(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042025
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】回転子
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230317BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149083
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 駿
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601BB20
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601FF02
5H601FF04
5H601FF15
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA34
5H601GB12
5H601GB33
5H601GC12
5H622CA02
5H622CA10
5H622CB05
5H622DD02
(57)【要約】
【課題】磁石使用量を削減することができる回転子を提供する。
【解決手段】回転子1の鉄心10の軸心と、任意の主磁極の中心とを結ぶ直線をd軸とし、d軸上の鉄心10よりも外周側に点Aを設定し、点Aを中心とする、第1の半径の第1の同心円に沿う鉄心10の部位に第1層側磁石溝11A,12Aを設け、第1の半径よりも長い第2の半径の第2の同心円に沿う鉄心10の部位に第2層側磁石溝21A~24Aを設け、第2の半径よりも長い第3の半径の第3の同心円に沿う鉄心10の部位に第3層側磁石溝31A~36Aを設け、第1層側磁石溝11A,12Aに磁石11,12を嵌合し、第2層側磁石溝21A~24Aに磁石21~24を嵌合し、第3層側磁石溝31A~36Aに磁石31~36を嵌合し、各磁石11,12、21~24、31~36は、各々の中心から延ばした中心線が点Aに集中する向きに各々配設する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の軸心と、マグネットトルクを生成する任意の主磁極の中心とを結ぶ直線をd-q軸座標のd軸とし、前記d軸と電気角で直交する軸をd-q軸座標のq軸とし、
前記各d軸であって、径方向断面視における回転子鉄心よりも外周側に設定した点Aを中心とする複数の同心円のうち、第1の半径の第1の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第1層側磁石溝と、
前記複数の同心円のうち、前記第1の半径よりも長い第2の半径の第2の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第2層側磁石溝と、
前記複数の同心円のうち、前記第2の半径よりも長い第3の半径の第3の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第3層側磁石溝と、
前記第1層側磁石溝に嵌合する2個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第1層側磁石群と、
前記第2層側磁石溝に嵌合し、前記第1層側磁石群の各磁石と同一寸法の4個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第2層側磁石群と、
前記第3層側磁石溝に嵌合し、前記第1層側磁石群および第2層側磁石群の各磁石と同一寸法の6個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第3層側磁石群と、
を備えたことを特徴とする回転子。
【請求項2】
前記第1層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第1の同心円上に、前記第2層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第2の同心円上に、前記第3層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第3の同心円上に各々配設され、
前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、d軸側角部の曲率半径はq軸側角部の曲率半径よりも大きく設定され、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側角部の曲率半径はd軸側角部の曲率半径よりも大きく設定され、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の曲率半径は、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の曲率半径よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記第1層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd1、前記第2層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd2、前記第3層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd3としたとき、d1<d2<d3となるように前記各磁石が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転子。
【請求項4】
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部近傍の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第1の回転子鉄心外周溝と、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部と、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の間の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第2の回転子鉄心外周溝と、
前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部と、前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の間の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第3の回転子鉄心外周溝と、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部近傍の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第4の回転子鉄心外周溝と、を備え、
前記第2~第4の回転子鉄心外周溝の深さは、第2の回転子鉄心外周溝の深さ≦第3の回転子鉄心外周溝の深さ≦第4の回転子鉄心外周溝の深さに設定され、
d軸から第1の回転子鉄心外周溝までの距離をg1、d軸から第2の回転子鉄心外周溝までの距離をg2、d軸から第3の回転子鉄心外周溝までの距離をg3、d軸から第4の回転子鉄心外周溝までの距離をg4とし、
前記第1層側磁石群の磁石の、回転子鉄心の外周端に最も近いd軸側の端部とd軸とのなす角度をf1とし、前記第2層側磁石群における回転子鉄心の外周端に最も近い磁石の、d軸側で且つ回転子鉄心の外周側の端部とd軸とのなす角度をf2とし、前記第3層側磁石群における回転子鉄心の外周端に最も近い磁石の、d軸側で且つ回転子鉄心の外周側の端部とd軸とのなす角度をf3とし、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf1’とし、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf2’とし、前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf3’とし、
0<g1<f1、f1’<g2<f2、f2’<g3<f3、(f3+f3’)/2≦g4≦f3’となるように設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項5】
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部は、第1層側磁石溝のq軸側端部から回転子鉄心の外周に沿ってd軸側に延びる形状であり、且つ回転子鉄心を軸方向に貫通して構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用のモータ(駆動モータ、発電機等)、特に永久磁石を多層に備えた永久磁石モータの回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両用モータでは出力密度向上のため、永久磁石モータが広く採用されている。しかしレアアースを用いる磁石はコストが高く、モータコストの大半を占めているため磁石使用量の削減が課題となっている。既存設備を流用する場合などは、ロータ形状のみを変更することで設備改造費を抑えつつ磁石使用量の削減が可能である。
【0003】
従来、回転電機に設けられる回転子は、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、センターブリッジ形状の工夫で応力を低減し、磁石寸法と配置でトルク向上(磁石使用量低減)を図っていたが、ロータ外周側のブリッジに言及が無く、寸法の異なる磁石を使用するため型費が余計に発生する問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、磁石使用量を削減することができる回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の回転子は、
回転子の軸心と、マグネットトルクを生成する任意の主磁極の中心とを結ぶ直線をd-q軸座標のd軸とし、前記d軸と電気角で直交する軸をd-q軸座標のq軸とし、
前記各d軸であって、径方向断面視における回転子鉄心よりも外周側に設定した点Aを中心とする複数の同心円のうち、第1の半径の第1の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第1層側磁石溝と、
前記複数の同心円のうち、前記第1の半径よりも長い第2の半径の第2の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第2層側磁石溝と、
前記複数の同心円のうち、前記第2の半径よりも長い第3の半径の第3の同心円に沿う回転子鉄心の部位に、前記d軸を中心として線対称に離間して配設され、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の第3層側磁石溝と、
前記第1層側磁石溝に嵌合する2個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第1層側磁石群と、
前記第2層側磁石溝に嵌合し、前記第1層側磁石群の各磁石と同一寸法の4個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第2層側磁石群と、
前記第3層側磁石溝に嵌合し、前記第1層側磁石群および第2層側磁石群の各磁石と同一寸法の6個の磁石であって、各々の中心から延ばした中心線が前記点Aに集中する向きに配設された第3層側磁石群と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の回転子は、請求項1において、
前記第1層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第1の同心円上に、前記第2層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第2の同心円上に、前記第3層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は前記第3の同心円上に各々配設され、
前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、d軸側角部の曲率半径はq軸側角部の曲率半径よりも大きく設定され、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側角部の曲率半径はd軸側角部の曲率半径よりも大きく設定され、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の曲率半径は、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の曲率半径よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の回転子は、請求項1又は2において、
前記第1層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd1、前記第2層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd2、前記第3層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石の間隔をd3としたとき、d1<d2<d3となるように前記各磁石が配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の回転子は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部近傍の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第1の回転子鉄心外周溝と、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部と、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の間の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第2の回転子鉄心外周溝と、
前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部と、前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部の間の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第3の回転子鉄心外周溝と、
前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部近傍の、回転子鉄心の外周端面上に設けられた第4の回転子鉄心外周溝と、を備え、
前記第2~第4の回転子鉄心外周溝の深さは、第2の回転子鉄心外周溝の深さ≦第3の回転子鉄心外周溝の深さ≦第4の回転子鉄心外周溝の深さに設定され、
d軸から第1の回転子鉄心外周溝までの距離をg1、d軸から第2の回転子鉄心外周溝までの距離をg2、d軸から第3の回転子鉄心外周溝までの距離をg3、d軸から第4の回転子鉄心外周溝までの距離をg4とし、
前記第1層側磁石群の磁石の、回転子鉄心の外周端に最も近いd軸側の端部とd軸とのなす角度をf1とし、前記第2層側磁石群における回転子鉄心の外周端に最も近い磁石の、d軸側で且つ回転子鉄心の外周側の端部とd軸とのなす角度をf2とし、前記第3層側磁石群における回転子鉄心の外周端に最も近い磁石の、d軸側で且つ回転子鉄心の外周側の端部とd軸とのなす角度をf3とし、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf1’とし、前記第2層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf2’とし、前記第3層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部における、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf3’とし、
0<g1<f1、f1’<g2<f2、f2’<g3<f3、(f3+f3’)/2≦g4≦f3’となるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の回転子は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記第1層側磁石溝のq軸側端部に形成された凹部は、第1層側磁石溝のq軸側端部から回転子鉄心の外周に沿ってd軸側に延びる形状であり、且つ回転子鉄心を軸方向に貫通して構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)請求項1~5に記載の発明によれば、リラクタンストルクを有効利用でき、マグネットトルクの比率が下がるため磁石使用量を削減することができる。リラクタンストルクの比率増により誘起電圧を抑えつつ高トルク化、高速回転化が可能となり、モータを高出力化できる。
【0013】
また、すべての磁石を点Aに集中する向きとしているため、磁石磁束を1点に集中でき、誘起電圧波形やギャップ磁束密度分布波形が正弦波に近づき鉄損が低減され、高効率化できる。
【0014】
磁束波形の正弦波化により、磁束波形の高調波成分が低減され、トルクリプルも低減できる。
【0015】
また、第1層側磁石群の2個の磁石、第2層側磁石群の4個の磁石、第3層側磁石群の6個の磁石により、渦電流のパスが分散されて、磁石損失を抑えることができる。
【0016】
さらに、全ての磁石が同一寸法であるため、磁石の金型が1つで良く、コストを削減することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、第1層側、第2層側、第3層側の各磁石溝に嵌合された磁石と凹部の間で形成されるフラックスバリアの角が、点Aを中心とした同心円上に配置されるので、q軸磁束の流れがスムーズになりリラクタンストルクが向上する。
【0017】
また、前記フラックスバリアのd軸側、q軸側のうち片側のみ曲率半径が大きくなるように構成しているため、各凹部間のブリッジの長さを確保しつつ遠心力による応力を分散することができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、第1層~第3層の全ての層の磁石磁束を有効利用することができる。
(4)請求項4に記載の発明によれば、第1~第4の回転子鉄心外周溝を設けたので、ギャップ磁束密度分布波形の肩の部分が抑制され、高調波成分を低減させることができる。
【0018】
第2~第4の回転子鉄心外周溝の深さの設定によって、d軸からq軸にかけて緩やかに磁束抑制量が大きくなって、波形の高調波をより効果的に抑制することができる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、第1層側磁石群の磁石により、回転子鉄心の外周面に発生する磁束密度の変化、特に主磁極の周方向の両端部分での磁束密度分布を正弦波に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例における回転子鉄心の部分拡大図。
【
図2】(a)は本発明の一実施例におけるd軸上の点Aを説明する要部拡大図、(b)は本発明の他の実施例におけるd軸上の点Aを説明する要部拡大図。
【
図3】本発明の一実施例におけるフラックスバリアの角位置を示す説明図。
【
図4】本発明の一実施例における回転子鉄心外周溝の位置を示す説明図。
【
図5】本発明の他の実施例における第1層側磁石溝に形成される凹部を示す説明図。
【
図6】(a)は回転子鉄心外周溝無しの場合のギャップ磁束密度の波形図、(b)は回転子鉄心外周溝有りの場合のギャップ磁束密度の波形図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
図1および
図2(a)は本発明の一実施例である永久磁石モータの回転子1の軸方向に直交する断面の構造を示す。本図においては、回転子1のひとつの主磁極のみが示され、その他の主磁極は主磁極と同様の構成であるので、図示省略している。
【0021】
前記永久磁石モータは、回転子1と、これと同軸に回転子1に周設される固定子5(
図2(a)では図示省略)を備える。固定子5には、ステータコイル51が装着される複数のステータスロット52が回転子1の外周に沿って等間隔に配置形成されている。
【0022】
回転子1の鉄心10(回転子鉄心)は、例えば珪素鋼板を積層して形成した略円筒状の部材である。そして、この鉄心10の軸芯部には、モータシャフト2が嵌入されており、該モータシャフト2は軸受(図示省略)により回転自在に支持される。
【0023】
回転子1の軸心(モータシャフト2)とマグネットトルクを生成する主磁極の中心とを結ぶ
図2(a)の破線で示す直線dを、d-q軸座標のd軸とし、このd軸と電気角で直交する
図2(a)のqを、d-q軸座標のq軸(補助磁極部3)としている。そして
図1、
図2(a)では、1つのd軸からそのd軸に対して周方向に隣り合うq軸までの範囲を表している。
【0024】
図2(a)において、d軸上であって、径方向断面視における回転子1の鉄心10よりも外周側に点Aを設定している。設定した点Aを中心とする、半径の異なる3つの同心円に沿う鉄心10の部位には、磁石が嵌合される磁石溝であって、それぞれの四隅には外向きに広がる凹部が形成された複数の磁石溝が配設されている。
【0025】
すなわち、点Aを中心とする、第1の半径の第1の同心円に沿う鉄心10の部位には、第1層側磁石溝を構成する磁石溝11A,12Aが、d軸を中心として線対称に離間して配設され、磁石溝11A,12Aの各四隅には、外向きに広がる凹部11a~11d、12a~12dが形成されている。
【0026】
磁石溝11A,12Aには、各々の中心から延ばした中心線が点Aに集中する向きに配される、第1層側磁石群としての2個の磁石11、12が各々嵌合されている。
【0027】
点Aを中心とする、第1の半径よりも長い第2の半径の第2の同心円に沿う鉄心10の部位には、第2層側磁石溝を構成する磁石溝21A,22A,23A,24Aが、d軸を中心として線対称に離間して配設され、磁石溝21A,22A,23A,24Aの各四隅には、外向きに広がる凹部21a,21b,21e,22f,22g,22c,22d,23c,23d,23g,24f,24e,24a,24bが各々形成されている。
【0028】
磁石溝21A,22A,23A,24Aには、各々の中心から延ばした中心線が点Aに集中する向きに配される、第2層側磁石群としての4個の磁石21~24が各々嵌合されている。
【0029】
点Aを中心とする、第2の半径よりも長い第3の半径の第3の同心円に沿う鉄心10の部位には、第3層側磁石溝を構成する磁石溝31A,32A,33A,34A,35A,36Aが、d軸を中心として線対称に離間して配設され、磁石溝31A,32A,33A,34A,35A,36Aの各四隅には、外向きに広がる凹部31a,31b,31e,32f、32g、32h、33i,33j,33c,33d,34c,34d,34j,34i,35h,35g,35f,36e,36a,36bが各々形成されている。
【0030】
磁石溝31A,32A,33A,34A,35A,36Aには、各々の中心から延ばした中心線が点Aに集中する向きに配される、第3層側磁石群としての6個の磁石31~36が各々嵌合されている。
【0031】
前記磁石11、12、21~24、31~36は各々同一寸法に構成されている。
【0032】
前記第1層側磁石群において、前記磁石溝11A、12Aに磁石11、12が一つずつ配された状態で、前記各凹部11a~11d、12a~12dと磁石11、12の間には、それぞれフラックスバリア(非磁性領域)としての空隙が形成される形状となっている。
【0033】
前記第2層側磁石群において、前記磁石溝21A~24Aに磁石21~24が一つずつ配された状態で、前記各凹部21a,21b,21e,22f,22g,22c,22d,23c,23d,23g,24f,24e,24a,24bと磁石21~24の間には、それぞれフラックスバリア(非磁性領域)としての空隙が形成される形状となっている。
【0034】
前記第3層側磁石群において、前記磁石溝31A~36Aに磁石31~36が一つずつ配された状態で、前記各凹部31a,31b,31e,32f、32g、32h、33i,33j,33c,33d,34c,34d,34j,34i,35h,35g,35f,36e,36a,36bと磁石31~36の間には、それぞれフラックスバリア(非磁性領域)としての空隙が形成される形状となっている。
【0035】
前記第1層側のd軸に最も近い凹部11cと凹部12cの間にはセンターブリッジ部10cが形成され、前記第2層側のd軸に最も近い凹部22cと凹部23cの間にはセンターブリッジ部20cが形成され、前記第3層側のd軸に最も近い凹部33cと凹部34cの間にはセンターブリッジ部30cが形成されている。
【0036】
また、
図1、
図2(a)に記載のように第1層側~第3層側に配置する磁石を全て独立した磁石で構成するに限らず、
図2(b)に記載のように、第2層側に、磁石25と26を各々長手方向に直交する方向に2分割して配設し、第3層側に、磁石37と38を各々長手方向に直交する方向に3分割して配設し、磁石11,12,25,26,37,38の各々の中心から延ばした中心線が点Aに集中する向きに配するように構成しても良い。
【0037】
この場合、磁石25は磁石溝25Aに嵌合され、磁石溝25Aの四隅には凹部25a~25dが形成され、磁石26は磁石溝26Aに嵌合され、磁石溝26Aの四隅には凹部26a~26dが形成され、磁石37は磁石溝37Aに嵌合され、磁石溝37Aの四隅には凹部37a~37dが形成され、磁石38は磁石溝38Aに嵌合され、磁石溝38Aの四隅には凹部38a~38dが形成されており、その他の部分は
図2(a)と同様に構成される。
【0038】
PMモータの誘起電圧は回転数に比例するため、モータ最高回転数は誘起電圧がインバータ耐電圧を超えない範囲に制限される。
図1、
図2の構造はリラクタンストルクを有効利用でき、マグネットトルクの比率が下がるため磁石使用量を削減できる。リラクタンストルクの比率増により誘起電圧を抑えつつ高トルク化、高速回転化が可能となり、モータを高出力化できる。
【0039】
すべての磁石を点Aに集中する向きとすることで、磁石磁束を1点に集中でき、誘起電圧波形やギャップ磁束密度分布波形が正弦波に近づき鉄損が低減され、高効率化できる。なお、誘起電圧は無負荷鎖交磁束とロータ角速度の積なので、誘起電圧波形の正弦波化は磁束波形の正弦波化につながる。また、トルクの時間平均は鎖交磁束と電流の積であり、鎖交磁束の高調波成分と電流の積がトルク波形の高調波成分、つまりトルクリプルであるから、磁束波形の高調波成分を低減することでトルクリプルも低減できる。
【0040】
多層配置の内径側磁石(鉄心10の軸心側に配置される磁石)はスロット高調波磁束の影響が大きく渦電流損失が増加する傾向があるが、2層目は2分割、3層目は3分割されているため渦電流のパスが分散され磁石損失を抑えることができる。さらに、すべての磁石が同じ寸法であるため磁石の金型が1つで良く、コストを削減できる。各層の磁石は、それぞれさらに横に(磁石の長手方向に)2分割しても良い。
【0041】
次に、前記凹部と磁石の間に形成されるフラックスバリアの角位置を
図3とともに説明する。
図3は、d軸から一方のq軸側の構成における、鉄心10の外周端10aに近い第2層側の磁石24、第3層側の磁石36と、凹部24a、凹部36aの間に形成されるフラックスバリア(24a,36a)を表している。
【0042】
図3において、第2層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部20は点Aを中心とする第2の同心円上に配設され、第3層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部30は点Aを中心とする第3の同心円上に配設されている。第1層側磁石溝の回転子鉄心外周側の角部は点Aを中心とする第1の同心円上に配設されているが、
図3では図示省略している。
【0043】
第2層側磁石溝のq軸側端部(鉄心10の外周端10aに近い側の端部)に形成された凹部24aにおける、d軸側角部24adの曲率半径は、q軸側角部24aqの曲率半径よりも大きく設定され、第3層側磁石溝のq軸側端部(鉄心10の外周端10aに近い側の端部)に形成された凹部36aにおける、q軸側角部36aqの曲率半径は、d軸側角部36adの曲率半径よりも大きく設定されている。
【0044】
また、第3層側の前記凹部36aの曲率半径は第2層側の前記凹部24aの曲率半径よりも大きく設定されている。尚、d軸から他方のq軸側の構成も
図3と同様である。
【0045】
図3のように、磁石溝の角部を、点Aを中心とした同心円上に配置することで、q軸磁束の流れがスムーズになり(q軸側リアクタンスLqが大きくなり)リラクタンストルクが向上する。フラックスバリア(24a、36a)の角の曲率半径を大きくすることで遠心力による応力を下げる(分散する)ことができるが、曲率半径を大きくするとその分凹部24aと凹部36aの間のブリッジの最狭部が短くなり漏れ磁束が増加し、トルク低下につながる。
【0046】
2層目はd軸側に、3層目はq軸側に応力が集中するため、
図3のようにそれぞれ片側のみ曲率半径を大きくすることで、ブリッジ長さを確保しつつ応力が分散される。遠心力によりブリッジ部に発生する応力は、ブリッジが抱える質量が大きいほど増加する。すなわち各層の磁石溝とロータ外径からなる略扇形状部に存在する磁石と鉄心の質量が大きいほど、発生応力も大きくなる。よって発生応力の大きさは2層目<3層目であるため、曲率半径の大きさも2層目<3層目とすれば良い。
【0047】
1層目は、遠心力による発生応力が低いため、フラックスバリアの形状自由度があるので、
図2のq軸側端部の凹部11a,11b,12a,12bに代えて、例えば
図5のように、q軸側の端部から鉄心10の外周(10a)に沿ってd軸側に延びる形状であり、且つ鉄心10を軸方向に貫通して構成したスリット部11X、12Xを用いてもよい。
【0048】
図5のスリット部11X、12Xは、鉄心10に比べて透磁率が極めて小さく、磁束が極めて通り難くなっており、磁気的な遮断部として機能する。これによって、磁石11、12によって回転子1の外周面に発生する磁束密度分布の変化、特に主磁極の周方向の両端部分での磁束密度分布を正弦波に近づけることができる。
【0049】
また、
図1に示すように、第1層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石11と12の間隔をd1、第2層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石22と23の間隔をd2、第3層側磁石群の、d軸を介して隣接する2つの磁石33と34の間隔をd3としたとき、d1<d2<d3となるように配置するものである。
【0050】
磁石間の距離が外径側の層より狭い、たとえばd2>d3の場合、3層目磁石の磁束を有効利用できずトルクが低下する。d1<d2<d3とすることで、すべての層の磁石磁束を有効利用できる。尚、センターブリッジ幅は2層目>3層目としても良い(すなわち、センターブリッジ20cの幅>センターブリッジ30cの幅としても良い)。
【0051】
次に、鉄心10の外周端10aに溝を設けた実施例を
図4とともに説明する。
図4はd軸から一方のq軸側の構成を表しており、第1層側の磁石溝12Aのq軸側端部に形成された凹部12a近傍の、鉄心10の外周端10aには第1の回転子鉄心外周溝41が刻設されている。
【0052】
前記第1層側の凹部12aと、第2層側の磁石溝24Aのq軸側端部に形成された凹部24aの間の、鉄心10の外周端10aには第2の回転子鉄心外周溝42が刻設されている。
【0053】
前記第2層側の凹部24aと、第3層側の磁石溝36Aのq軸側端部に形成された凹部36aの間の、鉄心10の外周端10aには第3の回転子鉄心外周溝43が刻設されている。
【0054】
前記第3層側の凹部36aの近傍の、鉄心10の外周端10aには第4の回転子鉄心外周溝44が刻設されている。
【0055】
第1~第4の回転子鉄心外周溝41~44の深さ、位置と、磁石12,24,36、凹部12a,24a,36aの位置関係は次のように設定されている。
【0056】
前記第2~第4の回転子鉄心外周溝42~44の深さは、第2の回転子鉄心外周溝42の深さ≦第3の回転子鉄心外周溝43の深さ≦第4の回転子鉄心外周溝44の深さに設定されている。
【0057】
d軸から第1の回転子鉄心外周溝41までの距離をg1、d軸から第2の回転子鉄心外周溝42までの距離をg2、d軸から第3の回転子鉄心外周溝43までの距離をg3、d軸から第4の回転子鉄心外周溝44までの距離をg4とする。
【0058】
前記第1層側磁石群の磁石12の、鉄心10の外周端10aに最も近いd軸側の端部とd軸とのなす角度をf1とし、前記第2層側磁石群における鉄心10の外周端10aに最も近い磁石24の、d軸側で且つ鉄心10の外周側の端部とd軸とのなす角度をf2とし、前記第3層側磁石群における鉄心10の外周端10aに最も近い磁石36の、d軸側で且つ鉄心10の外周側の端部とd軸とのなす角度をf3とする。
【0059】
前記第1層側の凹部12aにおける、q軸側角部12aqとd軸とのなす角度をf1’とし、前記第2層側の凹部24aにおける、q軸側角部24aqとd軸とのなす角度をf2’とし、前記第3層側の凹部36bにおける、q軸側の端部とd軸とのなす角度をf3’とする。
【0060】
そして、0<g1<f1、f1’<g2<f2、f2’<g3<f3、(f3+f3’)/2≦g4≦f3’となるように設定している。
【0061】
尚、d軸から他方のq軸側における、回転子鉄心外周溝41~44の深さ、位置と、磁石11、21、31、凹部11a,21a,31a,31bの位置関係は
図4と同様に設定されている。
【0062】
図4のように回転子鉄心外周溝41~44を刻設することで、ギャップ磁束密度分布波形の肩の部分が抑制され、高調波成分を低減させることができる。回転子鉄心外周溝の深さは、第2の回転子鉄心外周溝42の深さ≦第3の回転子鉄心外周溝43の深さ≦第4の回転子鉄心外周溝44の深さに設定することで、d軸からq軸にかけて緩やかに磁束抑制量が大きくなるため、波形の高調波をより効果的に抑制できる。
【0063】
第3層側の凹部36bにおけるq軸側の端部とd軸とのなす角度f3’よりもq軸側に回転子鉄心外周溝があるとトルク低下が大きいため、d軸から第4の回転子鉄心外周溝44までの距離g4は、
図4に示すf3<g4≦f3’が良い。
【0064】
このとき、第4の回転子鉄心外周溝44がf3に近すぎるとブリッジ厚さが小さくなり強度が低下するため、第4の回転子鉄心外周溝44は、
図4のf3とf3’の中間位置よりもq軸側であり且つf3’と等しいか又はf3’よりもd軸側の位置、すなわち(f3+f3’)/2≦g4≦f3’とすることで遠心力の応力低減と両立できる。
【0065】
第1の回転子鉄心外周溝41の深さ≧第2の回転子鉄心外周溝42の深さとなっても良く、第1の回転子鉄心外周溝41の代わりに、
図5で述べたd軸側に突き出すスリット部11X、12Xを用いても良い。第2の回転子鉄心外周溝42~第4の回転子鉄心外周溝44は、前記スリット部にしてしまうとLq(q軸側リアクタンス)の減少が大きくなりトルク低下を招くため、前記外周溝(42~44)の方が好ましい。
【0066】
図6はギャップ磁束密度波形を表し、(a)は
図4のような外周溝(41~44)を設けない場合を示し(b)は
図4の外周溝41~44を設けた場合を示している。
【0067】
図6によれば、回転子鉄心外周溝41~44を設けた場合の方が全高調波率が15%→10%に低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1…回転子
2…モータシャフト
3…補助磁極部
5…固定子
10…鉄心
10a…回転子鉄心外周端
10c、20c、30c…センターブリッジ部
11,12,21~26,31~38…磁石
11A,12A,21A~26A,31A~38A…磁石溝
11a~11d,12a~12d,21a,21b,21e,22f,22g,22c,22d,23c,23d,23g,24f,24e,24a,24b,25a~25d,26a~26d,31a,31b,31e,32f、32g、32h、33i,33j,33c,33d,34c,34d,34j,34i,35h,35g,35f,36e,36a,36b,37a~37d,38a~38d…凹部
11X,12X…スリット部
41~44…回転子鉄心外周溝
51…ステータコイル
52…ステータスロット