(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000410
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】酸素センサ素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101193
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡元 智一郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大田 由希子
(72)【発明者】
【氏名】駒津 領亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 克秀
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA07
2G046BA08
2G046BA09
2G046BH09
2G046BH10
2G046FB02
2G046FE04
2G046FE11
2G046FE18
(57)【要約】
【課題】センサ特性を損なうことなく省電力化が可能な酸素センサ素子を提供する。
【解決手段】組成LnBa
2Cu
3O
7-δ(Lnは希土類元素)からなるセンシング層としてのセラミック焼結体の外表面を断熱層で覆った構造とし、その断熱層として組成Ln
2BaCuO
5の断熱材を使用し、かつ、その組成に20mol%のLnBa
2Cu
3O
7-δを添加した。これにより、断熱層の焼結挙動がセンシング層の焼結挙動に近づくため層間剥離やクラックの発生を防止でき、センシング層を断熱層で挟み込むサンドイッチ構造とすることでセンシング層からの放熱量を低減して省電力化が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体からなり、その両端部に設けた電極に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出する酸素センサ素子であって、
前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面の所定部位を覆うように、組成式Ln2BaCuO5(Lnは希土類元素)で表される断熱層を配置したことを特徴とする酸素センサ素子。
【請求項2】
前記断熱層に組成式LnBa2Cu3O7-δ(Lnは希土類元素、δは酸素不定比性を表す)で表される共材を添加したことを特徴とする請求項1に記載の酸素センサ素子。
【請求項3】
前記共材の添加量a[mol%]が0<a≦25であることを特徴とする請求項2に記載の酸素センサ素子。
【請求項4】
前記LnはNd(ネオジム)であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素センサ素子。
【請求項5】
前記断熱層により前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面を双方向から挟み込み、該セラミック焼結体の一部を露出させた積層構造を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素センサ素子。
【請求項6】
前記セラミック焼結体の積層方向の厚みt1[μm]が10≦t1≦200であり、かつ、該セラミック焼結体を挟み込む前記断熱層それぞれの前記積層方向の厚みt2,t3[μm]が50≦(t2,t3)≦400であることを特徴とする請求項5に記載の酸素センサ素子。
【請求項7】
前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面全体を前記断熱層で覆った構造を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素センサ素子。
【請求項8】
前記セラミック焼結体を線状体に形成したことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の酸素センサ素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の酸素センサ素子を酸素濃度の検出素子としたことを特徴とする酸素センサ。
【請求項10】
前記酸素センサ素子は、両端に通気孔を有する保護管内に収容されていることを特徴とする請求項9に記載の酸素センサ。
【請求項11】
センシング層としてのセラミック焼結体の外表面の所定部位を断熱層で覆った構造を有する酸素センサ素子の製造方法であって、
前記セラミック焼結体と前記断熱層それぞれの原材料を混合して形成したそれぞれのスラリーをシート状に成形して、第1のシート部材と第2のシート部材を作製する工程と、
前記第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを所定サイズに裁断する工程と、
前記裁断された第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを所定厚となるように積層し、該積層後の第1のシート部材を該積層後の第2のシート部材により上下方向から挟み込んだ積層体を形成する工程と、
前記積層体を所定サイズおよび所定形状に切断してセンサ素子を作製する工程と、
前記センサ素子を焼成する工程と、
前記焼成後のセンサ素子の両端部に一対の電極を形成する工程と、
を備え、
前記焼成工程において前記第1のシート部材と第2のシート部材を同時に焼成することを特徴とする酸素センサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結体を用いた酸素センサ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定雰囲気、例えばガス中の酸素濃度を検知するため、従来よりセラミック焼結体を用いた酸素センサが使用されている。このような酸素センサは、材料組成として、例えば、LnBa2Cu3O7-δとLn2BaCuO5(Lnは希土類元素)とを混合した複合セラミックスを使用し、電圧を印加することで、そのセンサを構成する線材の一部が赤熱するホットスポット現象を用いている。
【0003】
酸素センサは、使用環境、センシング性能等の観点から小型化、軽量化、低コスト化、低消費電力化が望まれる。例えば、特許文献1は、センサ素子のホットスポット部を熱伝導率の小さい、多孔質の断熱材でコーティングし、ホットスポット部からの熱放出を小さくして消費電力の低減を図った酸素センサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素センサとして酸素の検出機能(センシング機能)を維持するには、発熱部の温度が保持される構成が有効である。特許文献1では、酸素センサを構成する線材のうちホットスポットが生じる特定位置にくびれを形成して細くし、そのくびれ部分を断熱材で覆っている。また、断熱材料としてアルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y2O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)を例示している。
【0006】
しかしながら、酸素センサの線材の特定位置にくびれを形成することは、細線化による省電力に一定の効果があっても、センサ駆動時に発生するホットスポットにより線材が溶断しやすくなり、それが機械的強度の低下をもたらし、耐久性、信頼性の高い酸素センサを提供できないことになる。
【0007】
また、特許文献1で列挙された断熱材料は、センサ素子の材料であるLnBa2Cu3O7-δ(Lnは希土類元素、δは酸素不定比性を表す)と焼成時に反応しやすく、それによりセンサ感度が劣化することに加えて、断熱材料とセンサ素子材料の同時焼成が困難となり、量産性に劣るという問題がある。さらに、これらの断熱材料は焼結挙動がLnBa2Cu3O7-δと異なるため、界面での剥離が生じやすいことからも、酸素センサのセンサ感度の確保と量産性の点で課題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸素センサとしてのセンサ特性を損なうことなく、センサ駆動時における省電力化を可能にした酸素センサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本発明は、セラミック焼結体からなり、その両端部に設けた電極に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出する酸素センサ素子であって、前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面の所定部位を覆うように、組成式Ln2BaCuO5(Lnは希土類元素)で表される断熱層を配置したことを特徴とする。
【0010】
例えば、前記断熱層に組成式LnBa2Cu3O7-δ(Lnは希土類元素、δは酸素不定比性を表す)で表される共材を添加したことを特徴とする。例えば、前記共材の添加量a[mol%]が0<a≦25であることを特徴とする。また、例えば、前記LnはNd(ネオジム)であることを特徴とする。さらに、例えば、前記断熱層により前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面を双方向から挟み込み、該セラミック焼結体の一部を露出させた積層構造を有することを特徴とする。また、例えば、前記セラミック焼結体の積層方向の厚みt1[μm]が10≦t1≦200であり、かつ、該セラミック焼結体を挟み込む前記断熱層それぞれの前記積層方向の厚みt2,t3[μm]が50≦(t2,t3)≦400であることを特徴とする。例えば、前記セラミック焼結体の前記電極を除く外表面全体を前記断熱層で覆った構造を有することを特徴とする。さらには、例えば、前記セラミック焼結体を線状体に形成したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の酸素センサは、上記の酸素センサ素子を酸素濃度の検出素子としたことを特徴とする。例えば、前記酸素センサ素子は、両端に通気孔を有する保護管内に収容されていることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、センシング層としてのセラミック焼結体の外表面の所定部位を断熱層で覆った構造を有する酸素センサ素子の製造方法であって、前記セラミック焼結体と前記断熱層それぞれの原材料を混合して形成したそれぞれのスラリーをシート状に成形して、第1のシート部材と第2のシート部材を作製する工程と、前記第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを所定サイズに裁断する工程と、前記裁断された第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを所定厚となるように積層し、該積層後の第1のシート部材を該積層後の第2のシート部材により上下方向から挟み込んだ積層体を形成する工程と、前記積層体を所定サイズおよび所定形状に切断してセンサ素子を作製する工程と、前記センサ素子を焼成する工程と、前記焼成後のセンサ素子の両端部に一対の電極を形成する工程とを備え、前記焼成工程において前記第1のシート部材と第2のシート部材を同時に焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、センシング層のセンサ材料と、断熱層の断熱材との焼結挙動が近くなり、センシング層を断熱層で挟み込んだ積層構造を有する酸素センサ素子として同時焼成が可能となり量産性を確保できるとともに、センシング層における断熱性の向上により省電力化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態例に係る酸素センサ素子の外観斜視図である。
【
図2】実施の形態例に係る酸素センサ素子と、その酸素センサ素子を用いた酸素センサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【
図3】センシング層用のシート部材と断熱層用のシート部材を裁断し、積層してなる板状部材の外観斜視図である。
【
図4】実施の形態例に係る酸素センサ素子を使用した酸素センサの外観斜視図である。
【
図5】実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについての焼結挙動の評価結果1を示す図である。
【
図6】実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについての焼結挙動の評価結果2を示す図である。
【
図7】実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについて抵抗率の温度依存性を評価した結果を示す図である。
【
図8】Nd211とNd123の共存可能を示す状態図である。
【
図9】酸素センサとしての酸素応答性について従来組成の試験用サンプル(従来例1)と、実施の形態例に係る試験用サンプル(実施例1)の評価結果を示す図である。
【
図10】酸素センサとしての酸素応答性について従来組成の試験用サンプル(従来例2)と、実施の形態例に係る試験用サンプル(実施例2)の評価結果を示す図である。
【
図11】変形例に係る酸素センサ素子の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態例について添付図面等を参照して詳細に説明する。本実施の形態例に係る酸素センサ素子はセラミック焼結体からなり、電源に接続して電流が流れることで焼結体の中央部が高温で発熱し、その発熱箇所(ホットスポットと呼ばれる。)を酸素濃度の検出部としている。また、酸素センサ素子であるセラミック焼結体に流れる電流値をもとに酸素濃度を検出する。
【0016】
図1は、本実施の形態例に係る酸素センサ素子の外観斜視図である。
図1に示す酸素センサ素子1は、酸素検出機能(酸素センシング機能)を有するセンシング層5と、センシング層5を双方向(上下方向)から挟み込む2つの断熱層4a,4bと、これらのセンシング層5と断熱層4a,4bとが積層された積層体(センサ素子)の長手方向両端部に形成された一対の電極部3a,3bと、電極部3a,3bそれぞれに取り付けられたリード線6a,6bとを備える。
【0017】
センシング層5は、センサ材料として、組成LnBa2Cu3O7-δ(Lnは希土類元素、δは酸素不定比性を表す)において、Lnを例えばNd(ネオジム)とした組成NdBa2Cu3O7-δからなる。
【0018】
断熱層4a,4bは断熱性を有するとともに電気的な絶縁層であり、例えば、組成Ln2BaCuO5のLnをNd(ネオジム)とした組成Nd2BaCuO5に、共材として20mol%のNdBa2Cu3O7-δを添加した組成からなる。
【0019】
なお、以降において、適宜、組成NdBa2Cu3O7-δを「Nd123」、組成Nd2BaCuO5を「Nd211」、組成Nd2BaCuO5に20mol%のNdBa2Cu3O7-δを添加した組成を「Nd211-20mol%Nd123」とそれぞれ記載する。
【0020】
また、ここでは、酸素センサ素子材料のLn(希土類元素)として、Nd(ネオジム)を例示しているが、他のいずれの希土類元素も使用可能である。すなわち、希土類元素として、例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)等を使用できる。
【0021】
次に、本実施の形態例に係る酸素センサ素子と、それを用いた酸素センサの製造方法について説明する。
図2は、本実施の形態例に係る酸素センサ素子と、その酸素センサ素子を用いた酸素センサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【0022】
図2のステップS1において、酸素センサ素子の原料として、組成NdBa
2Cu
3O
7-δ(Nd123:原料1)と、組成Nd
2BaCuO
5(Nd211:原料2)となるように、例えばNd
2O
3,BaCO
3,CuOを電子天秤等によって秤量し、混合する。
【0023】
ステップS2において、上記のステップS1で秤量・混合した酸素センサ素子の原料1,2それぞれを、ボールミル装置で粉砕する。ここでの粉砕は、粉砕メディアをビーズとするビーズミル等の固相法、液相法でも可能である。
【0024】
続くステップS3において、上記粉砕された材料(原料1,2の粉末)を、大気中において900℃、5時間、熱処理(仮焼き)する。仮焼きは、反応性や粒径を調整するための処理である。仮焼きの温度は880~970℃としても良く、900℃~935℃がより好ましい。
【0025】
上記のように仮焼きした原料1,2を、ボールミル等により粉砕して粒を揃えた後、ステップS4においてスラリーを作製する。ここでは、仮焼きした原料に対して、バインダ樹脂(例えば、ポリビニルブチラール(PVB))と溶媒(例えば、トルエン)を混合したビヒクルを混練してスラリーを作製する。
【0026】
具体的には、原料1(Nd123)の仮焼粉をビヒクルと混合した第1のスラリー、および、原料2(Nd211)に20mol%のNd123を加えた仮焼粉(Nd211-20mol%Nd123)をビヒクルと混合した第2のスラリーを作製する。
【0027】
続くステップS5において、例えばドクターブレード法により、第1のスラリーと第2のスラリーそれぞれを、厚さ30μmのシート状に成形して、上述したセンシング層に用いる第1のシート部材と、上述した断熱層に用いる第2のシート部材を作製する。
【0028】
なお、スラリーをシート状に成形する方法として、例えば、一軸プレス法、静水圧プレス法、ホットプレス法、印刷法、薄膜法によりプレス圧を印加して成形し、所定厚の板状部材(プレス成形体)を作製してもよい。特に、断熱層に用いる第2のシート部材については、ディップ法、印刷法、薄膜法が適用可能である。
【0029】
ステップS6において、上記ステップS5で作製した第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを積層して、
図3に示す積層シート(積層体)20を作製する。具体的には、第1と第2のシート部材それぞれを、例えば、L1(100mm)×L2(100mm)のサイズに裁断した後、第1のシート部材を、
図3において符号15で示すように、その厚さt1が例えば30μmとなるように積層してセンシング層を形成し、第1のシート部材を上下方向から挟み込む第2のシート部材それぞれの厚さt2,t3が、例えば160μmとなるように積層して断熱層14a,14bを形成する。
【0030】
なお、酸素センサ素子としての特性に着目した場合、積層するセンシング層および断熱層は上述した厚さに限定されない。例えば、センシング層の厚さt1は、10μmより小さいと抵抗値が高くなり過ぎて、ホットスポット発生時における発熱量の確保が難しくなる。また電流密度の増加が顕著となり、耐久性が劣化する。一方、厚さt1が200μmよりも大きい場合、酸素センサ駆動時において電流値の増加により消費電力が大きくなり過ぎる。このことから、センシング層の好ましい厚さt1は10~200μm、より好ましい厚さt1は30~120μmである。
【0031】
断熱層の厚さt2,t3は、50μmより小さいと断熱性の効果も小さくなり、400μmよりも大きいと、酸素センサとしての応答速度に影響が表れる。よって、断熱層の好ましい厚さは50≦(t2,t3)≦400μmであり、より好ましい厚さは100≦(t2,t3)≦250μmである。
【0032】
ステップS7においてダイシングを行なう。具体的には、上記ステップS6で積層された、
図3に示す積層シート(積層体)を、後述する酸素センサのサイズおよび形状に合わせて、例えば、断面寸法が0.35mm×0.35mm、長さが5mmの棒状体形状に切断する。
【0033】
ステップS8では、上述したダイシング後の酸素センサ素子に対して脱バインダーを行い、その酸素センサ素子を大気中で、例えば980℃で10時間、焼成する。焼成は900~1020℃の温度範囲でも可能であり、組成により焼成温度を変えてもよい。また、この焼成後にアニール処理をしてもよい。
【0034】
ステップS9において、酸素センサ素子の両端部に銀(Ag)をディップ塗布し、150℃で10分、乾燥させて、
図1に示すように電極3a,3bを形成する。ステップS10では、ステップS9で形成された電極に、例えばφ0.1mmの銀(Ag)ワイヤをワイヤーボンディング等の接合方法により取り付けて、150℃で10分、乾燥する。そして、このようにして形成された端子電極を、ステップS11において、例えば670℃で20分間、焼付けする(電極焼成)。
【0035】
電極およびワイヤの材料は、上記の銀(Ag)に限定されず、例えば金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銅(Cu)、樹脂電極等でも可能である。また、電極の形成には、印刷法、スパッタ等の着膜方法を使用してもよい。さらに、上記の工程を経て製造された酸素センサ素子の電気的特性を、例えば四端子法により評価してもよい。
【0036】
ステップS12において、上記の工程で製造された酸素センサ素子を、例えば
図4に示すように、耐熱ガラスからなり酸素センサ素子1の保護部材として機能する保護管(円筒形のガラス管)24内に挿入する。挿入後の酸素センサ素子1のリード線それぞれの端部は、保護管24の両端に嵌着した金属製の導電キャップ(口金)23a,23bに、例えば無鉛はんだにより接続される。
【0037】
上記のように保護管内に酸素センサ素子が収容された酸素センサの具体的な構成については後述する。
【0038】
次に、本実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについて測定したセンサ特性等の評価結果を説明する。
【0039】
<焼結挙動の評価結果>
本実施の形態例に係る酸素センサ素子は、センシング層を、それとは異なる材料からなる2つの断熱層で上下から挟み込む構造(サンドイッチ構造)を有することから、それらの層を同時焼成する場合、焼結挙動の違いに起因する層間剥離等の発生が懸念される。
【0040】
そこで、本実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについて熱機械分析(TMA)による焼結挙動を測定した。その結果を
図5および
図6に示す。なお、
図5および
図6において、横軸が温度[℃]、縦軸が変位[%]である。
【0041】
[評価結果1]
図5において符号51で示す特性は、Nd123(組成NdBa
2Cu
3O
7-δ)の焼結挙動の測定結果である。符号52で示す特性は、Nd211(組成Nd
2BaCuO
5)の焼結挙動の測定結果であり、符号53は、Nd211-20mol%Nd123(組成Nd
2BaCuO
5に20mol%のNdBa
2Cu
3O
7-δを添加した組成)の焼結挙動の測定結果である。
【0042】
TMAによる焼結挙動の測定結果から、Nd211にNd123を20mol%添加した材料は、その焼結挙動がNd123の焼結挙動に近づくことが分かる。これは、Nd211の焼結温度がNd123に対して高温であるが、Nd123の添加により低温側にシフトしたことを示している。
【0043】
よって、Nd123を材料とするセンシング層と、Nd211-20mol%Nd123を材料とする断熱層を同時焼成しても、それらの焼結挙動が同じであることから、界面で応力が生じにくくなる。その結果、歪、ストレス等がないため層間剥離やクラックの発生を防ぐことができ、それにより酸素センサ素子の量産性が向上することが分かる。
【0044】
このように層間剥離が生じなかったのは、断熱層とセンシング層の材料がともに多孔質であり、焼結密度を低く抑えているためと考えられる。また、断熱層とセンシング層が多孔質であることで、酸素センサ素子としてのセンシング機能に影響を与えることがない。
【0045】
[評価結果2]
さらに、センシング層の材料として、Ndの置換量を変えた組成について、その焼結挙動を測定した。ここでは、組成Nd
1+xBa
2-xCu
3O
7-δにおいて、Ndの置換量xを0.4とした組成Nd
1.4Ba
1.6Cu
3O
7-δ(この組成を適宜、Nd123_x-0.4と記載する。)を熱機械分析(TMA)によって焼結挙動を測定した。その結果を
図6に示す。
【0046】
組成Nd123_x-0.4の材料は、
図6において破線54で示すように、後述する抵抗率を維持したまま焼結挙動をさらにNd211-20mol%Nd123(符号53で示す)へ近づけることができた。Nd123_x-0.4は、センシング層の材料であるNd123をNd置換した組成を有しており、BaをNdで置換すると焼成温度が高温側へシフトすることを示している。
【0047】
上記の評価結果1,2より、酸素センサ素子について同時焼成等の観点から、センシング層の材料として耐湿性をも有するNd123_x-0.4と、断熱層の材料としてのNd211-20mol%Nd123とが最適な組合せとなり、酸素センサ素子としての量産性がより向上すると考えられる。
【0048】
また、センシング層の材料(Nd123_x-0.4)と、断熱層の材料(Nd211-20mol%Nd123)とが同等の反応性を有しているが、それらをサンドイッチ構造にして積層しても、互いに反応して別材料となることがないことを確認できた。さらには、
図8に示す状態図を参照すると、Nd211とNd123は共存可能であり、焼成時に反応しないことが分かる。
【0049】
なお、上記では、断熱層として、組成Ln2BaCuO5に共材として20mol%のLnBa2Cu3O7-δを添加した材料を例示したが、この共材の添加量a[mol%]は0<a≦25の範囲にあれば、所望の断熱および絶縁効果が得られる。25mol%を超えて添加すると、パーコレーションにより断熱層内でLnBa2Cu3O7-δによる導電パスが形成されてしまうため、絶縁機能が損なわれ、消費電力が増加する。
【0050】
<抵抗率の温度依存性についての評価結果>
図7は、本実施の形態例に係る酸素センサ素子の試験用サンプルについて、抵抗率の温度依存性を評価した結果を示す。
図7において、横軸が温度[℃]、縦軸が抵抗率[Ωcm]である。
【0051】
図7に示すように、断熱層の材料に関して、符号62で示すNd211の方が、符号63で示すNd211-20%Nd123よりも抵抗率が高かった。Nd211とNd211-20%Nd123の双方とも、温度の上昇とともに抵抗率が低下する半導体的特性を示している。
【0052】
一方、
図7において符号61で示す、センシング層の材料であるNd123は、抵抗率が低く、電流が流れやすい材料であることが分かる。酸素センサとしての実際の使用温度である900℃に着目すると、Nd211-20%Nd123は、Nd123よりも2桁以上、抵抗値が高いことから、Nd211に共材としてNd123を添加しても絶縁機能が十分に確保されていることが分かる。
【0053】
すなわち、酸素センサ素子において、Nd211-20%Nd123からなる断熱層には電流がほとんど流れず、センシング層に対して絶縁機能を失うことがないため、センサ出力に影響を与えることがない。
【0054】
<酸素応答性の評価結果>
図9は、従来組成の試験用サンプルと、本実施の形態例に係る、実施例1としての試験用サンプルとについて、酸素センサとしての酸素応答性を評価した結果を示している。従来組成の試験用サンプル(従来例1)は、断熱層を形成せずにNd123のみからなり、実施例1と同一寸法の素子である。
【0055】
ここでは、各試験用サンプルに対して、
図9の期間T1において標準エア(酸素濃度21%)の環境下とし、続く期間T2において酸素濃度1%の環境に切り換え、期間T3において標準エア(酸素濃度21%)の環境に切り換えた。
図9において、横軸が時間[秒]、縦軸が電流変化(感度)[%]である。
【0056】
図9より、実施例1と従来例1のセンサ出力の変化量(応答性)がともに30%であり、酸素応答性に関して、実施例1の試験用サンプルと従来例1のサンプルとに大きな差異がないことが分かる。また、時間T1→T2→T3における酸素濃度の各変化点における電流変化の立ち上がり、および立ち下がりも急峻であることからも、酸素応答性について実施例1に係る試験用サンプルと従来例1の試験用サンプルとに差異がない(センサ出力、応答速度が同等である)ことが分かる。
【0057】
実施例1と従来例1の各試験用サンプルについて、例えば電流-電圧特性から、消費電力を求めると、従来例1が0.47Wであるのに対して、実施例1は0.40Wに低減できた。よって、実施例1は従来例1に対して約1/5の省電力化が可能であることが分かった。
【0058】
図10は、Nd123をNd置換した組成Nd123_x-0.4をセンシング層とした実施例2について、酸素センサとしての酸素応答性を評価した結果である。従来組成の試験用サンプル(従来例2)は、断熱層を形成せずにNd123x-0.4のみからなり、実施例1および実施例2と同一寸法の素子である。実施例2も、実施例1および従来例2と同様の酸素応答性を有することが分かる。また、実施例2についても実施例1等と同様に消費電力を求めると、従来例2が0.61Wであるのに対して、実施例2は0.48Wとなった。よって、実施例2も、そのセンサ特性(センサ出力、応答速度)を損なわずに省電力化を実現できることが分かる。
【0059】
酸素センサ素子には、その機械的な強度、量産性等を考慮すると、素子を細線化した電流値の低減による省電力化には限界がある。そのため、本実施の形態例に係る酸素センサ素子は、センシング層を断熱層で挟み込むサンドイッチ構造とすることで、素子からの放熱量を低減して省電力化した。特にふく射による放熱はステファンボルツマンの法則から素子表面温度の4乗に比例するため、断熱層の形成による表面温度の低減は有効となる。これに伴い、その酸素センサ素子を使用した酸素センサの稼働に使用するバッテリの小型化が可能になり、酸素センサの装置としての可搬性が向上する。
【0060】
<酸素センサについて>
本実施の形態例に係る酸素センサ素子を使用した酸素センサは、酸素センサ素子の中央部の発熱箇所(ホットスポット)が酸素濃度の検出部となる。
図4に示す酸素センサ10は、酸素センサ素子1の保護部材である、耐熱ガラスからなる円筒形のガラス管24の内部にその酸素センサ素子1が収容された構造を有する。ガラス管24の両端には、酸素センサ10が外部と電気的な接続を行うため、例えば銅(Cu)等からなる金属製の導電キャップ(口金)22a,22bが嵌着されている。
【0061】
酸素センサ素子1の両端部に取り付けられた銀(Ag)ワイヤ(
図1のリード線6a,6b)は、導電キャップ22a,22bと無鉛はんだにより電気的に接続され、酸素センサ素子1の長手方向がガラス管24の軸方向となるように配置することで、酸素センサ素子1がガラス管24に接触しないようにしている。
【0062】
導電キャップ22a,22bの端面側それぞれには通気孔23a,23bが設けられており、測定対象である気体(酸素)がガラス管24内に円滑に流入して、酸素センサ素子1がその気体に晒されることで、雰囲気の酸素濃度を正確に測定できる。
【0063】
酸素センサ10のガラス管24は、例えば、直径が5.2mm、長さが20mm、通気孔の径が2.5mmであり、上述した寸法(0.35mm×0.35mm×5mm)の酸素センサ素子1は、ガラス管24の通気孔23a,23bを介して交換可能となる。
【0064】
なお、酸素センサ素子1の保護部材は、上記のガラス管以外に、例えばセラミックケース、樹脂ケース等であってもよい。また、酸素センサ素子1に取り付けた銀(Ag)ワイヤ6a,6bと導電キャップ22a,22bとの接続には、有鉛はんだ、溶接、カシメ等の接合方法を用いてもよい。
【0065】
また、図示を省略するが、本実施の形態例に係る酸素センサ素子を使用した酸素センサは、電源により酸素センサに所定電圧を印加すると、酸素センサ素子には、周囲の酸素濃度に応じた電流が流れる。そのため、その電流を電流計で計測した値をもとに、測定対象とする雰囲気の酸素濃度を測定する構成を有する。
【0066】
酸素センサ素子の構造および形状は、
図1に示す酸素センサ素子1のようにサンドイッチ構造を有する棒状の形状に限定されない。例えば、
図11に示す酸素センサ素子70のように、Nd123からなる円柱状のセラミック焼結体75の外表面全体を、Nd211-20mol%Nd123からなる断熱層74で覆い、センサ素子の長手方向両端部に一対の電極部73a,73bを形成して、電極部それぞれにリード線76a,76bを取り付け、センサ素子の全体形状を円柱状にしてもよい。
【0067】
図11に示す構成の酸素センサ素子70においても、セラミック焼結体75からのふく射放熱量が断熱層74によって低減されることによる省電力化を図ることができる。また、断熱層74が多孔質であることから、酸素センサ素子70のセンシング性能が断熱層74によって妨げられることもない。
【0068】
以上説明したように本実施の形態例に係る酸素センサ素子は、組成LnBa2Cu3O7-δ(Lnは希土類元素)からなるセンシング層としてのセラミック焼結体の外表面を断熱層で覆った構造を有し、その断熱層として組成Ln2BaCuO5の断熱材を使用し、かつ、その組成に20mol%のLnBa2Cu3O7-δを添加した。
【0069】
これにより、センシング層のセンサ材料と、断熱層の断熱材との焼結挙動が近くなるため、焼成時に界面での剥離が生じず、強度も向上するので、酸素センサ素子の量産性を確保できる。さらに、センシング層を断熱層で挟み込んだ積層構造にして同時焼成が可能となり、例えば酸素センサ素子をガラス管等の保護部材に組み込む際、センサ部分を直接、把持等することがないため、酸素センサの製造が容易になり、酸素センサの量産性も向上する。
【0070】
さらには、センサ材料と断熱材とが共存可能であり、焼成時の反応も生じないことに加えて、センシング層を極力外部に露出させない積層構造としたことでふく射熱を抑えることができ、外部ガス等による外乱に強くなるとともに、ホットスポット現象を用いた酸素センサ素子としてのセンサ感度を維持でき、併せて、断熱性の向上による省電力化が可能になる。
【0071】
また、断熱層の断熱材に組成LnBa2Cu3O7-δを添加することで、センサ使用時におけるヒートサイクル性の向上も期待できる。
【符号の説明】
【0072】
1,70 酸素センサ素子
3a,3b,73a,73b 電極部
4a,4b,74 断熱層
5,15 センシング層
6a,6b,76a,76b リード線
10 酸素センサ
22a,22b 導電キャップ
23a,23b 通気孔
24 ガラス管
75 セラミック焼結体