(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041991
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】野菜を含有するゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 21/10 20160101AFI20230317BHJP
【FI】
A23L21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149026
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 好美
(72)【発明者】
【氏名】大河原 雛
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC10
4B041LD04
4B041LK27
4B041LK44
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、野菜の含量が高くとも、野菜の凝集が抑えられており、やわらかく、かつ付着性の低いゲル状組成物、または係るゲル状組成物を簡便に調製できる方法を提供することにある。
【解決手段】野菜をアミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1種以上の酵素により処理して得られる野菜の酵素処理物とゲル化剤とを共存させてゲル状組成物を調製する。野菜の酵素処理は、ゲルとの共存下または非共存下のいずれの状態で行ってもよい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜をアミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1種以上の酵素により処理して得られる野菜の酵素処理物とゲル化剤とを共存させてゲル状組成物を調製することを特徴とする野菜含有ゲル状組成物の製造方法。
【請求項2】
野菜の酵素処理をゲル化剤の非存在下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
野菜を酵素処理した後にペースト化させる工程を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
野菜の酵素処理をゲル化剤の存在下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
酵素処理に供する野菜がペースト化された状態にある、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ゲル化剤が、野菜を処理する酵素を含有するゲル化剤である、請求項4または5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜を含有するゲル状組成物および該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進行に伴い、咀嚼または嚥下しやすいゲル状の飲食物の需要が増大している。その種類は多岐にわたるが、野菜を含有するゲル状の組成物もその一つである。野菜の種類もホウレン草等の繊維の豊富なものや、イモ類等の澱粉類を豊富に含むものなどあり、選択肢の多様性に貢献している。
これらのゲル状組成物(以下、単に「野菜ゲル」という)は、高齢者向けであることが多いが、なかでも嚥下困難者向けである場合は、やわらかいこと、凝集しにくいこと、およびべたつかないこと(付着性が低いこと)が求められる。野菜ゲルは工場で製造されて介護等の現場に配送されることもあるが、現場で、軟らかくした野菜や野菜ペーストにゲル化剤を混ぜて調製されることも多い。しかし、現場では、野菜にゲル化剤を加えた後にミキサーで十分に撹拌するには加水が必要であり、軟らかめのゲルを調製するためには多めの加水が必要となる。また、加水により軟らかなゲルを調製できた場合でも、使用する野菜の種類によっては付着性が高いままのこともある。このため、野菜ゲルにおいて、とくに嚥下困難者向けの野菜ゲルにおいては、加水量との関係上、野菜の含有量を高くすることは難しく、手間がかかる。
【0003】
酵素処理した野菜を用いる野菜ゲルは知られており、例えば特許文献1には、酵素処理を行った野菜類および果実類を入れたゼリー状食品が開示されている。しかし、当該酵素処理は、剥皮、軟化、または果汁もしくは野菜汁の調製を目的としたものであり、「口内でゲル輪郭が感じられる」程度の硬さのものである。
このように、従来は、介護等の現場での課題の一つである、栄養価の高い野菜を含有し、かつ「軟らかく」、「凝集しにくく」、「べたつかない」ゲル状食品を、極力手間をかけずに調製することに対して十分に応えられていない状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、野菜の含量が高くとも、野菜の凝集が抑えられており、やわらかく、かつ付着性の低いゲル状組成物、または係るゲル状組成物を簡便に調製できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。本発明は以下の(1)~(6)に関する。
(1)野菜をアミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1種以上の酵素により処理して得られる野菜の酵素処理物とゲル化剤とを共存させてゲル状組成物を調製することを特徴とする野菜含有ゲル状組成物の製造方法。
(2)野菜の酵素処理をゲル化剤の非存在下で行う、上記(1)の方法。
(3)野菜を酵素処理した後にペースト化させる工程を有する、上記(2)の方法。
(4)野菜の酵素処理をゲル化剤の存在下で行う、上記(1)の方法。
(5)酵素処理に供する野菜がペースト化された状態にある、上記(4)の方法。
(6)ゲル化剤が、野菜を処理する酵素を含有するゲル化剤である、上記(4)または(5)の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、野菜の含有量が高くとも、野菜の凝集が抑えられており、やわらかく、かつ付着性の低いゲル状組成物、または係るゲル状組成物を簡便に調製できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、野菜ゲル(カボチャ)の物性指標のうち、かたさ(N/m
2)を、酵素の有無に分けて表示したグラフである。
【
図2】
図2は、野菜ゲル(カボチャ)の物性指標のうち、付着性(J/m
3)を、酵素の有無に分けて表示したグラフである。
【
図3】
図3は、各野菜を用いて調製したゲルの物性指標のうち、かたさ(N/m
2)を、酵素のない場合、ヘミセルラーゼを用いた場合、およびα-アミラーゼを用いた場合に分けて表示したグラフである。
【
図4】
図4は、各野菜を用いて調製したゲルの物性指標のうち、付着性(J/m
3)を、酵素のない場合、ヘミセルラーゼを用いた場合、およびα-アミラーゼを用いた場合に分けて表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられる野菜としては、食用の野菜であればいずれでもよく、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、サトイモ等のイモ類、いんげん等の豆類、ほうれん草、小松菜、春菊、ネギ、ワケギ、にら、白菜、カリフラワー、ブロッコリー、キャベツ、レタス等の葉菜類、タマネギ、かぼちゃ、ごぼう、大根、かぶ等が例示されるが、これらに限られない。また、使用される各野菜の部位は一般に食される部位が好ましいが、これに限られない。野菜はそのままの状態で用いてもよいが、切断や細断、またミキサー等による粉砕等の処理を行った後に用いることが好ましく、ペースト状となっていることがより好ましい。
【0010】
本発明において野菜を処理する酵素は、野菜に含まれるデンプンや食物繊維を分解できる活性を有する酵素があげられる。例えば、デンプンを分解する酵素としてはα-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の各種アミラーゼがあげられ、食物繊維を分解する酵素としては、セルロース、ヘミセルロース等があげられる。
これらの酵素は、食品に使用することができる酵素であればいずれも使用することができる。酵素はそれぞれ単独で用いてもよいが、2以上の酵素を組み合わせて用いてもよい。また、それぞれの酵素は精製されていてもよいが、粗酵素の状態であってもよい。酵素製剤として市販されているものを用いてもよい。
【0011】
酵素の選択や組み合わせ、また使用量や使用条件は、使用する野菜の種類や状態に応じて適宜設定することができる。例えば、デンプン類の豊富なイモ類に対してはアミラーゼを多く使用し、ごぼうなど食物繊維の豊富な野菜に対してはセルラーゼやヘミセルラーゼを多く使用することが好ましい。
本発明に用いられるゲル化剤は、ゲルまたはゾル形成能を有するものであることに加え、後に述べるとおり、野菜を処理する酵素が失活していない場合は該酵素により分解されないものであることが望ましい。このようなゲル化剤としては、ジェランガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、アラビアガム、サイリウムシードガム、ペクチン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、カラヤガム、プルラン、寒天、カードラン、パラミロン、キサンタンガム等があげられるが、ジェランガム、ローカストビーンガムおよびカラギーナンが好ましくあげられる。
【0012】
本発明の野菜ゲルの製造方法において野菜の酵素処理物とゲル化剤とを共存させる方法としては、野菜の酵素処理をゲル化剤の非存在下または存在下で行う方法があげられ、いずれの方法を用いてもよい。野菜の酵素処理をゲル化剤の非存在下で行う方法としては、野菜の酵素処理を行った後に、ゲル化剤を加える方法があげられ、野菜の酵素処理をゲル化剤の存在下で行う方法としては、野菜、酵素およびゲル化剤を合わせた後、該酵素によって野菜を酵素処理する方法があげられる。
野菜の酵素処理をゲル化剤の非存在下で行う方法としては、野菜の酵素処理物とゲル化剤を別々に調製した後に合わせる方法があげられ、例えば野菜の酵素処理物とゲル化剤を調製後、好ましくは均一となるように混合する方法があげられる。
【0013】
野菜の酵素処理物は、野菜を酵素処理した後、そのままゲル化剤との共存に用いてもよいが、野菜を酵素処理した後、必要に応じて、撹拌、粉砕等に供してペースト状にした後に用いると、ゲル化剤と均一に混合しやすくなるため好ましい。
また、使用するゲル化剤が野菜を処理する酵素により分解される可能性がある場合には、野菜の酵素処理物をゲル化剤と合わせる前に該酵素の活性を失活させる。該ゲル化剤が酵素により分解される懸念がなくなると、酵素とゲル化剤の組み合わせの可能性を拡張することができるため好ましい。
【0014】
野菜の酵素処理をゲル化剤の存在下で行う方法としては、野菜、酵素およびゲル化剤を合わせて混合物として調製し、該混合物中で酵素反応を行う方法があげられる。この方法では、使用する酵素によって分解される懸念のない酵素とゲル化剤との組み合わせを選択する必要がある一方で、介護等の現場側では野菜を用意するのみでよく、これに酵素とゲル化剤を提供する態様を選択することができる点で好ましい。また、酵素とゲル化剤の提供にあたり、酵素とゲル化剤との混合物、すなわち酵素を含有するゲル化剤として提供することもできるため、現場における利便性を著しく高めることができ、より好ましい。酵素とゲル化剤との混合物においては、酵素を安定的に保持するための安定化剤を含有させると好ましい。
【0015】
以上、本発明の野菜ゲルの調製において野菜の酵素処理物とゲル化剤とを共存させる方法を2種例示したが、該方法により得られる本発明の野菜ゲルは、酵素処理しない野菜を用いて得られる野菜含有ゲル組成物と比較して、水分含量が低くても粘度や付着性が低いという特徴を有する。したがって、本発明の野菜ゲルは、喫食直前の状態において、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上の野菜を含有することができる。ただし、被介護者向け、とくに嚥下困難者向けのゲル状食品である場合は、野菜の含有量の上限は85%未満であることが好ましい。
【0016】
本発明により調製される野菜ゲルは、喫食直前において、ゾル以上、好ましくはゲル以上の状態の組成物であって、かたさとして5×105 N/m2以下、好ましく3×105 N/m2はであることが好ましく、嚥下困難者向けとしてはさらに付着性として1.5×103 J/m3以下であることが好ましい。
本発明の野菜ゲルには、野菜、酵素、ゲル化剤、および必要に応じて使用する水以外、上記物性への調整に影響しない限り、食品に使用可能な他の成分を含有してよい。他の成分としては、甘味料、食塩、調味料、各種エキス、pH調整剤、色素等があげられる。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0017】
(1)市販のペクチナーゼ活性を有する酵素製剤2種およびデキストリンを混合し、酵素製剤Aを調製した。ここで用いたペクチナーゼ活性を有する酵素製剤のうちの一つは、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、α―アミラーゼおよびデキストリンを含有し、一方はペクチナーゼとデキストリンを含有している。結果として酵素製剤Aは表1記載の配合からなる。
【0018】
【0019】
上記酵素製剤A 0.1重量部、各ゲル化剤0.5重量部、および水100重量部を混ぜ合わせ、ハンドミキサーで40秒間撹拌した。ゼリーカップに移し、90℃で30分間スチーム加熱した後、ブラストチラーにて10℃以下に冷却し、ゲル形成の有無を検証した。試験は、酵素製剤ありの場合となしの場合で行い、酵素によるゲル化形成の有無を確認した。
結果を、表2にて、ゲル化した場合を「+」で示し、ゲル化しなかった場合を「-」で示す。
【0020】
【0021】
表2で示したとおり、酵素製剤Aによりゲル化が阻害されるゲル化剤が認められた。
(2)上記(1)の結果を受け、キサンタンガムおよびグルコマンナン以外の各種ゲル化剤を表3記載の配合にて混合し、ゲル化剤組成物No.7を調製した。以下の試験においては、該ゲル化剤組成物No.7をゲル化のために用いた。
【0022】
【0023】
(3)市販のカボチャペースト70重量部、水30重量部およびゲル化剤組成物No.7 1.5重量部をビーカーに入れ、さらに0.1重量部の市販の酵素(ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ)をそれぞれ加えて、ハンドミキサーで40秒間撹拌した。ゼリーカップに移し、90℃で30分間スチーム加熱した後、20℃まで冷却し、レオメータを用い、常法に準じてゲルのかたさ(N/m2)、凝集性、付着性(J/m3)を測定した。その結果、ヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社))を用いた場合に、ゲルのかたさ、凝集性および付着性のいずれの物性指標においても、酵素を使用しない対照区と比較して減少が認められた。
当該酵素の使用の有無によるゲルの物性指標を表4に示す。
【0024】
【0025】
(4)市販のカボチャペースト(上記(3)で用いたものと同一メーカーの製品であるが、ロットが異なる)、水、ゲル化剤組成物No.7、およびヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社))0.1重量部を用い、上記(3)と同様の操作を行って野菜ゲル(カボチャ)を調製し、20℃でゲルの各物性指標を測定した。ゲルの組成および各物性指標の測定結果を表5および6に示す。各物性指標の結果は
図1および2にグラフとしても示した。
【0026】
【0027】
【0028】
調製した野菜ゲル(カボチャ)は、いずれのカボチャ含量においてもゲルを形成した。また、表5および6に示したとおり、野菜、酵素(ヘミセルラーゼ)およびゲル化剤を共存させて調製した野菜ゲルは、酵素を使用しない場合と比較して、野菜の含量が高い場合においてもゲルの各物性指標において低い値を示し、また食感等においても介護食品として使用できるレベルのものであった。なお、ゲルのかたさにおいて、上記(3)より高めの値となっているが、これは、使用したカボチャペーストのロットが異なるためである。
【0029】
(4)市販のマッシュポテト100重量部、ならびにサトイモ、インゲンおよびグリーンアスパラをそれぞれペースト化したもの(それぞれ70重量部)、水(野菜が100重量部の場合は0、野菜が70重量部の場合は30重量部)およびゲル化剤組成物No.7(1.5重量部)に、酵素としてヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社))0.1重量部およびα-アミラーゼ(液化酵素T(エイチビィアイ社))0.04重量部)をそれぞれ加え、上記(3)と同様の操作を行って野菜ゲルを調製し、物性を測定した。
結果を、表7ならびに
図3および4に示した。
【0030】
【0031】
表7に示すとおり、いずれの野菜を用いたゲルにおいても、ヘミセルラーゼによるかたさおよび付着性の低減効果が認められた。
また、ヘミセルラーゼと比較すると効果としては弱いが、α-アミラーゼによってもデンプンの多いマッシュポテトおよびサトイモにおいてかたさおよび付着性の低減効果が認められた。
本発明により、野菜の含有量が高くとも、野菜の凝集が抑えられており、やわらかく、かつ付着性の低いゲル状組成物、または係るゲル状組成物を簡便に調製できる方法を提供することができる。これにより、介護現場等でのゲル状組成物の調整の手間を省くことが期待できる。