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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042104
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】降車支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
G08G1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149212
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏次
(72)【発明者】
【氏名】徳田 将則
(72)【発明者】
【氏名】石田 正穂
(72)【発明者】
【氏名】福田 純也
(72)【発明者】
【氏名】宮▲迫▼ 賢一
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA21
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF27
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL15
5H181MB01
(57)【要約】
【課題】 降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制する。
【解決手段】 降車支援装置の制御ユニット10は、物標情報取得装置12により検出された物標の現時点における進行方向が所定の基準方向と成す角度である進行角度を記憶装置に時系列で格納し、現時点を含む所定の第1期間内に格納されたn1個の進行角度の近似値を長期近似角度として演算し、現時点を含み第1期間よりも短い所定の第2期間内に格納されたn2個の進行角度の近似値を短期近似角度として演算し、物標が進路変更している可能性が高い場合に成立する進路変更条件が成立していない場合、物標の現時点における進行角度を長期近似角度に基づいて長期補正角度に補正し、進路変更条件が成立している場合、物標の現時点における進行角度を短期近似角度に基づいて短期補正角度に補正し、補正角度から演算された補正後の進行方向に基づいて降車支援制御の実行要否を判定する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得するように構成された物標情報取得装置と、
停車中に前記自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が前記物標情報に基づいて検出されていることを含む降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニットと、
を備えた降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
記憶装置を備え、
所定の演算時間が経過する毎に、少なくとも現時点の物標情報に基づいて前記物標の現時点における進行方向を演算し、前記現時点における進行方向が所定の基準方向と成す角度である進行角度を前記記憶装置に時系列で格納し、
前記記憶装置から、現時点を含む所定の第1期間内に格納されたn1個(n1:3以上の整数)の進行角度を読み出し、前記n1個の前記進行角度の近似値を長期近似角度として演算し、
前記記憶装置から、現時点を含み、前記第1期間よりも短い所定の第2期間内に格納されたn2個(n2:2以上の整数)の進行角度を読み出し、前記n2個の前記進行角度の近似値を短期近似角度として演算し、
物標が進路変更している可能性が高い場合に成立する進路変更条件が成立しているか否かを物標情報に基づいて判定し、
前記進路変更条件が成立していない場合、前記物標の現時点における前記進行角度を前記長期近似角度に基づいて長期補正角度に補正し、
前記進路変更条件が成立している場合、前記物標の現時点における前記進行角度を前記短期近似角度に基づいて短期補正角度に補正し、
前記長期補正角度又は前記短期補正角度から前記物標の現時点における補正後の進行方向を演算し、
前記補正後の進行方向に基づいて前記降車支援条件が成立しているか否かを判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の降車支援装置であって、
前記制御ユニットは、
前記長期近似角度と前記短期近似角度との差分の大きさが所定の差分閾値以下である場合、前記進路変更条件が成立していないと判定し、
前記差分の大きさが前記差分閾値より大きい場合、前記進路変更条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の降車支援装置であって、
前記制御ユニットは、
前記基準方向として前記自車両の前後方向を用いる、
ように構成された、
降車支援装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制することが可能な降車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な降車支援装置が知られている。降車支援装置は、例えば、停車中に乗員の安全な降車を阻害する(別言すれば、車両の側方を通過する)可能性がある阻害物標が検出された場合において乗員の降車意図が検出されたときに降車支援制御を実行するように構成されている(特許文献1参照。)。以下では、降車支援装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-045838号公報
【発明の概要】
【0004】
降車支援装置は、自車両の後方に存在する物標を検出して当該物標に関する情報を物標情報として取得可能な物標情報取得装置(例えば、レーダセンサ又はカメラセンサ)を備える。物標情報は、少なくとも自車両に対する物標の相対位置を含む。降車支援装置は、物標情報に基づいて物標の現時点における進行方向を演算し、当該進行方向に基づいて物標が所定の時間閾値以内に自車両の側方近傍を通過するか否かを判定し、通過すると判定した場合、当該物標は阻害物標であると判定して降車支援制御を実行する。
【0005】
ところで、物標情報取得装置による物標の検出精度(物標情報の精度)は、外乱の影響により低下する場合がある。以下、物標情報取得装置がレーダセンサの場合を例に挙げて具体的に説明する。レーダセンサは、ミリ波帯の電波を周囲に照射し、物標から反射された反射波の強度(反射強度)に基づいて物標の物標情報を取得(演算)するように構成されている。ここで、或る時点において、物標が高い反射強度を有する立体物(以下、「高反射物」とも称する。)の近傍を通過すると、レーダセンサは、当該時点においては「物標からの反射波に高反射物からの反射波がノイズとして重畳された反射波」の強度に基づいて物標の物標情報を演算するため、物標情報の精度が低下する事態が発生する。なお、高反射物とは、典型的には、金属製の部材で覆われた立体物であり、例えば、車両又は消火栓等である。
【0006】
物標情報の精度が低下すると、物標の進行方向に誤差が生じるため、降車支援制御が不要な場面で当該制御が実行されたり(不要作動)、降車支援制御が必要な場面で当該制御が実行されなかったりする(不作動)事態が発生する可能性がある。
【0007】
そこで、係る降車支援装置は、例えば、物標の現時点における進行方向を以下のようにして補正するように構成され得る。即ち、降車支援装置は、所定の演算時間が経過する毎に、物標情報に基づいて、物標の現時点における進行方向が任意の或る基準方向と成す角度を「進行角度」として演算して所定の記憶装置に時系列で格納する。続いて、記憶装置から、現時点を含む所定の期間内に格納された進行角度(即ち、所定の個数の進行角度)を読み出し、これらの近似値を近似角度として演算する。そして、現時点における物標の進行角度を上記近似角度に基づいて補正し、補正後の進行角度から物標の現時点における補正後の進行方向を演算する。この構成によれば、外乱に起因して現時点の進行方向に誤差が生じていても、近似角度に基づいて補正することにより、補正後の進行方向に外乱の影響が反映される度合いを低減することができる。その結果、物標が高反射物の近傍を通過する場合であっても、物標の進行方向に誤差が生じ難くなり、降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制できると考えられる。
【0008】
しかしながら、上記構成によれば、物標が進路変更する(進行方向を変更する)場合に問題が生じる。即ち、例えば、直進している物標が車線変更するために進路変更すると、現時点の進行方向はそれまでの進行方向から大きく変化する。この場合、近似角度の演算に使用される進行角度には進路変更前の(即ち、直進時の)進行角度も含まれているため、近似角度には直進時の進行角度が大きく反映される。従って、現時点の進行方向を当該近似角度に基づいて補正すると、補正後の進行方向は直進時の進行方向の影響を受けることにより、補正前の進行方向と比較して進路変更動作が反映され難くなる。即ち、上記構成によれば、降車支援装置は物標の進路変更動作を即時に認識し難くなる(別言すれば、物標の進行方向の応答性が低下する)という別の問題が生じる。とはいえ、そもそも物標情報取得装置による物標の検出精度はそれほど高くないため、進路変更時には進行方向の応答性低下を抑制するために上記補正を行わないとすると、現時点の進行方向に「物標情報取得装置自体の性能に起因した誤差」が生じ、降車支援制御の不要作動及び不作動が発生する可能性がある。
【0009】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、物標の進行方向の演算精度を向上させることにより降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制することが可能な降車支援装置を提供することにある。
【0010】
本発明による降車支援装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得するように構成された物標情報取得装置(12)と、
停車中に前記自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が前記物標情報に基づいて検出されていることを含む降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニット(10)と、
を備える。
前記制御ユニットは、
記憶装置(RAM)を備え、
所定の演算時間が経過する毎に、少なくとも現時点の物標情報に基づいて前記物標の現時点における進行方向(進行方向ベクトルA)を演算し、前記現時点における進行方向が所定の基準方向(+x方向)と成す角度である進行角度(θo)を前記記憶装置に時系列で格納し、
前記記憶装置から、現時点を含む所定の第1期間内に格納されたn1個(n1:3以上の整数)の進行角度を読み出し、前記n1個の前記進行角度の近似値を長期近似角度(θappl)として演算し、
前記記憶装置から、現時点を含み、前記第1期間よりも短い所定の第2期間内に格納されたn2個(n2:2以上の整数)の進行角度を読み出し、前記n2個の前記進行角度の近似値を短期近似角度(θapps)として演算し、
物標が進路変更している可能性が高い場合に成立する進路変更条件が成立しているか否かを物標情報に基づいて判定し、
前記進路変更条件が成立していない場合、前記物標の現時点における前記進行角度を前記長期近似角度に基づいて長期補正角度(θcorl)に補正し、
前記進路変更条件が成立している場合、前記物標の現時点における前記進行角度を前記短期近似角度に基づいて短期補正角度(θcors)に補正し、
前記長期補正角度又は前記短期補正角度から前記物標の現時点における補正後の進行方向(補正ベクトルAcor)を演算し、
前記補正後の進行方向に基づいて前記降車支援条件が成立しているか否かを判定する、
ように構成されている。
【0011】
本発明装置は、進路変更条件が成立していない場合、物標の現時点における進行角度を長期近似角度に基づいて補正することにより長期補正角度を演算する。長期近似角度の演算に使用される進行角度の個数(n1)のほうが、短期近似角度の演算に使用される進行角度の個数(n2)よりも多い。このため、外乱の影響が反映される度合いは、長期近似角度のほうが短期近似角度よりも低い。従って、上記構成によれば、物標が進路変更していない場合に外乱に起因して物標情報の精度が低下し、これにより物標の現時点における進行方向に誤差が生じても、当該進行方向の進行角度が長期近似角度に基づいて補正されることにより、補正後の進行方向に外乱の影響が反映される度合いを低減できる。その結果、物標が高反射物の近傍を通過する場合であっても、物標の進行方向に誤差が生じ難くなる。
【0012】
また、本発明装置は、進路変更条件が成立している場合、物標の現時点における進行角度を短期近似角度に基づいて補正することにより短期補正角度を演算する。この構成によれば、現時点の進行角度を長期近似角度に基づいて補正することに起因して、物標が進路変更しているときの進行方向の応答性が低下してしまうことを抑制できる。ここで、外乱の有無に関わらず、そもそも物標情報取得装置による物標の検出精度はそれほど高くない。このため、外乱の影響を受けない場合であっても、物標の現時点における進行方向には誤差が生じている。従って、上記構成によれば、物標が進路変更している場合には物標の進行角度が短期近似角度に基づいて補正されることにより、進行方向の応答性が低下することが抑制され、且つ、補正後の進行方向に「物標情報取得装置自体の性能に起因した誤差」が生じ難くなる。
【0013】
以上より、本発明によれば、物標の進行方向の演算精度が向上するため、降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制できる。
【0014】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記長期近似角度(θappl)と前記短期近似角度(θapps)との差分の大きさ(|θappl-θapps|)が所定の差分閾値(Δθth)以下である場合、前記進路変更条件が成立していないと判定し、
前記差分の大きさが前記差分閾値より大きい場合、前記進路変更条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0015】
この構成によれば、物標が進路変更しているか否かを精度良く判定することができる。
【0016】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記基準方向として前記自車両の前後方向(+x方向)を用いる、
ように構成されている。
【0017】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る降車支援装置(本実施装置)の概略構成図である。
図2】本実施装置が備えるレーダセンサの立体物検出範囲を示す図であり、レーダセンサによって検出された物標のTTCの演算方法を説明するための図である。
図3A】物標が進路変更していない場合の角度補正処理について説明する図である。
図3B】物標が進路変更していない場合の角度補正処理について説明する図である。
図3C】物標が進路変更していない場合の角度補正処理について説明する図である。
図3D】物標が進路変更していない場合の角度補正処理について説明する図である。
図4A】物標が進路変更している場合の角度補正処理について説明する図である。
図4B】物標が進路変更している場合の角度補正処理について説明する図である。
図4C】物標が進路変更している場合の角度補正処理について説明する図である。
図4D】物標が進路変更している場合の角度補正処理について説明する図である。
図5】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図6】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る降車支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施装置は、降車支援ECU10、及び、これに接続された車速センサ11、レーダセンサ12、ドア開閉センサ13、及び、ブザー20を備える。降車支援ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0020】
降車支援ECU10は、上記センサ11乃至13が発生又は出力する信号を所定の時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいてブザー20を制御するように構成されている。以下では、降車支援ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0021】
車速センサ11は、自車両の走行速度(以下、「車速」と称する。)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ11が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。車速がゼロの場合、ECU10は、自車両が停止状態にある(以下、「停車中」とも称する。)と判定する。
【0022】
レーダセンサ12(物標情報取得装置)は、自車両の後方(真後ろ及び後側方)に存在する立体物(物標)に関する情報を取得する機能を有している。立体物は、移動物(車両、自転車及び歩行者等)と静止物(側壁及び建物等)とを含む。
【0023】
図2に示すように、レーダセンサ12は、自車両Vの左後方角部に設けられた左レーダセンサ12Lと、自車両Vの右後方角部に設けられた右レーダセンサ12Rと、を含む。レーダセンサ12は、ミリ波帯の電波を自車両の周囲に照射する。具体的には、左レーダセンサ12Lは、自車両の左後方の左側領域RLを含む範囲に電波を照射し、右レーダセンサ12Rは、自車両の右後方の右側領域RRを含む範囲に電波を照射する。左側領域RL及び右側領域RRは、何れも自車両Vから後方に離間するにつれて車幅外側方向及び車幅内側方向に長くなる形状となっている。なお、図2では、便宜上、領域RL及びRRの自車両Vに対する比率等は変更して図示されている。
【0024】
レーダセンサ12は、立体物が電波の照射範囲内に存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサ12は、電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、立体物の有無、及び、自車両と立体物との相対関係を演算する。ここで、「自車両と立体物との相対関係」とは、自車両に対する立体物の相対位置(距離及び方位)、並びに、自車両に対する立体物の相対速度等を意味する。別言すれば、レーダセンサ12は、自車両の後方に存在する立体物を検出する。以下では、レーダセンサ12によって検出された立体物(即ち、領域RL又はRRに存在する立体物)を「物標」とも称する。レーダセンサ12は、物標に関するこれらの情報を物標情報としてECU10に出力する。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。ドア開閉センサ13は、自車両が有する複数のドア(より詳細には、サイドドア)のそれぞれに設けられている。ドア開閉センサ13は、ドアの開閉状態を検出する。ドア開閉センサ13は、ドアが開状態にあることを検出した場合、開状態が検出されている期間中、当該ドアが開状態にあることを示す開信号を発生する。ドア開閉センサ13は、ドアが閉状態にあることを検出した場合、閉状態が検出されている期間中、当該ドアが閉状態にあることを示す閉信号を発生する。ECU10は、これらのドア開閉センサ13のそれぞれが発生する信号に基づいて、各ドア開閉センサ13に対応するドアが開状態であるのか閉状態であるのかを検出する。
【0026】
ブザー20は、メーターパネル(図示省略)に内蔵されており、ECU10からの駆動指令に基づいて鳴動するように構成されている。
【0027】
(作動の詳細)
従来の降車支援装置は、レーダセンサから取得した物標情報に基づいて物標の現時点における進行方向を演算し、当該進行方向に基づいて物標が所定の時間閾値(後述)以内に自車両の側方近傍を通過するか否かを判定し、通過すると判定した場合、当該物標は阻害物標であると判定して降車支援制御を実行する。ここで、レーダセンサによる物標の検出精度(物標情報の精度)は外乱の影響により低下する場合がある。物標情報の精度が低下すると、物標の進行方向に誤差が生じるため、降車支援制御の不要作動又は不作動が発生する可能性がある。このため、係る降車支援装置は、物標の現時点における進行方向を、近似角度(現時点を含む所定の期間内に所定の記憶装置に格納された物標の進行角度の近似値)に基づいて補正することにより外乱の影響が反映される度合いを低減するように構成され得る。しかしながら、この構成によれば、物標が進路を変更する際に物標の進行方向の応答性が低下するという別の問題が生じる。また、そもそもレーダセンサによる物標の検出精度はそれほど高くないため、「物標情報に基づいて演算された物標の現時点における進行方向」には「レーダセンサ自体の性能に起因した誤差」が生じ、降車支援制御の不要作動及び不作動が発生する可能性がある。
【0028】
そこで、本実施装置は、2種類の近似角度を演算し、物標が進路変更している可能性が高いか否かに基づいて、物標の現時点の進行方向を補正する際に用いる近似角度を使い分けるように構成されている。ここで、2種類の近似角度とは、長期近似角度θapplと、短期近似角度θappsである。長期近似角度θapplは、比較的に長期の期間内に記憶装置に格納された進行角度の近似値である。短期近似角度θappsは、比較的に短期の期間内に記憶装置に格納された進行角度の近似値である。本実施装置は、後述する手法で物標が進路変更している可能性の高低を判定し、当該可能性が低い場合には物標の現時点の進行方向を長期近似角度θapplに基づいて補正し、当該可能性が高い場合には物標の現時点の進行方向を短期近似角度θappsに基づいて補正するように構成されている。この構成によれば、「外乱の影響を受け難くすること」と、「物標が進路変更する際の進行方向の応答性の低下を抑制しつつ、物標の進行方向にレーダセンサの性能に起因した誤差が生じる可能性を低減すること」とを両立でき、降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制できる。以下、ECU10の作動について詳細に説明する。
【0029】
ECU10は、自車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能に構成されている。ECU10は、降車支援条件が成立している場合に降車支援制御を実行する。降車支援条件は、以下の条件1乃至条件3が全て成立している場合に成立する。本実施形態では、ECU10は、降車支援制御として警報制御を実行する。警報制御は、ブザー20を鳴動させる処理を実行する制御である。
(条件1)自車両が停止状態にある。
(条件2)阻害物標が検出されている。
(条件3)自車両のドアが開状態である。
【0030】
まず、条件1について説明する。ECU10は、車速センサ11から取得される車速がゼロの場合、条件1が成立していると判定する。
【0031】
次に、条件2について説明する。阻害物標とは、自車両に後方から接近して乗員の安全な降車を阻害する(別言すれば、自車両の側方を通過する)可能性がある移動物を意味する。ECU10は、以下のようにして阻害物標を検出する。即ち、ECU10は、レーダセンサ12から取得される物標情報に基づいて左側領域RL又は右側領域RRに物標が存在すると判定した(即ち、物標が検出された)場合、当該物標が自車両に接触又は最接近するまでに要すると予測される予測時間を演算する。以下では、説明の便宜上、この予測時間を「TTC(Time To Collision)」とも称する。TTCが所定の時間閾値TTCth以下である場合、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出し、条件2が成立していると判定する。
【0032】
図2を参照してより詳細に説明する。図2は、対象車両Vtが自車両Vに後方から接近している様子を示す。図2に示すように、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合(即ち、条件1が成立している場合)、自車両Vの左右の後方角部の中央を原点としたxy座標系を設定する。x軸は自車両Vの前後方向に延びており、y軸は自車両Vの車幅方向(左右方向)に延びている。即ち、y軸は、自車両Vの左右の後方角部を通過する軸ということもできる。なお、本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部の中央は、自車両Vの後端中央部と一致している。
【0033】
加えて、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、自車両Vに交差判定線Lを設定する。交差判定線Lは、TTCを演算するために設定される仮想線であり、左側交差判定線LLと、右側交差判定線LRと、を含む。左側交差判定線LLは、自車両Vの左後方角部からy軸上を-y軸方向(車幅外側方向)に延びており、右側交差判定線LRは、自車両Vの右後方角部からy軸上を+y軸方向(車幅外側方向)に延びている。左右の交差判定線LL及びLRの長さは互いに同一(例えば、約1.3[m])であり、本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部における領域RL、RRのy軸方向の長さに略等しい。なお、左右の交差判定線LL、LRの長さは、「自車両Vの乗員が降車している最中に物標がこれらの判定線LL、LR上の任意の位置を通過すると自車両Vのドア又は乗員と接触する可能性がある」程度の長さとなるように、実験又はシミュレーションにより予め設定されている。
【0034】
ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、後述する角度補正処理を行い、物標(図2の例では、対象車両Vt)の現時点の進行方向ベクトルA(後述)を補正したベクトルである補正ベクトルAcorを演算し、その始点を、物標の近接部npに設定する。近接部npは、物標の前端部のうちy軸方向において自車両Vに最も近接している部分である。
【0035】
ECU10は、物標の補正ベクトルAcorの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差する(別言すれば、当該延長線とy軸との交点が交差判定線L上に位置している)場合、「物標が交差判定線Lと交差するまでに要すると予測される時間(別言すれば、物標の補正ベクトルAcorの延長線と交差判定線Lとの交点に物標が到達するまでに要すると予測される時間)」をTTCとして演算する。TTCは、物標情報を用いて、例えば、「近接部npから上記交点までの距離」を「物標の現時点の速度」で除算することにより演算され得る。
【0036】
物標が将来的に左側交差判定線LLと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が左側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を左側のドアに対する阻害物標として検出する。以下、当該阻害物標を「左側阻害物標」とも称する。
一方、物標が将来的に右側交差判定線LRと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が右側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を右側のドアに対する阻害物標として検出する。以下、当該阻害物標を「右側阻害物標」とも称する。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していると判定する。
【0037】
他方、物標が将来的に左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差するものの、TTCがTTCthを超えている場合、ECU10は、当該物標は(現時点では)乗員の安全な降車を阻害する可能性はないと判定し、当該物標を阻害物標として検出しない。
これに対し、物標の補正ベクトルAcorの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差しない(別言すれば、当該延長線とy軸との交点が交差判定線L上に位置していない)場合、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出しない。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していないと判定する。
【0038】
図2の例では、対象車両Vtは、補正ベクトルAcorによれば、将来的に右側交差判定線LRと交差する。このため、ECU10は、対象車両VtについてTTCを演算し、TTCがTTCth以下の場合は対象車両Vtを右側のドアに対する阻害物標として検出し、TTCがTTCthを超えている場合は対象車両Vtを阻害物標として検出しない。
【0039】
続いて、角度補正処理について説明する。ECU10は、自車両が停止状態のときに物標が検出されると、物標情報に基づいて当該物標の現時点における進行方向ベクトルAを周知の方法により演算する。例えば、進行方向ベクトルAは、物標の位置の時間微分により演算され得る。次いで、ECU10は、進行方向ベクトルAが所定の基準方向と成す角度を進行角度θoとして演算する。本実施形態では、基準方向として+x方向が用いられるが、他の方向が採用されてもよい。ECU10は、進行角度θoを、物標のIDと関連付けて自身のRAMに格納する。ECU10は、この処理を所定の演算時間(例えば、40[ms])が経過する毎に実施する。これにより、RAMには、物標のID毎に、進行角度θoが時系列で格納される。
【0040】
次に、ECU10は、RAMに格納されている複数個の進行角度θoに基づいて、2種類の近似角度、即ち、長期近似角度θappl及び短期近似角度θappsを演算する。具体的には、ECU10は、現時点を含む所定の第1期間内にRAMに格納されたn1個の進行角度θoを読み出し(n1:3以上の整数)、これらn1個の進行角度θoの近似値を周知の方法(例えば、最小二乗法又は単純平均)により演算する。また、ECU10は、現時点を含み、第1期間よりも短い所定の第2期間内にRAMに格納されたn2個の進行角度θoを読み出し(n2:2以上の整数)、これらn2個の進行角度θoの近似値を同様の方法により演算する。本実施形態では、第1期間は、n1=6となるように設定され、第2期間は、n2=3となるように設定される。但し、n1及びn2の値はこれに限られない。このように、第1期間は第2期間より長く設定されるため、以下では、n1個の進行角度θoの近似値を「長期近似角度θappl」と称し、n2個の進行角度θoの近似値を「短期近似角度θapps」と称する。
【0041】
その後、ECU10は、長期近似角度θappl及び短期近似角度θappsに基づいて、進路変更条件が成立しているか否かを判定する。進路変更条件は、物標が進路変更している可能性が高い場合に成立する条件である。具体的には、ECU10は、長期近似角度θapplと短期近似角度θappsとの差分の大きさ|θappl-θapps|が所定の差分閾値Δθthより大きい場合、進路変更条件が成立していると判定する。
【0042】
物標が進路変更している場合、短期近似角度θappsには長期近似角度θapplと比較して進路変更動作がより大きく反映されるため、両者の差分の大きさ|θappl-θapps|は比較的に大きい可能性が高い。一方、物標が進路変更していない場合、物標はほぼ直進していると見做せるため、両者の差分の大きさ|θappl-θapps|は比較的に小さい可能性が高い。ここで、第2期間中に外乱に起因して物標情報の精度が低下すると、長期近似角度θappl及び短期近似角度θappsにそれぞれ誤差が生じる。後者の誤差は、前者の誤差よりも大きい。このため、物標が進路変更していない場合であっても、外乱の影響を受けたときの差分の大きさ|θappl-θapps|は、外乱の影響を受けていないときの差分の大きさ|θappl-θapps|と比較して大きくなる。しかしながら、一般に、進路変更していない場合における外乱に起因した差分の大きさ|θappl-θapps|は、進路変更に起因した差分の大きさ|θappl-θapps|と比べて大幅に小さい。このため、物標が進路変更していない場合、差分の大きさ|θappl-θapps|は比較的に小さいと考えて差し支えない。
【0043】
以上より、差分閾値Δθthは、実験又はシミュレーションにより、物標が進路変更していないときには|θappl-θapps|≦Δθthが成立し易く、且つ、物標が進路変更しているときには|θappl-θapps|>Δθthが成立し易くなるような値に予め設定される。これにより、ECU10は、|θappl-θapps|≦Δθthの場合、物標が進路変更している可能性が低い(進路変更条件が不成立である)と判定し、|θappl-θapps|>Δθthの場合、物標が進路変更している可能性が高い(進路変更条件が成立している)と判定する。
【0044】
進路変更条件が不成立であると判定した場合(|θappl-θapps|≦Δθthの場合)、ECU10は、長期近似角度θapplに基づいて、物標の現時点における進行角度θoを補正角度θcorlに補正する。一方、進路変更条件が成立している場合(|θappl-θapps|>Δθthの場合)、ECU10は、短期近似角度θappsに基づいて、物標の現時点における進行角度θoを補正角度θcorsに補正する。このとき、ECU10は、現時点の進行角度θoを長期近似角度θapplに置換することにより補正角度θcorlを演算してもよい(即ち、θcorl=θappl)。或いは、ECU10は、現時点の進行角度θoと長期近似角度θapplとを所定の重みで加重平均することにより補正角度θcorlを演算してもよい(例えば、θcorl=θo/3+2θappl/3)。このとき、ECU10は、現時点の進行角度θo及び/又は差分の大きさ|θappl-θapps|に応じて重みを変更してもよい。補正角度θcorsを演算する場合についても同様である。なお、補正角度θcorl及び補正角度θcorsは、それぞれ「長期補正角度」及び「短期補正角度」の一例に相当する。以下では、補正角度θcorlと補正角度θcorsとを区別する必要がない場合、これらを「補正角度θcor」と総称する。
【0045】
以上が角度補正処理に関する説明である。ECU10は、角度補正処理を終了すると、現時点の進行角度θoを補正角度θcorに置換することにより補正ベクトルAcorを演算する。補正ベクトルAcorは、物標の現時点における補正後の進行方向を表す。ECU10は、このようにして演算された補正ベクトルAcorに基づいて、上述したように条件2の成立可否を判定する。
【0046】
図3A乃至図3Dは、物標が進路変更していない場合における角度補正処理及び進行方向演算処理を例示した図である。R1は、物標情報に基づく物標の推定走行軌跡を示す(以下、単に「走行軌跡R1」と称する。)。点P1乃至点P6は、角度補正処理が行われる地点を示す。点P1乃至点P6は、時点t1乃至時点t6(図示省略)にそれぞれ対応している。この例では、物標は実際には紙面上方向に直進しているが、点P5の右側方に図示しない高反射物が存在しているため、走行軌跡R1は、点P4から点P6を含む区間において高反射物側に緩やかに突出した形状となっている。
【0047】
ECU10は、時点t1乃至時点t6の各時点にて物標の当該時点における進行方向ベクトルAを演算して進行角度θoを演算し、その値(θo)を当該物標に関連付けて自身のRAMに時系列で格納する。図3Aは、時点t6において演算された進行方向ベクトルAを示す。時点t6における進行方向ベクトルAには、外乱(点P5近傍の高反射物によるノイズ)に起因した誤差が生じている。
【0048】
時点t6にて角度補正処理を行う際は、ECU10は、時点t6を含む第1期間内に格納された6個の進行角度θo(即ち、点P1乃至点P6の各地点にて演算された進行角度θo)を読み出し、これら6個の進行角度θoの近似値を長期近似角度θapplとして演算する。図3BのベクトルAapplは、基準方向(+x方向。図示省略。)との間に長期近似角度θapplを成すベクトルである。ベクトルAapplは、長期近似角度θapplの大きさを示すために説明の便宜上導入されたベクトルであり、実際に演算されるわけではない。ベクトルAapplはほぼ上方に延びており、外乱に起因した誤差はほぼ解消されている。
【0049】
続いて、ECU10は、時点t6を含む第2期間内に格納された3個の進行角度θo(即ち、点P4乃至点P6の各地点にて演算された進行角度θo)を読み出し、これら3個の進行角度θoの近似値を短期近似角度θapplとして演算する。図3CのベクトルAappsは、基準方向との間に短期近似角度θapplを成すベクトルである。ベクトルAappsは、短期近似角度θapplの大きさを示すために説明の便宜上導入されたベクトルであり、実際に演算されるわけではない。ベクトルAappsはやや傾斜しており、外乱に起因した誤差が生じている。
【0050】
次いで、ECU10は、長期近似角度θappl及び短期近似角度θappsに基づいて進路変更条件が成立しているか否かを判定する。この例では、物標は進路変更しておらず、|θappl-θapps|≦Δθthであるため、進路変更条件は不成立である。従って、ECU10は、時点t6の進行角度θo(図3A参照)を、長期近似角度θappl(図3B参照)に基づいて、補正角度θcorlに補正する。その後、ECU10は、図3Dに示すように、補正角度θcorlから補正ベクトルAcorlを演算する。これにより、時点t6における進行方向ベクトルAが、補正ベクトルAcorlに補正される。補正ベクトルAcorlはほぼ上方に延びており、進行方向ベクトルAと比較して、外乱に起因した誤差が大幅に低減している。
【0051】
一方、図4A乃至図4Dは、物標が進路変更している場合における角度補正処理及び進行方向演算処理を例示した図である。R2は、物標情報に基づく物標の推定走行軌跡を示す(以下、単に「走行軌跡R2」と称する。)。点P11乃至点P16は、角度補正処理が行われる地点を示す。点P11乃至点P16は、時点t11乃至時点t16(図示省略)にそれぞれ対応している。この例では、物標は時点t14にて進路変更(詳細には、右方向への車線変更)を開始しており、時点t16においても進路変更を継続中である。また、付近には高反射物が存在していない。このため、走行軌跡R2は、点P14以降の区間において右方向に折れ曲がった形状となっている。
【0052】
ECU10は、図3A乃至図3Dの例と同様に、時点t11乃至時点t16の各時点にて物標の当該時点における進行方向ベクトルAを演算して進行角度θoを演算し、その値(θo)を当該物標に関連付けて自身のRAMに時系列で格納する。図4Aは、時点t16において演算された進行方向ベクトルAを示す。ここで、外乱の有無に関わらず、そもそもレーダセンサ12による物標の検出精度はそれほど高くない。このため、本例のように外乱の影響を受けない場合であっても、進行方向ベクトルA(及び走行軌跡R2)には誤差が生じている。
【0053】
時点t16にて角度補正処理を行う際は、ECU10は、時点t16を含む第1期間内に格納された6個の進行角度θoを読み出し、これら6個の進行角度θoの近似値を長期近似角度θapplとして演算する。図4BのベクトルAapplは、図3BのベクトルApplと同様、長期近似角度θapplの大きさを示すために説明の便宜上導入されたベクトルであり、実際に演算されるわけではない。長期近似角度θapplの演算に使用された6個の進行角度θoには、物標が進路変更する前の(直進時の)進行角度(点P11乃至点P13における進行角度)θoが含まれている。このため、ベクトルAapplの方向は、進路変更時の進行方向と比較して直進時の方向に傾斜している(別言すれば、ベクトルAapplを時点t16における物標の進行方向と見做す場合、物標の進行方向の応答性が低下する)。
【0054】
続いて、ECU10は、時点t16を含む第2期間内に格納された3個の進行角度θoを読み出し、これら3個の進行角度θoの近似値を短期近似角度θapplとして演算する。図4CのベクトルAappsは、図3CのベクトルAappsと同様、短期近似角度θappsの大きさを示すために説明の便宜上導入されたベクトルであり、実際に演算されるわけではない。本実施形態では、短期近似角度θappsの演算に使用された3個の進行角度θoには、物標が進路変更した後の進行角度しか含まれていない。このため、ベクトルAappsの方向には、進路変更時の進行方向が大きく反映されている。即ち、本例では、ベクトルAappsは、ベクトルAapplと比較して進路変更動作が大きく反映されている。
【0055】
次いで、ECU10は、進路変更条件が成立しているか否かを判定する。この例では、物標は進路変更しており、|θappl-θapps|≦Δθthであるため、進路変更条件が成立している。従って、ECU10は、時点t16の進行角度θo(図4A参照)を、短期近似角度θapps(図4C参照)に基づいて、補正角度θcorsに補正する。その後、ECU10は、図4Dに示すように、補正角度θcorsから補正ベクトルAcorsを演算する。これにより、時点t16における進行方向ベクトルAが、補正ベクトルAcorsに補正される。補正ベクトルAcorsは進路変更時の進行方向にほぼ沿うように延びている。このように、物標が進路変更している場合は、進行角度θoを短期近似角度θappsに基づいて補正することにより、レーダセンサ12自体の性能に起因した進行方向ベクトルAの誤差を低減することができる。
【0056】
続いて、条件3について説明する。ECU10は、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいて、阻害物標が検出された側のドアが開状態であると判定した場合、条件3が成立している(別言すれば、乗員に降車意図がある)と判定する。
【0057】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、ECU10に電源が供給されている期間中(後述)、所定の演算時間が経過する毎に図5及び図6にフローチャートにより示したルーチンを繰り返し実行するように構成されている。
【0058】
所定のタイミングになると、CPUは、図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進み、車速センサ11から取得した車速に基づいて自車両が停止状態にあるか否かを判定する(条件1)。自車両が走行状態にある場合、CPUは、ステップ510にて「No」と判定し(即ち、条件1が成立しないと判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、自車両が停止状態にある場合、CPUは、ステップ510にて「Yes」と判定し(即ち、条件1が成立すると判定し)、ステップ520に進む。
【0059】
ステップ520では、CPUは、レーダセンサ12から取得した物標情報に基づいて物標が検出されたか否かを判定する。物標が検出されていない場合、CPUは、ステップ520にて「No」と判定し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が検出された場合、CPUは、ステップ520にて「Yes」と判定し、ステップ530に進む。
【0060】
ステップ530に進むと、CPUは、図6のステップ600から角度補正処理を開始して、ステップ610乃至ステップ630の処理を順に実行する。
ステップ610:CPUは、物標情報に基づいてステップ520(図5参照)にて検出された物標の現時点の進行方向ベクトルAの進行角度θo(ベクトルAと+x方向とが成す角度)を演算し、ECU10のRAMに格納する。
ステップ620:CPUは、第1期間内にRAMに格納されたn1個の進行角度θoの近似値である長期近似角度θapplを演算する。
ステップ630:CPUは、第2期間内にRAMに格納されたn2個の進行角度θoの近似値である短期近似角度θappsを演算する。
【0061】
その後、CPUは、ステップ640に進み、進路変更条件(|θappl-θapps|>Δθth)が成立しているか否かを判定する。進路変更条件が不成立である場合、CPUは、ステップ640にて「No」と判定し、ステップ650に進む。ステップ650では、CPUは、ステップ620にて演算された長期近似角度θapplに基づいて、ステップ610にて演算された物標の現時点における進行角度θoを補正角度θcorlに補正する。
【0062】
一方、進路変更条件が成立している場合、CPUは、ステップ640にて「Yes」と判定し、ステップ660に進む。ステップ660では、CPUは、ステップ630にて演算された短期近似角度θappsに基づいて、ステップ610にて演算された物標の現時点における進行角度θoを補正角度θcorsに補正する。
【0063】
ステップ650又はステップ660の処理を終了すると、CPUは、ステップ695を経て、図5のステップ540に進む。ステップ540では、CPUは、ステップ530の角度補正処理により演算された補正角度θcorから補正ベクトルAcorを演算し、ステップ550に進む。
【0064】
ステップ550では、CPUは、ステップ540にて演算された補正ベクトルAcorの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れかと交差しているか否かを判定する。交差していない場合、CPUは、ステップ550にて「No」と判定し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、交差している場合、CPUは、ステップ550にて「Yes」と判定し、ステップ560に進む。
【0065】
ステップ560では、CPUは、検出された物標についてTTCを演算し、ステップ570に進む。
ステップ570では、CPUは、検出された物標についてTTC≦TTCthが成立しているか否かを判定する(条件2)。TTC>TTCthである場合、CPUは、ステップ570にて「No」と判定し(即ち、条件2が成立しないと判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、TTC≦TTCthである場合、CPUは、ステップ570にて「Yes」と判定し(即ち、条件2が成立する(物標は阻害物標である)と判定し)、ステップ580に進む。
【0066】
ステップ580では、CPUは、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいてドア(阻害物標が検出された側のドア)が開状態であるか否かを判定する(条件3)。ドアが閉状態の場合、CPUは、ステップ580にて「No」と判定し(即ち、条件3が成立しないと判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、ドアが開状態の場合、CPUは、ステップ580にて「Yes」と判定し(即ち、条件3が成立する(降車支援条件が成立する)と判定し)、ステップ590に進んで警報制御(ブザー鳴動処理)を実行する。その後、CPUは、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0067】
ECU10への電源供給は、自車両が停止してイグニッションスイッチがオフされた後も所定の条件が成立するまで継続される。この条件は、例えば、ドアがロックされた時点で成立するように構成されてもよいし、自車両が停止してから所定の停車時間が経過した時点で成立するように構成されてもよい。この構成によれば、警報制御が必要な場面で当該制御が実行されないという可能性を低減でき、警報制御をより適切に実行できる。
【0068】
以上説明したように、本実施装置は、進路変更条件が成立していない場合、物標の現時点における進行角度θoを長期近似角度θapplに基づいて補正することにより補正角度θcorlを演算する。外乱の影響が反映される度合いは、長期近似角度θapplのほうが短期近似角度θappsよりも低い。従って、上記構成によれば、物標が進路変更していない場合に外乱に起因して物標情報の精度が低下し、これにより物標の現時点における進行方向ベクトルAに誤差が生じても、当該ベクトルAの進行角度θoが長期近似角度θapplに基づいて補正されることにより、補正後の進行方向ベクトルAcorlに外乱の影響が反映される度合いを低減できる。その結果、物標が高反射物の近傍を通過する場合であっても、物標の進行方向に誤差が生じ難くなる。
【0069】
また、本実施装置は、進路変更条件が成立している場合、物標の現時点における進行角度θoを短期近似角度θappsに基づいて補正することにより補正角度θcorsを演算する。この構成によれば、現時点の進行角度θoを長期近似角度θapplに基づいて補正することに起因して、物標が進路変更しているときの進行方向の応答性が低下してしまうことを抑制できる。ここで、そもそもレーダセンサ12による物標の検出精度はそれほど高くないため、外乱の影響を受けない場合であっても、物標の現時点における進行方向ベクトルAには誤差が生じている。従って、上記構成によれば、物標が進路変更している場合には物標の進行角度θoが短期近似角度θappsに基づいて補正されることにより、進行方向の応答性が低下することが抑制され、且つ、補正ベクトルAcorsに「レーダセンサ12自体の性能に起因した誤差」が生じ難くなる。
【0070】
以上より、本発明によれば、物標の進行方向の演算精度が向上するため、降車支援制御の不要作動及び不作動を抑制できる。
【0071】
以上、本実施形態に係る降車支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0072】
例えば、物標情報を取得するセンサはレーダセンサ12に限られない。レーダセンサ12に代えて、又は、加えて、レーザーレーダセンサ、超音波センサ、及び/又は、カメラセンサ等が用いられてもよい。これらのセンサも外乱の影響を受けることにより物標の検出精度が低下する可能性がある。例えば、カメラセンサによる物標の検出精度は、外乱光の影響を受けて低下する。従って、本実施装置のレーダセンサ12に代えて、又は、加えて、上記センサの少なくとも1つを備える構成であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0073】
また、上記実施形態では降車支援制御として警報制御が実行されたが、降車支援制御の種類はこれに限られない。例えば、ドアの開放の度合いを制限するドア開放制限制御、又は、ドアをロックするドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、警報制御に加えてドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0074】
更に、上記実施形態では警報制御としてブザー20を鳴動させる処理が実行されたが、警報制御の処理内容はこれに限られない。例えば、以下の処理、即ち、阻害物標が検出された側のサイドミラーインジケータ(自車両の左右のサイドミラーのそれぞれの所定の位置に設けられたインジケータ)を点灯させる処理、メーターパネルに所定のマーク(例えば、阻害物標が左後方又は右後方の何れの方向から接近しているのかを明示するマーク)を表示させる処理、及び/又は、スピーカ(ナビゲーションシステムの構成要素)に所定のメッセージ(例えば、「接近車両にご注意下さい」とのメッセージ)を発話させる処理が、ブザー20を鳴動させる処理に代えて、又は、加えて、警報制御として実行されてもよい。
【0075】
更に、上記実施形態では、条件2は、物標についてTTC≦TTCthが成立した時点で成立するが、条件2の成立要件はこれに限られない。例えば、物標についてTTC≦TTCthが所定の継続時間だけ継続した場合に条件2が成立するように構成されてもよい。また、条件3は、阻害物標が検出された側のドアが閉状態から開状態に変化した時点で成立するように構成されてもよい。或いは、条件3は、車内に設置されたカメラ(車内の乗員を撮像可能なカメラ)により撮像された画像データに基づいて乗員がドア操作部(典型的にはドアのインナーレバー)を操作している動作が検出された場合に成立するように構成されてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、警報条件は条件1乃至条件3の全てが成立した場合に成立するが、警報条件の成立要件はこれに限られない。例えば、警報条件は、条件3を含んでいなくてもよく、条件1及び条件2が成立した場合に成立するように構成されてもよい。別言すれば、警報制御は、乗員に降車意図があるか否かに関わらず実行されるように構成されてもよい。
【0077】
或いは、警報制御は、2段階で実行されてもよい。具体的には、警報制御は、2種類の制御、即ち、通常警報制御と軽度警報制御(通常警報制御よりも支援の程度が軽度な制御)を含む。軽度警報制御は、例えば、上述したサイドミラーインジケータ点灯処理を実行する制御であり、通常警報制御は、例えば、サイドミラーインジケータ点灯処理に加え、上述した「ブザー鳴動処理、メーターパネル上マーク表示処理、スピーカ発話処理」の少なくとも1つを実行する制御である。軽度警報制御は、条件1及び条件2が成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出されたものの、ドアが閉状態である場合)に実行される。通常警報制御は、条件1及び条件2に加え、条件3が更に成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出され且つドアが開状態の場合)に実行される。
ドアが閉状態の場合、乗員が当該ドアから降車しようとしているか否かを判別できない。別言すれば、乗員に降車意図はあるものの現時点では当該ドアを開けていないだけという可能性、及び、乗員に降車意図はなく当該ドアは引き続き閉状態に維持されるという可能性、の両方が考えられる。このため、当該ドアが閉状態の場合は軽度警報制御を実行することにより、「降車意図がある乗員には前もって阻害物標の存在を報知しておくこと」と、「降車意図がない乗員には通常警報制御が実行されることに起因した煩わしさを与えないこと」と、を両立させることができる。
なお、条件1乃至条件3が全て成立している場合、通常警報制御に代えて、上述したドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、通常警報制御に加えて、ドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0078】
更に、上記実施形態では、交差判定線Lを導入し、物標のTTCに基づいて阻害物標を検出するように構成されているが、阻害物標の検出方法はこれに限られない。例えば、自車両の後方(典型的には、左後側方及び右後側方)に所定の大きさ及び形状を有する仮想的なエリア(より詳細には、レーダセンサ12の照射範囲内のエリア)を設定し、レーダセンサ12により検出された物標が当該エリア内に位置している場合に当該物標を阻害物標として検出するように構成されてもよい。この場合、上記エリアの形状は特に限定されず、例えば、台形形状又は長方形形状であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
10:降車支援ECU、11:車速センサ、12:レーダセンサ、13:ドア開閉センサ、20:ブザー
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6