(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042047
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】踏切しゃ断機
(51)【国際特許分類】
B61L 29/16 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
B61L29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149119
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】木村 実
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 崇充
(72)【発明者】
【氏名】小松 寛明
(57)【要約】
【課題】踏切しゃ断機に内蔵されている回路制御器の位置検出用カムのユーザ調整可能部分に係る調整が現状よりも気軽に行えるように回路制御器を改良する。
【解決手段】遮断桿保持部(15)と、モータ(31)と、主軸(12)と、駆動用伝動機構(32)と、主軸(12)の軸回転を従動軸53,73に伝達する検出用伝動機構と、従動軸に装着された複数の位置検出用カム61~66を具備した検出部(60)と、列車入信号(TER)と位置検出用カム61~66による主軸(12)の回転位置検出信号とに応じてモータ(31)の回転を制御する制御部(40)と、検出用伝動機構50や検出部(60)を内蔵する筐体11とを備えた踏切しゃ断機100について、複数の位置検出用カム61~66を主軸12の軸方向から見て主軸12の左右に分けて配設し、そのうち上下位置検出用カム61,62は共に主軸12の一方に位置させ、他のカム63~66は主軸12の他方に位置させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断桿を保持するための遮断桿保持部と、双方向回転可能なモータと、前記遮断桿保持部を揺動可能に支持する主軸と、前記モータの回転運動を前記主軸に伝達する駆動用伝動機構と、前記主軸とは軸方向の異なる従動軸を具備していて前記主軸の軸回転を前記従動軸に伝達する検出用伝動機構と、前記従動軸に装着された複数の位置検出用カムを具備した検出部と、受けた列車入信号と前記位置検出用カムによる前記主軸の回転位置検出信号とに応じて前記モータの回転運動を制御する制御部と、前記制御部と前記モータと前記駆動用伝動機構と前記検出用伝動機構と前記検出部とを内蔵する筐体とを備えた踏切しゃ断機において、
前記の複数の位置検出用カムが前記主軸の軸方向から見て前記主軸の左右に分かれて配設されており、前記の複数の位置検出用カムのうち上昇位置検出用カムと下降位置検出用カムとが共に前記主軸の左右の何れか一方に位置している、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【請求項2】
前記筐体の対向側面のうち前記主軸の左右に位置する部位に分かれて大小の蓋部が設けられており、前記主軸から見て前記の大小の蓋部のうち小さい方の蓋部に近い所に前記上昇位置検出用カムと前記下降位置検出用カムとが共に位置している、ことを特徴とする請求項1記載の踏切しゃ断機。
【請求項3】
前記主軸と前記従動軸とがねじれの位置の直線の関係にあり、前記従動軸が前記主軸の左右に及んで連続している、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された踏切しゃ断機。
【請求項4】
前記検出用伝動機構に食い違い歯車が組み込まれていることを特徴とする請求項3記載の踏切しゃ断機。
【請求項5】
前記従動軸のうち前記上昇位置検出用カム及び前記下降位置検出用カムの装着側の端部にそれらのカムの軸周り調整方向を示す表記が付されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載された踏切しゃ断機。
【請求項6】
前記表記に刻印が用いられていることを特徴とする請求項5記載の踏切しゃ断機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切に設置されて遮断桿の昇降にて踏切道を開閉する踏切しゃ断機に関し、詳しくは、主軸の軸回転にて遮断桿の昇降を行うとともに、伝動機構とカム機構とを具備した回路制御器にて主軸の回転角ひいては遮断桿の昇降位置を検出する踏切しゃ断機に関し、更に詳しくは、回路制御器のカム調整の容易な踏切しゃ断機に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切しゃ断機は(例えば非特許文献1や特許文献1~6参照)、鉄道の踏切道4の端部の脇に設置されてレール2の外側に位置し(
図5(b),(c)参照)、列車通過時等に踏切道4を閉じるものであり、多くの踏切しゃ断機10,20が、遮断桿14,24を装着されて、踏切道4を開閉するために遮断桿14,24を水平から鉛直へ鉛直から水平へ揺動させるようになっている。図示した踏切しゃ断機10,20のうち踏切しゃ断機10は(
図3(a)参照)、蓋部17が一つだけ設けられていて筐体11の一面だけが開閉しうるようになっているのに対し、踏切しゃ断機20は(
図3(b)参照)、蓋部27,28が二つ設けられていて筐体11の対向面が個別に開閉しうるようになっている。
【0003】
踏切しゃ断機10は(
図3(a)参照)、上述した筐体11及び蓋部17と、筐体11から横へ一端を突き出した主軸12と、主軸12の一端部に装備されていて遮断桿14の基端部を保持する遮断桿保持部15と、筐体11を下から支える支柱16と、選択的に付加されるカウンタバランス13とを具備しており、主軸12の軸回転にて遮断桿保持部15ひいては遮断桿14を揺動させるようになっている。
このような踏切しゃ断機10について、筐体11に内蔵された部材の修理や調整などを行うときには、蓋部17を揺動させたり外したりして筐体11の一面を大きく開けるようになっている(
図5(b)左上の踏切しゃ断機10を参照)。
【0004】
踏切しゃ断機20は(
図3(b)参照)、上述した筐体21及び蓋部27,28と、筐体21から横へ両端を突き出した主軸22と、主軸22の一端部に装備されていて遮断桿24の基端部を保持する遮断桿保持部25と、筐体21を下から支える支柱26とを具備しており、主軸22の軸回転にて遮断桿保持部25ひいては遮断桿24を揺動させるようになっている。図示は割愛したが、付勢用バネの内蔵などにより、カウンタバランス部材の外装が不要にもなっている。
【0005】
このような踏切しゃ断機20について、筐体21に内蔵された部材の修理交換や調整などを行うときには必要に応じて蓋部27,28を外すが、大きな蓋部27は、閉状態をバネ力で保持する「パッチン錠」や揺動支点になる「蝶番」にて筐体21に装着されていて開閉が比較的容易な大扉であるのに対し、相対的に小さな蓋部28は、外すときには特定の工具を要する「いたずら防止ねじ」にて筐体21に装着されていて開閉が面倒な小扉である。そして、大きな蓋部27は、メーカでの製造時だけでなくユーザが施工や保守を行う際にも開閉されるのに対し(
図5(b)左側部分を参照)、小さな蓋部28は、メーカでの製造時には開閉されるが(図示せず)、設置時やそれ以後は基本的に開閉されない(
図5(b)右側部分を参照)、という違いが蓋部27,28にはある。
【0006】
踏切しゃ断機10,20の内部構造は、基本的部分など多くが両者10,20で共通するので、簡明化のため一方の踏切しゃ断機20を具体例にして述べると(
図4参照)、駆動部30と制御部40と回路制御器50+60とが筐体21に内蔵されている。
駆動部30は、正転も逆転も可能な例えばサーボモータといった電動式のモータ31(電動機)と、モータ31の出力軸の回転運動を減速や増力しながら主軸22ひいては遮断桿保持部25に伝達する駆動用伝動機構32と、モータ31の回転駆動を例えば三相の給電にて行うモータ駆動回路33とを具備しており、遮断桿24に略水平の姿勢か略鉛直の姿勢をとらせるために、モータ31を双方向回転させることで遮断桿24を昇降させるようになっている。
【0007】
制御部40は(
図4(b)参照)、外部の踏切制御装置から受けた昇降指令信号TERを踏切器具箱で中継した信号に応じてモータ駆動回路33へのモータ回転指令を例えばフィードバック制御方式にて生成することで遮断桿24の昇降制御を行うものである。
具体的には、上記の昇降指令信号TERにて下降を指示されると、回路制御器50+60から下降停止位置への到達信号(主軸の回転位置検出信号)を受けるまでモータ31を下降側へ回転動作させるようになっている。また、昇降指令信号TERにて上昇を指示されると、回路制御器50+60から上昇停止位置への到達信号(主軸の回転位置検出信号)を受けるまでモータ31を上昇側へ回転動作させるようにもなっている。
【0008】
回路制御器50+60は(
図4(b),
図5(a)参照)、検出用伝動機構50と検出部60とを併せたものであり、主軸22(又は12)の軸回転状態を直に検出部60で検出しようとすると主軸22の加工負担や検出部60の調整の負担が過大になりがちなことから、主軸22と検出部60との間に検出用伝動機構50を介在させたものである。
検出用伝動機構50は(
図5(a)参照)、主軸22に外嵌めされて主軸22と共に回転する歯車51と、保持部55によって中間部53bを筐体11側に保持された軸回転可能な従動軸53と、歯車51と噛合する状態で従動軸53の先端部53aに取り付けられていて主軸22の軸回転を増速させながら従動軸53に伝達する歯車52と、従動軸53の後端部53cに外装された付勢バネ54とを具備している。主軸22の中心線と歯車52の中心線は延長箇所で直交するので、歯車51,52には傘歯車(交差軸歯車)が採用されている。
【0009】
検出部60は(
図5(a)参照)、従動軸53のうち中間部53bと後端部53cとの間に位置する部分に対して緩く外嵌めされた複数の位置検出用カム61~66(カム機構の原動節)と、それらに一対一で対応した同数の図示しないスイッチ群(カム機構の従動節)と、隣り合う位置検出用カム61,62の間と隣り合う位置検出用カム63,64の間と隣り合う位置検出用カム65,66の間とに介装された調整歯車67,67,67とを具備したものであり、それらの位置検出用カム61~66と調整歯車67とが常態では上述の付勢バネ54によって押されて密着し合うようになっている。一つの位置検出用カムがそれに対応したスイッチを作動させることで主軸の回転位置検出信号が一つ生成されるので、カムとスイッチとの対を六組具備した回路制御器50+60では「主軸の回転位置検出信号」を主軸22の回転位置における六カ所で出力することができる。
【0010】
調整歯車67は、従動軸53に対して、従動軸53に彫り込み形成された図示しない溝との係合により、従動軸53の周方向に回転することなく従動軸53の軸方向に移動できるようになっている。また、位置検出用カム61~66は、何れも、隣の調整歯車67に対して、密着状態であれば、両者の側面・端面に形成された図示しない凹凸の係合により、周方向の相対的な回転が阻止されるが、その凹凸の係合が解かれるところまで離れていれば、従動軸53の周りを回転させることができるようにもなっている。そのため、付勢バネ54が伸びている常態では、位置検出用カム61~66が何れも調整歯車67を介して従動軸53の軸回転に従って回転するが、位置検出用カム61~66の何れかを調整するときには、その隣の調整歯車67を付勢バネ54に抗って従動軸53の後端部53cの方へ移動させて調整対象の位置検出用カムから離せば所望のカムだけ調整可能になる。
【0011】
このような踏切しゃ断機10について、踏切道4への設置時や設置後に検出部60に係る調整作業を行う場合(
図5(b)参照)、筐体11のうちレール2に面していない蓋部17を開けて、主軸12の端部寄りの検出部60を操作可能な状態にしてから、位置検出用カム61~66のうち該当するものを上述のようにして調整することになる。
また、踏切しゃ断機20について、踏切道4への設置時や設置後に検出部60に係る調整作業を行う場合(
図5(c)参照)、筐体21のうちレール2に面していない蓋部27を開けて、主軸22から蓋部27側へ伸びた検出部60を操作可能な状態にしてから、位置検出用カム61~66のうち該当するものを上述のようにして調整することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006-069333号公報
【特許文献2】特開2012-166578号公報
【特許文献3】特開2012-201270号公報
【特許文献4】特開2014-091417号公報
【特許文献5】特開2014-091418号公報
【特許文献6】特開2021-109482号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】鉄道技術者のための電気概論「信号シリーズ 踏切保安装置」社団法人日本鉄道電気技術協会発行、平成9年10月30日 4版発行、p.26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような踏切しゃ断機10,20では、回路制御器50+60における位置検出用カム61~66のうち少なくとも二つ例えばカム61,62が、それぞれ上昇位置検出用カム61と下降位置検出用カム62とに割り当てられて、遮断桿14,24を下降位置や上昇位置に止める制御に使用される必須のものである(
図3(a),(b)参照)。
そして、そのような上昇位置検出用カム61と下降位置検出用カム62は、謂わばメーカ調整用カム機構の原動節であり、メーカが予め調整を済ませてから出荷するので、ユーザによる設置時や設置後の調整が基本的には不要なものとなっている。
【0015】
これに対し、残りのカム例えば途中位置検出用カム63~66は、メーカによる調整を必要とせず具体的な利用や調整をユーザに解放したオプショナルなものであり、謂わばユーザ調整用カム機構の原動節である。
そして、それら途中位置検出用カム63~66の検出結果や検出信号の利用方法、さらには設置時や設置後に行われる調整の遣り方なども、基本的にはユーザに委ねられる。
このように多数の位置検出用カム61~66がメーカ調整専用部分(61,62)だけでなくユーザ調整可能部分(63~66)も含んでいるため、遮断桿14,24の昇降制御についてユーザ要求に応じた機能拡張が容易に行えるものとなっている。
【0016】
しかしながら、一列に並んだ位置検出用カム61~66の調整は、上述のように、メーカ調整専用部分(61,62)に係る調整が済んだ後に、ユーザ調整可能部分(63~66)に係る調整が行われることがほとんどである。
そのため、ユーザは、回路制御器50+60における位置検出用カム61~66のユーザ調整可能部分に係る調整作業を行うときには、直ぐ近くのメーカ調整専用部分を不所望に動かすことが無いように注意を払うことが必要になり、負担を感じることになる。
そこで、回路制御器の位置検出用カムのユーザ調整可能部分に係る調整が現状よりも気軽に行えるように回路制御器を改良することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の踏切しゃ断機は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、遮断桿を保持するための遮断桿保持部と、双方向回転可能なモータと、前記遮断桿保持部を揺動可能に支持する主軸と、前記モータの回転運動を前記主軸に伝達する駆動用伝動機構と、前記主軸とは軸方向の異なる従動軸を具備していて前記主軸の軸回転を前記従動軸に伝達する検出用伝動機構と、前記従動軸に装着された複数の位置検出用カムを具備した検出部と、受けた列車入信号と前記位置検出用カムによる前記主軸の回転位置検出信号とに応じて前記モータの回転運動を制御する制御部と、前記制御部と前記モータと前記駆動用伝動機構と前記検出用伝動機構と前記検出部とを内蔵する筐体とを備えた踏切しゃ断機において、
前記の複数の位置検出用カムが前記主軸の軸方向から見て前記主軸の左右に分かれて配設されており、前記の複数の位置検出用カムのうち上昇位置検出用カムと下降位置検出用カムとが共に前記主軸の左右の何れか一方に位置している、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段2)、上記解決手段1の踏切しゃ断機であって、前記筐体の対向側面のうち前記主軸の左右に位置する部位に分かれて大小の蓋部が設けられており、前記主軸から見て前記の大小の蓋部のうち小さい方の蓋部に近い所に前記上昇位置検出用カムと前記下降位置検出用カムとが共に位置している、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段3)、上記解決手段1,2の踏切しゃ断機であって、前記主軸と前記従動軸とがねじれの位置の直線の関係にあり、前記従動軸が前記主軸の左右に及んで連続していることを特徴とする。
ここで、「ねじれの位置の直線」は、三次元ユークリッド空間の同一平面にない二直線であり(マグローヒル科学技術用語大辞典)、平行でなく交差しない二直線でもある。
【0020】
さらに、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段4)、上記解決手段3の踏切しゃ断機であって、前記検出用伝動機構に食い違い歯車が組み込まれていることを特徴とする。
なお、「食い違い歯車」は、食い違い軸歯車とも呼ばれ、ねじ歯車が代表例である。
【0021】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段5)、上記解決手段3,4の踏切しゃ断機であって、前記従動軸のうち前記上昇位置検出用カム及び前記下降位置検出用カムの装着側の端部にそれらのカムの軸周り調整方向を示す表記が付されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段6)、上記解決手段5の踏切しゃ断機であって、前記表記に刻印が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このような本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段1)、従来は主軸の左右いずれか一方に纏めて配設されていた複数の位置検出用カムが主軸の左右に分けて配設されるとともに、その分割配設に際して、上昇位置検出用カムや下降位置検出用カムを含むメーカ調整用カム機構の原動節と、その他のユーザ調整用カム機構の原動節とが、主軸の左右に離隔配置される。これにより、ユーザが、回路制御器における位置検出用カムのユーザ調整可能部分に係る調整作業を行うとき、メーカ調整専用部分が主軸の更に向こうに離れて位置していることになるので、メーカ調整専用部分の存在を気にすることなくユーザ調整用カム機構の原動節に係る調整を行うことができる。
したがって、この発明によれば、回路制御器の位置検出用カムのユーザ調整可能部分に係る調整が現状よりも気軽に行える踏切しゃ断機を実現することができる。
【0024】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段2)、メーカ調整を前提としユーザ調整を想定しない上昇位置検出用カムや下降位置検出用カム等については、ユーザによる開閉を想定しない小さな蓋部に寄せて配置したことにより、ユーザが大きな蓋部を開けて主軸より近くの位置検出用カムを調整しているときには、上昇位置検出用カムや下降位置検出用カム等に触れる機会や可能性が主軸に阻まれて激減するため、ユーザ調整可能部分に係る調整を気軽に行うことができる。
【0025】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段3)、複数の位置検出用カムを主軸の左右に分けて配設するに際して、主軸と従動軸とを「ねじれの位置の直線」の関係になる状態で両軸を配置したことにより、従動軸を左右に分割することなく連続した状態のまま主軸の左右に至らせることができる。そして、そうすることによって、従動軸やその保持部さらには従動軸側の歯車等の伝動部材の複数化が避けられる。
したがって、この発明によれば、部材数や組立工数の増加を回避や抑制しつつ所望の踏切しゃ断機を実現することができる。
【0026】
さらに、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段4)、主軸から従動軸への伝動を担う検出用伝動機構に、従来は用いられていた傘歯車などの交差軸歯車でなく、ねじ歯車などの食い違い歯車(食い違い軸歯車)を採用したことにより、主軸と従動軸とが「ねじれの位置の直線」の関係になっていても、必要な軸回転運動の伝達が不都合なく行われる。ねじ歯車なども比較的容易に入手することができる。
従って、この発明によれば、所望の踏切しゃ断機を簡便に実現することができる。
【0027】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段5)、従動軸の複数化を回避して一つの従動軸の左右に位置検出用カムを分けた代償として、カム作動状態の目視確認を従動軸の一端部側から見て行うだけでなく他端部側から見て行うことも必要になるところ、何れの端部側から見るかによって従動軸ひいてはカムの回転方向が逆になるため、カムの調整に際しては回転方向を意識しながら調整作業を進めなければならない。そこで、そのようなカム調整時の負担増加を抑制するために、而もユーザの負担増加を回避するために、従動軸の両端部のうち踏切しゃ断機の出荷前にメーカが調整するカムを装備した方の端部に対し、カムの軸周り調整方向を示す表記が付される。これにより、簡便ながらも的確にカム調整時の混乱をも回避することができる。
【0028】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段6)、カムの軸周り調整方向を示す表記の具現化を刻印にて行うようにしたことにより、厳しい環境の下で使用されても表記が残存するので、設置先等で稼働中や稼働後に上昇位置検出用カムや下降位置検出用カムの再調整が必要になったときでも誤操作を的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施例1,2の踏切しゃ断機について、(a)が実施例1,2の踏切しゃ断機に組み込まれる回路制御器の構造を示す正面図、(b)が実施例1の踏切しゃ断機を設置した踏切に係る平面図、(c)が実施例2の踏切しゃ断機を設置した踏切の半分に係る平面図である。
【
図2】本発明の実施例3について、(a)が回路制御器の構造を示す正面図、(b)が従動軸の端面図である。
【
図3】従来の踏切しゃ断機について、(a)が開閉蓋を一つ装備した踏切しゃ断機の側面図と正面図、(b)が開閉蓋を二つ装備した踏切しゃ断機の側面図と正面図である。
【
図4】従来の踏切しゃ断機について、(a)が筐体内の主要な機械部品を示す正面図、(b)が制御系を示すブロック図である。
【
図5】従来の踏切しゃ断機について、(a)が回路制御器の構造を示す正面図、(b)が踏切の平面図、(c)が踏切の半分に係る平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
このような本発明の踏切しゃ断機について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1~3により説明する。
図1(a),(b)に示した実施例1は、上述した解決手段1(出願当初の請求項1)を具現化したものであり、
図1(c)に示した実施例2は、上述した解決手段1,2(出願当初の請求項1,2)を具現化したものであり、
図2に示した実施例3は、上述した解決手段1~6(出願当初の請求項1~6)を具現化したものである。
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例0031】
本発明の踏切しゃ断機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1(a)は、従来の回路制御器50+60を改良した回路制御器70の構造を示す正面図であり、同図(b)は、その回路制御器70を組み込んだ踏切しゃ断機100の概要構成を示す平面図である。
【0032】
踏切しゃ断機100は(
図1(b)参照)、既述した踏切しゃ断機10の多くを継承したものであり、その踏切しゃ断機10との相違点は既述した回路制御器50+60が新たな回路制御器70になったことである(
図1(a)参照)。
すなわち、回路制御器70以外は従来品が踏襲されており(
図3,
図4参照)、踏切しゃ断機100は、何れも既述した、遮断桿14を保持するための遮断桿保持部15と、双方向回転可能なモータ(31)と、遮断桿保持部15を揺動可能に支持する主軸12と、モータ(31)の回転運動を主軸12に伝達する駆動用伝動機構(32)と、受けた列車入信号TERと位置検出用カム61~66による主軸12の回転位置検出信号とに応じてモータ(31)の回転運動を制御する制御部(40)と、それら12,15,(31),(32),(40)を内蔵する筐体11とを具備している。
【0033】
一方、本例の新たな回路制御器70(
図1(a)参照)は、既述した従来の回路制御器50+60(
図5(a)参照)を部分的に改造したものであり、複数の位置検出用カム61~66を継承しつつも、それら61~66が主軸12の軸方向から見て主軸12の左右に分かれて配設されたものになっている。すなわち、本例の回路制御器70にあっては(
図1(a)参照)、複数の位置検出用カム61~66のうちメーカ調整用カム機構の原動節である上昇位置検出用カム61と下降位置検出用カム62とが共に主軸12の左右の何れか一方(図示の例では右方)に位置しており、複数の位置検出用カム61~66のうち残りのユーザ調整用カム機構の原動節である途中位置検出用カム63~66が主軸12の左右の何れか他方(図示の例では左方)に位置している。
【0034】
詳述すると(
図1(a)参照)、主軸12の左方に位置する回路制御器50+60Bは(
図1(a)の左半分を参照)、既述した検出用伝動機構50と、ユーザ調整カム群60Bを主体にした検出部(第1検出部)とを具備したものであり、この検出部(具体的にはユーザ調整カム群60B)は、完全に新しいものでなく、既述した検出部60からメーカ調整カム群60A(すなわち二つの上昇位置検出用カム61と下降位置検出用カム62と)を省いて四つの途中位置検出用カム63~66を残したものである。なお、この回路制御器50+60Bは、二つの位置検出用カム61,62が検出用伝動機構50から外れたことで、その分だけ従動軸53が短くて済むが、これは本質的な改造には当たらないので、説明の簡明化等のため、検出用伝動機構50には従前と同じ符号を用いている。
【0035】
主軸12の右方に位置する回路制御器71+60Aは(
図1(a)の右半分を参照)、既述の検出用伝動機構50の構造を踏襲したもう一つの新たな検出用伝動機構71と、既述した二つの上昇位置検出用カム61及び下降位置検出用カム62を含むメーカ調整カム群60A(第2検出部)とを具備したものである。なお、二つの位置検出用カム61,62に随伴して中間の調整歯車67も右方の回路制御器71+60Aに移設されており、新たな回路制御器70でも、既述した回路制御器50+60と同様、隣り合うカム[61,62],[63,64],[65,66]の間には調整歯車67が配設されている。
【0036】
新たな検出用伝動機構71について詳述すると、検出用伝動機構71は、保持部75によって中間部73bを筐体11側に保持された軸回転可能な従動軸73と、既述の検出用伝動機構50の歯車51と噛合する状態で従動軸73の先端部73aに取り付けられていて主軸12の軸回転を増速させながら従動軸73に伝達する歯車72と、従動軸73の後端部73cに外装された付勢バネ74とを具備している。その歯車72にも歯車52と同様の傘歯車(交差軸歯車)が採用されている。
【0037】
このような回路制御器70も、カムとスイッチとの対を六組具備しているので、「主軸の回転位置検出信号」を主軸12の回転位置における六カ所で出力することができるものとなっている。なお、主軸12に装着される歯車51は、主軸12の軸回転を従動軸53,73双方に伝達するので、検出用伝動機構50に属しているとも、検出用伝動機構71に属しているとも言える、共用部材となっている。この歯車51を除けば、検出用伝動機構50と検出用伝動機構71は左右に分離されているので、回路制御器70は分離型と言えるものである。
【0038】
このような踏切しゃ断機100について、特に従来品と異なるメーカ調整カム群60Aとユーザ調整カム群60Bと係るカム調整について、図面を引用して説明する。
図1(b)は、踏切道4とそこに設置された踏切しゃ断機100とに係る平面図である。
【0039】
このような踏切しゃ断機100を対象にして、メーカ調整カム群60Aとユーザ調整カム群60Bとが主軸12から見て右と左に分かれた検出部60A,60Bに係る調整作業を行う場合(
図1(a)参照)、先ずメーカ出荷前にメーカ調整カム群60Aに係る調整作業が行われ、その後、踏切道4への設置時や設置後にユーザ調整カム群60Bに係る調整作業が行なわれ、その後、頻度は少ないが位置検出用カム61~66のうち必要な物については再調整が行われるところ、何れの調整作業でも、蓋部17を開けると(
図1(b)参照)、メーカ調整対象部分(60A)とユーザ調整対象部分(60B)とが露出して位置検出用カム61~66が操作可能になる。
【0040】
そのようなカム調整作業の手順等は従来と同様であるが、調整歯車67の介在と付勢バネ54の付勢とによってカム位置が維持されているユーザ調整カム群60B(すなわち途中位置検出用カム63~66)を対象にしてユーザがカム調整を行うときには、調整歯車67の介在と付勢バネ74の付勢とによってカム位置が維持されているメーカ調整カム群60A(すなわち上下位置検出用カム61,62)が主軸12の更に向こうに位置しており、逆に、メーカ調整カム群60Aを対象にしてメーカがカム調整を行うときにはユーザ調整カム群60Bが主軸12の更に向こうに位置しているため、対象外のカムを誤って動かしたりしないように注意を払う必要が無く、気軽にカム調整を行うことができる。