IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 甲神電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-地絡検出装置 図1
  • 特開-地絡検出装置 図2
  • 特開-地絡検出装置 図3
  • 特開-地絡検出装置 図4
  • 特開-地絡検出装置 図5
  • 特開-地絡検出装置 図6
  • 特開-地絡検出装置 図7
  • 特開-地絡検出装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040980
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】地絡検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20230315BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230315BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20230315BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20230315BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G01R31/52
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/10
B60R16/02 650R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021167737
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】595176098
【氏名又は名称】甲神電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】畠山 善博
(72)【発明者】
【氏名】平田 大瑚
【テーマコード(参考)】
2G014
5H125
【Fターム(参考)】
2G014AA04
2G014AB24
2G014AB29
2G014AC18
5H125AA01
5H125AC12
5H125DD10
5H125EE22
5H125EE23
(57)【要約】
【課題】地絡電流を微小な値まで高精度に測定が可能で、高電圧回路の電圧変化直後から高精度な絶縁抵抗測定が可能となる地絡検出装置を得る。
【解決手段】地絡電流を検出する検出抵抗R2の一端が電圧出力手段10の電圧基準点10aに接続され、電流測定手段30が電圧基準点10aを基準に検出抵抗R2の他端を入力とした非反転増幅回路により検出抵抗R2の両端電圧を測定し、演算手段40が、矩形波電圧パルス出力10dのL電圧期間の地絡電流値である第1測定手段出力41aと、H電圧期間の地絡電流値である第2測定手段出力42aと、それらの差分演算値の差分演算手段出力45aから、両期間の注入コンデンサC1の両端電圧の差分、注入手段20の抵抗の電圧降下の差分を求め、絶縁抵抗値を演算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アース電位と絶縁された少なくとも1つ以上の電路と、
第1の電圧を出力する第1の期間と、第2の電圧を出力する第2の期間を交互に、電圧基準点を基準に繰り返し出力する電圧出力手段と、
前記電圧出力手段の出力を前記電路に注入する注入手段と、
前記注入手段により注入された注入電流を測定し出力する電流測定手段と、
前記電流測定手段の出力を基に、前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算する演算手段を有する地絡検出装置であって、
前記注入手段は、前記電圧出力手段の出力に、直接又は抵抗を介して一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して前記電路に接続した少なくとも1つ以上の注入コンデンサと、前記電圧基準点に一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して前記アース電位に接続した検出抵抗を有し、
前記電流測定手段は、前記検出抵抗の両端電圧を測定することを特徴とする地絡検出装置。
【請求項2】
アース電位と絶縁された直流電源と、
前記直流電源と、プラス側電路及びマイナス側電路を介して接続された負荷と、
前記直流電源と前記負荷の間にあり、前記負荷の印可電圧を入り切り又は電圧変化させるスイッチ手段と、
第1の電圧を出力する第1の期間と、第2の電圧を出力する第2の期間を交互に、電圧基準点を基準に繰り返し出力する電圧出力手段と、
前記電圧出力手段の出力を前記電路に注入する注入手段と、
前記注入手段により注入された注入電流を測定し出力する電流測定手段と、
前記電流測定手段の出力を基に、前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算する演算手段を有する地絡検出装置であって、
前記注入手段は、前記電圧出力手段の出力に直接又は抵抗を介して一端を接続した2つの注入コンデンサと、前記アース電位に直接又は抵抗を介して接続した前記電圧基準点を有し、前記注入コンデンサの第1の注入コンデンサは、他端を直接又は抵抗を介して前記プラス側電路に接続し、前記注入コンデンサの第2の注入コンデンサは、他端を直接又は抵抗を介して前記マイナス側電路に接続し、前記第1の注入コンデンサの他端と前記第2の注入コンデンサの他端の少なくとも1つは、前記スイッチ手段の前記負荷側の前記電路に直接又は抵抗を介して接続したことを特徴とする地絡検出装置。
【請求項3】
前記注入手段は、前記電圧基準点に一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して前記アース電位に接続した検出抵抗を有し、
前記電流測定手段は、前記検出抵抗の両端電圧を測定することを特徴とする請求項2に記載の地絡検出装置。
【請求項4】
前記電流測定手段は、前記電圧基準点を基準に前記検出抵抗の他端を入力とした、又は前記検出抵抗の他端を基準に前記電圧基準点を入力とした非反転増幅回路を有することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の地絡検出装置。
【請求項5】
前記演算手段は、
前記第1の期間の第1の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第1の測定値として出力する第1の測定手段と、
前記第2の期間の第2の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第2の測定値として出力する第2の測定手段と、
前記第1の測定時点での測定後の第1の演算時点、又は前記第2の測定時点での測定後の第2の演算時点で、前記第1の測定値と前記第2の測定値の差分を演算する第1の差分演算手段を有し、
前記第1の差分演算手段の演算値を基に、前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の地絡検出装置。
【請求項6】
前記演算手段は、
前記第1の測定値と、1つ前期間の前記第2の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第1の差分値と、
前記第2の測定値と、1つ前期間の前記第1の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第2の差分値を有し、
前記第1の差分値と前記第2の差分値から選択した1つを基に、又は前記第1の差分値と前記第2の差分値の差分を基に、
前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする請求項5に記載の地絡検出装置。
【請求項7】
前記演算手段は、
前記第1の測定時点と1つ前期間の前記第2の測定時点の、又は前記第2の測定時点と1つ前期間の前記第1の測定時点の、
前記注入コンデンサの両端電圧の差分と、
前記注入手段の注入電流経路の抵抗による電圧降下の差分と、
前記第1の差分演算手段の演算値と、
前記電圧出力手段の、第1の電圧と第2の電圧の差分を用いて、
前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする請求項5に記載の地絡検出装置。
【請求項8】
前記演算手段は、
前記電圧出力手段の第1の電圧と第2の電圧の差分を、前記注入コンデンサの容量と、前記電路と前記アース電位の間の静電容量で分圧した第1の補正電圧と、
前記第1の測定時点と前記第2の測定時点の前記静電容量に流れる電流の差分に相当する第1の補正電流の、
少なくとも一つを演算の因子に追加して前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする請求項7に記載の地絡検出装置。
【請求項9】
前記演算手段は、
前記第1の測定値と、1つ前期間の前記第2の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第1の差分値と、
前記第2の測定値と、1つ前期間の前記第1の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第2の差分値で、
絶対値の大きい方を用いて前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の地絡検出装置。
【請求項10】
アース電位と絶縁された少なくとも1つ以上の電路と、
第1の電圧を出力する第1の期間と、第2の電圧を出力する第2の期間を交互に、電圧基準点を基準に繰り返し出力する電圧出力手段と、
前記電圧出力手段の出力を前記電路に注入する注入手段と、
前記注入手段により注入された注入電流を測定し出力する電流測定手段と、
前記電流測定手段の出力を基に、前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算する演算手段を有する地絡検出装置であって、
前記注入手段は、
前記電圧出力手段の出力に、直接又は抵抗を介して一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して前記電路に接続した少なくとも1つ以上の注入コンデンサと、前記アース電位に直接又は抵抗を介して接続した前記電圧基準点を有し、
前記演算手段は、
前記第1の期間の第1の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第1の測定値として出力する第1の測定手段と、
前記第2の期間の第2の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第2の測定値として出力する第2の測定手段と、
前記第1の測定時点での測定後の第1の演算時点又は前記第2の測定時点での測定後の第2の演算時点で、前記第1の測定値と前記第2の測定値の差分を演算する第1の差分演算手段と、
前記第1の測定値と、1つ前期間の前記第2の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第1の差分値と、
前記第2の測定値と、1つ前期間の前記第1の測定値の差分を演算する前記第1の差分演算手段の第2の差分値を有し、
前記第1の差分値と前記第2の差分値から選択した1つを基に、又は前記第1の差分値と前記第2の差分値の差分を基に、前記電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算することを特徴とする地絡検出装置。
【請求項11】
前記演算手段は、
前記第1の期間の始端直後の第3の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第3の測定値として出力する第3の測定手段と、
前記第2の期間の始端直後の第4の測定時点で前記電流測定手段の出力を測定し、第4の測定値として出力する第4の測定手段を有し、
前記第3の測定時点での測定後の第3の演算時点又は第4の測定時点での測定後の第4の演算時点で、
前記第3の測定値と前記第4の測定値の両方が所定の判定値内にあるか、又は前記第3の測定値と前記第4の測定値の差分が、所定の判定値内にあるとき注入異常と判定することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の地絡検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁された電路とアース電位間の絶縁を監視する地絡検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド車両等の電動車両に設けられた高電圧直流電源と車体アース(シャーシ)との地絡を検出する地絡検出装置では、例えば特許文献1の図1に示すように被地絡検出対象となる直流電源(高電圧回路)のプラス側出力端またはマイナス側出力端のどちらか一端にカップリングコンデンサ(注入コンデンサ)の一端を接続し、その注入コンデンサの他端に検出抵抗を介して、出力部が出力するデューティー比50%の矩形波パルス電圧信号を注入している。注入したパルス電圧信号は、高電圧回路と車体アース間の絶縁抵抗に印可され、絶縁抵抗に対応した地絡電流が流れる。
【0003】
この地絡電流の検出は、検出抵抗との接続点である注入コンデンサの他端を測定点として、測定点の電圧を抵抗とコンデンサから成る電圧測定回路により測定しており、地絡電流(絶縁抵抗を流れる電流)が検出抵抗を介して流れることで生じる検出抵抗の電圧低下を電圧測定回路で測定することで、地絡電流の大きさを検出している。
【0004】
注入コンデンサを介して流れる電流は、矩形波パルス電圧信号の注入パルス波形の立上り時や立下り時の電圧変化の大きい時点では、高電圧回路と車体アース間の静電容量(絶縁抵抗と並列に存在する)への充電電流も含まれ、過渡的に大きな電流となる。
【0005】
例えば特許文献1での地絡電流の測定は、この過渡的な電流が流れる時間を避け、矩形波注入パルス電圧信号の「H」レベルの終端直前での測定(測定値VH)と「L」レベルの終端直前での測定(測定値VL)の2回測定し、それらの差分値(VH-VL)を用いることで、注入コンデンサを介して流れる注入電流の中の車体アース間静電容量を流れる電流の影響を低減し、絶縁抵抗を流れる電流(地絡電流)をより高精度に測定している。
【0006】
高電圧回路には、例えば特許文献2の図1に示すように蓄電装置(高電圧バッテリ)、交流電動機のモータ駆動装置や、内燃機関の排気通路に設けられた電気加熱式触媒(Electrical Heated Catalyst 以下EHCと称す)用直流電源装置等がある。
【0007】
これら高電圧回路の地絡電流を測定するにあたり、高電圧バッテリの充放電による高電圧バッテリ自身の電圧変動、高電圧バッテリとモータ駆動装置間にあるスイッチの入り切りによるモータ駆動装置入力電圧の電圧変動、EHCへの通電入り切りや、EHCの温度制御のためのEHC用直流電源装置の出力電圧の電圧変動等により高電圧回路の直流電圧は変動する。これらの電圧変動により注入コンデンサを介して流れる電流も変動し、地絡電流測定の誤差要因となる。
【0008】
例えば特許文献3の図1には、高電圧バッテリ自身の電圧変動、高電圧バッテリとモータ駆動装置間にあるスイッチの入り切りによるモータ駆動装置入力電圧の電圧変動の、地絡電流測定への影響を低減するために、二つの結合コンデンサ(注入コンデンサ)のそれぞれの一端を高電圧バッテリのプラス側出力端とマイナス側出力端にそれぞれ接続し、二つの注入コンデンサの二つの他端と検出抵抗の一端を接続し、その検出抵抗を介してパルス電圧信号を注入し、この注入コンデンサの二つの他端の接続点を測定点として測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-250201号
【特許文献2】特開2014-083943号
【特許文献3】特開2004-104923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように従来の地絡検出装置においては、地絡電流を測定する場合、出力部の出力端電圧に検出抵抗の両端電圧が加わった点を測定点とし、その測定点の電圧を測定し、測定点の電圧値と、あらかじめ設定してある出力部出力端から出力されるであろう電圧値との差から検出抵抗の両端電圧値を得ることになる。この測定点の電圧値には、出力部出力端電圧のばらつきや変動分も含まれてしまい、検出抵抗の両端電圧値(地絡電流に比例)を高精度に得ることができず、高精度に地絡電流が測定できないという問題があった。
【0011】
また、測定点には注入コンデンサの他に電圧測定回路も接続されているので、検出抵抗には測定対象の注入コンデンサを介して流れる地絡電流の他に、電圧測定回路の入力インピーダンス(抵抗、コンデンサとA/D変換部より成る入力インピーダンス)に流れる漏れ電流も流れている。この漏れ電流は、例えば注入パルス電圧が5Vで、入力インピーダンスが500kΩの場合10μAとなり、注入パルス電圧のばらつきや変動の影響も受け、この漏れ電流が検出抵抗の両端電圧から地絡電流を求める場合の誤差となる。特にμAレベルの微小な地絡電流が高精度に測定できないという問題があった。
【0012】
定常時の地絡電流=注入パルス電圧交流分/絶縁抵抗
であるから、絶縁劣化の兆候を監視するための測定対象範囲となる絶縁抵抗10MΩから100kΩでは、例えば注入パルス電圧が5V(交流分±2.5V)の場合、測定する地絡電流は±0.25μAから±25μAとなる。この測定対象範囲における前述の電圧測定回路入力インピーダンスの漏れ電流10μAが測定誤差に与える影響は大きく、絶縁劣化の兆候を捉えることは困難であった。
【0013】
また、地絡電流の測定は、矩形波注入パルス電圧信号が「H」レベルの終端直前と「L」レベルの終端直前の2回測定し、それらの差分値を用いており、この2回測定の間に注入経路内にある注入コンデンサの両端電圧が変化しなければ、2回測定で絶縁抵抗に印可される電圧の差分は、注入パルス電圧信号の「H」レベルと「L」レベルの電圧差と同一となり、2回測定の差分値から絶縁抵抗値と相関のある適正な地絡電流を得ることができる。
【0014】
しかし注入コンデンサは、自身を流れる地絡電流により充放電され2回の測定間に注入コンデンサ両端電圧は変化する。注入コンデンサの両端電圧が変化すると、その電圧変化分が、注入パルス電圧の「H」レベルと「L」レベルの電圧差に加算され、2回測定で絶縁抵抗に印可される電圧の差分は変化し、2回測定の差分値から得られる地絡電流は変化する。
【0015】
絶縁抵抗が小さい(絶縁劣化が進む)程、また高電圧回路の電圧変化が大きい程注入コンデンサの充放電電流は大きくなり、2回測定の間の注入コンデンサの両端電圧の変化も大きくなり、その分2回測定の差分値から得られる地絡電流の変化も大きくなる。
【0016】
例えば絶縁抵抗が100kΩの時、2回測定の間に注入コンデンサの両端電圧が変化しない定常時の地絡電流Ig1は
Ig1=注入パルス電圧交流分/絶縁抵抗=±2.5V/100kΩ=±25μA
であり、注入パルス電圧の「H」レベル時の25μAと「L」レベル時の-25μAとの差分値は50μAであり、この50μAが測定された時の絶縁抵抗は100kΩであると相関付けることで、適正な絶縁抵抗値を得ることができる。
【0017】
しかし、高電圧回路の電圧が変化した過渡時は、例えば400Vの高電圧回路のスイッチを入り切りし、0Vから400Vへの電圧変化がある場合は、絶縁抵抗には、注入パルス電圧にこの高電圧回路電圧変化分400Vが加算された電圧が印可され、この過渡時の絶縁抵抗100kΩの地絡電流Ig2は
Ig2=(注入パルス電圧交流分+高電圧回路電圧変化分)/絶縁抵抗
=(2.5V+400V)/100kΩ=4.025mA
と4mA程度の電流値となる。
【0018】
例えば注入コンデンサ容量を10μFとし、2回の測定間隔時間を0.1秒(注入パルス電圧信号を5Hzとし、その1/2周期)とし、この間の地絡電流Ig2の変化が大きくない(注入コンデンサ容量10μFと絶縁抵抗100kΩの時定数1秒に比べ0.1秒間のIg2の変化は大きくないと仮定する)とすると、2回測定間の注入コンデンサの両端電圧変化ΔVcは
ΔVc=地絡電流Ig2×測定時間間隔/注入コンデンサ容量
=4mA×0.1秒/10μF=40V
と概算され、このΔVcにより、2回測定で絶縁抵抗に印可される電圧の差分は過渡的に定常時の8(=40V/5V)倍変化することになり、高電圧回路の電圧変化直後(スイッチ入り切り直後)の過渡時において絶縁抵抗監視が適正にできない(絶縁抵抗値が大きく変化する)という問題があった。
【0019】
ここで、特許文献3の図1に示すように、二つの結合コンデンサ(注入コンデンサ)のそれぞれの一端を高電圧バッテリのプラス側出力端とマイナス側出力端にそれぞれ接続し、二つの注入コンデンサの二つの他端と検出抵抗の一端を接続し、その検出抵抗を介してパルス電圧信号を注入し、この注入コンデンサの二つ他端の接続点を測定点として測定しても、絶縁抵抗に高電圧回路の電圧変化分(例えば400V)が加わる点は同じなので、大きな充放電電流が流れ、2回測定の間の注入コンデンサの両端電圧の変化も大きくなり、その分2回測定の差分値から得られる地絡電流の変化、つまり絶縁抵抗値の変化が大きくなる問題は改善されない。
【0020】
この地絡電流や絶縁抵抗値の変化を改善するために、注入コンデンサの両端電圧変化ΔVcを注入パルス電圧5Vの例えば10%の0.5V以下に抑えるには、注入コンデンサ容量をこの0.5Vと前述の40Vの電圧比80(=40V/0.5V)倍の800μF(=10μF×80)以上にすることになりコンデンサの大きさ、コスト面から実用的ではない。
【0021】
また、スイッチ入り切りによる過渡現象が落ち着き、地絡電流が安定するには、注入コンデンサ容量10μFと絶縁抵抗100kΩの時定数が1(=10μF×100kΩ)秒であることから秒単位の待ち時間が生じ、この間は適正な測定ができないという問題があった。注入コンデンサ容量を大きくすると、注入コンデンサの両端電圧変化ΔVcを小さくすることはできるが、注入コンデンサ容量×絶縁抵抗の時定数が大きくなり、適正な測定ができない時間は長くなり問題となる。
【0022】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、地絡電流を微小な値まで高精度に測定が可能で、高電圧回路の電圧変化直後から高精度な絶縁抵抗測定が可能となる地絡検出装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この発明の地絡検出装置は、アース電位と絶縁された少なくとも1つ以上の電路と、第1の電圧を出力する第1の期間と、第2の電圧を出力する第2の期間を交互に、電圧基準点を基準に繰り返し出力する電圧出力手段と、電圧出力手段の出力を電路に注入する注入手段と、注入手段により注入された注入電流を測定し出力する電流測定手段と、電流測定手段の出力を基に、電路と前記アース電位の間の絶縁抵抗を演算する演算手段を有する地絡検出装置であって、注入手段は、電圧出力手段の出力に、直接又は抵抗を介して一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して電路に接続した少なくとも1つ以上の注入コンデンサと、電圧基準点に一端を接続し、他端を直接又は抵抗を介して前記アース電位に接続した検出抵抗を有し、電流測定手段は、検出抵抗の両端電圧を測定するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、地絡電流を検出する検出抵抗の一端が、電圧出力手段の出力の電圧基準点に接続され、電流測定手段が検出抵抗の両端電圧を測定しているので、電圧出力手段の出力電圧や測定回路への漏れ電流の影響の少ない高精度の地絡電流測定が行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】 本発明の実施の形態1における地絡検出装置と高電圧回路を示す回路ブロック図である。
図2】 本発明の実施の形態1における注入電流の測定時点を示す図である。
図3】 本発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果を示す図である。
図4】 本発明の実施の形態1における2秒経過後のシミュレーション結果を示す図である。
図5】 本発明の実施の形態1における注入回路の等価回路を示す図である。
図6】 本発明の実施の形態2における地絡検出装置と高電圧回路を示す回路ブロック図である。
図7】 本発明の実施の形態2におけるシミュレーション結果を示す図である。
図8】 本発明の実施の形態2における2秒経過後のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における地絡検出装置100と高電圧回路50を示す回路ブロック図、図2は注入電流の測定時点を示す図である。
【0027】
図1において、高電圧回路50は、直流電源51、直流電源51の出力を入り切り又は昇降圧するスイッチ手段52、スイッチ手段52の出力に並列接続されたコンデンサ53と負荷54を有し、負荷54のプラス側電路54aと車体アース(シャーシ)60間には絶縁抵抗Rga、静電容量Cgaを有し、負荷54のマイナス側電路54bと車体アース60間には絶縁抵抗Rgb、静電容量Cgbを有す。
【0028】
直流電源51は高電圧バッテリ又はその出力を昇降圧した例えば400Vの電源であり、スイッチ手段52は、電路を入り切りするメカニカル又は半導体スイッチや、電圧を例えば0Vから400Vの間の任意の電圧に可変する電力変換装置であり、コンデンサ53は平滑用コンデンサやノイズ対策用のXコンデンサ(ラインとライン間に接続するコンデンサ)であり、負荷54は、例えばモータ駆動装置の直流回路部や、電気加熱式触媒(EHC)等である。
【0029】
静電容量Cga、Cgbは、電路54a、54bと車体アース60間に存在する浮遊容量や、高電圧回路50内の各装置の電路54a、54bに接続されたノイズ対策用のYコンデンサ(ラインとアース間に接続するコンデンサ)等の合成静電容量であり、絶縁抵抗Rga、Rgbは、電路54a、54bと車体アース60間の絶縁抵抗であり、正常時は20MΩ以上の良好な絶縁状態であるが、異常時は100kΩ以下に絶縁が劣化することがある。
【0030】
地絡検出装置100は、この絶縁抵抗(RgaとRgbの並列合成抵抗)を流れる地絡電流を測定し高電圧回路50の絶縁状態を監視するもので、電圧出力手段10、注入手段20、電流測定手段30、演算手段40を有す。
【0031】
電圧出力手段10は、電圧基準点10aに対し所定電圧(例えば15V)の直流電源10bと、所定電圧(例えば-15V)の直流電源10cと、直流電源10bのプラス端に一端を接続したスイッチング素子Q1と、スイッチング素子Q1の他端に一端を接続し他端を直流電源10cのマイナス端に接続したスイッチング素子Q2を有し、スイッチング素子Q1、Q2を所定周期(例えば0.1秒)毎に交互にオンオフする事で、電圧出力点10d(スイッチング素子Q1の他端とスイッチング素子Q2の一端との接続点)から電圧基準点10aを基準に所定電圧(例えば±15V)で所定周波数(例えば5Hz)の矩形波パルス電圧を出力する。この出力が「L」レベル(第1の電圧、例えば-15V)、「H」レベル(第2の電圧、例えば15V)の注入パルス電圧信号となる。
【0032】
注入手段20は、電圧出力手段10が出力した注入パルス電圧を、高電圧回路50に注入するもので、電圧出力点10dに一端を接続した抵抗R1と、抵抗R1の他端に一端を接続した注入コンデンサC1と、電圧基準点10aに一端を接続し、他端を車体アース60に接続した検出抵抗R2を有し、注入コンデンサC1の他端は高電圧回路50のマイナス側電路54bに接続されている。注入コンデンサC1の他端は高電圧回路50のプラス側電路54a又はマイナス側電路54bのどちらか一方に接続される。なお、検出抵抗R2の他端と車体アース60の間、注入コンデンサC1の他端と電路54bの間に抵抗を挿入してもよい。
【0033】
電流測定手段30は、注入手段20により注入した電圧により生じる注入電流を測定するもので、オペアンプ31を有し、オペアンプ31の+端子31aを検出抵抗R2の他端(車体アース60)に接続し、-端子31bをオペアンプ出力31cに接続し、検出抵抗R2の一端(電圧基準点10a)を基準にして、検出抵抗R2の他端(車体アース60)を入力とし、オペアンプ出力31cを出力とした非反転増幅回路を構成しており、電圧基準点10aを基準にしたオペアンプ出力31cを電流測定出力32として演算手段40に出力する。
【0034】
演算手段40は、電流測定手段30の電流測定出力32を所定の測定時点で測定し、絶縁抵抗を演算し、注入異常を検出するものであるが、まず測定時点について説明する。
【0035】
図2は注入電流の測定時点を示す図で、電流測定手段30の電流測定出力32の波形を示しており、期間TL(第1の期間)が注入パルス電圧「L」レベル(第1の電圧)の期間、期間TH(第2の期間)が注入パルス電圧「H」レベル(第2の電圧)の期間である。期間TLと期間THは所定周期(例えば0.1秒)毎に交互に繰り返しており、図2では期間TL、期間TH、期間TLと3つの期間を切り出して図示している。
【0036】
1つ目の期間の期間TLの始端(注入パルス電圧が「H」レベルから「L」レベルに変化した時点)では、静電容量Cga、Cgbの充電による突入電流が車体アース60から電路54a、54bの方向に流れ、検出抵抗R2には電圧基準点10aから車体アース60の方向に流れ、電流測定出力32はマイナス極性方向(図示下方向)に一時大きく振れやがて減少(過渡変化)する。期間TL始端直後(第3の測定時点)の時点30a1はこの過渡変化途中領域の測定時点を示す。
【0037】
静電容量Cga、Cgbの充電が完了しこの過渡変化が終わると、絶縁抵抗Rga、Rgbに流れる安定した電流が車体アース60から電路54a、54bの方向に流れ、検出抵抗R2には電圧基準点10aから車体アース60の方向に流れ、電流測定出力32はマイナス極性方向(図示下方向)に安定した電圧が出力される。期間TL終端直前(第1の測定時点)の時点30b1はこの安定した領域の測定時点を示す。
【0038】
1つ目の後の、2つ目の期間の期間THの始端(注入パルス電圧が「L」レベルから「H」レベルに変化した時点)では、静電容量Cga、Cgbの充電による突入電流が電路54a、54bから車体アース60の方向に流れ、検出抵抗R2には車体アース60から電圧基準点10aの方向に流れ、電流測定出力32はプラス極性方向(図示上方向)に一時大きく振れやがて減少(過渡変化)する。期間TH始端直後(第4の測定時点)の時点30c1はこの過渡変化途中領域の測定時点を示す。電流測定出力32はこの過渡変化が終わると絶縁抵抗Rga、Rgbに流れる電流が安定して現れ、期間TH終端直前(第2の測定時点)の時点30d1はこの安定した領域の測定時点を示す。
【0039】
3つ目の期間の期間TLの時点30a2は、1つ目の期間TLの時点30a1に相当し、時点30b2は、時点30b1に相当する。
【0040】
次に、演算手段40の各測定手段、演算手段、検出手段について説明する。
演算手段40は、期間TL終端直前(時点30b1、時点30b2等)の電流測定出力32を測定し検出抵抗R2で除して(検出抵抗R2を流れる電流値として)出力41a(第1の測定値)にホールド出力する第1測定手段41と、期間TH終端直前(時点30d1等)の電流測定出力32を測定し検出抵抗R2で除して出力42a(第2の測定値)にホールド出力する第2測定手段42と、期間TL始端直後(時点30a1、時点30a2等)の電流測定出力32を測定し検出抵抗R2で除して出力43a(第3の測定値)にホールド出力する第3測定手段43と、期間TH始端直後(時点30c1等)の電流測定出力32を測定し検出抵抗R2で除して出力44a(第4の測定値)にホールド出力する第4測定手段44を有す。
【0041】
また、演算手段40は期間TLの終端直前の測定時点での測定後の演算時点(第1の演算時点)又は期間THの終端直前の測定時点での測定後の演算時点(第2の演算時点)で、第1測定手段出力41aと第2測定手段出力42aの差分を演算し出力45aに出力する第1の差分演算手段45と、その第1の差分演算手段出力45aと第1測定手段出力41aと第2測定手段出力42aから絶縁抵抗を演算する絶縁抵抗演算手段46と、期間TLの始端直後の測定時点での測定後の演算時点(第3の演算時点)又は期間THの始端直後の測定時点での測定後の演算時点(第4の演算時点)で、第3測定手段出力43aと第4測定手段出力44aから注入異常の有無を検出する注入異常検出手段47を有す。
【0042】
演算手段40の絶縁抵抗演算手段46は、期間TLの第1測定手段出力41aと一つ前期間THの第2測定手段出力42aの差分演算値である第1の差分演算手段45の期間TLの電流差分値(第1の差分値)と、期間THの第2測定手段出力42aと一つ前期間TLの第1測定手段出力41aの差分演算値である第1の差分演算手段45の期間THの電流差分値(第2の差分値)と、第2の差分演算手段46a(図示せず)と、注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46b(図示せず)と、抵抗電圧降下演算手段46c(図示せず)を有し、第2の差分演算手段46aは期間TLの電流差分値と期間THの電流差分値の差分を演算する。
【0043】
絶縁抵抗演算手段46の注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46bは、第1測定手段出力41aと第2測定手段出力42aの少なくとも一つを用いて、一つ前期間の期間TL終端直前と期間TH終端直前(時点30b1と時点30d1等)の、又は一つ前期間の期間TH終端直前と期間TL終端直前(時点30d1と時点30b2等)の注入コンデンサ両端電圧の電圧変化(差分)を演算する。
【0044】
絶縁抵抗演算手段46の抵抗電圧降下演算手段46cは、第1の差分演算手段出力45aと、注入手段20の注入電流経路の抵抗である抵抗R1及び検出抵抗R2の抵抗値を用いて、一つ前期間の期間TL終端直前と期間TH終端直前(時点30b1と時点30d1等)の、又は一つ前期間の期間TH終端直前と期間TL終端直前(時点30d1と時点30b2等)の抵抗R1及び検出抵抗R2の電圧降下の差分を演算する。
【0045】
また、演算手段40の絶縁抵抗演算手段46は、次に述べる第1から第3の絶縁抵抗演算方法の中の一つを用いて絶縁抵抗を演算する。
【0046】
第1の絶縁抵抗演算方法は、第1の差分演算手段出力45aから、あらかじめ実験及びシミュレーションで設定しておいた近似式または換算表を基に絶縁抵抗値を求めるにあたり、期間TLと期間THの中のどちらの期間の第1の差分演算手段出力45a(電流差分値)を用いるかを選択する。
【0047】
第2の絶縁抵抗演算方法は、第2の差分演算手段46aの演算結果から、あらかじめ実験及びシミュレーションで設定しておいた近似式または換算表を基に絶縁抵抗値を求める。
【0048】
第3の絶縁抵抗演算方法は、電圧出力点10dの「H」レベルと「L」レベルの電圧差と、注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46bの演算結果と、抵抗電圧降下演算手段46cの演算結果と、静電容量Cga、Cgbに起因する注入コンデンサC1の静電容量起因電圧46d(後述する)と、静電容量Cga、Cgbに起因する静電容量起因電流46e(後述する)から、絶縁抵抗RgaとRgbの並列合成抵抗値を演算する。
【0049】
演算手段40の注入異常検出手段47は、第3測定手段出力43aと第4測定手段出力44aの両方が所定の判定値範囲内にある場合に、又は第3測定手段出力43aと第4測定手段出力44aの差分値が所定の判定値範囲内にある場合に、注入異常があると判定する。
【0050】
このように構成された地絡検出装置100においては、図2の期間TLにおいて電圧出力手段10が「H」レベルの例えば15Vから「L」レベルの例えば-15Vへの電圧変化-30Vを出力すると、期間TL始端では高電圧回路50への注入電流として、静電容量Cga、Cgbへの充電電流が車体アース60から電路54a、54bの方向へ流れる。この注入電流は抵抗R1及び検出抵抗R2により制限され二つの抵抗の直列合成抵抗値R10が例えば12kΩの時は、注入コンデンサC1の影響を無視すれば、最大電流-2.5mA(=-30V/R10=-30V/12kΩ)が流れる。
【0051】
静電容量Cga、Cgbの並列合成容量C10が例えば0.4μFとすると、充電時定数4.8m秒(=R10×C10=12kΩ×0.4μF)で充電され、この充電電流は指数関数的に減少していき、充電時定数の例えば16倍である80m秒後には充電が完了しており、注入電流は、絶縁抵抗Rga、Rgbを流れる電流である地絡電流値に安定する。図2の時点30b1は、期間TLの始端から例えば80m秒経過した時点であり、この時点の検出抵抗R2を流れる電流に相当する電流測定出力32を第1測定手段41は測定する。
【0052】
期間THにおいて電圧出力手段10が「L」レベルから「H」レベルへの電圧変化を出力する場合でも、電流の極性を逆にした同様な動作となり、図2の時点30d1は、期間THの始端から例えば80m秒経過した時点であり、この時点の検出抵抗R2を流れる電流に相当する電流測定出力32を第2測定手段42は測定する。
【0053】
絶縁抵抗Rga、Rgbの並列合成抵抗R11を例えば10MΩとすると、地絡電流は±1.5μA(=±15V/R11=±15V/10MΩ)となり、この微小な電流が検出抵抗R2を流れ、検出抵抗R2が例えば2kΩの場合はその両端電圧は±3mV(=±1.5μA×2kΩ)となり、電流測定手段30はこの微小な電圧を高精度に測定する必要がある。
【0054】
地絡電流を検出する検出抵抗R2は、一端を電圧出力手段10の電圧基準点10aに接続しており、電流測定手段30は電圧基準点10aを基準に検出抵抗R2の他端を測定することで、検出抵抗R2の両端電圧を、つまり地絡電流を高精度に測定することができる。
【0055】
この構成の場合検出抵抗R2両端電圧の測定誤差要因はオペアンプ31の入力オフセット電圧が主要因となり、オペアンプ31に標準的に入手可能な低入力オフセット電圧(例えば入力オフセット電圧が30μV以下)オペアンプを用いれば、その入力オフセット電圧の影響は、前述の検出抵抗R2両端電圧の3mVに対し1%(=30μV/3mV)以下と小さい。他に誤差要因となる不要な電圧ばらつきや変動要因がないのでμAレベルの地絡電流でも高精度に測定することができる。
【0056】
また電流測定手段30は、非反転増幅回路の構成を用いており、測定点となる検出抵抗R2の他端にはオペアンプ31の+端子31aのみが接続されている。検出抵抗R2両端電圧による地絡電流測定誤差のもう一つの主要因である測定回路の入力インピーダンスはオペアンプ31にのみ存在し、オペアンプ31に標準的に入手可能な高入力インピーダンス(例えば入力電流が500pA以下)オペアンプを用いれば、その入力インピーダンス(入力電流)の影響は、前述の地絡電流1.5μAに対し0.033%(=500pA/1.5μA)以下と小さく、検出抵抗R2には地絡電流の誤差要因となる余計な漏れ電流が流れないのでμAレベルの地絡電流でも高精度に測定することができる。
【0057】
なお、電流測定手段30を反転増幅回路の構成とすることもでき、この場合測定回路の入力インピーダンスは、反転増幅回路の入力側抵抗が相当しこれが等価的に検出抵抗R2に並列接続された形となる。入力側抵抗に高精度抵抗を用いることで入力インピーダンスの影響は低減できる。しかし、反転増幅回路のオペアンプの入力オフセット電流に入力側抵抗と出力側抵抗の並列合成抵抗値を乗じたものが、入力オフセット電圧に加わることになるので、入力側抵抗と出力側抵抗を大きくすると入力オフセット電圧の影響が大きくなる。また入力側抵抗を小さくするとオペアンプで処理しなければならない電流が増えるので、オペアンプの制御電源は大きくせざるを得ない。
【0058】
また、ここでは検出抵抗R2の一端を基準にして、検出抵抗R2の他端を測定したが、オペアンプの制御電源の取り方に応じて、検出抵抗R2の他端を基準にして、検出抵抗R2の一端を測定してもよい。
【0059】
また、抵抗R1は、高電圧回路50の電路54a、54bと車体アース60が誤って短絡した場合に、注入電流を制限して地絡電流検出装置100を過電流による故障から保護することができる。このとき、電流測定手段30のオペアンプ31に不要な過電圧がかからないように、検出抵抗R2には並列に図示しない逆直列接続のチェナーダイオードを接続するのが望ましい。
【0060】
ここで、高電圧回路50の負荷54へ印可される電圧が変化した場合の地絡検出装置100の動作について説明する。
【0061】
高電圧回路50のスイッチ手段52がオンし、負荷54に直流電源51の出力電圧を印可した場合の動作を回路シミュレータによるシミュレーション波形を用いて説明する。
シミュレーションの条件として、図1において、高電圧回路50の直流電源51の出力電圧が400V、コンデンサ53が20μF、負荷54が50Ω、静電容量Cga、Cgbがそれぞれ0.2μFとし、地絡検出装置100の電圧出力手段10の出力が±15V5Hzの矩形波パルス、抵抗R1と検出抵抗R2の直列合成抵抗値が12kΩ、注入コンデンサC1が10μFとし、絶縁抵抗Rgaが100kΩ(絶縁劣化状態)、Rgbが1000MΩ(絶縁健全状態)とする。第1測定手段41、第2測定手段42の測定時点としては期間TL、THの始端から0.08秒経過した時点とする。
【0062】
図3はシミュレーション結果を示す図で、図3(a)は電圧出力手段10の電圧出力点10dの波形を示し、時間0秒から0.1秒間「L」レベルの-15Vを、その後0.1秒間「H」レベルの15Vを出力し、以降それを繰り返す。
【0063】
図3(b)は負荷54に印可される電圧波形を示す図で、時間0.05秒にスイッチ手段52がオンし、400Vが負荷54に印可される。本シミュレーションでは、このタイミングで負荷54印可電圧が急変した場合を検証する。
【0064】
図3(c)は電流測定手段30の電流測定出力32の波形(注入電流波形)と測定時点を示す図であり、測定時点は、注入電圧パルス電圧「L」レベル(期間TL)の終端直前の時間0.08秒時点(期間TLの時点30b1)、注入電圧パルス電圧「H」レベル(期間TH)の終端直前の時間0.18秒時点(期間THの時点30d1)、時間0.28秒時点(期間TLの時点30b2)、時間0.38秒時点(期間THの時点30d2)、時間0.48秒時点(期間TLの時点30b3)である。
【0065】
注入電流波形では時間0.05秒に負荷54へ400Vが印可された時点に、静電容量Cga,Cgbに大きな充電電流がプラス極性方向(図示上方向)に流れ、その後注入パルス電圧が「L」から「H」、「H」から「L」に変化するたびに、静電容量Cga、Cgbへの充電電流がプラス極性方向(図示上方向)、マイナス極性方向(図示下方向)に流れる。注入電流により注入コンデンサC1が充電されていくのに従い、注入電流は全体的に減少していく。
【0066】
図3(d)は図3(c)に示す各測定時点での注入電流の測定値を示す折れ線グラフで、電流測定出力32の測定値を検出抵抗R2の抵抗値で除したもの(第1測定手段出力41a、第2測定手段出力42aに相当)で、検出抵抗R2を流れる電流値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。
【0067】
図3(e)は図3(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値を示す折れ線グラフで、あるN期間の測定時点での電流測定出力32の測定値と、Nの一つ前の(N-1)期間の測定時点での電流測定出力32の測定値との差分値を検出抵抗R2の抵抗値で除したN期間の電流差分値(N期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)を示し、時点30d1では時点30b1との電流差分値、時点30b2では時点30d1との電流差分値、時点30d2では時点30b2との電流差分値、時点30b3では時点30d2との電流差分値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。なお時点30b1での電流差分値は不定値としてグラフにプロットしていない。この不定値処理については後述する。
【0068】
図3(f)は図3(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値の差分値を示す折れ線グラフで、あるN期間の電流差分値(N期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)と、Nの一つ前の(N-1)期間の電流差分値((N-1)期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)との差分値(N期間の第2の差分演算手段46aの演算結果に相当)を示し、時点30b2では時点30d1との差分値、時点30d2では時点30b2との差分値、時点30b3では時点30d2との差分値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。なお時点30b1、時点30d1では前述の電流差分値の不定値に係る演算となるのでグラフにプロットしていない。
【0069】
図3(g)は図3(c)に示す各測定時点(各期間)の絶縁抵抗演算値を示す折れ線グラフで、縦軸の単位はkΩ、横軸の単位は秒である。なお時点30b1では前述の電流差分値の不定値に係る演算となるのでグラフにプロットしていない。
【0070】
図4は2秒経過後のシミュレーション結果を示す図で、図3と同様に、図4(a)は電圧出力手段10の電圧出力点10dの波形を示し、図4(b)は負荷54に印可される電圧波形を示し、図4(c)は電流測定手段30の電流測定出力32の波形(注入電流波形)と測定時点を示す図であり、測定時点は、注入電圧パルス電圧「L」レベル(期間TL)の終端直前の時間2.08秒時点(期間TLの時点30b11)、注入電圧パルス電圧「H」レベル(期間TH)の終端直前の時間2.18秒時点(期間THの時点30d11)、時間2.28秒時点(期間TLの時点30b12)、時間2.38秒時点(期間THの時点30d12)、時間2.48秒時点(期間TLの時点30b13)である。
【0071】
図4(d)は図4(c)に示す各測定時点での注入電流の測定値を示す折れ線グラフで、電流測定出力32の測定値を検出抵抗R2の抵抗値で除したもの(第1測定手段出力41a、第2測定手段出力42aに相当)で、検出抵抗R2を流れる電流値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。
【0072】
図4(e)は図4(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値を示す折れ線グラフで、あるN期間の測定時点での電流測定出力32の測定値と、Nの一つ前の(N-1)期間の測定時点での電流測定出力32の測定値との差分値を検出抵抗R2の抵抗値で除したN期間の電流差分値(N期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)を示し、時点30b11では時間1.98秒時点との電流差分値、時点30d11では時点30b11との電流差分値、時点30b12では時点30d11との電流差分値、時点30d12では時点30b12との電流差分値、時点30b13では時点30d12との電流差分値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。
【0073】
図4(f)は図4(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値の差分値を示す折れ線グラフで、あるN期間の電流差分値(N期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)と、Nの一つ前の(N-1)期間の電流差分値((N-1)期間の第1の差分演算手段出力45aに相当)との差分値(N期間の第2の差分演算手段46aの演算結果に相当)を示し、時点30b11では時間1.98秒時点との差分値、時点30d11では時点30b11との差分値、時点30b12では時点30d11との差分値、時点30d12では時点30b12との差分値、時点30b13では時点30d12との差分値を示す。縦軸の単位はμA、横軸の単位は秒である。
【0074】
図4(g)は図4(c)に示す各測定時点(各期間)の絶縁抵抗演算値を示す折れ線グラフで、縦軸の単位はkΩ、横軸の単位は秒である。
【0075】
ここで、シミュレーション結果について説明する。
図3(d)に示すように、検出抵抗R2を流れる注入電流は、スイッチ手段52をオンした直後は3.2mA程度流れる。この電流は徐々に減少し、2秒程度経過した図4(d)では、500μA程度となる。
【0076】
スイッチ手段52をオンした直後の注入電流の電流差分値は、図3(e)に示すように、時点30d1や時点30d2では小さくなる。これは、スイッチ手段52をオンした直後は注入電流が大きく、注入コンデンサC1は急速に充電され、注入コンデンサC1両端電圧の一つ前の期間の測定時点との電圧変化ΔVcが30V程度となり、注入パルス電圧の「L」レベルから「H」レベルへの電圧変化分ΔV10dの30Vを打ち消し、一つ前の測定時点30b1と測定時点30d1で、又一つ前の測定時点30b2と測定時点30d2で絶縁抵抗Rgaに印可される電圧の差が小さいためである。
【0077】
逆に、時点30b2や時点30b3では、注入電流の電流差分値は大きくなる。これは注入コンデンサC1両端電圧の一つ前の期間の測定時点との電圧変化ΔVcが、注入パルス電圧の「H」レベルから「L」レベルへの電圧変化分ΔV10dの-30Vに加算され、一つ前の測定時点30d1と測定時点30b2で、又一つ前の測定時点30d2と測定時点30b3で絶縁抵抗Rgaに印可される電圧の差が大きくなるためである。
【0078】
スイッチ手段52をオンして2秒程度経過すると、図4(e)に示すように、期間THの測定時点(30d11、30d12)の電流差分値ΔId11、ΔId12は、196μA、204μA、期間TLの測定時点(30b12、30b13)の電流差分値ΔIb12、ΔIb13は、-290μA、-283μAと、期間THと期間TLの差が小さくなる。十分な時間が経過するとこの差が無くなり安定し、その安定値はΔId12とΔIb13の絶対値の平均値244μA(=(204μA+283μA)/2)となり、電流差分値の絶対値が244μAの場合、絶縁抵抗値は100kΩであると相関付けることができる。
【0079】
スイッチ手段52をオンした直後は図3(e)に示すように、期間THの測定時点(30d1、30d2)の電流差分値ΔId1、ΔId2は-40μA、13μA、期間TLの測定時点(30b2、30b3)の電流差分値ΔIb2、ΔIb3は-499μA、-458μAであり、前述の244μAを基準にすると、期間TH同士の絶対値のばらつきは27(=40-13)μAで基準に対し11%(=27μA/244μA)、期間TL同士の絶対値のばらつきは41(=499-458)μAで基準に対し17%、期間THと期間TLの絶対値のばらつきは459(=499-40)μAで基準に対し188%、時点30b2のΔIb2は-499μAで基準に対し205%となり、期間THと期間TLのばらつきが大きく、期間TLでの電流差分値の誤差も大きな値となる。
【0080】
スイッチ手段52をオン後2秒以上経過した時点30b13のΔIb13は-283μAで基準に対し116%となり、この時点においても誤差は16%と小さくない。
【0081】
ここで、演算手段40の絶縁抵抗演算手段46の絶縁抵抗演算方法と演算結果について説明するが、その前に前述の図3(e)の説明で述べた電流差分値の不定値処理について説明する。
【0082】
図3(e)では時点30b1の電流差分値を不定値としたが、時点30b1はスイッチ手段52をオンして最初の期間の測定時点であるので、一つ前の期間の測定時点ではまだスイッチ手段52がオフであり、このスイッチ手段52の状態が異なる前後で第1の差分演算手段45により電流差分値を求めると、演算値は3090μAと異常な過大値となる。この過大値を絶縁抵抗の演算に用いるのは好ましくないので、この過大な電流差分演算値は不定値とし、この不定値に係る演算は行わず直前の絶縁抵抗演算値を維持することとする。
【0083】
どの期間の電流差分値を不定値とするかは、電流測定出力32の測定値や電流差分値の推移状況から、突出した1回の期間を不定値と判定してもよいし、高電圧回路50のスイッチ手段52等の制御内容とそのタイミングが分かっていれば、制御内容とそのタイミングから判定してもよい。
【0084】
絶縁抵抗演算手段46は、第1から第3の絶縁抵抗演算方法の中の一つを用いて絶縁抵抗を演算するが、まず第1の絶縁抵抗演算方法と演算結果について説明する。
【0085】
第1の絶縁抵抗演算方法では、あらかじめ実験またはシミュレーションにより第1の差分演算出力45aと絶縁抵抗値の相関関係を近似式または換算表にしておき、その近似式または換算表を基に、第1の差分演算手段出力45aから絶縁抵抗値を求めるが、全ての第1の差分演算手段出力45aを用いるのではなく、期間TL又は期間THの中のどちらの期間の第1の差分演算手段出力45aを用いるかを選択する。また前述の電流差分値の不定値処理を行う。
【0086】
なお、従来(特許文献1)は、注入パルス電圧の「H」レベルから「L」レベルへの差分を測定しており、前述の不定値処理を行っていないのでスイッチ手段52オン直後は、時点30b1(0.08秒後)の3090μA、時点30b2(0.28秒後)の-499μA、時点30b3(0.48秒後)の-459Aを測定することになり、前述の基準値244μAに対し絶対値は1266%、205%、188%と大きな地絡電流(電流差分値)が測定される。2.48秒後の時点30b13でも-283μAを測定することになり、前述の基準値244μAに対し絶対値は116%となり2秒以上経過しても16%大きい値が測定される。地絡電流(電流差分値)が大きいということは絶縁抵抗が小さく絶縁劣化の度合いが悪化したということなので、スイッチ手段52をオンした場合に過剰な絶縁悪化情報を一時的に発出することになり問題であった。
【0087】
スイッチ手段52をオンした場合の過剰な絶縁悪化情報の一時的発出を防止するためには、前述の電流差分値の不定値処理に加え、値の大きい電流差分値ΔIb2、ΔIb3となる期間TLではなく、値の小さい電流差分値ΔId1、ΔId2となる期間THの第1の差分演算手段出力45aを選択することで、電流差分値は-40μA、13μAとなる。この場合は前述の基準値244μAに対し絶対値は16%、5%と小さくなりその分絶縁抵抗演算値は大きな値となり、従来(特許文献1)の一時的に発出していた過剰な絶縁悪化情報の発出を防止することができる。
【0088】
電流差分値(第1の差分演算手段出力45a)が小さくなるのは、注入コンデンサC1の充電電圧変化極性が、注入パルス電圧の出力電圧変化極性を打ち消すように働く場合であり、今回のように注入コンデンサC1をマイナス側電路54bに接続し絶縁抵抗Rgaを絶縁劣化(100kΩ)させた場合は、スイッチ手段52をオンした時に、期間THの方が小さくなり、スイッチ手段52をオフした時は、注入コンデンサC1の充電電圧変化極性が逆になるので、期間TLの方が小さくなる。注入コンデンサC1をプラス側電路54aに接続し絶縁抵抗Rgbを絶縁劣化(100kΩ)させた場合は、注入コンデンサC1の充電電圧変化極性が逆になるのでスイッチ手段52をオンした時に期間TLの方が小さくなり、スイッチ手段52をオフした時は期間THの方が小さくなる。状況に応じて期間TLと期間THのどちらの期間の電流差分値(第1の差分演算手段出力45a)を用いるかを選択することで過剰な絶縁悪化情報の発出を防止できる。
【0089】
期間TLと期間THの中で前述の不定値を除いて電流差分値の絶対値の小さい方(第1の差分演算手段出力45aの絶対値の小さい方)の期間を選択してもよいし、高電圧回路50のスイッチ手段52等の制御内容とそのタイミングが分かっていれば、制御内容とそのタイミングから期間を選択してもよい。
【0090】
次に、絶縁抵抗演算手段46で行う第2の絶縁抵抗演算方法と演算結果について説明する。第2の絶縁抵抗演算方法では、あらかじめ実験またはシミュレーションにより第2の差分演算手段46aの演算結果と絶縁抵抗値の相関関係を近似式または換算表にしておき、その近似式または換算表を基に、第2の差分演算手段46aの演算結果から絶縁抵抗値を求める。また、前述の電流差分値の不定値処理を行う。
【0091】
第2の差分演算手段46aの演算結果を、図3(f)及び図4(f)に示す。
図4(f)に示すように、スイッチ手段52オン後2秒程度経過後の第2の差分演算手段46aの演算結果は、時点30d12(2.38秒後)の演算値が-494μA、時点30b13(2.48秒後)の演算値が487μAと両者の絶対値は近づいており、時間の経過と共にその両者の絶対値の平均値490μAに安定する。よって第2の差分演算手段46aの演算結果が絶対値で490μAの場合、絶縁抵抗Rgaは100kΩであると相関付けることができる。
【0092】
この490μAを基準にすると、スイッチ手段オン直後の第2の差分演算手段46aの演算結果は図3(f)に示すように、時点30b2(0.28秒後)の演算値は458μAで基準の490μAの93.5%、時点30d2(0.38秒後)の演算値は-512μAで基準の104.5%となり、スイッチ手段52オン直後でも±7%以下の精度での絶縁抵抗演算が可能となる。
【0093】
従来(特許文献1)のスイッチ手段52オン直後の時点30b2(0.28秒後)の演算値が前述のように基準値に対し205%であるのに比べ、第2の絶縁抵抗演算方法では基準値に対し93.5%となり、より高精度な絶縁抵抗演算が可能である。
【0094】
次に、絶縁抵抗演算手段46で行う第3の絶縁抵抗演算方法と演算結果について説明するが、まず第3の絶縁抵抗演算方法について、図3(c)の中の三つの測定時点における注入回路の等価回路を用いて説明する。ここで注入回路の等価回路とは図1において注入電流の流れる経路を等価的に示したもので、絶縁抵抗Rga、Rgbの並列合成絶縁抵抗をRgとし、静電容量Cga、Cgbは除いている。静電容量Cga,Cgbの影響については後述する。
【0095】
図5(a)は図3(c)の時点30b1における注入回路の等価回路、図5(b)は時点30d1における注入回路の等価回路、図5(c)は時点30b2における注入回路の等価回路を示す。
【0096】
図5(a)において、注入電流をIb1、注入コンデンサC1両端電圧をVcb1、抵抗R1及び検出抵抗R2の電圧降下をVrb1、直流電源51を400V、直流電源10cを-15Vとすると、絶縁抵抗Rgに印可される電圧Vgb1は下記(1)式となる。
【0097】
【数1】
また、抵抗R1と検出抵抗R2の直列合成抵抗をR10とすると、電圧降下Vrb1は下記(2)式となる。
【0098】
【数2】
図5(b)において、注入電流をId1、注入コンデンサ両端電圧をVcd1、抵抗R1及び検出抵抗R2の電圧降下をVrd1、直流電源51を400V、直流電源10bを15Vとすると、絶縁抵抗Rgに印可される電圧Vgd1は下記(3)式となる。
【0099】
【数3】
また、電圧降下Vrd1は下記(4)式となる。
【0100】
【数4】
ここで、(3)式-(1)式、(2)式、(4)式よりVgd1とVgb1の差分のVgd1-Vgb1を求めると、下記(5)式となる。
【0101】
【数5】
また、Vgb1、Vgd1は絶縁抵抗Rgと注入電流の積なので下記(6)式、(7)式となる。
【0102】
【数6】
【0103】
【数7】
よってVgd1とVgb1の差分Vgd1-Vgb1は、(7)式-(6)式より下記(8)式となる。
【0104】
【数8】
また、(5)式と(8)式より下記(9)式が得られる。
【0105】
【数9】
注入電流の差分Id1-Ib1、注入コンデンサ両端電圧の差分Vcd1-Vcb1を
【0106】
【数10】
【0107】
【数11】
とすると、(9)式より絶縁抵抗Rgは下記(12)式となる。
【0108】
【数12】
以上より、期間THの時点30d1において(12)式を用いて絶縁抵抗Rgを演算することができ、他の期間THにおいても同様に演算することができる。
【0109】
(12)式の右辺分子は絶縁抵抗Rgへの印可電圧の差分値に相当し、右辺分母は絶縁抵抗Rgを流れる地絡電流の差分値に相当し、30Vは電圧出力点10dの期間TH始端の「L」レベルと「H」レベルの電圧差に相当し、ΔVcd1は後述する注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46bの時点30d1での測定値の演算結果に相当し、R10×ΔId1は、後述する抵抗電圧降下演算手段46cの時点30d1での測定値の演算結果に相当し、ΔId1は時点30d1での測定値での第1の差分演算手段出力45aに相当する。また、前述の電流差分値の不定値に係る演算は行わず前回の演算値を維持する。
【0110】
また、図5(c)において、注入電流をIb2、注入コンデンサC1両端電圧をVcb2、抵抗R1及び検出抵抗R2の電圧降下をVrb2、直流電源51を400V、直流電源10cを-15Vとすると、絶縁抵抗Rgに印可される電圧Vgb2は下記(13)式となる。
【0111】
【数13】
また、電圧降下Vrb2は下記(14)式となる。
【0112】
【数14】
ここで(13)式-(3)式、(4)式、(14)式よりVgb2とVgd1の差分のVgb2-Vgd1を求めると、下記(15)式となる。
【0113】
【数15】
また、Vgb2は絶縁抵抗Rgと注入電流の積なので下記(16)式となる
【0114】
【数16】
よって差分Vgb2-Vgd1は、(16)式-(7)式より下記(17)式となる。
【0115】
【数17】
また(15)式と(17)式より下記(18)式となる。
【0116】
【数18】
注入電流の差分Ib2-Id1、注入コンデンサ両端電圧の差分Vcb2-Vcd1を
【0117】
【数19】
【0118】
【数20】
とすると、絶縁抵抗Rgは下記(21)式となる。
【0119】
【数21】
以上より、期間TLの時点30b2において(21)式を用いて絶縁抵抗Rgを演算することができ、他の期間TLにおいても同様に演算することができる。
【0120】
(21)式の右辺分子は絶縁抵抗Rgへの印可電圧の差分値に相当し、右辺分母は絶縁抵抗Rgを流れる地絡電流の差分値に相当し、-30Vは電圧出力点10dの期間TL始端の「H」レベルと「L」レベルの電圧差に相当し、ΔVcb2は後述する注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46bの時点30b2での測定値の演算結果に相当し、R10×ΔIb2は、後述する抵抗電圧降下演算手段46cの時点30b2での測定値の演算結果に相当し、ΔIb2は時点30b2での測定値での第1の差分演算手段出力45aに相当する。また、前述の電流差分値の不定値に係る演算は行わず前回の演算値を維持する。
【0121】
ここでは、絶縁抵抗演算式である(12)、(21)式にある注入コンデンサ両端電圧の差分ΔVcd1、ΔVcb2について説明する。これらは注入コンデンサ両端電圧変化演算手段46bで演算する。
下記コンデンサの特性式(22)より
【0122】
【数22】
注入コンデンサ両端電圧の差分ΔVcd1、ΔVcb2は、時点30b1から時点30d1まで、又は時点30d1から時点30b2までの注入コンデンサC1の充電電流(注入電流)を時間積し、注入コンデンサC1の容量で除する事で得られるが、以下の第1及び第2の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法に単純化することができ、どちらか一つの方法を用いて求めればよい。
【0123】
この2つの演算方法について、まず期間THの演算方法を、時点30d1での測定値を演算する場合を例に説明する。
【0124】
第1の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法は、注入コンデンサC1の充電電流として時点30b1の注入電流Ib1が期間TLの残り時間T1(図3参照、例えば0.02秒)流れ、時点30d1の注入電流Id1が期間THの経過時間T2(図3参照、例えば0.08秒)流れたとする方法で、注入コンデンサC1容量がC1の場合の差分ΔVcd1は下記(23)式となる。
【0125】
【数23】
第2の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法は、注入コンデンサC1の充電電流として時点30d1の注入電流Id1が期間THの全時間T3(図3参照、例えば0.1秒)流れたとする方法で、注入コンデンサC1容量がC1の場合の差分ΔVcd1は下記(24)式となる。
【0126】
【数24】
次に期間TLの演算方法を、時点30b2での測定値を演算する場合を例に説明する。この場合も同様に、ΔVcb2は第1の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法では下記(25)式となり、第2の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法では下記(26)式となる。
【0127】
【数25】
【0128】
【数26】
【0129】
第1及び第2の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法の両方法とも、時点30b1、時点30b2での第1測定手段出力41aである注入電流Ib1、Ib2と、時点30d1での第2測定手段出力42aである注入電流Id1から、注入コンデンサ両端電圧の差分ΔVcd1、ΔVcb2を演算することができる。
【0130】
また、絶縁抵抗演算式である(12)、(21)式にある、R10×ΔId1、R10×ΔIb2は、抵抗電圧降下演算手段46cで演算しており、抵抗R1と検出抵抗R2との直列合成抵抗R10に電流差分値(第1の差分電流演算手段出力45a)を乗じることで、抵抗R1と検出抵抗R2による電圧降下値の差分を演算することができる。
【0131】
ここまでは、静電容量Cga、Ggbを除いて説明してきたが、静電容量Cga、Ggbに起因する絶縁抵抗演算の誤差要因について以下に説明する。
【0132】
注入パルス電圧が「H」レベルから「L」レベルに、または「L」レベルから「H」レベルに変化した時、注入コンデンサC1は、静電容量CgaとCgbの並列合成容量Cgと直列接続されて充放電され、注入コンデンサC1の両端電圧は変化する。この注入コンデンサ両端電圧変化分ΔVc1が誤差要因となる。
【0133】
ΔVc1は並列合成容量Cgに依存し、期間TLの演算では、注入パルス電圧の「H」レベルから「L」レベルの電圧変化分ΔV10d(例えば-30V)を、期間THの演算では注入パルス電圧の「L」レベルから「H」レベルの電圧変化分ΔV10d(例えば30V)を注入コンデンサC1と静電容量Cgで分圧した値となり、下記(27)式となる。
【0134】
【数27】
このΔVc1は静電容量起因電圧46dに相当し、前述の(23)式から(26)式のΔVcd1、ΔVcb2に、この電圧変化分ΔVc1を補正加算することで、より高精度な絶縁抵抗演算が可能である。
【0135】
また、絶縁抵抗Rgや静電容量Cgの両端に印可される電圧Vgが安定している期間TL、期間THの終端直前の測定時点において、静電容量Cgの両端電圧Vgの変化が微小であっても、その変化に応じた充放電電流が静電容量Cgに流れる。この静電容量Cgを流れる充放電電流が、絶縁抵抗Rgを流れる地絡電流に合成されて検出抵抗R2を流れるので、特に微小な地絡電流を測定する場合の誤差要因になる。
【0136】
この期間TLの終端直前の測定時点と期間THの終端直前の測定時点の静電容量Cgの充放電電流の差分は、静電容量起因電流46eに相当し、静電容量Cgの容量値と、絶縁抵抗Rgの抵抗値により決まるので、実験またはシミュレーションによりあらかじめ絶縁抵抗値毎に補正値または補正式を決めておいて、絶縁抵抗演算式である(12)式及び(21)式の右辺分母のΔId、ΔIbに補正加算することで、より高精度な絶縁抵抗演算が可能である。
【0137】
ここまで説明してきた第3の絶縁抵抗演算方法により演算した結果を図3(g)、図4(g)に示す。図3(g)、図4(g)では、第1の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法を用い、静電容量起因電圧46d、静電容量起因電流46eによる補正も行っている。
【0138】
図3(g)に示すように、スイッチ手段52オン直後の時点30d1(0.18秒後)での絶縁抵抗演算値は73.5kΩと、真値の100kΩに比べ小さい値ではあるが、時点30b2(0.28秒後)以降では絶縁抵抗演算値は95.1kから100.4kΩと誤差5%以下の演算をすることができ、第2の絶縁抵抗演算方法より高精度な測定が可能である。
【0139】
なお、時点30d2(0.38秒後)は、95.1kΩと誤差5%であり、他の時点30b2、30b3に比べ誤差が大きい。これは、前述の期間THの電流差分値ΔId2が13μAと小さく、絶縁抵抗演算式(12)式の右辺分子と分母共に小さくなることが誤差増加の要因となっている。
【0140】
一方、期間TLの時点30b2や時点30b3では誤差が0.4%と小さく、状況に応じて電流差分値の絶対値の大きい方の期間を選択して絶縁抵抗を演算することでより高精度な演算が可能となる。
【0141】
期間TLと期間THの中で電流差分値の絶対値の大きい方(第1の差分演算手段出力45aの絶対値の大きい方)の期間を選択してもよいし、高電圧回路50のスイッチ手段52等の制御内容とそのタイミングが分かっていれば、制御内容とそのタイミングから期間を選択してもよい。
【0142】
スイッチ手段52オン後2秒程度経過後の演算結果は図4(g)に示すように誤差1%以下の高精度な演算が行えている。
【0143】
ここでは、注入異常検出について説明する。
【0144】
地絡検出装置100と車体アース60の接続異常、注入コンデンサC1の一端と高電圧回路50の接続異常、注入コンデンサC1の断線故障、抵抗R1や検出抵抗R2の断線故障、電圧出力手段10の故障、電流測定手段30の故障等により注入パルス電圧が正常に注入できない注入異常が発生すると、正しく地絡電流や絶縁抵抗の監視ができなくなる。ここでは、これら注入異常を検出する方法について説明する。
【0145】
図2に示すように、期間TLの始端直後の時点30a1では、電圧出力点10dが「H」レベルから「L」レベルに電圧変化することにより、静電容量Cga、Cgbの充電による突入電流が車体アース60から電路54a、54bの方向に流れる。
【0146】
注入コンデンサC1の影響を無視すると、突入電流のピーク値は、電圧出力点10dの電圧変化(例えば-30V)を、抵抗R1と検出抵抗R2の直列合成抵抗値(例えば12kΩ)で除した電流値(例えば-2.5mA)となり、時定数(R1+R2)×(Cga+Cgb)で指数関数的に0A方向に変化する。
【0147】
この突入電流は、検出抵抗R2には電圧基準点10aから車体アース60の方向に流れ、電流測定出力32はマイナス極性方向に過渡変化する。第3測定手段43はこの過渡変化途中領域の時点30a1での電流測定出力32を測定し、測定値が所定の判定値(例えば前述のピーク電流値-2.5mAの1/2の-1.25mA)よりマイナス極性方向に超えると、注入回路は健全と判定できる。
【0148】
期間THの始端直後の時点30c1では、電圧出力点10dが「L」レベルから「H」レベルに電圧変化することにより、静電容量Cga、Cgbの充電による突入電流が電路54a、54bから車体アース60の方向に同様に流れる。検出抵抗R2には車体アース60から電圧基準点10aの方向に流れ、電流測定出力32はプラス極性方向に過渡変化する。第4の測定手段44は、この過渡変化途中領域の時点30c1での電流測定出力32を測定し、測定値が所定の判定値(例えば1.25mA)よりプラス極性方向に超えると、注入回路は健全と判定できる。
【0149】
静電容量Cga、Cgbは、高電圧回路50の各装置内のYコンデンサ及び車体アース間浮遊容量であるが、装置内に既設のYコンデンサがあれば、それは一般的に車体アース間浮遊容量より容量値が十分大きく、前述の時定数(R1+R2)×(Cga+Cgb)にとって支配的となり、突入電流波形は想定可能となり、突入電流による過渡変化を捉えるための電流測定時点30a1も想定できる。
【0150】
なお、第3測定手段43や第4測定手段44にノイズ除去用のローパスフィルタがある場合は、それによる効果を想定した測定時点(時点30a1、時点30c1)や判定値の設定を行うことが望ましい。また、高電圧回路50の装置内にYコンデンサが無い場合は、静電容量Cga、Cgbが小さい場合があるので実機検証により測定時点や判定値を合わせ込むことが望ましい。
【0151】
また、スイッチ手段52オン直後は、図3(c)に示すように電流測定出力32はプラス極性方向(図示上方向)に偏移し、時点30c1では、測定値がプラス極性の所定の判定値(例えば1.25mA)よりプラス極性方向に超えるが、注入回路が健全であっても、時点30a2では測定値がマイナス極性の所定の判定値(例えば-1.25mA)よりマイナス極性方向に超えない場合があり得る。
【0152】
逆にスイッチ手段52オフ直後は、電流測定出力32はマイナス極性方向(図示下方向)に偏移し、注入回路が健全であっても、測定値がプラス極性の所定の判定値(例えば1.25mA)よりプラス極性方向に超えない場合があり得る。
【0153】
そのため、注入異常検出手段47は、第3測定手段出力43aと第4測定手段出力44aの両方が所定の判定値範囲内にある場合に注入異常があると判定する。
【0154】
また、スイッチ手段52オン直後に、図3(c)に示すように電流測定出力32がプラス極性方向(図示上方向)に偏移しても、時点30c1と時点30a2の差分や、時点30a2と時点30c2の差分は絶対値が略同一値となる。よって注入異常検出手段47は第3測定手段出力43aと第4測定手段出力44aの差分値が所定の判定値範囲内にある場合に注入異常があると判定してもよい。
【0155】
なお、地絡検出装置100と車体アース60の接続異常、注入コンデンサC1の一端と高電圧回路50の接続異常、注入コンデンサC1の断線故障、抵抗R1の断線故障、検出抵抗R2の断線短絡故障、電圧出力手段10の断線短絡故障、電流測定手段30の断線短絡故障等が発生すると、注入電流が流れないか、又は測定できないので電流測定出力32は略0Vとなり、第3測定手段出力43a、第4測定手段出力44a、両者の差分値とも略0となり注入異常と判定される。
【0156】
電圧出力手段10の出力電圧異常、抵抗R1又は検出抵抗R2の抵抗値異常、電流測定手段30の測定ゲイン異常等の異常では、異常判定の判定値の設定内容により、異常判定できる条件が変わってくる。異常判定の判定値を例えば前述のピーク電流値±2.5mAの1/2以内の±1.25mA以内とすると、電圧出力手段10の出力電圧の電圧不足(半減)異常、抵抗R1と検出抵抗R2の直列合成抵抗値の増大(倍増)異常や電流測定手段30の測定ゲイン低下(半減)異常等を異常判定することができる。
【0157】
本実施の形態では、電圧出力手段10の直流電源10b、10cをプラス極性とマイナス極性の二つの両電源としているが、プラス極性又はマイナス極性の一つの単電源としてもよい。
【0158】
本実施の形態では、スイッチ手段52のオン時とオフ時の両方で地絡電流測定、絶縁抵抗演算を行っているが、スイッチ手段52がオフ時のみに地絡電流測定、絶縁抵抗演算を行ってもよい。スイッチ手段52がオンの場合、負荷54の印可電圧は変動し、高電圧回路50内の各装置が稼働中なので発生ノイズも多いが、スイッチ手段52がオフの場合は負荷54の印可電圧は安定し発生ノイズも少なく、より高精度な地絡電流測定、絶縁抵抗演算が可能である。
【0159】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1と異なる点を説明する。
図6はこの発明の実施の形態2における地絡検出装置101と高電圧回路50を示す回路ブロック図である。
【0160】
地絡検出装置101は、電圧出力手段10、注入手段21、電流測定手段30、演算手段40を有し、注入手段20に変わり注入手段21を有する点が実施の形態1とは異なる。
【0161】
注入手段21は、電圧出力手段10の電圧出力点10dに一端を接続した抵抗R1と、抵抗R1の他端に一端を接続し他端は高電圧回路50のプラス側電路54aに接続した注入コンデンサC1aと、同じく抵抗R1の他端に一端を接続し他端は高電圧回路50のマイナス側電路54bに接続した注入コンデンサC1bを有す。注入コンデンサを二つ有する点が実施の形態1とは異なる。
【0162】
本実施の形態2においての演算手段40の第3の絶縁抵抗演算方法の各演算式では、実施の形態1の注入コンデンサC1の容量が、注入コンデンサC1aと注入コンデンサC1bの並列合成容量に相当するので、容量C1を容量(C1a+C1b)に置き換えて演算する。
【0163】
ここで、高電圧回路50の負荷54へ印可される電圧が変化した場合の地絡検出装置101の動作について説明する。
【0164】
高電圧回路50のスイッチ手段52がオンし、負荷54に直流電源51の出力電圧を印可した場合の動作を回路シミュレータによるシミュレーション波形を用いて説明する。
シミュレーションの条件として、図6において、注入コンデンサC1aが5μF、注入コンデンサC1bが5μFである点が実施の形態1と異なるが、注入コンデンサC1a、C1bの並列合成容量は実施の形態1のC1と同じ10μFとしている。
【0165】
図7はシミュレーション結果を示す図で、図3と同様に図7(a)は電圧出力手段10の電圧出力点10dの波形を示し、図7(b)は負荷54に印可される電圧波形を示し、図7(c)は電流測定手段30の電流測定出力32の波形(注入電流波形)と測定時点を示す図である。
【0166】
注入電流波形では時間0.05秒に負荷54へ400Vが印可された時点でも、注入コンデンサC1a、C1bと、静電容量Cga,Cgbとでバランスを取ることで静電容量Cga、Cgbへの突入電流を防止できている。
【0167】
図7(d)は、図3(d)と同様に図7(c)に示す各測定時点での注入電流の測定値を示す折れ線グラフ、図7(e)は、図3(e)と同様に図7(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値を示す折れ線グラフ、図7(f)は、図3(f)と同様に図7(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値の差分値を示す折れ線グラフ、図7(g)は、図3(g)と同様に図7(c)に示す各測定時点(各期間)の絶縁抵抗演算値を示す折れ線グラフである。
【0168】
図8は2秒経過後のシミュレーション結果を示す図で、図4と同様に、図8(a)は電圧出力手段10の電圧出力点10dの波形を示し、図8(b)は負荷54に印可される電圧波形を示し、図8(c)は電流測定手段30の電流測定出力32の波形(注入電流波形)と測定時点を示す。
【0169】
図8(d)は、図4(d)と同様に図8(c)に示す各測定時点での注入電流の測定値を示す折れ線グラフ、図8(e)は、図4(e)と同様に図8(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値を示す折れ線グラフ、図8(f)は、図4(f)と同様に図8(c)に示す各測定時点(各期間)の注入電流の電流差分値の差分値を示す折れ線グラフ、図8(g)は、図4(g)と同様に図8(c)に示す各測定時点(各期間)の絶縁抵抗演算値を示す折れ線グラフである。
【0170】
以降、シミュレーション結果について説明する。
図7(d)に示すように、検出抵抗R2を流れる注入電流は、スイッチ手段52をオンした直後は1.6mA程度流れる。実施の形態1と比べて1/2の電流となり電流測定手段30の測定電流対象範囲が1/2になるので、高精度電流測定に有利となる。この電流は徐々に減少し、2秒程度経過した図8(d)では、250μA程度となる。
【0171】
スイッチ手段52をオンした直後の注入電流の電流差分値は、図7(e)に示すように、時点30d1や時点30d2では小さくなるが、実施の形態1程は小さくならない。スイッチ手段52をオンした直後の注入電流が実施の形態1の1/2なので、注入コンデンサC1a及びC1bの両端電圧の一つ前の期間の測定時点との電圧変化ΔVcは1/2程度となり、注入パルス電圧の「L」レベルから「H」レベルへの電圧変化分ΔV10dの30Vを打ち消しきらないので、一つ前の測定時点30b1と測定時点30d1で、又一つ前の測定時点30b2と測定時点30d2で絶縁抵抗Rgaに印可される電圧の差が実施の形態1程は小さくならないためである。
【0172】
また、時点30b2や時点30b3では注入電流の電流差分値は大きくなるが、実施の形態1程は大きくならない。注入パルス電圧の「H」レベルから「L」レベルへの電圧変化分ΔV10dの-30Vに加算される、注入コンデンサC1a、C1bの両端電圧の一つ前の期間の測定時点との電圧変化ΔVcが1/2となるので、一つ前の測定時点30d1と測定時点30b2で、又一つ前の測定時点30d2と測定時点30b3で絶縁抵抗Rgaに印可される電圧の差が実施の形態1程は大きくならないためである。
【0173】
スイッチ手段52をオンして2秒程度経過すると、図8(e)に示すように、期間THの測定時点(30d11、30d12)の電流差分値ΔId11、ΔId12は、220μA、224μA、期間TLの測定時点(30b12、30b13)の電流差分値ΔIb12、ΔIb13は、-268μA、-264μAと、実施の形態1と同様に期間THと期間TLの差が小さくなる。十分な時間が経過するとこの差が無くなり安定し、その安定値はΔId12とΔIb13の絶対値の平均値244μA(=(224μA+264μA)/2)となり、電流差分値の絶対値が244μAの場合、絶縁抵抗値は100kΩであると相関付けることができる。
【0174】
スイッチ手段52をオンした直後の、期間THの測定時点(30d1、30d2)の電流差分値ΔId1、ΔId2は106μA、127μA、期間TLの測定時点(30b2、30b3)の電流差分値ΔIb2、ΔIb3は-374μA、-354μAであり、前述の244μAを基準にすると、期間TH同士の絶対値のばらつきは21(=127-106)μAで基準に対し9%(=21μA/244μA)、期間TL同士の絶対値のばらつきは20(=374-354)μAで基準に対し8%、期間THと期間TLの絶対値のばらつきは268(=374-106)μAで基準に対し110%、時点30b2のΔIb2は-374μAで基準に対し153%となり、期間THと期間TLのばらつきは実施の形態1に比べ1/9(=10%/88%)と小さく、期間TLの電流差分値の誤差は実施の形態1に比べ1/2(=53%/105%)と小さくなる。
【0175】
スイッチ手段52をオン後2秒以上経過した時点30b13のΔIb13は-264μAで基準に対し108%となり、この時点においての誤差は8%と実施の形態1に比べ1/2(=8%/16%)と小さくなる。
【0176】
ここでは、演算手段40の絶縁抵抗演算手段46の各絶縁抵抗演算方法における演算結果について説明する。まず第1の絶縁抵抗演算方法における演算結果について説明する。
【0177】
スイッチ手段52をオンした場合の過剰な絶縁悪化情報の一時的発出を防止するためには、前述の電流差分値の不定値処理に加え、値の大きい電流差分値ΔIb2、ΔIb3となる期間TLではなく、値の小さい電流差分値ΔId1、ΔId2となる期間THの第1の差分演算手段出力45aを選択することで、電流差分値は106μA、127μAとなる。この場合は前述の基準値244μAに対し絶対値は43%、52%と小さくなりその分絶縁抵抗演算値は大きな値となり、実施の形態1と同様に過剰な絶縁悪化情報の発出を防止することができ、実施の形態1に比べ演算値は真値に近くなる。
【0178】
次に、絶縁抵抗演算手段46で行う第2の絶縁抵抗演算方法における演算結果について説明する。第2の差分演算手段46aの演算結果を、図7(f)及び図8(f)に示す。
【0179】
図8(f)に示すように、スイッチ手段52オン後2秒程度経過後の第2の差分演算手段46aの演算結果は、時点30d12(2.38秒後)の演算値が-492μA、時点30b13(2.48秒後)の演算値が488μAと両者の絶対値は近づいており、時間の経過と共にその両者の絶対値の平均値490μAに安定する。よって第2の差分演算手段46aの演算結果が絶対値で490μAの場合、絶縁抵抗Rgaは100kΩであると相関付けることができる。
【0180】
この490μAを基準にすると、スイッチ手段オン直後の第2の差分演算手段46aの演算結果は図7(f)に示すように、時点30b2(0.28秒後)の演算値は、480μAで基準の490μAの98%、時点30d2(0.38秒後)の演算値は-501μAで基準の102%となり、スイッチ手段52オン直後でも±2%以下の精度での絶縁抵抗演算が可能となる。
【0181】
実施の形態1のスイッチ手段52オン直後の時点30b2(0.28秒後)の演算値が前述のように基準値に対し93.5%であるのに比べ、本実施の形態2では基準値に対し98%となり、より高精度な絶縁抵抗演算が可能である。
【0182】
次に、絶縁抵抗演算手段46で行う第3の絶縁抵抗演算方法における演算結果について説明する。
【0183】
各演算式では、実施の形態1の注入コンデンサC1の容量C1を、注入コンデンサC1a、C1bの並列合成容量(C1a+C1b)に置き換えて演算する。
【0184】
第3の絶縁抵抗演算方法により演算した結果を図7(g)、図8(g)に示す。図7(g)、図8(g)では、第1の注入コンデンサ両端電圧変化演算方法を用い、静電容量起因電圧46d、静電容量起因電流46eによる補正も行っている。
【0185】
図7(g)に示すように、スイッチ手段52オン直後の時点30d1(0.18秒後)での絶縁抵抗演算値は98.7kΩと実施の形態1の73.5kΩに比べ、真値の100kΩに近い。これは注入コンデンサを二つにして、スイッチ手段52オン時の静電容量Cga、Cgbへの充電電流の影響を低減したためである。時点30b2(0.28秒後)以降では絶縁抵抗演算値は99.7kΩから100.4kΩと誤差1%以下の演算をすることができ、実施の形態1より高精度な演算が可能である。
【0186】
スイッチ手段52オン後2秒程度経過後の演算結果は図8(g)に示すように誤差1%以下の高精度な演算が行えている。
【0187】
これら実施の形態1と比較した実施の形態2の効果は、従来の注入コンデンサを二つ用いる方法(例えば特許文献3)のように、高電圧バッテリ(直流電源51)の両端にそれぞれの注入コンデンサの他端を接続する方法では得られず、本実施の形態2のように、負荷54の両端に接続することで得られる。
【0188】
ここまで電動車両に設けた地絡検出装置について述べてきたが、それに限ることはなく、太陽光発電システムやデータセンター等の非接地直流配電システムや他の非接地系配電システムにも適用できる。その場合、車体アースは筐体アースや大地アースに相当する。
【符号の説明】
【0189】
10 電圧出力手段
10a 電圧基準点
10b、10c 直流電源
10d 電圧出力点
20、21 注入手段
30 電流測定手段
31 オペアンプ
31a オペアンプ+端子
31b オペアンプ-端子
31c オペアンプ出力
32 電流測定出力
40 演算手段
41 第1測定手段
42 第2測定手段
43 第3測定手段
44 第4測定手段
45 第1の差分演算手段
46 絶縁抵抗演算手段
46a 第2の差分演算手段
46b 注入コンデンサ両端電圧変化演算手段
46c 抵抗電圧降下演算手段
46d 静電容量起因電圧
46e 静電容量起因電流
47 注入異常検出手段
50 高電圧回路
51 直流電源
52 スイッチ手段
53 コンデンサ
54 負荷
54a プラス側電路
54b マイナス側電路
60 車体アース
100、101 地絡検出装置
R1 抵抗
R2 検出抵抗
Rg、Rga、Rgb 絶縁抵抗
C1、C1a、C1b 注入コンデンサ
Cg、Cga、Cgb 静電容量
Q1、Q2 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8