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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041927
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】動力伝達経路切換装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 23/12 20060101AFI20230316BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20230316BHJP
   F16H 25/12 20060101ALI20230316BHJP
   F16H 3/54 20060101ALI20230316BHJP
   F16H 3/44 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
F16D23/12 W
F16D13/52 D
F16H25/12 D
F16H25/12 Z
F16H3/54
F16H3/44 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015800
(22)【出願日】2023-02-06
(62)【分割の表示】P 2019095536の分割
【原出願日】2019-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 祥平
(72)【発明者】
【氏名】岸田 寛孝
(72)【発明者】
【氏名】浦上 正剛
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 知之
(72)【発明者】
【氏名】井上 英司
(57)【要約】
【課題】電動アクチュエータにより動力の伝達経路を切り換えることができる構造を実現する。
【解決手段】動力伝達経路切換装置5は、駆動カム48の回転に伴い、第1被駆動カム49を駆動カム48との軸方向間隔が拡がる方向に変位させることで、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2被駆動カム50を駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向に変位させることで、第2摩擦係合装置41が切断される、第1モードと、第1被駆動カム49を駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向に変位させることで、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2被駆動カム50を駆動カム48との軸方向間隔が広がる方向に変位させることで、第2摩擦係合装置41が接続される、第2モードと、が切り換わる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記駆動カムに対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カムの回転に伴って、互いに異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カムおよび第2被駆動カムとを有するカム装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1フリクションプレートおよび第1セパレートプレートを有する第1摩擦係合装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第2フリクションプレートおよび第2セパレートプレートを有する第2摩擦係合装置と、
を備え、
前記駆動カムが回転することに伴い、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第1摩擦係合装置が接続され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第2摩擦係合装置が切断される、第1モードと、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第1摩擦係合装置が切断され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第2摩擦係合装置が接続される、第2モードと、
が切り換わり、
前記駆動カムは、径方向に突出する少なくとも1個の係合凸部を備え、
前記第1被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個の第1被駆動カム溝を備え、該第1被駆動カム溝は、少なくとも一部に円周方向に対し傾斜した傾斜部を有し、
前記第2被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個の第2被駆動カム溝を備え、該第2被駆動カム溝は、軸方向に関して前記第1被駆動カムと対称な開口形状を有する、動力伝達経路切換装置。
【請求項2】
前記第1被駆動カムと前記第1摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第1被駆動カムと該第1摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記第2被駆動カムと前記第2摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第2被駆動カムと該第2摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第2弾性部材と、
をさらに備える、請求項1に記載の動力伝達経路切換装置。
【請求項3】
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第1フリクションプレートと該第1セパレートプレートとが互いに交互に配置されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第2フリクションプレートと該第2セパレートプレートとが互いに交互に配置されている、請求項1または2に記載の動力伝達経路切換装置。
【請求項4】
前記第1摩擦係合装置は、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリングをさらに有し、
前記第2摩擦係合装置は、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリングをさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の動力伝達経路切換装置。
【請求項5】
入力部材と、
前記入力部材と同軸に配置された出力部材と、
動力の伝達方向に関して、前記入力部材と前記出力部材との間に配置された遊星歯車機構とを備え、
前記遊星歯車機構は、サンギヤと、前記サンギヤの周囲に該サンギヤと同軸に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと同軸に配置されたキャリアと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛合し、かつ、前記キャリアに、自身の中心軸を中心とする回転を自在に支持された複数個のピニオンギヤとを有し、
前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路を切り換える動力伝達経路切換装置をさらに備え、
前記動力伝達経路切換装置は、
回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記駆動カムに対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カムの回転に伴って、互いに異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カムおよび第2被駆動カムとを有するカム装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1フリクションプレートおよび第1セパレートプレートを有する第1摩擦係合装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第2フリクションプレートおよび第2セパレートプレートを有する第2摩擦係合装置と、
を備え、
前記駆動カムが回転することに伴い、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第1摩擦係合装置が接続され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第2摩擦係合装置が切断される、第1モードと、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第1摩擦係合装置が切断され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第2摩擦係合装置が接続される、第2モードと、
が切り換わる、動力伝達経路切換装置であり、かつ、該動力伝達経路切換装置が、前記駆動カムを回転駆動する電動アクチュエータをさらに備える、2段変速機。
【請求項6】
前記駆動カムは、外周面にホイールギヤ部を有し、
前記電動アクチュエータは、前記ホイールギヤ部と噛合するウォームと、前記ウォームを回転駆動する変速用モータとを備える、請求項5に記載の2段変速機。
【請求項7】
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記出力部材が、前記キャリアに対し該キャリアと一体的に回転するように接続されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記キャリアまたは前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、使用時にも回転しない部分に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、および、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記リングギヤに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されている、請求項5または6に記載の2段変速機。
【請求項8】
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記リングギヤが、使用時にも回転しない部分に対し支持固定されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、前記キャリアに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、および、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されている、請求項5または6に記載の2段変速機。
【請求項9】
前記第1被駆動カムと前記第1摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第1被駆動カムと該第1摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記第2被駆動カムと前記第2摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第2被駆動カムと該第2摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第2弾性部材と、
をさらに備える、請求項5~8のいずれか1項に記載の2段変速機。
【請求項10】
前記駆動カムは、軸方向側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面および第2駆動カム面を有し、
前記第1被駆動カムは、前記第1駆動カム面と対向する軸方向側面に、第1被駆動カム面を有し、
前記第2被駆動カムは、前記第2駆動カム面と対向する軸方向側面に、第2被駆動カム面を有し、および、
前記カム装置は、前記第1駆動カム面と前記第1被駆動カム面との間に配置された複数個の第1転動体、および、前記第2駆動カム面と前記第2被駆動カム面との間に配置された複数個の第2転動体をさらに備える、請求項5~9のいずれか1項に記載の2段変速機。
【請求項11】
前記駆動カムは、径方向に突出する少なくとも1個の係合凸部を備え、
前記第1被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個の第1被駆動カム溝を備え、該第1被駆動カム溝は、少なくとも一部に円周方向に対し傾斜した傾斜部を有し、
前記第2被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個の第2被駆動カム溝を備え、該第2被駆動カム溝は、軸方向に関して前記第1被駆動カムと対称な開口形状を有する、請求項5~9のいずれか1項に記載の2段変速機。
【請求項12】
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第1フリクションプレートと該第1セパレートプレートとが互いに交互に配置されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第2フリクションプレートと該第2セパレートプレートとが互いに交互に配置されている、請求項5~11のいずれか1項に記載の2段変速機。
【請求項13】
前記第1摩擦係合装置は、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリングをさらに有し、
前記第2摩擦係合装置は、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリングをさらに有する、請求項5~12のいずれか1項に記載の2段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の動力の伝達経路を切り換えるための動力伝達経路切換装置、および、該動力伝達経路切換装置を備える2段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における化石燃料の消費量低減化の流れを受けて、電気自動車やハイブリッド自動車の研究が進み、一部で実施されている。電気自動車やハイブリッド自動車の動力源である電動モータは、化石燃料を直接燃焼させることにより動く内燃機関(エンジン)とは異なり、出力軸のトルクおよび回転速度の特性が自動車用として好ましい(一般的に、起動時に最大トルクを発生する)ので、必ずしも内燃機関を駆動源とする一般的な自動車のような変速機を設ける必要はない。ただし、電動モータを駆動源とする場合でも、変速機を設けることにより、加速性能および高速性能を改善できる。具体的には、変速機を設けることで、車両の走行速度と加速度との関係を、ガソリンエンジンを搭載し、かつ、動力の伝達系統中に変速機を設けた自動車に近い、滑らかなものにできる。この点について、図14を参照しつつ説明する。
【0003】
たとえば電動モータの出力軸と、駆動輪に繋がるデファレンシャルギヤの入力部との間部分に、減速比の大きな動力伝達装置を配置すると、電気自動車の加速度(G)と走行速度(km/h)との関係は、図14の実線aのようになる。すなわち、低速時の加速性能は優れているが、高速走行ができなくなる。これに対して、前記間部分に減速比の小さな動力伝達装置を配置すると、前記関係は、図14の鎖線bのようになる。すなわち、高速走行は可能になるが、低速時の加速性能が損なわれる。これに対して、前記出力軸と前記入力部との間に変速機を設け、車速に応じてこの変速機の減速比を変えれば、前記実線aのうちで点Pよりも左側部分と、鎖線bのうちで点Pよりも右側部分とを連続させた如き特性を得られる。この特性は、図14に破線cで示した、同程度の出力を有するガソリンエンジン車とほぼ同等であり、加速性能および高速性能に関して、動力の伝達系統中に変速機を設けたガソリンエンジン車と同等の性能を得られることが分かる。
【0004】
特開平5-116549号公報には、電動モータの出力軸のトルクを、1対の遊星歯車機構と1対のブレーキとを組み合わせてなる2段変速機を介して(2段変速機により減速して)デファレンシャルギヤに伝達する、電気自動車用駆動装置の構造が開示されている。この電気自動車用駆動装置では、1対のブレーキの断接状態を切り換えることに基づいて、1対の遊星歯車機構の構成要素が回転可能な状態と回転不能な状態とを切り換えることで、電動モータの出力軸とデファレンシャルギヤとの間の減速比を、高低の2段階に切換可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-116549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平5-116549号公報に記載の装置は、油圧で動作するサーボピストンPL、PHにより、遊星歯車機構の構成要素に支持された摩擦係合要素と、ハウジングに支持された摩擦係合要素とを互いに押し付けることで、ブレーキを接続(係合)するように構成されている。しかしながら、電気自動車やハイブリッド自動車において、システムの簡略化によるコスト低減や電費性能の向上を図るためには、2段変速機の減速比の切り換えを電動アクチュエータにより行い、油圧システムを不要とすることが望まれる。
【0007】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、電動アクチュエータにより動力の伝達経路を切り換えることができる動力伝達経路切換装置、および、この動力伝達経路切換装置を組み込んだ2段変速機の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動力伝達経路切換装置は、
回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記駆動カムに対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カムの回転に伴って、互いに同じ周期かつ異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カムおよび第2被駆動カムとを有するカム装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1フリクションプレートおよび第1セパレートプレートを有する第1摩擦係合装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第2フリクションプレートおよび第2セパレートプレートを有する第2摩擦係合装置と、
を備える。
【0009】
特に本発明の動力伝達経路切換装置では、
前記駆動カムが回転することに伴い、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第1摩擦係合装置が接続され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第2摩擦係合装置が切断される、第1モードと、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第1摩擦係合装置が切断され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第2摩擦係合装置が接続される、第2モードと、
が切り換わる。
【0010】
本発明の動力伝達経路切換装置は、
前記第1被駆動カムと前記第1摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第1被駆動カムと該第1摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記第2被駆動カムと前記第2摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第2被駆動カムと該第2摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第2弾性部材と、
をさらに備えることができる。
【0011】
本発明の第1態様の動力伝達経路切換装置は、
前記駆動カムは、軸方向側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面および第2駆動カム面を有し、
前記第1被駆動カムは、前記第1駆動カム面と対向する軸方向側面に、第1被駆動カム面を有し、
前記第2被駆動カムは、前記第2駆動カム面と対向する軸方向側面に、第2被駆動カム面を有し、および、
前記カム装置は、前記第1駆動カム面と前記第1被駆動カム面との間に配置された複数個の第1転動体、および、前記第2駆動カム面と前記第2被駆動カム面との間に配置された複数個の第2転動体をさらに備える。
【0012】
本発明の第2態様の動力伝達経路切換装置は、
前記駆動カムは、径方向に突出する少なくとも1個、好ましくは複数個の係合凸部を備え、
前記第1被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個、好ましくは複数個の第1被駆動カム溝を備え、該第1被駆動カム溝は、少なくとも一部に円周方向に対し傾斜した傾斜部を有し、
前記第2被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個、好ましくは複数個の第2被駆動カム溝を備え、該第2被駆動カム溝は、軸方向に関して前記第1被駆動カムと対称な開口形状を有する。
【0013】
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、かつ、該第1フリクションプレートと該第1セパレートプレートとを互いに交互に配置することができる。前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、かつ、該第2フリクションプレートと該第2セパレートプレートとを互いに交互に配置することができる。
【0014】
前記第1摩擦係合装置は、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリングをさらに有することができる。前記第2摩擦係合装置は、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリングをさらに有することができる。
【0015】
本発明の2段変速機は、
入力部材と、
前記入力部材と同軸に配置された出力部材と、
動力の伝達方向に関して、前記入力部材と前記出力部材との間に配置された遊星歯車機構とを備え、
前記遊星歯車機構は、サンギヤと、前記サンギヤの周囲に該サンギヤと同軸に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと同軸に配置されたキャリアと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛合し、かつ、前記キャリアに、自身の中心軸を中心とする回転を自在に支持された複数個のピニオンギヤとを有し、
前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路を切り換える動力伝達経路切換装置をさらに備える。
【0016】
本発明の2段変速機は、前記動力伝達経路切換装置が、本発明の動力伝達経路切換装置であり、かつ、該動力伝達経路切換装置が、前記駆動カムを回転駆動する電動アクチュエータをさらに備える。
【0017】
前記駆動カムは、外周面にホイールギヤ部を有し、かつ、前記電動アクチュエータは、前記ホイールギヤ部と噛合するウォームと、前記ウォームを回転駆動する変速用モータとを備えることができる。
【0018】
本発明の第1態様の2段変速機は、
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記出力部材が、前記キャリアに対し該キャリアと一体的に回転するように接続されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記キャリアまたは前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、ハウジングなどの使用時にも回転しない部分に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、および、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記リングギヤに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持される。
【0019】
本発明の第2態様の2段変速機は、
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記リングギヤが、ハウジングなどの使用時にも回転しない部分に対し支持固定されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、前記キャリアに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
および、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の動力伝達経路切換装置では、駆動カムを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置および第2摩擦係合装置の断接状態が切り換わり、前記駆動カムは、電動モータなどを含む電動アクチュエータにより回転駆動させることができる。要するに、本発明の動力伝達経路切換装置によれば、電動アクチュエータにより動力の伝達経路を切り換えることができる。また、本発明の動力伝達経路切換装置を備える、本発明の2段変速機によれば、電動アクチュエータにより、入力部材と出力部材との間の減速比を高低の2段階に切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例の2段変速機を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の第1例の2段変速機を示す模式図である。
図3図3(A)は、高速モードでの動力の伝達経路を示す模式図であり、図3(B)は、低速モードでの動力の伝達経路を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第1例について、動力伝達経路切換装置を取り出して示す断面図である。
図5図5は、本発明の実施の形態の第1例について、カム装置および電動アクチュエータを取り出し、かつ、分解して示す斜視図である。
図6図6は、第1駆動カム面と第2駆動カム面との円周方向に関する位相の関係を説明するための図である。
図7図7(A)は、第1摩擦係合装置を取り出して示す断面図であり、図7(B)は、第2摩擦係合装置を取り出して示す断面図である。
図8図8は、本発明の実施の形態の第2例の2段変速機を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施の形態の第2例について、カム装置および電動アクチュエータを取り出し、かつ、分解して示す斜視図である。
図10図10(A)は、高速モードでの係合凸部と第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝との係合状態を示す図であり、図10(B)は、低速モードでの係合凸部と第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝との係合状態を示す図である。
図11図11は、本発明の実施の形態の第3例の2段変速機を示す断面図である。
図12図12は、本発明の実施の形態の第3例の2段変速機を示す模式図である。
図13図13(A)は、高速モードでの動力の伝達経路を示す模式図であり、図13(B)は、低速モードでの動力の伝達経路を示す模式図である。
図14図14は、電動モータを駆動源とする駆動装置に変速機を組み込むことによる効果を説明するための線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1図7は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、本発明の第1態様の動力伝達経路切換装置を、本発明の第1態様の2段変速機に適用した例である。本例の2段変速機1は、たとえば、電気自動車やハイブリッド自動車の動力源である電動モータの出力軸と、デファレンシャルギヤとの間に配置されて、前記電動モータの出力軸のトルクを、増大(減速)してから、または、増大(減速)せずにそのままデファレンシャルギヤに伝達する。本例の2段変速機は、入力部材2と、出力部材3と、遊星歯車機構4と、動力伝達経路切換装置5とを備え、かつ、入力部材2と出力部材3との間の減速比を、高低の2段階に切り換え可能に構成されている。
【0023】
入力部材2は、電動モータの出力軸などの駆動軸(図示省略)に接続され、トルク(動力)が入力される。本例では、入力部材2は、入力筒状部6と、該入力筒状部6の軸方向片側(図1図4の右側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった入力フランジ部7とを備える。駆動軸は、たとえば、入力筒状部6の内周面にトルク伝達可能に内嵌されるか、あるいは、入力フランジ部7にボルト締めなどによりトルク伝達可能に結合される。
【0024】
出力部材3は、入力部材2と同軸に配置され、デファレンシャルギヤやプロペラシャフトなどの従動軸(図示省略)に接続され、該従動軸にトルクを出力する。本例では、出力部材3は、内周面に、雌スプライン部8を有する出力筒状部9と、該出力筒状部9の軸方向他側(図1図4の左側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった出力フランジ部10とを備える。従動軸は、先端部外周面に備えられた雄スプライン部を、出力筒状部9の雌スプライン部8とスプライン係合させることにより、出力部材3にトルク伝達可能に接続される。
【0025】
遊星歯車機構4は、動力の伝達方向に関して、入力部材2と出力部材3との間に配置され、かつ、サンギヤ11と、リングギヤ12と、キャリア13と、複数個のピニオンギヤ14とを備える。
【0026】
サンギヤ11は、入力部材2に対し該入力部材2と一体的に回転するように接続されている。本例では、サンギヤ11は、軸方向片側の小径筒部15と、軸方向他側の大径筒部16と、該大径筒部16の軸方向他側の端部から径方向外側に折れ曲がったフランジ部17とを備える。サンギヤ11は、大径筒部16の外周面に、サン側雄スプライン部18を備え、かつ、フランジ部17の外周面に、平歯車またははすば歯車であるギヤ部19を備える。サンギヤ11は、小径筒部15を、入力部材2の入力筒状部6に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により外嵌されている。
【0027】
リングギヤ12は、サンギヤ11の周囲に該サンギヤ11と同軸に、かつ、該サンギヤ11に対する相対回転を可能に支持されている。本例では、リングギヤ12は、軸方向片側の小径筒部20と、軸方向他側の大径筒部21と、該小径筒部20の軸方向他側の端部と該大径筒部21の軸方向片側の端部とを接続する円輪部22とを備える。リングギヤ12は、小径筒部20の外周面に、リング側雄スプライン部23を備え、かつ、大径筒部21の内周面に、平歯車またははすば歯車であるギヤ部24を備える。
【0028】
キャリア13は、サンギヤ11およびリングギヤ12と同軸に支持され、かつ、出力部材3に対し該出力部材3と一体的に回転可能に接続されている。本例では、キャリア13は、それぞれが円輪状で、軸方向に間隔を空けて配置された1対のリム部25a、25bと、該1対のリム部25a、25bのうち、互いに整合する円周方向複数箇所同士の間にかけ渡された柱部26(後述の図11参照)と、該1対のリム部25a、25bのうち、軸方向片側のリム部25aの軸方向片側面の径方向中間部から軸方向片側に向け全周にわたり突出した筒状部27とを備える。
【0029】
キャリア13は、軸方向片側のリム部25aのうち、筒状部27よりも径方向外側に存在する部分の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する円孔28aを備え、かつ、筒状部27の内周面に、キャリア側雌スプライン部29を備える。また、キャリア13は、1対のリム部25a、25bのうち、軸方向他側のリム部25bのうちで、軸方向片側のリム部25aの円孔28aと整合する部分に、軸方向に貫通する円孔28bを備える。キャリア13は、軸方向他側のリム部25bを、出力部材3の出力フランジ部10に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により接続することで、出力部材3と一体的に回転するように構成されている。
【0030】
ピニオンギヤ14のそれぞれは、サンギヤ11とリングギヤ12とに噛合し、かつ、キャリア13に、自身の中心軸を中心とする回転を自在に支持されている。本例では、ピニオンギヤ14のそれぞれは、円柱状の支持軸30の軸方向中間部周囲に、円筒状の本体部分31を、ラジアルニードル軸受32により回転自在に支持してなる。本体部分31は、外周面に、平歯車またははすば歯車であって、サンギヤ11のギヤ部19とリングギヤ12のギヤ部24とに噛合するギヤ部33を備える。支持軸30は、軸方向両側の端部が、キャリア13の円孔28a、28bのそれぞれに内嵌固定されている。
【0031】
なお、本例では、サンギヤ11の大径筒部16の軸方向中間部に係止された止め輪34aにより軸方向片側への変位が阻止されたスペーサ35の軸方向他側面が、軸方向片側のリム部25aの径方向内側部分の軸方向片側面に、スラスト軸受36aを介して突き当てられている。さらに、リングギヤ12の大径筒部21の軸方向他側の端部に係止された止め輪34bにより軸方向他側への変位が阻止された押え板37の径方向内側部分の軸方向片側面が、軸方向他側のリム部25b(出力部材3の出力フランジ部10)の径方向内側部分の軸方向他側面に、スラスト軸受36bを介して突き当てられている。これにより、遊星歯車機構4を組み立てた状態で、サンギヤ11、リングギヤ12、キャリア13およびピニオンギヤ14のそれぞれが分離するのを防止できる。要するに、遊星歯車機構4をサブアッセンブリとして一体的に取り扱うことができる。
【0032】
動力伝達経路切換装置5は、入力部材2と出力部材3との間の動力伝達経路を切り換える。本例の動力伝達経路切換装置5は、使用時にも回転しないハウジング38と、カム装置39と、第1摩擦係合装置40と、第2摩擦係合装置41とを備える。
【0033】
ハウジング38は、内径側筒部42と、外径側筒部43と、該内径側筒部42の軸方向片側の端部と該外径側筒部43の軸方向片側の端部とを接続する円輪状の側板部44とを備える。ハウジング38は、内径側筒部42の外周面に、固定側雄スプライン部45を備え、かつ、外径側筒部43の内周面に、固定側雌スプライン部46を備える。また、ハウジング38は、外径側筒部43の軸方向片側部分に、径方向に貫通し、かつ、円周方向に伸長する貫通孔47をさらに備える。
【0034】
本例では、ハウジング38の内径側筒部42の内周面と、入力部材2の入力筒状部6の外周面との間にラジアルニードル軸受78を配置し、かつ、側板部44の軸方向片側面と、入力フランジ部7の軸方向他側面との間にスラストニードル軸受79を配置することにより、ハウジング38に対し入力部材2が回転自在に支持されている。
【0035】
カム装置39は、回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カム48と、駆動カム48に対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カム48の回転に伴って、互いに異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カム49および第2被駆動カム50とを備える。なお、互いに異なる位相で軸方向に変位するとは、後述するように、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とが、駆動カム48の回転に伴って、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)することを意味している。すなわち、第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向他側に向けて移動するのに対し、第1被駆動カム49が軸方向他側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向片側に向けて移動する。
【0036】
駆動カム48は、円輪形状を有し、かつ、ハウジング38の内径側筒部42の軸方向片側の端部外周面に、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承可能なアンギュラ玉軸受51を介して、回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。
【0037】
駆動カム48は、軸方向他側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相(逆位相)でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53を有する。すなわち、駆動カム48は、軸方向他側面の径方向内側部分に、第1駆動カム面52を有し、かつ、軸方向他側面の径方向外側部分に、第2駆動カム面53を有する。本例では、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、凹部と凸部とを同数ずつ(図示の例では3つずつ)、円周方向に関して交互に、かつ、円周方向に関する位相を半周期(図示の例では60度)ずらせて(逆位相に)配置してなる。すなわち、図6に示すように、円周方向に関して、第1駆動カム面52のうち、凸部の位相と、第2駆動カム面53のうち、凹部の位相とが一致し、かつ、第1駆動カム面52のうち、凹部の位相と、第2駆動カム面53のうち、凸部の位相とが一致している。また、第1駆動カム面52は、凸部の先端面に、駆動カム48の中心軸に直交する平坦面部54aを有し、かつ、第2駆動カム面53は、凸部の先端面に、駆動カム48の中心軸に直交する平坦面部54bを有する。なお、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、図6に示すような、円周方向に関して対称な形状に限らず、種々の形状を採用することができる。
【0038】
駆動カム48は、外周面に、歯筋が弦巻線状のはすば歯車であるホイールギヤ部55をさらに有する。
【0039】
駆動カム48は、電動アクチュエータ56により回転駆動される。電動アクチュエータ56は、ウォーム57と、変速用モータ58とを備える。ウォーム57は、軸方向中間部外周面に、駆動カム48のホイールギヤ部55のうち、ハウジング38の貫通孔47から露出した部分に噛合するウォームギヤ部59を有する。変速用モータ58は、ウォーム57を回転駆動する。すなわち、駆動カム48は、変速用モータ58により、ホイールギヤ部55とウォームギヤ部59とを噛合させてなるウォーム減速機を介して回転駆動される。
【0040】
第1被駆動カム49は、駆動カム48の径方向内側部分に、軸方向に対向して配置されている。第1被駆動カム49は、駆動カム48の第1駆動カム面52に対向する軸方向片側面に、凹部と凸部とを、第1駆動カム面52の凹部および凸部と同数ずつ(本例では3つずつ)、円周方向に関して交互に配置してなる第1被駆動カム面60を有する。ただし、第1駆動カム面52と対向する第1被駆動カム面60は、中心軸に直交する平坦面により構成されることもできる。
【0041】
第1被駆動カム49は、内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61を有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61を、ハウジング38の固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0042】
第2被駆動カム50は、駆動カム48の径方向外側部分に、軸方向に対向して配置されている。第2被駆動カム50は、駆動カム48の第2駆動カム面53に対向する軸方向片側面に、凹部と凸部とを、第2駆動カム面53の凹部および凸部と同数ずつ(本例では3つずつ)、円周方向に関して交互に配置してなる第2被駆動カム面62を有する。ただし、第2駆動カム面53と対向する第2被駆動カム面62は、中心軸に直交する平坦面により構成されることもできる。
【0043】
第2被駆動カム50は、外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63を有し、かつ、該第2被駆動側雄スプライン部63を、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0044】
本例のカム装置39は、第1駆動カム面52と第1被駆動カム面60との間に、転動自在に配置された複数個の第1転動体64、および、第2駆動カム面53と第2被駆動カム面62との間に、転動自在に配置された複数個の第2転動体65をさらに備える。すなわち、本例では、駆動カム48が回転することに伴い、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量が増減することで、第1被駆動カム49が軸方向に変位し、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量が増減することで、第2被駆動カム50が軸方向に変位する。なお、本例では、第1転動体64および第2転動体65として、玉を使用しているが、第1転動体および第2転動体としては、ローラを使用することもできる。
【0045】
本例では、駆動カム48の第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、凹部と凸部とを同数ずつ、円周方向に関して交互に、かつ、円周方向に関する位相を半周期ずらせて(逆位相に)配置してなる。このため、駆動カム48の回転に伴って、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。具体的には、第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向他側に向けて移動するのに対し、第1被駆動カム49が軸方向他側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向片側に向けて移動する。
【0046】
第1摩擦係合装置40は、複数枚ずつの第1フリクションプレート66および第1セパレートプレート67を有する。第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置されている。本例では、第1摩擦係合装置40は、サンギヤ11とキャリア13との間に配置され、かつ、それぞれが回転体であるサンギヤ11とキャリア13とが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0047】
第1フリクションプレート66のそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、サンギヤ11のサン側雄スプライン部18にスプライン係合させることにより、サンギヤ11に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0048】
第1セパレートプレート67のそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、キャリア13のキャリア側雌スプライン部29にスプライン係合させることにより、キャリア13に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0049】
第1セパレートプレート67のうち、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67は、キャリア13の筒状部27の軸方向他側の端部に係止された止め輪68により、軸方向他側への変位が阻止されている。
【0050】
第1セパレートプレート67のうち、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、第1被駆動カム49との間には、軸方向片側から順に、第1弾性部材69と、スラスト転がり軸受70とが挟持されている。第1弾性部材69は、第1摩擦係合装置40と、第1被駆動カム49とを、軸方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢する。なお、本例では、第1弾性部材69は、皿ばねにより構成されている。ただし、第1弾性部材69を、ねじりコイルばねなどにより構成することもできる。
【0051】
第1摩擦係合装置40は、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とを互いに離隔させ、該第1フリクションプレート66と該第1セパレートプレート67と互いに押し付け合う力を解放する方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリング108をさらに備える。本例では、第1リターンスプリング108は、図7(A)に示すように、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67との間にかけ渡され、該最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と該最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67とを互いに離れる方向に弾性的に付勢している。
【0052】
第2摩擦係合装置41は、複数枚ずつの第2フリクションプレート72および第2セパレートプレート73を有する。第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置されている。本例では、第2摩擦係合装置41は、リングギヤ12とハウジング38との間に配置され、かつ、リングギヤ12の回転が許容される状態と、阻止される状態とを切り換えるブレーキとして機能する。
【0053】
第2フリクションプレート72のそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、リングギヤ12のリング側雄スプライン部23にスプライン係合させることにより、リングギヤ12に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0054】
第2セパレートプレート73のそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0055】
第2セパレートプレート73のうち、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73は、ハウジング38の外径側筒部43の軸方向他側の端部に係止された止め輪74により、軸方向他側への変位が阻止されている。
【0056】
第2セパレートプレート73のうち、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、第2被駆動カム50との間には、軸方向片側から順に、第2弾性部材75と、略L字形の断面形状を有するスペーサ76とが挟持されている。第2弾性部材75は、第2摩擦係合装置41と、第2被駆動カム50とを、軸方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢する。なお、本例では、第2弾性部材75は、皿ばねにより構成されている。ただし、第2弾性部材75を、ねじりコイルばねなどにより構成することもできる。
【0057】
第2摩擦係合装置41は、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とを互いに離隔させ、該第2フリクションプレート72と該第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力を解放する方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリング109をさらに備える。本例では、第2リターンスプリング109は、図7(B)に示すように、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73との間にかけ渡されて、該最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と該最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73とを互いに離れる方向に弾性的に付勢している。
【0058】
動力伝達経路切換装置5は、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41との断接状態を切り換える。本例の動力伝達経路切換装置5は、具体的には、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードとを切り換える。以下、それぞれの場合について、説明する。
【0059】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、図6に二点鎖線で示すように、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量を増大させることで、第1被駆動カム49を、駆動カム48との軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて変位させ、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量を減少させることで第2被駆動カム50を、駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて変位させる。なお、本例では、動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換えた状態(第1モードへの切り換えが完了した状態)で、第1転動体64は、第1駆動カム面52の平坦面部54aに乗り上げている。
【0060】
第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて変位すると、第1弾性部材69およびスラスト転がり軸受70を介して、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67が軸方向他側に向けて押圧される。これに基づいて、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合うことで、第1摩擦係合装置40が接続される。
【0061】
一方、第2被駆動カム50が軸方向片側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、第2リターンスプリング109の作用により、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73との間隔が拡がることで、第2摩擦係合装置41が切断される。
【0062】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、図6に一点鎖線で示すように、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量を減少させることで、第1被駆動カム49を、駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて変位させ、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量を増大させることで第2被駆動カム50を、駆動カム48との軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて変位させる。なお、本例では、動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換えた状態(第2モードへの切り換えが完了した状態)で、第2転動体65は、第2駆動カム面53の平坦面部54bに乗り上げている。
【0063】
第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて変位し、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、第1リターンスプリング108の作用により、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67との間隔が拡がることで、第1摩擦係合装置40が切断される。
【0064】
一方、第2被駆動カム50が軸方向他側に向けて変位すると、第2弾性部材75およびスペーサ76を介して、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73が軸方向他側に向けて押圧される。これに基づいて、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合うことで、第2摩擦係合装置41が接続される。
【0065】
本例の2段変速機1は、動力伝達経路切換装置5の動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。以下、それぞれの場合について説明する。
【0066】
<高速モード>
2段変速機1を高速モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動することに基づいて、動力伝達経路切換装置5を、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードに切り換える。動力伝達経路切換装置5が第1モードに切り換わると、第1摩擦係合装置40が接続されることに基づいて、サンギヤ11とキャリア13とが一体的に回転するようになり、かつ、第2摩擦係合装置41が切断されることに基づいて、ハウジング38に対するリングギヤ12の回転が許容される。このような高速モードでは、サンギヤ11とリングギヤ12とキャリア13との回転方向および回転速度が同じとなり、遊星歯車機構4全体が一体となって回転する、所謂のり付け状態となる。したがって、入力部材2の動力は、次の(A)に示す経路を通って、出力部材3に伝達される。
(A) 入力部材2 → キャリア13 → 出力部材3
このように、高速モードでは、入力部材2の動力は、減速されることなく、そのまま出力部材3に伝達される。換言すれば、高速モードでは、入力部材2と出力部材3との間の減速比は1である。
【0067】
<低速モード>
2段変速機1を低速モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動することに基づいて、動力伝達経路切換装置5を、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第1モードに切り換える。動力伝達経路切換装置5が第2モードに切り換わると、第1摩擦係合装置40が切断されることに基づいて、サンギヤ11とキャリア13とが相対回転可能になり、かつ、第2摩擦係合装置41が接続されることに基づいて、ハウジング38に対するリングギヤ12の回転が阻止される。このような低速モードでは、入力部材2の動力は、次の(B)に示す経路を通って、出力部材3に伝達される。
(B) 入力部材2 → サンギヤ11 → ピニオンギヤ14の自転運動 → リングギヤ12との噛合に基づくピニオンギヤ14の公転運動→ キャリア13 → 出力部材3
このように、低速モードでは、入力部材2の動力は、遊星歯車機構4により減速されて、出力部材3に伝達される。なお、低速モードにおける、入力部材2と出力部材3との間の減速比は、リングギヤ12とサンギヤ11との歯車比(リングギヤ12のギヤ部24の歯数/サンギヤ11のギヤ部19の歯数)により決定される。
【0068】
上述のように、本例の2段変速機1では、動力伝達経路切換装置5の動作モードを切り換える、すなわち、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比を高低の2段階に切り換えることができる。具体的には、入力部材2に入力される動力が低速かつ高トルクの領域では、2段変速機1を低速モードに切り換え、高速かつ低トルクの領域では、高速モードに切り換える。このため、電気自動車や、ハイブリッド自動車が電動モータのみを駆動源として走行している際の加速性能および高速性能を、前述の図14の実線aのうちで点Pよりも左側部分と、鎖線bのうちで点Pよりも右側部分とを連続させた如き特性であって、図14に破線cで示したガソリンエンジン車に近いものとすることができる。
【0069】
特に、本例の動力伝達経路切換装置5では、電動アクチュエータ56の変速用モータ58に通電し、ウォーム57を介して、駆動カム48を回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換える。すなわち、本例の動力伝達経路切換装置5では、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。このため、電気自動車やハイブリッド自動車において、システムを簡略化してコストを低減でき、かつ、電費性能を向上することができる。
【0070】
また、低速モードと高速モードとの間でモードを切り換えるべく、駆動カム48を回転駆動すると、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。したがって、モード切換時には、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41のうちの一方の摩擦係合装置の締結力を大きくするほど、他方の摩擦係合装置の締結力は小さくなる。このため、モード切換に基づく変速ショックを抑えることができて、自動車の乗員に不快感を与えることを防止できる。
【0071】
本例では、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と第1被駆動カム49との間に、第1弾性部材69が配置され、かつ、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、第2被駆動カム50との間に、第2弾性部材75が配置されている。したがって、動力伝達経路切換装置5の組立誤差や、第1フリクションプレート66、第1セパレートプレート67、第2フリクションプレート72および第2セパレートプレート73の摩耗に伴うずれを、第1弾性部材69と第2弾性部材75とにより吸収することができる。このため、第1被駆動カム49を押圧する力(最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67に対する第1被駆動カム49の軸方向他側への押し付け力)を制御することにより、第1摩擦係合装置40の締結力を制御することができ、かつ、第2被駆動カム50を押圧する力(最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73に対する第2被駆動カム50の軸方向他側への押し付け力)を制御することにより、第2摩擦係合装置41の締結力を制御することができる。この結果、高速モードにおいては、第1摩擦係合装置40の締結力を十分に確保することができ、かつ、低速モードにおいては、第2摩擦係合装置41の締結力を十分に確保することができる。
【0072】
本例では、動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換え、第1摩擦係合装置40を接続した状態では、第1転動体64は、第1駆動カム面52の凸部の先端面に備えられた平坦面部54aに乗り上げる。一方、動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換え、第2摩擦係合装置41を接続した状態では、第2転動体65は、第2駆動カム面53の凸部の先端面に備えられた平坦面部54bに乗り上げる。このため、本例の動力伝達経路切換装置5によれば、モード切換完了後、変速用モータ58への通電を停止しても、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持することができ、この面からも電費性能を向上することができる。
【0073】
なお、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53の凸部の先端面に平坦面部54a、54bを備えることに代えて、または、該平坦面部54a、54bを備えることに加えて、駆動カム48のホイールギヤ部55とウォーム57のウォームギヤ部59とからなるウォーム減速機にセルフロック機能を持たせることで、変速用モータ58への通電停止後にも、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持できるようにすることもできる。
【0074】
なお、本例の2段変速機1では、遊星歯車機構4が、出力部材3の周囲に配置され、かつ、動力伝達経路切換装置5が、入力部材2の周囲に配置されているが、本発明の第1態様の2段変速機を実施する場合、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、遊星歯車機構を入力部材の周囲に配置し、かつ、動力伝達経路切換装置を出力部材の周囲に配置することができる。あるいは、遊星歯車機構および/または動力伝達経路切換装置を、入力部材または出力部材と径方向に重畳させることなく配置することもできる。いずれにしても、それぞれの構成に合わせて、それぞれの部品の形状を適宜変更する。
【0075】
また、本例の動力伝達経路切換装置5のカム装置39は、駆動カム48と、第1被駆動カム49および第2被駆動カム50との間にそれぞれ、第1転動体64と第2転動体65とが挟持されている。ただし、本発明の動力伝達経路切換装置を実施する場合、駆動カムの回転に伴い、第1被駆動カムと第2被駆動カムとを軸方向に関して互いに反対方向に変位させることができれば、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、駆動カムに備えられた第1駆動カム面および第2駆動カム面と、第1被駆動カムに備えられた第1被駆動カム面および第2被駆動カムに備えられた第2被駆動カム面とを直接摺接させることもできる。
【0076】
[実施の形態の第2例]
図8図10(B)は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、本発明の第2態様の動力伝達経路切換装置を、本発明の第1態様の2段変速機に適用した例である。すなわち、本例の2段変速機1aは、動力伝達経路切換装置5aのカム装置39aの構造が、実施の形態の第1例のカム装置39の構造と異なる。
【0077】
本例のカム装置39aは、駆動カム48aと、第1被駆動カム49aおよび第2被駆動カム50aとを有する。
【0078】
駆動カム48aは、径方向に突出する複数個(たとえば3個または4個)の係合凸部80を備える。本例では、駆動カム48aは、円輪状の側板部81と、該側板部81の径方向内側の端部から軸方向他側に向けて折れ曲がった内径側筒部82と、該側板部81の径方向外側部分から軸方向他側に向けて全周にわたり突出した外径側筒部83とを備える。駆動カム48aは、外径側筒部83の円周方向複数箇所に、該外径側筒部83を径方向に貫通する円孔84をさらに備え、該円孔84のそれぞれには係合ピン85が圧入されている。本例では、係合凸部80は、係合ピン85のうち、外径側筒部83の内周面よりも径方向内側に突出した部分により構成されている。また、駆動カム48aは、側板部81の外周面に、歯筋が弦巻線状のはすば歯車であるホイールギヤ部55aをさらに有する。
【0079】
なお、駆動カム48aは、内径側筒部82の内周面と、ハウジング38の内径側筒部42の軸方向片側の端部外周面とのアンギュラ玉軸受51を配置することにより、ハウジング38に対し回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。
【0080】
第1被駆動カム49aは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、係合凸部80が係合する複数の第1被駆動カム溝86を有する。本例では、第1被駆動カム49aは、円輪状の側板部87と、該側板部87の径方向外側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった外径側筒部88と、該側板部87の径方向中間部から軸方向他側に向けて全周にわたり突出した内径側筒部89とを備える。
【0081】
第1被駆動カム溝86のそれぞれは、外径側筒部88の外周面に形成されている。第1被駆動カム溝86は、径方向外側から見て、円周方向片側(図10(A)および図10(B)の上側)かつ軸方向片側に配置された直線部90aと、円周方向他側(図10(A)および図10(B)の下側)かつ軸方向他側に配置された直線部90bと、該直線部90aの円周方向他側の端部と該直線部90bの円周方向片側の端部とを接続する傾斜部91とを有する。すなわち、傾斜部91は、径方向外側から見て、円周方向片側から他側に向かうほど、軸方向片側から他側に向かう方向に傾斜している。
【0082】
なお、第1被駆動カム溝86のそれぞれは、外径側筒部88の外周面にのみ開口し、該外径側筒部88の内周面には開口していない。すなわち、本例では、第1被駆動カム溝86は、凹溝により構成されている。ただし、第1被駆動カム溝86は、外径側筒部88を径方向に貫通するように形成することもできる。
【0083】
第1被駆動カム49aは、側板部87の内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61aを有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61aを、ハウジング38の固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0084】
第2被駆動カム50aは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、係合凸部80が係合する複数の第2被駆動カム溝92を有する。本例では、第2被駆動カム50aは、軸方向片側の小径筒部93と、軸方向他側の大径筒部94と、該小径筒部93の軸方向他側の端部と該大径筒部94の軸方向片側の端部とを接続する円輪部95とを備える。
【0085】
第2被駆動カム溝92のそれぞれは、小径筒部93に、該小径筒部93を径方向に貫通するように形成されている。第2被駆動カム溝92は、軸方向に関して第1被駆動カム溝86と対称な開口形状を有する。すなわち、第2被駆動カム溝92は、径方向外側から見て、円周方向片側かつ軸方向他側に配置された直線部96aと、円周方向他側かつ軸方向片側に配置された直線部96bと、該直線部96aの円周方向他側の端部と該直線部96bの円周方向片側の端部とを接続する傾斜部97とを有する。すなわち、傾斜部97は、径方向外側から見て、円周方向片側から他側に向かうほど、軸方向他側から片側に向かう方向に傾斜している。
【0086】
第2被駆動カム50aは、大径筒部94の軸方向片側の端部外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63aを有する。第2被駆動カム50aは、第2被駆動側雄スプライン部63aを、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、軸方向変位のみを可能に、ハウジング38に対し支持されている。
【0087】
本例のカム装置39aでは、駆動カム48aの係合凸部80の中間部が、第2被駆動カム50aの第2被駆動カム溝92に係合(挿通)し、かつ、係合凸部80の先端部(径方向内側の端部)が、第1被駆動カム49aの第1被駆動カム溝86に係合している。したがって、電動アクチュエータ56により、駆動カム48aを回転させることに伴い、係合凸部80が円周方向に移動すると、該係合凸部80が、第1被駆動カム溝86および第2被駆動カム溝92の内側で移動できるよう、第1被駆動カム49aおよび第2被駆動カム50aが軸方向に変位(進退)する。ここで、第1被駆動カム溝86と第2被駆動カム溝92とは、軸方向に関して互いに対称な開口形状を有するため、駆動カム48aの回転に伴い、第1被駆動カム49aと第2被駆動カム50aとは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。
【0088】
本例の動力伝達経路切換装置5aも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、第1被駆動カム49aと第2被駆動カム50aとを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41との断接状態を切り換える。すなわち、動力伝達経路切換装置5aは、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードとを切り換える。
【0089】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5aを第1モードに切り換えるべく、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、係合凸部80を円周方向片側に変位(移動)させると、第1被駆動カム49aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて移動し、かつ、第2被駆動カム50aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)軸方向片側に向けて移動する。この結果、図10(A)に示すように、係合凸部80が、第1被駆動カム溝86のうち、軸方向片側に配置された直線部90aと、第2被駆動カム溝92のうち、軸方向他側に配置された直線部96aとに係合する。換言すれば、係合凸部80が円周方向片側に変位すると、該係合凸部80と第1被駆動カム溝86との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向他側に向けて移動し(案内され)、かつ、係合凸部80と第2被駆動カム溝92との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向片側に向けて移動する(案内される)。
【0090】
第1被駆動カム49aが、軸方向他側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合い、第1摩擦係合装置40が接続される。これと同時に、第2被駆動カム50aが軸方向片側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力が解放され、第2摩擦係合装置41が切断される。
【0091】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5aを第2モードに切り換えるべく、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、係合凸部80を円周方向他側に変位(移動)させると、第1被駆動カム49aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて移動し、かつ、第2被駆動カム50aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)軸方向片側に向けて移動する。この結果、図10(B)に示すように、係合凸部80が、第1被駆動カム溝86のうち、軸方向他側に配置された直線部90bと、第2被駆動カム溝92のうち、軸方向片側に配置された直線部96bとに係合する。換言すれば、係合凸部80が円周方向他側に変位すると、該係合凸部80と第1被駆動カム溝86との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向片側に向けて移動し(案内され)、かつ、係合凸部80と第2被駆動カム溝92との係合に伴って、第2被駆動カム50aが軸方向他側に向けて移動する(案内される)。
【0092】
第1被駆動カム49aが、軸方向片側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合う力が解放され、第1摩擦係合装置40が切断される。これと同時に、第2被駆動カム50aが軸方向他側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合い、第2摩擦係合装置41が接続される。
【0093】
本例の2段変速機1aは、動力伝達経路切換装置5aの動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。具体的には、動力伝達経路切換装置5aを、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードに切り換えることで、2段変速機1aを高速モードに切り換えることができる。これに対し、動力伝達経路切換装置5aを、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードに切り換えることで、2段変速機1aを低速モードに切り換えることができる。
【0094】
本例の動力伝達経路切換装置5aでは、電動アクチュエータ56の変速用モータ58に通電し、ウォーム57を介して、駆動カム48aを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換える。このため、本例の動力伝達経路切換装置5aも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。
【0095】
また、本例では、動力伝達経路切換装置5aを第1モードに切り換えた状態では、係合凸部80は、第1被駆動カム溝86の直線部90aと、第2被駆動カム溝92の直線部96aとに係合する。一方、動力伝達経路切換装置5aを第2モードに切り換えた状態では、係合凸部80は、第1被駆動カム溝86の直線部90bと、第2被駆動カム溝92の直線部96bとに係合する。このため、本例の動力伝達経路切換装置5aによれば、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、モード切換完了後、変速用モータ58への通電を停止しても、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持することができ、この面からも電費性能を向上することができる。
【0096】
なお、本例では、第1被駆動カム溝86が、1対の直線部90aと傾斜部91とから構成され、かつ、第2被駆動カム溝92が、1対の直線部96bと傾斜部97とから構成されている。ただし、本発明の第2態様の動力伝達経路切換装置を実施する場合、駆動カムの回転に伴い、第1被駆動カムと第2被駆動カムとを軸方向に関して互いに反対方向に変位させることができれば、第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝の形状は任意の形状を採用することができる。その他の部分の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同様である。
【0097】
[実施の形態の第3例]
図11図13(B)は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例は、本発明の第1態様の動力伝達経路切換装置を、本発明の第2態様の2段変速機に適用した例である。本例の2段変速機1bは、入力部材2と、該入力部材2と同軸かつ相対回転可能に支持された出力部材3aと、動力の伝達方向に関して、入力部材2と出力部材3aとの間に配置された遊星歯車機構4aと、入力部材2と出力部材3aとの間の動力伝達経路を切り換える動力伝達経路切換装置5bとを備える。
【0098】
出力部材3aは、内周面に、雌スプライン部8を有する出力筒状部9と、該出力筒状部9の軸方向片側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった出力フランジ部10aと、該出力フランジ部10aの径方向外側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった外径側筒部98と、該出力フランジ部10aの径方向中間部から軸方向片側に向けて全周にわたり突出した内径側筒部99とを備える。出力部材3aは、内径側筒部99の内周面に、出力側第1雌スプライン部100を有し、かつ、外径側筒部98の内周面に、出力側第2雌スプライン部101を有する。さらに、出力部材3aは、出力フランジ部10aの径方向内側部分および径方向外側部分の円周方向複数箇所ずつに、該出力フランジ部10aを軸方向に貫通する通孔102a、102bを有する。
【0099】
遊星歯車機構4aは、サンギヤ11aと、リングギヤ12aと、キャリア13aと、複数個のピニオンギヤ14とを備える。
【0100】
サンギヤ11aは、入力部材2に対し該入力部材2と一体的に回転するように接続されている。本例では、サンギヤ11aは、筒状部103と、該筒状部103の軸方向片側の端部から径方向外側に折れ曲がったフランジ部17aとを備える。サンギヤ11aは、筒状部103の外周面に、サン側雄スプライン部18aをさらに備え、かつ、フランジ部17aの外周面にギヤ部19をさらに備える。サンギヤ11aは、筒状部103を、入力部材2の入力筒状部6に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により外嵌されている。
【0101】
リングギヤ12aは、サンギヤ11aの周囲に該サンギヤ11aと同軸に、かつ、該サンギヤ11aに対する相対回転を可能に支持されている。本例では、リングギヤ12aは、小径筒部20aと、該小径筒部20aの周囲に該小径筒部20aと同軸に配置された大径筒部21aと、該小径筒部20aの軸方向片側の端部と該大径筒部21aの軸方向片側の端部とを接続する円輪部22aとを備える。リングギヤ12aは、大径筒部21aの内周面にギヤ部24をさらに備える。
【0102】
本例では、リングギヤ12aは、図示しないハウジングなど、使用時にも回転しない部分に対し回転不能に内嵌されている。すなわち、リングギヤ12aは、使用時にも回転しない(回転が阻止されている)。
【0103】
なお、本例では、小径筒部20aの内周面と入力部材2の入力筒状部6の外周面との間にラジアルニードル軸受104が配置され、かつ、小径筒部20aの軸方向両側の端面と、入力部材2の入力フランジ部7の軸方向他側面およびサンギヤ11aのフランジ部17aの軸方向片側面との間にスラストニードル軸受105a、105bがそれぞれ配置されている。これにより、入力部材2が、リングギヤ12aの内径側に、該リングギヤ12aに対する回転を自在に支持されている。
【0104】
キャリア13aは、サンギヤ11aおよびリングギヤ12aと同軸かつ相対回転可能に支持されている。本例では、キャリア13aは、それぞれが円輪状で、軸方向に間隔を空けて配置された1対のリム部25c、25dと、該1対のリム部25c、25dのうち、互いに整合する円周方向複数箇所同士の間にかけ渡された柱部26と、該1対のリム部25c、25dのうち、軸方向他側のリム部25cの軸方向他側面の径方向中間部から軸方向他側に向け全周にわたり突出した筒状部27aとを備える。
【0105】
キャリア13aは、軸方向他側のリム部25cのうち、筒状部27aよりも径方向外側に存在する部分の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する円孔28cを備え、かつ、筒状部27aの外周面に、キャリア側雄スプライン部71を備える。また、キャリア13aは、1対のリム部25c、25dのうち、軸方向片側のリム部25dのうちで、軸方向他側のリム部25cの円孔28cと整合する部分に、軸方向に貫通する円孔28dを備える。
【0106】
ピニオンギヤ14のそれぞれは、支持軸30の軸方向両側の端部を、キャリア13aの円孔28c、28dのそれぞれに内嵌固定し、かつ、支持軸30に回転自在に支持された本体部分31の外周面に備えられたギヤ部33を、サンギヤ11aのギヤ部19とリングギヤ12aのギヤ部24とに噛合させている。
【0107】
動力伝達経路切換装置5bは、使用時にも回転しないハウジング38aと、カム装置39bと、第1摩擦係合装置40aと、第2摩擦係合装置41aとを備える。
【0108】
ハウジング38aは、内径側筒部42aと、外径側筒部43aと、該内径側筒部42aの軸方向他側の端部と該外径側筒部43aの軸方向他側の端部とを接続する円輪状の側板部44aとを備える。ハウジング38aは、内径側筒部42aの外周面に、固定側雄スプライン部45aを備え、かつ、外径側筒部43aの内周面に、固定側雌スプライン部46aを備える。また、ハウジング38aは、外径側筒部43aの軸方向他側部分に、貫通孔47aをさらに備える。
【0109】
カム装置39aは、駆動カム48bと、第1被駆動カム49bおよび第2被駆動カム50bとを有する。
【0110】
駆動カム48bは、円輪形状を有し、かつ、ハウジング38aの内径側筒部42aの軸方向他側の端部外周面に、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承可能なアンギュラ玉軸受51aを介して、回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。また、駆動カム48aは、軸方向片側面の径方向内側部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第1駆動カム面52aを有し、かつ、軸方向片側面の径方向外側部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第2駆動カム面53aを有する。
【0111】
駆動カム48aは、電動アクチュエータ56aにより回転駆動される。すなわち、駆動カム48aの外周面に備えられたホイールギヤ部55aのうち、ハウジング38aの貫通孔47aから露出した部分には、ウォーム57aのウォームギヤ部59aが噛合されている。ウォーム57aは、変速用モータ58aの出力軸に接続されている。
【0112】
第1被駆動カム49aは、駆動カム48aの径方向内側部分に、軸方向に対向して配置され、かつ、軸方向他側面のうち、第1駆動カム面52aに対向する部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第1被駆動カム面60aを有する。
【0113】
第1被駆動カム49aは、内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61aを有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61aを、ハウジング38aの固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38aに対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0114】
第2被駆動カム50aは、駆動カム48aの径方向外側部分に、軸方向に対向して配置され、かつ、軸方向他側面のうち、第2駆動カム面53aに対向する部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第2被駆動カム面62aを有する。
【0115】
第2被駆動カム50aは、外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63aを有し、かつ、該第2被駆動側雄スプライン部63aを、ハウジング38aの固定側雌スプライン部46aにスプライン係合させることにより、ハウジング38aに対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0116】
カム装置39aは、第1駆動カム面52aと第1被駆動カム面60aとの間に、転動自在に配置された複数個の第1転動体64a、および、第2駆動カム面53aと第2被駆動カム面62aとの間に、転動自在に配置された複数個の第2転動体65aをさらに備える。
【0117】
第1摩擦係合装置40aは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置された複数枚ずつの第1フリクションプレート66aおよび第1セパレートプレート67aを有する。本例では、第1摩擦係合装置40aは、それぞれが回転体である出力部材3aとサンギヤ11aとの間に配置され、かつ、出力部材3aとサンギヤ11aとが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0118】
第1フリクションプレート66aのそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、サンギヤ11aのサン側雄スプライン部18aにスプライン係合させることにより、サンギヤ11aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0119】
第1フリクションプレート66aのうち、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aと、第1被駆動カム49aとの間には、軸方向他側から順に、第1弾性部材69aと、スラスト転がり軸受70aとが配置されている。なお、本例では、第1弾性部材69aは、皿ばねにより構成されている。スラスト転がり軸受70aは、1対の軌道輪106a、106bを備える。1対の軌道輪106a、106bのうち、軸方向片側の軌道輪106aは、軸方向片側面から軸方向片側に向けて突設された押圧ピン部107aを有し、かつ、該押圧ピン部107aを、出力部材3aの通孔102aに挿通し、先端部を、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aの軸方向他側面に対向させている。
【0120】
第1セパレートプレート67aのそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、出力部材3aの出力側第1雌スプライン部100にスプライン係合させることにより、出力部材3aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0121】
第1セパレートプレート67aのうち、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67aは、出力部材3aの内径側筒部99の軸方向片側の端部に係止された止め輪68aにより、軸方向片側への変位が阻止されている。
【0122】
第2摩擦係合装置41aは、それぞれが略円輪状で、軸方向に交互に配置された複数枚ずつの第2フリクションプレート72aおよび第2セパレートプレート73aを有する。本例では、第2摩擦係合装置41aは、それぞれが回転体である出力部材3aとキャリア13aとの間に配置され、かつ、出力部材3aとキャリア13aとが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0123】
第2フリクションプレート72aのそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、キャリア13aのキャリア側雄スプライン部71にスプライン係合させることにより、キャリア13aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0124】
第2フリクションプレート72aのうち、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aと、第2被駆動カム50aとの間には、軸方向他側から順に、第2弾性部材75aと、スラスト転がり軸受70bとが配置されている。なお、本例では、第2弾性部材75aは、皿ばねにより構成されている。スラスト転がり軸受70bは、1対の軌道輪106c、106dを備える。1対の軌道輪106c、106dのうち、軸方向片側の軌道輪106cは、軸方向片側面から軸方向片側に向けて突設された押圧ピン部107bを有し、かつ、該押圧ピン部107bを、出力部材3aの通孔102bに挿通し、先端部を、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aの軸方向他側面に対向させている。
【0125】
第2セパレートプレート73aのそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、出力部材3aの出力側第2雌スプライン部101にスプライン係合させることにより、出力部材3aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0126】
第2セパレートプレート73aのうち、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73aは、出力部材3aの外径側筒部98の軸方向片側の端部に係止された止め輪74aにより、軸方向片側への変位が阻止されている。
【0127】
本例の動力伝達経路切換装置5bは、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動し、第1被駆動カム49bと第2被駆動カム50bとを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40aが接続され、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40aが切断され、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続された第2モードとを切り換える。
【0128】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5bを第1モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動することに基づいて、第1被駆動カム49bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)に向けて変位させ、かつ、第2被駆動カム50bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向他側)に向けて変位させる。
【0129】
第1被駆動カム49bが軸方向片側に向けて変位すると、押圧ピン部107aにより、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aが軸方向片側に向けて押圧される。これに基づいて、第1フリクションプレート66aと第1セパレートプレート67aとが互いに押し付け合うことで、第1摩擦係合装置40aが接続される。
【0130】
第2被駆動カム50bが軸方向他側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72aと第2セパレートプレート73aとが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aと、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73aとの間隔が拡がることで、第2摩擦係合装置41bが切断される。
【0131】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5bを第2モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動することに基づいて、第1被駆動カム49bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向他側)に向けて変位させ、かつ、第2被駆動カム50bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)に向けて変位させる。
【0132】
第1被駆動カム49bが軸方向他側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66aと第1セパレートプレート67aとが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aと、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67aとの間隔が拡がることで、第1摩擦係合装置40aが切断される。
【0133】
第2被駆動カム50が軸方向片側に向けて変位すると、押圧ピン部107bにより、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aが軸方向片側に向けて押圧される。これに基づいて、第2フリクションプレート72aと第2セパレートプレート73aとが互いに押し付け合うことで、第2摩擦係合装置41aが接続される。
【0134】
本例の2段変速機1bは、動力伝達経路切換装置5bの動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3aとの間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。
【0135】
具体的には、動力伝達経路切換装置5bを、第1摩擦係合装置40aが接続され、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断された第1モードに切り換えることで、2段変速機1bを高速モードに切り換えることができる。この高速モードでは、第1摩擦係合装置40aが接続されることに基づいて、出力部材3aとサンギヤ11aとが一体的に回転するようになり、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断されることに基づいて、出力部材3aとキャリア13aとが相対回転可能になる。このような高速モードでは、入力部材2の動力は、次の(C)に示す経路を通って、出力部材3aに伝達される。
(C) 入力部材2 → サンギヤ11a → 出力部材3a
このように、高速モードでは、入力部材2の動力は、減速されることなく、そのまま出力部材3aに伝達される。
【0136】
これに対し、動力伝達経路切換装置5bを、第1摩擦係合装置40aが切断され、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続された第2モードに切り換えることで、2段変速機1aを低速モードに切り換えることができる。この低速モードでは、第1摩擦係合装置40aが切断されることに基づいて、出力部材3aとサンギヤ11aとが互いに相対回転可能になり、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続されることに基づいて、出力部材3aとキャリア13aとが一体的に回転するようになる。このような低速モードでは、入力部材2の動力は、次の(D)に示す経路を通って、出力部材3aに伝達される。
(D) 入力部材2 → サンギヤ11a → ピニオンギヤ14の自転運動 → リングギヤ12aとの噛合に基づくピニオンギヤ14の公転運動→ キャリア13a → 出力部材3a
このように、低速モードでは、入力部材2の動力は、遊星歯車機構4aにより減速されて、出力部材3aに伝達される。
【0137】
本例の動力伝達経路切換装置5bでは、電動アクチュエータ56aの変速用モータ58aに通電し、ウォーム57aを介して、駆動カム48aを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40aおよび第2摩擦係合装置41aの断接状態を切り換える。このため、本例の動力伝達経路切換装置5bも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。
【0138】
本例の2段変速機1bでは、遊星歯車機構4aが、入力部材2の周囲に配置され、かつ、動力伝達経路切換装置5bが、出力部材3aの周囲に配置されているが、本発明の第2態様の2段変速機を実施する場合、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、遊星歯車機構を出力部材の周囲に配置し、かつ、動力伝達経路切換装置を入力部材の周囲に配置することができる。この場合、構成に合わせて、それぞれの部品の形状を適宜変更する。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0139】
上述した実施の形態の第1例~第3例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。具体的には、たとえば、実施の形態の第3例の動力伝達経路切換装置5bにおけるカム装置39bを、実施の形態の第2例のカム装置39aに置き換えることができる。
【0140】
本発明の2段変速機は、電気自動車やハイブリッド自動車の電気駆動系に限らず、各種回転機械装置の回転伝達機構に組み込んで使用することができる。また、本発明の動力伝達経路切換装置は、2段変速機に限らず、各種回転機械装置の回転伝達機構に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0141】
1、1a、1b 2段変速機
2 入力部材
3、3a 出力部材
4、4a 遊星歯車機構
5、5a、5b 動力伝達経路切換装置
6 入力筒状部
7 入力フランジ部
8 雌スプライン部
9 出力筒状部
10、10a 出力フランジ部
11、11a サンギヤ
12、12a リングギヤ
13、13a キャリア
14 ピニオンギヤ
15 小径筒部
16 大径筒部
17、17a フランジ部
18、18a サン側雄スプライン部
19 ギヤ部
20 小径筒部
21 大径筒部
22 円輪部
23 リング側雄スプライン部
24 ギヤ部
25a、25b、25c、25d リム部
26 柱部
27 筒状部
28a、28b、28c、28d 円孔
29 キャリア側雌スプライン部
30 支持軸
31 本体部分
32 ラジアルニードル軸受
33 ギヤ部
34a、34b 止め輪
35 スペーサ
36a、36b スラスト軸受
37 押え板
38 ハウジング
39、39a、39b カム装置
40、40a 第1摩擦係合装置
41、41a 第2摩擦係合装置
42 内径側筒部
43 外径側筒部
44 側板部
45 固定側雄スプライン部
46 固定側雌スプライン部
47 貫通孔
48、48a、48b 駆動カム
49、49a、49b 第1被駆動カム
50、50a、50b 第2被駆動カム
51、51a アンギュラ玉軸受
52、52a 第1駆動カム面
53、53a 第2駆動カム面
54a、54b 平坦面部
55、55a ホイールギヤ部
56、56a 電動アクチュエータ
57、57a ウォーム
58、58a 変速用モータ
59 ウォームギヤ部
60、60a 第1被駆動カム面
61、61a 第1被駆動側雌スプライン部
62、62a 第2被駆動カム面
63、63a 第2被駆動側雄スプライン部
64、64a 第1転動体
65、65a 第2転動体
66、66a 第1フリクションプレート
67、67a 第1セパレートプレート
68、68a 止め輪
69、69a 第1弾性部材
70、70a スラスト転がり軸受
71 キャリア側雄スプライン部
72、72a 第2フリクションプレート
73、73a 第2セパレートプレート
74、74a 止め輪
75、75a 第2弾性部材
76 スペーサ
78 ラジアルニードル軸受
79 スラストニードル軸受
80 係合凸部
81 側板部
82 内径側筒部
83 外径側筒部
84 円孔
85 係合ピン
86 第1被駆動カム溝
87 側板部
88 外径側筒部
89 内径側筒部
90a、90b 直線部
91 傾斜部
92 第2被駆動カム溝
93 小径筒部
94 大径筒部
95 円輪部
96a、96b 直線部
97 傾斜部
98 外径側筒部
99 内径側筒部
100 出力側第1雌スプライン部
101 出力側第2雌スプライン部
102a、102b 通孔
103 筒状部
104 ラジアルニードル軸受
105a、105b スラストニードル軸受
106a、106b、106c、106d 軌道輪
107a、107b 押圧ピン部
108 第1リターンスプリング
109 第2リターンスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-03-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の動力の伝達経路を切り換えるための動力伝達経路切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における化石燃料の消費量低減化の流れを受けて、電気自動車やハイブリッド自動車の研究が進み、一部で実施されている。電気自動車やハイブリッド自動車の動力源である電動モータは、化石燃料を直接燃焼させることにより動く内燃機関(エンジン)とは異なり、出力軸のトルクおよび回転速度の特性が自動車用として好ましい(一般的に、起動時に最大トルクを発生する)ので、必ずしも内燃機関を駆動源とする一般的な自動車のような変速機を設ける必要はない。ただし、電動モータを駆動源とする場合でも、変速機を設けることにより、加速性能および高速性能を改善できる。具体的には、変速機を設けることで、車両の走行速度と加速度との関係を、ガソリンエンジンを搭載し、かつ、動力の伝達系統中に変速機を設けた自動車に近い、滑らかなものにできる。この点について、図14を参照しつつ説明する。
【0003】
たとえば電動モータの出力軸と、駆動輪に繋がるデファレンシャルギヤの入力部との間部分に、減速比の大きな動力伝達装置を配置すると、電気自動車の加速度(G)と走行速度(km/h)との関係は、図14の実線aのようになる。すなわち、低速時の加速性能は優れているが、高速走行ができなくなる。これに対して、前記間部分に減速比の小さな動力伝達装置を配置すると、前記関係は、図14の鎖線bのようになる。すなわち、高速走行は可能になるが、低速時の加速性能が損なわれる。これに対して、前記出力軸と前記入力部との間に変速機を設け、車速に応じてこの変速機の減速比を変えれば、前記実線aのうちで点Pよりも左側部分と、鎖線bのうちで点Pよりも右側部分とを連続させた如き特性を得られる。この特性は、図14に破線cで示した、同程度の出力を有するガソリンエンジン車とほぼ同等であり、加速性能および高速性能に関して、動力の伝達系統中に変速機を設けたガソリンエンジン車と同等の性能を得られることが分かる。
【0004】
特開平5-116549号公報には、電動モータの出力軸のトルクを、1対の遊星歯車機構と1対のブレーキとを組み合わせてなる2段変速機を介して(2段変速機により減速して)デファレンシャルギヤに伝達する、電気自動車用駆動装置の構造が開示されている。この電気自動車用駆動装置では、1対のブレーキの断接状態を切り換えることに基づいて、1対の遊星歯車機構の構成要素が回転可能な状態と回転不能な状態とを切り換えることで、電動モータの出力軸とデファレンシャルギヤとの間の減速比を、高低の2段階に切換可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-116549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平5-116549号公報に記載の装置は、油圧で動作するサーボピストンPL、PHにより、遊星歯車機構の構成要素に支持された摩擦係合要素と、ハウジングに支持された摩擦係合要素とを互いに押し付けることで、ブレーキを接続(係合)するように構成されている。しかしながら、電気自動車やハイブリッド自動車において、システムの簡略化によるコスト低減や電費性能の向上を図るためには、2段変速機の減速比の切り換えを電動アクチュエータにより行い、油圧システムを不要とすることが望まれる。
【0007】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、電動アクチュエータにより動力の伝達経路を切り換えることができる動力伝達経路切換装置の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動力伝達経路切換装置は、
回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記駆動カムに対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カムの回転に伴って、互いに同じ周期かつ異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カムおよび第2被駆動カムとを有するカム装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1フリクションプレートおよび第1セパレートプレートを有する第1摩擦係合装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第2フリクションプレートおよび第2セパレートプレートを有する第2摩擦係合装置と、
を備える。
【0009】
特に本発明の動力伝達経路切換装置では、
前記駆動カムが回転することに伴い、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第1摩擦係合装置が接続され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第2摩擦係合装置が切断される、第1モードと、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第1摩擦係合装置が切断され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第2摩擦係合装置が接続される、第2モードと、
が切り換わる。
【0010】
本発明の動力伝達経路切換装置は、
前記第1被駆動カムと前記第1摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第1被駆動カムと該第1摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記第2被駆動カムと前記第2摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第2被駆動カムと該第2摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第2弾性部材と、
をさらに備えることができる。
【0011】
さらに本発明の動力伝達経路切換装置は、
前記駆動カムは、軸方向側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面および第2駆動カム面を有し、
前記第1被駆動カムは、前記第1駆動カム面と対向する軸方向側面に、第1被駆動カム面を有し、
前記第2被駆動カムは、前記第2駆動カム面と対向する軸方向側面に、第2被駆動カム面を有し、および、
前記カム装置は、前記第1駆動カム面と前記第1被駆動カム面との間に配置された複数個の第1転動体、および、前記第2駆動カム面と前記第2被駆動カム面との間に配置された複数個の第2転動体をさらに備える。
特に本発明の動力伝達経路切換装置では、前記第1駆動カム面と前記第2駆動カム面とは、前記駆動カムのうち、軸方向に関して同じ側の側面に備えられている。
【0012】
本発明の技術的範囲からは外れるが、
前記駆動カムは、径方向に突出する少なくとも1個、好ましくは複数個の係合凸部を備えることができ、
前記第1被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個、好ましくは複数個の第1被駆動カム溝を備え、該第1被駆動カム溝は、少なくとも一部に円周方向に対し傾斜した傾斜部を有することができ、および、
前記第2被駆動カムは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、前記係合凸部が係合する少なくとも1個、好ましくは複数個の第2被駆動カム溝を備え、該第2被駆動カム溝は、軸方向に関して前記第1被駆動カムと対称な開口形状を有することができる。
【0013】
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、かつ、該第1フリクションプレートと該第1セパレートプレートとを互いに交互に配置することができる。前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、かつ、該第2フリクションプレートと該第2セパレートプレートとを互いに交互に配置することができる。
【0014】
前記第1摩擦係合装置は、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリングをさらに有することができる。前記第2摩擦係合装置は、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリングをさらに有することができる。
【0015】
別発明の2段変速機は、
入力部材と、
前記入力部材と同軸に配置された出力部材と、
動力の伝達方向に関して、前記入力部材と前記出力部材との間に配置された遊星歯車機構とを備え、
前記遊星歯車機構は、サンギヤと、前記サンギヤの周囲に該サンギヤと同軸に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと同軸に配置されたキャリアと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛合し、かつ、前記キャリアに、自身の中心軸を中心とする回転を自在に支持された複数個のピニオンギヤとを有し、
前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路を切り換える動力伝達経路切換装置をさらに備える。
【0016】
別発明の2段変速機は、前記動力伝達経路切換装置が、本発明の動力伝達経路切換装置であり、かつ、該動力伝達経路切換装置が、前記駆動カムを回転駆動する電動アクチュエータをさらに備える。
【0017】
前記駆動カムは、外周面にホイールギヤ部を有し、かつ、前記電動アクチュエータは、前記ホイールギヤ部と噛合するウォームと、前記ウォームを回転駆動する変速用モータとを備えることができる。
【0018】
別発明の第1態様の2段変速機は、
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記出力部材が、前記キャリアに対し該キャリアと一体的に回転するように接続されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記キャリアまたは前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、ハウジングなどの使用時にも回転しない部分に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、および、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記リングギヤに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持される。
【0019】
別発明の第2態様の2段変速機は、
前記入力部材が、前記サンギヤに対し該サンギヤと一体的に回転するように接続されており、
前記リングギヤが、ハウジングなどの使用時にも回転しない部分に対し支持固定されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの一方が、前記サンギヤまたは前記入力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの一方が、前記キャリアに対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持されており、
および、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとのうちの他方が、前記出力部材に対し軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に支持される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の動力伝達経路切換装置では、駆動カムを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置および第2摩擦係合装置の断接状態が切り換わり、前記駆動カムは、電動モータなどを含む電動アクチュエータにより回転駆動させることができる。要するに、本発明の動力伝達経路切換装置によれば、電動アクチュエータにより動力の伝達経路を切り換えることができる。また、本発明の動力伝達経路切換装置を備える、別発明の2段変速機によれば、電動アクチュエータにより、入力部材と出力部材との間の減速比を高低の2段階に切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例の2段変速機を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の第1例の2段変速機を示す模式図である。
図3図3(A)は、高速モードでの動力の伝達経路を示す模式図であり、図3(B)は、低速モードでの動力の伝達経路を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第1例について、動力伝達経路切換装置を取り出して示す断面図である。
図5図5は、本発明の実施の形態の第1例について、カム装置および電動アクチュエータを取り出し、かつ、分解して示す斜視図である。
図6図6は、第1駆動カム面と第2駆動カム面との円周方向に関する位相の関係を説明するための図である。
図7図7(A)は、第1摩擦係合装置を取り出して示す断面図であり、図7(B)は、第2摩擦係合装置を取り出して示す断面図である。
図8図8は、参考例の第1例の2段変速機を示す断面図である。
図9図9は、参考例の第1例の第2例について、カム装置および電動アクチュエータを取り出し、かつ、分解して示す斜視図である。
図10図10(A)は、高速モードでの係合凸部と第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝との係合状態を示す図であり、図10(B)は、低速モードでの係合凸部と第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝との係合状態を示す図である。
図11図11は、本発明の実施の形態の第例の2段変速機を示す断面図である。
図12図12は、本発明の実施の形態の第例の2段変速機を示す模式図である。
図13図13(A)は、高速モードでの動力の伝達経路を示す模式図であり、図13(B)は、低速モードでの動力の伝達経路を示す模式図である。
図14図14は、電動モータを駆動源とする駆動装置に変速機を組み込むことによる効果を説明するための線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1図7は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、本発明の動力伝達経路切換装置を、発明の第1態様の2段変速機に適用した例である。本例の2段変速機1は、たとえば、電気自動車やハイブリッド自動車の動力源である電動モータの出力軸と、デファレンシャルギヤとの間に配置されて、前記電動モータの出力軸のトルクを、増大(減速)してから、または、増大(減速)せずにそのままデファレンシャルギヤに伝達する。本例の2段変速機は、入力部材2と、出力部材3と、遊星歯車機構4と、動力伝達経路切換装置5とを備え、かつ、入力部材2と出力部材3との間の減速比を、高低の2段階に切り換え可能に構成されている。
【0023】
入力部材2は、電動モータの出力軸などの駆動軸(図示省略)に接続され、トルク(動力)が入力される。本例では、入力部材2は、入力筒状部6と、該入力筒状部6の軸方向片側(図1図4の右側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった入力フランジ部7とを備える。駆動軸は、たとえば、入力筒状部6の内周面にトルク伝達可能に内嵌されるか、あるいは、入力フランジ部7にボルト締めなどによりトルク伝達可能に結合される。
【0024】
出力部材3は、入力部材2と同軸に配置され、デファレンシャルギヤやプロペラシャフトなどの従動軸(図示省略)に接続され、該従動軸にトルクを出力する。本例では、出力部材3は、内周面に、雌スプライン部8を有する出力筒状部9と、該出力筒状部9の軸方向他側(図1図4の左側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった出力フランジ部10とを備える。従動軸は、先端部外周面に備えられた雄スプライン部を、出力筒状部9の雌スプライン部8とスプライン係合させることにより、出力部材3にトルク伝達可能に接続される。
【0025】
遊星歯車機構4は、動力の伝達方向に関して、入力部材2と出力部材3との間に配置され、かつ、サンギヤ11と、リングギヤ12と、キャリア13と、複数個のピニオンギヤ14とを備える。
【0026】
サンギヤ11は、入力部材2に対し該入力部材2と一体的に回転するように接続されている。本例では、サンギヤ11は、軸方向片側の小径筒部15と、軸方向他側の大径筒部16と、該大径筒部16の軸方向他側の端部から径方向外側に折れ曲がったフランジ部17とを備える。サンギヤ11は、大径筒部16の外周面に、サン側雄スプライン部18を備え、かつ、フランジ部17の外周面に、平歯車またははすば歯車であるギヤ部19を備える。サンギヤ11は、小径筒部15を、入力部材2の入力筒状部6に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により外嵌されている。
【0027】
リングギヤ12は、サンギヤ11の周囲に該サンギヤ11と同軸に、かつ、該サンギヤ11に対する相対回転を可能に支持されている。本例では、リングギヤ12は、軸方向片側の小径筒部20と、軸方向他側の大径筒部21と、該小径筒部20の軸方向他側の端部と該大径筒部21の軸方向片側の端部とを接続する円輪部22とを備える。リングギヤ12は、小径筒部20の外周面に、リング側雄スプライン部23を備え、かつ、大径筒部21の内周面に、平歯車またははすば歯車であるギヤ部24を備える。
【0028】
キャリア13は、サンギヤ11およびリングギヤ12と同軸に支持され、かつ、出力部材3に対し該出力部材3と一体的に回転可能に接続されている。本例では、キャリア13は、それぞれが円輪状で、軸方向に間隔を空けて配置された1対のリム部25a、25bと、該1対のリム部25a、25bのうち、互いに整合する円周方向複数箇所同士の間にかけ渡された柱部26(後述の図11参照)と、該1対のリム部25a、25bのうち、軸方向片側のリム部25aの軸方向片側面の径方向中間部から軸方向片側に向け全周にわたり突出した筒状部27とを備える。
【0029】
キャリア13は、軸方向片側のリム部25aのうち、筒状部27よりも径方向外側に存在する部分の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する円孔28aを備え、かつ、筒状部27の内周面に、キャリア側雌スプライン部29を備える。また、キャリア13は、1対のリム部25a、25bのうち、軸方向他側のリム部25bのうちで、軸方向片側のリム部25aの円孔28aと整合する部分に、軸方向に貫通する円孔28bを備える。キャリア13は、軸方向他側のリム部25bを、出力部材3の出力フランジ部10に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により接続することで、出力部材3と一体的に回転するように構成されている。
【0030】
ピニオンギヤ14のそれぞれは、サンギヤ11とリングギヤ12とに噛合し、かつ、キャリア13に、自身の中心軸を中心とする回転を自在に支持されている。本例では、ピニオンギヤ14のそれぞれは、円柱状の支持軸30の軸方向中間部周囲に、円筒状の本体部分31を、ラジアルニードル軸受32により回転自在に支持してなる。本体部分31は、外周面に、平歯車またははすば歯車であって、サンギヤ11のギヤ部19とリングギヤ12のギヤ部24とに噛合するギヤ部33を備える。支持軸30は、軸方向両側の端部が、キャリア13の円孔28a、28bのそれぞれに内嵌固定されている。
【0031】
なお、本例では、サンギヤ11の大径筒部16の軸方向中間部に係止された止め輪34aにより軸方向片側への変位が阻止されたスペーサ35の軸方向他側面が、軸方向片側のリム部25aの径方向内側部分の軸方向片側面に、スラスト軸受36aを介して突き当てられている。さらに、リングギヤ12の大径筒部21の軸方向他側の端部に係止された止め輪34bにより軸方向他側への変位が阻止された押え板37の径方向内側部分の軸方向片側面が、軸方向他側のリム部25b(出力部材3の出力フランジ部10)の径方向内側部分の軸方向他側面に、スラスト軸受36bを介して突き当てられている。これにより、遊星歯車機構4を組み立てた状態で、サンギヤ11、リングギヤ12、キャリア13およびピニオンギヤ14のそれぞれが分離するのを防止できる。要するに、遊星歯車機構4をサブアッセンブリとして一体的に取り扱うことができる。
【0032】
動力伝達経路切換装置5は、入力部材2と出力部材3との間の動力伝達経路を切り換える。本例の動力伝達経路切換装置5は、使用時にも回転しないハウジング38と、カム装置39と、第1摩擦係合装置40と、第2摩擦係合装置41とを備える。
【0033】
ハウジング38は、内径側筒部42と、外径側筒部43と、該内径側筒部42の軸方向片側の端部と該外径側筒部43の軸方向片側の端部とを接続する円輪状の側板部44とを備える。ハウジング38は、内径側筒部42の外周面に、固定側雄スプライン部45を備え、かつ、外径側筒部43の内周面に、固定側雌スプライン部46を備える。また、ハウジング38は、外径側筒部43の軸方向片側部分に、径方向に貫通し、かつ、円周方向に伸長する貫通孔47をさらに備える。
【0034】
本例では、ハウジング38の内径側筒部42の内周面と、入力部材2の入力筒状部6の外周面との間にラジアルニードル軸受78を配置し、かつ、側板部44の軸方向片側面と、入力フランジ部7の軸方向他側面との間にスラストニードル軸受79を配置することにより、ハウジング38に対し入力部材2が回転自在に支持されている。
【0035】
カム装置39は、回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カム48と、駆動カム48に対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カム48の回転に伴って、互いに異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カム49および第2被駆動カム50とを備える。なお、互いに異なる位相で軸方向に変位するとは、後述するように、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とが、駆動カム48の回転に伴って、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)することを意味している。すなわち、第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向他側に向けて移動するのに対し、第1被駆動カム49が軸方向他側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向片側に向けて移動する。
【0036】
駆動カム48は、円輪形状を有し、かつ、ハウジング38の内径側筒部42の軸方向片側の端部外周面に、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承可能なアンギュラ玉軸受51を介して、回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。
【0037】
駆動カム48は、軸方向他側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相(逆位相)でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53を有する。すなわち、駆動カム48は、軸方向他側面の径方向内側部分に、第1駆動カム面52を有し、かつ、軸方向他側面の径方向外側部分に、第2駆動カム面53を有する。本例では、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、凹部と凸部とを同数ずつ(図示の例では3つずつ)、円周方向に関して交互に、かつ、円周方向に関する位相を半周期(図示の例では60度)ずらせて(逆位相に)配置してなる。すなわち、図6に示すように、円周方向に関して、第1駆動カム面52のうち、凸部の位相と、第2駆動カム面53のうち、凹部の位相とが一致し、かつ、第1駆動カム面52のうち、凹部の位相と、第2駆動カム面53のうち、凸部の位相とが一致している。また、第1駆動カム面52は、凸部の先端面に、駆動カム48の中心軸に直交する平坦面部54aを有し、かつ、第2駆動カム面53は、凸部の先端面に、駆動カム48の中心軸に直交する平坦面部54bを有する。なお、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、図6に示すような、円周方向に関して対称な形状に限らず、種々の形状を採用することができる。
【0038】
駆動カム48は、外周面に、歯筋が弦巻線状のはすば歯車であるホイールギヤ部55をさらに有する。
【0039】
駆動カム48は、電動アクチュエータ56により回転駆動される。電動アクチュエータ56は、ウォーム57と、変速用モータ58とを備える。ウォーム57は、軸方向中間部外周面に、駆動カム48のホイールギヤ部55のうち、ハウジング38の貫通孔47から露出した部分に噛合するウォームギヤ部59を有する。変速用モータ58は、ウォーム57を回転駆動する。すなわち、駆動カム48は、変速用モータ58により、ホイールギヤ部55とウォームギヤ部59とを噛合させてなるウォーム減速機を介して回転駆動される。
【0040】
第1被駆動カム49は、駆動カム48の径方向内側部分に、軸方向に対向して配置されている。第1被駆動カム49は、駆動カム48の第1駆動カム面52に対向する軸方向片側面に、凹部と凸部とを、第1駆動カム面52の凹部および凸部と同数ずつ(本例では3つずつ)、円周方向に関して交互に配置してなる第1被駆動カム面60を有する。ただし、第1駆動カム面52と対向する第1被駆動カム面60は、中心軸に直交する平坦面により構成されることもできる。
【0041】
第1被駆動カム49は、内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61を有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61を、ハウジング38の固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0042】
第2被駆動カム50は、駆動カム48の径方向外側部分に、軸方向に対向して配置されている。第2被駆動カム50は、駆動カム48の第2駆動カム面53に対向する軸方向片側面に、凹部と凸部とを、第2駆動カム面53の凹部および凸部と同数ずつ(本例では3つずつ)、円周方向に関して交互に配置してなる第2被駆動カム面62を有する。ただし、第2駆動カム面53と対向する第2被駆動カム面62は、中心軸に直交する平坦面により構成されることもできる。
【0043】
第2被駆動カム50は、外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63を有し、かつ、該第2被駆動側雄スプライン部63を、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0044】
本例のカム装置39は、第1駆動カム面52と第1被駆動カム面60との間に、転動自在に配置された複数個の第1転動体64、および、第2駆動カム面53と第2被駆動カム面62との間に、転動自在に配置された複数個の第2転動体65をさらに備える。すなわち、本例では、駆動カム48が回転することに伴い、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量が増減することで、第1被駆動カム49が軸方向に変位し、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量が増減することで、第2被駆動カム50が軸方向に変位する。なお、本例では、第1転動体64および第2転動体65として、玉を使用しているが、第1転動体および第2転動体としては、ローラを使用することもできる。
【0045】
本例では、駆動カム48の第1駆動カム面52および第2駆動カム面53のそれぞれは、凹部と凸部とを同数ずつ、円周方向に関して交互に、かつ、円周方向に関する位相を半周期ずらせて(逆位相に)配置してなる。このため、駆動カム48の回転に伴って、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。具体的には、第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向他側に向けて移動するのに対し、第1被駆動カム49が軸方向他側に向けて移動しているときには、第2被駆動カム50は軸方向片側に向けて移動する。
【0046】
第1摩擦係合装置40は、複数枚ずつの第1フリクションプレート66および第1セパレートプレート67を有する。第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置されている。本例では、第1摩擦係合装置40は、サンギヤ11とキャリア13との間に配置され、かつ、それぞれが回転体であるサンギヤ11とキャリア13とが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0047】
第1フリクションプレート66のそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、サンギヤ11のサン側雄スプライン部18にスプライン係合させることにより、サンギヤ11に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0048】
第1セパレートプレート67のそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、キャリア13のキャリア側雌スプライン部29にスプライン係合させることにより、キャリア13に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0049】
第1セパレートプレート67のうち、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67は、キャリア13の筒状部27の軸方向他側の端部に係止された止め輪68により、軸方向他側への変位が阻止されている。
【0050】
第1セパレートプレート67のうち、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、第1被駆動カム49との間には、軸方向片側から順に、第1弾性部材69と、スラスト転がり軸受70とが挟持されている。第1弾性部材69は、第1摩擦係合装置40と、第1被駆動カム49とを、軸方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢する。なお、本例では、第1弾性部材69は、皿ばねにより構成されている。ただし、第1弾性部材69を、ねじりコイルばねなどにより構成することもできる。
【0051】
第1摩擦係合装置40は、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とを互いに離隔させ、該第1フリクションプレート66と該第1セパレートプレート67と互いに押し付け合う力を解放する方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリング108をさらに備える。本例では、第1リターンスプリング108は、図7(A)に示すように、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67との間にかけ渡され、該最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と該最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67とを互いに離れる方向に弾性的に付勢している。
【0052】
第2摩擦係合装置41は、複数枚ずつの第2フリクションプレート72および第2セパレートプレート73を有する。第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置されている。本例では、第2摩擦係合装置41は、リングギヤ12とハウジング38との間に配置され、かつ、リングギヤ12の回転が許容される状態と、阻止される状態とを切り換えるブレーキとして機能する。
【0053】
第2フリクションプレート72のそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、リングギヤ12のリング側雄スプライン部23にスプライン係合させることにより、リングギヤ12に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0054】
第2セパレートプレート73のそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0055】
第2セパレートプレート73のうち、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73は、ハウジング38の外径側筒部43の軸方向他側の端部に係止された止め輪74により、軸方向他側への変位が阻止されている。
【0056】
第2セパレートプレート73のうち、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、第2被駆動カム50との間には、軸方向片側から順に、第2弾性部材75と、略L字形の断面形状を有するスペーサ76とが挟持されている。第2弾性部材75は、第2摩擦係合装置41と、第2被駆動カム50とを、軸方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢する。なお、本例では、第2弾性部材75は、皿ばねにより構成されている。ただし、第2弾性部材75を、ねじりコイルばねなどにより構成することもできる。
【0057】
第2摩擦係合装置41は、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とを互いに離隔させ、該第2フリクションプレート72と該第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力を解放する方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリング109をさらに備える。本例では、第2リターンスプリング109は、図7(B)に示すように、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73との間にかけ渡されて、該最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と該最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73とを互いに離れる方向に弾性的に付勢している。
【0058】
動力伝達経路切換装置5は、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41との断接状態を切り換える。本例の動力伝達経路切換装置5は、具体的には、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードとを切り換える。以下、それぞれの場合について、説明する。
【0059】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、図6に二点鎖線で示すように、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量を増大させることで、第1被駆動カム49を、駆動カム48との軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて変位させ、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量を減少させることで第2被駆動カム50を、駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて変位させる。なお、本例では、動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換えた状態(第1モードへの切り換えが完了した状態)で、第1転動体64は、第1駆動カム面52の平坦面部54aに乗り上げている。
【0060】
第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて変位すると、第1弾性部材69およびスラスト転がり軸受70を介して、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67が軸方向他側に向けて押圧される。これに基づいて、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合うことで、第1摩擦係合装置40が接続される。
【0061】
一方、第2被駆動カム50が軸方向片側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、第2リターンスプリング109の作用により、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、最も軸方向他側に存在する第2セパレートプレート73との間隔が拡がることで、第2摩擦係合装置41が切断される。
【0062】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動し、図6に一点鎖線で示すように、第1転動体64の、第1駆動カム面52の凹部の底部から乗り上げ量および第1被駆動カム面60の凹部の底部からの乗り上げ量を減少させることで、第1被駆動カム49を、駆動カム48との軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて変位させ、かつ、第2転動体65の、第2駆動カム面53の凹部の底部から乗り上げ量および第2被駆動カム面62の凹部の底部からの乗り上げ量を増大させることで第2被駆動カム50を、駆動カム48との軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて変位させる。なお、本例では、動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換えた状態(第2モードへの切り換えが完了した状態)で、第2転動体65は、第2駆動カム面53の平坦面部54bに乗り上げている。
【0063】
第1被駆動カム49が軸方向片側に向けて変位し、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、第1リターンスプリング108の作用により、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と、最も軸方向他側に存在する第1セパレートプレート67との間隔が拡がることで、第1摩擦係合装置40が切断される。
【0064】
一方、第2被駆動カム50が軸方向他側に向けて変位すると、第2弾性部材75およびスペーサ76を介して、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73が軸方向他側に向けて押圧される。これに基づいて、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合うことで、第2摩擦係合装置41が接続される。
【0065】
本例の2段変速機1は、動力伝達経路切換装置5の動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。以下、それぞれの場合について説明する。
【0066】
<高速モード>
2段変速機1を高速モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動することに基づいて、動力伝達経路切換装置5を、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードに切り換える。動力伝達経路切換装置5が第1モードに切り換わると、第1摩擦係合装置40が接続されることに基づいて、サンギヤ11とキャリア13とが一体的に回転するようになり、かつ、第2摩擦係合装置41が切断されることに基づいて、ハウジング38に対するリングギヤ12の回転が許容される。このような高速モードでは、サンギヤ11とリングギヤ12とキャリア13との回転方向および回転速度が同じとなり、遊星歯車機構4全体が一体となって回転する、所謂のり付け状態となる。したがって、入力部材2の動力は、次の(A)に示す経路を通って、出力部材3に伝達される。
(A) 入力部材2 → キャリア13 → 出力部材3
このように、高速モードでは、入力部材2の動力は、減速されることなく、そのまま出力部材3に伝達される。換言すれば、高速モードでは、入力部材2と出力部材3との間の減速比は1である。
【0067】
<低速モード>
2段変速機1を低速モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56により駆動カム48を回転駆動することに基づいて、動力伝達経路切換装置5を、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第1モードに切り換える。動力伝達経路切換装置5が第2モードに切り換わると、第1摩擦係合装置40が切断されることに基づいて、サンギヤ11とキャリア13とが相対回転可能になり、かつ、第2摩擦係合装置41が接続されることに基づいて、ハウジング38に対するリングギヤ12の回転が阻止される。このような低速モードでは、入力部材2の動力は、次の(B)に示す経路を通って、出力部材3に伝達される。
(B) 入力部材2 → サンギヤ11 → ピニオンギヤ14の自転運動 → リングギヤ12との噛合に基づくピニオンギヤ14の公転運動→ キャリア13 → 出力部材3
このように、低速モードでは、入力部材2の動力は、遊星歯車機構4により減速されて、出力部材3に伝達される。なお、低速モードにおける、入力部材2と出力部材3との間の減速比は、リングギヤ12とサンギヤ11との歯車比(リングギヤ12のギヤ部24の歯数/サンギヤ11のギヤ部19の歯数)により決定される。
【0068】
上述のように、本例の2段変速機1では、動力伝達経路切換装置5の動作モードを切り換える、すなわち、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比を高低の2段階に切り換えることができる。具体的には、入力部材2に入力される動力が低速かつ高トルクの領域では、2段変速機1を低速モードに切り換え、高速かつ低トルクの領域では、高速モードに切り換える。このため、電気自動車や、ハイブリッド自動車が電動モータのみを駆動源として走行している際の加速性能および高速性能を、前述の図14の実線aのうちで点Pよりも左側部分と、鎖線bのうちで点Pよりも右側部分とを連続させた如き特性であって、図14に破線cで示したガソリンエンジン車に近いものとすることができる。
【0069】
特に、本例の動力伝達経路切換装置5では、電動アクチュエータ56の変速用モータ58に通電し、ウォーム57を介して、駆動カム48を回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換える。すなわち、本例の動力伝達経路切換装置5では、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。このため、電気自動車やハイブリッド自動車において、システムを簡略化してコストを低減でき、かつ、電費性能を向上することができる。
【0070】
また、低速モードと高速モードとの間でモードを切り換えるべく、駆動カム48を回転駆動すると、第1被駆動カム49と第2被駆動カム50とは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。したがって、モード切換時には、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41のうちの一方の摩擦係合装置の締結力を大きくするほど、他方の摩擦係合装置の締結力は小さくなる。このため、モード切換に基づく変速ショックを抑えることができて、自動車の乗員に不快感を与えることを防止できる。
【0071】
本例では、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67と第1被駆動カム49との間に、第1弾性部材69が配置され、かつ、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73と、第2被駆動カム50との間に、第2弾性部材75が配置されている。したがって、動力伝達経路切換装置5の組立誤差や、第1フリクションプレート66、第1セパレートプレート67、第2フリクションプレート72および第2セパレートプレート73の摩耗に伴うずれを、第1弾性部材69と第2弾性部材75とにより吸収することができる。このため、第1被駆動カム49を押圧する力(最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67に対する第1被駆動カム49の軸方向他側への押し付け力)を制御することにより、第1摩擦係合装置40の締結力を制御することができ、かつ、第2被駆動カム50を押圧する力(最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73に対する第2被駆動カム50の軸方向他側への押し付け力)を制御することにより、第2摩擦係合装置41の締結力を制御することができる。この結果、高速モードにおいては、第1摩擦係合装置40の締結力を十分に確保することができ、かつ、低速モードにおいては、第2摩擦係合装置41の締結力を十分に確保することができる。
【0072】
本例では、動力伝達経路切換装置5を第1モードに切り換え、第1摩擦係合装置40を接続した状態では、第1転動体64は、第1駆動カム面52の凸部の先端面に備えられた平坦面部54aに乗り上げる。一方、動力伝達経路切換装置5を第2モードに切り換え、第2摩擦係合装置41を接続した状態では、第2転動体65は、第2駆動カム面53の凸部の先端面に備えられた平坦面部54bに乗り上げる。このため、本例の動力伝達経路切換装置5によれば、モード切換完了後、変速用モータ58への通電を停止しても、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持することができ、この面からも電費性能を向上することができる。
【0073】
なお、第1駆動カム面52および第2駆動カム面53の凸部の先端面に平坦面部54a、54bを備えることに代えて、または、該平坦面部54a、54bを備えることに加えて、駆動カム48のホイールギヤ部55とウォーム57のウォームギヤ部59とからなるウォーム減速機にセルフロック機能を持たせることで、変速用モータ58への通電停止後にも、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持できるようにすることもできる。
【0074】
なお、本例の2段変速機1では、遊星歯車機構4が、出力部材3の周囲に配置され、かつ、動力伝達経路切換装置5が、入力部材2の周囲に配置されているが、本発明の第1態様の2段変速機を実施する場合、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、遊星歯車機構を入力部材の周囲に配置し、かつ、動力伝達経路切換装置を出力部材の周囲に配置することができる。あるいは、遊星歯車機構および/または動力伝達経路切換装置を、入力部材または出力部材と径方向に重畳させることなく配置することもできる。いずれにしても、それぞれの構成に合わせて、それぞれの部品の形状を適宜変更する。
【0075】
また、本例の動力伝達経路切換装置5のカム装置39は、駆動カム48と、第1被駆動カム49および第2被駆動カム50との間にそれぞれ、第1転動体64と第2転動体65とが挟持されている。ただし、本発明の動力伝達経路切換装置を実施する場合、駆動カムの回転に伴い、第1被駆動カムと第2被駆動カムとを軸方向に関して互いに反対方向に変位させることができれば、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、駆動カムに備えられた第1駆動カム面および第2駆動カム面と、第1被駆動カムに備えられた第1被駆動カム面および第2被駆動カムに備えられた第2被駆動カム面とを直接摺接させることもできる。
【0076】
参考例の第1例
図8図10(B)は、本発明の参考例の第1例を示している。本参考例は、本発明の技術的範囲から外れた別発明の動力伝達経路切換装置を、発明の第1態様の2段変速機に適用した例である。すなわち、本参考例の2段変速機1aは、動力伝達経路切換装置5aのカム装置39aの構造が、実施の形態の第1例のカム装置39の構造と異なる。
【0077】
本参考例のカム装置39aは、駆動カム48aと、第1被駆動カム49aおよび第2被駆動カム50aとを有する。
【0078】
駆動カム48aは、径方向に突出する複数個(たとえば3個または4個)の係合凸部80を備える。本参考例では、駆動カム48aは、円輪状の側板部81と、該側板部81の径方向内側の端部から軸方向他側に向けて折れ曲がった内径側筒部82と、該側板部81の径方向外側部分から軸方向他側に向けて全周にわたり突出した外径側筒部83とを備える。駆動カム48aは、外径側筒部83の円周方向複数箇所に、該外径側筒部83を径方向に貫通する円孔84をさらに備え、該円孔84のそれぞれには係合ピン85が圧入されている。本参考例では、係合凸部80は、係合ピン85のうち、外径側筒部83の内周面よりも径方向内側に突出した部分により構成されている。また、駆動カム48aは、側板部81の外周面に、歯筋が弦巻線状のはすば歯車であるホイールギヤ部55aをさらに有する。
【0079】
なお、駆動カム48aは、内径側筒部82の内周面と、ハウジング38の内径側筒部42の軸方向片側の端部外周面とのアンギュラ玉軸受51を配置することにより、ハウジング38に対し回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。
【0080】
第1被駆動カム49aは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、係合凸部80が係合する複数の第1被駆動カム溝86を有する。本参考例では、第1被駆動カム49aは、円輪状の側板部87と、該側板部87の径方向外側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった外径側筒部88と、該側板部87の径方向中間部から軸方向他側に向けて全周にわたり突出した内径側筒部89とを備える。
【0081】
第1被駆動カム溝86のそれぞれは、外径側筒部88の外周面に形成されている。第1被駆動カム溝86は、径方向外側から見て、円周方向片側(図10(A)および図10(B)の上側)かつ軸方向片側に配置された直線部90aと、円周方向他側(図10(A)および図10(B)の下側)かつ軸方向他側に配置された直線部90bと、該直線部90aの円周方向他側の端部と該直線部90bの円周方向片側の端部とを接続する傾斜部91とを有する。すなわち、傾斜部91は、径方向外側から見て、円周方向片側から他側に向かうほど、軸方向片側から他側に向かう方向に傾斜している。
【0082】
なお、第1被駆動カム溝86のそれぞれは、外径側筒部88の外周面にのみ開口し、該外径側筒部88の内周面には開口していない。すなわち、本参考例では、第1被駆動カム溝86は、凹溝により構成されている。ただし、第1被駆動カム溝86は、外径側筒部88を径方向に貫通するように形成することもできる。
【0083】
第1被駆動カム49aは、側板部87の内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61aを有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61aを、ハウジング38の固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38に対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0084】
第2被駆動カム50aは、円周方向に伸長するように形成され、かつ、係合凸部80が係合する複数の第2被駆動カム溝92を有する。本参考例では、第2被駆動カム50aは、軸方向片側の小径筒部93と、軸方向他側の大径筒部94と、該小径筒部93の軸方向他側の端部と該大径筒部94の軸方向片側の端部とを接続する円輪部95とを備える。
【0085】
第2被駆動カム溝92のそれぞれは、小径筒部93に、該小径筒部93を径方向に貫通するように形成されている。第2被駆動カム溝92は、軸方向に関して第1被駆動カム溝86と対称な開口形状を有する。すなわち、第2被駆動カム溝92は、径方向外側から見て、円周方向片側かつ軸方向他側に配置された直線部96aと、円周方向他側かつ軸方向片側に配置された直線部96bと、該直線部96aの円周方向他側の端部と該直線部96bの円周方向片側の端部とを接続する傾斜部97とを有する。すなわち、傾斜部97は、径方向外側から見て、円周方向片側から他側に向かうほど、軸方向他側から片側に向かう方向に傾斜している。
【0086】
第2被駆動カム50aは、大径筒部94の軸方向片側の端部外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63aを有する。第2被駆動カム50aは、第2被駆動側雄スプライン部63aを、ハウジング38の固定側雌スプライン部46にスプライン係合させることにより、軸方向変位のみを可能に、ハウジング38に対し支持されている。
【0087】
本参考例のカム装置39aでは、駆動カム48aの係合凸部80の中間部が、第2被駆動カム50aの第2被駆動カム溝92に係合(挿通)し、かつ、係合凸部80の先端部(径方向内側の端部)が、第1被駆動カム49aの第1被駆動カム溝86に係合している。したがって、電動アクチュエータ56により、駆動カム48aを回転させることに伴い、係合凸部80が円周方向に移動すると、該係合凸部80が、第1被駆動カム溝86および第2被駆動カム溝92の内側で移動できるよう、第1被駆動カム49aおよび第2被駆動カム50aが軸方向に変位(進退)する。ここで、第1被駆動カム溝86と第2被駆動カム溝92とは、軸方向に関して互いに対称な開口形状を有するため、駆動カム48aの回転に伴い、第1被駆動カム49aと第2被駆動カム50aとは、軸方向に関して互いに反対方向に変位(進退)する。
【0088】
本参考例の動力伝達経路切換装置5aも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、第1被駆動カム49aと第2被駆動カム50aとを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40と第2摩擦係合装置41との断接状態を切り換える。すなわち、動力伝達経路切換装置5aは、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードとを切り換える。
【0089】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5aを第1モードに切り換えるべく、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、係合凸部80を円周方向片側に変位(移動)させると、第1被駆動カム49aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向他側)に向けて移動し、かつ、第2被駆動カム50aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)軸方向片側に向けて移動する。この結果、図10(A)に示すように、係合凸部80が、第1被駆動カム溝86のうち、軸方向片側に配置された直線部90aと、第2被駆動カム溝92のうち、軸方向他側に配置された直線部96aとに係合する。換言すれば、係合凸部80が円周方向片側に変位すると、該係合凸部80と第1被駆動カム溝86との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向他側に向けて移動し(案内され)、かつ、係合凸部80と第2被駆動カム溝92との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向片側に向けて移動する(案内される)。
【0090】
第1被駆動カム49aが、軸方向他側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合い、第1摩擦係合装置40が接続される。これと同時に、第2被駆動カム50aが軸方向片側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合う力が解放され、第2摩擦係合装置41が切断される。
【0091】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5aを第2モードに切り換えるべく、電動アクチュエータ56により駆動カム48aを回転駆動し、係合凸部80を円周方向他側に変位(移動)させると、第1被駆動カム49aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向片側)に向けて移動し、かつ、第2被駆動カム50aが、駆動カム48aとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)軸方向片側に向けて移動する。この結果、図10(B)に示すように、係合凸部80が、第1被駆動カム溝86のうち、軸方向他側に配置された直線部90bと、第2被駆動カム溝92のうち、軸方向片側に配置された直線部96bとに係合する。換言すれば、係合凸部80が円周方向他側に変位すると、該係合凸部80と第1被駆動カム溝86との係合に伴って、第1被駆動カム49aが軸方向片側に向けて移動し(案内され)、かつ、係合凸部80と第2被駆動カム溝92との係合に伴って、第2被駆動カム50aが軸方向他側に向けて移動する(案内される)。
【0092】
第1被駆動カム49aが、軸方向片側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66と第1セパレートプレート67とが互いに押し付け合う力が解放され、第1摩擦係合装置40が切断される。これと同時に、第2被駆動カム50aが軸方向他側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72と第2セパレートプレート73とが互いに押し付け合い、第2摩擦係合装置41が接続される。
【0093】
本例の2段変速機1aは、動力伝達経路切換装置5aの動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3との間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。具体的には、動力伝達経路切換装置5aを、第1摩擦係合装置40が接続され、かつ、第2摩擦係合装置41が切断された第1モードに切り換えることで、2段変速機1aを高速モードに切り換えることができる。これに対し、動力伝達経路切換装置5aを、第1摩擦係合装置40が切断され、かつ、第2摩擦係合装置41が接続された第2モードに切り換えることで、2段変速機1aを低速モードに切り換えることができる。
【0094】
本参考例の動力伝達経路切換装置5aでは、電動アクチュエータ56の変速用モータ58に通電し、ウォーム57を介して、駆動カム48aを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40および第2摩擦係合装置41の断接状態を切り換える。このため、本参考例の動力伝達経路切換装置5aも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。
【0095】
また、本参考例では、動力伝達経路切換装置5aを第1モードに切り換えた状態では、係合凸部80は、第1被駆動カム溝86の直線部90aと、第2被駆動カム溝92の直線部96aとに係合する。一方、動力伝達経路切換装置5aを第2モードに切り換えた状態では、係合凸部80は、第1被駆動カム溝86の直線部90bと、第2被駆動カム溝92の直線部96bとに係合する。このため、本参考例の動力伝達経路切換装置5aによれば、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、モード切換完了後、変速用モータ58への通電を停止しても、第1摩擦係合装置40の接続状態または第2摩擦係合装置41の接続状態を維持することができ、この面からも電費性能を向上することができる。
【0096】
なお、本参考例では、第1被駆動カム溝86が、1対の直線部90aと傾斜部91とから構成され、かつ、第2被駆動カム溝92が、1対の直線部96bと傾斜部97とから構成されている。ただし、本発明の第2態様の動力伝達経路切換装置を実施する場合、駆動カムの回転に伴い、第1被駆動カムと第2被駆動カムとを軸方向に関して互いに反対方向に変位させることができれば、第1被駆動カム溝および第2被駆動カム溝の形状は任意の形状を採用することができる。その他の部分の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同様である。
【0097】
[実施の形態の第例]
図11図13(B)は、本発明の実施の形態の第例を示している。本例は、本発明の動力伝達経路切換装置を、発明の第2態様の2段変速機に適用した例である。本例の2段変速機1bは、入力部材2と、該入力部材2と同軸かつ相対回転可能に支持された出力部材3aと、動力の伝達方向に関して、入力部材2と出力部材3aとの間に配置された遊星歯車機構4aと、入力部材2と出力部材3aとの間の動力伝達経路を切り換える動力伝達経路切換装置5bとを備える。
【0098】
出力部材3aは、内周面に、雌スプライン部8を有する出力筒状部9と、該出力筒状部9の軸方向片側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった出力フランジ部10aと、該出力フランジ部10aの径方向外側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった外径側筒部98と、該出力フランジ部10aの径方向中間部から軸方向片側に向けて全周にわたり突出した内径側筒部99とを備える。出力部材3aは、内径側筒部99の内周面に、出力側第1雌スプライン部100を有し、かつ、外径側筒部98の内周面に、出力側第2雌スプライン部101を有する。さらに、出力部材3aは、出力フランジ部10aの径方向内側部分および径方向外側部分の円周方向複数箇所ずつに、該出力フランジ部10aを軸方向に貫通する通孔102a、102bを有する。
【0099】
遊星歯車機構4aは、サンギヤ11aと、リングギヤ12aと、キャリア13aと、複数個のピニオンギヤ14とを備える。
【0100】
サンギヤ11aは、入力部材2に対し該入力部材2と一体的に回転するように接続されている。本例では、サンギヤ11aは、筒状部103と、該筒状部103の軸方向片側の端部から径方向外側に折れ曲がったフランジ部17aとを備える。サンギヤ11aは、筒状部103の外周面に、サン側雄スプライン部18aをさらに備え、かつ、フランジ部17aの外周面にギヤ部19をさらに備える。サンギヤ11aは、筒状部103を、入力部材2の入力筒状部6に、スプライン係合などのトルク伝達可能な構造により外嵌されている。
【0101】
リングギヤ12aは、サンギヤ11aの周囲に該サンギヤ11aと同軸に、かつ、該サンギヤ11aに対する相対回転を可能に支持されている。本例では、リングギヤ12aは、小径筒部20aと、該小径筒部20aの周囲に該小径筒部20aと同軸に配置された大径筒部21aと、該小径筒部20aの軸方向片側の端部と該大径筒部21aの軸方向片側の端部とを接続する円輪部22aとを備える。リングギヤ12aは、大径筒部21aの内周面にギヤ部24をさらに備える。
【0102】
本例では、リングギヤ12aは、図示しないハウジングなど、使用時にも回転しない部分に対し回転不能に内嵌されている。すなわち、リングギヤ12aは、使用時にも回転しない(回転が阻止されている)。
【0103】
なお、本例では、小径筒部20aの内周面と入力部材2の入力筒状部6の外周面との間にラジアルニードル軸受104が配置され、かつ、小径筒部20aの軸方向両側の端面と、入力部材2の入力フランジ部7の軸方向他側面およびサンギヤ11aのフランジ部17aの軸方向片側面との間にスラストニードル軸受105a、105bがそれぞれ配置されている。これにより、入力部材2が、リングギヤ12aの内径側に、該リングギヤ12aに対する回転を自在に支持されている。
【0104】
キャリア13aは、サンギヤ11aおよびリングギヤ12aと同軸かつ相対回転可能に支持されている。本例では、キャリア13aは、それぞれが円輪状で、軸方向に間隔を空けて配置された1対のリム部25c、25dと、該1対のリム部25c、25dのうち、互いに整合する円周方向複数箇所同士の間にかけ渡された柱部26と、該1対のリム部25c、25dのうち、軸方向他側のリム部25cの軸方向他側面の径方向中間部から軸方向他側に向け全周にわたり突出した筒状部27aとを備える。
【0105】
キャリア13aは、軸方向他側のリム部25cのうち、筒状部27aよりも径方向外側に存在する部分の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する円孔28cを備え、かつ、筒状部27aの外周面に、キャリア側雄スプライン部71を備える。また、キャリア13aは、1対のリム部25c、25dのうち、軸方向片側のリム部25dのうちで、軸方向他側のリム部25cの円孔28cと整合する部分に、軸方向に貫通する円孔28dを備える。
【0106】
ピニオンギヤ14のそれぞれは、支持軸30の軸方向両側の端部を、キャリア13aの円孔28c、28dのそれぞれに内嵌固定し、かつ、支持軸30に回転自在に支持された本体部分31の外周面に備えられたギヤ部33を、サンギヤ11aのギヤ部19とリングギヤ12aのギヤ部24とに噛合させている。
【0107】
動力伝達経路切換装置5bは、使用時にも回転しないハウジング38aと、カム装置39bと、第1摩擦係合装置40aと、第2摩擦係合装置41aとを備える。
【0108】
ハウジング38aは、内径側筒部42aと、外径側筒部43aと、該内径側筒部42aの軸方向他側の端部と該外径側筒部43aの軸方向他側の端部とを接続する円輪状の側板部44aとを備える。ハウジング38aは、内径側筒部42aの外周面に、固定側雄スプライン部45aを備え、かつ、外径側筒部43aの内周面に、固定側雌スプライン部46aを備える。また、ハウジング38aは、外径側筒部43aの軸方向他側部分に、貫通孔47aをさらに備える。
【0109】
カム装置39aは、駆動カム48bと、第1被駆動カム49bおよび第2被駆動カム50bとを有する。
【0110】
駆動カム48bは、円輪形状を有し、かつ、ハウジング38aの内径側筒部42aの軸方向他側の端部外周面に、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承可能なアンギュラ玉軸受51aを介して、回転自在に、かつ、軸方向変位を不能に支持されている。また、駆動カム48aは、軸方向片側面の径方向内側部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第1駆動カム面52aを有し、かつ、軸方向片側面の径方向外側部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第2駆動カム面53aを有する。
【0111】
駆動カム48aは、電動アクチュエータ56aにより回転駆動される。すなわち、駆動カム48aの外周面に備えられたホイールギヤ部55aのうち、ハウジング38aの貫通孔47aから露出した部分には、ウォーム57aのウォームギヤ部59aが噛合されている。ウォーム57aは、変速用モータ58aの出力軸に接続されている。
【0112】
第1被駆動カム49aは、駆動カム48aの径方向内側部分に、軸方向に対向して配置され、かつ、軸方向他側面のうち、第1駆動カム面52aに対向する部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第1被駆動カム面60aを有する。
【0113】
第1被駆動カム49aは、内周面に、第1被駆動側雌スプライン部61aを有し、かつ、該第1被駆動側雌スプライン部61aを、ハウジング38aの固定側雄スプライン部45にスプライン係合させることにより、ハウジング38aに対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0114】
第2被駆動カム50aは、駆動カム48aの径方向外側部分に、軸方向に対向して配置され、かつ、軸方向他側面のうち、第2駆動カム面53aに対向する部分に、凹部と凸部とを円周方向に関して交互に配置してなる第2被駆動カム面62aを有する。
【0115】
第2被駆動カム50aは、外周面に、第2被駆動側雄スプライン部63aを有し、かつ、該第2被駆動側雄スプライン部63aを、ハウジング38aの固定側雌スプライン部46aにスプライン係合させることにより、ハウジング38aに対し軸方向変位のみを可能に支持されている。
【0116】
カム装置39aは、第1駆動カム面52aと第1被駆動カム面60aとの間に、転動自在に配置された複数個の第1転動体64a、および、第2駆動カム面53aと第2被駆動カム面62aとの間に、転動自在に配置された複数個の第2転動体65aをさらに備える。
【0117】
第1摩擦係合装置40aは、それぞれ略円輪状で、軸方向に交互に配置された複数枚ずつの第1フリクションプレート66aおよび第1セパレートプレート67aを有する。本例では、第1摩擦係合装置40aは、それぞれが回転体である出力部材3aとサンギヤ11aとの間に配置され、かつ、出力部材3aとサンギヤ11aとが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0118】
第1フリクションプレート66aのそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、サンギヤ11aのサン側雄スプライン部18aにスプライン係合させることにより、サンギヤ11aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0119】
第1フリクションプレート66aのうち、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aと、第1被駆動カム49aとの間には、軸方向他側から順に、第1弾性部材69aと、スラスト転がり軸受70aとが配置されている。なお、本例では、第1弾性部材69aは、皿ばねにより構成されている。スラスト転がり軸受70aは、1対の軌道輪106a、106bを備える。1対の軌道輪106a、106bのうち、軸方向片側の軌道輪106aは、軸方向片側面から軸方向片側に向けて突設された押圧ピン部107aを有し、かつ、該押圧ピン部107aを、出力部材3aの通孔102aに挿通し、先端部を、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aの軸方向他側面に対向させている。
【0120】
第1セパレートプレート67aのそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、出力部材3aの出力側第1雌スプライン部100にスプライン係合させることにより、出力部材3aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0121】
第1セパレートプレート67aのうち、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67aは、出力部材3aの内径側筒部99の軸方向片側の端部に係止された止め輪68aにより、軸方向片側への変位が阻止されている。
【0122】
第2摩擦係合装置41aは、それぞれが略円輪状で、軸方向に交互に配置された複数枚ずつの第2フリクションプレート72aおよび第2セパレートプレート73aを有する。本例では、第2摩擦係合装置41aは、それぞれが回転体である出力部材3aとキャリア13aとの間に配置され、かつ、出力部材3aとキャリア13aとが、一体的に回転する状態と、互いに相対回転する状態とを切り換えるクラッチとして機能する。
【0123】
第2フリクションプレート72aのそれぞれは、内周面に雌スプライン部を有し、かつ、該雌スプライン部を、キャリア13aのキャリア側雄スプライン部71にスプライン係合させることにより、キャリア13aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0124】
第2フリクションプレート72aのうち、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aと、第2被駆動カム50aとの間には、軸方向他側から順に、第2弾性部材75aと、スラスト転がり軸受70bとが配置されている。なお、本例では、第2弾性部材75aは、皿ばねにより構成されている。スラスト転がり軸受70bは、1対の軌道輪106c、106dを備える。1対の軌道輪106c、106dのうち、軸方向片側の軌道輪106cは、軸方向片側面から軸方向片側に向けて突設された押圧ピン部107bを有し、かつ、該押圧ピン部107bを、出力部材3aの通孔102bに挿通し、先端部を、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aの軸方向他側面に対向させている。
【0125】
第2セパレートプレート73aのそれぞれは、外周面に雄スプライン部を有し、かつ、該雄スプライン部を、出力部材3aの出力側第2雌スプライン部101にスプライン係合させることにより、出力部材3aに対し軸方向の変位のみを可能に支持されている。
【0126】
第2セパレートプレート73aのうち、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73aは、出力部材3aの外径側筒部98の軸方向片側の端部に係止された止め輪74aにより、軸方向片側への変位が阻止されている。
【0127】
本例の動力伝達経路切換装置5bは、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動し、第1被駆動カム49bと第2被駆動カム50bとを軸方向に変位させることに基づいて、第1摩擦係合装置40aが接続され、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断された第1モードと、第1摩擦係合装置40aが切断され、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続された第2モードとを切り換える。
【0128】
<第1モード>
動力伝達経路切換装置5bを第1モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動することに基づいて、第1被駆動カム49bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)に向けて変位させ、かつ、第2被駆動カム50bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向他側)に向けて変位させる。
【0129】
第1被駆動カム49bが軸方向片側に向けて変位すると、押圧ピン部107aにより、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aが軸方向片側に向けて押圧される。これに基づいて、第1フリクションプレート66aと第1セパレートプレート67aとが互いに押し付け合うことで、第1摩擦係合装置40aが接続される。
【0130】
第2被駆動カム50bが軸方向他側に向けて変位すると、第2フリクションプレート72aと第2セパレートプレート73aとが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aと、最も軸方向片側に存在する第2セパレートプレート73aとの間隔が拡がることで、第2摩擦係合装置41bが切断される。
【0131】
<第2モード>
動力伝達経路切換装置5bを第2モードに切り換えるには、電動アクチュエータ56aにより駆動カム48bを回転駆動することに基づいて、第1被駆動カム49bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が縮まる方向(軸方向他側)に向けて変位させ、かつ、第2被駆動カム50bを、駆動カム48bとの軸方向間隔が拡がる方向(軸方向片側)に向けて変位させる。
【0132】
第1被駆動カム49bが軸方向他側に向けて変位すると、第1フリクションプレート66aと第1セパレートプレート67aとが互いに押し付け合う力が解放される。この結果、最も軸方向他側に存在する第1フリクションプレート66aと、最も軸方向片側に存在する第1セパレートプレート67aとの間隔が拡がることで、第1摩擦係合装置40aが切断される。
【0133】
第2被駆動カム50が軸方向片側に向けて変位すると、押圧ピン部107bにより、最も軸方向他側に存在する第2フリクションプレート72aが軸方向片側に向けて押圧される。これに基づいて、第2フリクションプレート72aと第2セパレートプレート73aとが互いに押し付け合うことで、第2摩擦係合装置41aが接続される。
【0134】
本例の2段変速機1bは、動力伝達経路切換装置5bの動作モードを切り換えることにより、入力部材2と出力部材3aとの間の減速比が小さい(減速比が1である)高速モードと、該高速モードに比べて減速比が大きい低速モードとを切り換える。
【0135】
具体的には、動力伝達経路切換装置5bを、第1摩擦係合装置40aが接続され、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断された第1モードに切り換えることで、2段変速機1bを高速モードに切り換えることができる。この高速モードでは、第1摩擦係合装置40aが接続されることに基づいて、出力部材3aとサンギヤ11aとが一体的に回転するようになり、かつ、第2摩擦係合装置41aが切断されることに基づいて、出力部材3aとキャリア13aとが相対回転可能になる。このような高速モードでは、入力部材2の動力は、次の(C)に示す経路を通って、出力部材3aに伝達される。
(C) 入力部材2 → サンギヤ11a → 出力部材3a
このように、高速モードでは、入力部材2の動力は、減速されることなく、そのまま出力部材3aに伝達される。
【0136】
これに対し、動力伝達経路切換装置5bを、第1摩擦係合装置40aが切断され、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続された第2モードに切り換えることで、2段変速機1aを低速モードに切り換えることができる。この低速モードでは、第1摩擦係合装置40aが切断されることに基づいて、出力部材3aとサンギヤ11aとが互いに相対回転可能になり、かつ、第2摩擦係合装置41aが接続されることに基づいて、出力部材3aとキャリア13aとが一体的に回転するようになる。このような低速モードでは、入力部材2の動力は、次の(D)に示す経路を通って、出力部材3aに伝達される。
(D) 入力部材2 → サンギヤ11a → ピニオンギヤ14の自転運動 → リングギヤ12aとの噛合に基づくピニオンギヤ14の公転運動→ キャリア13a → 出力部材3a
このように、低速モードでは、入力部材2の動力は、遊星歯車機構4aにより減速されて、出力部材3aに伝達される。
【0137】
本例の動力伝達経路切換装置5bでは、電動アクチュエータ56aの変速用モータ58aに通電し、ウォーム57aを介して、駆動カム48aを回転させることに基づいて、第1摩擦係合装置40aおよび第2摩擦係合装置41aの断接状態を切り換える。このため、本例の動力伝達経路切換装置5bも、実施の形態の第1例の動力伝達経路切換装置5と同様に、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置を制御するための油圧システムが必要ない。
【0138】
本例の2段変速機1bでは、遊星歯車機構4aが、入力部材2の周囲に配置され、かつ、動力伝達経路切換装置5bが、出力部材3aの周囲に配置されているが、本発明の第2態様の2段変速機を実施する場合、これに限らず、種々の構成を採用することができる。たとえば、遊星歯車機構を出力部材の周囲に配置し、かつ、動力伝達経路切換装置を入力部材の周囲に配置することができる。この場合、構成に合わせて、それぞれの部品の形状を適宜変更する。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0139】
上述した実施の形態の第1例~第および参考例の第1例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。具体的には、たとえば、実施の形態の第例の動力伝達経路切換装置5bにおけるカム装置39bを、参考例の第1例のカム装置39aに置き換えることができる。
【0140】
発明の2段変速機は、電気自動車やハイブリッド自動車の電気駆動系に限らず、各種回転機械装置の回転伝達機構に組み込んで使用することができる。また、本発明の動力伝達経路切換装置は、2段変速機に限らず、各種回転機械装置の回転伝達機構に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0141】
1、1a、1b 2段変速機
2 入力部材
3、3a 出力部材
4、4a 遊星歯車機構
5、5a、5b 動力伝達経路切換装置
6 入力筒状部
7 入力フランジ部
8 雌スプライン部
9 出力筒状部
10、10a 出力フランジ部
11、11a サンギヤ
12、12a リングギヤ
13、13a キャリア
14 ピニオンギヤ
15 小径筒部
16 大径筒部
17、17a フランジ部
18、18a サン側雄スプライン部
19 ギヤ部
20 小径筒部
21 大径筒部
22 円輪部
23 リング側雄スプライン部
24 ギヤ部
25a、25b、25c、25d リム部
26 柱部
27 筒状部
28a、28b、28c、28d 円孔
29 キャリア側雌スプライン部
30 支持軸
31 本体部分
32 ラジアルニードル軸受
33 ギヤ部
34a、34b 止め輪
35 スペーサ
36a、36b スラスト軸受
37 押え板
38 ハウジング
39、39a、39b カム装置
40、40a 第1摩擦係合装置
41、41a 第2摩擦係合装置
42 内径側筒部
43 外径側筒部
44 側板部
45 固定側雄スプライン部
46 固定側雌スプライン部
47 貫通孔
48、48a、48b 駆動カム
49、49a、49b 第1被駆動カム
50、50a、50b 第2被駆動カム
51、51a アンギュラ玉軸受
52、52a 第1駆動カム面
53、53a 第2駆動カム面
54a、54b 平坦面部
55、55a ホイールギヤ部
56、56a 電動アクチュエータ
57、57a ウォーム
58、58a 変速用モータ
59 ウォームギヤ部
60、60a 第1被駆動カム面
61、61a 第1被駆動側雌スプライン部
62、62a 第2被駆動カム面
63、63a 第2被駆動側雄スプライン部
64、64a 第1転動体
65、65a 第2転動体
66、66a 第1フリクションプレート
67、67a 第1セパレートプレート
68、68a 止め輪
69、69a 第1弾性部材
70、70a スラスト転がり軸受
71 キャリア側雄スプライン部
72、72a 第2フリクションプレート
73、73a 第2セパレートプレート
74、74a 止め輪
75、75a 第2弾性部材
76 スペーサ
78 ラジアルニードル軸受
79 スラストニードル軸受
80 係合凸部
81 側板部
82 内径側筒部
83 外径側筒部
84 円孔
85 係合ピン
86 第1被駆動カム溝
87 側板部
88 外径側筒部
89 内径側筒部
90a、90b 直線部
91 傾斜部
92 第2被駆動カム溝
93 小径筒部
94 大径筒部
95 円輪部
96a、96b 直線部
97 傾斜部
98 外径側筒部
99 内径側筒部
100 出力側第1雌スプライン部
101 出力側第2雌スプライン部
102a、102b 通孔
103 筒状部
104 ラジアルニードル軸受
105a、105b スラストニードル軸受
106a、106b、106c、106d 軌道輪
107a、107b 押圧ピン部
108 第1リターンスプリング
109 第2リターンスプリング
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に、かつ、軸方向変位を不能に支持された駆動カムと、前記駆動カムに対する相対回転および軸方向変位を可能に支持され、かつ、該駆動カムの回転に伴って、互いに異なる位相で軸方向に変位する第1被駆動カムおよび第2被駆動カムとを有するカム装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第1フリクションプレートおよび第1セパレートプレートを有する第1摩擦係合装置と、
互いに軸方向の相対変位を可能に支持された、少なくとも1枚ずつの第2フリクションプレートおよび第2セパレートプレートを有する第2摩擦係合装置と、
を備え、
前記駆動カムが回転することに伴い、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第1摩擦係合装置が接続され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第2摩擦係合装置が切断される、第1モードと、
前記第1被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が縮まる方向に変位させることに基づき、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに押し付け合う力を解放することで、前記第1摩擦係合装置が切断され、かつ、前記第2被駆動カムを前記駆動カムとの軸方向間隔が拡がる方向に変位させることに基づき、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに押し付け合うことで、前記第2摩擦係合装置が接続される、第2モードと、
が切り換わり、
前記駆動カムは、軸方向側面に、凹部と凸部とを、円周方向に関して互いに同じ周期かつ異なる位相でそれぞれ配置してなる、第1駆動カム面および第2駆動カム面を有し、
前記第1被駆動カムは、前記第1駆動カム面と対向する軸方向側面に、第1被駆動カム面を有し、
前記第2被駆動カムは、前記第2駆動カム面と対向する軸方向側面に、第2被駆動カム面を有し、および、
前記カム装置は、前記第1駆動カム面と前記第1被駆動カム面との間に配置された複数個の第1転動体、および、前記第2駆動カム面と前記第2被駆動カム面との間に配置された複数個の第2転動体をさらに備え、
前記第1駆動カム面と前記第2駆動カム面とは、前記駆動カムのうち、軸方向に関して同じ側の側面に備えられている、
動力伝達経路切換装置。
【請求項2】
前記第1被駆動カムと前記第1摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第1被駆動カムと該第1摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第1弾性部材と、
前記第2被駆動カムと前記第2摩擦係合装置との間に配置され、かつ、該第2被駆動カムと該第2摩擦係合装置とを互いに離れる方向に弾性的に付勢する第2弾性部材と、
をさらに備える、請求項1に記載の動力伝達経路切換装置。
【請求項3】
前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第1フリクションプレートと該第1セパレートプレートとが互いに交互に配置されており、
前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとをそれぞれ複数枚ずつ有し、該第2フリクションプレートと該第2セパレートプレートとが互いに交互に配置されている、請求項1または2に記載の動力伝達経路切換装置。
【請求項4】
前記第1摩擦係合装置は、前記第1フリクションプレートと前記第1セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第1リターンスプリングをさらに有し、
前記第2摩擦係合装置は、前記第2フリクションプレートと前記第2セパレートプレートとを互いに離隔させる方向に弾性的に付勢する第2リターンスプリングをさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の動力伝達経路切換装置。