(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041700
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】血液分析装置および血液分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/49 20060101AFI20230316BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20230316BHJP
G01N 15/00 20060101ALI20230316BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230316BHJP
C12Q 1/6893 20180101ALI20230316BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
G01N33/49 K
G01N33/58 A
G01N15/00 B
G01N21/64 F
C12Q1/6893 Z
C12M1/34 B
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001491
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2021096948の分割
【原出願日】2017-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2016145834
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕義
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 拓磨
(57)【要約】
【課題】高精度にマラリア原虫の感染の有無を判定可能な血液分析装置および血液分析方法を提供する。
【解決手段】血液分析装置10は、血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、調製された測定試料に光を照射して測定試料中の粒子から生じる蛍光強度および散乱光強度を含む測定データを生成する測定部11と、測定データに含まれる蛍光強度および散乱光強度に基づいて特徴空間に粒子をプロットし、特徴空間においてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子を計数する制御部51と、を備える。制御部51は、第1の量の測定試料を測定して得られた第1の測定データに基づいてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値未満である場合、第1の量より多い第2の量の測定試料を測定するよう測定部11を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、調製された前記測定試料に光を照射して前記測定試料中の粒子から生じる蛍光強度および散乱光強度を含む測定データを生成する測定部と、
前記測定データに含まれる蛍光強度および散乱光強度に基づいて特徴空間に粒子をプロットし、前記特徴空間においてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子を計数する制御部と、を備え、
前記制御部は、第1の量の前記測定試料を測定して得られた第1の測定データに基づいて前記マラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値未満である場合、前記第1の量より多い第2の量の前記測定試料を測定するよう前記測定部を制御する、血液分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記測定部が前記第2の量の測定試料を測定して得られた第2の測定データに基づいて、マラリア原虫の感染に関する判定結果を取得する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の測定データに基づいて前記マラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値以上である場合、前記第1の測定データに基づいてマラリア原虫の感染に関する判定結果を取得する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記特徴空間においてシングルリングフォーム赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の分布のばらつきを示す値を取得し、その値に基づいてマラリア原虫の感染に関する判定結果を取得する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ばらつきを示す値と、マラリア感染赤血球が現れる領域に含まれる粒子数とに基づいて、マラリア原虫の感染の有無に関する判定結果を取得する、請求項4に記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記ばらつきを示す値は、シングルリングフォーム赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の蛍光強度に対する度数分布のばらつきを示す値である、請求項5に記載の血液分析装置。
【請求項7】
前記ばらつきを示す値は、変動係数、標準偏差または度数分布図の半値幅である、請求項5に記載の血液分析装置。
【請求項8】
前記試料調製部は、赤血球を収縮させる希釈液を混合して前記測定試料を調製する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項9】
前記光源は、青紫色波長帯域の光を出射する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項10】
前記蛍光強度および前記散乱光強度に基づくスキャッタグラムを表示する表示部をさらに備える、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項11】
血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、
調製された前記測定試料のうち第1の量の測定試料をフローセルに流し、前記フローセルを流れる前記測定試料に対して光を照射し、
前記測定試料中の粒子から生じる蛍光強度および散乱光強度を測定し、
蛍光強度および散乱光強度に基づいて特徴空間に粒子をプロットし、
前記特徴空間においてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値未満である場合、前記第1の量より多い第2の量の測定試料を前記フローセルに流し、第2の量の測定試料中の粒子から得られる蛍光強度および散乱光強度に基づいて、前記血液検体中のマラリア感染赤血球の有無を判定する、血液分析方法。
【請求項12】
前記第2の量の測定試料を測定して得られた、前記マラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数に基づいて、前記血液検体中のマラリア感染赤血球の有無を判定する、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項13】
第1の量の測定試料を測定したときの前記マラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値以上である場合、前記第1の量の測定試料中の粒子から得られる蛍光強度および散乱光強度に基づいてマラリア原虫の感染に関する判定結果を取得する、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項14】
前記特徴空間においてシングルリングフォーム赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の分布のばらつきを示す値を取得し、その値に基づいて前記血液検体中のマラリア感染赤血球の有無を判定する、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項15】
前記ばらつきを示す値と、マラリア感染赤血球が現れる領域に含まれる粒子数とに基づいて、前記血液検体中のマラリア感染赤血球の有無を判定する、請求項14に記載の血液分析方法。
【請求項16】
前記ばらつきを示す値は、シングルリングフォーム赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の蛍光強度に対する度数分布のばらつきを示す値である、請求項15に記載の血液分析方法。
【請求項17】
前記ばらつきを示す値は、変動係数、標準偏差または度数分布図の半値幅である、請求項15に記載の血液分析方法。
【請求項18】
前記測定試料の調製は、血液検体にさらに赤血球を収縮させる希釈液を混合することを含む、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項19】
前記測定試料に照射される光は、青紫色波長帯域の光である、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項20】
前記蛍光強度および前記散乱光強度に基づくスキャッタグラムを表示することをさらに含む、請求項11に記載の血液分析方法。
【請求項21】
血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、調製された前記測定試料に光を照射して生じる蛍光を測定する測定部と、
前記測定部からの信号を処理して得られた蛍光強度に基づいて、マラリア感染赤血球を含む検体と、核酸の封入体を含む赤血球または細胞外小胞を含む検体とを判別する制御部と、を備える、血液分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析装置および血液分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア原虫に感染した赤血球をフローサイトメトリー法により検出する方法が知られている。
図23に示すように、特許文献1には、散乱光強度(FSCL)および蛍光強度(SFLL)を2軸とするスキャッタグラムにおいて、蛍光強度がマラリア非感染赤血球よりも大きく白血球よりも小さい範囲にマラリア原虫に感染した赤血球が出現することが記載されている。また、このスキャッタグラムでは、蛍光強度が低い領域から、リングフォーム(シングル)のマラリア原虫に感染した赤血球、リングフォーム(マルチ)のマラリア原虫に感染した赤血球、トロポゾイトのマラリア原虫に感染した赤血球、シゾントのマラリア原虫に感染した赤血球といった、所定の生育段階のマラリア原虫を含む赤血球がそれぞれ異なる領域に順に出現することが記載されている。このように検出したマラリア感染赤血球に基づいてマラリア原虫に感染した赤血球の感染率等を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、このようなスキャッタグラムの粒子分布に基づいてマラリア原虫の感染の有無を判定した場合に、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらずマラリアの判定結果が陽性となる、いわゆる偽陽性がまれに生じることを見いだした。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、高精度にマラリア原虫の感染の有無を判定可能な血液分析装置および血液分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、血液分析装置に関する。本態様に係る血液分析装置(10)は、血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、調製された測定試料に光を照射して測定試料中の粒子から生じる蛍光強度および散乱光強度を含む測定データを生成する測定部(11)と、測定データに含まれる蛍光強度および散乱光強度に基づいて特徴空間に粒子をプロットし、特徴空間においてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子を計数する制御部(51)と、を備える。制御部(51)は、第1の量の測定試料を測定して得られた第1の測定データに基づいてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値未満である場合、第1の量より多い第2の量の測定試料を測定するよう測定部(11)を制御する。
【0007】
本発明の第2の態様は、血液分析方法に関する。本態様に係る血液分析方法は、血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し(S12)、調製された測定試料のうち第1の量の測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に対して光を照射し、測定試料中の粒子から生じる蛍光強度および散乱光強度を測定し(S13)、蛍光強度および散乱光強度に基づいて特徴空間に粒子をプロットし、特徴空間においてマラリア感染赤血球が現れる領域にプロットされる粒子の数が閾値未満である場合(S24:NO)、第1の量より多い第2の量の測定試料をフローセルに流し、第2の量の測定試料中の粒子から得られる蛍光強度および散乱光強度に基づいて、血液検体中のマラリア感染赤血球の有無を判定する(S26)。
【0008】
本発明の第3の態様は、血液分析装置に関する。本態様に係る血液分析装置(10)は、血液検体と核酸を染色する蛍光色素とを混合して測定試料を調製し、調製された前記測定試料に光を照射して生じる蛍光を測定する測定部(11)と、測定部(11)からの信号を処理して得られた蛍光強度に基づいて、マラリア感染赤血球を含む検体と、核酸の封入体を含む赤血球または細胞外小胞を含む検体とを判別する制御部(51)と、を備える。
【0009】
細胞外小胞とは、細胞から放出された小胞であり、有核細胞由来の微粒子および有核ではない細胞由来の微粒子を含む概念である。細胞外小胞としては、たとえば、エクソソーム、微小小胞体(MV:Microvesicles)、アポトーシス小体などが挙げられる。
【0010】
核酸の封入体を含む赤血球とは、細胞の内部で核酸が凝集して残った核酸の封入体を含む赤血球である。核酸の封入体としては、ハウウェルジョリー小体または好塩基性斑点が挙げられる。なお、網赤血球においては、内部に存在するRNAは網赤血球内で分散しており、核酸は凝集体としては存在しない。したがって、網赤血球は、核酸の封入体を含む赤血球とは異なるものである。
【0011】
「核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無を判定する」とは、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞のうち少なくとも一方があるか否かを判定すること、細胞外小胞の有無を判定すること、核酸の封入体を含む赤血球の有無を判定すること、を含む概念である。核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞のうち少なくとも一方があるか否かを判定する場合、判定結果は、たとえば「少なくとも一方が存在する」または「両方とも存在しない」である。細胞外小胞の有無を判定する場合、判定結果は、たとえば「細胞外小胞が存在する」または「細胞外小胞が存在しない」である。核酸の封入体を含む赤血球の有無を判定する場合、判定結果は、たとえば「核酸の封入体を含む赤血球が存在する」または「核酸の封入体を含む赤血球が存在しない」である。「有無を判定する」とは、粒子が存在するか否かを厳密に判定することに限らず、粒子が血液検体中に一定数存在するか否かを判定することをも含む概念である。
【0012】
発明者らは、蛍光強度に基づいて血球の分類を行う場合に、血液検体に含まれる核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞が、白血球などの血球が分布する領域とは異なる領域に分布することを見いだした。たとえば、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞は、蛍光強度に基づくスキャッタグラムにおいて、白血球などの血球が分布する領域とは異なる領域に分布する。また、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞は、たとえば、蛍光強度に基づく度数分布図において、白血球などの血球が分布する領域とは異なる範囲に分布する。よって、本態様に係る血液分析装置によれば、蛍光強度に基づいて核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無を判定できる。
【0013】
なお、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞に対応する領域には、マラリア原虫に感染した赤血球が分布することがある。この場合、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無を精度よく判定することが困難になる。しかしながら、発明者らは、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞に対応する粒子群を特定し、特定した粒子群に基づいて蛍光強度に対する度数分布を作成すると、マラリア原虫に感染した赤血球が存在する血液検体の場合には、度数分布のばらつきが小さくなることを見いだした。これは、マラリア原虫に感染した赤血球が血液検体に含まれる場合、度数分布において、シングルリングフォーム赤血球に対応する部分に、顕著に度数の高い山形状が現れやすいためである。したがって、度数分布のばらつきを示す値に基づけば、マラリア原虫に感染した赤血球が存在するか否かを判定できるため、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞がない場合に、誤って核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方ありと判定してしまうことを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高精度にマラリア原虫の感染の有無を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る血液分析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る光学検出部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る測定部の処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る情報処理部の処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(a)は、実施形態1に係る分析処理を示すフローチャートである。
図5(b)は、実施形態1に係る第1測定に基づくスキャッタグラムを示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係るマラリアについての判定処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)~(d)は、実施形態1に係る具体的な4種類の検体に基づくスキャッタグラムである。
図7(e)~(h)は、実施形態1に係る具体的な4種類の検体に基づく度数分布図である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、実施形態1に係る具体的な4種類の検体に基づくスキャッタグラムである。
図8(e)~(h)は、実施形態1に係る具体的な4種類の検体に基づく度数分布図である。
【
図9】
図9(a)、(b)は、実施形態1に係る具体的な2種類の検体に基づくスキャッタグラムである。
図9(c)、(d)は、実施形態1に係る具体的な2種類の検体に基づく度数分布図である。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る表示部に表示される画面の構成を示す模式図である。
【
図11】
図11(a)、(b)は、実施形態1に係る発明者らが行った判定処理の検証結果を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、実施形態1に係る偽陽性を生じる血液検体に基づくスキャッタグラムである。
図12(b)は、実施形態1に係る偽陽性を生じる血液検体を顕微鏡により観察した際に得られた画像である。
【
図13】
図13(a)は、実施形態1に係る偽陽性を生じる血液検体に基づくスキャッタグラムである。
図13(b)、(c)は、実施形態1に係る偽陽性を生じる血液検体を顕微鏡により観察した際に得られた画像である。
【
図14】
図14(a)は、実施形態1に係るアポトーシスを導入する前のJurkat細胞に基づいて作成されたスキャッタグラムである。
図14(b)は、実施形態1に係るアポトーシスを誘導した後のJurkat細胞に基づいて作成されたスキャッタグラムである。
【
図15】
図15は、実施形態1に係る偽陽性を生じるマウスの血液検体を顕微鏡により観察した際に得られた画像である。
【
図16】
図16は、実施形態2に係るマラリア、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞についての判定処理を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、実施形態2に係る表示部に表示される画面の構成を示す模式図である。
【
図18】
図18は、実施形態3に係る第1測定に基づくスキャッタグラムを示す模式図である。
【
図19】
図19は、実施形態3に係る核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞についての判定処理を示すフローチャートである。
【
図20】
図20(a)~(d)は、実施形態3に係る具体的な4種類の検体に基づくスキャッタグラムである。
図20(e)~(h)は、実施形態3に係る具体的な4種類の検体に基づく度数分布図である。
【
図21】
図21(a)、(b)は、実施形態3に係る具体的な2種類の検体に基づくスキャッタグラムである。
図21(c)、(d)は、実施形態3に係る具体的な2種類の検体に基づく度数分布図である。
【
図22】
図22は、実施形態3に係る表示部に表示される画面の構成を示す模式図である。
【
図23】
図23は、関連技術に係るスキャッタグラムの構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
実施形態1の血液分析装置10は、血液検体と試薬とから調製された測定試料を測定して、マラリア原虫に感染した赤血球を含む集団を特定し、血液検体がマラリアに感染しているか否かを判定する。
【0017】
マラリア原虫の形態の1つであるメロゾイトが赤血球に侵入することで、マラリア原虫の赤内型の生活環が始まる。赤内型の生活環では、マラリア原虫の形態がリングフォーム、トロフォゾイト、シゾントに順に変化する。シゾントは複数のメロゾイトに分裂し、その際に赤血球を破壊する。これにより、多数のメロゾイトが血中に放出される。メロゾイトは次の赤血球に侵入し、再び赤内型の生活環が始まる。このようなサイクルを繰り返し、マラリア原虫は増殖する。血中に放出されたメロゾイトの一部は、雌雄異体のガメトサイトに分化する。感染者が蚊に吸血されると、ガメトサイトが蚊の体内に侵入し、蚊がマラリア原虫を保有することになる。
【0018】
以下、マラリア原虫に感染していない赤血球を、「マラリア非感染赤血球」と称する。マラリア非感染赤血球は、成熟した赤血球のほか、網赤血球も含む。マラリア原虫に感染した赤血球を、「マラリア感染赤血球」と称する。マラリア感染赤血球は、リングフォームのマラリア原虫に感染した赤血球と、トロフォゾイトのマラリア原虫に感染した赤血球と、シゾントのマラリア原虫に感染した赤血球とを含む。1つのリングフォームのマラリア原虫に感染した赤血球、すなわちリングフォームのマラリア原虫が1つ入っている赤血球を、「シングルリングフォーム赤血球」と称する。複数のリングフォームのマラリア原虫に感染した赤血球、すなわちリングフォームのマラリア原虫が複数入っている赤血球を、「マルチリングフォーム赤血球」と称する。
【0019】
図1に示すように、血液分析装置10は、測定部11と情報処理部12を備える。測定部11は、測定制御部21と、記憶部22と、吸引部23と、試料調製部30と、光学検出部41と、電気抵抗式検出部42と、信号処理回路43と、を備える。
【0020】
測定制御部21は、たとえば、CPU、MPUなどにより構成される。測定制御部21は、測定部11の各部が出力する信号を受信し、測定部11の各部を制御する。測定制御部21は、情報処理部12と通信を行う。記憶部22は、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。測定制御部21は、記憶部22に記憶されたプログラムに基づいて処理を実行する。吸引部23は、図示しない吸引管を有し、図示しない検体容器に収容された血液検体を吸引管によって吸引する。血液検体は、被検者から採取された末梢血の全血である。
【0021】
なお、検体容器は、図示しない検体ラックに保持された状態でラック搬送部により搬送され、取出位置に位置付けられる。取出位置に位置付けられた検体容器は、検体ラックから取り出され攪拌された後、吸引部23による吸引位置に搬送される。検体容器が吸引位置に位置付けられると、吸引部23は、吸引管によって検体容器に収容された血液検体を吸引する。その後、検体容器は、検体ラックの元の位置に戻される。血液分析装置10が、検体ラックを搬送する構成および検体容器を搬送する構成を備えない場合、オペレータによって検体容器が吸引位置に位置付けられる。
【0022】
試料調製部30には、試薬容器31、32、33が接続されている。試薬容器31は、赤血球を収縮させる第1希釈液を収容する。試薬容器32は、核酸を特異的に染色する蛍光色素を含む染色用試薬を収容する。試薬容器33は、第2希釈液を収容する。試料調製部30は、反応槽34を有する。吸引部23は、吸引管を反応槽34の上方へ移動させ、吸引した血液検体を反応槽34に吐出する。反応槽34において、血液検体と、第1希釈液と、染色用試薬とが混合され、第1測定試料が調製される。第1測定試料は、白血球およびマラリア感染赤血球の測定に用いられる。また、反応槽34において、血液検体と第2希釈液とが混合され、第2測定試料が調製される。第2測定試料は、赤血球および血小板の測定に用いられる。
【0023】
ここで、第1希釈液と、第2希釈液と、染色用試薬について説明する。
【0024】
第1希釈液は、溶血力が異なる2種類の界面活性剤を含んでいる。具体的には、第1希釈液は、カチオン系界面活性剤である2.95mMのラウリルトリメチルアンモニウムクロライドと、カチオン系界面活性剤である1.11mMのステアリルトリメチルアンモニウムクロライドとを含む。ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの方がラウリルトリメチルアンモニウムクロライドよりも溶血力が強い。2種類の界面活性剤は、溶血力が異なれば、上記の組み合わせ以外の界面活性剤であってもよい。
【0025】
また、第1希釈液は、ノニオン系界面活性剤である2.90mMのPBC-44と、20mMのADAと、適量のNaClと、1Lの精製水とをさらに含んでいる。ADAのpHは6.1である。また、第1希釈液のpHは5.0以上7.0以下である。血球を収縮させるために、第1希釈液の浸透圧が200mOsm/kg・H2O以上であることが好ましい。具体的には、第1希釈液の浸透圧は200mOsm/kg・H2O以上、300mOsm/kg・H2O以下である。
【0026】
上記のような第1希釈液によれば、第1測定試料の調製によって、赤血球は収縮され、マラリア感染赤血球は、内部にマラリア原虫を保持したまま収縮される。また、第1希釈液によれば、蛍光色素が赤血球内に透過でき、かつ、赤血球の形状が維持される程度に赤血球の細胞膜が溶解される。マラリア感染赤血球の場合、具体的には、マラリア原虫が赤血球内部に保持された状態で蛍光色素が透過できるように、赤血球の細胞膜が部分的に溶解される。
【0027】
第2希釈液は、赤血球を収縮させるための第1希釈液とは異なり、シースフローDC検出法による赤血球の測定用の希釈液である。また、第2希釈液は、光学検出部41のフローセル101に第1測定試料を流すためのシース液、および、電気抵抗式検出部42のフローセルに第2測定試料を流すためのシース液としても用いられる。第1希釈液は、シース液として利用されない。
【0028】
染色用試薬は、核酸を特異的に染色する蛍光色素を含み、好ましくはRNAよりDNAを強く染色する蛍光色素を含む。実施形態1の蛍光色素は、たとえば、ヘキスト34580である。染色用試薬は、溶媒に蛍光色素を溶解したものであり、染色用試薬の溶媒は、たとえばエチレングリコールである。染色用試薬における蛍光色素の濃度は、0.3μM以上0.6μM以下であることが好ましく、具体的には0.45μMである。また、第1測定試料における蛍光色素の濃度は、0.15μM以上1.0μM以下であることが好ましい。ヘキスト34580の化学式を以下に示す。
【0029】
【0030】
上記のような蛍光色素によれば、マラリア非感染赤血球は、核を持たないためほぼ染色されない。一方、マラリア感染赤血球の場合、赤血球の内部に入り込んだマラリア原虫の核酸が染色される。このように、マラリア非感染赤血球は、蛍光色素によってほぼ染色されないのに対し、マラリア感染赤血球は、蛍光色素によって染色される。したがって、後述するスキャッタグラムにおける蛍光強度の差異に基づいて、マラリア非感染赤血球とマラリア感染赤血球とが判別可能となる。なお、白血球は、核を持つため蛍光色素により染色され、血小板凝集は、核を持たないため蛍光色素によってほぼ染色されない。
【0031】
なお、第1希釈液と染色用試薬とを分けずに、第1希釈液と蛍光色素とを含有する1つの試薬を、血液検体と混合して第1測定試料を調製してもよい。
【0032】
光学検出部41は、フローサイトメトリー法により、第1測定試料に基づいて第1測定を行う。光学検出部41は、フローセル101と、光源102と、受光部103、104、105と、を備える。フローセル101には、第1測定の際に、流路を介して試料調製部30から第1測定試料が供給される。
【0033】
光源102から出射された光は、フローセル101を流れる第1測定試料に照射される。光源102からの光が第1測定試料に照射されると、第1測定試料中の粒子から前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とが生じる。受光部103~105は、それぞれ、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とを受光する。受光部103~105は、それぞれ受光した光に基づく信号を信号処理回路43に出力する。光学検出部41の詳細な構成については、追って
図2を参照して説明する。
【0034】
電気抵抗式検出部42は、シースフローDC検出法により、第2測定試料に基づいて第2測定を行う。電気抵抗式検出部42の図示しないフローセルには、第2測定の際に、流路を介して試料調製部30から第2測定試料が供給される。電気抵抗式検出部42は、電気抵抗式検出部42のフローセルに流れる第2測定試料に電圧を印加し、粒子が通過することによる電圧の変化を捉えて粒子を検出する。電気抵抗式検出部42は、検出信号を信号処理回路43に出力する。
【0035】
信号処理回路43は、受光部103~105から出力された信号に対して信号処理を行う。具体的には、信号処理回路43は、受光部103~105から出力された信号に基づいて、粒子に対応する波形を抽出し、粒子ごとの波形のピーク値、幅、面積などを第1情報として算出する。以下、受光部103、105から出力された信号に基づく波形のピーク値を、それぞれ、「前方散乱光強度」および「蛍光強度」と称する。なお、前方散乱光強度および蛍光強度は、それぞれ、波形の幅や面積であってもよい。また、信号処理回路43は、電気抵抗式検出部42から出力された信号のピーク値を第2情報として算出する。
【0036】
測定制御部21は、第1測定の際に信号処理回路43の信号処理によって得られた第1情報と、第2測定の際に信号処理回路43の信号処理によって得られた第2情報とを、記憶部22に記憶させる。第1測定および第2測定が終了すると、測定制御部21は、記憶部22に記憶させた第1情報および第2情報を、測定データとして情報処理部12に送信する。
【0037】
情報処理部12は、制御部51と、記憶部52と、出力部53と、入力部54と、を備える。出力部53は、表示部53aと音声出力部53bを備える。
【0038】
制御部51は、たとえば、CPU、MPUなどにより構成される。制御部51は、情報処理部12の各部が出力する信号を受信し、情報処理部12の各部を制御する。制御部51は、測定部11と通信を行う。記憶部52は、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。制御部51は、記憶部52に記憶されたプログラム52aに基づいて処理を実行する。プログラム52aは、後述する
図4、
図5(a)、および
図6に示す処理を行うためのプログラムを含む。
【0039】
制御部51は、蛍光強度および散乱光強度に基づいて特定されたシングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群の分布のばらつきを示す値に基づいて、マラリア原虫の感染の有無を判定する。こうすると、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群にマラリア感染赤血球が含まれるか否かを明確に判定できるため、被検者がマラリアに感染していないにもかかわらずマラリアの判定結果が陽性となる、いわゆる偽陽性が生じることを抑制できる。よって、より高精度にマラリア原虫の感染の有無を判定できる。制御部51が行う判定処理については、追って
図6を参照して説明する。
【0040】
表示部53aは、情報を表示する。表示部53aは、たとえば、ディスプレイにより構成される。音声出力部53bは、情報を音声として出力する。音声出力部53bは、たとえば、スピーカにより構成される。入力部54は、マウスやキーボードにより構成される。制御部51は、分析結果等を記憶部52に記憶するとともに、分析結果等を出力部53に出力する。制御部51は、入力部54を介してオペレータからの指示を受け付ける。
【0041】
次に、
図1に示した光学検出部41を詳細に説明する。
【0042】
図2に示すように、光学検出部41は、フローセル101と、光源102と、受光部103~105と、コリメータレンズ111と、集光レンズ112と、ビームストッパ113と、集光レンズ114と、ダイクロイックミラー115と、光学フィルタ116と、を備える。
【0043】
フローセル101は、透光性を有する材料によって管状に構成されている。第1測定試料は、シース液に包まれた状態でフローセル101内に流される。これにより、第1測定試料に含まれる粒子は、一列に整列した状態でフローセル101内を通る。
【0044】
光源102は、青紫色波長帯域の光を出射する。具体的には、光源102は、半導体レーザ光源であり、波長405nmの青紫色レーザ光を出射する。光源102から出射される光は、染色用試薬に含まれる蛍光色素を励起して、蛍光色素から所定波長帯域の蛍光を生じさせる。なお、光源102は、出射する光によって蛍光色素から蛍光を生じさせられれば、青紫色波長帯域以外の帯域の光を出射してもよい。また、光源102から出射される光の波長は短い方が、フローセル101に照射する光を小さく絞ることができるため、より小さい粒子の検出が可能となる。したがって、光源102から出射される光の波長は、上記のように青紫色波長帯域に設定されるのが望ましい。
【0045】
コリメータレンズ111と集光レンズ112は、光源102から出射された光を集光して、フローセル101内を流れる第1測定試料に照射する。上述したように、第1測定試料に光が照射されると、第1測定試料中の粒子から、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とが生じる。前方散乱光は、粒子の大きさに関する情報を反映し、側方散乱光は、粒子の内部情報を反映し、蛍光は、粒子の染色度合いを反映する。フローセル101に照射された光のうち、粒子に照射されずにフローセル101を透過した光は、ビームストッパ113により遮断される。受光部103は、たとえば、フォトダイオードにより構成される。受光部103は、前方散乱光を受光し、受光した前方散乱光に応じた電気信号を出力する。
【0046】
集光レンズ114は、フローセル101の側方に生じた側方散乱光および蛍光を集光する。ダイクロイックミラー115は、集光レンズ114により集光された側方散乱光を反射させ、集光レンズ114により集光された蛍光を透過する。受光部104は、たとえば、フォトダイオードにより構成される。受光部104は、ダイクロイックミラー115により反射された側方散乱光を受光し、受光した側方散乱光に応じた電気信号を出力する。光学フィルタ116は、ダイクロイックミラー115を透過した光のうち、受光部105で受光させる蛍光のみを透過させる。受光部105は、たとえば、アバランシェフォトダイオードにより構成される。受光部105は、光学フィルタ116を透過した蛍光を受光し、受光した蛍光に応じた電気信号を出力する。
【0047】
次に、測定部11の処理についてフローチャートを参照して説明する。
【0048】
図3に示すように、ステップS11において、測定制御部21は、情報処理部12から開始指示を受信したか否かを判定する。開始指示を受信すると、ステップS12において、測定制御部21は、第1測定試料および第2測定試料を調製する。
【0049】
具体的には、ラック搬送部により検体ラックが搬送され、検体容器が、取出位置に位置付けられる。測定制御部21は、測定部11の各部を制御して、取出位置において検体ラックから検体容器を取り出して攪拌し、攪拌後の検体容器を吸引位置に位置付ける。測定制御部21は、吸引部23を制御して、吸引管により検体容器から血液検体を吸引し、吸引した血液検体を反応槽34に吐出する。吸引が完了した検体容器は、検体ラックの元の位置に戻される。測定制御部21は、試料調製部30を制御して、血液検体と、第1希釈液と、染色用試薬とを反応槽34で混合し、第1測定試料を調製する。また、測定制御部21は、試料調製部30を制御して、血液検体と第2希釈液を反応槽34で混合し、第2測定試料を調製する。
【0050】
なお、血液分析装置10が、検体ラックを搬送する構成および検体容器を搬送する構成を備えない場合、測定制御部21は、吸引部23を制御して、オペレータによって吸引位置に位置付けられた検体容器から吸引管により血液検体を吸引する。
【0051】
ステップS13において、測定制御部21は、光学検出部41を制御して第1測定を行い、電気抵抗式検出部42を制御して第2測定を行う。このとき、測定制御部21は、フローセル101に第1測定試料を流し、時間T1の間に取得した第1情報を記憶部22に記憶させる。また、測定制御部21は、電気抵抗式検出部42のフローセルに第2測定試料を流し、時間T2の間に取得した第2情報を記憶部22に記憶させる。ステップS14において、測定制御部21は、ステップS13の測定において記憶部22に記憶した第1情報および第2情報を、通常モードによる測定データとして情報処理部12に送信する。
【0052】
続いて、ステップS15において、測定制御部21は、情報処理部12から3倍計数モードの開始指示を受信したか否かを判定する。3倍計数モードの開始指示を受信していない場合、ステップS16において、測定制御部21は、情報処理部12から終了指示を受信したか否かを判定する。終了指示を受信していない場合、処理がステップS15に戻される。3倍計数モードの開始指示を受信せず、終了指示を受信すると、測定部11の処理が終了する。
【0053】
3倍計数モードの開始指示を受信すると、ステップS17において、測定制御部21は、ステップS12と同様にして、再び第1測定試料および第2測定試料を調製する。ステップS18において、測定制御部21は、光学検出部41を制御して3倍計数モードによる第1測定を行い、電気抵抗式検出部42を制御して3倍計数モードによる第2測定を行う。このとき、測定制御部21は、フローセル101に第1測定試料を流し、時間T1の3倍の時間の間に取得した第1情報を記憶部22に記憶させる。また、測定制御部21は、電気抵抗式検出部42のフローセルに第2測定試料を流し、時間T2の3倍の時間の間に取得した第2情報を記憶部22に記憶させる。これにより、ステップS13で行われた通常モードの測定に比べて、約3倍の量の第1測定試料に基づく第1情報と、約3倍の量の第2測定試料に基づく第2情報が取得される。
【0054】
ステップS19において、測定制御部21は、ステップS18の測定において記憶部22に記憶した第1情報および第2情報を、3倍計数モードによる測定データとして情報処理部12に送信する。こうして、測定部11の処理が終了する。
図3に示す処理が終了すると、測定制御部21は、処理をステップS11に戻し、後続する血液検体についても同様の測定を行う。
【0055】
次に、情報処理部12の処理についてフローチャートを参照して説明する。
【0056】
図4に示すように、ステップS21において、制御部51は、入力部54を介してオペレータから開始指示を受け付けたか否かを判定する。オペレータから開始指示を受け付けると、ステップS22において、制御部51は、開始指示を測定部11に送信する。これにより、測定部11において、
図3のステップS12以降の処理が開始される。続いて、ステップS23において、制御部51は、
図3のステップS14において測定部11が送信した通常モードによる測定データを受信したか否かを判定する。
【0057】
通常モードによる測定データを受信すると、ステップS24において、制御部51は、通常モードによる測定データに基づいて、単位体積あたりの粒子群G3の数が、閾値th1以上であるか否かを判定する。粒子群G3とは、後述するマラリア感染赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群のことである。粒子群G3については、追って
図5(b)を参照して説明する。なお、閾値th1は、100以上500以下で設定され、たとえば100に設定される。閾値th1は、オペレータにより入力部54を介して変更可能である。ステップS24において、制御部51は、粒子群G3の数が、所定の閾値以上であるか否かを判定してもよい。
【0058】
単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th1以上である場合、ステップS25において、制御部51は、終了指示を測定部11に送信し、処理をステップS26に進める。これにより、
図3のステップS16でYESと判定され、
図3に示した測定部11の処理が終了する。他方、単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th1未満である場合、ステップS28において、制御部51は、3倍計数モードの開始指示を測定部11に送信する。これにより、
図3のステップS15においてYESと判定され、
図3のステップS17~S19の処理が実行される。続いて、ステップS29において、制御部51は、
図3のステップS19において測定部11が送信した3倍計数モードによる測定データを受信したか否かを判定する。3倍計数モードによる測定データを受信すると、制御部51は、処理をステップS26に進める。
【0059】
ここで、単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th1未満である場合に、通常モードによる測定データに基づいて、後述する判定処理において、たとえば「マラリア陰性」との判定が安易に行われるのは好ましくない。被検者がマラリアに罹患している場合でも、この被検者の血液検体中のマラリア感染赤血球が少ないことがある。この場合、「マラリア陰性」との判定が行われると、偽陰性が生じることになる。また、治療によりマラリア感染赤血球が徐々に減る場合でも、完全にマラリア感染赤血球がなくなるまでモニタリングすることが重要である。
【0060】
したがって、粒子群G3の数が少ない場合に、制御部51は、さらに3倍計数モードによる測定データを取得し、取得した3倍計数モードによる測定データを用いて後述する分析処理を行う。これにより、通常のモードで取得される血球数の約3倍の血球数に基づく第1情報および第2情報を用いて分析処理が行われるため、得られた分析結果は、測定試料の偏り等に左右されにくくなり、血液検体の状態を適正に反映したものとなる。よって、低い精度のマラリアの分析結果が出力されることを防止できる。
【0061】
続いて、ステップS26において、制御部51は、分析処理を行う。分析処理については、追って
図5(a)を参照して説明する。ステップS27において、制御部51は、ステップS26の分析処理により得られた分析結果を出力部53に出力する。具体的には、制御部51は、血球の数、スキャッタグラム、度数分布図、判定結果、信頼度を示す情報等を、分析結果として表示部53aに表示する。表示部53aに表示される画面については、追って
図10を参照して説明する。なお、制御部51は、これらの情報を、血液分析装置10とは別の装置に出力してもよい。また、制御部51は、血球の数および判定結果等を、音声出力部53bから音声により出力してもよい。
【0062】
図4に示す処理が終了すると、制御部51は、処理をステップS21に戻し、後続する検体容器がある場合、ステップS21でYESと判定し、後続する血液検体についてもステップS22以降の処理を同様に行う。後続する検体容器がない場合、制御部51は、再度開始指示を受け付けるまで処理をステップS21において待機させる。
【0063】
次に、分析処理について
図5(a)のフローチャートを参照して説明する。
【0064】
以下のステップS101、S102において、制御部51は、3倍計数モードによる測定データを受信していない場合、通常モードによる測定データを用いて計数を行い、3倍計数モードによる測定データを受信した場合、3倍計数モードによる測定データを用いて計数を行う。
【0065】
図5(a)に示すように、ステップS101において、制御部51は、測定データに含まれる第2情報、すなわち電気抵抗式検出部42による第2測定で得られた第2情報に基づいて血球を計数する。具体的には、制御部51は、赤血球と血小板を計数する。ステップS102において、制御部51は、測定データに含まれる第1情報、すなわち光学検出部41による第1測定で得られた第1情報に基づいて血球を計数する。具体的には、制御部51は、白血球、マラリア非感染赤血球、マラリア感染赤血球、シングルリングフォーム赤血球、およびマルチリングフォーム赤血球を計数する。
【0066】
ここで、
図5(b)を参照して、ステップS102における血球の計数について説明する。
【0067】
図5(b)に示すスキャッタグラム200において、縦軸は前方散乱光強度を示し、横軸は蛍光強度を示す。第1測定において検出された各粒子は、各粒子に対応付けられた前方散乱光強度および蛍光強度に基づいて、スキャッタグラム200にプロットされる。
【0068】
スキャッタグラム200において、白血球は、前方散乱光強度および蛍光強度が大きい領域201に概ね分布する。マラリア非感染赤血球は、白血球より小さく、第1希釈液によって収縮されている。また、マラリア非感染赤血球は、蛍光色素によってほぼ染色されていない。したがって、マラリア非感染赤血球は、領域202に概ね分布する。領域202の前方散乱光強度は、白血球に対応する領域201よりも小さい。領域202の蛍光強度は、領域201よりも小さい。
【0069】
マラリア感染赤血球も、白血球より小さく、第1希釈液によって収縮されている。また、マラリア感染赤血球は、マラリア原虫を内部に保持しているため蛍光色素によって染色されている。したがって、マラリア感染赤血球は、領域203に概ね分布する。領域203の前方散乱光強度は、白血球に対応する領域201よりも小さい。領域203の蛍光強度は、マラリア非感染赤血球に対応する領域202よりも大きく、白血球に対応する領域201よりも小さい。
【0070】
マラリア感染赤血球は、内部にマラリア原虫を保持した状態で収縮しているため、マラリア感染赤血球のサイズは、内部に保持するマラリア原虫の形態に応じた大きさになる。したがって、シングルリングフォーム赤血球およびマルチリングフォーム赤血球のサイズは、他の形態のマラリア原虫に感染した赤血球よりも概ね小さく、シングルリングフォーム赤血球のサイズとマルチリングフォーム赤血球のサイズは、同程度である。また、マルチリングフォーム赤血球は、複数のマラリア原虫を内部に保持するため、マルチリングフォーム赤血球の蛍光強度は、シングルリングフォーム赤血球よりも大きい。よって、シングルリングフォーム赤血球は、領域204に概ね分布し、マルチリングフォーム赤血球は、領域205に概ね分布する。領域204、205は、マラリア感染赤血球に対応する領域203に含まれる。領域204、205は、互いに重ならず横軸方向に隣り合っており、領域203内において左端に位置する。領域205の蛍光強度は、領域204よりも大きい。
【0071】
なお、「第1領域の蛍光強度が第2領域より大きい」とは、第1領域の蛍光強度の最大値および最小値が、それぞれ第2領域の蛍光強度の最大値および最小値よりも大きいことを示す。「第1領域の蛍光強度が第2領域より小さい」とは、第1領域の蛍光強度の最大値および最小値が、それぞれ第2領域の蛍光強度の最大値および最小値よりも小さいことを示す。第1領域の前方散乱光強度および第2領域の前方散乱光強度の大小関係に関する表現についても、同様である。
【0072】
ステップS102の処理において、制御部51は、測定データの蛍光強度および散乱光強度に基づいて血球を計数する。具体的には、制御部51は、白血球が現れる範囲に含まれる粒子群G1と、マラリア非感染赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G2と、マラリア感染赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G3と、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G4と、マルチリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G5と、を特定する。スキャッタグラム200において、白血球が現れる範囲は領域201に対応し、マラリア非感染赤血球が現れる範囲は領域202に対応し、マラリア感染赤血球が現れる範囲は領域203に対応し、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲は領域204に対応し、マルチリングフォーム赤血球が現れる範囲は領域205に対応する。そして、制御部51は、特定した各粒子群の数を計数することにより、各血球の数を取得する。
【0073】
ステップS102の血球の計数において、制御部51は、スキャッタグラムの作成および領域の設定を行わず、スキャッタグラムの作成および領域の設定を行う場合と同様の手順に沿ったデータ処理によって血球の計数を行う。しかしながら、これに限らず、制御部51は、スキャッタグラムを作成し、作成したスキャッタグラムに血球が分布する領域を設定し、設定した領域に含まれる血球を計数してもよい。なお、制御部51は、血球を計数する目的ではスキャッタグラムを作成しないが、後述する画面を表示部53aに表示する際にはスキャッタグラムを作成する。
【0074】
なお、スキャッタグラム200に、ガメトサイト、トロフォゾイト、およびシゾントに対応する領域が設定されてもよい。この場合、ステップS102において、制御部51は、ガメトサイトが現れる範囲に含まれる粒子群の数、トロフォゾイトが現れる範囲に含まれる粒子群の数、およびシゾントが現れる範囲に含まれる粒子群の数を計数してもよい。
【0075】
続いて、ステップS103において、制御部51は、
図6を参照して後述する判定処理を行う。判定処理により、対象となる血液検体についてマラリアの有無が判定される。こうして分析処理が終了する。
【0076】
ここで、発明者らは、マラリアに罹患していない被検者から採取した血液検体において、マラリア感染赤血球に対応する領域203に粒子が分布する場合があることを見いだした。また、発明者らは、マラリアに罹患していない被検者から採取した血液検体において、領域203に分布する粒子は、アポトーシス小体や、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球などを含むことを見いだした。アポトーシス小体は、細胞外小胞の一種である。ハウウェルジョリー小体は、核酸の封入体の一種である。また、発明者らは、アポトーシス小体と、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球とが、シングルリングフォーム赤血球に対応する領域204から、蛍光強度および前方散乱光強度が大きくなる方向へと分布することを見いだした。
【0077】
発明者らが、領域203にアポトーシス小体とハウウェルジョリー小体を含む赤血球とが分布することを見いだした経緯については、追って
図12(a)~
図15を参照して説明する。
【0078】
このようにアポトーシス小体またはハウウェルジョリー小体を含む赤血球が領域203に分布する場合、たとえば領域203に粒子が分布することを理由にマラリア陽性との判定が行われると、偽陽性が生じるおそれがある。そこで、発明者らは、蛍光強度に対する度数分布のばらつきに基づいて、マラリア感染赤血球が含まれるか否かを判定することを考えた。以下、
図6に示す判定処理では、アポトーシス小体またはハウウェルジョリー小体を含む赤血球が領域203に分布する場合にマラリア陽性との誤った判定が抑制されるよう、マラリアの判定処理が行われる。
【0079】
図6に示すように、ステップS111において、制御部51は、単位体積あたりの粒子群G3の数が、閾値th11以上であるか否かを判定する。粒子群G3は、
図5(b)に示したように、マラリア感染赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群のことである。単位体積あたりの粒子群G3の数は、たとえば、取得した粒子群G3の数を、第1情報の取得の間にフローセル101に流された第1測定試料の体積で除算したものである。閾値th11は、単位体積あたりの粒子群G3の数に基づいて、対象となる血液検体について「マラリア陰性」と判定できるように設定される。閾値th11は、たとえば200に設定される。
【0080】
なお、ステップS111において、除算に用いる体積は、第1測定試料の体積に代えて、第1測定試料の体積に対応する血液検体の体積であってもよい。ステップS111において、制御部51は、粒子群G3の数が、所定の閾値以上であるか否かを判定してもよい。また、閾値th11は、オペレータにより入力部54を介して変更可能である。後述する閾値th12、th13と、実施形態2、3で後述する閾値th21、th22、th23、th31、th32についても、同様にオペレータにより入力部54を介して変更可能である。これにより、オペレータは、各判定ステップにおける判定を微調整できる。
【0081】
単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th11未満であると、ステップS112において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陰性」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。
【0082】
他方、単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th11以上であると、ステップS113において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陽性?」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。「マラリア陽性?」の判定結果は、対象となる血液検体にマラリア感染赤血球が含まれる可能性が高いが、対象となる血液検体を「マラリア陽性」と判定することは困難である状態を示す。
【0083】
続いて、ステップS114において、制御部51は、単位体積あたりの粒子群G4の数が、閾値th12以上であるか否かを判定する。粒子群G4は、
図5(b)に示したように、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群のことである。単位体積あたりの粒子群G4の数は、たとえば、取得した粒子群G4の数を、第1情報の取得の間にフローセル101に流された第1測定試料の体積で除算したものである。閾値th12は、単位体積あたりの粒子群G4の数に基づいて、対象となる血液検体について、シングルリングフォーム赤血球に対応する領域204にマラリア感染赤血球が分布しているか否かを判定できるように設定される。閾値th12は、たとえば150に設定される。
【0084】
なお、ステップS114において、除算に用いる体積は、第1測定試料の体積に代えて、第1測定試料の体積に対応する血液検体の体積であってもよい。ステップS114において、制御部51は、粒子群G4の数が、所定の閾値以上であるか否かを判定してもよい。また、ステップS114の処理は、省略することもできる。ただし、マラリア原虫に感染している血液検体の場合、特に領域204に粒子が多く分布することから、ステップS114において、粒子群G4の数に関する判定を行うのが望ましい。
【0085】
単位体積あたりの粒子群G4の数が閾値th12未満であると、制御部51は、判定処理を終了させる。この場合、判定結果は、ステップS113で記憶された「マラリア陽性?」となる。
【0086】
他方、単位体積あたりの粒子群G4の数が閾値th12以上であると、ステップS115において、制御部51は、粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布のばらつきを示す値を算出する。具体的には、ステップS115において、制御部51は、粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布の変動係数を算出する。なお、ステップS115で算出される度数分布のばらつきを示す値は、変動係数に限らず、標準偏差や、度数分布図の半値幅であってもよい。
【0087】
ステップS115の変動係数の算出において、制御部51は、度数分布図を作成せず、度数分布図を作成する場合と同様の手順に沿ったデータ処理によって変動係数を算出する。しかしながら、これに限らず、制御部51は、度数分布図を作成して変動係数を算出してもよい。なお、制御部51は、変動係数を算出する目的では度数分布図を作成しないが、後述する画面を表示部53aに表示する際には度数分布図を作成し、作成した度数分布図を表示部53aに表示させる。
【0088】
なお、ステップS115で算出するばらつきを示す値は、蛍光強度以外の光の強度に対する度数分布のばらつきを示す値でもよい。また、ステップS115で算出するばらつきを示す値は、1軸の分布のばらつきを示す値に限らず、2軸や3軸の分布のばらつきを示す値でもよく、たとえば、スキャッタグラム200上の分布のばらつきでもよい。また、スキャッタグラム200は、蛍光強度と前方散乱光強度に限らず、他の光の強度の組み合わせに基づいて作成されてもよい。
【0089】
続いて、ステップS116において、制御部51は、ステップS115で算出した変動係数が閾値th13未満であるか否かを判定する。閾値th13は、変動係数に基づいて、対象となる血液検体について「マラリア陽性」と判定できるように設定される。閾値th13は、たとえば10%に設定される。
【0090】
ここで、シングルリングフォーム赤血球が有する核酸量は略所定量となることに対し、アポトーシス小体が有する核酸量およびハウウェルジョリー小体を含む赤血球が有する核酸量は様々である。したがって、シングルリングフォーム赤血球に対応する領域204に粒子が分布する場合に、血液検体にマラリア感染赤血球が存在すると、粒子群G4に基づく度数分布のばらつきは小さくなり、血液検体にマラリア感染赤血球が存在しないと、粒子群G4に基づく度数分布のばらつきは大きくなる。よって、ステップS116において変動係数の大小を判定することにより、マラリア感染赤血球の有無を判定することが可能となる。
【0091】
変動係数が閾値th13未満であると、ステップS117において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陽性」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。この場合、判定結果は、ステップS113で記憶された「マラリア陽性?」から、「マラリア陽性」に変更される。
【0092】
他方、変動係数が閾値th13以上であると、ステップS118において、制御部51は、「マラリア陽性?スキャッタ異常」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。この場合の判定結果に含まれる「スキャッタ異常」は、マラリア原虫の感染に関する判定結果についての信頼度を示す情報である。具体的には、「スキャッタ異常」は、マラリアについての判定結果の信頼度が高いものではないことを示す情報である。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。
【0093】
なお、変動係数が閾値th13以上である場合、マラリア感染赤血球が存在する可能性は低いため、マラリア感染赤血球が存在しないという判定を行うことも可能である。ただし、この場合、単に「マラリア陰性」と判定するのではなく、「マラリア陰性、スキャッタ異常」と判定するのが望ましい。
【0094】
次に、
図7(a)~
図9(d)を参照して、具体的に10種類の検体について行われる判定について説明する。
【0095】
図7(a)、(b)は、マラリアに罹患した被検者から採取した血液検体に基づくスキャッタグラム200である。
図7(c)、(d)は、培養マラリアに基づくスキャッタグラム200である。
図8(a)、(b)は、Jurkat細胞に対してアポトーシスを誘導した場合のスキャッタグラム200である。
図8(c)、(d)は、マラリアに罹患していない被検者から採取した血液検体に基づくスキャッタグラム200である。
図9(a)、(b)は、マラリアに罹患していないマウスから採取した血液検体に基づくスキャッタグラム200である。いずれの場合も、領域202の左端に位置する粒子は、ノイズ成分であるとしてカットされている。
【0096】
なお、マウスから採取した血液検体には、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球が常に含まれている。以下の判定の説明では、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球が含まれている人間の血液検体の一例として、マウスから採取した血液検体が用いられている。
【0097】
図7(a)~(d)、
図8(a)~(d)、
図9(a)、(b)に示す10種類の検体では、いずれの場合も、マラリア感染赤血球に対応する領域203およびシングルリングフォーム赤血球に対応する領域204に所定数の粒子が現れている。
図7(a)~(d)、
図8(a)~(d)、
図9(a)、(b)における粒子群G4の数は、それぞれ、18768、8208、262、204、373、215、359、5923、4037、1147である。このため、
図6に示す判定処理によれば、ステップS111、S114でYESと判定され、ステップS115において粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布の変動係数が算出される。
【0098】
図7(e)~(h)、
図8(e)~(h)、
図9(c)、(d)は、それぞれ、
図7(a)~(d)、
図8(a)~(d)、
図9(a)、(b)のスキャッタグラム200に基づいて作成された度数分布
図300である。度数分布
図300において、横軸は蛍光強度を示し、縦軸は頻度を示す。度数分布
図300には、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G3のみに基づく度数分布が示されている。度数分布
図300は、最大となる頻度の値に基づいて正規化されている。
【0099】
図7(e)~(h)の度数分布
図300を参照すると、いずれの場合も度数分布の形状は尖った形状である。
図7(e)~(h)の変動係数は、それぞれ、7.3%、6.4%、7.4%、6.3%である。したがって、
図7(e)~(h)のいずれの場合も、
図6のステップS116でYESと判定され、これらの検体について「マラリア陽性」と判定される。ここで、
図7(e)~(h)が示す検体は、上述したように、いずれもマラリアに感染した検体である。したがって、
図6に示す判定処理によれば、これら4つの検体について、適正な判定結果である「マラリア陽性」の判定結果を得ることができることが分かる。
【0100】
一方、
図8(e)~(h)、
図9(c)、(d)の度数分布
図300を参照すると、いずれの場合も度数分布の形状は完全に尖った形状ではない。
図8(e)~(h)、
図9(c)、(d)の変動係数は、それぞれ、19.6%、18.8%、25.1%、21.1%、16.5%、18.0%である。したがって、
図8(e)~(h)、
図9(c)、(d)のいずれの場合も、
図6のステップS116でNOと判定され、これらの検体について「マラリア陽性?スキャッタ異常」と判定される。ここで、
図8(e)~(h)、
図9(c)、(d)が示す検体は、いずれもマラリアに感染していない検体である。したがって、
図6に示す判定処理によれば、これら6つの検体について、誤って「マラリア陽性」と判定されることを防ぐことができることが分かる。
【0101】
以上のように、
図6に示す判定処理によれば、血液検体にマラリア感染赤血球が存在しない場合に領域203や領域204に粒子が現れていても、「マラリア陽性」との誤った判定を回避して、「マラリア陽性?スキャッタ異常」との適正な判定を行うことができる。また、血液検体にマラリア感染赤血球が存在する場合、「マラリア陽性」との適正な判定を行うことができる。よって、偽陽性を抑制して高精度にマラリア原虫の感染の有無を判定できる。
【0102】
また、人間がマラリアに罹患した場合、脾臓の機能が低下することにより、血液検体にはハウウェルジョリー小体を含む赤血球が常に含まれる状態となり得る。この場合、血液検体にはマラリア感染赤血球とハウウェルジョリー小体を含む赤血球の両方が存在することになるが、
図6のステップS111においてYESと判定されるため、判定結果が「マラリア陰性」となることが回避される。
【0103】
次に、
図4のステップS27で表示部53aに表示される画面60について説明する。
【0104】
図10に示すように、画面60は、リスト領域61、62と、コメント領域63と、スキャッタグラム200と、度数分布
図300と、を備える。リスト領域61は、白血球、赤血球、および血小板等の計数結果をリスト形式で表示する。リスト領域62は、マラリア感染赤血球の計数結果と、マラリア感染赤血球比率とを表示する。マラリア感染赤血球比率は、
図5(b)に示すマラリア感染赤血球に対応する領域203内の血球数を、
図5(a)のステップS101で取得された赤血球数で除算したものである。
【0105】
コメント領域63は、
図6の判定処理で得られた判定結果を表示する。具体的には、
図6のステップS112が実行された場合、コメント領域63には特に何も表示されない。なお、この場合でも、コメント領域63に「マラリア陰性」が表示されてもよい。
図6のステップS114でNOと判定された場合、コメント領域63には「マラリア陽性?」が表示される。
図6のステップS117が実行された場合、コメント領域63には「マラリア陽性」が表示される。
図6のステップS118が実行された場合、
図10に例示されるように、コメント領域63には「マラリア陽性?スキャッタグラム異常」が表示される。
【0106】
コメント領域63に「マラリア陽性」または「マラリア陰性」が表示されると、医師等は、被検者がマラリアに罹患しているか否かの判断、および、治療中の被検者においてマラリアが完治したか否かの判断を行うことができる。また、コメント領域63に「マラリア陽性?」が表示されると、医師等は、被検者がマラリアに罹患している可能性があることを知ることができる。この場合、医師等は、血液検体を顕微鏡で確認するなどのさらなる検査を行うことができる。
【0107】
また、コメント領域63に「スキャッタ異常」が表示されると、医師等は、マラリアの有無についての判定結果の信頼度が高くないことを知ることができる。また、医師等は、スキャッタグラム200の領域203に、マラリア感染赤血球以外の粒子、たとえば細胞外小胞や核酸の封入体を含む赤血球が分布している可能性があることを知ることができる。この場合、医師等は、血液検体を顕微鏡で確認するなどのさらなる検査を行うことができる。また、画面60にスキャッタグラム200と度数分布
図300が表示されることにより、医師等は、血液検体の状態を迅速かつ詳細に把握できる。
【0108】
次に、発明者らが行った判定処理の検証ついて説明する。
【0109】
発明者らは、
図6に示す実施形態1の判定処理において、ステップS114を省略し、ステップS118において「マラリア陰性」と判定するよう変更したものを、検証例1の判定処理とした。すなわち、検証例1の判定処理では、ステップS111、S116の両方の判定がYESとなる場合に、判定結果が「マラリア陽性」とされ、ステップS111、S116のいずれか一方の判定がNOとなる場合に、判定結果が「マラリア陰性」とされた。
【0110】
また、発明者らは、
図6に示す実施形態1の判定処理において、ステップS114~S118を省略し、ステップS113において「マラリア陽性」と判定するよう変更したものを、検証例2の判定処理とした。すなわち、検証例2の判定処理では、ステップS111の判定がYESとなる場合に、判定結果が「マラリア陽性」とされ、ステップS111の判定がNOとなる場合に、判定結果が「マラリア陰性」とされた。
【0111】
発明者らは、マラリア陽性の検体を27個、マラリア陰性の検体を130個用意し、これらの検体に基づいて第1測定試料を調製し、調製した第1測定試料を光学検出部41により測定した。そして、発明者らは、第1測定により得られた測定データを用いて、
図5(a)に示す分析処理を行い、上記のように設定した検証例1、2の判定処理によりマラリアの判定を行った。検証例1、2の判定処理により得られたマラリアの判定結果に基づいて、発明者らは、適正にマラリアの判定が行われたか否かを検証した。なお、この検証では、自動分画アルゴリズムを用いて、
図5(b)に示すスキャッタグラム200の領域が検体ごとに微調整された。また、この検証では、ステップS111の閾値th11が30、ステップS116の閾値th13が20%に設定された。
【0112】
図11(a)に示すように、検証例1によれば、マラリア陽性の27個の検体が、全て適正にマラリア陽性と判定された。また、マラリア陰性の検体130個のうち、2個の検体が、誤ってマラリア陽性と判定されたものの、128個の検体が、適正にマラリア陰性と判定された。この結果から、検証例1では、感度は27/27=100%となり、特異度は128/130=98.5%となった。
【0113】
続いて、
図11(b)に示すように、検証例2によれば、マラリア陽性の27個の検体が、全て適正にマラリア陽性と判定された。また、マラリア陰性の検体130個のうち、48個の検体が、適正にマラリア陰性と判定されたものの、82個の検体が、誤ってマラリア陽性と判定された。この結果から、検証例2では、感度は27/27=100%となり、特異度は48/130=36.9%となった。
【0114】
図11(a)、(b)の結果から、検証例1の判定処理によれば、検証例2の判定処理に比べて、特異度を大幅に向上できることが分かった。したがって、実施形態1の
図6に示す判定処理によれば、ステップS111の判定に加えて、変動係数を用いたステップS116の判定が行われるため、特異度を向上させて偽陽性を抑制できるといえる。
【0115】
<核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞についての考察>
発明者らが、
図5(b)に示すマラリア感染赤血球に対応する領域203に、細胞外小胞の一種であるアポトーシス小体と、核酸の封入体の一種であるハウウェルジョリー小体を含む赤血球とが分布することを見いだした経緯について説明する。核酸の封入体を含む赤血球とは、細胞の内部で核酸が凝集して残った核酸の封入体を含む赤血球である。なお、網赤血球においては、内部に存在するRNAは網赤血球内で分散しており、核酸は凝集体としては存在しない。したがって、網赤血球は、核酸の封入体を含む赤血球とは異なるものである。
【0116】
まず、発明者らは、マラリア感染赤血球に対応する領域203に粒子が分布する場合にマラリアの判定結果を陽性とする判定方法を調査したところ、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらずマラリアの判定結果が陽性となる、いわゆる偽陽性がまれに生じることを見いだした。すなわち、発明者らは、被検者がマラリアに罹患していない場合でも、マラリア感染赤血球に対応する領域203に粒子が分布する場合があることを見いだした。
【0117】
次に、発明者らは、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらず領域203に粒子が分布する事象について、以下に示すような観察および実験を行った。
【0118】
発明者らは、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらず領域203に粒子が分布する血液検体、すなわち偽陽性を生じる血液検体を、顕微鏡により観察した。
【0119】
図12(a)は、偽陽性を生じる血液検体に基づいて作成されたスキャッタグラム200である。
図12(a)に示すように、領域203に分布する粒子群は、原点から斜め方向に分布している。すなわち、領域203に分布する粒子群は、蛍光強度と前方散乱光強度とが比例の関係にある直線に沿って分布している。
図12(b)は、
図12(a)に示す血液検体を、顕微鏡により観察した結果を示す画像である。
図12(b)に示すように、この血液検体中には、赤血球、白血球、血小板に混じって、赤血球、白血球、血小板のいずれとも異なり、かつ、血小板程度の大きさの粒子が存在することが分かった。発明者らは、この粒子が細胞外小胞である可能性が高いと考えた。
【0120】
図13(a)は、偽陽性を生じる他の血液検体に基づいて作成されたスキャッタグラム200である。
図13(a)に示すように、この血液検体においても、領域203に分布する粒子群は、原点から斜め方向に分布している。
図13(b)、(c)は、
図13(a)に示す血液検体を、顕微鏡により観察した結果を示す画像である。
図13(b)、(c)に示すように、この血液検体にも、赤血球、白血球、血小板に混じって、細胞外小胞と考えられる粒子が存在した。
【0121】
図12(a)~
図13(c)に示す結果から、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらず領域203に粒子が分布する血液検体では、細胞外小胞と考えられる粒子が存在することが分かった。
【0122】
また、発明者らは、Jurkat細胞に対してアポトーシスを誘導し、細胞外小胞の一種であるアポトーシス小体がスキャッタグラム200においてどのように出現するかを確認する実験を行った。この実験の条件は、以下のとおりである。
【0123】
(Jurkat細胞)
・培地:10% FBS添加 RPMI1640培地
・細胞溶液:1×106/μL程度まで培養したJurkat細胞を培地で10倍希釈し、24時間培養
(アポトーシス誘導)
・誘導剤:Staurosporine 1μM
・Stock solution:250μg/500μL DMSO(1mMStaurosporine)
・1mM Staurosporineを培地で10倍希釈した100μM Staurosporine溶液を作成し、培養液に対して1/100量添加
【0124】
図14(a)は、アポトーシスを導入する前のJurkat細胞に基づいて作成されたスキャッタグラム200である。Jurkat細胞には、マラリア感染赤血球が存在しないため、
図14(a)に示すように、スキャッタグラム200の領域203には粒子がほぼ分布しなかった。一方、
図14(b)は、
図14(a)に示すJurkat細胞に対してアポトーシスを誘導した後、4時間が経過したときのJurkat細胞に基づいて作成されたスキャッタグラム200である。
【0125】
ここで、アポトーシス反応は、アポトーシスの誘導後、時間をかけて進行することが知られている。
図14(b)において原点から斜め方向に分布する粒子は、アポトーシスの誘導後に出現したことから、細胞外小胞の一種であるアポトーシス小体であるといえる。そして、
図12(a)と
図13(a)に示したスキャッタグラム200においても、
図14(b)に示すアポトーシス小体の分布領域と同様の領域に、多数の粒子が分布していることが確認できた。
【0126】
次に、発明者らは、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらず領域203に粒子が分布する血液検体として、
図9(a)のスキャッタグラム200に示した血液検体を、顕微鏡により観察した。
図9(a)の血液検体は、マラリアに罹患していないマウスから採取した血液検体である。
【0127】
図15は、
図9(a)に示したマウスの血液検体を、顕微鏡により観察した結果を示す画像である。
図15に示すように、マウスの血液検体中には、通常の成熟した赤血球に混じって、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球が存在した。また、マウスの血液検体に基づいて作成されたスキャッタグラム200においては、
図9(a)に示したように、領域203に粒子が分布し、領域203に分布する粒子群は原点から斜め方向に分布した。以上のことから、発明者らは、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらず領域203に粒子が分布する人間の血液検体においても、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球が存在する場合があると考えた。
【0128】
以上のような観察および実験の結果から、発明者らは、アポトーシス小体およびハウウェルジョリー小体を含む赤血球が、蛍光強度および前方散乱光強度が比例する直線に沿って分布することを見いだした。また、発明者らは、被検者がマラリアに罹患していないにもかかわらずマラリア感染赤血球に対応する領域203に粒子が出現する場合、この粒子は、細胞外小胞の一種であるアポトーシス小体、または、核酸の封入体の一種であるハウウェルジョリー小体を含む赤血球を含むことを見いだした。
【0129】
そして、発明者らは、領域204の粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布のばらつきが、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方が領域204に分布する場合は大きくなり、マラリア感染赤血球が領域204に分布する場合は小さくなることを見いだした。
【0130】
マラリア感染赤血球が血液検体に含まれる場合、粒子群G4に基づく度数分布において、顕著に度数の高い山形状が1箇所だけ現れやすい。これに対し、偽陽性を生じる血液検体の場合には、粒子群G4に基づく度数分布において、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が広範囲の蛍光強度にわたって分布し、度数に大きな差が生じにくい。したがって、粒子群G4に基づいて蛍光強度に対する度数分布を作成すると、マラリア感染赤血球が血液検体に含まれる場合と、偽陽性を生じる血液検体の場合とで、度数分布のばらつきに大きな差ができる。よって、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群G4の度数分布のばらつきによれば、マラリア陽性の場合と、偽陽性の場合とを、明確に区別しやすくなる。
【0131】
発明者らは、こうした発見に基づいて、偽陽性を抑制できるように、マラリアについての判定処理を
図6に示すように構成した。
【0132】
なお、細胞外小胞とは、細胞から放出された小胞であり、有核細胞由来の微粒子と、有核ではない細胞由来の微粒子とを含む概念である。細胞外小胞としては、たとえば、エクソソーム、微小小胞体(MV:Microvesicles)、アポトーシス小体などが挙げられる。粒子の大きさを考慮すると、アポトーシス小体に加えて、微小小胞体の一部も、領域203に分布する可能性がある。核酸の封入体を含む赤血球は、ハウウェルジョリー小体、好塩基性斑点などを含む。言い換えれば、核酸の封入体は、ハウウェルジョリー小体および好塩基性斑点を含む概念である。好塩基性斑点も、核酸の封入体の一種である。ハウウェルジョリー小体を含む赤血球に加えて、好塩基性斑点を含む赤血球も、領域203に分布する可能性がある。したがって、上記のように粒子群G4の蛍光強度に対するばらつきを判定することにより、様々な細胞外小胞の有無の判定、および様々な核酸の封入体を含む赤血球の有無の判定も可能となり得る。
【0133】
<実施形態2>
実施形態2では、判定処理において、マラリアの有無だけでなく、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無についても判定される。実施形態2および後述する実施形態3において「核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無を判定する」とは、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞の有無を判定すること、すなわち核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞のうち少なくとも一方があるか否かを判定することを示す。実施形態2の判定処理は、
図6に示した実施形態1の判定処理と比較して、判定内容が異なっているものの、
図16に示すように、略同様に構成されている。実施形態2のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0134】
図16に示すように、ステップS121において、制御部51は、単位体積あたりの粒子群G3の数が、閾値th21以上であるか否かを判定する。粒子群G3は、
図5(b)に示したように、マラリア感染赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群のことである。閾値th21は、単位体積あたりの粒子群G3の数に基づいて、対象となる血液検体について「マラリア陰性、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」と判定できるように設定される。閾値th21は、たとえば、
図6のステップS111の閾値th11と同じ値に設定される。
【0135】
単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th21未満であると、ステップS122において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陰性、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。
【0136】
他方、単位体積あたりの粒子群G3の数が閾値th21以上であると、ステップS123において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」の判定結果は、対象となる血液検体にマラリア感染赤血球と、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞との少なくとも一方が含まれる可能性が高いが、どちらが含まれるかを判定することは困難である状態を示す。
【0137】
続いて、ステップS124において、制御部51は、単位体積あたりの粒子群G4の数が、閾値th22以上であるか否かを判定する。粒子群G4は、
図5(b)に示したように、シングルリングフォーム赤血球が現れる範囲に含まれる粒子群のことである。閾値th22は、単位体積あたりの粒子群G4の数に基づいて、対象となる血液検体について、シングルリングフォーム赤血球に対応する領域204にマラリア感染赤血球、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が分布しているか否かを判定できるように設定される。閾値th22は、たとえば、
図6のステップS114の閾値th12と同じ値に設定される。
【0138】
単位体積あたりの粒子群G4の数が閾値th22未満であると、制御部51は、判定処理を終了させる。この場合、判定結果は、ステップS123で記憶された「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」となる。
【0139】
他方、単位体積あたりの粒子群G4の数が閾値th22以上であると、ステップS125において、制御部51は、粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布のばらつきを示す値を算出する。具体的には、ステップS125において、制御部51は、粒子群G4の蛍光強度に対する度数分布の変動係数を算出する。なお、ステップS125で算出される度数分布のばらつきを示す値は、変動係数に限らず、標準偏差や、度数分布図の半値幅であってもよい。
【0140】
続いて、ステップS126において、制御部51は、ステップS125で算出した変動係数が閾値th23未満であるか否かを判定する。閾値th23は、変動係数に基づいて、対象となる血液検体について「マラリア陽性」または「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定できるように設定される。閾値th23は、たとえば、
図6のステップS116の閾値th13と同じ値に設定される。
【0141】
変動係数が閾値th23未満であると、ステップS127において、制御部51は、対象となる血液検体について「マラリア陽性」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。この場合、判定結果は、ステップS123で記憶された「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」から、「マラリア陽性」に変更される。
【0142】
なお、ステップS127において、制御部51は、「マラリア陽性、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」と判定してもよい。「マラリア陽性、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」の判定結果は、対象となる血液検体にマラリア感染赤血球が存在すると判定できるが、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が存在すると判定することは困難である状態を示す。
【0143】
他方、変動係数が閾値th23以上であると、ステップS128において、制御部51は、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。この場合、判定結果は、ステップS113で記憶された「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」から、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」に変更される。
【0144】
なお、ステップS128において、制御部51は、「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定してもよい。「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」の判定結果は、対象となる血液検体に核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が存在すると判定できるが、マラリア感染赤血球が存在すると判定することは困難である状態を示す。
【0145】
図17に示すように、実施形態2においても、
図16に示す判定処理の結果が画面60に表示される。実施形態2の画面60は、
図10に示した実施形態1の画面60と同様の構成を備える。
【0146】
実施形態2においても、コメント領域63は、
図16の判定処理で得られた判定結果を表示する。具体的には、
図16のステップS122が実行された場合、コメント領域63には「マラリア陰性、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」が表示される。
図16のステップS124でNOと判定された場合、コメント領域63には「マラリア陽性?核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」が表示される。この場合、「マラリア陽性?細胞外小胞?核酸の封入体を含む赤血球?」が表示されてもよい。
図16のステップS127が実行された場合、コメント領域63には「マラリア陽性」が表示される。
図16のステップS128が実行された場合、
図17に例示されるように、コメント領域63には「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」が表示される。
【0147】
コメント領域63に「マラリア陰性」、「マラリア陽性?」、「マラリア陽性」などが表示されると、医師等は、実施形態1と同様の判断を行うことができる。また、コメント領域63に「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」、「細胞外小胞?」、「核酸の封入体を含む赤血球?」が表示されると、医師等は、たとえば、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞に関連する可能性の所定の疾患を、被検者の状態を判断するための判断材料にできる。たとえば、医師等は、ハウウェルジョリー小体を含む赤血球が存在すると考える場合、脾臓の機能低下などを想定でき、好塩基性斑点を含む赤血球が存在すると考える場合、鉛中毒、ベンゾール中毒、悪性貧血などを想定できる。また、この場合、医師等は、血液検体を顕微鏡で確認するなどのさらなる検査を行うこともできる。
【0148】
<実施形態3>
実施形態3では、判定処理において、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無について判定される。上述したように、スキャッタグラム200において、マラリア感染赤血球に対応する領域203には、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が分布する場合がある。実施形態3では、
図18に示すように、スキャッタグラム400において、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞に対応する領域403が設けられている。また、実施形態3の判定処理は、
図19に示すように構成される。実施形態3のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0149】
図18に示すように、スキャッタグラム400は、スキャッタグラム200と同様の軸を備える。すなわち、スキャッタグラム400において、縦軸は前方散乱光強度を示し、横軸は蛍光強度を示す。
【0150】
スキャッタグラム400において、白血球は、実施形態1の領域201と同様の領域401に概ね分布する。マラリア非感染赤血球は、実施形態1の領域202と同様の領域402に概ね分布する。核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞は、白血球より小さく、内部に核酸成分を有するため蛍光色素によって染色されている。したがって、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞は、領域403に概ね分布する。領域403の前方散乱光強度は、白血球に対応する領域401よりも小さい。領域403の蛍光強度は、マラリア非感染赤血球に対応する領域402によりも大きく、白血球に対応する領域401よりも小さい。また、
図8(a)、(b)、
図9(a)、(b)、
図12(a)、
図13(a)、および
図14(b)に示したように、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞は、シングルリングフォーム赤血球に対応する実施形態1の領域204に重なるように分布する。したがって、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞に対応する領域403は、上記の領域204と重なるように設定される。
【0151】
また、領域403は、スキャッタグラム200に分布する核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞を含むように設定されればよいため、実施形態1の領域203に比べて、やや小さく設定されている。
【0152】
実施形態3では、
図5(a)のステップS102の処理において、測定データの蛍光強度および散乱光強度に基づいて、マラリア感染赤血球、シングルリングフォーム赤血球、およびマルチリングフォーム赤血球に代えて、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞が計数される。具体的には、制御部51は、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞が現れる範囲に含まれる粒子群G6を特定する。スキャッタグラム400において、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞が現れる範囲は、領域403に対応する。そして、制御部51は、特定した粒子群G6の数を計数することにより、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の数を取得する。白血球の数の取得については、実施形態1と同様に行われる。
【0153】
図19に示すように、ステップS131において、制御部51は、単位体積あたりの粒子群G6の数が、閾値th31以上であるか否かを判定する。単位体積あたりの粒子群G6の数は、たとえば、取得した粒子群G6の数を、第1情報の取得の間にフローセル101に流された第1測定試料の体積で除算したものである。閾値th31は、単位体積あたりの粒子群G6の数に基づいて、対象となる血液検体について「核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」と判定できるように設定される。閾値th31は、たとえば200に設定される。
【0154】
単位体積あたりの粒子群G6の数が閾値th31未満であると、ステップS132において、制御部51は、対象となる血液検体について「核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。
【0155】
他方、単位体積あたりの粒子群G6の数が閾値th31以上であると、ステップS133において、制御部51は、粒子群G6の蛍光強度に対する度数分布のばらつきを示す値を算出する。具体的には、ステップS133において、制御部51は、粒子群G6の蛍光強度に対する度数分布の変動係数を算出する。なお、ステップS133で算出される度数分布のばらつきを示す値は、変動係数に限らず、標準偏差や、度数分布図の半値幅であってもよい。
【0156】
ステップS133の変動係数の算出において、制御部51は、度数分布図を作成せず、度数分布図を作成する場合と同様の手順に沿ったデータ処理によって変動係数を算出する。しかしながら、これに限らず、制御部51は、度数分布図を作成して変動係数を算出してもよい。なお、制御部51は、変動係数を算出する目的では度数分布図を作成しないが、後述する画面を表示部53aに表示する際には度数分布図を作成し、作成した度数分布図を表示部53aに表示させる。
【0157】
なお、ステップS133において、制御部51は、粒子群G6に基づく変動係数に代えて、たとえば、蛍光強度が領域403の横軸方向の最小値から最大値までの範囲に含まれる粒子群の蛍光強度に対する度数分布の変動係数を算出してもよい。すなわち、ステップS133において、制御部51は、測定データに含まれる蛍光強度が所定の範囲にある粒子群に基づいて変動係数を算出してもよい。
【0158】
続いて、ステップS134において、制御部51は、ステップS133で算出した変動係数が閾値th32未満であるか否かを判定する。閾値th32は、変動係数に基づいて、対象となる血液検体について「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定できるように設定される。なお、横軸方向において、実施形態3の領域403の幅は、
図5(b)に示すシングルリングフォーム赤血球に対応する領域204の幅に比べて、大きく設定されている。したがって、閾値th32は、
図6のステップS116の閾値th13よりも大きい値に設定される。閾値th32は、たとえば20%に設定される。
【0159】
ここで、血液検体にマラリア感染赤血球が存在すると、粒子群G6に基づく度数分布のばらつきは小さくなり、血液検体にマラリア感染赤血球が存在しないと、粒子群G6に基づく度数分布のばらつきは大きくなる。よって、ステップS134において変動係数の大小を判断することにより、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無を判定することが可能となる。
【0160】
変動係数が閾値th32以上であると、ステップS135において、制御部51は、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。他方、変動係数が閾値th32未満であると、ステップS136において、制御部51は、対象となる血液検体について「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?スキャッタ異常」と判定し、判定結果を記憶部52に記憶する。
【0161】
「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」の判定結果は、対象となる血液検体に核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が含まれる可能性が高いが、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定することは困難である状態を示す。この場合の判定結果に含まれる「スキャッタ異常」は、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無に関する判定結果の信頼度を示す情報である。具体的には、「スキャッタ異常」は、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無に関する判定結果の信頼度が高いものではないことを示す情報である。そして、制御部51は、判定処理を終了させる。なお、変動係数が閾値th32未満である場合、マラリア感染赤血球が存在する可能性は高いため、「マラリア陽性」と判定してもよい。
【0162】
なお、
図19に示す判定処理において、マラリア感染赤血球が含まれない血液検体のみを対象とする場合、ステップS133、S134、S136が省略されてもよい。この場合、ステップS131においてYESと判定すると、ステップS135において、制御部51は、対象となる血液検体について「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定する。
【0163】
次に、
図20(a)~
図21(d)を参照して、具体的に6種類の検体について行われる判定について説明する。
【0164】
図20(a)、(b)は、マラリアに罹患した被検者から採取した血液検体に基づくスキャッタグラム400である。
図20(c)、(d)は、マラリアに罹患していない被検者から採取した血液検体に基づくスキャッタグラム400である。
図21(a)、(b)は、マラリアに罹患していないマウスから採取した血液検体に基づくスキャッタグラム400である。いずれの場合も、領域402の左端に位置する粒子は、ノイズ成分であるとしてカットされている。
【0165】
図20(a)~(d)、
図21(a)、(b)に示す6種類の検体では、いずれの場合も、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞に対応する領域403に所定数の粒子が現れている。
図20(a)~(d)、
図21(a)、(b)における粒子群G6の数は、それぞれ、20134、8273、216、5193、1427、573である。このため、
図19に示す判定処理によれば、ステップS131でYESと判定され、ステップS133において粒子群G6の蛍光強度に対する度数分布の変動係数が算出される。
【0166】
図20(e)~(h)、
図21(c)、(d)は、それぞれ、
図20(a)~(d)、
図21(a)、(b)のスキャッタグラム400に基づいて作成された度数分布
図500である。度数分布
図500において、横軸は蛍光強度を示し、縦軸は頻度を示す。度数分布
図500には、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞が現れる範囲に含まれる粒子群G6のみに基づく度数分布が示されている。度数分布
図500は、最大となる頻度の値に基づいて正規化されている。
【0167】
図20(e)、(f)の度数分布
図500を参照すると、いずれの場合も度数分布の形状は尖った形状である。
図20(e)、(f)の変動係数は、それぞれ、16.5%、8.2%である。したがって、
図20(e)、(f)のいずれの場合も、
図19のステップS134でYESと判定され、これらの検体について「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?スキャッタ異常」と判定される。ここで、
図20(e)、(f)が示す検体は、上述したように、いずれもマラリアに感染した検体である。また、マラリア感染赤血球の有無にかかわらず、血液検体に核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が存在する場合と、いずれも存在しない場合の両方の可能性がある。したがって、
図19に示す判定処理によれば、これら2つの検体について、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞の有無を明確にした判定結果ではなく、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?スキャッタ異常」の適正な判定結果を得ることができることが分かる。
【0168】
一方、
図20(g)、(h)、
図21(c)、(d)の度数分布
図500を参照すると、いずれの場合も度数分布の形状は完全に尖った形状ではない。
図20(g)、(h)、
図21(c)、(d)の変動係数は、それぞれ、26.5%、22.3%、30.8%、32.0%である。したがって、
図20(g)、(h)、
図21(c)、(d)のいずれの場合も、
図19のステップS134でNOと判定され、これらの検体について「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」と判定される。ここで、
図20(g)、(h)、
図21(c)、(d)が示す検体は、いずれもマラリアに感染していない検体である。したがって、
図19に示す判定処理によれば、これら2つの検体について、「マラリア陽性」と判定されることなく、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」の適正な判定結果を得ることができることが分かる。
【0169】
以上のように、
図19に示す判定処理によれば、血液検体に核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が存在し、かつ、マラリア感染赤血球が存在しない場合には、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」の適正な判定を行うことができる。また、血液検体にマラリア感染赤血球が存在する場合、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」との判定を行うのではなく、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?スキャッタ異常」の適正な判定を行うことができる。
【0170】
図22に示すように、実施形態3においても、
図19に示す判定処理の結果が画面60に表示される。実施形態3のリスト領域62は、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の計数結果、すなわち
図18の粒子群G6の計数結果を表示する。
【0171】
実施形態3においても、コメント領域63は、
図19の判定処理で得られた判定結果を表示する。具体的には、
図19のステップS132が実行された場合、コメント領域63には「核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞なし」が表示される。
図19のステップS136が実行された場合、コメント領域63には「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?スキャッタ異常」が表示される。この場合、「細胞外小胞?核酸の封入体を含む赤血球?スキャッタ異常」が表示されてもよい。
図19のステップS135が実行された場合、
図22に例示されるように、コメント領域63には「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」が表示される。
【0172】
コメント領域63に「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり?」、「核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞あり」、「細胞外小胞?」、「核酸の封入体を含む赤血球?」が表示されると、医師等は、血液検体に核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞が含まれる可能性があることを知ることができる。そして、実施形態2と同様、医師等は、たとえば、核酸の封入体を含む赤血球、または細胞外小胞に関連する可能性のある所定の疾患を、被検者の状態を判断するための判断材料にできる。また、医師等は、血液検体を顕微鏡で確認するなどのさらなる検査を行うこともできる。
【0173】
また、コメント領域63に「スキャッタ異常」が表示されると、医師等は、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞の少なくとも一方の有無についての判定結果の信頼度が高くないことを知ることができる。この場合、医師等は、スキャッタグラム400の領域403に、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞以外の粒子、たとえばマラリア感染赤血球が分布している可能性があることを知ることができる。また、画面60にスキャッタグラム400と度数分布
図500の表示が行われることにより、医師等は、血液検体の状態を迅速かつ詳細に把握できる。
【0174】
実施形態2、3において、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞のうち少なくとも一方があるか否かを判定することに代えて、細胞外小胞の有無を判定してもよく、核酸の封入体を含む赤血球の有無を判定してもよい。この場合、実施形態2、3において、コメント領域63に、核酸の封入体を含む赤血球、および細胞外小胞のうち、細胞外小胞に関してのみ表示が行われてもよく、核酸の封入体を含む赤血球に関してのみ表示が行われてもよい。また、実施形態3において、リスト領域62に、細胞外小胞のみの計数結果が表示されてもよく、核酸の封入体を含む赤血球のみの計数結果が表示されてもよい。
【0175】
実施形態2、3では、細胞外小胞と核酸の封入体を含む赤血球とを区別せずに、これら2種類の粒子のうち少なくとも一方が含まれるか否かを判定したが、これら2種類の粒子を区別して有無の判定を行ってもよい。たとえば、
図19のステップS134においてNOと判定された場合に、さらに変動係数の値に応じて、または
図18の粒子群G6の分布角度に応じて、細胞外小胞の有無と核酸の封入体を含む赤血球の有無とを別々に判定してもよい。
【符号の説明】
【0176】
10 血液分析装置
30 試料調製部
51 制御部
53 出力部
53a 表示部
101 フローセル
102 光源
103、105 受光部
400 スキャッタグラム
403 領域
500 度数分布図
G6 粒子群