(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004087
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】非水電解液の保管方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0566 20100101AFI20230110BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230110BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230110BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230110BHJP
【FI】
H01M10/0566
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105580
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】合庭 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ28
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】低酸度の非水電解液に好適な保管方法を提供すること。
【解決手段】酸度1meq/kg未満の非水電解液、好ましくは水分含量が10質量ppm未満であり、LiPF6を0.5~1.5mol/L含有し、炭酸エステル中にLiPF6を分散させたリチウム塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより製造される非水電解液を、密閉容器内で20℃以下で保管する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸度1meq/kg未満の非水電解液を密閉容器内で20℃以下で保管することを特徴とする、非水電解液の保管方法。
【請求項2】
前記非水電解液の水分含量が10質量ppm未満である、請求項1に記載の非水電解液の保管方法。
【請求項3】
前記非水電解液がLiPF6を0.5~1.5mol/L含有する、請求項1又は2に記載の非水電解液の保管方法。
【請求項4】
前記非水電解液が、炭酸エステル中にLiPF6を分散させたリチウム塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより製造される非水電解液であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液の保管方法。
【請求項5】
前記非水電解液が有機フッ素化合物を0.1~50質量%含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液の保管方法。
【請求項6】
前記非水電解液が有機硫黄化合物を0.1~10質量%含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解液の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸度の低い、特に酸度が1meq/kg未満の非水電解液を保管する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、非水電解液として、有機非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム系電解質を溶解させた非水電解液が用いられている。
しかしながら、上記電解液を構成する溶媒及びリチウム系電解質中には微量の水分が残留しており、この水分は、上記LiPF6 等のリチウム系電解質と反応して、例えば以下の反応式(1)~(3)に示すようにフッ化水素(HF)等を生成する。
(1)LiPF6 ⇔ LiF+PF5
(2)PF5+H2O⇒POF3+2HF
(3)POF3+H2O⇒POF2(OH)+HF
【0003】
非水電解液中に上記フッ化水素(フッ酸)等の酸性不純物が存在する場合、リチウムイオン電池の電池容量や充放電のサイクル特性が低下したり、電池内部の腐食を生じたりしやすくなる(特許文献1等参照)。
そこで、非水電解液は水分の混入を防止するため、密閉容器に保管する方法が一般的である。
例えば、非特許文献1には、非水電解液をステンレスやアルミ製の容器内に密閉保管することにより40℃で4~12週間程度、安定した品質を維持できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 81-82 (1999) 119-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1で検討されている非水電解液は、酸度が2~4meq/kg程度の高酸度のものであり、酸度が低い、特に酸度が1meq/kg未満というような低酸度の非水電解液の密閉保管については何等検討されていない。
本発明者等の検討によれば、酸度の低い高品質な非水電解液を非特許文献1で検討されているような一般的な方法により密閉保管した場合、水分が混入せずとも酸度が経時的に上昇することが判明した。
したがって、本発明の目的は、低酸度の非水電解液に好適な保管方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を鑑みて、本発明者らの鋭意検討の結果、酸度の低い非水電解液を一定温度以下で保管することで、非水電解液の品質を維持することができることを発見し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の[1]ないし[6]に関する。
[1] 酸度1meq/kg未満の非水電解液を密閉容器内で20℃以下で保管することを特徴とする、非水電解液の保管方法。
[2] 前記非水電解液の水分含量が10質量ppm未満である、前記[1]に記載の非水電解液の保管方法。
[3] 前記非水電解液がLiPF6を0.5~1.5mol/L含有する、前記[1]又は[2]に記載の非水電解液の保管方法。
[4] 前記非水電解液が、炭酸エステル中にLiPF6を分散させたリチウム塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより製造される非水電解液であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の非水電解液の保管方法。
[5] 前記非水電解液が有機フッ素化合物を0.1~50質量%含有する、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の非水電解液の保管方法。
[6] 前記非水電解液が有機硫黄化合物を0.1~10質量%含有する、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の非水電解液の保管方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非水電解液の酸度を低く維持可能な非水電解液の保管方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る非水電解液の保管方法の形態例を示す図である。
【
図2】本発明の製造例における非水電解液の製造装置の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明者は、非水電解液中からフッ化水素等の酸性不純物を除去する方法を検討しており、その結果、フッ化水素等の酸性不純物の含有量が非常に少ない、即ち酸度を極限まで下げた低酸度の非水電解液の提供を実現している。
本発明は、このような極限まで酸度を下げた低酸度の非水電解液を密閉容器に保管した場合において、容器中に水分が混入しない場合であっても、低酸度の非水電解液を常温(25℃)で保管すると、酸度が経時的に上昇するという、従来の高酸度非水電解液を密閉容器で保管する場合には存在しなかった新たな課題を解決するものである。
したがって、本発明の非水電解液の保管方法は、酸度1meq/kg未満という低酸度の非水電解液を対象とする。
本発明では、酸度1meq/kg未満の非水電解液を、20℃以下で保管することにより酸度の経時的な上昇を抑制する。一方、20℃を超えると、特に常温(25℃)を超えると、非水電解液の酸度が経時的に上昇し、本発明の効果は得られない。なお、保管温度の下限値は特に制限されないが、電解液の凝固や電解質の析出を防ぐ点から通常、0℃以上とすることが好ましい。
また、本発明の保管方法は、酸度1meq/kg未満の非水電解液にのみ有効な方法であり、例えば2~4meq/kg程度の高酸度の非水電解液に対しては、非水電解液を、20℃以下から20℃を超えて、常温(25℃)あるいは40℃程度で保管しても、低酸度の非水電解液とは異なり、酸度の経時的な上昇は起こらず、したがって、温度を20℃以下に設定することによる効果は得られない。
【0011】
本発明の保管方法において、非水電解液の保管は、例えば、
図1に示されるような密閉型の容器を用意し、容器中を、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性気体で置換後、容器中に、低酸度非水電解液を入れ、その後容器を密閉し、20℃以下に保管することにより行われる。保管期間の上限は100日以内が好ましく、50日以内が好ましい。
【0012】
使用される密閉容器としては、外気中の水分の混入を防止することができる密閉容器であれば、特別な構造または構成材料を必要とせず、広い範囲の形態および機能を有することができる。例えば、固定した保存容器である貯蔵タンク、輸送に使用されるキャニスター缶等の耐圧容器等が挙げられる。また、密閉容器の構成材料としては、例えば、炭素鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼その他の低合金鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、等を用いることができる。
【0013】
本発明の保管方法が適用される非水電解液は、酸度が1meq/kg未満であること以外は特に制限されないが、炭酸エステル中にリチウム系電解質等のアルカリ金属塩電解質を分散させたアルカリ金属塩電解質含有液を用意し、このアルカリ金属塩電解質含有液を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより、製造される非水電解液を好ましく用いることができる。なお、本明細書中、以降の段落では、弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理前の非水電解液を、アルカリ金属塩電解質含有液又は高酸度非水電解液と記載し、弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理後の非水電解液を、低酸度非水電解液又は単に非水電解液と記載する。
【0014】
炭酸エステルとしては、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルから選ばれる一種以上を挙げることができる。
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、ジエチルカーボネート(炭酸ジエチル)、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0015】
アルカリ金属塩電解質としては、リチウム系電解質を挙げることができ、リチウム系電解質としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiCF3SO3等から選ばれる一種以上を挙げることができ、電池性能を考慮した場合、LiPF6が好適である。
【0016】
非水電解液中のアルカリ金属塩、例えば、LiPF6の含有量は、0.5~1.5mol/Lが好ましく、0.5~1.2mol/Lがより好ましく、0.8~1.2mol/Lがさらに好ましい。
【0017】
非水電解液は、サイクル特性を向上する点から、有機フッ素化合物を含有することが好ましい。有機フッ素化合物としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、4-(フルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、フルオロメチルメチルカーボネート等が挙げられる。
非水電解液中の有機フッ素化合物の含有量は、0.1~50質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0018】
さらに非水電解液は、サイクル特性を向上する点から、有機硫黄化合物を含有することが好ましい。有機硫黄化合物としては、1,3-プロパンスルトン(PS)、スルホラン、エチルメチルスルホン、1-エタンスルホニル-2-メトキシ-エタン等が挙げられる。
非水電解液中の有機硫黄化合物の含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0019】
本発明に係る非水電解液において、水分含量は少ない程好ましいが、酸度上昇への影響の点から、10質量ppm未満であることが好ましい。なお、非水電解液の水分含量は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
アルカリ金属塩電解質含有液の調製方法は特に制限されないが、例えば、炭酸エステル中にアルカリ金属塩電解質、必要に応じ有機フッ素化合物及び/又は有機硫黄化合物を、添加、溶解することにより調製することができる。
【0021】
上記の方法で調製したアルカリ金属塩電解質含有液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、酸度を1meq/kg未満に低下させることにより低酸度の非水電解液を得ることができる。
アルカリ金属塩電解質含有液と弱塩基性陰イオン交換樹脂との接触は、例えば、
図2に示されるような装置を用いて行う。
図2に示される装置は、弱塩基性陰イオン交換樹脂が収容されたイオン交換部を有しており、アルカリ金属塩電解質含有液は、このイオン交換部に通液されることにより、弱塩基性陰イオン交換樹脂との接触が起こる。
【0022】
イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系樹脂を基体として有するものである。
【0023】
スチレン系樹脂とは、スチレン又はスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレン又はスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0024】
上記スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0025】
スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーや、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0026】
上記共重合可能な他のビニルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンがさらに好ましい。
【0027】
イオン交換部で使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂は、弱塩基性陰イオン交換基として三級アミノ基を有している。
【0028】
上記三級アミノ基としては、下記一般式(I)
【化1】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、*は基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。)
で表されるものを挙げることができる。
【0029】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は炭素数1~3の炭化水素基である。
R1基またはR2基としては、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキル基であることが好ましい。
R1基またはR2基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基およびプロピレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチル基であることが好ましい。
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基において、R1基およびR2基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等を挙げることができ、ジメチルアミノ基であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(I)において、*は、上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基と、基体または基体へ結合するための結合基との結合部位を示す。
【0032】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン系樹脂からなる基体に対し、下記一般式(II)に示すように、適宜結合基であるR
3基を介して結合していることが好ましい。
【化2】
(ただし、R
1基およびR
2基は炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよく、R
3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、*は基体との結合部位を示す。)
【0033】
上記R1基およびR2基としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
上記R3基は炭素数1~3の炭化水素基であり、R3基としては、アルキレン基およびアルケニレン基から選ばれる一種以上を挙げることができ、アルキレン基であることが好ましい。
R3基として、具体的には、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)、プロピレン基(-CH2CH2CH2-)等から選ばれる一種以上を挙げることができ、メチレン基が好ましい。
【0034】
上記一般式(I)で表される弱塩基性陰イオン交換基は、スチレン又はスチレン誘導体に置換基として導入することにより、スチレン系樹脂中に導入することができる。
【0035】
イオン交換部に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型構造、マクロポーラス(MP)型構造、ポーラス型構造のいずれの構造を有するものであってもよく、マクロポーラス型構造を有するものが好ましい。
【0036】
弱塩基性陰イオン交換樹脂のサイズは特に制限されないが、その調和平均径が、300~1000μmであるものが好ましく、400~800μmであるものがより好ましく、500~700μmであるものがさらに好ましい。
【0037】
このような弱塩基性陰イオン交換樹脂は、市販品であってもよく、例えば、三菱化学(株)製ダイヤイオンWA30や、オルガノ(株)製 ORLITE DS-6等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0038】
イオン交換部内に収容される弱塩基性陰イオン交換樹脂の収容形態は、アルカリ金属塩電解質含有液と弱塩基性陰イオン交換樹脂とが接触し得る形態であれば特に制限されない。
例えば、イオン交換部が、アルカリ金属塩電解質含有液を通液し得る弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムまたは槽であってもよい。
また、イオン交換部は、アルカリ金属塩電解質含有液を通液するためのポンプを備えたものであってもよい。
【0039】
アルカリ金属塩電解質含有液をイオン交換部内の弱塩基性陰イオン交換装置に通液する通液速度(液空間速度)は、アルカリ金属塩電解質含有液中の酸性不純物を除去し得る速度から適宜選定すればよい。
【0040】
上記弱塩基性陰イオン交換樹脂との接触処理は、例えば、先ず、処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で予め弱塩基性陰イオン交換樹脂を洗浄した後、約40~80℃で減圧下にて乾燥し、次いで、再度処理すべきアルカリ金属塩電解質含有液を構成する炭酸エステル溶媒で弱塩基性陰イオン交換樹脂を膨潤した上で、カラムに充填する。
その上で、常法に従い逆洗・押出し操作等を行った後、処理すべき電解液を好ましくはSV(流量/イオン交換樹脂体積比)1~100hr-1、より好ましくはSV2~50hr-1、さらに好ましくはSV5~20hr-1で通液することにより行うことができる。
【実施例0041】
(製造例1)
<高酸度非水電解液1の製造>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合し、LiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解し、さらにフルオロエチレンカーボネート(FEC)を5質量%の濃度となるように添加し、アルカリ金属塩電解質含有液(以下、「高酸度非水電解液1」という)を調製した。調製直後の高酸度非水電解液の酸度および水分含量を下記に示す方法により測定したところ、酸度は1.9meq/kgであり、水分含量は10ppm未満であった。
【0042】
(製造例2)
<低酸度非水電解液1の製造>
図2に示す製造装置を構成するイオン交換部として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用意した。
次いで、上記カラムに対し、製造例1で製造した高酸度非水電解液1を、ポンプPを用いて10(L/L-樹脂)/hrの空間速度(SV)で通液し、カラム中の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることにより、酸度が1meq/kg未満である低酸度非水電解液1を調製した。
【0043】
(実施例1)
図1に示す密閉容器(材質:ステンレス、容積:1L)を用意し、密閉容器中を窒素で置換後、製造例2で調製した低酸度非水電解液1を入れ、密閉後5℃で保管した。
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様の方法にて低酸度非水電解液1を15℃で保管した。
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて低酸度非水電解液1を25℃で保管した。
(比較例2)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液1を5℃で保管した。
(比較例3)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液1を15℃で保管した。
(比較例4)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液1を25℃で保管した。
【0045】
(製造例3)
<高酸度非水電解液2の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合し、LiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解し、さらに1,3-プロパンスルトン(PS)を1質量%の濃度となるように添加し、アルカリ金属塩電解質含有液(以下、「高酸度非水電解液2」という)を調製した。
【0046】
(製造例4)
<低酸度非水電解液2の調製>
図2に示す製造装置を構成するイオン交換部として、スチレン-ジビニルベンゼンを基体とし、弱塩基性陰イオン交換基としてジメチルアミノ基を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用意した。
次いで、上記カラムに対し、製造例3で製造した高酸度非水電解液2を、ポンプPを用いて10(L/L-樹脂)/hrの空間速度(SV)で通液し、カラム中の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることにより、酸度が1meq/kg未満である低酸度非水電解液2を調製した。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて低酸度非水電解液2を5℃で保管した。
(実施例4)
実施例1と同様の方法にて低酸度非水電解液2を15℃で保管した。
(比較例5)
実施例1と同様の方法にて低酸度非水電解液2を25℃で保管した。
(比較例6)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液2を5℃で保管した。
(比較例7)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液2を15℃で保管した。
(比較例8)
実施例1と同様の方法にて高酸度非水電解液2を25℃で保管した。
【0048】
各非水電解液を各条件で保管した後の酸度と水分含量の経時変化を測定した結果を表1および表2に示す。なお、酸度と水分含量は下記の方法で測定した。
【0049】
<酸度の測定方法>
試料を氷水へ溶解し、撹拌しながら0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することで試料中の酸量(meq)を定量し、試料量(kg)で除することで酸度(meq/kg)を求めた。
【0050】
<水分含量の測定方法>
試料を平沼産業製微量水分測定装置AQ-2200AFに導入し、、カール・フィッシャー滴定法により試料中の水分含量(質量ppm)を測定した。
【0051】
【0052】
【0053】
表1の結果から、実施例1および2では、8週間経過後も酸度を0.1meq/kg未満に維持できた。一方、比較例1では、8週間経過後に酸度が1.0meq/kgまで上昇した。この結果から、非水電解液を20℃以下で保管することで、非水電解液の品質を維持することができる本発明の効果が実証された。また、比較例2~4では、保管温度によらず酸度は1.8~1.9meq/kgで安定するため、酸度1meq/kg未満の非水電解液にのみ本発明が有効であることが示された。
表2の結果から、表1と同様の傾向であることが分かったため、電解液の組成によらず本発明の効果が得られることが実証された。