(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041355
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】渦電流探傷装置および探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/904 20210101AFI20230316BHJP
【FI】
G01N27/904
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148688
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 タケル
(72)【発明者】
【氏名】畠中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DB02
(57)【要約】
【課題】きずの見落としを防止する。
【解決手段】渦電流探傷装置は、探傷対象物との接触面214を有するプローブ本体210と、プローブ本体210に設けられる励磁コイル(第1励磁コイル224、第2励磁コイル234)と、プローブ本体210に設けられ、中心軸が接触面214と略直交する第1検出コイル222と、プローブ本体210に設けられ、第1検出コイル222の中心軸との為す角が鋭角である中心軸を有する第2検出コイル232と、励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により探傷対象物に誘導電流を発生させる励磁部と、第1検出コイル222を通じて、誘導電流に基づく第1の検出信号を検出している間に、第2検出コイル232を通じて、誘導電流に基づく第2の検出信号を検出する検出部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
探傷対象物との接触面を有するプローブ本体と、
前記プローブ本体に設けられる励磁コイルと、
前記プローブ本体に設けられ、中心軸が前記接触面と略直交する第1検出コイルと、
前記プローブ本体に設けられ、前記第1検出コイルの中心軸との為す角が鋭角である中心軸を有する第2検出コイルと、
前記励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により前記探傷対象物に誘導電流を発生させる励磁部と、
前記第1検出コイルを通じて、前記誘導電流に基づく第1の検出信号を検出している間に、前記第2検出コイルを通じて、前記誘導電流に基づく第2の検出信号を検出する検出部と、
を備える、渦電流探傷装置。
【請求項2】
前記第1検出コイルおよび前記第2検出コイルは、前記励磁コイルと前記接触面との間に設けられる、請求項1に記載の渦電流探傷装置。
【請求項3】
前記第2検出コイルは、前記第1検出コイルの中心軸との為す角が35°以上55°以下である中心軸を有する、請求項1または2に記載の渦電流探傷装置。
【請求項4】
探傷対象物との接触面を有するプローブ本体と、前記プローブ本体に設けられる励磁コイルと、前記プローブ本体に設けられ、中心軸が前記接触面と略直交する第1検出コイルと、前記プローブ本体に設けられ、前記第1検出コイルの中心軸との為す角が鋭角である中心軸を有する第2検出コイルと、を備える渦電流探傷装置を用いた探傷方法であって、
前記励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により前記探傷対象物に誘導電流を発生させる工程と、
前記第1検出コイルを通じて、前記誘導電流に基づく第1の検出信号を検出している間に、前記第2検出コイルを通じて、前記誘導電流に基づく第2の検出信号を検出する工程と、
前記第1の検出信号の信号強度と、前記第2の検出信号の信号強度との差分が所定値以上である場合に、きずがある旨を報知する工程と、
を含む、探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、渦電流探傷装置および探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋼橋の点検は、目視検査および磁粉探傷試験(MT:Magnetic particle Testing)によって為されていた。目視検査において、塗膜割れや錆汁が発見された場合、まず、塗膜割れや錆汁が発生している箇所の塗膜を剥離して、金属部を露出させる。そして、磁粉探傷試験によって、金属部のきず(亀裂)の有無を検出していた。
【0003】
しかし、磁粉探傷試験は、塗膜を剥離する必要があり、人材確保や工数の増大によってコストが増加してしまうという問題である。
【0004】
そこで、渦電流探傷装置を用いて、塗膜上から探傷を行う技術が検討されている(例えば、特許文献1)。この場合、渦電流探傷装置によって得られる検出信号が所定の閾値を超えた場合に、きずがあると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
渦電流探傷装置における検出信号は、検出コイルの中心軸の方向と、きずの深さ方向とが一致した場合に最大となる。
【0007】
しかし、塗膜上から、きずの深さ方向を目視することはできない。また、塗膜割れの位置ときずの位置とが一致しない場合もあり、塗膜上からきずの位置が確認できないこともある。このため、検出コイルの中心軸の方向と、きずの深さ方向とを一致させるには、熟練の技が必要となり、検査技術者の熟練度によって、検出信号の信号強度の誤差によるきずの誤判定や、きずの見落としが生じるおそれがあった。
【0008】
本開示は、このような課題に鑑み、きずの見落としを防止することが可能な渦電流探傷装置および探傷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る渦電流探傷装置は、探傷対象物との接触面を有するプローブ本体と、プローブ本体に設けられる励磁コイルと、プローブ本体に設けられ、中心軸が接触面と略直交する第1検出コイルと、プローブ本体に設けられ、第1検出コイルの中心軸との為す角が鋭角である中心軸を有する第2検出コイルと、励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により探傷対象物に誘導電流を発生させる励磁部と、第1検出コイルを通じて、誘導電流に基づく第1の検出信号を検出している間に、第2検出コイルを通じて、誘導電流に基づく第2の検出信号を検出する検出部と、を備える。
【0010】
また、第1検出コイルおよび第2検出コイルは、励磁コイルと接触面との間に設けられてもよい。
【0011】
また、第2検出コイルは、第1検出コイルの中心軸との為す角が35°以上55°以下である中心軸を有してもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る探傷方法は、探傷対象物との接触面を有するプローブ本体と、プローブ本体に設けられる励磁コイルと、プローブ本体に設けられ、中心軸が接触面と略直交する第1検出コイルと、プローブ本体に設けられ、第1検出コイルの中心軸との為す角が鋭角である中心軸を有する第2検出コイルと、を備える渦電流探傷装置を用いた探傷方法であって、励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により探傷対象物に誘導電流を発生させる工程と、第1検出コイルを通じて、誘導電流に基づく第1の検出信号を検出している間に、第2検出コイルを通じて、誘導電流に基づく第2の検出信号を検出する工程と、第1の検出信号の信号強度と、第2の検出信号の信号強度との差分が所定値以上である場合に、きずがある旨を報知する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、きずの見落としを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る渦電流探傷装置の探傷対象物を説明する図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る渦電流探傷装置は、プローブと、制御ユニットとを含む。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るプローブを説明する図である。
【
図5】
図5は、支持体に生じるきずと、第1検出コイルおよび第2検出コイルとの関係を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、接触面が探傷対象物に接触している場合であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
【
図9】
図9は、接触面が探傷対象物に接触している場合であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る渦電流探傷装置100の探傷対象物10を説明する図である。本実施形態の
図1および後述する
図5では、垂直に交わるX軸(水平方向、道路幅方向)、Y軸(水平方向、道路長方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0017】
図1に示すように、探傷対象物10は、例えば、鋼橋である。探傷対象物10は、支持体20と、舗装体30とを含む。
【0018】
支持体20は、鋼製の部材で構成される床版である。支持体20は、車両による鉛直下方の荷重を支持する。支持体20の表面は、塗膜で覆われている。支持体20は、第1板22と、第2板24と、溶接部26とを含む。
【0019】
第1板22は、略水平方向に延在する鋼板である。第2板24は、第1板22から鉛直下方に立設する鋼板である。第2板24は、第1板22に溶接(例えば、隅肉溶接)される。溶接部26は、第1板22と、第2板24とが溶接された結果、形成される部位である。
【0020】
舗装体30は、第1板22上に積層される。舗装体30は、アスファルト等で構成される。車両は、舗装体30上を走行する。
【0021】
上記舗装体30上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、支持体20における溶接部26等に、亀裂等のきずが生じる場合がある。亀裂は、溶接部26から第1板22に向かって、もしくは、溶接部26から第2板24に向かって進展する。
【0022】
そこで、下記
図2等に示す渦電流探傷装置100は、支持体20におけるきずの有無を検査する。
【0023】
[渦電流探傷装置100]
図2は、本実施形態に係る渦電流探傷装置100は、プローブ110と、制御ユニット120とを含む。以下、各構成について説明する。
【0024】
[プローブ110]
図3は、本実施形態に係るプローブ110を説明する図である。
図4は、
図3のIV-IV線断面図である。
【0025】
図3、
図4に示すように、プローブ110は、プローブ本体210と、第1コイルユニット220と、第2コイルユニット230とを含む。
【0026】
プローブ本体210は、把持部212と、接触面214と、傾斜面216とを含む。プローブ本体210は、例えば、プラスチックで形成される。
【0027】
把持部212は、例えば、四角柱形状の部分である。把持部212は、検査技術者に把持される。
【0028】
接触面214は、プローブ本体210の先端210aに設けられる。接触面214は、探傷対象物10と接触可能な平面である。つまり、検査技術者は、把持部212を把持して、接触面214を探傷対象物10に接触させて、探傷を行う。また、検査技術者は、探傷を行う際、
図4における奥行き方向と、
図1のY軸方向とが一致するように、接触面214を探傷対象物10に接触させる。本実施形態において、接触面214の面積は、把持部212の断面積よりも小さい。
【0029】
傾斜面216は、把持部212と接触面214との間に設けられる。本実施形態において、プローブ本体210は、4つの傾斜面216を有する。4つの傾斜面216の傾斜角は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
第1コイルユニット220は、第1検出コイル222および第1励磁コイル224で構成される。第2コイルユニット230は、第2検出コイル232および第2励磁コイル234で構成される。第1コイルユニット220および第2コイルユニット230の構成は、接触面214との為す角およびプローブ本体210内の位置が異なること以外、実質的に等しい。また、第1コイルユニット220は、第2コイルユニット230と、
図4における奥行き方向の位置を異にして設けられる。
【0031】
第1検出コイル222は、プローブ本体210内に設けられる。第1検出コイル222の中心軸は、接触面214と直交する。つまり、第1検出コイル222の中心軸と、接触面214との為す角αは、90°である。
【0032】
第1励磁コイル224(励磁コイル)は、プローブ本体210内に設けられる。第1励磁コイル224は、第1検出コイル222よりも接触面214から離隔して設けられる。つまり、第1検出コイル222は、第1励磁コイル224と接触面214との間に設けられる。これにより、第1励磁コイル224によって印加される交流電流に基づくノイズの、第1検出コイル222への入力を抑制することができる。
【0033】
第1励磁コイル224の中心軸(
図4における奥行き方向)は、第1検出コイル222の中心軸と直交する。
【0034】
第2検出コイル232は、プローブ本体210内に設けられる。第2検出コイル232の中心軸と第1検出コイル222の中心軸との為す角βは、鋭角(0°超90°未満)である。角βは、例えば、35°以上55°以下である。本実施形態において、角βは、45°である。
【0035】
第2励磁コイル234(励磁コイル)は、プローブ本体210内に設けられる。第2励磁コイル234は、第2検出コイル232よりも接触面214から離隔して設けられる。つまり、第2検出コイル232は、第2励磁コイル234と接触面214との間に設けられる。これにより、第2励磁コイル234によって印加される交流電流に基づくノイズの、第2検出コイル232への入力を抑制することができる。
【0036】
第2励磁コイル234の中心軸(
図4における奥行き方向)は、第2検出コイル232の中心軸と直交する。
【0037】
図5は、支持体20に生じるきずと、第1検出コイル222および第2検出コイル232との関係を説明する図である。なお、
図5中、破線は、きずを示す。また、
図5中、太線は、第1検出コイル222の中心軸の方向222aおよび第2検出コイル232の中心軸の方向232aを示す。
【0038】
支持体20において、第1板22と第2板24とが離隔する方向、または、第1板22と第2板24とが近接する方向に応力がかかる。このため、
図5に示すように、きずは、溶接部26における端部26a、26bから進展する。また、きずは、支持体20における方向A、方向B、方向C、または、方向Dに向かって進展することが多い。方向Aは、第1板22の面内方向(
図5中、XY面内方向)と直交する方向(
図5中、Z軸方向)である。方向Bは、第2板24の面内方向(
図5中、YZ面内方向)と直交する方向(
図5中、X軸方向)である。方向Cは、第1板22の面内方向との為す角が45°となる方向である。方向Dは、第2板24の面内方向との為す角が45°となる方向である。
【0039】
検査技術者によってプローブ110が支持体20上を走査される場合、第1板22、溶接部26、第2板24の順、または、第2板24、溶接部26、第1板22の順で走査される。
【0040】
ここで、プローブ110の接触面214が第1板22に接触し、傾斜面216が溶接部26に接触する場合、第1検出コイル222の中心軸の方向222aと方向Aとを概ね一致させることができる。また、第1検出コイル222の中心軸と、第2検出コイル232の中心軸との為す角βが45°であるため、第1検出コイル222の中心軸の方向222aを方向Aに一致させると、第2検出コイル232の中心軸の方向232aを方向Cに一致させることができる。
【0041】
同様に、プローブ110の接触面214が第2板24に接触し、傾斜面216が溶接部26に接触する場合、第1検出コイル222の中心軸の方向222aと方向Dとを概ね一致させることができる。また、第1検出コイル222の中心軸と、第2検出コイル232の中心軸との為す角βが45°であるため、第1検出コイル222の中心軸の方向222aを方向Dに一致させると、第2検出コイル232の中心軸の方向232aを方向Bに一致させることができる。
【0042】
したがって、本実施形態に係るプローブ110は、接触面214を第1板22に当接させた状態で、方向Aに進展したきずと、第1検出コイル222の中心軸の方向222aとを一致させ、また、方向Bに進展したきずと、第2検出コイル232の中心軸の方向232aとを一致させることができる。同様に、本実施形態に係るプローブ110は、接触面214を第2板24に当接させた状態で、方向Dに進展したきずと、第1検出コイル222の中心軸の方向222aとを一致させ、また、方向Cに進展したきずと、第2検出コイル232の中心軸の方向232aとを一致させることが可能となる。
【0043】
[制御ユニット120]
図6は、本実施形態に係る制御ユニット120の機能ブロック図である。
図6に示すように、制御ユニット120は、励磁部310と、検出部330と、A/D変換器340と、中央制御部360と、メモリ370と、表示装置380とを含む。
【0044】
励磁部310は、第1励磁コイル224および第2励磁コイル234に交流電流を印加し、電磁誘導により探傷対象物10(支持体20)に誘導電流を発生させる。本実施形態において、励磁部310は、ファンクションジェネレータ312と、アンプ314とを含む。
【0045】
ファンクションジェネレータ312(
図6中「F/G」で示す)は、第1の周波数の交流信号、および、第1の周波数とは異なる第2の周波数の交流信号を発生させる。ファンクションジェネレータ312による交流信号は、アンプ314および検出部330に出力される。
【0046】
アンプ314(
図6中「B/P」で示す)は、ファンクションジェネレータ312による第1の周波数の交流信号を増幅し、第1励磁コイル224に交流電流を印加する。同様に、アンプ314は、ファンクションジェネレータ312による第2の周波数の交流信号を増幅し、第2励磁コイル234に交流電流を印加する。そうすると、電磁誘導により探傷対象物10に誘導電流が発生する。アンプ314は、例えば、バイポーラ電源である。
【0047】
検出部330は、例えば、ロックインアンプ(
図6中「L/I」で示す)で構成される。検出部330は、ファンクションジェネレータ312から出力された第1の周波数の交流信号(リファレンス信号)に基づき、第1検出コイル222によって検出された交流電圧から、第1励磁コイル224に印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく第1の検出信号)を抽出する。同様に、検出部330は、ファンクションジェネレータ312から出力された第2の周波数の交流信号(リファレンス信号)に基づき、第2検出コイル232によって検出された交流電圧から、第2励磁コイル234に印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく第2の検出信号)を抽出する。
【0048】
A/D変換器340(
図6中「A/D」で示す)は、検出部330の出力値(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。
【0049】
中央制御部360は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部360は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部360は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して渦電流探傷装置100全体を管理および制御する。
【0050】
メモリ370は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ370は、中央制御部360に用いられるプログラムや各種データを記憶する。
【0051】
表示装置380は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される。
【0052】
また、本実施形態において、中央制御部360は、判定部362、報知部364として機能する。
【0053】
判定部362は、第1検出コイル222を通じて検出された第1の検出信号の信号強度と、第2検出コイル232を通じて検出された第1の検出信号の信号強度とに基づき、きずの有無を判定する。判定部362による、きずの有無の判定については、後に詳述する。
【0054】
報知部364は、判定部362によってきずが有ると判定した場合には、その旨を表示装置380に表示させる。
【0055】
[探傷方法]
続いて、上記渦電流探傷装置100を用いた、探傷対象物10を探傷する探傷方法について説明する。
図7は、本実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、本実施形態に係る探傷方法は、電流印加工程S110、信号検出工程S120、第1判定工程S130、第1報知工程S140、第2判定工程S150、第2報知工程S160、第3判定工程S170、第3報知工程S180を含む。以下、各工程について説明する。
【0056】
[電流印加工程S110]
電流印加工程S110は、励磁部310が、第1励磁コイル224および第2励磁コイル234に交流電流を印加し、電磁誘導により探傷対象物10に誘導電流を発生させる工程である。上記したように、励磁部310は、第1の周波数の交流電流を第1励磁コイル224に印加し、第2の周波数の交流電流を第2励磁コイル234に印加する。
【0057】
[信号検出工程S120]
信号検出工程S120は、検出部330が、第1検出コイル222を通じて、誘導電流に基づく第1の検出信号S1を検出している間に、第2検出コイル232を通じて、誘導電流に基づく第2の検出信号S2を検出する工程である。本実施形態において、検出部330は、第1の検出信号S1および第2の検出信号S2を同時に検出する。
【0058】
図8は、接触面214が探傷対象物10に接触している場合であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
図9は、接触面214が探傷対象物10に接触している場合であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
【0059】
図8、
図9に示すように、検出信号は、リサージュ波形で表される。リサージュ波形は、励磁電圧を基準とした、検出信号のsin成分(振幅、
図8、
図9中、縦軸)およびcos成分(位相、
図8、
図9中、横軸)の変動を示す。渦電流探傷装置100において、キャリブレーション用の標準試験体にプローブ110を当接させて、リサージュ波形の基準点が原点(0,0)となるように調整(原点補正)が行われる。そして、原点補正を行った後に、渦電流探傷装置100を用いて探傷が行われる。したがって、リサージュ波形の基準点は、原点(0,0)となる。リサージュ波形において、原点を基準点として、検出信号のsin成分およびcos成分が変動する。
【0060】
図8に示すように、きずがない場合、検出信号のsin成分の変動幅は、概ねゼロである。一方、
図9に示すように、きずがある場合、検出信号のsin成分の変動幅は、きずがない場合と比較して大きくなる。
【0061】
そこで、検出部330は、検出信号のsin成分の変動幅を検出信号の信号強度Scとする。なお、検出信号の信号強度Scは、リサージュ波形における縦軸(sin成分)の最小値(マイナスのピーク)から最大値(プラスのピーク)までの値である。
【0062】
[第1判定工程S130]
図7に戻って説明すると、判定部362は、第1の検出信号S1の信号強度Scが閾値Th以上であり、かつ、第2の検出信号S2の信号強度Scが閾値Th以上であるか否かを判定する。閾値Thは、検出が所望されるきずの深さに基づいて、予め決定される。
【0063】
第1の検出信号S1の信号強度Scが閾値Th以上であり、かつ、第2の検出信号S2の信号強度Scが閾値Th以上であると判定した場合(S130におけるYES)、判定部362は、第1報知工程S140に処理を移す。一方、第1の検出信号S1の信号強度Scおよび第2の検出信号S2の信号強度Scのうちのいずれか一方または両方が閾値Th以上ではないと判定した場合(S130におけるNO)、判定部362は、第2判定工程S150に処理を移す。
【0064】
[第1報知工程S140]
報知部364は、「きずを検出した、または、リフトオフである」という旨の表示を表示装置380に表示させる。
【0065】
きずがない場合であっても、接触面214と探傷対象物10とが離隔するとノイズ(リフトオフ信号)が生じ、検出信号のsin成分が変動してしまう。第1検出コイル222と探傷対象物10との離隔距離と、第2検出コイル232と探傷対象物10との離隔距離は、実質的に等しくなるため、リフトオフ信号は、第1検出コイル222および第2検出コイル232の双方を通じて検出されることになる。
【0066】
また、接触面214が探傷対象物10に接触していても、所定の大きさ超のきずである場合、第1検出コイル222および第2検出コイル232の双方を通じてきずに基づく検出信号が検出されることになる。
【0067】
そこで、報知部364は、第1の検出信号S1の信号強度Scおよび第2の検出信号S2の信号強度Scが閾値Th以上である場合(S130におけるYES)、きずを検出した、または、接触面214と探傷対象物10との離隔(リフトオフ)によるノイズであることを報知する。
【0068】
第1報知工程S140が実行された場合、検査技術者は、目視できずの有無を確認する。そして、検査技術者によってきずが確認されない場合、再度、電流印加工程S110~第1判定工程S130を繰り返すとよい。
【0069】
そして、検査技術者によるきずの有無の確認が終了したら、検査技術者により、プローブ110が移動されて、電流印加工程S110からの処理が繰り返される。
【0070】
[第2判定工程S150]
判定部362は、第1の検出信号S1の信号強度Scが閾値Th以上である、または、第2の検出信号S2の信号強度Scが閾値Th以上であるか否かを判定する。
【0071】
第1の検出信号S1の信号強度Scおよび第2の検出信号S2の信号強度Scのうちのいずれか一方が閾値Th以上であると判定した場合(S150におけるYES)、判定部362は、第2報知工程S160に処理を移す。一方、第1の検出信号S1の信号強度Scおよび第2の検出信号S2の信号強度Scが閾値Th以上ではないと判定した場合(S150におけるNO)、判定部362は、第3判定工程S170に処理を移す。
【0072】
[第2報知工程S160]
報知部364は、「きずを検出した」旨の表示を表示装置380に表示させる。
【0073】
上記したように、第1検出コイル222と探傷対象物10との離隔距離と、第2検出コイル232と探傷対象物10との離隔距離は、実質的に等しいため、リフトオフ信号は、第1検出コイル222および第2検出コイル232の双方を通じて検出されることになる。
【0074】
しかし、所定の大きさ以下のきずに基づく検出信号は、第1検出コイル222および第2検出コイル232のうちのいずれか一方を通じて検出されることになる。
【0075】
このため、報知部364は、第1の検出信号S1の信号強度Scおよび第2の検出信号S2の信号強度Scのうちのいずれか一方が閾値Th以上であると判定した場合(S150におけるYES)、きずを検出したことを報知する。加えて、報知部364は、第1の検出信号S1の信号強度Scと、第2の検出信号S2の信号強度Scとの差分が所定値以上であると判定した場合(後述する第3判定工程S170におけるYES)に、きずを検出したことを報知する。
【0076】
これにより、報知部364は、きずを高精度に報知することができる。
【0077】
そして、検査技術者により、プローブ110が移動されて、電流印加工程S110からの処理が繰り返される。
[第3判定工程S170]
判定部362は、第1の検出信号S1の信号強度Scと、第2の検出信号S2の信号強度Scとの差分が所定値以上であるか否かを判定する。
【0078】
第1の検出信号S1の信号強度Scと、第2の検出信号S2の信号強度Scとの差分が所定値以上であると判定した場合(S170におけるYES)、判定部362は、第2報知工程S160に処理を移す。一方、第1の検出信号S1の信号強度Scと、第2の検出信号S2の信号強度Scとの差分が所定値以上ではないと判定した場合(S170におけるNO)、判定部362は、第3報知工程S180に処理を移す。
【0079】
[第3報知工程S180]
報知部364は、「健全である(きずがない)」旨の表示を表示装置380に表示させる。
【0080】
そして、検査技術者により、プローブ110が移動されて、電流印加工程S110からの処理が繰り返される。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る渦電流探傷装置100は、第1検出コイル222および第2検出コイル232を備える。これにより、渦電流探傷装置100は、プローブ110を探傷対象物10(支持体20)に沿わせて走査するだけで、プローブ110の角度を変更することなく、様々な方向の深さを有するきずを検出することができる。したがって、検査技術者の熟練度に拘わらず、きずを検出することができ、きずの見落としを防止することが可能となる。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
例えば、上述した実施形態において、プローブ110が第1検出コイル222および第2検出コイル232を備える場合を例に挙げた。しかし、プローブ110は、3以上の検出コイルを備えていてもよい。例えば、プローブ110は、第1検出コイル、第2検出コイル、および、第3検出コイルを備えていてもよい。この場合、第1検出コイルの中心軸は、接触面214と直交する。第1検出コイルの中心軸と第2検出コイルの中心軸との為す角は、例えば45°であり、第1検出コイルの中心軸と第3検出コイルの中心軸との為す角は、例えば90°である。また、例えば、第1検出コイルの中心軸と第2検出コイルの中心軸との為す角は、例えば30°であり、第1検出コイルの中心軸と第3検出コイルの中心軸との為す角は、例えば60°である。
【0084】
また、上記実施形態において、第1励磁コイル224および第2励磁コイル234を備える場合を例に挙げた。しかし、励磁コイルの数に限定はない。例えば、プローブ110は、1の励磁コイルを備えていてもよいし、3以上の励磁コイルを備えてもよい。
【0085】
また、上記実施形態において、第1検出コイル222の中心軸が接触面214と直交する(角αが90°である)場合を例に挙げた。しかし、第1検出コイル222の中心軸は、接触面214と略直交していればよい。略直交は、第1検出コイル222の中心軸と、接触面214との為す角αが、90°±1°の範囲内、つまり、89°以上91°以下の範囲である。
【0086】
また、上記実施形態において、第1の検出信号S1の信号強度Scの閾値Thと、第2の検出信号S2の信号強度Scの閾値Thとが等しい場合を例に挙げた。しかし、第1の検出信号S1の信号強度Scの閾値Thと、第2の検出信号S2の信号強度Scの閾値Thとは、異なっていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態において、探傷対象物10として鋼橋を例に挙げた。しかし、探傷対象物10は、少なくとも、第1板22と、第2板24と、溶接部26とを含んでいればよい。つまり、探傷対象物10は、T字継手等の角溶接を有するものであってもよい。探傷対象物10は、例えば、鋼橋の壁面、または、プラントであってもよい。
【0088】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 探傷対象物
100 渦電流探傷装置
210 プローブ本体
214 接触面
222 第1検出コイル
224 第1励磁コイル(励磁コイル)
232 第2検出コイル
234 第2励磁コイル(励磁コイル)
310 励磁部
330 検出部