(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041548
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】地震時動水圧低減型パイプライン
(51)【国際特許分類】
F16L 55/04 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
F16L55/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148982
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】大久保 天
(72)【発明者】
【氏名】川口 清美
(72)【発明者】
【氏名】南雲 人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 健司
(72)【発明者】
【氏名】中村 和正
【テーマコード(参考)】
3H025
【Fターム(参考)】
3H025CA02
3H025CA03
3H025CB25
(57)【要約】
【課題】 液体を輸送するパイプラインにおいて地震時に発生する地震時動水圧を低減し、パイプラインの破損等の事故を未然に防止することのできる、地震時動水圧低減型パイプラインを提供する。
【解決手段】 液体を輸送するパイプラインであって、パイプ内における地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置に、前記パイプ内の液体の圧力変化に応じて体積を変化させて地震時動水圧を低減する地震時動水圧低減手段3を備えてなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を輸送するパイプラインであって、パイプ内における地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置に、前記パイプ内の液体の圧力変化に応じて体積を変化させて地震時動水圧を低減する地震時動水圧低減手段を備えてなる、地震時動水圧低減型パイプライン。
【請求項2】
前記地震時動水圧低減手段が配置される位置は、前記パイプが屈曲された曲管部、前記パイプが閉塞された閉端部、前記パイプが3本以上連結された分岐管部および異なる直径の前記パイプが連結された異径管部のいずれか一以上の位置ないしその近傍位置である、請求項1に記載の地震時動水圧低減型パイプライン。
【請求項3】
前記地震時動水圧低減手段は、
前記曲管部に設けられる場合、当該曲管部における弧の長い外周壁または弧の短い内周壁のいずれかに設けられており、
前記閉端部に設けられる場合、当該閉端部の近傍位置の前記パイプに設けられており、
3本のパイプがT字状に連結された前記分岐管部に設けられる場合、直線状に並んだ2本のパイプに対して直角に連結された1本のパイプが交差する正面の壁に設けられており、
前記異径管部に設けられる場合、当該異径管部の近傍位置で、かつ径の大きいパイプ側に設けられている、
請求項2に記載の地震時動水圧低減型パイプライン。
【請求項4】
前記地震時動水圧低減手段は、
前記パイプを外側に突出形成させてなる収容部と、
前記収容部に収容されており、圧力変化に応じて膨張および収縮して体積を変化しうる体積変化体と
を有する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の地震時動水圧低減型パイプライン。
【請求項5】
異なる圧力追従特性を有する複数の前記体積変化体が、前記収容部に並べて収容されている、請求項4に記載の地震時動水圧低減型パイプライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を輸送するパイプラインにおいて、地震時に発生する地震時動水圧を低減するための地震時動水圧低減型パイプラインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を輸送するパイプラインにおいて、開閉弁の急速な開閉を行うと、ウォーターハンマーと呼ばれる圧力波が生じる。当該圧力波は、配管内の圧力を上昇および下降させて管壁に衝撃を与え、破損やひび割れ、継手部の離脱(以下、「破損等」という。)の事故原因となる。
【0003】
また、このようなウォーターハンマーを緩和するものとして、特開2017-190830号公報では、ウォーターハンマーの発生する開閉弁(スプリンクラー)から離れた位置であって、予め決められたマンホール間隔毎に、アキュムレータや空気弁の組み合わせからなる圧力変動緩和手段を設けることを特徴とする配管の圧力変動緩和機構が提案されている(特許文献1)。当該特許文献1によれば、前記マンホール間隔は、パイプラインの設計プランに基づいて求められた圧力変動の値に基づいて決定されるとされている。
【0004】
ところで、液体を輸送するパイプラインでは、地震に伴いウォーターハンマーと同様な、地震時動水圧と呼ばれる圧力波が発生する(非特許文献1)。この地震時動水圧は、ウォーターハンマーと同様、パイプラインの破損事故等の原因になると考えられている。しかしながら、地震時動水圧を実際に観測した例は少ない。
【0005】
そこで、本願の発明者らは、供用中の農業用パイプラインを用いて実際に水圧と地震加速度の同時観測を行い、地震時動水圧の発生を確認した。また、確認された実験値と理論値との比較から圧力波の重ね合わせが生じることにより、パイプライン内部の圧力波が増幅することを見いだした(非特許文献2)。本非特許文献2によると、震度7の地震が起きると、パイプライン内部において1MPaを超える地震時動水圧が発生するおそれがあるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中川義徳、「送配水管路における地震時動水圧についての理論的研究」、水道協会雑誌、416、26-35、1969年
【非特許文献2】大久保天ら、「農業用管水路で生じる地震時動水圧」、農業農村工学会論文集、No.310、pp.I_135-I_144、2020年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、既存の農業用パイプラインの設計水圧(設計プラン)には、地震時動水圧は考慮されていないため、大規模地震が発生した場合には、設計水圧を超える内水圧が作用する可能性が高い。実際、最大震度7を観測した平成30年北海道胆振東部地震では、農業用パイプラインの複数の箇所において、曲管部の破損、継手部の離脱や空気弁の破損が確認された。このような農業用パイプラインに大きな被害が生じると、用水供給が中断し、代替資材の入手や復旧工事に数ヶ月ないし数年を要することから、地域の農業生産に大きな打撃を与える。
【0009】
また、特許文献1に記載された発明では、地震時動水圧によるパイプラインの破損を防止することは困難である。つまり、特許文献1に記載された発明において、圧力変動緩和手段は、ウォーターハンマー(水撃圧)の発生位置であるスプリンクラーから離れたマンホールの位置に設けられている。しかしながら、地震時動水圧は、パイプラインにおける曲管部等において発生すると考えられ、上述の通り破損も曲管部等で起こる。このため特許文献1に記載された発明の圧力変動緩和手段のように、地震時動水圧が発生する発生位置から離れた位置に設けた場合、地震時動水圧によるパイプラインの破損を防止することができない。また、特許文献1が対象としているウォーターハンマーによる破損が曲管部等で起きやすいなどの事情もない。よって、特許文献1に記載された発明からは、圧力変動緩和手段を地震時動水圧が発生する曲管部等に設けるという発想は生じない。
【0010】
また、ウォーターハンマーは、開閉弁による数秒以下の瞬間的な圧力変動によるものである。それに比べて地震時動水圧による圧力変化であって、特に、パイプラインを破損させてしまうような大規模な地震において生じる圧力変化は、数十秒以上の長時間にわたって起きる。このため、仮に特許文献1に記載の発明における圧力変動緩和手段を地震時動水圧が発生する発生位置に設置したとしても、地震時動水圧による圧力変化の緩和に必要な機構および振動特性が全く異なるため、地震時動水圧によるパイプラインの破損を防止することができない。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、液体を輸送するパイプラインにおいて地震時に発生する地震時動水圧を低減し、パイプラインの破損等の事故を未然に防止することのできる、地震時動水圧低減型パイプラインを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る地震時動水圧低減型パイプラインは、地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置での圧力変化を低減するために、液体を輸送するパイプラインであって、パイプ内における地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置に、前記パイプ内の液体の圧力変化に応じて体積を変化させて地震時動水圧を低減する地震時動水圧低減手段を備えてなる。
【0013】
また、本発明の一態様として、前記地震時動水圧低減手段が配置される位置は、前記パイプが屈曲された曲管部、前記パイプが閉塞された閉端部、前記パイプが3本以上連結された分岐管部および異なる直径の前記パイプが連結された異径管部のいずれか一以上の位置ないしその近傍位置であってもよい。
【0014】
さらに、本発明の一態様として、地震時動水圧の発生を低減するために、前記地震時動水圧低減手段は、前記曲管部に設けられる場合、当該曲管部における弧の長い外周壁または弧の短い内周壁のいずれかに設けられており、前記閉端部に設けられる場合、当該閉端部の近傍位置の前記パイプに設けられており、3本のパイプがT字状に連結された前記分岐管部に設けられる場合、直線状に並んだ2本のパイプに対して直角に連結された1本のパイプが交差する正面の壁に設けられており、前記異径管部に設けられる場合、当該異径管部の近傍位置で、かつ径の大きいパイプ側に設けられていてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様として、液体の輸送を妨げず地震時動水圧を低減するために、前記地震時動水圧低減手段は、前記パイプを外側に突出形成させてなる収容部と、前記収容部に収容されており、圧力変化に応じて膨張および収縮して体積を変化しうる体積変化体とを有するようにしてもよい。
【0016】
さらに、本発明の一態様として、圧力変化への追従性を高めるために、異なる圧力追従特性を有する複数の前記体積変化体が、前記収容部に並べて収容されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液体を輸送するパイプラインにおいて地震時に発生する地震時動水圧を低減し、パイプラインの破損等の事故を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る地震時動水圧低減型パイプラインの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本実施形態におけるパイプライン本体の曲管部外周壁側に地震時動水圧低減手段を設けた状態を示す模式図である。
【
図3】本実施形態におけるパイプライン本体の曲管部内周壁側に地震時動水圧低減手段を設けた状態を示す模式図である。
【
図4】本実施形態におけるパイプライン本体の閉端部の近傍位置に地震時動水圧低減手段を設けた状態を示す模式図である。
【
図5】本実施形態におけるパイプライン本体の分岐管部のパイプが交差する正面の壁に地震時動水圧低減手段を設けた状態を示す模式図である。
【
図6】本実施形態におけるパイプライン本体の異径管部の近傍位置でかつ径の大きい側のパイプに地震時動水圧低減手段を設けた状態を示す模式図である。
【
図7】本実施形態における地震時動水圧低減手段の収容部に圧力追従特性の異なる2つの体積変化体を収容した状態を示す模式図である。
【
図8】
図7において地震時動水圧が上昇し、各体積変化体が収縮した状態を示す模式図である。
【
図9】
図7において地震時動水圧が下降し、各体積変化体が膨張した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る地震時動水圧低減型パイプラインの一実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
本実施形態の地震時動水圧低減型パイプライン1は、液体を輸送するパイプライン本体2と、地震時動水圧を低減する地震時動水圧低減手段3とを有する。以下、各構成について詳細に説明する。
【0021】
パイプライン本体2は、液体の輸送に用いられる鋼管、塩ビ管などを適宜連結して形成されたものであり、直線状のパイプの他に、液体の流れる方向や流速を変化させるパイプが屈曲された曲管部21、パイプが閉塞された閉端部22、パイプが3本以上連結された分岐管部23および異なる直径のパイプが連結された異径管部24などを備えている。
【0022】
後述するように、これら液体の流れる方向や流速を変化させる曲管部21、閉端部22、分岐管部23および異径管部24は、地震時にパイプ内で地震時動水圧が発生する発生位置となる。また、これら曲管部21、閉端部22、分岐管部23および異径管部24は、直線状のパイプと継手部25で連結されており、大きな圧力変化を受けると離脱しやすい部分でもある。
【0023】
本実施形態におけるパイプライン本体2は、農業用パイプラインを参照するものであり、図示しないが、地中に埋設されている。
【0024】
パイプライン本体2は、地中に埋設されているものに限定されるものではなく、地上に設置されるものも対象となる。また、輸送する液体は、農業用水に限定されるものでなく、飲料水や工業用水などの水、重油などの油、化学薬液など各種の液体も対象となる。
【0025】
地震時動水圧低減手段3は、パイプ内の液体の変位や圧力変化に応じて体積を変化させて地震時動水圧を低減するものである。本実施形態における地震時動水圧低減手段3は、
図2に示すように、パイプを外側に突出形成させてなる収容部31と、この収容部31に収容されている体積変化体32とを有する。
【0026】
収容部31は、体積変化体32を地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置で保持するためのものである。この収容部31は、前記体積変化体32が液体の輸送の妨げとならないようにパイプの外側に突出形成されており、その内部に前記体積変化体32を収容することができる空間を備えている。
【0027】
体積変化体32は、圧力変化に応じて膨張および収縮して体積を変化させて地震時動水圧を低減するものである。本実施形態における体積変化体32は、内部に空気等の気体が密入されたゴムなどの可撓性を有する素材で形成された袋体からなる。
【0028】
また、本実施形態における地震時動水圧低減手段3は、パイプ内で発生する地震時動水圧を直接的に低減させるため、当該地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置に設けられている。
【0029】
本実施形態における地震時動水圧低減手段3が配置される位置は、上述のように、パイプが屈曲された曲管部21、パイプが閉塞された閉端部22、パイプが3本以上連結された分岐管部23および異なる直径のパイプが連結された異径管部24のいずれか一以上の位置ないしその近傍位置である。これら各部の位置では、地震時によるパイプの変位によって、パイプ壁面近傍の水の密度および水圧が変化し、地震時動水圧が発生する発生位置となる。
【0030】
また、近傍位置は、地震時動水圧が発生する発生位置からの距離が限定されるものではないが、圧力変化により離脱しやすい継手部25より発生位置に近い位置が好ましい。
【0031】
なお、閉端部22は、
図1に示すように、パイプの端部に限定されるものではなく、
図4に示すように、パイプの途中にあるバルブなどにより閉塞された部分であってもよい。
【0032】
地震時動水圧低減手段3は、これらのような地震時動水圧が発生する発生位置またはその近傍位置に配置されることで、発生する地震時動水圧の強さ(振幅)を直接的に低減する。
【0033】
具体的には、曲管部21で発生する地震時動水圧を低減する場合、地震時動水圧低減手段3は、
図2に示すように、当該曲管部21における弧の長い外周壁21a、または、
図3に示すように、弧の短い内周壁21bのいずれかに設けられていることが好ましい。
【0034】
また、閉端部22で発生する地震時動水圧を低減する場合、地震時動水圧低減手段3は、
図4に示すように、当該閉端部22の近傍位置のパイプに設けられていることが好ましい。
【0035】
さらに、パイプがT字状に連結された分岐管部23で発生する地震時動水圧を低減する場合、地震時動水圧低減手段3は、
図5に示すように、直線状に並んだ2本のパイプに対して直角に連結された1本のパイプが交差する正面の壁に設けられていることが好ましい。
【0036】
また、異径管部24で発生する地震時動水圧を低減する場合、地震時動水圧低減手段3は、
図6に示すように、当該異径管部24の近傍位置で、かつ径の大きいパイプ24a側に設けられていることが好ましい。
【0037】
なお、体積変化体32は、袋体からなる構成に限定されるものではなく、地震時動水圧を有効に低減できる構成であれば適宜選択してよく、例えば、
図7に示すように、側部が蛇腹状に形成されており、圧力変化に応じて側部の蛇腹が伸縮することで体積を変化させることができるものでもよい。
【0038】
また、収容部31に収容される体積変化体32は、1つからなるものに限定されるものではなく、
図7~
図9に示すように、異なる圧力追従特性を有する複数の体積変化体32a,32bを収容部31に並べて収容してもよい。例えば、圧力の増加時に大きく収縮する体積変化体32aと、圧力の減少時に大きく膨張する体積変化体32bとを奥行き方向に順に並べて収容してもよい。なお、収容部31内に異なる圧力追従特性を有する複数の体積変化体32を並べる方法は、
図7~
図9に示すように、奥行き方向に順に並べるものに限定されるものではなく、図示しないが、横方向に並べたり、方向や順番を限定せずにランダムに並べてもよい。
【0039】
次に、本実施形態の地震時動水圧低減型パイプライン1における各構成の作用について説明する。
【0040】
地震が発生すると、地震時動水圧低減型パイプライン1全体が地震とともに振動する。このとき曲管部21では、屈曲したパイプ壁面の変位によって液体の密度および水圧が変化し、地震時動水圧が発生する。
【0041】
本実施形態では、地震時動水圧低減手段3が、
図2および
図3に示すように、曲管部21の外周壁21aまたは内周壁21bのいずれかの地震時動水圧の発生する発生位置に設けられている。
【0042】
体積変化体32は、発生する地震時動水圧に応じて膨張および収縮して体積が変化する。例えば、地震時動水圧によって曲管部21における水圧が上昇すると、
図8に示すように、体積変化体32aは収縮して体積を小さくし、地震時動水圧の上昇を抑制する。一方、曲管部21の水圧が下降すると、
図9に示すように、体積変化体32bは膨張して体積を大きくし、地震時動水圧が低くなるのを抑制する。
【0043】
このように、地震時動水圧低減手段3は、液体の密度変化および水圧変化による地震時動水圧の変化の大きさ(振幅)を発生の発生位置において直接的に低減(緩和)することができる。よって、曲管部21に連結されたパイプを伝播する地震時動水圧も低減できる。
【0044】
また、閉端部22では、当該閉端部22の変位によって液体の密度および水圧が変化し、地震時動水圧が発生する。特に、パイプの軸方向(
図4における矢印方向)に沿って振動すると大きな振幅の地震時動水圧が発生する。これに対し、地震時動水圧低減手段3は、閉端部22の近傍位置のパイプに設けられており、直接的に地震時動水圧を低減することができるとともに、閉端部22に繋がるパイプを伝播する地震時動水圧も低減できる。
【0045】
さらに、分岐管部23では、パイプ壁面の変位によって圧力が変化する。特に、3本のパイプがT字状に連結された分岐管部23の場合、直線状に並んだ2本のパイプに対して直角に連結された1本のパイプが交差する正面の壁と直角をなす方向(
図5における矢印方向)に沿って振動すると、前記正面の壁を起点として地震時動水圧が発生する。これに対し、地震時動水圧低減手段3は、当該地震時動水圧が発生する発生位置である前記正面の壁に設けられることで、直接的に地震時動水圧を低減することができるとともに、分岐する各パイプに沿って伝播する地震時動水圧も低減できる。
【0046】
また、異径管部24では、当該異径管部24の変位によって、径の大きいパイプ24a側の液体の密度および水圧が変化し、地震時動水圧が発生する。特に、パイプの軸方向(
図6における矢印方向)に沿って振動すると大きな振幅の地震時動水圧が発生する。これに対し、地震時動水圧低減手段3は、異径管部24の近傍位置で、かつ径の大きいパイプ24a側に設けられることで、直接的に地震時動水圧を低減することができるとともに、径の大きいパイプ24aおよび径の小さいパイプ24bに沿って伝播する地震時動水圧も低減できる。
【0047】
さらに、
図7に示すように、収容部31に異なる圧力追従特性を備えた複数の体積変化体32a、32bを並べて収容することで、圧力変化に対する膨張および収縮の追従性が高まる。よって、地震に伴い、長時間、圧力の上昇と下降を繰り返す地震時動水圧の圧力変化に追従しやすくなるため、地震時動水圧を持続的に低減することができる。
【0048】
以上のような本実施形態の地震時動水圧低減型パイプライン1によれば、以下の効果を奏することができる。
1.地震時動水圧が発生する発生位置ないしその近傍位置で地震時動水圧を低減することにより、パイプラインの破損等の事故を未然に防止することができる。
2.発生位置ないしその近傍位置における地震時動水圧の低減により伝播する圧力を緩和することができる。
3.地震時動水圧低減手段3をパイプの外側に突出形成したため、通常時は液体の輸送の妨げとはならず、地震時には地震時動水圧を低減することができる。
4.収容部31に異なる圧力追従特性を備えた複数の体積変化体32a、32bを並べて収容することで、圧力変化に対する膨張および収縮の追従性を高めることができる。
【0049】
なお、本発明に係る地震時動水圧低減型パイプラインは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、2以上の地震時動水圧低減手段3が、地震時動水圧が発生する各発生位置ないしその近傍位置に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 地震時動水圧低減型パイプライン
2 パイプライン本体
3 地震時動水圧低減手段
21 曲管部
21a 外周壁
21b 内周壁
22 閉端部
23 分岐管部
24 異径管部
24a 径の大きいパイプ
24b 径の小さいパイプ
25 継手部
31 収容部
32,32a,32b 体積変化体