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特開2023-41493再生可能エネルギーによる電力の取引とCO2排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041493
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】再生可能エネルギーによる電力の取引とCO2排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20230316BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148899
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】313004816
【氏名又は名称】西本 一也
(71)【出願人】
【識別番号】519249262
【氏名又は名称】株式会社デジタルアセットマーケッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西本 一也
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エネルギー取引における価格変動リスクを大幅に改善し、電力を安定供給可能な、取引価格及び電力供給の安定化システムを提供する。
【解決手段】ブロックチェーンとスマートコントラクト(スマコン)を用いた、再生可能エネルギーによる電力取引とCO排出権取引と小口電力取引とを含むエネルギー取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1において、複数の小口電力供給システム2と接続し、取引数量等調整用データ格納テーブル11、テーブル11に対しヘッジを目的とする取引数量等調整用データの更新を行うスマコン12、テーブル11のデータに基づきヘッジを目的とするトークンの売買を行うスマコン13、スマコン13がヘッジを目的として売買したトークンに対し清算処理を行うスマコン14、小口電力のスポット取引等を行うスマコン15及び夫々の小口電力供給システムに対し小口電力の供給指示を行うスマコン16を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックチェーン等の分散技術とスマートコントラクトを用いて構成された、再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムであって、
家庭用バッテリーに蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システムと接続するとともに、
複数に分割された取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを備えた取引数量等調整用データ格納テーブルと、
取引期間ごとの取引価格の差に基づく、複数の取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを算出し、算出したデータを用いて前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新する、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトと、
前記取引数量等調整用データ格納テーブルのヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データに基づいて取引数量を調整し、調整した取引数量でヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を行うヘッジ目的取引用スマートコントラクトと、
前記ヘッジ目的取引用スマートコントラクトがヘッジを目的として売買したトークンに対して、任意に設定された清算時期となる特定の日時に清算処理を自動的に行うヘッジ実行・清算用スマートコントラクトと、
前記小口電力のスポット取引(または当日取引)を行う、小口電力取引用スマートコントラクトと、
前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給指示を行う小口電力供給指示用スマートコントラクトと、
を有して構成されていることを特徴とする再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項2】
前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、エネルギー取引についての年間における各取引期間の平均取引価格、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率をデータ項目として備えてなり、
前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトは、年間における各取引期間の平均取引価格を算出または取得する機能と、算出または取得した各取引期間の平均取引価格を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を算出する機能と、算出した当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を所定取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間での価格変動のヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率として算出する機能と、算出したヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率を用いて、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、算出した値を用いてブロックチェーン等の分散技術上、および前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトの内部領域に設けた前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新し、管理する機能と、を有することを特徴とする請求項1に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項3】
前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月または3カ月を単位として設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項4】
前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が、各日における24時間に対し卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間以内となって設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項5】
前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、再生可能エネルギーの取引について、各決済日の時間帯に、前記小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う機能を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項6】
前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を受け付ける機能をさらに有し、
前記スプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ差金決済による清算処理を自動的に行うことを特徴とする請求項5に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項7】
前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を、任意に設定された清算時期となる特定の日時における差金決済による清算処理の時間が到来するまで随時受け付けることを特徴とする請求項6に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項8】
前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、CO排出権の取引について、売り方が信用取引的に売ったCO排出権のトークンの現渡の予定(時期、数量)の設定を受け付ける機能と、CO排出権のトークンを信用取引的に売った売り方からの担保金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、決算期日までにCO排出権のトークンの現渡又は差金決済による清算処理を自動的に行う機能と、をさらに有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項9】
前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、決算期日が到来するまでにCO排出権のトークンの預入が無い場合、担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済による清算処理を自動的に行うことを特徴とする請求項8に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項10】
前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、前記小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を受け付ける機能と、設定を受け付けた放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、を有し、
それぞれの前記小口電力供給システムは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトからの指示に基づく、放出地域、放出時間帯、放出電力量にて、前記小口電力を供給する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項11】
前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量を超えているとき、設定された放出電力量を当該家庭用バッテリーから放出するように、当該小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示することを特徴とする請求項10に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項12】
前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量以下のとき、放出電力量の設定受け付けに際し、設定入力者に警告情報を通知する機能をさらに有することを特徴とする請求項10または11に記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項13】
前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力のトークンの売り方からの保証金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、
家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が設定された放出電力量を下回るとき、当該家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量を上回る電力についての当該家庭用バッテリーからの供給をキャンセルし、保証金を用いて、キャンセル分の前記小口電力の供給を他の売り方から受けるように、他の小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、
をさらに有することを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項14】
前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電するように構成されていることを特徴とする請求項10~13のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【請求項15】
前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの電力による蓄電量とを分別して管理する蓄電量分別管理手段を備えることを特徴とする請求項10~13のいずれかに記載の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックチェーン等の分散技術やスマートコントラクトを用いた再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現状において、2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と、吸収または除去量とを同じ量にする)実現という課題がある。
カーボンニュートラル実現のための方策としては、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの電力量に占める割合を増加させることや、CO吸収事業者とCO排出事業者との間での排出権取引が有力である。
【0003】
エネルギーの分野における主力電源は原油やガスなどのCOを排出する化石エネルギーであるが、原油などの化石エネルギーを含めて再生可能エネルギーとCO排出権が組み合わされて管理や取引が行われるケースが増加してきている。
再生可能エネルギーによる電力、CO排出権、原油などの化石エネルギーによる電力は、価格変動が予測され、その価格変動をヘッジ(抑制)するニーズは高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再生可能エネルギーについての課題(発電量の予測が難しく、価格変動が大きい)
再生可能エネルギーについては、太陽光発電や風力発電など、発電量の予測が難しいものなどが大きなシェアを占めている。
そのため、発電量が予測から外れた場合、卸電力取引所の電力スポット取引において再生可能エネルギーによる電力の取引価格が暴騰(10倍程度にも及ぶ乱高下)することも普通に発生している。
特に、太陽光の少ない冬場や、高温となる夏の時期は電力消費量が大きいため、再生可能エネルギーによる電力の取引価格の変動が大きくなり易い。
そして、再生可能エネルギーによる電力の供給不足による価格変動が、その供給不足を補完する石油などの化石エネルギーによる電力の取引価格に悪影響を与え易い。
【0005】
しかるに、大手電力会社などは、電力の価格変動を回避するために、電力価格を固定化する契約を総合商社などと締結している。このため、発電量と電力需要との乖離が発生しても、電力価格の大きな変動の問題は生じない。
【0006】
一方、新興の新電力会社などは、電力の価格変動を回避するための対応が不十分であり、想定電力を提供できない場合に、顧客である電力消費者との契約価格を上回る想定外の高額な電力購入を行わざるを得なくなる状況が発生し、経営が悪化して破綻することが懸念される。
今後、エネルギーの分野において再生可能エネルギーの電力量に占める割合は高くなる傾向であり、卸電力取引所の電力スポット取引価格の乱高下はさらに大きくなる可能性がある。
【0007】
CO 排出権についての課題(強制力のあるCO 排出権の取引量が減少し続け市場の機能に問題)
CO排出権については、現在、農林水産分野におけるJ-クレジットなど、COなどの温室効果ガスの排出削減量や吸収量に関するサービスがあるが、強制力がない。
強制力のあるCO排出権は、日本において取引量が減り続けており、市場としての機能に問題がある。
【0008】
今後、2050年を目標にしたカーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーの価格を安定化させ、総量規制に基づく強制力のあるCO排出権の市場を構築することが必要になる。
しかるに、再生可能エネルギーによる電力やCO排出権に対して、大手電力会社のような価格の固定化を行わないと、価格変動率が上がり続け、再生可能エネルギーによる電力やCO排出権の取引に参加する大手以外の企業に大きな価格変動リスクによるダメージが発生することが懸念される。
【0009】
先物におけるヘッジの限界
現在、電力の取引において、価格変動のリスクに対するヘッジとして機能する取引としては、先物取引がある。
しかし、先物は、長期契約を前提とした大口の取引であり、非常に短い期間における価格変動のヘッジとして有効には機能し難く、また、小規模単位の取引ができない。
しかも、先物は常に限月(期限が満了する月)単位での取引となっており、期限が先物取引時に定められている。長期間に及ぶ先物取引においては、限月ごとの流動性の違いから限月間の価格差が大きくなり、限月のロールオーバーなどが発生し、ロールオーバーコスト(スプレッドのインパクトコスト)が大きくなる。
【0010】
再生可能エネルギーによる電力の活用上の課題
現在、再生可能エネルギーによる電力は、石油などの化石エネルギーによる電力と分けて分離管理できておらず送電網に入る段階で混ざる。このため、再生可能エネルギーによる電力であっても、殆どが化石エネルギーによる電力と同様に扱われ、CO排出削減量を有効に活用できていない。
【0011】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、再生可能エネルギーによる電力の取引やCO排出権の取引や小口電力の取引を含むエネルギーの取引における価格変動のリスクを大幅に改善し、かつ、電力を安定的に供給することの可能な再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明による再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、ブロックチェーン等の分散技術とスマートコントラクトを用いて構成されたシステムであって、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システムと接続するとともに、複数に分割された取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを備えた取引数量等調整用データ格納テーブルと、取引期間ごとの取引価格の差に基づく、複数の取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを算出し、算出したデータを用いて前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新する、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトと、前記取引数量等調整用データ格納テーブルのヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データに基づいて取引数量を調整し、調整した取引数量でヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を行うヘッジ目的取引用スマートコントラクトと、前記ヘッジ目的取引用スマートコントラクトがヘッジを目的として売買したトークンに対して、任意に設定された清算時期となる特定の日時に清算処理を自動的に行うヘッジ実行・清算用スマートコントラクトと、前記小口電力のスポット取引(または当日取引)を行う、小口電力取引用スマートコントラクトと、前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給指示を行う小口電力供給指示用スマートコントラクトと、を有して構成されていることを特徴としている。
なお、本願明細書における「スマートコントラクト」とは、ブロックチェーン等の分散技術上で稼働する、処理を自動化するプログラムである。
【0013】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、エネルギー取引についての年間における各取引期間の平均取引価格、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率をデータ項目として備えてなり、前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトは、年間における各取引期間の平均取引価格を算出または取得する機能と、算出または取得した各取引期間の平均取引価格を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を算出する機能と、算出した当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を所定取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間での価格変動のヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率として算出する機能と、算出したヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率を用いて、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、算出した値を用いてブロックチェーン等の分散技術上、および前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトの内部領域に設けた前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新し、管理する機能と、を有するのが好ましい。
【0014】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月または3カ月を単位として設けられているのが好ましい。
【0015】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が、各日における24時間に対し卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間以内となって設けられているのが好ましい。
【0016】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、再生可能エネルギーの取引について、各決済日の時間帯に、前記小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う機能を有するのが好ましい。
【0017】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を受け付ける機能をさらに有し、前記スプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ差金決済による清算処理を自動的に行うのが好ましい。
【0018】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を、任意に設定された清算時期となる特定の日時における差金決済による清算処理の時間が到来するまで随時受け付けるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、CO排出権の取引について、売り方が信用取引的に売ったCO排出権のトークンの現渡の予定(時期、数量)の設定を受け付ける機能と、CO排出権のトークンを信用取引的に売った売り方からの担保金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、決算期日までにCO排出権のトークンの現渡又は差金決済による清算処理を自動的に行う機能と、をさらに有するのが好ましい。
【0020】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、決算期日が到来するまでにCO排出権のトークンの預入が無い場合、担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済による清算処理を自動的に行うのが好ましい。
【0021】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、前記小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を受け付ける機能と、設定を受け付けた放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、を有し、それぞれの前記小口電力供給システムは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトからの指示に基づく、放出地域、放出時間帯、放出電力量にて、前記小口電力を供給する制御手段を備えているのが好ましい。
【0022】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量を超えているとき、設定された放出電力量を当該家庭用バッテリーから放出するように、当該小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示するのが好ましい。
【0023】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量以下のとき、放出電力量の設定受け付けに際し、設定入力者に警告情報を通知する機能をさらに有するのが好ましい。
【0024】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力のトークンの売り方からの保証金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が設定された放出電力量を下回るとき、当該家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量を上回る電力についての当該家庭用バッテリーからの供給をキャンセルし、保証金を用いて、キャンセル分の前記小口電力の供給を他の売り方から受けるように、他の小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、をさらに有するのが好ましい。
【0025】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電するように構成されているのが好ましい。
【0026】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおいては、前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの電力による蓄電量とを分別して管理する蓄電量分別管理手段を備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、再生可能エネルギーによる電力の取引やCO排出権の取引や小口電力の取引を含むエネルギーの取引における価格変動のリスクを大幅に改善し、かつ、電力を安定的に供給することの可能な再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態にかかる再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムの構成を概念的に示すブロック図である。
図2図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおける取引数量等調整用データ格納テーブルのデータ構成の一例を概念的に示す説明図である。
図3図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおける取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトの構成を概念的に示す説明図である。
図4図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおけるヘッジ目的取引用スマートコントラクトの一部の構成を概念的に示す説明図である。
図5図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおけるヘッジ実行・清算用スマートコントラクトの一部の構成及び機能を概念的に示す説明図である。
図6図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおけるヘッジ実行・清算用スマートコントラクトの他の構成及び機能を概念的に示す説明図である。
図7図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおける小口電力取引用スマートコントラクトの構成を概念的に示す説明図である。
図8図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおける小口電力供給指示用スマートコントラクトの一部の構成及び機能を概念的に示す説明図である。
図9図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムにおける小口電力供給指示用スマートコントラクトの他の構成及び機能を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施形態の説明に先立ち、本発明を導出するに至った経緯及び本発明の作用効果について説明する。
上述のように、再生可能エネルギーについては、太陽光発電や風力発電など、発電量の予測が難しいものなどが大きなシェアを占めているため、発電量が予測から外れた場合、卸電力取引所の電力スポット取引において再生可能エネルギーによる電力の取引価格が暴騰(10倍程度にも及ぶ乱高下)することも普通に発生しており、特に、太陽光の少ない冬場や、高温となる夏の時期は電力消費量が大きいため、再生可能エネルギーによる電力の取引価格の価格変動が大きくなり易い。
【0030】
エネルギーの取引における価格変動の問題の背景(電力取引の自由化による弊害)
エネルギーの取引における価格変動の問題の背景には、電力取引の自由化による弊害がある。
従来、電力価格は、大手電力会社の発電コストが単純に小売価格に上乗せされたものとなっていて、わかり易いものであった。
しかし、大地震による原子力発電所等の事故発生の問題を契機として、新たなエネルギーが立ち上げられ、電力取引の完全自由化が進められた。
即ち、以前の主力電源は、原子力や火力発電であり、電力価格の変動は、原料の「価格」の変動の問題として対処されていた。
最近、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの電力量に占める割合が増加してきたことで、原料の「価格」変動ではなく、発電「量」の不安定さが新たな問題となり、電力の市場取引価格が、発電量に大きく影響を受けるようになってきた。
新興の新電力会社の多くは、天候による風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの発電量の変動の不安定さを補うために、電力市場(卸電力取引所)から成行で不足分を調達せざるを得ず、結果的に卸電力取引所の電力スポット取引価格が乱高下して大きく影響される。
そして、再生可能エネルギーによる電力の供給不足による価格変動が、その供給不足を補完する石油などの化石エネルギーによる電力の取引価格に悪影響を与え易い。
【0031】
大手電力会社などは、電力の価格変動を回避するために、電力価格を固定化する契約を総合商社などと締結しているため、発電量と電力需要との乖離が発生しても、電力価格の大きな変動を生じる問題にはならない。一方、新興の新電力会社などは、電力の価格変動を回避するための対応が不十分であり、想定電力を提供できない場合に、顧客である電力消費者との契約価格を上回る想定外の高額な電力購入を行わざるを得なくなる状況が発生し、経営が悪化して破綻することが懸念される。今後、再生可能エネルギーの電力量に占める割合は高くなる傾向であり卸電力取引所の電力スポット取引価格の乱高下はさらに大きくなる可能性がある。
また、CO排出権については、現在、農林水産分野におけるJ-クレジットなどのCOなどの温室効果ガスの排出削減量や吸収量に関するサービスがあるが、強制力がない。
従来、電力の主力は、ガスや石油などの発電によるCOを排出する化石エネルギーである。再生可能エネルギーは、風力発電や太陽光発電が主力であり、天候や季節、さらには昼夜(時間帯)の影響を大きく受ける。
大手企業では、再生可能エネルギーによる電力のみを使用することが難しいため、従来の化石エネルギーによる電力を使用する一方で、J-クレジットなどのCO排出権を購入し、化石エネルギーによる電力にCO排出権を付加して、再生可能エネルギーによる電力に準じた電力として扱い、化石エネルギーによる電力の発電におけるCO排出量をCO排出権で相殺することで、カーボンニュートラルの目標に近づけているが、J-クレジットは、強制力のあるものではない。
強制力のあるCO排出権は、日本において取引量が減り続けており、市場としての機能に問題がある。
【0032】
今後、2050年を目標にしたカーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーの価格を安定化させ、CO排出権の市場をつくることが必要になる。
しかるに、再生可能エネルギーによる電力やCO排出権に対して、大手企業のような価格の固定化を行わないと、価格変動率が上がり続け、再生可能エネルギーによる電力やCO排出権の取引に参加する大手以外の企業に大きな価格変動リスクによるダメージが発生することが懸念される。
【0033】
そこで、本件発明者は、再生可能エネルギーによる電力の取引、CO排出権の取引、原油などの化石エネルギーによる電力の取引について上記問題を解決するための改善策の考察・検討を行った。
【0034】
先物におけるヘッジの限界
現在、電力の取引において、価格変動のリスクに対するヘッジとして機能する取引としては、先物取引等がある。
原油などの化石エネルギーによる電力の取引については、現在、先物取引や、ETNなどのサービスが提供されている。
但し、先物は限月で必ずしも連動しているわけではなく、(企業が価格を保証している形式で実物管理が問われていない)ETNなどの証券化されたサービスにおけるデフォルト(債務不履行)リスク等を回避できない。
また、原油価格に連動したETFについても、信託コストなどを起因として運用成績がマイナスとなる可能性が高い。
【0035】
また、先物は、長期契約を前提とした大口の取引であり、非常に短い期間における価格変動のヘッジとして有効には機能し難く、また、小規模単位の取引ができない。
また、先物取引におけるバックオフィス業務による複雑な処理のコストも無視できない。
しかも、先物は、常に限月(期限が満了する月)単位での取引となっており、期限が先物取引時に定められている。長期間に及ぶ先物取引においては、限月ごとの流動性の違いから限月間の価格差が大きくなり、限月のロールオーバーなどが発生し、ロールオーバーコスト(スプレッドのインパクトコスト)が大きくなる。
【0036】
また、電力先物には、参加者が限定されるなどの問題がある。
また、先物は定型化したサービスであり、複雑化した電力サービスのカバー範囲が限られる。
また、電力の前日スポットよりも前に取引される先物は、出来高が弱く、その流動性不足分(の契約・取引)が電力の前日スポットに集中して荒い値動きになり易い。
また、電力先物の取引対象地域が、特定の地域に限定される。
【0037】
再生可能エネルギーによる電力の活用上の課題
現在、再生可能エネルギーによる電力は、石油などの化石エネルギーによる電力と分けて分離管理できておらず送電網に入る段階で混ざる。このため、再生可能エネルギーによる電力であっても、殆どが化石エネルギーによる電力と同様に扱われ、CO排出削減量を有効に活用できていない。
【0038】
そこで、本件発明者は、これらの問題を鑑み、ブロックチェーン等の分散技術やスマートコントラクトを用いて、先物のような複雑さを排除し、企業保証ではなく電力の原料もしくはそれに連動したものを保有し、処理を自動化することでコスト問題を含め、価格変動リスクを大幅に改善し、かつ電力を、CO排出削減量を有効活用しながら、安定的に供給するべく考察・検討を重ねた末、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムを導出するに至った。
【0039】
本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、ブロックチェーン等の分散技術とスマートコントラクトを用いて構成されたシステムであって、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システムと接続するとともに、複数に分割された取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを備えた取引数量等調整用データ格納テーブルと、取引期間ごとの取引価格の差に基づく、複数の取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを算出し、算出したデータを用いて前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新する、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトと、前記取引数量等調整用データ格納テーブルのヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データに基づいて取引数量を調整し、調整した取引数量でヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を行うヘッジ目的取引用スマートコントラクトと、前記ヘッジ目的取引用スマートコントラクトがヘッジを目的として売買したトークンに対して、任意に設定された清算時期となる特定の日時に清算処理を自動的に行うヘッジ実行・清算用スマートコントラクトと、前記小口電力のスポット取引(または当日取引)を行う、小口電力取引用スマートコントラクトと、前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給指示を行う小口電力供給指示用スマートコントラクトと、を有して構成されている。
【0040】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、エネルギー取引についての年間における各取引期間の平均取引価格、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率をデータ項目として備えてなり、前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトは、年間における各取引期間の平均取引価格を算出または取得する機能と、算出または取得した各取引期間の平均取引価格を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を算出する機能と、算出した当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を所定取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間での価格変動のヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率として算出する機能と、算出したヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための比率を用いて、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能と、算出した値を用いてブロックチェーン等の分散技術上、および前記取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクトの内部領域に設けた前記取引数量等調整用データ格納テーブルを更新し、管理する機能と、を有する。
【0041】
本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムのように、それぞれの取引期間における平均取引価格の差に基づいて取引数量等の調整用データ(平均取引価格の比率)を算出し、調整用データを用いて調整した取引数量で所望の取引期間についてのヘッジを目的とするトークンの取引(売買)を行い、任意に設定された清算時期が到来するごとにヘッジを目的として取引(売買)したトークンの清算(反対売買)を行い、トークンの保有量を調整する構成にすれば、先物取引のようなヘッジ機能を有しながら、限月がなく、ロールオーバーなどを排除することが可能となる。また、先物取引においては、限月により限月の数だけ流動性が分散されて、取引価格のインパクトが出てくるのに対し、本発明よれば、限月を無くすことができ、広範囲の小口参加者を取り込みながら、1種類のトークンに集約して、流動性を1点に集めることができるため、取引価格のインパクトを抑止することが可能となり、取引価格を安定化させ易くなる。
そして、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムのようにヘッジ機能を有して構成すれば、再生可能エネルギーによる電力のトークンの価格を固定化しておくことができ、天候等を起因とする発電量と電力需要との乖離が突発的に発生して想定電力を提供できない場合においても、新興の新電力会社などは、顧客である電力消費者との契約価格を上回る想定外の高額な電力購入を行わざるを得なくなるような状況を回避することができる。
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムのように、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システムと接続するとともに、小口電力のスポット取引(または当日取引)を行う、小口電力取引用スマートコントラクトと、小口電力取引用スマートコントラクトが行った小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの小口電力供給システムに対し小口電力の供給指示を行う小口電力供給指示用スマートコントラクトと、を有して構成すれば、天候の急変等に起因して、発電量が予測から外れて再生可能エネルギーによる電力が不足するような場合、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力によって、価格変動を抑えながら、需要者に電力を安定的に供給することが可能となる。
【0042】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月または3カ月を単位として設けられている。
このようにすれば、先物取引における限月の期間に対応させながら、限月をなくして、限月のロールオーバーコストを生じさせることなく、価格変動のリスクを大幅に改善することを可能にすることを具現化できる。
【0043】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記取引数量等調整用データ格納テーブルは、年間における各取引期間のデータ項目が、各日における24時間に対し卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間以内となって設けられている。
このようにすれば、非常に短い期間における価格変動をヘッジすることが可能となる。
【0044】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、再生可能エネルギーの取引について、各決済日の時間帯に、前記小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う機能を有する。
このようにすれば、価格変動のヘッジを具現化することが可能となる。
【0045】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を受け付ける機能をさらに有し、前記スプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ差金決済による清算処理を自動的に行う。
このようにすれば、差金決済による清算処理を極力効率的に行うことが可能となる。
【0046】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、売り方と買い方からの前記決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を、任意に設定された清算時期となる特定の日時における差金決済による清算処理の時間が到来するまで随時受け付ける。
このようにすれば、差金決済による清算処理をより一層効率的に行うことが可能となる。
【0047】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、CO排出権の取引について、売り方が信用取引的に売ったCO排出権のトークンの現渡の予定(時期、数量)の設定を受け付ける機能と、CO排出権のトークンを信用取引的に売った売り方からの担保金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、決算期日までにCO排出権のトークンの現渡又は差金決済による清算処理を自動的に行う機能と、をさらに有する。
このようにすれば、CO排出権のトークンの価格を固定化しておくことで、CO排出権の取引価格が暴騰するリスクを回避することができる。
【0048】
この点について、詳述する。
CO排出権のトークンの売り手となるCO排出権のトークンの発行者は、再生可能エネルギーの業者(新電力会社を含む)や、農業事業体によるCO吸収処理を行うような団体である。
CO排出権の取引価格が高騰する要因は、長期の天候により再生可能エネルギーによる電力の取引価格が高騰したときに、それに連動することによるものである。
CO排出権の売り手が少ないと、CO排出権の取引価格が高騰し続けて、卸電力取引所の電力スポット取引のように通常価格の10倍程度にも及ぶような暴騰が起こり得る。
しかるに、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムのようにすれば、例えば、CO排出権の売り手となり得る農家は、CO排出権の取引価格が高騰したときに、CO排出権のトークンを信用取引的に売り、バイオ炭などを畑にまくことで1カ月後にCO排出権を受け取った時点で、CO排出権のトークンの現渡による清算を行い易くなる。この場合、CO排出権の取引価格が通常価格の2倍程度であっても、CO排出権のトークンの売り手が多く出現し易くなるため、通常価格の10倍となるような暴騰を防ぐことができ、結果的に、取引価格が安定する。
【0049】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記ヘッジ実行・清算用スマートコントラクトは、決算期日が到来するまでにCO排出権のトークンの預入が無い場合、担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済による清算処理を自動的に行う。
このようにすれば、CO排出権の取引についての清算処理を確実に行うことが可能となる。
【0050】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力取引用スマートコントラクトが行った前記小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、前記小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を受け付ける機能と、設定を受け付けた放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、それぞれの前記小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、を有し、それぞれの前記小口電力供給システムは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトからの指示に基づく、放出地域、放出時間帯、放出電力量にて、前記小口電力を供給する制御手段を備えている。
このようにすれば、新電力会社などは、天候の急変等に起因して、発電量が予測から外れて再生可能エネルギーによる電力が不足し、卸電力取引所の電力スポット取引や当日取引において電力価格が暴騰(10倍程度にも及ぶ乱高下)するような場合においても、卸電力取引所の電力スポット市場等で成行による想定外の高額な電力購入を行わずに済み、ヘッジではカバーしきれない、卸電力取引所の電力スポット市場での現物の実価格との価格ギャップを、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の取引価格によって吸収し、価格変動を抑えながら、需要者に電力を安定的に供給することが可能となる。
【0051】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量を超えているとき、設定された放出電力量を当該家庭用バッテリーから放出するように、当該小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する。
このようにすれば、天候の急変等に起因する、再生可能エネルギーによる電力の不足時における家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の供給を確実に行うことが可能となる。
【0052】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が所定量以下のとき、放出電力量の設定受け付けに際し、設定入力者に警告情報を通知する機能をさらに有する。
このようにすれば、天候の急変等に起因する、再生可能エネルギーによる電力の不足時における家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の供給不足となるような事態を未然に防ぐことが可能となる。
【0053】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記小口電力供給指示用スマートコントラクトは、前記小口電力のトークンの売り方からの保証金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量が設定された放出電力量を下回るとき、当該家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の残量を上回る電力についての当該家庭用バッテリーからの供給をキャンセルし、保証金を用いて、キャンセル分の前記小口電力の供給を他の売り方から受けるように、他の小口電力供給システムに対し前記小口電力の供給を指示する機能と、をさらに有する。
このようにすれば、天候の急変等に起因して、再生可能エネルギーによる電力の不足時において、一部の家庭用バッテリーに蓄電された小口電力の供給が不足となるような事態が生じても、小口電力を供給することが可能となる。
【0054】
また、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電するように構成されている。
このようにすれば、供給する小口電力に再生可能エネルギーによる電力としての価値を付加することができる。
再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電する家庭用バッテリーとしては、例えば、家庭用の太陽光発電設備から充電を行う家庭用蓄電池が挙げられる。
【0055】
また、本発明の再生可能エネルギー取引とCO排出権取引と小口電力取引とを含むエネルギー取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、好ましくは、前記家庭用バッテリーが、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの電力による蓄電量とを分別して管理する蓄電量分別管理手段を備える。
このようにすれば、供給する小口電力の総電力量のうち、再生可能エネルギーによる電力量を算出することができ、再生可能エネルギーによる電力量分の小口電力に再生可能エネルギーによる電力としての価値を付加することができる。
本発明における蓄電量分別管理手段を備えるのに好適な家庭用バッテリーとしては、例えば、家庭用の太陽光発電設備からの充電と、一般の化石エネルギーによる電力からの充電を行い得る電気自動車のバッテリーが挙げられる。
【0056】
そして、一般家庭用の小口電力や、CO排出権の売り手は小口の取引者であり、買い手は大手企業などの大口の取引者である。本発明によれば、従来、電力取引における大口の取引者との取引の相手となり得なかった小口の取引者を大口の取引者と取引できるようにすることで、広範囲から小口電力の供給が受けられるようになる。その結果、天候等を起因として新電力会社などによる風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電力の発電量が、想定量を下回っても、小口電力で補うことにより、電力を安定的に供給することが可能となる。
電力は、夜間の使用量が極めて少ないため取引価格が安くなる。化石エネルギーによる電力を発電する巨大な発電機は、停止・起動を短時間で行うことができず、夜間も作動したままとなる結果、夜間に発電した殆どの電力が無駄になる。
しかるに、小口の電力は、家庭用バッテリーである、例えば、電気自動車のバッテリーで夜間の電力を蓄電し、電力需要が多く取引価格が高くなる昼間の時間帯に、電気自動車のバッテリーに蓄電した電力を供給するようにすることで、低価格の電力を供給できる。
さらに、供給を受ける小口電力が化石エネルギーによる電力である場合には、CO排出権の取引により取得したCO排出権を付加することで、再生可能エネルギーによる電力に準じた扱いとして、化石エネルギーによる電力の発電におけるCO排出量をCO排出権で相殺することができ、カーボンニュートラルの目標に適合した電力にすることができる。
【0057】
従って、本発明によれば、再生可能エネルギーによる電力の取引やCO排出権取引や小口電力の取引を含むエネルギーの取引における価格変動のリスクを大幅に改善し、かつ、電力を安定的に供給することの可能な再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムが得られる。
【0058】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムの構成を概念的に示すブロック図である。図1中、30はヘッジを目的とするトークンの買い手となる新電力会社のような風力や太陽光など電力供給が不安定な事業体、40はヘッジを目的とするトークンの売り手となる大手電力会社のような火力や原子力などの発電をベースとした安定電力を大量に供給できる事業体、50はCO排出権についての信用取引的なトークンの売り手となるCO排出権の生産者(農業系)、60は家庭用バッテリーに蓄電された小口電力のトークンの売り手となる小口の電力供給者である。
図1の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1は、ブロックチェーン等の分散技術とスマートコントラクトを用いて構成されたシステムであって、例えば、図1に示すように、家庭用バッテリーに蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システム2と接続するとともに、取引数量等調整用データ格納テーブル11と、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12と、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13と、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14と、小口電力取引用スマートコントラクト15と、小口電力供給指示用スマートコントラクト16と、取引の注文入力を行う注文入力手段17と、注文入力された注文データの管理を行う注文管理用スマートコントラクト18と、を有して構成されている。
【0059】
注文入力手段17は、コンピュータの端末や、携帯情報端末等の他の電子機器の画面表示部と入力部を介して、ヘッジを目的とする注文やヘッジを目的としない注文、ヘッジの実行・清算を目的とする注文、小口電力の取引を目的とする注文などにおける注文データを入力することができるように構成されている。
注文管理用スマートコントラクト18は、注文者により注文入力手段17を介して入力された注文について、当該注文にかかる所定形態のデジタル資産(例えば、トークン又はデジタル通貨)を担保として、当該注文についての注文データ(例えば、トークンによる売り注文、デジタル通貨による買い注文のデータ)を分散型台帳に記録・保存する機能を有するように構成されている。
【0060】
取引数量等調整用データ格納テーブル11は、例えば、図2及び次に示すように、複数に分割された取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等(を修正するための比率等)の調整用データを備えている。
・エネルギー取引についての年間における各取引期間の平均取引価格。
・各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率。
・各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率。
・各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率。
・各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率。
また、取引数量等調整用データ格納テーブル11は、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月または3カ月を単位として設けられている。
また、取引数量等調整用データ格納テーブル11は、年間における各取引期間のデータ項目が、各日における24時間に対し卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数(例えば、48)以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間(例えば、30分)以内(例えば、10分、15分など)となって設けられている。
【0061】
取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12は、図3に示すように、取引期間ごとの取引価格の差に基づく、複数の取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等(を修正するための比率等)の調整用データを算出し、算出したデータを用いて取引数量等調整用データ格納テーブル11を更新するスマートコントラクトであり、例えば、図3及び次に示すような機能を有して構成されている。
・年間における各取引期間の平均取引価格を算出または取得する機能。
・算出または取得した各取引期間の平均取引価格を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を算出する機能。
・算出した当該取引期間の直前の取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を用いて、各取引期間における、当該取引期間の直前の取引期間の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能。
・各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の取引価格を基準とした当該取引期間の平均取引価格の比率を所定取引期間の平均取引価格を基準とした当該取引期間での価格変動のヘッジ目的の取引を行うための取引数量を調整するための修正用データ(比率)として算出する機能。
・算出したヘッジ目的の取引を行うための取引数量の修正するための調整用データ(比率)を用いて、各取引期間における、所定の取引期間の直前の取引期間末の平均取引数量を基準とした当該取引期間の平均取引数量の比率を算出する機能。
・算出した値を用いてブロックチェーン等の分散技術上、および取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12の内部領域に設けた取引数量等調整用データ格納テーブル11を更新し、管理する機能。
【0062】
ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13は、注文入力手段17を介したヘッジを目的とする注文入力に応じて作動し、例えば、図4に示すように、取引数量等調整用データ格納テーブル11のヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等(を調整するための比率等)の調整データに基づいて取引数量を調整し、修正した取引数量でヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を行う機能を有して構成されている。
【0063】
ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、例えば、図5に示すように、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13がヘッジを目的として売買したトークンに対して、(例えば、注文入力手段17を介したヘッジの実行・清算を目的とする注文入力において)任意に設定された清算時期となる特定の日時に清算処理を自動的に行う機能を有して構成されている。
【0064】
詳しくは、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、例えば、再生可能エネルギーの取引について、(例えば、注文入力手段17を介したヘッジの実行・清算を目的とする注文入力において任意に設定された)各決済日の時間帯に、小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う機能を有して構成されている。
また、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、売り方と買い方からの決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付ける機能をさらに有し、スプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ差金決済による清算処理を自動的に行うように構成されている。
また、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、売り方と買い方からの決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を、任意に設定された清算時期となる特定の日時における差金決済による清算処理の時間が到来するまで(例えば、注文入力手段17を介して)随時受け付けるように構成されている。
【0065】
また、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、例えば、図6に示すように、CO排出権の取引について、売り方が信用取引的に売ったCO排出権のトークンの現渡の予定(時期、数量)の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付ける機能と、CO排出権のトークンを信用取引的に売った売り方からの担保金(デジタル通貨)の預入を(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)受け付ける機能と、決算期日までにCO排出権のトークンの現渡又は差金決済による清算処理を自動的に行う機能と、をさらに有して構成されている。
【0066】
また、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、決算期日の到来までに(例えば、注文管理用スマートコントラクト18に)CO排出権のトークンの預入が無い場合、担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済による清算処理を自動的に行うように構成されている。
【0067】
小口電力取引用スマートコントラクト15は、図7に示すように、注文入力手段17を介した小口電力の取引を目的とする注文に応じて作動し、小口電力のスポット取引(または当日取引)を行うように構成されている。
小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、図8に示すように、小口電力取引用スマートコントラクト15が行った小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの小口電力供給システム2に対し小口電力の供給指示を行うように構成されている。
詳しくは、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、各決済日における、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付ける機能と、設定を受け付けた放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、それぞれの小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する機能と、を有して構成されている。
【0068】
より詳しくは、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、家庭用の(蓄電池および/または電気自動車等の)バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が所定量を超えているとき、設定された放出電力量を当該家庭用バッテリー22から放出するように、当該小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示するように構成されている。
【0069】
また、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、図9に示すように、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が所定量以下のときは、(例えば、注文入力手段17を介した小口電力の取引を目的とする注文入力における)放出電力量の設定受け付けに際し、設定入力者に警告情報を通知する機能をさらに有するように構成されている。
【0070】
また、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、小口電力のトークンの売り方からの保証金(デジタル通貨)の預入を(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)受け付ける機能と、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が、設定された放出電力量を下回るときは、当該家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量を上回る電力についての当該家庭用バッテリー22からの供給をキャンセルし、保証金を用いて、キャンセル分の小口電力の供給を他の売り方(外部の電力供給元)から受けるように、他の小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する機能と、をさらに有するように構成されている。
【0071】
なお、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1においては、家庭用バッテリー22が、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギー発電による電力のみを蓄電するように構成するとより好ましい。再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電する家庭用バッテリー22としては、例えば、家庭用の太陽光発電設備から充電を行う家庭用蓄電池が挙げられる。
【0072】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1においては、家庭用バッテリー22が、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの電力による蓄電量とを分別して管理する蓄電量分別管理手段23を備えるとより好ましい。蓄電量分別管理手段23を備えるのに好適な家庭用バッテリー22としては、例えば、家庭用の太陽光発電設備からの充電と、外部からの電力(化石エネルギーによる電力)からの充電を行い得る電気自動車のバッテリーが挙げられる。
電気自動車のバッテリーは、例えば、家庭用の太陽光発電設備のコンセントと、外部からの電力(化石エネルギーによる電力)のコンセントとにプラグの接続を切り替えることができる。そして、電力価格の低い夜間には外部からの電力を充電し、昼間の電力が不足しているときに電力の供給を求められることが考えられる。その場合に、蓄電量分別管理手段23は、接続を切り替えて充電前のバッテリーの蓄電量と、充電完了後のプラグを外す直前のバッテリーの蓄電量を分離して記録する。これにより、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの化石エネルギーによる電力の蓄電量とが分別して管理される。蓄電量分別管理手段23により分別して管理される電力のうち、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力は、CO排出権を有する電力として扱うことができる。また、外部からの化石エネルギーによる電力は、当該量に相当するCO排出権を別途購入して付加することで、発電におけるCO排出量がCO排出権で相殺された、再生可能エネルギーに準じた電力として扱うことは可能である。
【0073】
小口電力供給システム2が蓄電量分別管理手段23を備える場合、分別して管理されるそれぞれの蓄電量に基づき、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の量と、外部からの化石エネルギーによる電力の量との割合を算出して、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力と、外部からの化石エネルギーによる電力とが混在した電力を供給することは可能である。
その場合、化石エネルギーによる電力の割合に応じたCO排出権を別途購入して組み合わせる。
なお、化石エネルギーによる電力に付加するCO排出権は、石油による発電の際のCO排出量に基づき算出する。
【0074】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1は、その他に、ヘッジを目的としない注文等について通常のクロッシングを行う取引処理用スマートコントラクト19、取引処理用スマートコントラクト19で対当した注文等についての清算を行う清算処理用スマートコントラクト20を備えている。
【0075】
このような構成を備えた本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1を用いたエネルギー取引価格のヘッジ及び供給の例について説明する。
【0076】
価格変動のヘッジ方法
例えば、電力における取引数量の調整例について説明する。ここでは、取引数量等調整用データ格納テーブル11は、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月を単位として設けられているものとする。
取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12は、まず、例えば、卸電力取引所の電力の先物市場やスポット市場などでの過去の取引データにおける取引価格を用い(或いは参照し)て、「各月の平均取引価格」を取得する。
次に、取得した「各月の平均取引価格」を用いて、当該前月の平均取引価格を基準とした当該月の平均取引価格の比率(前月比)を算出する。
次に、算出した「当該月の平均取引価格の比率(前月比)」を用いて、当該前月の平均取引数量を基準とした当該月の平均取引数量の比率(前月比)(=1÷「当該月の平均取引価格の比率(前月比)」)を算出する。
また、算出した「各月の平均取引価格」を用いて、所定月の前月末の取引価格を基準とした当該月の平均取引価格の比率を算出する。この所定月の前月末の取引価格を基準とした当該月の平均取引価格の比率は、当該月分の所定月を基準としたヘッジを目的とする取引を行うための取引数量を調整するための調整用データとなる。
また、算出した「所定月の前月末の取引価格を基準とした当該月の平均取引価格の比率」を用いて、所定月の前月末の数量を基準とした当該月の平均取引数量の比率(=1÷「所定月の前月末の取引価格を基準とした当該月の平均取引価格の比率」)を算出する。
算出した値を用いてブロックチェーン等の分散技術上、および取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12の内部領域に設けた取引数量等調整用データ格納テーブル11を更新し、管理する。
【0077】
ここで、所定月の前月末の取引価格で所定月分の電力についてヘッジを行う場合の例について、表1を用いて説明する。
【表1】
例えば、現時点が前年末の単価3.3円以下の単価となっていて、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13が、前年末の単価3.3円で翌年9月分のヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を10,000トークン分行う場合、翌年9月の平均価格3.8円は前年末の単価3.3円の1.151515倍であるから、単価3.3円で購入できる現時点で、翌年9月分を購入すれば、翌年9月の時点に想定される平均単価3.8円で購入するのに比べて、1.151515倍の数量を購入できることになる。
即ち、前年末の単価3.3円で翌年9月分のヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を10,000トークン分行う場合の購入数量は、
10,000×(翌年9月分の1月を基準としたヘッジを目的とする取引を行うための取引数量を調整するための調整用データ(平均取引価格の比率))
=10,000×1.151515
=11,515.15
また、翌年9月分を単価3.3円で11,515.15トークン購入したときの代金は
=11,515.15×3.3
=38,000円
となる。
翌年9月に想定される取引数量は、前年末の単価3.3円を基準とした場合の取引数量の0.868421倍であり、11,515.15トークン購入した場合、
11,515×0.868421
≒10,000
となる。
従って、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が自動決済を行う(例えば、注文入力手段17を介したヘッジの実行・清算を目的とする注文入力において)任意に設定された清算時期となる翌年9月の時点で、取引価格が3.8円よりも上昇していた場合にはトークンの売却により利益が得られ、取引価格が3.8円よりも下落していた場合にはトークンの売却により損失となるが、ヘッジの効果(価格変動による損失を極力抑える)が得られることになる。
特に、冬夏の電力のスポット取引価格が大きく上昇したときにおけるヘッジ効果が大となる。
【0078】
なお、再生可能エネルギーについては、1日あたりの時間(夜間の消費電力が低く低価格、夕刻は消費電力が多く高価格)によって取引価格が大幅に変動することから、市場と連動するように、小口電力のスポット取引における単位時間(例えば30分単位)以内の単位時間(例えば、10分、15分、最大でも30分)でそれぞれの取引期間における平均取引価格の差に基づいて取引数量等(を修正するための平均取引価格の比率等)の調整用データを算出する。
即ち、取引数量等調整用データ格納テーブル11は、再生可能エネルギーの取引についての年間における各取引期間のデータ項目が、各日における24時間において卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間以内となって設けられている。取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12は、それぞれの取引期間における平均取引価格の差に基づいて取引数量等(を調整するための平均取引価格の比率等)の調整用データを算出し、算出した値を用いて取引数量等調整用データ格納テーブル11を更新し、管理する。
【0079】
このように、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12が取引数量等調整用データ格納テーブル11に対して取引期間ごとの取引価格の差に基づく、複数の取引期間のそれぞれにおけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等(を調整するための平均取引価格の比率等)の調整用データを算出し、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13が、取引数量等調整用データ格納テーブル11のヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等を調整するための比率等の調整用データに基づいて取引数量を調整し、調整した取引数量でヘッジを目的とするトークンの売買(購入)を行う。
取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12による取引数量等調整用データ格納テーブル11における取引数量等(を調整するための平均取引価格の比率等)の調整用データの内容は、注文管理用スマートコントラクト18やヘッジ目的取引用スマートコントラクト13に定期的に取り込まれる。または、図示しない情報配信専用のスマートコントラクトが、調整用データの内容を読み取って、注文管理用スマートコントラクト18やヘッジ目的取引用スマートコントラクト13に定期的に情報配信を行う。また、ブロックチェーン等の分散技術上に設けた取引数量等調整用データ格納テーブル11に記録されたデータは、トークン取引のサービス元(取引所)のWEBサイトにおいて事前に公開される。
新電力会社などの事業体は、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13がヘッジ目的のトークンを売買(購入)することにより、その売買時点での価格を固定化できる。
ヘッジを目的として売買(購入)したトークンを用いてヘッジを実行する際には、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が、そのトークンを反対売買(差金決済)することで、ヘッジに相当する金額の授受が行われる。
【0080】
ところで、価格変動のヘッジは上記のようにして行うことができるが、実際の事業においては、現物の受渡が重要になる。
差金決済はあくまで現金での対応であるが、実際の事業では再生可能エネルギーによる電力やCO排出権や原油などの化石エネルギーによる電力そのものを受渡する必要が生じる。再生可能エネルギーの現物は実電力、CO排出権の現物は実CO排出権、原油の現物は実原油である。
これらの現物を得るためには、再生可能エネルギー、CO排出権、原油についてのトークンの発行(価格及び数量)と実電力、実CO排出権、実原油の消費(価格及び数量)とを制御・管理する必要がある。
現物は小口電力のスポット市場等で購入する。小口電力のスポット市場等での購入価格と差金決済時のトークンの価格とが同じであれば問題は無いが、差金決済時のトークンの価格と小口電力のスポット市場等で購入した現物受渡の価格とには、相応の価格ギャップは存在する。但し、価格変動のヘッジを行うことができる面での優位性がある。
【0081】
再生可能エネルギーによる電力の取引の場合
再生可能エネルギーによる電力の取引では、清算がリアルタイムに処理される。例えば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が、(例えば、注文入力手段17を介して)設定を受け付けた特定の日時に清算処理を自動的に行い、トークンの売り手と買い手の数量を合致させ、各決済日の時間帯に、小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う。
【0082】
再生可能エネルギーによる電力のトークンについては、小口電力のスポット取引価格を推奨値として、上述したような(取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12により更新された)取引数量等調整用データ格納テーブル11における所定の時間単位での取引数量等の調整用データを用いて、(ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13により)取引数量が調整されながらヘッジを目的とする取引が行われるようにする。例えば、30分単位の時間帯において注文板から対当した分を約定させる板寄せから開始し、ザラバに入り、28分を経過するとザラバを止める。そして、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12が次の時間帯での板寄せに向けて取引数量等調整用データ格納テーブル11におけるヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等(を調整するための平均取引価格の比率等)の調整用データの更新を行う。
なお、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12が30分単位の時間帯が到来するごとに取引数量等調整用データ格納テーブル11における全てのヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等の調整用データを更新するようにすると、ブロックチェーン等の分散技術の負荷が膨大化し処理速度の低下等を招くことになる。このため、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12によるブロックチェーン等の分散技術上での取引数量等調整用データ格納テーブル11の更新は、上述の1カ月、3カ月、もしくは週単位、1日単位等、ある程度まとまった単位での全てのヘッジを目的とする取引を行うための取引数量等を対象として行うようにするとともに、そのブロックチェーン等の分散技術上での取引数量等調整用データ格納テーブル11の更新値に対する各時間帯での更新(30分単位)は、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12の内部領域の取引数量等調整用データ格納テーブル11のみを対象として行うようにする。
【0083】
また、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13がヘッジを目的として売買(購入)した、注文管理用スマートコントラクト18で管理している数量分のトークンに対しては、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を用いた清算処理が行われるか、小口電力取引用スマートコントラクト15、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を用いた実電力の供給のための売却処理が行われるか、注文入力手段17、取引処理用スマートコントラクト19、清算処理用スマートコントラクト20等を用いたトークンを売却するための処理が行われるまでの間、他で処理できないようにロックをかけておく。
【0084】
また、当該決済日の時間帯での清算処理を行う、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14において、売り方と買い方の条件数量が合わない場合、スプレッドの調整値を加算した上で、数量の少ない方の数量分の清算処理を行わせるようにする。
【0085】
ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14では、トークンの所有者が、所望の時間帯に適価で清算できることが重要である。その意味では、清算処理時におけるトークンの買い手、つまりトークンの発行者によるトークンの償却手続といえる。
そのため、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14には、あらかじめ想定される取引量に応じた買い数量が、トークンの発行体により設定されている。
【0086】
つまり、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1における注文処理のタイプは2種類ある。
1つ目は、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13によるトークンの売買をクロッシングで行うタイプの注文処理である。
このタイプの注文処理においては、トークンの所有者は、トークンの発行者と、ヘッジを目的とするトークンの購入者になる。
また、ヘッジを目的とするトークンの購入を所望する場合、トークンの購入希望者は、デジタル通貨などを担保に入れて(設定して)当該トークンを購入する。
また、トークンの購入者は、トークンが不要になったときには、注文入力手段17、取引処理用スマートコントラクト19、清算処理用スマートコントラクト20等を用いてトークンを売却する。
【0087】
2つ目は、ヘッジを目的として購入したトークンの権利を行使してヘッジを実行すべく、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14により差金を得るような予約の執行処理的なタイプの注文処理である。
このタイプの注文処理は、トークンの所有者のためのものであり、清算処理を効率的に行わせる機能を備えたものになる。
但し、売り注文と買い注文の条件にギャップがあると条件が対当しないことから、条件を対当させるために、許容スプレッド(価格差)を設定した清算用注文になる。
売り方と買い方(生産者の償却)は、このヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14にスプレッドの許容値を(例えば、注文入力手段17を介して)設定する。そして、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、そのスプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ差金決済による清算処理を自動的に行う。
このヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14への売り注文と買い注文それぞれのスプレッドの許容値の設定は、差金決済による清算処理の時間が到来するまで何時でも設定可能であり、売り注文と買い注文との対当した分は、トリガー管理(決済の時間が到来したときに時価を取り込み自動清算)される。
清算処理では、デジタル通貨などで、相手のアドレスに送金され、トークンは償却される。
なお、対当しない分の注文は、そのまま残る。このような場合、流動性供給者(図示省略)が、売り方又は買い方として取引に参加し、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に設定した条件におけるスプレッド許容値の修正などを行い、対当され易くなるようにする。
【0088】
流動性供給者(図示省略)が、個別の契約に対して流動性の調整を行う場合について例を用いて説明する。
例えば、8月4日の15:00~15:30の時間帯でのヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14での清算処理時に、売り注文の注文数量が100、買い注文の注文数量が80であり、売り注文の注文数量が多いことから、スプレッド調整値が下がっていき、8月4日の15:30~16:00の時間帯でのヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14での清算処理時に、(例えば、注文入力手段17を介した)売り注文の注文数量が80、買い注文の注文数量が100であり、買い注文の注文数量が多いことから、スプレッド調整値が上がっていくような場合、流動性供給者(図示省略)は、8月4日の15:00~15:30の時間帯でのヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14での清算処理時に、注文数量が20の買い注文、8月4日の15:30~16:00の時間帯でのヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14での清算処理時に、(例えば、注文入力手段17を介して)注文数量が20の売り注文を入れて、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14での清算処理を完結させる。
【0089】
当該ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14の設定を事前(清算処理が行われるより前)にキャンセルする場合は、キャンセルする側の取引者が、所定のペナルティ(所定%分のトークンや、所定金額のデジタル通貨など)を(例えば、注文管理用スマートコントラクト18が担保として管理しているデジタル資産から)自動的に支払う。
なお、実際にキャンセルするのは、トークン所有者であると想定される。
【0090】
ヘッジを目的とするトークンの売り手は、大手電力会社40のような火力や原子力などによる発電をベースとした安定電力を大量に供給できる事業体が想定される。
ヘッジを目的とするトークンの買い手は、新電力会社30のような風力発電や太陽光発電など電力供給が不安定な事業体が想定される。
新電力会社30は、契約先(電力消費先)の電力需要に対する自社の発電量が不十分であると想定される場合、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を介して得たヘッジに相当する金額を用い、大手電力会社40から卸電力取引所の電力スポット取引などで電力を購入する代わりに、小口電力のスポット取引などで電力を購入して、契約先(電力消費先)に電力供給を継続する。
【0091】
CO 排出権の取引の場合
次に、CO排出権の取引では、上記の再生可能エネルギーによる電力の取引に類似するものの、CO排出権のトークンの発行者は、再生可能エネルギーの業者(新電力会社を含む)や、農業事業体によるCO吸収処理を行うような団体(以下、「農業系」とする)となる。
【0092】
農業系50がCO排出権のトークンの発行者である場合は、CO排出権が提供される時期はランダムであるものの、年間で提供できるトータル数量をある程度見込むことができる。
また、CO排出権は1年単位で集計することが多い。
そこで、例えば、決算期で多い3月末、6月末、9月末、12月末(「末」としていても、実際は2週間以上の余裕が必要であるため、その月の初旬が良い)を清算時期として、再生可能エネルギーの場合と同様に(例えば、注文入力手段17を介して)ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に設定する。
【0093】
このようにするのは、売り手も買い手も、変動価格でその先の清算コストが未確定であるよりも、固定価格で清算コストを確定させたほうが、CO排出権の取引価格が乱高下するリスクを回避し易くなるためである。
【0094】
但し、CO排出権のトークンの現物を売買すると、価格変動要素が生じてくる。
そこで、CO排出権のトークンの価格を固定するため、信用取引的なトークンを設定するべく、売り手である生産者(農業系50)が、トークンを所有していない状況であっても、一部を信用取引的に売って決算期日までに買い手(トークンの購入者)に現渡をすることができるようにする。
信用取引的なトークンの売りの母体は、担保金(デジタル通貨など)を(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に預けておき、トークンを取得次第、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を介して現渡又は差金決済による清算処理が行われるようにする。
もしくは、信用取引的なトークンの売りの母体は、第三者を経由して、第三者が保証する形(保証コストを支払う)で信用取引的なトークンの売りを行うのが望ましい。
実際には、流動性を供給する第三者が仲介しないと、CO排出権のトークンの購入者が、現渡を受けない等の被害に遭遇するケースが懸念されるからである。
【0095】
CO排出権のトークンの現渡については、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に、現渡の予定(時期、数量)を(例えば、注文入力手段17を介して)設定することができる。
例えば、注文入力手段17を介して10トークンをヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に設定し、現在所有するトークンが2トークンで、残る8トークンが未所有であって信用取引的な売りを行っているトークンである場合において、注文入力手段17を介して2カ月単位で2トークンずつ渡すようにヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に設定する。
未所有のトークンの信用取引的な売りの保証として、デジタル通貨などを担保として(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に預け入れる。
その決算期日の到来までに当該数量のCO排出権のトークンの預入が無い場合、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、担保金を用いて、信用取引的に売った当該数量のCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済による清算処理を自動的に行う。
【0096】
第三者が信用取引的なトークンの売りを仲介する場合は、第三者が所有するトークンにて充当し、第三者が信用取引的なトークンの売りの母体に対しトークン、もしくは何等かの価値を徴収する。
信用取引的なトークンの売りを仲介する第三者には、例えば、JAなどが考えられる。
【0097】
CO排出権のトークンは、通常は半年などの権利行使期間が設定されるものが望ましい。
これは、CO排出権の処理が年次単位で計算されることによる。
仮に、12月で〆るとした場合、CO排出権は、年度単位の1月から12月までの取引となる。現物取引は、1月から12月までであるが、信用取引的なトークンの売買では、現渡による清算が基本となるため、現物取引に比べて、1カ月早く(前年の12月)に取引が開始し、1カ月早く(11月)取引が終了する。
つまり、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14による清算処理の執行により、CO排出権のトークンが現渡された後、有効期日までにCO排出権のトークンの権利行使をする必要がある。
CO排出権のトークンの権利行使をすると、その情報は記録されてレポート(証明)データ(CO排出権証明書)として使えるようになる。
【0098】
また、CO排出権のトークンの信用取引的な売りを行っている場合、決算期日が到来するまでにCO排出権のトークンの現渡を行い、信用取引的な売りトークンを償却する必要がある。
そこで、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に、決済期日が近づくにつれて、信用取引的な売りを行うCO排出権のトークンの現渡による清算処理を行い、信用取引的な売りを行ったCO排出権のトークンの残数を減少させるように現渡の予定(時期、数量)を(例えば、注文入力手段17を介して)設定する。例えば、年間の信用取引的な売り数量に対し、均等割りで(例えば、1月から1カ月ごとに8.3%ずつ)の現渡による清算処理を行うように(例えば、注文入力手段17を介して)設定する。
指定時期までに信用取引的な売りトークンを償却できない場合、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)預け入れられている担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻し差金決済による清算処理を自動的に行う。
また、本実施形態では、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、信用取引的な売りトークンの償却期日が近づくにつれて担保率を上昇させるように構成されている。
そして、担保金の補充、またはCO排出権のトークンの現渡による信用取引的な売りトークンの償却がされない場合、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14は、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して、差金決済する処理を強制的に行う。
なお、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13により売買された信用取引的な売りトークンの売却金額は担保としてロックされるが、信用取引的な売りトークンの売り手は、CO排出権のトークンの価格変動を想定し、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14に、ロックした信用取引的な売りトークンの売却金額以上の担保金を(例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して)預け入れておく必要がある。
【0099】
なお、本実施形態におけるCO排出権の取引について、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が、基本的にはCO排出権のトークンの現渡による清算処理を行い、決算期日が到来するまでにCO排出権のトークンの預入が無い場合に、担保金を用いたCO排出権の買戻の差金決済による清算処理を行う構成としたが、基本的に現渡ではなく反対売買の差金決済による清算処理を行うように構成することも可能である。
CO排出権の現物は、年度単位で生成されるが、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14によるCO排出権の取引における清算処理を、CO排出権の反対売買の差金決済とした場合、CO排出権の取引におけるスマートコントラクトを介した契約は年度を跨いだ連続的なものとなる。
また、CO排出権の現物取引においても、有効期限が長く設定されて数年にわたる物については、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14において、CO排出権の取引における決済期日を年度の区切りなく(例えば、注文入力手段17を介して)設定することも可能である。
なお、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、CO排出権のトークンの反対売買の差金決済による清算処理を行うように構成した場合は、投機やヘッジが主目的となり、CO排出権のトークンの反対売買の価格がCO排出権のトークンの現物の取引価格と連動するわけではない。
その他、CO排出権の取引においては、CO排出権のトークンの所有者が、売り手にトークンを貸し付けて金利を得ることができる機能を備えたスマートコントラクト(図示省略)を備えるようにしてもよい。
【0100】
CO排出権のトークンの発行体は、所定の団体であり、発行したCO排出権のトークンを、CO排出を証明した事業体や農家へ配布する。CO排出権のトークンを受け取った事業体や農家は、CO排出権のトークンを売却することで、デジタル通貨などを受け取る。
CO排出権のトークンの売り手は、CO排出権のトークンの受け取りが想定される事業体や農家などである。また、投機として投資家がCO排出権のトークンの売り手となることも想定される。
【0101】
原油などの化石エネルギーによる電力の取引の場合
原油やガスなどの化石エネルギーによる電力の取引についても、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1を用いて取引価格のヘッジをすることは可能である。
原油などの化石エネルギーによる電力の取引価格は、基本的には原油などの化石燃料の先物価格をベースに、通常考えられる電力生成費用を算出し、算出した電力生成費用にプレミアムを載せた価格となることから、取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト12が、先物の限月に対応して分割されている取引期間における取引数量の調整を行い、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が差金決済のみによる清算処理を行うようにする。
本実施形態によれば、原油などの化石エネルギーによる電力の取引であっても、限月が無くなるため、ロールオーバーコストをなくすことができる。
【0102】
家庭用バッテリーサービス等を組み合わせた小口電力の原物受渡による清算
今後、固形バッテリーなどのサービスが(一般家庭の電気自動車や、蓄電池設備などで)普及することを想定すると、一時的に不足する時間帯において、バッテリーの余剰電力を、その不足時間に補えるように、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1を、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給を制御する小口電力供給システム2とを組み合わせることで、ヘッジではカバーしきれない、卸電力取引所の電力スポット市場での現物の実価格との価格ギャップを、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の取引価格によって吸収し、価格変動を抑えることができると考えられる。
【0103】
小口電力取引用スマートコントラクト15が行う小口電力のトークン取引において、小口電力供給指示用スマートコントラクト16での小口電力の受渡を含めた(例えば、注文入力手段17を介した)設定を、小口電力供給システム2と連動させて、小口電力供給指示用スマートコントラクト16で(例えば、注文入力手段17を介して)設定した分の小口電力が家庭用バッテリー22に蓄電されているときには、その分の小口電力を家庭用バッテリー22から供給するようにし、その際、家庭用バッテリー22に蓄電されている小口電力が不足する場合は、その電力不足分は外部から調達するようにすれば、小口電力供給指示用スマートコントラクト16での(例えば、注文入力手段17を介した)設定(当事者の契約)に基づいたその電力相応分が確保できると考えられる。
【0104】
より詳しくは、例えば、昼間の電力消費が高い時間帯に、風力や太陽光など不安定再生可能エネルギー系が電力を供給する場合を想定すると、再生可能エネルギーだけでは、天候による理由などで電力供給不足となる場合の対応としては、火力発電の余剰電力を買い取ることが考えられるが、現状、買取価格が成行き的に極端に高額になることから、その代替を考える必要がある。
【0105】
しかるに、本件発明者は、その代替として、家庭用の(蓄電池および電気自動車の)バッテリー22などに蓄電された小口電力について、(トークンの取引を介した)小口の電力供給者60との契約により、小口電力供給指示用スマートコントラクト16が小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付けて、所定の時間帯に、所定の電力量(基本的に小口電力のスポット取引と同様に30分単位で)を放出するようにすることを考えた。
【0106】
詳しくは、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1は、上述のとおり、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力を供給する小口電力供給システム2と接続されている。
そして、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、各決済日における、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付ける。また、(例えば、注文入力手段17を介して)設定を受け付けた(小口電力の)放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する。
小口電力供給指示用スマートコントラクト16による家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定の受け付けは、小口電力取引用スマートコントラクト15により売り注文と買い注文とが対当したときのトークンに(例えば、注文入力手段17を介して)設定されていた契約情報を引き継ぐ。
【0107】
なお、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、緊急的な電力需要が生じた場合などにおいて、トークンを介在させることなく、電力の契約当事者から、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付け、直接、(例えば、注文入力手段17を介して)設定を受け付けた(小口電力の)放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示するように構成してもよい。
【0108】
また、小口電力供給システム2は、小口電力供給指示用スマートコントラクト16からの指示に基づく、供給放出地域、放出時間帯、放出電力量にて、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力を供給する制御手段21を備える。
【0109】
また、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量を確認し、残量が少ない(所定量以下)のときは、放出電力量の設定受け付けに際し、家庭用バッテリー22を使わないように設定入力者(小口の電力供給者60)に警告情報を通知する。
【0110】
また、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が設定された放出電力量を下回るとき(より詳しくは、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を受け付けたときの契約内容に到達しない場合)は、当該家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量を上回る電力についての家庭用バッテリー22からの供給をキャンセルし、電力の供給をキャンセルした場合のペナルティ(契約料の35%などの支払い等)をデジタル通貨(事前に例えば、注文管理用スマートコントラクト18を介して預けておく保証金に相当)などから充当して、キャンセル分の小口電力の供給を他の売り方(小口の電力供給者60)から受けるように、他の小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する。
【0111】
当該キャンセルは、例えば、電気自動車のバッテリーからの小口電力供給の場合、その時間帯に電気自動車が接続されていない場合が該当する。その場合、直前キャンセルのペナルティ費用として契約料の50%などを徴収するようにする。
そして、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、このペナルティ費用を、緊急電力供給などの募集をする際の注文価格に上乗せするようにして充当し、キャンセル分の小口電力の供給を他の供給先から受けるように、当該小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示し、直前キャンセル時に対応できるようにする。そして、当該小口電力供給システム2の制御手段21が小口電力の供給を行い、他の供給先がペナルティ費用の上乗せされたデジタル通貨を小口電力供給指示用スマートコントラクト16から受け取る。
【0112】
上述の内容について補足説明する。
新電力会社30(などの電力供給が不安定な事業体)は、翌日の不足電力が明確であるときには、その不足量の小口電力の提供者を求める。
例えば、小口電力のスポット取引(または当日取引)を行うトークン取引所またはトークン取引機能を有する場において、小口電力取引用スマートコントラクト15を介して、小口電力の買い注文を、新電力会社30よる再生可能エネルギーの発電による電力の通常価格よりも高い価格で提示し、提示した価格での売電を所望する個人等の小口電力供給者の売り注文とマッチングさせる。
一定時間の小口電力の買い気配に対し、想定した量の小口電力が集まらない場合は、小口電力取引用スマートコントラクト15が買い注文の価格を自動的に釣り上げて売り注文を集める。
売り注文は、買い注文の提示価格が売り注文の希望価格を上回ったときをトリガーとして、自動発注できるように小口電力取引用スマートコントラクト15に(例えば、注文入力手段17を介して)設定しておく。
売電の対価は、トークンやデジタル通貨などで受け取ることができるようにする。
なお、売電の対価となるトークンとしては、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13を介して購入した電力の取引価格のヘッジを目的とするトークンを用いることができるようにする。
このようにすると、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1においては、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13を介して購入した電力の取引価格のヘッジを目的とするトークンは、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を介した反対売買による差金決済と、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を介した実電力の現渡が可能となる。
【0113】
小口電力取引用スマートコントラクト15は、売り注文が買い注文と対当したとき、トークンやデジタル通貨を契約保証料としてロックする。そして、小口電力供給指示用スマートコントラクト16は、小口電力取引用スマートコントラクト15で対当した売り注文と買い注文について、小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を(例えば、注文入力手段17を介して)受け付け、設定を受け付けた(小口電力の)放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する。
また、当日の小口電力を供給すべき契約時間に、契約当事者が当該小口電力を供給できない場合(自動車の使用など)は、ペナルティとして、その契約保証料を追加して緊急的に代替者を求める通信が発生し、その代替者がペナルティ費を受け取り、該当小口電力を供給する。
【0114】
再生可能エネルギーを扱うサービスは、再生可能エネルギーだけで完結する必要があり、上記の家庭用の小口電力においても、蓄電するバッテリー(家庭用蓄電池や電気自動車のバッテリー)からの供給電力は、再生可能エネルギーが蓄電されたものに限定するのが好ましい。
なお、電気自動車のバッテリーは、家庭用ソーラーなどの電力の他に、外部で火力などのCOを発生するエネルギーによる電力を蓄電する可能性がある。そこで、家庭用蓄電池を再生可能エネルギー専用の供給用バッテリーとして用いるのが好ましい。
また、バッテリー類の残電力を管理し、再生可能エネルギーによる電力を蓄電していることを証明することで、再生可能エネルギーによる電力としての価値を付加できるようにするのが好ましい。
【0115】
従来の化石エネルギーによる電力は、発電に際しCOを排出する。化石エネルギーによる電力を使用する場合、CO排出権を購入して化石エネルギーによる電力に付加することで、再生可能エネルギーによる電力に準じた扱いとして、化石エネルギーによる電力の発電におけるCO排出量と相殺することで、カーボンニュートラルの目標に適合した電力にすることができる。
【0116】
本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によるトークンを用いた電力の取引価格のヘッジと、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給を制御する小口電力供給システム2との組み合わせによる不足分の電力の供給とは、関連しており、ヘッジ目的で購入された、再生可能エネルギーの発電による電力のトークンをヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14が売却したときの取引価格を参考として、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給を受けるためのトークンの取引価格が形成される。
また、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給を受けるためのトークンの取引価格は、小口電力の前日スポット取引価格に連動するようにして修正される。
ヘッジ目的のトークンは売却した段階での差金決済であることから、家庭用バッテリー22に蓄電された小口の実電力の供給を受けるためのトークンの取引価格との間で鞘が発生すると、流動性の調整が発生して、双方のトークンの価格が調整され、共に効率的な価格を維持できるようになる。
売電(分電盤経由)方法には制限があるが、上記の方法であれば、新電力会社30が売電を受け入れることは可能となる。
【0117】
これにより、電力のヘッジという、実際のスポット取引との乖離を、実電力の供給を担保するトークン契約を合わせることで、電力供給と電力価格の安定化が実現する。
このように、本実施形態において用いるトークンには、使用時間帯に電力供給を行う(現引き)タイプと、差金決済をするタイプがある。
【0118】
本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、それぞれの取引期間における平均取引価格の差に基づいて取引数量等の調整用データ(平均取引価格の比率)を算出し、調整用データを用いて調整した取引数量で所望の取引期間についてのヘッジを目的とするトークンの取引(売買)を行い、任意に設定された清算時期が到来するごとにヘッジを目的として取引(売買)したトークンの清算(反対売買)を行い、トークンの保有量を調整する構成にしたので、先物取引のようなヘッジ機能を有しながら、限月がなく、ロールオーバーなどを排除することが可能となる。また、先物取引においては、限月により限月の数だけ流動性が分散されて、取引価格のインパクトが出てくるのに対し、本発明よれば、限月を無くすことができ、広範囲の小口参加者を取り込みながら、1種類のトークンに集約して、流動性を1点に集めることができるため、取引価格のインパクトを抑止することが可能となり、取引価格を安定化させ易くなる。
そして、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ機能を有した構成としたので、再生可能エネルギーによる電力のトークンの価格を固定化しておくことができ、天候等を起因とする発電量と電力需要との乖離が突発的に発生して想定電力を提供できない場合においても、新興の新電力会社30などは、顧客である電力消費者との契約価格を上回る想定外の高額な電力購入を行わざるを得なくなるような状況を回避することができる。
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力を供給する、多数の小口電力供給システム2と接続するとともに、小口電力のスポット取引(または当日取引)を行う、小口電力取引用スマートコントラクト15と、小口電力取引用スマートコントラクト15が行った小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、それぞれの小口電力供給システム2に対し小口電力の供給指示を行う小口電力供給指示用スマートコントラクト16と、を有して構成したので、天候の急変等に起因して、発電量が予測から外れて再生可能エネルギーによる電力が不足するような場合、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力によって、価格変動を抑えながら、需要者に電力を安定的に供給することが可能となる。
【0119】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、取引数量等調整用データ格納テーブル11を、年間における各取引期間のデータ項目が1カ月または3カ月を単位として設けられた構成にしたので、先物取引における限月の期間に対応させながら、限月をなくして、限月のロールオーバーコストを生じさせることなく、価格変動のリスクを大幅に改善することを可能にすることを具現化できる。
【0120】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、取引数量等調整用データ格納テーブル11を、年間における各取引期間のデータ項目として、各日における24時間に対し卸電力取引所の電力スポット取引において分割されている枠数以上の枠を有し、それぞれの単位期間が卸電力取引所の電力スポット取引における単位時間以内となって設けられている構成にしたので、非常に短い期間における価格変動をヘッジすることが可能となる。
【0121】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、再生可能エネルギーの取引について、各決済日の時間帯に、小口電力のスポット取引価格(または当日取引価格)をベースに決済価格を決定し、決定した決済価格での差金決済による清算処理を自動的に行う機能を有するように構成したので、価格変動のヘッジを具現化することが可能となる。
【0122】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、売り方と買い方からの決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を受け付ける機能をさらに有し、スプレッドの許容値の範囲内で売り注文と買い注文が対当した分だけ清算処理を執行するように構成したので、差金決済による清算処理を極力効率的に行うことが可能となる。
【0123】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、売り方と買い方からの決済価格に対するスプレッドの許容値の設定を、任意に設定された清算時期となる特定の日時における清算処理が執行される時間が到来するまで随時受け付けるように構成したので、差金決済による清算処理をより一層効率的に行うことが可能となる。
【0124】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、CO排出権の取引について、売り方が信用取引的に売ったCO排出権のトークンの現渡の予定(時期、数量)の設定を受け付ける機能と、CO排出権のトークンを信用取引的に売った売り方からの担保金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、決算期日までにCO排出権のトークンの現渡又は差金決済による清算処理を自動的に行う機能と、をさらに有するように構成したので、CO排出権のトークンの価格を固定化することで、CO排出権の取引価格が暴騰するリスクを回避することができる。
【0125】
CO排出権の取引価格が高騰する要因は、長期の天候により再生可能エネルギーによる電力の取引価格が高騰したときに、それに連動することによるものである。
CO排出権の売り手が少ないと、CO排出権の取引価格が高騰し続けて、卸電力取引所の電力スポット取引のように通常価格の10倍程度にも及ぶような暴騰が起こり得る。
しかるに、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、例えば、CO排出権の売り手となり得る農家は、CO排出権の取引価格が高騰したときに、CO排出権のトークンを信用取引的に売り、バイオ炭などを畑にまくことで1カ月後にCO排出権を受け取った時点で、CO排出権のトークンの現渡による清算を行い易くなる。この場合、CO排出権の取引価格が通常価格の2倍程度であっても、CO排出権のトークンの売り手が多く出現し易くなるため、通常価格の10倍となるような暴騰を防ぐことができ、結果的に、取引価格が安定する。
【0126】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト14を、決算期日の到来までにCO排出権のトークンの預入が無い場合、担保金を用いて、信用取引的に売ったCO排出権のトークンを時価にて買戻して差金決済を自動的に行うように構成したので、CO排出権の取引についての清算処理を確実に行うことが可能となる。
【0127】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力を供給する小口電力供給システム2と接続された構成とするともに、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を、小口電力取引用スマートコントラクト15が行った小口電力のスポット取引(または当日取引)の内容に基づき、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の放出地域、放出時間帯、放出電力量の設定を受け付ける機能と、設定を受け付けた放出地域、放出時間帯、放出電力量に基づき、それぞれの小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する機能と、を有するように構成し、さらに、それぞれの小口電力供給システム2を、小口電力供給指示用スマートコントラクト16からの指示に基づく、供給放出地域、放出時間帯、放出電力量にて小口電力を供給する制御手段21を備えるように構成したので、新電力会社30などは、天候の急変等により、発電量が予測から外れて再生可能エネルギーによる電力が不足し、卸電力取引所の電力スポット取引や当日取引において電力価格が暴騰(10倍程度にも及ぶ乱高下)するような場合においても、卸電力取引所の電力スポット市場等で成行による想定外の高額な電力購入を行わずに済み、ヘッジではカバーしきれない、卸電力取引所の電力スポット市場での現物の実価格との価格ギャップを、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の取引価格によって吸収し、価格変動を抑えながら、需要者に電力を安定的に供給することが可能となる。
【0128】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が所定量を超えているとき、設定された放出電力量を当該家庭用バッテリー22から放出するように、当該小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示するように構成したので、天候の急変等に起因する、再生可能エネルギーによる電力の不足時における家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給を確実に行うことが可能となる。
【0129】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が、所定量以下のとき、放出電力量の設定受け付けに際し、設定入力者に警告情報を通知する機能をさらに有するように構成したので、天候の急変等に起因する、再生可能エネルギーによる電力の不足時における家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給不足となるような事態を未然に防ぐことが可能となる。
【0130】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、小口電力供給指示用スマートコントラクト16を、小口電力のトークンの売り方からの保証金(デジタル通貨)の預入を受け付ける機能と、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量が、設定された放出電力量を下回るとき、当該家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の残量を上回る小口電力についての当該家庭用バッテリー22からの供給をキャンセルし、保証金を用いて、キャンセル分の小口電力の供給を他の売り方(外部の電力供給元)から受けるように、他の小口電力供給システム2に対し小口電力の供給を指示する機能と、をさらに有するように構成したので、天候の急変等に起因して、再生可能エネルギーによる電力の不足時において、一部の家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力の供給が不足となるような事態が生じても、小口電力を供給することが可能となる。
【0131】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、家庭用バッテリー22を、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力のみを蓄電するように構成した場合には、供給する小口電力に再生可能エネルギーによる電力としての価値を付加することができる。
【0132】
また、本実施形態の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム1によれば、家庭用バッテリー22を、風力または太陽光発電等の再生可能エネルギーによる電力の蓄電量と、外部からの電力による蓄電量とを分別して管理する蓄電量分別管理手段23を備える構成にした場合には、供給する小口電力の総電力量のうち、再生可能エネルギーによる電力量を算出することができ、再生可能エネルギーによる電力量分の小口電力に再生可能エネルギーによる電力としての価値を付加することができる。
【0133】
そして、一般家庭用の小口電力や、CO排出権の売り手は小口の取引者であり、買い手は大手企業などの大口の取引者である。本実施形態によれば、従来、電力取引における大口の取引者との取引の相手となり得なかった小口の取引者を大口の取引者と取引できるようにすることで、広範囲から小口電力の供給が受けられるようになる。その結果、天候等を起因として新電力会社などによる風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電力の発電量が、想定量を下回っても、小口電力で補うことにより、電力を安定的に供給することが可能となる。
電力は、夜間の使用量が極めて少ないため取引価格が安くなる。化石エネルギーによる電力を発電する巨大な発電機は、停止・起動を短時間で行うことができず、夜間も作動したままとなる結果、夜間に発電した殆どの電力が無駄になる。
しかるに、小口の電力は、家庭用バッテリーである、例えば、電気自動車のバッテリーで夜間の電力を蓄電し、電力需要が多く取引価格が高くなる昼間の時間帯に、電気自動車のバッテリーに蓄電した電力を供給するようにすることで、低価格の電力を供給できる。
さらに、供給を受ける小口電力が化石エネルギーによる電力である場合には、CO排出権の取引により取得したCO排出権を付加することで、再生可能エネルギーによる電力に準じた扱いとして、化石エネルギーによる電力の発電におけるCO排出量をCO排出権で相殺することができ、カーボンニュートラルの目標に適合した電力にすることができる。
【0134】
従って、本実施形態によれば、再生可能エネルギーによる電力の取引やCO排出権取引や小口電力の取引を含むエネルギーの取引における価格変動のリスクを大幅に改善し、かつ、電力を安定的に供給することの可能な再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムが得られる。
【0135】
以上、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムについて実施形態を用いて説明したが、本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、上記実施形態で説明した構成に限られるものではなく、本発明の請求項の範囲内でどのような形態にも構成可能である。
例えば、ヘッジ目的取引用スマートコントラクト13や、家庭用バッテリー22に蓄電された小口電力取引用スマートコントラクト15を、取引処理用スマートコントラクト19に備わる一機能として構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システムは、再生可能エネルギー取引やCO排出権取引や小口電力取引を含むエネルギーの取引を行うことが必要とされる分野に有用である。
【符号の説明】
【0137】
1 再生可能エネルギーによる電力の取引とCO排出権の取引と小口電力の取引とを含むエネルギーの取引についての取引価格及び電力供給の安定化システム
2 小口電力供給システム
11 取引数量等調整用データ格納テーブル
12 取引数量等調整用データ格納テーブル更新・管理用スマートコントラクト
13 ヘッジ目的取引用スマートコントラクト
14 ヘッジ実行・清算用スマートコントラクト
15 小口電力取引用スマートコントラクト
16 小口電力供給指示用スマートコントラクト
17 注文入力手段
18 注文管理用スマートコントラクト
19 取引処理用スマートコントラクト
20 清算処理用スマートコントラクト
21 制御手段
22 家庭用バッテリー
23 蓄電量分別管理手段
30 新電力会社
40 大手電力会社
50 CO排出権の生産者(農業系)
60 小口の電力供給者
図1
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