(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042098
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】PCR用マイクロ流体チップおよびPCR分析装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230317BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230317BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230317BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149204
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】千原 悠雅
(72)【発明者】
【氏名】宇田 徹
(72)【発明者】
【氏名】上田 敬祐
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029AA23
4B029BB16
4B029BB20
4B029FA12
4B029GA08
4B029GB01
4B063QA13
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS02
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】液体サンプルを流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化する技術を提供する。
【解決手段】PCR用マイクロ流体チップは、PCRに使用される液体サンプルが流動する流路と、流路に液体サンプルを導入する導入口と、流路の両端にそれぞれ接続された弾性的に伸縮可能な2つの空気室と、流路と空気室を気密に包囲し、少なくとも片面に透明部分が設けられた包囲部材とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCRに使用される液体サンプルが流動する流路と、
前記流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、
前記流路の両端にそれぞれ接続された弾性的に伸縮可能な2つの空気室と、
前記流路と前記空気室を気密に包囲し、少なくとも片面に透明部分が設けられた包囲部材とを
有するPCR用マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記2つの空気室を交互に圧縮する2つのアクチュエータと、
前記流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記2つの空気室のうち第1の空気室を間欠的に圧縮するアクチュエータと、
前記流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【請求項4】
前記流路は、前記アクチュエータで圧縮される前記第1の空気室に連通する第1の曲線流路部と、前記2つの空気室のうち前記アクチュエータで圧縮されない第2の空気室に連通する第2の曲線流路部と、前記第1の曲線流路部と前記第2の曲線流路部を接続する直線流路部を有し、
前記加熱装置は、前記第1の曲線流路部を加熱する第1の加熱部と、前記第2の曲線流路部を加熱する第2の加熱部を有し、
前記第1の加熱部は、前記第1の曲線流路部の内部の前記液体サンプルを伸長・アニーリング温度に加熱し、前記第2の加熱部は、前記第2の曲線流路部の内部の前記液体サンプルを、前記伸長・アニーリング温度より高い変性温度に加熱する
ことを特徴とする請求項3に記載のPCR分析装置。
【請求項5】
前記PCR用マイクロ流体チップの前記透明部分を通じて前記流路内の前記液体サンプルを観察分析する観察分析装置をさらに有する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のPCR分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR用マイクロ流体チップおよびPCR分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、使用される液体サンプルをPCRチューブまたは複数の穴が形成されたマイクロプレート(マイクロウェル)などの反応容器に所定量入れて行うことが一般的であるが、近年、基板に形成された微細な流路を備える反応容器(チップとも呼ばれる)を用いて行うことが実用化されてきている。流路を備えるチップ(マイクロ流路チップ)を用いたPCRを行う場合、流路に高温領域や低温領域などの温度領域を設定し、液体サンプルを流路内で往復式に移動させることにより、液体サンプルにサーマルサイクルを与える。
【0003】
従来のマイクロ流路チップにおける送液方法としては、特許文献1に開示されたように、2つのマイクロブロアもしくはファンを流路の両端部に接続し、送風により加圧することで送液する方法がある。また、特許文献2に開示されたように、単一のポンプと2つの切替弁を用いることで送液する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-47812号公報
【特許文献2】国際公開第2019/139135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PCRにおいては、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化または完全に防止することが重要である。特に液体サンプルを流路内で流動させる際には、液体サンプルが不要な物質に接触しないことが望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、液体サンプルを流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、PCR用マイクロ流体チップが提供される。このPCR用マイクロ流体チップは、PCRに使用される液体サンプルが流動する流路と、前記流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、前記流路の両端にそれぞれ接続された弾性的に伸縮可能な2つの空気室と、前記流路と前記空気室を気密に包囲し、少なくとも片面に透明部分が設けられた包囲部材とを有する
【0008】
この態様においては、導入口を閉塞すると、流路と2つの空気室を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。流路の両端に接続された伸縮可能な2つの空気室の少なくとも一方を圧縮すれば、液体サンプルは圧縮された空気室から他方の空気室に向けて流れ、下流の空気室が弾性的に膨張する。圧縮力を除去すれば、膨張させられた空気室が弾性的に収縮し、圧縮されていた空気室に向けて逆方向に液体サンプルが流れ、圧縮されていた空気室が弾性的に膨張する。このようにして、液体サンプルは流路を往復移動することができる。両方の空気室を交互に圧縮してもよい。流路と2つの空気室は、完全に閉鎖されるので、液体サンプルを流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。包囲部材の少なくとも片面は透明であるので、流路内の液体サンプルを観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップの平面図である。
【
図2】
図1のPCR用マイクロ流体チップの分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るPCR分析装置の正面図であり、PCR用マイクロ流体チップの断面を示す。
【
図4】液体サンプルの導入時の第1実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図5】液体サンプルの右方向移動時の第1実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図6】液体サンプルの左方向移動時の第1実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図7】第2実施形態に係るPCR分析装置の正面図であり、PCR用マイクロ流体チップの断面を示す。
【
図8】液体サンプルの導入時の第2実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図9】液体サンプルの右方向移動時の第2実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図10】液体サンプルの左方向移動時の第2実施形態に係るPCR分析装置の正面図である。
【
図11】PCR分析装置の加熱装置の温度設定と液体サンプルの状態を調べた結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る複数の実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0011】
図1に示すように、実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップ1は、線対称な形状を有しており、流路2、ポート4,6、第1の空気室10、および第2の空気室12を有する。
【0012】
PCRに使用される液体サンプルは流路2を流動する。流路2は、曲折された第1の曲線流路部7と、曲折された第2の曲線流路部8と、第1の曲線流路部7と第2の曲線流路部8を接続する直線流路部9を有する。流路2の幅は、0.5~1.0mmであるのが好ましい。曲線流路部7,8の各々の長さは、例えば80mmであり、直線流路部9の長さは、例えば15mmである。
【0013】
2つの空気室10,12は、流路2の両端にそれぞれ接続され、弾性的に伸縮可能である。第1の空気室10は第1の曲線流路部7に連通し、第2の空気室12は第2の曲線流路部8に連通する。
【0014】
ポート4は第1の曲線流路部7と第1の空気室10の間の部分に接続され、ポート6は第2の曲線流路部8と第2の空気室12の間の部分に接続されている。ポート4,6の一方は、流路2に液体サンプルを導入する導入口として使用され、他方は、流路2に液体サンプルを導入する時、流路2から液体サンプルに押された空気が排出される空気排出口として使用される。以下の説明では、ポート4を導入口と想定し、ポート6を空気排出口と想定する。
【0015】
図2に示すように、マイクロ流体チップ1は、樹脂製の下基板20、樹脂製の流路基板21、樹脂製の上基板22、ゴム製の弾性基板23,25、およびゴム製の弾性膜24,26を有する。基板20,21,22、弾性基板23,25および弾性膜24,26は、流路2と空気室10,12を気密に包囲する包囲部材を構成する。
【0016】
基板20,21,22は、例えばアクリル、ポリプロピレンといった透明樹脂から形成されている。弾性基板23,25と弾性膜24,26は、例えばシリコンゴムから形成されている。
【0017】
下基板20は、溝または孔が形成されていない矩形の平板であり、例えばその厚さは0.2mmである。
【0018】
流路基板21は、貫通溝21a,21b,21c、および貫通孔21d,21eが形成された矩形の基板であり、例えばその厚さは0.5mmである。流路基板21を下基板20と上基板22に接合すると、貫通溝21aは流路2を形成する。したがって、流路2の高さは例えば0.5mmである。貫通溝21bは、貫通溝21aに接続されており、ポート4の下部になる。貫通溝21cは、貫通溝21aに接続されており、ポート6の下部になる。貫通孔21dは第1の空気室10の下部になる。貫通孔21eは第2の空気室12の下部になる。貫通溝21a,21b,21c、および貫通孔21d,21eは、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0019】
上基板22は、貫通孔22b,22c,22d,22eが形成された矩形の基板であり、例えばその厚さは1.0mmである。貫通孔22bはポート4の上部になり、貫通孔22cはポート6の上部になる。貫通孔22dは第1の空気室10の一部になる。貫通孔21eは第2の空気室12の一部になる。貫通孔22b,22c,22d,22eは、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0020】
基板20,21,22は、例えば180℃に加熱し、熱溶着により貼り合わせることができる。
【0021】
弾性基板23,25は、正方形の平板であり、例えばその厚さは1.0mmである。弾性基板23の中央には、貫通孔23dが形成されており、貫通孔23dは第1の空気室10の一部になる。弾性基板25の中央には、貫通孔25eが形成されており、貫通孔25eは第2の空気室12の一部になる。貫通孔23dと貫通孔25eは、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0022】
弾性膜24,26は、溝または孔が形成されていない正方形の平板であり、例えばその厚さは0.3mmである。
【0023】
弾性基板23と弾性膜24は、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて接合することができる。弾性基板25と弾性膜26も、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて接合することができる。但し、弾性基板23と弾性膜24の接合、および弾性基板25と弾性膜26の接合に両面接着テープが使用されてもよい。
【0024】
ゴム製の弾性基板23,25は、
図3に示すように、両面接着テープ27によって、樹脂製の上基板22に接合することができる。但し、流路2および空気室10,12への有機物の望ましくない流入を防止または低減するため、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて、弾性基板23,25を上基板22に接合することが好ましい。
【0025】
以上のように、基板20,21,22、弾性基板23,25および弾性膜24,26を接合することによって、流路2、ポート4,6、および空気室10,12を有するマイクロ流体チップ1が完成する。流路2は流路基板21の貫通溝21aによって形成される。ポート4は、上基板22の貫通孔22bと流路基板21の貫通溝21bによって形成される。ポート6は、上基板22の貫通孔22cと流路基板21の貫通溝21cによって形成される。
【0026】
第1の空気室10は、流路基板21の貫通孔21d、上基板22の貫通孔22dおよび弾性基板23の貫通孔23dによって形成される。弾性基板23が高弾性のゴムで大きい厚さを持つよう形成され、弾性膜24が高弾性のゴムで形成されているため、第1の空気室10は、弾性的に伸縮可能であり、ダイアフラムポンプまたは伸縮可能なアキュムレータとして使用することができる。
【0027】
第2の空気室12は、流路基板21の貫通孔21e、上基板22の貫通孔22eおよび弾性基板25の貫通孔25eによって形成される。弾性基板25が高弾性のゴムで大きい厚さを持つよう形成され、弾性膜26が高弾性のゴムで形成されているため、第2の空気室12も、弾性的に伸縮可能であり、ダイアフラムポンプまたは伸縮可能なアキュムレータとして使用することができる。
【0028】
マイクロ流体チップ1において、ポート4,6を閉塞すると、流路2と2つの空気室10,12を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。流路2の両端に接続された伸縮可能な2つの空気室10,12の少なくとも一方を圧縮すれば、液体サンプルは圧縮された空気室から他方の空気室に向けて流れ、下流の空気室が弾性的に膨張する。圧縮力を除去すれば、膨張させられた空気室が弾性的に収縮し、圧縮されていた空気室に向けて逆方向に液体サンプルが流れ、圧縮されていた空気室が弾性的に膨張する。このようにして、液体サンプルは流路2を往復移動することができる。両方の空気室10,12を交互に圧縮してもよい。流路2と2つの空気室10,12は、完全に閉鎖されるので、液体サンプルを流路2内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。包囲部材、特に最も薄い下基板20は透明であるので、流路2内の液体サンプルを下から観察することができる。上基板22も透明であるので、流路2内の液体サンプルを上から観察することができる。
【0029】
図3は、第1実施形態に係るPCR分析装置30の正面図である。
図3~
図10においては、PCR用マイクロ流体チップ1の断面を示す。
【0030】
図3に示すように、PCR分析装置30は、PCR用マイクロ流体チップ1、2つのアクチュエータ31,32、加熱装置33、観察分析装置34および制御装置35を有する。
【0031】
アクチュエータ31,32は、それぞれピストン31a,32aを有するリニアアクチュエータであり、それぞれ駆動回路31b,32bによって駆動される。駆動回路31b,32bは、制御装置35によって制御される。
【0032】
アクチュエータ31は第1の空気室10の上方に配置され、
図3に示すように、アクチュエータ31の非駆動時には、ピストン31aは第1の空気室10を画定する弾性膜24とは間隔をおいて配置されている。アクチュエータ31を駆動すると、ピストン31aは下降して弾性膜24を押し下げ、第1の空気室10を圧縮することができる。
【0033】
アクチュエータ32は第2の空気室12の上方に配置され、
図3に示すように、アクチュエータ32の非駆動時には、ピストン32aは第2の空気室12を画定する弾性膜26とは間隔をおいて配置されている。アクチュエータ32を駆動すると、ピストン32aは下降して弾性膜26を押し下げ、第2の空気室12を圧縮することができる。制御装置35の制御の下、アクチュエータ31,32は2つの空気室10,12を交互に圧縮する。
【0034】
アクチュエータ31,32は電動リニアアクチュエータであるが、空気室10,12を圧縮することができる他のアクチュエータ、例えば、モータの回転を直進運動に変換する機構を有するアクチュエータであってもよいし、油圧リニアアクチュエータであってもよい。
【0035】
加熱装置33は、第1の曲線流路部7を加熱する第1の加熱部37と、第2の曲線流路部8を加熱する第2の加熱部38を有する。第1の加熱部37は、加熱素子としてのペルチェ素子37aと、伝熱素子としての金属板37bを有する。第2の加熱部38は、加熱素子としてのペルチェ素子38aと、伝熱素子としての金属板38bを有する。
【0036】
金属板37bは、マイクロ流体チップ1の下基板20における第1の曲線流路部7の直下の位置に接合されており、金属板37bにはペルチェ素子37aが接合されている。金属板38bは、マイクロ流体チップ1の下基板20における第2の曲線流路部8の直下の位置に接合されており、金属板38bにはペルチェ素子38aが接合されている。
【0037】
ペルチェ素子37a,37bは、それぞれ加熱回路37c,38cによって駆動される。加熱回路37c,38cは、制御装置35によって制御される。この実施形態では、局所的な加熱を行うため、ペルチェ素子37a,37bが使用されるが、他の加熱要素が使用されてもよい。
【0038】
観察分析装置34は、マイクロ流体チップ1の透明な下基板20を通じて流路2の直線流路部9内の液体サンプルを観察する。観察分析装置34の光学ヘッド34aは、下基板20における直線流路部9の真下に配置されている。観察分析装置34は、励起光(紫外線)の照射に応答して、液体サンプル中の増幅産物が発する蛍光を計測する蛍光プローブであってよい。あるいは、観察分析装置34は、液体サンプル中の増幅副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁を検知する光学プローブであってよい。観察分析装置34は制御装置35に接続されているが、制御装置35に接続されていなくてもよい。
【0039】
制御装置35は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)であり、アクチュエータ31,32の駆動回路31b,32b、加熱部37,38の加熱回路37c,38cを制御する。但し、制御装置35は、アクチュエータ31,32の駆動回路31b,32bを制御するPLCと、ペルチェ素子37a,37bの温度を一定に維持する温度調整器を有していてよい。
【0040】
制御装置35は、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)と、動作プログラムおよび観察プログラムを格納した記憶装置を有してもよい。この場合、CPUは、記憶装置から動作プログラムを読み出して、動作プログラムに従って、アクチュエータ31,32の駆動回路31b,32b、加熱部37,38の加熱回路37c,38cを制御してもよい。また、CPUは記憶装置から観察プログラムを読み出して、観察分析装置34の観察結果を観察プログラムに従って分析してもよい。観察プログラムは人工知能プログラムであってもよい。
【0041】
次に、PCR分析装置30の使用方法を説明する。まず、
図4に示すように、導入装置39によって液体サンプル40をポート4を通じて流路2に導入すなわち注入する。導入装置39は、マイクロピペットまたはシリンジであってよい。流路2および空気室10,12を液体サンプル40で満たす必要はなく、液体サンプル40の量は、わずかであってよく、例えば、15~20μlでよい。流路2の幅と高さは小さく、液体サンプル40は界面張力によって棒状に凝集し、流路2の断面を閉塞する。流路2が、幅0.5mm、高さ0.5mmの矩形断面であり、液体サンプル40の量を15μlであると仮定すると、流路2内の液体サンプル40の長さは60mmである。したがって、液体サンプル40は流路2と空気室10,12内の空間を左側空間と右側空間に分断する。左側空間は第1の空気室10の内部空間を含み、右側空間は第2の空気室12の内部空間を含む。図示しないが、ポート6を通じて空気をわずかに排出して、流路2内での液体サンプル40の位置を調整してもよい。
【0042】
この後、液体サンプル40からの気泡の抜けを待ち、ポート4,6を接着テープ41で閉塞して封止する。接着テープ41はセロハンテープでもよいしポリイミドテープでもよい。接着テープ41の代わりに、樹脂またはゴム製の栓をポート4,6に挿入して、ポート4,6を閉塞して封止してもよい。こうして、流路2と2つの空気室10,12を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。
【0043】
次に、制御装置35は駆動回路31bを起動してアクチュエータ31を駆動する。すると、
図5に示すように、アクチュエータ31のピストン31aが下降して弾性膜24を押し下げ、第1の空気室10を圧縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は流路2内を右方に向けて移動する。但し、ピストン31aは、図示より大きい下端を有して、弾性膜24とともに弾性基板23を押し下げるようにしてもよい。液体サンプル40は、第1の曲線流路部7と直線流路部9を通過し、さらに第2の曲線流路部8を通過する。液体サンプル40に押されて、右側空間の圧力が高まり、第2の空気室12は弾性的に膨張する。
【0044】
次に、制御装置35は、駆動回路31bを非駆動にしてアクチュエータ31のピストン31aを初期位置に上昇させるとともに、駆動回路32bを起動してアクチュエータ32を駆動する。すると、
図6に示すように、アクチュエータ32のピストン32aが下降して弾性膜26を押し下げ、第2の空気室12を圧縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は流路2内を左方に向けて移動する。但し、ピストン32aは、図示より大きい下端を有して、弾性膜26とともに弾性基板25を押し下げるようにしてもよい。液体サンプル40は、第2の曲線流路部8と直線流路部9を通過し、さらに第1の曲線流路部7を通過する。液体サンプル40に押されて、左側空間の圧力が高まり、第1の空気室10は弾性的に膨張する。
【0045】
制御装置35がアクチュエータ32を非駆動にしてアクチュエータ31を駆動すると、液体サンプル40は流路2内を右方に向けて移動する。再度、制御装置35がアクチュエータ31を非駆動にしてアクチュエータ32を駆動すると、液体サンプル40は流路2内を左方に向けて移動する。
【0046】
このようにして、制御装置35は、左右のアクチュエータ31,32を交互に駆動して、左右のダイアフラムポンプ、すなわち空気室10,12を交互に圧縮する。第1の空気室10が収縮して左側空間の圧力が上昇する時、右側空間の圧力も上昇するが、第2の空気室12が膨張するので、右側空間の圧力は急激には上昇しない。逆に第2の空気室12が収縮して右側空間の圧力が上昇する時、左側空間の圧力も上昇するが、第1の空気室10が膨張するので、左側空間の圧力は急激には上昇しない。このように、流路2内の圧力が急変しないため、液体サンプル40内の気泡の発生が低減され、棒状の液体サンプル40が大きな気泡の発生のために分断することも抑制される。
【0047】
加熱装置33は、流路2内の液体サンプル40の往復移動の間にサーマルサイクルを行うことが可能である。ある例では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNA(デオキシリボ核酸)の変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定してもよい。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間にプライマーのアニーリング温度になる。アニーリング温度でもDNAの伸長は進行しうる。この場合には、アニーリング温度を「伸長・アニーリング温度」と呼ぶことができる。直線流路部9は加熱されていないが、直線流路部9は短いので、そこを通過する間の液体サンプル40の温度降下は少ない。他方、アクチュエータ32が駆動されて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。この例では、液体サンプル40の流路2内での1往復が1サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、左右のアクチュエータ31,32を交互に駆動する。
【0048】
他の例では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に固定してもよい。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。直線流路部9は短いので、そこを通過する間の液体サンプル40の温度降下は少ない。他方、アクチュエータ32が駆動されて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。この例でも、液体サンプル40の流路2内での1往復が1サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、左右のアクチュエータ31,32を交互に駆動する。
【0049】
他の例では、制御装置35が左右の加熱部37,38の温度を交互に変更してもよい。例えば、アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、制御装置35は、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に設定し、右側の第2の加熱部38をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に設定してもよい。液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。
【0050】
この例では、逆にアクチュエータ32が駆動されて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、制御装置35は、右側の第2の加熱部38を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に設定し、左側の第1の加熱部37をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に設定してもよい。液体サンプル40は、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になり、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。この例では、液体サンプル40の流路2内での1往復が2サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、左右のアクチュエータ31,32を交互に駆動する。
【0051】
アクチュエータ31,32の両方の駆動を停止した後、左側空間と右側空間の圧力(2つの空気室10,12の圧力)が平衡すると、液体サンプル40は移動を停止する。液体サンプル40の停止位置は、アクチュエータ31,32の駆動回数にかかわらず一定である。
【0052】
移動を停止した液体サンプル40は、透明な下基板20を通じて観察分析装置34によって観察される。移動中であっても液体サンプル40は観察分析装置34によって観察可能である。
【0053】
出願人は、アクチュエータ31,32の交互駆動を繰り返し、流路2内で液体サンプル40を50回往復させた。液体サンプル40内の気泡の発生は観察されず、棒状の液体サンプル40の分断も観察されなかった。
【0054】
この実施形態では、流路2と2つの空気室10,12は、樹脂製の基板20,21,22、ゴム製の弾性基板23,25、およびゴム製の弾性膜24,26で完全に閉鎖されるので、液体サンプルを流路2内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。マイクロ流体チップ1は、ゴムと樹脂から構成されており、金属やセラミックスさらに電子部品等を含まないため、安価であり気軽に廃棄することができる。
【0055】
左右のアクチュエータ31,32と左右のダイアフラムポンプを有する液体サンプル40の輸送機構は、単純であるにも関わらず、安定して連続した送液が可能である。
【0056】
図7は、第2実施形態に係るPCR分析装置50の正面図である。
図7に示すように、PCR分析装置50は、PCR用マイクロ流体チップ1、1つのアクチュエータ31、加熱装置33、観察分析装置34および制御装置35を有する。
【0057】
マイクロ流体チップ1は第1実施形態で使用されたマイクロ流体チップ1とまったく同じでよい。この実施形態では、アクチュエータ31で圧縮される第1の空気室10をダイアフラムポンプとして使用し、アクチュエータで圧縮されない第2の空気室12を伸縮可能なアキュムレータとして使用する。
【0058】
アクチュエータ31、加熱装置33、観察分析装置34および制御装置35は、第1実施形態のそれらと同じであり、詳細には説明しない。
【0059】
PCR分析装置50の使用方法を説明する。まず、
図8に示すように、導入装置39(例えば、マイクロピペットまたはシリンジ)によって液体サンプル40をポート4を通じて流路2に導入すなわち注入する。流路2および空気室10,12を液体サンプル40で満たす必要はなく、液体サンプル40の量は、わずかであってよく、例えば、15~20μlでよい。液体サンプル40は流路2と空気室10,12内の空間を左側空間と右側空間に分断する。左側空間は第1の空気室10の内部空間を含み、右側空間は第2の空気室12の内部空間を含む。図示しないが、ポート6を通じて空気をわずかに排出して、流路2内での液体サンプル40の位置を調整してもよい。
【0060】
この後、液体サンプル40からの気泡の抜けを待ち、ポート4,6を接着テープ41で閉塞して封止する。接着テープ41はセロハンテープでもよいしポリイミドテープでもよい。接着テープ41の代わりに、樹脂またはゴム製の栓をポート4,6に挿入して、ポート4,6を閉塞して封止してもよい。
【0061】
次に、制御装置35は駆動回路31bを起動してアクチュエータ31を駆動する。すると、
図9に示すように、アクチュエータ31のピストン31aが下降して弾性膜24を押し下げ、第1の空気室10を圧縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は流路2内を右方に向けて移動する。但し、ピストン31aは、図示より大きい下端を有して、弾性膜24とともに弾性基板23を押し下げるようにしてもよい。液体サンプル40は、第1の曲線流路部7と直線流路部9を通過し、さらに第2の曲線流路部8を通過する。液体サンプル40に押されて、右側空間の圧力が高まり、第2の空気室12は弾性的に膨張する。
【0062】
次に、
図10に示すように、制御装置35は、駆動回路31bを非駆動にしてアクチュエータ31のピストン31aを初期位置に上昇させる。第1の空気室10への圧縮力の除去により、膨張させられた第2の空気室12が弾性的に収縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は流路2内を左方、すなわち圧縮されていた第1の空気室10に向けて移動する。液体サンプル40は、第2の曲線流路部8と直線流路部9を通過し、さらに第1の曲線流路部7を通過する。液体サンプル40に押されて、左側空間の圧力が高まり、第1の空気室10は弾性的に膨張する。
【0063】
再度、制御装置35がアクチュエータ31を駆動すると、液体サンプル40は流路2内を右方に向けて移動する。再度、制御装置35がアクチュエータ31を非駆動にすると、液体サンプル40は流路2内を左方に向けて移動する。
【0064】
このようにして、制御装置35は、左右のアクチュエータ31を間欠的に駆動して、ダイアフラムポンプ、すなわち第1の空気室10を間欠的に圧縮する。第1の空気室10が収縮して左側空間の圧力が上昇する時、右側空間の圧力も上昇するが、第2の空気室12が膨張するので、右側空間の圧力は急激には上昇しない。逆に第2の空気室12が収縮して右側空間の圧力が上昇する時、左側空間の圧力も上昇するが、第1の空気室10が膨張するので、左側空間の圧力は急激には上昇しない。このように、流路2内の圧力が急変しないため、液体サンプル40内の気泡の発生が低減され、棒状の液体サンプル40が大きな気泡の発生のために分断することも抑制される。
【0065】
加熱装置33は、流路2内の液体サンプル40の往復移動の間にサーマルサイクルを行うことが可能である。ある例では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定してもよい。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。直線流路部9は加熱されていないが、直線流路部9は短いので、そこを通過する間の液体サンプル40の温度降下は少ない。他方、アクチュエータ31が非駆動にされて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。この例では、液体サンプル40の流路2内での1往復が1サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、アクチュエータ31を間欠的に駆動する。
【0066】
他の例では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に固定してもよい。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。他方、アクチュエータ31が非駆動にされて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。この例でも、液体サンプル40の流路2内での1往復が1サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、アクチュエータ31を間欠的に駆動する。
【0067】
他の例では、制御装置35が左右の加熱部37,38の温度を交互に変更してもよい。例えば、アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、制御装置35は、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に設定し、右側の第2の加熱部38をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に設定してもよい。液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。
【0068】
この例では、逆にアクチュエータ31が非駆動にされて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、制御装置35は、右側の第2の加熱部38を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い温度(例えば94℃)に設定し、左側の第1の加熱部37をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に設定してもよい。液体サンプル40は、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になり、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。この例では、液体サンプル40の流路2内での1往復が2サイクルに相当する。制御装置35は、サイクル時間に適合するように、アクチュエータ31を間欠的に駆動する。
【0069】
アクチュエータ31の駆動を停止した後、左側空間と右側空間の圧力(2つの空気室10,12の圧力)が平衡すると、液体サンプル40は移動を停止する。液体サンプル40の停止位置は、アクチュエータ31の駆動回数にかかわらず一定である。
【0070】
移動を停止した液体サンプル40は、透明な下基板20を通じて観察分析装置34によって観察される。移動中であっても液体サンプル40は観察分析装置34によって観察可能である。
【0071】
出願人は、アクチュエータ31の間欠的駆動を繰り返し、流路2内で液体サンプル40を50回往復させた。液体サンプル40内の気泡の発生は観察されず、棒状の液体サンプル40の分断も観察されなかった。
【0072】
この実施形態では、流路2と2つの空気室10,12は、樹脂製の基板20,21,22、ゴム製の弾性基板23,25、およびゴム製の弾性膜24,26で完全に閉鎖されるので、液体サンプルを流路2内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。マイクロ流体チップ1は、ゴムと樹脂から構成されており、金属やセラミックスさらに電子部品等を含まないため、安価であり気軽に廃棄することができる。
【0073】
アクチュエータ31と左右のダイアフラムポンプを有する液体サンプル40の輸送機構は、単純であるにも関わらず、安定して連続した送液が可能である。しかも、この実施形態では、第1実施形態のアクチュエータ32が不要であり、部品数を削減することができる。
【0074】
出願人は、さらに好適なサーマルサイクルを行うための加熱部37,38の温度設定に関する実験を行った。
【0075】
第1の実験では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの変性のためかなり高い変性温度(104℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い伸長・アニーリング温度(60℃)に固定した。変性温度は、液体サンプル40の沸騰(ひいては液体サンプル40の気泡の発生)を起こしやすいように、通常の変性温度より高い104℃に設定した。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。アクチュエータ31が非駆動にされて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に変性温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。
【0076】
第2の実験では、液体サンプル40が流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い伸長・アニーリング温度(60℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの変性のためかなり高い変性温度(104℃)に固定した。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。アクチュエータ31が非駆動にされて液体サンプル40が流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度のままであり、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の曲線流路部7を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第2の曲線流路部8を通過する間に変性温度になる。
【0077】
実験においては、液体サンプル40を変性温度帯(第1の実験では第1の曲線流路部7、第2の実験では第2の曲線流路部8)に停止させて、停止から15秒後、30秒後、60秒後の液体サンプル40の状態(気泡が発生したか否か、大きな気泡の発生による液体サンプル40の分断があったか否か)を調べた。結果を
図11に示す。第1の実験では、第1の曲線流路部7での液体サンプル40の停止後、30秒で液体サンプル40の分断が発生した。一方、第2の実験では、第2の曲線流路部8での液体サンプル40の停止後、気泡は発生したものの、60秒経過しても液体サンプル40の分断は発生しなかった。
【0078】
したがって、アクチュエータで圧縮される第1の空気室10に連通する第1の曲線流路部7よりもアクチュエータで圧縮されない第2の空気室12に連通する第2の曲線流路部8を変性温度に制御する方が、液体サンプル40は沸騰しにくい。この理由は、第2の曲線流路部8は、第1の曲線流路部7よりも液体サンプル40がアクチュエータで圧縮される第1の空気室10から遠いためであると考えられる。すなわち、液体サンプル40の移動の向きにかかわらず、第2の曲線流路部8に液体サンプル40が位置する状態では、第1の曲線流路部7に液体サンプル40が位置する状態よりも、液体サンプル40に高い圧力がかかっていると考えられる。高圧下の方が沸点は高い。
【0079】
PCRのサーマルサイクルでは、DNAの変性時間は30秒以下であることが多い。したがって、第1の曲線流路部7よりも第2の曲線流路部8を高温にする方が好ましい。すなわち、第1の加熱部37は、第1の曲線流路部7の内部の液体サンプルを伸長温度に加熱し、第2の加熱部38は、第2の曲線流路部8の内部の液体サンプルを、伸長温度より高い変性温度に加熱することが好ましい。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0081】
例えば、上記の実施形態においては、空気室10,12を画定する弾性基板23,25が設けられている。しかし、弾性基板23,25の代わりに、蛇腹を用いてもよい。この場合、蛇腹は、弾性膜24と上基板22を気密に連結し、弾性膜26と上基板22を気密に連結する。
【0082】
第1実施形態において、第1の空気室10を画定する部材の材料と構造は、第2の空気室12を画定する部材の材料と構造と同じであることが好ましい。しかし、第2実施形態において、第1の空気室10を画定する部材の材料と構造は、第2の空気室12を画定する部材の材料と構造と同じでもよいが、異なっていてもよい。
【0083】
上記の実施形態においては、PCR分析装置30またはPCR分析装置50が観察分析装置34を有する。しかし、サーマルサイクルが終了した後、液体サンプル40をマイクロ流体チップ1からマイクロピペットまたはシリンジによって取り出し、取り出した液体サンプル40を電気泳動でフィルタリングし、液体サンプル40中の増幅産物のサイズを計測してもよい。したがって、観察分析装置34は不可欠ではない。
【0084】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0085】
条項1. PCRに使用される液体サンプルが流動する流路と、
前記流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、
前記流路の両端にそれぞれ接続された弾性的に伸縮可能な2つの空気室と、
前記流路と前記空気室を気密に包囲し、少なくとも片面に透明部分が設けられた包囲部材とを
有するPCR用マイクロ流体チップ。
【0086】
条項2. 条項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記2つの空気室を交互に圧縮する2つのアクチュエータと、
前記流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【0087】
この条項によれば、2つのアクチュエータが流路の両端に接続された2つの空気室を交互に圧縮するので、液体サンプルの往復移動を促進することができる。往復移動の間に流路を加熱する加熱装置によって、液体サンプルはサーマルサイクルの対象となる。アクチュエータを停止した後、2つの空気室の圧力が平衡すると、液体サンプルは移動を停止する。
【0088】
条項3. 条項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記2つの空気室のうち第1の空気室を間欠的に圧縮するアクチュエータと、
前記流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【0089】
この条項によれば、アクチュエータで第1の空気室を圧縮すれば、液体サンプルは圧縮された第1の空気室から他方の空気室に向けて流れ、下流の空気室が弾性的に膨張する。圧縮力を除去すれば、膨張させられた空気室が弾性的に収縮し、圧縮されていた第1の空気室に向けて逆方向に液体サンプルが流れ、圧縮されていた第1の空気室が弾性的に膨張する。このようにして、液体サンプルは流路を往復移動することができる。往復移動の間に流路を加熱する加熱装置によって、液体サンプルはサーマルサイクルの対象となる。アクチュエータを停止した後、2つの空気室の圧力が平衡すると、液体サンプルは移動を停止する。
【0090】
条項4. 前記流路は、前記アクチュエータで圧縮される前記第1の空気室に連通する第1の曲線流路部と、前記2つの空気室のうち前記アクチュエータで圧縮されない第2の空気室に連通する第2の曲線流路部と、前記第1の曲線流路部と前記第2の曲線流路部を接続する直線流路部を有し、
前記加熱装置は、前記第1の曲線流路部を加熱する第1の加熱部と、前記第2の曲線流路部を加熱する第2の加熱部を有し、
前記第1の加熱部は、前記第1の曲線流路部の内部の前記液体サンプルを伸長・アニーリング温度に加熱し、前記第2の加熱部は、前記第2の曲線流路部の内部の前記液体サンプルを、前記伸長・アニーリング温度より高い変性温度に加熱する
ことを特徴とする条項3に記載のPCR分析装置。
【0091】
この条項によれば、液体サンプル中の気泡の発生または液体サンプルの分断が抑制される。
【0092】
条項5. 前記PCR用マイクロ流体チップの前記透明部分を通じて前記流路内の前記液体サンプルを観察分析する観察分析装置をさらに有する
ことを特徴とする条項2から4のいずれか1項に記載のPCR分析装置。
【0093】
この条項によれば、移動中または移動停止後の液体サンプルを簡単に観察分析することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 PCR用マイクロ流体チップ
2 流路
4 ポート(導入口)
6 ポート
10 第1の空気室
12 第2の空気室
7 第1の曲線流路部
8 第2の曲線流路部
9 直線流路部
20 下基板(包囲部材)
21 流路基板(包囲部材)
22 上基板(包囲部材)
23,25 弾性基板(包囲部材)
24,26 弾性膜(包囲部材)
30,50 PCR分析装置
31,32 アクチュエータ
33 加熱装置
34 観察分析装置
35 制御装置
37 第1の加熱部
38 第2の加熱部
37a,38a ペルチェ素子
37b,38b 金属板
40 液体サンプル