(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040987
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】中空筒状フィルタ、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20230315BHJP
B60R 21/26 20110101ALI20230315BHJP
【FI】
B01D39/20 A
B60R21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014817
(22)【出願日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2021147782
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】汐見 千佳
(72)【発明者】
【氏名】大東 勉
【テーマコード(参考)】
3D054
4D019
【Fターム(参考)】
3D054DD11
3D054DD18
3D054FF17
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA02
4D019BB01
4D019CA03
4D019CB06
(57)【要約】
【課題】軸方向端部における形崩れを防止するように巻線型フィルタの形状を制御し、金属線材のほつれを抑制する。
【解決手段】金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10は、軸方向の中間部に第一の多層状領域10eを、軸方向の端部に第二の多層状領域10c、10dを備える。中空筒状フィルタ10においては、第二の多層状領域10c、10dの線材層数が、第一の多層状領域10eの線材層数よりも少ない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
連続する前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体から構成されるコア部と、該コア部の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を包囲する外殻部と、を備え、
前記外殻部は、連続する前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体ブロックを少なくとも一つ備えることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項2】
前記中空筒状フィルタの中心軸に対する前記金属線材の傾斜角度を、前記コア部についてθ、前記外殻部を構成する前記巻線体ブロックの少なくとも一つについてλとしたとき、θ>λを満たすことを特徴とする請求項1に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項3】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
軸方向の中間部に第一の多層状領域を、軸方向の少なくとも一方の端部に第二の多層状領域を備え、
該第二の多層状領域の線材層数が、前記第一の多層状領域の線材層数よりも少ないことを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項4】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた少なくとも一つの短尺筒状体と、
該短尺筒状体の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うように、前記金属線材が前記短尺筒状体に重ねて螺旋状且つ多層状に巻き付けられた少なくとも一つの長尺筒状体と、を備えることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項5】
前記短尺筒状体を構成する前記金属線材と前記長尺筒状体を構成する前記金属線材とが連続していることを特徴とする請求項4に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項6】
前記金属線材の始端部は、前記中空筒状フィルタの内周面を規定する前記短尺筒状体の線材層間、又は、前記中空筒状フィルタの内周面を規定する前記短尺筒状体と該短尺筒状体の外径側に隣接する前記長尺筒状体との間に、前記軸方向の一端側から折り込まれていることを特徴とする請求項4又は5に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項7】
一の前記長尺筒状体が、中空筒状フィルタの外周面の全体を規定することを特徴とする請求項4乃至6の何れか一項に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項8】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
軸方向の少なくとも一端部に、軸方向の中間部よりも単位体積当たりの線材数が少ない低密度部を備えることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項9】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、
前記金属線材の巻き付け方向が反転する複数の反転部を備え、前記複数の反転部の一部が前記中空筒状フィルタの軸方向端縁を規定しない第一反転部であり、前記複数の反転部の残部が前記中空筒状フィルタの軸方向端縁を規定する第二反転部であることを特徴とする中空筒状フィルタ。
【請求項10】
少なくとも軸方向の一方の端部に位置する前記第一反転部の全部は、該第一反転部よりも外周側に巻き付けられた前記金属線材の部分によって被覆されていることを特徴とする請求項9に記載の中空筒状フィルタ。
【請求項11】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成されるコア部を作製する工程と、
前記金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成される一つ又は複数の巻線体ブロックを含む外殻部を作製する工程と、を含み、
前記外殻部は前記コア部の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うことを特徴とする中空筒状フィルタの製造方法。
【請求項12】
金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けて短尺筒状体を作製する工程と、
該短尺筒状体の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うように、前記金属線材を前記短尺筒状体に重ねて螺旋状且つ多層状に巻き付けて長尺筒状体を作製する工程と、
を含むことを特徴とする中空筒状フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空筒状フィルタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属線材を螺旋状、且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状の巻線型フィルタは、各種の流体から異物を除去するフィルタとして各方面において使用されている。例えば特許文献1には、自動車のエアバッグインフレーター等に用いられる巻線型フィルタが記載されている。
この文献には、最外周に位置する金属線材を周方向に沿って鉢巻き状に巻き付けたほつれ防止部を、軸方向の各端から20%以内の軸方向長範囲内に設けることが記載されている。ほつれ防止部を設けることにより、軸方向両端部における金属線材のほつれを効果的に抑制し、巻線型フィルタ全体に対して焼結等の熱処理を行わなくても、安価で形状保持性の高い巻線型フィルタを提供することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻線型フィルタにおいては、その軸方向端において金属線材の巻き付け方向が反転する。金属線材は巻き付け方向を反転されると軸方向中間部方向へ引っ張られる力を受ける。このため、金属線材の巻き付け角度によっては、フィルタの軸方向端では、金属線材が僅かずつ軸方向の中間部方向へ寄せられる。その結果、フィルタは、その軸方向端部が軸方向中間部に比べて大径化した鼓状(hourglass形状)となりやすい。鼓状となったフィルタは、軸方向端部において形崩れしやすく、金属線材がほつれやすくなる。
特許文献1においては、フィルタの軸方向の端部適所を外周側から内径方向に押圧することで、軸方向端部における金属線材のほつれを抑制している。しかし、特許文献1においては、フィルタの形状制御については考慮されていない。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、巻線型フィルタの形状を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタであって、連続する前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体から構成されるコア部と、該コア部の外面の全体を包囲する外殻部と、を備え、前記外殻部は、連続する前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体ブロックを少なくとも一つ備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、巻線型フィルタの形状を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
【
図3】(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
【
図5】本発明の第三の実施形態に係る中空筒状フィルタを示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は一部を縦断面で示す斜視図である。
【
図6】(a)~(d)は、第三の実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
【
図7】(e)、(f)は、第三の実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
【
図8】(a)、(b)は、フィルタの縦断面の一部を実物写真にて示す図である。
【
図9】本発明の第四の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。
【
図10】本発明の第五の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。
【
図11】本発明の第六の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。また、各実施形態に示した構成は、矛盾しない限り適宜組み合わせて実施することかできる。
【0009】
〔フィルタの概略形状〕
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
【0010】
本発明の実施形態に係る中空筒状のフィルタ(以下、フィルタ、という)10は、少なくとも一本の金属線材20を、軸方向(図中上下方向)に対して一定の傾斜角度を有して、一定のピッチで螺旋状に、且つ多層状に巻き付けることにより形成される。ここで金属線材20が同じ方向に巻き付けられている個々の層を線材層L1、L2、L3・・・と称する。各線材層L1、L2、L3・・・を構成する金属線材は、正面視で中空筒状フィルタの軸方向(中心軸Ax1)に対して傾斜した同一方向へ延びており、また内外径方向に隣接する各線材層を構成する金属線材は互いに交差する方向に延びている(平行していない)。
【0011】
図1中における最外層の線材層Ln(nは自然数)を構成する金属線材部分20(n)(厚みを図示省略)の延びる方向(金属線材部分20(n)の長手方向)は実線矢印で示した方向であり、その直ぐ内側の線材層Ln-1を構成する金属線材部分20(n-1)の延びる方向(金属線材部分20(n-1)の長手方向)は破線矢印で示した方向である。nは概ね20~20000程度(10~10000往復分程度)に設定される。
【0012】
即ちフィルタ10は、金属線材20を軸方向に対して一定の傾斜角度にて螺旋状に巻付けることにより形成した一つの線材層(例えば、線材層L1)と、一つの線材層L1の外周側に重ねて、且つ該一つの線材層L1を構成する金属線材とは異なる傾斜角度にて螺旋状に金属線材を巻付けることにより形成される他の線材層(例えば、線材層L2)と、を有する。一つの線材層L1とこれと隣接する他の線材層L2を夫々構成する金属線材同士は軸方向とは非平行であり、且つ互いに交差するように構成されている。
なお、線材層を構成する金属線材の軸方向に対する傾斜角度が一つの線材層中で変化するように構成してもよい。
【0013】
このフィルタ10は、液体や気体等の各種流体中から不要な物質等を除去し、また自動車のエアバッグインフレーター用等、用途によっては同時にフィルタを通過する流体を冷却するために用いられる。また、このフィルタは、第一に、線材層が重なり合う方向、即ち、フィルタの径方向(線材層の重なる方向)に流体が通過する流路を形成するように構成される。流体は、フィルタの内径側から外径側に通過させても、外径側から内径側に通過させてもよい。ここで径方向とは厳密な意味の直径方向(半径方向)ではなく、軸方向、周方向に対して、概ね径方向という意味である。
フィルタの大きさ(内径、外径、軸方向の各寸法等)は、フィルタが組み込まれる装置の構造や大きさに応じて適宜決定される。
このフィルタの材料となる金属の種類としては、鉄、鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅合金、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。金属の種類は、フィルタの用途に応じて最適なものが選定される。
【0014】
また、フィルタに使用される金属線材の太さ及び横断面形状(金属線材の長手方向に直交する方向における断面形状)は、フィルタの大きさ、フィルタが除去する物質、圧力損失等に応じて適宜決定される。例えば、インフレータ用フィルタに使用される金属線材の断面積は0.007~3.2mm^2程度(横断面形状が真円形状の金属素線を基準とすれば線径が0.1~2.0mm程度)とされる。
フィルタには、横断面形状が真円形状の金属素線を所定形状に圧延した金属線材が使用される。例えば、金属線材としては、横断面形状が偏平な矩形状となるように圧延された平角線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状が長手方向全長に亘って、概略W字状、U字状、J字状、L字状、X字状、~状等の異形となるように圧延された異形線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状、外形状が、金属線材の長手方向全長に亘って一定ではないもの、言い換えれば、金属線材の長手方向の位置によって異なる横断面形状、外形状を有するように圧延された異形線が用いられる。このような異形線は、例えば金属線材の幅と同程度の長手方向長ごとに横断面形状が変化するように圧延されたものである。
フィルタ10において、金属線材20は捩れないように巻き付けられている。
【0015】
フィルタ10は、金属線材部分が互いに接触している複数の接触部を有する。フィルタ10に対しては、全ての接触部(又は複数の接触部)を一括して接合するような熱処理(例えば焼結するための熱処理)を行ってもよい。或いは、フィルタ10中の複数の接触部のうち、巻き終わり側の端部以外の部分を、接合が行われていない非接合部としてもよい。フィルタ10に対して、その全体を焼結するための熱処理を行わなければ、フィルタ10の製造コストを安価にでき、フィルタ10の製造時間を短縮できる。
【0016】
〔第一の実施形態〕
図2は、本発明の第一の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。
図1に示すように、発明に係るフィルタ10は、いわゆる巻線型の中空筒状フィルタであり、連続する一本又は複数本の金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される。
フィルタ10は、内径側に位置する内側筒状体31と、外径側に位置する外側筒状体32とを備える。内側筒状体31は最内周に位置する線材層L1から線材層Lm(mは2≦m<nを満たす自然数)を含む。外側筒状体32は内側筒状体31の直外周側に位置する。外側筒状体32は線材層Lm+1から線材層Lnを含む。線材層Lmと線材層Lm+1は隣接する。
フィルタ10においては、金属線材20の始端部20a(巻き始め側の端部)が、互いに隣接する線材層Lm、Lm+1間に折り込まれている。
【0017】
図2にはフィルタ10のうち、内周側に位置する3層分の線材層L1~L3までが形成された状態(金属線材部分20(1)~20(3)までが巻き付けられた状態)を示している。また、図中、周方向に沿って伸びる破線は、フィルタ10の軸方向の一端縁(一端面)10aと他端縁(他端面)10bの位置を示す。
図2の一端縁10aに示されるように、フィルタ10の軸方向端縁は、金属線材20の螺旋の向きが変化する軸方向位置(線材層が切り替わる軸方向位置)に相当する。
【0018】
最内周に位置する線材層L1(第一線材層)を構成する金属線材部分20(1)は、フィルタの軸方向の一端側から他端側に向けて螺旋状に巻き付けられている。線材層L2を構成する金属線材部分20(2)は、フィルタの軸方向の他端側から一端側に向けて、金属線材部分20(1)の外周側に重ねて螺旋状に巻き付けられている。本図では、一往復分の線材層L1、L2により内側筒状体31が形成される。
金属線材20の始端部20aは、軸方向の一端側から他端側に向けて折り返されることにより、線材層L1、L2の外周側に配置される。始端部20aと金属線材部分20(1)との間には折り返し部20bが形成される。折り返し部20bは、フィルタの軸方向の一端縁10aよりも内側に位置する。
線材層L3を構成する金属線材部分20(3)は、フィルタの軸方向の一端側から他端側に向けて、始端部20a及び金属線材部分20(2)の外周側に重ねて螺旋状に巻き付けられている。線材層L3は外側筒状体32を構成する。
始端部20aは、隣接する線材層L2、L3間に挟み込まれることにより、始端部20aが内径側において接触する金属線材部分20(1)、20(2)と、外径側において接触する金属線材部分20(3)~、とによって挟圧保持される。
これにより、始端部20aは摩擦力により機械的に固定される。従って、始端部20aと各線材層を構成する金属線材部分との接触部を溶接や焼結等、冶金的方法により接合しなくても、始端部20aの抜け出しやほつれを防止することが可能となる。
【0019】
〔フィルタの製造方法〕
図3(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
図3(a)に示すように、まず、金属線材20の始端部20aを、心棒131の軸方向の一端側に配置された保持具132に保持させる(線材保持工程)。心棒131は、その軸線Ax2を中心として回転する。保持具132は心棒131と共に回転する。
金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材133を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。この動作により、金属線材20は
図3(b)に示すように、心棒131の外周に、中心軸Ax2に対して所定角度θだけ傾斜しつつ、所定のピッチPで螺旋状に且つ多層状に巻付けられる(第一の巻き付け工程、内側筒状体作製工程)。この工程では、金属線材20は心棒131に対して2層以上(一往復分以上)巻き付けられる。この工程では、最内周に位置する線材層L1を含む内側筒状体31が作製される。内側筒状体31は隣接する線材層L1、L2(線材層L1~Lm)を構成する金属線材部分20(1)、20(2)(金属線材部分20(1)~20(m))同士が互いに交差した網目を有する。
【0020】
図3(c)に示すように、金属線材20の始端部20aを心棒131の軸方向の一端側から他端方向に折り返して、内側筒状体31の外周側に配置する(折り返し工程)。この工程により、始端部20aと、金属線材部分20(1)との間には折り返し部20bが形成される。線材層L2(mが3以上の場合は、線材層L2~Lm)は、金属線材部分20(1)と始端部20aとの間に挟まれる。折り返し部20bの位置は、作製されるフィルタの軸方向の一端縁10aよりも内側となるように設定される。なお、始端部20aの長さ及び折り返し角度φは、始端部20aと内側筒状体31との間、及び始端部20aと外側筒状体32との間に、始端部20aの抜け出し又はほつれを防止するために必要な数の接触部を形成できるように設定される。
【0021】
図3(d)に示すように、金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材133を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。この動作により、金属線材20を、始端部20a及び内側筒状体31の外周側に、中心軸Ax2に対して所定角度θだけ傾斜させつつ巻き付けて、外側筒状体32を作製する(第二の巻き付け工程、外側筒状体作製工程)。外側筒状体32は隣接する線材層L3~Ln(線材層Lm+1~Ln)を構成する金属線材部分20(3)~20(n)(金属線材部分20(m+1)~20(n))同士が互いに交差した網目を有する。
【0022】
n個の線材層が形成された後、金属線材20の終端部(巻き終わり側の端部)を、心棒131周りに形成された中空筒状体の外周面の適所に抵抗スポット溶接等により接合して、金属線材20を切断する。この中空筒状体を心棒131から取り外す。以上の方法により製造された中空筒状体は、その全体への焼結処理が実施されることなく、そのままの状態でフィルタとして使用される。
あるいは、必要ならば、心棒131から取り外された中空筒状体に対して焼結等の熱処理を施すことにより、隣接する金属線材部分が互いに接触した各接触部を冶金的に接合した後、フィルタとして使用するようにしてもよい。
【0023】
〔効果〕
以上のように、本実施形態によれば金属線材20の始端部20aを折り返して、隣接する線材層Lm、Lm+1間に巻き込んでいるので、始端部20aを低コストで効率よく処理できる。
折り返し部20bを、フィルタ10の軸方向の端縁(一端縁10a)よりも内側となる位置に形成したので、折り返し部20bはフィルタ10から突出しない。折り返し部20bは、フィルタ10の運搬や組立作業等のハンドリング時に、他の部品等に引っ掛からない。従って、始端部20aを引き抜くような力が加わりにくくなる。また、濾過対象物がフィルタ10の端縁から漏出することを防止するために、フィルタ10の軸方向の端面(又は端縁)に他部品を密着させてシールして使用するような場合には、折り返し部20bがフィルタ10から突出していないために、シール性が向上する。
【0024】
金属線材部分20(1)と始端部20aとの間に形成される折り返し部20bは塑性変形されているので、金属材料自体が有する強度に基づき、始端部20aがフィルタ10から抜け出すこと(ほつれること)を効果的に防止できる。
なお、内側筒状体31を構成する線材層の数mが少ないと、内側筒状体31を構成する各金属線材部分と始端部20aとが接触した接触部の数が少なくなる。また、内側筒状体31を構成する線材層の数mが少ないと、始端部20aを線材層Lm、Lm+1間に折り込んだときに、始端部20aを内径側から支持する支持強度も低くなるので、始端部20aの固定(挟圧保持力)が不十分となりやすい。このため、フィルタの使用態様によっては、始端部20aを必要な強度で固定するために、上記各接触部を焼結等により冶金的に接合することが望ましい。
【0025】
〔第二の実施形態〕
図4は、本発明の第二の実施形態に係るフィルタの始端部の処理方法を示す模式的正面図である。本図においては、フィルタの径方向における厚みの描画を一部省略している。
始端部20aは内側筒状体31の外周側に位置するが、
図2のように内側筒状体31に含まれる線材層の数mが少なく、且つ金属線材20のピッチP(
図3(a)参照)が広いと、金属線材部分20(3)以降の巻き付け時に、始端部20aが線材層L1よりも内径側に突出する虞がある。
そこで、本実施形態においては、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1の径方向位置よりも外径側に位置するように、内側筒状体31を作製する。即ち、本実施形態においては、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1の径方向位置と同一にはならず、且つ線材層L1の径方向よりも内径側には突出しないように、内側筒状体31を構成する金属線材20の巻き付け角度θ、金属線材20のピッチP、及び内側筒状体31に含まれる線材層の数mを設定する。
上記パラメータのうち、特にピッチPと線材層の数mが重要である。ピッチPが小さければ線材層の数mが少なくてもよいし、線材層の数mが多ければピッチPが大きくてもよい。ただし、線材層の数mが多くなりすぎると、折り返し部20bをフィルタ10の軸方向端縁の内側に位置させることが難しくなる。
図4は、10個の線材層を含む内側筒状体31を作製する例である。
【0026】
フィルタ内で隣接する金属線材部分同士が接触した各接触部を焼結により接合しない場合は、内側筒状体31と外側筒状体32のそれぞれの巻き付け角度θ、ピッチP、及び線材層の数と、始端部20aの長さ及び折り返し角度φは、始端部20aと内側筒状体31との間、及び始端部20aと外側筒状体32との間に十分な数の接触部を形成すると共に、始端部20aに十分な挟圧保持力が付与される(摩擦力が発生する)ように設定される。これにより、始端部20aがほどけること、或いはほつれることを防止する。
【0027】
〔効果〕
以上のように、本実施形態によれば、始端部20aが、最内周に位置する線材層L1よりも内径側に突出しないようにしたので、フィルタの内周側の形状を安定させることができる。金属線材20の巻き始め側の端縁(切断端)が、フィルタ10の内周面を越えて中空部内に突出することを防止できる。また、始端部20aが線材層L1よりも内径側に突出しないようにすれば、始端部20aを機械的に固定するために十分な強圧保持力(摩擦力)も得られる。
始端部20aを、内側筒状体31と外側筒状体32との間に挟み込んで機械的に固定できるので、フィルタに対しては、始端部20aと他の金属線材部分との間に形成される各接触部を冶金的方法により接合するような熱処理(例えば上記各接触部を焼結するために中空筒状フィルタの全体に対して行う熱処理)を施す必要がない。従って、フィルタ10の製造コストを安価にでき、フィルタ10の製造時間を短縮できる。
【0028】
〔第三の実施形態〕
<構成1>
図5は、本発明の第三の実施形態に係る中空筒状フィルタを示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は一部を縦断面で示す斜視図である。第一及び第二の実施形態と同一の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
図5(b)に示すように、フィルタ10(10B)は、金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた(少なくとも一つの)短尺筒状体41と、短尺筒状体41の内周面を除く外面の全体(外周面の全体及び軸方向両端面の全体)を被覆するように、金属線材が短尺筒状体41に重ねて螺旋状且つ多層状に巻き付けられた(少なくとも一つの)長尺筒状体51と、を備える。
短尺筒状体41は、長尺筒状体51に比べて軸方向長が短尺である。短尺筒状体41は、長尺筒状体51の軸方向の中間位置に配置されている。即ち、長尺筒状体51の軸方向の両端部は、短尺筒状体41の軸方向の各端縁よりも軸方向の外方に突出している。
【0029】
<構成2>
本例に示す短尺筒状体41は、連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体(一つの巻線体ブロック)から構成されており、フィルタ10Bの最内周に位置するコア部61を構成する。
【0030】
ここでは、一つの巻線体ブロックを、金属線材の巻回範囲(軸方向における金属線材の往復範囲)が一定である巻線体の部分か、又は、金属線材の巻回範囲が連続的に軸方向に変化するように作成された巻線体の部分と定義する。後者の例としては、巻き付け時に金属線材の巻回範囲を軸方向に同一の割合で漸減させていくような場合を挙げられる。一つの巻線体ブロックは、連続する金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状体である。
【0031】
コア部61は、フィルタ10Bの製造時に最初に作製される巻線体ブロックである。コア部61は、フィルタ10Bの内周面の一部を構成する。コア部61は、コア部61の外面の全体(軸方向の両端面の全体及び外周面の全体)が他の巻線体ブロックによって包囲される。コア部61は、少なくとも、折り返し部20bを間に挟んで金属線材20の始端部20aと隣接した金属線材20の部分によって構成される。コア部61は、金属線材20の始端部20aを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0032】
本例に示す長尺筒状体51は、コア部61としての短尺筒状体41の外面の全体を包囲しており、フィルタ10Bの外殻部65を構成する。長尺筒状体51は、連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体(一つの巻線体ブロック)である。
【0033】
フィルタ10Bの内周面は、短尺筒状体41(コア部61)の軸方向の全体における内周面と、長尺筒状体51(外殻部65)の軸方向の両端部における内周面とによって規定される。フィルタ10Bの両端面と外周面は、夫々、長尺筒状体51(外殻部65)の軸方向の両端面と外周面とによって規定される。
本例においては、フィルタ10Bの外周面の全体を単一の長尺筒状体51によって規定するので、フィルタ10Bが短尺筒状体41を内包したことに起因して、フィルタ10Bの外周側に凹凸(隆起や陥没)が発生することを抑制できる。また、フィルタ10Bの両端面と外周面に現れる巻きパターンが一様になる。
【0034】
<製造方法>
図6(a)~(d)及び
図7(e)、(f)は、第三の実施形態に係るフィルタの製造工程を説明する模式図である。
フィルタ10Bの製造工程は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成される短尺筒状体41(コア部61)を作製する工程(
図6(a)~(d))と、短尺筒状体41の外周面及び軸方向両端面を覆うように、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成される長尺筒状体51(外殻部65)を作製する工程(
図7(e)、(f))と、を含む。
【0035】
図6(a)~(d)に示す短尺筒状体41を作成する工程は、
図3(a)~(d)と同様である。第三の実施形態においては、反転位置11a、11bにおいて、金属線材20の螺旋の向きを変化させる(線材層を切り替える)ことで、金属線材20中に反転部21a、21bを形成する。反転位置11a、11bは短尺筒状体41の軸方向端縁の位置に相当する。反転部21a、21bは、フィルタ10Bの軸方向端縁(端面)を形成しない点で、
図3とは異なる。例えば、短尺筒状体41に含まれる線材層数は2~10000層程度(1~5000往復分程度)に設定される。
短尺筒状体41が形成された後、金属線材20を切断することなく、短尺筒状体41に重ねて長尺筒状体51を作製する。
【0036】
図7(e)、(f)に示すように、金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材133を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。ガイド部材133の往復範囲を反転位置13a、13b間に設定する。長尺筒状体51を構成する金属線材20の部分を、短尺筒状体41とは異なる軸方向範囲において巻き付ける。反転位置13a、13bは長尺筒状体51の軸方向の各端縁10a、10bの位置に相当する。反転部23a、23bは、フィルタ10Bの軸方向端縁(端面)を形成する。例えば、長尺筒状体51に含まれる線材層数は4~19998層程度(2~9999往復分程度)に設定される。
この動作により、金属線材20を、中心軸Ax2に対して所定角度λだけ傾斜させつつ短尺筒状体41の直外周側に巻き付けて、長尺筒状体51を作製する。長尺筒状体51は隣接する線材層Lを構成する金属線材20の各部分同士が互いに交差した網目を有する。長尺筒状体51の巻き付け角度λは短尺筒状体41の巻き付け角度θと同一としてもよい。しかし、予め短尺筒状体41が巻き付けられていることから、角度λを角度θよりも小さく設定しやすくなる。
【0037】
金属線材20は付与された張力により、反転位置11a、13a間と、反転位置11b、13b間において心棒131に接触しつつ巻き付けられる。また、金属線材20は、反転位置11a、11b間において、短尺筒状体41の外周側に巻き付けられる。従って、長尺筒状体51は、短尺筒状体41の軸方向両端面と外周側の側面を被覆する。反転位置11、13間の距離は、金属線材20の形状や巻き付け条件等に応じて、反転位置11、13間においても径方向長Tが概ね一定となるように設定される。
必要な数量の線材層が作製された後、金属線材20の終端部(巻き終わり側の端部)を、心棒131周りに形成された中空筒状体の外周面の適所に抵抗スポット溶接等により接合して、金属線材20を切断する。以降は第一の実施形態と同様である。
【0038】
以上の方法により、径方向長Tが軸方向の全体において実質的に一定となるように制御されたフィルタを製造できる。言い換えれば、フィルタ10Bは、その軸方向両端部が大径化しない(又は、その両肩部が外径方向に張り出さない)ように制御されうる。
【0039】
<始端部の位置>
上記製造方法により、金属線材20の始端部20aは、フィルタ10Bの内周面を規定する短尺筒状体41の線材層間(
図5(b)中、点線で示す位置)に折り込まれる。
即ち、短尺筒状体41中で内径側に位置する内側短尺筒状体41aが、金属線材20の始端部20aが折り込まれた位置よりも内径側に位置する内側筒状体31(
図1参照)に対応する。短尺筒状体41中で外径側に位置する外側短尺筒状体41bと長尺筒状体51とが、金属線材20の始端部20aが折り込まれた位置よりも外径側に位置する外側筒状体32(
図1参照)に対応する。
【0040】
或いは、金属線材20の始端部20aは、フィルタ10Bの内周面を規定する短尺筒状体41と該短尺筒状体41の外径側に隣接する長尺筒状体51との間に折り込まれていてもよい。この場合、短尺筒状体41が内側筒状体31を構成し、長尺筒状体51が外側筒状体32を構成する。
【0041】
このように、金属線材20の始端部20aを、短尺筒状体41の線材層内又は短尺筒状体41と長尺筒状体との間に折り込めば、折り返し部20bは、フィルタ10Bの外部には露出しない。これにより、始端部の耐引き抜き性の向上や、フィルタ10Bの端面におけるシール性の向上等を図れる。
【0042】
<軸方向位置における層構成の違い>
図5に示すように、フィルタ10Bは、軸方向の両端部に、線材層数が比較的少ない第一の多層状領域10c、10dを備え、軸方向の中間部に第一の多層状領域10c、10dよりも線材層数が多い第二の多層状領域10eを備える。本例において第一の多層状領域10c、10dは長尺筒状体51の部分のみから構成され、第二の多層状領域10eは、短尺筒状体41と長尺筒状体51とを含んで構成される。
【0043】
図7(e)、(f)に示すように、フィルタ10Bは、金属線材20の巻き付け方向が反転する複数の反転部21(21a、21b)…、23(23a、23b)…を備える。複数の反転部の一部は、フィルタの軸方向端縁を規定しない第一の反転部21…であり、複数の反転部の残部がフィルタの軸方向端縁を規定する第二の反転部23…である。第一の反転部21は、第二の反転部23よりも軸方向の中間寄りに位置する。
【0044】
フィルタ10Bの製造時において、第一の反転部21…は第二の反転部23…に先立って形成される。全ての第一の反転部21は、第一の反転部21が形成された後に、その外周側に巻き付けられた金属線材20の部分によって被覆される。
【0045】
<実物写真>
図8(a)、(b)は、フィルタの縦断面の一部を実物写真にて示す図である。(a)、(b)共に、拡大図は切断面の画像部分を取り出して符号を付した図である。
【0046】
(a)に示すフィルタ10B1(フィルタ10Bの一例)は、内側短尺筒状体41aと外側短尺筒状体41bと、長尺筒状体51とを含み構成されている。
金属線材20の始端部は、内側短尺筒状体41aと外側短尺筒状体41bとの間に折り込まれている。金属線材20の折り返し部20bは、短尺筒状体41の軸方向の端部において、フィルタ10B1の最内層と外側短尺筒状体41bの最内層との間にかけて形成されている。
(b)に示すフィルタ10B2(フィルタ10Bの他の例)は、短尺筒状体41と、長尺筒状体51とを含み構成されている。
金属線材20の始端部は、短尺筒状体41と長尺筒状体51との間に折り込まれている。金属線材20の折り返し部20bは、短尺筒状体41の軸方向の端部において、フィルタ10B2の最内層と長尺筒状体51の最内層との間にかけて形成されている。
(a)、(b)共に、折り返し部20bは、短尺筒状体41の軸方向の端縁(反転位置11a)よりも軸方向の外方に突出している。仮に、長尺筒状体51によって短尺筒状体41の軸方向の一端縁(反転位置11aの位置)を被覆しない場合は、折り返し部20bが突出してシール性を低下させる要因となりうることがわかる。
【0047】
ここで、金属線材の密度を、フィルタの単位体積当たり(又は、フィルタの径方向と軸方向とによって規定される断面積範囲内)における金属線材(金属線材部分)の本数(数量)と定義する。
フィルタ10Bのような巻線型フィルタにおいて、金属線材20は巻き付け方向を反転されると軸方向中間部方向へ引っ張られる力を受ける。このため、巻き付け角度θ、λによっては、反転位置11、13(
図6、
図7参照)では、夫々の反転部21、23が僅かずつ軸方向の中間部方向へ寄せられるようにして巻き付けられる。金属線材が反転する箇所では、金属線材の密度が高まりやすい。
【0048】
図8に示すように、フィルタ10Bの軸方向の端縁10aには、複数の反転部23、23…が集中している。フィルタ10Bの軸方向のごく端部には、金属線材20の密度が局所的に高くなった高密度部10fが生じている。
【0049】
フィルタ10Bの軸方向の端部においては、長尺筒状体51を構成する金属線材の部分のみが径方向に重なる。このため線材層数の少ない第一の多層状領域10cには、フィルタ10B中で最も金属線材の密度が低くなる低密度部10gが生じる。低密度部10gの中でも、特に、短尺筒状体41と同等の径方向位置における金属線材の密度が低くなる。
【0050】
フィルタ10Bの軸方向の中間部においては、長尺筒状体51と短尺筒状体41を構成する金属線材の部分が径方向に重なる。このため線材層数の多い第二の多層状領域10eにおいては、高密度部10fよりも金属線材の密度は低いが、低密度部10gよりも金属線材の密度が高くなる。
【0051】
このように、
図8に示すフィルタ10Bは、短尺筒状体41を内包したことで、軸方向の端部に軸方向の中間部よりも単位体積当たりの金属線材の本数が少ない低密度部を備える。
なお、反転位置11、13間の距離を短縮することで、線材層数の少ない第一の多層状領域10c自体を高密度部10fとして、低密度部10gを形成しないようにすることもできる。
【0052】
<効果>
本実施形態においては、フィルタの軸方向の端部における線材層数を、軸方向の中間部よりも少なくした。これにより、軸方向の中間部における線材層の数量に対して、フィルタの軸方向の両端に位置する反転部の数量は減少する。本実施形態において、反転部は軸方向端以外の場所にも形成されている。
本実施形態においては、フィルタの軸方向の両端において反転部が径方向に相互に重なることに起因して、フィルタの軸方向の両端部が大径化することを抑制できる。また、径方向長Tが軸方向の全体において実質的に一定となるように、フィルタの形状を制御可能となる。従って、フィルタの形崩れや、金属線材のほつれを効果的に防止できる。
なお、線材層数の制御により、フィルタの軸方向の端部における径方向長Tを、軸方向の中間部よりも若干小さくなるようにしてもよい。この場合、例えばフィルタ10を、筒状の穴部を有する他の部品と組み合わせて使用する場合に、フィルタ10を、その軸方向の端部から筒状の穴部に挿入しやすくなる。
【0053】
本実施形態に係るフィルタ10Bは、軸方向長が異なる短尺筒状体41と長尺筒状体51とを径方向に積層した構成であり、巻線体ブロックを軸方向に並べた構成ではない。このため、軸方向に対向した(又は隣接した)位置関係にある反転部は存在していない。本実施形態によれば、反転部が軸方向の一部分のみに集中することに起因して、フィルタの一部が大径化することを抑制できる。
【0054】
本実施形態においては、短尺筒状体の軸方向の端面を長尺筒状体によって被覆するので、短尺筒状体の軸方向の端縁と同等の軸方向位置に金属線材20の折り返し部が存在しても、折り返し部がフィルタの外部に露出することはない。例えば、
図8(a)に示す内側短尺筒状体41aの線材層数を増大させても、金属線材の折り返し部20bは外部に露出しない。
従って、金属線材の始端部を機械的に固定するために十分な強圧保持力(摩擦力)を確保できるため、金属線材の始端部の耐引き抜き性が向上する。また、フィルタ10Bの軸方向の端面の形状が折り返し部20bの影響を受けないので、フィルタの軸方向の端面(又は端縁10a、10b)におけるシール性が向上する。
【0055】
巻線型フィルタにおいては、金属線材の巻き付け角度(
図6に示す角度θ等参照)を小さくすれば、濾過精度を細かくしても圧力損失を低減できる。しかし、巻き付け角度を小さくすると、金属線材の巻き付け方向を反転させたときに金属線材が軸方向の中間部方向へ滑りやすくなるため、巻き付け角度の大きさ(巻き付け角度として設定可能な角度の最小値)には制限が生じる。
しかし、本実施形態においては、
図7に示すように、長尺筒状体51を作製する前に、短尺筒状体41を作製する。短尺筒状体41は、これに重ねて巻き付けられる金属線材20が、フィルタの軸方向の中間部方向へずれることを抑止する。このため、長尺筒状体51における金属線材の巻き付け角度λ(或いは角度λに設定可能な最小値λmin)を、短尺筒状体41における金属線材の巻き付け角度θ(或いは角度θに設定可能な最小値θmin)よりも小さくできる。また、巻き付け角度λを小さくしても、巻きパターンは乱れにくい。このように、巻き付け角度λを自在に設定可能となるので、濾過精度や圧力損失等の、フィルタの設計自由度が向上する。
【0056】
図2、
図3等に示す巻線型のフィルタ10において、金属線材20の巻き付け角度θを大きくすると、巻き付け角度を小さくした場合に比べて、折り返し部20bがフィルタ10の軸方向の端部に近くなる。このため、内側筒状体31の層数によっては、折り返し部がフィルタ10の軸方向端から外方に突出する虞がある。逆に、折り返し部の形成後において、始端部20aが、網目からフィルタの内径側に露出することを防止するためには、内側筒状体31の層数を増大させる必要がある。内側筒状体31の層数を増大させると、折り返し部がフィルタの軸方向の端部に近付くことから、折り返し部がフィルタの軸方向端から外方に突出する虞がある。
本実施形態においては、短尺筒状体41(コア部61)を作製するので、短尺筒状体の層数を増大させても上記のような問題は発生しない。本実施形態によれば、金属線材の巻き付け角度λ(
図7)を小さくできると共に、フィルタの軸方向の端部における形崩れを防止できる。
【0057】
フィルタ10は以下のように構成されてもよい。即ち、短尺筒状体41(コア部61)と長尺筒状体51(外殻部65)の軸方向端面が軸方向の一方側において軸方向にずれた位置にあり、短尺筒状体41と長尺筒状体51の軸方向端面が軸方向の他方側において軸方向の同等位置にあるように構成されてもよい。つまり、長尺筒状体51は短尺筒状体41の軸方向の端面のうちの少なくとも一方を被覆した構成とすることができる。
一例として、長尺筒状体51は、短尺筒状体41の軸方向の端面のうち、少なくとも折り返し部20bが発生する側の軸方向端面を被覆することができる。
一例として、フィルタ10は、軸方向の一端部に線材層数が比較的少ない第一の多層状領域10cを備え、軸方向の残部(或いは他部位)に線材層数が比較的多い第二の多層状領域10eを備える構成とできる。更に第一の多層状領域10cは、その外径が軸方向の中間部の外径と同等かこれよりも若干小さくなるように、その線材層数が制御されてもよい。
長尺筒状体51は、少なくともフィルタの軸方向の端部形状を比較的厳密に制御する必要がある軸方向の側において、短尺筒状体41の軸方向の端面を被覆することができる。
【0058】
〔第四の実施形態〕
図9は、本発明の第四の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。第一乃至第三の実施形態と同一の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
フィルタ10Cのように、フィルタがコア部61とコア部61を包囲する外殻部65とを備える場合に、外殻部65は複数の巻線体ブロック(外殻ブロック65A~65C)を含んで構成されてもよい。図には3つの外殻ブロックを備える例を示しているが、外殻ブロックの数量はこれに限られない。フィルタ10に含まれるコア部61と各外殻ブロック65A~65Cの位置、形状、及び線材層数等は、フィルタに要求される全体形状や仕様等に応じて適宜に設定される。フィルタ10C内で金属線材20は、切断されることなく連続的にすることができる。
【0059】
図示するフィルタ10Cは、コア部61、外殻部65の順に作製される。
金属線材の始端部は、内側コア部61aと外側コア部61bとの間に折り込むことができる。
外殻部65は、例えば軸方向の一方の端部の内周側の領域に位置する第一外殻ブロック65A、軸方向の他方の端部の内周側の領域に位置する第二外殻ブロック65B、外周側の領域において軸方向の全域を被覆する第三外殻ブロック65Cの順に作製される。各外殻ブロック65A~65Cは、異なる軸方向位置、及び/又は、異なる軸方向範囲内において巻き付けられている。
【0060】
フィルタ10Cは、反転位置11a、11b間において巻き付けられるコア部61と、反転位置11a、13a間において巻き付けられる外殻ブロック65Aと、反転位置11b、13b間において巻き付けられる外殻ブロック65Bと、反転位置13a、13b間において巻き付けられる外殻ブロック65Cとを備える。コア部61及び外殻ブロック65Cに対して、外殻ブロック65Aと外殻ブロック65Bとが軸方向に並べて配置されており、フィルタ10Cには軸方向に対向した(又は隣接した)位置関係にある反転部が存在する。
【0061】
<効果>
本実施形態によれば、金属線材の始端部を、外殻部65によって包囲されるコア部61の内部に折り込むことによって、金属線材の折り返し部が外部に露出せず、ほつれにくくなる等の効果を得られる。また、同様の効果は、金属線材の始端部を、各外殻ブロック65A~65Cの作製順に応じて選択される適切な外殻ブロックとコア部61との間に折り込むことによっても得られる。
本例において、コア部61各外殻ブロック65A~65Cの位置、形状、及び線材層数等を適宜に設定することにより、第三の実施形態に示した各効果を得られる。
フィルタを複数の巻線体ブロックから構成することで、フィルタに要求される仕様等に応じて、フィルタの形状を自在に制御できるようになる。
なお、フィルタの最外周部に、フィルタの外周面の全体を規定する外殻ブロックを形成することにより、軸方向に隣接する巻線体ブロックが軸方向に離間すること、及びこれに起因する形崩れを防止できる。また、フィルタの外周面に現れる巻きパターンを一様にできる。
本例においても、外殻部65は、コア部61の軸方向の端面のうち、少なくとも折り返し部20bが発生する側の軸方向端面を被覆するように構成してもよい。例えば、折り返し部20bが反転位置11aに相当する位置に発生する場合、外殻ブロック65Bを省略すると共に、外殻ブロック65Cを、反転位置13a、11b間において巻き付けてもよい。
【0062】
〔第五の実施形態〕
図10は、本発明の第五の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。第一乃至第四の実施形態と同一の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
フィルタ10Dは、短尺筒状体41(41A、41B…)と長尺筒状体51(51A、51B…)とが交互に順次積層された構成を備えてもよい。
図示するフィルタ10Dは、内径側に配置された短尺筒状体41と、その直外径側に配置された長尺筒状体51との組を、径方向に並べて2個備える例である。本例において、短尺筒状体41A、41Bの軸方向長は同一であり、長尺筒状体51A、51Bの軸方向長は同一である。
【0063】
金属線材の始端部は、フィルタの内周面を規定する短尺筒状体41Aの線材層間に折り込まれている。
本例における内側短尺筒状体41aは、金属線材の始端部が折り込まれた部分よりも内径側に位置する内側筒状体31(
図1等参照)に対応し、その他の部位が同図に示された外側筒状体32に対応する。また、短尺筒状体41Aが
図5(b)等に示すコア部61に対応し、その他の部位が同図の外殻部65に対応する。
なお、金属線材の始端部は、短尺筒状体41Aと、該短尺筒状体41Aの直外径側に位置する長尺筒状体51Aとの間に折り込まれてもよい。
【0064】
<変形例>
図10に示されたフィルタ10Dにおいて、短尺筒状体41A、41Bの軸方向長が互いに異なっていてもよい。また、長尺筒状体51A、51Bの軸方向長が互いに異なっていてもよい。更に、外径側に位置する長尺筒状体51Bが、内径側に位置する長尺筒状体51Aの外面の全体を包囲するようにして、単一の長尺筒状体51Bがフィルタ10の軸方向の両端面と外周面の全体を規定するようにしてもよい。
【0065】
<効果>
本実施形態に示すフィルタ10Dは、第三の実施形態(
図5)に示すフィルタ10Dが有する層構造を径方向に繰り返した構成、或いはこれに準じた構成である。従って、本実施形態は、第三の実施形態と同様の効果を奏する。
本実施形態に係るフィルタ10Dは短尺筒状体41と長尺筒状体51とを径方向に交互に重ねた構成であるから、フィルタ10Dの軸方向端部が大径化することを抑制しつつ、フィルタの径方向長T(又は線材層数)を増大させることができる。また、フィルタの径方向長を増大させた場合であっても、フィルタの軸方向の端部における形崩れを防止できる。
【0066】
〔第六の実施形態〕
図11は、本発明の第六の実施形態に係る中空筒状フィルタの一部を縦断面で示す斜視図である。第一乃至第五の実施形態と同一の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
フィルタ10Eは、フィルタの内周面の全体を規定する長尺筒状体51Aの外径側に重ねて、短尺筒状体41と長尺筒状体51Bとが積層された構成を有する。長尺筒状体51A、51Bの軸方向長は同一であり、長尺筒状体51A、51Bはフィルタ10Eの軸方向の全体に亘って延在する。また、短尺筒状体41は長尺筒状体51A、51Bよりも軸方向長が短く、長尺筒状体51A、51Bの軸方向の中間部に配置されている。
長尺筒状体51Aは、フィルタ10Eの内周面の全体を構成する。金属線材の始端部は、長尺筒状体51Aの線材層間(図中、点線にて示す内側長尺筒状体51aと外側長尺筒状体51bとの間)に折り込まれている。或いは、金属線材の始端部は、長尺筒状体51Aと短尺筒状体41との間に折り込まれてもよい。
長尺筒状体51Bは、短尺筒状体41の軸方向の端面と外周面の双方を被覆するように、金属線材を短尺筒状体41に重ねて巻き付けることにより作製されている。
【0067】
<効果>
フィルタは、短尺筒状体41と、これの外面の全体を被覆する長尺筒状体51とを備えていれば、短尺筒状体41がフィルタの内周面を構成していなくても、フィルタの軸方向の両端部が大径化することを抑制できる。
なお、金属線材の始端部を長尺筒状体51の線材層間に折り込む場合でも、折り返し部がフィルタの軸方向の端縁よりも内側に位置するように制御することは可能である。
また、断面構成を見ても明らかなように、本例においても、軸方向の端部における線材層数は、軸方向の中間部における線材層数よりも少なくなっている。また、この構成から、軸方向の端部に金属線材の密度が低い部分を形成可能である。
【0068】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ1〕
上記特許文献1(特開2007-319781号公報)においては、巻線型フィルタ全体に対して焼結等の熱処理を行わなくても、安価で形状保持性の高い巻線型フィルタを提供するために、巻き終わり側である最外層の金属線材について、素線が重なり合った隣接部分同士を2箇所以上固定することが記載されている。しかし、巻き始め側の端部をどのように処理するかについては明記されていない。
【0069】
<第一の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10である。本態様において金属線材の始端部20aは、互いに隣接する線材層Lm、Lm+1間に折り込まれていることを特徴とする。
いわゆる巻線型のフィルタでは、フィルタが焼結されていなくても、金属線材が巻線形状を維持するのに十分な張力で巻き付けられる。このため、始端部は、抜け出しやほつれを防止できる程度に十分な挟圧保持力を各線材層Lm、Lm+1を構成する金属線材部分20(m)、20(m+1)から受ける。仮に、フィルタ内の各接触部を焼結等により一括して接合する場合でも、始端部は、接合処理前のハンドリング時に抜け出さず、且つほつれないように保持される。
従って、始端部と、これと接触する金属線材部分とを個別に接合する必要はない。
本態様によれば、始端部を隣接する線材層間に折り込むだけで、始端部の抜け出しやほつれを防止できるので、金属線材の始端部を低コストで効率よく処理できる。
【0070】
<第二の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10である。本態様に係る中空筒状フィルタは、最内周に位置する第一線材層L1を含み、金属線材が2層以上巻き付けられた内側筒状体31と、内側筒状体の直外周側に位置し、金属線材が巻き付けられた外側筒状体32とを備え、金属線材の始端部20aが、内側筒状体と外側筒状体との間に折り込まれていることを特徴とする。
本態様によれば、第一の実施態様と同様に、金属線材の始端部を低コストで効率よく処理できる。
【0071】
<第三の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、内側筒状体31を構成する金属線材20のピッチP、及び内側筒状体に含まれる線材層の数Lmは、金属線材の始端部20aが、最内周に位置する第一線材層L1の径方向位置と同一にはならず、且つ該位置よりも内径側には突出しないように設定されていることを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの内周側の形状を安定させることができる。また、金属線材の巻き始め側の端縁(切断端)が、フィルタの内周面を越えて中空部内に突出することを防止できる。
【0072】
<第四の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、金属線材20の始端部20aと、第一線材層L1を構成する金属線材部分20(1)と、の間には折り返し部20bが形成されており、折り返し部は中空筒状フィルタの軸方向端縁10aよりも内側に位置することを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの運搬や組立作業等のハンドリング時に、折り返し部が他の部品等に引っ掛からない。従って、始端部を引き抜くような力が加わりにくくなる。また、フィルタの軸方向の端面(又は端縁)に他部品を密着させてシールする場合には、シール性が向上する。
【0073】
<第五の実施態様>
本態様は、金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状フィルタ10の製造方法である。
本製造方法は、金属線材の始端部20aを、心棒131の軸方向の一端側において心棒と共に回転する保持具132に保持させる線材保持工程(
図3(a))と、心棒を回転させて、心棒に対して金属線材を2層以上巻き付けて、最内周に位置する第一線材層L1を含む内側筒状体31を作製する第一の巻き付け工程(
図3(a)、(b))と、金属線材の始端部を心棒の軸方向の他端方向に折り返して、内側筒状体の外周側に配置する折り返し工程(
図3(c))と、心棒を回転させて、始端部及び内側筒状体の外周側に金属線材を巻き付けて外側筒状体32を作製する第二の巻き付け工程(
図3(d))と、を含むことを特徴とする。
本態様は、第一の実施態様と同様の効果を奏する。
【0074】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ2〕
<第一の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10であって、連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体(巻線体ブロック)から構成されるコア部61と、コア部の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を包囲する外殻部65と、を備え、外殻部は、連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた中空筒状の巻線体ブロックを少なくとも一つ備えることを特徴とする。
フィルタを複数の巻線体ブロックから構成することで、フィルタに要求される仕様等に応じて、フィルタの形状を制御しやすくなり、フィルタの設計自由度が向上する。
【0075】
<第二の実施態様>
中空筒状フィルタ10の中心軸Ax1に対する金属線材20の傾斜角度を、コア部61についてθ、外殻部65を構成する巻線体ブロックの少なくとも一つについてλとしたとき、θ>λを満たすことを特徴とする。
外殻部を構成する巻線体ブロックに先行してコア部が作製されていることにより、巻線体ブロック中の金属線材の傾斜角度λを小さくしても、金属線材はずれにくく、巻きパターンは乱れにくい。
本態様によれば、濾過精度や圧力損失等の、フィルタの設計自由度が向上する。
【0076】
<第三の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10であって、軸方向の中間部に第一の多層状領域10eを、軸方向の少なくとも一方の端部に第二の多層状領域10cを備え、第二の多層状領域の線材層数が、第一の多層状領域の線材層数よりも少ないことを特徴とする。即ち、中空筒状フィルタは、軸方向の少なくとも一方の端部における線材層数が、軸方向の中間部(或いは軸方向の他部位)よりも少ないことを特徴とする。
本態様においては、フィルタの軸方向の中間部における線材層の数量に対して、少なくともフィルタの軸方向の一端に位置する反転部の数量が減少する。従って、フィルタの軸方向端において反転部が集合しつつ径方向に重なることに起因してフィルタの軸方向の端部が大径化することを抑制できる。また、軸方向の端部に第二の多層状領域を形成することによって、フィルタの軸方向の端部の径方向長を短縮させる(外径を小径化する)ように制御できる。
本態様によれば、フィルタを適切な形状に制御して、軸方向端部における形崩れを防止し、金属線材のほつれを抑制できる。
【0077】
<第四の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10であって、金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられた少なくとも一つの短尺筒状体41と、短尺筒状体の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うように、金属線材が短尺筒状体に重ねて螺旋状且つ多層状に巻き付けられた少なくとも一つの長尺筒状体51と、を備えることを特徴とする。
本態様においては、フィルタの軸方向の少なくとも一方の端部に短尺筒状体が位置しないため、当該部位における線材層の数量は、フィルタの軸方向の中間部に比べて少なくなる。フィルタの軸方向の中間部における線材層の数量に対して、フィルタの軸方向の少なくとも一端に位置する反転部の数量が減少する。従って、フィルタの軸方向端において反転部が集合しつつ径方向に重なることに起因してフィルタの軸方向の端部が大径化することを抑制できる。
本態様によれば、フィルタを適切な形状に制御して、軸方向端部における形崩れを防止し、金属線材のほつれを抑制できる。
【0078】
<第五の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10においては、短尺筒状体41を構成する金属線材20と長尺筒状体51を構成する金属線材20とが連続していることを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの軸方向端部における形崩れや金属線材のほつれを低コストで効率よく抑制できる。
【0079】
<第六の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、金属線材20の始端部20aは、中空筒状フィルタの内周面を規定する短尺筒状体41の線材層間、又は、中空筒状フィルタの内周面を規定する短尺筒状体と該短尺筒状体の外径側に隣接する長尺筒状体51との間に、軸方向の一端側から折り込まれていることを特徴とする。
本実施態様においては、短尺筒状体の軸方向の端面のうち、少なくとも金属線材の折り返し部20bが形成された側である一端面を長尺筒状体によって被覆するので、折り返し部がフィルタの外部に露出しない。
【0080】
<第七の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、一の長尺筒状体51が、中空筒状フィルタの外周面の全体を規定することを特徴とする。
本態様によれば、フィルタが短尺筒状体41を内包することに起因して、フィルタの外周側に凹凸(隆起や陥没)が発生すること抑制できる。また、フィルタの外周面に現れる巻きパターンが一様になる。
【0081】
<第八の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10であって、軸方向の少なくとも一端部に、軸方向の中間部よりも単位体積当たりの線材数が少ない低密度部10gを備えることを特徴とする。
フィルタの軸方向の端部における金属線材の密度を低くすることにより、軸方向端に位置する反転部が軸方向の中間方向に寄せられても、軸方向の端部における高密度化を抑制できる。その結果、フィルタの軸方向端において反転部が集合しつつ径方向に重なることに起因してフィルタの軸方向の端部が大径化することを抑制できる。
本態様によれば、フィルタを適切な形状に制御して、軸方向端部における形崩れを防止し、金属線材のほつれを抑制できる。
【0082】
<第九の実施態様>
本態様は、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けることにより作製される中空筒状フィルタ10であって、金属線材の巻き付け方向が反転する複数の反転部21、23を備え、複数の反転部の一部が中空筒状フィルタの軸方向端縁を規定しない第一反転部21であり、複数の反転部の残部が中空筒状フィルタの軸方向端縁を規定する第二反転部23であることを特徴とする。
第一反転部は、第二反転部よりも軸方向の中間寄りに位置する。本態様においては、フィルタに含まれる複数の反転部を軸方向端のみに集中させないようにした。これにより、フィルタの軸方向端において反転部が集合しつつ径方向に重なることに起因してフィルタの軸方向の端部が大径化することを抑制できる。
本態様によれば、フィルタを適切な形状に制御して、軸方向端部における形崩れを防止し、金属線材のほつれを抑制できる。
【0083】
<第十の実施態様>
本態様に係る中空筒状フィルタ10において、少なくとも軸方向の一方の端部に位置する第一反転部21の全部は、第一反転部よりも外周側に巻き付けられた金属線材20の部分によって被覆されていることを特徴とする。
本態様によれば、フィルタの軸方向端縁を規定しない反転部を有する巻線体ブロックが存在することに起因して、フィルタの外周側に凹凸(隆起や陥没)が発生すること抑制できる。
【0084】
<第十一の実施態様>
本態様は中空筒状フィルタ10の製造方法であって、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成されるコア部61を作製する工程と、金属線材を螺旋状且つ多層状に巻き付けて巻線体から構成される一つ又は複数の巻線体ブロックを含む外殻部65を作製する工程と、を含み、外殻部はコア部の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うことを特徴とする。
本態様は、第一の実施態様と同様の効果を奏する。
【0085】
<第十二の実施態様>
本態様は中空筒状フィルタ10の製造方法であって、金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻き付けて短尺筒状体41を作製する工程と、短尺筒状体の外面の外周面及び軸方向の少なくとも一端面を覆うように、金属線材を短尺筒状体に重ねて螺旋状且つ多層状に巻き付けて長尺筒状体51を作製する工程と、を含むことを特徴とする。
本態様は、第四の実施態様と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0086】
10、10B~10E…フィルタ、10a…(軸方向の)一端縁、10b…(軸方向の)他端縁、10c~10e…多層状領域、10f…高密度部、10g…低密度部、11、11a、11b…(軸方向の端縁/端面を規定しない)反転位置(第一反転位置)、13、13a、13b…(軸方向の端縁/端面を規定する)反転位置(第二反転位置)、20…金属線材、20a…始端部、20b…折り返し部、20(m)、20(n)…金属線材部分、21、21a、21b…(軸方向端縁/端面を規定しない)反転部(第一反転部)、23、23a、23b…(軸方向端縁/端面を規定する)反転部(第二反転部)、31…内側筒状体、32…外側筒状体、41、41A、41B…短尺筒状体、41a…内側短尺筒状体、41b…外側短尺筒状体、51、51A、51B…長尺筒状体、51a…内側長尺筒状体、51b…外側長尺筒状体、61…コア部、61a…内側コア部、61b…外側コア部、65…外殻部、65A~65C…外殻ブロック、131…心棒、132…保持具、133…ガイド部材、Lm、Ln…線材層、Ax1…(フィルタの)中心軸、Ax2…(心棒の)中心軸