(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040964
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】ロボット制御システム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20230315BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148198
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 智哉
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707CS08
3C707HS27
3C707KS36
3C707MS07
3C707MS14
3C707MS15
3C707MS27
(57)【要約】
【課題】ロボットの安全機能に対する信頼性の低下を抑制しつつ、安全機能変更の操作性を好適に向上させること。
【解決手段】非安全関連部Yは、安全関連部Xにおけるロボットの動作監視の判定基準を指定するリクエストコマンドを安全関連部Xに送ることにより、安全関連部Xに判定基準の切り替えを指示する。安全関連部Xは、当該指示が正常に届いたかを診断し、指示自体が正常であるかを診断する。そして、各診断結果が何れも異常なしとなった場合に、指示を受理して判定基準を切り替え、アクノレッジ信号を非安全関連部Yに送る。非安全関連部Yでは、アクノレッジ信号が届いた場合に、安全関連部Xに対して現在設定されている判定基準の確認要求を行う。安全関連部Xは、この確認要求に応答する。非安全関連部Yは、安全関連部Xからの応答が正常に届いたかを診断し、現在設定されている判定基準が指示した判定基準となっているかを診断する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業中のロボットの力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部と、非安全関連部と、が設けられたロボット制御システムであって、
前記非安全関連部が有している前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ前記動作判定部による判定にて参照すべき判定基準を示す指令情報と第1診断用情報とからなる情報群を、前記非安全関連部は、前記安全関連部に送ることにより、当該安全関連部に前記判定基準の切り替えを指示し、
前記安全関連部は、前記非安全関連部から前記指示を受けた場合に、前記指示が正常に届いたかを前記第1診断用情報に基づいて診断し、前記指示自体が正常であるかを前記指令情報に基づいて診断し、前記指示が正常に届いており且つ前記指示自体が正常であると診断した場合に、前記指示を受理して前記複数の判定基準のうち前記判定にて参照する判定基準を前記指令情報に応じて切り替え、前記非安全関連部からの指示を受理した場合にその旨を前記非安全関連部に報知し、
前非安全関連部は、前記安全関連部により前記指示を受理した旨が報知された場合に、前記安全関連部に対して、当該指示に基づく切り替えにより参照対象として設定された前記判定基準を特定可能な特定用情報を要求し、
前記安全関連部は、前記特定用情報と第2診断用情報とからなる情報群を前記非安全関連部に送ることにより、前記非安全関連部の要求に応答し、
前記非安全関連部は、前記安全関連部から前記応答を受けた場合に、前記応答が正常に届いたかを前記第2診断用情報に基づいて診断し、実際に設定されている前記判定基準が前記指示により指定した前記判定基準となっているかを診断するロボット制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボット等のロボットに適用されるロボット制御システムには、ロボットの安全機能を実現する安全関連部と、ロボットの駆動制御等を行う非安全関連部とを有しているものがある。安全関連部については、例えば人等の障害物が衝突した場合にロボットを強制停止させたり(例えば特許文献1参照)、駆動中のロボットの力(推力)や速さを監視して安全用の基準を外れるような動きとなった場合にロボットを強制停止させたりするものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、ロボット技術の進歩により1のロボットが従事可能な作業の種類についても増加傾向にある。1のロボットを様々な作業に従事させる場合には、安全機能を変更(操作)可能とすることが、安全性に配慮しつつロボットの作業効率の向上を図る上で有利となり得る。ここで、変更時の通信エラー等によって安全機能が損なわれることを抑制する上では、安全機能を変更するための入力についても安全関連入力部からの入力(所謂安全入力)とすることが好ましい。しかしながら、安全入力を要件とした場合には変更に係る制約が強くなり、安全機能変更の操作性を向上させる上で妨げになると想定される。これに対して、当該要件を単に避けた場合には、操作性の向上が期待できるものの、ロボットの安全性が低下し、安全機能に対する信頼が揺らぐと懸念される。このように、ロボットの安全性及び作業効率の向上を図る上で、安全機能の変更に係る構成には未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ロボットの安全機能に対する信頼性の低下を抑制しつつ、安全機能変更の操作性を好適に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段について記載する。
【0007】
第1の手段.作業中のロボットの力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部と、非安全関連部と、が設けられたロボット制御システムであって、
前記非安全関連部が有している前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ前記動作判定部による判定にて参照すべき判定基準を示す指令情報と第1診断用情報とからなる情報群を、前記非安全関連部は、前記安全関連部に送ることにより、当該安全関連部に前記判定基準の切り替えを指示し、
前記安全関連部は、前記非安全関連部から前記指示を受けた場合に、前記指示が正常に届いたかを前記第1診断用情報に基づいて診断し、前記指示自体が正常であるかを前記指令情報に基づいて診断し、前記指示が正常に届いており且つ前記指示自体が正常であると診断した場合に、前記指示を受理して前記複数の判定基準のうち前記判定にて参照する判定基準を前記指令情報に応じて切り替え、前記非安全関連部からの指示を受理した場合にその旨を前記非安全関連部に報知し、
前非安全関連部は、前記安全関連部により前記指示を受理した旨が報知された場合に、前記安全関連部に対して、当該指示に基づく切り替えにより参照対象として設定された前記判定基準を特定可能な特定用情報を要求し、
前記安全関連部は、前記特定用情報と第2診断用情報とからなる情報群を前記非安全関連部に送ることにより、前記非安全関連部の要求に応答し、
前記非安全関連部は、前記安全関連部から前記応答を受けた場合に、前記応答が正常に届いたかを前記第2診断用情報に基づいて診断し、実際に設定されている前記判定基準が前記指示により指定した前記判定基準となっているかを診断する。
【0008】
第1の手段に示す構成によれば、安全機能(判定基準)を切り替える場合に、非安全関連部から安全関連部に切り替えの指示がなされる。この指示は指令情報及び第1診断用情報で構成されており、安全関連部では第1診断用情報に基づいて指示が正常に届いたかが診断され、指令情報に基づいて当該指示自体が正常であるかが診断される。診断で異常無しとなった場合には、非安全関連部からの指示が受理され、安全関連部では当該指示に従って参照対象となる判定基準を切り替える。つまり、非安全関連部からの指示であっても、当該指示に送信エラー等による異常が無いと判断した場合には、判定基準の切り替えがなされる。このようにして、非安全関連部からの安全な切り替えを実現すれば、安全機能変更の操作性を好適に向上させることができる。
【0009】
次に、安全関連部から非安全関連部へ指示を受理した旨が報知され、当該報知を受けた非安全関連部は安全関連部に対して現在参照対象となっている判定情報を特定可能な特定用情報を要求する。安全関連部ではこれに応答して、特定用情報と第2診断用情報とからなる情報群を非安全関連部に送る。非安全関連部は、安全関連部からの応答が正常に届いたかを第2診断用情報に基づいて診断し、実際に設定されている判定基準が当初の指示により指定した判定基準となっているかを診断する。つまり、非安全関連部では、自身の指示によって安全関連部における安全機能の切り替え(変更)が正常に行われたかを確認可能となっている。
【0010】
本特徴に示す構成によれば、安全関連部の安全機能を非安全関連部から切り替える場合であっても、安全機能の変更に対する信頼性の低下を抑制し、安全機能を変更するための入力についても安全関連入力部からの入力(所謂安全入力)とする場合と比較して当該変更に係る制約が強くなることを回避できる。これにより、ロボット制御システムにおける安全機能の変更に係る操作性を好適に向上させることができる。
【0011】
因みに、例えば1のロボットを様々な作業に従事させる場合には、作業に応じて安全機能を変更(操作)可能とすることは、安全性に配慮しつつロボットの作業効率の向上を図る上で有利となる。本特徴に示すように、非安全関連部からの安全機能の切り替えを可能とすることは、複数種類の作業へのロボットの適用を促し、工場の自動化を推進する上でも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態における工場のレイアウトの一部を示す概略図。
【
図4】ロボットの作業の流れを示すフローチャート。
【
図6】安全関連部と非安全関連部との関係を示す概略図。
【
図8】安全機能の切替を指示するコントロールデバイスを例示した概略図。
【
図10】非安全関連部から送信されるリクエストコマンドを示す概略図。
【
図11】シーンチェンジシーケンスの流れを示す概略図。
【
図14】第2の実施形態におけるシーン切替時監視用処理を示すフローチャート。
【
図15】作業シーンが切り替わる際の検出値の変化を示すタイミングチャート。
【
図16】第3の実施形態におけるシーン切替時監視用処理を示すフローチャート。
【
図17】作業シーンが切り替わる際の検出値の変化を示すタイミングチャート。
【
図18】第4の実施形態における物体の検出領域を示す概略図。
【
図19】特殊切替時監視用処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施形態>
以下、工場などで用いられる産業用ロボットに具現化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。先ず、
図1を参照して、本ロボットが適用された工場について説明する。
【0014】
工場10の一画には、コンベア11により搬送された材料を収納する棚12や空のコンテナ(所謂通箱)18を収納する棚13が配設されたストックエリアE1と、ワークを成形するための加工機14が複数配設された加工エリアE2と、成形されたワークを集積する集積エリアE3と、それらエリアE1~E3を繋ぐ通路E4とが設けられている。本実施形態に示すロボット20は、通路E4を通ってエリアE1~E3間を移動し、各所で定められた作業に従事する。
【0015】
図2に示すように、ロボット20は、AGV(Automated Guided Vehicle)31と、当該AGV31に搭載された垂直多関節型のロボットアーム41と、それらAGV31及びロボットアーム41を制御する制御装置50(
図3参照)とを備えている。
【0016】
AGV31には、走行モータ35と、工場10の床に敷設された磁気誘導用のガイドテープの磁気を検出可能な磁気センサ36とが設けられており、制御装置50では、磁気センサ36により検出された磁気等に基づいてAGV31の走行制御、例えば走行モータ35の駆動制御や操舵制御を行う。本実施形態では、エリアE1~E3を繋ぐようにしてそれらエリアE1~E3及び通路E4にガイドテープが配置されており、当該ガイドテープによってロボット20の移動経路(走行ルート)が規定されている。
【0017】
AGV31のボディ上面には、コンテナ18が載置される載置部32が形成されており、当該コンテナ18を載置部32に載せた状態で移動可能となっている。また、AGV31には、ロボット20の進路上の障害物を検出するためのレーザスキャナ37や緊急時に作業者等によって操作される非常停止スイッチ38が配設されている。これら、レーザスキャナ37及び非常停止スイッチ38は後述する安全関連部の入力部として機能し、障害物を検出した場合や非常停止操作を検出した場合には、ロボット20を非常停止させる構成となっている。この非常停止においては、AGV31だけでなくロボットアーム41についても停止対象となる。
【0018】
ロボットアーム41は、AGV31のボディ上面(載置部32の隣)に固定されたベースと、当該ベースに取り付けられたアームと、アームの先端(手先)に設けられたハンド42(エンドエフェクタ)とを有している。アームは複数の可動部が連結されてなり、関節部毎に、それら可動部を駆動させる駆動モータ45と、各関節部(軸)の回転角度を検出するロータリエンコーダ46と、各関節部(軸)の回転トルクを検出するトルクセンサ47とが配設されている(
図3参照)。
図3に示すように、駆動モータ45、ロータリエンコーダ46、トルクセンサ47は、制御装置50に接続されており、制御装置50の駆動制御部51では、ロータリエンコーダ46により検出された回転角度等に基づいて各駆動モータ45の駆動制御を行う。
【0019】
制御装置50には、通信ケーブルを介してティーチングペンダント60を接続可能となっている。ティーチングペンダント60には、設定支援アプリケーションがインストールされており、ユーザによるロボット20の動きの設定(所謂ティーチングを含む)が支援される。ティーチングペンダント60は、ユーザにより設定されたロボット20の動きを示す動作シーケンスを制御装置50に送信し、制御装置50の駆動制御部51はこの動作シーケンスに基づいてAGV31やロボットアーム41の駆動制御を行う。以下、
図1及び
図4を参照して、ロボット20が担当する作業について説明する。
【0020】
ロボット20は、先ずストックエリアE1にて空のコンテナ18を自身にセットする(シーンSN1)。具体的には、ロボットアーム41を伸ばして棚13に収容されている空のコンテナ18を掴み、当該コンテナ18を自身の載置部32へ載せる。その後は、ロボットアーム41を待機姿勢に戻し、通路E4を通って加工エリアE2へ移動する(シーンSN2)。なお、待機姿勢となっているロボットアーム41は、ロボット20を上方から見てAGV31からのはみ出しが回避される。
【0021】
加工エリアE2においては、当該加工エリアE2に配列された複数の加工機14から加工が完了したワークを収集する(シーンSN3)。具体的には、ロボットアーム41を伸ばして加工機14のチャックに保持されているワークをハンド42で掴み、当該ワークを取り出してセットされているコンテナ18に収容する。この動きを加工機14毎に繰り返し、集まったワークの数が所定数に達した場合に収集完了となる。収集完了後は、ロボットアーム41を待機姿勢に戻し、ワークを収容したコンテナ18を通路E4を通って集積エリアE3へ搬送する(シーンSN4)。
【0022】
集積エリアE3では、ワークを収容しているコンテナ18の荷下ろしを行う。具体的には、当該コンテナ18をパレット15上に段積みする(シーンSN5)。パレット15に段積みされたコンテナ18群は、次の工程(例えば別の加工工程)へと順次搬送される。
【0023】
なお、上記シーンSN3ではワークが整列した状態でコンテナ18に収容されるが、何らかの要因によってコンテナ18内でワークが山積みとなった場合には、コンテナ18の段積みの妨げになり得る。そこで、上記シーンSN4では、ロボットアーム41により必要に応じてコンテナ18内でワークの位置を変更する作業が実行される。この変更作業は搬送と並行して行われる。
【0024】
集積エリアE3にて荷下ろしを終えたロボット20は、ロボットアーム41を待機姿勢に戻し、通路E4を通って集積エリアE3からコンベア11の終点へと移動する(シーンSN6)。そして、コンベア11からワークの材料が収容されたコンテナ18を受け取る(シーンSN7)。具体的には、コンベア11に併設されたクレーンによってコンテナ18が載置部32にセットされる。この受け取りに際しては、ロボットアーム41がコンテナ18との衝突を回避すべく、一時的に向きを変える。
【0025】
コンテナ18がセットされたロボット20は、当該コンテナ18を通路E4を通ってストックエリアE1へ搬送する(シーンSN8)。ストックエリアE1へ到達した後は、セットされているコンテナ18を棚12へ収納する(シーンSN9)。
【0026】
収納完了後は、再びシーンSN1~SN9の一連の作業を繰り返す。このように、本実施形態では、シーンSN1~SN9によってロボット20の作業ルーティーンが構築されている。なお、コンベア11の稼動状況によっては、シーンSN7~SN9はスキップされる。
【0027】
シーンSN1~SN9では、ロボット20が位置するエリアや作業の具体的な内容だけでなく、人との関係(協働の有無等)が異なる。以下、
図5を参照して、作業ルーティーンにおける一部のシーン、具体的にはシーンSN3~シーンSN5について説明する。なお、以下の説明では便宜上、「シーン」を「作業シーン」とも称する。
【0028】
シーンSN3の作業(ピッキング)が行われる加工エリアE2は、ロボット20とともにエリア担当者(人)が作業する協働エリアとなっている。具体的には、棚12に収納されているコンテナ18から材料を取り出して加工機14へ投入する投入作業、各加工機14のセッティング作業及び各加工機14の動作確認作業の各作業は、当該加工エリアE2のエリア担当者の役割となっており、加工後のワークを収集する収集作業はロボット20の役割となっている。つまり、加工エリアE2では、エリア担当者及びロボット20の両者が加工機14に係る作業を分担して行う。
【0029】
シーンSN4の作業(搬送)については、作業エリアが通路E4となるように規定されており、シーンSN5の作業(パレタイジング)については、作業エリアが集積エリアE3となるように規定されている。シーンSN4,SN5の各作業については、ロボット20の単独作業(非協働作業)となっている点で何れもシーンSN3と異なる。但し、通路E4については人(エリア担当者等)も通行可となっているのに対して、シーンSN5については基本的に人の立ち入りが禁止となっている。つまり、シーンSN4とシーンSN5とでは、エリアの運用の違いによってロボット20と人とが接触する可能性に差が生じている。具体的には人とロボット20とが接触する可能性はシーンSN5よりもシーンSN4の方が高くなっている。
【0030】
このように、ロボット20は、作業ルーティーン中に人と接触する可能性があり、上記レーザスキャナ37や非常停止スイッチ38以外にもロボット20の安全性を高める構成を備えている。以下、
図6を参照してロボット20の安全機能に係る構成について補足説明する。
【0031】
ロボット20に適用されているロボット制御システムCSは、安全関連入力信号に応答して安全関連出力信号を出力することによりロボット20の安全機能を実現する安全関連部Xと、当該安全関連部Xにより安全が確認されAGV31やロボットアーム41の動作が許可されている場合にそれらAGV31やロボットアーム41の駆動制御を行う非安全関連部Yとに分類される。
【0032】
安全関連部Xは、上記安全関連入力信号を入力する入力部X1と、安全確認を行う論理部X2と、安全関連出力信号を出力する出力部X3とで構成されており、本実施形態では、レーザスキャナ37や非常停止スイッチ38等が入力部X1に相当し、制御装置50に設けられた監視制御部(セーフティコントローラ)52が論理部X2に相当し、制御装置50に付属の安全コンタクタが出力部X3に相当する。
【0033】
安全コンタクタは、AGV31の走行モータ35用の駆動回路に設けられたスイッチやロボットアーム41の駆動モータ45用の駆動回路に設けられたスイッチに接続されている。これらスイッチに安全コンタクタから安全関連出力信号が出力されることで、各モータ35,45への電力供給が遮断され、ロボット20が強制的に停止される。
【0034】
本実施形態に示す安全関連部Xについては、レーザスキャナ37や非常停止スイッチ38の他に上記ロータリエンコーダ46及びトルクセンサ47を含んでいる。つまり、ロータリエンコーダ46からの検出信号やトルクセンサ47からの検出信号が、上記安全関連入力信号として論理部X2に入力される。論理部X2では、ロータリエンコーダ46及びトルクセンサ47からの検出信号に基づいてロボット20の動作を監視している。ここで、論理部X2(制御装置50の監視制御部52)にて定期処理の一環として実行される動作監視処理を
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0035】
動作監視処理においては先ず、ステップS101にて上記ロータリエンコーダ46及びトルクセンサ47からの検出信号に基づいて、ロボット20(ロボットアーム41)の手先(所謂ツールセンタポイント)の力(推力)、速さ、位置(座標)の各動作監視用パラメータを特定する。
【0036】
続くステップS102では、手先の力が予め定められている基準値(力の閾値)よりも弱いかを判定する。この基準値については制御装置50のメモリに予め記憶されている。手先の力が基準値よりも弱い場合には、ステップS103に進み、手先の速さが基準値(速さの閾値)よりも遅くなっているかを判定する。手先の速さが基準値よりも遅い場合には、ステップS104に進み、手先の位置が基準範囲(動作許容範囲)内となっているかを判定する。手先の位置が基準範囲内となっている場合には、そのまま本動作制御処理を終了する。以下の説明では、各基準値及び基準範囲を「判定基準」とも称する。
【0037】
一方、ステップS102~S104に示す3つの要件の何れかを満たしていない場合には、ステップS105にて緊急停止用及び異常報知用の各処理を実行した後、本動作監視処理を終了する。緊急停止用の処理では、モータ35,45への電力供給を強制的に遮断することでロボット20を停止(以下、非常停止ともいう)させる。そして、異常報知用の処理ではロボット20に設けられた警告ランプを点灯させるとともに、異常が発生した旨の情報を工場10の管理システムへ送信する。このように、本実施形態では、ロボット20の手先の力、速さ、位置が当該ロボット20の動作を監視するための動作監視用パラメータとなっている。
【0038】
なお、動作監視用パラメータについてはロボット20の手先の力、速さ、位置に限定されるものではない。これらに代えて又は加えて、各関節部(軸)の力(回転トルク)、速さ(回転速度)、位置を示す各パラメータを動作監視用のパラメータとすることも可能である。
【0039】
また、本実施形態では、動作監視用パラメータの判定基準がロボットアーム41(詳しくは手先)の動きを抑制(制限)するための目標としても機能する。例えば、ユーザがロボットアーム41等に直接触れてロボット20に動きを教示(ティーチング)する場合には、勢いに任せてロボットアーム41が押し引きされることで、上記判定基準を超えるような動きが設定され得る。このような場合であっても、ロボットアーム41の動きが判定基準を超えない範囲で収まるように補正されることにより、作業中に判定基準を超えることで非常停止が頻発することを抑制している。
【0040】
ここで、ロボット20を様々な作業に従事させる場合には、安全機能が画一的となって安全性の向上と作業効率の向上とを両立することが難しくなると想定される。本実施形態では、このような事情に配慮して、ロボット20の安全機能、具体的には各動作監視用パラメータの判定基準を複数段階で切替可能としている。以下、
図8を参照して、安全機能の切り替えに係る構成について説明する。
【0041】
安全関連部Xによる安全機能を切替可能なコントロールデバイスとして、(1)ティーチングペンダント60、(2)駆動制御部51(詳しくはパックスクリプト)、(3)外部汎用入出力(以下、IOという)の3つが設けられている。これら3つのコントロールデバイスについては何れも非安全関連部Yに相当する。
【0042】
ティーチングペンダント60には安全機能切替用のアプリケーションがインストールされており、ユーザにより動作監視パラメータの判定基準の切替操作が行われた場合には、当該切り替えを指示する指令(リクエストコマンド)及び当該指令が正常に送受信されたかを診断するための診断用情報(CRC)が安全関連部Xの安全FPGA(Field Programmable Gate Array)に送信される。安全FPGAでは、この指令に基づいて動作監視パラメータの判定基準を切り替える。例えば、ユーザが上述したティーチングを行う場合には、ユーザの操作に応じて動作監視パラメータの判定基準を切り替えることにより安全機能が教示作業の妨げになることを好適に抑制できる。なお、安全関連部Xの論理部X2に係る具体的構成については安全FPGAに限定されるものではなく、マイコンやCPUとすることも可能である。
【0043】
なお、IOにはセンサや工場10のコントロールセンタ等が通信可能に接続されており、ティーチングペンダント以外の外部機器からも安全機能の切り替えが許容されている。
【0044】
また、本実施形態に示すロボット制御システムCSについては、制御装置50の判断によって能動的に安全機能を切替可能な構成が採用されている。具体的には、ロボット20の作業シーンに応じて動作監視パラメータの判定基準の切り替えがなされる構成となっている。以下、このような切替を実現すべく、駆動制御部51にて定期処理の一環として実行されるタスク監視用処理について説明する。
【0045】
ロボット20の動作プログラムでは作業シーンにおけるロボット20の動きが複数のタスクの組み合わせによって規定されており、
図9に示すタスク監視用処理においては先ず、ステップS201にて現在進行している作業に係る全てのタスクが完了したタイミングであるか否かを判定する。
【0046】
全てのタスクが完了したタイミングではない場合には、ステップS201にて否定判定をして、そのまま本タスク監視用処理を終了する。全てのタスクが完了したタイミングである場合には、ステップS201にて肯定判定をして、ステップS202に進む。駆動制御部51にて参照される上記動作プログラムには、最後のタスクが終了する時点で次の作業シーンを特定するための情報が含まれており、ステップS202では、この情報に基づいて次の作業シーンを特定する。
【0047】
続くステップS203では、ステップS202にて特定した作業シーンに応じて安全関連部Xの安全FPGAに対する安全機能の切り替えの指示を決定する。具体的には、安全機能の切り替えを要求するリクエストコマンドと、当該リクエストコマンドの送受信が正常に行われたかを診断するための診断用情報であるCRCとを設定する。本実施形態における安全機能については、ロボット20の作業シーン(シーンSN1~SN9)毎に規定されている。つまり、ステップS203にて設定されるリクエストコマンドについては、作業シーンの切り替えを安全関連部Xに要求しているとも言える。このような事情に鑑みれば安全機能切替を指示するリクエストコマンドは「シーンチェンジコマンド」であるとも言える。
【0048】
ここで、
図10を参照して、リクエストコマンド及びCRCについて補足説明する。リクエストコマンドは、送信元となるコントロールデバイスを識別するための情報と、今回のリクエストが安全機能の切り替えであることを示す情報とを含むコマンドIDと、以降の判定にて参照すべき判定基準を示すデータ(シーン番号)とで構成されている。
【0049】
安全機能の切り替えに係るリクエストコマンドの送信元が、ティーチングペンダント60である場合にはコマンドID=「11」、駆動制御部51(詳しくはパックスクリプト)である場合にはコマンドID=「12」、IOである場合にはコマンドID=「13」となる。
【0050】
また、安全機能の切り替えに係るリクエストコマンドが設定される場合のデータについては、「1」~「9」の9つの番号の何れかとなる。例えば、次の作業シーンがシーンSN3(ピッキング)である場合にはデータ=「3」、次の作業シーンがシーンSN4(搬送)である場合にはデータ=「4」、次の作業シーンがSN5(パレタイジング)である場合にはデータ=「5」となる。
【0051】
CRCについては、コマンドIDとデータの番号とのチェックサムである。例えば、駆動制御部51が送信元であり且つ次の作業シーンがシーンSN4の搬送である場合には、CRC=「12」+「4」=「16」となる。
【0052】
ステップS203にてリクエストコマンド及びCRCを設定した後は、ステップS204にてシーンチェンジシーケンスを開始して、当該タスク監視用処理を終了する(
図9参照)。以降は、シーンチェンジシーケンス終了までタスク監視用処理が回避される。
【0053】
次に、
図11を参照して非安全関連部Yと安全関連部X(詳しくは安全FPGA)とで実行されるシーンチェンジシーケンスについて説明する。
【0054】
シーンチェンジシーケンスにおいては先ず非安全関連部Yから安全関連部Xに当該安全関連部Xの安全機能の切り替え、具体的には動作監視用パラメータの判定基準の切り替えを指示する。具体的には、リクエストコマンド及びCRCを安全関連部Xに送る(ts1参照)。
【0055】
安全関連部Xでは、非安全関連部Yからの指示を受けたことに基づいて、今回のリクエストコマンド及びCRCに破損等の異常が発生していないかを診断する。具合的には、リクエストコマンドのコマンドIDの番号とデータの番号とを足した数が、CRCと一致しているかを判定する(ts2参照)。これらが一致している場合には、今回の指示が正常に送受信されたとみなし、次にリクエストコマンド自体が正常であるかを診断する。具体的には、コマンドIDを参照して、今回の指示が安全機能の切り替えであることを特定し、データが今回のコマンドIDに対応する範囲内であるかを判定する(ts3参照)。上述したように、コマンドIDが「11」~「13」である場合には、データが「1」~「9」の何れかとなる。今回のデータが「1」~「9」の何れかである場合には、リクエストコマンドが正常であると判定する。
【0056】
なお、ts2又はts3にて正常でないと診断した場合には、工場10のコントロールセンタ等に通信エラー等の異常が発生している旨を報知し、本シーンチェンジシーケンスを終了する。
【0057】
今回のリクエストコマンドが正常であると診断した場合には、当該コマンドを受理し、非安全関連部Yの指示に応じて安全機能、すなわち動作監視用パラメータの判定基準を切り替える(ts4参照)。具体的には、安全関連部X(詳しくは制御装置50のメモリ)には、データの番号と各動作監視用パラメータとの対応関係が記憶されている。指定されたデータの番号と、メモリに記憶されている対応関係とに基づいて、動作監視用パラメータを切り替える。
【0058】
例えば、
図12に示すように、次の作業シーンがデータ=「3」の「ピッキング」である場合には、力の動作監視用パラメータの判定基準=70N、速さの動作監視用パラメータの判定基準=125mm/s、位置の動作監視用パラメータの判定基準=AGV31の上方領域+ワークの取り出し動作を考慮したAGV31の外側領域(ロボット20の平面視における外側領域)となる。このケースでは、手先の力が70Nを超えた場合、手先の速さが125mm/sを超えた場合、手先の位置がAGV31の上方領域+ピッキング用の拡張領域を外れた場合の何れかに該当したことに基づいてロボット20が非常停止されることとなる。
【0059】
次の作業シーンがデータ=「4」の「搬送」である場合には、力の動作監視用パラメータの判定基準=140N、速さの動作監視用パラメータの判定基準=250mm/s、位置の動作監視用パラメータの判定基準=AGV31の上方領域となる。このケースでは、手先の力が140Nを超えた場合、手先の速さが250mm/sを超えた場合、手先の位置がAGV31の上方領域を外れた場合(平面視にてロボットアーム41がAGV31からはみ出した場合)の何れかに該当したことに基づいてロボット20が非常停止されることとなる。
【0060】
次の作業シーンがデータ=「5」の「パレタイジング」である場合には、力の動作監視用パラメータの判定基準=能力上限(最大強さ)+αN、速さの動作監視用パラメータの判定基準=能力上限(最大速さ)+βmm/s、位置の動作監視用パラメータの判定基準=能力上限(最大可動範囲)+γとなる。このケースでは、判定基準が何れも能力の上限を超えているため、実質的に非常停止は回避されることとなる。
【0061】
図11の説明に戻り、安全機能(動作監視用パラメータの判定基準)の切り替えが完了した後は、指示を受理した旨を非安全関連部Yに報告する。具体的には、アクノレッジ信号を非安全関連部Yに送る(ts5参照)。非安全関連部Yでは、安全関連部Xからアクノレッジ信号が届いた場合に、安全関連部Xに対して切替後の安全機能の設定を特定するための情報、すなわち現在参照対象として設定されている動作監視用パラメータの判定基準を特定するための情報を要求する(ts6参照)。この要求においても、CRCを付加してもよい。
【0062】
安全関連部Xは、非安全関連部Yからの確認要求に応じて、当該非安全関連部Yにリクエストコマンド(詳しくはリクエストコマンドを模したコマンド)と当該リクエストコマンドの送受信が正常に行われたかを診断するための診断用情報であるCRCとを送る(ts7参照)。安全関連部Xからのリクエストコマンドについては、非安全関連部Yからの上記リクエストコマンドと同様に、送信元が安全関連部Xであることを識別するための情報と、今回のリクエストが安全機能の切り替えであることを示す情報とを含むコマンドIDと、以降の判定にて参照すべき判定基準を示すデータ(シーン番号)とで構成される。そして、CRCについては今回返答するコマンドのコマンドIDの番号とデータ番号とを足した数となる。例えば、現在の設定が非安全関連部Yからの要求に応じてシーンSN5の「パレタイジング」に対応している場合には、コマンドID=「19」、データ番号=「5」、CRC=「24」を返す。因みに、CRCは、コマンドIDとデータ番号とに基づいて決定されるのであれば足り、その具体的な計算方法については任意である。
【0063】
なお、安全関連部Xから非安全関連部Yに送信されるリクエストコマンドのコマンドIDとデータとの和については、今回のシーケンスの開始時に非安全関連部Yから安全関連部Xに送信されたリクエストコマンドのコマンドIDとデータとの和に対して不一致となる。同様に、安全関連部Xから非安全関連部Yに送信されるリクエストコマンドに付随するCRCについては、今回のシーケンスの開始時に非安全関連部Yから安全関連部Xに送信されたリクエストコマンドに付随したCRCに対して不一致となる。
【0064】
安全関連部Xから返答を受けた非安全関連部Yは、今回の返答が正常に送受信されたかをリクエストコマンドとCRCとに基づいて診断する。具合的には、リクエストコマンドのコマンドIDの番号とデータの番号とを足した数が、CRCと一致しているかを判定する(t8参照)。これらが一致している場合には、今回の返答が正常に送受信されたとみなし、次に非安全関連部Yからのリクエストに応じて安全関連部Xの安全機能が正常に切り替わったかを判定する(t9参照)。具体的には、非安全関連部Yには安全関連部XからのリクエストコマンドのコマンドIDとデータとの関係が記憶されており、これらの関係を踏まえて、自身が安全関連部Xに送ったリクエストコマンドのコマンドID及びデータと内容が一致しているかを判定する。
【0065】
安全関連部Xからの返答が自身の指示に一致していることが確認された場合に、シーンチェンジシーケンス完了となる。
【0066】
以上詳述した第1の実施形態によれば、以下の優れた効果が期待できる。
【0067】
安全機能(判定基準)を切り替える場合には、非安全関連部Yから安全関連部Xに切り替えの指示がなされる。この指示はリクエストコマンド及びCRCで構成されており、安全関連部Xではリクエストコマンド及びCRCに基づいて指示が正常に届いたかが診断され、当該指示自体が正常であるかが診断される。診断で異常無しとなった場合には、非安全関連部Yからの指示が受理され、安全関連部Xでは当該指示に従って参照対象となる判定基準を切り替える。つまり、非安全関連部Yからの指示であっても、当該指示に送信エラー等による異常が無いと判断した場合には、判定基準の切り替えがなされる。このようにして、非安全関連部Yからの安全な切替を実現すれば、ロボット制御システムCSにおける安全機能の変更に係る操作性を好適に向上させることができる。
【0068】
次に、安全関連部Xから非安全関連部Yへ指示を受理した旨が報知され、当該報知を受けた非安全関連部Yは安全関連部Xに対して現在参照対象となっている判定基準(切替後の判定基準)を特定可能な情報を要求する。安全関連部Xではこれに応答して、当該情報とCRCとからなる情報群を非安全関連部Yに送る。非安全関連部Yは、安全関連部Xからの応答が正常に届いたかをCRCに基づいて診断し、実際に設定されている判定基準が当初の指示により指定した判定基準となっているかを診断する。つまり、非安全関連部Yでは、自身の指示によって安全関連部Xにおける安全機能の切り替えが正常に行われたかを確認可能となっている。
【0069】
本実施形態に示した構成によれば、非安全関連部Yから安全関連部Xの安全機能を切り替える場合であっても、安全機能の変更に対する信頼性の低下を抑制し、安全機能を変更するための入力についても入力部X1からの入力(所謂安全入力)とする場合と比較して当該変更に係る制約が強くなることを回避できる。これにより、安全機能変更の操作性を好適に向上させることができる。
【0070】
因みに、1のロボットを様々な作業に従事させる場合、作業に応じて安全機能を変更(操作)可能とすることは、安全性に配慮しつつロボットの作業効率の向上を図る上で有利となる。非安全関連部Yからの安全機能の切り替えを可能とすることは、複数種類の作業へのロボットの適用を促し、工場の自動化を推進する上でも好ましい。
【0071】
本実施形態に示したように、安全関連部Xにおいて予め記憶されている指令の種類と今回の指令とを照合することにより非安全関連部Yからの指示自体が正常であるかを診断する構成とすれば、ビットの固着や通信エラー等によって指令が損傷した場合に、当該損傷した指令に基づいて安全機能が切り替わってしまうことを好適に抑制できる。
【0072】
複数種類の判定基準(力基準、速さ基準)について切り替えを行う場合には、各判定基準を個別に指定するのではなく、予め規定されたそれら基準の組み合わせ(シーン番号)を指定することにより、非安全関連部Yから安全関連部Xへの指示が複雑になることを抑制できる。これは、安全機能に配慮しつつロボットが従事可能な作業の数が増やす上で好ましい構成である。
【0073】
1のロボットが異なる複数の作業を担うことは、製造等の自動化を促進する上で好ましい。但し、作業シーンに関わらずロボットの安全機能を画一的とした場合には、安全性の向上と作業効率の向上との両立が難しくなる。この点、本実施形態に示した構成では、作業シーンを識別して、作業シーン毎に監視用の判定基準が変更される。これにより、ロボットの安全性の向上と作業効率の向上とに寄与できる。
【0074】
ここで、ロボットの安全性を向上させる上では、ロボットの動作状態(位置、向き、速さ等)が変わる毎に安全機能を逐次変化させる構成とすることも可能である。しかしながら、このような構成とした場合には、ロボット制御システムにおける制御負荷が大きくなり、ロボット制御システム本来の機能(ロボットの駆動制御)に影響が及ぶこととなる。この点、ロボットの動きが作業毎に変わる点に鑑みれば、本実施形態に示したように作業シーン毎に判定基準を切り替える構成とすることにはロボット制御システムの本来の機能への影響を抑えつつ、安全性を向上できるという明確な技術的意義がある。
【0075】
動作プログラムに含まれるシーン関連情報に基づいて作業シーンを識別可能とすれば、ロボット制御システムが自身の速やかな判断によって作業シーン毎の判定基準を選択する構成を実現できる。これにより、安全機能の切替に大きな待ち時間が発生することを抑制し、作業効率向上に寄与できる。
【0076】
また、判定基準を切替可能とすることはロボットの安全性に配慮しつつロボットの作業性を向上させる上で好ましい。しかしながら、このような切替機能を具備した場合には、以下の新たな懸念が生じる。すなわち、仮に偶発的な理由等で1の作業中に突如として判定基準の切り替えが発生すると、本来であれば問題のない動きが監視に引っかかるといった事象が発生し得る。これは、ロボットの非常停止等の機会を不要に増やして作業効率を低下させる要因となる。そこで、本実施形態に示したように、実行中の1の作業が完了するまで作業シーンに応じた判定基準の切り替えを不可として上記事象の発生を抑えることにより実用上好ましい構成が実現できる。
【0077】
なお、手先の位置を示す動作監視パラメータの判定基準についても力や速さを示す動作監視パラメータの判定基準とともに切替可能とすることで、ロボットの力や速さの監視が過度にシビアになることを抑制できる。これは、ロボットの作業効率を向上させる上で好ましい。
【0078】
<第2の実施形態>
上記第1の実施形態に示したロボット制御システムCSについては、作業シーンに応じて安全機能を変更することによりロボット20の作業効率や安全性の向上等を実現した。本実施形態においては、安全機能の変更に際して、作業シーンを円滑に移行させる工夫がなされていることが特徴の1つとなっている。以下、先ず
図13を参照して、着目した事象について説明する。
【0079】
作業シーンの切り替えが発生した場合の判定基準(基準値)の変更については、以下の2つのパターンに大別される。すなわち、
図13(a)に示すように作業シーンの切り替えによって基準値が引き上げられるパターンと、
図13(b)に示すように作業シーンの切り替えによって基準値が引き下げられるパターンとに大別される。以下の説明では、ロボット20の手先の力について例示するが、手先の速さについても同様の事象が発生する。
【0080】
図13(a)に示す例では、切替前の作業シーンではロボット20の手先の力(検出値)が基準値よりも低くなるように推移している。作業シーンの切り替えが発生するt0のタイミングでは、基準値が引き上げられており、検出値と基準値との差が大きくなっている。つまり、作業シーンの切り替えに合せて基準値が引き上げられても、検出値が基準値を下回ったままとなる。作業シーンの切り替えによって上述した出力制限等が緩和され、ロボット20の手先の力や速さが増加し得るものの、作業のスケジュールやモータの動きの遅れ等によって瞬時に検出値が跳ね上がるわけではない。このため、作業シーン切替直後、具体的には作業シーンの切替後の最初の監視周期(サンプリング周期)となるt1のタイミングでは、検出値が新たに設定された基準値を下回ったままとなっている。つまり、作業シーンの切替時に検出値が基準値を上回ってロボット20が非常停止されるといった事象は発生していない。
【0081】
これに対して、
図13(b)に示す例では、切替前の作業シーンではロボット20の手先の力(検出値)が基準値よりも低くなるように推移している。この点では、
図13(a)に示す例と同様である。但し、
図13(a)では作業シーンの切り替えが発生するt0のタイミングにて基準値が引き上げられている(判定基準が緩くなっている)一方、
図13(b)では作業シーンの切り替えが発生するt0のタイミングにて基準値が引き下げられている(判定基準がシビアになっている)。
図13(b)のパターンLのように、t0のタイミングまでの期間にて、検出値が切替前及び切替後の両基準値を下回るようにして推移している場合には、当該t0のタイミングや直後のt1のタイミングにて検出値が切替後の基準値を上回ることはない。一方で、
図13(b)のパターンHのように、t0のタイミングまでの期間にて、検出値が切替前の基準値と切替後の基準値との間を推移している場合には、当該t0のタイミングや直後のt1のタイミングにて検出値が切替後の基準値を上回ることとなる。その後、作業シーンの切り替えに伴って上述した出力制限等が厳しくなったとしても直ちに検出値が切替後の基準値を下回るとは限らない。このような事象が発生してロボット20が非常停止されること、すなわち本来であれば必要のないタイミングで非常停止となることは、ロボット20に対する信頼性やロボット20による作業効率(生産効率)の向上を図る上で妨げになり得る。
【0082】
本実施形態では、このような事情に配慮して、作業シーンの切り替えに係る構成が工夫されている。以下、
図14のフローチャートを参照して、当該工夫、具体的には監視制御部52により動作監視処理(定期処理)の一環として実行されるシーン切替時監視用処理について説明する。なお、
図14においては便宜上、作業シーンの切り替え直後となる部分の時間のスケールや検出値が基準値を正規に上回っている部分の時間のスケールを、他の部分の時間のスケールよりも拡大した態様の記載としている。
【0083】
シーン切替時監視用処理においては先ず、ステップS301にてメモリのフラグ格納エリアに特殊監視フラグがセットされているか否かを判定する。特殊監視フラグがセットされていない場合には、ステップS301にて否定判定をしてステップS302に進む。ステップS302では、作業シーンの切り替えが発生したかを判定する。具体的には非安全関連部Yから安全機能の切り替えの指示を受理したかを判定する。作業シーンの切り替えが発生していない場合には、そのまま本監視用処理を終了する。作業シーンの切り替えが発生した場合にはステップS303に進む。ステップS303では、判定基準の切り替えを行う。具体的には、動作判定にて参照される基準値を新たな作業シーンに対応する基準値に切り替える。続くステップS304では、メモリのフラグ格納エリアに特殊監視フラグをセットして本監視用処理を終了する。
【0084】
以下便宜上、切替前の作業シーンを「作業シーンA」、当該作業シーンAに対応する基準値を「基準値FA」、切替後の作業シーンを「作業シーンB」、当該作業シーンBに対応する基準値を「基準値FB」として説明する。
【0085】
ステップS301の説明に戻り、特殊監視フラグがセットされている場合には、ステップS305にて作業シーンを作業シーンAから作業シーンBに切り替えた後、ロボット20(手先)の動きを最初に確認するタイミングとなったか否かを判定する。具体的には、メモリには作業シーン切替後の本監視用処理の実行回数を把握するためのカウンタが設けられている。このカウンタの値nは特殊監視フラグがセットされた際に「0」→「1」となり、以降は本監視用処理が実行される度に1ずつ加算され、特殊監視フラグが消去される際に0クリアされる。ステップS305ではこのカウンタの値nを参照して最初の確認のタイミングであるかを判定する。
【0086】
ステップS305にて肯定判定をした場合にはステップS306に進む。ステップS306では今回の検出値Ft1が切替後の基準値FBを下回っているかを判定する。検出値Ft1が基準値FBを下回っている場合には、ステップS307にて上記特殊監視フラグを消去して、本監視用処理を終了する。検出値Ft1が基準値FBに達している場合には、ステップS306にて否定判定をして、ステップS308に進み、力、速さの減制御の割込みを開始する。
【0087】
ステップS308の処理では、ロボット20の手先の動きを抑制すべく駆動モータ45の駆動制御に介入する。具体的には、駆動モータ45に供給される電力等を一定程度制限する。この減制御の割込みについては、監視周期が上限回数であるn回となるまで(所定期間が経過するまで)繰り返されるまで継続されることとなる。なお、制限の程度及び上限回数については、ステップS308の処理を実行する際に基準値FA及び基準値FBに基づいて算出する構成としてもよいし、プログラムバンク等に予め登録されたものを読み出す構成としてもよい。因みに、本減制御の割込みではロボット20を停止させることはない。
【0088】
ステップS308の減制御の割込みが開始されることにより、検出値が強制的に引き下げられることとなる。続くステップS309では、減制御の割込みを開始した後の各監視周期における検出値Ftnの減制御目標値Tn(中間目標値Tn又は目標値Tn)を設定する。具体的には、ステップS308の減制御による減少率は一定となるように規定されており、その減少率と上記検出値Ft1とに基づいて減制御目標値Tnが設定される。
【0089】
ステップS305の説明に戻り、最初の確認のタイミングではないと判定した場合、すなわち2回目以降のタイミングであると判定した場合には、ステップS310に進む。ステップS310では、今回の検出値FtnがステップS310にて設定された今回の減制御目標値Tnを下回っているかを判定する。今回の検出値Ftnが今回の減制御目標値Tnを下回っていない場合には、ロボット20に想定外の動き(異常)が発生している可能性があるため、ステップS311にて緊急停止用及び異常報知用の各処理を実行した後、本監視用処理を終了する。緊急停止用の処理では、モータ35,45への電力供給を強制的に遮断することでロボット20を非常停止させる。そして、異常報知用の処理ではロボット20に設けられた警告ランプを点灯させるとともに、異常が発生した旨の情報を工場10の管理システムへ送信する。
【0090】
ステップS310の説明に戻り、今回の検出値Ftnが今回の減制御目標値Tnを下回っている場合には、ステップS310にて肯定判定をしてステップS312に進む。ステップS312では、今回の検出値Ftnが切替後の基準値である基準値FBを下回っているか否かを判定する。ステップS312にて否定判定をした場合には、ステップS313に進み、今回の監視周期すなわち作業ステージの切替後に本監視用処理が実行された回数がステップS309で設定された上限回数となったか否かを判定する。上限回数に達していると判定した場合には、ステップS311に進む。本来であれば上限回数到達前に検出値が基準値を下回るように減制御の割込みがなされるところ、上限回数到達時にも未だ検出値が基準値を下回るように引き下げられていない場合には、ロボット20の動きに想定外の動き(異常)が発生している可能性があると想定される。そこで、ステップS311にてロボット20の非常停止及び異常報知を実行した後に本監視用処理を終了する。ステップS313にて上限回数に達していないと判定した場合には、ステップS314にて上記カウンタの値nを「1」加算して本監視用処理を終了する。
【0091】
ステップS312の説明に戻り、当該ステップS312にて肯定判定をした場合、すなわち検出値Ftnが切替後の基準値FBを下回っている場合には、ステップS315に進む。ステップS315では上記減制御の割込みを終了する。これにより、検出値の強制引き下げが解除されることとなる。その後は、ステップS316にて特殊監視フラグを消去して、本監視用処理を終了する。
【0092】
ここで、
図15のタイミングチャートを参照して、作業シーンAから作業シーンBへの作業シーンの切り替えに伴う検出値の変化について補足説明する。
【0093】
作業シーンAから作業シーンBへ切り替わるt0のタイミングでは、検出値(検出値Ft0)が基準値FAと基準値FBとの間に位置している。作業シーン切替直後のt1のタイミング、すなわちt0のタイミングの次周期のt1のタイミングでは、検出値Ft1が基準値FBを上回ったままとなっている。本来であれば、この時点で非常停止且つ異常報知が実行されるところ、この検出値に基づく非常停止及び異常報知については回避される。そして、このt1のタイミングでは、検出値を強制的に引き下げるべく減制御の割込みが開始される。
【0094】
以降の各周期(t2~t4のタイミング)では検出値Ft2~Ft4が減制御目標値T2~T4を各々下回っており、予定通りに検出値が引き下げられている。そして、t5のタイミングでは、周期が上限回数に達する前に予定通り基準値FBを下回っている。これにより、減制御の割込みが終了している。仮に、t2~t5のタイミングにて予定通りに検出値が引き下げられなかった場合には、その時点で非常停止及び異常報知が実行される。
【0095】
減制御の割込みが終了したt5のタイミング以降は、実際の検出値についても基本的に基準値FBを下回るようにして推移する。そして、t6~t7のタイミングに示すように、検出値が基準値FBに達するように変化した場合に、非常停止及び異常報知が実行されることとなる。
【0096】
以上詳述した構成によれば、作業シーンの切り替えに伴って安全機能を変更する場合であっても、当該変更に起因してロボット20が非常停止(誤停止)される機会を減らすことができる。このようにして、ロボット20の誤停止を抑制することは、ロボット20による生産効率の向上等を実現する上で好ましい。
【0097】
なお、本実施形態に示す構成をレーザスキャナ37等を用いて人との距離を検出し、ロボット20の作業シーン(例えば人協働シーン)を人との距離の検出結果によって切り替える構成に適用することも可能である。具体的には、ロボット20と人との距離が相対的に近い場合の基準値(近距離対応の基準値)を相対的に遠い場合の基準値(遠距離対応の基準値)よりも低くなるように構成することで更なる安全性の強化が期待できる。但し、人との距離は突発的に変わることがあるため、基準値が高→低となった際に上記誤停止が発生する機会が多くなることで生産性等への影響が顕著となり得る。この点、本実施形態に示した構成を適用すれば、突発的に作業シーンを遠距離対応の作業シーンから近距離対応の作業シーンに切り替わった場合であっても、ロボット20の誤停止等を抑制することができる。
【0098】
<第3の実施形態>
上記第2の実施形態では、作業シーンの切替を契機として減制御の割込みを開始する構成とした。本実施形態では減制御の割込みに関する構成が第2の実施形態と相違している。以下、
図16のフローチャートを参照して、第2の実施形態との相違点を中心に本実施形態におけるシーン切替時監視用処理について説明する。
【0099】
本実施形態におけるシーン切替時監視用処理においては先ず、ステップS401にてメモリに切替準備フラグがセットされているか否かを判定する。切替準備フラグがセットされていない場合にはステップS402に進む。ステップS402では作業シーンの切り替えが発生している場合にはステップS403にて判定基準の切り替え、具体的に基準値FA→基準値FBへ変更した後、本監視用処理を終了する。
【0100】
作業シーンの切り替えが発生していない場合には、ステップS404に進む。ステップS404では現在の作業の進行状況を把握する。続くステップS405では現時点での検出値Fxが次に予定されている作業シーン(作業シーンB)の基準値(基準値FB)を下回っているかを判定する。検出値Fxが基準値FBを下回っている場合には、そのまま本監視用処理を終了する。検出値Fxが基準値FBに達している場合にはステップS406に進む。
【0101】
ステップS406では、現在の検出値Fx及び基準値FBの差と、次に予定されている作業シーンまでの残り時間(例えば推定時間)とに基づいて、力、速さ減制御の割込みを開始すべきタイミングであるかを判定する。すなわち、残り時間内に検出値を基準値FBよりも低くなるように引き下げる上で適正なタイミングとなったかを判定する。ステップS406にて否定判定をした場合、現時点の検出値等を考慮してまだまだ残り時間に余裕がある場合には、そのまま本監視用処理を終了する。ステップS406にて適正なタイミングであると判定した場合には、ステップS408にて減制御の割込みを開始する。この減制御の割込みでは、ロボット20の手先の動きを抑制すべく駆動モータ45の駆動制御に介入する。具体的には、駆動モータ45に供給される電力等を一定程度制限する。
【0102】
なお、本実施形態では、適正なタイミングを「可変」としたが、これを「固定」とすることも可能である。つまり、残り時間が所定時間となった場合には、その時点での検出値が基準値FBを超えていることを条件として減制御の割込みを開始する構成としてもよい。
【0103】
その後は、ステップS406にてメモリのフラグ格納エリアに切替準備フラグをセットして、本監視用処理を終了する。
【0104】
ステップS401の説明に戻り、メモリのフラグ格納エリアに切替準備フラグがセットされていると判定した場合には、ステップS409に進む。ステップS409では、作業シーンの切り替えが発生したかを判定する。作業シーンの切り替えが発生している場合にはステップS410にて判定基準の切り替え、具体的に基準値FA→基準値FBへ変更を行う。その後は、ステップS411にて今回の検出値Ft0が基準値FBを下回っているかを判定する。上述したように、本実施形態では作業シーンの切り替えが事前に把握され、当該切り替えを目指して減制御の割込みが実行される。これにより、作業シーンの切り替えが実行されるタイミングでは、基本的には検出値Ft0は基準値FBを下回ることとなる。
【0105】
ステップS411にて肯定判定をした場合には、ステップS412にて減制御の割込みを終了し、ステップS413にて切替準備フラグを消去して、本監視用処理を終了する。
【0106】
ステップS411にて否定判定をした場合には、ステップS414にて緊急停止及び異常報知の各処理を実行した後、本監視用処理を終了する。
【0107】
ここで、
図17のタイミングチャートを参照して、作業シーンAから作業シーンBへの作業シーンの切り替えがなされる場合の検出値の変化について補足説明する。
【0108】
作業シーンAから作業シーンBへ切り替わるt0のタイミングよりも前のtxのタイミングでは、検出値(検出値Fx)が現在の作業シーンAに対応する基準値FAと次の作業シーンBに対応する基準値FBとの間に位置している。txのタイミングでは、次の作業シーンB及び当該次の作業シーンBまでの残り時間を事前に特定し、現時点での検出値、次の作業シーンBに対応する基準値FB、t0のタイミングまでの残り時間とに基づいて、減制御の割込みを開始する適正なタイミングであると判定され、当該減制御の割込みが開始されている。
【0109】
作業シーンAから作業シーンBへ切り替わるt0のタイミングでは、基準値が基準値FAから基準値FBに切り替わり、現時点での検出値が基準値FBを下回っているか判定される。上記減制御の割込みにより検出値が予定通りに引き下げられた場合には、t0のタイミングで検出値が基準値FBを下回り、ロボット20の非常停止等が実行されることはない。これに対して、何らかの事情によって検出値が想定通りに引き下げられずt0のタイミングで検出値が基準値FBに達している場合には、ロボット20が非常停止等が実行されることとなる。
【0110】
以上詳述したように、作業シーンの切り替え前に作業シーン切替までの減制御期間(緩衝領域)を設けることにより、作業シーンの切り替えに伴って安全機能を変更する場合であっても、当該変更に起因してロボット20が非常停止(誤停止)される機会を減らすことができる。このようにして、ロボット20の誤停止を抑制することは、ロボット20による生産効率の向上等を実現する上で好ましい。
【0111】
<第4の実施形態>
本実施形態に示すロボット20ではレーザスキャナ37を用いて人との距離を推定し、ロボット20の作業シーン(例えば人協働を想定していないシーンSN5のパレタイジング)を人との距離の検出結果によって人を想定していない作業シーン(以下、作業シーン1という)と人を想定した作業シーン(以下、作業シーン2という)とに切り替える構成となっており、且つ当該切り替に際して安全機能(判定基準)を変更する構成となっている点で上記第1の実施形態と構成が相違している。作業シーン1における判定基準(基準値F1)については、作業シーン2における判定基準(基準値F2)よりも低くなっている点に鑑みれば、作業シーン2は作業シーン1よりも安全性への配慮が強くなるシーンであると言える。
【0112】
図18に示すように、レーザスキャナ37による検出領域(監視領域)として、ロボット20の直近となる周辺領域CE1と、レーザスキャナ37による監視外の非検出領域CE3及び当該周辺領域CE1の間に設定された緩衝領域CE2とが設けられている。ロボット20が集積エリアE3にて作業している状況下では、作業シーンは上述した人を想定しない作業シーン1となっており、当該ロボット20に近づいた人が周辺領域CE1へ侵入した場合(周辺領域CE1にて人を検出した場合)には作業シーン1から作業シーン2に切り替わる。本実施形態では、このような突発的な切り替えに際して、上記第3の実施形態に示した技術的思想を適用し、作業シーン切り替えの事前準備を行うことにより、安全性と生産効率(作業効率)との向上を図っている。以下、
図19のフローチャートを参照して、当該事前準備に係る構成、具体的には監視制御部52における動作監視処理の一環として実行される特殊切替時監視用処理について説明する。
【0113】
特殊切替時監視用処理においては先ず、ステップS501にてメモリに切替準備フラグがセットされているか否かを判定する。切替準備フラグがセットされていない場合にはステップS502に進む。ステップS502ではレーザスキャナ37からの情報に基づいて緩衝領域CE2にて物体(人)を検出したか否かを判定する。ステップS502にて否定判定をした場合には、そのまま本監視用処理を終了する。ステップS502にて肯定判定をした場合には、ステップS503に進み、次の作業シーンの判定基準(基準値)を事前確認する。具体的には、人が緩衝領域CE2に侵入した場合にはそのまま周辺領域CE1に侵入される可能性があり、周辺領域CE1への侵入を確認した場合には作業シーンが上記作業シーン1から作業シーン2に切り替わる。そこで、ステップS503では、作業シーン2となった場合の基準値F2を事前に確認する。
【0114】
続くステップS504では、現時点での検出値Fxが次に切り替わると想定される作業シーン2の基準値F2を下回っているかを判定する。検出値Fxが基準値F2を下回っている場合には、そのまま本監視用処理を終了する。検出値Fxが基準値F2に達している場合にはステップS505に進む。
【0115】
ステップS505では、力、速さ減制御の割込みを開始する。この減制御の割込みでは、ロボット20の手先の動きを抑制すべく駆動モータ45の駆動制御に介入する。具体的には、駆動モータ45に供給される電力等を一定程度制限する。その後は、ステップS506にてメモリのフラグ格納エリアに切替準備フラグをセットして、本監視用処理を終了する。
【0116】
ステップS501の説明に戻り、メモリのフラグ格納エリアに切替準備フラグがセットされていると判定した場合には、ステップS507に進む。ステップS507では、緩衝領域CE2にて物体(人)を検出したか否かを判定する。ステップS507にて否定判定をした場合、すなわち緩衝領域CE2に物体(人)が検出されなくなった場合には、ステップS508に進み、減制御の割込みを終了する。その後、ステップS509にて切替準備フラグを消去して、本監視用処理を終了する。
【0117】
一方、ステップS507にて肯定判定をした場合には、ステップS510に進む。なお、周辺領域CE1にて物体(人)を検出している場合にもステップS507にて肯定判定され、ステップS510に進む。
【0118】
ステップS510では、作業シーン1から作業シーン2への切り替えが発生したかを判定する。具体的には、周辺領域CE1にて物体(人)を検出したか否かを判定する。作業シーン2への切り替えが発生している場合にはステップS511にて判定基準の切り替え、具体的に基準値F1→基準値F2へ変更する。その後は、ステップS512にて今回の検出値Ft0が基準値F2を下回っているかを判定する。上述したように、本実施形態では作業シーンの切り替えが事前に予測され、当該切り替えを目指して減制御の割込みが実行される。これにより、作業シーンの切り替えが実行されるタイミングでは、基本的には検出値Ft0は基準値F2を下回ることとなる。
【0119】
ステップS512にて肯定判定をした場合には、ステップS508にて減制御の割込みを終了し、ステップS509にて切替準備フラグを消去して、本監視用処理を終了する。
【0120】
ステップS512にて否定判定をした場合には、ステップS513にて緊急停止及び異常報知の各処理を実行した後、本監視用処理を終了する。
【0121】
以上詳述したように、作業シーン1から作業シーン2への切り替え前に作業シーン切替までの減制御期間を設けることにより、作業シーンの切り替えに伴って安全機能を変更する場合であっても、当該変更に起因してロボット20が非常停止(誤停止)される機会を減らすことができる。このようにして、ロボット20の誤停止を抑制することは、ロボット20による生産効率の向上等を実現する上で好ましい。
【0122】
なお、本実施形態においては、非協働となるシーンSN5に作業シーン1及び作業シーン2の切り替えに係る機能を適用した場合について例示したが、これに限定されるものではない。協働となる他の作業シーンに作業シーン1及び作業シーン2の切り替えに係る機能を適用することも可能である。
【0123】
<その他の実施形態>
なお、上述した各実施形態の記載内容に限定されず例えば次のように実施してもよい。ちなみに、以下の各構成を個別に上記各実施形態に対して適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて上記各実施形態に対して適用してもよい。また、上記各実施形態に示した各種構成の全て又は一部を任意に組み合わせることも可能である。この場合、組み合わせの対象となる各構成の技術的意義(発揮される効果)が担保されることが好ましい。実施形態の組み合わせからなる新たな構成に対して以下の各構成を個別に適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて適用することも可能である。
【0124】
・上記各実施形態では、ロボット20の作業シーン(シーンSN1~SN9)を判別し、判別した作業シーンに応じて動作監視用パラメータ(力、速さ、位置)の判定基準を切り替える構成としたが、これを以下のように変更してもよい。すなわちロボット20の作業の種類が当該ロボット20が移動するエリア毎に異なる構成においては、ロボット20が位置しているエリアを判別し、判別したエリアに応じて動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。また、ロボット20が移動する各エリアにて複数の作業が行われる場合や、複数のエリアにて同じ作業が行われる場合には、ロボット20の作業シーン及びロボット20が位置しているエリアの両方を判別し、それらに応じて動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。
【0125】
・ロボット20が複数の作業(作業ルーティーン)を予め定められたタイムスケジュールで実行する構成においては、当該作業ルーティーンの進行を同ルーティーン開始から経過した時間又は現在の時刻によって管理する構成とし、それら時間又は時刻に基づいて動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。また、スケジュールに遅延が生じる場合に配慮して、時間又は時刻と遅延時間を示す情報とに基づいて動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。
【0126】
更に、上記各実施形態に示したようにロボット20の作業シーンに応じて判定基準を切り替える構成に付加して、経過した時間又は現在の時刻によって判定基準を切り替える構成とすることも可能である。例えば、工場10においては定期的に休憩時間(お昼休憩等)が設けられることが多く、この時間帯には通路E4等に人が増える可能性が高くなると想定される。このような事情に配慮して、ロボット20が休憩時間に通路E4を通過する場合の判定基準は、休憩時間外に通路E4を通過する場合の判定基準よりも厳しくなるように判定基準を切り替える構成とするとよい。
【0127】
・上記各実施形態では、何れの作業シーンにおいても力、速さ、位置の3つの動作監視用パラメータを併用する構成としたが、作業シーンに応じて判定基準の対象とする動作監視パラメータの種類や数を変更してもよい。例えば、第1のシーンでは力及び速さを動作監視用パラメータとする一方、第2のシーンでは力、速さ、位置を動作監視用パラメータとすることも可能である。
【0128】
・上記各実施形態に示した作業シーンをロボット20の動作の種類に応じて細分化し、細分化されたシーン毎に動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。例えば、シーンSN3のピッキングでは、加工機14からワークを取り出すシーンと、隣の加工機へ移るシーンとを個別のシーンとして判定基準を切り替える構成としてもよい。更には、ワークの取り出しシーンの前半(ワークを把持するまで)と後半(ワークをコンテナ18に移すまで)とで判定基準を切り替える構成としてもよい。
【0129】
また、1の作業シーンを、人との距離が相対的に近くなると想定されるシーンと、人との距離が相対的に遠くなると想定されるシーンとに細分化し、それら細分化したシーン毎に判定基準を切り替える構成とすることも可能である。
【0130】
・上記各実施形態では、先の作業シーンから次の作業シーンに移るタイミングで動作監視パラメータの判定基準を切り替える構成としたが、これを変更し、先の作業シーンの終盤に動作監視パラメータの判定基準を切り替える構成としたり、次の作業シーンの冒頭で動作監視パラメータを切り替える構成としたりすることを否定するものではない。
【0131】
なお、判定基準の切り替え中にロボット20の動作の継続を許容するか否かについては任意である。動作監視パラメータの判定基準を切り替える際には当該切り替えが完了するまでロボット20の動作を一時的に停止させる構成としてもよい。また、判定基準を厳しくする切り替えにおいてロボット20を一時停止させる一方、判定基準を緩くする切り替えにおいてはロボット20の動作を継続させる構成とすることも可能である。
【0132】
・上記各実施形態では、非安全関連部Yと安全関連部Xとの送受信が正常に行われているかを診断するための診断情報としてCRCを付加する構成とした。このCRCの設定態様については任意であり、必ずしもリクエストコマンドのコマンドIDとデータとに基づいて設定する必要はない。
【0133】
・上記各実施形態に示したシーンSN5のパレタイジングでは、ロボット20の力、速さ、位置についてロボット20の能力の限界を超える値、すなわち実質的に発生し得ない値を動作監視パラメータの判定基準として設定したが、これを変更し、シーンSN5のパレタイジングにおいては動作監視をスキップする構成としてもよい。言い換えれば、特定の作業シーンではロボット20の動作監視機能がOFFとなる構成としてもよい。
【0134】
・上記各実施形態では、ロボット20の作業シーンに応じて動作監視パラメータの判定基準の切り替えと、力、速さ、位置(移動領域)の制限の切り替えとが実行される構成としたが、これに限定されるものではない。少なくとも動作監視パラメータの判定基準の切り替えを行うのであれば足り、制限の切り替えについては省略することも可能である。
【0135】
・上記各実施形態では、ロボット20を移動式とした場合について例示したが、固定式のロボット用のロボット制御システムに上記実施形態に示した技術的思想を適用してもよい。例えば、固定式のロボットがコンベア等により供給されるワークの種類に応じて異なる複数種類の作業を実行する構成においては、その作業シーンを判別して、作業シーン毎に動作監視用パラメータの判定基準を切り替える構成とすることも可能である。なお、当該作業シーンについても上述の如く細分化して、細分化されたシーン毎に判定基準を切り替える構成としてもよい。
【0136】
・上記各実施形態に示したように動作監視パラメータの判定基準を切替可能とすることはロボット20の安全性に配慮しつつロボット20の作業性を向上させる上で好ましい。しかしながら、このような切替機能を具備した場合には、以下の新たな懸念が生じる。すなわち、仮に偶発的な理由等で1の作業中に突如として判定基準の切り替えが発生すると、本来であれば問題のない動きが監視に引っかかるといった事象が発生し得る。これは、ロボット20の非常停止等の機会を不要に増やして作業効率を低下させる要因となる。このような事情に鑑みれば、実行中の1の作業が完了するまで判定基準の切り替えを不可とする(禁止する)ことには技術的意義がある。
【0137】
・シーンSN4の「搬送A」と、シーンSN8の「搬送B」とでは、搬送しているものが異なる。搬送物の条件(例えば重量)の違いを考慮して、搬送Aにおける安全機能(動作監視用パラメータの判定基準)と搬送Bにおける安全機能(動作監視用パラメータの判定基準)とを個別に設定してもよい。
【0138】
・上記各実施形態では、各非安全関連部Y(コントロールデバイス)からのリクエストコマンドについては作業シーンを指定する番号(シーン番号=1~9)が共用となるように構成したが、これに限定されるものではない。何れの非安全関連部Yからのリクエストコマンドかによってシーン番号が個別となる構成としてもよい。例えば、コントロールデバイス=ティーチングコマンドである場合のリクエストコマンドではシーン番号=1~9、コントロールデバイス=パックスクリプトである場合のリクエストコマンドではシーン番号=11~19、コントロールデバイス=IOである場合のリクエストコマンドではシーン番号=21~29としてもよい。
【0139】
・上記各実施形態に示した安全関連部Xには動作監視用パラメータの判定基準をシーン番号に対応付けて予め記憶されており、非安全関連部Yにより指定されたシーン番号から各判定基準を特定する構成としたが、これに限定されるものではない。非安全関連部Yは、作業シーンのシーン番号に代えて各判定基準を個別に示す情報を安全関連部Xに送る構成としてもよい。
【0140】
なお、判定基準については安全関連部Xに予め記憶されている構成に代えて、非安全関連部Yから判定基準を示す値を安全関連部Xに送る構成とすることも可能である。
【0141】
・上記各実施形態では、工場10の加工ラインにロボット20を適用した場合について例示したが、ロボット20の適用については加工ラインに限定されるものではない。ロボット20を組立ライン、検査ライン、梱包ラインに適用することも可能である。また、ロボット20の移動範囲については1のラインに限定されるものではなく、複数のラインに亘って移動する構成、例えば各ラインにて個別の作業に従事する構成とすることも可能である。
【0142】
<上記実施形態から抽出される発明群について>
以下、上記実施形態から抽出される発明群の特徴について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、上記実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0143】
<特徴A群> 非安全関連部からの安全機能の切替
以下の特徴A群は、「産業用ロボット等のロボットに適用されるロボット制御システムには、ロボットの安全機能を実現する安全関連部と、ロボットの駆動制御等を行う非安全関連部とを有しているものがある。安全関連部については、例えば人等の障害物が衝突した場合にロボットを強制停止させたり(例えば特許文献1参照)、駆動中のロボットの力(推力)や速さを監視して安全用の基準を外れるような動きとなった場合にロボットを強制停止させたりするものが提案されている。」という背景技術について、「近年では、ロボット技術の進歩により1のロボットが従事可能な作業の種類についても増加傾向にある。1のロボットを様々な作業に従事させる場合には、安全機能を変更(操作)可能とすることが、安全性に配慮しつつロボットの作業効率の向上を図る上で有利となり得る。ここで、変更時の通信エラー等によって安全機能が損なわれることを抑制する上では、安全機能を変更するための入力についても安全関連入力部からの入力(所謂安全入力)とすることが好ましい。しかしながら、安全入力を要件とした場合には変更に係る制約が強くなり、安全機能変更の操作性を向上させる上で妨げになると想定される。これに対して、当該要件を単に避けた場合には、操作性の向上が期待できるものの、ロボットの安全性が低下し、安全機能に対する信頼が揺らぐと懸念される。このように、ロボットの安全性及び作業効率の向上を図る上で、安全機能の変更に係る構成には未だ改善の余地がある。」という背景・課題等に鑑みてなされたものである。
【0144】
特徴A1.作業中のロボット(ロボット20)の力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号(ロータリエンコーダ46やトルクセンサ47等からの信号)及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準(基準値又は基準範囲)に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部(論理部X2)を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部(安全関連部X)と、非安全関連部(非安全関連部Y)と、が設けられたロボット制御システム(ロボット制御システムCS)であって、
前記非安全関連部が有している前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ前記動作判定部による判定にて参照すべき判定基準を示す指令情報(コマンドID及びデータからなるリクエストコマンド)と第1診断用情報(CRC)とからなる情報群を、前記非安全関連部は、前記安全関連部に送ることにより、当該安全関連部に前記判定基準の切り替えを指示し、
前記安全関連部は、前記非安全関連部から前記指示を受けた場合に、前記指示が正常に届いたかを前記第1診断用情報に基づいて診断し、前記指示自体が正常であるかを前記指令情報に基づいて診断し、前記指示が正常に届いており且つ前記指示自体が正常であると診断した場合に、前記指示を受理して前記複数の判定基準のうち前記判定にて参照する判定基準を前記指令情報に応じて切り替え、前記非安全関連部からの指示を受理した場合にその旨を前記非安全関連部に報知し、
前非安全関連部は、前記安全関連部により前記指示を受理した旨が報知された場合に、前記安全関連部に対して、当該指示に基づく切り替えにより参照対象として設定された前記判定基準を特定可能な特定用情報を要求し、
前記安全関連部は、前記特定用情報と第2診断用情報(CRC)とからなる情報群を前記非安全関連部に送ることにより、前記非安全関連部の要求に応答し、
前記非安全関連部は、前記安全関連部から前記応答を受けた場合に、前記応答が正常に届いたかを前記第2診断用情報に基づいて診断し、実際に設定されている前記判定基準が前記指示により指定した前記判定基準となっているかを診断するロボット制御システム。
【0145】
安全機能(判定基準)を切り替える場合には、先ず非安全関連部から安全関連部に切り替えの指示がなされる。この指示は指令情報及び第1診断用情報で構成されており、安全関連部では第1診断用情報に基づいて指示が正常に届いたかが診断され、指令情報に基づいて当該指示自体が正常であるかが診断される。診断で異常無しとなった場合には、非安全関連部からの指示が受理され、安全関連部では当該指示に従って参照対象となる判定基準を切り替える。つまり、非安全関連部からの指示であっても、当該指示に送信エラー等による異常が無いと判断した場合には、判定基準の切り替えがなされる。このようにして、非安全関連部からの安全な切替を実現すれば、ロボット制御システムにおける安全機能の変更に係る操作性を好適に向上させることができる。すなわち、非安全関連部からの指示を正常に受理した場合でなければ安全関連部における安全機能が変更されないことで安全制御の確実性を担保しつつ、非安全関連部からの操作による設定変更を可能とすることでユーザ利便性を考慮した操作設定を実現して操作手段の設定自由度を向上させることができる。
【0146】
次に、安全関連部から非安全関連部へ指示を受理した旨が報知され、当該報知を受けた非安全関連部は安全関連部に対して現在参照対象となっている判定基準(切替後の判定基準)を特定可能な特定用情報を要求する。安全関連部ではこれに応答して、特定用情報と第2診断用情報とからなる情報群を非安全関連部に送る。非安全関連部は、安全関連部からの応答が正常に届いたかを第2診断用情報に基づいて診断し、実際に設定されている判定基準が当初の指示により指定した判定基準となっているかを診断する。つまり、非安全関連部では、自身の指示によって安全関連部における安全機能の切替が正常に行われたかを確認可能となっている。
【0147】
本特徴に示す構成によれば、非安全関連部から安全関連部の安全機能を切り替える場合であっても、安全機能の変更に対する信頼性の低下を抑制し、安全機能を変更するための入力についても安全関連入力部からの入力(所謂安全入力)とする場合と比較して当該変更に係る制約が強くなることを回避できる。これにより、安全機能変更の操作性を好適に向上させることができる。
【0148】
因みに、例えば1のロボットを様々な作業に従事させる場合、作業に応じて安全機能を変更(操作)可能とすることは、安全性に配慮しつつロボットの作業効率の向上を図る上で有利となる。本特徴に示すように、非安全関連部からの安全機能の切り替えを可能とすることは、複数種類の作業へのロボットの適用を促し、工場の自動化を推進する上でも好ましい。
【0149】
なお、本特徴に示す「ロボットの力及び速さ」については、ロボットのツールセンタポイントにおける力や速さだけではなく、ロボットの各軸の力(回転トルク)や速さ(回転速度)も含む。
【0150】
特徴A2.前記指令情報は、前記判定基準の候補毎に個別となるように構成されており、
前記安全関連部には、前記指令情報の種類を記憶する記憶部が設けられており、
前記安全関連部は、当該安全関連部における前記診断において、前記非安全関連部からの前記指令情報が前記記憶部に記憶されている前記種類に含まれているかを確認する特徴A1に記載のロボット制御システム。
【0151】
本特徴に示すように、安全関連部では予め記憶されている指令情報の種類と今回の指令情報とを照合することにより非安全関連部からの指示(指令情報)自体が正常であるかを診断する構成とすれば、ビットの固着や通信エラー等によって指令情報が損傷した場合に、当該損傷した指令情報に基づいて安全機能が切り替わってしまうことを好適に抑制できる。
【0152】
特徴A3.前記非安全関連部を複数備え、
前記指令情報は、何れの前記非安全関連部からの情報であるかを特定可能な第1情報と、参照対象とすべき前記判定基準の候補を指定する第2情報とで構成されており、
前記第2情報は、前記第1情報毎に個別となるように構成されており、
前記記憶部にては、前記第1情報と前記第2情報との組み合わせが記憶されており、
前記安全関連部は、前記診断において、前記非安全関連部からの前記指令情報の前記第1情報と前記第2情報との組み合わせが前記記憶部に記憶されているかを確認する特徴A2に記載のロボット制御システム。
【0153】
ビットの固着や通信エラー等によって指令情報が損傷した場合に、偶発的に他の非安全関連部からの指令情報と一致することを簡易に抑制できる。なお、第1情報及び第2情報の組み合わせによって指令情報を構築した場合、両情報が同時に損傷する可能性は低いため、偶発的に他の指示と一致してしまうといった不都合を生じにくくすることができる。
【0154】
特徴A4.前記非安全関連部から前記安全関連部への前記指示に含まれる前記第1診断用情報は、前記指令情報に基づいて決定され、
前記安全関連部は、前記非安全関連部からの前記指示を構成している前記第1診断用情報と前記指令情報とを対比することにより、前記指示が正常に届いたかを診断する特徴A1乃至特徴A3のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0155】
本特徴に示す構成によれば、第1診断用情報(値)は指令情報に応じて決まる(変化する)。指令情報及び第1診断用情報の少なくとも一方が損傷した場合には、両者の関係が崩れることとなり、診断によって指示に異常が生じていることを特定可能となる。このような構成とすることで、非安全関連部からの指示(損傷あり)によって誤った切り替えがなされることを好適に抑制できる。
【0156】
また、指令情報に第1診断用情報を付加した場合には、指令情報単独の場合と比較して、情報量が増える。つまり、指令情報及び第1診断用情報からなる信号が長くなり、正常/異常の診断で確認すべき情報が多くなることで診断結果の妥当性が向上する。これにより、非安全関連部からの入力による安全機能の切り替え(変更)に対する信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0157】
特徴A5.前記非安全関連部からの前記特定用情報の要求に応じて前記安全関連部から前記非安全関連部に送られる前記第2診断用情報は、前記複数の判定基準のうち前記動作判定部による判定にて参照する判定基準に応じて異なる構成となっている特徴A1乃至特徴A4のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0158】
安全関連部への応答によって当該安全関連部に送られる特定用情報には第2診断用情報が付随する。この第2診断用情報については安全関連部の動作判定部にて参照される判定基準に応じて異なる(可変値)。つまり、第2診断用情報から通信異常の確認だけでなく特定用情報が正常であるかの確認についても可能となり、応答の確からしさを簡易な構成によって向上させることができる。
【0159】
特徴A6.前記安全関連部から前記非安全関連部への前記応答に含まれる前記第2診断用情報は、前記特定用情報に基づいて決定され、
前記非安全関連部は、前記安全関連部からの前記応答を構成している前記第2診断用情報と前記特定用情報とを対比することにより、前記応答が正常に届いたかを診断する特徴A1乃至特徴A5のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0160】
本特徴に示す構成によれば、第2診断用情報(値)は特定用情報に応じて決まる(変化する)。特定用情報及び第2診断用情報の少なくとも一方が損傷した場合には、両者の関係が崩れることとなり、診断によって応答に異常が生じていることを特定可能となる。このような構成とすることで、ロボット制御システムの信頼性の更なる向上に寄与できる。
【0161】
また、特定用情報に第2診断用情報を付加した場合には、特定用情報単独の場合と比較して、情報量が増える。つまり、特定用情報及び第2診断用情報からなる信号が長くなり、正常/異常の診断で確認すべき情報が多くなることで診断結果の妥当性が向上する。
【0162】
特徴A7.前記非安全関連部からの前記指示に応じて前記複数の判定基準のうち前記判定にて参照する判定基準を切り替えた後に前記非安全関連部からの前記特定用情報の要求に応じて当該非安全関連部に送る前記第2診断用情報は、今回の前記指示における前記第1診断用情報と不一致となるようにして作成される特徴A1乃至特徴A6のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0163】
本特徴に示す構成によれば、安全機能の切り替えに際しては基本的に第1診断用情報と第2診断用情報とが不一致となる。ここで、ビット固着等の偶発的なエラーによって第2診断用情報として第1診断用情報がそのまま送り返された場合には、第1診断用情報と第2診断用情報とが一致することとなり、上記エラーを速やかに発見できる。
【0164】
特徴A8.前記指令情報及び前記特定用情報は何れも、前記複数の判定基準のうち前記動作判定部による参照対象となる判定基準を示す情報と、それら指令情報及び特定用情報の送り主を示す情報とを含み、
前記非安全関連部から前記安全関連部への前記指示に含まれる前記第1診断用情報は、当該指示に含まれる前記指令情報に基づいて決定され、前記安全関連部から前記非安全関連部への前記応答に含まれる前記第2診断用情報は、当該応答に含まれる前記特定用情報に基づいて決定される特徴A1乃至特徴A7のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0165】
非安全関連部からの指示に含まれる第1診断用情報と安全関連部からの応答に含まれる第2診断用情報とは、送り主を示す情報を含む指令情報及び特定用情報に基づいて各々決定される。つまり、安全機能の切り替えに際しては基本的に第1診断用情報と第2診断用情報とが不一致となる。ここで、ビット固着等の偶発的なエラーによって第2診断用情報として第1診断用情報がそのまま送り返された場合には、第1診断用情報と第2診断用情報とが一致することとなり、上記エラーの見逃しを速やかに発見できる。
【0166】
特徴A9.前記判定基準は、前記力のパラメータ用の力基準と、前記速さのパラメータ用の速さ基準とを含み、それら力基準と速さ基準とが各々複数規定されており、
前記安全関連部には、前記動作判定部による判定にて参照すべき前記力基準と前記速さ基準との組み合わせを示す組合情報(シーン番号)が記憶されており、
前記指令情報は、前記組合情報に相関のある情報(シーン番号)となるように構成されている特徴A1乃至特徴A8のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0167】
特徴A8に示すように、複数種類の判定基準(力基準、速さ基準)について切り替えを行う場合には、各判定基準を個別に指定するのではなく、予め規定されたそれら基準の組み合わせを指定することにより、非安全関連部から安全関連部への指示が複雑になることを抑制できる。これは、安全機能に配慮しつつロボットが従事可能な作業の数が増やす上で好ましい構成である。
【0168】
<特徴B群> 作業シーン毎に安全機能を切替
以下の特徴B群は、「産業用ロボット等のロボットに適用されるロボット制御システムには、ロボットの安全機能を実現する安全関連部と、ロボットの駆動制御等を行う非安全関連部とを有しているものがある。安全関連部については、例えば人等の障害物が衝突した場合にロボットを強制停止させたり(例えば特許文献1参照)、駆動中のロボットの力(推力)や速さを監視して安全用の基準を外れるような動きとなった場合にロボットを強制停止させたりするものが提案されている。」という背景技術について、「近年では、ロボット技術の進歩により1のロボットが従事可能な作業の種類についても増加傾向にある。1のロボットを様々な作業に従事させる場合には、安全機能が画一的では安全性の向上と作業効率の向上とを両立することが困難となり得る。このような事情に鑑みて、本件の発明者は、ロボットの安全機能を切り替える構成を考案した。しかしながら、安全機能の切替が頻繁になった場合にはロボット制御システムにおける制御負荷が過度に増え、ロボット制御システムの本来の機能(すなわちロボットの駆動制御を実行する機能)への影響が大きくなると想定される。例えば、ロボットの位置や向きの変化に応じて安全機能を逐次変化させようとすれば、上記影響は顕著となる。このような影響は、ロボットの作業効率の低下を招く要因となるため好ましくない。また、ユーザによる安全機能の切替操作が必須となることは、ロボットの利便性を低下させる要因となるため好ましくない。このように、ロボットの安全性の向上と作業性との向上を実現し、ロボットの利用促進を図る上では、安全機能の変更に係る構成には未だ改善の余地がある。」という背景・課題等に鑑みてなされたものである。
【0169】
特徴B1.作業中のロボット(ロボット20)の力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号(ロータリエンコーダ46やトルクセンサ47等からの信号)及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準(基準値又は基準範囲)に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部(論理部X2)を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部(安全関連部X)が設けられたロボット制御システム(ロボット制御システムCS)であって、
前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ、
前記ロボットが作業を行う作業シーンとして、前記ロボットが実行する作業が異なる複数の作業シーンが規定され、
前記パラメータ用の判定基準を各前記作業シーンに対応づけて記憶する記憶部(制御装置50のメモリ)と、
前記ロボットの作業シーン(シーンSN1~SN9)を識別するシーン識別部(例えばタスク監視用処理を実行する機能)と、
前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準を、前記シーン識別部により識別された前記作業シーンに対応する判定基準に切り替える判定基準切替部(安全FPGAにおける安全機能の設定切替を実行する機能)と
を備えているロボット制御システム。
【0170】
1のロボットが異なる複数の作業を担うことは、製造等の自動化を促進する上で好ましい。但し、作業シーンに関わらずロボットの安全機能を画一的とした場合には、安全性の向上と作業効率の向上との両立が難しくなる。この点、本特徴に示す構成では、作業シーンを識別して、作業シーン毎に監視用の判定基準が変更される。これにより、ロボットの安全性の向上と作業効率の向上とに寄与できる。
【0171】
ここで、ロボットの安全性を向上させる上では、ロボットの動作状態(位置、向き、速さ等)が変わる毎に安全機能を逐次変化させる構成とすることも可能である。しかしながら、このような構成とした場合には、ロボット制御システムにおける制御負荷が大きくなり、ロボット制御システム本来の機能(ロボットの駆動制御)に影響が及ぶこととなる。この点、ロボットの動きが作業毎に変わる点に鑑みれば、本特徴に示すように作業シーン毎に判定基準を切り替える構成とすることにはロボット制御システムの本来の機能への影響を抑えつつ、安全性を向上できるという明確な技術的意義がある。
【0172】
特徴B2.設定されている動作プログラムに従って前記ロボットの駆動制御を行う駆動制御部(制御装置50の駆動制御部51)を備え、
前記シーン識別部は、実行中の前記動作プログラムに含まれるシーン関連情報に基づいて前記作業シーンを識別する特徴B1に記載のロボット制御システム。
【0173】
本特徴に示すように動作プログラムに含まれるシーン関連情報に基づいて作業シーンを識別可能とすれば、ロボット制御システムが自身の速やかな判断によって作業シーン毎の判定基準を選択する構成を実現できる。これにより、安全機能の切替に大きな待ち時間が発生することを抑制し、作業効率向上に寄与できる。
【0174】
特徴B3.前記作業シーンは、前記ロボットと人とが協働する協働シーン(例えばシーンSN3)と、前記ロボットと人とが協働しない非協働シーン(例えばシーンSN4,SN5)とを含み、
前記判定基準切替部は、前記協働シーンにおける前記判定基準と前記非協働シーンにおける前記判定基準とを相違させるようにして前記切り替えを行う特徴B1又は特徴B2に記載のロボット制御システム。
【0175】
本特徴に示すようにロボットの作業シーンが協働シーンと非協働シーンとを含んでいる場合には、それらのシーンで判定基準を相違させることでロボットの安全性と作業効率とを好適に向上させることができる。
【0176】
特徴B4.前記シーン識別部は、次の作業シーンを識別可能となっており、
前記判定基準切替部は、先の作業シーンと後の作業シーンとの間で、前記切り替えを行う特徴B1乃至特徴B3のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0177】
先の作業シーン完了→後の作業シーンへ移行となる場合には、その間で切り替えを行うことで作業中に切り替えを行う構成と比較して、システムにおける制御負荷を好適に分散させることができる。また、次の作業シーンに移る場合には、状況が変化することで、人等との距離が変化する可能性が高い。そこで、本特徴に示すように、次のシーンに備えて切り替えを行う構成とすることは、ロボットの安全性の向上を図る上でも好ましい。
【0178】
特徴B5.前記動作判定部による判定結果が前記判定基準を超過しているとする判定結果となった場合に前記ロボットを緊急停止させる構成となっており、
前記作業シーンの切り替わりに伴って前記判定基準が引き下げとなった場合には、前記動作判定部による判定結果が前記判定基準を超過しているとする判定結果となったとしても前記ロボットを緊急停止させず、当該引き下げ後の所定の猶予期間において前記ロボットを停止させることなく前記パラメータを強制的に引き下げるように前記ロボットの動きを抑制し、
前記所定の猶予期間においては、前記パラメータの減少傾向に基づいて前記ロボットを停止させるかを判定する特徴B1乃至特徴B4のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0179】
本特徴に示す構成によれば、作業シーンの切替時に判定基準が引き下げとなったとしても即座にロボットが停止(非常停止)とならない。つまり、判定基準の引き下げが原因となって突如としてロボットが停止することがない。そして、このような状況となった場合は、所定の猶予期間中のパラメータの減少傾向に基づいてロボットを停止させるかが判定される。このような構成とすることにより、作業シーンの切替に伴って安全機能(判定基準)を変更する構成であっても、ロボットの誤停止が生じる機会を減らすことができる。このようにして、ロボットの誤停止を抑制することは、ロボット20による生産効率の向上等を実現する上で好ましい。
【0180】
なお、例えば所定の猶予期間中のパラメータの変化の目標を定め、当該所定の猶予期間中にパラメータの変化を確認し、当該変化が目標に達していない場合にはロボットを停止させる構成とするとよい。
【0181】
特徴B6.前記動作判定部による判定結果が前記判定基準を超過しているとする判定結果となった場合に前記ロボットを緊急停止させる構成となっており、
前記作業シーンへの切り替わりと当該次の作業シーンとなった場合に設定される前記判定基準とを当該切り替わりよりも前に特定し、
前記次の作業シーンへの切り替わりの前の所定の期間中に当該次の作業シーンにて設定される前記判定基準に対する超過が生じている場合に、前記次の作業シーンへの切り替わりまでに当該超過が解消されるようにして前記パラメータを強制的に引き下げるべく前記ロボットの動きを抑制する特徴B1乃至特徴B4のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0182】
本特徴に示す構成によれば、作業シーンの切り替わりを事前に特定(推定又は確認)し、次の作業シーンにおける判定基準を超過していることを切り替わり前の所定の期間中に事前に確認できた場合には、パラメータを強制的に引き下げるべくロボットの動きが抑制される。これにより、切り替わりのタイミングにて判定基準の超過が抑制されることとなる。このような構成とすることにより、作業シーンの切替に伴って安全機能(判定基準)を変更する構成であっても、ロボットの誤停止が生じる機会を減らすことができる。このようにして、ロボットの誤停止を抑制することは、ロボット20による生産効率の向上等を実現する上で好ましい。
【0183】
特徴B7.作業中のロボット(ロボット20)の力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号(ロータリエンコーダ46やトルクセンサ47等からの信号)及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準(基準値又は基準範囲)に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部(論理部X2)を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部(安全関連部X)が設けられたロボット制御システム(ロボット制御システムCS)であって、
前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ、
前記ロボットが実行する作業毎に作業エリアが規定され、
前記パラメータ用の判定基準を各前記作業エリアに対応づけて記憶する記憶部(制御装置50のメモリ)と、
前記ロボットの作業エリアを識別するエリア識別部と、
前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準を、前記エリア識別部により識別された前記作業シーンに対応する判定基準に切り替える判定基準切替部(安全FPGAにて安全機能の設定切替を実行する機能)と
を備えているロボット制御システム。
【0184】
1のロボットが複数の作業を担うことは、製造等の自動化を促進する上で好ましい。但し、作業エリア関わらずロボットの安全機能を画一的とした場合には、安全性の向上と作業効率の向上との両立が難しくなる。この点、本特徴に示す構成では、作業エリアを識別して、作業エリア毎に監視用の判定基準が変更される。これにより、ロボットの安全性の向上と作業効率の向上とに寄与できる。また、このような構成とすれば、安全機能をロボットの位置や向きの変化に応じて逐次変化させる構成と比較して、ロボット制御システムの本来の機能への影響を抑えつつ、安全性を向上できるという明確な技術的意義がある。
【0185】
特徴B8.作業中のロボット(ロボット20)の力及び速さの少なくとも何れかに相関のあるパラメータを含んだ安全関連入力信号(ロータリエンコーダ46やトルクセンサ47等からの信号)及び予め記憶されている当該パラメータ用の判定基準(基準値又は基準範囲)に基づいて前記ロボットの動きを判定する動作判定部(論理部X2)を有し、その判定結果に応じて安全関連出力信号を生成することにより当該ロボットの安全機能を実現する安全関連部(安全関連部X)が設けられたロボット制御システム(ロボット制御システムCS)であって、
設定されている動作プログラムに従って前記ロボットが所定のタイムスケジュールで動作するように制御する駆動制御部(制御装置50の駆動制御部)を備え、
前記所定のタイムスケジュールは、時間又は時刻に応じて複数種の作業が順に実行されるように規定さており、
前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準の候補が複数設けられ、
前記パラメータ用の判定基準を前記時間又は前記時刻に対応付けて記憶する記憶部(制御装置50のメモリ)と、
現時点での前記時間又は前記時刻を把握する把握部と、
前記把握部により把握された前記時間又は前記時刻が前記所定のタイムスケジュールにて次の作業に移る所定の時間又は所定の時刻となった場合に、前記動作判定部により参照される前記パラメータ用の判定基準を、前記所定の時間又は前記所定の時刻に対応する判定基準に切り替える判定基準切替部(安全FPGAにて安全機能の設定切替を実行する機能)と
を備えているロボット制御システム。
【0186】
1のロボットが複数の作業を担うことは、製造等の自動化を促進する上で好ましい。但し、タイムスケジュールに関わらずロボットの安全機能を画一的とした場合には、安全性の向上と作業効率の向上との両立が難しくなる。この点、本特徴に示す構成では、現時点での時間(例えば、作業ルーティーン開始からの経過時間)又は時刻を把握して、所定の時間又は所定の時刻となった場合に監視用の判定基準が変更される。これにより、ロボットの安全性の向上と作業効率の向上とに寄与できる。
【0187】
特徴B9.前記判定基準切替部による前記判定基準の切り替えは、実行中の1の作業が完了するまで不可となる特徴B1乃至特徴B8のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0188】
特徴B1等に示したように判定基準を切替可能とすることはロボットの安全性に配慮しつつロボットの作業性を向上させる上で好ましい。しかしながら、このような切替機能を具備した場合には、以下の新たな懸念が生じる。すなわち、仮に偶発的な理由等で1の作業中に突如として判定基準の切り替えが発生すると、本来であれば問題のない動きが監視に引っかかるといった事象が発生し得る。これは、ロボットの非常停止等の機会を不要に増やして作業効率を低下させる要因となる。そこで、本特徴に示すように、実行中の1の作業が完了するまで判定基準切替部による切り替えを不可とし(例えば禁止し)、上記事象の発生を抑えることにより実用上好ましい構成が実現できる。
【0189】
特徴B10.前記パラメータとして、作業中のロボットの位置を示すパラメータを含み、
前記判定基準切替部により、前記力又は前記速さの少なくとも何れかのパラメータ用の判定基準を切り替える場合には、それに併せて、前記位置を示すパラメータ用の判定基準についても切替可能となっている特徴B1乃至特徴B9のいずれか1つに記載のロボット制御システム。
【0190】
位置監視機能を追加し、位置を示すパラメータの判定基準についても力や速さを示すパラメータの判定基準とともに切替可能とすることで、ロボットの力や速さの監視が過度にシビアになることを抑制できる。これは、ロボットの作業効率を向上させる上で好ましい。
【符号の説明】
【0191】
10…工場、20…ロボット、31…AGV、35…走行モータ、41…ロボットアーム、45…駆動モータ、46…ロータリエンコーダ、47…トルクセンサ、50…制御装置、51…駆動制御部、52…監視制御部、60…ティーチングペンダント、E1…ストックエリア、E2…加工エリア、E3…集積エリア、E4…通路、CS…ロボット制御システム、X…安全関連部、X1…入力部、X2…論理部、X3…出力部、Y…非安全関連部。