(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004157
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】建築物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
E04B1/76 200A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105690
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓樹
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DB02
2E001FA04
2E001FA13
2E001ND05
2E001ND08
(57)【要約】
【課題】上層階の床面積を大きく減じることなく上下流を確保することができる建築物を提供する。
【解決手段】建築物は、柱Pに対して取り付けられて一方面が外部空間に面する外壁OWの少なくとも一部に、他方面となる室内側に空調効果を発揮する空調パネルを用いた複数階層の建築物であって、複数階層のうち最も下の階層となる最下階層を除く上位階層H1,H2の少なくとも1つの床部F2は、外壁OWに対して柱幅W2の範囲内の隙間Sを有すると共に、隙間Sを通じて当該床部F2の直下階層である第1階層H1と直上階層である第2階層H2との空気循環を可能としている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に対して取り付けられて一方面が外部空間に面する外壁の少なくとも一部に、他方面となる室内側に空調効果を発揮する空調パネルを用いた複数階層の建築物であって、
前記複数階層のうち最も下の階層となる最下階層を除く上位階層の少なくとも1つの床部は、前記外壁に対して前記柱の厚み範囲内の隙間を有すると共に、前記隙間を通じて当該床部の直下階層と当該床部を含む直上階層との空気循環を可能としている
ことを特徴とする建築物。
【請求項2】
前記柱よりも梁幅の狭い胴差部を有し、
前記隙間は、前記胴差部と前記外壁との間に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記柱の外側に対して取り付けられた胴縁を有し、
前記隙間は、前記外壁が前記胴縁を介して前記柱に取り付けられることで形成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の建築物。
【請求項4】
前記空調パネルは、室内側と外部空間とを断熱する断熱層を有し、前記隙間よりも室内側に内装材を有することなく室内面が直接室内空気にさられている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の建築物。
【請求項5】
一方側と他方側とで圧力差を発生させる圧力差発生手段と、
少なくとも前記隙間が設けられた階層を含む2以上の階層を縦貫すると共に前記柱の厚み以上の大きさを有し、前記圧力差発生手段が設けられる吹き抜け部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の建築物。
【請求項6】
前記吹き抜け部は、少なくとも3階層を縦貫するものであって、
縦貫される階層のうち最も上及び最も下を除く中間階層に、前記吹き抜け部と前記中間階層とが面する空間部を塞ぐための閉塞手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の建築物。
【請求項7】
前記直上階層は、小屋裏である
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の建築物。
【請求項8】
前記直下階層は、床下階層である
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物内の快適性を保つために、建築物の外壁に真空断熱パネルが用いられることがある。さらに、近年では、パネル自体に空調機能を持たせ、一面から他面に向けて熱貫流させるが他面から一面への熱貫流を阻止するヒートパイプパネルや、吸収式又は吸着式の冷凍機をパネル状にした冷凍機パネルといった空調パネルも提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-042529号公報
【特許文献2】特開2008-134043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、外壁に空調パネルを用いた建築物については、空調パネルにて得られた快適な空気を建築物内に行き渡らせることが好ましい。しかし、一般的な複数階層の建築物については、各階層によって上下流が遮られてしまうことから、快適な空気を建築物内に行き渡らせることが困難となってしまう。そこで、上下流を確保するために吹き抜け部を設けたとしても、上層階における床面積を大きく減じることとなってしまい、好ましいとはいえない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、上層階の床面積を大きく減じることなく上下流を確保することができる建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る建築物は、柱に対して取り付けられて一方面が外部空間に面する外壁の少なくとも一部に、他方面となる室内側に空調効果を発揮する空調パネルを用いた複数階層の建築物であって、前記複数階層のうち最も下の階層となる最下階層を除く上位階層の少なくとも1つの床部は、前記外壁に対して前記柱の厚み範囲内の隙間を有すると共に、前記隙間を通じて当該床部の直下階層と直上階層との空気循環を可能としている。
【0007】
なお、床部とは実際に人が歩いたり寝床にしたり等の床として機能するものに限らず、その階層における下側の構造物を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上層階の床面積を大きく減じることなく上下流を確保することができる建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る建築物の一例を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る建築物より壁部を取り除いたときの構造を示す斜視図である。
【
図3】
図1の一部拡大図であり、(a)は第2階層の一部拡大図であり、(b)は第2階層の床部を取り除いた様子を示す一部拡大図である。
【
図4】変形例に係る一部拡大図であり、(a)は第2階層の一部拡大図であり、(b)は第2階層の床部を取り除いた様子を示す一部拡大図である。
【
図6】
図5に示したロールスクリーンを引き伸ばした状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る建築物の一例を示す斜視図である。
図1に示す例に係る建築物1は、複数階層に形成され、壁部10と、屋根部20とを備えるものである。壁部10は、窓部Wと、外壁OWとを備えている。窓部Wは、窓ガラス等が取り付けられるものである。この窓部Wは、スライド開閉式のものであってもよいし、奥行き開閉式のものであってもよいし、固定されて開閉できないフィックス式のものであってもよい。なお、窓部Wには、換気口、排気口、電力線や電話線等の取り込み、アンテナ配線等の外壁貫通要素が設けられてもよい。
【0012】
外壁OWは、直接又は間接的に柱(
図3及び
図4の符号P参照)に取り付けられて、一方面が外部空間に面するものである。本実施形態において外壁OWには、いわゆる空調パネルAPが採用されている。空調パネルAPは、他方面となる室内側に空調効果を発揮するものであって、例えばヒートパイプパネルや冷凍機パネルが該当する。
【0013】
ヒートパイプパネルは、一面側から他面側への熱貫流を許容し他面側から一面側への熱貫流を抑制するパネルである。このヒートパイプパネルは、内部に作動液を有し、一面側において作動液が蒸発して熱を奪い、蒸発により生じた蒸気が他面側に到達して他面側から凝縮熱を破棄することで、一面側から他面側への熱貫流を許容したパネルである。このヒートパイプパネルは、内部に傾斜構造を有しており、他面側において凝縮した作動液が自重によって一面側に戻る構造となっている。また、ヒートパイプパネルは、内部が真空等となった断熱層を有しており、他面側から一面側への熱貫流が抑制され、高い断熱性も備えている。
【0014】
冷凍機パネルは、吸収式若しくは吸着式による冷凍機能を発揮するパネルであって、吸収冷凍サイクルを構成する再生器、凝縮器、蒸発器、及び吸収器、又は、吸着冷凍サイクルを構成する吸着器、凝縮器、及び蒸発器が板状に構成されたものである。冷凍機パネルも、真空断熱部(断熱層)等を持ち、高い断熱性を備えている。
【0015】
このような外壁OWは、その他面側となる室内側には石こうボードや合板等の内装が施されておらず、直接室内空気にさらされていることが望ましい。なお、以下の説明において空調パネルAPは外壁OWのうち三角形状や台形状となる上部Uを除いた全てに採用されているものとして説明するが、これに限らず、上部Uを除いた一部のみに採用されていてもよい。また、空調パネルAPは、ヒートパイプパネル及び冷凍機パネルに限らず、室内側に空調効果を発揮すれば、他の種類のもの(例えば単に電力供給を受けて電力により冷房効果を発揮するパネル等)であってもよい。
【0016】
図2は、本実施形態に係る建築物1より壁部10を取り除いたときの構造を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態に係る建築物1は、居室空間となる第1階層H1及び第2階層H2と、床下階層UFと、小屋裏BHとの4階層によって構成されている。
【0017】
第1階層H1は、いわゆる1階と呼ばれる階層である。第1階層H1の床部F1より下側には床下階層UFが設けられている。床下階層UFは、建築物1の基礎を下面とする階層である。第2階層H2は、いわゆる2階と呼ばれる階層である。本実施形態において第2階層H2はいわゆるスキップフロアとなっており、床部F2同士に空隙を有した段差STが設けられている。第2階層H2の天井部C(
図2において破線:小屋裏BHの床部に相当、以下小屋裏BHの床部も符号Cとする)よりも上側には小屋裏BHが設けられている。小屋裏BHは、いわゆる屋根裏とも呼ばれ、第2階層H2の天井部Cと
図1に示した屋根部20とによって囲まれる階層である。なお、第2階層H2には天井部Cがなく、小屋裏BHと一体化した空間となっていてもよい。
【0018】
ここで、床下階層UFと小屋裏BHとは、基本的に壁が存在せず、又は壁が存在しても開口が形成されて、好ましくは1つの空間とされている。また、第1階層H1及び第2階層H2についても壁が存在しないことが好ましい。しかし、仮に壁が存在しても、対向配置される外壁OW(
図1参照)間で水平流が発生可能に廊下が設けられていたり、開放可能な引き戸等が設けられて、住居者により連通させられるようになっていたりすることが好ましい。
【0019】
図3は、
図1の一部拡大図であり、(a)は第2階層H2の一部拡大図であり、(b)は第2階層H2の床部F2を取り除いた様子を示す一部拡大図である。
図3(a)に示すように、第2階層H2の床部F2は、外壁OWに対して柱Pの厚み範囲内(柱幅未満)の隙間Sを有している。このため、本実施形態に係る建築物1は、隙間Sを通じて床部F2の直上階層(すなわち第2階層H2)と直下階層(すなわち第1階層H1)との空気循環が可能となっている。
【0020】
具体的には
図3(b)に示すように、胴差部BD(いわゆる各階を区切る胴差のみならず第1階層H1においては基礎上に設けられる土台を含む概念)の梁幅W1は、柱幅W2よりも狭くされ、狭くされた分が隙間Sとして外壁OWとの間に形成されることとなる。これにより、隙間Sを設けるために新たな構造物を追加する必要がなく胴差部BDの梁幅W1及び床部F2の大きさを調整することで隙間Sを形成することができる。
【0021】
なお、
図3(b)にも示すように、第1階層H1についても同様にして(土台の梁幅を狭くして)外壁OWと床部F1との間に隙間Sを形成することが好ましい。なお、第1階層H1については、隙間Sを通じて床下階層UFと空気循環できるよう、基礎上に乗る土台と基礎との間に間隙を設けたり、外壁OWと基礎との間に隙間が生じないよう封止部材を設けたり等、適宜の手段を施す必要がある。
【0022】
さらに、図示を省略するが、第2階層H2の天井部Cが設けられている場合には小屋裏BHについても同様にして隙間Sを形成することが好ましい。すなわち、隙間Sは、複数階層(4階層)の最も下となる階層である最下階層(すなわち床下階層UF)を除く上位階層H1,H2,BHの全てに設けられることが好ましい。なお、隙間Sは、上位階層H1,H2,BHの少なくとも1つに設けられていてもよい。
【0023】
図4は、変形例に係る一部拡大図であり、(a)は第2階層H2の一部拡大図であり、(b)は第2階層H2の床部F2を取り除いた様子を示す一部拡大図である。隙間Sについては、胴差部BDの梁幅W1を狭くして形成することに限られない。例えば、
図4(a)に示すように、建築物1(
図1参照)は、柱Pの外側に対して取り付けられた胴縁BEを有している。また、外壁OWは、胴縁BEに取り付けられ、胴縁BEを介して柱Pに取り付けられている。このため、胴縁BEの厚み分が隙間Sとして外壁OWとの間に形成されることとなる。これにより、隙間Sを設けるために胴差部BDの梁幅W1(
図3参照)を狭くする必要がなく、胴差部BDが狭くなることに起因して強度面に影響が出てしまう事態を防止することができる。
【0024】
なお、
図4(b)にも示すように、変形例に係る第1階層H1についても胴縁BEを用いて隙間Sを形成するようにしてもよい。この場合、
図3(b)を参照して説明したように、間隙や封止部材等の適宜の手段を施されることは言うまでもない。また、図示を省略するが、小屋裏BHについても胴縁BEを用いて隙間Sを形成するようにしてもよい。さらに、
図4に示した隙間Sについても上位階層H1,H2,BHの全てに設けられることが好ましいが、上位階層H1,H2,BHのいずれか1つに設けられていてもよい。また、胴縁BEは
図4(b)に示すような水平部材であってもよいし、柱Pの厚みを増すように柱Pに抱き合わされた垂直部材であってもよい。
【0025】
加えて、建築物1のうち或る方角に向いた外壁OWについては、
図3に示した隙間Sを採用し、他の方角に向いた外壁OWについては、
図4に示した隙間Sを採用するようにしてもよい。すなわち、1つの建築物1において
図3に示した隙間Sと
図4に示した隙間Sとの双方を採用してもよい。
【0026】
図5は、第2階層H2の他の一部拡大図である。
図5に示すように、建築物1(
図1参照)は複数階層のうち、少なくとも隙間S(
図3及び
図4参照)が設けられた階層を含む2以上の階層を縦貫する吹き抜け部ATが設けられていてもよい。この吹き抜け部ATは、上記した隙間Sとは異なり、柱P(
図3及び
図4参照)の厚み以上の大きさを有するものとなっている。さらに、本実施形態においては吹き抜け部AT内にシーリングファン(圧力差発生手段)SFが設けられている。
【0027】
シーリングファンSFは、羽根が水平に設けられており、羽根の回転によって羽根の上方(一方側)と下方(他方側)とで圧力差を発生させるものである。本実施形態に係る建築物1は、吹き抜け部ATにおいてシーリングファンSFを回転動作させることで、吹き抜け部ATにおいて上下流を発生させることができる。さらに、吹き抜け部ATにおいて上下流を発生させることに連動して、上記の隙間Sを利用した上下流を発生させることもでき、建築物1における円滑な空気循環を行うことができる。
【0028】
さらに、
図5に示す吹き抜け部ATは、図示を省略するが、第2階層H2の天井部C(
図2参照)を貫いて小屋裏BH(
図2参照)まで縦貫している。すなわち、
図5に示す吹き抜け部ATは、3階層を縦貫するものとなっている。このような吹き抜け部ATは、第2階層H2において第1方向が外壁OW(
図1等参照)側に面しており、第2方向に手すりHRが設けられている。さらに、吹き抜け部ATは、第1方向と第2方向とを直交する第3方向及び第4方向に腰壁SWが設けられている。
【0029】
このような吹き抜け部ATの構成であるため、吹き抜け部ATは、縦貫する3階層のうち小屋裏BH及び第1階層H1(最も上及び最も下の階層)を除く第2階層H2(中間階層)に、吹き抜け部ATと第2階層H2とが面する空間部SPが形成されることとなる。
【0030】
さらに、本実施形態においては、下方から上方に向けて引き延ばし可能な複数のロールスクリーン(閉塞手段)RSを備えている。具体的に、手すりHRが設けられる第2方向については、床部F2に第1ロールスクリーンRS1が設けられている。また、腰壁SWが設けられる第3及び第4方向については、腰壁SWの上部に第2及び第3ロールスクリーンRS2,RS3が設けられている。第2及び第3ロールスクリーンRS2,RS3の上方には、それぞれ板状の手すりHRBが設けられており、第2及び第3ロールスクリーンRS2,RS3が隠されるようになっている。
【0031】
図6は、
図5に示したロールスクリーンRSを引き伸ばした状態を示す斜視図である。
図6に示すように、第1~第3ロールスクリーンRS1~RS3は、それぞれ第2階層H2の天井部C(
図2参照)付近まで引き伸ばすことができる。このように引き伸ばすことで、吹き抜け部ATと第2階層H2とが面する空間部SP(
図5参照)が閉塞されることとなる。空間部SPが閉塞されることにより、吹き抜け部ATについては第1階層H1と小屋裏BHとを直接接続するものとなる。この結果、上下流は、第2階層H2に吹き込むことなく通過することとなる。
【0032】
なお、第1~第3ロールスクリーンRS1~RS3は、第2階層H2の天井部Cまで引き伸ばされる場合に限らず、途中で停止可能となっている。このため、空間部SPが一部閉塞され残部が開放された状態とすることもでき、第2階層H2での上下流の分配や集気高さを任意に決定することもできる。
【0033】
次に、本実施形態に係る建築物1の作用を説明する。まず、
図1に示す建築物1については、
図3及び
図4に示すように、外壁OWとの間に隙間Sを有する。このため、外壁OWのうち空調パネルAPによって空調された空気は、隙間Sを通じて上下流として複数階層を移動することとなる。
【0034】
特に、シーリングファンSF等の圧力差を発生させる手段を吹き抜け部ATに有する場合には、シーリングファンSFによって吹き抜け部ATに上下流を発生させ、これに伴い隙間Sを通じた上下流を発生させることができる。例えば、吹き抜け部ATにおいて下降流を発生させたとすると、これに伴い隙間Sでは逆方向の上昇流を発生させることができる。
【0035】
特に、本実施形態においては、建築物1が4階層で形成されており、小屋裏BHの床部Cや第1階層H1の床部F1にも隙間Sが設けられている。このため、小屋裏BHや床下階層UFを利用可能となっている、一般に小屋裏BHや床下階層UFには、壁が設けられておらず又は少なく、且つ、家具等が設置されないことから、水平流を好適に発生させることができる。ここで、建築物1において空気を循環させる場合には、上下流だけでなく水平流も発生させる必要がある。よって、小屋裏BHや床下階層UFを利用することで、空気循環を好適に行うことができる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係る建築物1によれば、上位階層H1,H2,BHの少なくとも1つの床部F1,F2,Cは、外壁OWに対して柱Pの厚み範囲内の隙間Sを有すると共に、隙間Sを通じて当該床部F1,F2,Cの直下階層と直上階層との空気循環を可能としているため、所定以上の大きさの吹き抜け部ATを設けなくとも、隙間Sを通じて上下流を確保することができる。従って、上層階の床面積を大きく減じることなく上下流を確保することができる。
【0037】
また、柱Pよりも梁幅W1の狭い胴差部BDを有し、隙間Sは胴差部BDと外壁OWとの間に形成されているため、隙間Sを設けるために新たな構造物を追加する必要がなく胴差部BDの梁幅W1を調整することで上層階の床面積を大きく減じることなく上下流を確保することができる。
【0038】
また、隙間Sは、外壁OWが胴縁BEを介して柱Pに取り付けられることで形成されるため、柱Pや胴差部BD等に細工することなく、胴縁BEを利用して隙間Sを形成することができ、建築物1の強度等に影響を与え難く上下流を確保することができる。
【0039】
また、空調パネルAPは、室内側と外部空間とを断熱する断熱層を有し、隙間Sよりも室内側に内装材を有することなく室内面が直接室内空気にさられているため、室内空気を室内面で直接的に空調でき、且つ、隙間Sを介して好適に室内空気の循環を行うことができる。
【0040】
また、シーリングファンSFと、隙間Sが設けられた階層を含んで縦貫する吹き抜け部ATとを有するため、吹き抜け部ATを利用して上下流を発生させることができ、これにより隙間Sを利用した上下流を促すこともできる。従って、円滑な空気循環に寄与することができる。なお、吹き抜け部ATについては上層階の床面積を減じる要素となるが、隙間Sを有する分だけ吹き抜け部ATに相当する構成が省略可能であることから、上層階の床面積を大きく減少させることには至らない。
【0041】
また、吹き抜け部ATの第2階層H2に吹き抜け部ATと第2階層H2とが面する空間部SPを塞ぐためのロールスクリーンRSを備えるため、ロールスクリーンRSにより閉塞した場合には第2階層H2を通過する形で上下流を発生させることができ、ロールスクリーンRSにより閉塞しなかった場合には2階層H2を通過することなく上下流を発生させることができる。従って、上下流による空気循環を行う階層を選択することができる。
【0042】
また、隙間Sの直上階層は小屋裏BHであるため、通常壁や家具等が設置されない小屋裏BHを利用でき、上下流と共に必須となる水平流を好適に発生させることに寄与することができる。
【0043】
また、隙間Sの直下階層は床下階層UFであるため、通常壁や家具等が設置されない床下を利用でき(仮に基礎によって遮られる場合であっても基礎の一部開口を設ける等すれば)、上下流と共に必須となる水平流を好適に発生させることに寄与することができる。
【0044】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0045】
例えば、上記実施形態において吹き抜け部ATは、第1方向が外壁OWに面しているが、特にこれに限らず、第1~第4方向の全てにおいて外壁OWに面していなくともよい。また、建築物1において太さが異なる柱Pが存在する場合、隙間Sは最も太い柱Pの厚み範囲内であればよい。
【0046】
さらに、空間部SPを閉塞する手段は、ロールスクリーンRSに限らず、スライド可能な壁等の他の物であってもよい。さらに、圧力差を発生させる手段もシーリングファンSFのようにプロペラ式に限らず、例えばシロッコファンやターボファン等の他の種類のファンであってもよいし、圧力差を発生させることができればファンに限るものではない。加えて、吹き抜け部ATは、階段が設けられる空間を利用したものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 :建築物
10 :壁部
AP :空調パネル
AT :吹き抜け部
BD :胴差部
BE :胴縁
BH :小屋裏
C,F1,F2 :床部
H1 :第1階層
H2 :第2階層
H1,H2,BH :上位階層
OW :外壁
P :柱
RS :ロールスクリーン(閉塞手段)
S :隙間
SF :シーリングファン(圧力差発生手段)
SP :空間部
UF :床下階層
W1 :梁幅
W2 :柱幅