(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041152
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】ダイズ土壌伝染性病害軽減材
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230316BHJP
A01N 63/30 20200101ALI20230316BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A01N63/30
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148341
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】520152467
【氏名又は名称】朝日アグリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】高階 史章
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】見城 貴志
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 伸二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 英紀
(72)【発明者】
【氏名】堀口 享平
(72)【発明者】
【氏名】中村 春香
(72)【発明者】
【氏名】小島 克洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃大
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA15X
4B065AC20
4B065CA53
4B065CA60
4H011AA01
4H011BB21
4H011DA12
4H011DC11
4H011DD04
(57)【要約】
【課題】ダイズ土壌伝染性病害菌に対して拮抗作用を有する新規な微生物およびその利用。
【解決手段】ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び、ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌。前記糸状菌(受託番号NITE P-03445)及び/又は前記糸状菌(受託番号NITE P-03488)を有効成分として含む、あるいは、前記糸状菌(受託番号NITE P-03445)及び/又は前記糸状菌(受託番号NITE P-03488)から由来した物質を有効成分として含むダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及びダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌。
【請求項2】
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌を有効成分として含む及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌を有効成分として含む、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した物質を有効成分として含む及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した物質を有効成分として含む
ダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項3】
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した物質及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した物質
を担体に添加、混合してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項4】
液体培養したダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び/又は液体培養したダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した液状物質及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した液状物質
を担体に質量比で1%~50%添加し、水分が5~10%になるまで乾燥してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項5】
前記担体が粘土鉱物である請求項4記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項6】
前記担体が有機質原料である請求項4記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項7】
前記担体が灰原料である請求項4記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材
【請求項8】
担体資材に特性の異なる3種類のBacillus属細菌である、Bacillus amyloliquefaciens(受託番号:NITE P‐02337)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02338)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02354)を含ませてなるBacillus属細菌入資材に
請求項2~請求項7のいずれか一項に記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材を添加、混合してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項9】
前記Bacillus属細菌入資材に対して、請求項2~請求項7のいずれか一項に記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材を質量比で0.5~1.0%添加、混合してなる請求項8記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項10】
担体資材に特性の異なる3種類のBacillus属細菌である、Bacillus amyloliquefaciens(受託番号:NITE P‐02337)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02338)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02354)を含ませてなる粒状あるいは顆粒状のBacillus属細菌入資材に
請求項2~請求項7のいずれか一項に記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材を被覆してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【請求項11】
粒状あるいは顆粒状の前記Bacillus属細菌入資材に
請求項2~請求項5のいずれか一項に記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材を質量比で0.5~1.0%被覆してなる請求項10記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な微生物およびその利用方法に関する。特に、ダイズ土壌伝染性病害菌に対して拮抗作用を有する新規な微生物およびその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイズは世界的にも重要な農産物である。2018年の世界のダイズの単収は285kg/10aである(USDA,2019)。これに対して国内の単収は167kg/10aと主要生産国と比較して低い状況にある(農林水産省、2019)。
【0003】
国内ダイズの低収要因としては、土壌の排水不良による湿害や水田転換畑による影響、作付け頻度の増加による連作障害、病害の多発生等が考えられている。
【0004】
特に、土壌病害としては黒根腐病やダイズ茎疫病等の土壌病害の発生の影響が大きいが、完全な防除方法が確立されておらず、大きな問題となっている状況にある。
【0005】
ダイズ黒根腐病は真菌類の一種であるダイズ黒根腐病菌(学名:Calonectria ilicicola)によって引き起こされる土壌病害で、開花期以降に葉に退緑えそ斑がみられ、地際部には赤色の子嚢殻が形成される(非特許文献1、非特許文献2)。
【0006】
非特許文献3は、ダイズ黒根腐病菌は宿主植物が植栽されていない環境でも、土壌中に微小菌核の状態で最低7年は生存・感染できることを示しており、ダイズ黒根腐病の発生を防ぐには、土壌中のダイズ黒根腐病菌の増殖を抑制する、もしくは菌密度を下げる必要があることを示唆している。
【0007】
ダイズ茎疫病は、ダイズ茎疫病菌(学名:Phytophthora sojae)という卵菌類の一種によって引き起こされる病害で、卵胞子あるいは罹病組織から遊走子のうを形成し、そこから多数の遊走子を放出し、感染、被害を拡大する。遊走子は土壌中に長期間存在し、水によって宿主に到達するため、土壌の排水の改善が重要な防除技術の一つとして考えられている。
【0008】
このような土壌伝染性病害の発生を防ぐためには、土壌排水性の改善や有機物供給等、多くの作業を必要とする。
【0009】
また、ダイズ栽培は中耕作業によって、根が切断されることから、病原菌の連続的な感染が起こるため、完全な防除を行うことは困難である。
【0010】
本願出願人は、バチルス属(Bacillus)細菌であるAPU-W01株(NITE P-02337)、APU-O02株(NITE P-02338)、APU-T03株(NITE P-02354)を利用したダイズ黒根腐病防除剤、ダイズ黒根腐病を抑制する微生物資材、ダイズ黒根腐病防除方法、ダイズ黒根腐病菌に対して増殖抑制効果を有する土壌伝染性病害軽減材を提案している(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6824519号公報
【特許文献2】特開2019-147757号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】西,日本作物学会講演会要旨集,225,346-347(2008)
【非特許文献2】越智,北海道大学 学位論文,乙第6913号(2014)
【非特許文献3】西、佐藤,関東東山病害虫研究会年報,41,45-46(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、2で提案している土壌伝染性病害軽減材は、含まれるBacillus属細菌が、根表面に存在し、それらが有するキチナーゼ等の酵素活性によって、黒根腐病菌に対して、拮抗作用を持つ。
【0014】
一方、本願発明者の検討によれば、ダイズ茎疫病菌は特許文献1、2で提案されているBacllus属細菌の作用だけでは、防除できない結果が示されている。
【0015】
本件特許出願では、ダイズ土壌伝染性病害菌に対して拮抗作用を有する新規な微生物およびその利用を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本願発明は以下のように例示できる。
[1]
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及びダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌。
【0017】
[2]
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌を有効成分として含む及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌を有効成分として含む、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した物質を有効成分として含む及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した物質を有効成分として含む
ダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0018】
[3]
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した物質及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した物質
を担体に添加、混合してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0019】
[4]
液体培養したダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び/又は液体培養したダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌、あるいは、
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌から由来した液状物質及び/又はダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌から由来した液状物質
を担体に質量比で1%~50%添加し、水分が5~10%になるまで乾燥してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0020】
[5]
前記担体が粘土鉱物である[4]のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0021】
[6]
前記担体が有機質原料である[4]のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0022】
[7]
前記担体が灰原料である[4]のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0023】
[8]
担体資材に特性の異なる3種類のBacillus属細菌である、Bacillus amyloliquefaciens(受託番号:NITE P‐02337)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02338)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02354)を含ませてなるBacillus属細菌入資材に
[2]~[7]のいずれかのダイズ土壌伝染性病害軽減材を添加、混合してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0024】
[9]
前記Bacillus属細菌入資材に対して、請求項2~請求項7のいずれか一項に記載のダイズ土壌伝染性病害軽減材を質量比で0.5~1.0%添加、混合してなる[8]のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0025】
[10]
担体資材に特性の異なる3種類のBacillus属細菌である、Bacillus amyloliquefaciens(受託番号:NITE P‐02337)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02338)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02354)を含ませてなる粒状あるいは顆粒状のBacillus属細菌入資材に
[2]~[7]のいずれかのダイズ土壌伝染性病害軽減材を被覆してなるダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0026】
[11]
粒状あるいは顆粒状の前記Bacillus属細菌入資材に
[2]~[5]のいずれかのダイズ土壌伝染性病害軽減材を質量比で0.5~1.0%被覆してなる[10]のダイズ土壌伝染性病害軽減材。
【0027】
上述の担体資材に特性の異なる3種類のBacillus属細菌である、Bacillus amyloliquefaciens(受託番号:NITE P‐02337)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02338)、Bacillus subtilis(受託番号:NITE P‐02354)を含ませてなるBacillus属細菌入資材や、粒状あるいは顆粒状のBacillus属細菌入資材としては、本願出願人が先の特許出願(特開2019-147757号公報 土壌伝染性病害軽減材)で提案しているものを採用することができる。
【0028】
ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03445で受託されている糸状菌及び、ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する受託番号NITE P-03488で受託されている糸状菌は、それぞれ単独で使用しても所望の効果を発揮することができるが、同時に使用することで、より安定した効果を発揮させることができる。
【0029】
すなわち、特性が異なる2種類の糸状菌を使用することでダイズ茎疫病に対して軽減効果が安定化する。
【0030】
上記では、担体に、特性が異なる2種類の糸状菌を封入することにより、ダイズ茎疫病に対して軽減効果が安定化する。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、ダイズ土壌伝染性病害菌に対して拮抗作用を有する新規な微生物およびその利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】単離株とダイズ黒根腐病菌の対峙培養の結果を表す参考写真。
【
図2】単離株とダイズ茎疫病の対峙培養の結果を表す参考写真。
【
図5】Bacillus属細菌入資材およびBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材施用による土壌微生物相の変化(電気詠動によるバンド数の確認結果を表す参考写真。
【
図6】ARISA法によるBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材の土壌中の茎疫病原菌に与える影響評価の結果を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<ダイズ土壌伝染性病原菌に対して拮抗作用を有する菌の単離>
新潟県新潟市の土壌から、2種類の糸状菌を単離した。
【0034】
単離した糸状菌はDNAを抽出し、PCR法によってITS遺伝子領域を増幅し、秋田県立大学生命科学研究支援センターのDNAシークエンス解析により塩基配列を決定し、単離した糸状菌を同定した。同定した結果、 Cunninghamella elagans(APU-YM-01株)とAspergillus aureoles(APU-YM-02株)の2種類の真菌であることが示された。
【0035】
Cunninghamella elagans(APU-YM-01株)とAspergillus aureoles(APU-YM-02株)については独立行政法人製品評価技術基盤機構への寄託を行った。Cunninghamella elagans(APU-YM-01株)は受託番号NITE P-03488で受託され、Aspergillus aureoles(APU-YM-02株)は受託番号NITE P-03445で受託されている。
【0036】
<ダイズ黒根腐病菌および茎疫病菌への拮抗作用の確認>
前記のように単離した菌株についてダイズ黒根腐病菌および茎疫病菌への拮抗作用を検定した。
【0037】
ダイズ黒根腐病菌は秋田県病害多発圃場から分離したAP-12株、ダイズ茎疫病菌はMAFFから分譲された305923株と235803株を用いた。
【0038】
単離菌株はCunninghamella elagans(APU-YM-01株)(以下「R株」と表すことがある。)とAspergillus aureoles(APU-YM-02株)(以下「W株」と表すことがある。)の2種類の株を使用した。
【0039】
ダイズ黒根腐病菌の拮抗作用は、PDA培地上に単離菌株と原因菌を並べ、抑制効果を評価した。
【0040】
ダイズ茎疫病菌の拮抗作用は、CMA培地上に上述と同様に単離菌株と原因菌を並べ、抑制効果を評価した。
【0041】
培養は恒温培養機を用い、25℃、1週間の条件で行った。
【0042】
また、対照として、Bacillusamyloliquefaciens(O株)の茎疫病菌に対する拮抗作用を比較した。
【0043】
ダイズ黒根腐病菌と単離菌株の対峙培養の結果を
図1に示した。
【0044】
試験の結果、R株は、対峙面は形成されていなかったが、病原菌を覆うように増殖し、物理的に病原菌の増殖を抑制していることが示された。W株は対峙面が形成され、抗生物質や忌避物質の産生により病原菌の増殖を抑制していることが示された。
【0045】
単離菌株Cunninghamella elagans(APU-YM-01株)(R株)、Aspergillus aureoles(APU-YM-02株)(W株)はいずれもダイズ黒根腐病菌に対して拮抗作用を有することを確認できた。
【0046】
ダイズ茎疫病菌と単離菌株の対峙培養の結果を
図2に示した。
【0047】
試験の結果、R株は菌糸がシャーレ全体に広がり、対峙面が形成され、ダイズ茎疫病菌305923株と235803株の両方に対して、拮抗作用を有することが示された。W株はR株と比較すると増殖は遅いが、対峙面が形成され、ダイズ茎疫病菌305923株と235803株の両方に対して、拮抗作用を有することが示された。
【0048】
一方、対照であるO株はダイズ茎疫病菌305923株に対しては対峙面が形成され、拮抗作用を有することが示されたが、235803株に対しては対峙面が形成されず、拮抗作用が判然としなかった。
【0049】
単離菌株Cunninghamella elagans(APU-YM-01株)(R株)、Aspergillus aureoles(APU-YM-02株)(W株)はいずれもダイズ茎疫病菌に対して拮抗作用を有することを確認できた。
【0050】
<ポット栽培試験>
バーミキュライト+砂(1:1)の培養土にダイズ黒根腐病菌(AP-12株)を大量に接種して資材を調製した。
【0051】
前記のようにバーミキュライト+砂(1:1)の培養土にダイズ黒根腐病菌(AP-12株)を大量に接種して調製した資材に、R株(Cunninghamella elagans)およびW株(Aspergillus aureoles)を混合して実施例となる資材を調製した。
【0052】
バーミキュライト+砂(1:1)の培養土にダイズ黒根腐病菌(AP-12株)を大量に接種して調製した資材(すなわち、糸状菌混合無し資材)を、培養土に、200kg/10aの相当量施用し、対照区として、ダイズ(品種リュウホウ)を播種した。
【0053】
前記のように調製した実施例となる資材を、同じように、培養土に、200kg/10aの相当量施用し、R+W混合区として、ダイズ(品種リュウホウ)を播種した。
【0054】
対照区、R+W混合区を、それぞれ、人工気象器内で、昼25℃ 16時間、夜18℃ 8時間で2週間栽培した。
【0055】
ポット栽培試験結果
対照区では黒根腐病菌により発芽が強く抑制され、ほとんどが発芽に至らなかった。
【0056】
一方、R+W混合区では、発芽する個体がみられ、その後は正常に生育していた(
図3)。
【0057】
従って、R株(Cunninghamella elagans)およびW株(Aspergillus aureoles)を資材に混合することにより、土壌病原菌の一種であるダイズ黒根腐病の発病を軽減できる可能性が示唆された。
【0058】
<Bacillus属細菌入資材とBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材の施用試験(圃場)>
兵庫県丹波篠山市の茎疫病および黒根腐病の多発圃場する2箇所の圃場で実施した。
【0059】
供試植物は黒ダイズ(Glycine max)、品種として丹波黒を用いた。
【0060】
対照区として発酵鶏ふん区、試験区としてBacillus属細菌入資材区とBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材区を設定した。
【0061】
<資材の調整>
Bacillus属細菌入資材の調製
特許文献2に記載されているBacillus属細菌入資材の調製は、鶏ふん堆肥、ゼオライト、米ぬか、石膏を原料とし、原料混合時に3種類のBacillus属細菌の菌株(APU-W01株(NITE P-02337)、APU-O02株(NITE P-02338)、APU-T03株(NITE P-02354)を培養後、5.0×10の7乗colony forming unit(cfu)/ml濃度、重量比の2.5%となるよう添加した。
【0062】
添加後、押出成型し、キルン式乾燥機を用いて、240℃、1時間の条件で製品の最終水分が5~10%になるよう調整した。
【0063】
調製された資材は、Bacillus属細菌(APU-W01株(NITE P-02337)、APU-O02株(NITE P-02338)、APU-T03株(NITE P-02354)を5.0×10の7乗cfu/g含むように調整した。
【0064】
Bacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材の調製
Bacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材は、上述のようにBacillus属細菌入資材を調製後、調製された資材にCunninghamella elagansを培養後、微粉末のゼオライトに混合した資材を0.5~1.0%の重量比で被覆することによって調製した。
【0065】
調製されたBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材は、Bacillus属細菌(APU-W01株(NITE P-02337)、APU-O02株(NITE P-02338)、APU-T03株(NITE P-02354)を5.0×10の7乗cfu/g含むように調整した。
【0066】
糸状菌の濃度は測定ができないため、前記のようにBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材を調製した後、資材水分を40%に調整し、35℃の培養試験により、糸状菌が封入されていることを確認した(
図4)。
【0067】
<圃場栽培試験>
対照区は8a、試験区はそれぞれ17aの試験規模で実施し、対照区である鶏ふん堆肥は100kg/10aで全層施用し、試験区である各資材は100kg/10aで側条施用した。
【0068】
また、各試験に化成肥料を同量施用し、対照区は6.0 kgN/10a, 10.6 kg P2O5/10a,7.0 kg K2O、試験区は6.6kgN/10a, 8.7kg P2O5/10a,6.7kg K2Oの施用量とした。栽植密度は畝幅160cm、株間45cm、1,389本/10aとした。
【0069】
5月中旬に播種し、10月15日にエダマメの可販収量を調査した。可販収量は各定点の調査株12株から生育中庸な6株を抜き取り、測定を行った。また、収量調査時の土壌微生物相をARISA法により解析を行った。
【0070】
<圃場栽培試験結果>
鶏ふん堆肥およびBacillus属細菌入資材区、Bacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材の収量を比較した結果、Bacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材で最も高く、次いでBacillus属細菌入資材区、最も収量が低かったのは鶏ふん堆肥であった。各試験資材の施用によって稔実莢数および稔実莢重が増加し、増収に貢献できることが明らかになった(表1、表2)。
【0071】
Bacillus属細菌入資材およびBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材施用による土壌微生物相の変化(電気詠動によるバンド数の確認結果)は
図5の参考写真の通りであった。また、ARISA法によるBacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材の土壌中の茎疫病原菌に与える影響評価の結果は
図6の通りであった。
【0072】
Bacillus属細菌・Cunninghamella elagans入資材を施用した結果、土壌微生物相の多様性を向上させる結果が示された(
図6)。
【0073】
また、上述した「ダイズ黒根腐病菌および茎疫病菌への拮抗作用の確認」における対峙培養の結果と同様に、Cunninghamella elagansを添加した試験区において、茎疫病原菌の検出がされないことが示されため、本糸状菌はダイズ茎疫病の軽減効果を有することが示された。
【0074】
【0075】