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特開2023-41373不純物除去方法、及びこれを用いた造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041373
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】不純物除去方法、及びこれを用いた造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/94 20060101AFI20230316BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20230316BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230316BHJP
   B23K 37/08 20060101ALI20230316BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230316BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20230316BHJP
【FI】
G01N21/94
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B23K37/08 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148714
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【テーマコード(参考)】
2G051
4E081
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB01
2G051BC05
2G051CB01
2G051DA13
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
4E081DA14
4E081DA44
(57)【要約】
【課題】作業工数の増加を抑えつつ、不純物除去作業後の金属層上に残存する不純物を正確に把握して、確実に不純物を除去できる不純物除去方法、及びこれを用いた造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】不純物除去方法は、金属層に検査光を照射して、検査光が金属層の表面で反射した反射光の第1反射光プロファイルを検出する工程と、金属層の表面の不純物を除去する不純物除去作業を実施する工程と、不純物除去作業の実施後に、金属層の表面に検査光を照射して、金属層の表面で反射した反射光の第2反射光プロファイルを検出する工程と、第1反射光プロファイルと第2反射光プロファイルとの光強度を比較して、不純物の存在を評価する工程とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶着ビードにより形成した金属層から、該金属層の表面の不純物を除去する不純物除去方法であって、
前記金属層に検査光を照射して、前記検査光が前記金属層の表面で反射した反射光の第1反射光プロファイルを検出する工程と、
前記金属層の表面の前記不純物を除去する不純物除去作業を実施する工程と、
前記不純物除去作業の実施後に、前記金属層の表面に前記検査光を照射して、前記金属層の表面で反射した反射光の第2反射光プロファイルを検出する工程と、
前記第1反射光プロファイルと前記第2反射光プロファイルとの光強度を比較して、前記不純物の存在を評価する工程と
を備える不純物除去方法。
【請求項2】
前記検査光は、一方向に延びる帯状光であり、前記帯状光を前記一方向に直行する方向に順次移動して前記第1反射光プロファイル及び前記第2反射光プロファイルを検出する、
請求項1に記載の不純物除去方法。
【請求項3】
前記光強度の比較は、前記第1反射光プロファイルと前記第2反射光プロファイルとの光強度の差分又は変化率を評価パラメータとして比較する、
請求項1又は2に記載の不純物除去方法。
【請求項4】
前記光強度の比較は、前記金属層の表面における前記光強度の差が予め定めた閾値以下となる低強度反射領域の面積を評価パラメータとして比較する、
請求項1又は2に記載の不純物除去方法。
【請求項5】
前記不純物の存在の評価は、
第1判断基準値と、該第1判断基準値よりも小さい第2判断基準値とを、前記評価パラメータとを比較して、
前記評価パラメータが前記第1判断基準値以上であれば、前記不純物が除去されたと判定し、
前記評価パラメータが前記第1判断基準値未満で且つ前記第2判断基準値以上であれば、前記不純物の少なくとも一部が剥離したと判定し、
前記評価パラメータが前記第1判断基準値未満であれば、前記不純物が除去されていないと判定する、
請求項3又は4に記載の不純物除去方法。
【請求項6】
前記不純物が除去されていないと判定された場合は、前記不純物除去作業を繰り返し実施する、
請求項5に記載の不純物除去方法。
【請求項7】
繰り返し実施する前記不純物除去作業では、前記評価パラメータが小さいほど前記金属層に加えるエネルギを増加させる、
請求項5又は6に記載の不純物除去方法。
【請求項8】
前記第2反射光プロファイルのうち前記不純物除去作業を実施した領域を抽出し、該抽出された領域内における光強度のみを比較する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の不純物除去方法。
【請求項9】
前記不純物は、溶接により生じるスラグ又はスパッタである、
請求項1~8のいずれか1項に記載の不純物除去方法。
【請求項10】
前記溶着ビードを形成するパスが予め定められた軌道計画に基づいて、前記溶着ビードを形成するビード形成工程と、
前記溶着ビードにより形成された前記金属層の前記不純物を、請求項1~9のいずれか1項に記載の不純物除去方法により除去する不純物除去工程と、
を含む造形物の製造方法。
【請求項11】
前記不純物除去工程は、前記軌道計画に定められた複数のパスのうち、一部のパスにより形成された前記金属層についてのみ実施する、
請求項10に記載の造形物の製造方法。
【請求項12】
前記不純物除去工程において前記第2反射光プロファイルから前記金属層の実表面形状を求める工程と、
前記軌道計画に基づいて形成される前記金属層の表面の設計形状を求める工程と、
前記実表面形状と前記設計形状とを比較して、その形状の差分に応じて前記不純物除去工程を実施する位置を決定する工程と、
を含む請求項10又は11に記載の造形物の製造方法。
【請求項13】
前記検査光を照射するとともに前記反射光を検出する形状検出器が、前記溶着ビードを形成する溶接トーチに設けられ、
前記溶接トーチにより前記溶着ビードを形成しながら、前記形状検出器により前記金属層の表面形状を計測する、
請求項10~12のいずれか1項に記載の造形物の製造方法。
【請求項14】
前記形状検出器により、前記溶接トーチの移動方向後方の前記金属層の表面形状を計測する、
請求項13に記載の造形物の製造方法。
【請求項15】
前記形状検出器により、前記溶接トーチの移動方向前方の前記金属層の表面形状を計測する、
請求項13に記載の造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物除去方法、及びこれを用いた造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接によって形成される溶着ビードで複数の金属層を順次積層し、立体的な造形物を造形する積層造形方法が知られている。この積層造形方法においては、溶着ビードの表面に生じるスラグ、スパッタ等の表面不純物(以下、不純物という)が金属内に残留して、溶接欠陥を生じさせるおそれがある。
【0003】
そこで、特許文献1には、アーク溶接によって形成される金属層を積層する工程と、積層された金属層の表面の不純物を除去する工程と、を含む単位工程を繰り返し実施して、造形物の内部に残存する溶接欠陥の量を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-84553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように金属層を積層する度に不純物を除去する手順では、不純物を除去する作業時間が累積的に増加して生産性が低下する。また、溶着ビードを形成する際には、溶融金属の表面にスラグが浮上するが、その状態では溶融金属中に不純物が取り込まれて造形物の品質が低下する。そのため、浮上したスラグはそのままにせず、除去することが好ましい。
【0006】
このような金属層への不純物の付着の程度を検出するには、簡便な手法としてはカメラ等の画像より分析する方法が考えられる。しかし、検出時における照明光の照射方向、撮像方向等の角度調整が難しく、複雑な形状に対しては複数台のカメラを用意して撮像する必要があり、作業者の工数の増加は避けられない。
また、造形途中に不純物除去作業を行った後、不純物が十分に除去されたかを簡便に検出することが難しく、次の工程に移ってよいのかの判断がしにくい問題がある。そのため、不純物の除去程度に関しての定量的な判断指標が求められている。
【0007】
そこで本発明は、作業工数の増加を抑えつつ、不純物除去作業後の金属層上に残存する不純物を正確に把握して、確実に不純物を除去できる不純物除去方法、及びこれを用いた造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶着ビードにより形成した金属層から、該金属層の表面の不純物を除去する不純物除去方法であって、
前記金属層に検査光を照射して、前記検査光が前記金属層の表面で反射した反射光の第1反射光プロファイルを検出する工程と、
前記金属層の表面の前記不純物を除去する不純物除去作業を実施する工程と、
前記不純物除去作業の実施後に、前記金属層の表面に前記検査光を照射して、前記金属層の表面で反射した反射光の第2反射光プロファイルを検出する工程と、
前記第1反射光プロファイルと前記第2反射光プロファイルとの光強度を比較して、前記不純物の存在を評価する工程と
を備える不純物除去方法。
(2) 前記溶着ビードを形成するパスが予め定められた軌道計画に基づいて、前記溶着ビードを形成するビード形成工程と、
前記溶着ビードにより形成された前記金属層の前記不純物を、(1)の不純物除去方法により除去する不純物除去工程と、
を含む造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業工数の増加を抑えつつ、不純物除去作業後の金属層上に残存する不純物を正確に把握して、確実に不純物を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、積層造形装置と、スラグ除去装置とを有する積層造形システムの概略構成図である。
図2図2は、溶接ロボットに取り付けられた溶接トーチと形状計測部を模式的に示す説明図である。
図3図3は、形状計測部の構成及び計測原理を示す図で、(A)は照射光の光路と反射光の光路とを示す光学系の説明図、(B)は測定原理を示す説明図である。
図4図4は、形状計測部の検出信号の説明図で、(A)は形状計測部から出力される反射光プロファイルを模式的に示すグラフで、(B)は(A)に示す反射光プロファイルの光強度分布を模式的に示すグラフである。
図5図5は、溶着ビードの表面に形成された不純物が反射強度に及ぼす影響を示す図で、(A)は溶着ビードの表面に不純物が存在する場合、(B)は不純物が存在しない場合の反射光の様子を示す説明図である。
図6図6は、造形途中に不純物除去作業を行う造形物の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、不純物除去作業及びその前後の様子を(A)~(C)に示す工程説明図である。
図8図8は、溶着ビードの各位置でそれぞれ計測される反射光プロファイルで、不純物除去作業の前後における反射光強度の差の絶対値を求めた結果を模式的に示す説明図である。
図9図9は、溶着ビード形成後でスラグ除去前の状態を示しており、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を示すグラフ、検出強度の平均値を示す説明図である。
図10図10は、溶着ビード形成後でスラグ除去後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
図11図11は、溶着ビード形成後でスラグ除去前の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
図12図12は、溶着ビード形成後でスラグ剥離後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
図13図13は、図12のスラグ剥離後にニードルスケーラーによりスラグ除去動作を行った後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、溶着ビードにより形成された金属層の表面の不純物を除去する不純物除去方法を、溶着ビードを形成して造形物を製造する積層造形装置と、溶着ビード表面のスラグを除去するスラグ除去装置とを用いて説明するが、使用する装置は以下に例示する装置構成に限らない。
【0012】
<積層造形システムの構成>
図1は、積層造形装置100と、スラグ除去装置200とを有する積層造形システム300の概略構成図である。
積層造形システム300は、積層造形装置100と、スラグ除去装置200と、積層造形装置100及びスラグ除去装置200を統括制御する制御装置310と、を備える。
【0013】
積層造形装置100は、先端軸に溶接トーチ11を有する溶接ロボット13と、溶接トーチ11に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部15と、溶接電流及び溶接電圧を発生する溶接電源17とを有する。溶接トーチ11は、溶加材Mをトーチ先端から突出した状態で保持し、溶加材Mを連続供給可能に支持する。
【0014】
溶接ロボット13は、多関節ロボットであり、溶接トーチ11の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0015】
溶接トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、製造する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0016】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部15から溶接トーチ11に送給される。そして、溶接ロボット13の駆動により溶接トーチ11を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレートBs上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。この溶着ビードBを積層することで所望の形状の造形物Wが得られる。
【0017】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。
【0018】
また、溶接トーチ11には、溶着ビードB等の測定対象物の表面形状を計測する形状計測部19が設けられている。形状計測部19は、溶着ビードBを含む溶接面の形状が計測できればよく、例えばレーザ光を用いて周知の形状計測方法を利用した計測機器を使用できる。形状計測部19による計測結果は、制御装置310に入力される。なお、形状計測部19は、溶接ロボット13に取り付ける以外にも、溶接ロボット13とは別体の適宜なフレーム部材(不図示)に固定して、定点からベースプレートBs上の溶着ビードBを計測してもよい。また、形状計測部19は、汎用ロボット21に取り付けることもできる。さらに、複数の形状計測部を用意してそれぞれを併用する構成にしてもよい。
【0019】
スラグ除去装置200は、溶接ロボット13と同様の多関節ロボットである汎用ロボット21を備える。汎用ロボット21のロボットアーム23の先端には、スラグ除去ツール25が装着される。汎用ロボット21は、制御装置310からの指令により、スラグ除去ツール25の位置や姿勢が、ロボットアーム23の自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0020】
汎用ロボット21は、積層造形装置100によってベースプレートBp上に積層された溶着ビードBに生じるスラグ、スパッタ等の不純物(以下、これらを総称して不純物ともいう)を、スラグ除去ツール25を用いて除去する。スラグ除去ツール25としては、発生した不純物にタガネ部材を突き当てて振動させ、不純物に打撃を加える周知のタガネ機構を備えたものが例示できる。タガネ部材は、多芯のワイヤ部材の束からなる。また、スラグ除去ツール25は、除去する不純物の量又は程度に応じて、エアブラシ、切削工具等の他のツールと交換してもよい。
【0021】
さらに、積層造形装置100の溶接ロボット13に、溶接トーチ11に代えてスラグ除去ツール25を装着すれば、積層造形装置100をスラグ除去装置200として機能させることもできる。
【0022】
制御装置310は、積層造形装置100の溶接ロボット13、溶加材供給部15、溶接電源17、及びスラグ除去装置200等の各部を統括して制御する。図示は省略するが、制御装置310は、CAD/CAM部と、軌道演算部と、記憶部と、これらが接続される制御部と、を有する。
【0023】
CAD/CAM部は、製造しようとする造形物の形状データを作成した後、その造形物の形状を複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部は、生成された層形状データに基づいて溶接トーチ11の移動軌跡、及び汎用ロボット21によるスラグ除去ツール25の移動軌跡を求める。スラグ除去ツール25の軌道は、積層計画に基づいて求めた溶接トーチ11の軌道に、ツール形状に応じたオフセットを付与することで求められる。
【0024】
記憶部は、造形物の形状データ、生成された層形状データ、溶接トーチ11の移動軌跡、及びスラグ除去ツール25の移動軌跡等の情報、並びに、積層造形装置100とスラグ除去装置200とを駆動する駆動プログラムを記憶する。駆動プログラムには、層形状データ、溶接トーチ11の移動軌跡等の情報に基づいて作成された造形プログラム、及びスラグ除去ツール25の移動軌跡等の情報に基づいて作成されたスラグ除去プログラムが含まれる。いずれのプログラムも各部の駆動手順を表す指令コードからなるもので、制御部が作成したものであってもよく、外部から入力されたものであってもよい。
【0025】
制御部は、上記した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット13により溶着ビードBを形成させる。また、制御部は、スラグ除去プログラムを実行して、汎用ロボット21により溶着ビードB表面のスラグを除去する。なお、駆動プログラムとスラグ除去プログラムは、一つのプログラムに統合されていてもよい。
【0026】
<溶着ビードの検出>
次に、上記構成の積層造形装置100により、溶着ビードBの表面形状及び状態を計測する手順を説明する。
図2は、溶接ロボット13に取り付けられた溶接トーチ11と形状計測部19を模式的に示す説明図である。
【0027】
形状計測部19は、溶接トーチ11の移動方向(溶接方向)PSの後方に配置され、溶接トーチ11の移動と一体となって移動する。形状計測部19は、形成された溶着ビードBに向けて検査光を照射するとともに、照射された検査光が溶着ビードBで反射した反射光を検出する。この検査光は、一方向に延びる帯状光であり、帯状光を一方向に直行する方向に順次移動して反射光を検出する。そして、検出された反射光のパターンと強度によって、ビード形状と、スラグ等の不純物の状態が計測される。
【0028】
なお、形状計測部19は、溶接トーチ11の移動方向PSの前方に配置してもよい。その場合、溶着ビードBの形成中にビード前方の下地形状が計測される。この計測結果は、次に溶着ビードを形成する際、不純物除去作業が必要か否かの判断基準に用いることができる。
【0029】
ここでは、形状計測部19としてレーザ変位センサを用いた場合を説明するが、形状計測が可能であればこれに限らない。
図3は、形状計測部19の構成及び計測原理を示す図で、(A)は照射光の光路と反射光の光路とを示す光学系の説明図、(B)は測定原理を示す説明図である。
図3の(A)に示すように、形状計測部19は、レーザ照射部と検出センサ部とを有する。レーザ照射部は、レーザ光源31と、ビーム拡大レンズ33と、ガルバノミラー35とを備え、検出センサ部は、結像レンズ37と、2次元イメージセンサである受光素子39とを備える。レーザ光源31から出射されたレーザ光LBは、ビーム拡大レンズ33、ガルバノミラー35を通じて測定対象物に照射され、測定対象物からの反射光が結像レンズ37を介して受光素子39により検出される。
【0030】
図3の(B)に示すように、測定対象物である溶着ビードB1に向けてレーザ光LBが角度θで照射されると、溶着ビードB1からの反射光は、結像レンズ37によって受光素子39上の点P1に結像する。一方、溶着ビードB1の高さが溶着ビードB2の位置まで変化すると、溶着ビードB2からの反射光は、受光素子39上の点P1から離れた点P2に結像する。受光素子39により、点P1からP2までの距離ΔLを検出することで、溶着ビードB1,B2の高さの差Hを求めることができる。
【0031】
図4は、形状計測部19の検出信号の説明図で、(A)は形状計測部19から出力される反射光プロファイルPhを模式的に示すグラフで、(B)は(A)に示す反射光プロファイルの光強度分布Prを模式的に示すグラフである。
図4の(A)に示す反射光プロファイルPhは、図3の(A)に示す溶着ビードBを計測した場合のプロファイルであって、上側に凸となった領域が溶着ビードBの位置を示している。つまり、反射光プロファイルPhは、測定対象物の高さ情報を示しており、この反射光プロファイルPhを監視することで、溶着ビードBの形状品質を確認できる。また、図4の(B)の実線で示す光強度分布Pr1は、測定対象物からの反射強度を示している。
【0032】
図5は、溶着ビードの表面に形成された不純物SLが反射強度に及ぼす影響を示す図で、(A)は溶着ビードの表面に不純物SLが存在する場合、(B)は不純物SLが存在しない場合の反射光の様子を示す説明図である。
【0033】
図5の(A)に示すように、溶着ビードBの表面に不純物SLが存在すると、照射されたレーザ光LBが不純物SLによって拡散する。そのため、拡散された反射光LBrのうち受光素子39に向かう反射光の強度は、レーザ光LBの強度と比較して低下する。一方、図5の(B)に示すように、溶着ビードBの表面に不純物SLが存在しない場合には、溶着ビードBの金属光沢面でレーザ光LBが正反射する。つまり、反射光LBrは高い強度を維持したまま特定の方向に向かう。表面形状が不定である溶着ビードBでは、反射光が受光素子39に向かうことは希であり、殆どは受光素子39とは異なる方向に向かう。これによれば、受光素子39で検出される反射光の強度に応じて、不純物SLが存在するか否かを推定できる。
【0034】
例えば、溶着ビードの一部から不純物が除去されて、ビード表面に金属光沢面が表出した場合を考える。図4の(A)に示す領域Lsを不純物が除去された領域とする。その場合、図4の(A)に示す反射光プロファイルPhには、不純物が除去された領域Lsでの形状変化は殆ど見られないが、図4の(B)に点線で示す反射光の光強度分布Pr2には、領域Lsにおいて光強度の低下が認められる。そこで、溶着ビードBに形成された不純物を除去する際、不純物除去作業を行う前後の反射光強度をそれぞれ測定して、同一位置における反射光強度の変化の有無を確認することで、不純物が除去できているかを評価できるようになる。
【0035】
次に、上記した反射光強度を利用して、不純物の残存を評価しながら溶着ビードを形成する造形物の製造方法を説明する。
図6は、造形途中に不純物除去作業を行う造形物の製造方法の手順を示すフローチャートである。
以下に説明する各手順の動作は、図1に示す制御装置310からの指令に基づいて積層造形装置100とスラグ除去装置200とが駆動されることでなされる。
【0036】
まず、予め用意された造形プログラムに従って、積層造形装置100により溶着ビードBを形成する。そして、形成した溶着ビードBのビード表面の形状を、形状計測部19を用いて計測する(S1)。
【0037】
図7は、不純物除去作業及びその前後の様子を(A)~(C)に示す工程説明図である。
図7の(A)に示すように、溶着ビードBの形状の計測は、溶着ビードBの形成とともに溶接トーチ11の移動方向PSの後方で実施する。形状の計測は、これに限らず種々の形態が可能であり、例えば、1層の溶着ビードBの形成を全て終了した後に形状計測部19で計測してもよく、形状計測部19を溶接トーチ11とは別体に設けて計測してもよい。
【0038】
形成した溶着ビードBの表面には、スラグ、スパッタ等の不純物が付着する。そこで、図7の(B)に示すように、付着した不純物をスラグ除去装置200のスラグ除去ツール25を用いて除去する(S2)。スラグ除去ツール25の移動パスは、溶着ビードBの形成時における溶接トーチ11の移動パスに沿って設定すればよいが、適宜変更してもよい。例えば、不純物除去が必要な箇所のみを選択的に移動することであってもよい。
【0039】
次に、形成した溶着ビードBの不純物除去作業を行った後、図7の(C)に示すように、再度、溶着ビードBの形状の計測を行う(S3)。このときの形状計測部19からの照射光の光量等の条件は、ステップS1での計測の場合と同じにする。また、形状計測部19の移動パスは、溶着ビードBの形成時における溶接トーチ11の移動パスと同じに設定すればよいが、適宜変更してもよい。例えば、スラグ除去ツール25で不純物を除去した箇所のみを選択的に移動することであってもよい。さらに、この不純物除去作業後の計測は、前述したように、溶接ロボット13とは別体に設けた他の形状計測部によって高速に計測させる構成にしてもよい。
【0040】
上記した不純物除去作業の前後で検出された各反射光プロファイルPhは、図4の(A)に示すように、溶着ビードBの表面形状に応じた形状となる。不純物の厚さは溶着ビードBの凹凸形状と比較して僅かであるため、前述したように、反射光プロファイルPh同士の形状差は小さい。一方、図4の(B)に示すように、反射光プロファイルPhの光強度分布Pr同士を比較すると、除去された不純物に応じた強度の差分Brが生じる。つまり、不純物除去作業の前後で、溶着ビードBの不純物が除去された位置においては、反射光の強度変化が顕著に現れるので、この強度の差分Brを抽出する(S4)。
【0041】
具体的には、不純物除去作業前に計測した第1反射光プロファイルの反射光の強度をBr、不純物除去作業後に計測した第2反射光プロファイルの反射光の強度をBrとし、その差分Br(=Br-Br)、又は変化率α(=Br-Br)/Brを求めて、不純物の除去程度を表す定量指標とする。なお、これら定量指標となる評価パラメータは、上記した以外の他のパラメータを用いてもよい。
【0042】
そして、抽出した評価パラメータ(差分Br又は変化率α等のパラメータ)が予め定めた閾値を超えたかを判断し(S5)、閾値を超えていない場合は、不純物がまだ十分に除去されていないものとして、再度、不純物除去作業を実施して不純物を除去する(S6)。このときの不純物除去作業は、評価パラメータが小さいほど、不純物除去のためのエネルギを増加させることが好ましい。例えば、金属表面へのチッピングの圧力、チッピング時間を増加させる。
【0043】
再度の不純物除去作業を実施した後はステップS3に戻り、溶着ビードBの形状の計測から上記した手順を繰り返す。また、不純物除去作業を実施することに代えて、評価パラメータが閾値以下となる位置(不純物除去が不十分な位置)の座標情報を制御装置310に出力してもよい。その場合、制御装置310は、不純物の除去が不十分な位置をモニタ、表示盤等の表示部に表示して作業者に報知する。また、その座標情報に基づいて不純物除去のための適宜な処置を行ってもよい。
【0044】
ステップS5で評価パラメータが閾値を超えた場合には、不純物の除去が十分に行えたものと判断して、次工程、例えば、次層の溶着ビードBの形成等の工程を実施する。これにより、所望の形状の造形物を、不純物の影響を抑えて製造できる。
【0045】
また、ステップS5の反射光強度の比較による不純物の存在の評価は、良・否の判定のほか、段階的な評価であってもよい。即ち、第1判断基準値と、第1判断基準値よりも小さい第2判断基準値とを予め設定しておき、各基準値と上記した評価パラメータ(差分Br又は変化率α等)とを比較する。比較の結果、評価パラメータが第1判断基準値以上であれば、不純物が除去されたと判定し、評価パラメータが第1判断基準値未満で且つ第2判断基準値以上であれば、不純物の少なくとも一部が剥離したと判定する。また、評価パラメータが第1判断基準値未満であれば、不純物が除去されていないと判定する。
【0046】
このように、基準値を多段階に異なる値に設定することにより、不純物の状態をより詳細に判定でき、状態に応じた対処を細かく設定できる。例えば、不純物除去作業の第一段階が、エアブラシによるエア吹き付け等のスラグ剥離を促す簡単な操作、第二段階は固着したスラグを取り除くためにチッパーを使用した除去、等と、程度を分けた運用も可能になる。
【0047】
以上、本不純物除去方法は、少なくとも以下に示す各工程を含んでおり、各工程がこの順で実施される。
(1)金属層に検査光を照射して、検査光が金属層の表面で反射した第1反射光プロファイルを検出する工程。
(2)金属層の表面の不純物を除去する不純物除去作業を実施する工程。
(3)不純物除去作業の実施後に、金属層の表面に上記した検査光を照射して、金属層の表面で反射した第2反射光プロファイルを検出する工程。
(4)第1反射光プロファイルと第2反射光プロファイルとの光強度を比較して、不純物の存在を評価する工程。
【0048】
この不純物除去方法によれば、これまで定量評価が困難であった不純物の除去度合いを定量的な指標により表せる。これにより、不純物除去作業で不純物を十分に除去できたか否かを正確に判断でき、次工程に進んでよいか否かの判断を下しやすくなる。よって、完成した造形物には不純物に起因する欠陥の発生を抑制でき、造形品質を向上できる。
【0049】
また、形状計測部19による反射光プロファイルPhの取得を、溶着ビード形成時における溶接トーチ11の移動と共に行うことで、工数の増加が少なく、評価のためのタクトタイムを短縮できる。さらに、反射光プロファイルPhを、不純物除去作業を実施した領域のみに限定して取得すれば、後段の反射光の強度比較の工程をより簡略化できる。
【0050】
また、形状計測部19は、溶着ビードBの形状品質の監視と、不純物の有無判定とを1つのレーザセンサで行えるため、カメラや照明等の付帯設備の追加を要することがなく、装置が煩雑化することを防止できる。そして、不純物が十分に除去されたか否かの判定結果に基づいて、次工程への移行の調整、検討ができるため、造形物の欠陥発生が抑制され、造形品質を向上できる。
【0051】
なお、上記した形状計測部19は、反射光プロファイルPh及び光強度分布Prの情報を出力しているが、これに限らない。例えば、形状計測部19にて上記した差分Br、変化率α等の評価パラメータを求めた結果を出力してもよく、計測した位置(断面)のうち、任意の代表点(代表断面)について出力することでもよく、3次元的な形状を出力することであってもよい。
【0052】
<変形例>
次に、不純物除去方法の変形例を説明する。
(変形例1)
図8は、溶着ビードの各位置でそれぞれ計測される反射光プロファイルで、不純物除去作業の前後における反射光強度の差の絶対値を求めた結果を模式的に示す説明図である。
【0053】
ここで、x方向はビード幅方向、y方向はビード形成方向を示している。y方向の手前側から奥側に向けて順に配列された反射光強度差の分布線には、x方向の特定の位置x1,x2にピークが現れている。これは、位置x1,x2に発生した不純物が不純物除去作業により除去されて、下地である溶着ビードの金属面が表出し、その金属面でレーザ光が正反射して光強度差が拡大したことに起因する。
【0054】
図8においては、複数列の分布線のうち、位置x1,x2におけるピーク強度が低くかつピーク強度が高い分布線に囲まれた領域ALが認められる。この領域ALは、不純物がそもそも存在しなかったか不純物の除去が不十分であった領域と推定できる。ここで、領域ALの区間長さがごく短い場合は不純物の除去が不均一に行われたためと推定できるが、領域ALの区間長さが一定以上の長さである場合は、そもそも不純物が存在していないものと推定できる。したがって、領域ALの区間長さに対して所定の閾値を設けることで、区間長さが閾値以上であれば不純物がないもしくは許容できるとし、閾値以下であれば不純物が残存していると判断できる。
【0055】
そこで、反射光強度差の分布線のピークが所定の閾値を超えない箇所を抽出し、その抽出した箇所についての長さ又は座標情報を求める。求めた抽出箇所の情報は、制御装置310に出力することで、次にスラグ除去作業を行う場合、抽出した箇所を中心に行うことで、効率的に不純物の除去を済ませることができる。
【0056】
また、前述したステップS5における判断は、溶着ビードBの表面における、反射光の強度差が予め定めた閾値以下となる低強度反射領域の面積を求め、低強度反射領域が予め定めた限界面積を超えたかを判断することでもよい。その場合、限界面積を超えた場合にステップS6の不純物を除去する作業を実施し、ステップS3に戻るようにする。これによれば、所定面積以上の不純物の残存領域の有無で、再度の不純物除去作業を実施するか否かが判断される。よって、無視して構わない微小領域の不純物除去作業を省略でき、本当に除去の必要がある領域のみを不純物の除去対象にできる。これにより、不純物除去作業の高効率化が図れる。
【0057】
(変形例2)
前述したステップS5における判断は、造形物を製造する造形プログラムに登録された複数のパスのうち、一部のパスのみを指定して実施してもよい。例えば、溶着ビードの形成パスが屈曲している箇所等のスラグが溜まる可能性が高いパスを選択的に指定する。不純物の存在の評価を全てのパスに行うと、造形物の製造時間が徒に長くなるおそれがある。そのため、軌道計画を作成するときに、不純物除去作業が必要な領域を特定し、その特定された領域にのみ不純物の存在を評価する。これにより、製造時間の増加を抑制できる。
【0058】
(変形例3)
前述したステップS5における判断は、造形物を製造するための軌道計画(造形プログラム)による造形物表面の予定形状と、第2反射光プロファイルで表される実表面形状とを比較して、双方の形状の差分に基づいて、不純物の存在を評価する位置を決定してもよい。軌道計画で予定する形状と乖離が著しい部分は、溶着ビードの蛇行等により不純物が残存しやすいと考えられる。そこで、本例によれば、そうした場所を見逃すことなく、不純物が残存しているか否かを評価できる。
【0059】
<試験例>
次に、種々の条件で溶着ビードを形成し、発生したスラグを除去する前と後とで反射光プロファイルPhを取得した結果を以下に説明する。
【0060】
(試験例1)
・ビード形成条件
溶接速度:9.35mpm
溶加材供給速度:34.5cpm
溶接電流:パルス駆動
溶接ワイヤ:軟鋼ワイヤ φ1.2mm
・不純物除去条件
タガネを用いて溶着ビードを軽く叩く。
【0061】
図9は、溶着ビード形成後でスラグ除去前の状態を示しており、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を示すグラフ、検出強度の平均値を示す説明図である。
【0062】
図9の(A)に破線で示す線Qの線上における溶着ビードの表面形状は、図9の(B)に示す反射光プロファイルのように上凸の領域Paで示される。この領域Paにおいては、図9の(C)に領域Pbに示す光強度分布となる。
【0063】
図10は、溶着ビード形成後でスラグ除去後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
【0064】
図10の(A)に示す線Qは、図9の(A)に示す線Qと略同一の位置を示している。図10の(B)に示すように、スラグ除去後の溶着ビードは、スラグ除去前よりもビード高さが若干低下している。図10の(C)に示す反射光プロファイルの強度分布は、図9の(C)の場合と比較して明らかな強度低下が認められる。これは、スラグの除去前では、照射光がスラグによって拡散反射して、形状計測部19に平均的な光量の反射光が届いていたものと考えられ、スラグ除去後では、金属光沢面が表出して、特定の方向には強い反射光(正反射)となるが他の方向には弱い反射光となり、このため、形状計測部19に向かう反射光の強度が低下したと考えられる。
【0065】
このように、図9の(C)と図10の(C)との反射光の強度分布の差異は明確に発現しており、強度分布の差異からスラグが除去されたか否かの定量判定が可能であることがわかる。
【0066】
(試験例2)
・ビード形成条件
溶接速度:9.5mpm
溶加材供給速度:34.5cpm
溶接電流:パルス駆動
溶接ワイヤ:軟鋼ワイヤ φ1.2mm
・不純物除去条件
タガネを用いて溶着ビードを軽く叩く。
スラグ剥離後は、エア駆動型のニードルスケーラーを使用して、スラグ除去後の表面に凹凸が確認できるまでスラグ除去動作を実施した。
【0067】
図11は、溶着ビード形成後でスラグ除去前の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
図12は、溶着ビード形成後でスラグ剥離後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
【0068】
図12の(B)と図13の(B)とに示すように、スラグ除去前後で反射光プロファイルの形状は明瞭な変化が見られないが、図12の(C)と図13の(C)とに示すように、反射光プロファイルの強度分布は、スラグが除去された領域Pbにおいて明確に差異が認められた。すなわち、図13の(C)に示す強度分布では、図12の(C)と比較して、領域Pbにおける反射光強度が大きく低下している。
【0069】
図13は、図12のスラグ剥離後にニードルスケーラーによりスラグ除去動作を行った後の状態を示す説明図であって、(A)はビード表面の写真、(B)は反射光プロファイルを示すグラフ、(C)は(B)に示す反射光プロファルの強度分布を検出強度の平均値で示すグラフである。
【0070】
図13の(B)に示す反射光プロファイルは、図11の(B)と図12の(B)とに示す反射光プロファイルの形状と明瞭な変化が見られない。しかし、図13の(C)に示す強度分布は、図12の(B)に示す金属光沢面の反射光強度よりも差が小さくなるが、図11の(B)に示すスラグ除去前の反射光強度よりも明らかに低下していることがわかる。
【0071】
以上より、スラグ除去後に金属表面に凹凸が生じるまでニードルスケーラーで叩き続けても、スラグ除去前後での反射光強度の差異が明確に認められた。よって、試験例2の場合でも、強度分布の差異からスラグが除去されたか否かの定量判定が可能であることがわかる。
【0072】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0073】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶着ビードにより形成した金属層から、該金属層の表面の不純物を除去する不純物除去方法であって、
前記金属層に検査光を照射して、前記検査光が前記金属層の表面で反射した第1反射光プロファイルを検出する工程と、
前記金属層の表面の前記不純物を除去する不純物除去作業を実施する工程と、
前記不純物除去作業の実施後に、前記金属層の表面に前記検査光を照射して、前記金属層の表面で反射した第2反射光プロファイルを検出する工程と、
前記第1反射光プロファイルと前記第2反射光プロファイルとの光強度を比較して、前記不純物の存在を評価する工程と
を備える不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、第1反射光プロファイルと第2反射光プロファイルとの光強度の比較により、金属層の表面における不純物の存在を定量評価できる。
【0074】
(2) 前記検査光は、一方向に延びる帯状光であり、前記帯状光を前記一方向に直行する方向に順次移動して前記第1反射光プロファイル及び前記第2反射光プロファイルを検出する、(1)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、帯状の検査光により表面形状を効率よく計測できる。
【0075】
(3) 前記光強度の比較は、前記第1反射光プロファイルと前記第2反射光プロファイルとの光強度の差分又は変化率を評価パラメータとして比較する、(1)又は(2)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、反射光プロファイル同士の強度の差分、又は変化率を評価パラメータとして比較することで、簡単な演算で精度良く強度差を比較できる。
【0076】
(4) 前記光強度の比較は、前記金属層の表面における前記光強度の差が予め定めた閾値以下となる低強度反射領域の面積を評価パラメータとして比較する、(1)又は(2)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、低強度反射領域の面積を評価パラメータにするため、無視して構わない微小領域の不純物除去作業を省略でき、本当に除去の必要がある領域のみを不純物の除去対象にできる。これにより、不純物除去作業の高効率化が図れる。
【0077】
(5) 前記不純物の存在の評価は、第1判断基準値と、該第1判断基準値よりも小さい第2判断基準値とを、前記評価パラメータとを比較して、前記評価パラメータが前記第1判断基準値以上であれば、前記不純物が除去されたと判定し、前記評価パラメータが前記第1判断基準値未満で且つ前記第2判断基準値以上であれば、前記不純物の少なくとも一部が剥離したと判定し、前記評価パラメータが前記第1判断基準値未満であれば、前記不純物が除去されていないと判定する(3)又は(4)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、基準値を多段階に異なる値に設定することにより、不純物の状態をより詳細に判定でき、状態に応じた対処を細かく設定できる。
【0078】
(6) 前記不純物が除去されていないと判定された場合は、前記不純物除去作業を繰り返し実施する、(5)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、不純物が十分に除去されたか否か判定された後に次工程へ進むため、不純物に起因する欠陥の発生を抑制できる。
【0079】
(7) 繰り返し実施する前記不純物除去作業では、前記評価パラメータが小さいほど前記金属層に加えるエネルギを増加させる、(5)又は(6)に記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、評価パラメータの大小に応じて不純物除去の効果を調整できるため、無駄のない、より適切な不純物除去が行える。
【0080】
(8) 前記第2反射光プロファイルのうち前記不純物除去作業を実施した領域を抽出し、該抽出された領域内における前記光強度のみを比較する、(1)~(7)のいずれか1つに記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、必要な部分のみを比較対象にすることで、工数を削減してタクトタイムを短縮できる。
【0081】
(9) 前記不純物は、溶接により生じるスラグ又はスパッタである、(1)~(8)のいずれか1つに記載の不純物除去方法。
この不純物除去方法によれば、発生するスラグ又はスパッタを確実に除去できる。
【0082】
(10) 前記溶着ビードを形成するパスが予め定められた軌道計画に基づいて、前記溶着ビードを形成するビード形成工程と、
前記溶着ビードにより形成された前記金属層の前記不純物を、(1)~(9)のいずれか1つに記載の不純物除去方法により除去する不純物除去工程と、
を含む造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、金属層の表面における不純物の存在を定量評価して、不純物を適切に除去しながら溶着ビードを形成するため、常に高品質な造形物を製造できる。
【0083】
(11) 前記不純物除去工程は、前記軌道計画に定められた複数のパスのうち、一部のパスにより形成された前記金属層についてのみ実施する、(10)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、予め不純物が溜まりやすい箇所について、効率よく確実に不純物除去が行える。
【0084】
(12) 前記不純物除去工程において前記第2反射光プロファイルから前記金属層の実表面形状を求める工程と、
前記軌道計画に基づいて形成される前記金属層の表面の設計形状を求める工程と、
前記実表面形状と前記設計形状とを比較して、その形状の差分に応じて前記不純物除去工程を実施する位置を決定する工程と、を含む(10)又は(11)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、例えば溶着ビードの蛇行等により不純物が残存しやすいことが予測される部分について、その部分を不純物の存在を評価する位置に決定することで、不純物を見逃すことなく確実に評価できる。
【0085】
(13) 前記検査光を照射するとともに前記反射光を検出する形状検出器が、前記溶着ビードを形成する溶接トーチに設けられ、
前記溶接トーチにより前記溶着ビードを形成しながら、前記形状検出器により前記金属層の表面形状を計測する、(10)~(12)のいずれか1つに記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、溶着ビードの形成と共に表面形状の計測を行うため、効率のよい計測が可能となり、タクトタイムを短縮できる。
【0086】
(14) 前記形状検出器により、前記溶接トーチの移動方向後方の前記金属層の表面形状を計測する、(13)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、溶着ビードの形成直後に溶着ビードを計測できるため、効率よく各工程を進められる。
【0087】
(15) 前記形状検出器により、前記溶接トーチの移動方向前方の前記金属層の表面形状を計測する、(13)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、溶接ビードの形成中にビード前方の下地形状を計測でき、その計測結果を、次に溶着ビードを形成する際、不純物除去作業が必要か否かの判断基準に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
11 溶接トーチ
13 溶接ロボット
15 溶加材供給部
17 溶接電源
19 形状計測部
21 汎用ロボット
23 ロボットアーム
25 スラグ除去ツール
31 レーザ光源
33 ビーム拡大レンズ
35 ガルバノミラー
37 結像レンズ
39 受光素子
100 積層造形装置
200 スラグ除去装置
300 積層造形システム
310 制御装置
B 溶着ビード
Br 差分
Bs ベースプレート
M 溶加材
Ph 反射光プロファイル
Pr1,Pr2 光強度分布
SL 不純物
W 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13