(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041179
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】無停電電源システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20230316BHJP
H02J 9/06 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J3/38 110
H02J9/06 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148392
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】西村 荘治
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 吉則
(72)【発明者】
【氏名】柏原 弘典
(72)【発明者】
【氏名】福田 有貴
【テーマコード(参考)】
5G015
5G066
【Fターム(参考)】
5G015GA05
5G015HA15
5G015JA05
5G015JA32
5G066HA11
5G066HB05
5G066JA02
5G066JB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電力系統の異常時における補償動作を行うことができ、かつ補償動作時における補償対象負荷の電圧品質の低下を防止できる安価な電力システムを提供する。
【解決手段】電力系統10から負荷30に給電するための電力線L1に接続された分散型電源1から負荷に給電する常時商用給電方式の無停電電源システム100であって、電力線を開閉する機械式スイッチ2と、機械式スイッチに並列接続された転流回路3と、電力系統の電圧異常を検出する系統異常検出部5と、系統異常検出部により電圧異常が検出されると、機械式スイッチに対して開放指令を出力する開閉制御部6と、開放指令の出力後、機械式スイッチが開放動作を開始した開放タイミングを検出する開放開始検出部7と、開放開始検出部が検出した開放タイミングに基づいて、分散型電源から負荷への電力の供給を開始させる分散型電源制御部8と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の正常時に当該電力系統から負荷に給電し、前記電力系統の異常時に前記電力系統から前記負荷への給電を遮断するとともに、前記電力系統から前記負荷に給電するための電力線に接続された分散型電源から前記負荷に給電する常時商用給電方式の無停電電源システムであって、
前記電力線において前記分散型電源よりも前記電力系統側に設けられ、前記電力線を開閉する機械式スイッチと、
前記電力線において前記機械式スイッチに並列接続された転流回路と、
前記機械式スイッチよりも前記電力系統側の電圧に基づいて前記電力系統の電圧異常を検出する系統異常検出部と、
前記系統異常検出部により電圧異常が検出されると、前記機械式スイッチに対して開放指令を出力する開閉制御部と、
前記開放指令の出力後、前記機械式スイッチが開放動作を開始した開放タイミングを検出する開放開始検出部と、
前記開放開始検出部が検出した前記開放タイミングに基づいて、前記分散型電源から前記負荷への電力の供給を開始させる分散型電源制御部とを備える無停電電源システム。
【請求項2】
前記分散型電源制御部は、前記開放タイミングが検出されてから、前記機械式スイッチの開極特性に応じて整定された所定の第1遅延時間の経過後に前記負荷への前記分散型電源の出力を開始する請求項1に記載の無停電電源システム。
【請求項3】
前記分散型電源制御部は、
前記開放タイミングが検出されてから前記第1遅延時間の経過時、又は
前記電圧異常が検出されてから、前記第1遅延時間よりも長い所定の第2遅延時間の経過時、のいずれか早い時点で前記分散型電源から前記負荷への電力の供給を開始させる請求項2に記載の無停電電源システム。
【請求項4】
前記開放開始検出部が、前記転流回路を流れる電流値に基づいて前記開放タイミングを検出するものである請求項1又は2に記載の無停電電源システム。
【請求項5】
前記開放開始検出部が、前記機械式スイッチの極間電圧値に基づいて前記開放タイミングを検出するものである請求項1又は2に記載の無停電電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時商用給電方式の無停電電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
常時商用給電方式の無停電電源システムは、特許文献1に示すように、電力系統から補償対象負荷(以下、単に負荷ともいう)への給電を遮断する遮断器と、遮断器よりも負荷側に接続された蓄電池等の分散型電源とを備えている。
【0003】
この無停電電源システムは、電力系統の正常時には、遮断器を介して電力系統から負荷に給電するとともに分散型電源を系統連系運転させる。一方、電力系統の異常時には、遮断器を開放して電力系統から負荷への給電を遮断すると同時に、分散型電源の運転モードを電流制御から電圧制御に切り替えて自立運転させる。これにより、電力系統の異常時でも負荷に無停電で確実に電力を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した無停電電源システムは、遮断器としてIGBT等の半導体スイッチを用いるため、高速な開閉切替動作が可能となる一方で、素子のオン抵抗に起因する通電損失が小さくない。また、高圧・特別高圧のような高電圧環境下では、高価な半導体スイッチを複数台直列接続する必要があり、コストが増大するとともに制御回路も複雑になる。
【0006】
そこで近年では、遮断器として半導体スイッチを用いない機械式スイッチを使用することで、通電損失が少なくかつ安価な無停電電源システムを構築することが考えられている。しかしながら、遮断器として機械式スイッチを使用する場合、接点の荒れ具合やグリスの劣化具合等に起因して、開放指令を出力してから実際に開放動作を開始するまでの時間にバラツキが生じる。そのため遮断器として機械式スイッチを用いる場合、開放動作の開始までの時間のバラツキを考慮して、機械式スイッチに対して開放指令を出力してから十分な時間(機械式スイッチが確実に開放されたと思われる時間)が経過した後に分散型電源による負荷への電力の供給を行う必要があり、負荷の健全電圧への復帰に遅れが生じてしまうという懸念がある。また逆に、機械式スイッチに対して開放指令を出力後、機械式スイッチが完全に開放する前に分散型電源による電力の供給を開始すると、分散型電源から電力系統側に短絡電流を流してしまい、機械式スイッチの接点を破損させてしまう。また、補償対象負荷に対して過電圧を印加してしまう、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、電力系統の異常時における補償動作を行うことができ、かつ補償動作時に補償対象負荷の電圧品質の低下を防止できる安価な電力システムを提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る無停電電源システムは、電力系統の正常時に当該電力系統から負荷に給電し、前記電力系統の異常時に前記電力系統から前記負荷への給電を遮断するとともに、前記電力系統から前記負荷に給電するための電力線に接続された分散型電源から前記負荷に給電する常時商用給電方式のものであって、前記電力線において前記分散型電源よりも前記電力系統側に設けられ、前記電力線を開閉する機械式スイッチと、前記電力線において前記機械式スイッチに並列接続された転流回路と、前記機械式スイッチよりも前記電力系統側の電圧に基づいて前記電力系統の電圧異常を検出する系統異常検出部と、前記系統異常検出部により電圧異常が検出されると、前記機械式スイッチに対して開放指令を出力する開閉制御部と、前記開放指令の出力後、前記機械式スイッチが開放動作を開始した開放タイミングを検出する開放開始検出部と、前記開放開始検出部が検出した前記開放タイミングに基づいて、前記分散型電源から前記負荷への電力の供給を開始させる分散型電源制御部とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような無停電電源システムであれば、遮断器として安価な機械式スイッチを用い、電力系統の異常が検出された場合には、機械式スイッチを開放するとともに分散型電源から負荷への電力の供給を開始するので、系統異常時にも補償対象負荷に電力を供給することができる。ここで、機械式スイッチに対して開放指令を出力した後、機械式スイッチが開放動作を実際に開始したタイミングを検出するようにしているので、機械式スイッチの開放タイミングにバラツキがあっても、分散型電源から負荷への電力の供給を、過度に遅らせることも早めることもなく適切なタイミングで開始させることができ、補償対象負荷の電圧品質の低下を防止できる。これにより、電力系統の異常時における補償動作を行うことができ、かつ補償動作時における補償対象負荷の電圧品質の低下を防止できる電力システムを安価に提供することができる。
【0010】
前記分散型電源制御部の具体的態様として、前記開放タイミングが検出されてから、前記機械式スイッチの開極特性に応じて整定された所定の第1遅延時間の経過後に前記負荷への前記分散型電源の出力を開始するように構成されているのが好ましい。
この第1遅延時間とは開極特性により決められる値であり、機械式スイッチが開放開始後、その極間電圧が回路の定格電圧より定まる最大極間電圧Vpに達するまでの時間である。例えば、回路の定格電圧が6.6kVの場合最大極間電圧Vpは、5.93kV(=6.6kV×√2/√3×1.1倍)になる。
【0011】
また前記無停電電源システムは、前記分散型電源制御部が、前記開放タイミングが検出されてから前記第1遅延時間の経過時、又は前記電圧異常が検出されてから、前記第1遅延時間よりも長い所定の第2遅延時間の経過時、のいずれか早い時点で前記分散型電源から前記負荷への電力の供給を開始させるように構成されているのが好ましい。
このようにすれば、例えば、機械式スイッチの開放時に転流回路に流れる電流(転流電流)が非常に小さく、または転流電流が流れず、開放開始検出部により開放タイミングが検出できない場合であっても、系統側の電圧異常が検出されてから所定時間経過後に分散型電源から負荷への電力の供給を開始することができ、補償動作を確実に行うことができる。
【0012】
また前記開放開始検出部の具体的態様としては、前記転流回路を流れる電流値に基づいて前記開放タイミングを検出するものや、前記機械式スイッチの極間電圧値に基づいて前記開放タイミングを検出するものが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、電力系統の異常時における補償動作を行うことができ、かつ補償動作時における補償対象負荷の電圧品質の低下を防止できる安価な電力システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の無停電電源システムの構成を示す模式図である。
【
図2】機械式スイッチの動作時間に対する極間耐電圧特性と第1遅延時間と第2遅延時間との関係を示す図。
【
図3】電力系統で三相短絡発生した場合に転流回路にLC共振電流が流れる原理を示す図。
【
図4】系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放時間のバラツキを考慮して分散型電源への出力開始を十分に遅延させた場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例。
【
図5】系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放時間に対して許容される最も早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例。
【
図6】系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放よりも早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例。
【
図7】系統二相短絡に対して機械式スイッチの開放時間に対して許容される最も早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例。
【
図8】系統開放停電時に、電力系統の異常検出後、第2遅延時間の経過後に分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例。
【
図9】他の実施形態の無停電電源システムの構成を示す模式図である。
【
図10】他の実施形態の無停電電源システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態に係る無停電電源システム100について、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態の無停電電源システム100は、
図1に示すように、電力系統10と負荷30との間に設けられた常時商用給電方式のものである。この無停電電源システム100は、電力系統10の正常時に電力系統10から負荷30に給電し、電力系統10の系統短絡事故(二相短絡事故や三相短絡事故)等により生じる電圧異常時に電力系統10から負荷30への給電を遮断するとともに、分散型電源1から負荷30に給電する。
【0017】
具体的に無停電電源システム100は、分散型電源1と、電力系統10と分散型電源1及び負荷30とを接続する開閉スイッチ2と、開閉スイッチ2に並列接続された転流回路3と、開閉スイッチ2よりも電力系統10側及び負荷30側にそれぞれ設けられた解列スイッチ4a、4bと、電力系統10の電圧異常を検出する系統異常検出部5と、開閉スイッチ2及び解列スイッチ4a、4bの開閉状態を制御する開閉制御部6と、開放開始検出部7と、分散型電源1による給電を制御する分散型電源制御部8と、を備えている。
【0018】
分散型電源1は、電力系統10から負荷30に給電するための電力線L1に接続されている。この分散型電源1は、電力系統10に連系されるものであり、例えば太陽光発電や燃料電池などの直流発電設備11、二次電池(蓄電池)などの電力貯蔵装置(蓄電デバイス)12、風力発電やマイクロガスタービンなどの交流で出力された電気エネルギーを直流に整流したうえで、電力変換装置を用いて系統連系をされる発電設備(不図示)、又は、同期発電機や誘導発電機等の交流発電設備13等を備えるものである。直流発電設備11及び電力貯蔵装置(蓄電デバイス)12は、図示しない電力変換装置を備えている。
【0019】
開閉スイッチ2は、電力線L1において分散型電源1の接続点よりも電力系統10側に設けられて電力線L1を開閉するものであり、具体的には機械式スイッチ(以下、機械式スイッチ2ともいう)である。この機械式スイッチ2は、開閉制御部6から出力される指令信号に応じて開閉駆動されるように構成されている。
【0020】
転流回路3は、機械式スイッチ2を開放した際に電流が流れ込み(転流され)、これを限流させるものである。具体的にこの転流回路3は、機械式スイッチ2に対して並列接続されたコンデンサ31を備える。コンデンサ31は、具体的には例えばフィルムコンデンサ等である。本実施形態のコンデンサ31は、機械式スイッチ2を開放した際に、機械式スイッチ2に流れる電流を、アークを生じさせることなく瞬時に転流回路3に転流させ、機械式スイッチ2をゼロ点関係なく高速に遮断できるようにその静電容量Cが定められている。
【0021】
解列スイッチ4a、4bは、電力線L1において分散型電源1よりも(ここでは機械式スイッチ2よりも)電力系統10側及び負荷30側にそれぞれ設けられており、例えば機械式スイッチである。この解列スイッチ4a、4bは、開閉制御部6により開閉制御される。
【0022】
系統異常検出部5は、電力線L1における機械式スイッチ2よりも電力系統10側の電圧に基づいて、電力系統10の電圧異常を検出するものである。具体的にこの系統異常検出部5は、機械式スイッチ2及び転流回路3からなる並列回路よりも電力系統10側に計器用変圧器を介して接続されており、電力線L1において機械式スイッチ2よりも電力系統10側の電圧を常時検出している。そして系統異常検出部5は、検出した検出電圧と、予め定められた整定値とを比較して、前記検出電圧が整定値以下である場合に、瞬時電圧低下を検出する。また系統異常検出部5は、検出した検出電圧から周波数変動(周波数上昇(OF)、周波数低下(UF))を検出する。なお、この周波数変動は、例えばステップ上昇や、ランプ上昇・下降である。その他、系統異常検出部5は、瞬時電圧低下、周波数変動及び停電に加えて、電圧上昇、位相変動、電圧不平衡、高調波異常又はフリッカの少なくとも1つを検出してもよい。
【0023】
開閉制御部6は、機械式スイッチ2、解列スイッチ4a、4bに対して指令信号(開放指令信号、閉止指令信号)を出力し、これらの開閉状態を制御するものである。具体的にこの開閉制御部6は、系統異常検出部5により電圧異常が検出される(瞬時電圧低下が検出される)と、機械式スイッチ2に対して開放指令信号を出力するように構成されている。
【0024】
開放開始検出部7は、開閉制御部6による開放指令の出力後、機械式スイッチ2が開放動作(開極動作)を実際に開始したタイミング(開放タイミング、開放時刻ともいう)を検出するものである。具体的にこの開放開始検出部7は、計器用変流器を介して転流回路3に接続されており、転流回路3を流れる三相分の電流値を常時計測し、当該電流値に基づいて機械式スイッチ2の開放タイミングを検出するように構成されている。
【0025】
より具体的にこの開放開始検出部7は、検出した三相分の検出電流値と予め定められた整定値とを比較して、三相のいずれかの検出電流値が整定値を超えた場合に、機械式スイッチ2の開放動作の開始を検出する。すなわち開放開始検出部7は、三相のいずれかの検出電流値が整定値を超えたタイミング(又は時刻)を、機械式スイッチ2が開放動作を開始したタイミング(又は時刻)と見なす。この整定値は、ノイズの影響を受けない程度に十分に小さく設定されているのが好ましい。
【0026】
分散型電源制御部8は、開放開始検出部7が検出した機械式スイッチ2の開放タイミングに基づいて、分散型電源1による給電を制御するものである。具体的にこの分散型電源制御部8は、機械式スイッチ2の開放タイミングが検出されてから所定の第1遅延時間の経過後に、分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始させるように構成されている。この第1遅延時間とは開極特性により決められる値であり、
図2に示すように、機械式スイッチ2が開放開始後、その極間電圧が回路(転流回路3等)の定格電圧より定まる最大極間電圧Vpに達するまでの時間である。例えば、回路の定格電圧が6.6kVの場合最大極間電圧Vpは、5.93kV(=6.6kV×√2/√3×1.1倍)になる。
【0027】
さらに本実施形態の分散型電源制御部8は、系統異常検出部5により電力系統10の電圧異常が検出されてから、所定の第2遅延時間の経過時にも、分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始させるように構成されている。具体的にこの分散型電源制御部8は、機械式スイッチ2の開放タイミングが検出されてから所定の第1遅延時間の経過時、又は電力系統10の電圧異常が検出されてから所定の第2遅延時間の経過時のいずれか早い時点で、分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始する。この第2遅延時間は、第1遅延時間よりも十分長い時間である。具体的にこの第2遅延時間は、
図2に示すように、機械式スイッチ2への開放指令の出力から実際の開放動作開始までの想定される時間(想定開放時間)に、前記した所定の第1遅延時間を加算した時間である。この想定開放時間とは、機械式スイッチ2の開放タイミングにバラツキが生じるため、そのバラツキ時間を見込んだ最大値である。なお
図2で示す例は、機械式スイッチ2に開放指令を出力してから想定開放時間の経過時に開放動作が開始している。
【0028】
このように構成した本実施形態の無停電電源システム100は、電力線L1における電力系統10側の電圧値や転流回路3を流れる電流値に応じて各機器の運転/停止、開放/閉止等を制御することにより、(1)正常時モード、(2)異常時モード、を含む複数の制御モードを取るように構成されている。以下、各制御モードについて説明する。
【0029】
(1)正常時モード
系統異常検出部5により系統異常が検出されていない場合(すなわち電力系統10の正常時)、開閉制御部6は機械式スイッチ2及び解列スイッチ4a、4bを閉じている。この場合、電力系統10は、機械式スイッチ2を介して負荷30に交流電力を供給する。転流回路3は機械式スイッチ2に並列接続されているが、機械式スイッチ2のインピーダンスは転流回路3のインピーダンスよりも小さいため、電力系統10と負荷30とは、機械式スイッチ2側で電力をやり取りする。なおこの正常時モードでは、分散型電源1は電力貯蔵装置12の充電動作のみを行っており、負荷30への電力の供給は行わない。
【0030】
(2)異常時モード
電力系統10で短絡事故等が生じ、系統異常検出部5により瞬時電圧低下等の系統異常が検出されると、開閉制御部6は機械式スイッチ2に対して開放指令を出力する。開放指令の出力後、転流回路3の電流値が所定の整定値を越えて、開放開始検出部7により機械式スイッチ2の開放動作の開始タイミングが検出されると、その第1遅延時間経過後に、分散型電源制御部8は分散型電源1に出力信号を送信し、負荷30への電力の供給を開始させる。この時、電力系統10と分散型電源1とは転流回路3を介して接続された状態となるが、電力系統10から分散型電源1に流れる電流は転流回路3のコンデンサ31によって限流されるため、潮流は殆ど発生しない。この状態で開閉制御部6は解列スイッチ4a、4bを開放し、電力系統10と負荷30とを完全に遮断する。
【0031】
なおこの異常時モードにおいて、開放開始検出部7は、電力系統10の二相短絡事故時のみならず、三相短絡事故時においても、転流回路3を流れる電流値を検出して、機械式スイッチ2の開放タイミングを検出できる。
図3に示すように、電力線L1における機械式スイッチ2よりも負荷30側には、電力貯蔵装置12の交流/直流変換装置の出力回路に並列接続されたフィルタコンデンサが接続されており、電力系統10側にはトランス(変圧器)が直列に接続されている。このフィルタコンデンサの静電容量Cと、トランスの漏れインダクタンスLと、短絡点により、LC共振回路が形成され、三相短絡発生時のコンデンサの電圧(すなわち、充電電荷によるエネルギー)、トランス漏れインダクタンスの電流(磁気エネルギー)を初期値とした共振電流が発生する。このとき電力系統10から負荷30へ電力を供給していれば、少なくとも各要素初期値のいずれかはゼロではない。その結果、三相短絡事故発生時において転流回路3には共振電流が流れ、開放開始検出部7は、当該共振電流を検出することにより、機械式スイッチ2の極間開放(極間非短絡状態)を検出することができる。
【0032】
なお電力系統10の開放停電時には、上記したLC共振回路が生成されないため転流回路3には電流が流れず、開放開始検出部7は機械式スイッチ2の開放タイミングを検出することができない。このような場合、分散型電源制御部8は、系統異常検出部5により電力系統10の異常が検出された後(又は機械式スイッチ2に開放指令が出力された後)第2遅延時間の経過後に、分散型電源1に出力信号を送信して負荷30への電力の供給を開始させる。
【0033】
次に、様々な態様の無停電電源システムの補償動作時の負荷印加電圧等の時間変化をシミュレーションにより示す。
【0034】
図4は、系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放時間のバラツキを考慮して分散型電源への出力開始を十分に遅延させた場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例である。すなわちこのシミュレーションは、機械式スイッチの開放タイミングを検出することなく、系統電圧の低下を検出後、機械式スイッチの開極時間よりも十分に長い時間の経過後に分散型電源に出力させている。
図4から分かるように、このシミュレーションでは、機械式スイッチの開放後、負荷の健全電圧の復帰に大きな遅れが出ることが確認できた。
【0035】
図5は、系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放時間に対して許容される最も早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例である。すなわちこのシミュレーションは、上記した本実施形態の無停電電源システム100と同じ方式であり、系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放タイミングを検出し、これに基づいて分散型電源への出力を開始している。
図5から分かるように、この例では
図4の例に比べて高速で補償対象負荷電圧を健全化できることが確認できた。
【0036】
図6は、系統三相短絡に対して機械式スイッチの開放よりも早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例である。この図から分かるように、分散型電源システムの出力開始が早すぎる場合には、機械式スイッチに過電流(短絡電流)が流れ、また機械式スイッチの極間に過電圧が発生し、また補償対象負荷に過電圧が印加されることが確認できた。
【0037】
図7は、系統二相短絡に対して機械式スイッチの開放時間に対して許容される最も早いタイミングで分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例である。すなわちこのシミュレーションは、上記した本実施形態の無停電電源システム100と同じ方式であり、系統二相短絡に対して機械式スイッチの開放タイミングを検出し、これに基づいて分散型電源への出力を開始している。
図7から分かるように、本実施形態の無停電電源システム100の方式によれば、系統二相短絡時においても高速で補償対象負荷電圧を健全化できることが確認できた。
【0038】
図8は、系統開放停電時に、電力系統の異常検出後、第2遅延時間の経過後に分散型電源への出力開始を行った場合の負荷印加電圧等の時間変化を示すシミュレーション例である。すなわちこの例は、転流回路3に転流電流が流れず、開放開始検出部7により開放タイミングを検出できない例である。この図から、この例においても、系統電圧の低下後一定時間後に補償対象負荷電圧を健全化できることが分かる。
図5,
図7の例に比べて、補償対象負荷電圧を健全化までに時間を要するものの、分散型電源1への出力指令が出ず、補償対象負荷に電圧が印加されない、という最悪の事態を防ぐことができることがわかる。
【0039】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の無停電電源システム100によれば、遮断器として安価な機械式スイッチ2を用い、電力系統10の異常が検出された場合には、機械式スイッチ2を開放するとともに分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始するので、系統異常時にも補償対象負荷に電力を供給することができる。ここで、機械式スイッチ2に対して開放指令を出力した後、開放開始検出部7により機械式スイッチ2が開放動作を実際に開始したタイミングを検出するようにしているので、機械式スイッチ2の開放タイミングにバラツキがあっても、分散型電源1から負荷30への電力の供給を、過度に遅らせることも早めることもなく適切なタイミングで開始させることができ負荷30の電圧品質の低下を防止できる。
【0040】
また無停電電源システムは、分散型電源制御部8が、開放タイミングが検出されてから第1遅延時間の経過時、又は電圧異常が検出されてから、第1遅延時間よりも長い所定の第2遅延時間の経過時、のいずれか早い時点で分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始させるように構成されているので、例えば、機械式スイッチ2の開放時に転流回路3に流れる電流が非常に小さく、開放開始検出部7により開放タイミングが検出できない場合であっても、電力系統10側の電圧異常が検出されてから所定時間経過後に分散型電源1から負荷30への電力の供給を開始することができ、補償動作を確実に行うことができる。
【0041】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0042】
例えば他の実施形態の無停電電源システム100は、
図9に示すように、機械式スイッチ2及び転流回路3に対して並列接続された自己放電回路9を備えてもよい。このようにすれば、機械式スイッチ2と転流回路3により限流遮断した後、転流回路3のコンデンサ31に残留する電荷を、自己放電回路9により放電することができる。自己放電回路9は、例えば、機械式スイッチ2及び転流回路3に対して並列接続され、互いに直列接続された抵抗素子91及び開閉スイッチ92等を含むものが挙げられる。この場合、自己放電回路9に含まれる開閉スイッチ92は、機械式スイッチ2が開放している状態でのみ投入するようにする。自己放電回路9は、開閉スイッチ92を含まなくてもよいが、その場合、自己放電回路9の抵抗値は、少なくとも機械式スイッチ2の通電抵抗よりも大きい値となるように構成する。
【0043】
また前記実施形態の無停電電源システム100は、開放開始検出部7は、計器用変流器を介して転流回路3を流れる三相分の電流値を常時計測し、当該電流値に基づいて機械式スイッチ2の開放タイミングを検出するように構成されていたが、これに限らない。他の実施形態の無停電電源システム100は、
図10に示すように、機械式スイッチ2及び転流回路3に並列接続した電力線L2において計器用変圧器を介して接続されて、機械式スイッチ2の三相分の極間電圧を常時計測し、当該極間電圧値に基づいて機械式スイッチ2の開放タイミングを検出するように構成されてもよい。
【0044】
解列スイッチ4a、4bは、電力線L1において機械式スイッチ2よりも電力系統10側及び負荷30側の両方に設けられていたが、これに限らず、いずれか一方にのみ設けられていてもよい。
【0045】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
100・・・電源システム
10 ・・・電力系統
30 ・・・負荷
L1 ・・・電力線
1 ・・・分散型電源
2 ・・・機械式スイッチ
3 ・・・転流回路
31 ・・・コンデンサ
4a ・・・解列スイッチ
4b ・・・解列スイッチ
5 ・・・系統異常検出部
6 ・・・開閉制御部
7 ・・・開放開始検出部
8 ・・・分散型電源制御部