(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041740
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】品質管理システムおよび品質管理方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/12 20060101AFI20230316BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20230316BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B05B12/12
B05C11/00
B05D3/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006484
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2020208966の分割
【原出願日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2020002794
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀久
(72)【発明者】
【氏名】山下 智雄
(57)【要約】
【課題】塗装工程における種々の確認事項について、その確認作業を汎用的に自動化する。
【解決手段】塗装装置および塗装装置により塗装される被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影する撮影部2と、撮影部2により撮影された画像が入力されると、分類器を用いて当該画像に係る撮影対象物の状態を出力する演算部と、を備える品質管理システム1において、分類器は、塗装装置の温度制御が正常なときに撮影された画像と塗装装置の温度制御が異常なときに撮影された画像とに基づいて構築される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装装置および前記塗装装置により塗装される被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影する撮影部と、
前記撮影部により撮影された画像が入力されると、分類器を用いて当該画像に係る撮影対象物の状態を出力する演算部と、を備える品質管理システムにおいて、
前記分類器は、前記塗装装置の温度制御が正常なときに撮影された画像と前記塗装装置の温度制御が異常なときに撮影された画像とに基づいて構築されることを特徴とする品質管理システム。
【請求項2】
前記撮影部は、可視光を検知可能なセンサまたは赤外光を検知可能なセンサにより撮影することを特徴とする請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項3】
前記分類器は、可視光を検知可能なセンサにより撮影された複数の画像に基づいて学習した第一の分類器と、赤外光を検知可能なセンサにより撮影された複数の画像に基づいて学習した第二の分類器と、を含むことを特徴とする請求項2に記載の品質管理システム。
【請求項4】
前記演算部により出力される検査結果が所定の警告基準に該当する場合は、警報を発することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の品質管理システム。
【請求項5】
前記演算部により出力される検査結果が所定の品質基準を満たさない場合は、前記塗装装置の運転条件の変更を提案することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の品質管理システム。
【請求項6】
塗装装置および前記塗装装置により塗装される被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程により撮影された画像が入力されると、当該画像に係る撮影対象物の状態を分類器により出力する出力工程と、を備える品質管理方法において、
前記分類器は、前記塗装装置の温度制御が正常なときに撮影された画像と前記塗装装置の温度制御が異常なときに撮影された画像とに基づいて構築されることを特徴とする品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質管理システムおよび品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装の品質は、塗装工程における種々のパラメータの影響を受けうる。そのため、塗装工程の実施状況と、被塗物の塗装品質との関係を明らかにしようとする試みが行われている。しかし、塗装工程の実施状況に係る確認事項には、数値化することが困難である項目や、数値化が可能であっても高価な機器を要する項目などが多く存在するため、人手による確認作業が数多く実施されているのが現状である。
【0003】
そのような確認作業を自動化する試みとして、たとえば特開2016-212044号公報(特許文献1)には、計器の撮影画像から当該計器の指針値を読み取る指針読取装置が開示されている。このような装置は、塗装工程にも応用しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塗装工程において確認作業の自動化が望まれる事項は、指針値の読み取りに限定されず数多く存在する。特許文献1の技術では、その機能が指針値の読み取りに特化されているため、塗装工程における種々の確認事項に汎用的に適用することは難しかった。
【0006】
そこで、塗装工程における種々の確認事項について、その確認作業を汎用的に自動化できる品質管理システムおよび品質管理方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る品質管理システムは、塗装装置および前記塗装装置により塗装される被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影する撮影部と、前記撮影部により撮影された画像が入力されると、分類器を用いて当該画像に係る撮影対象物の状態を出力する演算部と、を備える品質管理システムにおいて、前記分類器は、前記塗装装置の温度制御が正常なときに撮影された画像と前記塗装装置の温度制御が異常なときに撮影された画像とに基づいて構築されることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る品質管理方法は、塗装装置および前記塗装装置により塗装される被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影する撮影工程と、前記撮影工程により撮影された画像が入力されると、当該画像に係る撮影対象物の状態を分類器により出力する出力工程と、を備える品質管理方法において、前記分類器は、前記塗装装置の温度制御が正常なときに撮影された画像と前記塗装装置の温度制御が異常なときに撮影された画像とに基づいて構築されることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、塗装工程における種々の確認事項について、その確認作業を汎用的に自動化できる。
【0010】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の実施形態に係る品質管理システムの構成図
【
図3】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第一の使用例を示す図
【
図4】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第二の使用例を示す図
【
図5】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第三の使用例を示す図
【
図6】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第四の使用例を示す図
【
図7】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第五の使用例を示す図
【
図8】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第七の使用例を示す図
【
図9】本発明の実施形態に係る品質管理システムの第七の使用例の変形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る品質管理システムおよび品質管理方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る品質管理システムを、塗装ライン100において被塗物である車体Bの品質を管理可能な品質管理システム1に適用した例について説明する。
【0013】
〔塗装ラインの構成〕
まず、本実施形態に係る塗装ライン100について説明する。塗装ライン100は、車体Bに対して塗装を施すことができる一連の設備である(
図1)。塗装ライン100の各部はトンネル状に構成されており、コンベアCによって車体Bを一軸上(
図1の紙面左右方向)に搬送しながら、車体Bに各塗装工程の作業を施す。本実施形態では、コンベアCの搬送経路に沿って、複数の塗装ブース101と、検査ブース102とが設けられている。また、品質管理システム1が、各塗装ブース101、検査ブース102、およびコンベアCからの信号を受信可能に設けられている。
【0014】
各塗装ブース101には、それぞれの塗装ブース101で行われる塗装作業の内容に応じた塗装装置が設けられている。ここで、本実施形態における「塗装装置」には、スプレー塗装装置、電着塗装装置、ディップ処理槽、乾燥装置などの、車体Bに対して直接に塗装工程の作業を施す装置に加えて、貯槽、圧縮空気供給設備、空調設備、給排気設備などのユーティリティ装置も含まれる。また、各塗装ブース101には、塗装装置の運転状況や塗装ブース101内の環境などを観測するため、温度計、湿度計、風速計、電流計、回転計などの計測機器や、液面ゲージ、圧力ゲージなどの計器なども設けられている。
【0015】
検査ブース102は、車体Bに施された塗装に係る品質検査が行われるブースである。検査ブース102では、検査装置を用いて自動的に行われる検査によって色相、膜厚、および仕上がり外観を検出するとともに、人為的な検査によってゴミの有無、ブツの有無、糸ブツの有無、はじきの有無、色相、および仕上がり肌の程度を決定する。人為的な検査の結果はコンピュータに入力され、検査装置による検査結果とともに、電子データとして品質管理システム1に送出される。
【0016】
コンベアCは、搬送経路にそって車体Bを搬送可能な装置である。コンベアCには、車体Bに付された車体識別番号(個体識別情報の例)を読み取ることができる車体識別装置Dと、車体Bの移動量を検出できるエンコーダEとが設けられている。
【0017】
〔品質管理システムの構成〕
次に、本実施形態に係る品質管理システム1の構成について説明する。品質管理システム1には、撮影部2、記憶部3、学習部4、入力部5、およびディスプレイ6が備えられている(
図2)。品質管理システム1の機能を概説すると、品質管理システム1は、塗装装置、被塗物、またはその両方(以下、撮影対象物という。)の画像に基づいて、撮影対象物の画像を入力として撮影対象物の状態を出力とする分類器を構築する。
【0018】
撮影部2は、塗装装置および被塗物の少なくとも一つを含む撮影対象物を撮影可能に構成された装置であり、具体的にはデジタルカメラモジュール、デジタルサーモカメラモジュールなどとして実装される。ここで、デジタルサーモカメラモジュールが例示されていることから明らかなように、撮影部2により撮影される画像は、通常のデジタル画像に限定されず、熱画像などの特殊な機能が付与された画像であってもよい。また、当該画像は、静止画であってもよいし、動画(すなわち静止画の集合体)であってもよい。撮影された画像は、記憶部3に記憶される。
【0019】
なお、撮影部2がデジタルカメラモジュールとして実装される場合、当該デジタルカメラモジュールが、通常モードと暗視モードとで動作可能であることが好ましい。ここで、通常モードとは、可視光を検知可能なセンサを用いて画像(第一画像)を撮影するモードをいう。また、暗視モードとは、たとえば赤外光を検知可能なセンサを用いて画像(第二画像)を撮影するモードをいう。暗視モードによれば、照度が不足して通常モードによっては明瞭な画像を撮影できない場合であっても、明瞭な画像が得られる。また、撮影部2(デジタルカメラモジュール)が、周囲の照度を検知可能な照度計を有し、当該照度計が検知した照度に基づいて、通常モードまたは暗視モードを自動的に選択するように構成されていると、より好ましい。また、撮影された画像に係るデータに、撮影モード(通常モードまたは暗視モード)を特定可能な情報が含まれていることが好ましい。
【0020】
記憶部3は、撮影部2により撮影された画像などを記憶可能に構成された装置であり、具体的にはハードディスクや半導体メモリなどの公知の記憶装置として実装される。なお、撮影された画像に係るデータに、撮影モード(通常モードまたは暗視モード)を特定可能な情報が含まれている場合、記憶部3は当該画像を当該情報とともに記憶する。
【0021】
学習部4は、新しい画像が入力されたときに当該画像に係る撮影対象物の状態を出力する分類器を構築可能に構成されている。かかる分類器は、記憶部3に記憶された撮影対象物に係る複数の画像に基づいて構築される。学習部4は、CPUなどの公知の演算処理装置として実装される。また、分類器を構築する際に用いられるアルゴリズムとしては、線形回帰、ランダムフォレスト、ベイズ、ロジステック回帰、サポートベクターマシンなどが例示される。構築された分類器は、記憶部3に記憶される。なお、通常モードで撮影された画像(第一画像)と、暗視モードで撮影された画像(第二画像)と、が存在する場合は、学習部4は、複数の第一画像に基づく第一の分類器(通常モード用の分類器)と、暗視モードで撮影された複数の第二画像に基づく第二の分類器(暗視モード用の分類器)とを、別々に構築する。
【0022】
入力部5は、検査ブース102から送出された検査結果の入力を受付可能に構成されている。具体的には、コンピュータに設けられた入力インターフェースとして実装されている。なお、入力部5と検査ブース102との間の接続形態は、有線であってもよいし、無線であってもよい。入力された検査結果は、記憶部3に記憶される。
【0023】
ディスプレイ6は、撮影部2により撮影された画像や、分類器により出力される撮影対象物の状態に係る情報などを表示可能に構成されており、公知の液晶ディスプレイなどとして実装される。
【0024】
また、品質管理システム1には、不図示の個体識別部が設けられている。個体識別部は、まず、車体識別装置Dによって識別した車体識別番号により特定される車体Bが、どの時刻にどのブースに存していたかを、エンコーダEが検出した移動量に基づいて特定する。次に、上記のように特定された時刻とブースとの関係に基づいて、撮影部2より撮影された画像や入力部5に入力された検査結果などが、いずれの個体の車体Bに関連するものであるのかを特定する。これによって、記憶部3に記憶される各種の情報は、車体Bの車体識別番号と関連付けられる。
【0025】
〔品質管理システムの使用例〕
以下では、本実施形態に係る品質管理システム1を実際に使用する方法について、具体例を挙げて説明する。以下では特に、各具体例においてどのような分類器が構築されるのか、という観点に着目して説明している。なお以下の具体例は、本発明に係る品質管理システムの使用方法を限定するものではない。
【0026】
(具体例1:スプレー処理工程のスプレーパターン良否判定)
第一の具体例では、塗装中のスプレー塗装装置103(塗装装置の例)および車体Bを撮影した画像P1(
図3)を入力とし、スプレーパターンの良否(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。ここで、当具体例におけるスプレーパターンとは、スプレー塗装装置103から吐出されるスプレー噴霧液の吐出方向α、吐出角度β、および到達距離Lをいう。この具体例において、撮影部2は、スプレー塗装装置103を撮影可能な位置および姿勢に設置される。
【0027】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された画像P1において、スプレー塗装装置103から吐出されて車体Bに着液するスプレー噴霧液の輪郭線104を特定する。かかる分類器は、輪郭線104を特定する処理を人為的に施した画像P1群を用いた教師あり学習により構築されてもよいし、輪郭線104が特定されていない画像P1群を用いた教師なし学習により構築されてもよい。
【0028】
次に、当該分類器は、特定された輪郭線104に基づいて、スプレー噴霧液の吐出方向α、吐出角度β、および到達距離Lを特定する。その後、吐出方向α、吐出角度β、および到達距離Lに基づいてスプレーパターンの良否が判定され、吐出方向α、吐出角度β、および到達距離Lの値、ならびに判定結果がディスプレイ6に表示される。
【0029】
(具体例2:貯槽液位の特定)
第二の具体例では、塗装ライン100に設けられた貯槽105(塗装装置の例)を撮影した画像P2(
図4)を入力とし、貯槽105の液位(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例において、撮影部2は、貯槽105に貯留された液体(塗料など)の液面を撮影可能な位置および姿勢に設置される。
【0030】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された画像P2において、貯槽105に貯留された液体の液面が貯槽105の内壁面に接する輪郭線106を特定する。なお、第一の具体例と同様に、分類器の構築は、教師あり学習によって行われてもよいし、教師なし学習により行われてもよい。
【0031】
次に、当該分類器は、特定された輪郭線106と、貯槽105の上端部107との距離Hを算出する。ここで、上端部107の位置は不変であるため、距離Hと液位とは一対一対応の関係にある。したがって、距離Hに基づいて液位を特定できる。以上のように特定された液位は、ディスプレイ6に表示される。
【0032】
(具体例3:貯槽液面流速および泡発生状況の判定)
第三の具体例では、塗装ライン100に設けられたディップ処理槽108(塗装装置の例)を撮影した動画P3(
図5)を入力とし、ディップ処理槽108に貯留された塗料の液面における流速および泡発生状況に関する判定結果(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例において、撮影部2は、ディップ処理槽108に貯留された塗料の液面を撮影可能な位置および姿勢に設置される。なお、より正確には、学習部4による演算処理の負荷を低減するため、撮影部2により撮影された動画P3から一定のサンプリングレートで抽出した静止画群が、分類器に対する入力として用いられる。ただし当具体例に係る説明では、単に動画P3を入力として取り扱う。
【0033】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された動画P3において、ディップ処理槽108に貯留された塗料の液面に発生した泡109を特定する。なお、第一の具体例と同様に、分類器の構築は、教師あり学習によって行われてもよいし、教師なし学習により行われてもよい。
【0034】
次に、当該分類器は、動画P3を構成する複数の静止画を比較し、個々の泡109の移動を追跡する。そして、この追跡に基づいて、個々の泡109の移動速度を算出する。さらに、当該移動速度に基づいて、ディップ処理槽108に貯留された塗料の液面における流速を算出する。加えて、特定された泡109の個数に基づいて、ディップ処理槽108に貯留された塗料の液面における泡の発生状況が正常であるか異常であるかを判定する。以上のように導出された流速および泡発生状況に関する判定結果は、ディスプレイ6に表示される。
【0035】
なお、同一の槽について撮影された同一の画像に対して、上記の第二の具体例と第三の具体例とを同時に適用してもよい。すなわち、ある槽に貯留された液面に係る画像に基づいて、当該槽の液位、液面における流速、および泡の発生状況を同時に判定しうる。
【0036】
(具体例4:処理液の汚染レベルの判定)
第四の具体例では、塗装ライン100に設けられた処理液配管110(塗装装置の例)を撮影した画像P4(
図6)を入力とし、処理液配管110を流通する処理液の汚染レベル(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例において、撮影部2は、処理液配管110の中途に設置されたサイトグラス110aを撮影可能な位置および姿勢に設置される。
【0037】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された画像P4において、サイトグラス110aの覗き窓部分110bを特定する。なお、第一の具体例と同様に、分類器の構築は、教師あり学習によって行われてもよいし、教師なし学習により行われてもよい。
【0038】
次に、当該分類器は、画像P4の覗き窓部分110bの明度値を取得する。当該明度値は、処理液配管110を流通する処理液の色を反映するので、当該明度値に基づいて処理液の汚染レベルを判定できる。より具体的には、取得した明度値は、あらかじめ設定された明度値と汚染レベルとの対応テーブルに基づいて汚染レベルに変換され、当該汚染レベルがディスプレイ6に表示される。
【0039】
(具体例5:ブース出入口における漏洩量の判定)
第五の具体例では、塗装ライン100の入口111(塗装装置の例)を撮影した画像P5(
図7)を入力とし、入口111から漏洩する蒸気112の量(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例において、撮影部2は、入口111を撮影可能な位置および姿勢に設置される。
【0040】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された画像P5において、入口111から塗装ライン100の外部に漏洩する蒸気の輪郭線112aを特定する。なお、第一の具体例と同様に、分類器の構築は、教師あり学習によって行われてもよいし、教師なし学習により行われてもよい。
【0041】
次に、当該分類器は、輪郭線112aに包囲された領域の面積を算出する。当該面積は、入口111から漏洩する蒸気の量が多いほど大きくなるので、当該面積に基づいて蒸気112の漏洩量を算出できる。算出された漏洩量は、ディスプレイ6に表示される。なお、当具体例と同様に、水、粉、塗料などの漏洩量も判定しうる。
【0042】
(具体例6:車体温度の判定)
第六の具体例では、ある塗装ブース101において車体B(被塗物の例)を撮影した熱画像を入力とし、車体Bの温度状態の良否に関する判定結果(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例では、撮影部2は熱画像を撮影可能なサーモカメラとして実装され、塗装ブース101内に、車体Bの全体を撮影しうる位置および姿勢に設置される。
【0043】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、塗装ブース101の温度制御が正常なときに撮影された車体Bの熱画像と、塗装ブース101の温度制御が異常なときに撮影された車体Bの熱画像と、をそれぞれ複数用いて構築される。このとき、各熱画像に、塗装ブース101の温度制御状態(正常または異常)のラベルを付して教師あり学習としてもよいし、そのようなラベルを付さない教師なし学習としてもよい。構築された分類器は、入力された熱画像の温度分布パターン(または色分布パターン)に基づいて、入力された熱画像が、塗装ブース101の温度制御が正常な場合および異常な場合のいずれに該当するかを判定する。かかる判定の結果は、ディスプレイ6に表示される。
【0044】
また、この具体例では、分類器を構築する際に用いられる各熱画像が、各熱画像に係る車体Bの車体識別番号に関連付けられており、さらに、当該車体識別番号に当該車体Bに係る検査結果が関連付けられている。したがって、車体識別番号に対して、熱画像と検査結果とが関連付けられている。したがって、当具体例における分類器は、熱画像を入力として、予測される検査結果を出力とする分類器でもある。車体Bの温度状態と相関が強い検査項目としては、たとえば仕上がり外観や仕上がり肌の程度などが挙げられ、当具体例によればこれらの検査項目に係る検査結果を精度よく予測しうる。予測された検査結果は、塗装ブース101の温度制御状態に関する判定結果(正常または異常)とともに、ディスプレイ6に表示される。
【0045】
なお、この具体例において、仕上がり外観や仕上がり肌の程度などについて予測される検査結果が所定の警告基準を満たす場合に警報を発報するように、品質管理システム1に警報部(不図示)が備えられてもよい。
【0046】
さらに、予測される品質管理値が所定の品質目標を満たさない場合に、当該品質目標を満たすために必要とされる塗装ブース101の運転条件の変更を提案可能な運転補正部(不図示)が、品質管理システム1に備えられていてもよい。加えて、提案された運転条件に従って塗装ブース101の運転条件を実際に変更するように構成されていてもよい。上記の例でいえば、仕上がり外観や仕上がり肌の程度などに係る品質管理値が品質目標を満たさないことが予測される場合に、塗装ブース101の温度条件や処理時間などを変更して品質目標を満たすことを目指すようにできる。
【0047】
予測部により予測される品質管理値に基づいて行いうる工程管理手法として、上記の例の他に、塗装ブース101に係る塗装装置の修理や交換などを提案する、塗装ライン100全体の一時停止を提案する、などの形態が例示される。予測される品質管理値を、これらに例示されるような形態で利用すると、製品ロスおよびこれに伴う時間および費用のロスを削減しうる。
【0048】
(具体例7:計器ゲージの検針)
第七の具体例では、ある塗装ブース101に設置された計器ゲージ113(塗装装置の例)を撮影した画像P6(
図8)を入力とし、計器ゲージ113の指示値(撮影対象物の状態の例)を出力とする分類器が構築される。この具体例では、撮影部2は、計器ゲージ113を撮影可能な位置および姿勢に設置される。なお、
図8では、計器ゲージ113が圧力ゲージである例を示している。
【0049】
この具体例において学習部4により構築される分類器は、まず、入力された画像P6において、計器ゲージ113の文字盤部分113aと指針部分113bとを特定する。なお、第一の具体例と同様に、分類器の構築は、教師あり学習によって行われてもよいし、教師なし学習により行われてもよい。たとえば、教師あり学習の場合、計器ゲージ113を撮影した画像データ、当該画像データにおいて計器ゲージ113の文字盤部分113aと指針部分113bとを特定する情報、および当該画像データにおける計器ゲージ113の指示値、の組であるマスターデータを教師データとして用いる。
【0050】
次に、当該分類器は、特定された文字盤部分113aと指針部分113bとの位置関係に基づいて、計器ゲージ113の指示値を特定する。かかる位置関係としては、たとえば、指針部分113bの回転角θを用いうる。たとえば
図8に示した例では、計器ゲージ113の指示値が0.4MPaであることが特定される。特定された指示値は、ディスプレイ6に表示される。
【0051】
なお、当具体例において、複数の計器ゲージ113を同時に撮影した画像P7(
図9)を入力としてもよい。
図9に示した例では、圧縮空気の圧力ゲージ113A、蒸気の温度ゲージ113B、および蒸気の圧力ゲージ113Cを同時に撮影した例を示している。この場合、各々の計器ゲージ113A~113Cについて、それぞれ文字盤部分と指針部分とを特定し、圧縮空気の圧力ならびに蒸気の温度および圧力が特定される。
【0052】
なお、当具体例の変形例として、撮影部2が通常モードと暗視モードとにわたって切替可能なデジタルカメラモジュールとして実装される場合の好ましい態様について説明する。この変形例においては、撮影部2の通常モードによって撮影された画像に基づいて構築される第一の分類器と、撮影部2の暗視モードによって撮影された画像に基づいて構築される第二の分類器とを、それぞれ別々に構築する。たとえば、教師あり学習の場合、上記のマスターデータとして、撮影部2の通常モードによって撮影された画像に基づく第一のマスターデータと、撮影部2の暗視モードによって撮影された画像に基づく第二のマスターデータと、を用いて、第一の分類器および第二の分類器を構築する。
【0053】
検針を行う際には、まず、検針のために撮影された画像の撮影モードを特定する。撮影された各画像がいずれのモードで撮影されたのかは、たとえば、撮影された画像に係るデータに、撮影モード(通常モードまたは暗視モード)を特定可能な情報を含めておく方法によって特定できる。そして、入力された画像が撮影されたモードに対応した分類器(第一の分類器または第二の分類器)を用いて、上記に説明した方法により計器ゲージ113の指示値を特定する。
【0054】
換言すれば、変形例に係る品質管理システムは、入力された画像が撮影された撮影モードを判定可能な撮影モード判定部をさらに備え、撮影モード判定部によって判定された撮影モードに基づいて選択され、選択された第一の分類器または第二の分類器に画像が入力されると、当該画像に係る撮影対象物の状態と、当該画像に関連付けられた被塗物について予測される検査結果と、を出力する。
【0055】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0056】
上記の実施形態では、本発明の実施形態として、撮影部2、記憶部3、学習部4、入力部5、およびディスプレイ6が備えられた品質管理システム1について説明した。しかし、本発明は、上記の品質管理システム1と同様の機能をコンピュータに実行させる品質管理プログラムでありうる。
【0057】
上記の実施形態では、撮影部2により撮影された撮影対象物の画像をそのまま分類器の入力として用いる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、撮影部により撮影された画像から外乱の影響を排除する前処理を実行可能な前処理部がさらに備えらえていてもよい。かかる外乱としては、汚れや傷などの撮影対象物自体に係る影響や、反射光、色かぶり、白飛びなどの撮影場所の照明状況に係る影響などが例示される。
【0058】
上記の実施形態では、品質管理システム1において、塗装装置、被塗物、またはその両方の画像に基づいて、撮影対象物の画像を入力として撮影対象物の状態を出力とする分類器が構築される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、分類器の入力として、画像に加えて、塗装装置や検査装置などから取得した電気信号を用いるように構成してもよい。かかる電気信号としては、塗装設備に設けられた温度計、湿度計、水量計、圧力計、回転数計、電流計などから発される電気信号が例示される。
【0059】
上記の実施形態では、学習部4によって構築された分類器が記憶部3に記憶される構成について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、構築された分類器は、たとえば外部サーバなどに記憶されてもよい。この場合、分類器を構築した品質管理システム以外の個体の品質管理システムなどによっても、当該分類器を使用できる。
【0060】
上記の実施形態では、被塗物が車体Bである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る品質管理システムは、任意の被塗物を塗装する塗装ラインに適用しうる。また、上記の実施形態では車体識別番号を用いて車体Bの個体を識別する構成を例示したが、本発明に係る品質管理システムは、被塗物に対応した任意の個体識別情報を用いうる。
【0061】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、たとえば自動車の車体を塗装する塗装ラインにおける品質管理システムに利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 :品質管理システム
2 :撮影部
3 :記憶部
4 :学習部
5 :入力部
6 :ディスプレイ
100 :塗装ライン
101 :塗装ブース
102 :検査ブース
C :コンベア
D :車体識別装置
E :エンコーダ
B :車体