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特開2023-40800可変焦点レンズ制御装置、眼用レンズ装置、眼鏡、制御方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040800
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】可変焦点レンズ制御装置、眼用レンズ装置、眼鏡、制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20230315BHJP
   G02C 11/00 20060101ALI20230315BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20230315BHJP
   G02F 1/17 20190101ALI20230315BHJP
【FI】
G02B3/14
G02C11/00
G02C7/06
G02F1/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147965
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】521079488
【氏名又は名称】ViXion株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】川合 忠章
(72)【発明者】
【氏名】内海 俊晴
【テーマコード(参考)】
2H006
2K101
【Fターム(参考)】
2H006BD03
2H006CA00
2K101AA11
2K101CA06
2K101CB01
2K101CC01
2K101CC13
2K101EB81
2K101EC12
2K101EC73
2K101EC92
2K101EE01
2K101EJ21
2K101EK13
(57)【要約】
【課題】様々な眼の異常(屈折異常など)をもつ種々のユーザーに対し、眼の異常の発症又は進行を遅延させるなどの効果を得る。
【解決手段】眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置10であって、前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する焦点距離制御を実行する制御部と、前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更部とを有し、前記制御部は、前記設定変更部により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置であって、
前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する焦点距離制御を実行する制御部と、
前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更部とを有し、
前記制御部は、前記設定変更部により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の可変焦点レンズ制御装置において、
前記焦点距離が前記第一焦点距離からの変化を開始してから前記第二焦点距離になって該第二焦点距離からの変化を開始するまでの時間は、前記焦点距離制御による前記焦点距離の変化が人間の認識困難なほど速くなるように、設定されることを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の可変焦点レンズ制御装置において、
前記時間は、1/3000秒以上3/100秒以下であることを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ制御装置において、
前記第一焦点距離は、マイナス屈折度に対応する焦点距離であり、
前記第二焦点距離は、プラス屈折度に対応する焦点距離であることを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ制御装置において、
前記制御部は、前記焦点距離が前記第一焦点距離から前記第二焦点距離へ一段階で変化するように、前記焦点距離制御を実行することを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ制御装置において、
前記制御部は、前記第一焦点距離から前記第二焦点距離まで前記焦点距離が複数段階で変化するように、前記焦点距離制御を実行することを特徴とする可変焦点レンズ制御装置。
【請求項7】
眼用の可変焦点レンズと、
前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置とを備えた眼用レンズ装置であって、
前記可変焦点レンズ制御装置として、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ制御装置を用いることを特徴とする眼用レンズ装置。
【請求項8】
請求項7に記載の眼用レンズ装置を備え、
前記可変焦点レンズが眼鏡フレームに保持されていることを特徴とする眼鏡。
【請求項9】
請求項8に記載の眼鏡において、
前記眼鏡フレームがユーザーに装着されたことを検知する装着検知部を有し、
前記制御部は、前記装着検知部が装着されたことを検知したら、前記焦点距離制御を開始することを特徴とする眼鏡。
【請求項10】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する制御方法であって、
前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する制御工程と、
前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更工程とを有し、
前記制御工程では、前記設定変更工程により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とする制御方法。
【請求項11】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する焦点距離制御を実行する制御手段と、
前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更手段として、前記コンピュータを機能させるものであり、
前記制御手段は、前記設定変更手段により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズ制御装置、眼用レンズ装置、眼鏡、制御方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、ゲーム機、タブレット、スマートフォンなどの表示機器をユーザーが一定の近距離で長時間にわたって視認し続けることで、近視になったり近視が悪化したりすることが問題視されている。これは、一定の近距離で眼のピントを合わせた状態が続くと、その近距離で見やすいように眼が順応するために眼軸長が伸び、近視が進むと考えられている。
【0003】
特許文献1には、近視の発症又は進行を遅延させる目的で、可変焦点レンズの焦点距離を、ユーザーが感知できないほど急速に振動させる制御を行う装置が開示されている。この装置では、当該可変焦点レンズを着用した近視のユーザーに対し、ピントの合う状態の焦点距離とプラスパワー(+3D)に対応する焦点距離(ピントの合わない状態の焦点距離)との切り替えを、ユーザーが感知できないほど高い周波数で行う。特許文献1によれば、感知できない瞬間的な一時的焦点ぼけを繰り返しユーザーに観察させることで、近視の発症又は進行の遅延等の効果が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-173825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、眼の異常度合いが異なる複数のユーザーに対し、眼の異常の発症又は進行を遅延させるなどの効果を適切に得られないことがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置であって、前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する焦点距離制御を実行する制御部と、前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更部とを有し、前記制御部は、前記設定変更部により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とするものである。
本制御装置においては、ユーザーが可変焦点レンズを介して視認対象物を視認しているときに、可変焦点レンズの焦点距離が第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように、自動的に変化する。第一焦点距離が、第二焦点距離に対応する屈折度よりもユーザーの処方屈折度に近い屈折度又はユーザーの処方屈折度に一致する屈折度に対応する焦点距離が設定される場合、ユーザーは、可変焦点レンズの焦点距離が第一焦点距離であるときには、正視において視認対象物に眼のピントがほぼ合う状態又はピントが合う状態となる。一方、可変焦点レンズの焦点距離が第二焦点距離であるときには、ユーザーは、正視において視認対象物に眼のピントが合わない状態となる。
このとき、可変焦点レンズの焦点距離が第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように自動的に変化すると、ユーザーは、正視でピントがほぼ合っている状態又はピントが合っている状態から、ピントが合わない状態(ピントがぼける状態)に変化する。これにより、ユーザーは、ぼけた視認対象物に眼のピントを合わせるために、意識的に又は無意識に、眼の毛様体筋の弛緩や収縮が無い又は少ない状態から、毛様体筋を弛緩、収縮させるという動きを行う。このようにユーザーの眼の毛様体筋を強制的に弛緩させたり収縮させたりすることで、近い距離に眼が順応するための眼軸長の伸びを抑制して近視の発症又は進行を抑制する効果(近視抑制効果)が期待でき、その逆に、遠視の発症又は進行を抑制する効果(遠視抑制効果)も期待できる。そのほか、屈折異常などの他の眼の異常の発症又は進行を抑制する効果(以下、近視抑制効果、遠視抑制効果などと併せて、「近視抑制効果等」という。)も得られる可能性がある。
ここで、本制御装置においては、設定変更部により第一焦点距離の設定変更が可能であり、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離が変更される。したがって、例えば、設定変更部によりユーザーの処方屈折度に対応した第一焦点距離への設定変更がなされた場合、当該ユーザーの処方屈折度に応じて第二焦点距離も変更される。
これによれば、例えば、眼の異常度合いに応じて異なってくる処方屈折度の違うユーザーに対し、焦点距離制御で変化させる焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)をそれぞれの処方屈折度に適した範囲とすることが可能になる。この場合、ユーザーの処方屈折度が違っても、各ユーザーに対して近視抑制効果等を適切に得ることが可能となる。
【0007】
前記可変焦点レンズ制御装置において、前記焦点距離が前記第一焦点距離からの変化を開始してから前記第二焦点距離になって該第二焦点距離からの変化を開始するまでの時間は、前記焦点距離制御による前記焦点距離の変化が人間の認識困難なほど速くなるように、設定されてもよい。
本制御装置においては、可変焦点レンズの焦点距離を、人間の認識が困難なほど短時間のうちに、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化させることにより、ユーザーが意識することなく、眼の毛様体筋を弛緩、収縮させることが可能となる。このように眼の毛様体筋を弛緩、収縮させることをユーザーに意識させないようにすることで、焦点距離制御を繰り返し継続しても、ユーザーは違和感を覚えにくく、あるいは、疲れにくい。その結果、長時間にわたってユーザーの眼の毛様体筋を継続的に弛緩、収縮させることが可能となり、より高い近視抑制効果等が得られることが期待される。
【0008】
また、前記可変焦点レンズ制御装置において、前記時間は、1/3000秒以上3/100秒以下であってもよい。
本制御装置においては、ユーザーが第一焦点距離に設定されている可変焦点レンズを通じて視認対象物を視認している状態から、ユーザーが第二焦点距離に変更された可変焦点レンズを通じて視認対象物を視認し終えるまでの時間が、1/3000秒以上3/100秒以下となる。この時間が3/100秒以下であれば、ユーザーは、自身が認識困難なほど又は認識できないほどの短い時間だけ、第二焦点距離に変更された可変焦点レンズを通じて視認対象物を視認することができる。一方、この時間が1/3000秒未満であると、時間が短すぎて、眼の毛様体筋を弛緩させ又は収縮させることができないおそれがある。したがって、前記時間を1/3000秒以上3/100秒以下の範囲内で設定することで、ユーザーの無意識下で、眼の毛様体筋を弛緩させ又は収縮させることが可能となる。
【0009】
また、前記可変焦点レンズ制御装置において、前記第一焦点距離は、マイナス屈折度に対応する焦点距離であってもよく、前記第二焦点距離は、プラス屈折度に対応する焦点距離であってもよい。

近視抑制効果等のために上述した焦点距離制御を実行する場合、上述したように、第一焦点距離はユーザーの屈折度に対応する焦点距離に設定される。本制御装置によれば、マイナス屈折度に対応する第一焦点距離からプラス屈折度に対応する第二焦点距離へ変化するように焦点距離制御が実行されるため、処方屈折度がマイナス屈折度である近視のユーザーにおいて、眼の毛様体筋の弛緩や収縮が無い又は少ない状態から毛様体筋を弛緩させるという動きを実現することができる。したがって、本制御装置によれば、高い近視抑制効果を得ることが可能である。
【0010】
また、前記可変焦点レンズ制御装置において、前記制御部は、前記焦点距離が前記第一焦点距離から前記第二焦点距離へ一段階で変化するように、前記焦点距離制御を実行してもよい。
本制御装置のように、可変焦点レンズの焦点距離を第一焦点距離から第二焦点距離へ一段階で変化させる制御であれば、短い時間で第一焦点距離から第二焦点距離まで変化させる焦点距離制御であっても、その焦点距離制御を実行することができる。
【0011】
また、前記可変焦点レンズ制御装置において、前記制御部は、前記第一焦点距離から前記第二焦点距離まで前記焦点距離が複数段階で変化するように、前記焦点距離制御を実行してもよい。
本制御装置のように、可変焦点レンズの焦点距離を第一焦点距離から第二焦点距離へ複数段階で変化させる制御であれば、一段階で変化させる制御の場合と比べて、ユーザーが焦点距離の変化に気づきにくい。よって、一段階で変化させる制御の場合よりも、第一焦点距離から第二焦点距離まで変化する時間を長く設定することが可能となる。その結果、第一焦点距離から第二焦点距離まで変化する時間を、高い近視抑制効果等が得られる時間に設定しつつも、可変焦点レンズの焦点距離が自動的に変化していることをユーザーに意識させないことが可能となる。これにより、可変焦点レンズを通じてユーザーが長時間継続して視認対象物を視認しても、違和感を覚えにくく、あるいは、疲れにくいため、長時間にわたってユーザーの眼の毛様体筋を継続的に弛緩、収縮させることが可能となり、より高い近視抑制効果等が得られることが期待される。
【0012】
本発明の他の態様は、眼用の可変焦点レンズと、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置とを備えた眼用レンズ装置であって、前記可変焦点レンズ制御装置として、上述した可変焦点レンズ制御装置を用いることを特徴とするものである。
本眼用レンズ装置としては、例えば、眼鏡やコンタクトレンズなどのユーザーに装着されて使用される物品として使用するものが挙げられる。このように本眼用レンズ装置がユーザーに装着される物品として使用されることで、ユーザーが当該物品を装着した日常生活の中で(例えば、テレビを見たり、ゲーム機で遊んだり、パソコンやタブレットを使用したり、本を読んだりする間など)、近視抑制効果等を得ることができる。
また、本眼用レンズ装置としては、例えば、眼科などに設置される据え置き型の装置として使用するものも挙げられ、近視等に対する治療や予防などを行うことができる。このような据え置き型の眼用レンズ装置は、処方屈折度が異なる複数のユーザーに使用されるが、本眼用レンズ装置によれば、設定変更部により第一焦点距離の設定変更が可能であり、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離が変更される。したがって、据え置き型の眼用レンズ装置のように処方屈折度が異なる複数のユーザーに使用されるような眼用レンズ装置においても、高い近視抑制効果等を得ることが可能である。
なお、可変焦点レンズと可変焦点レンズ制御装置とは、互いに有線又は無線によって電気的接続されていれば、別体に構成されていてもよい。
【0013】
本発明の更に他の態様は、眼鏡であって、前記眼用レンズ装置を備え、前記可変焦点レンズが眼鏡フレームに保持されていることを特徴とするものである。
眼用レンズ装置の使用態様が眼鏡であれば、上述したように、ユーザーが当該眼鏡を装着した日常生活の中で、近視抑制効果等を得ることができる。また、眼鏡であれば、可変焦点レンズ制御装置の構成を、可変焦点レンズが保持された眼鏡フレームに配置することが可能となり、可変焦点レンズと可変焦点レンズ制御装置との間の接続構成が簡易となるため、低コスト化が可能である。
【0014】
前記眼鏡において、前記眼鏡フレームがユーザーに装着されたことを検知する装着検知部を有してもよく、前記制御部は、前記装着検知部が装着されたことを検知したら、前記焦点距離制御を開始してもよい。
本眼鏡によれば、ユーザーが眼鏡を装着したら、特にユーザー操作を必要とすることなく、前記焦点距離制御が開始される。これにより、ユーザーが意識することなく、当該焦点距離制御による焦点距離の変化が開始されるので、焦点距離の変化がユーザーに意識されにくくなる。
【0015】
また、本発明の更に他の態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する制御方法であって、
前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する制御工程と、前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更工程とを有し、前記制御工程では、前記設定変更工程により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とするものである。
本制御方法によれば、上述した制御装置の場合と同様、設定変更工程で第一焦点距離の設定変更が可能であり、制御工程では、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離が変更される。したがって、例えば、設定変更工程でユーザーの処方屈折度に対応した第一焦点距離への設定変更がなされた場合、当該ユーザーの処方屈折度に応じて第二焦点距離も変更される。これによれば、例えば、ユーザーの処方屈折度が違っても(第一焦点距離が設定変更されても)、焦点距離制御で変化させる焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)を一定にするという制御が可能になる。また、例えば、ユーザーの処方屈折度の違いによって、焦点距離制御で変化する焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)が変わるように制御することも可能になる。
【0016】
また、本発明の更に他の態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記焦点距離が、第一焦点距離と第二焦点距離との間で変化するように前記可変焦点レンズを制御する焦点距離制御を実行する制御手段と、前記第一焦点距離の設定変更を行う設定変更手段として、前記コンピュータを機能させるものであり、前記制御手段は、前記設定変更手段により設定変更された第一焦点距離に応じて前記第二焦点距離を変更することを特徴とする。
本プログラムによれば、上述した制御装置の場合と同様、設定変更手段で第一焦点距離の設定変更が可能であり、制御手段において、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離が変更される。したがって、例えば、設定変更手段でユーザーの処方屈折度に対応した第一焦点距離への設定変更がなされた場合、当該ユーザーの処方屈折度に応じて第二焦点距離も変更される。これによれば、例えば、ユーザーの処方屈折度が違っても(第一焦点距離が設定変更されても)、焦点距離制御で変化させる焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)を一定にするという制御が可能になる。また、例えば、ユーザーの処方屈折度の違いによって、焦点距離制御で変化する焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)が変わるように制御することも可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、眼の異常度合いが異なる複数のユーザーに対し、眼の異常の発症又は進行を遅延させるなどの効果(近視抑制効果等)を適切に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る眼鏡の構成を模式的に示す正面図。
図2】同眼鏡の構成を模式的に示す平面図。
図3】同眼鏡における可変焦点レンズの一例を示す概略構成図。
図4】同眼鏡における制御装置の構成を示すブロック図。
図5】実施形態における焦点距離制御の流れを示すフローチャート。
図6】同焦点距離制御の焦点距離の変化タイミングの一例を示す説明図。
図7】(a)は、第一焦点距離から第二焦点距離まで線形変化する変化プロファイルの例を示す説明図。(b)は、第一焦点距離から第二焦点距離まで時間経過とともに焦点距離の変化率が大きくなる変化プロファイルの例を示す説明図。
図8】実施形態に係る眼鏡の他の構成を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、可変焦点レンズ制御装置を備えた眼用レンズ装置としての眼鏡に適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明を適用可能な眼用レンズ装置は、眼鏡に限らず、コンタクトレンズなどのようにユーザーに装着されて使用される他の物品であってもよい。また、ユーザーに装着されて使用される物品に限らず、本発明は、眼科などに設置される据え置き型の眼用レンズ装置などにも適用可能である。
【0020】
図1は、本実施形態に係る眼鏡1の構成を模式的に示す正面図であり、図2は、本実施形態に係る眼鏡1の構成を模式的に示す平面図である。
本実施形態における眼鏡1は、眼鏡フレーム2と、左右一対の可変焦点レンズ3,3と、可変焦点レンズ3,3の焦点距離を制御する可変焦点レンズ制御装置としての制御装置10と、を備えている。
【0021】
眼鏡フレーム2は、ブリッジ部4と、左右一対のレンズ保持部6,6と、鼻当部7と、左右一対のヨロイ部8,8と、左右一対のテンプル部9,9と、を備えている。
【0022】
ブリッジ部4は、装用時に装用者の視界から上方へ外れる位置に配置され、可変焦点レンズ3,3を保持する左右のレンズ保持部6,6を支持する部材である。ブリッジ部4は、左右のヨロイ部8,8間にわたって左右方向に延在し、ブリッジ部4の左右方向両端部にヨロイ部8,8が取り付けられる。ブリッジ部4は、レンズ保持部6が左右方向に移動可能にレンズ保持部6を連結して、レンズ保持部6に保持される左右一対の可変焦点レンズ3,3の左右方向のレンズ間距離Dを調整できるレンズ間距離調節部を備えるのが好ましい。なお、レンズ間距離Dは、例えば、可変焦点レンズ3,3上の基準位置(例えば可変焦点レンズ3,3の中心位置)間の距離によって規定することができる。ここで、可変焦点レンズ3,3の基準位置は、例えば可変焦点レンズ3,3の光学中心位置と等しく、レンズ間距離Dは各可変焦点レンズ3,3の光学中心がなす距離と等しくなる。
【0023】
レンズ保持部6,6は、可変焦点レンズ3,3を保持する部材であり、その形状は、細長い形状(線状)である。具体的には、本実施形態のレンズ保持部6,6は、塑性変形可能なワイヤー部材によって形成されている。本実施形態におけるレンズ保持部6は、眼鏡フレーム2におけるブリッジ部4から延び、その先端が可変焦点レンズ3の外縁部分の被連結位置3aに連結することで、可変焦点レンズ3を保持する。レンズ保持部6は、ブリッジ部4に対してスライド部4aを介して支持されており、スライド部4aによってレンズ間距離調節部が構成される。具体的には、スライド部4aは、ブリッジ部4に対してレンズ保持部6を左右方向にスライド可能に保持する部材である。本実施形態におけるスライド部4aは、中空状部材であり、その中空部にブリッジ部4が挿入されて、ブリッジ部4の長手方向に沿って摺動可能なようにブリッジ部4に取り付けられる。
【0024】
レンズ間距離調節部を備えることで、ユーザーの瞳孔間距離PDに合わせて、可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dを調整することができる。例えば、ユーザーが近くの視認対象物を視認する場合(近方視する場合)には、可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dを短く調整し、ユーザーが遠くの視認対象物を視認する場合(遠方視する場合)には、可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dを長く調整する。本実施形態のように可変焦点レンズ3,3が通常の眼用レンズと比べて小型である場合、ユーザーの瞳孔間距離PDに合わせて可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dを調整できるようにすることは、ユーザーにとって利便性の高い眼鏡を提供するうえで好適である。
【0025】
なお、本実施形態において、レンズ保持部6,6が連結される可変焦点レンズ3,3の被連結位置3aは、それぞれ、図1に示すように、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る鉛直仮想線よりも外側(鼻から遠い側、すなわち、耳側)に位置し、かつ、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る水平仮想線よりも上側に位置している。この位置にレンズ保持部6,6が連結されるように構成することで、装用者の視界にレンズ保持部6,6が入っていても、レンズ保持部6,6を邪魔に感じさせにくい。
【0026】
ただし、レンズ保持部6,6が連結される可変焦点レンズ3,3の被連結位置3aは、本実施形態の位置に限らず、例えば、図8に示すように、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る鉛直仮想線よりも内側(鼻側)に配置してもよい。
【0027】
鼻当部7は、ブリッジ部4に保持され、ユーザーが眼鏡1を装着した際にユーザーの鼻に当接して眼鏡1の位置を位置決めする部材である。
【0028】
ヨロイ部8,8は、ブリッジ部4とテンプル部9,9とを連結する部材である。本実施形態におけるヨロイ部8,8は、ブリッジ部4の端部に取り付けられる取付部8aと、テンプル部9を回動可能に支持するヒンジ部8bとを備えている。
【0029】
テンプル部9,9は、ユーザーが眼鏡1を装着した際にユーザーの耳に掛けられる部材である。本実施形態における左右のテンプル部9,9は、ヨロイ部8,8が備えるヒンジ部8bにより眼鏡1の左右方向中央側に向かってそれぞれ折りたたむことができるように構成されている。
【0030】
本実施形態における可変焦点レンズ3,3は、電気的に制御可能な可変焦点機能を有する可変焦点レンズであれば、焦点可変方式に限定されない。例えば、液晶層の屈折率を電気的に制御して焦点距離を変更可能な液晶方式のものや、液体界面を屈折面とし、液体の濡れ性を電気的に制御して当該界面の曲率を変更することで焦点距離を変更可能な静電液体方式などが挙げられる。特に、焦点距離の変化範囲が広く、焦点距離の変化速度が高速である静電液体方式が好ましい。
【0031】
可変焦点レンズ3,3は、静電液体方式のもので、公知の可変焦点レンズ(焦点可変レンズ、エレクトロウェッティングデバイス、液体レンズなどとも言う。)を用いることができる。本実施形態の可変焦点レンズ3,3は、例えばレンズ部分の直径が5mm~12mm程度の可変焦点レンズを採用している。なお、より大型の可変焦点レンズを用いることで、可変焦点レンズがカバーできるユーザーの視線方向範囲が広がり、ユーザーの利便性を高めることができる。
【0032】
図3は、本実施形態における可変焦点レンズ3の一例を示す概略構成図である。
図3に示す可変焦点レンズ3は、界面Iで非混合状態で接触している絶縁液311と導電液312とが、環状の第一電極301と、第一電極301の上端と下端を閉じる2つの透明な窓部材303,304とによって封入された構成を有する。絶縁液311は例えば油性液体であり、導電液312は例えば比較的導電率の低い水性液体である。第一電極301には電圧V0が印加されるが、本実施形態では環状の第一電極301を接地しているため、V0=0Vである。また、第一電極301は、封入されている絶縁液311及び導電液312に対し、絶縁層301aによって絶縁されている。
【0033】
また、図3に示す可変焦点レンズ3は、第一電極301の軸Oに対する対称位置に複数対の第二電極302A,302B,・・・が配置されている。本実施形態では、4対の第二電極302A~302Hが軸Oを中心とした円周上に配置されており、合計8つの第二電極302A~302Hを備えている。図3では、これらの第二電極302A~302Hのうちの1対の第二電極302A,302Bのみが図示されている。
【0034】
第二電極302A~302Hは導電液312に接触する位置に配置されている。各第二電極302A~302Hに電圧VA~VHを印加すると、各第二電極302A~302Hと第一電極301との間に電位差が生じ、エレクトロウェッティング効果によって絶縁液311の端部Ia(界面Iの端部Ia)を第一電極301上の絶縁層部分301bに沿って変位させることができる。このように絶縁液311の端部Iaが変位することにより、絶縁液311の形状が変化して界面Iの曲率が変更される。したがって、第二電極302A~302Hに印加する電圧VA~VHを制御することにより、界面Iを屈折面とする可変焦点レンズ3の焦点距離を変化させることができる。
【0035】
特に、図3に示す可変焦点レンズ3は、第二電極302A~302Hに印加する電圧VA~VHを制御することにより、屈折面である界面Iを、拡散レンズ(凸レンズ)、平面レンズ、集光レンズ(凹レンズ)に変形させることができる。したがって、本実施形態の眼鏡1は、可変焦点レンズ3を拡散レンズ(凸レンズ)とすることで近視ユーザー用の眼鏡として使用でき、また、可変焦点レンズ3を集光レンズ(凹レンズ)とすることで遠視ユーザー用の眼鏡として使用できる。
【0036】
本実施形態の可変焦点レンズ3は、ジオプター換算(焦点距離の逆数)で-15D以上+15D以下の範囲で、焦点距離を変化させることができる。このように焦点距離の変化範囲が広い可変焦点レンズ3を用いることで、例えば、弱視のような低視力のユーザーに対応することも可能である。
【0037】
なお、第一電極301の軸Oの対称位置に配置されるすべての第二電極302A~302Hに同じ電圧を印加することで、可変焦点レンズ3の光軸(本実施形態では第一電極301の軸Oと一致する。)をずらすことなく、焦点距離を変化させることができる。一方で、各第二電極302A~302Hに対して異なる電圧を印加すれば、焦点距離を変化させるだけでなく、可変焦点レンズ3の光軸をずらしたり傾けたりすることも可能である。
【0038】
制御装置10は、図1に示すように、バッテリー20とともに、左右のヨロイ部8,8のうちの一方(図中左側のヨロイ部8)に設けられている。制御装置10は、バッテリー20から可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を制御することにより、可変焦点レンズ3の焦点距離を制御する。
【0039】
図4は、本実施形態における制御装置10の構成を示すブロック図である。
本実施形態における制御装置10は、主制御部11と、電圧変更部12と、操作部13と、を備えている。制御装置10は、可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hと、電圧を供給する電源としてのバッテリー20と、眼鏡1の眼鏡フレーム2がユーザーに装着されたことを検知する装着検知部としての装着センサ21とが接続されている。
【0040】
主制御部11は、例えば、CPU、RAM、ROMなどが実装された制御基板(コンピュータ)によって構成され、ROMに記憶されている所定の制御プログラムを実行することにより、眼用レンズ装置である眼鏡1の全体的な制御を行う。特に、本実施形態では、主制御部11は、可変焦点レンズ3の焦点距離を制御する焦点距離制御を実行する制御部(制御手段)として機能する。
【0041】
電圧変更部12は、主制御部11の制御の下、バッテリー20から可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を変更する。電圧変更部12は、各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を、第二電極302A~302Hごとに個別に変更することができる。ただし、電圧変更部12は、すべての第二電極302A~302Hについて一体で変更するものであったり、第二電極302A~302Hの一部だけ(例えば1対の第二電極だけ)を部分的に変更可能なものであったりしてもよい。
【0042】
操作部13は、ユーザーによって操作されることで、ユーザーの操作内容を示す操作信号を主制御部11に出力する。操作部13が受け付けるユーザー操作としては、例えば、電源のオンオフ操作、主制御部11の実行指示、主制御部11の制御内容の変更などが挙げられる。操作部13は、受け付けるユーザー操作の内容に適した種類の操作器(機械式や静電タッチ式などのボタン、ダイヤルなどの回転型操作部など)によって構成される。なお、これらのユーザー操作を不要とする構成とすることも可能であり、その場合には操作部13を省略することが可能である。
【0043】
バッテリー20は、制御装置10の電源として機能し、可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに供給する電圧を出力する。バッテリー20は、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよい。また、太陽光パネルなどの発電機能を備えたものであってもよい。
【0044】
装着センサ21は、眼鏡1の眼鏡フレーム2がユーザーに装着されたことを検知できるセンサであれば、赤外線センサなどの非接触式センサであってもよいし、電圧検知型などの接触式センサであってもよい。本実施形態の装着センサ21には、例えば、ユーザーが眼鏡1を装着したときにユーザーの皮膚に接触する眼鏡フレーム2の箇所に電極を備え、この電極を流れる電流変化で検知することで、眼鏡フレーム2がユーザーに装着されたことを検知する接触式のセンサが用いられる。
【0045】
次に、本実施形態における可変焦点レンズ3の焦点距離制御について説明する。
なお、本実施形態では、眼鏡1を装着したユーザーが日常生活において何らかの視認対象物(テレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機、書籍など)を視認しているときに(特に、視認対象物までの距離が比較的近くで一定であるときに)、ユーザーの眼の毛様体筋を強制的に弛緩させることで、近距離に眼が順応するための眼軸長の伸びを抑制して近視の発症又は進行を抑制する近視抑制効果を得る場合について説明する。
【0046】
ただし、ユーザーの眼の毛様体筋を強制的に収縮させることで、遠視の発症又は進行を抑制する遠視抑制効果が得られる可能性もある。そのほか、ユーザーの眼の毛様体筋を強制的に弛緩させたり収縮させたりすることは、屈折異常などの他の眼の異常の発症又は進行を抑制する効果も得られる可能性がある。
【0047】
図5は、本実施形態における焦点距離制御の流れを示すフローチャートである。
本実施形態における焦点距離制御は、所定の制御プログラムを実行する主制御部11が電圧変更部12を制御することにより、可変焦点レンズ3の焦点距離が第一焦点距離と第二焦点距離との間で自動的に変化する制御である。なお、第二焦点距離は、第一焦点距離に対応する屈折度よりもユーザーの処方屈折度から離れた屈折度に対応する焦点距離である。
【0048】
本実施形態では、焦点距離制御を開始するにあたり、まず、可変焦点レンズ3の第一焦点距離の設定が完了していない場合には、第一焦点距離の設定を行う(S1)。本実施形態における第一焦点距離は、焦点距離制御を実行していないときの可変焦点レンズ3の焦点距離(基本焦点距離)であり、通常は、ユーザーの処方屈折度に対応する焦点距離に設定される。ここでは、近視であるユーザーを想定しているため、マイナス屈折度に対応する焦点距離が設定される。
【0049】
この設定作業は、専門の作業者あるいはユーザー自身が操作部13を操作することにより行うことができる。例えば、操作部13に屈折度が表記されたダイヤルが設けられている場合、ユーザーの処方屈折度に一致するようにダイヤルを回すことで、第一焦点距離(基本焦点距離)の設定を行うことができる。この場合、ダイヤルの回転位置に応じた電気信号(操作信号)が主制御部11に送られ、主制御部11は、この信号に対応する電圧が可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに印加されるように、電圧変更部12を制御する。
【0050】
可変焦点レンズ3の第一焦点距離の設定が完了している場合、ユーザーが眼鏡1を装着すると、これが装着センサ21によって検知され(S2のYes)、検知信号が装着センサ21から主制御部11に送られる。主制御部11は、この検知信号を受信することで、焦点距離制御用のプログラムを実行して焦点距離制御を開始する。
【0051】
本実施形態では、装着センサ21からの検知信号を受信することを条件に焦点距離制御を開始するが、焦点距離制御の開始条件はこれに限られない。例えば、操作部13に対してユーザーが焦点距離制御の開始指示操作を行うことを焦点距離制御の開始条件としてもよく、この場合、装着センサ21は必ずしも必要ではない。ただし、操作部13に対するユーザー操作に起因して焦点距離制御を開始する構成とした場合、焦点距離制御(焦点距離を自動的に変化させる制御)が行われることをユーザーに意識させることになるため、焦点距離が自動的に(勝手に)変化することに敏感となって、焦点距離の自動変化に違和感を覚えやすく、あるいは、疲れやすくなるおそれがある。これに対し、本実施形態のように、装着センサ21を設けてユーザーが眼鏡1を装着するだけで焦点距離制御が開始されるように構成すれば、焦点距離制御(焦点距離を自動的に変化させる制御)が行われることをユーザーが意識しにくくなり、焦点距離の自動変化に対する違和感や疲れやすさを軽減することが可能である。
【0052】
焦点距離制御が開始されると、主制御部11は、まず、焦点距離変化条件の設定を行う(S3)。この焦点距離変化条件の設定は、焦点距離制御において、第二焦点距離を維持する時間(規定時間)、変化させる焦点距離の制御範囲(第一焦点距離と第二焦点距離との差)、第一焦点距離から第二焦点距離へ切り替える動作を繰り返す時間(繰り返し時間)、焦点距離の変化プロファイルなどの焦点距離変化条件を設定する。これらの条件の設定値は、主制御部11内のRAM等の記憶部に記憶されており、主制御部11は、記憶部に記憶されている設定値を読み出して焦点距離変化条件を設定する。
【0053】
上述した各種の焦点距離変化条件の設定値は、固定値であっても、変動値であってもよく、変動値である場合には、例えば、ユーザー操作に応じて変更可能な値であってもよいし、所定の算出プログラムによって算出される値であってもよい。
【0054】
本実施形態における焦点距離制御の第一焦点距離は変動値であり、主制御部11は、第一焦点距離を設定変更する設定変更部(設定変更手段)として機能し、ユーザー操作に応じて変動値が変更される場合には、操作部13とともに設定変更部(設定変更手段)として機能する。本実施形態においては、焦点距離制御の開始焦点距離は、処理ステップS1で設定される第一焦点距離(すなわち基本屈折度=処方屈折度に対応する焦点距離)としている。この場合、主制御部11及び操作部13によって、第一焦点距離を設定変更する設定変更部が構成される。
【0055】
なお、第一焦点距離は、ユーザーの処方屈折度に対応する焦点距離からずれた焦点距離に設定してもよい。ただし、第一焦点距離をユーザーの処方屈折度に対応する焦点距離とすることで、焦点距離制御の開始時にはユーザーはピントが合っている状態であるため、焦点距離制御が開始されたことにユーザーが気づきにくく、当該焦点距離制御による焦点距離の変化に違和感を覚えにくくなり、疲れにくくなる。
【0056】
また、本実施形態における焦点距離制御の第二焦点距離も変動値であり、主制御部11は、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離を変更する。具体的には、例えば、焦点距離の制御範囲(変化幅)が固定値であれば、第一焦点距離に当該固定値(焦点距離の制御範囲)を加算した値を第二焦点距離として設定される。また、第一焦点距離と第二焦点距離との対応関係を記述したテーブルデータなどが記憶部に記憶されている場合には、そのテーブルデータに従って、処理ステップS1で設定される第一焦点距離から第二焦点距離が設定される。
【0057】
本実施形態における焦点距離制御によって制御される可変焦点レンズ3の焦点距離の制御範囲(変化幅)の最適値(すなわち第一焦点距離と第二焦点距離との差の最適値)は、ユーザーの眼の異常の度合い(ユーザーの処方屈折度等)によって違ってくる。したがって、近視抑制効果が高くなることが期待される第一焦点距離と第二焦点距離との差の最適値は、ユーザーの処方屈折度に対応する焦点距離に設定される第一焦点距離によって違ってくる。これは、高い近視抑制効果が得られる眼の毛様体筋の弛緩や収縮の最適な動きは、ユーザーの処方屈折度に応じて(ユーザーの眼の異常度合いに応じて)異なることが考えられるためである。
【0058】
例えば、第一焦点距離に対応する屈折度が大きいほど焦点距離の変化幅が大きくなるように第二焦点距離を設定することで高い近視抑制効果が期待される場合、主制御部11は、これに従って、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離を変更する。また、その逆で、第一焦点距離に対応する屈折度が大きいほど焦点距離の変化幅が小さくなるように第二焦点距離を設定することで高い近視抑制効果が期待される場合、主制御部11は、これに従って、設定変更された第一焦点距離に応じて第二焦点距離を変更する。
【0059】
図6は、本実施形態における焦点距離制御の焦点距離の変化タイミングの一例を示す説明図である。
本実施形態の焦点距離制御において、ユーザーが第一焦点距離に設定されている可変焦点レンズを通じて視認対象物を視認している状態から、ユーザーが第二焦点距離に変更された可変焦点レンズ3を通じて視認対象物を視認し終えるまでの時間(規定時間)は、ユーザーが認識困難なほど又は認識できないほどの短い時間に設定される。これにより、ユーザーの無意識下で、ユーザーの眼の毛様体筋を弛緩させることが可能となる。
【0060】
したがって、可変焦点レンズ3の焦点距離が第一焦点距離からの変化を開始する時(図6の符号a)から、第二焦点距離になって、第二焦点距離からの変化を開始する時(図6の符号b)までの規定時間Aは、ユーザーが認識困難なほど又は認識できないほどの短い時間に設定される。具体的には、3/100秒以下の範囲内に設定するのが好ましい。
【0061】
規定時間Aが3/100秒以下であれば、ユーザーは、自身が認識困難なほど又は認識できないほどの短い時間だけ、第二焦点距離に変更された可変焦点レンズ3を通じて視認対象物を視認することができる。したがって、ユーザーの無意識下で、眼の毛様体筋を弛緩させ又は収縮させることが可能となり、本焦点距離制御を長時間継続しても、ユーザーは、違和感を覚えにくく、あるいは、疲れにくい。その結果、長時間にわたってユーザーの眼の毛様体筋を継続的に弛緩、収縮させることが可能となり、より高い近視抑制効果等が得られることが期待される。
【0062】
ただし、前記規定時間Aが1/3000秒未満であると、時間が短すぎて、眼の毛様体筋を弛緩させ又は収縮させることができないおそれがある。したがって、規定時間Aは1/3000秒以上3/100秒以下の範囲内で設定することが好ましい。
【0063】
また、第一焦点距離から第二焦点距離へ切り替える動作を繰り返す時間Bは、第一焦点距離から第二焦点距離へ切り替える頻度を決めるパラメータであり、より高い近視抑制効果等が得られる範囲で適宜設定される。本実施形態のように、焦点距離制御が一定周期T(=A+B)で繰り返される場合、規定時間Aと繰り返し時間Bは、例えば、周期Tとデューティ比とのパラメータとで規定することができる。
【0064】
また、焦点距離の変化プロファイルは、図6に示すように、第一焦点距離から第二焦点距離へ一段階で変化するような変化プロファイルであってもよいが、これに限られない。例えば、図7(a)及び(b)に示すように、第一焦点距離から第二焦点距離まで焦点距離が複数段階で(連続的に)変化するような変化プロファイルであってもよい。なお、図7(a)及び(b)では、第一焦点距離から第二焦点距離までの変化が直線又は曲線で示されているが、主制御部11における実際の制御では、電圧変更部12により可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに印加される電圧VA~VHが所定の制御クロックごとに段階的に制御される。
【0065】
特に、図7(a)に示すように焦点距離が線形変化する変化プロファイルよりも、図7(b)に示すように時間経過とともに焦点距離の変化率が大きくなるような逆放物線状あるいは指数関数的変化を示す変化プロファイルの方が好ましい。その理由は次のとおりである。
【0066】
図7(b)に示す変化プロファイルでは、焦点距離の変化に対して比較的敏感な時期である焦点距離の変わり始めの頃(時点aの直後)は焦点距離の変化が小さいため、焦点距離の変化に対し、ユーザーが気づきにくい。そして、焦点距離の変化が始まってから時間が進み、焦点距離の変化に対して敏感な時期を超えた頃から、焦点距離の変化が大きくなる。このような焦点距離制御であれば、第一焦点距離から第二焦点距離まで変化する時間を、高い近視抑制効果等が得られる比較的長めの時間に設定しても、可変焦点レンズの焦点距離が自動的に変化していることをユーザーが意識しにくくなる。したがって、このような変化プロファイルによれば、ユーザーが気づかないうちに、長時間にわたってユーザーの眼の毛様体筋を高い近視抑制効果が得られるように継続的に弛緩させることが可能となる。
【0067】
主制御部11は、焦点距離変化条件の設定を行った後、設定された焦点距離変化条件に従って、電圧変更部12を制御し、可変焦点レンズ3の焦点距離を自動的に変更する制御を開始する(S4)。これにより、可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hに印加されている電圧(第一焦点距離に対応する電圧)が、電圧変更部12により、所定のタイミング(図6及び図7の時点a)で、規定時間Aだけ第二焦点距離に対応する電圧に変更され、可変焦点レンズ3の焦点距離が一時的に第二焦点距離に変化する制御がなされる(S5,S6)。本実施形態では、近視のユーザーに対する近視抑制効果を得る目的で、近視ユーザーの処方屈折度に対応する第一焦点距離から、第一焦点距離よりも長い第二焦点距離へと切り替える制御を行う。そのため、可変焦点レンズ3の焦点距離は、マイナス屈折度に対応する第一焦点距離からプラス屈折度に対応する第二焦点距離へと切り替えられる。
【0068】
主制御部11は、可変焦点レンズ3の焦点距離を第一焦点距離から変化させた時点aから規定時間Aが経過したら(S5)、電圧変更部12を制御して、可変焦点レンズ3の焦点距離を第一焦点距離(処方屈折度に対応する焦点距離)に戻す(S6)。その後、主制御部11は、第一焦点距離に戻した時点(第二焦点距離からの変化を開始する時点b)から繰り返し時間Bが経過したら(S7のYes)、再び、処理ステップS5からの処理を実行し、設定された焦点距離変化条件に従って可変焦点レンズ3の焦点距離を一時的に第二焦点距離へ切り替える制御を行う(S5~S7)。
【0069】
第二焦点距離に変化した可変焦点レンズ3の焦点距離を第一焦点距離(処方屈折度に対応する焦点距離)に戻す方法としては、特に制限はない。したがって、可変焦点レンズ3の焦点距離を、瞬間的あるいは非連続的に第二焦点距離から第一焦点距離へ変更してもよい。また、可変焦点レンズ3の焦点距離を、所定の戻し時間にわたって第二焦点距離から第一焦点距離まで連続的に変化させてもよい。
【0070】
一方、ユーザーが眼鏡1を取り外すと、これが装着センサ21によって検知され(S8のYes)、その検知信号が装着センサ21から主制御部11に送られる。主制御部11は、この検知信号を受信することで、焦点距離制御を終了する。
【0071】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに眼鏡1等の眼用レンズ装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0072】
ハードウェア実装については、上述した工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0073】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0074】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 :眼鏡
2 :眼鏡フレーム
3 :可変焦点レンズ
4 :ブリッジ部
4a :スライド部
6 :レンズ保持部
7 :鼻当部
8 :ヨロイ部
8a :取付部
8b :ヒンジ部
9 :テンプル部
10 :制御装置
11 :主制御部
12 :電圧変更部
13 :操作部
20 :バッテリー
21 :装着センサ
301 :第一電極
301a,301b:絶縁層
302A~302H:第二電極
303,304:窓部材
311 :絶縁液
312 :導電液
D :レンズ間距離
I :界面
Ia :端部
O :軸
PD :瞳孔間距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8