(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040850
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】レンズ制御装置、眼用レンズ装置、眼鏡、制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G02C 7/08 20060101AFI20230315BHJP
【FI】
G02C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148029
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】521079488
【氏名又は名称】ViXion株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】菊地 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内海 俊晴
(57)【要約】
【課題】自動制御モードによる調整できないときに、操作部を操作して手動で視認対象物にピントを合わせることを可能にする。
【解決手段】眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御するレンズ制御装置10であって、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報を記憶する記憶部14と、視認対象物までの距離を検出する距離検出部21の検出結果及び前記記憶部14内の焦点距離特定情報に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部13に対する指示操作に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御部11とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御するレンズ制御装置であって、
視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報を記憶する記憶部と、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果及び前記記憶部内の焦点距離特定情報に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御部とを有することを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ制御装置において、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果と、前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果とを用いて、前記記憶部に記憶される焦点距離特定情報を更新する更新部を有することを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレンズ制御装置において、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果と、前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果とを含む履歴情報を保存する履歴保存部を有することを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のレンズ制御装置において、
前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果として、操作部に対して、焦点距離を長くする又は短くする指示操作を行った後に逆に焦点距離を短くする又は長くする指示操作を行ったときの制御結果を用いることを特徴とするレンズ制御装置。
【請求項5】
眼用の可変焦点レンズと、
前記可変焦点レンズを制御するレンズ制御装置とを備えた眼用レンズ装置であって、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部と、
前記可変焦点レンズの焦点距離を変更するための操作を受け付ける操作部とを備え、
前記レンズ制御装置として、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレンズ制御装置を用いることを特徴とする眼用レンズ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の眼用レンズ装置を備え、
前記可変焦点レンズが眼鏡フレームに保持されていることを特徴とする眼鏡。
【請求項7】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する制御方法であって、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果、及び、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御工程を有することを特徴とすることを特徴とする制御方法。
【請求項8】
眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御するレンズ制御装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、
視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果、及び、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御手段として、前記コンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ制御装置、眼用レンズ装置、眼鏡、制御方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、装用者の両眼で視認対象物を視認するときの各眼に用いられる2つの可変焦点レンズがノーズピース(眼鏡フレーム)によって保持された眼鏡が開示されている。この眼鏡において、装用者の各耳に掛けられるアームピースの各々には、ホイール(操作部)が設けられている。装用者が右側のホイールを回せば、右眼用の可変焦点レンズの焦点距離が変化し、装用者が左側のホイールを回せば、左眼用の可変焦点レンズの焦点距離が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来は、装用者の眼に用いられる可変焦点レンズの焦点距離を調整するとき、その都度、装用者が操作部を操作する必要があり、装用者にとって煩雑である。一方で、カメラなどの撮像装置では、被写体のピントを自動で合わせるオートフォーカス機能が知られており、このオートフォーカス機能を、眼用レンズ装置の可変焦点レンズにおける焦点距離の調整に利用できれば、可変焦点レンズの焦点距離の調整にあたって装用者が操作部を操作する必要がなくなる。しかしながら、可変焦点レンズの焦点距離を単にオートフォーカス機能によって調整するだけでは、視認対象物までの視認距離に応じて可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整することはできないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御するレンズ制御装置であって、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報を記憶する記憶部と、視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果及び前記記憶部内の焦点距離特定情報に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御部とを有することを特徴とするものである。
本レンズ制御装置においては、視認対象物までの距離に応じて装用者に適合する可変焦点レンズの焦点距離(適合焦点距離)を特定するための焦点距離特定情報を予め記憶部に記憶しておく。そして、自動制御モードの実行時には、装用者が可変焦点レンズを通じて視認する視認対象物までの距離が距離検出部により検出され、その検出結果と記憶部内の焦点距離特定情報とに基づいて可変焦点レンズの焦点距離が適合焦点距離となるように制御される。これにより、視認対象物までの視認距離が変わっても、その視認対象物にピントが合うように可変焦点レンズの焦点距離が自動で変更され、視認対象物にピントが合う。
ここで、装用者における眼の状態(視力、屈折力調節機能など)は、例えば、眼の屈折異常が進行したり、逆に改善したりというように経時で変化する。また、眼の状態は、例えば、視認エリアの照度(明るさ)によっても異なる。そのため、装用者のピントが合う可変焦点レンズの焦点距離(適合焦点距離)は、視認対象物までの視認距離に応じて一律に決まるものではなく、装用者の眼の状態によって異なり得る。そのため、自動制御モードで使用される焦点距離特定情報を決めるときの眼の状態から装用者の眼の状態が変化すると、その後の自動制御モードでは、視認対象物までの視認距離に応じて可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整することができなくなる。
そこで、本レンズ制御装置では、自動制御モードだけでなく、可変焦点レンズの焦点距離が装用者の操作によって制御される手動制御モードも実行できるようにしている。これにより、装用者の眼の状態が変化して、自動制御モードでは可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整できなくなった場合でも、装用者は、手動制御モードにより、可変焦点レンズの焦点距離を自らに適合するように調整することが可能となる。
したがって、本レンズ制御装置によれば、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できないときには、操作部を操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【0006】
前記レンズ制御装置において、視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果と、前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果とを用いて、前記記憶部に記憶される焦点距離特定情報を更新する更新部を有してもよい。
装用者の眼の状態(視力、屈折力調節機能など)の変化が一過性のものである場合(例えば、視認エリアの照度が変化する場合)、装用者の眼の状態が元の状態に戻れば、自動制御モードにより再び可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整することができる。しかしながら、装用者の眼の状態の変化が継続的なものである場合(例えば、眼の屈折異常が進行したり改善したりする場合)には、装用者の眼の状態が変化した後は、そのままの自動制御モードで可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整することができなくなる。
本レンズ制御装置によれば、装用者の眼の状態が変化して、自動制御モードでは可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整できなくなり、装用者が操作部を操作して手動制御モードにより可変焦点レンズの焦点距離を調整したとき、この手動制御モードでの制御結果(可変焦点レンズの焦点距離の制御結果)と、このときの距離検出部の検出結果(視認対象物までの距離)とを用いて、記憶部に記憶される焦点距離特定情報が更新される。これにより更新される焦点距離特定情報は、装用者の眼の状態が変化した後の適合焦点距離によって更新されるため、その後の自動制御モードでは、変化後における装用者の眼の状態に応じた可変焦点レンズの焦点距離の制御がなされる。よって、装用者の眼の状態が継続的に変化した後も、自動制御モードにより可変焦点レンズの焦点距離を装用者に適合するように調整することができるようになる。
【0007】
また、前記レンズ制御装置において、視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果と、前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果とを含む履歴情報を保存する履歴保存部を有してもよい。
このように、手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果を、そのときの視認距離の検出結果とともに、履歴情報として保存しておくことで、自動制御モードにより自動で調整された焦点距離と手動制御モードにより装用者が手動で調整した焦点距離とのズレを経時的に観測することが可能となる。このような経時的な観測は、手動制御モードによる制御結果の異常値を見つけやすくなるなど、自動制御モードの更新の高精度化に役立つ。また、このような経時的な観測は、装用者の眼の状態変化(眼の異常、病気など)を把握することにも役立つ。
【0008】
また、前記レンズ制御装置において、前記手動制御モードで制御された前記可変焦点レンズの焦点距離の制御結果として、操作部に対して、焦点距離を長くする又は短くする指示操作を行った後に逆に焦点距離を短くする又は長くする指示操作を行ったときの制御結果を用いてもよい。
手動制御モードにおいて装用者が操作部を操作して可変焦点レンズの焦点距離を調整する場合、焦点距離を長くする又は短くするように操作し、ピントが合う焦点距離が通り過ぎた後、逆に焦点距離を短くする又は長くするように操作し、最終的にピントの合う焦点距離に調整することが多い。したがって、操作部に対して、焦点距離を長くする又は短くする指示操作を行った後に逆に焦点距離を短くする又は長くする指示操作を行ったときの制御結果は、装用者が最終的にピントを合わせた焦点距離である蓋然性が高いものである。よって、本レンズ制御装置によれば、手動制御モードにより装用者が最終的にピントを合わせた焦点距離を適切に取得することができる。
【0009】
本発明の他の態様は、眼用の可変焦点レンズと、前記可変焦点レンズを制御するレンズ制御装置とを備えた眼用レンズ装置であって、視認対象物までの距離を検出する距離検出部と、前記可変焦点レンズの焦点距離を変更するための操作を受け付ける操作部とを備え、前記レンズ制御装置として、上述したレンズ制御装置を用いることを特徴とするものである。
本眼用レンズ装置としては、例えば、眼鏡やコンタクトレンズなどの装用者に装着されて使用される物品として使用するものが挙げられる。このように本眼用レンズ装置が装用者に装用される物品として使用されることで、装用者が当該物品を装用する日常生活の中で(例えば、テレビを見たり、ゲーム機で遊んだり、パソコンやタブレットを使用したり、本を読んだりする間など)、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できないときには、操作部を操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【0010】
本発明の更に他の態様は、眼鏡であって、前記眼用レンズ装置を備え、前記可変焦点レンズが眼鏡フレームに保持されていることを特徴とするものである。
眼用レンズ装置の使用態様が眼鏡であれば、上述したように、装用者は、当該眼鏡を装用する日常生活の中で、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できないときには、操作部を操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【0011】
本発明の更に他の態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御する制御方法であって、視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果、及び、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御工程を有することを特徴とすることを特徴とするものである。
本制御方法によれば、上述したレンズ制御装置の場合と同様、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できないときには、操作部を操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【0012】
本発明の更に他の態様は、眼用の可変焦点レンズの焦点距離を制御するレンズ制御装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、視認対象物までの距離を検出する距離検出部の検出結果、及び、視認対象物までの距離に応じた前記可変焦点レンズの焦点距離を特定するための焦点距離特定情報に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部に対する指示操作に基づいて、前記可変焦点レンズの焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する制御手段として、前記コンピュータを機能させることを特徴とするものである。
本プログラムによれば、上述したレンズ制御装置の場合と同様、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できないときには、操作部を操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可変焦点レンズの焦点距離を自動制御モードで装用者に適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる一方、自動制御モードによる調整できないときには、操作部を操作して手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る眼鏡の構成を模式的に示す正面図。
【
図3】同眼鏡における可変焦点レンズの概略構成を示す断面図。
【
図4】同眼鏡における可変焦点レンズの概略構成を示す平面図。
【
図5】同眼鏡における制御装置の構成を示すブロック図。
【
図6】同制御装置の記憶部に記憶される焦点距離特定情報であるテーブルデータの一例を示す説明図。
【
図7】実施形態における焦点距離制御の設定モードの一例を示すフローチャート。
【
図8】実施形態における焦点距離制御の使用モードの一例を示すフローチャート。
【
図9】同テーブルデータから算出される近似式を説明するためのグラフ。
【
図10】(a)は、一時メモリに保存されるデータの一例を示す説明図。(b)は、一時メモリに保存されるデータによって更新される焦点距離特定情報であるテーブルデータの一例を示す説明図。(c)は、同テーブルデータから算出される近似式を説明するためのグラフ。
【
図11】実施形態に係る眼鏡の他の構成を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、レンズ制御装置を備えた眼用レンズ装置としての眼鏡に適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明を適用可能な眼用レンズ装置は、眼鏡に限らず、装用者(以下「ユーザー」という。)に装用される他の物品であってもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係る眼鏡1の構成を模式的に示す正面図であり、
図2は、本実施形態に係る眼鏡1の構成を模式的に示す平面図である。
本実施形態における眼鏡1は、眼鏡フレーム2と、左右一対の可変焦点レンズ3,3と、可変焦点レンズ3,3の焦点距離を制御するレンズ制御装置としての制御装置10と、を備えている。
【0017】
眼鏡フレーム2は、ブリッジ部4と、左右一対のレンズ保持部6,6と、鼻当部7と、左右一対のヨロイ部8,8と、左右一対のテンプル部9,9と、を備えている。
【0018】
ブリッジ部4は、装用時に装用者の視界から上方へ外れる位置に配置され、可変焦点レンズ3,3を保持する左右のレンズ保持部6,6を支持する部材である。ブリッジ部4は、左右のヨロイ部8,8間にわたって左右方向に延在し、ブリッジ部4の左右方向両端部にヨロイ部8,8が取り付けられる。ブリッジ部4は、レンズ保持部6が左右方向に移動可能にレンズ保持部6を連結して、レンズ保持部6に保持される左右一対の可変焦点レンズ3,3の左右方向のレンズ間距離Dを調整できるレンズ間距離調節部を備えるのが好ましい。なお、レンズ間距離Dは、例えば、可変焦点レンズ3,3上の基準位置(例えば可変焦点レンズ3,3の中心位置)間の距離によって規定することができる。ここで、可変焦点レンズ3,3の基準位置は、例えば可変焦点レンズ3,3の光学中心位置と等しく、レンズ間距離Dは各可変焦点レンズ3,3の光学中心がなす距離と等しくなる。
【0019】
レンズ保持部6,6は、可変焦点レンズ3,3を保持する部材であり、その形状は、細長い形状(線状)である。具体的には、本実施形態のレンズ保持部6,6は、塑性変形可能なワイヤー部材によって形成されている。本実施形態におけるレンズ保持部6は、眼鏡フレーム2におけるブリッジ部4から延び、その先端が可変焦点レンズ3の外縁部分の被連結位置3aに連結することで、可変焦点レンズ3を保持する。レンズ保持部6は、ブリッジ部4に対してスライド部4aを介して支持されており、スライド部4aによってレンズ間距離調節部が構成される。具体的には、スライド部4aは、ブリッジ部4に対してレンズ保持部6を左右方向にスライド可能に保持する部材である。本実施形態におけるスライド部4aは、中空状部材であり、その中空部にブリッジ部4が挿入されて、ブリッジ部4の長手方向に沿って摺動可能なようにブリッジ部4に取り付けられる。
【0020】
レンズ間距離調節部を備えることで、正視状態におけるユーザーの瞳孔間距離PDに合わせて、可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dを調整することができる。本実施形態のように可変焦点レンズ3,3が通常の眼鏡レンズと比べて小型である場合、ユーザーの瞳孔間距離PDに合わせて可変焦点レンズ3,3のレンズ間距離Dをユーザーごとに調整できるようにすることは有益である。
【0021】
なお、本実施形態において、レンズ保持部6,6が連結される可変焦点レンズ3,3の被連結位置3aは、それぞれ、
図1に示すように、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る鉛直仮想線よりも外側(鼻から遠い側、すなわち、耳側)に位置し、かつ、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る水平仮想線よりも上側に位置している。この位置にレンズ保持部6,6が連結されるように構成することで、装用者の視界にレンズ保持部6,6が入っていても、レンズ保持部6,6を邪魔に感じさせにくい。
【0022】
ただし、レンズ保持部6,6が連結される可変焦点レンズ3,3の被連結位置3aは、本実施形態の位置に限らず、例えば、
図11に示すように、可変焦点レンズ3,3の光軸を通る鉛直仮想線よりも内側(鼻側)に配置してもよい。
【0023】
鼻当部7は、ブリッジ部4に保持され、ユーザーが眼鏡1を装着した際にユーザーの鼻に当接して眼鏡1の位置を位置決めする部材である。
【0024】
ヨロイ部8,8は、ブリッジ部4とテンプル部9,9とを連結する部材である。本実施形態におけるヨロイ部8,8は、ブリッジ部4の端部に取り付けられる取付部8aと、テンプル部9を回動可能に支持するヒンジ部8bとを備えている。
【0025】
テンプル部9,9は、ユーザーが眼鏡1を装着した際にユーザーの耳に掛けられる部材である。本実施形態における左右のテンプル部9,9は、ヨロイ部8,8が備えるヒンジ部8bにより眼鏡1の左右方向中央側に向かってそれぞれ折りたたむことができるように構成されている。
【0026】
本実施形態における可変焦点レンズ3,3は、電気的に制御可能な焦点距離の変更機能を有するものであれば、その構成に限定されない。ただし、可変焦点レンズ3,3は、屈折面の形状が変化することにより焦点距離が変化する形状可変レンズであるのが好ましい。形状可変レンズの中でも、2種類の液体の界面を屈折面とし、液体の濡れ性を電気的に制御して当該界面の形状を変更することで焦点距離を変更可能な液体レンズ(エレクトロウェッティングデバイスなどとも言う。)が好ましい。液体レンズであれば、焦点距離について高速で自由度の高い制御が可能である。
【0027】
本実施形態の可変焦点レンズ3,3は、例えばレンズ部分の直径が5mm~12mm程度の液体レンズを採用している。なお、より大型の可変焦点レンズを用いることで、可変焦点レンズがカバーできるユーザーの視線方向範囲が広がり、ユーザーの利便性を高めることができる。
【0028】
図3は、本実施形態における可変焦点レンズ3の概略構成を示す断面図である。
図4は、本実施形態における可変焦点レンズ3の概略構成を示す平面図である。
本実施形態の可変焦点レンズ3は、
図3に示すように、界面Iで非混合状態で接触している絶縁液311と導電液312とが、環状の第一電極301と、第一電極301の上端と下端を閉じる2つの透明な窓部材303,304とによって封入された構成を有する。絶縁液311は例えば油性液体であり、導電液312は例えば比較的導電率の低い水性液体である。第一電極301には電圧V0が印加されるが、本実施形態では環状の第一電極301を接地しているため、V0=0Vである。また、第一電極301は、封入されている絶縁液311及び導電液312に対し、絶縁層301aによって絶縁されている。
【0029】
また、本実施形態の可変焦点レンズ3は、第一電極301の軸Oに対する対称位置に複数対の第二電極302A,302B,・・・が配置されている。本実施形態では、
図4に示すように、4対の第二電極302A~302Hが軸Oを中心とした円周上に配置されており、合計8つの第二電極302A~302Hを備えている。
【0030】
第二電極302A~302Hは、
図3に示すように、導電液312に接触する位置に配置されている。各第二電極302A~302Hに電圧VA~VHを印加すると、各第二電極302A~302Hと第一電極301との間に電位差が生じ、エレクトロウェッティング効果によって絶縁液311の端部Ia(界面Iの端部Ia)を第一電極301上の絶縁層部分301bに沿って変位させることができる。このように絶縁液311の端部Iaが変位することにより、絶縁液311の形状が変化して界面Iの曲率が変更される。したがって、第二電極302A~302Hに印加する電圧VA~VHを制御することにより、界面Iを屈折面とする可変焦点レンズ3の焦点距離を変化させることができる。
【0031】
特に、本実施形態の可変焦点レンズ3は、第二電極302A~302Hに印加する電圧VA~VHを制御することにより、屈折面である界面Iを、拡散レンズ(凹レンズ)、平面レンズ、集光レンズ(凸レンズ)に変形させることができる。したがって、本実施形態の眼鏡1は、可変焦点レンズ3を拡散レンズ(凹レンズ)とすることで近視ユーザー用の眼鏡として使用でき、また、可変焦点レンズ3を集光レンズ(凸レンズ)とすることで遠視ユーザー用の眼鏡として使用できる。
【0032】
本実施形態の可変焦点レンズ3は、ジオプター換算(焦点距離の逆数)で-15D以上+15D以下の範囲で、焦点距離を変化させることができる。このように焦点距離の変化範囲が広い可変焦点レンズ3を用いることで、例えば、弱視のような低視力のユーザーに対応することも可能である。
【0033】
本実施形態において、第一電極301の軸Oの対称位置に配置されるすべての第二電極302A~302Hに同じ電圧を印加することで、可変焦点レンズ3の光軸を第一電極301の軸Oに一致させたまま、焦点距離を変化させることができる。一方で、各第二電極302A~302Hに対して異なる電圧を印加すれば、焦点距離を変化させるだけでなく、可変焦点レンズ3の光軸をずらしたり傾けたりすることも可能である。すなわち、本実施形態の可変焦点レンズ3は、印加電圧VA~VHを制御することによって、光軸の位置と方向のいずれか一方及び両方を変化させることができる。
【0034】
制御装置10は、
図1に示すように、バッテリー20とともに、左右のヨロイ部8,8のうちの一方(右側(図中左側)のヨロイ部8)に設けられている。制御装置10は、バッテリー20から可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を制御することにより、可変焦点レンズ3の焦点距離を制御することができる。
【0035】
図5は、本実施形態における制御装置10の構成を示すブロック図である。
本実施形態における制御装置10は、主制御部11と、電圧変更部12と、操作部13と、記憶部14と、を備えている。制御装置10は、2つの可変焦点レンズ3,3の第二電極302A~302Hと、電圧を供給する電源としてのバッテリー20と、ユーザーが可変焦点レンズ3,3を通じて視認する視認対象物までの距離を検出する距離検出部21と、が接続されている。
【0036】
主制御部11は、例えば、CPU、RAM、ROMなどが実装された制御基板(コンピュータ)によって構成され、ROMに記憶されている所定の制御プログラムを実行することにより、眼用レンズ装置である眼鏡1の全体的な制御を行う。特に、本実施形態では、主制御部11は、距離検出部21によって検出される視認対象物までの視認距離(検出結果)に基づいて、可変焦点レンズ3,3の焦点距離が変化するように、可変焦点レンズ3,3を制御する制御部(制御手段)として機能する。
【0037】
電圧変更部12は、主制御部11の制御の下、バッテリー20から可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を変更する。電圧変更部12は、各第二電極302A~302Hへ印加する電圧を、第二電極302A~302Hごとに個別に変更することができる。ただし、電圧変更部12は、第二電極302A~302Hの一部だけ(例えば1対の第二電極だけ)を部分的に変更可能なものであってもよい。
【0038】
操作部13は、ユーザーによって操作されることで、ユーザーの操作内容を示す操作信号を主制御部11に出力する。操作部13が受け付けるユーザー操作としては、例えば、電源のオンオフ操作、主制御部11の実行指示、主制御部11の制御内容の変更などが挙げられる。特に、本実施形態における操作部13は、2つの可変焦点レンズ3,3の焦点距離を変更するためのユーザー操作を受け付ける。
【0039】
操作部13は、受け付けるユーザー操作の内容に適した種類の操作器(機械式や静電タッチ式などのボタン、ダイヤルなどの回転型操作部など)によって構成される。本実施形態の操作部13は、2つの回転操作型のダイヤル部13a,13aと、ボタン操作型のボタン部13bとから構成される。
【0040】
回転操作型のダイヤル部13a,13aは、
図1及び
図2に示すように、左右のヨロイ部8,8の側方にそれぞれ設けられ、左右方向に延びる回転軸の回りで回転可能に構成されている。左のヨロイ部8に設けられるダイヤル部13aは、反時計回りに回されると、左眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を短くする指示操作を受け付け、時計回りに回されると、左眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を長くする指示操作を受け付ける。また、右のヨロイ部8に設けられるダイヤル部13aは、時計回りに回されると、右眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を短くする指示操作を受け付け、反時計回りに回されると、右眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を長くする指示操作を受け付ける。
【0041】
ボタン操作型のボタン部13bは、右のヨロイ部8に設けられるダイヤル部13aの回転軸に設けられ、このダイヤル部13aを回転軸に沿って
図1及び
図2中の矢印Aの方向へ押すことにより、ユーザーの指示操作を受け付ける。本実施形態において、ボタン部13bは、主制御部11の動作モードを切り替えるための切り替え操作や、ユーザー決定の指示操作などを受け付ける。
【0042】
本実施形態におけるボタン部13bによる切り替え操作は、設定モードと、使用モードとを切り替える操作である。設定モードとは、後述する自動制御モード時に使用される焦点距離特定情報を設定するための動作モードであり、距離検出部21によって検出される視認距離に応じたユーザーの適合焦点距離を設定する。使用モードとは、後述する自動制御モード又は手動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離を制御する動作モードである。
【0043】
本実施形態におけるボタン部13bによるユーザー決定の指示操作は、例えば、ダイヤル部13a,13aへの操作により各可変焦点レンズ3,3の焦点距離を変更しながらユーザーに適合する焦点距離を探して(測定して)、適合する焦点距離を決めたときに決定の指示操作を行う。
【0044】
記憶部14は、制御装置10で使用されるプログラムやデータを記憶する。特に、本実施形態では、自動制御モードにおける可変焦点レンズ3,3の焦点距離制御に使用されるデータとして、視認対象物までの距離に応じた可変焦点レンズ3,3の焦点距離を特定するための焦点距離特定情報を記憶する。
【0045】
焦点距離特定情報は、例えば、視認対象物までの視認距離(距離検出部21の検出結果)と、各視認距離に対応する2つの可変焦点レンズ3,3の各焦点距離(各視認距離に対応するユーザーに適合した焦点距離)との関係を示す情報である。このような情報は、例えば、
図6に示すように、視認距離と2つの可変焦点レンズ3,3の焦点距離との対応関係を記述したテーブルデータとして、記憶部14に記憶しておくことができる。
【0046】
特に、本実施形態において、焦点距離特定情報は、視認対象物までの視認距離に応じたユーザーに適合する2つの可変焦点レンズ3,3の焦点距離(適合焦点距離)をそれぞれ測定した測定情報を含む。これによれば、自動制御モードにおいて、2つの可変焦点レンズ3,3の焦点距離を、ユーザーごとに適切な焦点距離に調整することができる。
【0047】
バッテリー20は、制御装置10の電源として機能し、可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに供給する電圧を出力する。バッテリー20は、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよい。また、太陽光パネルなどの発電機能を備えたものであってもよい。
【0048】
距離検出部21は、可変焦点レンズ3,3の前方のエリア(視認エリア)に存在する視認対象物までの距離を検出できるものであれば、その構成は限定されないが、眼鏡フレーム2上に配置する構成、特に可変焦点レンズ3,3の近傍に配置する構成であるのが好ましい。本実施形態の距離検出部21は、
図1に示すように、鼻当部7に配置されているが、ブリッジ部4やヨロイ部8,8などに配置してもよい。ただし、ユーザーが眼鏡1を装着したときに頭髪(前髪)によって距離検出部21が覆われることが少ない位置であるのが好ましいので、本実施形態のように、眼鏡1の前面におけるできるだけ下方の位置(鼻当部7)にするのが好ましい。
【0049】
距離検出部21における測距方式は、特に限定されることはなく、レーザー方式、音波方式など、既存の測距方式を広く採用することができる。なお、距離検出部21によって検出したい視認距離の範囲(近距離から遠距離までの範囲)を1つの距離検出部でカバーすることが難しい場合には、有効検出距離の範囲(高い精度の検出が可能な距離範囲)が互いに異なる複数の距離検出部を配置するようにしてもよい。
【0050】
次に、本実施形態における可変焦点レンズ3,3の焦点距離の制御の一例について説明する。
図7及び
図8は、本実施形態における焦点距離制御の流れを示すフローチャートである。ただし、
図7は、設定モード時の制御内容を示すものであり、
図8は、使用モード時の制御内容を示すものである。
本実施形態における焦点距離制御では、所定の制御プログラムを実行する主制御部11が電圧変更部12を制御することにより、距離検出部21によって検出される視認対象物までの視認距離(検出結果)及び記憶部14内の焦点距離特定情報に基づいて可変焦点レンズ3,3の焦点距離を制御する自動制御モードと、操作部13のダイヤル部13a,13aに対する指示操作に基づいて可変焦点レンズ3,3の焦点距離を制御する手動制御モードとを実行する。
【0051】
本実施形態では、操作部13がユーザーによる電源オンの操作を受け付けると(S1)、まず、主制御部11の動作モードとして、設定モード又は使用モードに切り替える切り替え操作を受け付ける(S2)。具体的には、電源オンの操作後、所定時間内にボタン部13bが押されることにより設定モードに移行し(S2のYes)、所定時間内にボタン部13bが押されないときには使用モードに移行する(S2のNo)。なお、ここでは、電源オンの操作がなされることで焦点距離制御が開始される例であるが、これに限らず、例えば、眼鏡1がユーザーに装着されたことを検知する装着検知部を設け、ユーザーが眼鏡1を装着したことを検知することで焦点距離制御が開始されるように構成してもよい。
【0052】
設定モードに移行すると(S2のYes)、主制御部11は、設定モードで動作するためのプログラムを実行する。設定モードでは、ユーザーは、まず、基準となる視認距離(例えば遠距離)にある視認対象物を視認しながら、左のダイヤル部13aを回す(S3のYes)。これにより、その操作信号が操作部13から主制御部11へ送られ、主制御部11は、その操作信号に対応する電圧が左眼用の可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに印加されるように、電圧変更部12を制御する。これにより、左眼用の可変焦点レンズ3における絶縁液311と導電液312との界面Iの形状変化により界面Iの曲率が変更され、左眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離が、左のダイヤル部13aに対するユーザー操作に応じて変更される(S4)。
【0053】
そして、左のダイヤル部13aを回して基準距離の視認対象物にピントが合うように左眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離を調整したら、次に、ユーザーは、同じ基準距離の視認対象物を視認しながら、右のダイヤル部13aを回す(S5のYes)。これにより、その操作信号が操作部13から主制御部11へ送られ、主制御部11は、その操作信号に対応する電圧が右眼用の可変焦点レンズ3の第二電極302A~302Hに印加されるように、電圧変更部12を制御する。これにより、右眼用の可変焦点レンズ3における絶縁液311と導電液312との界面Iの形状変化により界面Iの曲率が変更され、右眼用の可変焦点レンズ3の焦点距離が、右のダイヤル部13aに対するユーザー操作に応じて変更される(S6)。
【0054】
このようにして、左右のダイヤル部13a,13aを回して基準距離の視認対象物にピントが合うように左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離を調整したら、ユーザーは、ボタン部13bを押す(S7のYes)。このボタン操作信号を受信した主制御部11は、上述した基準距離の視認対象物について距離検出部21によって検出した視認距離の検出結果を取得する(S8)。そして、主制御部11は、ボタン部13bを押した時点における左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離と、取得した視認距離の検出結果とを、焦点距離特定情報として、記憶部14に記憶する(S9)。
【0055】
例えば、距離検出部21によって検出した視認距離の検出結果がd10であった場合、主制御部11は、
図6に示したテーブルデータの視認距離データとしてd10を追加する。そして、主制御部11は、視認距離d10に対応する左右の可変焦点レンズ3,3の各焦点距離として、ユーザーが調整した焦点距離(適合焦点距離)であるfL10、fR10をそれぞれ記憶する。
【0056】
自動制御モードを実行するにあたっては、より多くの視認距離についてユーザーの適合焦点距離を設定することが望まれる。ユーザーは、視認対象物までの視認距離を変更して上述した設定モードを行うという作業を繰り返すことで、複数の視認距離(
図6では、d1、d6、d10の3点)について、ユーザーの適合焦点距離(
図6では、fL1、fL6、fL10、fR1、fR6、fR10)を設定することができる。
【0057】
次に、使用モードについて説明する。
電源オンの操作後に所定時間内にボタン部13bが押されない場合や、設定モードが終了した場合には、
図8に示す使用モードに移行する(S10)。使用モードに移行すると、主制御部11は、まず、記憶部14に記憶されている焦点距離特定情報(例えば
図6に示したテーブルデータ)から、
図9に示すグラフで表されるような近似式を算出する(S11)。
【0058】
この近似式は、距離検出部21によって検出される視認距離と、その視認距離におけるユーザーの適合焦点距離との関係を示す式であり、
図9に示すように、記憶部14に記憶されている焦点距離特定情報(テーブルデータ)をプロットしたときの近似線を表す式である。近似式の算出には、例えば最小二乗法やハフ変換などを用いることができる。なお、本実施形態では、近似式の算出に用いるテーブルデータを焦点距離特定情報として記憶部14に記憶する例であるが、この近似式を焦点距離特定情報として記憶部14に記憶してもよい。
【0059】
このようにして近似式を算出したら、主制御部11は、距離検出部21から視認対象物までの視認距離の検出結果を取得する(S12)。その後、主制御部11は、取得した視認距離(検出結果)に対応する適合焦点距離を、処理ステップS11で算出した近似式により導出する(S13)。そして、主制御部11は、左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離が、導出した適合焦点距離となるように、電圧変更部12を制御して、左右の可変焦点レンズ3,3の第二電極302A~302Hに印加する電圧を変更する。これにより、左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離がユーザーに適合する焦点距離に変更され(S14)、視認対象物のピントが自動で合うようになる。
【0060】
例えば、ユーザーが近くの視認対象物(スマートフォン、タブレット、ゲーム機、書籍など)を視認するときには、この近くの視認対象物にピントが合うように左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離が自動で変更される。また、例えば、ユーザーが遠くの視認対象物(離れた場所の映像(映画など)、美術品などの鑑賞物、景色など)を視認するときには、この遠くの視認対象物にピントが合うように左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離が自動で変更される。また、例えば、ユーザーが自動車の運転時のように中距離の視認対象物を視認するときには、この中距離の視認対象物にピントが合うように左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離が自動で変更される。
【0061】
ここで、ユーザーが視認対象物にピントを合わせるのに関わってくる眼の状態(視力、屈折力調節機能など)は、例えば、眼の屈折異常が進行したり、逆に改善したりすることで変化する。また、眼の状態は、例えば、視認エリアの照度(明るさ)によっても変化し得る。そのため、ユーザーのピントが合う可変焦点レンズの焦点距離(適合焦点距離)は、視認対象物までの視認距離に応じて一律に決まるものではなく、ユーザーの眼の状態によって変化し得る。そのため、ユーザーの眼の状態が上述した設定モード時の状態から変化する場合があり、この場合、自動制御モードでは、可変焦点レンズ3,3の焦点距離を視認対象物までの視認距離に応じて装用者に適合するように調整することはできなくなる。
【0062】
そこで、本実施形態においては、自動制御モードだけでなく、可変焦点レンズの焦点距離をユーザー操作によって調整できる手動制御モードも実行できるようになっている。具体的には、ユーザーは、自動制御モード中に視認対象物のピントが合わないとき、操作部13のダイヤル部13a,13aを回すと(S15のYes)、その操作信号が主制御部11に送られ、主制御部11は、手動制御モードに移行する。
【0063】
手動制御モードに移行した場合、自動制御モードは停止し、主制御部11は、操作されたダイヤル部13a,13aの操作信号に応じて電圧変更部12を制御し、そのダイヤル部13a,13aに対応する可変焦点レンズ3,3の第二電極302A~302Hに印加する電圧を変更する。これにより、可変焦点レンズ3,3の焦点距離が、操作されたダイヤル部13a,13aに対するユーザー操作に応じて変更される(S16)。
【0064】
ユーザーの眼の状態の変化が一過性のものである場合(例えば、視認エリアの照度が変化する場合)、ユーザーの眼の状態が上述した設定モード時の状態に戻れば、上述した自動制御モードにより再び可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整することができる。しかしながら、ユーザーの眼の状態の変化が継続的なものである場合(例えば、眼の屈折異常が進行したり改善したりする場合)には、ユーザーの眼の状態が上述した設定モード時の状態には戻らない。そのため、そのままの自動制御モードでは、可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整することができなくなる。
【0065】
本実施形態では、ユーザーの眼の状態の変化が継続的なものである場合でも、自動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整できるようにするため、記憶部14に記憶されている焦点距離特定情報(テーブルデータ)を更新する処理が行われる。
【0066】
本実施形態の更新処理は、ユーザーがダイヤル部13a,13aを操作して手動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離を調整したとき、その手動制御モードでの制御結果(可変焦点レンズの焦点距離の制御結果)と、このときの距離検出部21の検出結果(視認対象物までの距離)とを用いて、記憶部14に記憶される焦点距離特定情報(テーブルデータ)を更新する。これにより更新される焦点距離特定情報は、ユーザーの眼の状態が変化した後の適合焦点距離によって更新されるため、その後の自動制御モードでは、変化後におけるユーザーの眼の状態に応じた可変焦点レンズ3,3の焦点距離の制御がなされる。よって、ユーザーの眼の状態が継続的に変化した後も、自動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整することができるようになる。
【0067】
本実施形態においては、
図8に示すように、可変焦点レンズ3,3の焦点距離が手動制御モードで変更されると(S16)、主制御部11は、距離検出部21によって検出される視認対象物までの視認距離の検出結果を取得する(S17)。そして、主制御部11は、記憶部14の一時記憶領域(一時メモリ)に対し、焦点距離が変更された可変焦点レンズ3,3について、取得した距離検出部21の検出結果に対応する視認距離に関連づけて、手動制御モードでの制御結果(可変焦点レンズ3,3の変更後の焦点距離)を一時保存する(S18)。その後、主制御部11は、焦点距離が変更された可変焦点レンズ3,3に対応して、タイマーをスタートさせる(S19)。
【0068】
タイマーがT秒経過する前に(S21のNo)、対応する可変焦点レンズ3,3に対するダイヤル部13a,13aにユーザー操作がなされると(S20のYes)、主制御部宇11は、タイマーをリセットするとともに一時メモリ内のデータもリセットして、可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザー操作に応じて変更する(S16)。その後、主制御部11は、再び、距離検出部21によって検出される視認対象物までの視認距離の検出結果を取得し(S17)、記憶部14の一時記憶領域(一時メモリ)に対して手動制御モードでの制御結果(可変焦点レンズ3,3の変更後の焦点距離)を一時保存する(S18)。そして、主制御部11は、焦点距離が変更された可変焦点レンズ3,3に対応して、再びタイマーをスタートさせる(S19)。
【0069】
一方、対応する可変焦点レンズ3,3に対するダイヤル部13a,13aにユーザー操作がなされないまま(S20のNo)、タイマーがT秒経過すると(S21のYes)、主制御部11は、一時メモリに記憶されている視認距離と手動制御モードでの制御結果とを用いて、記憶部14に記憶される焦点距離特定情報(テーブルデータ)を更新する(S22)。
【0070】
例えば、
図10(a)に示すように、左眼用の可変焦点レンズ3について視認距離d1に対応する焦点距離Aが一時メモリに保存されてタイマーがT秒経過した場合、主制御部11は、
図10(b)に示すように、記憶部14に記憶される焦点距離特定情報(テーブルデータ)に対し、視認距離d1に対応する焦点距離fL1として焦点距離Aを記憶する。このとき、記憶部14に記憶される焦点距離特定情報(テーブルデータ)として、すでに視認距離d1に対応する焦点距離fL1が記憶されている場合、焦点距離Aで上書きする。
【0071】
このようにして更新処理が終わると、主制御部11は、自動制御モードに切り替わり、処理ステップS11に戻って、記憶部14に記憶されている更新後の焦点距離特定情報(テーブルデータ)を用いて、
図10(c)に示すように、点線で示す新たな近似式(なお、更新前の近似式は二点鎖線で示す。)を算出する(S11)。以後、主制御部11は、この新たな近似式を用いて自動制御モードを実行し、距離検出部21の検出結果(視認距離)に応じて左右の可変焦点レンズ3,3の焦点距離がユーザーに適合する焦点距離に変更される(S12~S14)。更新後の自動制御モードでは、変化後におけるユーザーの眼の状態に応じて可変焦点レンズ3,3の焦点距離が制御されるため、ユーザーの眼の状態が継続的に変化した後も、自動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整することができる。
【0072】
本実施形態において、操作部13がユーザーによる電源オフの操作を受け付けると(S23のYes)、主制御部11は、焦点距離制御を終了する。このとき、可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへの電圧供給はオフにしてもよいし、オンにしてもよい。可変焦点レンズ3の各第二電極302A~302Hへの電圧供給はオフにすれば、バッテリー20の電力消費を節約することができる。
【0073】
本実施形態によれば、可変焦点レンズ3,3の焦点距離を自動制御モードでユーザーに適合するように調整できるときには、特に操作を行うことなく、自動で視認対象物にピントが合うようになる。一方、可変焦点レンズ3,3の焦点距離を自動制御モードでユーザーに適合するように調整できないときには、ダイヤル部13a,13aを操作して、手動で視認対象物にピントを合わせることができる。
【0074】
特に、本実施形態のように、手動制御モードの制御結果を用いて記憶部14に記憶されている焦点距離特定情報を更新する更新処理を実行するようにすれば、ユーザーの眼の状態が継続的に変化した後も、自動制御モードにより可変焦点レンズ3,3の焦点距離をユーザーに適合するように調整することができる。
【0075】
なお、本実施形態の更新処理では、最新の手動制御モードによる制御結果を用いて記憶部14内の焦点距離特定情報を上書きする例について説明したが、これに限られない。例えば、手動制御モードによる制御結果を上書きせず、履歴情報として過去分のものとともに履歴保存部としての記憶部14に蓄積するようにしてもよい。この場合、例えば、
図10(a)に示すように一時メモリに保存された視認距離d1に対応する焦点距離のデータAと、すでに記憶部14内に蓄積されている視認距離d1に対応する過去のデータとから、視認距離d1に対応する焦点距離fL1を算出してもよい。例えば、視認距離d1に対応する直近5回分の焦点距離のデータの平均値を、記憶部14に記憶する視認距離d1に対応する焦点距離fL1としてもよい。また、最新のデータがこれまでの履歴情報のデータと比較して大きく異なる場合、この最新のデータを異常値として処理してもよい。
【0076】
なお、このように履歴情報を記憶することで、自動制御モードにより自動で調整される焦点距離と手動制御モードによりユーザーの手動で調整される焦点距離とのズレを経時的に観測することが可能となる。このような経時的な観測は、ユーザーの眼の状態変化を把握することにも役立つので、ユーザーの眼の異常、病気などの発見に役立てることが可能である。
【0077】
また、本実施形態において、記憶部14に記憶される手動制御モードでの制御結果(可変焦点レンズの焦点距離の制御結果)は、ダイヤル部13aへのユーザー操作後にタイマーがT秒経過するまで当該ダイヤル部13a,13aに対してユーザー操作がなされないときの制御結果を用いているが、これに限られない。例えば、手動制御モードでユーザーがダイヤル部13aを操作して可変焦点レンズ3の焦点距離を調整する場合、焦点距離を長くする又は短くするように操作し、ピントが合う焦点距離が通り過ぎた後、逆に焦点距離を短くする又は長くするように戻す操作を行って、最終的にピントの合う焦点距離に調整することが多い。このことを考慮し、ダイヤル部13aに対し、焦点距離を長くする又は短くするユーザー操作がなされた後に逆に焦点距離を短くする又は長くするユーザー操作がなされたときの制御結果を用いるようにしてもよい。これによれば、ダイヤル部13aに対する誤操作などのピントを合わせる操作に無関係な操作を排して、ダイヤル部13aに対するピントを合わせる指示操作によって調整された焦点距離を、高い確度で、記憶部14に記憶される手動制御モードでの制御結果として使用することができる。
【0078】
また、本明細書で説明された処理工程並びに眼鏡1等の眼用レンズ装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0079】
ハードウェア実装については、上述した工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0080】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0081】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 :眼鏡
2 :眼鏡フレーム
3 :可変焦点レンズ
4 :ブリッジ部
4a :スライド部
6 :レンズ保持部
7 :鼻当部
8 :ヨロイ部
8a :取付部
8b :ヒンジ部
9 :テンプル部
10 :制御装置
11 :主制御部
12 :電圧変更部
13 :操作部
13a :ダイヤル部
13b :ボタン部
13c :レバー部
14 :記憶部
20 :バッテリー
21 :距離検出部
301 :第一電極
301a,301b:絶縁層
302A~302H:第二電極
303,304:窓部材
311 :絶縁液
312 :導電液
D :レンズ間距離
I :界面
Ia :端部
O :軸
PD :瞳孔間距離