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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004130
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】アクスルケース構造
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/16 20060101AFI20230110BHJP
   F16H 57/031 20120101ALI20230110BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20230110BHJP
【FI】
B60B35/16 D
F16H57/031
F16H57/037
B60B35/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105643
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA03
3J063AC11
3J063BA01
3J063BB11
3J063CD46
3J063XA06
(57)【要約】
【課題】カバー4をアクスルケース本体2に接合する溶接ビード14の疲労強度を、重量を増大させることなく向上でき、溶接ビード14のルート部14aからの亀裂発生をカバー4の全周に亘って抑制できるアクスルケース構造1を提供する。
【解決手段】アクスルケース本体2の中央部に差動装置を収容すべく形成された開口3と、開口3を内包するようにアクスルケース本体2に取り付けられるリング板13と、リング板13に開口3を覆うように取り付けられるカバー4とを備え、カバー4が、椀状に形成されたボウル部4aとその外周のフランジ部4bとを有し、フランジ部4bの外周端面4cがリング板13の外周端面13cと揃うようにフランジ部4bがリング板13に重ねられ、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとが一つの溶接ビード14で一体的にアクスルケース本体2に接合されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルケース本体の中央部に差動装置を収容すべく形成された開口と、該開口を内包するように前記アクスルケース本体に取り付けられる薄板リング状のリング板と、該リング板に、前記開口を覆うように取り付けられるカバーと、を備え、
前記カバーが、椀状に形成されたボウル部と、該ボウル部の外周に形成されたフランジ部とを有し、
該フランジ部の外周端面が前記リング板の外周端面と揃うように前記フランジ部が前記リング板に重ねられ、
前記フランジ部の外周端面と前記リング板の外周端面とが一つの溶接ビードで一体的に前記アクスルケース本体に前記フランジ部の全周に亘って接合されている、
ことを特徴とするアクスルケース構造。
【請求項2】
前記リング板の内周端面が、前記カバーの内面に別の溶接ビートで前記カバーの裏側からも接合されている、ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルケース構造。
【請求項3】
前記アクスルケース本体の開口の内径が、前記リング板の内周端面の内径よりも小さく、前記開口の一部が、前記差動装置が当接して前記差動装置の位置を定める位置決め部となっている、ことを特徴とする請求項2に記載のアクスルケース構造。
【請求項4】
前記フランジ部の外周端面と前記リング板の外周端面とを一体的に前記アクスルケース本体に溶接する前記一つの溶接ビードののど厚が、前記カバーの板厚以上となっている、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のアクスルケース構造。
【請求項5】
前記リング板の板厚が、前記カバーのフランジ部の板厚と同等である、ことを特徴とする請求項4に記載のアクスルケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックやバス等に用いられるアクスルケース構造に係り、特に、アクスルケース本体の中央部に差動装置を収容すべく形成された開口を覆うカバーとアクスルケース本体との溶接部(溶接ビード)の疲労強度向上を図ったアクスルケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1(a)に、従来のアクスルケース構造1Jを後方の斜め上方から見た斜視図を示し、図1(b)にアクスルケース構造1Jの中央部を後方から見た後面図を示し、図1(c)に図1(b)のc-c線断面図を示す。アクスルケース構造1Jは、車幅方向に配置されるアクスルケース本体2と、アクスルケース本体2の中央部に差動装置(ディファレンシャル機構)を収容すべく形成された開口3と、開口3を覆うようにアクスルケース本体2に溶接されたカバー4とを備えている。カバー4は、椀状に形成されたボウル部4aとボウル部4aの外周に形成されたフランジ部4bとを有し、フランジ部4bの外周端面が周方向に沿って全周に亘ってアクスルケース本体2に溶接されている。5は溶接ビードである。
【0003】
図1(a)に示すように、アクスルケース本体2の上部には、トルクロッド(図示せず)が取り付けられるブラケット6が設けられ、アクスルケース本体2の左右の中程には、サスペンションのスプリング(図示せず)が取り付けられるスプリングシート7が設けられ、アクスルケース本体2の左右の端部には、車輪を支持するスピンドル8が設けられている。ブラケット6には、車両の走行中の加減速によって矢印Aで示すように車体前後方向に力が加わり、スプリングシート7には、車重および積荷重量によって矢印Bで示すように下方に力が加わり、スピンドル8には、路面反力によって矢印Cで示すように上方に力が加わる。
【0004】
これらの力(荷重)によって、カバー4のフランジ部4bをアクスルケース本体2に接合する溶接ビート5には、図1(c)に示すように、溶接ビード5のルート部5aを起点としたのど厚5bに沿った疲労亀裂が生じ得る。溶接ビード5のカバー4の周方向に沿った疲労亀裂の発生部位は、荷重の掛かり方と相関があり、図1(b)に示すように、カバー4のフランジ部4bをアクスルケース本体2に接合する溶接ビード5の周方向に沿って、凡そ60度おきに6箇所K1、K2、K3、K4、K5、K6に発生することが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
亀裂の発生原因は、負荷時のカバー4のボウル部4aの変形によるものと考えられる。カバー4の変形について、アクスルケース構造1Jに加わる上下荷重を例に説明する。図2(a)は、上下荷重(矢印B、矢印C)が作用した場合のアクスルケース本体2の変形状態を変形量の倍率を上げて示したものである。矢印B、矢印Cの上下荷重によってアクスルケース本体2は中心軸Xが下に凸となるように変形し、カバー4のフランジ部4bおよびアクスルケース本体2の開口3が、元真円から概おむすび形に変形する。このとき、図2(a)のb-b線断面図である図2(b)に示すように、概おむすび形の角部に相当するカバー4のフランジ部4bには、カバー4を引き上げる方向に力Fが働き、フランジ部4bの外周端面とアクスルケース本体2とを接合する溶接ビード5のルート部5aに、大きな引張応力が発生する。
【0006】
この引張応力によって溶接ビード5にルート部5aを起点とした疲労亀裂が発生する。例えば、上下荷重によって亀裂の発生しやすい部位は、図2(a)に示すように、カバー4のフランジ部4bが概おむすび形に変形した際、変形が顕著に現れる図1(b)に示すカバー4の上部K1および左右斜め下部K3、K5の3箇所である。また、図1(a)に示すアクスルケース本体2の上部のブラケット6にトルクロッドからの前後荷重(矢印A)が作用した場合では、図1(b)に示すカバー4の上部K1、下部K4および左右斜め上部K2、K6の4か所が、亀裂の発生しやすい部位となる。溶接ビード5の亀裂は、図1(c)、図2(b)に示すように、溶接ビード5のルート部5aを起点に発生し、のど厚5bに沿って進展する。カバー4を引上げる力Fによって発生する引張応力は、最小断面であるのど厚5bで最大値となるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-67108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1図2を用いて説明したように、様々な荷重を受けてアクスルケース本体2が変形すると、カバー4のフランジ部4bとアクスルケース本体2とを接合する溶接ビート5には、ルート部5aを起点とした亀裂が発生し得る。この溶接ビード5の亀裂抑制対策として、これまで幾つかの方法が採られている。これらの対策を、図3(a)、図3(b)、図3(c)を用いて説明する。
【0009】
図3(a)に、カバー4の板厚tを増大した対策例を示す。カバー4の板厚tは、図1(c)の非対策品と対比すれば明らかなように、2倍程度増大している。溶接部(溶接ビード5)の応力計算は、隅肉溶接の場合、一般に、のど厚5bの値を用いる。のど厚5bにおける応力は、理論のど厚5bを脚長Lの70%とし、荷重(力F)を脚長5aで除すことで算出する。従って、部材の板厚を増やし、脚長L及びのど厚5bを増やすことが、のど厚5bにおける応力低減に繋がり、亀裂の発生抑制に有効である。しかし、この方法ではカバー4の板厚t拡大に伴う重量増大が問題となる。仮に、のど厚5bを2倍とするためにカバー4の板厚tを2倍にした場合、質量は標準的な大型車両用アクスルケース構造1Jにおいて約8kg増大する。この重量増大は、軽量化が強く要求される製品の設計上、回避したい要素である。
【0010】
図3(b)に、補強リング9を追加した対策例を示す。補強リング9は、アクスルケース本体2に開口3を囲繞するように溶接(10は溶接ビード)され、補強リング9にカバー4のフランジ部4bが溶接(5は溶接ビード)されている。この構成によれば、補強リング9によってアクスルケース本体2の剛性が高められるため、図2(a)を用いて前述したカバー4のフランジ部4bおよび開口3の概おむすび形の変形量が低減され、溶接ビード10のルート部10aの応力が低減される。しかし、応力の低減効果は前述のカバー4の板厚tをアップしたもの(図3(a))と比較して小さく、実際の適用ではカバー4の板厚t拡大と組み合わせる必要があるケースが多い。また、当然ながら、この方法でも補強リング9の追加に伴う、重量の増大が問題となる。重量は標準的な大型車両用アクスルケースにおいて約11kg(リング7kg+カバー増分4kg)増大し、軽量化の観点からは回避したい対策である。
【0011】
図3(c)に、カバー4の裏側をアクスルケース2の開口3に追加して溶接(11は溶接ビード)した対策例を示す。カバー4の裏側に追加した溶接ビード11によって、前述した図2(b)に示すカバー4を引き上げる方向の力Fによるカバー4のフランジ部4bの開き変形が抑制され、加えて、図2(a)に示すように変形するアクスルケース本体2からカバー4への力の伝達部材としての溶接部(図3(c)の溶接ビード5、11)の数を増やすことで、カバー4のフランジ部4bの溶接ビード5のルート部5aの応力が低減される。但し、この対策例にあっては、裏溶接の施工上、溶接線を露わにするために、図3(c)に示すように、アクスルケース本体2の開口3の内径を切り欠く必要がある(12は切欠部)。しかし、図1(b)に示すように、アクスルケース本体2の開口3の内径の、左右の斜め上部D1、D2、左右の斜め下部D3、D4の4箇所は、アクスルケース本体2に収容される図示しない差動装置(ディファレンシャル機構)の位置決め部位として差動装置の一部(ベアリングキャップ)が当接する箇所であり、切欠くことができない部位である。これらの部位D1、D2、D3、D4を切り欠かない場合、図3(c)に示す裏側の溶接(溶接ビード11)ができず、図1(b)に示すように、これらの部位D1、D2、D3、D4の径方向外側の溶接ビード5は、アクスルケース本体2の変形に伴って図2(b)に示すようにカバー4が引き上げられて亀裂が発生し易い部位K2、K3、K5、K6であるため、裏側の溶接をしないことによって溶接ビード5に亀裂が生じる可能性が生じる。
【0012】
なお、特許文献1には、アクスルケース本体2の開口3の差動装置の位置決め部位を避けた部分に切欠部を設け、切欠部においてカバー4の裏側をアクスルハウジング本体2に溶接する発明が示されている。この発明によれば、上下荷重によるカバー4の斜め下部K3、K5の溶接ビード5の亀裂抑制に対しては有効である。しかし、ブラケット6に加わるトルクロッドの荷重によるカバー4の斜め上部K2、K6の溶接ビード5の亀裂対策には対応できない。その理由は、アクスルケース本体2には常時上下荷重(矢印B、矢印C)が掛かっており、開口3の内径部斜め上部D1、D2の差動装置の位置決め部位付近には開口3の端面円周に沿って引張力が生じている。このため、カバー斜め上部K2、K6を裏側溶接のために局部的に開口3を切り欠いた場合、円周方向の引張力によって切り欠きを起点とする新たなハウジング本体2の亀裂が生じ得る。したがって、特許文献1の裏側溶接を追加する対策は、カバー4の斜め上部K2、K6の溶接ビード5の亀裂に対しては対応できず、課題は残る。
【0013】
以上説明したように、アクスルケース本体2が様々な荷重を受けて変形することによってカバー4の溶接ビード5に発生する亀裂を抑える対策として、図3(a)に示すカバー4の板厚tの増大や、図3(b)に示す補強リング9の追加によれば、開口3の内周を切り欠く必要がないため、カバー4の周方向の全周に亘って溶接ビード5の亀裂を抑えることができるが、重量が増大してしまう。一方、図3(c)に示す裏側溶接(溶接ビード11)によれば、重量アップは避けられるが、溶接線を露わにするために開口3を切り欠く必要があり、差動装置の位置決めができない。仮に、差動装置を位置決めするために、開口3の左右斜め上部D1、D2、左右斜め下部D3、D4の4箇所を切り欠かずに裏側溶接をしない場合には、それら部位の径方向外側の溶接ビード5(K2、K3、K5、K6)に亀裂が発生する可能性がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、カバーをアクスルケース本体に接合する溶接ビードの疲労強度を、重量を増大させることなく向上でき、溶接ビードのルート部からの亀裂発生をカバーの全周に亘って抑制できるアクスルケース構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく創案された本発明に係るアクスルケース構造によれば、アクスルケース本体の中央部に差動装置を収容すべく形成された開口と、開口を内包するようにアクスルケース本体に取り付けられる薄板リング状のリング板と、リング板に、開口を覆うように取り付けられるカバーと、を備え、カバーが、椀状に形成されたボウル部と、ボウル部の外周に形成されたフランジ部とを有し、フランジ部の外周端面がリング板の外周端面と揃うようにフランジ部がリング板に重ねられ、フランジ部の外周端面とリング板の外周端面とが一つの溶接ビードで一体的にアクスルケース本体にフランジ部の全周に亘って接合されている、ことを特徴とするアクスルケース構造が提供される。
【0016】
本発明に係るアクスルケース構造においては、リング板の内周端面が、カバーの内面に別の溶接ビートでカバーの裏側からも接合されていてもよい。
【0017】
本発明に係るアクスルケース構造においては、アクスルケース本体の開口の内径が、リング板の内周端面の内径よりも小さく、開口の一部が、差動装置が当接して差動装置の位置を定める位置決め部となっていてもよい。
【0018】
本発明に係るアクスルケース構造においては、フランジ部の外周端面とリング板の外周端面とを一体的にアクスルケース本体に溶接する一つの溶接ビードののど厚が、カバーの板厚以上となっていてもよい。
【0019】
本発明に係るアクスルケース構造においては、リング板の板厚が、カバーのフランジ部の板厚と同等であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るアクスルケース構造によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)カバーのフランジ部にリング板が重ねられ、フランジ部の外周端面とリング板の外周端面とが一つの溶接ビードで一体的にアクスルケース本体に接合されているので、リング板が溶接ビードの脚長を増大させるためのスペーサーとして機能し、溶接ビードののど厚がリング板が無いものと比べて増大する。この結果、溶接ビードの疲労強度が向上し、アクスルケース本体の変形に伴って溶接ビードにルート部を起点として発生する亀裂を、カバーの全周に亘って抑制できる。
(2)リング板を溶接ビードの脚長を増大させるためのスペーサーとして用いて溶接ビードののど厚を増大させているので、図3(a)に示す従来例のようにカバーの板厚を厚くして溶接ビードの脚長を増大させる必要がなく、カバーの重量アップは生じない。また、リング板は、カバーのフランジ部の板厚と共同して溶接ビードの脚長を増大させるスペーサーなので、図3(b)に示す従来例の補強リングよりも薄い板厚でも、同等の溶接ビードの脚長およびのど厚を確保でき、軽量となる。
(3)以上説明したように、本発明によれば、カバーをアクスルケース本体に接合する溶接ビードの疲労強度を、重量の増大を最小限に止めてカバー全周に亘って向上でき、アクスルケース本体が様々な荷重を受けて変形することによる溶接ビードのルート部からの亀裂発生を、カバーの全周に亘って抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来のアクスルケース構造の説明図であり、(a)はアクスルケース本体に加わる荷重の位置および方向を示すアクスルケース構造の全体斜視図、(b)はアクスルケース構造の中央部を後方から見た部分後面図、(c)は(b)のc-c線断面図である。
図2】(a)は従来のアクスルケース構造が上下方向からの荷重によって変形する様子を示す後面図、(b)は(a)のb-b線断面図であり、アクスルケース構造の変形に伴ってカバーが引っ張られるように変形する様子を示す。
図3】カバーとアクスルケース本体とを接合する溶接ビードの亀裂を防止する従来例を示す図であり、(a)はカバーの板厚を増大した従来例の断面図、(b)は補強リングを追加した従来例の断面図、(c)は裏側溶接を追加した従来例の断面図を示す。
図4】(a)は本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造のカバーおよびリング板をアクスルケース本体に当てた状態を示す断面図、(b)は本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造を示す部分断面図であり、図5のIVb-IVb線断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造の中央部を示す部分破断後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することによって重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(アクスルケース構造1)
本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造1を後方から見た部分破断図を図5に、図5の要部を示すIVb-IVb線断面図を図4(b)に示す。図5および図4(b)に示すように、本実施形態に係るアクスルケース構造1は、アクスルケース本体2の中央部に差動装置(ディファレンシャル機構)を収容すべく形成された開口3と、開口3を内包するようにアクスルケース本体2に取り付けられる薄板リング状のリング板13と、リング板13に、開口3を覆うように取り付けられるカバー4とを備えている。
【0024】
図4(a)、図5に示すように、カバー4は、椀状に形成されたボウル部4aと、ボウル部4aの外周に形成されたフランジ部4bとを有している。カバー4のフランジ部4bの外周端面4cの外径と、リング板13の外周端面13cの外径とは同一であり、図4(a)に示すように、フランジ部4bの外周端面4cがリング板13の外周端面13cと揃うようにフランジ部4bがリング板13に重ねられ、図4(b)に示すように、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとが、一つの溶接ビード14で一体的にアクスルケース本体2に、フランジ部4bの全周に亘って接合(溶接)されている。
【0025】
なお、本実施形態に係るアクスルケース構造1のその他の構成(トルクロッド用のブラケット、スプリングシート、スピンドル等)は、図1に示す従来のアクスルケース構造1Jと同様であり、トルクロッド用のブラケット6、スプリングシート7、スピンドル8等の荷重が加わる部位についての説明は省略する。
【0026】
(別の溶接ビード15)
図4(a)、図4(b)に示すように、リング板13の内周端面13dは、カバー4の内面に別の溶接ビート15でカバー4の裏側からも接合(隅肉溶接)されている。図4(a)に示すように、リング板13とカバー4とは、リング板13の外周端面13cとカバー4のフランジ部4bの外周端面4cとが揃うように重ねられ、図示しない治具で保持された状態で、カバー4の裏側から別の溶接ビード15で接合され、アクスルケース本体2に溶接される前に、サブアッセンブリ品となる。別の溶接ビード15が施される裏溶接の溶接範囲は、アクスルケース本体2が様々な荷重(矢印A、B、C等)を受けて変形するに応じて、フランジ部4bとリング板13とを一体的にアクスルケース本体2に溶接する一つの溶接部14に亀裂が発生し易い部位(図1(b)の部位K1、K2、K3、K4、K5、K6)の内側で十分であるが、リング板13の内周端面の全周に亘っていてもよい。
【0027】
リング板13の径方向の板幅は、図4(a)に示すように、リング板13の外周端面13cがカバー4のフランジ部4bの外周端面4cと揃うようにリング板13をカバー4のフランジ部4bに重ねたとき、リング板13の内周端面13dの上端がカバー4のフランジ部4bとボウル部4aとを滑らかにアール状に繋ぐフランジ部4bのアール止まり部4dに位置する長さが好ましい。これによって、リング板13の内周端面13dをカバー4の内面にカバー4の裏側から別の溶接ビード15で隅肉溶接する際、溶接作業が容易となり、適正な溶け込み状態が得られる。なお、本実施形態では、リング板13の径方向の板幅Wは、15mmに設定されている。
【0028】
図4(a)に示すように、別の溶接ビード15で一体となったリング板13とカバー4のサブアッセンブリ品は、アクスルケース本体2に開口3を囲むようにして所定の位置に配置される。その後、図4(b)に示すように、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとが、一つの溶接ビード14で一体的にアクスルケース本体2に、フランジ部4bの全周に亘って接合(溶接)される。
【0029】
図4(b)に示すように、カバー4の裏側を別の溶接ビード15でリング板13の内周端面13dに溶接することで、図2(a)に示すようにアクスルケース本体2が荷重B、荷重C等によって変形して図2(b)に示すようにカバー4が引き上げられるような力が発生した際、図4(b)に示すカバー4のフランジ部4bがリング板13から引き上げられるように離間することが抑えられ、一つの溶接ビード14のリング板13とフランジ部4bとの間の部分14xを起点とした亀裂の発生を抑えることができる。
【0030】
(差動装置の位置決め部)
図5図4(b)に示すように、アクスルケース本体2の開口3の内径は、リング板13の内周端面13dの内径よりも小さく設定されており、開口3の一部(左右の斜め上部D1、D2、左右の斜め下部D3、D4)が、差動装置が当接して差動装置の位置を定める位置決め部となっている。すなわち、図5に示すアクスルケース本体2の開口3の左右の斜め上部D1、D2、左右の斜め下部D3、D4には、図示しない差動装置の一部(ベアリングキャップ)が当接し、差動装置の位置が定められる。
【0031】
(一つの溶接ビード14ののど厚)
図4(b)に示すように、カバー4のフランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとを一体的にアクスルケース本体2に溶接する一つの溶接ビード14ののど厚14bは、カバー4のフランジ部4bの板厚以上となっている。これによって、図2(a)に示すように、アクスルケース本体2が荷重B、荷重C等によって変形して図2(b)に示すようにカバー4に引き上げられるような力Fが発生した際、カバー4からアクスルケース本体2へ伝達する力の応力が最大となる部位が、一つの溶接ビード14ののど厚14bの部分ではなくなる。よって、アクスルケース本体2の変形によって惹起される溶接ビード14の亀裂発生を回避できる。
【0032】
(リング板13の板厚t1とカバー13のフランジ部4bの板厚t2)
図4(b)に示すように、リング板13の板厚t1がカバー4のフランジ部4bの板厚t2と同等であり、リング板13の外周端面13cとフランジ部4bの外周端面4cとを全て覆うように、一つの溶接ビード14が形成された場合を考える。カバーの板厚t1をaとしフランジ部4bの板厚t2をaとすると、一つの溶接ビード14の脚長Lは2aとなり、のど厚14b(理論のど厚)は脚長Lの70%であることから2a×0.7=1.4aとなる。よって、のど厚14b(=1.4a)は、フランジ部4bの板厚t2(=a)よりも十分(1.4倍)に厚くなる。仮に、一つの溶接ビード14がフランジ部4bの外周面4cの上端まで完全には覆わないとしても、のど厚14bはフランジ部4bの板厚t2よりも厚くなる状態を確保できる可能性が高い。
【0033】
具体的には、カバー4のフランジ部4bおよびボウル部4aの板厚t2を4.5mmとし、一つの溶接ビード14ののど厚14bを6mmとした場合、のど厚14bは脚長Lの70%であることから、脚長Lは8.5mm程度となり、リング板13の板厚t1は、カバー4のフランジ部4bの板厚t2と同等の4.5mm程度で十分である。リング板13の板厚t1を4.5mmとした場合、リング板13とフランジ部4bとを重ねてフランジ部4bの外周端面4cの上縁まで溶接したときの脚長は9mmであり、のど厚14bは9×0.7=6.3mmとなることから、必要のど厚14bを確保できる。一つの溶接ビード14がフランジ部4bの外周端面4cの上端まで完全には覆わない場合であっても、のど厚14bは6.3mmよりも小さくなるもののフランジ部4bの板厚t2=4.5mmよりも厚くなる状態を確保できると考えられる。
【0034】
(作用・効果)
本実施形態に係るアクスルケース構造1によれば、次のような作用・効果を発揮できる。
【0035】
図4(b)に示すように、カバー4のフランジ部4bにリング板13が重ねられ、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとが一つの溶接ビード14で一体的にアクスルケース本体2にフランジ部4bの全周に亘って接合されているので、リング板13が溶接ビード14の脚長Lを増大させるためのスペーサーとして機能し、溶接ビード14ののど厚14bがリング板13が無いものと比べて増大する。この結果、溶接ビード14の疲労強度が向上し、アクスルケース本体2の変形に伴って溶接ビード14にルート部14aを起点として発生する亀裂を、カバー4の全周に亘って抑制できる。
【0036】
図4(b)に示すように、リング板13を溶接ビード14の脚長Lを増大させるためのスペーサーとして用いて溶接ビード14ののど厚14bを増大させているので、図3(a)に示す従来例のようにカバー4の板厚tを厚くして溶接ビード5の脚長Lを増大させる必要がなく、カバー4の重量アップは生じない。また、リング板13は、カバー4のフランジ部4bの板厚t2と共同して溶接ビード14の脚長Lを増大させるスペーサーなので、図3(b)に示す従来例の補強リング9よりも薄い板厚でも、同等若しくは同等以上の溶接ビード14の脚長Lおよびのど厚14bを確保でき、軽量化と溶接部(溶接ビード14)の疲労強度向上とを両立できる。具体的には、図4(b)に示す本実施形態に係るアクスルケース構造1は、図1(c)、図2(b)に示す亀裂対策を施してない従来タイプと比べて約0.8kgの重量アップに止まり、図3(a)、図3(b)、図3(c)に示す亀裂対策を施した従来タイプの重量アップ(+8kg~+11kg)と比べて大幅に軽量となる。
【0037】
以上説明したように、図4(b)、図5に示すように、本実施形態に係るアクスルケース構造1によれば、カバー4をアクスルケース本体2に接合する溶接ビード14の疲労強度を、重量の増大を最小限に止めてカバー4全周に亘って向上でき、アクスルケース本体2が様々な荷重を受けて変形することによる溶接ビード14のルート部14aからの亀裂発生を、カバー4の全周に亘って抑制できる。また、大型のプレス成形品であるカバー4の形状を変更する必要がないので、カバー4のプレス金型を変更する必要がなく、コストアップが抑えられる。
【0038】
(別の溶接ビード15について)
図4(b)に示すように、リング板13の内周端面13dが、カバー4の内面に別の溶接ビート15でカバー4の裏側からも接合されている。これによって、図2(a)に示すようにアクスルケース本体2が荷重B、荷重C等によって変形して図2(b)に示すようにカバー4に引き上げられるような力Fが発生した際、図4(b)に示すカバー4のフランジ部4bがリング板13から引き上げられるように離間することが抑えられる。この結果、一つの溶接ビード14のリング板13とフランジ部4bとの間の部分14xを起点とした亀裂の発生を抑えることができる。
【0039】
なお、図4(b)に示す、別の溶接ビード15が施される裏溶接の溶接範囲は、必ずしもリング板13の内周端面13dの全周に亘っていなくてもよく、フランジ部4bとリング板13とを一体的にアクスルケース本体2に溶接する一つの溶接ビード14に亀裂が発生する部位(図1(b)に示す部位K1、K2、K3、K4、K5、K6)を少なくとも含んでいればよい。これらの部位K1、K2、K3、K4、K5、K6において、アクスルケース本体2の変形に伴って図2(b)に示すようにカバー4が引き上げられるような力Fが顕著に発生するため、図4(b)に示す別の溶接ビード15によってカバー4のフランジ部4bがリング板13から引き上げられるように離間することを抑えればよいからである。
【0040】
(差動装置の位置決め部について)
図5に示すように、アクスルケース本体2の開口3の内径が、リング板13の内周端面13dの内径よりも小さく設定されており、開口3の一部(左右の斜め上部D1、D2、左右の斜め下部D3、D4)が、差動装置が当接して差動装置の位置を定める位置決め部となっている。すなわち、アクスルケース本体2の開口3の左右の斜め上部D1、D2、左右の斜め下部D3、D4には、図示しない差動装置の一部(ベアリングキャップ)が当接し、差動装置の位置が定められる。よって、差動装置の位置決めと溶接ビード14の亀裂発生防止とを無理なく両立でき、図3(c)に示す従来例のように、開口3の切欠部12によって差動装置の位置決めができなくなる不具合は生じない。
【0041】
(一つの溶接ビード14ののど厚14bについて)
図4(b)に示すように、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとを一体的にアクスルケース本体2に溶接する一つの溶接ビード14ののど厚14bが、カバー4のボウル部4aおよびフランジ部4bの板厚t2以上となっている。これによって、図2(a)に示すようにアクスルケース本体2が荷重B、荷重C等によって変形して図2(b)に示すようにカバー4に引き上げられるような力Fが発生した際、カバー4からアクスルケース本体2へ伝達する力の応力が最大となる部位が、一つの溶接ビード14ののど厚14bの部分ではなくなり、一つの溶接ビード14における亀裂発生を回避できる。すなわち、一つの溶接ビード14ののど厚14bがカバー4の板厚t2以上となっているので、そののど厚14bの強度がカバー4の強度よりも高まり、アクスルケース本体2が荷重B、荷重C等によって変形した際、一つの溶接ビード14のルート部14aからの亀裂を抑制できる。
【0042】
(リング板13の板厚t1とカバー4のフランジ部4bの板厚t2について)
図4(b)に示すように、リング板13の板厚t1が、カバー4のフランジ部4bの板厚t2と同等となっている。これによって、フランジ部4bの外周端面4cとリング板13の外周端面13cとを一体的にアクスルケース本体2に溶接する一つの溶接ビード14ののど厚14bが、カバー4のフランジ部4bの板厚t2以上となることが確保され、一つの溶接ビード14における亀裂発生を的確に防止できる。なお、本実施形態では、カバー4のボウル部4aとフランジ部4bとは同じ板厚となっている。
【0043】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、トラックやバス等に用いられるアクスルケース構造1であって、アクスルケース本体2の中央部に差動装置を収容すべく形成された開口3を覆うカバー4とアクスルケース本体2とを接合する溶接ビード14の疲労強度向上を図ったアクスルケース構造1に利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 アクスルケース構造
2 アクスルケース本体
3 開口
4 カバー
4a ボウル部
4b フランジ部
4c 外周端面
13 リング板
13c 外周端面
13d 内周端面
14 一つの溶接ビード
14a ルート部
14b のど厚
15 別の溶接ビード
D1、D2、D3、D4 位置決め部
t1 リング板の板厚
t2 カバーのフランジ部の板厚
図1
図2
図3
図4
図5