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特開2023-41535内層と外層とを有する軟性膨化食品の食感向上剤、食感維持剤および軟性膨化食品の製造方法
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  • 特開-内層と外層とを有する軟性膨化食品の食感向上剤、食感維持剤および軟性膨化食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041535
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】内層と外層とを有する軟性膨化食品の食感向上剤、食感維持剤および軟性膨化食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
A21D2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148959
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】安井 忍
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DE04
4B032DK11
4B032DK12
4B032DL20
(57)【要約】
【課題】 内層と外層とを有する軟性膨化食品について、内層の柔らかい食感やしっとりした食感を向上する技術、あるいは、内層の柔らかい食感やしっとりした食感の時間経過に伴う劣化を抑制し、係る食感を維持できる技術を提供する。
【解決手段】 内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上する剤であって、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、外層に配合して用いられることを特徴とする、前記剤;(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴、(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と外層とを有する軟性膨化食品の前記内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上する剤であって、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、前記外層に配合して用いられることを特徴とする、前記剤;
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴、
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項2】
内層と外層とを有する軟性膨化食品の前記内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を維持する剤であって、下記(イ)、(ウ)および(オ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、前記外層に配合して用いられることを特徴とする、前記剤;
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(オ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項3】
内層と外層とを有する軟性膨化食品を製造する方法であって、下記(a)~(d)の工程を含む前記方法;
(a)外層用生地として、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を含む食品生地を作製する工程;
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴、
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴、
(b)内層用生地として、食品生地を作製する工程、
(c)前記(a)の外層用生地を前記(b)の内層用生地に被せて成形する工程、
(d)前記(c)の成形した食品生地を加熱する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内層と外層とを有する軟性膨化食品の食感向上剤、食感維持剤および軟性膨化食品の製造方法に関する。より詳細には、内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/もしくはしっとり感を向上または維持する剤であって、所定の還元水飴を有効成分とし、外層に配合して用いられることを特徴とする、食感向上剤および食感維持剤に関する。また、内層と外層とを有する軟性膨化食品の製造方法であって、内層の食感が向上した、あるいは内層の食感が維持される軟性膨化食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膨化とは、食品の内部に閉じ込められた気体の体積が増加する、あるいは内部で気体が発生することにより、食品が大きく膨らむことをいい、この膨化現象を利用した食品を膨化食品という。膨化食品には、あられやポン菓子といった食感が硬いものと、パンや中華まん、ホットケーキなどの食感が柔らかいものとがある(非特許文献1)。本発明においては、膨化食品のうち、食感が比較的柔らかいものを軟性膨化食品という。
【0003】
軟性膨化食品の製品群には、メロンパンやぼうしパン(図1に、それらの一態様を示す)など、内層と外層とを有する形態のものがある。例えば、メロンパンでは、ビスケット生地が焼成されてなる外層と、パン生地が焼成されてなる内層とを有し、ぼうしパンでは、カステラ生地が焼成されてなる外層と、パン生地が焼成されてなる内層とを有している。係る製品群は、食品の部分によって異なる食感や味わいが楽しめるため人気があるが、多くの場合、内層については、柔らかく、しっとりした食感が好まれる。しかしながら、内層の柔らかい食感やしっとりした食感は、製造直後はまだしも、時間経過とともに硬くなったりパサついたりすることが多く、製品の品質低下につながるため、問題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】近藤徹弥、膨化食品の膨化メカニズム、食品工業技術センターニュース 2014年12月号、あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター 技術情報・その他、[online]、[令和3年7月12日検索]、インターネット<URL: http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1412-2.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内層と外層とを有する軟性膨化食品について、内層の柔らかい食感やしっとりした食感を向上する技術、あるいは、内層の柔らかい食感やしっとりした食感の時間経過に伴う劣化を抑制し、係る食感を維持できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究の結果、係る軟性膨化食品について、意外なことに、外層となる食品生地に所定の還元水飴(下記の(ア)~(エ))を配合することにより、内層の柔らかい食感やしっとりした食感を向上できることを見出した。また、外層となる食品生地に所定の還元水飴(下記の(イ)、(ウ)および/または(エ))を配合することにより、内層の柔らかい食感やしっとりした食感を、食品の製造から一定時間経過した後も維持できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。以下に示す本発明は、所定の還元水飴を配合した食品層で、別の食品層を一定程度覆うことにより、当該覆われた食品層の食感を向上ないし維持できるという新たな知見に基づくものである。
【0007】
(1)本発明に係る食感向上剤は、内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上する剤であって、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、外層に配合して用いられることを特徴とする;
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴、
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0008】
(2)本発明に係る食感維持剤は、内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を維持する剤であって、下記(イ)、(ウ)および(オ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、外層に配合して用いられることを特徴とする;
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(オ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0009】
(3)本発明に係る軟性膨化食品の製造方法は、内層と外層とを有する軟性膨化食品を製造する方法であって、下記(a)~(d)の工程を含む;
(a)外層用生地として、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を含む食品生地を作製する工程;
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴、
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴、
(b)内層用生地として、食品生地を作製する工程、
(c)前記(a)の外層用生地を前記(b)の内層用生地に被せて成形する工程、
(d)前記(c)の成形した食品生地を加熱する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかい食感やしっとりした食感を向上することができる。また、本発明によれば、内層と外層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかい食感やしっとりした食感について、製造後の時間経過に伴う劣化を抑制し、係る食感を一定程度維持することができる。本発明によれば、柔らかい食感やしっとりした食感を向上あるいは維持することを通じて、製品の価値向上や品質維持に寄与することができる。本発明によれば、特定の還元水飴を外層の材料として配合するという、簡便で大量生産にも適用可能な手法により、内層の柔らかさやしっとり感が向上した、あるいは内層の柔らかさやしっとり感が維持される軟性膨化食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】メロンパンおよびぼうしパンの一態様を示す図である。
図2】内層と外層とを有する軟性膨化食品の一態様における断面を示す模式図である。
図3】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および各種の還元水飴を配合したメロンパン(試料2~5)について、1日間保存した後にクラムの官能試験を行った結果を示す図である。(I)は各評価項目の評価点(各パネルの採点結果の平均値)を棒グラフに表したもの、(II)は「柔らかさ」に係る各パネルの採点結果を示す表、(III)は「しっとり感」に係る各パネルの採点結果を示す表である。
図4】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および配合量を変えて低糖化還元水飴を配合したメロンパン(試料2~6)について、1日間保存した後にクラムの官能試験を行った結果を示す図である。(I)は各評価項目の評価点(各パネルの採点結果の平均値)を棒グラフに表したもの、(II)は「柔らかさ」に係る各パネルの採点結果を示す表、(III)は「しっとり感」に係る各パネルの採点結果を示す表である。
図5】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および各種の還元水飴を配合したメロンパン(試料2~5)について、3日間保存した後にクラムの官能試験を行った結果を示す図である。(I)は各評価項目の評価点(各パネルの採点結果の平均値)を棒グラフに表したもの、(II)は「柔らかさ」に係る各パネルの採点結果を示す表、(III)は「しっとり感」に係る各パネルの採点結果を示す表である。
図6】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および各種の還元水飴を配合したメロンパン(試料2~5)について、3日間保存した後のクラムの最大荷重を示す棒グラフである。
図7】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および配合量を変えて低糖化還元水飴を配合したメロンパン(試料2~6)について、3日間保存した後にクラムの官能試験を行った結果を示す図である。(I)は各評価項目の評価点(各パネルの採点結果の平均値)を棒グラフに表したもの、(II)は「柔らかさ」に係る各パネルの採点結果を示す表、(III)は「しっとり感」に係る各パネルの採点結果を示す表である。
図8】還元水飴を配合しないメロンパン(試料1)および配合量を変えて低糖化還元水飴を配合したメロンパン(試料2~6)について、3日間保存した後のクラムの最大荷重を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明においては、「内層と外層とを有する軟性膨化食品を有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上する剤」を、単に「食感向上剤」という場合がある。また、「外層と内層とを有する軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を維持する剤」を、単に「食感維持剤」という場合がある。また、食感向上剤と食感維持剤とをまとめて、またはこれらのうちのいずれかを指して「本発明に係る剤」あるいは「本剤」という場合がある。
【0013】
膨化食品とは、食品内部に閉じ込められた気体の体積が増加する、あるいは内部で気体が発生することにより、膨らむ工程を経て製造された食品をいう。膨化食品は、その膨化のメカニズムにより、下記(ア)~(エ)に分けられる場合がある(非特許文献1)。
(ア)酵母(イースト)が作る二酸化炭素により膨らむもの。例:パン、クラッカー、酒饅頭、かりんとうなど。
(イ)加熱により食品生地内部の水蒸気と空気が膨張すると同時にこれを包む食品生地が進展しながら固まるもの。例:せんべい、あられ、スポンジケーキなど。
(ウ)化学膨張剤の化学反応(例えば、重曹を加熱することによる二酸化炭素の発生)により膨らむもの。例:ホットケーキ、どらやき、蒸しパン、小麦饅頭など。
(エ)米、麦、トウモロコシ等の穀物などを加熱して加圧した後、一気に減圧することにより食品内部の水分を急激に膨張、蒸発させて膨らませるもの。例:ポン菓子など。
【0014】
上記のとおり、膨化食品には、せんべいやクラッカー、ポン菓子といった食感がかたいもの(食品内部が比較的柔らかいが、食品の大部分が硬いものを含む)と、パンやスポンジケーキ、ホットケーキ、ドーナツといった食感が柔らかいもの(食品表面が比較的硬いが、食品の大部分が柔らかいものを含む)とがある。本発明は、食品内部の柔らかさやしっとり感を向上あるいは維持することを目的とすることから、柔らかい食感やしっとり感の向上あるいは維持が課題となり、また、柔らかい食感やしっとり感の向上・維持が製品品質の向上・維持に寄与する、食感が柔らかい膨化食品(軟性膨化食品)を対象としている。本発明において、軟性膨化食品は、上記(ア)~(エ)のいずれの膨化手法により製造されるものであってもよい。
【0015】
なお、本発明において、パンは、小麦やライ麦などの穀粉を主材料に、水、塩、イーストやベーキングパウダーなどのガス発生剤、その他副材料を加えた生地を、加熱前または加熱時に膨らませて作られる軟性膨化食品をいう。
【0016】
本発明は、軟性膨化食品のうちでも、内層と外層とを有する構造のものを対象としている。その具体例としては、メロンパンやぼうしパンを例示することができる。メロンパンやぼうしパンの一態様を図1に示す。また、内層と外層とを有する軟性膨化食品の一態様における模式的な断面図を図2に示す。
【0017】
図2に示すように、内層と外層とを有する軟性膨化食品は、少なくとも2以上の部分からなる。そして外層とは、1以上の他の部分を覆うようにして軟性膨化食品の外側に位置する部分をいい、内層とは、その表面の大部分(その表面積の50%以上、55%以上あるいは60%以上)が、1以上の他の部分よりも内側に位置する食品の部分をいう。すなわち、外層とは、内層を覆うようにして軟性膨化食品の外側に位置する部分をいい、内層とは、外層よりも内側に位置する食品の部分をいう。
【0018】
ここで、外層は、内層表面の全部を覆っていてもよいが、大部分(内層表面積の50%以上、55%以上あるいは60%以上)を覆っていればよい。外層が内層表面の大部分を覆っていれば、内層の食感を向上あるいは維持するという本発明の効果が得られると考えられるからである。換言すれば、内層表面の一部(内層表面積の50%未満、45%未満あるいは40%未満)は、外界に接するかたちで露出していてもよい。
【0019】
本発明において「食感を向上する」とは、具体的には、軟性膨化食品の内層の食感をより柔らかくすること(柔らかさの程度を大きくすること、柔らかさを向上すること)、あるいは、軟性膨化食品の内層の食感をよりしっとりさせること(しっとり感の程度を大きくすること、しっとり感を向上すること)をいう。
【0020】
「柔らかさが向上したか否か」は、本剤を用いて製造した軟性膨化食品Aと、本剤を用いずに同様に製造した軟性膨化食品Bとについて、内層の柔らかさを比較することにより確認できる。柔らかさは、例えば、官能試験で内層をヒトが喫食して評価してもよく、内層を切り出して、物性試験器により所定の割合に圧縮し、その際の最大荷重を測定して評価してもよい。それにより、食品Aの方が食品Bよりも、柔らかい(硬くない、硬さが小さい)、あるいは最大荷重が小さいという比較結果が得られれば、本剤により、軟性膨化食品の内層の柔らかさが向上したと判断することができる。
【0021】
「しっとり感が向上したか否か」は、本剤を用いて製造した軟性膨化食品Aと、本剤を用いずに同様に製造した軟性膨化食品Bとについて、内層のしっとり感を比較することにより確認できる。「しっとり感」は、例えば、官能試験で内層をヒトが喫食して評価することができる。それにより、食品Aの方が食品Bよりも、しっとりしている、あるいはパサパサした感じが少ない、という比較結果が得られれば、本剤により、軟性膨化食品の内層のしっとり感が向上したと判断することができる。
【0022】
また、本発明において「食感を維持する」とは、具体的には、軟性膨化食品の内層の柔らかさを維持すること、あるいは、軟性膨化食品の内層のしっとり感を維持することをいう。ここで、一般に、内層と外層とを有する軟性膨化食品は、製造後、時間が経過するに伴って、内層が硬くなったり、内層がパサついてくる。本発明において「内層の柔らかさを維持する」とは、製造から一定程度時間が経過した後であっても、比較的柔らかい食感を有している状態にすること、あるいは、係る時間経過に伴う内層の硬化を抑制することをいう。「内層の柔らかさを維持している」状態には、当該食品の製造後と比較して柔らかさが同程度である場合のほか、製造後と比較すれば硬くなるが、ある程度柔らかいと感じられる状態である場合を含む。
【0023】
また、本発明において「内層のしっとり感を維持する」とは、製造から一定程度時間が経過した後であっても、比較的しっとりした食感を有している状態にすること、あるいは、係る時間経過に伴う内層のパサつきの増大の程度を抑制することをいう。「内層のしっとり感を維持している」状態には、当該食品の製造後と比較してしっとり感が同程度である場合のほか、製造後と比較すればしっとり感が低下しているが、ある程度しっとり感が感じられる状態である場合を含む。
【0024】
「柔らかさが維持されたか否か」は、本剤を用いて製造した軟性膨化食品Aと、本剤を用いずに同様に製造した軟性膨化食品Bとについて、製造後、同条件で一定時間保存した後に、内層の柔らかさを比較することにより確認できる。柔らかさの評価法は上述のとおりで、これにより、食品Aの方が食品Bよりも、柔らかい(硬くない、硬さが小さい)、あるいは最大荷重が小さいという比較結果が得られれば、本剤により、軟性膨化食品の内層の柔らかさが維持されたと判断することができる。
【0025】
「しっとり感が維持されたか否か」は、本剤を用いて製造した軟性膨化食品Aと、本剤を用いずに同様に製造した軟性膨化食品Bとについて、製造後、同条件で一定時間保存した後に、内層のしっとり感を比較することにより確認できる。しっとり感の評価法は上述のとおりで、これにより、食品Aの方が食品Bよりも、しっとりしている、あるいはパサパサした感じが少ない、という比較結果が得られれば、本剤により、軟性膨化食品の内層のしっとり感が維持されたと判断することができる。
【0026】
本発明に係る食感向上剤は下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を、本発明に係る食感維持剤は下記(イ)、(ウ)および(オ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を、それぞれ有効成分とする。
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である、還元水飴(高糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(エ)デキストロース当量が10以上100未満の水飴を還元してなる、還元水飴(低~高糖化還元水飴)、
(オ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴(低~中糖化還元水飴)。
【0027】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。
【0028】
本発明に係る食感向上剤は、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴のいずれも有効成分とすることができる。また、本発明に係る食感維持剤は、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴のいずれも有効成分とすることができる。
【0029】
高糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ア)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成、あるいは、(カ)単糖を37~50質量%、二糖を26~55質量%、三糖を1~21質量%、四糖を0~10質量%および五糖以上を0~8質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0030】
中糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(イ)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、あるいは、(キ)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0031】
低糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ウ)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、あるいは、(ク)単糖を1~10質量%、二糖を6~21質量%、三糖を7~23質量%、四糖を5~13質量%および五糖以上を50~82質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0032】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0033】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0034】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0035】
すなわち、高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、55超、60以上、65以上、70以上、100未満、95以下、90以下、85以下、80以下を例示することができる。
【0036】
また、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、35超、37以上、48以下、50以下、55以下を例示することができる。
【0037】
また、低糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下を例示することができる。
【0038】
また、低糖化~高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(エ)10以上100未満を例示することができる。
【0039】
また、低糖化~中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(オ)10以上55以下を例示することができる。
【0040】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0041】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。市販の高糖化還元水飴としては、例えば、「エスイー600」、「スイートPEM」および「エスイー500」(以上、物産フードサイエンス)などを、市販の中糖化還元水飴としては、例えば、「スイートOL」、「スイートG3」、「エスイー57」および「エスイー58」(以上、物産フードサイエンス)などを、市販の低糖化還元水飴としては、例えば、「スイートNT」、「エスイー30」および「エスイー100」(以上、物産フードサイエンス)などを例示することができる。
【0042】
還元水飴の公知の製造方法としては、水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0043】
本剤の有効成分である還元水飴は、軟性膨化食品の製造過程において、外層となる食品生地(外層用生地)に、一材料として配合して用いる。還元水飴は、砂糖などの調味料と同様に扱えばよく、例えば、穀粉などの粉類に混合して用いてもよく、油脂に練り込んで用いてもよく、卵や水などの水分に混合して用いてもよい。なお、内層となる食品生地(内層用生地)には、還元水飴を配合してもよく、配合しなくてもよい。
【0044】
外層用生地における還元水飴の配合量は、他材料の種類や量、所望の味、食感などに応じて適宜設定することができるが、具体例としては、以下(い)~(に)(数値は固形分濃度)の配合量を例示することができる。
(い)砂糖の1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上もしくは10質量%以上を還元水飴に置換する配合量。
(ろ)生地中に還元水飴を0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.6質量%以上、0.8質量%以上、1.0質量%以上、1.2質量%以上、1.4質量%以上、1.6質量%以上、1.8質量%以上もしくは1.99質量%以上含有する配合量。
(は)穀粉100重量部に対して、還元水飴を0.4重量部以上、0.9重量部以上、1.3重量部以上、1.8重量部以上、2.2重量部以上、2.7重量部以上、3.1重量部以上、3.6重量部以上、4.0重量部以上もしくは4.48重量部以上含有する配合量。
(に)油脂100重量部に対して、還元水飴を0.2重量部以上、0.4重量部以上、0.6重量部以上、0.9重量部以上、1.1重量部以上、1.3重量部以上、1.5重量部以上、1.8重量部以上、2.0重量部以上もしくは2.24重量部以上練り込む配合量。
【0045】
外層および内層はいずれも食品生地を加熱して作られるものであってよい。ここで、食品生地は、水および澱粉を主体とする食材に、必要に応じて他の材料(例えば、甘味料や食塩などの調味料、油脂、乳製品、卵、グルテン、ガス発生剤などの食品添加物、生地改良剤など)を加え混合ないし混捏して作られ、加熱して食用に供されるものをいう。本発明においては食品生地を単に「生地」という場合がある。また、外層を作るための生地を外層用生地、内層を作るための生地を内層用生地という場合がある。外層用生地と内層用生地とは、同じ配合であってもよく、異なる配合であってもよい。
【0046】
本発明において、穀粉は、穀物の粉およびそれに準ずる澱粉を主体とする粉状の食材をいう。具体的には、例えば、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、ジャガイモ粉、テフ粉、ひえ粉、きな粉、大豆粉、ヒヨコ豆粉、エンドウ豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、片栗粉、くず粉、タピオカ粉、栗粉、どんぐり粉などを例示することができる。
【0047】
還元水飴を配合した外層用生地は、内層用生地に被せるかたちで用いる。すなわち、軟性膨化食品の製造過程の成形工程で、還元水飴を配合した外層用生地を内層用生地に被せて成形する。ここで、外層用生地は、内層用生地の表面全部を覆ってもよいが、全部を覆っていなくてもよい。換言すれば、成形後に内層用生地の表面の一部が外界に接するかたちで露出していてもよい。発酵や加熱を経て、「外層が内層表面の大部分(内層表面積の50%以上、55%以上あるいは60%以上)を覆った形態の軟性膨化食品」を製造できれば、内層の食感を向上あるいは維持するという本発明の効果が得られるため、係る製造後の製品形態に合わせて、成形すればよい。
【0048】
成形した食品生地の加熱は、当業者に公知の方法で行えばよい。具体的には、例えば、焼く(焼成)、蒸す(蒸製)、揚げる(油調)、茹でるなどが例示されるが、そのいずれであってもよい。加熱方法、加熱時間や温度などの加熱条件は、軟性膨化食品の製品種類や生地の配合、所望の食感や味等に応じて適宜設定することができる。
【0049】
本発明に係る軟性膨化食品の製造方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、材料の混捏工程、発酵工程、凍結工程、調味工程、冷却工程、包装工程、殺菌工程などを例示することができる。
【0050】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。本実施例においては、メロンパンについて、ビスケット生地が焼成されてなる部分をメロン皮(外層)、パン生地が焼成されてなる部分をパン部分(内層)という。また、パン部分について、底部ないし外側の焼き色がついていて比較的硬い部分をクラスト、クラストの内側にある柔らかい部分をクラムという。
【実施例0051】
<試験方法>
(1)還元水飴
還元水飴は、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0052】
(2)ビスケット生地の作製
下記[1]~[6]に示す手順により、ビスケット生地を製造した。
[1]薄力粉、強力粉および膨張剤を合わせて篩い、これをAとした。膨張剤は「ベーキングパウダー Fアップ(アイコク)」(成分:酸性ピロリン酸ナトリウム35%、炭酸水素ナトリウム31%、第一リン酸カルシウム9%、食品素材(小麦粉を含む)25%)を用いた。
[2]室温にて柔らかくしたコンパウンドマーガリンおよび砂糖、還元水飴または水を合わせて混合した。
[3]数回に分けて全卵を[2]に入れて混合した。
[4][3]にAの粉類を入れて混合した。
[5]ビニール袋に[4]を入れて3~5時間、室温にて保存した。
[6]25g/個の大きさになるよう分割して丸めた。
【0053】
(3)メロンパンの製造
下記[1]~[9]に示す手順により、メロンパンを製造した。パン生地の材料および配合は「強力粉100重量部、砂糖16.6重量部、食塩1.5重量部、卵黄6.4重量部、油脂15重量部、生イースト4.5重量部、改良剤0.5重量部、水50重量部、合計194.5重量部」とした。改良剤は「Cオリエンタルフード(オリエンタル酵母工業)」(成分:塩化アンモニウム 20.0%、硫酸カルシウム 20.0%、炭酸カルシウム 10.0%、L-シスチン 2.0%、α-アミラーゼ 1.0%、プロテアーゼ 1.0%、L-アスコルビン酸 0.6%、小麦粉、コーンスターチ、食塩および麦芽粉末 45.4%)を用いた。
【0054】
[1]ミキシング:油脂を除くパン生地材料をミキサーに入れ、低速で約5分、中速で約5分続いて高速で約1分混捏した後、油脂を入れ、さらに低速で約3分、中速で約5分および高速で約2分混捏することによりパン生地を作製した。
[2]分割:パン生地を1玉35gに分割し、丸めた。
[3]ベンチタイム:丸めたパン生地を室温で5分置いて休ませた。
[4]成形:本試験方法(2)のビスケット生地を厚さ約7~8mm、直径約4cmの略円形に伸ばした後、休ませたパン生地の上に乗せた。ビスケット生地を伸ばしながら、包餡するようにパン生地上面を覆った後、ビスケット生地に網目模様をつけた。成形後のビスケット生地の厚さは約4~5mmとなった。以下、ビスケット生地とパン生地との二層構造からなる食品生地を「メロンパン生地」という。
[5]冷凍:成型後のメロンパン生地を急速冷凍した。
[6]解凍:メロンパン生地を20℃、湿度65%で3時間置くことにより解凍した。
[7]発酵:メロンパン生地を32℃、湿度65%で50分置くことにより発酵させた。
[8]焼成:メロンパン生地を下火210℃、上火180℃で18分焼成した。
[9]保管:焼成後のメロンパン(直径約8cm)を網に乗せて常温で30分程度放冷した後、ビニール袋に入れて20℃、湿度60%の環境下で保管した。
【0055】
(4)官能試験
5名(甲~戊)の分析型パネルにより、メロンパンのクラムを喫食して官能試験を行った。評価項目は「柔らかさ」および「しっとり感」とした。採点は、試料1(還元水飴の配合無し)を基準の3点として、下記に示す基準により0.5点刻みの0~5点の10段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。
「柔らかさ」5点:明らかに柔らかい、4点:やや柔らかい、3点:試料1と同等、2点:やや硬い、1点:明らかに硬い。
「しっとり感」5点:しっとり感が明らかに強い、4点:しっとり感がやや強い、3点:試料1と同等、2点:ややパサついている、1点:明らかにパサついている。
【0056】
(5)荷重の測定
メロンパン(直径約8cm)の中心部から3cm角のクラムを切り出し、さらに底から2.5cmの高さで上部を切り取って、縦3cm×横3cm×厚さ2.5cmの測定用サンプルを作製した。クリープメーターRE2-33005C(山電)の直径5cmの円柱形のプランジャーを用いて、圧縮速度1.0cm/秒で50体積%圧縮変形するまで測定用サンプルを圧縮し、荷重(N)を測定した。各試料につき5検体を行い、最大荷重について平均値を算出した。
【0057】
<実施例1>柔らかさ・しっとり感向上効果:還元水飴の種類の検討
表2に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~5のメロンパンを製造した。試料1は還元水飴を配合しない比較試料である。試料2~5は、ビスケット生地について、比較試料における砂糖の50質量%を固形分濃度換算で各種の還元水飴に置換して配合した試料である。製造したメロンパンを1日間保管した後、試験方法(4)に記載の方法でクラムの官能評価を行った。その結果を図3に示す。
【表2】
【0058】
図3に示すように、柔らかさは、試料2(高糖化還元水飴を配合)、試料3(中糖化還元水飴を配合)、試料4(低糖化還元水飴(エスイー30)を配合)および試料5(低糖化還元水飴(エスイー100)を配合)のいずれにおいても、試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)と比較して評価点が大きかった。すなわち、メロン皮に還元水飴を配合したメロンパンは、還元水飴を配合していないものよりも、クラムが柔らかかった。この結果から、内層と外層とを有する軟性膨化食品において、外層に還元水飴を配合することにより、内層の柔らかさを向上できることが明らかになった。
【0059】
次に、しっとり感は、試料2(高糖化還元水飴を配合)、試料3(中糖化還元水飴を配合)、試料4(低糖化還元水飴(エスイー30)を配合)および試料5(低糖化還元水飴(エスイー100)を配合)のいずれにおいても、試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)と比較して評価点が大きかった。すなわち、メロン皮に還元水飴を配合したメロンパンは、還元水飴を配合していないものよりも、クラムがしっとりしていた。この結果から、内層と外層とを有する軟性膨化食品において、外層に還元水飴を配合することにより、内層のしっとりした食感を向上できることが明らかになった。
【0060】
<実施例2>柔らかさ・しっとり感向上効果:還元水飴の配合量の検討
表3に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~6のメロンパンを製造した。試料1は還元水飴を配合しない比較試料である。試料2~6は、ビスケット生地について、比較試料における砂糖の10~50質量%を固形分濃度換算で低糖化還元水飴(エスイー100)に置換して配合した試料である。製造したメロンパンを1日間保管した後、試験方法(4)に記載の方法でクラムの官能評価を行った。その結果を図4に示す。
【表3】
【0061】
図4に示すように、「柔らかさ」および「しっとり感」のいずれも、試料2(砂糖の10質量%を低糖化還元水飴に置換)、試料3(同20質量%置換)、試料4(同30質量%置換)、試料5(同40質量%置換)および試料6(同50質量%置換)では、試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)と比較して評価点が大きく、低糖化還元水飴の配合量が大きい程、評価点が大きい傾向であった。すなわち、砂糖の10~50質量%を低糖化還元水飴に置換してメロン皮に配合したメロンパン(ビスケット生地中に約1.99~約10.00質量%の低糖化還元水飴を配合したメロンパン、メロン皮において小麦粉100重量部に対して4.48~22.47重量部の低糖化還元水飴を配合したメロンパン)のクラムは、還元水飴を配合していないものよりも、柔らかく、しっとりしていた。
【0062】
この結果から、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴は、その配合量の大小にかかわらず、外層に配合することにより、軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上できることが明らかになった。
【0063】
<実施例3>柔らかさ・しっとり感維持効果:還元水飴の種類の検討
(1)官能試験
実施例1の表2に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~5のメロンパンを製造した。製造したメロンパンを3日間保管した後、試験方法(4)に記載の方法でクラムの官能評価を行った。その結果を図5に示す。
【0064】
図5に示すように、柔らかさは、試料2(高糖化還元水飴を配合)では試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)よりも評価点が小さかった。これに対して、試料3(中糖化還元水飴を配合)、試料4(低糖化還元水飴(エスイー30)を配合)および試料5(低糖化還元水飴(エスイー100)を配合)では、試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、メロン皮に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したメロンパンは、製造から3日後においても、還元水飴を配合していないものよりクラムが柔らかかった。この結果から、内層と外層とを有する軟性膨化食品において、外層に中~低糖化還元水飴を配合することにより、内層の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0065】
次に、しっとり感は、試料2(高糖化還元水飴を配合)では試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)よりも評価点が小さかった。これに対して、試料3(中糖化還元水飴を配合)、試料4(低糖化還元水飴(エスイー30)を配合)および試料5(低糖化還元水飴(エスイー100)を配合)では、試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、メロン皮に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したメロンパンは、製造から3日後においても、還元水飴を配合していないものよりクラムがしっとりしていた。この結果から、内層と外層とを有する軟性膨化食品において、外層に中~低糖化還元水飴を配合することにより、内層のしっとり感を維持できることが明らかになった。
【0066】
(2)荷重の測定
実施例1の表2に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~5のメロンパンを製造した。製造したメロンパンを3日間保管した後、試験方法(5)に記載の方法でクラムの荷重を測定した。その結果を図6に示す。
【0067】
図6に示すように、最大荷重は、試料2(高糖化還元水飴を配合)では試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)よりも大きかった。これに対して、試料3(中糖化還元水飴を配合)、試料4(低糖化還元水飴(エスイー30)を配合)および試料5(低糖化還元水飴(エスイー100)を配合)では、試料1よりも最大荷重が小さかった。すなわち、メロン皮に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したメロンパンは、製造から3日後においても、還元水飴を配合していないものよりクラムが柔らかかった。この結果から、内層と外層とを有する軟性膨化食品において、外層に中~低糖化還元水飴を配合することにより、内層の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0068】
<実施例4>柔らかさ・しっとり感維持効果:還元水飴の配合量の検討
(1)官能試験
実施例2の表3に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~6のメロンパンを製造した。製造したメロンパンを3日間保管した後、試験方法(4)に記載の方法でクラムの官能評価を行った。その結果を図7に示す。
【0069】
図7に示すように、「柔らかさ」および「しっとり感」のいずれも、試料2(砂糖の10質量%を低糖化還元水飴に置換)、試料3(同20質量%置換)、試料4(同30質量%置換)、試料5(同40質量%置換)および試料6(同50質量%置換)では、試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)と比較して評価点が大きく、低糖化還元水飴の配合量が大きい程、評価点が大きい傾向であった。すなわち、砂糖の10~50質量%を低糖化還元水飴に置換してメロン皮に配合したメロンパン(ビスケット生地中に約1.99~約10.00質量%の低糖化還元水飴を配合したメロンパン、メロン皮において小麦粉100重量部に対して4.48~22.47重量部の低糖化還元水飴を配合したメロンパン)のクラムは、製造から3日後においても、還元水飴を配合していないものより柔らかく、しっとりしていた。
【0070】
この結果から、中~低糖化還元水飴は、その配合量の大小にかかわらず、外層に配合することにより、軟性膨化食品の内層の柔らかさおよび/またはしっとり感を維持できることが明らかになった。
【0071】
(2)荷重の測定
実施例2の表3に示す配合でビスケット生地を作製し、これを用いて試料1~6のメロンパンを製造した。製造したメロンパンを3日間保管した後、試験方法(5)に記載の方法でクラムの荷重を測定した。その結果を図8に示す。
【0072】
図8に示すように、最大荷重は、試料2(砂糖の10質量%を低糖化還元水飴に置換)、試料3(同20質量%置換)、試料4(同30質量%置換)、試料5(同40質量%置換)および試料6(同50質量%置換)のいずれも、試料1(比較試料:還元水飴を配合せず)と比較して小さかった。すなわち、砂糖の10~50質量%を低糖化還元水飴に置換してメロン皮に配合したメロンパン(ビスケット生地中に約1.99~約10.00質量%の低糖化還元水飴を配合したメロンパン、メロン皮において小麦粉100重量部に対して4.48~22.47重量部の低糖化還元水飴を配合したメロンパン)のクラムは、製造から3日後においても、還元水飴を配合していないものより柔らかかった。この結果から、中~低糖化還元水飴は、その配合量の大小にかかわらず、外層に配合することにより、軟性膨化食品の内層の柔らかさを維持できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8