(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040811
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】スクロール型流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20230315BHJP
【FI】
F04C18/02 311E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147980
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】前村 好信
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ブッシュ
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA12
3H039BB02
3H039CC15
(57)【要約】
【課題】回転バランスに与える影響を低減しつつ、旋回スクロールの自転を阻止する。
【解決手段】環状に形成され、環状がその一部において直線状となる直線部300を有し、旋回スクロール12の底板15の外周縁部に沿って配置されて旋回スクロール12と一体的に旋回を行うガイドリング400と、直線部300に沿って第1の直線方向で往復動を行うスライダー100と、スラストプレート17に配設され、スライダー100が往復動可能に係合されるスライダー溝200と、を備え、スライダー溝200は、第1の直線方向と異なる第2の直線方向に延びる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う固定スクロール及び旋回スクロールを有し、前記旋回スクロールが前記固定スクロールの軸心周りに旋回を行うスクロール型流体機械であって、
環状に形成され、前記環状の一部が直線状に形成されている直線部を有し、前記旋回スクロールの底板の外周縁部に沿って配置されて前記旋回スクロールと一体的に前記旋回を行うガイドリングと、
前記直線部に沿って第1の直線方向で往復動を行うスライダーと、
前記固定スクロールに対して相対運動しない静止部材に配設され、前記スライダーが往復動可能に係合される直線状溝と、
を備え、
前記直線状溝は、前記第1の直線方向と異なる第2の直線方向に延びる、スクロール型流体機械。
【請求項2】
前記第2の直線方向は、前記第1の直線方向に対して垂直である、請求項1に記載のスクロール型流体機械。
【請求項3】
前記ガイドリングは、前記直線部を複数有する、請求項1又は請求項2に記載のスクロール型流体機械。
【請求項4】
前記直線部は、前記ガイドリングの周方向で等間隔に形成されている、請求項3に記載のスクロール型流体機械。
【請求項5】
前記旋回スクロールは、前記底板の渦巻きラップが立設する面から離れた位置で外周面が全周に亘って径方向内方に後退した縮径部を有し、前記ガイドリングは、前記縮径部に近接して配置されて前記旋回スクロールと軸方向視で重畳する、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項6】
前記ガイドリングは、前記直線部の内周面に前記第1の直線方向へ延びるリング側スライダー面を有し、前記旋回スクロールは、前記直線部と対向する前記縮径部に前記リング側スライダー面と同一方向に延びるスクロール側スライダー面を有し、前記スライダーは前記リング側スライダー面と前記スクロール側スライダー面との間で摺動自在に配置される、請求項5に記載のスクロール型流体機械。
【請求項7】
前記スライダーには、前記直線部のうち前記静止部材と反対側の部分を覆うように外方へ延びて、前記旋回スクロールの軸方向視で前記直線部と重畳するフランジ部が設けられる、請求項6に記載のスクロール型流体機械。
【請求項8】
前記スライダーは前記直線状溝に係合する係合突起を有し、前記係合突起には、前記直線状溝の内部で前記ガイドリングの外方へ向けて延びて、前記旋回スクロールの軸方向視で前記直線部と重畳するフック部が設けられる、請求項6又は請求項7に記載のスクロール型流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う固定スクロールと旋回スクロールとの間に形成された密閉空間の容積を変化させることで、密閉空間に導入された流体を圧縮又は膨張させるスクロール型流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型流体機械では、旋回スクロールにその自転を阻止しつつ固定スクロールに対して公転旋回運動を行わせることで、2つのスクロールの間に形成される密閉空間の容積を変化させている。この旋回スクロールの自転阻止機構としては、例えば特許文献1に記載されるように、ケーシングの上面に形成された溝と旋回スクロールの背面に形成された溝とに摺動自在に嵌合するキーを有するオルダムリングを備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、公転旋回運動を行う旋回スクロールとは異なりオルダムリングは往復運動を行うため、旋回スクロールの公転旋回運動に伴って発生するアンバランスを予め修正していても、オルダムリングの往復運動によって回転バランスが崩れてしまうおそれがある。また、このようなオルダムリングを備えたスクロール型流体機械が車両用空調システムの冷媒圧縮機に適用された場合には、車両の快適性に関連するNVH(騒音、振動、ハーシュネス)の低下を招来しかねない。
【0005】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、回転バランスに与える影響を低減しつつ、旋回スクロールの自転を阻止可能なスクロール型流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のスクロール型流体機械は、互いに噛み合う固定スクロール及び旋回スクロールを有し、旋回スクロールが固定スクロールの軸心周りに旋回を行うものであって、環状に形成され、環状がその一部において直線状となる直線部を有し、旋回スクロールの底板の外周縁部に沿って配置されて旋回スクロールと一体的に旋回を行うガイドリングと、直線部に沿って第1の直線方向で往復動を行うスライダーと、固定スクロールに対して相対運動不能な静止部材に配設され、スライダーが往復動可能に係合される直線状溝と、を備え、直線状溝は、第1の直線方向と異なる第2の直線方向に延びる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクロール型流体機械によれば、回転バランスに与える影響を低減しつつ、旋回スクロールの自転を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】スクロール型圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1においてリアハウジング及び固定スクロールを取り外してA方向からみた矢視図である。
【
図4】
図2のうち自転阻止機構の要部を示す透過図である。
【
図5】
図4のC-C拡大断面図であり、(a)は通常断面、(b)は分解断面である。
【
図6】
図4のD-D拡大断面図であり、(a)は通常断面、(b)は分解断面である。
【
図7】
図3に対して、駆動軸が90°回転した状態を示す説明図である。
【
図8】旋回スクロールの自転状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための実施形態について、添付図面を参照して詳述する。
図1は、スクロール型流体機械の適用例であるスクロール型圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【0010】
スクロール型圧縮機1は、圧縮性流体を作動流体とするスクロール型流体機械の一種であり、例えば車両用空調システムの冷媒回路等において、低圧の作動流体(例えば気体冷媒)を吸入して圧縮し、高圧の作動流体を吐出する機能を有する。概略的には、スクロール型圧縮機1は、その構成部品を収容するハウジング2と、作動流体の圧縮部であるスクロールユニット3と、その動力源である電動モータ4と、その駆動回路であるインバータ5と、クランク機構6と、自転阻止機構7と、を備える。
【0011】
ハウジング2は、両端閉塞の筒状に形成され、その内部空間は、一端の閉塞端部から他端の閉塞端部に向けて順に、インバータ室H1、吸入室H2、圧縮室H3、吐出室H4及び分離室H5の5つに区画される。なお、両端閉塞の筒状とは、概ね両端を認識できる程度に延びる中空体であればよく、例えばハウジング2の横断面が吸入室H2の円形からインバータ室H1の四角形に変化する等、横断面が一様でなくてもよい。
【0012】
ハウジング2の内部には、インバータ室H1と吸入室H2とを隔てる隔壁8、吸入室H2と圧縮室H3とを隔てる隔壁9、及び、吐出室H4と分離室H5とを隔てる隔壁10が形成されている。なお、圧縮室H3と吐出室H4とを隔てる隔壁は、後述の固定スクロールの底板によって形成される。また、隔壁9の中央部9Aは吸入室H2に向けて膨出し、中央部9Aの膨出空間内にクランク機構6等を収容する背圧室H6が後述のように形成される。
【0013】
圧縮室H3には、隔壁9を吸入室H2から圧縮室H3へ貫通する吸入通路(図示省略)を介して作動流体が吸入されるとともに、スクロールユニット3が収容される。スクロールユニット3は固定スクロール11及び旋回スクロール12を有する。固定スクロール11は、円板状の底板13とこれから厚さ方向に立設してなる渦巻きラップ14とを有し、渦巻きラップ14は底板13と一体成形されている。旋回スクロール12は、円板状の底板15とこれから厚さ方向に立設してなる渦巻きラップ16とを有し、渦巻きラップ16は底板15と一体成形されている。スクロールユニット3は、固定スクロール11の渦巻きラップ14と旋回スクロール12の渦巻きラップ16とがそれらの立設方向で互いに噛み合って構成される。なお、円板状とは、概観的に円板であると認識できる程度でよく、例えば、外面に凸部、凹部、スリット等が形成されていてもよい。後述の円板、円環、円柱、円筒についても同様である。
【0014】
スクロールユニット3は、固定スクロール11の底板13が圧縮室H3と吐出室H4とを隔てる隔壁としてハウジング2に対し相対運動不能に固定されて、圧縮室H3に収容される。これにより、固定スクロール11と噛み合った旋回スクロール12の底板15は、圧縮室H3において隔壁9に固定された円環状のスラストプレート17と当接する。スラストプレート17は、旋回スクロール12の底板15の厚さ方向の荷重を受けて、旋回スクロール12がスラストプレート17上を摺動自在に移動できるようになっている。固定スクロール11の軸心には底板13を厚さ方向に貫通する吐出通路18が形成され、この吐出通路18により圧縮室H3と吐出室H4とが連通する。ただし、吐出通路18の吐出室H4側の出口には、吐出室H4から圧縮室H3への作動流体の逆流を抑制する逆止弁(例えばリードバルブ)19が設置されている。また、隔壁9の中央部9Aと旋回スクロール12の底板15との間に形成される背圧室H6へ、圧縮室H3から作動流体が漏出しないように、隔壁9及び底板15のうちスラストプレート17と当接する部位には、シール部材(図示省略)が配設される。
【0015】
両渦巻きラップ14,16が互いに噛み合った状態では、渦巻きラップ14の先端が底板15に接触し、渦巻きラップ16の先端が底板13に接触する。両渦巻きラップ14,16の先端には、それぞれが対向する底板との接触圧を向上させて気密性ないし液密性を担保すべく、チップシール(図示省略)が埋め込まれている。
【0016】
また、両渦巻きラップ14,16が互いに噛み合った状態では、両渦巻きラップ14,16の周方向の角度が互いにずれた位置関係となり、これにより両渦巻きラップ14,16の側面は互いに複数箇所で接触して、両渦巻きラップ14,16間に三日月状の密閉空間が形成される。
【0017】
旋回スクロール12は、その自転が後述の自転阻止機構7により阻止された状態で、後述のクランク機構6により固定スクロール11の軸心周りに公転旋回運動(並進移動)を行う。これにより、両渦巻きラップ14,16間に外終端部から順次形成される上記の密閉空間は両渦巻きラップ14,16の内終端部へ移動して、その容積が徐々に減少する。したがって、吸入室H2から図示省略の吸入通路を介して圧縮室H3へ吸入された作動流体は、両渦巻きラップ14,16の外終端部から密閉空間に取り込まれ、この密閉空間内で徐々に圧縮され、最終的に吐出通路18を介して吐出室H4へ吐出される。
【0018】
吸入室H2には、ハウジング2を内外貫通する第1ポートP1を介して外部から作動流体が吸入されて一時的に貯留されるとともに、電動モータ4が収容される。電動モータ4は、例えば、コイルを巻装したティースが円環状のヨークから中心へ向けて延びる円筒状のステータ20と、ステータ20のティースと対向する永久磁石が外周面に配設された円柱状のロータ21と、を備えた3相ブラシレスモータである。電動モータ4のロータ21には、その軸心に駆動軸22が挿通されて相対回転不能に固定される。駆動軸22は吸入室H2から隔壁9の中央部9Aを貫通して背圧室H6まで延び、スラストプレート17の中央開口部を通って、旋回スクロール12に連結される。駆動軸22は、吸入室H2において隔壁8に配設された軸受23に回転可能に支持され、背圧室H6において隔壁9の中央部9Aに配設された軸受24に回転可能に支持される。これにより、ロータ21はステータ20に対して回転可能に支持される。
【0019】
吸入室H2に一時的に貯留された作動流体は、電動モータ4の周囲や隙間を通り、図示省略の吸入通路を介して圧縮室H3へ吸入される。なお、吸入室H2内には、例えばスクロールユニット3等、スクロール型圧縮機1における各摺動部位の潤滑のため、適量の潤滑油が貯留されている。そのため、第1ポートP1から吸入した作動流体は、吸入室H2において潤滑油と混合されて、混合流体としてスクロール型圧縮機1内を流れる。
【0020】
背圧室H6には、クランク機構6が収容される。クランク機構6は、旋回スクロール12の底板15から背圧室H6へ突出形成された円筒状のボス部25と、駆動軸22のうち背圧室H6内の端部から軸方向に立設したクランクピン26と、クランクピン26に対して偏心状態で取り付けられた偏心ブッシュ27と、を有している。偏心ブッシュ27は、ボス部25の内周面に対して、すべり軸受28を介して回転可能に支持されている。これにより、旋回スクロール12は、クランク機構6によって固定スクロール11の軸心(すなわち駆動軸22の軸心)周りに公転旋回可能になっている。なお、駆動軸22のうち背圧室H6内の端部には、旋回スクロール12の公転旋回運動によって発生する遠心力に対抗するバランサウェイト29が取り付けられている。また、偏心ブッシュ27は、すべり軸受28に限らず、ボス部25の内周面に対して、ころがり軸受を介して回転可能に支持されていてもよい。
【0021】
インバータ室H1には、直流電源(例えば車載バッテリ)から供給された直流電力を交流電力に変換し、この交流電力を電動モータ4へ供給するインバータ5が収容されている。インバータ5と電動モータ4との間は、隔壁8をインバータ室H1から吸入室H2へ貫通する給電線(図示省略)により電気的に接続される。インバータ5から電動モータ4への給電によってステータ20に磁界が発生すると、ロータ21の永久磁石に回転力が作用して、駆動軸22が回転駆動される。
【0022】
吐出室H4には、スクロールユニット3で圧縮された圧縮後の作動流体が吐出通路18を介して吐出されて一時的に貯留される。吐出室H4に一時的に貯留された圧縮後の作動流体は、隔壁10を吐出室H4から気液分離室H5へ貫通する導入通路30を介して分離室H5へ導入される。
【0023】
分離室H5では、吐出室H4から導入した圧縮後の作動流体から潤滑油を分離する。これは、圧縮後の作動流体には、吸入室H2で混合された潤滑油が含まれているためである。分離した潤滑油は、ハウジング2に形成された戻り通路(図示省略)を介して背圧室H6及び吸入室H2に戻され、潤滑油が分離された作動流体は、ハウジング2を内外貫通する第2ポートP2を介して外部へ吐出される。なお、圧縮後の作動流体からの潤滑油の分離方法については、本発明との関連性が低いため、その説明を省略する。
【0024】
なお、ハウジング2は、隔壁8と隔壁9との間、及び、隔壁9と隔壁10との間を境界として、隔壁8を含むフロントハウジング31、隔壁9を含むセンターハウジング32及び隔壁10を含むリアハウジング33に分割されている。フロントハウジング31とセンターハウジング32との間、及び、センターハウジング32とリアハウジング33との間は、ボルト等の締結手段(図示省略)によって互いに締結されている。フロントハウジング31の一部は、隔壁8と対向してインバータ室H1の一部を画す脱着可能なリアカバー34として構成されている。
【0025】
次に、
図2~
図6を参照して、自転阻止機構7の構成について説明する。ここで、
図2は、
図1においてリアハウジング33及び固定スクロール11を取り外してA方向からみた矢視図である。
図3は、
図1のB-B線における横断面図である。
図4は、
図2のうち自転阻止機構7の要部を示す透過図である。
図5は、
図4のC-C線における拡大断面図であり、(a)は通常断面、(b)は分解断面である。
図6は、
図4のD-D線における拡大断面図であり、(a)は通常断面、(b)は分解断面である。
【0026】
自転阻止機構7は、スライダー100と、スライダー100の往復動を案内するスライダー溝200、及び、スライダー100の往復動を案内する直線部300を有するガイドリング400と、の連係によって、固定スクロール11の軸心周りの旋回スクロール12の公転旋回運動を許容しつつ、旋回スクロール12の自転を阻止するものである。ここで、旋回スクロール12の自転は、
図2及び
図3に示すように、旋回スクロール12の軸心(すなわち、すべり軸受28の軸心)を原点Oとして旋回スクロール12上にXY直交座標系を定めたときに、以下のように定義される。すなわち、旋回スクロール12の自転は、その公転旋回運動中に、
図10に示すように、固定スクロール11に対して相対運動しない静止部材を基準として旋回スクロール12のXY直交座標系が回転してX軸及びY軸の方向に変化が生じるものとして定義される。なお、図中において原点Oが移動しているのは、旋回スクロール12が固定スクロール11の軸心周りに公転旋回運動を行ったことによるものである。
【0027】
ガイドリング400は、
図2及び
図3に示すように環状に形成され、環状の一部が直線状に形成されてなる直線部300を4つ有している。具体的には、
図4に示すように、ガイドリング400は、略八角形状に形成され、8つの辺のうち1つおきに直線部301~304を有する。すなわち、ガイドリング400は、平行に対向する直線部301及び直線部303と、平行に対向する直線部302及び直線部304と、を有し、直線部301及び直線部303の延在方向と直線部302及び直線部304の延在方向とが互いに垂直となっている。
【0028】
後述のように、スライダー100はガイドリング400の周方向で直線部300に沿って移動する。このため、直線部300の延在方向の長さは、スライダー100が、公転旋回運動を行う旋回スクロール12の軸心の軌跡円の直径に相当する距離Rを移動できるように設定される。
【0029】
ガイドリング400は、旋回スクロール12の底板15の外周縁部に沿って、あるいは、旋回スクロール12の底板15と同心に配置されている。具体的には、
図2~
図5に示すように、旋回スクロール12は、底板15の渦巻きラップ16が立設する渦巻きラップ立設面15aから離れた位置で外周面15bが全周に亘って径方向内方に後退した縮径部15cを有し、ガイドリング400は、縮径部15cに近接して配置されている。これにより、ガイドリング400が旋回スクロール12とその軸方向からみて重畳し、旋回スクロール12が公転旋回運動を行うときにガイドリング400とセンターハウジング32とが干渉することを低減するようにしている。
【0030】
スライダー溝200は、
図2及び
図3に示すように、スラストプレート17において直線状に延びて形成され、
図4に示すように、ガイドリング400の直線部301~304に対応して4つ配設される。すなわち、スライダー溝200は、直線部301に対応するスライダー溝201、直線部302に対応するスライダー溝202、直線部303に対応するスライダー溝203、及び、直線部304に対応するスライダー溝204で構成される。スライダー溝201及びスライダー溝203は同一方向に延び、スライダー溝202及びスライダー溝204は同一方向に延び、スライダー溝201及びスライダー溝203の延在方向とスライダー溝202及びスライダー溝204の延在方向とは互いに垂直となっている。
【0031】
後述のように、スライダー100はスライダー溝200に係合してスライダー溝200に沿って移動する。このため、スライダー溝200の延在方向の長さは、スライダー100が、公転旋回運動を行う旋回スクロール12の軸心の軌跡円の直径に相当する距離Rを移動できるように設定される。
【0032】
スライダー溝200は、作動流体の背圧室H6への漏出を防ぐため、スラストプレート17を厚さ方向に貫通しない有底溝として形成されているが、貫通する必要がある場合には、スライダー溝200の開口周囲と隔壁9との間にシール材等を介在させればよい。なお、スクロール型圧縮機1がスラストプレート17を使用しない場合には、スライダー溝200は隔壁9に配設してもよい。要するに、スライダー溝200は、旋回スクロール12の底板15の底面15dと対向する静止部材に配設されていればよい。
【0033】
スライダー100は、ガイドリング400の周方向で直線部300に沿って第1の直線方向で往復動を行うとともに、スライダー溝200と係合してスライダー溝200に沿って第1の直線方向と垂直な第2の直線方向で往復動を行うように形成されている。
【0034】
スライダー100は、ガイドリング400の直線部301~304に対応して4つ配置される。すなわち、スライダー100は、直線部301に対応するスライダー101、直線部302に対応するスライダー102、直線部303に対応するスライダー103、及び、直線部304に対応するスライダー104で構成される。
【0035】
ここで、スライダー100と直線部300との関係、及び、スライダー100とスライダー溝200との関係について、スライダー101、スライダー溝201及び直線部301を例に詳細に説明する。
【0036】
スライダー101のスライダー本体101aは、
図4及び
図5に示すように、ガイドリング400の直線部301が有するリング側スライダー面301aと旋回スクロール12の縮径部15cが有するスクロール側スライダー面15eとの間に摺動自在に配置される。リング側スライダー面301aは、直線部301の内周面に周方向で直線状に延び、スクロール側スライダー面15eは、直線部301と対向する縮径部15cにリング側スライダー面301aと同一方向に(例えば平行に)延びている。スライダー本体101aは、リング側スライダー面301aと対向するリング対向面101bと、スクロール側スライダー面15eと対向するスクロール対向面101cと、を有している。このようにリング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間にスライダー101を挟むことで、ガイドリング400は、スライダー100が障害物となって旋回スクロール12に対して相対回転できないようになっている。
【0037】
スライダー101は、
図5及び
図6に示すように、スライダー本体101aからスライダー溝201に延びて係合する係合突起101dを有する。この係合突起101dが、
図6に示すように、スライダー溝201において延在方向で対向して(例えば平行に)延びる両内側面201a,201bの間に摺動自在に配置されている。また、スライダー101の係合突起101dは、
図6に示すように、係合したスライダー溝201の両内側面201a,201bと対向する溝対向面101e,101fを有する。そして、この溝対向面101e,101fは、スライダー101がガイドリング400の周方向で直線部301に沿って往復動を行う方向に対して垂直方向に延びている。これにより、スライダー101が、ガイドリング400の周方向で直線部301に沿って第1の直線方向で往復動を行うとともに、スライダー溝201と係合してスライダー溝201に沿って第1の直線方向と垂直な第2の直線方向で往復動を行えるようにしている。
【0038】
スライダー101には、
図5及び
図6に示すように、直線部301のうちスラストプレート17と反対側の部分を覆うように外方へ向けて延びて、旋回スクロール12の軸方向からみて、直線部301と重畳するフランジ部101gが設けられる。このフランジ部101gを直線部301と干渉させることで、特に、スクロール型圧縮機1の製造時又は分解時において、スライダー101がリング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間から脱落しないようにしている。
【0039】
スライダー101の係合突起101dには、
図5に示すように、スライダー溝201の内部でガイドリング400の外方へ向けて延びて、旋回スクロール12の軸方向からみて直線部301と重畳するフック部101hが設けられる、このフック部101hを直線部301と干渉させることで、特に、スクロール型圧縮機1の運転時において、スライダー101がリング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間から脱落しないようにしている。
【0040】
次に、
図7を参照して、旋回スクロール12の公転旋回運動における自転阻止機構7の作用について説明する。
図7は、
図3に対して、駆動軸22が90°回転した状態を示す説明図である。
【0041】
図7において、駆動軸22が紙面に対して反時計方向に90°回転することで、旋回スクロール12が固定スクロール11の軸心周りに公転旋回運動を行う。これにより、旋回スクロール12の軸心Oは、
図3におけるX軸である元のX軸の負方向に、公転旋回運動による旋回スクロール12の軸心の軌跡円の半径に相当する距離rの移動を行う。また、旋回スクロール12の軸心Oは、
図3におけるY軸である元のY軸の負方向に、公転旋回運動による旋回スクロール12の軸心の軌跡円の半径に相当する距離rの移動を行う。このとき、スライダー101~104、スライダー溝201~204及び直線部301~304の連係により実現される自転阻止機構7は、以下のように動作を行う。
【0042】
直線部301はスライダー101に対して元のX軸の負方向に距離rの移動を行うとともに、スライダー101はスライダー溝201に対して元のY軸の負方向に距離rの移動を行う。同様に、直線部303はスライダー103に対して元のX軸の負方向に距離rの移動を行うとともに、スライダー103はスライダー溝203に対して元のY軸の負方向に距離rの移動を行う。
【0043】
一方、直線部302は、スライダー102に対して元のY軸の負方向に距離rの移動を行うとともに、スライダー102はスライダー溝202に対して元のX軸の負方向に距離rの移動を行う。同様に、直線部304は、スライダー104に対して元のY軸の負方向に距離rの移動を行うとともに、スライダー104はスライダー溝204に対して元のX軸の負方向に距離rの移動を行う。
【0044】
上記のように、自転阻止機構7は、旋回スクロール12の公転旋回運動を許容するが、作動流体の変動等の何らかの原因により旋回スクロール12を自転させる回転モーメントが発生しても、以下の理由により自転を阻止することができる。すなわち、スライダー101のスライダー本体101aにおいて、リング対向面101bがリング側スライダー面301aと干渉し、スクロール対向面101cがスクロール側スライダー面15eと干渉するので(
図5参照)、スライダー本体101aに対する旋回スクロール12の回転は規制される。また、スライダー101の係合突起101dにおいて、溝対向面101eがスライダー溝201の内側面201aと干渉し、溝対向面101fがスライダー溝201の内側面201bと干渉するので(
図6参照)、スライダー溝201に対する係合突起101dの回転は規制される。したがって、スライダー溝201に対する旋回スクロール12の回転が規制されるので、旋回スクロール12のXY直交座標系は静止部材を基準として回転せず、これにより、旋回スクロール12の自転を阻止することができる。なお、スライダー102~104、スライダー溝202~203、直線部302~303においても同様のことがいえる。
【0045】
このようなスクロール型圧縮機1では、自転阻止機構7において、環状のガイドリング400は旋回スクロール12と一体的に公転旋回運動を行い、直線部300に対応するスライダー100だけが往復運動を行っている。これに対し、自転阻止機構として環状のオルダムリングを使用した従来のスクロール型圧縮機では、ガイドリング400に相当する大きさを有するオルダムリングの全体が往復運動を行っている。このため、ガイドリング400を固定した旋回スクロール12の公転旋回運動によって発生する遠心力に対抗してバランサウェイト29を調整しておけば、スライダー100の往復運動が回転バランスに及ぼす影響はオルダムリングと比較して小さくなる、という顕著な効果が得られる。また、このような自転阻止機構7を採用しているスクロール型圧縮機1が車両用空調システムの冷媒圧縮機に適用された場合には、車両の快適性に関連するNVHの低下を抑制することができる。
【0046】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、以下のように種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0047】
上記の自転阻止機構7において、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の3つを1組として4組に分散して構成したが、2組~3組または5組以上に分散して構成してもよい。このように複数組に分散させることで、旋回スクロール12を自転させる回転モーメントが発生しても、この回転モーメントに対する1組当たりの反力が小さくなって、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の変形や摩耗等を抑制することができる。ガイドリング400における複数の直線部300以外の形状については、隣接する2つの直線部300間を、直線状、折線状若しくは曲線状又はこれらの任意の組み合わせからなる線形状で接続してもよい。ただし、ガイドリング400の形状は、旋回スクロール12が公転旋回運動を行うときにガイドリング400とセンターハウジング32とが干渉しないことを限度とする。なお、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の変形や劣化等を無視できる場合には、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300を1組で構成してもよい。
【0048】
スライダー100がガイドリング400の周方向で直線部300に沿って往復動を行う第1の直線方向とスライダー100がスライダー溝200と係合してスライダー溝200に沿って往復動を行う第2の直線方向とは、互いに垂直に限られず、互いに異なる方向であればよい。また、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の3つを複数組で分散構成する場合には、第1の直線方向と第2の直線方向とのなす角度が各組間で異なっていてもよい。このようにしても、旋回スクロール12の公転旋回運動を許容しつつ、旋回スクロール12の自転を阻止することが可能である。ただし、スライダー100の移動距離が長くなって、ガイドリング400が大型化する可能性があるので、旋回スクロール12とセンターハウジング32との間の空間に余裕がない場合には、第1の直線方向と第2の直線方向とを互いに垂直にするとよい。
【0049】
スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の3つを複数組で分散構成するときの態様としては、各組の直線部100をガイドリング400の周方向で等間隔に配置することができる。このとき、隣接する各組間で、2つの第1の直線方向がなす角度及び2つの第2の直線方向がなす角度がそれぞれ一定であれば、スライダー100、スライダー溝200及び直線部300の変形ないし摩耗等が各組で均一となり、結果的に自転阻止機構7の機能信頼性の向上に資することができる。例えば、第1の直線方向と第2の直線方向とが垂直となるスライダー溝200及び直線部300を所定角度ずつ回転複製して、順次、旋回スクロール12の軸心周りに所定角度間隔で配置してもよい。
【0050】
スクロール型圧縮機1において、スライダー溝201,203が同一方向に延びて配設され、スライダー溝202,204が同一方向に延びて配設されていたが、これに限られない。すなわち、上記のように、第1の直線方向と第2の直線方向とを互いに異なる方向にできるのであれば、複数のスライダー溝200の延在方向は互いに異なっていてもよい。このようにしても、旋回スクロール12の公転旋回運動を許容しつつ、旋回スクロール12の自転を阻止することが可能である。
【0051】
スクロール型圧縮機1において、スライダー101は、リング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間で摺動可能に配置されることで、直線部301に沿って往復動を行っていたが、これに限らず、他の構成を採用してもよい。例えば、スクロール側スライダー面15eを形成せず、スライダー101が、直線部301をその横断面(
図5参照)で全部または部分的に覆って直線部301から脱落しないように形成されてもよい。あるいは、スクロール側スライダー面15eを形成せず、直線部301の横断面(
図5参照)における外周に周方向で直線状に延びる2つの溝を外周の互いに反対側に形成し、これらの溝に係合する爪をスライダーが有するようにしてもよい。要するに、スライダー100及び直線部300は、旋回スクロール12が公転旋回運動を行うときにスライダー100とセンターハウジング32とが干渉しないように、スライダー100が直線部300に沿って往復動可能に構成されていればよい。
【0052】
底板15の外周面において縮径部15cが形成される位置は、
図5に示すように、渦巻きラップ立設面15aから離れた位置としていた。しかし、ガイドリング400がスラストプレート17から離れた状態で旋回スクロール12と一体的に公転旋回運動を行う場合には、渦巻きラップ立設面15a及び底面15dから離れた位置に縮径部15cを形成してもよい。このようにすることで、直線部300がスライダー100の往復動を案内する案内方式の選択幅を広くすることが可能となる。なお、旋回スクロール12とセンターハウジング32との間の空間に余裕がある場合には、縮径部15cを形成しなくてもよい。この場合、底板15の外周面15bには、スクロール側スライダー面15eだけを形成してもよい。
【0053】
上記のように、スライダー101をリング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間で摺動可能に配置しない場合には、旋回スクロール12に対するガイドリング400の相対回転を許容してしまう可能性がある。この場合には、図示省略するが、ガイドリング400は、直線部300と離間した部分を介して、旋回スクロール12に相対回転不能に固定してもよい。これにより、ガイドリング400は、旋回スクロール12と一体的に公転旋回運動を行う。旋回スクロール12に対するガイドリング400の固定方法は、センターハウジング32等との干渉による公転旋回運動の阻害やガイドリング400の変形を惹起しないものであればよく、溶接、接着、締結、圧入等、ガイドリング400及び旋回スクロール12の材質に応じて適宜選択可能である。なお、スライダー101をリング側スライダー面301aとスクロール側スライダー面15eとの間で摺動可能に配置する場合であっても、ガイドリング400の相対回転防止をより確実にすべく、ガイドリング400を旋回スクロール12に固定してもよい。
【0054】
スクロール型圧縮機1が、例えば車両用空調システムの冷媒回路等、車両に搭載される場合には、スクロールユニット3(旋回スクロール12)の動力源として、電動モータ4に代えて、エンジンの軸出力を用いることができる。
【0055】
スクロール型流体機械の適用例としてスクロール型圧縮機1について説明したが、例えば、ランキンサイクルを用いた発電装置に備えられるスクロール型膨張機についても適用可能である。
【0056】
なお、上記の実施形態で説明した各技術的思想及びこれに基づく変形態様は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合せて使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…スクロール型圧縮機、11…固定スクロール、12…旋回スクロール、15…旋回スクロールの底板、15a…渦巻きラップ立設面、15b…外周面、15c…縮径部、15e…スクロール側スライダー面、17…スラストプレート(静止部材)、100,101~104…スライダー、100d…係合突起、100g…フランジ部、100h…フック部、200,201~204…スライダー溝(直線状溝)、300,301~304…直線部、300a…リング側スライダー面、400…ガイドリング