(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041512
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
B60C19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148924
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】清村 崇
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA13
3D131BA02
3D131BB01
3D131BB03
3D131LA20
(57)【要約】
【課題】内蔵した通信装置にかかる歪みを抑制した、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の空気入りタイヤは、通信装置がゴム被覆されてなる通信装置部材が内蔵され、前記通信装置部材は、前記通信装置を覆う第1の被覆ゴムと、前記第1の被覆ゴムの外周を覆う第2の被覆ゴムとを備え、前記第2の被覆ゴムの弾性率E2は、前記第1の被覆ゴムの弾性率E1よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置がゴム被覆されてなる通信装置部材を内蔵した空気入りタイヤであって、
前記通信装置部材は、前記通信装置を覆う第1の被覆ゴムと、前記第1の被覆ゴムの外周を覆う第2の被覆ゴムとを備え、
前記第2の被覆ゴムの弾性率E2は、前記第1の被覆ゴムの弾性率E1よりも小さいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
比E1/E2は、2以上10以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1の被覆ゴムの弾性率E1は、前記通信装置部材に隣接するタイヤ構成部材のゴムの弾性率E3より大きく、
前記第2の被覆ゴムの弾性率E2は、前記通信装置部材に隣接するタイヤ構成部材のゴムの弾性率E3より小さい、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
比E1/E3は、1.42以上2.85以下である、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
比E2/E3は、0.28以上0.71以下である、請求項3又は4の記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記第1の被覆ゴムの体積V1に対する、前記第2の被覆ゴムの体積V2の比V2/
V1は、0.26以上0.35以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の空気入
りタイヤ。
【請求項7】
前記通信装置は、電磁波を送信及び/又は受信する1つ以上のアンテナと、記憶部を有するICチップと、を有する、RFタグである、請求項1~6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの製造管理、出荷管理、使用履歴管理等のデータを読み書きするためのメモリ等を有するRF(Radio Frequency)タグ等の通信装置を内蔵した空気入りタイヤが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1においては、通信装置にかかる歪みを抑制する手法として、隣接部材を構成するゴムよりも弾性率の高いゴムで通信装置を被覆することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、通信装置にかかる歪みを抑制することが益々求められるようになっている。特にタイヤの軽量化に対する要求等から、例えばタイヤを構成するゴムを薄くする場合等がある。特にこのような場合には当該ゴム内に配置される通信装置にかかる歪みが大きくなる傾向があるため、歪みをより一層低減することが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、内蔵した通信装置にかかる歪みを抑制した、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)通信装置がゴム被覆されてなる通信装置部材を内蔵した空気入りタイヤであって、
前記通信装置部材は、前記通信装置を覆う第1の被覆ゴムと、前記第1の被覆ゴムの外周を覆う第2の被覆ゴムとを備え、
前記第2の被覆ゴムの弾性率E2は、前記第1の被覆ゴムの弾性率E1よりも小さいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
ここで、「弾性率」とは、JIS K 6251に準拠して引張試験を行い、25%伸長時の引張応力を測定した値をいうものとする。
【0007】
(2)比E1/E2は、2以上10以下である、上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0008】
(3)前記第1の被覆ゴムの弾性率E1は、前記通信装置部材に隣接するタイヤ構成部材のゴムの弾性率E3より大きく、
前記第2の被覆ゴムの弾性率E2は、前記通信装置部材に隣接するタイヤ構成部材のゴムの弾性率E3より小さい、上記(1)又は(2)に記載の空気入りタイヤ。
【0009】
(4)比E1/E3は、1.42以上2.85以下である、上記(3)に記載の空気入りタイヤ。
【0010】
(5)比E2/E3は、0.28以上0.71以下である、請求項(3)又は(4)の記載の空気入りタイヤ。
【0011】
(6)前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記第1の被覆ゴムの体積V1に対する、前記第2の被覆ゴムの体積V2の比V
2/V1は、0.26以上0.35以下である、上記(1)~(5)のいずれか1つに記
載の空気入りタイヤ。
ここで、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
【0012】
(7)前記通信装置は、電磁波を送信及び/又は受信する1つ以上のアンテナと、記憶部を有するICチップと、を有する、RFタグである、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内蔵した通信装置にかかる歪みを抑制した、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図1に示すように、このタイヤ1は、一対のビード部2と、一対のビード部2間をトロイダル状に跨るカーカス3と、カーカス3のクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された1層以上のベルト層からなるベルト4と、ベルト4のタイヤ径方向外側に配置されたトレッド5と、を備えている。
【0017】
図示例では、ビード部2には、ビードコア2aが埋設されており、ビードコア2aのタイヤ径方向外側には、断面略三角形状のビードフィラ2bが配置されている。
【0018】
図示例では、カーカス3は、1枚以上のカーカスプライからなる。カーカス3は、一対のビード部2間をトロイダル状に跨るカーカス本体部3aと、該カーカス本体部3aから延びてビードコア2aの周りを折り返されてなるカーカス折り返し部3bとからなる。図示例では、カーカス折り返し部3bの端は、ビードフィラ2bのタイヤ径方向外側端よりもタイヤ径方向外側で終端しているが、この場合に限らない。カーカスプライのコードは、特には限定されないが、有機繊維コードを用いることができる。
【0019】
図示例では、ベルト4は、2層のベルト層4a、4bからなり、ベルトコードが層間で互いに交差して延びる、傾斜ベルトである。ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度は、特には限定されないが、例えば15°~60°とすることができる。ベルト層の層数も1層以上であれば特には限定されない。ベルトコードの材質は、特には限定されないが、スチールコードとすることができる。
【0020】
図示例では、トレッド5は、1層のトレッドゴムからなるが、タイヤ径方向又はタイヤ幅方向に複数層のゴムを有するトレッドとして形成することもできる。また、図示例では、トレッド5には、3本の周方向主溝6が配置されているが、周方向主溝の本数や溝幅、溝深さ、溝形状等は特に限定されない。
【0021】
また、図示例では、タイヤ内面7に、インナーライナー8が配置されている。これにより、空気やガスの透過を防止することができる。
【0022】
図2は、通信装置部材の概略図である。
図1、
図2に示すように、このタイヤ1は、タイヤ赤道面CLを境界とするタイヤ幅方向半部に1つずつの、通信装置10が被覆ゴム13でゴム被覆されてなる通信装置部材9を内蔵している。なお、通信装置部材9は、タイヤ1に1つ以上内蔵されていれば良い。
【0023】
通信装置10は、無線通信を行うものである。図示例で、通信装置10は、電磁波を送信及び/又は受信する1つ以上の(図示例では2つの)アンテナ12と、記憶部を有するICチップ11と、を有する、RFタグである。
【0024】
本例で、ICチップ11は、任意の既知のメモリである記憶部及び任意の既知のプロセッサである制御部を有する。アンテナ12は、ICチップ11に接続され、直線状、波状、又は螺旋状に延びる。本例では、2本のアンテナ12が反対方向に延びている。ICチップ11は、1つ以上のアンテナ12で受信する電磁波により発生する誘電起電力により動作してもよい。すなわち、通信装置10は、パッシブ型の通信装置であっても良い。あるいは、通信装置10は、電池をさらに備え、自らの電力により電磁波を発生して通信可能であってもよい。すなわち、通信装置10は、アクティブ型の通信装置であっても良い。記憶部に記憶されたタイヤの製造管理、出荷管理、使用履歴管理等のデータを読み取る、あるいは、記憶部にこれらにデータを書き込むことができる。
【0025】
通信装置部材9は、本実施形態では、タイヤのサイドウォール部に配置されている。本例では、通信装置部材9は、カーカス折り返し部3bの端よりもタイヤ径方向外側に位置しているが、タイヤ最大幅部(
図1の断面視において、タイヤ幅方向のタイヤ幅が最大となる部分)よりもタイヤ径方向内側に位置している。これにより、カーカスにより電磁波の送受信が阻害されるのを抑制することができ、且つ、変形の大きいバットレス部付近を避けて、通信装置部材の耐久性を高めることができる。一方で、通信装置部材9の配置はこの例に限定されず、通信装置部材9は、カーカス折り返し部3bの端よりもタイヤ径方向内側に位置していても良い。また、通信装置部材9は、タイヤ最大幅部よりもタイヤ径方向外側に位置していても良い。
【0026】
図2に模式的に示しているように、通信装置を被覆する被覆ゴム13は、2種類のゴム14、15からなる。すなわち、通信装置部材9は、通信装置10を(直接)覆う第1の被覆ゴム14と、第1の被覆ゴム14の外周を覆う第2の被覆ゴム15とを備えている。
【0027】
図示例では、第1の被覆ゴム14は、通信装置10の外周全体を完全に包囲するように覆っており、通信装置10のいずれの箇所も第1の被覆ゴム14に接している。図示例では、第1の被覆ゴム14は、断面視で略楕円形状(ただし、通信装置10の部分がくり抜かれている)であるが、第1の被覆ゴム14の形状は、これには限定されず任意の形状とすることができ、例えば、断面視で略矩形状(ただし、通信装置10の部分がくり抜かれている)とすることもできる。
【0028】
また、図示例では、第2の被覆ゴム15は、第1の被覆ゴム14の外周全体を完全に包囲するように覆っており、第1の被覆ゴム14の外周のいずれの箇所も第2の被覆ゴム15に接している。図示例では、第2の被覆ゴム15は、断面視で環状(すなわち、第1の被覆ゴム14及び通信装置10の部分がくり抜かれている)であるが、第2の被覆ゴム15の形状は、これには限定されず任意の形状とすることができ、例えば、外周を略矩形状(ただし、第1の被覆ゴム14及び通信装置10の部分がくり抜かれている)とすることができる。第2の被覆ゴム15の内周の形状は、第1に被覆ゴム14の外周の形状に対応した形状となる。
【0029】
本実施形態のタイヤでは、第2の被覆ゴム15の弾性率E2は、第1の被覆ゴム14の弾性率E1よりも小さい。
以下、本実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0030】
本実施形態の空気入りタイヤによれば、まず、通信装置10が第1の被覆ゴム14に覆われているため、タイヤに生じる変形が通信装置10に伝わるのを第1の被覆ゴム14により抑制することができる。そして、第1の被覆ゴム14も弾性率の小さい第2の被覆ゴム15に覆われているため、タイヤに生じる変形を第2の被覆ゴム15により分散することができる。このように、タイヤに生じる変形は、第2の被覆ゴム15により分散されて第1の被覆ゴム14に伝わり、第1の被覆ゴム14が、分散された変形が通信装置10に伝わるのを抑制するため、効果的に通信装置にかかる歪みを抑制することができる。
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、内蔵した通信装置にかかる歪みを抑制することができる。
【0031】
ここで、比E1/E2は、2以上10以下であることが好ましい。比E1/E2が2以上であることにより、より一層、タイヤに生じる変形を分散させ及び/又は通信装置に変形が伝わらないようにして、通信装置にかかる歪みをより一層抑制することができるからである。また、比E1/E2を10以下とすることにより、第1の被覆ゴム14と第2の被覆ゴム15との剛性段差が大きくなり過ぎないようにして、これらの界面で生じる故障等を抑制することができるからである。
【0032】
また、第1の被覆ゴム14の弾性率E1は、通信装置部材9に隣接するタイヤ構成部材のゴム(本実施形態ではサイドウォールゴム)の弾性率E3より大きく、第2の被覆ゴム15の弾性率E2は、通信装置部材9に隣接するタイヤ構成部材のゴム(本実施形態ではサイドウォールゴム)の弾性率E3より小さいことが好ましい。弾性率E1が弾性率E3より大きいことにより、より一層、通信装置に変形が伝わらないようにすることができ、また、弾性率E2が弾性率E3より小さいことにより、より一層、タイヤに生じる変形を分散させることができる。従って、通信装置にかかる歪みをより一層抑制することができるからである。
なお、本実施形態では、上記通信装置部材9に隣接するタイヤ構成部材は、サイドウォールゴムであるが、他にも、カーカスプライのコーティングゴムやチェーファ―ゴム等の補強ゴム等でもあり得る。
【0033】
ここで、比E1/E3は、1.42以上2.85以下であることが好ましい。比E1/E3が1.42以上であることにより、より一層、通信装置に変形が伝わらないようにすることができ、一方で、比E1/E3が2.85以下であることにより、第1の被覆ゴム14と隣接するタイヤ構成部材との剛性段差が大きくなり過ぎないようにして、これらの界面で生じる故障等を抑制することができるからである。
また、比E2/E3は、0.28以上0.71以下であることが好ましい。比E2/E3が0.28以下であることにより、より一層、タイヤに生じる変形を分散させることができ、一方で、比E2/E3が0.71以上であることにより、第2の被覆ゴム15と隣接するタイヤ構成部材との剛性段差が大きくなり過ぎないようにして、これらの界面で生じる故障等を抑制することができるからである。
【0034】
空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、第1の被覆ゴム14の体積V1に対する、第2の被覆ゴム15の体積V2の比V2/V1
は、0.26以上0.35以下であることが好ましい。比V2/V1が0.26以上であ
ることにより、より一層、タイヤに生じる変形を分散させることができ、一方で、比V2
/V1が0.35以下であることにより、より一層、通信装置に変形が伝わらないように
することができるからである。
【0035】
特には限定されないが、本開示の空気入りタイヤは、特に、乗用車用タイヤ又はトラック・バス用タイヤに好適である。
【符号の説明】
【0036】
1:タイヤ、 2:ビード部、 3:カーカス、 4:ベルト、
5:トレッド、 6:周方向主溝、 7:タイヤ内面、 8:インナーライナー、
9:通信装置部材、 10:通信装置、 11:ICチップ、 12:アンテナ、
13:被覆ゴム、 14:第1の被覆ゴム、 15:第2の被覆ゴム