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特開2023-41087クレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041087
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】クレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/12 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
B66C13/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148236
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
(72)【発明者】
【氏名】本間 清忠
(57)【要約】
【課題】クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールにおいて、ケーブル内部の素線屈曲によるケーブル断線短絡や、ケーブルの乱巻のリスクを軽減するケーブルリールを提供すること。
【解決手段】垂直巻き取り式のケーブルリールREのケーブルドラムCDにスパイラル状に既に巻き付けられたケーブルCAの上に鉛直方向に垂れ下がったケーブルCAが巻き付けられることにより、既に巻き付けられたケーブルCAの上に巻き付けられようとするケーブルCAが一旦乗り上げてから巻き付けられる際にケーブルCAが捻じりが生じながら巻き付けられる現象を防止するため、ケーブルCAに潤滑剤GRを塗布する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法であって、前記ケーブルリールのケーブルドラムにケーブルを巻き付けるドラムの方式が多列巻のドラムの方式であって、該ケーブルリールに巻き付けるケーブルの表面に潤滑剤を塗布することにより、スパイラル状に既に巻き付けられたケーブルの上に鉛直方向に垂れ下がったケーブルが巻き付けられることにより、既に巻き付けられたケーブルの上に巻き付けられようとするケーブルが一旦乗り上げてから巻き付けられる際にケーブルが捻じられることを防止することを特徴とするクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法。
【請求項2】
前記潤滑剤が、鉱油系油脂からなることを特徴とする請求項1に記載のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法。
【請求項3】
ケーブルドラムにスパイラル状に既に巻き付けられたケーブルの上に鉛直方向に垂れ下がったケーブルが巻き付けられることにより、既に巻き付けられたケーブルの上に巻き付けられようとするケーブルが一旦乗り上げてから巻き付けられるケーブルを巻き取るトルクの算出に当たって、ケーブルドラムの中心から巻き付けようとしているケーブルの層の既に巻き付けられたケーブルの中心位置までの寸法に加え、既に巻き付けられたケーブルに巻き付けられようとするケーブルが乗り上げられた乗り上げ寸法を加算した寸法を支点半径としてケーブルドラムに垂れ下がりケーブルの重量が作用する負荷トルクとして算出し、巻き取りトルクの値に反映させることを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法。
【請求項4】
乗り上げたケーブルをケーブルドラムに巻き取る際に発生するケーブル同士の摩擦抵抗分と、リール駆動電動機からケーブルドラムの間に生じる伝達ロスと、ケーブルドラムの回転部分やケーブルの移動体が持つ慣性力を加速させるための加速トルクとを算出し、巻き取りトルクの値に反映させることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのクラブトロリに設置した巻き上げ装置により吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り用のケーブルリールのケーブル巻付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り用のケーブルリールは、そのケーブルリールに巻き取られるケーブルが、ケーブルの自重によりケーブル自体に張力が掛かり、ケーブルリールはその張力に勝ってケーブルを巻き取るだけの強いトルクでケーブルリールのケーブルドラムを回転させ、ケーブルを巻き付けていく。その過程で、ケーブルには大きな引っ張り力と曲げ力と捻じりが掛かり、ケーブルにとって過酷な使われ方が行われていることから、ケーブルの損傷が激しく、それを緩和するための技術が求められ、例えば、特許文献1~3の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010―260684号公報
【特許文献2】特開2018―162147号公報
【特許文献3】特開2021―66553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレーンのクラブトロリに設置される垂直巻き取り用のケーブルリールは、設置スペースの関係上、多列多層巻ドラムか、多列一層巻ドラムが採用される。
この方式のドラムは、ケーブルがスパイラル状にケーブルドラムに巻き付けられるが、巻き取られようとする部分のケーブルは鉛直方向に真っ直ぐ下に引っ張られているため、既に巻き取られている隣のケーブルに常に乗り上げながら巻き取られている。
この時、既に巻き取られている隣のケーブルの表面のゴム被覆(シース材)を巻き取られようとするケーブルの表面のゴム被覆がグリップし、巻き取られようとするケーブルが捻じられながら巻き取られる。
この時生じる捻じりによりケーブルの損傷が生じていた。
【0005】
ところで、特許文献3には、ケーブルリールに巻き取られたケーブルの各段の層のケーブルドラム中心からの半径の算出と、その位置からケーブルの引き出し量からケーブルの垂れ下がり長さ及びそれに該当するケーブルの垂れ下がり重量を算出する方法が記載され、上記半径と重量を乗算することにより、垂れ下がりケーブルがケーブルドラムに加えるトルクの算出方法が記載されている。
しかしながら、ケーブルを巻き取る時の半径は、ケーブルを巻き取り終わった位置の半径ではなく、ケーブルを巻き取ろうとする時に隣のケーブルに乗り上げている所の位置であるため、ケーブルを巻き取る時の半径は、特許文献3に記載の半径より大きくなり、特許文献3の計算に基づきケーブルの巻き取りトルクを算出すると巻き取りトルクが必要トルクより小さくなってしまい、巻き取りトルクの不足が原因とするケーブルの乱巻現象が発生していた。
【0006】
本発明は、この問題点に鑑み、クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールにおいて、ケーブル内部の素線屈曲によるケーブル断線短絡や、ケーブルの乱巻のリスクを軽減するケーブルリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法は、クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法であって、前記ケーブルリールのケーブルドラムにケーブルを巻き付けるドラムの方式が多列巻(多列多層巻や多列1層巻)のドラムの方式であって、該ケーブルリールに巻き付けるケーブルの表面に潤滑剤を塗布することにより、スパイラル状に既に巻き付けられたケーブルの上に鉛直方向に垂れ下がったケーブルが巻き付けられることにより、既に巻き付けられたケーブルの上に巻き付けられようとするケーブルが一旦乗り上げてから巻き付けられる際にケーブルが捻じられることを防止することを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記潤滑剤に、鉱油系油脂を用いることができる。
【0009】
また、ケーブルドラムにスパイラル状に既に巻き付けられたケーブルの上に鉛直方向に垂れ下がったケーブルが巻き付けられることにより、既に巻き付けられたケーブルの上に巻き付けられようとするケーブルが一旦乗り上げてから巻き付けられるケーブルを巻き取るトルクの算出に当たって、ケーブルドラムの中心から巻き付けようとしているケーブルの層の既に巻き付けられたケーブルの中心位置までの寸法に加え、既に巻き付けられたケーブルに巻き付けられようとするケーブルが乗り上げられた乗り上げ寸法を加算した寸法を支点半径としてケーブルドラムに垂れ下がりケーブルの重量が作用する負荷トルクとして算出し、巻き取りトルクの値に反映させることができる。
【0010】
さらに、乗り上げたケーブルをケーブルドラムに巻き取る際に発生するケーブル同士の摩擦抵抗分と、リール駆動電動機からケーブルドラムの間に生じる伝達ロスと、ケーブルドラムの回転部分やケーブルの移動体が持つ慣性力を加速させるための加速トルクとを算出し、巻き取りトルクの値に反映させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法によれば、垂直巻き取りケーブルの巻き取り時に生じるケーブルの捻じりを解消し、ケーブルの損傷を防止するとともに、ケーブル巻き取りトルクの不足に伴う乱巻を防止することが可能になり、ケーブルの乱巻によるケーブルの損傷やケーブルドラムの鍔を乗り越えてケーブルが脱落する不具合への対策をすることが可能となり、ケーブルリールの信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法を実施するクレーンの概略説明図である。
図2】電動式ケーブルリールの構造の説明図である。
図3】ケーブルリールのドラムの種類の説明図である。
図4】ケーブルリールの巻き取り時のケーブルの動きの説明図である。
図5】垂れ下がりケーブルの隣接するケーブルへの乗り上げ寸法の説明図である。
図6】ケーブルの巻き取り状態の説明図である。
図7】ケーブルに捻じりが加わった時の説明図である。
図8】ケーブルの不具合事例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法を実施するクレーンの一例を示す。
クレーンCRのクラブトロリTR上のワイヤードラムWDからワイヤーロープWRで完全に支持された吊具GBが吊り下げられており、ワイヤードラムWDの回転力のみにより吊具GBが上下される。
ワイヤードラムWDの横に配置されたケーブルリールREからはケーブルCAが常に緊張された状態で垂れ下げられ固定金具FSで固定され吊具GBに給電されている。
ケーブルリールREは、常に巻き上げ方向に巻き取りトルクが発生しておりケーブルCAを常に緊張した状態にあり、吊具GBが巻き下げられるとケーブルリールREに巻き付けられたケーブルCAがケーブルリールREの巻き取りトルクで緊張状態を保ったまま引き出され、吊具GBが巻き上げられるとケーブルリールREの巻き取りトルクでケーブルCAが緊張を保ったままケーブルリールREに巻き付けられる。
この時、ケーブルリールREの巻き取りトルクはケーブルCAと固定金具FSを支持するだけの弱いトルクで、吊具の荷重は支持せず、吊具GBの上下に追従するだけの弱いトルクに設定されている。
【0015】
図2は電動式ケーブルリールの構造の一例を示す。
ケーブルドラムCDに巻き付けられたケーブルCAは、ケーブルドラムから中空軸SH内を通ってスリップリングSRに接続され、固定配線から回転するケーブルCAに電気的に接続されている。そして、中空軸SHに接続されたリール駆動電動機DMが回転位置検出器PGの検出により制御された所定の回転トルクを発生し、中空軸SHを介してケーブルドラムCDに伝達し、ケーブルCAを巻き取るトルクを発生させている。
【0016】
図3にケーブルドラムCDの種類について説明する。
図3(1)は、一列多層巻ドラムで、ケーブルドラム幅が狭く外径が大きくなる形状の特長から、ガントリークレーンの走行給電に多用されている。
図3(2)は、多列多層巻ドラムで、図3(3)は多列一層巻ドラムである。
本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法は、図3(2)の多列多層巻ドラムと図3(3)の多列一層巻ドラムを対象としており、これらはクラブトロリTRの上の狭小なスパースでも配置できる形状をしている。
【0017】
図4に多列多層巻ドラムへのケーブルの巻き付けについて説明する。
ケーブル引き出し位置COからケーブルドラムCD内から表に引き出されたケーブルCAは、一巻き360°でケーブルCAが1つ分だけ横にずれながらスパイラル状に巻き付けられている。
一方、巻き付けられようとする垂れ下がりケーブルCAは、鉛直方向に引っ張られることで、ドラム頂点Aを起点とし、既にスパイラル状に巻き付けられた隣接するケーブルCAの上に乗り上げながら真っ直ぐにドラム水平点Bに向かい、この点がドラム垂れ下がり点CALとなり、この点での隣接するケーブルCAとの重なりは、360°で2rずれて巻かれるのに対し90°分の0.5rの重なりとなる。ここで、rはケーブルの半径を示す。
この時のケーブルの乗り上げ寸法Xは、図5に示すとおりで、式(1)より、1.32rとなる。
=(2r)-(1.5r) ・・・ 式(1)
X=1.32r
【0018】
この時のケーブル垂れ下がり点CALから垂れ下がる重量は、ケーブルの単位長さ当たりの重量に垂れ下がり長さLを乗算した値に固定金具の重量を加算した重量が掛かり、ケーブルドラムに掛かるケーブル側からのトルクは、この合算重量に巻き取り半径Rを乗算
した値であるが、この巻き取り半径Rは、特許文献3に記載されている1層目半径R1ではなく、1層目半径R1に乗り上げ寸法Xを加算した値になるので、巻き取り時には特許文献3に記載されたトルクより大きなトルクがケーブル側から掛かるので、特許文献3に記載の計算方法で巻き取りトルクを設定するとトルク不足が発生し、実際には乗り上げ寸法Xだけ各層の支点半径に加算しないといけない。
なお、ドラムに巻き付けられたケーブルのスパイラルは、綺麗なスパイラルではなく、多少の蛇行をしているので、ケーブル乗り上げ寸法Xは、1.32rより余分にみて、ケーブル1個分(2r)としておくのが無難である。
【0019】
ドラム水平点Bで、乗り上げた位置にケーブル垂れ下がり点CALが位置し、ケーブルドラムの巻き取りRUが行われると、乗り上げたケーブルCAがドラム水平点Bからドラム頂点Aに向かう過程でケーブルCAに捻じりROが発生しながらケーブルドラムCDに嵌まり込んでいく。
そして、1層目を巻き終わりケーブル巻き取り順CTに沿って2層目になると、ケーブルCAのスパイラルの方向が逆になるので、捻じりROの方向も逆になり捻じりが加わりながらスパイラル状に巻き取られていく。
ケーブルCAがドラム水平点Bからドラム頂点に向かう状態を表したのが図6(1)になり、ケーブル垂れ下がり点CALで隣接するケーブルCAに乗り上げた状態から、既にスパイラル状に巻き取られているケーブルCAの表面のゴム被覆(シース材)の円周上をケーブル垂れ下がり点CALから巻き取られていくケーブルの表面のゴム被覆がグリップし、捻じりROが生じながらケーブルドラムCDに巻き取られていく。
【0020】
この時、ケーブルの芯線は、図7に示すように、ある一定方向に撚り込まれている。この芯線の撚り方向TWに対し同じ方向に捻じりが掛かる場合は、芯線が引っ張られ締められる方向になり強い抗力を発揮するが、図7に示すように、芯線の撚り方向TWと逆に捻じりROが加わると、芯線の撚りが解かれる方向になり、図8に示すように、芯線屈曲BDが発生し、素線が折れて絶縁体を破って隣の芯線と短絡したり、芯線が断線するなどの不具合が生じる。
芯線の撚り方向TWと捻じりが同方向になるか逆方向になるかは、ケーブル引き出し位置COの位置や巻き取り方向により異なるが、多列多層型の場合1層目と2層目とで逆方向に捻じられるので、捻じりROによるケーブルの不具合は1層目(奇数層)か2層目(偶数層)の何れかで発生する。
【0021】
図3(3)に示す多列1層型のケーブルドラムでは、多列で巻き取られる間で同じ方向に捻じりROが加わり続け、ケーブルCAを巻ききった部分では捻じりROの蓄積が膨大になる。もしケーブルドラムCDに巻き取られる部分で芯線の撚り方向TWと捻じりROの方向が同じで芯線が引き締められる方向であったとしても、ケーブルドラムCDに巻き取られる間に捻じられた分と逆の捻じりが垂れ下がり部分で生じているので、この場合固定金具近辺の垂れ下がり部分で芯線の撚り戻りにより図8の芯線屈曲BDが生じる。
このように、多列1層型のケーブルドラムで巻き取り方向を工夫しても、垂れ下がり部分で不具合が出るか、巻き取っている部分で出るかの何れかになり、ケーブルCAに捻じりROが生じている場合には、図8に示す芯線屈曲BDは避けられない。
【0022】
ケーブルCAの巻き取り時の捻じりROが生じている状態で、巻き取り時のトルクが必要トルクより小さく設定された場合に生じる乱巻のメカニズムについて、図6(1)及び(2)を用いて説明する。
ケーブルの捻じりROが生じた状態でその層の終わりに近づくと捻じりROの量が蓄積されてくる。この時、巻き取りトルクが不足しているとケーブルドラムCDに向かってケーブルを引き込み巻き付けようとする力より、ケーブルの捻じりROの蓄積の反発力で捻じりROを戻そうとして隣接するケーブルCAの上に乗り上ようとする力が勝ってしまい
、隣接するケーブルCAの上に完全に乗り上げてしまい乱巻状態が発生してしまう。
一度乱巻が生じると整然と整列して巻き重ねていくことが不可能になり、さらにケーブルCAの上に乗り上げていき、最悪の場合にはドラム鍔DTを乗り越えてケーブル脱落DPする現象が発生し、この場合クレーンの運転継続が不可能になる。
この現象は、多列多層巻でも多列一層巻でも同様に生じる。
この乱巻の現象は脱落DP現象に至らなかったとしても、芯線CCの撚りを乱し、ケーブルCA内の芯線間短絡や断線の不具合の原因になる。
【0023】
巻き取り時に乱巻をさせないための必要トルクとは、特許文献3に記載の静的な状態でトルクを計算するのではなく、ケーブルを巻き取る時のケーブルの動的な状態である乗り上げ寸法Xを各層の静的なケーブル位置に加算した値を支点半径とし、この支点半径にケーブルCAの垂れ下がり部分に掛かる荷重を乗算し負荷トルクを算出する。
さらに、必要に応じて、乗り上げたケーブルCAをケーブルドラムCDの方向に引き込むためのケーブル同士の摩擦抵抗分と、リール駆動電動機DMからケーブルドラムCDの間に生じる伝達ロスと、ケーブルドラムCDなどの回転部分やケーブルCAなどの移動体が持つ慣性力を加速させるための加速トルクとを算出し、巻き取りトルクの値に反映させることができる。
以上の必要トルクを発生することにより、乱巻現象を防止させることができる。
【0024】
さらに、本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法においては、ケーブル不具合の原因となる捻じりROを解消するために、ケーブルCAの表面に潤滑剤GRを潤沢に塗布することとしている。
ここで、「潤沢に塗布する」とは、クレーンCRの設置時にケーブルCAの隙間を埋めるように手でたっぷりと塗ることを意味し、これにより、数年~10年程度は、塗布状態を維持することができる。
ケーブルCAの表面に潤滑剤GRを潤沢に塗布すると、図6(3)に示すように、巻かれようとするケーブルCAが隣接する既にスパイラル状に巻かれたケーブルCAの上に乗り上げた後、隣接するケーブルCAの表面と巻かれようとするケーブルの表面がグリップすることなく捻じりROの発生なくケーブルドラムCDに滑り落ちるようになる。
【0025】
潤滑剤GRは、ケーブルCAの表面のゴム被覆(シース材)であるクロロプレンゴムとの関係のみから考えると長期的安定性のあるシリコン油脂が望ましいが、シリコン油脂は短期間で乾燥してしまうため、メンテナンスの頻度が高まる欠点がある。
このため、本実施例においては、長期に亘って潤滑性を確保できる、鉱油系油脂を用いるようにしている。ここで、鉱油系油脂は、長期的にはクロロプレンゴムを劣化させるが、この化学的な劣化よりも、捻じりROによるケーブルCAの機械的損傷を防ぐことによるケーブルCAの長寿命化の方が勝っている。
【0026】
ケーブルCAへの潤滑剤GRの塗布による効果は、捻じりROが解消することによりケーブル内部の芯線屈曲BDの発生を防止するほかに、ケーブルCAの垂れ下がり部分においても捻じれROを原因とするケーブルCAの捩れが解消され、捩れによる垂れ下がりケーブルCAの拘束が解消され垂れ下がりケーブルCAが柔軟に動けるようになる。また、捻じりROによる隣接ケーブルにせり上がりが解消するので乱巻のリスクも低減できる。
【0027】
以上、本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールのケーブル巻付方法によれば、多列多層ドラムや多列1層ドラムのケーブルリールにおいてケーブル巻き取り時に生じるケーブルの捻じりを解消し、これに伴うケーブルの不具合を解消でき、また、ケーブルを巻き取る時のケーブル垂れ下がり部分の荷重がケーブルドラムに作用する支点半径を明確化したことにより正確な負荷トルクを算出できるようにしたことから、ケーブルリールを運用する上で産業上有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0029】
CR クレーン
TR クラブトロリ
WD ワイヤードラム
WR ワイヤーロープ
GB 吊具
RE ケーブルリール
CA ケーブル
FS 固定金具
L 垂れ下がり長さ
CD ケーブルドラム
SH 中空軸
DM リール駆動電動機
PG 回転位置検出器
BR ブレーキ
BB 軸受け
TB 端子台
SR スリップリング
CB カーボンブラシ
CT ケーブル巻き取り順
CAL ケーブル垂れ下がり点
R1 1層目半径
R2 2層目半径
R3 3層目半径
R 巻き取り半径
CO ケーブル引き出し位置
A ドラム頂点
B ドラム水平点
C ドラム底点
RU 巻き取り
RO 捻じり
r ケーブル半径
X 乗り上げ寸法
GR 潤滑剤
DT ドラム鍔
DP 脱落
CC 芯線
TW 芯線の撚り方向
BD 芯線屈曲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8