IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 中央大学の特許一覧

<>
  • 特開-磁気式エンコーダ 図1
  • 特開-磁気式エンコーダ 図2
  • 特開-磁気式エンコーダ 図3
  • 特開-磁気式エンコーダ 図4
  • 特開-磁気式エンコーダ 図5A
  • 特開-磁気式エンコーダ 図5B
  • 特開-磁気式エンコーダ 図6
  • 特開-磁気式エンコーダ 図7
  • 特開-磁気式エンコーダ 図8
  • 特開-磁気式エンコーダ 図9
  • 特開-磁気式エンコーダ 図10
  • 特開-磁気式エンコーダ 図11
  • 特開-磁気式エンコーダ 図12
  • 特開-磁気式エンコーダ 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041534
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】磁気式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
G01D5/245 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148956
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】長津 裕己
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 翔太
(72)【発明者】
【氏名】竹山 耀之
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA41
2F077AA42
2F077CC02
2F077NN02
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP11
2F077QQ06
2F077TT43
2F077TT65
2F077TT66
(57)【要約】
【課題】角度を高精度で測定する。
【解決手段】磁気式エンコーダ1は、複数の磁極対を有する回転可能な円盤状の磁石10と、磁石10の周囲に配置された4つの磁気センサ20と、4つの磁気センサ20が検出する磁束に基づいて、磁石10の回転角である機械角を算出する演算装置30と、を備える。複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極対を有する回転可能な円盤状の磁石と、
前記磁石の周囲に配置された4つの磁気センサと、
前記4つの磁気センサが検出する磁束に基づいて、前記磁石の回転角である機械角を算出する演算装置と、を備え、
前記複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なる、磁気式エンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記4つの磁気センサは、2組の磁気センサのペアを構成し、
前記2組の磁気センサのペアの一方の磁気センサのペアと他方の磁気センサのペアとは、前記磁石の回転に伴う磁束の変化を、90度ずれた位相で検出するように配置されている、磁気式エンコーダ。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、
前記4つの磁気センサが検出する磁束に基づいて直交信号を生成し、
前記直交信号に基づいて、前記磁石の回転に伴う磁束の変化の位相に対応する電気角を算出し、
前記4つの磁気センサが検出する磁束と、前記電気角とに基づいて、前記電気角を前記機械角に対応づけるためのオフセットを算出し、
前記電気角と前記オフセットとに基づいて、前記機械角を算出する、磁気式エンコーダ。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、下記の式(1)における誤差の2乗和Jを最小化するnを、前記オフセットとして算出する、磁気式エンコーダ。
【数1】
ただし、式(1)において、Jは誤差の2乗和を示し、Vは磁気センサの出力信号を示し、fはルックアップテーブルを示し、θは電気角を示し、Pは磁石における磁極対の数を示し、nはオフセットを示す。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、前記2組の磁気センサにおいて、各磁気センサのペアの2つの磁気センサが検出する磁束を加算することによって、前記直交信号を生成する、磁気式エンコーダ。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、前記4つの磁気センサが検出する磁束に対してニューラルネットワークによる処理を実行し、前記直交信号を生成する、磁気式エンコーダ。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか一項に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、
2つの前記直交信号の大小関係と前記直交信号の正負とに基づいて前記直交信号が4つの区間のどの区間に対応するかを判定し、
前記区間に応じたルックアップテーブルを参照して、2つの前記直交信号のうち絶対値が小さい方の前記直交信号の値をルックアップテーブルと対比して前記電気角を算出する、磁気式エンコーダ。
【請求項8】
請求項3から6のいずれか一項に記載の磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、PLL法を用いて、下記の式(2)における偏差eが0になるように角度θを制御して、前記電気角を算出する、磁気式エンコーダ。
【数2】
ただし、式(2)において、eは偏差を示し、θは電気角を示し、θはルックアップテーブルに格納されている角度を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造、工作機械、ロボットなどのような精密な位置決めを必要とする分野において、エンコーダが位置計測センサとしてよく用いられている。
【0003】
エンコーダには、光学式エンコーダ及び磁気式エンコーダなどがある。
【0004】
光学式エンコーダは、発光素子と受光素子とを組み合わせて用いて、位置の変化を検出する。光学式エンコーダには、透過型と反射型がある。透過型は、信号の精度及び耐汚染性を高めやすいという利点があるものの、小型化が難しいという特徴がある。反射型は、小型化が容易であるものの、耐汚染性が低いという特徴がある。
【0005】
磁気式エンコーダは、測定対象の位置の変化を磁束の変化として検出する。磁気式エンコーダは、基本的に永久磁石と磁気センサで構成されるという簡素な構成である。そのため、磁気式エンコーダは、小型化及び軽量化が容易で、また安価であるという特徴がある。また、磁気式エンコーダは、非常に頑丈であり、過酷な環境下でも使用可能であるという特徴がある。
【0006】
例えば、特許文献1及び特許文献2は、シリンダ内を移動するピストンロッドの位置を検出する磁気式エンコーダを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-229760号公報
【特許文献2】特開平7-260512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンコーダはモータの制御にも用いられる。モータを制御するシステムに対しては、小型化が要求されることが多い。そのため、小型化が容易である磁気式エンコーダは、モータ制御の用途に適している。
【0009】
一方、モータに必要な制御技術の複雑化に伴い、モータの回転の角度を高精度で測定することが求められている。
【0010】
本発明の目的は、角度を高精度で測定することが可能な磁気式エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダは、
複数の磁極対を有する回転可能な円盤状の磁石と、
前記磁石の周囲に配置された4つの磁気センサと、
前記4つの磁気センサが検出する磁束に基づいて、前記磁石の回転角である機械角を算出する演算装置と、を備え、
前記複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なる。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記4つの磁気センサは、2組の磁気センサのペアを構成し、
前記2組の磁気センサのペアの一方の磁気センサのペアと他方の磁気センサのペアとは、前記磁石の回転に伴う磁束の変化を、90度ずれた位相で検出するように配置されていてもよい。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、
前記4つの磁気センサが検出する磁束に基づいて直交信号を生成し、
前記直交信号に基づいて、前記磁石の回転に伴う磁束の変化の位相に対応する電気角を算出し、
前記4つの磁気センサが検出する磁束と、前記電気角とに基づいて、前記電気角を前記機械角に対応づけるためのオフセットを算出し、
前記電気角と前記オフセットとに基づいて、前記機械角を算出してもよい。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、下記の式(1)における誤差の2乗和Jを最小化するnを、前記オフセットとして算出してもよい。
【数1】
ただし、式(1)において、Jは誤差の2乗和を示し、Vは磁気センサの出力信号を示し、fはルックアップテーブルを示し、θは電気角を示し、Pは磁石における磁極対の数を示し、nはオフセットを示す。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、前記2組の磁気センサにおいて、各磁気センサのペアの2つの磁気センサが検出する磁束を加算することによって、前記直交信号を生成してもよい。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、前記4つの磁気センサが検出する磁束に対してニューラルネットワークによる処理を実行し、前記直交信号を生成してもよい。
【0017】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、
2つの前記直交信号の大小関係と前記直交信号の正負とに基づいて前記直交信号が4つの区間のどの区間に対応するかを判定し、
前記区間に応じたルックアップテーブルを参照して、2つの前記直交信号のうち絶対値が小さい方の前記直交信号の値をルックアップテーブルと対比して前記電気角を算出してもよい。
【0018】
また、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダにおいて、
前記演算装置は、PLL法を用いて、下記の式(2)における偏差eが0になるように角度θを制御して、前記電気角を算出してもよい。
【数2】
ただし、式(2)において、eは偏差を示し、θは電気角を示し、θはルックアップテーブルに格納されている角度を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダによれば、角度を高精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダの構成例を示すブロック図である。
図2】磁石の構成の一例を示す図である。
図3】磁石周辺における磁気センサの配置の一例を示す図である。
図4】演算装置の機能ブロックを示す図である。
図5A】磁気センサの信号を示す図である。
図5B】直交信号を示す図である。
図6】コンバータの機能ブロックを示す図である。
図7】区間判定部による区間の判定を説明する図である。
図8】区間判定部が区間を判定する条件を示す図である。
図9】第1の変形例に係る演算装置の機能ブロックを示す図である。
図10】第1の変形例に係るコンバータの機能ブロックを示す図である。
図11】第2の変形例に係る演算装置の機能ブロックを示す図である。
図12】第2の変形例に係る直交信号生成部の機能ブロックを示す図である。
図13】シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気式エンコーダ1の構成例を示すブロック図である。磁気式エンコーダ1は、磁石10の回転角度を検出可能な装置である。
【0023】
磁気式エンコーダ1は、磁石10と、4つの磁気センサ20-0~20-3と、演算装置30とを備える。
【0024】
磁石10は、円盤状の永久磁石である。磁石10は、任意の種類の永久磁石であってよいが、例えばネオジム磁石であってよい。
【0025】
磁石10は、中心101を軸として回転可能である。磁石10の中心101には、例えば、モータの回転に伴って回転するシャフトが接続されていてよい。この場合、モータが回転すると、モータの回転に伴って磁石10が回転する。なお、図1においては、磁石10が時計回りに回転する様子を示しているが、磁石10は、反時計回りに回転してもよい。
【0026】
磁石10は、複数の磁極対を有する。図2を参照して、磁石10の構成について説明する。図2に示す例においては、磁石10は、4つの磁極を有する。磁石10は、4つの扇形の領域に分けられており、N極とS極とが交互に並んでいる。
【0027】
本実施形態において、1つのN極と1つのS極との組合せを磁極対と称する。図2に示す例においては、磁石10は、磁極対102と磁極対103という2つの磁極対を有する。なお、図2においては、磁石10が2つの磁極対を有する場合を示しているが、磁石10が有する磁極対の数はこれに限定されない。磁石10は複数の磁極対を有していればよく、磁石10は、3つ以上の磁極対を有してもよい。本実施形態においては、磁石10が2つの磁極対を有する場合を例に挙げて説明する。
【0028】
磁石10が有する複数の磁極対は、磁極対ごとに異なる強さで磁化されている。例えば、図2に示す磁石10において、磁極対102は、磁極対103に比べて弱く磁化されていてよい。例えば、磁極対102の最大エネルギー積は、磁極対103の最大エネルギー積の70%であってよい。
【0029】
再び図1に戻って説明する。磁気センサ20-0~20-3は、磁石10の周囲に配置されている。図3を参照して、磁気センサ20-0~20-3の配置について説明する。
【0030】
図3に示す角度θは、磁石10の中心101から上方に引いた線を基準にしたときの時計回り方向の角度である。磁気センサ20-0は、θ=0度の位置に配置されている。磁気センサ20-1は、θ=180度の位置に配置されている。磁気センサ20-2は、θ=-45度の位置に配置されている。磁気センサ20-3は、θ=135度の位置に配置されている。
【0031】
また、磁気センサ20-0~20-3は、磁石10の中心101からの距離が等しい位置に配置されている。
【0032】
磁気センサ20-0~20-3について特に区別する必要がないときは、以後、磁気センサ20と総称して説明する場合がある。
【0033】
磁気センサ20は、磁石10によって生じる磁束を検出する。磁気センサ20は、検出した磁束に応じた電圧信号を出力する。磁気センサ20は、磁束を検出することが可能な任意のセンサであってよいが、例えばホール素子であってよい。
【0034】
磁気センサ20がホール素子である場合、磁気センサ20は、磁気センサ20を貫く磁束の磁束密度Bに応じて、電圧Vを出力する。電圧Vは、下記の式(3)のように表される。
【数3】
ここで、Kは磁気センサ20に固有の値である。磁気センサ20-0~20-3においては、Kは全て同じ値であってよい。
【0035】
磁石10が回転すると磁気センサ20が検出する磁束は変化する。磁石10は2つの磁極対を有するため、磁石10が180度回転すると、磁気センサ20が検出する磁束の位相は360度変化する。より一般的には、磁石10が有する磁極対の数がPである場合、磁石が(360/P)度回転すると、磁気センサ20が検出する磁束の位相は360度変化する。
【0036】
図3に示す例では、磁気センサ20-0と磁気センサ20-2とは、45度ずれた位置に配置されている。磁石10が45度回転すると、磁気センサ20が検出する磁束の位相は90度変化するため、磁気センサ20-0と磁気センサ20-2とは、磁束の変化として90度ずれた位相を検出する。
【0037】
磁石10が時計回りに回転すると、磁気センサ20-2は、磁気センサ20-0よりも90度進んだ位相を検出する。そのため、磁気センサ20-2が磁石10の回転に伴って検出した磁束の変化に応じて出力する電圧信号は、Vcos+と表すことができる。また、磁気センサ20-0が磁石10の回転に伴って検出した磁束の変化に応じて出力する電圧信号は、Vsin+と表すことができる。
【0038】
図3に示すように、磁気センサ20-1は、磁石10の中心101に対して、磁気センサ20-0と対称な位置に配置されている。したがって、磁気センサ20-1が磁石10の回転に伴って検出した磁束の変化に応じて出力する電圧信号は、Vsin-と表すことができる。また、磁気センサ20-3は、磁石10の中心101に対して、磁気センサ20-2と対称な位置に配置されている。したがって、磁気センサ20-3が磁石10の回転に伴って検出した磁束の変化に応じて出力する電圧信号は、Vcos-と表すことができる。
【0039】
このように4つの磁気センサ20-1~20-3は、2組の磁気センサ20のペアを構成している。一方の磁気センサ20のペアは、磁気センサ20-0と磁気センサ20-1とを組み合わせたペアである。他方の磁気センサ20のペアは、磁気センサ20-2と磁気センサ20-3とを組み合わせたペアである。
【0040】
磁気センサ20-0が出力する電圧信号Vsin+と磁気センサ20-1が出力する電圧信号Vsin-とを加算すると、電圧信号Vsinが得られる。また、磁気センサ20-2が出力する電圧信号Vcos+と磁気センサ20-3が出力する電圧信号Vcos-とを加算すると、電圧信号Vcosが得られる。
【0041】
電圧信号Vsinと電圧信号Vcosは、90度位相がずれている直交信号である。すなわち、2組の磁気センサ20のペアの一方の磁気センサ20のペアである磁気センサ20-0と磁気センサ20-1のペアと、他方の磁気センサ20のペアである磁気センサ20-2と磁気センサ20-3のペアとは、磁石10の回転に伴う磁束の変化を、90度ずれた位相で検出するように配置されている。
【0042】
再び図1に戻って説明する。演算装置30は、制御部31と、記憶部32とを備える。
【0043】
制御部31は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせを含む。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)若しくはGPU(Graphics Processing Unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。制御部31は、演算装置30の各部を制御しながら、演算装置30の動作に関わる処理を実行する。
【0044】
記憶部32は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限定されない。記憶部32は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部32は、演算装置30の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、記憶部32は、システムプログラム、アプリケーションプログラム、及び各種情報等を記憶してもよい。記憶部32の一部は、演算装置30の外部に設置されていてもよい。その場合、外部に設置されている記憶部32の一部は、任意のインタフェースを介して演算装置30と接続されてよい。
【0045】
演算装置30は、4つの磁気センサ20-0~20-3と接続されている。演算装置30は、検出した磁束に応じて磁気センサ20が出力する電圧信号を取得する。演算装置30は、4つの磁気センサ20-0~20-3が検出する磁束に基づいて、磁石10の回転角である機械角を算出する。ここで、「4つの磁気センサ20-0~20-3が検出する磁束に基づいて」との表現は、「4つの磁気センサ20-0~20-3が検出する磁束に応じて4つの磁気センサ20-0~20-3が出力する電圧信号に基づいて」との内容を意味する。
【0046】
機械角について説明する。機械角は、磁石10が中心101を軸として回転したときの実際の回転の角度である。例えば、磁石10が1/4周回転したときの機械角は90度であり、1/2周回転したときの機械角は180度であり、1周回転したときの機械角は360度である。機械角は、磁石10の絶対的な回転の角度を表すため、「絶対角」と称されることもある。
【0047】
一方、磁石10の回転に関連する角度として電気角という角度もある。磁石10の回転に伴って磁気センサ20が検出する磁束は変化するが、磁束の変化の位相に対応する角度が電気角である。図1に示す磁石10の場合、磁石10は2つの磁極対を有するため、磁石10が1/4周回転したときの電気角は180度であり、1/2周回転したときの電気角は360度である。
【0048】
機械角と電気角とは、下記の式(4)のように対応づけられる。
【数4】
ただし、式(4)において、θmは機械角を示し、θeは電気角を示し、Pは磁極対の数を示し、nはオフセットを示す。
【0049】
式(4)におけるオフセットnは、0~P-1の値をとる整数である。例えば、図1に示す例では磁極対の数P=2である。この場合、nは0又は1である。オフセットnが決まらないと、電気角θを機械角θに一意に対応づけることができないが、オフセットnが決まると、電気角θを機械角θに一意に対応づけることができる。
【0050】
例えば磁極対の数P=2で、電気角θが90度であるとき、機械角θは、45度又は225度である。オフセットnが0であるとき機械角θは45度となり、オフセットnが1であるとき機械角θは225度となる。オフセットnが0であるか1であるかが特定できれば、機械角θを特定することができる。
【0051】
演算装置30による機械角の算出について図4を参照して説明する。演算装置30は、機能ブロックとして、直交信号生成部310と、コンバータ320と、オフセット算出部330と、機械角算出部340とを備える。
【0052】
直交信号生成部310、コンバータ320、オフセット算出部330及び機械角算出部340の機能は、図1に示した制御部31によって実行されてよい。
【0053】
演算装置30は、磁気センサ20-0~20-3が出力する電圧信号を取得する。以後、磁気センサ20-0が出力する電圧信号をVsin+、磁気センサ20-1が出力する電圧信号をVsin-、磁気センサ20-2が出力する電圧信号をVcos+、磁気センサ20-3が出力する電圧信号をVcos-として説明する。
【0054】
図5Aに、Vsin+、Vsin-、Vcos+及びVcos-の一例を示す。図5Aに示すグラフの横軸は、磁石10の機械角である。図5Aに示すグラフの縦軸は、Vsin+、Vsin-、cos+及びVcos-の振幅である。
【0055】
図5Aに示すように、Vsin+、Vsin-、Vcos+及びVcos-は、いずれも振幅が一定ではない波形である。これは、磁石10の複数の磁極対が磁極対ごとに磁化の強さが異なる構成となっているため、磁化が強い磁極対が通過するときは振幅が大きくなり、磁化が弱い磁極対が通過するときは振幅が小さくなるためである。
【0056】
直交信号生成部310は、下記の式(5)のように、電圧信号Vsin+と電圧信号Vsin-とを加算して電圧信号Vsinを生成する。また、下記の式(6)のように、電圧信号Vcos+と電圧信号Vcos-とを加算して電圧信号Vcosを生成する。
【数5】
【数6】
【0057】
図5Bに、Vsin及びVcosの一例を示す。図5Bに示すグラフの横軸は、磁石10の機械角である。図5Bに示すグラフの縦軸は、Vsin及びVcosの振幅である。
【0058】
図5Bに示すように、電圧信号Vsinと電圧信号Vcosとは直交する信号である。すなわち、電圧信号Vsin及び電圧信号Vcosは、直交信号である。
【0059】
コンバータ320は、直交信号生成部310から、直交信号である電圧信号Vsin及び電圧信号Vcosを取得し、電気角θを算出する。
【0060】
図6図8を参照して、コンバータ320による電気角θの算出について説明する。
【0061】
図6に示すように、コンバータ320は、機能ブロックとして、区間判定部321と、ルックアップテーブル参照部322とを備える。区間判定部321及びルックアップテーブル参照部322の機能は、図1に示した制御部31によって実行されてよい。
【0062】
電圧信号Vsinと電圧信号Vcosのうちの絶対値が小さい方の電圧信号を組み合わせて構成される電圧信号を、「線形区間抽出信号」と称する。図7に太線で示すグラフVが、線形区間抽出信号である。
【0063】
電気角の区間は、図7に示すように、区間I~区間IVまでの4つの区間に分けられている。区間I~区間IVと電気角とは以下のように対応している。
区間I:電気角が0~45度及び315度~360度
区間II:電気角が45~135度
区間III:電気角が135~225度
区間IV:電気角が225~315度
【0064】
電気角と線形区間抽出信号との対応関係は区間毎にルックアップテーブルとして格納されている。このルックアップテーブルは、図1に示す記憶部32に予め格納されていてよい。
【0065】
区間判定部321は、取得した電圧信号Vsin及び電圧信号Vcosに基づいて、取得した電圧信号Vsin及び電圧信号Vcosが、電気角のどの区間に対応するかを判定する。
【0066】
区間判定部321は、図8に示す条件1及び条件2に基づいて、区間を判定する。条件1は、電圧信号Vsinの絶対値と電圧信号Vcosの絶対値の大小関係に基づく条件である。条件2は、電圧信号Vsin又は電圧信号Vcosの正負に基づく条件である。
【0067】
図8に示すように、区間判定部321は、電圧信号Vsinの絶対値が電圧信号Vcosの絶対値より小さく、電圧信号Vcosが正である場合、区間Iであると判定する。また、区間判定部321は、電圧信号Vsinの絶対値が電圧信号Vcosの絶対値より大きく、電圧信号Vsinが正である場合、区間IIであると判定する。また、区間判定部321は、電圧信号Vsinの絶対値が電圧信号Vcosの絶対値より小さく、電圧信号Vcosが負である場合、区間IIIであると判定する。また、区間判定部321は、電圧信号Vsinの絶対値が電圧信号Vcosの絶対値より大きく、電圧信号Vsinが負である場合、区間IVであると判定する。
【0068】
ルックアップテーブル参照部322は、区間判定部321から取得した区間に応じたルックアップテーブルを参照し、電気角θを算出する。例えば区間判定部321から取得した区間が区間IIである場合、ルックアップテーブル参照部322は、区間IIのルックアップテーブルを参照し、Vcosの値に基づいて電気角θを算出する。
【0069】
オフセット算出部330は、磁気センサ20-0~20-3から、電圧信号Vsin+、電圧信号Vsin-、電圧信号Vcos+及び電圧信号Vcos-を取得する。また、オフセット算出部330は、コンバータ320から電気角θを取得する。
【0070】
オフセット算出部330は、電圧信号Vsin+、電圧信号Vsin-、電圧信号Vcos+及び電圧信号Vcos-と、電気角θとに基づいて、オフセットnを算出する。
【0071】
オフセット算出部330は、下記の式(7)における誤差の2乗和Jを最小化するnを、オフセットnとして算出する。
【数7】
式(7)において、Jは誤差の2乗和を示す。また、式(7)において、Vは磁気センサ20-0~20-3が出力する電圧信号を示す。ここで、iは0~3の整数であり、VはVsin+を示し、VはVsin-を示し、VはVcos+を示し、VはVcos-を示す。また、fは記憶部32に格納されているルックアップテーブルを示す。fはVsin+と機械角θmとの関係を対応づけたルックアップテーブルを示し、fはVsin-と機械角θmとの関係を対応づけたルックアップテーブルを示し、fはVcos+と機械角θmとの関係を対応づけたルックアップテーブルを示し、fはVcos-と機械角θmとの関係を対応づけたルックアップテーブルを示す。Pは磁石における磁極対の数を示す。nはオフセットを示す。
【0072】
オフセット算出部330は、全てのnについて上記式(7)に基づいてJを算出し、Jを最小にするnをオフセットnとして選択する。
【0073】
機械角算出部340は、コンバータ320から取得した電気角θと、オフセット算出部330から取得したオフセットnとに基づいて、機械角θを算出する。機械角算出部340は、上述の式(4)に、電気角θ及びオフセットnを代入して、機械角θを算出する。なお、図1に示す例においては、磁極対の数Pは2である。
【0074】
このように、本実施形態に係る磁気式エンコーダ1は、磁石10が複数の磁極対を有する。そのため、磁気式エンコーダ1は、磁石10の回転に伴う磁束の変化の位相に対応する電気角を高精度で検出することができる。また、磁石10が有する複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なる。そのため、磁気センサ20は、強く磁化された磁極対が近傍を通過するときと、弱く磁化された磁極対が近傍を通過するときとで異なる振幅の磁束密度を検出する。そのため、演算装置30はオフセットnを算出することができる。そして、演算装置30は、電気角θとオフセットnとに基づいて、磁石10の絶対的な回転角である機械角θを算出することができる。したがって、磁気式エンコーダ1は、磁石10の角度を高精度で測定することができる。
【0075】
(第1の変形例)
図9は、第1の変形例に係る演算装置30aの機能ブロックを示す図である。演算装置30aは、機能ブロックとして、直交信号生成部310と、コンバータ320aと、オフセット算出部330と、機械角算出部340とを備える。
【0076】
直交信号生成部310、コンバータ320a、オフセット算出部330及び機械角算出部340の機能は、図1に示した制御部31によって実行されてよい。
【0077】
第1の変形例に係る演算装置30aは、コンバータ320の代わりにコンバータ320aを備えるという点で、図4に示した演算装置30と相違する。第1の変形例に係る演算装置30aの説明においては、図4に示した演算装置30と相違する点について主に説明し、図4に示した演算装置30と共通及び類似する点については適宜説明を省略する。
【0078】
コンバータ320aは、直交信号生成部310から、直交信号である電圧信号Vsin及び電圧信号Vcosを取得し、PLL法を用いて電気角θを算出する。コンバータ320aは、PLL法を用いることにより、直交信号の歪みに対してロバスト性を確立することができる。
【0079】
図10に、コンバータ320aがPLL法を実行する様子を示す。
【0080】
図10において、「fsin」は、電圧信号Vsinと電気角θとを対応づけたルックアップテーブルを示す。また、「fcos」は、電圧信号Vcosと電気角θとを対応づけたルックアップテーブルを示す。これらのルックアップテーブルは、直交信号の歪みを直接補償することができる。これらのルックアップテーブルは、図1に示す記憶部32に予め格納されていてよい。
【0081】
図10において、「e」は偏差を示す。fsin及びfcosは、高調波成分が基本波成分よりも十分小さいとすると、それぞれ、正弦波及び余弦波で近似することができる。このとき、偏差eは、下記の式(8)で表すことができる。
【数8】
【0082】
コンバータ320aは、式(8)の偏差eが0になるように角度θを制御する。偏差eが0に近づくと、電気角θと角度θとはほぼ等しくなる。これにより、コンバータ320aは、電気角θを算出することができる。
【0083】
(第2の変形例)
図11は、第2の変形例に係る演算装置30bの機能ブロックを示す図である。演算装置30bは、機能ブロックとして、直交信号生成部310bと、コンバータ320と、オフセット算出部330と、機械角算出部340とを備える。
【0084】
直交信号生成部310b、コンバータ320、オフセット算出部330及び機械角算出部340の機能は、図1に示した制御部31によって実行されてよい。
【0085】
第2の変形例に係る演算装置30bは、直交信号生成部310の代わりに直交信号生成部310bを備えるという点で、図4に示した演算装置30と相違する。第2の変形例に係る演算装置30bの説明においては、図4に示した演算装置30と相違する点について主に説明し、図4に示した演算装置30と共通及び類似する点については適宜説明を省略する。
【0086】
直交信号生成部310bは、磁気センサ20-0~20-3から、電圧信号Vsin+、Vsin-、Vcos+及びVcos-を取得する。直交信号生成部310bは、電圧信号Vsin+、Vsin-、Vcos+及びVcos-に対してニューラルネットワークによる処理を実行し、直交信号であるVsin及びVcosを生成する。
【0087】
直交信号生成部310bは、ニューラルネットワークによる処理を実行することにより、直交信号の歪みを補正することができる。例えば、磁気センサ20-0~20-3の検出感度にばらつきがある場合、単純に、Vsin+とVsin-とを加算してVsinを生成し、Vcos+とVcos-とを加算してVcosを生成すると、直交信号が歪んでしまう場合がある。直交信号生成部310bは、このような磁気センサ20-0~20-3の検出感度にばらつきがある場合であっても、直交信号の歪みを補正することができ、歪みのない直交信号を生成することができる。
【0088】
図12に示すように、直交信号生成部310bは、機能ブロックとして、LSTM(Long Short Term Memory)部311と、Affine部312と、平均二乗誤差部313とを備える。LSTM部311、Affine部312及び平均二乗誤差部313の機能は、図1に示した制御部31によって実行されてよい。
【0089】
LSTM部311は、リカレントニューラルネットワーク(RNN)を改良したニューラルネットワークである。LSTM部311は、Vsin+、Vsin-、Vcos+、Vcos-の時系列情報を取得する。LSTM部311は、平均二乗誤差を小さくするためにパラメータを調整するように動作する。
【0090】
Affine部312は、ニューロンが全て接続されている全結合層である。
【0091】
平均二乗誤差部313は、ニューラルネットワークの出力と直交信号の平均二乗誤差を算出する。
【0092】
(シミュレーション結果)
図13は、磁気式エンコーダ1の演算装置30が機械角を算出するシミュレーションを実行した結果を示す図である。横軸は、磁石10の実際の機械角である。左側の縦軸は、演算装置30がシミュレーションにおいて算出した機械角θである。右側の縦軸は、演算装置30がシミュレーションにおいて算出したオフセットnである。なお、図13に示すシミュレーションは、磁石10が有する磁極対の数を2としてシミュレーションを実行した結果である。
【0093】
図13に示すように、演算装置30は、実際の機械角が0~180度の範囲において、オフセットnを0と正しく算出している。また、演算装置30は、実際の機械角が180~360度の範囲において、オフセットnを1と正しく算出している。
【0094】
また、図13に示すように、演算装置30は、実際の機械角とほぼ等しい値の機械角を算出している。
【0095】
このように、本実施形態によれば、磁気式エンコーダ1は、複数の磁極対を有する回転可能な円盤状の磁石10と、磁石10の周囲に配置された4つの磁気センサ20と、4つの磁気センサ20が検出する磁束に基づいて、磁石10の回転角である機械角を算出する演算装置30とを備える。また、磁石10が有する複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なる。このように、磁石10が複数の磁極対を有するため、磁気式エンコーダ1は、電気角を高精度で検出することができる。また、複数の磁極対は、磁極対ごとに磁化の強さが異なるため、磁気センサ20は、強く磁化された磁極対が近傍を通過するときと、弱く磁化された磁極対が近傍を通過するときとで異なる振幅の磁束密度を検出する。そのため、演算装置30はオフセットnを算出することができる。そして、演算装置30は、電気角θとオフセットnとに基づいて、磁石10の機械角θを算出することができる。したがって、磁気式エンコーダ1は、磁石10の角度を高精度で測定することができる。
【0096】
本発明を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本発明に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。また、本発明について装置を中心に説明してきたが、本発明は装置の各構成部が実行するステップを含む方法、装置が備えるプロセッサにより実行される方法、プログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0097】
例えば、本実施形態においては、磁気式エンコーダ1が4つの磁気センサ20を備える場合を例に挙げて説明したが、磁気式エンコーダ1が備える磁気センサ20の数は4つに限定されない。磁気式エンコーダ1は、5つ以上の磁気センサ20を備えていてもよい。
【0098】
また、本実施形態においては、磁気式エンコーダ1が磁石10の機械角を算出することを説明したが、磁気式エンコーダ1は、算出した機械角と、機械角を測定した時間とを関連づけて、磁石10の回転の角速度を更に算出してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 磁気式エンコーダ
10 磁石
20 磁気センサ
30、30a、30b 演算装置
31 制御部
32 記憶部
101 中心
102 磁極対
103 磁極対
310、310b 直交信号生成部
311 LSTM部
312 Affine部
313 平均二乗誤差部
320、320a コンバータ
321 区間判定部
322 ルックアップテーブル参照部
330 オフセット算出部
340 機械角算出部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13