(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041849
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】SPRをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20230316BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230316BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230316BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20230316BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/10 20060101ALI20230316BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20230316BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20230316BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230316BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230316BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230316BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230316BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230316BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20230316BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230316BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230316BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230316BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20230316BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230316BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230316BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
A61K38/44
A61P43/00 105
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/04
A61P25/10
A61P29/02
A61P13/08
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/12
A61P13/12
A61P3/10
A61P27/02
A61P25/00
A61P25/20
A61P25/24
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/198
A61K31/405
A61K31/519
A61K35/76
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014225
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2018206643の分割
【原出願日】2018-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】521508966
【氏名又は名称】一瀬 宏
(71)【出願人】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518388177
【氏名又は名称】加藤 節子
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 宏
(72)【発明者】
【氏名】原 怜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】村松 慎一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 節子
(57)【要約】
【課題】SPR関連疾患の治療及び予防に使用し得る新規薬剤の提供。
【解決手段】SPRをコードするポリヌクレオチドを含む、組換えベクター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セピアプテリン還元酵素(SPR)をコードするポリヌクレオチドを含む、組換えベクター。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドが、
配列番号1、3又は5のアミノ酸配列から成るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであるか、あるいは
配列番号1、3又は5のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項3】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項1又は2に記載の組換えベクター。
【請求項4】
野生型AAV1カプシドタンパク質(配列番号7)のアミノ酸配列中445位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質、野生型のAAV2カプシドタンパク質(配列番号8)のアミノ酸配列中444位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質、または野生型のAAV9カプシドタンパク質(配列番号9)のアミノ酸配列中446位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質を含む、請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが、CMVプロモーター、CAGプロモーター、シナプシンIプロモーター配列、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター配列、カルシウム/カルモジュリンー依存性蛋白キナーゼII(CMKII)プロモーター配列、チュブリンαIプロモーター配列、血小板由来成長因子β鎖プロモーター配列、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター配列、L7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)、グリア線維酸性タンパク質(hGfa2)プロモーター配列、およびグルタミン酸受容体デルタ2プロモーター(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)配列から成るグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65/GAD67)プロモーター配列からなる群より選択されるプロモーター配列を含む、請求項3又は4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV8、およびAAV9からなる群より選択されるインバーテッドターミナルリピート(ITR)を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の組換えベクター。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組換えベクターを含む、SPR関連疾患の治療又は予防用組成物。
【請求項8】
前記SPR関連疾患は、SPR欠損症、高フェニルアラニン血症、ジストニア、パーキンソン病、摂食障害、アルツハイマー病、統合失調症、疼痛、性的不全、てんかん、排尿障害、心血管疾患、虚血性心疾患、脳血管障害、高血圧、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、睡眠障害、気分障害(例えばうつ病性障害及び双極性障害)及び自律神経障害からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、径鼻投与又は吸入投与される、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
他の医薬と組み合わせて投与される、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記他の医薬が、L-ドーパ、5-ヒドロキシトリプトファン、セピアプテリン、向精神薬又は糖尿病治療薬である、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セピアプテリンレダクターゼ(SPR)をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
SPRは、セピアプテリンから7,8-ジヒドロプテリン(BH2)への変換を触媒する酸化還元酵素である(
図1を参照)。BH2はその後、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)によってテトラヒドロビオプテリン(BH4)へと変換される。またSPRは、6-ピルボイルテロラヒドロプテリン(PTP)からBH4への変換も触媒する。生体内におけるSPR遺伝子の異常、SPRの産生量の低下及びSPRの不活性化は、BH4の産生量の低下につながる。
【0003】
BH4は、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)及びトリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)の補酵素として機能することが知られている。生体内におけるBH4の産生量の低下は、これらのヒドロキシラーゼの活性の低下につながる。PAHはフェニルアラニンをチロシンへと変換する酵素である。PAHの不活性化は、生体内におけるフェニルアラニンの蓄積につながり、高フェニルアラニン血症の原因となり得る。THはチロシンをL-ドーパ(L-DOPA)へと変換する。L-DOPAはドーパミン、ノルアドレナリン及びアドレナリンの前駆体である。THの不活性化は、生体内におけるL-DOPAの減少につながり、ジストニア、パーキンソン病などの原因となり得る。TPHは、トリプトファンを5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)へと変換する。5-HTPはセロトニン(5-HT)の前駆体である。TPHの不活性化は、生体内におけるセロトニンの減少につながり、摂食障害(例えば肥満)、アルツハイマー病、統合失調症、疼痛、性的不全、てんかん、および排尿障害などの原因となり得る。BH4はまた、一酸化窒素合成酵素(NOS)の補酵素として機能することが知られている。NOSの不活性化は、活性酸素種の増加及び一酸化窒素生物活性の減少につながり、心血管疾患(心臓病、不整脈、動脈硬化など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、脳血管障害(脳梗塞など)、高血圧、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害などの原因となり得る。
【0004】
SPRをコードする遺伝子の異常に起因する先天性代謝異常症として、SPR欠損症が知られている。SPR関連疾患であるSPR欠損症の治療法として、L-ドーパ(L-DOPA)と5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)の補充療法が知られている。
【0005】
SPR関連疾患である心血管疾患の治療法として、BH4の経口投与が検討された(非特許文献1)。しかし、経口投与されたBH4は血中で速やかに酸化されてジヒドロビオプテリン(BH2)に変換されてしまい、有効ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-123840号公報
【特許文献2】国際公開第2008/124724号
【特許文献3】国際公開第2012/057363号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cunnington,C.et.al.,Circulation,20;125(11):pp.1356-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SPR関連疾患の治療及び予防に使用し得る新規医薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、SPR欠損症の疾患動物モデルであるSPR KOマウスに対して、SPRをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターが有効に作用することを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明の一以上の実施形態は、以下の<1>~<14>を包含する。
<1>
セピアプテリン還元酵素(SPR)をコードするポリヌクレオチドを含む、組換えベクター。
<2>
前記ポリヌクレオチドが、
配列番号1、3又は5のアミノ酸配列から成るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであるか、あるいは
配列番号1、3又は5のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、<1>に記載の組換えベクター。
<3>
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、<1>又は<2>に記載の組換えベクター。
<4>
野生型AAV1カプシドタンパク質(配列番号7)のアミノ酸配列中445位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質、野生型のAAV2カプシドタンパク質(配列番号8)のアミノ酸配列中444位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質、または野生型のAAV9カプシドタンパク質(配列番号9)のアミノ酸配列中446位のチロシンがフェニルアラニンに置換されている変異アミノ酸配列を有するタンパク質を含む、<3>に記載の組換えベクター。
<5>
前記ポリヌクレオチドが、CMVプロモーター、CAGプロモーター、シナプシンIプロモーター配列、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター配列、カルシウム/カルモジュリンー依存性蛋白キナーゼII(CMKII)プロモーター配列、チュブリンαIプロモーター配列、血小板由来成長因子β鎖プロモーター配列、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター配列、L7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)、グリア線維酸性タンパク質(hGfa2)プロモーター配列、およびグルタミン酸受容体デルタ2プロモーター(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)配列から成るグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65/GAD67)プロモーター配列からなる群より選択されるプロモーター配列を含む、<3>又は<4>に記載の組換えベクター。
<6>
前記ポリヌクレオチドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV8、およびAAV9からなる群より選択されるインバーテッドターミナルリピート(ITR)を含む、<3>~<5>のいずれか1つに記載の組換えベクター。
<7>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の組換えベクターを含む、SPR関連疾患の治療又は予防用組成物。
<8>
前記SPR関連疾患は、SPR欠損症、高フェニルアラニン血症、ジストニア、パーキンソン病、摂食障害、アルツハイマー病、統合失調症、疼痛、性的不全、てんかん、排尿障害、心血管疾患、虚血性心疾患、脳血管障害、高血圧、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、睡眠障害、気分障害(うつ病性障害及び双極性障害など)及び自律神経障害からなる群から選択される、<7>に記載の組成物。
<9>
皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、径鼻投与、又は吸入投与される、<7>又は<8>に記載の組成物。
<10>
他の医薬と組み合わせて投与される、<7>~<9>のいずれか1つに記載の組成物。
<11>
前記他の医薬が、L-ドーパ、5-ヒドロキシトリプトファン、セピアプテリン、向精神薬又は糖尿病治療薬である、<10>に記載の組成物。
<12>
それを必要とする患者に<1>~<6>のいずれか1つに記載の組換えベクター又は<7>~<11>のいずれか1つに記載の組成物を投与することを含む、SPR関連疾患の治療又は予防方法。
<13>
SPR関連疾患の治療又は予防における使用のための、<1>~<6>のいずれか1つに記載の組換えベクター。
<14>
<1>~<6>のいずれか1つに記載の組換えベクターを含む、SPR関連疾患の治療又は予防用医薬の製造のための、<1>~<6>のいずれか1つに記載の組換えベクターの使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組換えベクターを使用することによって、SPR関連疾患を効果的に治療及び予防することができる。本発明の組換えベクターは脳内移行性を有するようにその性質を調整することが可能であり、またBH4よりも生体内で安定である点などから、SPR関連疾患に対して有効な医薬として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、BH4の生合成経路を示した図である。
【
図2】
図2は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後の体重変化を示す。各群n=3。WT-PBS:野生型マウスにPBSを投与;KO-PBS:Spr KOマウスにPBSを投与;WT-AAV:野生型マウスにrAAVベクターを投与;KO-AAV:Spr KOマウスにrAAVベクターを投与。なお、WT-PBS、KO-PBS、WT-AAV、KO-AAVは、他の図でも同様の意味である。
【
図3】
図3は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後の体長変化を示す。
【
図4】
図4は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後の総ビオプテリン量の変化を示す。
【
図5】
図5は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後のモノアミン量の変化を示す。
【
図6】
図6は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後のPhe/Tyr値の変化を示す。
【
図7】
図7は、野生型マウス及びSpr KOマウスにrAAVベクター又はPBSを投与した後におけるSPRタンパク質の発現量変化をウェスタンブロッティングによって定量した結果を示す。
【
図8】
図8は、BH4を野生型マウス及びSpr KOマウスに腹腔内投与した後の体重変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の組換えベクター>
本発明の組換えベクターは、セピアプテリン還元酵素(SPR)をコードするポリヌクレオチドを含む、組換えベクターである。
【0014】
本発明において、「セピアプテリン還元酵素(SPR)」は、天然のSPRのみならず、天然のSPRと高い同一性を有し、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドを含む。本発明におけるSPRは特に限定されないが、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ウシ、ウマなどの哺乳動物由来であり得る。ヒトSPR、マウスSPR及びラットSPRのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、3及び5で示される。一実施形態において、本発明の組換えベクターは、配列番号1、3又は5のアミノ酸配列から成るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであるか、あるいは、配列番号1、3又は5のアミノ酸配列と70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0015】
また一実施形態において、本発明の組換えベクターは、配列番号1、3又は5のアミノ酸配列において、1個以上(例えば1~50個、1~40個、1~39個、1~38個、1~37個、1~36個、1~35個、1~34個、1~33個、1~32個、1~31個、1~30個、1~29個、1~28個、1~27個、1~26個、1~25個、1~24個、1~23個、1~22個、1~21個、1~20個、1~19個、1~18個、1~17個、1~16個、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個又は1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。アミノ酸の欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
【0016】
本発明の組換えベクターに含まれるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドにおいて、相互に置換可能なアミノ酸残基の例は以下の通りである。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン。
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸。
C群:アスパラギン、グルタミン。
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
アミノ酸残基が置換されたSPRは、通常の遺伝子操作技術など、当業者に公知の方法に従って作製することができる。このような遺伝子操作手順については、例えば、Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などを参照することができる。
【0017】
また一実施形態において、本発明の組換えベクターは、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列から成るポリヌクレオチドであるか、あるいは、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列と70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0018】
また一実施形態において、本発明の組換えベクターは、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列において、1個以上(例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個又は1個)のヌクレオチドの欠失、置換、挿入及び/又は付加を有するヌクレオチド配列から成り、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0019】
また一実施形態において、本発明の組換えベクターは、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドであって、かつセピアプテリン還元活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0020】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、製造業者により提供される使用説明書などに記載の方法に従って行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0021】
ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列と、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0022】
アミノ酸配列やポリヌクレオチド配列の同一性は、BLAST(Kalin, S. and Altschul, SF., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87 (6), pp 2264-2268; Proc. Natl. Acad. Sci USA, 1993, 90(12), pp 5873-5877)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J Mol Biol, 1990, 215(3), pp 403-410)。BLASTNを用いてヌクレオチド配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0023】
本発明において「組換えベクター」は、目的のポリヌクレオチド(本発明では、SPRをコードするポリヌクレオチド)を目的の標的細胞に導入する1つの手段である。本発明において使用される組換えベクターは特に限定されないが、例えばアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、センダイウィルスベクター、プラスミドベクター、リポソームやポリマーとの複合体などが挙げられる。好ましくは、本発明の組換えベクターは組換えAAVベクター(以下で、「本発明のrAAVベクター」とも呼ぶ)である。目的のベクターを得る又は構築するための方法として、当前記分野で公知であるような、標準的な遺伝子操作技術、配列決定法、制限酵素消化、ポリメラーゼ反応、PCR、PCR SOEing、ライゲーション、組換え反応(例えば、InvitrogenのGATEWAY(登録商標)技術)、部位特異的突然変異誘発プロトコールなどを利用できるが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
野生型AAVゲノムは、全長が約5kbのヌクレオチド長を有する一本鎖DNA分子であり、センス鎖又はアンチセンス鎖である。AAVゲノムは、一般に、ゲノムの5’側及び3’側の両末端に約145ヌクレオチド長のインバーテッドターミナルリピート(ITR)配列を有する。このITRは、AAVゲノムの複製起点としての機能及びこのゲノムのビリオン内へのパッケージングシグナルとしての機能等の多様な機能を有することが知られている。ITRに挟まれた野生型AAVゲノムの内部領域(以下、単に「内部領域」とも呼ぶ)は、AAV複製(rep)遺伝子及びカプシド(cap)遺伝子を含む。これらrep遺伝子及びcap遺伝子は、それぞれ、ウイルスの複製に関与するタンパク質Rep及び正20面体構造の外殻であるキャプソメアを形成するカプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2及びVP3の少なくとも1つ)をコードする。
【0025】
本発明の組換えベクターは、好ましくは天然由来のアデノ随伴ウイルス1型(AAV1)、2型(AAV2)、3型(AAV3)、4型(AAV4)、5型(AAV5)、6型(AAV6)、7型(AAV7)、8型(AAV8)、9型(AAV9)などから作製できるrAAVベクターである。これらのアデノ随伴ウイルスゲノムのヌクレオチド配列は公知であり、それぞれ、GenBank登録番号:AF063497.1(AAV1)、AF043303(AAV2)、NC_001729(AAV3)、NC_001829.1(AAV4)、NC_006152.1(AAV5)、AF028704.1(AAV6)、NC_006260.1(AAV7)、NC_006261.1(AAV8)、AY530579(AAV9)のヌクレオチド配列を参照できる。これらのうち、2型、3型、5型及び9型がヒト由来である。本発明において、特にAAV1、AAV2又はAAV9に由来するカプシドタンパク質(VP1、VP2、VP3など)を利用することが好ましい。AAV1とAAV9はヒト由来のAAVのうちで神経細胞への感染効率が比較的高いことが報告されている(Taymans, et al., Hum Gene Ther 18:195-206, 2007など)。
【0026】
本発明のrAAVベクターは、特に限定されないが、例えば特許文献2(国際公開2008/124724)に記載のAAVベクターや、特許文献3(国際公開2012/057363)に記載のAAVベクターであり得る。これらの文献に開示されたAAVベクターは生体内の血液脳関門を通過可能であり、末梢投与(例えば静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、心腔内投与、筋肉内投与、臍帯血管内投与など)によっても神経細胞に効率的に遺伝子送達することができる。したがって、脳実質内投与などの慎重な操作を必要とする投与形態が不要であるので、より高い安全性が期待できる。
【0027】
本発明のrAAVベクターに含まれるカプシドタンパク質は、好ましくは特許文献2や特許文献3に記載されるように、野生型のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのチロシンがフェニルアラニンなどの別のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を有する変異体タンパク質である。例えば、野生型AAV1カプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号7)中の445位のチロシンがフェニルアラニンに置換されているアミノ酸配列、野生型のAAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号8)中の444位のチロシンがフェニルアラニンに置換されているアミノ酸配列、又は野生型のAAV9カプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号9)中の446位のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されているアミノ酸配列を有し、キャプソメア (capsomere)を形成可能である変異タンパク質が挙げられる(特許文献2及び特許文献3参照)。また、本発明のAAVベクターに含まれるカプシドタンパク質は、上記アミノ酸配列7~9のいずれか1つのアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつキャプソメアを形成可能であるタンパク質が含まれる。また、例えば、配列番号7~9のいずれかのアミノ酸配列において、例えば、1~50個、1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつキャプソメアを形成可能であるタンパク質が挙げられる。これら欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上の組み合わせを同時に含んでもよい。別の実施形態において、本発明のrAAVベクターに含まれるカプシドタンパク質は、単独で又は他のカプシドタンパク質メンバー(例えば、VP2、VP3など)と一緒になってキャプソメアを形成する機能を有する。また、当該キャプソメア内には、SPRをコードするポリヌクレオチドがパッケージングされる。
【0028】
本発明のrAAVベクターにおいて用いられるRepタンパク質は、ITR配列を認識してその配列に依存してゲノム複製を行う機能、ウイルスベクター内へと野生型AAVゲノム又はrAAVゲノムをリクルートしてパッケージングする機能、本発明のrAAVベクターを形成する機能など公知の機能を同程度に有する限り、上記と同様の数のアミノ酸配列同一性を有してもよいし、上記と同様の数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加を含み得る。本発明において、好ましくは、公知のAAV3由来のRepタンパク質が使用される。
【0029】
本発明において用いられるRepタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、ITR配列を認識してその配列に依存してゲノム複製を行う機能、ウイルスベクター内へと野生型AAVゲノム(又はrAAVゲノム)をパッケージングする機能、本発明のrAAVベクターを形成する機能などの公知の機能を同程度に有するRepタンパク質をコードする限り、上記と同様の数の同一性を有してもよいし、上記と同様の数のヌクレオチドの欠失、置換、挿入及び/又は付加を含んでもよい。本発明において、好ましくは、AAV2又はAAV3由来のrep遺伝子が使用される。
【0030】
本発明の一実施形態において、野生型AAVゲノムの内部領域にコードされるカプシドタンパク質(VP1、VP2及び/又はVP3)並びにRepタンパク質は、それらをコードするポリヌクレオチドをAAVヘルパープラスミドに組み込んで用いられる。本発明で用いるカプシドタンパク質(VP1、VP2及び/又はVP3)並びにRepタンパク質は、必要に応じて1種、2種、3種又はそれ以上のプラスミドに組込まれていてもよい。場合によって、これらのカプシドタンパク質及びRepタンパク質のうちの1種以上がAAVゲノムに含まれてもよい。本発明において、好ましくは、カプシドタンパク質(VP1、VP2及び/又はVP3)及びRepタンパク質は全て、1種のポリヌクレオチドにコードされ、AAVヘルパープラスミドとして提供される。
【0031】
本発明のrAAVベクター中にパッケージングされるポリヌクレオチドは、野生型ゲノムの5’側および3’側に位置するITRの間に位置する内部領域(すなわち、rep遺伝子及びcap遺伝子の一方または両方)のポリヌクレオチドを、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこのポリヌクレオチドを転写するためのプロモーター配列などを含む遺伝子カセットで置換することにより作製できる。好ましくは、5’側および3’側に位置するITRは、それぞれAAVゲノムの5’末端および3’末端に位置する。好ましくは、本発明のrAAVゲノムは、5’末端および3’末端に位置するITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV8またはAAV9のゲノムに含まれる5’側ITRおよび3’側ITRを含む。一般的に、ITR部分は容易に相補配列が入れ替わった配列(flip and flop structure)を採るため、本発明のrAAVゲノムに含まれるITRは、5’と3’の方向が逆転していてもよい。本発明のrAAVゲノムにおいて、内部領域と置き換えられるポリヌクレオチドの長さは、元のポリヌクレオチドの長さと同程度が実用上好ましい。すなわち、本発明のrAAVゲノムは、全長が野生型の全長である5kbと同程度、例えば約2~6kb、好ましくは約4~6kbであることが好ましい。
【0032】
一般的に、組換えAAVベクター内にパッケージングされるポリヌクレオチドは、一本鎖である場合には目的の治療用タンパク質(本発明ではSPRタンパク質)を発現するまで時間(数日)を要する場合がある。この場合、導入される治療用遺伝子(本発明ではSPRをコードする遺伝子)を、自己相補性を有するsc(self-complementary)型となるように設計して、より短期間に効果を示すことも可能である。具体的な詳細については、例えば、Foust KD, et al.(Nat Biotechnol. 2009 Jan;27(1):59-65)などに記載されている。本発明のrAAVベクター中にパッケージングされているポリヌクレオチドは、非sc型であってもよいしsc型であってもよい。
【0033】
一実施形態において、本発明のrAAVベクターは、SPRをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター配列を含む。例えばプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CAGプロモーターなどの通常使用される強力なプロモーター配列であってもよい。またプロモーターは、神経系細胞特異的なプロモーター配列であってもよい。神経系細胞特異的なプロモーター配列としては、例えば、シナプシンIプロモーター配列、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65/GAD67)プロモーター配列、Tie2プロモーター配列(脳毛細血管特異的プロモーター)、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター配列、グリア線維性酸性タンパク質プロモーター配列、L7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)、グルタミン酸受容体デルタ2プロモーター(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)を含むプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明のrAAVベクターにおいて、カルシウム/カルモジュリンー依存性蛋白キナーゼII(CMKII)プロモーター、チュブリンαIプロモーター、血小板由来成長因子β鎖プロモーターなどのプロモーター配列も使用され得る。プロモーター配列は、単独であっても任意の複数の組み合わせであってもよい。発明のrAAVベクターは、mRNAの転写、タンパク質への翻訳などを補助するエンハンサー配列、Kozak配列、適切なポリアデニル化シグナル配列などの公知の配列をさらに含んでもよい。
【0034】
本発明のrAAVベクターを調製する方法としては一般的なものを利用することができ、例えば、(a)カプシドタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド(一般に、AAVヘルパープラスミドと称される)、および(b)本発明のrAAVベクター内にパッケージングされる第2のポリヌクレオチド(SPRをコードするポリヌクレオチドを含む)を、培養細胞にトランスフェクトする工程を含むことができる。本発明における調製方法はさらに、(c)アデノウイルス(AdV)ヘルパープラスミドと称されるアデノウイルス由来因子をコードするプラスミドを培養細胞にトランフェクトする工程、またはアデノウイルスを培養細胞に感染させる工程も含むことができる。さらに、上記のトランスフェクトされた培養細胞を培養する工程、および培養上清よりrAAVベクターを収集する工程を含むこともできる。このような方法は既に公知であり、本明細書の実施例においても利用される。
【0035】
第1のポリヌクレオチド(a)において、本発明のカプシドタンパク質をコードするヌクレオチドは、好ましくは、培養細胞において作動可能である公知のプロモーター配列に作動可能に結合される。このようなプロモーター配列としては、例えば、CMVプロモーター、EF-1αプロモーター、SV40プロモーターなどを適宜使用することができる。さらに、公知のエンハンサー配列、Kozak配列、ポリA付加シグナル配列などを適宜含み得る。
【0036】
第2のポリヌクレオチド(b)は、プロモーターが作動可能である位置にSPRをコードするポリヌクレオチドを含む。さらに、公知のエンハンサー配列、Kozak配列、ポリA付加シグナル配列などを適宜含み得る。この第2のポリヌクレオチドはさらに、プロモーター配列の下流に、種々の公知の制限酵素のよって切断可能なクローニングサイトを含み得る。複数の制限酵素認識部位を含むマルチクローニングサイトがより好ましい。当業者は、公知の遺伝子操作手順に従って、SPRをコードするポリヌクレオチドをプロモーターの下流に組込むことができる。このような遺伝子操作手順については、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001)などを参照のこと。
【0037】
本発明のrAAVベクターの調製において、ヘルパーウイルスプラスミド(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス又はワクシニア)を使用して、上記第1および第2のポリヌクレオチドと同時に培養細胞に導入され得る。好ましくは、本発明の調製方法は、アデノウイルス(AdV)ヘルパープラスミドを導入する工程をさらに含む。本発明において、好ましくは、AdVヘルパーは、培養細胞と同じ種のウイルスに由来する。例えば、ヒト培養細胞293Tを用いる場合、ヒトAdV由来のヘルパーウイルスベクターを用いることができる。このようなAdVヘルパーベクターとして、市販されているもの(例えば、Agilent Technologies社のAAV Helper-Free System (カタログ番号240071))を使用することができる。
【0038】
本発明のrAAVベクターの調製において、上記の1種以上のプラスミドを培養細胞にトランスフェクションする方法は、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法など、公知の種々の方法を使用することができる。このような方法は、例えばMolecular Cloning 3rd Ed., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている。
【0039】
<本発明の組成物>
本発明の組成物は、SPR関連疾患の治療又は予防用組成物であって、本発明の組換えベクターを含む。
【0040】
本発明において「SPR関連疾患」とは、SPRタンパク質の産生量の低下、SPRタンパク質の不活性化又はSPRタンパク質をコードする遺伝子の異常に起因して生じる全ての疾患を含む。SPR関連疾患には、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)及び/又は一酸化窒素シンターゼ(NOS)の活性低下によって引き起る疾患を含む。SPR関連疾患は、特に限定されないが、例えば、SPR欠損症、高フェニルアラニン血症、ジストニア、パーキンソン病、喫食障害、アルツハイマー病、統合失調症、疼痛、性的不全、てんかん、排尿障害、心血管疾患、虚血性心疾患、脳血管障害、高血圧、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、睡眠障害、気分障害(例えばうつ病性障害又は双極性障害)、自律神経障害などが挙げられる。
【0041】
本発明の組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.Aを参照)、有効成分に加えて薬学的に許容される担体及び/又は添加物を含むものであってもよい。本発明の組成物中に、有効成分である本発明のベクターは、0.1~99.9重量%含まれ得る。
【0042】
薬学的に許容される担体又は添加物としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0043】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0044】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような液体希釈剤としては、例えば、生理食塩水を使用できる。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の組成物は皮膚などに局所的に投与することも可能である。この場合は、標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0045】
本発明の組成物の投与量は特に限定されず、疾患の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の組成物の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり1~5000mg、好ましくは10~1000mgであるが、これらに限定されない。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。また、投与単位としてvg(vector genome)を利用する場合、例えば、体重1kgあたり、109~1014vg、好ましくは1010~1013vg、さらに好ましくは1010~1012vgの範囲の投与量を選択することが可能であるが、これらに限定されない。
【0046】
<本発明のベクター及び組成物の投与経路>
本発明のベクター及び組成物は、経口投与又は非経口投与される。非経口投与の例としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、径鼻投与及び吸入投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
<併用投与>
本発明のベクター又は組成物は、他の医薬と組み合わせて投与されて投与されても良い。当該他の医薬としては特に限定されないが、例えばL-ドーパ、5-ヒドロキシトリプトファン、セピアプテリン、向精神薬又は糖尿病治療薬が挙げられる。他の医薬は、本発明のベクター又は組成物との配合剤の形態で投与されてもよい。あるいは、他の医薬と本発明のベクター又は組成物とは別々の製剤として投与されてもよい。他の医薬と本発明のベクター又は組成物とが別々の製剤として投与される場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明のベクター又は組成物を先に投与し、他の医薬を後に投与してもよいし、他の医薬を先に投与し、本発明のベクター又は組成物を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。一実施形態において、本発明のベクター又は組成物を投与して体内のSPR量が増大した後に、セピアプテリンが投与される。セピアプテリンは、体内でSPRによって還元されてBH2となる。BH2はその後、DHFRによってBH4へと変換される。したがって、セピアプテリンを投与することによって生体内のBH4量が増大し、SPR関連疾患を良好に治療及び予防し得る。
【0048】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0049】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0050】
実施例1
rAAVベクターの調製
特許文献3に記載の方法に従って、AAV9由来の変異カプシドタンパク質、AAV3由来のITR配列などを含むrAAVベクターを調製した。詳細は以下の通りである。
(a)ベクターゲノムプラスミドの作成
マウスSPR遺伝子をインサートDNAとしてAAVベクターに組み込み、治療用AAV9-mSPR(配列番号10)を作成した。AAVベクターは、特許文献3に記載される、実験動物において経静脈投与で良好な脳への遺伝子導入が確認されている9型ベクター(AAV9由来の変異カプシドタンパク質、AAV3由来のITR配列などを含む)を用いた。本研究では、広い組織で遺伝子の発現を誘導できるCMVプロモーターの下流にSPR遺伝子を導入した。
【0051】
(b)HEK 293細胞へのトランスフェクション
mSPR遺伝子を挿入したベクタープラスミドと、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるタンパク質(Rep,Cap)を発現するAAVヘルパープラスミド、および、アデノウイルスヘルパープラスミドの3つをHEK293細胞にトランスフェクションすることにより、組換えAAV-mSPRを産生するHEK293細胞を作製した。
【0052】
(c)ウイルスベクターの生成
以下の手順に従って、塩化セシウムCsClの密度勾配による超遠心を行い、rAAVベクターを精製した。超遠心チューブ内に1.5Mおよび1.25MのCsClを重層し密度勾配を作製した。rAAVベクターを含む細胞破砕溶液を重層後、超遠心(30,000rpm、2.5時間)を行った。屈折率を計測してRI:1.365~1.380のrAAVベクターを含む画分を回収した。この分画を再度CsCl溶液上に重層し、超遠心(36,000rpm、2.5時間)を行ってrAAVを含む分画を得た。
【0053】
(d)ウイルスベクター力価の測定(リアルタイムPCR)
精製したrAAVの10-2~10-6の希釈系列を作製した。GFP配列をスタンダードとしたプライマーセット(配列番号11及び12)を使用して、Applied Biosystems 7900HT Fast リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)で定量した。
【0054】
実施例2
マウスへのrAAVベクターの腹腔内投与
生後4週齢の野生型BALB/cマウス(日本クレア社)、及び、BALB/cマウスとの交配を繰り返して遺伝的背景をBALB/cとしたSpr KOマウス(Lexicon Pharmaceuticals社)に対して、実施例1で調製されたrAAVベクター(2.2 x 10
13 vg/ml, 5μl)及びPBS(15μl)の混合液、又はコントロールであるPBS(20μl)を腹腔内投与した(いずれも単回投与)。試料投与後のマウスの体重変化及び体長変化を測定した。結果を
図2及び3に示す。Spr KOマウスにrAAVベクターを投与することで、投与開始2~3日後から体重の上昇が確認された。投与開始2週間後には、rAAVベクターを投与したSpr KOマウスの体重及び体長は、野生型マウスと同程度となった。生体内のドーパミン量が増大すると体重増加することが知られている。したがって本実施例の結果は、本発明のrAAVベクターの投与によってマウス体内のSPR及びBH4の量が増大し、チロシンのL-ドーパへの変換が良好に進行して最終的にドーパミン量の増大につながったためであると考えられる。
【0055】
実施例3
マウスにおける総ビオプテリン量の変化
実施例2と同様にして、野生型マウス及びSpr KOマウスに対して実施例1で調製されたrAAVベクター(2.2 x 10
13 vg/ml, 5μl)又はコントロールであるPBS(15μl)を腹腔内投与した(いずれも単回投与)。投与してから4週間後、マウスの脳及び肝臓を採取し、中脳、線条体及び肝臓における総プテリジン量を測定した。プテリジン量の測定は、0.1 mM EDTA, 1 mM アスコルビン酸を含む0.2 M過塩素酸溶液でタンパク質成分を除いた組織抽出液を、HPLC-蛍光検出器で分離定量することにより行った。プテリジン類の分離にはInertsil ODS-3カラムを用い、励起波長375nm、蛍光波長465nmにて検出した。総プテリジン量は、生体内におけるBH4の量を反映している。結果を
図4に示す。rAAVベクターの投与によって、Spr KOマウスの肝臓における総ビオプテリン量が、野生型マウスの肝臓における総ビオプテリン量と同程度となった。Spr KOマウスの脳における総ビオプテリン量も、rAAVベクターの投与によって増加傾向が確認された。
【0056】
実施例4
マウスにおけるモノアミン量の変化
実施例2と同様にして、野生型マウス及びSpr KOマウスに対して実施例1で調製されたrAAVベクター(2.2 x 10
13 vg/ml, 5μl)又はコントロールであるPBS(15μl)を腹腔内投与した(いずれも単回投与)。投与してから4週間後、マウスの脳を採取し、中脳及び線条体におけるドーパミンの量、並びに中脳におけるセロトニンの量を測定した。モノアミン量の測定は、0.1 mM EDTAを含む0.2 M 過塩素酸溶液を加えてタンパク質成分を除いた組織抽出液を、HPLC-電気化学検出器で分離定量することにより行った。モノアミン類の分離にはEICOMPAK SC-5ODSカラムを用い、750 mVの印加電圧にて測定した。結果を
図5に示す。rAAVベクターの投与によって、Spr KOマウスの脳内ドーパミン量及びセロトニン量は顕著に増大した。
【0057】
実施例5
マウスにおけるフェニルアラニン代謝の変化
実施例2と同様にして、野生型マウス及びSpr KOマウスに対して実施例1で調製されたrAAVベクター(2.2 x 10
13 vg/ml, 5μl)又はコントロールであるPBS(15μl)を腹腔内投与した(いずれも単回投与)。投与してから4週間後、マウスの脳及び肝臓を採取し、線条体及び肝臓におけるPhe/Tyr値(チロシンの量に対するフェニルアラニンの比率)を測定した。PheとTyrの定量は、過塩素酸でタンパク質成分を除いた組織抽出液を、HPLC-蛍光検出器で分析することにより行なった。PheとTyrの分離にはInertsil ODS-3カラムを用い、励起波長240 nm、蛍光波長287 nmにて検出した。結果を
図6に示す。rAAVベクターの投与によって、Spr KOマウスのPhe/Tyr値は顕著に減少した。本発明のrAAVベクターの投与によってマウス体内のSPR及びBH4の量が増大し、フェニルアラニンからチロシンへの変換が良好に進行したためであると考えられる。
【0058】
実施例6
マウスにおけるSPRの量の変化
実施例2と同様にして、野生型マウス及びSpr KOマウスに対して実施例1で調製されたrAAVベクター(2.2 x 10
13 vg/ml, 5μl)又はコントロールであるPBS(15μl)を腹腔内投与した(いずれも単回投与)。投与してから4週間後、マウスの脳、肝臓及び副腎を採取し、肝臓及び副腎におけるSPRの発現を、抗SPR抗体(Ikemoto K. et al., Brain Res 954: 237-46 に記載の方法に従って調製)を使用するウェスタンブロッティングによって定量した。それぞれの組織から組織抽出液を作製しタンパク質量を測定して、一定量のタンパク質(100μg)をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。タンパク質量は、Bradofordの試薬と組織抽出液の一部を混合し、595 nmの吸光度を測定することにより定量した。分離後にタンパク質をPVDF膜に転写し、目的タンパク質をそれぞれの特異的抗体を用いて検出した。結果を
図7に示す。rAAVベクターの投与によってSPRタンパク質の増加傾向が確認された。
【0059】
参考例
BH4の腹腔内投与
42日齢の野生型マウスおよびSpr-KOマウスに対して、BH4-2HCl(50mg/kg,サントリー)を含むリン酸緩衝液に溶解し、1日2回、11時間から13時間の間隔をあけて腹腔内に7日間連続投与した。対照群にはBH4を含まないPBSをマウスの体重1グラム当たり0.01 mL(1匹あたり約0.1~0.2 mL)投与した。マウスの体重変化を
図8に示す。BH4の投与によってSpr-KOマウスにおいて体重増加が認められたが、1週間後でも野生型の半分程度の体重までにしか回復しなかった。これは、AAV-Sprでは持続的にBH4が増加し続けるのに対して、BH4投与ではBH4が体内で速やかに分解排出されてしまうので、1日2回の投与でも十分な効果が得られないためであると考えられる。