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特開2023-41304情報処理装置、制御プログラムおよび情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041304
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御プログラムおよび情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4069 20060101AFI20230316BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20230316BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20230316BHJP
   B23C 5/26 20060101ALI20230316BHJP
   B23B 29/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
G05B19/4069
G05B19/18 W
B23B27/00 C
B23C5/26
B23B29/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148597
(22)【出願日】2021-09-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】姫宮 一輝
(72)【発明者】
【氏名】西川 隆敏
【テーマコード(参考)】
3C022
3C046
3C269
【Fターム(参考)】
3C022PP00
3C046KK01
3C046PP00
3C269AB05
3C269BB03
3C269BB11
3C269CC02
3C269MN07
3C269MN21
3C269MN24
3C269MN26
3C269QC01
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】ホルダにおけるびびり振動の生じ難さの程度を効率良く把握する。
【解決手段】情報処理装置(100)は、複数の候補ホルダ(2)のそれぞれについて、第3コンプライアンスを算出するコンプライアンス算出部(21)と、第3コンプライアンスを用いてコンプライアンスゲインの最大値を算出する指標算出部(22)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物を加工するための工具のコンプライアンスを示す第1コンプライアンス情報を取得するともに、前記工具を保持するためのホルダのコンプライアンスを示す第2コンプライアンス情報を複数の前記ホルダのそれぞれについて取得することにより、前記工具を保持した前記ホルダを有するツーリングのコンプライアンスを複数の前記ホルダのそれぞれについて算出するコンプライアンス算出部と、
複数の前記ホルダのそれぞれについて、前記コンプライアンス算出部により算出された、当該ホルダを有する前記ツーリングのコンプライアンスを用いて、前記工具による前記被削物の加工時に生じるびびり振動の生じ難さの程度を示すびびり安定性指標を算出する指標算出部と、を備えた、情報処理装置。
【請求項2】
前記ツーリングは、工作機械を有しており、
前記ツーリングを構成する、前記工具を保持した前記ホルダは、前記工作機械に取り付けられている、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記指標算出部は、前記コンプライアンスの大きさであるコンプライアンスゲインの最大値を、前記びびり安定性指標として算出する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記指標算出部は、
前記被削物の加工プロセスについて、前記被削物の加工条件を構成する加工パラメータを用いて算出したプロセスゲインと、前記ツーリングのコンプライアンスと、で構成されるフィードバックループを生成し、
前記フィードバックループの前記びびり振動に対する安定性を示すびびり安定度を、前記びびり安定性指標として算出する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
複数の前記ホルダの中から、前記びびり安定性指標において前記びびり振動の生じ難さの程度が許容レベル以上の値を示す安定ホルダを選択するホルダ選択部をさらに備えた、請求項1から4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記ホルダ選択部は、複数の前記ホルダの中に2つ以上の前記安定ホルダがある場合、前記被削物の加工条件を構成する加工パラメータを取得し、前記工具を保持した前記安定ホルダを有する2つ以上の前記ツーリングのそれぞれについて、
(i)前記工具に作用する切削力を算出し、
(ii)前記切削力および前記コンプライアンス算出部により算出された当該ツーリングのコンプライアンスを用いて、前記工具の撓みの量を算出し、
(iii)前記撓みの量に基づいて、前記工具への前記切削力の作用に起因する前記被削物の加工誤差を算出する、請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記コンプライアンス算出部および前記指標算出部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項8】
被削物を加工するための工具のコンプライアンスを示す第1コンプライアンス情報を取得するともに、前記工具を保持するためのホルダのコンプライアンスを示す第2コンプライアンス情報を複数の前記ホルダのそれぞれについて取得することにより、前記工具を保持した前記ホルダを有するツーリングのコンプライアンスを複数の前記ホルダのそれぞれについて算出するコンプライアンス算出ステップと、
複数の前記ホルダのそれぞれについて、前記コンプライアンス算出ステップにて算出された、当該ホルダを有する前記ツーリングのコンプライアンスを用いて、前記工具による前記被削物の加工時に生じるびびり振動の生じ難さの程度を示すびびり安定性指標を算出する指標算出ステップと、を含む、情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を保持するためのホルダについて、びびり振動の生じ難さに関連する一連の情報を処理する情報処理装置、制御プログラムおよび情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、CAM(Computer Aided Manufacturing)によって生成されたNC(Numerical Control)データに基づいてスクエアエンドミル等の工具を移動させることにより、被削物を切削加工する技術が知られている。CAMは、目標形状であるCAD(Computer Aided Design)モデル形状、工具の工具情報および加工条件に基づいて、工具の移動経路(工具経路)を生成するソフトウェアである。NCデータは、工具経路等を示す加工プログラムである。
【0003】
実際の切削加工においては、加工条件等によりびびり振動が生じる。びびり振動は、切削加工中に発生する異常振動である。びびり振動が発生すると、被削物の加工面の状態の悪化、および工具の異常損傷を引き起こす可能性がある。また、びびり振動が発生すると、通常は加工能率を低下させる必要があるため、被削物の加工費用および加工時間が増大する可能性がある。ここで、切削加工では工具をホルダに保持させる。よって、切削加工に使用する候補となる複数のホルダのそれぞれについて、びびり振動の生じ難さの程度を効率良く把握できれば、びびり振動の発生回避の点において好ましいホルダを選択するだけで、被削物を良好な加工精度で効率良く加工できる。
【0004】
びびり振動の生じ難さのようなホルダの特性を把握する技術の一例として、特許文献1および2に開示の技術が挙げられる。特許文献1に開示の技術は、ホルダの特性の把握に、ホルダと工具と当該工具の突き出し量との組み合わせであるホルダ/工具アセンブリーの静剛性を用いる。特許文献2に開示の技術は、ホルダの特性の把握に、工具とホルダとの組み合わせ形態であるツーリングの静剛性を用いる。静剛性は、静的な力と、それによる被作用物の静的な変位との関係で表されるものである。具体的には、静剛性は、静的な力を被作用物の静的な変位で除したものである。被作用物は、静的な力が作用する物体である。静剛性は、通常、所定の力に対する、被作用物における所定の力が作用する箇所の変位で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-161502号公報
【特許文献2】特開2014-73546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示の技術は、ともにホルダにおけるびびり振動の生じ難さの程度を把握するものではない。また、これらの技術は静剛性を用いてホルダの特性を把握するため、ホルダの被削物への干渉がない限りは、工具の形状および材質に拘わらず最も太くて短いホルダが選択され、実際の加工に使用される可能性が高い。ここで、「工具の形状」とは、具体的には、切れ刃がある部分の径および長さ、切れ刃がない部分(例えば工具のシャンク部)の径および長さ、ホルダ端面から工具の先端までの長さ(突き出し長)等を含む工具全体の形状を指す。工具の形状および材質はびびり振動の発生の有無および程度に大きく影響することから、使用する工具の形状および材質によっては、びびり振動の発生回避の観点で好ましくないホルダが選択され、実際の加工に使用される可能性がある。
【0007】
本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、ホルダにおける工具の形状および材質に応じたびびり振動の生じ難さの程度を効率良く把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、被削物を加工するための工具のコンプライアンスを示す第1コンプライアンス情報を取得するともに、前記工具を保持するためのホルダのコンプライアンスを示す第2コンプライアンス情報を複数の前記ホルダのそれぞれについて取得することにより、前記工具を保持した前記ホルダを有するツーリングのコンプライアンスを複数の前記ホルダのそれぞれについて算出するコンプライアンス算出部と、複数の前記ホルダのそれぞれについて、前記コンプライアンス算出部により算出された、当該ホルダを有する前記ツーリングのコンプライアンスを用いて、前記工具による前記被削物の加工時に生じるびびり振動の生じ難さの程度を示すびびり安定性指標を算出する指標算出部と、を備える。
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理方法は、被削物を加工するための工具のコンプライアンスを示す第1コンプライアンス情報を取得するともに、前記工具を保持するためのホルダのコンプライアンスを示す第2コンプライアンス情報を複数の前記ホルダのそれぞれについて取得することにより、前記工具を保持した前記ホルダを有するツーリングのコンプライアンスを複数の前記ホルダのそれぞれについて算出するコンプライアンス算出ステップと、複数の前記ホルダのそれぞれについて、前記コンプライアンス算出ステップにて算出された、当該ホルダを有する前記ツーリングのコンプライアンスを用いて、前記工具による前記被削物の加工時に生じるびびり振動の生じ難さの程度を示すびびり安定性指標を算出する指標算出ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ホルダにおける工具の形状および材質に応じたびびり振動の生じ難さの程度を効率良く把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】被削物、および特定ホルダを有するツーリングの概略図である。
図2】本発明の第1~第3実施形態に係る情報処理装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置による具体的処理の一例を示すフローチャートである。
図4】第2コンプライアンスの算出に用いられる候補ホルダのモデルを示す図である。
図5】第1コンプライアンスの算出に用いられる回転工具のモデルを示す図である。
図6】第3コンプライアンスの算出に用いられるツーリングのモデルを示す図である。
図7】本発明の第1実施形態に係るツーリングにおける、周波数とコンプライアンスゲインとの関係の一例を示すグラフである。
図8】回転工具のびびり安定限界線図の一例を示すグラフである。
図9】本発明の第1実施形態に係るツーリングにおける、周波数とコンプライアンスとの関係の一例を示すグラフである。
図10】本発明の第2実施形態に係る情報処理装置の具体的処理の一例を示すフローチャートである。
図11】本発明に第2実施形態に係る情報処理装置が生成したフィードバックループの一例を示すブロック図である。
図12】ゲイン余裕の一例を示すグラフである。
図13】本発明の第3実施形態に係る情報処理装置の具体的処理の一例を示すフローチャートである。
図14】本発明の第3実施形態に係る情報処理装置による加工誤差の算出処理の一例を示すフローチャートである。
図15】本発明の第1実施例に係る第1~第4ホルダの加振測定によって得られたコンプライアンスを示すグラフである。
図16】本発明の第1実施例に係る回転工具を模した丸棒のコンプライアンスを示すグラフである。
図17】本発明の第1実施例に係る第1~第4ツーリングの推定されたコンプライアンスを示すグラフである。
図18】本発明の第2実施例に係る側面加工のシミュレーション内容を示す図である。
図19】本発明の第3実施例に係る傾斜面の等高線加工と、その切削パラメータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について、図1図9を用いて説明する。本実施形態、ならびに後掲の第2および第3実施形態では、本発明の一態様に係る情報処理装置として据え置き型パーソナルコンピュータを例に挙げて説明する。本発明の一態様に係る情報処理装置は、例えば、後述の工作機械3に備えられた制御装置(不図示)またはタブレット端末であってもよい。
【0013】
<情報処理装置の適用場面>
図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る情報処理装置100の適用場面について説明する。情報処理装置100(図2参照)は、図1に示すような被削物Wの切削加工を行うときに用いられる。図1の例では、工作機械3に取り付けられた回転工具1(工具)によって被削物Wの切削加工が行われる。回転工具1は、例えばスクエアエンドミルであり、工作機械3は、例えばNC3軸加工機である。なお、工作機械3は、例えばNC旋盤であってもよい。この場合、工作機械3には、回転工具1に替えてバイト等の非回転工具が取り付けられる。つまり、工作機械3に取り付けられる工具は、回転するものであっても回転しないものであってもどちらでもよい。
【0014】
具体的には、回転工具1を保持した特定ホルダ2-1が工作機械3に取り付けられることにより、回転工具1の回転軸心(工具軸)が図1に示すZ軸の方向を向くように、回転工具1が工作機械3の主軸(不図示)に取り付けられる。特定ホルダ2-1は、回転工具1による被削物Wの切削加工に実際に用いられるホルダであり、後述の安定ホルダ2-2に相当する。ホルダは、回転工具全般を保持するための部品であり、かつ、回転工具全般と工作機械3の主軸とを繋ぐリンクである。工作機械3に取り付けられた回転工具1および特定ホルダ2-1は、工作機械3に内蔵された駆動部(不図示)により種々の回転数で回転する。
【0015】
被削物Wを切削加工する際には、被削物Wをテーブル7に固定し、回転工具1の切れ刃6の位置決めを行う。具体的には、テーブル7の上面にバイス5が設置されており、被削物Wをバイス5で挟み込むことにより、被削物Wをテーブル7に固定する。バイス5は、被削物Wのようなワークをテーブル7に固定するための治具である。切れ刃6の位置決めは、情報処理装置100にインストールされたCAMが生成したNCデータに基づいて、図1に示すXYZ直交3軸に関するNC制御によって行う。NCデータには、回転工具1の移動経路情報(座標値)等が含まれる。NCデータに基づいて回転工具1を移動させることにより、被削物Wを回転工具1で切削する。
【0016】
<情報処理装置の機能的構成>
図2を用いて、情報処理装置100の機能的構成について説明する。情報処理装置100は、予め用意された複数のホルダのそれぞれについて、後述のびびり安定性指標を算出する装置である。情報処理装置100の使用者等は、びびり安定性指標を把握することにより、予め用意された複数のホルダの中から、比較的びびり振動が生じ難そうなホルダを特定ホルダ2-1として選択できる。以下、予め用意された複数のホルダを「複数の候補ホルダ2(図4参照)」と称する。特定ホルダ2-1は、複数の候補ホルダ2のうちの1つに該当する。図2に示すように、情報処理装置100は、表示部11、操作入力部12、記憶部13および制御部14を備える。
【0017】
表示部11は、制御部14の制御を受けて、情報処理装置100が備える各種機能(アプリケーションソフト)が実行されることに起因して生成される各種画像を表示する。操作入力部12は、入力されたユーザ操作を取得する。情報処理装置100が例えばタブレット端末であれば、情報処理装置100は、表示部11と操作入力部12とが一体化したタッチパネルを備えていてもよい。また、情報処理装置100は、表示部11および操作入力部12を備えていなくてもよい。情報処理装置100が例えば工作機械3に備えられた制御装置であれば、工作機械3における表示画面付きの操作パネル等が、表示部11および操作入力部12に相当する構成となる。
【0018】
記憶部13は、例えば、制御部14が実行する各種の制御プログラムを記憶する。また記憶部13は、例えば、操作入力部12が取得したユーザ操作に基づく各種入力データ、後述のコンプライアンス算出部21および指標算出部22の各算出結果等を記憶する。制御部14は、情報処理装置100の各部を統括的に制御する。制御部14は、コンプライアンス算出部21および指標算出部22を備える。
【0019】
コンプライアンス算出部21は、第1コンプライアンス情報を算出するとともに、第2コンプライアンス情報を取得する。第1コンプライアンス情報は、回転工具1のコンプライアンスである第1コンプライアンスを示す情報である。第2コンプライアンスは、候補ホルダ2のコンプライアンスである第2コンプライアンスを示す情報である。コンプライアンスは、構造物の振動特性を示す伝達関数であり、複素数で表される周波数応答関数である。また、コンプライアンスは、構造物の動剛性の逆数でもある。コンプライアンス算出部21は、複数の候補ホルダ2のそれぞれについて第2コンプライアンス情報を取得する。第1および第2コンプライアンス情報の詳細については後述する。
【0020】
コンプライアンス算出部21は、第1および第2コンプライアンス情報を用いて、ツーリング4のコンプライアンスである第3コンプライアンスを算出する。第3コンプライアンスの詳細については後述する。ツーリング4は、回転工具1を保持した候補ホルダ2が工作機械3に取り付けられた状態において、回転工具1と候補ホルダ2と工作機械3とで構成される構造体である。例えば図1に示すような、回転工具1を保持した特定ホルダ2-1が工作機械3に取り付けられた状態において、回転工具1と特定ホルダ2-1と工作機械3とで構成される構造体も、ツーリング4となる。候補ホルダ2毎にツーリング4が構成されることにより、コンプライアンス算出部21は複数の候補ホルダ2のそれぞれについて第3コンプライアンスを算出する。
【0021】
指標算出部22は、コンプライアンス算出部21により算出された第3コンプライアンスを用いて、複数の候補ホルダ2のそれぞれについてびびり安定性指標を算出する。びびり安定度指標は、回転工具1による被削物Wの切削加工時に発生するびびり振動の生じ難さの程度を示す指標である。本実施形態では、指標算出部22は、びびり安定度指標として第3コンプライアンスのコンプライアンスゲインの最大値を算出する。コンプライアンスゲインは、コンプライアンスの大きさ(振幅)である。
【0022】
本実施形態では、びびり安定性指標の対象となるびびり振動として、被削物Wの加工プロセスおよびツーリング4等の振動特性に起因して発生する自励びびり振動を想定している。自励びびり振動は、再生効果またはモードカップリングが主要因となって引き起こされる。ただし、回転工具1による断続切削など、何らかの強制振動源に起因する力外乱または変位外乱によって発生する強制びびり振動を、びびり安定性指標の対象とすることも可能である。
【0023】
<情報処理装置の具体的処理>
図3図9を用いて、情報処理装置100の具体的処理の一例について説明する。以下に説明するステップS11~S15の一連の処理は、本発明の一態様に係る情報処理方法に相当する。図3に示すように、ステップS11では、コンプライアンス算出部21は、操作入力部12を介して回転工具1の工具情報を取得する。工具情報には、回転工具1の径、候補ホルダ2の先端2b(詳細は後述)からの突き出し長さ、刃数、ねじれ角および材質等に関する情報が含まれる。
【0024】
なお、切れ刃6がある部分と切れ刃6がない部分(以下、「シャンク部」)の剛性の違いを考慮する場合には、切れ刃6がある部分の径および長さ、シャンク部の径および長さ等の回転工具1全体の形状情報も、工具情報に含まれる。さらには、切れ刃6がある部分およびシャンク部がテーパ形状になっている場合は、その情報も工具情報に含まれる。
【0025】
コンプライアンス算出部21は、工具情報が入力された操作入力部12から工具情報を取得してもよいし、工具情報が記憶されたサーバまたは記憶部13から工具情報を取得してもよい。工具情報がサーバに記憶されている場合、情報処理装置100がサーバとの間で無線(あるいは有線)通信を行うことにより、コンプライアンス算出部21がサーバから工具情報を取得する。工具情報が記憶部13に記憶されている場合、コンプライアンス算出部21が記憶部13から工具情報を読み出すことにより、コンプライアンス算出部21は工具情報を取得する。
【0026】
また、ステップS11では、コンプライアンス算出部21は、複数の候補ホルダ2のそれぞれについて第2コンプライアンス情報を取得する。本実施形態では、第2コンプライアンス情報が予め生成されており、複数の候補ホルダ2の第2コンプライアンス情報が、例えばサーバまたは記憶部13にホルダリストとして記憶される。ホルダリストは、複数の候補ホルダ2のそれぞれについて、候補ホルダ2と第2コンプライアンスとが対応付けられたデータテーブルである。コンプライアンス算出部21がホルダリストを操作入力部12、サーバまたは記憶部13から取得してもよい点については、工具情報の取得と同様である。
【0027】
本実施形態では、候補ホルダ2を加振測定して得られた第2コンプライアンスが、第2コンプライアンス情報となる。候補ホルダ2の加振測定は次のように行われる。先ず、候補ホルダ2を単体の状態(回転工具1を保持しない状態)で工作機械3に取り付けた上で、候補ホルダ2を例えばインパルスハンマで加振する。そして、加振による候補ホルダ2の応答(振動)を加速度センサまたはレーザドップラー振動計等で測定する。なお、候補ホルダ2の取り付け対象は工作機械3に限定されず、例えば候補ホルダ2を取り付け可能な加振測定用の治具を用いてもよい。但し、候補ホルダ2の加振測定を精度高く行うためには、加振測定用の治具は工作機械3と同等のコンプライアンスを有していることが望ましい。
【0028】
コンプライアンス算出部21は、加振測定の測定結果を用いて、下記の式(1)で表されるコンプライアンス行列R2b2bを第2コンプライアンスとして算出する。コンプライアンス行列R2b2bは、図4に示す候補ホルダ2のコンプライアンス行列である。
【0029】
【数1】
【0030】
コンプライアンス行列Rxyは、yの位置に入力(力またはモーメント)を与えたときのxの位置の応答(撓み(変位)または撓み角)を表す。コンプライアンス行列Rxyの各成分は、周波数の関数である伝達関数(すなわち、周波数毎に異なる値をもつ)である。具体的には、コンプライアンス行列Rxyの1行1列成分は撓み/力を、1行2列成分は撓み角/力を、2行1列成分は撓み/モーメントを、2行2列成分は撓み角/モーメントを、それぞれ示す。1行1列成分は、前述の式(1)ではh2b2bに、1行2列成分は、前述の式(1)ではl2b2bに、2行1列成分は、前述の式(1)ではn2b2bに、2行2列成分は、前述の式(1)ではp2b2bに、それぞれ相当する。「モーメント」は、候補ホルダ2の所定の位置(yの位置)に与えられる曲げモーメントのことである。「撓み角」は、候補ホルダ2に撓みが発生したときの曲げ角度である。
【0031】
加振測定の測定結果を用いたコンプライアンス行列R2b2bの算出方法は、以下の通りである。図4に示すように、まず、候補ホルダ2の先端2b上の位置U2bと、候補ホルダ2における先端2bから直線距離Sだけ離れた位置Uと、を加振する。直線距離Sは、先端2bと、先端2bと平行であり位置Uを含む平面と、の最短距離であり、位置U2bと位置Uとの最短距離と一致する。
【0032】
次に、位置U2bでの入力(加振)による候補ホルダ2の応答(変位)と、位置Uでの入力による候補ホルダ2の応答と、を先端2b上の位置Q2bで測定することにより、コンプライアンス(h2b2b,h2b3)を得る。位置U2bと位置Q2bとを結ぶ直線の長さは、候補ホルダ2の外径と一致する。または、位置U2bのみに入力し、位置U2bでの入力による候補ホルダ2の応答を、位置Q2bと、先端2bから直線距離Sだけ離れた位置Qと、で測定することにより、コンプライアンス(h2b2b,h32b)を得る。位置Q2bと位置Qとの最短距離は、直線距離Sと一致する。コンプライアンスh2b2bは、前述の式(1)に示すように、コンプライアンス行列R2b2bの成分となる。
【0033】
次に、コンプライアンス(h2b2b,h2b3)または(h2b2b,h32b)のいずれかを下記の式(2)に代入することにより、コンプライアンス行列R2b2bの成分であるコンプライアンス(l2b2b,n2b2b)を算出する。そして、コンプライアンス(h2b2b,n2b2b)を下記の式(3)に代入することにより、コンプライアンス行列R2b2bの成分であるコンプライアンスp2b2bを算出する。このようにして、コンプライアンス行列R2b2bを算出する。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
コンプライアンス行列R2b2bの算出方法は前述の例に限定されない。例えば、候補ホルダ2における位置U2bを含む3箇所に入力することにより、コンプライアンス行列R2b2bを算出してもよい。また例えば、梁モデルを組み合わせて算出する方法、あるいはFEM(Finite Element Method:有限要素法)などのCAE(Computer Aided Engineering)解析によってコンプライアンス行列R2b2bを算出してもよい。これらのような加振測定を行うことなくコンプライアンス行列R2b2bを算出する方法を採用する場合、例えばコンプライアンス算出部21がコンプライアンス行列R2b2bを算出してもよい。
【0037】
さらには、コンプライアンス算出部21が第2コンプライアンス情報を取得するタイミングはステップS11の場合に限定されず、例えば、後述のステップS12またはS13のいずれかのタイミングで取得してもよい。つまり、コンプライアンス算出部21は、第3コンプライアンスの算出処理を実行する前までの任意のタイミングで第2コンプライアンス情報を取得すればよい。
【0038】
ステップS12では、コンプライアンス算出部21は、工具情報を用いて第1コンプライアンスを算出する。具体的には、コンプライアンス算出部21は、下記の式(4)で表されるコンプライアンス行列Rを第1コンプライアンスとして算出する。本実施形態では、コンプライアンス算出部21により算出されたコンプライアンス行列Rが、第1コンプライアンス情報となる。
【0039】
【数4】
【0040】
コンプライアンス行列Rは、図5に示す回転工具1の両側の自由端1aのコンプライアンス行列である。コンプライアンス行列Rは、両側の自由端1aにおける、入力UおよびUと応答QおよびQとの組み合わせによって得られる4つのコンプライアンス行列RXY(X=Y=1,2)を成分とする。
【0041】
本実施形態では、コンプライアンス算出部21は、前述の式(4)に加えて、下記の式(5)で表されるBE(Bernoulli-Euler:ベルヌーイ・オイラー)の振動方程式を用いてコンプライアンス行列Rを算出する。即ち、コンプライアンス算出部21は、下記の式(5)を境界条件(x=0,x=L)について解くことで下記の表1に示された係数c1~c7を算出する。
【0042】
【数5】
【0043】
境界条件の要素xは、回転工具1における自由端1aの端面からの工具軸方向の長さであり、x=Lが候補ホルダ2の先端2bからの突き出し長さとなる。突き出し長さLの値は、工具情報に含まれる。実際には、両側の自由端1aの一方は固定端であるが(候補ホルダ2によって固定)、コンプライアンス行列Rを算出するときには自由端として算出する。そして、コンプライアンス算出部21は、得られた係数c1~c7を下記の表1に示された式に代入してコンプライアンス(HXY,NXY,LXY,PXY)を算出することにより、コンプライアンス行列Rを算出する。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、コンプライアンス行列Rの算出においてBEの振動方程式を用いることは必須ではなく、替わりとして、例えばTimoshenko(チモシェンコ)梁理論を用いてもよい。また、コンプライアンス算出部21は、コンプライアンス行列Rのような第1コンプライアンスを算出しなくてもよい。この場合、コンプライアンス算出部21は、第1コンプライアンス情報を操作入力部12、サーバまたは記憶部13から取得してもよい。
【0046】
ステップS13では、コンプライアンス算出部21は、複数の候補ホルダ2のそれぞれについて、第1および第2コンプライアンス情報を用いて第3コンプライアンスを算出する。ステップS11~S13の一連の処理ステップは、本発明の一態様に係るコンプライアンス算出ステップに相当する。具体的には、コンプライアンス算出部21は、複数の候補ホルダ2の中から任意に抽出した候補ホルダ2について、下記の式(6)を用いてコンプライアンス行列G11を算出することにより、コンプライアンスH11を取得する。
【0047】
【数6】
【0048】
コンプライアンス行列G11は、図6に示すツーリング4の先端のコンプライアンス行列である。ツーリング4の先端は、図5に示す回転工具1の自由端1aの一方(切削加工時に被削物Wと接触する側)に相当する。本実施形態では、コンプライアンス算出部21は、第1コンプライアンスを表すコンプライアンス行列Rと第2コンプライアンスを表すコンプライアンス行列R2b2bとを結合することで、コンプライアンス行列G11を算出する。言い換えれば、コンプライアンス行列G11を表す前述の式(6)は、コンプライアンス行列Rを表す前述の式(4)とコンプライアンス行列R2b2bを表す前述の式(1)とから算出されたものである。
【0049】
前述の式(6)は、ツーリング4における回転工具1と候補ホルダ2との結合部分411を剛体と仮定した場合の式である。結合部分411は、ツーリング4における回転工具1の露出部分と候補ホルダ2との境界である。ここで、例えば結合部分411にばね要素または減衰要素をモデル化して組み込むことにより、前述の式(6)が結合部分411の弾性または減衰を考慮したものになる。
【0050】
次に、コンプライアンス算出部21は、コンプライアンス行列G11を算出して取得したコンプライアンスH11を、第3コンプライアンスとする。コンプライアンスH11は、コンプライアンス行列G11の成分であり、ツーリング4の先端(回転工具1の自由端1aの一方)における力に対する変位を表すコンプライアンスである。コンプライアンス算出部21は、算出した第3コンプライアンス(具体的にはコンプライアンスH11)を、指標算出部22に出力する。
【0051】
なお、第3コンプライアンスの算出対象となるツーリング4は、構成要素として工作機械3を含んでいなくてもよい。例えば、コンプライアンス行列R2b2bの算出の前提となる候補ホルダ2の加振測定において、候補ホルダ2を加振測定用の治具に取り付けた場合、この治具が工作機械3に替わるツーリング4の構成要素となる。つまり、第3コンプライアンスの算出対象となるツーリングは、工作機械3を構成要素として含むツーリング4に限定されず、少なくとも回転工具1と候補ホルダ2とを構成要素として含むものであればよい。
【0052】
また、第3コンプライアンスは、ツーリング4の力に対する変位を表すコンプライアンスに限定されない。コンプライアンス算出部21は、第3コンプライアンスとして、例えばツーリング4のモーメントに対する変位を表すコンプライアンスを算出してもよい。
【0053】
ステップS14では、指標算出部22は、コンプライアンス算出部21から取得した第3コンプライアンスのコンプライアンスゲイン(以下、「コンプライアンスゲイン」と略記)の最大値を算出する。ステップS14は、本発明の一態様に係る指標算出ステップに相当する。具体的には、指標算出部22は、下記の式(7)および(8)を用いて周波数毎のコンプライアンスゲインを算出した上で、これらのコンプライアンスゲインの中から値が最大のものを特定する。第3コンプライアンスは下記の式(7)で表され、コンプライアンスゲインは下記の式(8)から算出される。
【0054】
【数7】
【0055】
【数8】
【0056】
指標算出部22の算出結果の一例を図7のグラフに示す。また、回転工具1のびびり安定限界線図の一例を図8に示す。びびり安定限界線図は、回転数と切込量とで構成される2次元マップにびびり振動発生の有無の境界となる境界線(安定限界)を示すものである。図8に示すびびり安定限界線図は、回転工具1の径方向の切込量が一定であることを前提として、工具軸方向の切込量(図8中では「軸方向切込量」)における限界切込量を、前述の境界線として示すものである。限界切込量の最小値は、無条件安定限界切込量と呼ばれる。
【0057】
図7に算出結果が例示されたツーリング4においては、周波数が約2800Hzのときにコンプライアンスゲインが最大になる。また、図8の例では、回転工具1の無条件安定限界切込量が約6mmになる。ここで、コンプライアンスゲインの最大値は、回転工具1の無条件安定限界切込量に大きく影響する。具体的には、コンプライアンスゲインの最大値が小さくなる程、回転工具1の無条件安定限界切込量が大きくなる。このことは、コンプライアンスゲインの最大値が小さくなる程びびり振動が生じ難くなることを意味する。例えば、あるツーリングのコンプライアンスゲインの最大値が他のツーリングの2分の1であれば、他のツーリングは、あるツーリングでびびり振動が生じる切込量を概ね2倍にした段階でびびり振動が生じる。
【0058】
このことから、複数の候補ホルダ2のそれぞれについてコンプライアンスゲインの最大値を算出し、それらの値の大小を比較することにより、複数の候補ホルダ2の中からびびり振動が比較的生じ難そうな候補ホルダ2を特定ホルダ2-1として選択できる。
【0059】
なお、例えば回転工具1の径毎、または回転工具1の径の加工パターン(荒加工、中仕上げ、仕上げ;以下、「加工パターン」と略記)毎の標準的な一定の切削条件を設定したと仮定する。この場合、ある候補ホルダ2が特定ホルダ2-1に該当するか否か判断する際の基準値を、回転工具1の径毎または加工パターン毎に設けることができる。この基準値は、コンプライアンスの最大値が、びびり振動の生じ難さの程度が許容レベル以上となる値を示すときの最小値である。
【0060】
したがって、例えば、回転工具1の径毎または加工パターン毎に切削条件と前述の基準値とが対応付けられたデータベースをサーバまたは記憶部13に記憶させておき、制御部14がデータベースを取得して特定ホルダ2-1を選択することが可能になる。具体的には、操作入力部12等が加工パターンを受け付け、制御部14は、データベースの中から該当する加工パターンに対応付けられた基準値を読み出す。そして、制御部14は、指標算出部22が算出したコンプライアンスの最大値が読み出した基準値以上であれば、指標算出部22の算出対象となった候補ホルダ2を特定ホルダ2-1として選択する。
【0061】
ステップS15では、指標算出部22は、複数の候補ホルダ2の全てについてコンプライアンスの最大値を算出したか否か判定する。ステップS15でYesの場合、情報処理装置100によるステップS11~S15の一連の処理が終了する。情報処理装置100による一連の処理が終了した時点での、コンプライアンス算出部21の算出結果および指標算出部22の算出結果は、例えば、ホルダリストに組み込まれた状態でサーバまたは記憶部13に記憶されてもよい。また例えば、これらの算出結果は、表示部11に表示されてもよい。一方、ステップS15でNoの場合、情報処理装置100は、再びステップS13~S15の処理を実行する。
【0062】
<変形例>
指標算出部22は、びびり安定性指標として、第3コンプライアンスにおける実部の最小値または虚部の最小値を算出してもよい。第3コンプライアンスの実部(以下、「実部」と略記)は、前述の式(7)および(8)中の「Real」に相当する。第3コンプライアンスの虚部(以下、「虚部」と略記)は、これらの式中の「Imag」に相当する。
【0063】
指標算出部22が、びびり安定性指標として実部の最小値および虚部の最小値を算出した場合の算出結果の一例を、図9のグラフに示す。図9に算出結果が例示されたツーリング4においては、びびり振動の周波数が約2850Hzのときに実部が最小(負の値)になる。また、びびり振動の周波数が約2800Hzのときに虚部が最小(負の値)になる。
【0064】
実部の最小値が0に近い程、言い換えれば実部の最小値の絶対値が小さい程、算出対象となった候補ホルダ2は、びびり振動が比較的生じ難そうなホルダに該当する可能性が高い。径方向の切込量が小さい場合など、びびり振動が一方向に生じる場合に、実部の最小値をびびり安定性指標とすることが有効になる。虚部の最小値も0に近い程、言い換えれば虚部の最小値の絶対値も小さい程、算出対象となった候補ホルダ2は、びびり振動が比較的生じ難そうなホルダに該当する可能性が高い。エンドミルのようにXY両方向のコンプライアンスが同程度で、かつ径方向の切込量が大きい場合に、虚部の最小値をびびり安定性指標とすることが有効になる。
【0065】
<小括>
情報処理装置100は、第1および第2コンプライアンス情報を取得することにより、第3コンプライアンスが考慮されたびびり安定性指標(本実施形態ではコンプライアンスゲインの最大値)を算出する。したがって、例えば、情報処理装置100が複数の候補ホルダ2のびびり安定性指標を表示部11に表示させることにより、表示部11の表示内容に基づいて、複数の候補ホルダ2をびびり振動の生じ難さの程度が高い順に順位付けできる。これにより、比較的びびり振動が生じ難くそうな候補ホルダ2を簡単に選択できる。
【0066】
情報処理装置100は、びびり安定性指標としてコンプライアンスゲインの最大値を算出する。ここで、前述の通り、コンプライアンスゲインの最大値が小さくなるほどびびり振動が生じ難くなることが判明している。したがって、複数の候補ホルダ2の中からコンプライアンスゲインの最大値がより小さい候補ホルダ2を選択することにより、比較的びびり振動が生じ難くそうな候補ホルダ2を安定限界の計算をすることなく選択できる。
【0067】
第3コンプライアンスの算出対象となるツーリング4は、構成要素として工作機械3を有しており、実際に被削物Wを切削加工するときのツーリングの構成と同一になる。これにより、情報処理装置100は、より実測値に近い第3コンプライアンスを算出でき、コンプライアンスゲインの最大値を精度高く算出できる。
【0068】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、第1実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。このことは、後掲の第3実施形態についても同様である。本発明の第2実施形態に係る情報処理装置200は、制御部14が図2に示すホルダ選択部23を備えている点において、本発明の第1実施形態に係る情報処理装置100と相違する。また、情報処理装置200は、指標算出部22がびびり安定性指標としてびびり安定度を算出する点においても、情報処理装置100と相違する。
【0069】
<情報処理装置の具体的処理>
図10図12を用いて、情報処理装置200の具体的処理の一例について説明する。図10のフローチャートにおけるステップS21~S23の各処理は、図3のフローチャートにおけるステップS11~S13の各処理と同様である。
【0070】
図10に示すように、ステップS24では、指標算出部22は、切削条件を構成する切削パラメータ(加工パラメータ)を取得する。切削パラメータとしては、回転工具1または旋削加工(被削物Wが回転する加工)の場合は被削物Wの(i)回転数、(ii)径方向および工具軸方向の切込量、(iii)送り速度、ならびに切削力係数、NCデータ等が挙げられる。切削力係数は、比切削抵抗とも呼ばれ、回転工具1の切れ刃6(図1参照)の切り取り厚さと、切削力(詳細は後述)との関係を示すものである。指標算出部22は、これらの切削パラメータを、操作入力部12から取得してもよいし、サーバまたは記憶部13から取得してもよい。
【0071】
次に、指標算出部22は、複数の候補ホルダ2の中から任意に抽出した候補ホルダ2について、切削パラメータを用いて図11に示すプロセスゲイン31を算出する。プロセスゲイン31は、回転工具1の振動変位(Δx,Δy)と、それによって発生する切削力の変化量(F,F)との関係を表すものであり、具体的には単位振動変位当たりの切削力の変化量である。振動変位は、現在の振動変位(x(t),y(t))と1刃前の振動変位(x(t-T),y(t-T))との差分である。
【0072】
次に、指標算出部22は、プロセスゲイン31を算出した候補ホルダ2について、ステップS23にてコンプライアンス算出部21が算出した第3コンプライアンスを用いて図11に示すフィードバックループ30を生成する。ここで、図11中のGxxは、x方向に入力したときのx方向の応答を示す第3コンプライアンスであり、図11中のGyyはy方向に入力したときのy方向の応答を示す第3コンプライアンスである。GxxおよびGyyのそれぞれが算出されてもよいし、回転工具1がエンドミルなど円柱状の等方性工具の場合は一方向(例えばY方向のGyy)のみ算出し、簡易的にGxx=Gyyとしてもよい。なお、GxyおよびGyxのそれぞれについても算出されてもよいし、簡易的にGxy=Gyx=0としてもよい。
【0073】
フィードバックループ30は、回転工具1による被削物Wの加工プロセスについて生成されるものであり、プロセスゲイン31と第3コンプライアンス(具体的にはコンプライアンスH11:前述の式(6)参照)と時間遅れ要素32とで構成される。時間遅れ要素32は、現在加工している状態の1つ前の状態(例えば1回転前、1刃前)を表す要素である。図11に示す時間遅れ要素32の式e-iωTにおいて、ωは角振動数である。Tは現在加工している状態と1刃前の状態との時間差であり、回転工具1の回転数および刃数から算出される。
【0074】
本実施形態では、指標算出部22は、図11に示すようにフィードバックループ30の安定性を評価するため、下記の式(9)で表される一巡伝達関数Dを算出する。下記の式(9)において、aは回転工具1による被削物Wの軸方向切込量である。Kは切削力係数のうち主分力方向の係数である。aXXは切削力の行列であり、回転工具1による被削物Wの径方向切込量から算出される。これらについては、文献「Y.Altintas:MANUFACTURING AUTOMATION(2012),159」も参照されたい。
【0075】
【数9】
【0076】
なお、指標算出部22は、フィードバックループ30の安定性を評価するため、下記の式(10)で表される状態遷移行列D´を算出してもよい。下記の式(10)において、PおよびRは、モーダルパラメータおよびプロセスゲイン31から算出される4×4の行列である。モーダルパラメータは、第3コンプライアンスをカーブフィットすることで算出される値(M:質量、C:減衰、K:ばね定数)である。また、下記の式(10)において、wおよびwは重み係数である。状態遷移行列D´の算出方法の詳細については、本出願人の特許文献である特許第6316997号明細書を参照されたい。
【0077】
【数10】
【0078】
ステップS25では、指標算出部22は、フィードバックループ30(一巡伝達関数D)を用いてびびり安定度を算出する。びびり安定度は、フィードバックループ30のびびり振動に対する安定性を示す指標である。ここで、「フィードバックループ30のびびり振動に対する安定性」は、回転工具1による被削物Wの安定限界切込量、切削力、回転工具1のびびり振動による振幅(以下、「振動振幅」)、の3つの観点から評価できる。安定限界切込量は、回転工具1の工具軸方向の切込量が何mmのときに安定限界になるかを示す限界切込量である。
【0079】
「フィードバックループ30のびびり振動に対する安定性が高い」とは、切削力および振動振幅が減衰する場合を指す。このような場合、いったん生じたびびり振動がフィードバックループ30において減衰し、そのうち収束する。「びびり振動がフィードバックループ30において減衰」とは、1ループ回った後のびびり振動(あるいは切削力)がその前のびびり振動(あるいは切削力)よりも小さくなることを指す。一方、「フィードバックループ30のびびり振動に対する安定性が低い」とは、切削力および振動振幅が増幅する場合を指す。このような場合、いったん生じたびびり振動がフィードバックループ30において発散し、振動が大きくなる。「びびり振動がフィードバックループ30において発散」とは、1ループ回った後のびびり振動(あるいは切削力)がその前のびびり振動(あるいは切削力)よりも大きくなることを指す。
【0080】
本実施形態では、指標算出部22は、先ず一巡伝達関数Dの固有値(複素数)を算出する。次に、指標算出部22は、一巡伝達関数Dの固有値(複素数)の逆数を下記の式(11)に代入し、びびり安定度としてのゲイン余裕gmとする。下記の式(11)において、Λは一巡伝達関数Dの固有値の逆数の実部を表し、ΛIは一巡伝達関数Dの固有値の逆数の虚部を表す。これらについては、文献「E.Shamoto:Analytical prediction of chatter stability in ball end milling with tool inclination(2009),353」も参照されたい。
【0081】
【数11】
【0082】
ゲイン余裕gmは、プロセスゲイン31の余裕を表す指標であり、プロセスゲイン31を現状から何倍大きくしたときに安定限界になるかを示す。具体的には、gm<1で不安定(びびり振動が生じる)、gm=1で安定限界、gm>1で安定(びびり振動は生じない)、となる。例えば、図12の例では、回転工具1の回転数に拘わらずgm>1になっている。したがって、図12に例示されたゲイン余裕gmとなる候補ホルダ2は、入力されたパラメータの条件ではびびり振動が生じないホルダと言える。
【0083】
なお、指標算出部22は、フィードバックループ30として状態遷移行列D´を算出した場合、びびり安定度として下記の式(12)で表される減衰度Cを算出してもよい。減衰度Cは、回転工具1が1回転した後に、びびり振動がどの程度減衰するかを示す指標である。下記の式(12)において、λmaxは状態遷移行列D´の固有値の最大値である。zは回転工具1の刃数である。なお、この場合の減衰度Cは、回転工具1が等ピッチ工具であることを前提にしている。
【0084】
【数12】
【0085】
具体的には、減衰度C>1の場合で値が1より大きくなる程、回転工具1が回転後にびびり振動が大きく減衰する。一方、減衰度C<1の場合で値が1より小さくなる程、回転工具1が回転後にびびり振動が大きく増幅する。減衰度Cの詳細についても、本出願人の特許文献である特許第6316997号明細書を参照されたい。また例えば、指標算出部22は、びびり安定度として安定限界切込量を算出してもよい(図8参照)。指標算出部22は、算出したゲイン余裕gmをホルダ選択部23に出力する。
【0086】
なお、指標算出部22は、切削パラメータの回転数として、1つの値(回転数)ではなく所定の数値範囲(下限値:最小回転数、上限値:最大回転数)内の複数の値を入力して、複数のびびり安定度を算出してもよい。この場合、指標算出部22は、算出した複数のびびり安定度の中から値が最大となるびびり安定度、あるいは値が最小となるびびり安定度を、代表的なゲイン余裕gmとしてもよい。値が最小となるびびり安定度を代表的なゲイン余裕gmとする場合、算出および加振測定のばらつき等を考慮して安全サイドでびびり安定性を評価することが可能となる。一方、値が最大となるびびり安定度を代表的なゲイン余裕gmとするとする場合、びびり安定度の値が最大となる回転数とゲイン余裕gmとを併せて表示部11に表示等することで、ユーザはびびり安定度が高くなる回転数も知ることができる。
【0087】
また、指標算出部22は、切削パラメータとしてNCデータを入力してびびり安定度を算出してもよい。この場合、指標算出部22は、NCデータの全てのパス(工具経路)について、びびり安定度としてのゲイン余裕gmまたは減衰度Cを算出する。そして、指標算出部22は、算出した複数のゲイン余裕gmまたは減衰度Cの中から値が最小のものを選択して、ホルダ選択部23に出力してもよい。
【0088】
ステップS26では、指標算出部22は、複数の候補ホルダ2の全てについてゲイン余裕gmを算出したか否か判定する。ステップS26でYesの場合、情報処理装置100はステップS27の処理に移行する。一方、ステップS26でNoの場合、情報処理装置100は、再びステップS23~S25の各処理を実行する。
【0089】
ステップS27では、ホルダ選択部23は、指標算出部22から取得した複数の候補ホルダ2のゲイン余裕gmを用いて、複数の候補ホルダ2のそれぞれについて安定ホルダ2-2(図1参照)とするか否か決定する。ホルダ選択部23は、複数の候補ホルダ2の中から安定ホルダ2-2を選択するものであり、制御部14に備えられる(図2参照)。安定ホルダ2-2は、ゲイン余裕gmにおいて、びびり振動の生じ難さの程度が許容レベル以上の値を示す候補ホルダ2である。
【0090】
本実施形態では、ホルダ選択部23は、ゲイン余裕gmと許容レベル値とを比較する。そして、ゲイン余裕gmが許容レベル値以上の場合に、ホルダ選択部23は、ゲイン余裕gmの算出対象となった候補ホルダ2を安定ホルダ2-2とする。許容レベル値は、びびり振動の生じ難さの程度が許容レベルを示す、ゲイン余裕gmの値である。許容レベル値は、1を超える値であれば理論上は任意に設定可能であるが、モデル化誤差等を考慮して、例えば2以上の値を設定するのが好ましい。ホルダ選択部23は、このような比較処理を、複数の候補ホルダ2の全てに対して実行する。
【0091】
ステップS28では、ホルダ選択部23は、ステップS27にて決定した1つ以上の安定ホルダ2-2を、びびり振動の生じ難さの程度が高い順に順位付けする。具体的には、ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2をゲイン余裕gmの値が大きい順に順位付けする。安定ホルダ2-2を1つしか選択しなかった場合、ホルダ選択部23は、選択した安定ホルダ2-2を直ちに第1順位とする。
【0092】
なお、ホルダ選択部23による安定ホルダ2-2の順位付けは前述の態様に限定されない。ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2を、例えばびびり振動の生じ難さの程度が低い順(ゲイン余裕の値が小さい順)に順位付けしてもよい。つまり、ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2を、びびり振動の生じ難さの程度に応じて柔軟に順位付けできる。また例えば、ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2の順位付け自体を行わなくてもよい。この場合、ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2の中からゲイン余裕gmの値が最も大きい安定ホルダ2-2を、特定ホルダ2-1として選択してもよい。あるいは、ホルダ選択部23は、1つ以上の安定ホルダ2-2の型番等を、ゲイン余裕gmとともに表示部11に表示させるだけでもよい。
【0093】
指標算出部22の算出結果、ならびにホルダ選択部23の選択結果および順位付けの結果は、例えば、ホルダリストに組み込まれた状態でサーバまたは記憶部13に記憶されてもよい。また例えば、これらの算出結果は、表示部11に表示されてもよい。ステップS28の処理が終了することにより、情報処理装置200による一連の処理が終了する。
【0094】
<小括>
情報処理装置200は、被削物Wの切削条件を加味したびびり安定性指標であるびびり安定度(本実施形態ではゲイン余裕gm)を算出する。したがって、複数の候補ホルダ2のびびり安定度を把握することにより、複数の候補ホルダ2の中から、びびり振動が生じ難い候補ホルダ2を精度高く選択できる。また、情報処理装置200は、複数の候補ホルダ2の中から安定ホルダ2-2を選択するホルダ選択部23を備える。したがって、ホルダ選択部23の選択結果を把握するだけで、びびり振動が生じ難い候補ホルダ2を簡単に選択できる。
【0095】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態について、以下に説明する。本発明の第3実施形態に係る情報処理装置300は、制御部14が図2に示すホルダ選択部23を備えている点において、本発明の第1実施形態に係る情報処理装置100と相違する。また、情報処理装置300は、指標算出部22がびびり安定性指標としてゲイン余裕gmを算出する点においても、情報処理装置100と相違する。さらには、情報処理装置300は、切削力算出部231、撓み量算出部232、加工誤差算出部233を有し、ホルダ選択部23が被削物Wの加工誤差を算出する点において、情報処理装置100および本発明の第2実施形態に係る情報処理装置200と相違する。
【0096】
<情報処理装置の機能的構成>
図2を用いて、情報処理装置300の機能的構成について説明する。情報処理装置300のホルダ選択部23は、複数の候補ホルダ2の中に2つ以上の安定ホルダ2-2がある場合に、安定ホルダ2-2を構成要素とする2つ以上のツーリング4のそれぞれについて、被削物Wの加工誤差を算出する。以下、安定ホルダ2-2を構成要素とするツーリング4を「安定ツーリング」と称する。図2に示すように、情報処理装置300のホルダ選択部23は、切削力算出部231、撓み量算出部232、加工誤差算出部233および選択部234を有する。
【0097】
切削力算出部231は、複数の候補ホルダ2の中に2つ以上の安定ホルダ2-2がある場合、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて回転工具1に作用する切削力を算出する。撓み量算出部232は、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて、切削力および安定ツーリングの第3コンプライアンスを用いて、安定ツーリングに取り付けられた状態の回転工具1における加工中の撓みの量(以下、「撓み量」と略記)を算出する。加工誤差算出部233は、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて、撓み量に基づいて被削物Wの加工誤差を算出する。加工誤差算出部233が算出する被削物Wの加工誤差は、回転工具1への切削力の作用に起因して生じる加工誤差である。選択部234は、加工誤差算出部233の算出結果に基づいて、2つ以上の安定ホルダ2-2の中から特定ホルダ2-1を選択する。
【0098】
<情報処理装置の具体的処理>
図13および図14を用いて、情報処理装置300の具体的処理の一例について説明する。図13のフローチャートにおけるステップS31~S37の各処理は、図10のフローチャートにおけるステップS21~S27の各処理と同様である。但し、ステップS27の処理に対応するステップS37の処理は、切削力算出部231により実行される。
【0099】
図13に示すように、切削力算出部231は、ステップS37にて2つ以上の安定ホルダ2-2を決定した場合(ステップS38でYesの場合)、ステップS39の処理に移行する。ステップS39では、切削力算出部231、撓み量算出部232、加工誤差算出部233および選択部234のそれぞれが所定の処理を実行することにより、2つ以上の安定ホルダ2-2の中から特定ホルダ2-1が選択される。ステップS39の処理が終了することにより、情報処理装置300による一連の処理が終了する。
【0100】
一方、ステップS27にて安定ホルダ2-2を1つしか決定しなかった場合(ステップS38でNoの場合)、切削力算出部231は、ステップS40の処理に移行する。ステップS40では、切削力算出部231は、決定した1つの安定ホルダ2-2を特定ホルダ2-1とする。ステップS40の処理が終了することにより、情報処理装置300による一連の処理が終了する。
【0101】
ステップS39の処理、言い換えれば情報処理装置300のホルダ選択部23による選択処理の詳細について、以下に説明する。図14に示すように、ステップS391では、切削力算出部231は、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて切削力を算出する。具体的には、切削力算出部231は、まず指標算出部22から切削パラメータを取得する。なお、切削力算出部231は、操作入力部12から切削パラメータを取得してもよいし、サーバまたは記憶部13から切削パラメータを取得してもよい。
【0102】
次に、切削力算出部231は、2つ以上の安定ツーリングの中から任意に抽出した安定ツーリングについて、先ず、回転工具1の切れ刃6を仮想的に複数の微小切れ刃(不図示)に分割する。次に、切削力算出部231は、複数の微小切れ刃のそれぞれにおける切り取り厚さを、切削パラメータから算出する。次に、切削力算出部231は、切り取り厚さと切削力係数との関係式に、算出した切り取り厚さおよび切削パラメータに含まれる切削力係数の各値を代入することにより、3方向の切削力を算出する。3方向の切削力は、主分力、背分力、およびこれらと直交する方向の分力で構成される。そして、切削力算出部231は、3方向の切削力のそれぞれをXYZ方向に座標変換してX方向、Y方向およびZ方向の切削力を算出し、算出結果を撓み量算出部232に出力する。
【0103】
ステップS392では、撓み量算出部232は、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて撓み量を算出する。具体的には、撓み量算出部232は、まずコンプライアンス算出部21から切削力の算出対象となった安定ツーリングの第3コンプライアンスを取得する。次に、撓み量算出部232は、コンプライアンス算出部21から取得した第3コンプライアンス、および切削力算出部231から取得した切削力を用いて運動方程式を解くことにより、撓み量を算出する。撓み量算出部232は、算出結果を加工誤差算出部233に出力する。
【0104】
ここで、運動方程式の解法としては、周波数領域解析手法、時間領域解析手法等の公知の方法を採用することができる。なお、周波数領域解析手法を用いて運動方程式を解く場合、例えば、切削力および撓み量の各値が収束するまで両者の計算を繰り返す手法を採用することにより、回転工具1の撓みが切削力に及ぼす影響が考慮された撓み量を計算できる。この手法の詳細については、本出願人の特許文献である特許第6176617号明細書を参照されたい。
【0105】
ステップS393では、加工誤差算出部233は、撓み量算出部232から取得した撓み量に基づいて被削物Wの加工誤差を算出する。具体的には、加工誤差算出部233は、撓み量を考慮した切れ刃6の刃先位置を算出する。次に、加工誤差算出部233は、被削物Wの理想加工面(不図示)を設定し、切れ刃6の刃先位置と理想加工面との距離を算出することにより、算出した距離を被削物Wの加工誤差とする。この手法の詳細についても、本出願人の特許文献である特許第6176617号明細書を参照されたい。無論、被削物Wの加工誤差の算出方法は前述の方法に限定されない。加工誤差算出部233は、算出結果を選択部234に出力する。
【0106】
加工誤差算出部233が、2つ以上の安定ツーリングの全てについて被削物Wの加工誤差を算出した場合(ステップS394でYesの場合)、ステップS395の処理に移行する。一方、2つ以上の安定ツーリングの中に、被削物Wの加工誤差の算出が終わっていないものがある場合(ステップS394でNoの場合)、情報処理装置300は、再びステップS391~S393の各処理を実行する。
【0107】
ステップS395では、選択部234は、加工誤差算出部233から取得した被削物Wの加工誤差の全てについて値の大小を相互に比較することにより、当該加工誤差の値が最も小さい安定ツーリングを特定する。そして、選択部234は、特定した安定ツーリングを構成する安定ホルダ2-2を、特定ホルダ2-1として選択する。
【0108】
なお、情報処理装置300のホルダ選択部23は、2つ以上の安定ホルダ2-2の中から特定ホルダ2-1を選択しなくてもよい。言い換えれば、情報処理装置300のホルダ選択部23は、選択部234を備えていなくてもよい。この場合、情報処理装置300のホルダ選択部23は、例えば加工誤差算出部233の算出結果をゲイン余裕gmとともに表示部11に表示させてもよい。あるいは、加工誤差算出部233が、2つ以上の安定ホルダ2-2を加工誤差の小さい順に順位付けしてもよいし、加工誤差の大きい順に順位付けしてもよい。
【0109】
切削力算出部231、撓み量算出部232および加工誤差算出部233の各算出結果は、例えば、ホルダリストに組み込まれた状態でサーバまたは記憶部13に記憶されてもよい。また例えば、これらの算出結果および選択部234の選択結果は、表示部11に表示されてもよい。ステップS395の処理が終了することにより、情報処理装置300のホルダ選択部23による選択処理(ステップS39の処理)が終了する。
【0110】
<小括>
情報処理装置300は、2つ以上の安定ツーリングのそれぞれについて被削物Wの加工誤差を算出する。したがって、複数の候補ホルダ2の中に2つ以上の安定ホルダ2-2がある場合でも、被削物Wの加工誤差を把握することにより、びびり振動の生じ難さの程度が許容レベル以上であり、さらに加工精度も高い安定ホルダ2-2を選択できる。また、情報処理装置300は、選択部234を備えている。したがって、選択部234の選択結果を把握することにより、2つ以上の安定ホルダ2-2の中から、びびり振動の生じ難さの程度が許容レベル以上であり、かつ最も加工精度が高い安定ホルダ2-2を特定ホルダ2-1として選択できる。
【0111】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置100~300(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部14に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0112】
この場合、前述の装置は、前述のプログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前述のプログラムを実行することにより、第1~第3実施形態で説明した各機能が実現される。
【0113】
前述のプログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前述の装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前述のプログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前述の装置に供給されてもよい。
【0114】
また、前述の各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前述の各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前述の各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0115】
〔付記事項〕
本発明は上述した第1~第3実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0116】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例(第1~第3実施例)について、図15図19を用いて説明する。第2実施例では、回転工具1として、直径8mm、突き出し長48mm、4枚刃の超硬スクエアエンドミル(以下、「スクエアエンドミル」と略記)を用いた。第1および第3実施例では、回転工具1として、直径8mm、突き出し長48mm、2枚刃の超硬ボールエンドミル(以下、「ボールエンドミル」と略記)を用いた。また、本実施例では、複数の候補ホルダ2として、径が同一で工具軸方向の長さが異なる4種類のホルダ(メガニューベビーチャックシリーズ 13N-60、13N-90、13N-120、13N-165:大昭和精機株式会社製)を用いた。以下、ホルダ(13N-60)を「第1ホルダ」、ホルダ(13N-90)を「第2ホルダ」、ホルダ(13N-120)を「第3ホルダ」、ホルダ(13N-165)を「第4ホルダ」と称する。
【0117】
本実施例では、工作機械3としてMU-400VA(オークマ製5軸マシニングセンタ)を用いた。そして、スクエアエンドミルまたはボールエンドミルを保持した第1~第4ホルダのそれぞれを工作機械3に取り付けて、第1~第4ツーリングを構成した。本実施例では、被削物Wとして、ロックウェル硬さ45のダイス鋼SKD61を形成材料とする略立方体形状のワーク(以下、「SKD61」と略記)を用いた。
【0118】
本実施例では、情報処理装置300の構成と同一の構成の据え置き型パーソナルコンピュータ(以下、「PC」)を用いた。そして、PCに発明者らが開発したNC最適化システム「HiSimDynaOpt_Chat」および「HiSimDynaBase_Chat」をインストールし、第1~第4ツーリングのそれぞれによるSKD61の切削加工をシミュレートした。また、本実施例では、前述のシミュレーションにおいて、第1~第4ツーリングのそれぞれのゲイン余裕gmを解析した。つまり、NCシミュレータに、PCのコンプライアンス算出部21および指標算出部22の役割を担わせた。
【0119】
<第1実施例>
先ず、図15図17を用いて、本発明の第1実施例について説明する。第1実施例では、びびり安定性指標としてコンプライアンスゲインの最大値を用いたホルダ選択について説明する。具体的には、第1~第4ホルダのみを工作機械3に取り付け、〔第1実施形態〕にて説明した方法で加振測定することにより、前述の式(1)のコンプライアンス行列R2b2b(第2コンプライアンス)を算出した。第1~第4ホルダのそれぞれのコンプライアンス行列R2b2bのうち、コンプライアンスh2b2b図15に示す。
【0120】
次に、〔第1実施形態〕にて説明した方法で、前述の式(4)のコンプライアンス行列R(第1コンプライアンス)を算出した。コンプライアンス行列Rのうち、1行1列成分(撓み/力)を図16に示す。次に、コンプライアンス行列R、コンプライアンス行列R2b2bおよび前述の式(6)を用いてコンプライアンス行列G11を算出した。コンプライアンス行列G11のうちのコンプライアンスH11(第3コンプライアンス)を図17に示す。具体的には、図17中の「推定」で示された破線のグラフが、式(6)を用いて算出したコンプライアンスH11である。なお、図17には、ボールエンドミルを保持した第1~第4ホルダのそれぞれを工作機械3に取り付けた状態でボールエンドミルを加振測定したときのコンプライアンスH11のグラフ(同図中の「測定」)も、併せて図示している。「ボールエンドミルを保持した第1~第4ホルダのそれぞれを工作機械3に取り付けた状態」は、言い換えれば第1~第4ツーリングが構成された状態である。
【0121】
図17に示すように、コンプライアンスH11の「推定」のグラフは「測定」のグラフと概ね一致した。このことから、〔第1実施形態〕にて説明した方法によるコンプライアンスH11の算出、つまり第3コンプライアンスの算出により、実際のツーリングのコンプライアンスを推定できることが確認された。算出された第1~第4ツーリングのコンプライアンスゲインの最大値を、下記の表2に示す。下記の表2に示すように、第1ツーリングにおいて最大(15.51μm/N)となり、第3ツーリングにおいて最小(3.249μm/N)となった。この結果に基づけば、第3ホルダを選択するのが最も好ましいと言える。
【0122】
【表2】
【0123】
従来のホルダ選択の方法では、単純に第1~第4ホルダの静剛性を比較することから、径がより太くて工具軸方向の長さがより短い第1ホルダが特定ホルダ2-1として選択される。一方、〔第1実施形態〕にて説明した方法によれば、第3ホルダが特定ホルダ2-1として選択される。ここで、第3ホルダの無条件安定限界切込量は、前述の表2の結果から第1ホルダの約4倍以上になることが推定された。これらのことから、〔第1実施形態〕にて説明した方法によれば、従来のホルダ選択の方法と比較して約4倍以上の加工能率(つまり約1/4の加工時間)で加工できることが推定された。また、第1実施例では、切削パラメータを用いることなく、びびり振動が生じ難いホルダを選択できることが判明した。
【0124】
第1実施例のボールエンドミルと突き出し長が異なるボールエンドミルを用いた場合の結果を、下記の表3に示す。下記の表3に示すように、例えばボールエンドミルがD8L56(直径8mm、突き出し長56mm)の場合では、第4ホルダがコンプライアンスゲインの最大値が最小(6.73μm/N)となった。そして、びびり振動が生じ難いホルダとして第4ホルダが選択された。このように、〔第1実施形態〕にて説明した方法によれば、回転工具1の形状に応じてびびり振動が生じ難いホルダを選択できることが判明した。
【0125】
【表3】
【0126】
前述の表3に示す2種類のボールエンドミルと4種類のホルダとの組み合わせにより構成される8種類のツーリングについて、それぞれのコンプライアンスを加振測定で求める場合、加振測定の段取り等も含めると測定を終えるまでに1時間程度掛かる。なお、この場合の加振測定は、D8L56またはD8L64を保持した状態の第1~第4ホルダを工作機械3に取り付けて行うことを前提とする。また、加振測定の最中は、工作機械3を製品の生産に用いることができない。
【0127】
その点〔第1実施形態〕にて説明した方法によれば、事前に候補ホルダ2(第1実施例では第1~第4ホルダ)のコンプライアンスを測定しておくことができる。そのため、突き出し長等の工具形状の違い、および材質の違いについては計算するだけでよくなるなり、ホルダ選択の時間を大幅に短縮できる。第1実施例では、数秒程度でびびり振動が生じ難いホルダ(D8L56の場合は第4ホルダ、D8L64の場合は第3ホルダ)を選択できた。
【0128】
<第2実施例>
次に、図18を用いて、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例では、図18に示すように、第1~第4ツーリングのそれぞれについて、SKD61の側面加工を同一の切削条件でシミュレートした。そして、このシミュレーションにおいて、第1~第4ツーリングのそれぞれのゲイン余裕gmを解析した。第2実施例では、切削パラメータ(切削条件)として下記の表4に示す条件を設定した。
【0129】
【表4】
【0130】
PCの解析結果を下記の表5に示す。下記の表5に示すように、工具軸方向の切込量(図18中の「Z切込量」:以下同様)が0.5mmのときには、第1~第4ツーリングの全てにおいてゲイン余裕gmが1より大きくなり、びびり振動が生じないことが予測された。また、工具軸方向の切込量が1.0mmのときには、第4ツーリングのみゲイン余裕gmが1より小さくなり(0.592)、びびり振動が生じることが予測された。さらに、工具軸方向の切込量が1.5mmのときには、第3ツーリングのみゲイン余裕gmが1より大きくなり(3.004)、びびり振動が生じないことが予測された。
【0131】
【表5】
【0132】
なお、ゲイン余裕gmの値はプロセスゲインを何倍大きくできるか、言い換えれば工具軸方向の切込量を概ね何倍大きくできるかを示す値であることから、第3ホルダでは工具軸方向の切込量を4.5mm程度まで大きくできることがわかる。つまり、工具軸方向の切込量4.5mmでゲイン余裕gmが1程度となる。第2実施例では3種類の工具軸方向の切込量でゲイン余裕gmを算出しているが、1種類の工具軸方向の切込量で算出したゲイン余裕gmの値から、概ねどの程度まで切込量を大きくできるか(安定限界切込量)を知ることができる。また、第3ホルダを従来のホルダ選択の方法で選択される第1ホルダと比較すると、第3ホルダの方が第1ホルダよりも工具軸方向の切込量を4.5倍程度大きくとることが可能であり、加工能率を4.5倍程度向上させることが可能なことが確認された。
【0133】
以上のように、第2実施例の結果から、切削パラメータ(切削条件)を設定することにより、びびり振動回避の点で好ましいホルダを知ることが可能なだけでなく、びびり振動の生じない切削条件(工具軸方向の切込量)を知ることが可能なことが判明した。このことから、ゲイン余裕gm等のびびり安定度は、加工能率向上に寄与する荒加工工程等において特に有効な指標であると言える。
【0134】
<第3実施例>
次に、図19を用いて、本発明の第3実施例について説明する。第3実施例でも、図19に示すように、第1~第4ツーリングのそれぞれについて、SKD61の側部(具体的には側部の傾斜面)の等高線加工でのゲイン余裕gmを同一の切削条件でシミュレートした。第3実施例では、傾斜面の傾斜角度を85°とした。傾斜面の傾斜角度は、被削物Wの底面を基準面(0°)とした場合の傾斜角度である。また、第3実施例では、切削条件として下記の表6に示す条件を設定した。
【0135】
【表6】
【0136】
前述の表6に示す切削条件では、第1~第4ツーリングの全てにおいてゲイン余裕gmが1よりも十分大きくなり(下記の表7参照)、第1~第4ホルダの全てについて、びびり振動が生じない安定ホルダであることが予測された。そこで、NCシミュレータに、第1~第4ツーリングのそれぞれの加工誤差を算出させ、第1~第4ホルダの中から特定ホルダ2-1を選択させた。つまり、NCシミュレータに、PCの加工誤差算出部233および選択部234としての役割を担わせた。加工誤差の算出結果を下記の表7に示す。
【0137】
【表7】
【0138】
前述の表7に示すように、「第1ホルダ、第4ホルダ、第2ホルダ、第3ホルダ」の順に加工誤差が小さくなることが予測された。そして、この結果から、第1ホルダを特定ホルダ2-1として選択した。
【0139】
仕上げ加工においては、びびり振動が生じないことに加えて加工誤差が小さいことが求められる。ここで、仕上げ加工における加工面法線方向切込量およびピックフィード(傾斜面方向の切込量)の各値は、要求される表面粗さ等に応じて設定されることが多く、第2実施例のように値を大きくとる必要はない。その点第3実施例では、ゲイン余裕gmが十分大きい(例えば2以上)第1~第4ホルダの中から加工誤差が小さいホルダを選択することで、びびり振動が生じず加工誤差も小さい加工が可能となることが判明した。
【0140】
第3実施例の結果から、ゲイン余裕gm等のびびり安定度のみならず加工誤差を考慮することで、回転工具1の形状および切削条件に応じて、びびり振動が生じ難く、かつ最も加工精度が高くなるホルダを特定ホルダ2-1として選択できることが推定された。
【符号の説明】
【0141】
1 回転工具(工具)
2 候補ホルダ(ホルダ)
2-2 安定ホルダ
3 工作機械
4 ツーリング
21 コンプライアンス算出部
22 指標算出部
23 ホルダ選択部
30 フィードバックループ
31 プロセスゲイン
100、200、300 情報処理装置
W 被削物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19