IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スリー・アールの特許一覧

特開2023-40830粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法
<>
  • 特開-粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法 図1
  • 特開-粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法 図2
  • 特開-粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040830
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20230315BHJP
   G01T 1/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G01T1/167 C
G01T1/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148005
(22)【出願日】2021-09-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】506214460
【氏名又は名称】株式会社スリー・アール
(74)【代理人】
【識別番号】100134740
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 文雄
(72)【発明者】
【氏名】茂木 道教
(72)【発明者】
【氏名】昆 達郎
(72)【発明者】
【氏名】菅井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 弘
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB05
2G188CC10
2G188EE25
2G188HH08
2G188JJ06
(57)【要約】
【課題】原子力施設等から出るNR廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による表面汚染の検査(念のための放射線測定)方法を提供する。
【解決手段】本発明は、放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染を検査するための検査方法であって、(a)放射線測定器の検出面の幅以下の幅を持つ少なくとも1つ以上の開口部を有する測定用トレイを準備する工程と、(b)測定用トレイ中に粉体状の廃棄物を略一様な厚さで敷き詰める工程と、(c)敷き詰められた粉体状の廃棄物の表面に放射線測定器の検出面を近接させて走査しながら、粉体状の廃棄物の表面放射能密度をβ線測定により求める工程とを含み、略一様な厚さは、粉体状の廃棄物から放出されるβ線を完全に遮蔽しない最大飛程以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染を検査するための検査方法であって、
(a)放射線測定器の検出面の幅以下の幅を持つ少なくとも1つ以上の開口部を有する測定用トレイを準備する工程と、
(b)前記測定用トレイの前記開口部中に前記粉体状の廃棄物を略一様な厚さで敷き詰める工程と、
(c)敷き詰められた前記粉体状の廃棄物の表面に前記放射線測定器の検出面を近接させて走査しながら、前記粉体状の廃棄物の表面放射能密度をβ線測定により求める工程と、を含み、
前記略一様な厚さは、前記粉体状の廃棄物から放出されるβ線を完全に遮蔽しない最大飛程以下であることを特徴とする、検査方法。
【請求項2】
前記略一様な厚さは、前記β線測定により得られる前記表面放射能密度が、0.4Bq/cm未満となるように設定される、請求項1の検査方法。
【請求項3】
前記略一様な厚さは、1.5g/cm以下の厚さとなるように設定される、請求項1または2のいずれか一項の検査方法。
【請求項4】
前記放射線測定器は、β線測定可能なプラスチックシンチレーション検出器(サーベイメータ)である、請求項1~3のいずれか一項の検査方法。
【請求項5】
前記測定用トレイは方形であり、4つの枠部が底面から10~20mmの高さを有し、さらに、前記放射線測定器の検出面の幅と略同一な幅毎に一枠部から対向する他の一枠部へ延びる少なくとも1つの仕切り部を有する、請求項1~4のいずれか一項の検査方法。
【請求項6】
前記検査方法は、精製ウランを取り扱う施設において実行される検査方法である、請求項1~5のいずれか一項の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法に関し、より具体的には、原子力施設等から出る放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設等の核燃料物質または核原料物質(以下、核燃料物質等とも略して呼ぶ場合がある。)を扱う施設において放射線防御の観点から特別の管理を必要とする放射性廃棄物のほかに、放射性廃棄物でない廃棄物(以下、「NR廃棄物」とも呼ぶ。)も大量に発生する。このNR廃棄物については、経済産業省がその取扱いについてのガイドライン(指示)を出しており(非特許文献1)、その内容に沿って廃棄物として判断し管理等を行う必要がある。例えば、NR廃棄物であると判断される、汚染の恐れがある管理区域に設置された資材等及び汚染の恐れがある管理区域で使用された物品は、念のための放射線測定評価を行うこと等が求められる。
【0003】
また、管理区域から持ち出す物品(廃棄物を含む)については、他の規定、例えば電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)等に沿って、汚染が無いことを確認した上で搬出等を行う必要がある。したがって、原子力施設等で発生するNR廃棄物を処理する際には、そうした各種の規制に従った適切な放射線測定を含む処理、管理を行うことが求められる。
【0004】
上述した念のための放射線測定等において、NR廃棄物の核燃料物質等の放射性物質による表面放射性汚染(以下、表面汚染密度、表面放射能密度、あるいは単に表面汚染とも呼ぶ。)を検査するために、直接サーベイ法や間接サーベイ法(以下、スミヤ法とも呼ぶ。)によるα線測定が行われることが多い。こうしたα線測定では測定対象物の表面近傍にα線検出器を当てて、あるいは測定対象物の表面を拭き取ったスミヤろ紙にα線検出器を当てて測定する必要がある。
【0005】
NR廃棄物が粉体状の廃棄物である場合も、基本的に放射性物質による表面汚染を検査するために直接または間接サーベイ法によるα線測定を用いることができる。しかし、粉体の内部(特に下部深く)に入り込んだ放射性物質による汚染を直接または間接サーベイ法によるα線測定によって検査することは困難である。また、粉体状のNR廃棄物を収納した容器の外側からのγ線測定により粉体内部の平均的な放射性物質濃度を測定することもできるが、その場合粉体状のNR廃棄物の局所的な放射性物質残留の有無の確認は困難である。
【0006】
特許文献1には、原子力設備から排出される、放射性物質と非放射性物質を含む廃棄物から、非放射性の廃棄物を分離して処理する方法を開示する。その処理方法は、廃棄物を収集する工程と、第1の放射線検出ステーション(18)にて、収集された廃棄物について放射性物質による表面汚染の有無を確認するためにβ線を測定する工程と、汚染が確認されなかった廃棄物について、第2の放射線検出ステーション(22)にて、γ線の測定を行う工程と、汚染が確認されなかった廃棄物を容器(36)に収納する工程と、第3の放射線検出ステーション(40)にて、容器の外側からγ線を測定して汚染の有無を確認する工程を含む。
【0007】
特許文献2では、原子力施設の解体撤去に伴う解体廃棄物から分別されたクリアランス対象物のクリアランス前測定(表面汚染密度の測定、γ線測定とβ線測定)とクリアランス測定(平均放射能濃度、γ線測定)を含む分別・クリアランス処理システムを開示する。そのクリアランス前測定では、測定対象物を測定用トレイに載せて移動させながら測定用トレイの上下からβ線測定をすることを開示する(特許文献2の段落0046)。
【0008】
しかし、特許文献1、2では、いずれも粉体状のNR廃棄物を測定対象とするものではなく、粉体内部を含む放射線物質による汚染を含む放射性表面汚染(表面放射能密度)の検査方法を開示してはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61-68577号公報
【特許文献2】特開2007-248066号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】原子力施設における「放射性廃棄物でない廃棄物」の取扱いについて(指示)、経済産業省原子力安全・保安院、NISA-111a-08-1、平成20年5月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであって、原子力施設等から出るNR廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による表面汚染の検査(念のための放射線測定)方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染の有無を検査するための検査方法を提供する。その検査方法は、(a)放射線測定器の検出面の幅以下の幅を持つ少なくとも1つ以上の開口部を有する測定用トレイを準備する工程と、(b)測定用トレイ中に粉体状の廃棄物を略一様な厚さで敷き詰める工程と、(c)敷き詰められた粉体状の廃棄物の表面に放射線測定器の検出面を近接させて走査しながら、粉体状の廃棄物の表面放射能密度をβ線測定により求める工程とを含み、その略一様な厚さは、粉体状の廃棄物から放出されるβ線を完全に遮蔽しない最大飛程以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の一態様では、略一様な厚さは、β線測定により得られる表面放射能密度が、0.4Bq/cm未満となるように設定される。本発明の別の一態様では、略一様な厚さは、1.5g/cm以下の厚さとなるように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。
図2】本発明の一実施形態の測定用トレイを示す図である。
図3】本発明の一実施形態のβ線測定器(サーベイメータ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態の検査方法のフローを示す図である。工程S1において、測定用トレイを準備する。図2は、本発明の一実施形態の測定用トレイを示す図である。図2(a)は、測定用トレイ1の上面図であり、(b)はB-B’位置での断面図である。測定用トレイ1は、四辺を囲む枠2、中央の仕切り部4、及び底部5から構成される。枠2、仕切り部4、及び底部5は、木材、金属、あるいはプラスチック等の加工が比較的容易な材質からなる。底部5は、粉体状の廃棄物が保持可能なピッチ(開口)を持つワイヤメッシュ、あるいは薄いポリプロピレン(PP)フィルム等で構成してもよい。その場合、必要に応じて選択的に追加で、底部5の下側から放射線測定器の検出面18を当てて、念のための放射線(β線)測定が可能となる。
【0016】
枠2と仕切り4の間は、粉体状の廃棄物を敷き詰めることが可能な開口部3A、3Bとなる。1つの開口部の幅Wは、放射線測定器の検出面18の幅と略同一またはそれ以下の幅を有する。これにより、放射線測定器の検出面18を開口部3A、3Bの長さ方向(矢印A方向)に沿って一回走査することにより、未測定領域を残すことなく、開口部全体での測定を確実に行うことが可能となる。枠2(4つの縁部)は、底部5の表面(底面)から約10~20mmの高さTを有する。なお、図2では、仕切り部4が1つで開口部が2つであるが、測定対象の粉体状の廃棄物の量、測定作業効率等に応じて、枠2を広げ、かつ仕切り部4を2つ以上設けて開口部を3つ以上にすることができる。
【0017】
図1の工程S2で、測定用トレイへの粉体状の廃棄物の敷き詰めを行う。ここで言う粉体状の廃棄物は、核燃料物質等を扱う施設で発生するNR廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物(以下、「粉体状のNR廃棄物」とも呼ぶ。)を意味する。核燃料物質等には、α線源やβ線源となるウラン、トリウム、及びそれらの化合物が含まれる。核燃料物質等を扱う施設には、原子力施設の他に原子力とは直接的には関係のない、例えば、精製ウランを取り扱う施設、ウランを触媒として使用する化学工場等の製造施設、加工施設も含まれる。原子力施設には、例えば非特許文献1に記載される精錬施設、原子炉施設、再処理施設等が含まれる。さらに、NR廃棄物は、基本的に非特許文献1のガイドラインに沿って判断されるものを言うが、対象となる廃棄物が発生する施設には、原子力施設の他に上述した原子力とは直接的には関係のない施設も含むものとする。
【0018】
工程S2において、例えば図2の測定用トレイ1を用いる場合では、開口部3A、3Bにほぼ一様の厚さになるように粉体状のNR廃棄物を敷き詰める。ここで、粉体状のNR廃棄物で言う粉体状とは、砂や土のような細かさの粉体のみならず、約1mmから数mm程度(<約10mm)のサイズの細粒物や裁断物を含み得る。廃棄物には、塗装や錆びた鉄の剥離片、金属、小石、木材、紙、プラスチック、ビニール等の任意の材質が含まれ得る。
【0019】
粉体状のNR廃棄物のほぼ一様の厚さは、少なくとも測定用トレイ1の底部5の表面(底面)近傍を含む粉体状のNR廃棄物全体から放出されるβ線が廃棄物の上面から測定可能である厚さ、言い換えれば、粉体状のNR廃棄物全体がほぼ一様に放射性物質で汚染されていると仮定した場合に、粉体状のNR廃棄物から放出されるβ線を完全に遮蔽しない最大飛程以下の厚さにしなければならない。これにより、仮に測定用トレイの底面に放射性物質のホットスポットが存在しその上を粉体状のNR廃棄物が覆っていたとしてもそのホットスポットを見逃してしまうことを防ぐことができる。
【0020】
また、最大飛程以下の厚さにした場合の表面汚染密度(表面放射能密度)の検出限界は、管理区域外への搬出基準である、α放射性核種(例えばウラン)による汚染密度0.4Bq/cm以下である必要がある。それにより、放射性物質による表面汚染の有無の判定では、表面汚染密度が0.4Bq/cm以上である場合に汚染が有ると判断し、それ未満である場合に汚染が無いと判断することができる。この判断基準値である0.4Bq/cmは、電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)の別表第3に定められている「α線を放出する放射線同位元素」による表面汚染の限度(4Bq/cm)の1/10に相当し、当該物品を施設外に持ち出す際にその値(限度の1/10)を越えてはいけないとされているものである。
【0021】
α線検出器による測定が困難な箇所における表面汚染の有無の判定は、β線検出器による測定結果から表面汚染密度が0.4Bq/cm以上である場合に汚染が有ると判断し、それ未満である場合に汚染が無いと判断する。この判断基準値である0.4Bq/cmは、上述したα線における施設外に持ち出す際の基準値と同等であり、電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)の別表第3に定められている「α線を放出しない放射性同位元素」による表面汚染の限度(40Bq/cm)の1/100に相当し、当該物品を施設外に持ち出す際にその値(4.0Bq/cm)の限度の1/10に相当する。
【0022】
そこで、本発明者らは、β線の標準線源を用いて粉体状のNR廃棄物の厚さを変えながら実際に実験を行って、β線がNR廃棄物の上面から測定可能である厚さ(β線の最大飛程以下の厚さ)及び測定時の検出感度が検出限密度以下であることの確認を以下に述べる方法にて行った。
【0023】
表面放射能密度の測定方法は、JIS Z 4504に規定されており、本発明ではその方法に準じて粉体状のNR廃棄物の表面放射能密度の測定を創出する。下記の式(1)は、JIS Z 4504に規定されている表面放射能密度(Bq/cm)の算出式である。
【数1】
【0024】
式(1)によると、機器効率εと線源効率εを求める必要がある。そこで、標準線源を用いて以下のようにして2つの効率を算出した。その際、放射性物質がウラン(238U)であり、その崩壊過程で発生するPa-234mが放出する最大エネルギー2.273MeVのβ線を想定し、ほぼ同じ最大エネルギー値2.280MeVを持つSr-90-Y-90校正用標準線源(放出面の面積10×10cm)を用いた。β線測定器(サーベイメータ)は、ATOMTEX社製BDPB-03(窓面積300cm、機器効率0.486)を使用した。
【0025】
β線検出器BDPB-03の5台について、Sr-90-Y-90校正用標準線源を用いて値付けされた2次線源(30×30cmの放出面を持つトリウム線源)を用いて、機器効率εを求めた結果、5台の平均値は0.532であった。
【0026】
線源効率εを求めるにあたり、まず粉体状のNR廃棄物の厚さを変えてβ線の吸収率(透過率)を求め、粉体状のNR廃棄物がトレイ上に均一の濃度で敷き詰められていると仮定して、線源効率εを求めた。具体的には以下のようにして求めた。
【0027】
(i)粉体状のNR廃棄物によるβ線吸収率の測定方法
測定用トレイ1の下面にβ線検出器(BDPB-03)をセットし、測定用トレイ1の底部5の構造物(0.2mm厚のPPフィルム)の上に計量した粉状体のNR廃棄物をほぼ均一に敷き、Sr-90-Y-90標準線源をNR廃棄物の上に置いて計数率を測定した。粉体状のNR廃棄物の厚さ(g/cm)を段階的に増やしながら計数率を記録した。吸収層の厚さをPPフィルムの0.2mmにNR廃棄物の厚さ(g/cm)を加えたものとし、吸収率は(NR廃棄物有りのNet cps)/(NR廃棄物無しのNet cps)とした。
【0028】
(ii)粉体状廃棄物の透過率の測定
任意に抽出した5つの粉体状のNR廃棄物のサンプルを用いて、NR廃棄物の厚さと透過率の試験を行った。NR廃棄物によってややばらつきはあるが、ほぼ同様の透過率近似式が得られた。下記の表1は、粉体状のNR廃棄物の厚さ(遮蔽厚)と透過率の測定結果(5つのサンプルの平均値)である。当該β線エネルギーでのアルミニウム金属中での最大飛程は、1.097g/cmであるが、粉体状のNR廃棄物ではそれよりやや厚い遮蔽厚(吸収厚)の1.174g/cmでも約0.3%透過してくることがわかる。
【表1】
【0029】
(iii)線源効率ε
線源効率εに関してJISには、最大エネルギーが0.4MeV以上のβ線の場合は0.5、α線又は最大エネルギーが0.15MeV以上0.4MeV未満のβ線の場合は0.25、なお、放射能密度の線源効率があらかじめ明らかな場合はその値を用いることができるとされている。そこで、測定した粉体状のNR廃棄物の厚さに対する透過率の値を用い、粉体状のNR廃棄物中の放射能濃度が均一であるとして、透過率を厚さ方向に積分することにより線源効率εを求めた。その際、2π方向の測定なので吸収体なしで0.5となるように規格化した。計算結果を下記の表2に示す。
【表2】
【0030】
表面放射能密度(Bq/cm)は、算出された機器効率ε(平均値0.532)及び表2の粉体状の廃棄物の厚さに応じた線源効率εを用いて、上述したJIS Z 4504に規定の算出式(1)により計算することができる。次に、表面放射能密度の限界値(検出限界密度)を求める。直接法による検出限界密度の算出には、日本放射線安全管理学会「放射線施設廃止のための確認手順と放射能測定マニュアル」にある下記の式(2)を使用した。
【数2】
【0031】
計算結果を下記の表3に示す。表3から、粉体状のNR廃棄物の厚さ(g/cm)が増すごとに検出限界密度(Bq/cm)は上昇するが、厚さ1.46g/cmでの検出限界密度は0.36Bq/cmであり、上述した管理区域外への搬出基準である汚染密度0.4Bq/cmを下回ることが分かった。したがって、一度に測定できるNR廃棄物の量はできるだけ多いほうが作業効率上良いことも踏まえると、β線の最大飛程以内で測定可能な厚さ(厚さ密度)としては、約1.5g/cm以下の厚さ(厚さ密度)であれば良いことがわかった。
【表3】
【0032】
次に、図1の工程S3において、粉体状のNR廃棄物の表面からのβ線測定を行う。図3は、本発明の一実施形態のβ線測定の模式図である。工程S2で測定トレイ1中に敷き詰められた粉体状のNR廃棄物の表面近傍に、β線測定器(サーベイメータ)16の測定面(検出面)18が当接される。図2の説明でも触れたように、検出面18の幅は、測定トレイ1の1つの開口部の幅Wと略同一またはそれ以上の幅を有するようにする。それにより、検出面18を測定トレイ1の開口部3A、3Bの長さ方向(矢印A方向)に沿って一回走査することにより、未測定領域を残すことなく、開口部全体でのβ線測定を確実に行うことが可能となる。
【0033】
β線測定器16としては、例えばプラスチックシンチレーション検出器を用いることができる。β線測定器16は、通信ケーブル19を介して表示器20へ検出信号を送る。表示器20は、そのβ線測定結果を表示することができ、さらにその測定データをパーソナルコンピュータ40に有線または無線で送信できるようにすることもできる。β線検出器による測定結果から得られる表面汚染密度が0.4Bq/cm以上である場合に汚染が有ると判断し、それ未満である場合に汚染が無いと判断することができる。なお、図2の説明において既述したように、測定用トレイ1の底部5を粉体状の廃棄物が保持可能なピッチ(開口)を持つワイヤメッシュ、あるいは薄いポリプロピレン(PP)フィルム等で構成した場合、必要に応じて選択的に追加で、底部5の下側からβ線測定器16の検出面18を当てて、念のための放射線(β線)測定を行うことができる。
【0034】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 測定用トレイ
2 測定用トレイの外枠
3A、3B 測定用トレイの内部(粉体状の廃棄物の収納部)
4 測定用トレイ内の仕切り板
5 測定用トレイの底部
16 β線測定器(サーベイメータ)
18 測定面(検出面)
19 通信ケーブル
30 表示部
40 パーソナルコンピュータ(PC)
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
放射性廃棄物でない廃棄物の対象となる粉体状の廃棄物の放射性物質による汚染を検査するための検査方法であって、
(a)放射線測定器の検出面の幅以下の幅を持つ少なくとも1つ以上の開口部を有する測定用トレイを準備する工程と、
(b)前記測定用トレイの前記開口部中に前記粉体状の廃棄物を略一様な厚さで敷き詰める工程と、
(c)敷き詰められた前記粉体状の廃棄物の表面に前記放射線測定器の検出面を近接させて走査しながら、前記粉体状の廃棄物の表面放射能密度をβ線測定により求める工程と、を含み、
前記略一様な厚さは、前記粉体状の廃棄物から放出されるβ線最大飛程以下であることを特徴とする、検査方法。