(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040871
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】光導波路素子および光集積回路
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20230315BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G02B6/125
G02B6/125 301
G02B6/122 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148061
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 帆志彦
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB29
2H147BB02
2H147BD01
2H147BE11
2H147BE13
2H147BE15
2H147BE22
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
(57)【要約】
【課題】製造ばらつきの影響が小さい構成の光導波路素子において高次モード成分の除去効率を改善する。
【解決手段】光導波路素子は、曲率が連続的に変化する曲線形状を有する曲線導波路を備え、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する。曲線導波路の一方の端部には第1の導波路が結合され、曲線導波路の他方の端部には第2の導波路が結合される。第1の導波路と曲線導波路とが結合する結合点において第1の導波路の曲率と曲線導波路の曲率は互いに一致し、第2の導波路と曲線導波路とが結合する結合点において第2の導波路の曲率と曲線導波路の曲率は互いに一致する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する光導波路素子であって、
曲率が連続的に変化する曲線形状を有する曲線導波路を備え、
前記曲線導波路の一方の端部には第1の導波路が結合され、
前記曲線導波路の他方の端部には第2の導波路が結合され、
前記第1の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第1の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致し、
前記第2の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第2の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記第1の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記曲線導波路の曲率はゼロであり、
前記第2の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記曲線導波路の曲率はゼロである
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記曲線導波路は、前記第1の導波路に結合する第1の緩和曲線導波路、前記第2の導波路に結合する第2の緩和曲線導波路、および前記第1の緩和曲線導波路と前記第2の緩和曲線導波路との間に形成される円弧導波路から構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記第1の緩和曲線導波路と前記円弧導波路とが結合する結合点において前記第1の緩和曲線導波路の曲率と前記円弧導波路の曲率は互いに一致し、
前記第2の緩和曲線導波路と前記円弧導波路とが結合する結合点において前記第2の緩和曲線導波路の曲率と前記円弧導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする請求項3に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記曲線導波路は、基本モード光および高次モード光が伝搬するマルチモード導波路である
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記曲線導波路は、基本モード光のみが伝搬するシングルモード導波路である
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項7】
曲率が連続的に変化する曲線形状を有する第2の曲線導波路をさらに備え、
前記第2の曲線導波路の一方の端部は前記第2の導波路に結合され、
前記第2の曲線導波路の他方の端部には第3の導波路が結合され、
前記第2の導波路と前記第2の曲線導波路とが結合する結合点において前記第2の導波路の曲率と前記第2の曲線導波路の曲率は互いに一致し、
前記第3の導波路と前記第2の曲線導波路とが結合する結合点において前記第3の導波路の曲率と前記第2の曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項8】
前記第1の導波路を介して光が伝搬する方向と前記第2の導波路を介して光が伝搬する方向は互いに直交し、
前記第2の導波路を介して光が伝搬する方向と前記第3の導波路を介して光が伝搬する方向は互いに直交する
ことを特徴とする請求項7に記載の光導波路素子。
【請求項9】
伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する光導波路素子であって、
曲率が連続的に変化する曲線形状を有する曲線導波路を備え、
前記曲線導波路の一方の端部には入力導波路が結合され、
前記曲線導波路の他方の端部には光デバイスが結合され、
前記入力導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記入力導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項10】
伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する光導波路素子であって、
直列に結合されたN(Nは、2以上の整数)個の曲線導波路を備え、
各曲線導波路は、曲率が連続的に変化する曲線形状を有し、
前記N個の曲線導波路のうちの1番目の曲線導波路の一方の端部には、第1の導波路が結合され、
前記1番目の曲線導波路の一方の端部において、前記1番目の曲線導波路の曲率と前記第1の導波路の曲率は互いに一致し、
前記N個の曲線導波路のうちのi(1<i≦N)番目の曲線導波路の一方の端部には、それぞれ、前記N個の曲線導波路のうちのi-1番目の曲線導波路の他方の端部が結合され、
前記i番目の曲線導波路と前記i-1番目の曲線導波路とが結合する結合点において、前記i番目の曲線導波路の曲率と前記i-1番目の曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項11】
前記N個の曲線導波路のうちのN番目の曲線導波路の他方の端部には、第2の導波路が結合され、
前記N番目の曲線導波路の他方の端部において、前記N番目の曲線導波路の曲率と前記第2の導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする請求項10に記載の光導波路素子。
【請求項12】
前記N番目の曲線導波路の他方の端部には光デバイスが結合される
ことを特徴とする請求項10に記載の光導波路素子。
【請求項13】
前記i番目の曲線導波路の一方の端部と前記i-1番目の曲線導波路の他方の端部とは、それぞれ、直線導波路を介して結合される
ことを特徴とする請求項10に記載の光導波路素子。
【請求項14】
第1の導波路と、
前記第1の導波路に結合し、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する曲線導波路と、
前記曲線導波路に結合する第2の導波路と、
前記第2の導波路に結合する光デバイスと、を備え、
前記第1の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第1の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致し、
前記第2の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第2の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光集積回路。
【請求項15】
入力導波路と、
前記入力導波路に結合し、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する曲線導波路と、
前記曲線導波路に結合する光デバイスと、を備え、
前記入力導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記入力導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光集積回路。
【請求項16】
前記光デバイスは、1×2光カプラまたは2×2光カプラである
ことを特徴とする請求項14または15に記載の光集積回路。
【請求項17】
前記光デバイスは、光の伝搬方向においてコアの幅が連続的に変化するテーパ導波路であり、
前記テーパ導波路が形成される基板に垂直な方向において前記テーパ導波路の断面の形状は非対称であり、
前記テーパ導波路の入力端において、TM0モードの実効屈折率を表す第1の実効屈折率がTEm(m≧1)モードの実効屈折率を表す第2の実効屈折率より大きいときは、前記テーパ導波路の出力端において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さく、前記入力端において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より小さいときは、前記出力端において前記第1の実効屈折率が前記第2の実効屈折率より大きい
ことを特徴とする請求項14または15に記載の光集積回路。
【請求項18】
第1の光デバイスと、
第2の光デバイスと、
前記第1の光デバイスと前記第2の光デバイスとに間に設けられる、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する第1の曲線導波路と、
前記第1の光デバイスと前記第2の光デバイスとに間に設けられる、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する第2の曲線導波路と、を備え、
前記第1の曲線導波路および前記第2の曲線導波路は、前記第1の光デバイスと前記第2の光デバイスとに間で互いに直列に結合され、
前記第1の曲線導波路および前記第2の曲線導波路は、それぞれ、曲率が連続的に変化する曲線形状を有し、
前記第1の曲線導波路の一方の端部には、第1の導波路が結合され、
前記第1の曲線導波路と前記第1の導波路とが結合する結合点において、前記第1の曲線導波路の曲率と前記第1の導波路の曲率は互いに一致し、
前記第1の曲線導波路の他方の端部と前記第2の曲線導波路の一方の端部とが結合する結合点において、前記第1の曲線導波路の曲率と前記第2の曲線導波路の曲率は互いに一致し、
前記第2の曲線導波路の他方の端部には、第2の導波路が結合され、
前記第2の曲線導波路と前記第2の導波路とが結合する結合点において、前記第2の曲線導波路の曲率と前記第2の導波路の曲率は互いに一致する
ことを特徴とする光集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子および光導波路素子を含む光集積回路に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、通信の大容量化の要求により、小型および/または高密度集積が可能な光集積素子の開発が進められている。シリコンフォトニクスにおいては、たとえば、SOI(Silicon-On-Insulator)ウエハの表面領域に光導波路が形成される。この場合、コアは、例えばSiで形成され、クラッドは、例えばSiO2等で形成される。ここで、Siの屈折率とSiO2の屈折率との差は大きいので、光導波路を伝搬する光はコア内に強く閉じ込められる。よって、光導波路素子の小型化が実現される。
【0003】
シリコンフォトニクスにおいては、伝搬損失の主要因は導波路の側壁荒れによるものである。よって、側壁に集まる電界を少なくして伝搬損失を小さくするために、多くのケースにおいて、幅の広い光導波路が使用される。すなわち、基板上にマルチモード光導波路が形成される。このため、光デバイス内の光導波路において、信号を運ぶために使用される基本モード光(例えば、TE0)だけでなく、他のモードの光(例えば、TE1)も伝搬してしまう。
【0004】
なお、TE(Transverse Electric)モードは、光の伝搬方向に垂直な断面における電界の主成分が基板に対して水平方向である導波モードである。TE0およびTE1は、それぞれ、TEモードの中で、実効屈折率が最も大きい導波モード(TE0)および2番目に大きい導波モード(TE1)を表す。以下の記載において、TEi(i>0)を「高次モード」と呼ぶことがある。
【0005】
高次モード光が光デバイスに入力すると、好ましくない影響が発生することがある。例えば、1×2カプラを用いて基本モード光を分岐するときに、基本モード光および高次モード光が1×2カプラに入力すると、入力された高次モードの一部が基本モードへと変換され、入力された基本モードと干渉が生じる。そうすると、基本モード光の分岐比が設計値からずれてしまう。
【0006】
このため、高次モードを除去または抑制する方法が提案されている。例えば、2種以上の伝搬モードが導波可能な導波路が光分波器の前段に接続された光導波路素子において、光分波器の前段の光導波路からモード分離が可能なモードスプリッタを備える構成が提案されている(例えば、特許文献1)。また、特許文献2~3においても高次モード成分を抑制する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-041253号公報(特許第5702757号)
【特許文献2】特開2012-068531号公報
【特許文献3】特開2008-089875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したモードスプリッタは、例えば、方向性結合器により実現される。方向性結合器は、互いに隣接する2本の光導波路(主導波路および副導波路)を含む。そして、主導波路を伝搬する高次モード光を副導波路に移すことにより、主導波路から高次モード成分を除去する。ただし、製造ばらつき等に起因して2本の光導波路の構造(例えば、幅)が互いに異なるときには、主導波路から副導波路に移る高次モード成分の量が少なくなる。すなわち、高次モード成分を十分に除去できないことがある。
【0009】
また、方向性結合器の構成によっては、コアからクラッドへの光漏れに起因して、主導波路から副導波路に移った高次モード成分が主導波路に戻ってしまうことがある。この問題は、例えば、方向性結合器を構成する光導波路の曲げ半径を大きくすることで緩和される。ただし、光導波路の曲げ半径を大きくすると高次モードを除去するための素子(ここでは、方向性結合器)のサイズが大きくなってしまい、光集積素子の小型化を実現するうえで好ましくない。
【0010】
本発明の1つの側面に係わる目的は、製造ばらつきの影響が小さい構成の光導波路素子において高次モード成分の除去効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様に係わる光導波路素子は、曲率が連続的に変化する曲線形状を有する曲線導波路を備え、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能を有する。前記曲線導波路の一方の端部には第1の導波路が結合され、前記曲線導波路の他方の端部には第2の導波路が結合され、前記第1の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第1の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致し、前記第2の導波路と前記曲線導波路とが結合する結合点において前記第2の導波路の曲率と前記曲線導波路の曲率は互いに一致する。
【発明の効果】
【0012】
上述の態様によれば、製造ばらつきの影響が小さい構成の光導波路素子において高次モード成分の除去効率が改善する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係わる光集積回路の一例を示す図である。
【
図5】高次モード除去構造の他の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係わる高次モード除去構造の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態の効果の一例を示す図である。
【
図9】高次モード除去構造の出力側に光デバイスが実装される光集積回路の例を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態のバリエーションを示す図である。
【
図11】本発明の実施形態の他のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係わる光集積回路の一例を示す。本発明の実施形態に係わる光集積回路1は、基板10の表面に形成される。基板10は、特に限定されるものではないが、例えば、SOI(Silicon-On-Insulator)基板である。この場合、光導波路のコアは、例えばSiで形成され、クラッドは、例えばSiO2等で形成される。
【0015】
光集積回路1は、光導波路11(11a、11b)および光デバイス12を含む。光導波路11は、入力光を光デバイス12に導く。ここで、基板10上での伝搬損失を小さくするためには、光導波路の幅を広くすることが好ましい。ただし、光導波路の幅を広くすると、信号を運ぶために使用される基本モード光(例えば、TE0)だけでなく、高次モード光(例えば、TE1)も伝搬してしまう。
【0016】
光デバイス12は、特に限定されるものではないが、例えば、1×2光カプラである。1×2光カプラは、入力光を分岐することができる。すなわち、1×2光カプラは、入力光を所定の分岐比で分岐する光スプリッタとして使用することができる。ただし、入力光が高次モード成分を含むときには、1×2光カプラの分岐比が目標値からずれることがある。
【0017】
図2は、高次モードの影響を説明する図である。このケースでは、
図2(a)に示すように、入力光が1×2光カプラにおいて分岐される。ただし、TE0モード光およびTE1モード光が1×2光カプラに入力する。TE0モード光の入力パワーが「1」であるとき、TE1モード光の入力パワーが「ε」であるものとする。なお、この1×2光カプラは、TE1モード光が無いときに、分岐比が50:50となるように設計されているものとする。
【0018】
TE0モード光およびTE1モード光が1×2光カプラに入力すると、TE1モードの一部がTE0モードへと変換され、入力されたTE0モードと変換により生じたTE0モードとの間で干渉が発生し、TE0モード光の分岐比が影響を受ける。具体的には、
図2(b)に示すように、TE1モード光の入力パワーεが小さいときは、分岐比は約0.5(即ち、50:50)である。これに対して、TE1モード光の入力パワーεが大きくなると、分岐比は約0.6(即ち、60:40)まで劣化する。そして、分岐比が目標値からずれると、光信号の品質が劣化することがある。例えば、光変調器がマッハツェンダ干渉計を備え、入力CW光が1×2光カプラにより分岐されてマッハツェンダ干渉計のIアームおよびQアームに導かれる場合、この光変調器により生成される光信号の消光比が悪くなる。
【0019】
他のケースとして、光デバイス12は、光導波路の幅を変更するためのテーパ導波路を含んでもよい。テーパ導波路は、例えば、幅が異なる2つの光導波路の間に設けられる。
図3(a)に示す例では、光導波路21と光導波路22との間にテーパ導波路が設けられている。
【0020】
テーパ導波路は、
図3(a)に示すように、光の伝搬方向においてコアの幅が連続的に変化するように形成される。また、テーパ導波路のコアの断面の形状は、
図3(b)に示すように、テーパ導波路が形成される基板に垂直な方向において非対称である。具体的には、コアの上端部の幅よりも下端部の幅の方が広くなっている。
【0021】
上記構成のテーパ導波路にTEモードの高次モード成分(TEm(m≧1))が入力すると、そのTEmモード成分がTM0モード成分に変換することがある。具体的には、下記の2つの条件が満たされるとき、TEmモードがTM0モードに変換する。以下では、m=1であるケースについて記載するが、m>2であるときも同様である。
条件1:TM0モードの実効屈折率Neff@TM0とTM1モードの実効屈折率Neff@TM1との大小関係が、テーパ導波路の入力端と出力端との間で互いに反対になっている。
条件2:テーパ導波路が形成される基板に垂直な方向において、テーパ導波路の断面内での屈折率の分布が非対称。
【0022】
ここで、条件1は、下記の2つのケースを含む。
(1)テーパ導波路の入力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TM1より大きいときは、出力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より小さい。
(2)テーパ導波路の入力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TM1より小さいときは、出力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より大きい。
条件1は、テーパ導波路の形状により満たされることがある。また、条件2は、テーパ導波路のコアの断面形状により実現される。なお、テーパ導波路によるモード変換については、例えば、Daoxin Dai et al., Mode conversion in tapered submicron silicon
ridge optical waveguides. Optics Express, Vol.20, Issue 12, pp.13425-13439に記載されている。
【0023】
テーパ導波路においてTEmモード光からTM0モード光が生成されると、光信号の品質が劣化することがある。例えば、TEモードおよびTMモードを使用する偏波多重通信においては、信号を伝送するTM0モード光とテーパ導波路において発生するTM0モード光が干渉するので、偏波間のクロストークにより偏波多重光信号の品質が劣化することがある。
【0024】
このように、光デバイス12に高次モード光が入力すると、光信号の品質が劣化することがある。そこで、光集積回路1は、光デバイス12の入力側に高次モード除去構造13を備える。具体的には、高次モード除去構造13は、光導波路11を伝搬する高次モード成分を除去する。なお、以下の記載では、高次モード除去構造13の入力側に結合する光導波路を「入力導波路11a」と呼ぶことがある。また、高次モード除去構造13の出力側に結合する光導波路を「出力導波路11b」と呼ぶことがある。
【0025】
高次モード除去構造13は、光導波路11を介して基本モード光(TE0)および高次モード光(TEm(m≧1))が伝搬するときに、高次モード光を除去する。なお、以下の記載において、「除去」は、高次モード成分の発生を抑制する作用を含むものとする。
【0026】
図4は、高次モード除去構造13の一例を示す。この例では、高次モード除去構造13は、方向性結合器30により実現される。方向性結合器30は、互いに隣接する2本の光導波路(主導波路31および副導波路32)を含む。主導波路31と副導波路32との間の間隔、及び、主導波路31および副導波路32の幅は、主導波路31と副導波路32との間でTE1モードが結合するように設計される。この場合、主導波路31を介してTE0モード光およびTE1モード光が伝搬するとき、TE1モード成分が主導波路31から副導波路32に移る。すなわち、主導波路31からTE1モード成分が除去される。
【0027】
ただし、TE1モード成分を十分に除去するためには、主導波路31および副導波路32が適切に形成される必要がある。一例としては、主導波路31および副導波路32の幅が互いに一致していることが要求される。換言すると、製造ばらつき等に起因して主導波路31および副導波路32の幅が互いに異なると、主導波路31から副導波路32にTE1モード成分が十分に移らず、主導波路31にTE1モード成分が残留してしまう。尚、この問題は、高次モード除去構造13が2本の光導波路を備える構成であることに起因している。
【0028】
図5は、高次モード除去構造13の他の例を示す。この例では、高次モード除去構造13は、曲線導波路41を含む光導波路素子40により実現される。曲線導波路41の一方の端部には、入力導波路11aが結合されている。また、曲線導波路41の他方の端部には、出力導波路11bが結合されている。すなわち、入力導波路11aを介して光導波路素子40に入力される光は、曲線導波路41を伝搬した後、出力導波路11bを介して出力される。
【0029】
曲線導波路41の形状は、円弧である。この実施例では、円周の4分の1に相当する円弧に光導波路を形成することで曲線導波路41が実現されている。なお、入力導波路11a、曲線導波路41、および出力導波路11bは、同じ製造工程により一体的に形成される。すなわち、曲線導波路41は、入力導波路11aの入力端から出力導波路11bの出力端に至る1本の光導波路の一部である。
【0030】
ここで、光が光導波路を伝搬するとき、基本モード光はコア内に強く閉じ込められる。換言すると、基本モード光と比較すると、高次モード光の閉じ込めは弱い。このため、光が所定の曲率を有する光導波路に入力されると、基本モード光はコア内に閉じ込められたまま伝搬するが、高次モード光はコア外に放射される。したがって、所定の曲率を有する円弧状の光導波路で曲線導波路41を実現すれば、高次モード成分を除去できる。
図5に示す例では、入力導波路11aを介してTE0モード光およびTE1モード光が入力されると、曲線導波路41においてTE1モード成分が除去され、出力導波路11bを介してTE0モード光が出力される。
【0031】
このように、
図5に示す光導波路素子40は、曲線導波路41の曲率を適切に設定することにより、高次モード成分を除去できる。ここで、
図4に示す構成と異なり、光導波路素子40は1本の光導波路で実現される。このため、製造ばらつき等に起因して光導波路の形状(特に、コアの幅)が設計値からずれたとしても、高次モード成分を除去する効果はほとんど低下しない。
【0032】
ただし、本件出願人は、
図5に示す構成では、高次モード成分の除去効果に限界があることに気づいた。そして、本件出願人は、この現象が、直線導波路と曲線導波路との境界において生じる電界分布のミスマッチに起因することを見出した。
【0033】
すなわち、入力導波路11aと曲線導波路41との境界、及び、曲線導波路41と出力導波路11bとの境界において、それぞれ、光導波路の曲率が光の伝搬方向において不連続に変化している。具体的には、入力導波路11aおよび出力導波路11bは、それぞれ直線導波路であり、その曲率は実質的にゼロである。これに対して、曲線導波路41の曲率は、円弧の半径がRであるとき、1/Rである。そして、光導波路の曲率が光の伝搬方向において不連続に変化する構成においては、その不連続点において、光の電界分布のミスマッチが発生する。
【0034】
電界分布のミスマッチが発生すると、基本モード光TE0のパワーの一部が高次モード光(主に、TE1)に変換される。例えば、曲線導波路41の構造が下記の通りであるものとする。
コアの材料:Si
クラッドの材料:SiO2
コアの厚さ:0.22μm
コアの幅:0.48μm
円弧の半径R:5μm
また、入力光の波長が1.5475μmであるものとする。この場合、入力TE0モード光の-21.8dBがTE1モード光に変換される。すなわち、曲線導波路41において高次モード成分が十分に除去されるとしても、-21.8dBのTE1モード光が出力されることになる。したがって、
図5に示す構成では、高次モード成分の除去効率に限界がある。なお、電界分布のミスマッチに起因するTE1モード光は、各光導波路素子40において発生するので、複数の光導波路素子40を直列に接続しても除去効率の限界は改善されない。
【0035】
<実施形態>
上述したように、光導波路の曲率が光の伝搬方向において不連続に変化すると、基本モード光のパワーの一部が高次モード光に変換される。そこで、本発明の実施形態に係わる光導波路素子の曲線導波路は、入力導波路から曲線導波路を介して出力導波路に至る経路の曲率が光の伝搬方向において連続的に変化するように形成される。
【0036】
図6は、本発明の実施形態に係わる高次モード除去構造の一例を示す。本発明の実施形態においては、高次モード除去構造13は、
図6(a)に示すように、曲線導波路51を含む光導波路素子50により実現される。
図5に示す構成と同様に、曲線導波路51の一方の端部には、入力導波路11aが結合されている。また、曲線導波路51の他方の端部には、出力導波路11bが結合されている。すなわち、入力導波路11aを介して光導波路素子50に入力される光は、曲線導波路51を伝搬した後、出力導波路11bを介して出力される。なお、入力導波路11aは、不図示のレーザ光源により生成される連続光を伝搬する。あるいは、入力導波路11aは、光集積回路1内で生成される光信号を伝搬してもよい。さらに、入力導波路11aは、光集積回路1が受信する光信号を伝搬してもよい。
【0037】
図6(b)は、曲線導波路51の断面の構造を示す。曲線導波路51のコアおよびクラッドは、この例では、それぞれSiおよびSiO2で形成される。また、コアの厚さHおよび幅Wは、この例では、それぞれ0.22μmおよび0.48μmである。なお、入力導波路11aおよび出力導波路11bの断面の構造は、特に限定されるものではないが、この実施例では、それぞれ曲線導波路51と同じである。また、入力導波路11a、曲線導波路51、および出力導波路11bは、同じ製造工程により一体的に形成される。すなわち、曲線導波路51は、入力導波路11aの入力端から出力導波路11bの出力端に至る1本の光導波路の一部である。
【0038】
曲線導波路51は、
図6(a)に示すように、3つの導波路部分から構成される。すなわち、曲線導波路51は、円弧導波路51a、緩和曲線導波路51b、および緩和曲線導波路51cから構成される。なお、円弧導波路51a、緩和曲線導波路51b、および緩和曲線導波路51cは、同じ製造工程により一体的に形成される。
【0039】
円弧導波路51aの形状は、半径Rの円弧である。したがって、円弧導波路51aの曲率は1/Rである。そして、円弧導波路51aは、緩和曲線導波路51bと緩和曲線導波路51cとの間に設けられる。緩和曲線導波路51bは、入力導波路11aと円弧導波路51aとの間に設けられる。緩和曲線導波路51cは、円弧導波路51aと出力導波路11bとの間に設けられる。すなわち、入力導波路11aと出力導波路11bとの間に、緩和曲線導波路51b、円弧導波路51a、および緩和曲線導波路51cが順番に設けられる。緩和曲線は、直線と円弧との間に設けられるときに、その曲率が直線の曲率(すなわち、ゼロ)から円弧の曲率(ここでは、1/R)まで連続的に変化する曲線を意味する。また、緩和曲線は、例えば、クロソイド曲線により実現される。
【0040】
したがって、緩和曲線導波路51bの入力端の曲率は入力導波路11aと同じであり、緩和曲線導波路51bの出力端の曲率は円弧導波路51aと同じである。ここで、入力導波路11aは直線導波路なので、緩和曲線導波路51bの入力端の曲率はゼロである。また、緩和曲線導波路51bの出力端の曲率は1/Rである。そして、緩和曲線導波路51bの曲率は、ゼロから1/Rまで連続的に変化する。
【0041】
同様に、緩和曲線導波路51cの入力端の曲率は円弧導波路51aと同じであり、緩和曲線導波路51cの出力端の曲率は出力導波路11bと同じである。したがって、緩和曲線導波路51cの入力端の曲率は1/Rである。また、出力導波路11bは直線導波路なので、緩和曲線導波路51cの出力端の曲率はゼロである。そして、緩和曲線導波路51cの曲率は、1/Rからゼロまで連続的に変化する。
【0042】
曲線導波路51は、2つの設計パラメータ(R、A)により定義される。なお、この実施例では、緩和曲線導波路51bの長さおよび緩和曲線導波路51cの長さは互いに同じであるものとする。すなわち、円弧導波路51aは、曲線導波路51の中央に形成されている。また、この実施例では、入力導波路11aおよび出力導波路11bは互いに直交している。すなわち、曲線導波路51の曲げ角度は90度である。さらに、緩和曲線導波路51b、51cの形状がそれぞれクロソイド曲線であるものとする。
【0043】
この場合、円弧導波路51aは、
図7(a)に示すように定義される。すなわち、設計パラメータRは、円弧導波路51aの半径を表す。また、円弧導波路51aの角度θは、下式で表される。
【0044】
【数1】
そうすると、設計パラメータAは、下式で表される。
【0045】
【数2】
また、クロソイド曲線Pは、
図7(b)に示すX-Y座標系においては、下式で表される。
【0046】
【数3】
ここで、Rの値が大きすぎると、曲線導波路51において高次モード成分が除去されない。他方、Rの値が小さすぎると、曲線導波路51において基本モード成分がコア外に放射されるおそれがある。したがって、円弧導波路51aの半径Rは、曲線導波路51において高次モード成分が十分に除去され、且つ、基本モード成分がコア内に閉じ込められるように決定される。例えば、Cバンド(1530~1565nm)を使用して光信号を伝送する通信システムでは、円弧導波路51aの半径Rを3~5μmで設計してもよい。これにより、伝搬する光の高次モード成分を除去または抑制する機能が実現される。
【0047】
また、Aの値を小さくすると、τ0が小さくなるので、円弧導波路51aが長くなる。反対に、Aの値を大きくすると、τ0が大きくなるので、円弧導波路51aが短くなる。すなわち、設計パラメータAは、円弧導波路51aの長さを指定する。なお、設計パラメータAは、シミュレーションまたは測定により決定することが好ましい。
【0048】
図8は、本発明の実施形態の効果の一例を示す。横軸は、高次モード除去構造13を通過する光の波長を表す。縦軸は、高次モード除去構造13の出力光に残留する高次モード成分の量を表す。
【0049】
破線A1、A2は、高次モード除去構造13が
図4に示す方向性結合器30で実現されるときの残留高次モード成分の量を表す。方向性結合器30を構成する各光導波路の幅および厚さは、それぞれ500nmおよび220nmである。また、2本の光導波路の間隔は500nmである。「A2:製造ばらつき有り」は、一方の光導波路の幅が510nmであり、他方の光導波路の幅が490nmである。
【0050】
高次モード除去構造13が
図4に示す方向性結合器30で実現されるケースでは、光導波路の製造ばらつきが無ければ、破線A1で示すように、高次モード成分は十分に除去される。しかし、光導波路の製造ばらつきが発生すると、破線A2で示すように、高次モード成分の除去効果が低くなる。例えば、方向性結合器30を通過する光の波長が1.52nmであるときは、在留する高次モード成分は約-1.2dBである。
【0051】
実線B1、B2は、高次モード除去構造13が
図6に示す光導波路素子50により実現されるときの残留高次モード成分の量を表す。なお、この例では、高次モード除去構造13は、
図6に示す光導波路素子50を2個直列に接続することで実現されている。各光導波路素子50を構成する曲線導波路51の幅および厚さは、それぞれ480nmおよび220nmである。クロソイド曲線を表す設計パラメータRおよびAは、いずれも3μmである。「B2:製造ばらつき有り」は、導波路の幅および厚さの誤差がそれぞれ25nmおよび10nmである。
【0052】
高次モード除去構造13が
図6に示す光導波路素子50で実現されるケースでは、光導波路の製造ばらつきが発生した場合であっても、高次モード成分は十分に除去される。例えば、光導波路素子50を通過する光の波長が1.52nmであるときは、実線B2で示すように、残留する高次モード成分は約-12dBである。
【0053】
このように、本発明の実施形態に係わる光導波路素子50は、
図4に示す方向性結合器と異なり、1本の光導波路で構成される。このため、製造ばらつき等に起因して光導波路の形状(主に、幅)が目標値からずれた場合であっても、高次モード成分を効率よく除去できる。
【0054】
加えて、本発明の実施形態に係わる光導波路素子50においては、入力導波路11aから曲線導波路51を経由して出力導波路11bに至る経路の曲率が連続的に変化する。このため、光導波路を伝搬する光の電界分布のミスマッチは小さい。この結果、光導波路素子50において基本モード光から高次モード光への変換が抑制される。
【0055】
例えば、曲線導波路51の構造が下記の通りであるものとする。
コアの材料:Si
クラッドの材料:SiO2
コアの厚さ:0.22μm
コアの幅:0.48μm
円弧導波路51aの半径R:5μm
円弧導波路51aの角度:32.7度
クロソイド曲線のパラメータA:5μm
曲線導波路51の長さ:12.85μm
【0056】
また、入力光の波長が1.5475μmであるものとする。この場合、曲線導波路51におけるTE0モード光およびTE1モード光の損失は、それぞれ0.01dBおよび10.0dBである。また、入力TE0モード光の-54.5dBがTE1モード光に変換される。これに対して、
図5に示す光導波路素子(即ち、曲線導波路が円弧導波路のみで構成された光導波路素子)においては、上述したように、入力TE0モード光の-28.1dBがTE1モード光に変換される。すなわち、本発明の実施形態によれば、高次モード光の発生が抑制される。
【0057】
なお、高次モード除去構造13は、例えば、
図1に示すように、光デバイス12の入力側に設けられる。すなわち、本発明の実施形態に係わる光導波路素子50の出力側には、光デバイス12が設けられる。
【0058】
光デバイス12は、例えば、
図9(a)に示すように、出力導波路11bを介して光導波路素子50に結合される。ここで、光デバイス12の入力端に光導波路が形成されているときは、出力導波路11bと光デバイス12の光導波路との結合点において、出力導波路11bの曲率と光デバイス12の光導波路の曲率が互いに同じであることが好ましい。
【0059】
また、光デバイス12は、
図9(b)に示すように、光導波路素子50を構成する曲線導波路51に直接的に結合されるようにしてもよい。この場合、曲線導波路51と光デバイス12の光導波路との結合点において、曲線導波路51の曲率と光デバイス12の光導波路の曲率が互いに同じであることが好ましい。
【0060】
光デバイス12は、例えば、入力光を所定のパワー比で分岐する光スプリッタである。光スプリッタは、例えば、1×2カプラ、2×2カプラにより実現される。1×2カプラは、1×2MMI(Multi-Mode Interference)光導波路またはY分岐光導波路で実現してもよい。ここで、光スプリッタの入力光に高次モード光が混入していると、
図2を参照して説明したように、分岐比が目標値からずれてしまう。そこで、本発明の光集積回路1は、光スプリッタの入力側に光導波路素子50を備える。そうすると、光スプリッタの入力光から高次モード成分が除去される。したがって、光スプリッタは、所定の分岐比で入力光を分岐できる。
【0061】
また、光デバイス12は、
図3に示すテーパ導波路であってもよい。ここで、
図3に示すテーパ導波路にTE1モード光が入力すると、TM0モード光が発生することがある。そこで、本発明の光集積回路1は、テーパ導波路の入力側に光導波路素子50を備える。そうすると、テーパ導波路におけるTM0モード光の発生が抑制される。したがって、TE0およびTM0を利用して偏波多重を行う光通信においては、偏波間のクロストークが抑制される。
【0062】
<バリエーション>
図10は、本発明の実施形態のバリエーションを示す。なお、
図6に示す実施例では、光導波路素子50が1個の曲線導波路51を備えるが、光導波路素子50は複数の曲線導波路51を備えてもよい。
【0063】
図10(a)に示す例では、高次モード除去構造13として作用する光導波路素子は、2個の曲線導波路51を備える。
図10(b)に示す例では、光導波路素子は3個の曲線導波路51を備える。
図10(c)に示す例では、光導波路素子は4個の曲線導波路51を備える。なお、光導波路素子が複数の曲線導波路51を備えるときは、それら複数の曲線導波路51は直列に接続される。また、曲線導波路51と曲線導波路51との間は、直線導波路で結合される。
【0064】
図10(a)に示す構成では、曲線導波路51Xの一方の端部に導波路61xが結合され、曲線導波路51Xの他方の端部に導波路61yが結合されている。曲線導波路51Yの一方の端部に導波路61yが結合され、曲線導波路51Yの他方の端部に導波路61zが結合されている。すなわち、光導波路素子50が曲線導波路51X、51Yを備える場合、導波路61xおよび導波路61zがそれぞれ入力導波路および出力導波路として使用される。導波路61x、61y、61zは、特に限定されるものではないが、この実施例では、直線導波路である。
【0065】
なお、導波路61xおよび導波路61yは、曲線導波路51Xにとって入力導波路および出力導波路として使用される。同様に、導波路61yおよび導波路61zは、曲線導波路51Yにとって入力導波路および出力導波路として使用される。また、各曲線導波路51(51X、51Y)の角度は、この実施例では90度である。この場合、導波路61xを介して伝搬する光の方向と導波路61yを介して伝搬する光の方向は互いに直交し、導波路61yを介して伝搬する光の方向と導波路61zを介して伝搬する光の方向は互いに直交する。
【0066】
各曲線導波路51において高次モード成分が除去される。ここで、各曲線導波路51において基本モードから高次モードへ変換される光のパワーは十分に小さい。よって、曲線導波路51の個数を増やすことにより、高次モード成分を所望のレベルに削減できる。また、複数の曲線導波路51を接続することにより、入力光を所望の方向に導くことができる。例えば、
図10(a)または
図10(c)に示す構成においては、出力光の伝搬方向は入力光と同じである。また、
図10(b)に示す構成においては、出力光の伝搬方向は入力光に直交する方向である。
【0067】
図11は、本発明の実施形態の他のバリエーションを示す。なお、このバリエーションにおいても、光導波路素子50は複数の曲線導波路51を備える。
【0068】
図11に示す例では、光導波路素子50は、3個の曲線導波路51(51X~51Z)を備える。曲線導波路51X~51Zの構成は、互いに実質的に同じである。すなわち、各曲線導波路51X~51Zは、
図6に示す曲線導波路51と同様に、円弧導波路51aおよび緩和曲線導波路51b、51cから構成される。また、曲線導波路51X~51Zは、直列に結合される。
【0069】
各曲線導波路51の一方の端部に形成される緩和曲線導波路51bは、隣接する曲線導波路51の他方の端部に形成される緩和曲線導波路51cに結合される。具体的には、曲線導波路51Yの緩和曲線導波路51bは、曲線導波路51Xの緩和曲線導波路51cに結合され、曲線導波路51Zの緩和曲線導波路51bは、曲線導波路51Yの緩和曲線導波路51cに結合されている。この場合、緩和曲線導波路51bと緩和曲線導波路51cとの結合点において、緩和曲線導波路51bの曲率と緩和曲線導波路51cの曲率は互いに一致する。この実施例では、緩和曲線導波路51bと緩和曲線導波路51cとの結合点において、緩和曲線導波路51bの曲率および緩和曲線導波路51cの曲率はいずれもゼロである。
【0070】
直列に接続される3個の曲線導波路51のうちの一方の端部に設けられている曲線導波路51(ここでは、曲線導波路51X)の緩和曲線導波路51bは、導波路62に結合されている。この場合、緩和曲線導波路51bと導波路62との結合点において、緩和曲線導波路51bの曲率と導波路62の曲率は互いに一致する。この実施例では、導波路62は直線導波路であり、緩和曲線導波路51bと導波路62との結合点において、緩和曲線導波路51bの曲率および導波路62の曲率はいずれもゼロである。
【0071】
直列に接続される3個の曲線導波路51のうちの他方の端部に設けられている曲線導波路51(ここでは、曲線導波路51Z)の緩和曲線導波路51cは、導波路63に結合されている。この場合、緩和曲線導波路51cと導波路63との結合点において、緩和曲線導波路51cの曲率と導波路63の曲率は互いに一致する。この実施例では、導波路63は直線導波路であり、緩和曲線導波路51cと導波路63との結合点において、緩和曲線導波路51cの曲率および導波路63の曲率はいずれもゼロである。
【0072】
図11に示す光導波路素子50は、例えば、光デバイス71の入力側に設けられる。この場合、光デバイス71は、例えば、
図2に示す光カプラ/光スプリッタ、或いは、
図3に示すテーパ導波路であってもよい。光導波路素子50は、
図11に示す例では、導波路63を介して光デバイス71に結合されているが、光導波路素子50と光デバイス71との間に導波路63を設けなくてもよい。すなわち、曲線導波路51Zの緩和曲線導波路51cに光デバイス71が直接結合されるようにしてもよい。
【0073】
また、導波路62の端部に光デバイス72を設けてもよい。すなわち、光集積回路は、2個の光デバイス(71、72)の間に複数の曲線導波路51を備える構成であってもよい。なお、
図11に示す例では、光デバイス間に3個の曲線導波路が設けられているが、任意の数の曲線導波路51を光デバイス間に設けることができる。
【0074】
このように、
図10~
図11に示す実施例では、光導波路素子50は、直列に結合される複数の曲線導波路51を備える。ここで、本発明の実施形態においては、光導波路素子50内で導波路の曲率が連続的に変化し、且つ、光導波路素子50と光導波路素子50に結合する導波路との結合点においても曲率が連続的に変化する。よって、光が光導波路素子50を通過するときに高次モード成分は実質的に発生しない。他方、各曲線導波路51において高次モード成分が除去される。したがって、曲線導波路51の段数を増やすことにより、高次モード成分を所望のレベルまで抑制できる。
【0075】
また、
図6に示す実施例では、曲線導波路51は、円弧導波路51aおよび緩和曲線導波路51b、51cから構成され、円弧導波路51aは曲線導波路51の中央に設けられている。すなわち、緩和曲線導波路51b、51cの長さは互いに同じである。ただし、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。即ち、円弧導波路51aは、曲線導波路51の中央からシフトした位置に設けられてもよい。この場合、緩和曲線導波路51b、51cの長さは互いに異なることになる。
【0076】
さらに、
図6に示す実施例では、導波路11aを介して光が光導波路素子50に入力され、光導波路素子50を通過する光が導波路11bを介して出力されるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。具体的には、導波路11bを介して光が光導波路素子50に入力され、光導波路素子50を通過する光が導波路11aを介して出力されるようにしてもよい。すなわち、光導波路素子50は、曲線導波路51を介していずれの方向に伝搬する光であっても、高次モード成分を除去できる。
【0077】
図6に示す実施例では、曲線導波路51は曲げ角度は90度であるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。すなわち、円弧導波路51aの曲げ角度は、90度より大きくてもよいし、90度より小さくてもよい。
【0078】
曲線導波路51は、例えば、基本モード光および高次モード光が伝搬し得るマルチモード導波路で構成される。この場合、伝搬損失が小さくなる。ただし、曲線導波路51は、基本モード光のみが伝搬し得るシングルモード導波路であってもよい。この場合、曲線導波路51の入力側に、基本モード光および高次モード光が伝搬し得るマルチモード導波路が接続されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 光集積回路
10 基板
11 光導波路
11a 入力導波路
11b 出力導波路
12 光デバイス
13 高次モード除去構造
50 光導波路素子
51(51X、51Y) 曲線導波路
51a 円弧導波路
51b、51c 緩和曲線導波路
61x~61z、62、63 導波路
71、72 光デバイス
【手続補正書】
【提出日】2022-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
上記構成のテーパ導波路にTEモードの高次モード成分(TEm(m≧1))が入力すると、そのTEmモード成分がTMn(n≧0)モード成分に変換することがある。具体的には、下記の2つの条件が満たされるとき、TEmモードがTMn(n≧0)モードに変換する。以下では、m=1であるケースについて記載するが、m>2であるときも同様である。
条件1:TM0モードの実効屈折率Neff@TM0とTE1モードの実効屈折率Neff@TE1との大小関係が、テーパ導波路の入力端と出力端との間で互いに反対になっている。
条件2:テーパ導波路が形成される基板に垂直な方向において、テーパ導波路の断面内での屈折率の分布が非対称。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
ここで、条件1は、下記の2つのケースを含む。
(1)テーパ導波路の入力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より大きいときは、出力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より小さい。
(2)テーパ導波路の入力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より小さいときは、出力端において実効屈折率Neff@TM0が実効屈折率Neff@TE1より大きい。
条件1は、テーパ導波路の形状により満たされることがある。また、条件2は、テーパ導波路のコアの断面形状により実現される。なお、テーパ導波路によるモード変換については、例えば、Daoxin Dai et al., Mode conversion in tapered submicron silicon ridge optical waveguides. Optics Express, Vol.20, Issue 12, pp.13425-13439に記載されている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】