台船12は、例えば、作業船等と呼ばれることもある。台船12は、適宜、四隅を杭(アンカー)やロープで係留するなどして、平面方向(水面Wに沿う方向)の動きが抑えられる。一方、台船12は、水位の変化等によって上下方向(水面Wと交差する方向)の動きが生じる。
【0017】
ただし、上下方向の動きもできる限り抑えるのが好ましく、特に重量変化する機器、資材等、例えば、固化材自体やそのプラント設備等は、台船12に隣接させた別の作業船に搭載するのが好ましい。
【0018】
改良機13には、地盤Gの掘削を行う掘削軸13Aが備わる。掘削軸13Aは、1軸であっても、2軸以上の多軸であってもよい。また、地盤Gを掘削する深度によっては、複数の単管を繋いで一本の掘削軸とする形態であってもよい。
【0019】
掘削軸13Aは、通常、リーダー等の支柱によって垂直に支持される。また、掘削軸13Aは、モーター等が備わる駆動装置によって上下方向への移動や軸心回りの回転が可能とされている。
【0020】
本形態の掘削軸13Aには、掘削軸(通常、掘削軸の先端部。)の深度を計測する深度計測手段(深度計)が備わる。この深度計測手段は、掘削軸の深度を計測するものであるが、この計測深度は、水面Wの水位変化によって誤差が生じる可能性があるのは、前述したとおりである。
【0021】
掘削軸13Aには、適宜、掘削ビットや、撹拌翼、固化材、水等の吐出口、空気の噴出口等が設けられる。
【0022】
改良機13には、適宜、固化材等の吐出量計や、掘削軸13Aの深度計(前述)、回転計測計等が設けられる。これらの各種計器で計測された計測情報は、制御装置14へ有線、あるいは無線によって送られる。
【0023】
制御装置14には、必要により以上の計測情報の表示装置や印刷装置等が配置される。
【0024】
制御装置14においては、以上の計測情報に基づいて掘削軸13Aの上下方向への移動や回転等を決定し、この決定情報に基づいて掘削軸13Aを制御する。この制御は、必要により作業員の判断によって修正を加えてもよい。ただし、台船12の高さの変位(変化)に応じて以上の制御が補正を加えられるのは、次に説明するとおりである。
【0025】
すなわち、まず、本形態の台船12には、プリズム15が搭載されている。このプリズムは、トータルステーション11と対になる器具であり、可能であれば省略することもできる(ノンプリズム型)。プリズム15の高さは、トータルステーション11で計測される。なお、プリズム15の高さの変化は、水位変化の他、台船12の喫水変化等によっても生じる。
【0026】
プリズム15は、例えば、改良機13に搭載することもできるが、本形態のように台船12の上に直接搭載するのが好ましい。改良機13に搭載すると、改良機13の振動を拾ってしまうためである。一方、平面方向(水面Wに沿う方向)に関するプリズム15の搭載位置は特に限定されず、トータルステーション11との間に障害物が存在しない場所に好適に設置することができる。
【0027】
トータルステーション11は、水面Wに隣接する地盤、図示例では護岸90に設置される。トータルステーション11は、1台で足りるが、必要であれば2台以上の複数台としてもよい。また、台船12の位置情報(水面Wに沿う方向の位置情報)を取得するために、別のトータルステーションを設置しておいてもよい。この場合、トータルステーションは、通常、2台以上の複数台を設置する。
【0028】
トータルステーション11で計測した計測値は、中継器16で処理され、制御装置14に送信される。中継器16から制御装置14への計測値の送信は有線で行うこともできるが、図示例においては、アクセスポイント14A及びアクセスポイント16Aを利用したWi-Fi手段による形態、つまり無線による形態を示している。Wi-Fiによる場合、アクセスポイント14A,16A間の距離は、例えば、200m以下(0~200m)である。もちろん、他の無線手段を使用すれば、例えば、300m程度まで送信(通信)距離を延ばすこともできる。
【0029】
台船12の高さ(計測値)を受信した制御手段14は、掘削軸13Aの計測深度を補正し、この補正した深度情報に基づいて掘削軸13Aを制御する。
【0030】
(地盤改良方法)
次に、以上の地盤改良システムXを利用した地盤改良方法について説明する。
本形態の地盤改良方法においては、まず、改良機13、制御装置14、プリズム15等を台船12に搭載するなどした後、台船12を改良の対象となる地盤Gの上方に位置させる。
【0031】
台船12は、前述したように、通常、四隅を杭(アンカー)やロープで係留するなどして、平面方向(水面Wに沿う方向)の移動が生じないようにしておくのが好ましい。
【0032】
次に、以上の改良機13、制御装置14、プリズム15等の施工準備が終了したら、掘削軸13Aの先端を水面Wに合わせておく。また、水面Wからプリズム15までの初期高さAを測定し、制御装置14に送信し、あるいは入力する。
【0033】
一方、例えば、東京湾なら東京湾平均海面(T.P.)、荒川なら荒川工事基準面(A.P.)等の基準面Lを0mとしておき、この基準面Lからのトータルステーション11までの高さ(標高)Bを計測する。この計測値も制御装置14に送信し、あるいは入力する。
【0034】
次に、トータルステーション11を使用してトータルステーション11に対するプリズム15の高低差Cを計測し、制御装置14に送信する。本形態において、この送信は、Wi-Fi手段を利用して行う。この送信が他の無線手段や有線であってもよいのは、前述したとおりである。
【0035】
一方、制御装置14においては、以上の情報(初期高さA、標高B、高低差C)に基づいて深度補正値Dを算出する。例えば、プリズム15の初期高さAが1.5m、トータルステーション11の標高Bが4.0m、トータルステーション11に対するプリズム15の高低差Cがー1.0mであったとした場合、
深度補正値D=-A(初期高さ)+B(標高)+C(高低差)= -1.5+4.0-1.0=1.5m
となる。
【0036】
そして、この深度補正値Dに基づいて掘削軸13Aの計測深度Eを補正する。具体的には、例えば、計測深度Eがー5.0mであったとした場合、
深度情報F=D(深度補正値)+E(計測深度)=1.5-5.0=-3.5m
となる。
【0037】
以後、プリズム15の高低差Cをリアルタイム、あるいは適宜の段階において計測し、この計測値を制御装置14に送信し、深度補正値Dの算出、計測深度の補正(深度情報Fの算出)を行う。
【0038】
そこで、以後の工程を簡単に説明すると、例えば、まず、掘削軸13Aを下方へ移動し、水底に到達したら、適宜、掘削軸13Aを回転し、あるいは固化材を吐出する等して地盤Gを改良する。ここで、このような掘削軸13Aの制御は掘削軸13Aの深度情報に基づいて行うことになるが、上記したように、水面Wの変化や台船12の沈み込み等によって深度情報が影響を受けてしまう。そこで、本形態においては、例えば、掘削軸13Aが水底(地盤G)に到達したと考えられる段階、地盤Gの改良下端に到達したと考えられる段階、等の適宜の段階において、好ましくはリアルタイムにトータルステーション11によってプリズム15の高低差Cを計測し、制御装置14に送信する。
【0039】
制御装置14においては、トータルステーション11からの高低差Cを使用して掘削軸13Aの計測深度Eを補正する。この補正により算出した深度が、深度情報Fとなる。この深度情報Fは極めて正確なものであり、したがって、正確な情報に基づいて地盤Gの改良を行うことができるようになる。
【0040】
なお、以上においては、プリズム15の高低差Cを利用して補正を行う形態を示したが、高低差Cの変化(変位)を利用して補正を行っても同様である。また、プリズム15を利用しない場合においては、台船12の高さを計測し、同様の作業を行うことができる。したがって、プリズム15はトータルステーション11のターゲットであり、計測精度の向上に寄与する部材ということができる。
【0041】
(その他)
本形態の地盤改良システムや地盤改良方法において、地盤改良の方法自体については特に限定がない。例えば、掘削軸13Aを地盤Gに挿入する際に固化材の吐出等を行う形態であっても、掘削軸13Aを地盤Gから引き抜く際に固化材の吐出等を行う形態であっても、挿入及び引抜きのいずれにおいても固化材の吐出等を行う形態であっても、適用可能である。また、掘削軸13Aから固化材の吐出の他、水の吐出や空気の噴出等も行うことができる。
【0042】
さらに、深度情報Fに基づく制御情報としては、例えば、掘削軸13Aの回転速度や昇降速度、固化材吐出のタイミング、吐出量等を例示することができる。これらの情報は、例えば、掘削軸13Aに取り付けた回転速度計や、吐出量計等に基づいて取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、水面下の地盤を改良する地盤改良システム及び地盤改良方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
11 トータルステーション
12 台船
13 改良機
13A 掘削軸
14 制御装置
14A アクセスポイント
15 プリズム
16 中継器
16A アクセスポイント
90 護岸
A 初期高さ
B 標高
C 高低差
D 深度補正値
E 計測深度
F 深度情報
G 地盤
L 基準面
X 地盤改良システム
X1 地盤改良手段
W 水面