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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004103
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】晶析方法および晶析装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 9/02 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
B01D9/02 602E
B01D9/02 601B
B01D9/02 603E
B01D9/02 604
B01D9/02 605
B01D9/02 608B
B01D9/02 613
B01D9/02 615A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105604
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】銅谷 陽
(57)【要約】
【課題】濃縮により粒子の滞留時間が長くなっても粒子の成長を抑制し、粒度分布の範囲を抑えることが可能な晶析方法および晶析装置を提供する。
【解決手段】反応処理を行う反応処理器11と、反応液14を滞留させる滞留槽13との間で第1循環経路12を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、滞留槽13が、固液分離により反応液14を濃縮させる固液分離装置21との間で第2循環経路22を形成し、第1循環経路12が第1循環ポンプ15を有し、第2循環経路22が第2循環ポンプ23を有し、反応処理器11と滞留槽13との間で反応液14を循環させながら、反応液14の一部を固液分離装置21に送出し、固液分離装置21により濃縮させた反応液14を滞留槽13に返送する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応処理を行う反応処理器と、反応液を滞留させる滞留槽との間で第1循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、
前記滞留槽が、固液分離により前記反応液を濃縮させる固液分離装置との間で第2循環経路を形成し、
前記第1循環経路が第1循環ポンプを有し、前記第2循環経路が第2循環ポンプを有し、
前記反応処理器と前記滞留槽との間で前記反応液を循環させながら、前記反応液の一部を前記固液分離装置に送出し、前記固液分離装置により濃縮させた前記反応液を前記滞留槽に返送することを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
前記反応液は、前記反応処理器または前記滞留槽の少なくとも一方に原料液を供給して生成することを特徴とする請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
前記反応液は、前記反応処理器と前記滞留槽との間で連続的に循環させながら、前記滞留槽と前記固液分離装置との間で連続的に循環させることを特徴とする請求項1または2に記載の晶析方法。
【請求項4】
前記固液分離装置が、固液分離膜を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の晶析方法。
【請求項5】
反応処理を行う反応処理器と、反応液を滞留させる滞留槽との間で第1循環経路を形成し、反応晶析を行う反応操作部と、
前記滞留槽と、固液分離により前記反応液を濃縮させる固液分離装置との間で第2循環経路を形成した濃縮操作部と、を備え、
前記第1循環経路が第1循環ポンプを有し、前記第2循環経路が第2循環ポンプを有し、
前記反応処理器と前記滞留槽との間で前記反応液を循環させながら、前記反応液の一部を前記固液分離装置に送出し、前記固液分離装置により濃縮させた前記反応液を前記滞留槽に返送することを特徴とする晶析装置。
【請求項6】
前記固液分離装置が、固液分離膜を有することを特徴とする請求項5に記載の晶析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析方法および晶析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルからサブミクロンサイズの一次粒子を凝集成長することで得られるミクロンサイズの球状粒子体を利用する事象は多く、電池材料・触媒・医薬原料・化粧品材料等の機能性材料や素材への充填フィラーにおいて散見される。特に充填性、充填密度を問う場合、生産される粒子の球状化、粒度分布形状が問われる。充填密度を高めるために大小粒径の最適な組み合わせの検討、ブロードな粒度分布を求める事象も多い。一方、粒子機能を均一化させるため粒径を揃えたものを求める事象も多く、素材の中に粒子を均一に分布させるために粒度分布の狭い材料を求める事象も多い。今後の技術として期待される全固体電池における正極材料もその一つとなる。粒径の揃った粒子を得るために、生産物を分級工程で分離する方法、大小粒径を分離しながら晶析をする方法、予めシード粒子(種結晶)を添加する方法等、様々な手法が考案されているが、晶析操作において溶液中の粒子数あるいは懸濁密度を高める操作により粒子径を制御する手法も考案されている。また、原料濃度を予め高める手法もあるが、副産物の生成量も増えることから原料濃度を高める操作では限界が生じる。
【0003】
特許文献1では、生産物の生産性を向上させるため排出された粒子を濃縮し晶析槽内へ戻すことによりスラリー濃度を高め、且つ粒径分布を一定に保つ方法を行っている。しかし、濃縮操作によって滞留時間が長くなり、粒子の肥大化による粒度分布の変化の課題が示されている。そのため、特許文献1に記載の発明では、反応溶液を連続的にオーバーフローさせる基準条件において設定される原料液の供給速度およびスラリー濃度と、反応容器から抜き出された反応溶液を濃縮した後、反応容器に戻す操作によりスラリーを濃縮する実施条件において設定される原料液の供給速度およびスラリー濃度が、一定の範囲内の関係を満たすように操作することが記載されている。しかし、スラリーの濃縮を行う実施条件において、スラリーを濃縮しない基準条件との関係で原料液の供給速度およびスラリー濃度を設定する必要があり、運転の管理が煩雑化する。また、スラリーの濃縮が進む過程で、原料液の供給速度を変更する必要があり、操作の管理を複雑にする。
【0004】
特許文献2には、反応器に濃縮器を連結し、反応器で生成した反応スラリーを反応器と濃縮器との間で循環させる際、反応器の撹拌状態を変化させない程度に循環流量を設定することが記載されている。しかし、濃縮を行う操作において、スラリーの循環流量を抑制することは、十分な濃縮時間を得ることができず結果的に到達濃度を高めることが難しくなる。濃縮操作においてろ布、膜等の分離媒体、沈降面積など濃縮面積が固定された状況においては到達可能な濃縮濃度に影響を与える。また、濃縮を行う操作において、スラリーの循環流量を抑制することは、濃縮面積が固定された状況においては難しい。対象とする物質によっては循環流量を高めに操作する必要も生じ、撹拌状態に影響を与えることを回避することが難しくなる。
【0005】
特許文献3には、濃縮操作により新たな結晶として晶析されることを抑制しながら、既に晶析した結晶を種結晶として結晶成長させることができ、原料化合物の供給および循環を継続することにより種結晶を所望の粒径まで結晶成長させることができることが提案されている。さらに、濃縮操作において分離膜を用いた操作を行う際、目詰まり等の不具合があると、連続運転が困難となるため、濃縮操作の前段に分級工程を持たせ、膜の目詰まり原因となる大径粒子を予め除去することで濃縮操作を安定化させるシステムが提案されている。しかし、実際には数ミクロンオーダーの分級操作は難しく、結果的に対象としている粒子径は10ミクロン以上の生産物となる。また分級操作自体の安定化が難しく運転管理が複雑なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6493082号公報
【特許文献2】特許第5206948号公報
【特許文献3】特開2020-99841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、濃縮により粒子の滞留時間が長くなっても粒子の成長を抑制し、粒度分布の範囲を抑えること、および装置の安定運転が可能な晶析方法および晶析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、以下の態様を提案している。
【0009】
本発明の第1の態様は、反応処理を行う反応処理器と、反応液を滞留させる滞留槽との間で第1循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、前記滞留槽が、固液分離により前記反応液を濃縮させる固液分離装置との間で第2循環経路を形成し、前記第1循環経路が第1循環ポンプを有し、前記第2循環経路が第2循環ポンプを有し、前記反応処理器と前記滞留槽との間で前記反応液を循環させながら、前記反応液の一部を前記固液分離装置に送出し、前記固液分離装置により濃縮させた前記反応液を前記滞留槽に返送することを特徴とする晶析方法である。
【0010】
第1の態様によれば、滞留槽の内部状態が第2循環経路における濃縮循環流量に影響を受けるものの、反応処理器の内部状態は主に第1循環経路の流量で決定される。このため、濃縮循環流量が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。このため、濃縮循環流量の変更等の操作が容易になる。さらに、濃縮することにより滞留槽内の粒子濃度が高まることで、生産物スラリーの貯留量を低減可能となり、且つ後段に行われるろ過・乾燥などの固液分離操作の負荷を低減することが可能となる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記反応液は、前記反応処理器または前記滞留槽の少なくとも一方に原料液を供給して生成することを特徴とする。
【0012】
第2の態様によれば、原料液から反応液が生成される操作が、反応処理器または滞留槽の少なくとも一方において行われるため、原料液の混合等の操作に対して、濃縮循環流量の影響を抑制することができる。このため、原料液の混合等の操作が容易になる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記反応液は、前記反応処理器と前記滞留槽との間で連続的に循環させながら、前記滞留槽と前記固液分離装置との間で連続的に循環させることを特徴とする。
【0014】
第3の態様によれば、第1循環経路および第2循環経路における反応液の循環が連続的に行われるため、反応液の濃縮が晶析の過程で継続的に行われ、より安定した操作が可能になる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか1の態様において、前記固液分離装置が、固液分離膜を有することを特徴とする。
【0016】
第4の態様によれば、反応液に含まれる浮遊物質が微小でも固液分離が容易であり、反応液から分離される液体中に含まれる浮遊物質の量を低減することができる。これにより、浮遊物質の濃縮および回収をより効率化して、より安定した固液分離が可能になる。
【0017】
本発明の第5の態様は、反応処理を行う反応処理器と、反応液を滞留させる滞留槽との間で第1循環経路を形成し、反応晶析を行う反応操作部と、前記滞留槽と、固液分離により前記反応液を濃縮させる固液分離装置との間で第2循環経路を形成した濃縮操作部と、を備え、前記第1循環経路が第1循環ポンプを有し、前記第2循環経路が第2循環ポンプを有し、前記反応処理器と前記滞留槽との間で前記反応液を循環させながら、前記反応液の一部を前記固液分離装置に送出し、前記固液分離装置により濃縮させた前記反応液を前記滞留槽に返送することを特徴とする晶析装置である。
【0018】
第5の態様によれば、滞留槽の内部状態が第2循環経路における濃縮循環流量に影響を受けるものの、反応処理器の内部状態は主に第1循環経路の流量で決定される。このため、濃縮循環流量が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。このため、濃縮循環流量の変更等の操作が容易になる。
【0019】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記固液分離装置が、固液分離膜を有することを特徴とする。
【0020】
第6の態様によれば、反応液に含まれる浮遊物質が微小でも固液分離が容易であり、反応液から分離される液体中に含まれる浮遊物質の量を低減することができる。これにより、浮遊物質の濃縮および回収をより効率化して、より安定した固液分離が可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、濃縮により粒子の滞留時間が長くなっても粒子の成長を抑制し、粒度分布の範囲を抑えることが可能で、かつ生産物濃度を高めることで生産性を向上することが可能な晶析方法および晶析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の晶析装置を示す概略図である。
図2】実施例1における滞留槽内のpHの推移を示すグラフである。
図3】実施例1における膜濃縮装置における入口圧力の測定例を示すグラフである。
図4】実施例1における膜濃縮装置における出口圧力の測定例を示すグラフである。
図5】実施例1における膜濃縮装置における差圧力の測定例を示すグラフである。
図6】実施例1における膜濃縮装置における逆洗圧力の測定例を示すグラフである。
図7】実施例1における膜濃縮装置における濾過流量の測定例を示すグラフである。
図8】実施例1におけるSS濃度の推移を示すグラフである。
図9】実施例1により得られた生産物の粒度分布を示すグラフである。
図10】実施例1により得られた生産物のSEMデータを示す図面代用写真である。
図11】比較例1の晶析装置を示す概略図である。
図12】比較例1により得られた生産物の粒度分布を示すグラフである。
図13】比較例1により得られた生産物のSEMデータを示す図面代用写真である。
図14】実施例1および比較例1におけるメディアン径の推移を示すグラフである。
図15】実施例1および比較例1における(D90-D10)/D50値の推移を示すグラフである。
図16】実施例1および比較例1におけるSS濃度の推移を示すグラフである。
図17】参考例1の晶析装置を示す概略図である。
図18】参考例2の晶析装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好適な実施形態に基づいて、図面を参照して本発明を説明する。実施形態の晶析装置30は、反応処理を行う反応処理器11と、反応液14を滞留させる滞留槽13との間で第1循環経路12を形成し、反応晶析を行う反応操作部10を有する。さらに、晶析装置30は、滞留槽13と、固液分離により反応液14を濃縮させる固液分離装置21との間で第2循環経路22を形成した濃縮操作部20を備える。
【0024】
反応処理器11における反応処理は、例えば、反応処理器11内に1種以上の原料液10a,10bを供給して行われる。反応処理器11において、第1循環経路12を循環する反応液14に原料液10a,10bが接触して、反応処理が行われてもよい。原料液10a,10bは、反応場に追加される物質を含有する液である。原料液10a,10bは溶液でもよく、分散液でもよい。反応場に追加される物質の一部が、1種以上の原料液10cとして、滞留槽13に供給されてもよい。原料液10a,10bの一部が滞留槽13に供給されてもよい。
【0025】
反応開始時から反応操作部10内に使用されるスタート母液は、原料液10a,10bを含まない溶液であってもよい。スタート母液が、原料液10cの成分を含んでもよい。スタート母液として反応液を用いてもよい。反応晶析が進行すると、反応液14は、浮遊物質を含んでスラリー状となる。特に図示しないが、原料液10a,10b,10cと併せて、ガスを反応処理器11または滞留槽13に供給してもよい。ガスは、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスでもよく、反応処理において化学反応を行う空気、酸素、オゾン、アンモニア、塩素、水素などの反応性ガスでもよい。
【0026】
特に図示しないが、晶析装置30は、原料液10a,10b,10cを調製するための設備を備えてもよい。このような設備としては、例えば、原料物質を水等の溶媒に溶解して原料液10a,10b,10cを製造する容器、原料液10a,10b,10cを貯留する容器、原料液10a,10b,10cを供給する経路およびポンプ等が挙げられる。
【0027】
原料液10a,10b,10cが混合して得られる反応液14は、第1循環ポンプ15の動力により第1循環経路12を介して反応処理器11と滞留槽13との間で循環する。第1循環経路12は、反応処理器11と滞留槽13との間に配置された第1経路12a,12bから形成されている。第1経路12aは、反応液14を反応処理器11から滞留槽13へと移送する経路である。第1経路12bは、反応液14を滞留槽13から反応処理器11へと移送する経路である。
【0028】
反応処理器11は、原料液10a,10bの接触、または原料液10a,10bと反応液14との接触により、反応場を提供する。均一な反応を促進するため、反応処理器11には、特に図示しないが、旋回流、撹拌流等の流れを形成する装置または構造を設けてもよい。図示の反応処理器11は、横向きであるが、竪向きとしてもよい。
【0029】
特に図示しないが、2以上の反応処理器11が直列または並列に配置されてもよい。反応処理器11を直列に配置する場合、反応液14が滞留槽13から第1循環経路12に送出されて、再び滞留槽13に返送される過程で、反応液14が2以上の反応処理器11を順次通過する。反応処理器11を並列に配置する場合、反応液14が滞留槽13から第1循環経路12に送出されて、再び滞留槽13に返送される過程で、第1経路12a,12bが2以上に分岐し、それぞれの分岐した経路において反応液14が反応処理器11を通過する。
【0030】
滞留槽13は、反応液14の滞留時間を確保することにより、反応液14の安定化、粒子の成長、沈降等が図られる。例えば滞留槽13の容量が、反応処理器11および第1循環経路12の内部容積よりも大きいことにより、反応液14が滞留槽13内に滞留する時間を長くすることができる。
【0031】
特に図示しないが、滞留槽13の内部に反応液14を撹拌する撹拌装置等を配置してもよい。これにより、反応液14の混合または反応液14と原料液10cとの混合を促進することができる。例えば滞留槽13の上部から下方に回転軸17を設置し、回転軸17に撹拌翼等(図示せず)を配置してもよい。回転軸17の内部に原料液またはガスの供給経路を形成し、滞留槽13の下部に原料液またはガスを供給できるようにしてもよい。
【0032】
滞留槽13は、反応液14のスラリーを排出するスラリー排出路16を有する。スラリー排出路16が滞留槽13に対して常時開放されている場合、オーバーフローによって反応液14が排出されてもよい。運転時にスラリー排出路16が滞留槽13に対して閉鎖されている場合、サンプリング等の必要なときに反応液14が排出されてもよい。
【0033】
濃縮操作部20は、滞留槽13外で反応液14を濃縮するための外部循環経路である。濃縮操作部20に供給される反応液14は、第2循環ポンプ23の動力により第2循環経路22を介して滞留槽13と固液分離装置21との間で循環する。第2循環経路22は、滞留槽13と固液分離装置21との間に配置された第2経路22a,22bから形成されている。第2経路22aは、反応液14を滞留槽13から固液分離装置21へと移送する経路である。第2経路22bは、反応液14を固液分離装置21から滞留槽13へと移送する経路である。
【0034】
固液分離装置21は、固液分離によりスラリー状の反応液14を濃縮させる。すなわち、浮遊物質を含まない液または浮遊物質が反応液14より低濃度の液を系外に排出することにより、反応液14のスラリー濃度を上昇させる。
【0035】
固液分離装置21における固液分離の手法は特に限定されず、濾布等の濾材、固液分離膜、遠心分離、沈降分離等が挙げられる。反応液14の粘度、反応液14に含まれる浮遊物質の濃度や粒子径等に応じて、適宜の固液分離装置21を選択することが好ましい。粒度分布は、例えば、レーザ光回折散乱法等により測定することができる。
【0036】
濾材、固液分離膜等のように、反応液14の固液分離を連続的に行うことができる固液分離装置21を用いた場合は、第2循環経路22における反応液14の循環を連続的に行うことが容易になる。反応液14の循環が連続的に行われることにより、反応液14の濃縮が反応晶析の過程で継続的に行われる。このため、より安定した操作が可能になる。
【0037】
固液分離操作により、濾液、膜濾過液等の分離液31が反応液14から分離される。分離液31は、浮遊物質を含まない液であってもよく、浮遊物質が反応液14より低濃度の液であってもよい。
【0038】
特に、固液分離装置21が固液分離膜を有すると、スラリー状の反応液14に含まれる浮遊物質が微小であっても固液分離が容易である。さらに、固液分離膜の使用により、分離液31中に含まれる浮遊物質の量を低減することができる。これにより、浮遊物質の濃縮および回収をより効率化して、より安定した固液分離が可能になる。
【0039】
固液分離膜の形状は、特に限定されず、糸状の中空糸膜、平面状の平膜、チューブ状の管状膜等が挙げられる。中空糸膜は、多数の中空糸をシート等の形態で束ねて使用してもよい。固液分離膜の分離方式としては、逆浸透(RO)、限外濾過(UF)、精密濾過(MF)等が挙げられる。固液分離装置21内の固液分離膜は、固定された状態でもよく、回転等の運動が可能な状態でもよい。また、固定膜に対し回転翼を有し、膜表面の固形物層を流動させる機能を有していてもよい。
【0040】
固液分離膜が中空糸膜からなる場合は、面積の大きな固液分離膜をコンパクトに収容することが可能であり、設置面積を低減することが容易であるため、好ましい。また、反応液14に含まれる浮遊物質の濃度が低い場合、例えば、0.1~50重量%程度の濃度であるときには、固液分離膜、特に、中空糸膜を有する固液分離膜を用いることが好ましい。
【0041】
固液分離装置21から分離された分離液31は、分離液容器32に貯留することができる。固液分離装置21と分離液容器32との間は、分離液経路33により接続されている。分離液経路33は、バルブ34により開閉が可能である。分離液容器32において不要となった分離液31は、分離液排出路35から排出することが可能である。
【0042】
固液分離装置21の内部に浮遊物質の付着量が増加すると、固液分離の性能が低下する場合がある。特に、固液分離装置21が濾材、固液分離膜等を有する場合、濾材、固液分離膜等に浮遊物質が付着する場合がある。固液分離の性能を維持または回復するため、固液分離装置21を洗浄することが好ましい。
【0043】
固液分離装置21の洗浄操作が、逆洗操作であってもよい。逆洗操作では、固液分離操作とは逆方向に液体が供給される。濾材、固液分離膜等に対し、出口側の面から液体を供給して逆洗操作を行うことが好ましい。洗浄操作において、入口側の面に液体を供給する場合も、濾材等に付着した浮遊物質を分離して流動性のあるスラリー状に戻すことで、濾材等の洗浄操作が可能である。
【0044】
洗浄操作に用いる洗浄用の液体は、浮遊物質が反応液14より低濃度の液であればよく、浮遊物質を含まない液であってもよい。洗浄用の液体として、分離液31を用いることも可能である。この場合、分離液31が反応液14に混入しても、操作への影響を抑制することができる。分離液容器32中の分離液31は、返送ポンプ36の動力により、分離液返送路37を経由して固液分離装置21に供給することができる。分離液31を用いた洗浄操作中は、分離液経路33のバルブ34が閉鎖される。
【0045】
分離液容器32中に分離液31を貯留する間、分離液31中の浮遊物質を沈降させてもよい。浮遊物質の濃度が低下した上澄み液を分離液排出路35から排出し、沈降により浮遊物質の濃度が上昇した液を洗浄用に用いてもよい。これとは逆に、沈降により浮遊物質の濃度が上昇した液を分離液排出路35から排出し、浮遊物質の濃度が低下した上澄み液を洗浄用に用いてもよい。
【0046】
実施形態の晶析装置30及びこれを用いた晶析方法によれば、滞留槽13の内部状態が第2循環経路22における濃縮循環流量に影響を受けるものの、反応処理器11の内部状態は、主に第1循環経路12の流量で決定される。このため、濃縮循環流量が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。このため、濃縮循環流量の変更等の操作が容易になる。
【0047】
第1循環経路12に設けられる第1循環ポンプ15と、第2循環経路22に設けられる第2循環ポンプ23とが独立して動作可能である。このため、第1循環経路12の流量と、第2循環経路22の流量とを、独立して調整することができる。図示例の場合、反応液14が滞留槽13から第1経路12bへと送出される方向と、反応液14が滞留槽13から第2経路22aへと送出される方向とが同一であるため、滞留槽13内部における反応液14の流れが安定する。
【0048】
さらに、図示例では、原料液10a,10bから反応液14が生成される操作が、反応処理器11または滞留槽13の少なくとも一方において行われる。このため、原料液10a,10b,10cの混合等の操作に対して、濃縮循環流量の影響を抑制することができる。このため、原料液10a,10bの混合等の操作が容易になる。
【0049】
実施形態の晶析方法において、原料液10a,10b,10cの供給量と、濃縮操作部20において分離液31として反応液14から分離される排出量とが略同等であることが好ましい。反応操作部10において循環する反応液14の量を略一定とすることにより、反応液14を連続的に循環させる際に、内部状態の変化を抑制することができる。また、原料液10a,10b,10cの供給量に対して、スラリー排出路16を通じたスラリーの排出量と固液分離装置21により分離された分離液31の排出量との合計が、略同等となるように制御してもよい。
【0050】
反応液14に含まれる浮遊物質の濃度が設定より低い場合、反応操作部10から反応液14に含まれるスラリーを排出することなく、固液分離装置21により濃縮操作を進めることにより、効率的な濃縮が可能になる。浮遊物質の濃度が設定に達した場合、スラリー排出路16からのスラリー排出を制御された条件で実施することにより、反応操作における濃縮スラリーの濃度を一定に保つことができる。
【0051】
固液分離装置21の洗浄操作は、分離液31が減少したり、固液分離装置21における入口側と出口側との差圧が増加したりしたときに、適宜実施することが好ましい。これにより、固液分離装置21の機能を回復し、効果的に濃縮操作を継続することができる。連続的に実施される濃縮操作に対して、洗浄操作が一時的に実施されることにより、洗浄操作によるスラリー濃度の変動を抑制することができる。
【0052】
濃縮操作部20において、滞留槽13から反応液14の一部を固液分離装置21に送出し、固液分離装置21により濃縮させた反応液14を滞留槽13に返送する際、第2循環経路22に循環させる反応液の量は、適宜設定することができる。特に限定されないが、反応液14の総量に対して、固液分離装置21に送出される反応液14の量の割合が、例えば、10~90%程度の範囲内から選択してもよく、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%等であってもよい。
【0053】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
反応晶析により生産される粒子は特に限定されず、無機物質でも、有機物質でもよい。例えば、リチウムイオン電池用正極活物質のほか各種の用途の生産に適用することができる。スラリーの分散媒は水でもよく、有機溶媒でもよい。
【実施例0054】
次に、本発明の効果を明らかにするため、実施例および比較例を示す。なお、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
概略として図1に示す構成の晶析装置30を作製した。装置容量5L、滞留時間30minとなるように、全ての原料を合計した供給量は167mL/minとなるように調整した。原料液は以下のとおりである。
【0056】
メタル供給源としてはニッケル硫酸塩、コバルト硫酸塩、マンガン硫酸塩を用い、それぞれの濃度が1.5mol/Lとなるようにイオン交換液(純水)を用いて調整した。装置に供給されるメタルのモル比として、ニッケル、コバルト、マンガンがそれぞれ90mol%、5mol%、5mol%となるように、原料の供給量を配分した。メタル供給源に対して、濃度20wt%の苛性ソーダ、濃度10wt%程度のアンモニア源を供給することで所定のpH、温度となるように操作した。操作pHは11.0、操作温度は50℃に設定した。
【0057】
原料液の混合により得られる反応液(スラリー)は、反応操作部10の第1循環経路12において、13L/minで循環させ、反応処理器11および滞留槽13で反応液14を原料液10a,10b,10cと混合し、反応させた上、システム内を循環させた。この循環流により槽内は攪拌される。ここでは、メタル供給源とアルカリとから二価の金属水酸化物を生成させるため、窒素ガスを滞留槽13の下部に40mL/minで供給している。
【0058】
固液分離装置21には、固液分離膜として、膜面積0.1mの中空糸を有する膜濃縮装置を用いた。濃縮操作部20の第2循環経路22には、スラリーを20L/minで循環させた。このとき膜の入口圧力は180kPa、出口圧力は100kPa前後となった。膜ろ過液は滞留槽13の液位が一定となるように、すなわち装置容量5Lとなるように原料供給量と同程度の160~170mL/minが排出されるようにした。運転中、濃縮スラリーは、サンプリング時以外は排出しないこととした。
【0059】
固液分離膜の逆洗操作は5分経過ごとに繰り返す方式を選択した。膜ろ過液を用いて逆洗圧力195kPaにて10秒程度の逆洗を実施した。これらの運転による滞留槽13内のpHの推移を図2に示す。膜濃縮装置の運転時における入口圧力、出口圧力、差圧力、逆洗圧力、濾過流量の測定例をそれぞれ図3図7に示す。図3図7の横軸は、経過時間(時:分)を表す。経過時間係数に対する浮遊物質(SS)濃度の推移を図8に示す。経過時間係数として8θ経過時に得られた生産物の粒度分布を図9に示し、8θ経過時に得られた生産物のSEMデータを図10に示す。経過時間係数θは、実際の経過時間を平均の滞留時間30minで除算して得られる数値である。
【0060】
図2に示すように、pHは11前後で推移している。図3図5に示すように入口圧力は180~200kPa程度、出口圧力および差圧力は80~100kPa程度で推移している。図6図7に示すように、逆洗圧力および濾過流量は、逆洗時のみ上昇している。図8に示すように、濃縮操作を実施することで、SS濃度が時間の経過とともに上昇している。図9に示すように、実施例1によれば、粒径の肥大化、粒度分布の広がりが抑制されている。図10に示すように、粒子の外観も均一である。このように、実施例1によれば、粒径の肥大化、得られる粒子の粒度分布を損なうことなく連続生産が可能となる。
【0061】
実施例1においては、図9の粒度分布から、メディアン径3.393μm、平均径3.368μm、モード径3.596μm、標準偏差0.096μm、10%径2.524μm、20%径2.728μm、30%径2.948μm、40%径3.186μm、50%径3.393μm、60%径3.612μm、70%径3.846μm、80%径4.128μm、90%径4.614μmであることが分かる。
【0062】
(比較例1)
概略として図1に示す構成の晶析装置30のうち、反応操作部10のみを有し、濃縮操作部20を有しない装置を作製した。図11に示す比較例1の装置では、固液分離装置21、第2循環経路22、第2循環ポンプ23、分離液容器32、分離液経路33、バルブ34、分離液排出路35、返送ポンプ36、分離液返送路37が省略されている。装置容量5L、滞留時間30minとなるように、全ての原料を合計した供給量は167mL/minとなるように調整した。原料液は、実施例1と同様である。
【0063】
原料液の混合により得られる反応液(スラリー)は、反応操作部10の第1循環経路12において、13L/minで循環させ、反応処理器11および滞留槽13で反応液14を原料液10a,10b,10cと混合し、反応させた上、システム内を循環させた。この循環流により槽内は攪拌される。ここでは、メタル供給源とアルカリとから二価の金属水酸化物を生成させるため、窒素ガスを滞留槽13の下部に40mL/minで供給している。
【0064】
比較例1の晶析装置を用いた運転により、経過時間係数として8θ経過時に得られた生産物の粒度分布を図12に示し、8θ経過時に得られた生産物のSEMデータを図13に示す。比較例1では、図12に示すように、粒度分布の広がりが大きく、粒子が肥大化している。図13に示すように、粒子の外観においても、粒径の不均一さが分かる。
【0065】
比較例1においては、図12の粒度分布から、メディアン径3.226μm、平均径2.889μm、モード径3.596μm、標準偏差0.261μm、10%径1.107μm、20%径1.867μm、30%径2.390μm、40%径2.804μm、50%径3.226μm、60%径3.648μm、70%径4.138μm、80%径4.772μm、90%径5.731μmであることが分かる。
【0066】
(実施例1と比較例1との比較)
粒度分布の指標として、(D90-D10)/D50の値を用いると、実施例1では、8θ経過時における(D90-D10)/D50の値が約0.616である。比較例1では、8θ経過時における(D90-D10)/D50の値が約1.433である。このことからも、実施例1のほうが、粒度分布の広がりが抑制されていることが分かる。なお、D90は90%径であり、D10は10%径であり、D50は50%径すなわちメディアン径である。これらの粒度分布は、レーザ光回折散乱法により測定した。
【0067】
図14図16に、実施例1および比較例1におけるメディアン径、(D90-D10)/D50値およびSS濃度の推移を示す。図14に示すように、メディアン径(D50)は、実施例1で膜濃縮操作を追加しても、比較例1と同等であり、肥大化はみられない。経過時間係数θが6以降では平衡状態となりほぼ一定の粒子径となっている。図15に示すように、粒度分布の指標とした(D90-D10)/D50値についても経過時間係数θが6以降では、ほぼ一定となっている。図16に示すように、実施例1におけるSS濃度の推移は、図8に示すものと同一であるが、経過時間係数θが6以降では、5~6倍に濃縮されている。
【0068】
(参考例1)
図17に示すように、濃縮操作部20が滞留槽13とは別の濃縮槽24を有し、濃縮槽24と固液分離装置21との間で第2循環経路22を形成することも考えられる。この場合、滞留槽13から反応液14の一部を、移送ポンプ25を用いて送出経路26を通じて濃縮槽24に送出することができる。また、固液分離装置21を通して濃縮されたスラリーの一部は、濃縮槽24から返送経路27を通じて滞留槽13に返送することができる。しかし、滞留槽13とは別の濃縮槽24を用いると、送出経路26を通じたスラリーの移送量が少ない場合は、滞留槽13の反応液14の濃縮が進まず、濃縮晶析効果を得られない。滞留槽13と濃縮槽24との間で移送量を多くするには、実施例1のように、滞留槽13が濃縮槽24を兼ねるシステムが、設備を簡略化する観点からも好ましい。
【0069】
(参考例2)
概略として図1に示す構成の晶析装置30において、濃縮操作部20のうち、滞留槽13から固液分離装置21へと反応液14のスラリーに送出する第2経路22aを残し、固液分離装置21により濃縮させた反応液14を滞留槽13に返送する第2経路22bを省略することが考えられる。図18に示す参考例2の装置では、第2循環経路22が送出側の第2経路22aのみを備え、返送側の第2経路22bを有しないため、固液分離装置21を通して濃縮されたスラリーが循環しない。濃縮されたスラリーは、固液分離装置21に接続されたスラリー排出路16を通じて排出され、後段の工程に供給される。この場合、反応液14の一部を滞留槽13から送出して濃縮するだけで、濃縮させた反応液14を滞留槽13に返送しないため、滞留槽13の反応液14の濃縮が進まず、濃縮晶析効果を得られない。
【0070】
参考例2においても、実施例1と同様に、原料液10a,10b,10cの供給量に対して、スラリー排出路16を通じたスラリーの排出量と固液分離装置21により分離された分離液31の排出量との合計が、略同等となるように制御することができる。参考例2の場合、前段の反応操作部10で一次粒子を生産し、濃縮操作部20で濃縮操作を実施した後、後段に二次反応槽(図示せず)を設けて凝集粒子を製造することも可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 反応操作部
11 反応処理器
12 第1循環経路
13 滞留槽
14 反応液
15 第1循環ポンプ
16 スラリー排出路
20 濃縮操作部
21 固液分離装置
22 第2循環経路
23 第2循環ポンプ
30 晶析装置
31 分離液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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