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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041353
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20230316BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148684
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100153947
【弁理士】
【氏名又は名称】家成 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 健介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC01
4B029FA01
4B029FA15
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QS39
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】従来技術では知られていない新たなパラメータに基づいて微生物の活動に関する指標を出力する。
【解決手段】測定装置1000は、微生物の培養液または培地に直接接触するように構成された受感部102を有するAEセンサ100と、AEセンサ100の受感部102によって検出されたAE信号に基づいて微生物の活動に関する指標を出力するように構成された信号処理部400と、を含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AEセンサの受感部が微生物の培養液または培地に直接接触するようにAEセンサを設置する設置ステップと、
前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物の活動に関する指標を出力する信号処理ステップと、
を含む、測定方法。
【請求項2】
前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物AEが発生したか否かについて判定する判定ステップをさらに含み、
前記信号処理ステップは、前記判定ステップによる判定に基づいて、微生物の活動に関する指標を出力するように構成される、
請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強いピーク周波数を求め、前記ピーク周波数が所定の下限周波数を超えている場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、前記AE信号のバックグラウンドノイズの周波数スペクトルを求め、前記AE信号のしきい値を超えた信号波形の周波数スペクトルを求め、各周波数成分について、前記バックグラウンドノイズの周波数スペクトルに対する前記信号波形の周波数スペクトルの比を求め、あらかじめ設定した周波数範囲で前記比が所定の値以上であり、前記周波数範囲外で前記比が所定の値未満である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項2に記載の測定方法。
【請求項5】
前記判定ステップは、前記判定に加えてさらに、前記AE信号の所定のピークしきい値を超えているピークであって、かつ、隣接するピーク間の間隔が所定のピーク間隔上限値より小さいピークの数をカウントし、カウントしたピークの数が所定のピーク下限数以上である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項3または4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生頻度を出力するように構成される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生位置を出力するように構成される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項8】
前記設置ステップは、第1のAEセンサおよび第2のAEセンサを設置するように構成され、
前記信号処理ステップは、前記第1のAEセンサによって検出された第1のAE信号と前記第2のAEセンサによって検出された第2のAE信号との到達時間差、または、前記第1のAE信号と前記第2のAE信号の信号強度比、に基づいて微生物AEの発生位置を出力するように構成される、
請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力するように構成される、
請求項1から8のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項10】
前記信号処理ステップによって求められた微生物の活動に関する指標に基づいて、微生物の培養環境を調節する調節ステップをさらに含む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項11】
微生物の培養液または培地に直接接触するように構成された受感部を有するAEセンサと、
前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて前記微生物の活動に関する指標を出力するように構成された信号処理部と、
を含む、測定装置。
【請求項12】
前記信号処理部は、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物AEが発生したか否かについて判定し、微生物AEが発生したか否かの判定に基づいて、微生物の活動に関する指標を出力するように構成される、
請求項11に記載の測定装置。
【請求項13】
前記信号処理部は、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強いピーク周波数を求め、前記ピーク周波数が所定の下限周波数を超えている場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項12に記載の測定装置。
【請求項14】
前記信号処理部は、前記AE信号のバックグラウンドノイズの周波数スペクトルを求め、前記AE信号のしきい値を超えた信号波形の周波数スペクトルを求め、各周波数成分について、前記バックグラウンドノイズの周波数スペクトルに対する前記信号波形の周波数スペクトルの比を求め、あらかじめ設定した周波数範囲で前記比が所定の値以上であり、前記周波数範囲外で前記比が所定の値未満である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項12に記載の測定装置。
【請求項15】
前記信号処理部は、前記判定に加えてさらに、前記AE信号の所定のピークしきい値を超えているピークであって、かつ、隣接するピーク間の間隔が所定のピーク間隔上限値より小さいピークの数をカウントし、カウントしたピークの数が所定のピーク下限数以上である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される、
請求項13または14に記載の測定装置。
【請求項16】
前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生頻度を出力するように構成される、
請求項11から15のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項17】
前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生位置を出力するように構成される、
請求項11から16のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項18】
前記AEセンサは、第1のAEセンサおよび第2のAEセンサを含み、
前記信号処理部は、前記第1のAEセンサによって検出された第1のAE信号と前記第2のAEセンサによって検出された第2のAE信号との到達時間差、または、前記第1のAE信号と前記第2のAE信号の信号強度比、に基づいてAEの発生位置を出力するように構成される、
請求項17に記載の測定装置。
【請求項19】
前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力するように構成される、
請求項11から18のいずれか一項に記載の測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、藻、原生生物、酵母などの菌類を含む微生物の活動(呼吸、光合成、発酵などの化学反応)に関する指標として、様々なパラメータを測定することが知られている。
【0003】
例えば、酒類の製造過程においては、酵母の発酵度合いともろみの温度との間に相関関係があることから、もろみの温度を測定することによって酵母の活動量を把握していた。また、ラン藻の培養においては、ラン藻が光合成を行えば酸素が発生するので、培養液中の溶存酸素濃度を測定することも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-219412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によれば、微生物の活動状況を把握することが可能であるが、より多角的に微生物の活動状態を把握したいというニーズがある。すなわち、従来技術では知られていない新たなパラメータに基づいて微生物の活動に関する指標を出力することが求められている。
【0006】
そこで本願発明の一実施形態は、従来技術では知られていない新たなパラメータに基づいて微生物の活動に関する指標を出力することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一実施形態の測定方法は、AEセンサの受感部が微生物の培養液または培地に直接接触するようにAEセンサを設置する設置ステップと、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物の活動に関する指標を出力する信号処理ステップと、を含む。
【0008】
また、本願発明の一実施形態の測定方法は、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物AEが発生したか否かについて判定する判定ステップをさらに含み、前記信号処理ステップは、前記判定ステップによる判定に基づいて、微生物の活動に関する指標を出力するように構成される。
【0009】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記判定ステップは、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強いピーク周波数を求め、前記ピーク周波数が所定の下限周波数を超えている場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0010】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記判定ステップは、前記AE信号のバックグラウンドノイズの周波数スペクトルを求め、前記AE信号のしきい値を超えた信号波形の周波数スペクトルを求め、各周波数成分について、前記バックグラウンドノイズの周波数スペクトルに対する前記信号波形の周波数スペクトルの比を求め、あらかじめ設定した周波数範囲で前記比が所定の値以上であり、前記周波数範囲外で前記比が所定の値未満である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0011】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記判定ステップは、前記判定に加えてさらに、前記AE信号の所定のピークしきい値を超えているピークであって、かつ、隣接するピーク間の間隔が所定のピーク間隔上限値より小さいピークの数をカウントし、カウントしたピークの数が所定のピーク下限数以上である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0012】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生頻度を出力するように構成される。
【0013】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生位置を出力するように構成される。
【0014】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記設置ステップは、第1のAEセンサおよび第2のAEセンサを設置するように構成され、前記信号処理ステップは、前記第1のAEセンサによって検出された第1のAE信号と前記第2のAEセンサによって検出された第2のAE信号との到達時間差、または、前記第1のAE信号と前記第2のAE信号の信号強度比、に基づいて微生物AEの発生位置を出力するように構成される。
【0015】
また、本願発明の一実施形態の測定方法において、前記信号処理ステップは、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力するように構成される。
【0016】
また、本願発明の一実施形態の測定方法は、前記信号処理ステップによって求められた微生物の活動に関する指標に基づいて、微生物の培養環境を調節する調節ステップをさらに含む。
【0017】
本願発明の一実施形態の測定装置は、微生物の培養液または培地に直接接触するように構成された受感部を有するAEセンサと、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて前記微生物の活動に関する指標を出力するように構成された信号処理部と、を含む。
【0018】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号に基づいて微生物AEが発生したか否かについて判定し、微生物AEが発生したか否かの判定に基づいて、微生物の活動に関する指標を出力するように構成される。
【0019】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記AEセンサの前記受感部によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強いピーク周波数を求め、前記ピーク周波数が所定の下限周波数を超えている場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0020】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記AE信号のバックグラウンドノイズの周波数スペクトルを求め、前記AE信号のしきい値を超えた信号波形の周波数スペクトルを求め、各周波数成分について、前記バックグラウンドノイズの周波数スペクトルに対する前記信号波形の周波数スペクトルの比を求め、あらかじめ設定した周波数範囲で前記比が所定の値以上であり、前記周波数範囲外で前記比が所定の値未満である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0021】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記判定に加えてさらに、前記AE信号の所定のピークしきい値を超えているピークであって、かつ、隣接するピーク間の間隔が所定のピーク間隔上限値より小さいピークの数をカウントし、カウントしたピークの数が所定のピーク下限数以上である場合に、微生物AEが発生したと判定するように構成される。
【0022】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生頻度を出力するように構成される。
【0023】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEの発生位置を出力するように構成される。
【0024】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記AEセンサは、第1のAEセンサおよび第2のAEセンサを含み、前記信号処理部は、前記第1のAEセンサによって検出された第1のAE信号と前記第2のAEセンサによって検出された第2のAE信号との到達時間差、または、前記第1のAE信号と前記第2のAE信号の信号強度比、に基づいてAEの発生位置を出力するように構成される。
【0025】
また、本願発明の一実施形態の測定装置において、前記信号処理部は、前記微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力するように構成される。
【発明の効果】
【0026】
本願発明の一実施形態によれば、従来技術では知られていない新たなパラメータに基づいて微生物の活動に関する指標を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態の測定装置の全体構成を模式的に示す図である。
図2A図2Aは、培養液に対するAEセンサの設置状況を模式的に示す図である。
図2B図2Bは、培地に対するAEセンサの設置状況を模式的に示す図である。
図3A図3Aは、圧電型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。
図3B図3Bは、コンデンサ型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。
図3C図3Cは、ボイスコイル型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。
図3D図3Dは、ECM型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。
図3E図3Eは、ECS型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。
図4図4は、周波数フィルタリングによるS/N比の向上について説明するための図である。
図5A図5Aは、第2のAE判定方法の一例を示す図である。
図5B図5Bは、第2のAE判定方法の一例を示す図である。
図6A図6Aは、第3のAE判定方法の一例を示す図である。
図6B図6Bは、第3のAE判定方法の一例を示す図である。
図7図7は、追加のAE判定方法の一例を示す図である。
図8A図8Aは、第1実施例における日本酒のもろみのAE測定を模式的に示す図である。
図8B図8Bは、第1実施例における日本酒のもろみのAE測定を模式的に示す図である。
図9A図9Aは、日本酒のもろみのAE測定の結果を示す図である。
図9B図9Bは、日本酒のもろみのAE測定の結果を示す図である。
図10図10は、第2実施例におけるラン藻のAE測定を示す図である。
図11図11は、ラン藻のAE測定の結果を示す図である。
図12図12は、ラン藻のAE発生位置分布と照度との比較を示す図である。
図13図13は、ラン藻のAE発生位置推定について説明するための図である。
図14図14は、第3実施例における椎茸の菌床のAE測定を模式的に示す図である。
図15A図15Aは、椎茸の菌床AのAE測定の結果を示す図である。
図15B図15Bは、椎茸の菌床BのAE測定の結果を示す図である。
図16図16は、第4実施例におけるおが粉と米糠と水の混合物のAE測定を模式的に示す図である。
図17図17は、おが粉と米糠と水の混合物のAE測定の結果を示す図である。
図18図18は、おが粉と米糠と水の混合物のAEのピーク周波数分布を示す図である。
図19図19は、微生物AE測定を用いた第1の生産管理例を示す図である。
図20図20は、微生物AE測定を用いた第2の生産管理例を示す図である。
図21図21は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本実施形態の測定方法および測定装置について説明する。図1は、本実施形態の測定装置の全体構成を模式的に示す図である。本実施形態の測定装置1000は、微生物の活動に伴って発生する弾性波(アコースティック・エミッション、AE)を測定するように構成されている。すなわち、藻、原生生物、酵母などの菌類を含む微生物に対して、その活動(呼吸、光合成、発酵などの化学反応)によりガスが発生し、発泡などのガスの急速な拡散が生じる。微生物の活動に由来して発生するAE(以下、「微生物AE」または単に「AE」という)は、培地が液体の場合、液中での気泡の核生成、複数の気泡の合体、付着していた固相からの気泡の脱離、液面での気泡の消滅に伴い発生する弾性波を指す。また、培地が固体(培地と培養液の混合物など)の場合、培地内部で気体が閉じ込められたガス溜まりを気泡と同等と考え、微生物AEは、ガス溜まりの発生、合体、外部へのガス抜けによるガス溜まりの消滅に伴い発生する弾性波を指す。
【0029】
測定装置1000は、微生物AEを受感するように構成された受感部102を有するAEセンサ100を備える。図2Aは、培養液に対するAEセンサの設置状況を模式的に示す図である。図2Aに示すように、AEセンサ100は、受感部102が微生物の培養液602に直接接触するように構成されている。例えば、酵母やラン藻のように液中で培養する場合、培養タンク600の内部にAEセンサ100を設置する。AEセンサ100は培養タンク600の壁面や底面に取り付けてもいいし、液中に吊るしたり、液面に浮かしたりしてもよい。いずれの場合もAEセンサ100の受感部102が培養液602と直接接していることで、微弱で高周波のAEであっても検出可能になる。
【0030】
図2Bは、培地に対するAEセンサの設置状況を模式的に示す図である。図2Bに示すように、AEセンサ100は、受感部102が微生物の培地604に直接接触するように構成されている。例えば、菌床のように固体の培地604で培養する場合、AEセンサ100をバンドなどで培地604の表面に取り付けるか、培地604に孔を開けて内部にAEセンサ100を差し込む。いずれの場合もAEセンサ100の受感部102が培地604と直接接していることで微弱で高周波のAEを検出可能にする。
【0031】
AEセンサ100は、例えば、圧電素子、マイクロフォン(MEMSを含む)、エレクトレット素子などを使用することができる。以下、AEセンサの種類を説明する。図3Aは、圧電型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。AEセンサ100は、一般的にAEセンサとして用いられる圧電型(100kHz以上の超音波AEの検出に優れる)を用いることができる。具体的には、図3Aに示すように、AEセンサ100は、圧電セラミックス110または圧電高分子110を2枚の電極112で挟み、一方の電極112に整合層114を取り付けて構成することができる。圧電型のAEセンサ100は、培養液または培地より音響インピーダンスが著しく高いため、シリコーン樹脂などの整合層114を介して受感部102を培養液または培地と接触させるように構成される。
【0032】
図3Bは、コンデンサ型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。AEセンサ100は、マイクロフォンとして用いられるコンデンサ型を使用することができる。具体的には、AEセンサ100は、対向する2枚の電極122と、一方の電極122(ダイヤフラム)に取り付けられた保護層124と、を備えて構成される。コンデンサ型のAEセンサ100は、耐圧性が低いのでダイヤフラムが過度にたわんで破損しないように保護層124を介して受感部102を培養液または培地と接触させるように構成される。
【0033】
図3Cは、ボイスコイル型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。AEセンサ100は、マイクロフォンとして用いられるボイスコイル型を使用することができる。具体的には、AEセンサ100は、ボイスコイル、磁石、およびダイヤフラムを含むモジュール130と、モジュール130に取り付けられた保護層134と、を備えて構成される。ボイスコイル型のAEセンサ100は、耐圧性が低いのでダイヤフラムが過度にたわんで破損しないように保護層134を介して受感部102を培養液または培地と接触させるように構成される。
【0034】
図3Dは、ECM型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。AEセンサ100は、マイクロフォンとして用いられるECM(エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォン)型を使用することができる。具体的には、AEセンサ100は、エレクトレット140を2枚の電極142で挟み、一方の電極(ダイヤフラム)142に保護層144を取り付けて構成することができる。ECM型のAEセンサ100は、耐圧性が低いのでダイヤフラムが過度にたわんで破損しないように保護層144を介して受感部102を培養液または培地と接触させるように構成される。
【0035】
図3Eは、ECS型のAEセンサの構造を模式的に示す図である。AEセンサ100は、エレクトレット150間にスペーサ156を設け、エレクトレット150を2枚の電極152で挟み、一方の電極(ダイヤフラム)152に保護層154を取り付けて構成することができる。ECS(エレクトレット・コンデンサ・センサ)型のAEセンサ100は、耐圧性に優れるので培養液に素子を直接接触させることも可能だが、傷などの損傷による破損を防ぐためにシリコーン樹脂などの保護層154を介して受感部102を培養液または培地と接触させるように構成される。保護層154が薄い方が感度は向上するが、耐久性は低下する。保護層154は整合層としての機能も有している。ECSはスペーサ156によって形成された微視的な空気ギャップ(マイクロギャップ、エレクトレット150と電極152の間の空間)の変形により機械的振動を電気信号に変換するため、その音響インピーダンスは圧電センサより著しく低く、マイクロフォンより高い。ECSを培養液中に設置する場合、液体の音響インピーダンスの方がECSより高いため、保護層154をシリコーン樹脂などの液体の音響インピーダンスと同等か低い材質とすることで整合層の役割も付与できる。また、この場合、保護層の厚さは10mm程度まであっても検出感度に影響はほとんどない(厚すぎると保護層中でのAEの減衰が無視できなくなる)。ECSを培地表面や培地中に設置する場合、音響インピーダンスが高い培地であれば培養液と同じように考えることができる(例えば、原木椎茸であれば培地は木材のため音響インピーダンスは著しく高い)。一方、培地が空気を多く含むような低音響インピーダンスの場合(例えば、菌床椎茸の培地はおがくずを押し固めた多孔質体なので音響インピーダンスは低い)、ECSの保護層は整合層として有効ではないため、可能な限り薄い方がよい。この場合、耐久性を考慮すると厚さは0.01~1mmが望ましい。ECS型のAEセンサ100は、0.1-200kHzなど広帯域でのAE測定が可能なため、全てのAE判定方法を適用可能である。なお、ECS型のAEセンサについては、特許第5305304号および特許第6214054号の開示を、全体として本明細書に参照により組み込むことができる。
【0036】
以上のように、エレクレットセンサ、圧電センサ、マイクロフォンをAEセンサ100として培養液中や培地表面または内部に設置することで、上記微生物AEを検出する。AEセンサ100の受感部102を培養液や培地と直接接触させることで高周波成分を含む微弱な微生物AEの検出が可能となる。
【0037】
図1の説明に戻ると、測定装置1000は、AEセンサ100から出力された信号を増幅するためのプリアンプ200と、プリアンプ200から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するためのA/Dコンバータ300と、を備える。すなわち、AEセンサ100から出力された信号は、プリアンプ200(アナログの増幅回路(周波数フィルタを含む))を通した後、A/Dコンバータ300によってA/D変換される。A/D変換により信号データは、サンプリング時間tsで離散化されたデジタルデータとなる。サンプリング時間tsは、100ns~10msであるが、広帯域周波数を測定するとともに騒音などの外乱の影響を避けるために100ns~10μsが望ましい。なお、AEセンサ100から出力された信号に対する処理については、特開2018-54502号の開示を、全体として本明細書に参照により組み込むことができる。
【0038】
測定装置1000は、AEセンサ100の受感部102によって検出された信号(具体的には本実施形態ではA/Dコンバータ300から出力された信号)に基づいて、微生物AEが発生したか否かについて判定し、その判定に基づいて微生物の活動に関する指標を出力するように構成された信号処理部400を備える。信号処理部400は、CPU(中央処理装置)などの演算装置とメモリなどを含むコンピュータの一部として実装することができる。また、測定装置1000は、信号処理部400に接続されたマウス、キーボード、ディスプレイなどの入出力インターフェース500を備える。以下、微生物AEが発生したか否かについて信号処理部400によって行われるAE判定方法について説明する。
【0039】
第1のAE判定方法
(1)信号処理部400は、A/Dコンバータ300から出力されたデジタルデータが、あらかじめ設定されたしきい値Vthを超えた場合、Twの記録長だけデジタルデータを取り込んで、信号波形を得る。
(2)信号処理部400は、必要に応じて信号波形の周波数フィルタリングを行う。
(3)信号処理部400は、AE信号強度として、信号波形の両振幅Vppを算出し、ノイズレベルVnzを用いて以下の式によりS/N比Rsnを算出する。Rsn=Vpp/Vnz
【0040】
なお、Vnzは固定値でもよいし、1min-1hourの間隔で測定したバックグラウンドノイズレベルでもいいし、信号波形のしきい値を超える直前の信号レベルでもよい。AEセンサ100が1個だけの場合、信号処理部400は、S/N比Rsnが所定の値を超えればAEと判定する。また、AEセンサ100が複数の場合、信号処理部400は、S/N比Rsnの最大値であるセンサ以外のS/N比Rsnが全て所定のノイズレベルを超えていないことをAE判定の条件に加えることで判定精度を向上できる。第1のAE判定方法については、特開2015-87214号および特開2018-54502号の開示を、全体として本明細書に参照により組み込むことができる。
【0041】
図4は、周波数フィルタリングによるS/N比の向上について説明するための図である。図4のグラフの縦軸は信号波形の信号強度を示しており、横軸は時間経過を示している。図4の上段は、周波数フィルタリングを行わなかった場合の信号強度を時間経過とともに示している。この場合、上記の式によりS/N比Rsnが求められ、Rsnは8.8dBであった。一方、図4の下段は、50kHzのハイパスフィルタリングを行った場合の信号強度を時間経過とともに示している。この場合、Rsnは11dBとなり、S/N比が向上した。以上のように、信号処理部400は、所定の下限周波数より低い周波数成分を除去することによって、低周波ノイズに埋もれているAE信号を検出することができる。
【0042】
第2のAE判定方法
(1)信号処理部400は、第1のAE判定方法と同様の方法で信号波形を得る。
(2)信号処理部400は、第1のAE判定方法と同様の方法でS/N比Rsnを算出する。
(3)信号処理部400は、AEセンサ100の受感部102によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強いピーク周波数を求め、ピーク周波数が所定の下限周波数を超えている場合に、AEが発生したと判定することができる。すなわち、信号処理部400は、S/N比Rsnが所定の値を超えた場合、フーリエ変換、ウェーブレット変換などを用いて信号波形の周波数スペクトルを求め、最もスペクトル成分が強い周波数(ピーク周波数)fpを求める。信号処理部400は、fpが所定の下限周波数を超えていればAEと判定する。
(4)信号処理部400は、S/N比Rsnが所定の値を超えていない場合、ハイパスフィルタリングを行う(所定の下限周波数より低い周波数成分を除去する)。
(5)信号処理部400は、得られた信号波形について第1のAE判定方法と同様の方法でAE判定を行う(AE信号が低周波ノイズに埋もれている場合を想定)。
【0043】
信号処理部400は、以下の項目に鑑み、例えば上記のECS型のAEセンサ100を使用することによって広帯域の周波数0.1kHz~1000kHz(10~100kHzが望ましい)で微生物AEを測定することができる。
(1)培養液でのAE測定の場合、泡の大きさの分布が分かる(泡のサイズが小さいとAEの周波数は高い。気泡核生成と消滅→成長した泡の界面からの脱離→泡同士の合体の順に事象のサイズが大きくなり周波数が低下する。したがって、周波数分布から現在の発泡状態が分かる。
(2)10kHz以上の高周波成分が支配的な微生物AEの場合、ノイズとの分離が容易になる。信号波形の周波数スペクトルから高周波成分が強く低周波成分が弱い信号波形をAEと判定することで、突発的なノイズをAEと誤判定することを防ぐ。
【0044】
図5Aおよび図5Bは、第2のAE判定方法の一例を示す図である。図5Aおよび図5Bの上段のグラフの縦軸は信号波形の信号強度を示しており、横軸は時間経過を示している。図5Aおよび図5Bの下段のグラフは、信号波形をウェーブレット変換した結果であり、縦軸は周波数を示しており、横軸は時間経過を示している。また、図5Aおよび図5Bの左側はフィルタリングを行わなかった場合のグラフを示しており、右側は50kHzのハイパスフィルタリングを行った場合のグラフを示している。
【0045】
図5Aの例では、フィルタリングを行った場合、行わなかった場合の両方において、ピーク周波数fp(70kHz付近)が下限周波数fl(20kHz)よりも高いのでAEが発生したと判定される。これに対して、図5Bの例は、AEが発生したのではなく電磁ノイズが発生したときの信号波形を示している。この場合、例えば圧電素子のように低周波数領域の信号を検出し難いセンサを用いると、図5Bの右側に示すように、下限周波数fl(20kHz)よりも高いピーク周波数のみが検出される結果、AEが発生したと誤判定されるおそれがある。一方、ECS型のAEセンサ100のように0.1-200kHzなど広帯域の信号を検出可能なセンサを使用することによって、下限周波数fl(20kHz)よりも低いピーク周波数を検出することができるので、AE誤検出を防止することができる。
【0046】
第3のAE判定方法
(1)信号処理部400は、あらかじめノイズの周波数スペクトル成分を設定する。または、信号処理部400は、1min~1dayごとに定期的にバックグラウンドノイズを測定し、その周波数スペクトルを求めてノイズ成分として扱う。
(2)信号処理部400は、第1のAE判定方法と同様の方法で信号波形を得て、周波数スペクトルを求める。
(3)信号処理部400は、各周波数成分について、ノイズの周波数成分に対する信号波形の周波数成分の比rfを求める。
(4)信号処理部400は、あらかじめ設定した周波数範囲でrfが所定の値を超えていて、範囲外の周波数でのrfが所定の値を超えていなければAEと判定する。
【0047】
第3のAE判定方法の一例について説明する。図6Aおよび図6Bは、第3のAE判定方法の一例を示す図である。図6Aの上段のグラフは、図5Aの0.0~1.0msをバックグラウンドノイズとして、1.8~2.8msをAEとしてそれぞれのスペクトル強度を示したものであり、図6Aの下段のグラフは、上段のグラフに対するSN比rfを示している(発酵温浴での測定)。図6Bの上段のグラフは、図5Bの0.0~1.0msをバックグラウンドノイズとして、1.8~2.8msをAEとしてそれぞれのスペクトル強度を示したものであり、図6Bの下段のグラフは、上段のグラフに対するSN比rfを示している(発酵温浴での測定)。
【0048】
図6Aの下段のグラフにおいてrfは、下限周波数(20kHz)以上の周波数範囲で所定の値以上であり、下限周波数(20kHz)未満の周波数範囲では2以下で所定の値未満であるので、信号処理部400は、図5Aの信号波形について微生物AEが発生したと判定することができる。一方、図6Bの下段においてrfは、下限周波数(20kHz)以上の周波数範囲で所定の値以上であるが、下限周波数(20kHz)未満の周波数範囲に100を超えるピークがあり所定の値未満ではないので、信号処理部400は、図5Bの信号波形について微生物AEではないと判定することができる。このように、信号処理部400は、スペクトル強度を算出すれば、周波数フィルタリングを行うことなくAEを判定可能である。
【0049】
追加のAE判定方法(ピークカウント)
上記の第1から第3のいずれのAE判定方法も、さらにピークカウントでの判定を加えることができる。信号処理部400は、下記の方法で信号波形のピーク数を調べる。
(1)所定のピークしきい値を超えているピーク
(2)隣接する上記ピークとの間隔が所定のピーク間隔上限値より小さいこと
信号処理部400は、上記を満たすピーク群のピーク数が所定のピーク下限数以上であればAEと判定する。これの判定により、突発的な電磁ノイズを除去できる。
【0050】
追加のAE判定方法の一例について説明する。図7は、追加のAE判定方法の一例を示す図である。図7の上段のグラフおよび下段のグラフの縦軸は信号波形の信号強度を示しており、横軸は時間経過を示している。信号処理部400は、上記の第1から第3のいずれのAE判定方法で微生物AEが発生したと判定され、さらに、以下の条件を満たした場合に、微生物AEが発生したと判定することができる。信号処理部400は、図7のいずれの信号波形についても、ピークしきい値をバックグラウンドノイズの2倍とし、ピーク間隔上限値を50ms、ピーク下限数を2として判定を行う。
【0051】
図7の上段のグラフでは、信号処理部400は、所定のピークしきい値を超えるピーク(図中三角印)が9個あり、かつ、隣接するピーク間の間隔がいずれもピーク間隔上限値より小さいことから、9個のピーク数をカウントする。信号処理部400は、カウントしたピーク数(9個)がピーク下限数(2個)以上であるので、図7の上段の波形について微生物AEが発生したと判定することができる。一方、図7の下段のグラフでは、信号処理部400は、ピークしきい値を超えるピーク(図中三角印)が2個あるが、隣接するこれらのピーク間隔はピーク間隔上限値を超えてしまっていることから、ピーク数はカウントされない。信号処理部400は、カウントしたピーク数(0個)がピーク下限数(2個)未満であるので、図7の下段の波形をノイズと判定することができる。
【0052】
次に、微生物の活動に関する指標の出力について説明する。信号処理部400は、以下の項目に鑑み、AE発生頻度、AE波形の振幅とピーク数、AE波形の周波数スペクトル、AEの到達時間を微生物の活動量の指標とすることができる。
(1)AE発生頻度が高いと微生物の活動量(呼吸や光合成によるガス生成)が多い。
(2)AEの周波数が高いほど、微生物の活動により直接関連する(溶存ガスの核生成と消滅のようなサイズの小さな事象に起因するAEは周波数が高くなる)
(3)AEの到達時間差でAEの発生位置情報(活動場所)が得られる。または、振幅とピーク数から信号強度比を算出すれば、おおまかなAEの発生位置情報(活動場所)が得られる。
【0053】
<第1実施例>
第1実施例として、日本酒の醸造施設において木桶のもろみのAE測定を行った。図8Aおよび図8Bは、第1実施例における日本酒のもろみのAE測定を模式的に示す図である。図8Aは11月の仕込み時期のAE測定を示しており、図8Bは1月の仕込み時期のAE測定を示している。11月の仕込み時期においてはAEセンサ100を木桶702に収容されたもろみ700に吊るし、1月の仕込み時期においてAEセンサ100をステンレス管704に挿入してもろみ700に差し込んだ。この時、温度センサ706も同様に設置した。本実施例では、厚さ0.1mmのシリコーン樹脂の保護層154を取り付けたECS型のAEセンサ100を用いた。1minごとにバックグラウンドノイズを測定してその4倍をしきい値としてAE測定を行った(サンプリング周波:500kHz、信号波形長:1kwords)
【0054】
図9Aおよび図9Bは、日本酒のもろみのAE測定の結果を示す図である。図9Aは11月に仕込んだ日本酒のもろみのAE測定の結果を示しており、図9Bは1月に仕込んだ日本酒のもろみのAE測定の結果を示している。図9Aおよび図9Bの左側のグラフは、縦軸が1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸が時間経過を示している。図9Aおよび図9Bの右側のグラフは、縦軸が温度を示しており、横軸が時間経過を示している。
【0055】
図9Aおよび図9Bに示すように、信号処理部400は、微生物の活動に関する指標としてAEの発生頻度を出力することができる。また、図9Aに示すように、11月に仕込んだ場合、もろみの温度は急速に30℃近くまで増加し、その後ゆるやかに減少した。一方、AE発生頻度(1時間ごとのAE検出数)は、仕込み後1週間までは大きく変動し、その後大きく減少した。図9Bに示すように、1月に仕込んだ場合、もろみの温度は22℃までゆるやかに上昇したのち、減少に転じた。一方、AE発生数は測定期間中大きく変動したが、特に仕込み後12日後までが変動が大きかった。
【0056】
仕込み時期によりAEの発生挙動は大きく異なったが、測定終了後のアルコール濃度はそれぞれ19.6%および19.5%であり、ほぼ同じ値となった。このようにAE測定により温度やアルコール濃度からは把握できない酵母の動きを可視化することができる。また、アルコール濃度は同じでも仕込み時期により出来上がった日本酒の味わいは大きく異なる。すなわち、AEの発生挙動をモニタリングすることで仕込み時期による日本酒の特長の違いを予測できるようになる。
【0057】
<第2実施例>
第2実施例として、ラン藻を100×100×100mmのアクリルの培養槽で培養し、AE測定を行った。図10は、第2実施例におけるラン藻のAE測定を示す図である。ラン藻は荒川で採取し、シリンジフィルタで微細なラン藻のみ抽出したのち、1ヵ月培養してからAE測定を行った。本実施例では、厚さ0.1mmのシリコーン樹脂の保護層154を取り付けたECS型のAEセンサ100を用いた。本実施例では、2つのAEセンサ100(第1のAEセンサ100-1と第2のAEセンサ100-2)のそれぞれの受感部102が培養槽802の中心に向くように、2つのAEセンサ100を培養槽802の内壁面に取り付け、センサ間距離は深さ方向で50mmとした(中心間距離)。培養槽802の内部に培養液800およびラン藻を収容し、埼玉大学内のビニールハウス内に培養槽802を置き、1minごとにバックグラウンドノイズを測定してその4倍をしきい値としてAE測定を行った(サンプリング周波:500kHz、信号波形長:10kwords)。このとき同時に照度測定も行った。5日間の測定のうち、day0、3、4は晴天であった。
【0058】
本実施例では、信号処理部400は下記の方法でAE判定を行った。
(1)方法A:第1のAE判定方法を用いた。信号処理部400は、周波数フィルタリングは用いず、S/N比Rsnが4を超えた場合AEと判定した。
(2)方法B:第2のAE判定方法を用いた。信号処理部400は、60kHzを所定の下限周波数とし、S/N比Rsnが4を超えた場合AEと判定した。
いずれの方法も、ピークカウントによるAE判定を追加した(ピークしきい値:S/N比で6dB、ピーク間隔上限値:10ms)
【0059】
図11は、ラン藻のAE測定の結果を示す図である。図11の上段のグラフは上記の方法AによるAE測定の結果であり、縦軸は1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸は時間経過を示している。図11の中段のグラフは上記の方法BによるAE測定の結果であり、縦軸は1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸は時間経過を示している。図11の下段のグラフは縦軸が照度を示しており、横軸が時間経過を示している。
【0060】
図11の上段のグラフによれば、いずれも晴天時にAE発生数が増加しており、ラン藻が活発に活動したためと考えられる。しかし、図11の中段のグラフによれば、方法Bでは方法Aよりday0、3でのAE数が大きく低下している。これは、方法Aで検出されたAEには低周波成分を強く含むAEが多く含まれているためである。ラン藻が光合成を行えば酸素が発生し、それに伴い溶存酸素の核生成と消滅の頻度が増す。そのため高周波成分が強いAEの挙動がラン藻の光合成活性と強く関連すると考えられる。つまり、方法BのAE発生挙動の方がラン藻の光合成活動をより正確に表していると考えられ、照度測定では得られないラン藻の光合成活動の情報をAE測定により得ることができる。
【0061】
また、信号処理部400は、微生物の活動に関する指標としてAEの発生位置を出力することができる。図12は、ラン藻のAE発生位置分布と照度との比較を示す図である。図12の上段のグラフは縦軸が照度を示しており、横軸が時間経過を示している。図12の中段のグラフはラン藻のAE発生位置分布であり、縦軸はラン藻のAE発生深さ位置を示しており、横軸は時間経過を示している。図12の下段のグラフはAE測定の結果であり、縦軸は1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸は時間経過を示している。
【0062】
信号処理部400は、第1のAEセンサ100-1によって検出された第1のAE信号と第2のAEセンサ100-2によって検出された第2のAE信号の信号強度比に基づいてAEの発生位置を出力することができる。すなわち、信号処理部400は、方法Bにおいて、信号波形の強さからAE発生位置を推定した。図10に示すように上部と下部に設置した第1のAEセンサ100-1と第2のAEセンサ100-2をそれぞれCH1、CH2として、それぞれの信号波形の両振幅Vpp1、Vpp2を用いて以下の式から信号比R12を求めた。R12=Vpp2/(Vpp1+Vpp2)
【0063】
そして、信号処理部400は、培養槽802の深さ方向の位置をzとして、R12に50mmを掛けた値を深さ方向のAE発生位置とした。推定されたAE発生位置分布は図12の中段のグラフに示すように、深さ方向のAE発生位置が一定ではなく、日により大きく変動しているが、晴天の日は浅い深さでのAEが多いことが分かる。これは、ラン藻が活発に光合成を行うとCO2が不足するためと思われる。その場合、培養液の液面近くの方が外部からのCO2の拡散が早いため、ラン藻は浅い位置で活発に活動する傾向を示すと考えられる。このように、AE発生位置分布を推定することでラン藻がどの位置で活発に光合成を行っているかを把握することができるため、培養槽802の攪拌を効率的に行うことができる。
【0064】
また、信号処理部400は、信号処理部400は、第1のAEセンサ100-1によって検出された第1のAE信号と第2のAEセンサ100-2によって検出された第2のAE信号との到達時間差に基づいてAEの発生位置を出力することもできる。図13は、ラン藻のAE発生位置推定について説明するための図である。図13の上段のグラフにおいて、縦軸は第1のAEセンサ100-1(CH1)によって検出された第1のAE信号と第2のAEセンサ100-2(CH2)によって検出された第2のAE信号の信号強度を示しており、横軸は時間経過を示している。図13の下段のグラフは、図13の上段のグラフの一部を拡大したものである。
【0065】
信号処理部400は、複数のAEセンサのAEの到達時間差からもAE発生位置を推定することができる。図13に示すように、2つAEセンサCh1、Ch2でのAEの到達時間は、しきい値をこえた最初のピークの時間として、Ch2に対するCh1の到達時間の差を到達時間差Δtとする。その場合、図13に示すAE発生位置zは以下の式で表される。z=v・Δt/2+h/2
【0066】
ここで、hはCh1とCh2のセンサの中心間距離、vは培養液中での音速を示す。例えば、h=50mm、培養液の音速が1500m/sでΔtが8μsの場合、zは31mmとなり、AE発生位置はCh1のAEセンサ100-1からCh2方向へ31mmの位置となる。2つのセンサの場合、1次元の位置推定しかできないが、センサの数を増やせば、精度が向上するだけでなく3次元の位置推定も可能となる。到達時間差でAE発生位置を推定する場合、時間分解能が精度に大きく影響する。そのため、AE測定のサンプリング周波数は高い方がよく、100kHz-10MHzが望ましい。
【0067】
<第3実施例>
第3実施例として椎茸の菌床でのAE測定を行った。図14は、第3実施例における椎茸の菌床のAE測定を模式的に示す図である。図14に示すように、菌床(培地)でのAE測定を行う場合、菌床900に受感部102が直接接触するように、AEセンサ100をゴムバンド902で菌床900に取り付けた。本実施例では、厚さ0.1mmのシリコーン樹脂の保護層154を取り付けたECS型のAEセンサ100を用いた。そして、埼玉大学内のビニールハウス内に培養槽を置き、1minごとにバックグラウンドノイズを測定してその2倍をしきい値としてAE測定を行った(サンプリング周波:96kHz、信号波形長:10kwords)。
【0068】
本実施例では、完熟菌床を2つ用意し、1つ(菌床A)はそのままAE測定を行ったところ、測定開始後2日後以降、多数の子実体の形成が認められた。もう1つ(菌床B)は、オートクレーブ処理を行うことで減菌してAE測定を行ったところ、子実体の形成は認められなかった。本実施例では、信号処理部400は、第1のAE判定方法を用いて500Hzのハイパスフィルタリングを行い、AEを判定した。
【0069】
図15Aは、椎茸の菌床AのAE測定の結果を示す図である。図15Bは、椎茸の菌床BのAE測定の結果を示す図である。図15Aおよび図15Bの上段のグラフは、縦軸が1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸が時間経過を示している。図15Aおよび図15Bの下段のグラフは、縦軸がAEのピーク周波数を示しており、横軸が時間経過を示している。図15Aおよび図15Bの下段のグラフのように、信号処理部400は、微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力することができる。
【0070】
図15Bに示すように、子実体を形成しなかった菌床BではほとんどAEは検出されなかったが、図15Aに示すように菌床Aは、多数のAEが検出された。検出されたAEの大半は1-5kHzに周波数ピークを有しており、菌糸の成長と子実体の形成にともない内部に溜まっていたガスが突発的に拡散してAEが生じたものと思われる。椎茸の子実体形成は、打撃や電撃のような外的刺激により促進されることが知られている。外的刺激を与える前後でAE測定を行えば、菌の活動が活発になったかどうかを知ることができ、効率的に子実体を形成させることができる。微生物AEのピーク周波数分布を出力することにより、微生物の活動を把握し易くなる。
【0071】
<第4実施例>
木屑(おがくず、おが粉を含む)をヌカと混ぜ合わせて、菌により発酵させることで肥料にしたり、その熱を温浴に利用したりすることが行われているが、このような場合も、微生物AEを測定することで発酵の活性度を可視化できる。第4実施例として、おが粉と米糠と水の混合物のAE測定を行った。図16は、第4実施例におけるおが粉と米糠と水の混合物のAE測定を模式的に示す図である。
【0072】
図16のように、おが粉と米糠と水の混合物を浴槽910に入れると発酵による熱で温浴が可能となるが、この浴槽910中の微生物AE測定を行った。具体的には、ステンレス管912に、ECS型の第1のAEセンサ100-1、第2のAEセンサ100-2と、第1の温度センサ706-1、第2の温度センサ706-2とを取り付けて浴槽910内に設置した。AEセンサ100-1(Ch1)、100-2(Ch2)から出力された信号をプリアンプ200で増幅後、PCMレコーダーで12時間録音を行った(サンプリング周波数48kHz)。そして、録音データから下限周波数を2kHzとして第3のAE判定方法でAEを検出した。
【0073】
図17は、おが粉と米糠と水の混合物のAE測定の結果を示す図である。図17の上段のグラフの縦軸は1時間あたりの平均温度を示しており、横軸は時間経過を示している。15の上段のグラフのT1は第1の温度センサ706-1によって計測された温度であり、T2は第2の温度センサ706-2によって計測された温度である。図17の下段のグラフの縦軸は1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸は時間経過を示している。図17の下段のグラフのCh1は第1のAEセンサ100-1によるAEの検出数であり、Ch2は第2のAEセンサ100-2によるAEの検出数である。
【0074】
浴槽内を一度よく攪拌してから測定を開始したため、測定開始時には浴槽910は低温で、発酵が進むにつれて浴槽内の温度は上昇していく。一方、AE数はピークを有しており、第1のAEセンサ100-1では測定開始5時間後に、第2のAEセンサ100-2では7時間後に最大のAE数を示した。この結果から、温度上昇に伴い水分が抜けて発酵が進まなくなったため、5-7時間後に発酵の活性度が最大であったことが分かる。すなわち、微生物AEを測定することで、温度測定では知りえない発酵の活性度をリアルタイムに把握できる。
【0075】
なお、この実施例での微生物AEは、複数の事象から発生していると考えられる。図18は、おが粉と米糠と水の混合物のAEのピーク周波数分布を示す図である。図18の上段のグラフは第1のAEセンサ100-1によって検出されたAEのピーク周波数分布を示しており、図18の下段のグラフは第2のAEセンサ100-2によって検出されたAEのピーク周波数分布を示している。図18の上下段のグラフの縦軸はAEのピーク周波数を示しており、横軸は時間経過を示している。
【0076】
図18に示すように、信号処理部400は、微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力することができる。これにより、図18に示すように、2-16kHzと広範囲の周波数でAEが発生していることがわかる。AEの発生源は水分の蒸発(高周波)、水蒸気やCO2ガスの突発的な拡散(低周波)、木屑中のセルロースの分解による木屑の破壊(高周波)、破壊された木屑の落下(低周波)などが考えられ、それらの事象により発生するAEのピーク周波数が大きく異なる。しかし、いずれも発酵に伴い生じる事象であり菌の活動を反映している。微生物の活動に関する指標として微生物AEのピーク周波数分布を出力することにより、微生物の活動状態を把握し易くなる。
【0077】
この実施例の場合、測定環境は70℃に達しており、このような高温環境下で簡便に菌の活動をリアルタイムに測定できる点で、本実施形態の測定方法および測定装置は有用である。以上、上記の第1から第4実施例によれば、従来技術では知られていない新たなパラメータである微生物AEに基づいて微生物の活動に関する指標を出力することができるので、より多角的に微生物の活動状態を把握することができる。また、上記の第1から第4実施例によれば、微生物AEに基づいて微生物の活動に関する指標を出力するので、従来技術で用いられていたパラメータでは得られない微生物の活動状態を把握することができる。例えば、従来技術で用いられていた温度測定は、微生物の活動に起因する発熱が生じてから培養液および培地内部へ熱が拡散することで温度変化を検出できる。そのため、微生物が活発に活動している場所を特定することはできず、応答性も低いため活発に活動している時間を知ることは困難である(図17の結果からも明らか)。また、従来技術で用いられてきた溶存酸素測定は、微生物の光合成や呼吸による溶存酸素濃度の変化を測定するため、多点測定を行えば微生物が活発に活動している場所を特定できる可能性がある。しかし、測定に使用するセンサが高価なため多点測定するのは現実的ではない。また、光合成によって溶存酸素が飽和した場合、溶存酸素濃度は変化しなくなるので微生物の活動を知ることはできなくなる。これに対して本実施形態は、ECSやマイクロフォンであれば低コストで多点測定が可能であるため、微生物が活発に活動している場所を特定することが可能である。また、AE発生頻度はガスの気泡核生成頻度と関連し、微生物の活動によりガスの溶存濃度が変化すると気泡核生成頻度も変わるため、AE発生頻度で時間応答性に優れた微生物の活動状態の測定が可能となる。さらに、溶存ガスが飽和濃度に達しても、微生物が放出したガスの量だけ気泡が発生してAEが生じるため、AE発生頻度で微生物の活動を知ることができる。
【0078】
<生産管理>
信号処理部400によって微生物の活動に関する指標が出力されたら、これらのパラメータを用いて微生物の培養環境を調節して生産管理を行うことができる(培養液または培地の温度、水分率、電気伝導度、PH、培地周辺の温湿度、光量、CO2またはCO2濃度など)。ここでは、第1実施例を用いた生産管理の例を説明する。もろみを醸造する際、定期的にもろみを攪拌することで酵母を活性化させる作業が行われるが、実施するタイミングは経験的に判断されている。図19は、微生物AE測定を用いた第1の生産管理例を示す図である。図19のグラフは、攪拌を実施したときのAE測定結果であり、縦軸が1時間当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸が時間経過を示している。
【0079】
図19に示す矢印A、B、Cのタイミングでもろみの攪拌を行った結果、攪拌後AEが増加しており酵母が活性化していることが分かる。また、AE発生頻度が大きく低下した際に攪拌した方が、効果が高いことも分かる。
【0080】
すなわち、AE発生頻度が一定レベルを下回った時にもろみの攪拌を行うことで効率的に酵母を活性化させることができる。ステンレスタンクでの醸造では温度管理を行うが、温度管理についても同様にAE発生頻度が一定レベルを下回った時に温度を上げて、一定レベルを上回ったときに温度を下げることで酵母の活性を制御できる。
【0081】
次に、他の微生物の生産管理の例を説明する。本例では、イースト菌を混合した溶液を100×100×100mmのアクリルの培養槽に入れて、AE測定を行った。まず、蒸留水400mLにドライイーストを0.25mass%混合して、ECS型のAEセンサ100を設置した培養槽に注いでAE測定を開始した。30分後、濃度10mass%の砂糖水をさらに添加した。さらに、測定開始時は空調により気温を22℃に維持していたが、450分後に空調を切ることで気温を27℃まで上昇させた。
【0082】
図20は、微生物AE測定を用いた第2の生産管理例を示す図である。図20のグラフは、縦軸が1分当たりのAEの検出数(発生数)を示しており、横軸が時間経過を示している。図20に示すように、AE測定開始30分までは、ほとんどAEは検出されず、イースト菌が活動していないことが分かる。そして、砂糖水を添加すると(図20の矢印a)、AE数が増加してイースト菌の活動が始まったことが分かる。さらに、気温を上昇させはじめると(図20の矢印b)、AE数が著しく急増してイースト菌の活動が促進されたことが分かる。
【0083】
このように、AE発生頻度が一定の範囲内になるように、糖や温度を調節すれば、イースト菌の活性を一定のレベルで維持することができる。例えば、パン生地の発酵においてAEセンサをパン生地に取り付けてイースト菌の活性が高くなりすぎないように維持すれば、過発酵によるパンの品質低下を容易に防ぐことが可能となる。
【0084】
次に、本実施形態の測定方法について説明する。図21は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。図21に示すように、本実施形態の測定方法は、まず、AEセンサ100の受感部102が微生物の培養液または培地に直接接触するようにAEセンサを設置する(設置ステップ102)。設置ステップ102は、1つのAEセンサ100を設置してもよいし、複数のAEセンサ(例えば第1のAEセンサ100-1と第2のAEセンサ100-2)を設置することもできる。
【0085】
続いて、測定方法は、AEセンサ100の受感部102によって検出されたAE信号に基づいて、微生物AEが発生したか否かについて判定する(判定ステップ104)。判定ステップ104は、具体的には、上記の第1~第3のAE判定方法、および追加の判定方法を用いて、微生物AEが発生したか否かを判定する。
【0086】
続いて、測定方法は、判定ステップ104による判定に基づいて、微生物の活動に関する指標を出力する(信号処理ステップ106)。信号処理ステップ106は、具体的には、微生物の活動に関する指標として、上記の第1~第4実施例で示したように、微生物AEの発生頻度、微生物AEの発生位置、微生物AEのピーク周波数分布などを出力することができる。例えば微生物AEの発生位置を出力する場合、信号処理ステップ106は、上記で説明したように、第1のAEセンサ100-1によって検出された第1のAE信号と第2のAEセンサ100-2によって検出された第2のAE信号との到達時間差、または、第1のAE信号と第2のAE信号の信号強度比、に基づいてAEの発生位置を出力することができる。信号処理ステップ106は、入出力インターフェース500を介して微生物の活動に関する指標をユーザに提示することができる。
【0087】
続いて、測定方法は、信号処理ステップ106によって求められた微生物の活動に関する指標に基づいて、微生物の培養環境を調節する(調節ステップ108)。調節ステップ108は、具体的には、上記の第1および第2の生産管理例のように、微生物の活動が所望の状態になるように、培養液または培地の温度、水分率、電気伝導度、PH、培地周辺の温湿度、光量、CO2またはCO2濃度などを調整することができる。
【0088】
以上、本発明の測定装置1000および測定方法について説明したが、以下、想定される本発明の用途を説明する。
想定される用途(本手法で培養制御可能な製品)
(1)醸造酒の製造
(a)酵母の発酵状態の可視化(発酵によるガスの放出や気泡核生成・消滅に伴うAEの検出)
(b)発酵させる原料や酵母の種類による発酵の違いを定量化
(c)発酵の活動量の制御(温度、水分、原料や酵母の添加など)による品質と生産効率の向上
(d)醸造時の管理の最小化による省エネルギー化・省力化(酵母の活動を監視することで必要最小限の管理が可能)
【0089】
(2)醸造酒以外の発酵食品
(a)酵母の発酵状態の可視化(発酵によるガスの放出や気泡核生成・消滅に伴うAEの検出)
(b)ヨーグルト、キムチ、納豆、食酢(乳酸菌、納豆菌、酢酸菌などの細菌)、酒、パン、しょうゆ、みそ、チーズ、お茶(酵母、カビ)
(c)生地や酵母の種類による発酵の違いを定量化
(d)発酵に適切な環境の把握(過発酵の防止)
(e)ロットごとに最適な発酵状態で焼成(品質向上)
【0090】
(3)バイオ燃料を含むバイオマス製造関連ラン藻やミドリムシの培養
(a)ラン藻やミドリムシの培養
(b)バイオエタノール、バイオガス、たい肥の製造
(c)簡便な藻類や原生生物の光合成活性の測定(溶存酸素の核生成・消滅に伴うAEの検出)
(d)藻類や原生生物の種類による光合成の違いを定量化
(e)光合成活動の制御(温度、光量、攪拌、CO2濃度)による品質と生産効率の向上
(f)培養時の管理の最小化による省エネルギー化・省力化(光合成活性を監視することで必要最小限の管理が可能)
【0091】
(4)椎茸などキノコの栽培(菌床栽培と原木栽培)
(a)菌類の活動状態の測定(菌糸成長や子実体形成時のガス放出に伴うAEの検出)
(b)椎茸菌や培地の種類による活動状態の違いを定量化
(c)椎茸菌活動状態の制御(温度、光量、水分、力学的・電気的刺激)による品質と生産効率の向上
(d)栽培時の管理の最小化による省エネルギー化・省力化(外的刺激による子実体形成の促進効果を可視化)
【0092】
(5)発酵浴、発酵エキスなど美容分野での発酵を利用した製品
【符号の説明】
【0093】
100 AEセンサ
100-1 第1のAEセンサ
100-2 第2のAEセンサ
102 受感部
102 設置ステップ
104 判定ステップ
106 信号処理ステップ
108 調節ステップ
400 信号処理部
1000 測定装置
fl 下限周波数
fp ピーク周波数
z AE発生位置
Δt 到達時間差
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20
図21