(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004137
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】免震装置の点検方法及び点検システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230110BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230110BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/04 P
G01B11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105653
(22)【出願日】2021-06-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
(71)【出願人】
【識別番号】505419198
【氏名又は名称】スターツCAM株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100112520
【弁理士】
【氏名又は名称】林 茂則
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】秋田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】野々村 嘉洋
(72)【発明者】
【氏名】春木 脩作
【テーマコード(参考)】
2E139
2F065
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB13
2E139CA02
2E139CA21
2E139CB03
2E139CB05
2E139CC03
2F065AA21
2F065BB05
2F065DD06
2F065FF11
2F065GG04
2F065HH04
3J048AA01
3J048AB08
3J048AD05
3J048BA08
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】建物の免震装置の点検作業の手間や労苦を低減でき、点検結果の報告書まとめなどを省力化できる点検方法を提供する
【解決手段】免震装置131の所定部分の寸法測定を行う固有の識別マーク29を生成する。同マーク29に関連付けて、免震装置131の所定の寸法を、少なくとも2つの方向から測定する。測定したデータを取得し記憶する。該測定データを含む帳票ファイル59(
図4)を生成し、所定様式の報告書として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置の点検システムであって、
前記免震装置の所定の寸法を測定した測定データを取得するデータ取得部(51)と、
前記データ取得部で取得した前記測定データを記憶するデータ格納部(53)と、
前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する情報処理装置(55)と、を有し、
前記情報処理装置(55)が、 前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する帳票出力手段と、 前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成手段と、を有し、
前記測定データが、前記少なくとも2つの方向から測定されてものであり、各方向から測定された前記測定データのそれぞれが、前記各方向に固有の識別マーク(29)と関連付けられている
免震装置の点検システム。
【請求項2】
前記帳票出力手段が、前記識別マーク(29)ごとの測定データのうち少なくとも2つの測定データに基づいて前記免震装置の垂直計測値および水平計測値の何れか一方または両方を算出し、
前記帳票ファイルには、前回測定または竣工時測定(初期登録時測定)における前記垂直計測値または前記水平計測値と、今回測定における前記垂直計測値または前記水平計測値との差分を含み、
前記報告書には、当該差分に基づく合否判定結果が含まれる
請求項1に記載の免震装置の点検システム。
【請求項3】
前記識別マーク(29)には、前記免震装置が設置されている建物情報が関連付けられ、
前記報告書は、前記建物情報で特定される建物ごとに出力され、前記建物情報の全部または一部が表示される
請求項1または請求項2に記載の免震装置の点検システム。
【請求項4】
免震装置の点検方法であって、
前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成段階と、
前記識別マーク生成段階で生成した前記識別マーク(29)に関連付けて、前記免震装置の所定の寸法を、前記少なくとも2つの方向から測定し、測定された当該測定データを取得するデータ取得段階と、
前記データ取得段階で取得した前記測定データを記憶するデータ格納段階と、
前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する報告書出力段階と、を有し、
前記報告書出力段階では、前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する
免震装置の点検方法。
【請求項5】
前記報告書出力段階には、前記識別マーク(29)ごとの測定データのうち少なくとも2つの測定データに基づいて前記免震装置の垂直計測値および水平計測値の何れか一方または両方を算出するステップと、
前回測定または竣工時測定(初期登録時測定)における前記垂直計測値または前記水平計測値と、今回測定における前記垂直計測値または前記水平計測値との差分を算出するステップと、
当該差分に基づき合否を判定し、当該判定結果を出力するステップと、
を含む請求項4に記載の免震装置の点検方法。
【請求項6】
前記識別マーク(29)には、前記免震装置が設置されている建物情報が関連付けられ、
前記報告書は、前記建物情報で特定される建物ごとに出力され、前記建物情報の全部または一部が表示される
請求項4または請求項5に記載の免震装置の点検方法。
【請求項7】
前記データ取得段階において、二次元距離センサ(11)を用いて前記免震装置のプロフィルの画像を取得することにより、前記免震装置の所定の寸法を、前記少なくとも2つの方向から遠隔測定する請求項4,5、又は6に記載の免震装置の点検方法。
【請求項8】
さらに、写真撮影や目視点検の項目及び結果を、前記識別マーク(29)と関連付けて取得し、取得した点検結果を記憶し、該点検結果を含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する請求項4~7いずれか1項記載の免震装置の点検方法。
【請求項9】
コンピュータで実行可能な免震装置の点検用プログラムであって、
前記免震装置の所定の寸法を測定した測定データを取得するデータ取得機能と、
前記データ取得機能で取得した前記測定データを記憶するデータ格納機能と、
前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する報告書出力機能と、をコンピュータで実現し、
前記報告書出力機能が、
前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する帳票出力機能と、
前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成機能と、
を有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の地下ピットなどに設置されている免震装置を点検する方法及びシステムに関する。特には、点検作業の手間や労苦を低減できる、あるいは、点検結果の報告書まとめなどを省力化でき報告書作成時間を短縮できる、などの利点を有する免震装置の点検方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の免震装置は、近年、著しく普及している。建物の免震にかかわる学会や建築業界、機械装置業界の関係者は、一般社団法人「日本免震構造協会」を設立している。同協会は、平成5年(1993年)6月に任意団体として設立された。同協会では、「免震建物の維持管理基準」を定め、そのパンフレットを発行している。その中には、「免震部材などの維持点検実施要領」が定められている。
【0003】
上記「実施要領」に則った点検作業の現状の例を説明する。
図7は、積層ゴムタイプの復元免震装置の変形点検の様子(一例)を模式的に示す側面図である。なお、「免震装置」のことを「支承」ともいう。同図(A)は積層ゴムの水平方向の変形を測定する様子を示す側面図であり、同図(B)は積層ゴムの鉛直方向の変形を測定する様子を示す側面図である。
図8は、積層ゴムタイプの復元支承の変形点検を行う点検者の様子を、模式的に示す側面図である。
図9は、すべり支承の変形点検の様子(例)を模式的に示す図である。同図(A)はすべり支承231に対するすべり板239の水平方向の変位を測定する様子を示す正面図であり、同図(B)は平面図である。
【0004】
図7・
図8に示す積層ゴムタイプの復元支承131は、ゴムの層と鋼板の層が多数積層された円筒状の積層ゴム135を主体として構成されている。積層ゴム135の上下面には、厚い鋼板製のフランジ137・133が接着されている。上のフランジ137の上には、
図8に示すように、鉄筋コンクリート製のブロックである脚部113が載っており、その上には建物の床下梁115が載っている。下のフランジ133は鉄筋コンクリートの台111(コンクリート製の杭頭など)の上に載っている。
【0005】
積層ゴムタイプの復元支承131は、地震時においては、建物とその基礎との間の水平方向のずれを許容し、地震の揺れが落ち着いた後には、前記ずれを戻して、両者の相対位置関係を復元するものである。このような復元支承は、建物の四隅などに配置される。復元支承以外に、復元性能のないすべり支承(建物の重量など鉛直方向の加重のみを受ける、
図9を参照しつつ後述)も、併せて用いられる。
【0006】
積層ゴムタイプの復元支承131の点検の際には、次の二種類の変形測定を行う(他に免震装置と建物の構造体との間の寸法測定や写真撮影も行う)。一種類目の測定は、
図7(A)に示す水平方向の変形であり、他の一つは、
図7(B)に示す鉛直方向の変形(寸法の縮み)である。なお、
図7(A)においては、積層ゴム135の側辺135bは、傾きを誇張して描かれている。
【0007】
図7(A)においては、復元支承131の上フランジ137における端の所定の位置(例えば西側又は北側の一か所ずつ)に、下げ振り141の紐141bの上端を取り付けている。そして、紐141bの下端に垂れ下がる錘141fの下端(尖っている)の位置を、物差し143で測る。この測定位置は、特定の復元支承131について特定された位置であり、測定位置は、罫書きなどで印されている。この定位置の水平方向変位測定を、建物竣工時、5年後、その後10年ごとに行う。そして、位置ずれ(積層ゴム135の水平方向変位)を測定し、判定する(例えば50mm以内ならば「異常なし」)。
【0008】
図7(B)においては、復元支承131の下フランジ133における上面の所定の位置(東西南北の計4か所)に、レーザ式のデジタル距離計149を、上に向けて置いている。そして、その位置における、上下フランジ間隔(積層ゴム135の厚さ)を測る。測定時期は、上記の水平方向変位の測定と同じである。判定は、例えば、東西南北の厚さ変化(変位・縮み)の平均が5mm以内であれば「異常なし」である。
【0009】
図8には、積層ゴム135の水平方向変位を測定している点検者101の様子が、模式的に示されている。この点検者101は、建物の地下ピットの、建物基礎床117と床下梁115の間に、腹ばいになっている。建物の基礎床117と、床下梁下面115bとの間の高さ寸法は、狭いところで、40cm程度しかない。なお、地下ピットは、配管が入り組み鋼製の架台が多数あり、床の段差及び天井の段差も多い。また、土埃やクモの巣、落ち葉も溜まっており、雨天時には床が広範囲に濡れる高温多湿の劣悪な環境である。
【0010】
点検者101は、脛当て107や肘当て105を付けて、ヘッドライトの明かりを頼りに、膝まずくか匍匐前進して、一つの建物につき何か所もの免震装置131に移動し、また、その周りを回って、測定・点検作業を行う。測定作業も、無理な姿勢で物差しのミリ単位の数字を読み取るなど、身体的・精神的に極めて過酷な作業である。この測定・点検作業の労苦は、並大抵のものではない。
【0011】
次に、
図9を参照しつつ、すべり支承タイプの免震装置231の点検・変位測定について説明する。この図のすべり支承231は、BSL杭頭免震工法において、杭頭に設置されて建物を免震保持するものである。BSLは、「Ball-point SLider」の略語であり、日本語では「回転機構付すべり支承」という。地震時における杭頭の傾斜を、すべり面に伝えないように吸収することにより、免震装置周りの基礎・建物床構造の低コスト化を図ることができる優れた技術である。
【0012】
この免震装置231は、鉄筋コンクリート杭の杭頭211の上に設置された、水平面に対して二方向に揺動しうる部材233と、その上に載る部材235を備えている。なお、図示されているのは、両部材の外周フランジ部であって、その内側は凹凸嵌合する形状(図示されず)となっている。部材235の上には、基礎フーチン(鉄筋コンクリートブロック)213が載っている。同フーチン213の底面には、低摩擦樹脂がコーティングされたすべり板239が貼られている。なお、符号238の層は、点検対象の隙間を模式的に示すものである。
【0013】
すべり支承231の変位測定の対象は、すべり支承231とすべり板239との水平方向のずれである。
図9においては、すべり支承231の上部材237の端の所定の位置(例えば西側又は北側の一か所ずつ)と、すべり板239の端との距離を、物差し243(近年はレーザー距離計)で測る。この測定位置は、特定の免震装置231について特定された位置であり、罫書きなどで印されている。この定位置の変位測定を、建物完成時、5年後、その後10年ごとに行う。そして、位置ずれを測定し、判定する(例えば50mm以内ならば「異常なし」)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「免震建物の維持管理基準」2018.8.31、一般社団法人「日本免震構造協会」発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、建物の免震装置を点検する際に、点検作業の手間や労苦を低減できる、あるいは、点検結果の報告書まとめなどを省力化でき報告書作成時間を短縮できる、などの利点を有する点検方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この「課題を解決するための手段」、及び、「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書きして示すが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定する意図はない。
【0017】
本発明の免震装置の点検システムは、前記免震装置の所定の寸法を測定した測定データを取得するデータ取得部(51)と、前記データ取得部で取得した前記測定データを記憶するデータ格納部(53)と、前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する情報処理装置(55)と、を有し、
前記情報処理装置(55)が、前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する帳票出力手段と、前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成手段と、を有し、
前記測定データが、前記少なくとも2つの方向から測定されてものであり、各方向から測定された前記測定データのそれぞれが、前記各方向に固有の識別マーク(29)と関連付けられている。
【0018】
上記の点検システムにおいては、前記帳票出力手段が、前記識別マーク(29)ごとの測定データのうち少なくとも2つの測定データに基づいて前記免震装置の垂直計測値および水平計測値の何れか一方または両方を算出してもよく、
この場合、前記帳票ファイルには、前回測定または竣工時測定(初期登録時測定)における前記垂直計測値または前記水平計測値と、今回測定における前記垂直計測値または前記水平計測値との差分を含み、前記報告書には、当該差分に基づく合否判定結果が含まれてもよい。
【0019】
また、上記の点検システムにおいて、記識別マーク(29)には、前記免震装置が設置されている建物情報が関連付けられてもよく、この場合、前記報告書は、前記建物情報で特定される建物ごとに出力され、前記建物情報の全部または一部が表示されてもよい。
【0020】
本発明の免震装置の点検方法は、前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成段階と、 前記識別マーク生成段階で生成した前記識別マーク(29)に関連付けて、前記免震装置の所定の寸法を、前記少なくとも2つの方向から測定し、測定された当該測定データを取得するデータ取得段階と、 前記データ取得段階で取得した前記測定データを記憶するデータ格納段階と、前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する報告書出力段階と、 を有し、 前記報告書出力段階では、前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する。
【0021】
上記の点検方法において、前記報告書出力段階には、前記識別マーク(29)ごとの測定データのうち少なくとも2つの測定データに基づいて前記免震装置の垂直計測値および水平計測値の何れか一方または両方を算出するステップと、 前回測定または竣工時測定(初期登録時測定)における前記垂直計測値または前記水平計測値と、今回測定における前記垂直計測値または前記水平計測値との差分を算出するステップと、 当該差分に基づき合否を判定し、当該判定結果を出力するステップと、を含んでもよい。
【0022】
また、上記の点検方法において、前記識別マーク(29)には、前記免震装置が設置されている建物情報が関連付けられてもよく、前記報告書は、前記建物情報で特定される建物ごとに出力され、前記建物情報の全部または一部が表示されてもよい。
【0023】
本発明のコンピュータで実行可能な免震装置の点検用プログラムは、 前記免震装置の所定の寸法を測定した測定データを取得するデータ取得機能と、 前記データ取得機能で取得した前記測定データを記憶するデータ格納機能と、 前記測定データを含む帳票ファイルを生成し、当該帳票ファイルを所定様式の報告書として出力する報告書出力機能と、をコンピュータで実現し、 前記報告書出力機能が、前記測定データを所定の様式またはフォーマットで帳票ファイルに出力する帳票出力機能と、 前記免震装置を識別する識別マークであって、前記免震装置の前記寸法測定を行う少なくとも2つの方向に固有の識別マーク(29)を生成する識別マーク生成機能と、 を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、建物の免震装置を点検において、点検作業の手間や労苦を低減できる。あるいは、点検結果の報告書まとめなどを省力化でき、報告書作成時間を大幅に短縮できる。具体的には、土埃、蜘蛛の巣が多量にある建物の地下ピットにおいて、高温多湿の中、コンクリート床などに膝をつきながら、ヘッドライトの明かりのみを頼って移動しながら、ミリ単位の数字を読み取る免震装置の計測作業における、点検者の身体的負担を大いに低減できる。さらに、悪い条件下での手作業による記録採り(野帳への書き取りなど)も不要になるので、ヒューマンエラーの根絶にもつながる。
【0025】
さらに、測定装置を二次元距離センサ(11)などの、免震装置のプロフィルを遠隔測定可能な装置とすれば、点検者が無理な姿勢をとる頻度が少なくなり、身体的負担のより少ない、またより再現性の高い計測ができるようになる。さらに、写真撮影や、目視点検の項目を識別マークと関連付けてシステムやデータ収録装置(10)に記憶しておけば、点検漏れ項目を、現場で自動的にチェックできるので、点検漏れの防止や、再点検の手間の削減も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態に係る免震装置(復元支承)131の点検方法を説明するための図である。(A)は、一つの識別マーク29Sに対応する免震装置131の部位に二次元距離センサ11を対向させて配置して、該装置の部位のプロフィールを取得している様子を示す斜視図である。(B)は、復元支承131の寸法測定対象部のプロフィールを示す側面図である。
【
図2】
図1の距離センサ11及びそれを制御するタブレットPC15、搭載する台車19などを含むデータ収録装置10の構成の概要を示すブロック図である。
【
図3】
図2のタブレットPC15の画面において、免震装置のプロフィールのうちの寸法測定対象部を指定する操作を説明する図である。
【
図4】
図2のタブレットPC15に記録された免震装置の寸法データを、前記識別マーク(29)と関連付けて点検記録ファイルとして出力するシステムの構成を示すブロック図兼フロー図である。
【
図6】マスターデータファイルの構成の一例を示す図である。
【
図7】積層ゴムタイプの復元免震装置の変形点検の様子(例)を模式的に示す側面図である。
【
図8】積層ゴムタイプの復元支承の変形点検を行う点検者の様子を、模式的に示す側面図である。
【
図9】すべり支承の変形点検の様子(例)を模式的に示す図である。同図(A)はすべり支承231に対するすべり板239の水平方向の変位を測定する様子を示す正面図であり、同図(B)は平面図である。
【符号の説明】
【0027】
10;データ収録装置、11;二次元距離センサ、13;直立棒、15;タブレットPC、
17;ケース、19;台車
21;レーザスキャンビーム、23;赤い線、23´;プロフィル線
29;二次元バーコード(識別マーク、QRコード)、
29S;南側の識別コードを含むバーコード、29E;東側の識別コードを含むバーコード、
31;傾斜センサ、33;2D-LiDAR、41;枠線
50;点検記録作成システム、51;クレードル(データ取得部)、53;データ格納部、
55;PC(情報処理装置)、57;各物件用帳票原本、58;帳票出力ソフト、
59;帳票ファイル、61;帳票取込ソフト、62;マスターデータ
65;QRコード生成ツール、66;QRコード画像、69;QRコードパネル
101;点検者、105;肘当て、107;脛当て
111;台、111b;手間側の面、111m;罫書きマーク、
113;脚部、113b;手前側の面、113c;右側の面、113m;罫書きマーク
115;床下梁、115b;床下梁下面、117;建物基礎床、
131;復元支承(免震装置)、
133;下フランジ、133b;前上エッジ、133b´;測定対象点、
135;積層ゴム、135b;側辺、137;上フランジ、137b´;測定対象点
141;下げ振り、141b;紐、141f;錘、143;物差し、149;デジタル距離計
211;杭頭、213;基礎フーチン(鉄筋コンクリートブロック)
231;すべり支承(免震装置)、233;部材、235;部材、237;上部材
238;模式的な隙間、239;すべり板、243;物差し、
【発明を実施するための良好な形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
最初に、
図1(A)を参照して、二次元距離センサ11を免震装置131に対向させて配置して、免震装置131の測定対象部位のプロフィールを取得している状況を説明する。
図1に示す各方向の意味は次のとおりである。すなわち、「奥」は、距離センサ11から免震装置131を見て遠い方向であり、「手前」は、近い方向である。上下方向は地球重力方向及び逆方向である。左右方向(横方向)は距離センサ11から免震装置131を見ての左右方向である。
【0029】
図1に示す免震装置131は、
図8を参照して前述した積層ゴムを有する復元支承である。復元支承131は、積層ゴム135の上下面に、厚い鋼板製の二枚のフランジ137(
図1(B)参照)、及び、フランジ133が接着されたものである。上のフランジ137の上には、鉄筋コンクリート製のブロックである脚部113が載っており、下のフランジ133は鉄筋コンクリートの台111(コンクリート製の杭頭など)の上に載っている。
【0030】
鉄筋コンクリート製のブロックである脚部113・台111は、水平面形状が正方形である。脚部113の外面には、識別マークである二次元バーコード29のラベルが貼り付けられている。バーコード29は、
図1(A)で見える範囲では、脚部113の手前側の面113bと右側の面113cに貼られている。この実施形態では、手前側の面113bが例えば南向きの面であれば、その面のバーコード29Sは南側の識別コードを含んでいる。その場合、右側の面113cは東側の面であり、その面のバーコード29Eは東側の識別コードを含んでいる。
図1(A)では見えないが、脚部113の他の面にもバーコード29が貼られている。
【0031】
脚部113の手前側の面113b、及び、台111の手間側の面111bには、後述する距離センサ(2D-LiDAR)のレーザスキャンビーム21の位置合わせ用の罫書きマーク113m・111mも記されている。なお、図示省略してあるが、罫書きマークは、脚部113・台111の他の面にも記されている。
【0032】
図1(A)の二次元距離センサ11は、この例では、2D-LiDAR(Light Detection And Ranging)として知られたものである。距離センサ11は、台車19の上に固定された直立棒13の、適当な高さ位置に固定されている。台車19上には、電池や変圧器など(図示されず)を内蔵するケース17が載っている。
図1(A)には、距離センサ11などを制御するタブレットPC15も示されている。
【0033】
図2は、
図1の距離センサ11やタブレットPC15を含むデータ収録装置10の構成の概要を示すブロック図である。距離センサ11(センサユニット)は、距離センサ本体である2D-LiDAR33を備えている。この2D-LiDAR33そのものは、市販されている公知のものであり、レーザ光の発光・受光素子や、発光ビームのスキャン手段、ビームの反射位置の距離の検知手段などを有している。センサユニット11には、傾斜センサ31を含んでいる。同傾斜センサ31は、センサユニット11の傾斜角度を検知して測定データの修正を行う。すなわち、センサユニット11の前後の傾き(レーザ光と地面との角度の差)の分、距離データを補正する。
【0034】
2D-LiDAR33からのレーザビーム21は、
図1に示すように、鉛直面においてスキャンされ、免震装置131及び脚部113・台111に当てられる。レーザビーム21の当たった部分は、赤い線23として人間の目に見える。この赤い線23が、上記の脚部113・台111の手前側の面113b・面111bの罫書きマーク113m・111mを通るよう、台車19や距離センサ11の向きを調整する。
【0035】
距離センサ11の高さは、
図1(B)に示すように、免震装置131の積層ゴム135の上下方向中ほどの位置とする。そして、レーザビーム21が免震装置131に当たった赤い線23(
図1(A))の手前奥方向の距離を、距離センサ11が測定する。
図3を参照しつつ後述する方法により、上フランジ137の前下エッジ137bと、下フランジ133の前上エッジ133bの位置を測定する。両エッジの上下方向の距離が、積層ゴム135の高さであり、両エッジの前後方向の距離の差の地震等外力による変化が、積層ゴム135の水平方向の地震等外力による変形である。
【0036】
図3は、
図2に示すデータ収録装置10のタブレットPC15の画面において、免震装置のプロフィールのうちの寸法測定対象部を指定する操作を説明する図である。
図2には、免震装置131のプロフィールを表す線23´(レーザビーム21の当たった部分の赤い線23を画面上で表現した線)が、上下に延びるとともに手前奥方向に屈曲した線で示されている。
【0037】
すなわち、プロフィール線23´は、上から下へ、脚部113の手前側面のプロフィールを表す垂直線113´⇒脚部113の下面のプロフィールを表す水平線113"⇒上フランジ137の手前側面のプロフィールを表す垂直線137´⇒上フランジ137の下面のプロフィールを表す水平線137"⇒積層ゴム135の手前側面のプロフィールを表す垂直線135´⇒下フランジ133の上面のプロフィールを表す水平線133"⇒下フランジ133の手前側面のプロフィールを表す垂直線133´⇒台111の上面のプロフィールを表す水平線111"⇒台111の手前側面のプロフィールを表す垂直線111´とつながっている。
【0038】
このプロフィール線23´について、測定対象点である、上フランジ137の前下エッジ137bと、下フランジ133の前上エッジ133bを指定する方法を説明する。PCの画面には、矩形の枠線41(
図3では二点鎖線)が、例えば赤線で表示される。この枠線41の位置及び縦横寸法は、画面上のマウス等(タッチ機能を有する場合はタッチペン、指等)のポインティングデバイスによる範囲指定により変更される。
【0039】
図3では、枠線41(計測エリア;センサユニットから出力されるレーザー光の縦スキャンによる距離を測定するエリア)が、その内側に測定対象点137b´、及び、測定対象点133b´を含むように、そして、C点やD点を含まないよう(間違えて計測しないよう)、枠線41の位置と大きさを調整する。PCに搭載されているデータ収録ソフトは、枠線41内の手前向きの凸エッジの先端点を測定対象点と認識する。これにより、測定対象点137b´、及び、測定対象点133b´を設定し、両点(エッジ)の上下方向の距離が、積層ゴム135の高さであり、両エッジの前後方向の距離の差が、積層ゴム135の水平変形である。これらの距離は、センサユニット11からの距離計測データから計算して算出する。なお、データ収録ソフトは、例えば、センサユニット11を駆動するドライバソフトウェアとすることができる。
【0040】
このような測定を、免震装置131の水平面内の直行する四方向について行う。測定データは、タブレットPC15の記憶部に記憶される。さらに、すべり支承型の免震装置についても、同様の手法により、
図9に示す建物躯体213・211の角のX点及びY点を、水平面内の直交する2方向において計測し、初期値(建物の引き渡し時)と定期点検の計測値の差を変位として、すべり支承の二方向のすべり量の推移を把握する。
【0041】
なお、データ収録装置10は、二次元バーコード29を読み取るため、および、現場における作業状況を撮像するための撮像装置(タブレットPC15のカメラ)を有している。また、PCに搭載されているデータ収録ソフトには、撮影した二次元バーコード29を認識するためのソフトウェアおよび撮像した現場の画像を処理するソフトウェアを含む。撮像装置(カメラ)は、必ずしもデータ収録装置10に備える必要はなく、スマートフォン等撮像機能を有するデバイスで画像を取得し、取得した画像データを有線または無線によりデータ収録装置10に転送してもよい。
【0042】
次に、
図4を参照しつつ、
図2のタブレットPC15に記録された免震装置の寸法データを、識別マーク29と関連付けて点検記録ファイルとして出力するシステムの構成を説明する。なお、
図4は、同システムの機能ブロック図である。
【0043】
図4の左側には、免震装置の点検現場(建物の床下など)に持ち込んで計測データを収録するデータ収録装置10が示されている。
図4の右側には、点検者の事務所等に配置された点検記録作成システム50が示されている。データ収録装置10については、
図2を参照しつつ前述したものである。
【0044】
この例では、タブレットPC15は、データ収録装置10と点検記録作成システム50との双方で使用する。すなわち、現場で収録した点検・測定データは、タブレットPC15に記憶して、事務所等に持ち帰り、事務所等にある点検記録作成システム50の一部とする。なお、タブレットPC15に記憶した点検・測定データを、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の外部記憶装置を介して点検記録作成システム50に複写または移動してもよい。また、多数の点検者(請負者)のタブレットPC15から、携帯電話網やインターネットを介して、点検記録作成システム50に点検・測定データを送ることもあり得る。
【0045】
点検記録作成システム50は、タブレットPC15を載せるクレードル51や、データ格納部53、PC55などから構成されている。クレードル51、データ格納部53、PC55は、相互にイーサネット接続してLAN(Local Area Network)を構成しても良い。クレードル51、データ格納部53、PC55がイーサネット接続されている場合、データ格納部53は、たとえばファイルサーバ等で構成されるファイルシステムであってもよい。データ格納部53は、PC55に内蔵された、あるいは外付けのハードディスク等のマスストレージであってもよい。データ格納部53は、クレードル51を介して、タブレットPC15から免震装置の計測データを受信し、同データを格納する。
【0046】
PC55は、各物件用帳票原本57、帳票出力ソフト58、帳票取込ソフト61、QRコード生成ツール65を有している。各物件用帳票原本57は、物件毎の建物情報(都道府県、建物番号、免震装置固有番号、免震種類等)が予め記録された帳票原本である。帳票出力ソフト58は、各物件用帳票原本57に免震装置の計測データを追加して帳票ファイル57を生成する。帳票取込ソフト61は、各物件用帳票原本57を参照してマスターデータを生成する。QRコード生成ツール65は、各物件における各免震装置131の面ごとのQRコード画像を生成する。生成されたQRコード画像は、QRコードパネル69に仕立てられ、二次元バーコード29として供される。
【0047】
同帳票原本57には、前記したとおり、予めこの点検記録作成システム50が扱う物件(建物)の情報(物件情報)が記録されるが、帳票出力ソフト58により帳票ファイル59が生成されると、免震装置の計測情報が追加され、更新される。なお、最初に各物件用帳票原本57が生成されるとき、竣工時の計測データが記録される。物件情報は、物件の名称・住所や、設置されている免震装置の仕様・数量・識別コードなどを含んでいてもよい。免震装置の計測情報は、前記した物件竣工時の計測データの他、その後の定期検査の測定データなどを含んでいる。
【0048】
帳票出力ソフト58は、各物件用帳票原本57を参照して物件情報や計測情報を取得し、PC15に記録されていた計測データを追加して、各物件用帳票原本57を更新する、帳票ファイル59を出力する。PC15に記録されていた計測データは、一旦データ格納部53に記録されても良く、帳票出力ソフト58に直接入力されても良い。計測データがデータ格納部53に記録される場合、帳票出力ソフト58は、データ格納部53から計測データを取得する。帳票出力ソフト58は、計測データを所定の帳票の形式で、帳票ファイル59に出力する。帳票ファイル59の内容は、
図5に示す計測報告書として、PC55の画面に出力できる。
【0049】
帳票取込ソフト61は、各物件用帳票原本57から、帳票原本を取得し、物件名称などを含む既存の原本の表が、PC画面に表示する。
【0050】
次に、収録ソフト・帳票出力・帳票取込のデータ連携について説明する。マスターデータおよび計測データは、たとえば、以下のフォルダに格納される。
データフォルダ構成:
建物情報マスター C:\ABData\Master
計測データ C:\ABData\[建物番号]_[日付]
【0051】
建物情報マスターは、建物情報を記録し、各物件用帳票原本57の初回作成時に参照される。計測データは、建物毎および計測日毎の計測データが記録され、計測値とともに、QRコードで特定される建物の情報、免震装置の種類、計測する柱(台111・脚部113)の面(方向)が記録される。また、計測データには、計測時の現場写真画像が記録される。
【0052】
マスターデータは通常、タブレットPC15内と、帳票出力や帳票取込を行うPC55内に存在する。マスターデータを変更(新規物件の追加等)した場合、すべてのマスターデータ(C:\ABData\Master)を同期(最新データに更新)するようにする。マスターデータのファイル構成の一例を、
図6に示す。
【0053】
QRコード作成ツール65は、免震装置が支承する建物柱の各面(方向)ごとの二次元バーコード29(QRコード)を生成する。生成したQRコードは、QRコードパネル69にプリント等表示して、該当する建物柱の該当面に貼付する。貼付したQRコードパネル69は、データ収録装置10等に備えたカメラで読み取られ、QRコードで特定される建物情報等の入力が自動化される。
新しく、免震装置の点検を行う物件については、新しいQRコード[新規]を作成する。
【0054】
QRコードは以下の情報を含む。
(ア)建物情報;都道府県、建物番号など
(イ)免震装置の種類;積層ゴムを有する復元支承やすべり支承など
(ウ)方向;東西南北など
(エ)バージョン
【0055】
次ぎに、免震装置の点検方法を説明する。
(1)まず、新たな建物の施工時等、免震装置の初回測定を行う前に、当該物件用の帳票原本57を生成する。帳票原本57の生成において建物情報を参照する場合は、予め建物情報マスターに新たな建物の情報を登録しておく。
(2)次に、QRコード生成ツール65を用いてQRコードパネル69を作成し、作成したQRコードパネル69を所定位置に設置する。
【0056】
(3)次に、データ収録装置10を用いて、免震装置の初期測定を行う。測定値は、新しく施工した建物の場合、施工時データとして保存する。
(4)対象の建物の定期点検等のタイミングで、免震装置の測定を行う。測定では、QRコードパネル69を読み取り、該当する帳票原本57を読み出し、
図1~3で説明した寸法測定を行う。測定データは、前回測定時のデータと対比し、検査合格かどうかの判定に用いる。
【0057】
(5)測定が完了した後、データ収録装置10を事務所等に持ち帰り、点検記録作成システム50を用いて点検報告書を生成する。点検報告書に記載する事項は、
図5に示すとおりである。なお、
図5中の「補正後」とは、「温度補正値」であり、一般社団法人「日本免震構造協会」による「免震建物の維持管理基準-2018-」の10頁に記載の補正式に基づく補正を行った後の計測値のことである。
【0058】
以上説明した免震装置の点検システムおよび点検方法によれば、報告書作成がほぼ自動的に完了するので、点検作業および報告書作成に係る時間を大幅に短縮できる。また、建物床下の狭い場所にもセンサを設置できるので、点検作業の負担を軽減できる。