(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042017
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】クレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリール
(51)【国際特許分類】
B66C 13/12 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
B66C13/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149069
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
(57)【要約】
【課題】クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式の電動式ケーブルリールにおいて、ケーブルリールの寸法や、メンテナンス性を改善と、トルク制御性能の向上を図ったケーブルリールを提供すること。
【解決手段】ケーブルリールREに巻き上げ方向のトルクを発生させる電動機に多極電動機を採用することにより減速機をなくしたダイレクトドライブ方式を採用し、吊具GBの上下動作を制御する制御装置の動作情報に基づいて、ケーブルリールREのトルクの増減制御を行う機能を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールであって、電動機で巻き上げ方向にトルクを発生することにより吊具の上下運動に連動してケーブルをケーブルリールに巻き取り或いは引き出しをする構造のケーブルリールにおいて、前記電動機に、多極電動機を採用することにより減速機をなくしたダイレクトドライブ方式を採用し、吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報に基づいて、ケーブルリールのトルクの増減制御を行う機能を有することを特徴とするクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリール。
【請求項2】
前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き上げ加速中である時と吊具が巻き下げ減速中である時に、ケーブルリールの巻き取りトルクを増加させるようにしてなることを特徴とする請求項1に記載のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリール。
【請求項3】
前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き上げ減速中である時と吊具が巻き下げ加速中である時に、ケーブルリールの巻き取りトルクを減少させるようにしてなることを特徴とする請求項1に記載のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリール。
【請求項4】
前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き下げ中である時にケーブルリールの巻き取りトルクを減少させるようにしてなることを請求項1に記載のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのクラブトロリに設置するケーブルリールであって、クレーンの巻き上げ装置により吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り用のケーブルリールのトルク発生源が電動機であって、その電動機が常に巻き取り方向にトルクを発生していることで吊具の上下移動に追従する方式のケーブルリールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取りケーブルリールは、そのケーブルリールに巻き取られる垂直ケーブルが、ケーブル自らの自重によりケーブル自らに張力が掛かり、ケーブルリールはその張力に勝ってケーブルを巻き取るだけの強いトルクでケーブルリールのケーブルドラムを回転させケーブルを巻き付けていく。そのため、巨大なケーブルへの張力によりケーブルの損傷が激しくなり、それを緩和するための技術が求められ、例えば、特許文献1~3に提案されており、更なるケーブル負担の緩和も求められている。
更に、吊具給電用ケーブルリールを配置するクラブトロリ上は狭小で、ケーブルリールの出っ張り寸法を改善したコンパクトなケーブルリールが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010―260684号公報
【特許文献2】特開2018―162147号公報
【特許文献3】特開2021―66553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動機をケーブルの巻き取りトルクの発生源とするケーブルリールは、電動機とケーブルドラムとの間に減速機やチェーン・スプロケット等の減速装置を配置しトルクを伝達しているが、ケーブルリールの電動機のトルク設定値は、ケーブルを巻き取るのに必要なトルクと減速装置の減速効率を加算して設定している。
その状態において、ケーブルの引き出しを行うと前記減速効率を加算した電動機のトルクの設定値に対して、引き出し時の減速装置の逆転効率が更に加算され、そのトルクがケーブルに張力として掛かるために、ケーブル引き出し時には、ケーブルに対して減速効率が2重に過剰トルクとして掛かってしまうという問題があった。
この問題を軽減するために、逆転効率が良い高価な遊星減速機を採用したり、笠歯車を採用するなどの工夫をしているが根本対策には至っていなかった。
また、これらの減速機は寸法が大きくなり、ケーブルリールの駆動部の寸法も巨大化するという問題も有していた。
そして、電気装置であるケーブルリールでありながら、定期的な減速機のオイル交換という機械メンテナンス要素が存在するという煩わしさがあった。
更に、減速装置の負荷率が下がると減速効率も悪くなるので、安全率の余裕がない小さい減速装置を採用し、耐久性の余裕度を犠牲にしたギリギリの設計を余儀なくされていた。
ところで、特許文献3に記載のケーブルリールには、巻き取られたケーブルの各段の層の切り替わりによって巻き取り角度と負荷トルクの関係が僅かに非直線性の特性になることに着目し、その僅かなトルクの変化を制御することについて提案されているが、前記の2重に掛かる大きな減速効率は、この僅かなトルク変化の伝達を阻み、大まかなトルク変化を伝達することしかできないという問題があった。
【0005】
ケーブルリールの運転に必要なトルクは、加速中か、減速中か、或いは巻き取り中か、引き出し中かで変動するが、ケーブルリールはワイヤードラムに吊り下げられた吊具の動作に追従するだけの装置であるため、自ら動作を決める主体性がなく、ケーブルリールに必要なトルクを自ら制御することができなかった。
【0006】
本発明は、これらの問題点に鑑み、クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式の電動式ケーブルリールにおいて、ケーブルリールの寸法や、メンテナンス性を改善と、トルク制御性能の向上を図ったクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールは、クレーンに吊り下げられた吊具に給電するための垂直巻き取り式のケーブルリールであって、電動機で巻き上げ方向にトルクを発生することにより吊具の上下運動に連動してケーブルをケーブルリールに巻き取り或いは引き出しをする構造のケーブルリールにおいて、前記電動機に多極電動機を採用することにより減速機をなくしたダイレクトドライブ方式を採用し、吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報に基づいて、ケーブルリールのトルクの増減制御を行う機能を有することを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き上げ加速中である時と吊具が巻き下げ減速中である時に、ケーブルリールの巻き取りトルクを増加させるようにすることができる。
【0009】
また、前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き上げ減速中である時と吊具が巻き下げ加速中である時に、ケーブルリールの巻き取りトルクを減少させるようにすることができる。
【0010】
また、前記吊具の上下動作を制御する制御装置の動作情報を基づいて、吊具が巻き下げ中である時にケーブルリールの巻き取りトルクを減少させるようにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールによれば、電動機に多極電動機を採用することにより減速機をなくしたダイレクトドライブ方式を採用することで、減速装置が不要となることで駆動部の寸法を小さくでき、ケーブルリールの出っ張り寸法を小さくした。ケーブルリールのコンパクト化を図ることができたことにより、狭小なクレーンのクラブ上の寸法の有効活用が可能となり、ケーブルリールの定期メンテナンスにおいては、減速機のオイル交換という機械メンテナンス要素をなくすことができ、ケーブルリールのメンテナンス性の向上を図ることができる。
また、減速装置をなくしたことにより、リール駆動電動機から直接ケーブルドラムにトルクを伝達することが可能になり、トルクの伝達がダイレクトに行えることにより微細なトルク制御が可能になり、減速機の減速効率がケーブルリールのトルク制御を阻害していた要素を排除することで、トルク制御性能を向上することができ、減速効率を配慮するために安全率を低く設定した減速機の耐久性の問題がなくなり、ケーブルリール装置及び同ケーブルリールに巻き取られるケーブルの信頼性を大幅に改善できる。
【0012】
そして、微細なトルク制御が可能になった性能を発揮するに当たり、吊具を吊るワイヤードラムが運転している状況によりケーブルリールがどのように動作するかを判断し、クレーンが巻き上げ加速状態の時と巻き下げの減速状態の時には、リール駆動電動機のトルクを増大させ、クレーンが巻き上げ減速状態の時と巻き下げの加速状態の時には、リール
駆動電動機のトルクを減少させ、クレーンが巻き下げ中は僅かにリール駆動電動機のトルクを減少させることにより、ケーブルの負担を軽減しケーブルの延命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のクレーン吊具給電用ケーブルリールを適用したクレーンの概略説明図である。
【
図2】減速機効率を排除したケーブルリールの構造の説明図である。
【
図3】減速機効率がケーブルリールの引き出しトルクに与える影響の説明図である。
【
図4】減速機の負荷率と減速機効率の関係の説明図である。
【
図5】巻き取り時のブーストトルクにより引き出しトルクを抑制した場合の説明図である。
【
図6】減速効率を排除した時の制御方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールを適用したクレーンの概略説明図である。
クレーンCRのクラブトロリTR上のワイヤードラムWDからワイヤーロープWRで完全に支持された吊具GBが吊り下げられており、ワイヤードラムWDの回転力のみにより吊具GBが上下される。
ワイヤードラムWDの横に配置されたケーブルリールREからはケーブルCAが常に緊張された状態で垂れ下げられ固定金具FSで固定され吊具GBに給電されている。
ケーブルリールREは、常に巻き上げ方向に巻き取りトルクが発生しており、ケーブルCAは常に緊張した状態にあり、吊具GBが巻き下げられるとケーブルリールREに巻き付けられたケーブルがケーブルリールREの巻き取りトルクで緊張状態を保ったまま引き出され、吊具GBが巻き上げられるとケーブルリールREの巻き取りトルクでケーブルCAが緊張を保ったままケーブルリールREに巻き付けられる。
この時、ケーブルリールREの巻き取りトルクはケーブルCAと固定金具FSを支持するだけの弱いトルクで、吊具の荷重は支持せず、吊具GBの上下に追従するだけの弱いトルクに設定されている。
【0016】
図2に、クレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールの一実施例を示す。
ケーブルドラムCDに巻き付けられたケーブルCAは、ケーブルドラムCDから中空軸SH内を通ってスリップリングSRに接続され、スリップリングSRに接触するカーボンブラシCBに接続された固定配線から回転するケーブルCAに電気的に接続されている。
そして、中空軸SHに接続されたリール駆動電動機DMが回転位置検出器PGの検出により制御された所定の回転トルクを発生し、中空軸SHを介してケーブルドラムCDに伝達し、ケーブルCAを巻き取るトルクを発生させている。
従来は、リール駆動電動機DMと中空軸SHの間に減速機を介在させることで、高回転で小さい定格トルクの汎用のリール駆動電動機DMやブレーキBRを採用していた。高回転なのでリール駆動電動機DMには誘導電動機を用いることも可能で低コストの部品で構成できるメリットがあった。ただし、遊星減速機を用いた場合には中空軸SHから直列に減速機とリール駆動電動機とブレーキが配置されるので、ケーブルリールの後方に大きな出っ張り寸法が発生し、笠歯車を採用した場合には中空軸SHから上方或いは側方に直角に角度を曲げ減速機とリール駆動電送機とブレーキが配置されるので上方或いは側方への出っ張り寸法が大きくなっていた。
この実施例では、リール駆動電動機DMに低回転で大トルクの定格出力を可能とする永久磁石回転子を用いる多極の同期電動機を用い、ブレーキには大型の大トルクのブレーキを採用することで減速機を介さずに中空軸SHを直接駆動することを可能としている。
これにより、減速機の減速効率がケーブルリールのトルク制御を阻害していた要素を排除するとともに、ケーブルリールの後方或いは上方或いは側方に大きく張り出していた駆動装置の張り出しをなくし、ケーブルリールREの配置場所である狭小なクラブトロリTR上の寸法の有効利用を可能にした。
【0017】
ケーブルリールREの定期メンテナンス箇所は、カーボンブラシCBの交換やスリップリングの摩耗管理や磨り合わせ、ケーブルCAの損傷確認やトルク制御定数の管理やデータ記憶用電池の交換など様々な電気技術者による点検を要する電気装置であるのにもかかわらず、唯一減速機のオイル交換のみ機械技術者によるメンテナンスが必要であった。
この減速機をなくしたケーブルリールREにおいては、減速機のオイルの定期交換という唯一の機械メンテナンス要素をなくし、電気メンテナンス項目のみにすることで、メンテナンス性の改善ができた。
【0018】
減速機効率がケーブルリールの引き出しトルクに与える影響について、
図3を用いて説明する。
ケーブルCAを巻き取る時に要する巻き取りトルクHTは、ケーブルCAの単位長さ当たりの重量に垂れ下がり長さLを乗じた重量に固定金具FSを加算した重量が垂れ下がり重量となり、ケーブルドラムCDの中心位置からケーブルCAの垂れ下がり位置までの寸法に前記垂れ下がり重量を掛け合わせたトルクがケーブル負荷トルクCTとなるが、ケーブルドラムCDなどの回転物やケーブルCAなどの直線移動体が持つ慣性力を加速させるための加速トルクATとケーブル負荷トルクCTを加算したトルク値がケーブルCAの巻き取りに必要な巻き取りトルクHTとなる。
この時、ケーブルCAの巻き取りに必要な巻き取りトルクHTを発生させるためには、減速機効率ηG分のトルクを加算したトルクを電動機トルクMTとしてリール駆動電動機DMが発生しないといけない。
前記の減速機効率ηG分のトルクを加算した電動機トルクMTを発生している状態で吊具GBが巻き下がりケーブルCAが引っ張ると、減速機逆転効率ηRの相当分のトルクが更に加算され引き出しトルクRTが発生し、この時、ケーブルCAには減速機効率ηGと減速機逆転効率ηRが2重に掛かったような状態になり、この時の引き出しトルクRTは2重の減速機効率により必要トルクの約2倍相当にもなり、大きな引き出しトルクRTに起因する過剰張力がケーブルCAの損傷の要因になっていた。
このような減速機効率によるトルクは、電動機のトルク制御の部分に占める比率が大きくなり、微細なトルク制御を行おうとしても、減速機損失の中に埋もれてしまうため、粗い分解能で大まかなトルク制御を行うことしかできなかった。
【0019】
ところで、
図4に示すように、減速機が伝達する減速機負荷率LGが小さくなると、それに伴い減速機効率ηGが悪くなることから、減速機効率ηGが2重でケーブルに影響するケーブルリールにおいては、減速機の効率を高効率の状態にする必要性があり、減速機の安全率を上げて頑丈な減速機を使用することができず、減速機がネックとなり頑丈なケーブルリールを製作することができなかった。そして、遊星減速機などの逆転効率の良い高価な減速機を採用するなどの必要性にも迫られていた。
【0020】
このような、2重の減速機効率分のトルクが負荷となり、引き出しトルクRTが過大になることを少しでも軽減する方法として、特許文献1には、
図5に示すように、クレーン吊具が巻き上げ中である信号を受けてトルク値を増加させ、ブーストトルクBTとすることにより、巻き上げをしていない時、つまり停止中或いは引き出し中は、減速機効率ηG分に相当する加速トルクAT分を減算した電動機トルクMTとすることで、停止中の荷振
れなどで弛んだケーブルを加速することなくゆっくりと巻き取り、引き出し時は、引き出しトルクRTを減速機逆転効率ηRのみの過剰トルクに抑制させている。
しかしながら、減速機逆転効率ηRに起因してケーブルCAに掛かる過剰張力は排除できていなかった。
【0021】
このような、減速機効率に伴う負荷でケーブルに過剰張力が掛かることを防ぐために、このクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールにおいては、
図2に示すように、減速機を使用しないダイレクトドライブ方式を採用している。
これに伴い、減速機効率に伴うトルク伝達の阻害する要素が除去されるため微細なトルク制御が可能になる。
しかしながら、ケーブルリールREはワイヤードラムWDにより上下する吊具GBに追従する存在で、自らが主体的に動作する機構でないため、ケーブルリールRE自身でトルクを調節するのが困難で、ワイヤードラムWDを動作させている巻き上げ制御装置の動作情報からケーブルリールREのトルクを変化させると的確な制御が可能になる。
【0022】
ケーブルリールREの各状態における必要トルクを、
図6を用いて説明する。
先ず、ケーブル負荷トルクCTは、ケーブルの単位長さ当たりの重量に垂れ下がり長さLを乗算し、それに固定金具FSの重量を加算した垂れ下がり重量を算出し、その垂れ下がり重量にケーブルドラムCDの中心からケーブル垂れ下がり位置までの支点間寸法を乗算することで算出される。
したがって、ケーブル負荷トルクCTは垂れ下がり長さLにより変化する値で、特許文献1や特許文献3に記載の内容と同様に、リール駆動電動機DMに装備する回転位置検出器PGの検出値に基づいて電動機トルクMTを変化させることで適切に変化させることができる。
このケーブル負荷トルクCTにケーブルドラムCD等の回転部分やケーブル等の移動体が持つ慣性力を加速する加速トルクATを加算した値が必要な巻き取りトルクHTで、これに僅かながらに存在する軸受部のロスである軸受効率ηBによるトルクを加算したトルク値が、巻き取り加速時にリール駆動電動機DMのトルク発生量として必要とする巻き取り加速時トルクMT1である。
そして、この巻き取り加速時トルクMT1から加速トルクATを除いた値が、ケーブル巻き取りが加速を終え一定速で巻き取っている時に必要な巻き取り定常時トルクMT2となる。
そして、巻き取り定常時トルクMT2からケーブルドラムCDなどの回転部分やケーブルCAなどの移動体が持つ慣性力を減速する減速トルクDTを減算したトルク値が巻き取り時の減速時に必要な巻き取り減速時トルクMT3となる。
そして、停止時に必要とする停止時トルクMT4は、巻き取り定常時トルクMT2と同じトルク値になる。
【0023】
引き出しPD方向に操作する時は、加速トルクATと減速トルクDT及び軸受効率ηBがすべて巻き取りRU時とは逆に作用する。
このため、引き出し時の加速時はケーブル負荷トルクCTから加速トルクATと軸受効率を減算したトルク値が引き出し加速時トルクMT5となり、引き出し時の一定速になった時のトルクはケーブル負荷トルクCTから軸受効率ηBを減算したトルク値が引き出し定常時トルクMT6となり、引き出し定常時トルクMT6に減速トルクDTを加算したのが引き出し減速時トルクMT7となる。
なお、
図6に示すMT1~MT7までのすべての状態において、ある一定のトルク値を僅かに加算しておくことにより、荷振れ等の外乱によるケーブルのふらつきをなくし一定の張り持たせることができる。
【0024】
ケーブルリールREの必要とするトルクが
図6に示すどの状態になっているのかは、ワ
イヤードラムWDを駆動する巻き上げ電動機を制御する巻き上げ速度制御装置(インバータ制御装置等)の制御情報により判断を行う。
巻き上げ速度制御装置が巻き上げ加速中であれば巻き取り加速時トルクMT1、巻き上げ速度制御装置が巻き上げ定速運転中であれば巻き取り定常時トルクMT2、巻き上げ速度制御装置が巻き上げ減速中であれば巻き取り減速時トルクMT3、巻き上げ速度制御装置が停止中であれば停止時トルクMT4、巻き上げ速度制御装置が巻き下げ加速中であれば引き出し加速時トルクMT5、巻き上げ速度制御装置が巻き下げ定速運転中であれば引き出し定常時トルクMT6、巻き上げ速度制御装置が巻き下げ減速中であれば引き出し減速時トルクMT7と判断する。
【0025】
この時、実際に減速機をなくしたダイレクトドライブ方式のケーブルリールを駆動するのに当たり、トルク設定の基準値はケーブル負荷トルクCTに軸受効率に伴うトルクを加算した巻き取り定常時トルクMT2、停止時トルクMT4の値に更に前記の外乱によるケーブルのふらつきをなくし一定の張り持たせる僅かなトルク加算をした値をリール駆動電動機の基準トルク値に設定する。
そして、巻き上げ速度制御装置が、巻き上げ加速中であるか、或いは巻き下げ減速中である時、ケーブルリールREに対しトルク値の増加指示を出力することで、ケーブルCAの弛みの発生をなくすることができる。
また、巻き上げ速度制御装置が巻き上げ減速中であるか、或いは巻き下げ加速中である時は、ケーブルリールREに対し、トルク値の低減指示を出力することで、ケーブルCAに掛かる負担を軽減することができる。
また、巻き上げ速度制御装置が巻き下げ運転中は、軸受効率分の2倍のトルク値分をケーブルリールREに対しトルクの低減指令を送ることにより、ケーブルに掛かる負担を更に軽減することができる。
【0026】
減速機をなくしたダイレクトドライブ方式は、減速機部分で発生していた減速機効率ηG及び減速機逆転効率ηRによる過大な負荷を取り除くことになり、トルクの伝達を阻害する要素は僅かな軸受部の軸受効率ηBのみになり大幅に小さくすることができる。
ところで、ケーブルドラムCDの片側のみで軸受BBで支持をする構造方式である
図2の片持ち構造から、ケーブルドラムCDの両側に軸受BBを配置する両持ち構造に変更した場合は、軸受効率ηBの値を更に改善でき、より理想的なトルク制御が可能となる。
【0027】
以上、本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のクレーン吊具給電用トルク電動式ケーブルリールによれば、多極電動機を用いることにより減速機をなくしたダイレクトドライブ方式を採用することにより、減速機をなくすことによるコンパクト化はもちろんのこと、減速機の効率が2重にケーブルの過負荷要因となる欠点を解消し、この欠点がネックとなり減速機の安全率を上げることができないというケーブルリールの短所を解消するとともに、電動機とケーブルの間のトルク伝達の阻害要因となっていた減速機がなくなったことで微細なトルク制御を可能にすることを実現し、産業上の利用価値が非常に高いものとなる。
【符号の説明】
【0029】
CR クレーン
TR クラブトロリ
WD ワイヤードラム
WR ワイヤーロープ
GB 吊具
RE ケーブルリール
CA ケーブル
FS 固定金具
L 垂れ下がり長さ
CD ケーブルドラム
SH 中空軸
DM リール駆動電動機
PG 回転位置検出器
BR ブレーキ
BB 軸受
TB 端子台
SR スリップリング
CB カーボンブラシ
HT 巻き取りトルク
MT 電動機トルク
ηG 減速機効率
ηR 減速機逆転効率
RT 引き出しトルク
LG 減速機負荷率
BT ブーストトルク
AT 加速トルク
CT ケーブル負荷トルク
DT 減速トルク
V 速度
t 時間
RU 巻き取り
PD 引き出し
ηB 軸受効率
MT1 巻き取り加速時トルク
MT2 巻き取り定常時トルク
MT3 巻き取り減速時トルク
MT4 停止時トルク
MT5 引き出し加速時トルク
MT6 引き出し定常時トルク
MT7 引き出し減速時トルク